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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130749
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】点検装置
(51)【国際特許分類】
   B63C 11/00 20060101AFI20230913BHJP
   B63C 11/48 20060101ALI20230913BHJP
   B63B 35/00 20200101ALN20230913BHJP
【FI】
B63C11/00 B
B63C11/48 D
B63B35/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035216
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 聡史
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊至
(72)【発明者】
【氏名】石井 倫生
(57)【要約】
【課題】 本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、ダイバーに頼ることなく、しかも検出した異常個所等の位置を把握することができる点検装置を提供することである。
【解決手段】 本願発明の点検装置は、洋上風力発電施設を点検する装置であって、無人探査機と画像取得手段、水中測位手段を備えたものである。水中測位手段は、洋上風力発電施設に設置される送受信機を有しており、送受信機が受信した信号に基づいて画像取得手段が撮影したときの無人探査機の位置を測定する。そして、画像取得手段によって取得された動画に含まれる点検画像から、洋上風力発電施設を構成する各施設の外観の状況を判定することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
洋上風力発電施設を点検する装置であって、
遠隔操作によって水中を移動可能な無人探査機と、
前記無人探査機に搭載され、静止画又は動画を取得する画像取得手段と、
水中で移動する前記無人探査機の位置を測定する水中測位手段と、を備え、
前記水中測位手段は、前記洋上風力発電施設に設置され、前記無人探査機に対して信号を発信するとともに該無人探査機からの信号を受信する送受信機を、有し、
また前記水中測位手段は、前記送受信機が受信した信号に基づいて、前記画像取得手段が撮影したときの前記無人探査機の位置を測定可能であり、
前記画像取得手段によって取得された前記静止画又は動画に含まれる点検画像から、前記洋上風力発電施設を構成する施設の外観の状況を判定することができる、
ことを特徴とする点検装置。
【請求項2】
機械学習によって構築された学習済みモデルに、前記点検画像を入力することによって、前記洋上風力発電施設を構成する施設の異常個所を自動検出する画像解析手段を、さらに備えた、
ことを特徴とする請求項1記載の点検装置。
【請求項3】
前記洋上風力発電施設に設置される衛星受信手段を、さらに備え、
全球測位衛星システムによって算出された前記衛星受信手段の位置と、前記送受信機が受信した信号と、に基づいて前記無人探査機の位置を求める、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の点検装置。
【請求項4】
前記無人探査機に搭載されるレーザ照射手段を、さらに備え、
前記レーザ照射手段は、あらかじめ定められた幅で2条のレーザを照射し、
前記画像取得手段は、前記レーザ照射手段によってレーザが照射された前記洋上風力発電施設の係留索の画像を取得し、
前記画像取得手段が取得した画像中の前記係留索と2条のレーザを照らし合わせることによって、該係留索の衰耗を判定することができる、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の点検装置。
【請求項5】
前記無人探査機に搭載され、傾斜センサを有する傾斜測定手段を、さらに備え、
オペレータは、前記画像取得手段で取得された画像を確認しながら遠隔操作することによって、前記傾斜センサの位置、及び姿勢を制御可能であり、
オペレータが、前記洋上風力発電施設の係留索に前記傾斜センサを接近させるとともに、該係留索の傾斜に合わせるように前記傾斜センサを傾けることによって、該係留索の傾斜を測定することができる、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の点検装置。
【請求項6】
前記無人探査機に搭載される磁気探査手段を、さらに備え、
前記磁気探査手段は、前記洋上風力発電施設の係留索に取り付けられたアンカーを検知可能であり、
前記水中測位手段は、前記磁気探査手段が前記アンカーを検知したときの前記無人探査機の位置を測定可能であり、
前記磁気探査手段と前記水中測位手段によって、前記アンカーの設置位置を測定することができる、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の点検装置。
【請求項7】
前記洋上風力発電施設のうち水中に位置する部分に、前記無人探査機を収容する格納庫が設けられ、
点検を行う際に前記無人探査機は前記格納庫から発進し、非点検時には該無人探査機は該格納庫に収容される、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の点検装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、洋上風力発電施設の点検技術に関するものであり、より具体的には、遠隔操作によって水中を移動可能な無人探査機を利用して洋上風力発電施設の各要素を点検することができる点検装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国における電力消費量は、2008年の世界的金融危機の影響により一旦は減少に転じたものの、オイルショックがあった1973年以降継続的に増加しており、1973年度から2007年度の間には2.6倍にまで拡大している。その背景には、生活水準の向上に伴うエアコンや電気カーペットといったいわゆる家電製品の普及、あるいはオフィスビルの増加に伴うOA(Office Automation)機器や通信機器の普及などが挙げられる。
【0003】
これまで、莫大な量の電力需要を主に支えてきたのは、石油、石炭等いわゆる化石燃料による発電であった。ところが近年、化石燃料の枯渇化問題や、地球温暖化に伴う環境問題が注目されるようになり、これに応じて発電方式も次第に変化してきた。その結果、先に説明した1973年頃には、石油、石炭による発電が全体の約90%を占めていたのに対し、2010年にその割合は66%まで減少している。代わりに増加したのが全体の約10%強(2010年)を占めている原子力発電である。原子力発電は、従来の発電方式に比べ温室効果ガスの削減効果が顕著であるうえ、低コストで電力を提供できることから、我が国の電力需要にも大きく貢献してきた。
【0004】
また、温室効果ガスの排出を抑制することができるという点において、再生可能エネルギーによる発電方式も採用されるようになっている。この再生可能エネルギーは、太陽光や風力、地熱、中小水力、木質バイオマスなど文字どおり再生することができるエネルギーであり、温室効果ガスの排出を抑え、また国内で生産できることから、有望な低炭素エネルギーとして期待されている。
【0005】
再生可能エネルギーのうち特に風力を利用した発電方式は、電気エネルギーの変換効率が高いという特長を備えている。一般に、太陽光発電の変換効率は約20%、木質バイオマス発電は約20%、地熱発電は10~20%とされているのに対して、風力発電は20~40%とされているように、他の発電方法よりも高効率でエネルギーを電気に変換できる。また、太陽光発電とは異なり昼夜問わず発電することができることも風力発電の特長である。このような特徴を備えていることもあって、風力発電は既にヨーロッパで主要な発電方法として多用されており、我が国でも「エネルギーミックス」の取り組みにおいて2030年には電源構成のうち1.7%を担うことを目指している。
【0006】
風力発電はその設置場所によって陸上風力発電と洋上風力発電に大別され、このうち陸上風力発電は洋上風力発電に比べ設置が容易であり、したがってそのコストも抑えることができるといった特長を備えている。一方、洋上風力発電は、陸上風力発電が抱える騒音問題が生ずることがなく、また転倒等による被害リスクも回避でき、なにより陸上に比して大きな風力を安定的に得ることができるという特長を備えている。世界第6位の排他的経済水域を持つ我が国は、洋上風力発電にとって適地であり、将来的には再生可能エネルギーの有望な産出地となり得ると考えられる。
【0007】
また洋上風力発電は、その設置場所によって異なる形式が採用され、50m以浅の海域では着床式洋上風力発電が適しており、50m以深の海域では浮体式洋上風力発電が適しているとされている。このうち浮体式洋上風力発電は、海水に浮かべる浮体を利用するものであり、係留索で繋がれた浮体上に発電機構を設置し、この発電機構によって発電する方式である。なお浮体形式には、バージ型、セミサブ型、スパー型、緊張係留型(TLP:Tension Leg Platform)などが挙げられる。
【0008】
図8は、スパー型の洋上風力発電施設を模式的に示す側面図である。この図に示すようにスパー型の洋上風力発電施設は、海中に浮かべるスパー型浮体と、その上に設置されるタワーやローター、ナセルなどを含んで構成される。タワーはローターやナセルを支持する構造体であり、さらにスパー型浮体がタワーの基礎として機能している。そしてブレード(羽根)とハブからなるローターによって風を動力に変換し、増速機や発電機、変圧器などを含むナセルによって動力を電気に変換して、電力ケーブル(ダイナミックケーブルと海底ケーブル)を通じて陸域まで送電するわけである。なおスパー型浮体は、カテナリー(懸垂線)形状とされた係留索の自重によって係留されるのが一般的である。
【0009】
欧州ではいち早く洋上風力への取り組みがなされており、特に遠浅の海域が拡がる北海沿岸では既に着床式洋上風力発電によるウィンドファームが建設されている。これに対して我が国は、欧州のように着床式洋上風力に適した遠浅の海域に恵まれていないため、浮体式洋上風力発電が有力である。実際、近年では浮体式洋上風力発電について積極的に検討する動きがあり、実証実験を行うなど実現に向けたプロジェクトなども進められているところである。また、浮体式洋上風力発電に関する新たな技術も提案されており、例えば特許文献1ではスパー型浮体を製造するための効果的な技術を、特許文献2ではスパー型浮体を海上で立起こすための効果的な技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2022-001474号公報
【特許文献2】特開2022-014509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
洋上風力発電は当然ながら長期にわたって電力を供給することが求められ、すなわちその施設は長期にわたって運用されることとなる。したがって、洋上風力発電施設は健全な状態が維持されなければならず、そのためには定期的あるいは臨時的な点検が欠かせない。例えば、「浮体式洋上風力発電設備に関するガイドライン(一般財団法人日本海事協会)」では、運用後に定期検査や臨時点検を実施することと規定しており、浮体施設と海底係留点の設置位置の確認や、係留ライン全長の現状検査、係留ラインに対する衰耗量の計測など、種々の点検項目を示している。またこのガイドラインでは、水中カメラ及び水中テレビ操作に熟練したダイバー、又は承認された水中検査用ロボットを当てなければならないと規定している。
【0012】
ところが、上記したガイドラインを含め従来の点検手法では、点検した位置を把握する技術について具体的に提示されることがなかった。そのため、ダイバーや水中検査用ロボットが異常個所を検出してその画像を取得できたとしても、その位置を特定することができないためその対策を講じることは難しい。作業船に衛星測位システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)の衛星受信機を搭載し、その作業船を基準として測位することも考えられるが、点検を行うたびに作業船を出航させる必要があり、点検を開始するまでの迅速性に欠けるうえ、低コスト化にもつながらない。
【0013】
また、ダイバーによる点検に関しても、いくつか問題を指摘することができる。浮体式洋上風力発電のスパー型浮体は喫水が100m程度になることもあり、これをダイバーが網羅的に確認することは極めて困難であり、そもそも潜水制限による作業効率の低下や安全性の問題もある。さらに、海底係留点(アンカー)の設置位置を確認するためには、海底付近まで潜水する必要があるが、ダイバーの安全性を考えるとこれも現実的ではない。ダイバーに頼ることなく施設ごとに点検装置を常設することも考えられるが、台風時など気象海象条件が厳しい状況になるたびにその点検装置が故障したり損傷したりすることが考えられ、この点検手法も妥当とは言えない。
【0014】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、ダイバーに頼ることなく、しかも検出した異常個所等の位置を把握することができる点検装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明は、遠隔操作によって水中を移動する無人探査機を利用するとともに、水中で移動する無人探査機の位置を測定しながら点検を行う、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われたものである。
【0016】
本願発明の点検装置は、洋上風力発電施設を点検する装置であって、無人探査機と画像取得手段、水中測位手段を備えたものである。このうち無人探査機は、遠隔操作によって水中を移動可能な手段である。また、画像取得手段は、無人探査機に搭載され静止画や動画を取得する手段、水中測位手段は、水中で移動する無人探査機の位置を測定する手段である。水中測位手段は、洋上風力発電施設(特に、浮体)に設置される送受信機(無人探査機に対して信号を発信するとともに無人探査機からの信号を受信する機器)を有しており、送受信機が受信した信号に基づいて画像取得手段が撮影したときの無人探査機の位置を測定する。そして、画像取得手段によって取得された動画(あるいは、静止画)に含まれる点検画像から、洋上風力発電施設を構成する各施設(例えば、浮体)の外観の状況を判定することができる。
【0017】
本願発明の点検装置は、画像解析手段をさらに備えたものとすることもできる。この画像解析手段は、機械学習によって構築された学習済みモデルに、点検画像を入力することによって、洋上風力発電施設を構成する各施設(例えば、浮体)の異常個所を自動検出する手段である。
【0018】
本願発明の点検装置は、浮体に設置される衛星受信手段を、さらに備えたものとすることもできる。この場合、全球測位衛星システムによって算出された衛星受信手段の位置と送受信機が受信した信号に基づいて無人探査機の位置(例えば、日本測地系や世界測地系の座標)が求められる。
【0019】
本願発明の点検装置は、無人探査機に搭載されるレーザ照射手段を、さらに備えたものとすることもできる。このレーザ照射手段は、あらかじめ定められた幅で2条のレーザを照射する手段である。この場合、画像取得手段は、レーザ照射手段によってレーザが照射された洋上風力発電施設(浮体)の係留索の画像を取得する。そして、画像取得手段が取得した画像中の係留索と2条のレーザを照らし合わせることによって、係留索の衰耗の程度を判定することができる。
【0020】
本願発明の点検装置は、無人探査機に搭載され傾斜センサを有する傾斜測定手段を、さらに備えたものとすることもできる。オペレータは、画像取得手段で取得された画像を確認しながら遠隔操作することによって、傾斜センサの位置と姿勢を制御することができる。そして、オペレータが洋上風力発電施設(浮体)の係留索に傾斜センサを接近させるとともに、係留索の傾斜に合わせるように傾斜センサを傾けることによって、係留索の傾斜を測定することができる。
【0021】
本願発明の点検装置は、無人探査機に搭載される磁気探査手段を、さらに備えたものとすることもできる。この磁気探査手段は、洋上風力発電施設(浮体)の係留索に取り付けられたアンカーを検知することができる手段である。この場合、水中測位手段は、磁気探査手段がアンカーを検知したときの無人探査機の位置を測定可能である。そして、磁気探査手段と水中測位手段によって、アンカーの設置位置を測定することができる。
【0022】
本願発明の点検装置は、洋上風力発電施設(特に、浮体)のうち水中に位置する部分に無人探査機を収容する格納庫が設けられたものとすることもできる。この場合、点検を行う際に無人探査機は格納庫から発進し、非点検時には無人探査機は格納庫に収容される。
【発明の効果】
【0023】
本願発明の点検装置には、次のような効果がある。
(1)的確に、しかも低コストで安全に洋上風力発電施設の点検を行うことができることから、施設の健全な状態を維持することができる。
(2)無人探査機の位置を把握しながら各施設の点検を行うことができることから、検出された異常個所の位置を特定することができ、したがって難なくその対策を講じることができる。
(3)ダイバーに頼ることなく点検を行うことができることから、海底係留点を含み広範囲の点検が可能となり、また潜水制限を受けることなく効率的に作業を行うことができる。
(4)無人探査機を収容する格納庫を設けることによって、台風時など気象海象条件が厳しい状況においても故障や損傷を抑制することができ、また点検を行うたびに出航する必要がなく迅速かつ適時に点検を開始することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本願発明の点検装置を用いて浮体式洋上風力発電施設を点検する状況を模式的に示す側面図。
図2】本願発明の点検装置の主な構成を示すブロック図。
図3】(a)トランスポンダーによって測位する状況を模式的に示す側面図、(b)は衛星受信手段を模式的に示す部分断面図。
図4】(a)はレーザ照射手段が係留索に対してレーザを照射している状況を模式的に示す側面図、(b)は係留索に2条のレーザを重ねた状態で撮影した点検画像を模式的に示すモデル図。
図5】傾斜測定手段が係留索の傾斜角度を測定している状況を模式的に示す側面図。
図6】磁気探査手段がアンカーの設置位置を測定している状況を模式的に示す側面図。
図7】(a)は格納庫から発進する無人探査機を模式的に示す断面図、(b)は格納庫に収容された無人探査機を模式的に示す断面図。
図8】スパー型の洋上風力発電施設を模式的に示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本願発明の点検装置の実施形態の一例を図に基づいて説明する。
【0026】
図1は、本願発明の点検装置を用いて洋上風力発電施設(特に、浮体式洋上風力発電施設)を点検する状況を模式的に示す側面図である。この図に示すように本願発明の点検装置は、無人探査機101が水中を移動しつつ、その無人探査機101に搭載された画像取得手段102で画像を取得することによって、種々の点検を行うことができるものである。なお便宜上ここでは、点検中に画像取得手段102が取得した画像のことを特に「点検画像」ということとする。
【0027】
本願発明の点検装置は、洋上風力発電施設の各所を点検することができ、例えば、浮体式洋上風力発電施設を構成する浮体FBの外観や、中間ブイBMを含むダイナミックケーブルDC(海中送電線)の外観を確認することができ、さらに浮体FBの係留索MLの衰耗を判定したり、係留索MLの傾斜を測定したり、アンカーACの設置位置を測定したりすることができる。
【0028】
図2は、本願発明の点検装置100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように本願発明の点検装置100は、無人探査機101と画像取得手段102、水中測位手段103を含んで構成され、さらに衛星受信手段104やレーザ照射手段105、傾斜測定手段106、磁気探査手段107、画像解析手段108、モデル生成手段109、点検画像記憶手段110、学習済みモデル記憶手段111を含んで構成することもできる。
【0029】
点検装置100を構成する主な要素のうち画像解析手段108とモデル生成手段109は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。このコンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリ、マウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを具備するもので、パーソナルコンピュータ(PC)やサーバー、iPad(登録商標)といったタブレット型PC、スマートフォンを含む携帯端末などによって構成される。また、点検画像記憶手段110と学習済みモデル記憶手段111は、汎用的コンピュータの記憶装置を利用することもできるし、データベースサーバーに構築することもできる。データベースサーバーに構築する場合、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由で保存するクラウドサーバーとすることもできる。また画像取得手段102は、静止画や動画を取得することができるものであり、デジタルビデオカメラやデジタルカメラ、あるいはスマートフォン、タブレット型PCなどを利用することができる。
【0030】
以下、本願発明の点検装置100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0031】
(無人探査機)
無人探査機101は、水中ドローンとも呼ばれるROV(Remotely Operated Vehicle)であり、遠隔操作によって水中を移動することができる移動体である。なお、従来用いられている様々なROVを無人探査機101として利用することができ、特に超小型ROV(例えば、質量30kg以下)を採用すると好適である。また無人探査機101には、後述するように発信機103Bやレーザ照射手段105、傾斜測定手段106、磁気探査手段107が搭載され、すなわちこれらを搭載した状態で水中を移動することができる。
【0032】
(水中測位手段)
水中測位手段103は、水中を移動している無人探査機101の位置を測定するものであり、レーザによる測位手法や、写真測量技術を利用した測位手法、電波を用いた測位手法、あるいはトランスポンダーによる測位手法など、従来用いられている種々の測位手法を採用することができる。このうちトランスポンダーは、図3(a)に示すように、浮体FB(特に水中部)に設置される送受信機103Aと、無人探査機101に搭載される発信機103Bを用いて、発信機103B(つまり、無人探査機101)の位置を測定する技術である。以下、トランスポンダーを用いた測位手順について説明する。
【0033】
送受信機103Aが特定の音響信号である質問信号SQを発信すると、これを受け取った発信機103Bが応答信号SRを発信し、送受信機103Aがその応答信号SRを受信する。そして、送受信機103Aが質問信号SQを発信した時刻と応答信号SRを受信した時刻に基づいて、送受信機103Aと発信機103Bとの距離を求める。送受信機103Aの位置座標(3次元座標)が既知とされ、さらに3以上の箇所に送受信機103Aが配置されていると、3種類の球面を設定するとともにこれらの交点を発信機103Bの位置座標(3次元座標)として求めることができる。あるいは、送受信機103Aが質問信号SQや応答信号SRの方向(3次元空間における方向)を把握するものであれば、1箇所の送受信機103Aによって発信機103Bの位置座標を求めることができる。
【0034】
ところで送受信機103Aの位置座標が既知とされる場合であっても、揺動等によって浮体FBの位置は変化し、これに伴って送受信機103Aの位置も変化する。そこで、浮体FB(特に気中部)に衛星受信手段104を設置し、衛星測位システム(GNSS)によってその位置を測定することもできる。図3(b)は、衛星受信手段104を模式的に示す部分断面図であり、GNSSのうち特にGPS(Global Positioning System)を採用した例を示している。この図に示すように衛星受信手段104は、RTK(Real Time Kinematic)-GPSアンテナ104Aと、GPSコンパスアンテナ104B、モーションセンサー104Cを含んで構成することができる。RTK-GPSアンテナ104AとGPSコンパスアンテナ104Bが衛星からの電波を受信することで衛星受信手段104の位置座標(3次元座標)を求めることができ、モーションセンサー104Cによって衛星受信手段104の揺動を特定することができる。そして、浮体FBにおける衛星受信手段104と送受信機103Aとの配置関係をあらかじめ把握しておくことで、衛星受信手段104の位置座標に基づいて送受信機103Aの位置座標を求めることができ、その結果、発信機103B(つまり、無人探査機101)の位置座標を求めることができる。なおこのような位置座標を算出するための空間演算処理は、送受信機103Aや衛星受信手段104から無線(あるいは有線)通信手段を介して陸上の演算装置(例えば、PC)に種々のデータ(送受信時刻など)を伝送したうえで、その演算装置に実行させるとよい。
【0035】
(画像取得手段)
無人探査機101に搭載される画像取得手段102は、水中で静止画や動画を取得することができるものであり、デジタルカメラやデジタルビデオカメラ、あるいはスマートフォンなどを利用することができる。また画像取得手段102は、無人探査機101が水中を移動している間は常時(定期的に)撮影する仕様とすることもできるし、陸上や船上のオペレータが行う遠隔操作に応じて静止画や動画を取得する仕様とすることもできる。遠隔操作に応じて撮影する場合、画像取得手段102が映す画像をリアルタイムでディスプレイ等に表示することとし、オペレータがその状況を確認しながら遠隔操作を行うことができる仕様にするとよい。さらに、撮影範囲を照らすことができる照明手段を無人探査機101に搭載してもよい。そして画像取得手段102によって取得された点検画像は、点検画像記憶手段110に記憶される。点検画像を記憶するにあたっては、画像取得手段102に構成された点検画像記憶手段110に直接記憶させる仕様とすることもできるし、画像取得手段102から無線(あるいは有線)通信手段を介して陸上の点検画像記憶手段110に点検画像を伝送して記憶させる仕様とすることもできる。
【0036】
また点検画像は、その取得(撮影)時刻と関連付けたうえで(紐づけたうえで)点検画像記憶手段110に記憶するとよい。水中測位手段103は、比較的短い間隔で無人探査機101の位置を測定するとともにその時刻を記録することから、点検画像の取得時刻と無人探査機101の位置測定時刻を照合することによって、点検画像を取得したときの無人探査機101の位置(以下、「撮影位置」という。)、すなわち点検対象の位置を把握することができるわけである。これにより、例えば浮体FBの外観観察のために点検画像を取得する場合、その撮影位置(平面位置や高さ)が求められ、したがって浮体FBのうち異常個所などの位置(平面位置や高さ)を把握することができる。
【0037】
(レーザ照射手段)
無人探査機101に搭載されるレーザ照射手段105は、図4(a)に示すように点検対象(特に、係留索ML)に対してレーザLSを照射するものであり、あらかじめ定められた幅で2条のレーザLSを照射するものである。またレーザ照射手段105は、無人探査機101が水中を移動している間は常時(定期的に)照射する仕様とすることもできるし、陸上や船上のオペレータが行う遠隔操作に応じてレーザLSを照射する仕様とすることもできる。遠隔操作に応じて照射する場合、画像取得手段102が映す画像をリアルタイムでディスプレイ等に表示することとし、オペレータがその状況を確認しながら遠隔操作を行うことができる仕様にするとよい。
【0038】
レーザ照射手段105が照射する2条のレーザLSの幅は、点検画像に収められたときに係留索ML(チェーンを構成するリング)の正規の(健全時の)肉厚と同等の寸法で設定するとよい。これにより、係留索MLに2条のレーザLSを重ねた状態で撮影すると、その点検画像から係留索MLの衰耗の程度を判定することができる。例えば図4(b)では、係留索MLのうちリンクが重なる箇所が2条のレーザLSの幅よりも小さくなっていることから、衰耗がある程度進行していると判定することができる。このとき、水中測位手段103によって撮影位置が求められていることから、点検画像に収められた係留索MLの位置も把握することができる。なお図4の例では、係留索MLのリンクが重なる箇所(一般的に、最も衰耗が生じやすい箇所)にレーザLSを照射して撮影しているが、もちろんこれに限らず係留索MLのうち任意の箇所にレーザLSを照射して撮影することができる。
【0039】
(傾斜測定手段)
無人探査機101に搭載される傾斜測定手段106は、図5に示すように点検対象(特に、係留索ML)の傾斜角度を測定するものである。ここで測定された係留索MLの傾斜角度を用いることによって、係留索MLに作用する緊張力を算出することができ、すなわち係留索MLの健全度を評価することができる。この図に示すように傾斜測定手段106は、傾斜角度を測定する傾斜センサ106Aと、伸縮可能なアーム106B、アーム106Bの先端に取り付けられる定規バー106Cによって構成することできる。定規バー106Cは、例えば山形鋼を利用した棒状の部材であり、その一部に傾斜センサ106Aが固定される。以下、図5に示す傾斜測定手段106によって係留索MLの傾斜角度を測定する手順について説明する。
【0040】
画像取得手段102が映す画像をリアルタイムでディスプレイ等に表示し、これを陸上や船上のオペレータが確認しながら遠隔操作を行うことで、無人探査機101を目的の係留索MLに接近させる。無人探査機101が係留索MLに一定程度接近すると、オペレータがディスプレイ等の画像を確認しながら遠隔操作を行ってアーム106Bを伸長し、定規バー106Cを係留索MLに当接するとともに、オペレータが無人探査機101(あるいは、アーム106B)の姿勢を制御することによって係留索MLと定規バー106Cの傾斜を合わせる。そして、定規バー106Cが係留索MLに沿った状態とされると、傾斜センサ106Aが測定した値(つまり、係留索MLの傾斜角度)を記録する。このとき、水中測位手段103によって無人探査機101の位置が求められていることから、係留索MLの測定位置も把握することができる。なお傾斜センサ106Aの測定値を記録するにあたっては、傾斜センサ106Aから無線(あるいは有線)通信手段を介して陸上の記憶手段にその測定値を伝送して記憶させる仕様とすることができる。
【0041】
(磁気探査手段)
無人探査機101に搭載される磁気探査手段107は、図6に示すように点検対象(特に、アンカーAC)の設置位置を測定するものである。この図に示すように、アンカーACはその一部あるいは全部が海底地盤内に埋まっていることもあり、その場合、画像取得手段102ではアンカーACを発見することが難しい。そこで、磁気探査手段107を利用することによってアンカーACの設置位置を測定するわけである。磁気探査手段107は、陸上や船上のオペレータが行う遠隔操作に応じて探査を開始する。このとき、画像取得手段102が映す画像をリアルタイムでディスプレイ等に表示することとし、オペレータがその状況を確認しながら遠隔操作を行うことができる仕様にするとよい。あるいは、無人探査機101が水中を移動している間は常時(定期的に)測定することとし、その測定時刻とともに測定結果を記録する仕様とすることもできる。
【0042】
磁気探査手段107が所定強度の磁気を測定したとき、すなわちアンカーACを発見したときの無人探査機101の位置から、アンカーACの設置位置を把握する。ここまで説明したように、無人探査機101の位置は水中測位手段103によって求められる。また点検装置100は、磁気探査手段107が所定強度の磁気を測定したときに、陸上や船上のオペレータに通知するアラート手段を備えることもできる。この場合、無人探査機101に搭載されたアラート手段が、無線(あるいは有線)通信手段を介して陸上や船上の出力手段にアンカーAC発見の情報を伝送する仕様とすることができる。
【0043】
(画像解析手段)
画像解析手段108は、点検画像に収められた浮体FBや、中間ブイBMを含むダイナミックケーブルDCの外観を判定する手段であり、モデル生成手段109によって生成された「学習済みモデル」に点検画像を入力することによって異常個所を自動検出するものである。この学習済みモデルは、正常な状態の浮体FB等の外観画像と、異常な状態の浮体FB等の外観画像からなる「教師データ」を数多く機械学習することによって生成される。特に、ダイナミックケーブルDCや中間ブイBMに想定を超える海洋生物が付着することでダイナミックケーブルDCが着底し、その結果外装の一部損傷が発生することから、大量の海洋生物が付着したダイナミックケーブルDCや中間ブイBMの点検画像を教師データとして機械学習させるとよい。学習済みモデルを生成するための機械学習は、CNN(Convolutional Neural Network)などの深層学習(deep learning)のほか、従来用いられている種々の機械学習技術を採用することができる。またモデル生成手段109によって生成された学習済みモデルは、学習済みモデル記憶手段111に記憶される。
【0044】
(格納庫)
格納庫112は、浮体FBのうち水中に位置する部分に設けられる空間であって、無人探査機101を収容することができるものである。また、陸上や船上のオペレータが行う遠隔操作に応じて開閉する開閉扉DRを備えたものとすることもできる。図7(a)に示すように、点検を開始するときは開閉扉DRを開放して無人探査機101が格納庫112から発進し、点検が終了すると無人探査機101は格納庫112まで移動する。そして図7(b)に示すように、無人探査機101が格納庫112内に収容されると開閉扉DRを閉じる。したがって点検しないとき、無人探査機101は常に格納庫112内に収容されている。
【0045】
無人探査機101を収容したときの格納庫112は、海水が充満する構造とすることもできるし、海水が浸入しないいわばドライな構造とすることもできる。海水が充満する構造とする場合、開閉扉DRは柵状の構造とするか、あるいは開閉扉DRを設けない構造にするとよい。一方、ドライな構造とする場合、格納庫112は開閉扉DRによって密閉され、さらに開閉扉DRの開放時に浸入した海水を強制排水するポンプ等を設ける。また格納庫112をドライな構造とする場合、無人探査機101を充電する施設を備えることもできる。なお図7(b)では、充電施設としてコンセントを示しているが、これに限らず無人探査機101が載置されたときに充電を行う充電盤など、種々の充電施設を設置することができる。
【0046】
(使用例)
本願発明の点検装置100を用いて洋上風力発電施設を点検する例について説明する。まず開閉扉DRを開放して無人探査機101を格納庫112から発進させる。そして、画像取得手段102が映す画像をリアルタイムで陸上や船上のディスプレイに表示し、オペレータがその状況を確認しながら遠隔操作を行って無人探査機101を移動する。
【0047】
画像取得手段102が浮体FBの外観の点検画像を取得すると、その点検画像が画像取得手段102から陸上(あるいは船上)の画像解析手段108に伝送され、そして学習済みモデルに点検画像を入力することによって浮体FBの外観の正常あるいは異常を判定する。このとき、水中測位手段103によって撮影位置が求められていることから、正常/異常が判定された浮体FBの位置を把握することができる。
【0048】
陸上や船上のオペレータがディスプレイに表示された係留索MLを確認すると、係留索MLに2条のレーザLSを重ねた状態の点検画像を取得する。そして、その点検画像が画像取得手段102からディスプレイに伝送され、オペレータがその点検画像から係留索MLの衰耗の程度を判定する。このとき、水中測位手段103によって撮影位置が求められていることから、係留索MLの判定位置を把握することができる。
【0049】
また、陸上や船上のオペレータがディスプレイに表示された係留索MLを確認すると、アーム106Bや無人探査機101を遠隔操作することによって、定規バー106Cが係留索MLに沿った状態となるよう制御する。そして、そのときの傾斜センサ106Aが測定した値(つまり、係留索MLの傾斜角度)を記録するとともに、その測定値に基づいて係留索MLに作用する張力を算出してその健全度を評価する。このとき、水中測位手段103によって無人探査機101の位置が求められていることから、係留索MLの測定位置を把握することができる。
【0050】
無人探査機101が、当初(あるいは前回点検時)のアンカーAC付近まで移動すると、陸上や船上のオペレータが遠隔操作することによって磁気探査手段107による測定を開始し、磁気探査手段107が所定強度の磁気を測定したときに今回のアンカーACの設置位置として記録する。このとき、水中測位手段103によって無人探査機101の位置が求められていることから、アンカーACの設置位置も把握することができる。
【0051】
一連の点検が終了すると、無人探査機101を格納庫112まで移動し、そして無人探査機101が格納庫112内に収容された状態で開閉扉DRを閉じる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本願発明の点検装置は、スパー型のほか、バージ型やセミサブ型、緊張係留型など種々の浮体式洋上風力発電に利用することができる。本願発明によれば的確かつ低コストでしかも安全に洋上風力発電施設の点検を行うことができ、その結果、施設の健全な状態を維持することができることから、洋上風力発電に対するより積極的な動機を期待することができ、ひいては温室効果ガスの排出を抑えたうえで安定的にエネルギーを供給することを考えれば、本願発明は産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0053】
100 点検装置
101 無人探査機
102 画像取得手段
103 水中測位手段
103A 送受信機
103B 発信機
104 衛星受信手段
104A RTK-GPSアンテナ
104B GPSコンパスアンテナ
104C モーションセンサー
105 レーザ照射手段
106 傾斜測定手段
106A 傾斜センサ
106B アーム
106C 定規バー
107 磁気探査手段
108 画像解析手段
109 モデル生成手段
110 点検画像記憶手段
111 学習済みモデル記憶手段
112 格納庫
AC アンカー
BM 中間ブイ
DC ダイナミックケーブル
FB 浮体
LS レーザ
ML 係留索
SQ 質問信号
SR 応答信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8