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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130785
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】ランタンリングおよび軸封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/16 20060101AFI20230913BHJP
   F16J 15/3268 20160101ALI20230913BHJP
【FI】
F16J15/16 B
F16J15/3268
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035270
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日名 純
(72)【発明者】
【氏名】井上 広大
【テーマコード(参考)】
3J043
【Fターム(参考)】
3J043AA11
3J043AA16
3J043CA04
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA02
3J043DA03
3J043HA10
(57)【要約】
【課題】流体機器で扱う内部流体のパージを全周に亘って行えるランタンリングを提供する。
【解決手段】ランタンリング(10)は、軸封装置(1)の軸部材(110)周りにパージガスを流通させるものであって、外周側から供給されるパージガスを受ける複数の羽根部(16)を備える。複数の羽根部(16)はそれぞれ、パージガスによる外力を受けて回転トルクを発生する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸封装置の軸部材周りに加圧流体を流通させるランタンリングであって、
外周側から供給される加圧流体を受ける流体受け部を備え、
前記流体受け部は、加圧流体による外力を受けて回転トルクを発生する、ランタンリング。
【請求項2】
請求項1に記載のランタンリングにおいて、
互いに対向して配置される一対の円環板と、
前記一対の円環板の間に周方向に互いに間隔をあけて設けられた複数の羽根部と、を備え、
前記複数の羽根部はそれぞれ、前記流体受け部として機能する、ランタンリング。
【請求項3】
請求項1または2に記載のランタンリングにおいて、
前記羽根部は、加圧流体の流れを受ける外面を有し、該外面を一方の前記円環板側に向けるように当該ランタンリングの軸方向に対して傾斜する、ランタンリング。
【請求項4】
請求項3に記載のランタンリングにおいて、
前記羽根部の外面と該外面を垂直な方向に通る当該ランタンリングの径方向とがなす角度は、30°以上且つ70°以下に設定される、ランタンリング。
【請求項5】
軸部材が挿入されるスタフィングボックスと、
前記スタフィングボックスの内周面と前記軸部材との間に形成された収容空間に収容され、前記軸部材の軸方向において並ぶパッキンおよびランタンリングと、
前記パッキンを前記軸部材の軸方向に押圧するパッキン押えと、を備える軸封装置であって、
前記ランタンリングは、請求項1~4のいずれか1項に記載のランタンリングである、軸封装置。
【請求項6】
請求項5に記載の軸封装置において、
前記収容空間に収容されて前記ランタンリングの軸方向における一方側または両側に配置されるリング状の滑り部材をさらに備え、
前記滑り部材は、前記ランタンリングが回転したときに生じる摩擦力を低減させる、軸封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ランタンリングおよび軸封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポンプやバルブなどの流体機器に装備される軸封装置として、ランタンリングを備えた軸封装置が知られている。このような軸封装置は、スタフィングボックスと、環状のグランドパッキンと、ランタンリングと、パッキン押えとを備える。スタフィングボックスには、軸部材が挿入される。グランドパッキンおよびランタンリングは、スタフィングボックスの内周面と軸部材との間に形成された収容空間に収容される。
【0003】
ランタンリングは、グランドパッキンの間に配置される。パッキン押えは、スタフィングボックスにねじ留めされ、グランドパッキンをランタンリングと共に軸部材の軸方向に押圧する。軸封装置では、ランタンリングを用いて、窒素ガスなどのパージガスを軸部材周りに流通させることで、流体機器の内部から収容空間に侵入する内部流体をパージし、内部流体の漏洩を防止する。
【0004】
そうしたランタンリングを備える軸封装置は、例えば特許文献1に開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-279783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の軸封装置では、ランタンリングを用いて軸部材周りにパージガスを流通させても、パージガスがランタンリングの全周に行き渡る前に優先的に流れる部分から機内側へ抜ける、いわゆるショートパスが発生することがある。そうなると、ランタンリングの周方向において、パージガスの流通する部分が偏り、内部流体のパージを行えない部分が生じる。それに起因して、流体機器で扱う内部流体がランタンリングにまで侵入すると、当該内部流体がランタンリングに設けられた抜き出し用のタップ孔に噛み込んだり、ランタンリングとスタフィングボックスとの間に固着したりして、ランタンリングのメンテナンス作業が困難になる。
【0007】
本開示の目的は、流体機器で扱う内部流体のパージを全周に亘って行えるランタンリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の技術は、軸封装置の軸部材周りに加圧流体を流通させるランタンリングを対象とする。本開示の技術に係るランタンリングは、外周側から供給される加圧流体を受ける流体受け部を備える。前記流体受け部は、加圧流体による外力を受けて回転トルクを発生する。
【0009】
このランタンリングでは、流体受け部が加圧流体による外力を受けて回転トルクを発生する。回転トルクが発生すると、ランタンリングが軸部材周りで回転する。そのようにランタンリングが回転することで、流体機器で扱う内部流体の侵入を抑制できる。これにより、内部流体のパージをランタンリングの全周に亘って行うことができる。
【発明の効果】
【0010】
本開示の技術によれば、流体機器で扱う内部流体のパージを全周に亘って行えるランタンリングを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態1の軸封装置の概略構成を例示する断面図である。
図2図2は、実施形態1のランタンリングを例示する斜視図である。
図3図3は、実施形態1のランタンリングの構成および使用時における動作を示す平面図である。
図4図4は、図3のIV-IV線におけるランタンリングの断面図である。
図5図5は、実施形態1のランタンリングの分解状態を例示する平面図である。
図6図6は、実施形態1のランタンリングの分割体を例示する側面図である。
図7図7は、実施形態1の変形例のランタンリングを例示する図4相当図である。
図8図8は、実施形態2のランタンリングの構成および使用時における動作を例示する平面図である。
図9図9は、図8のIX-IX線におけるランタンリングの断面図である。
図10図10は、実施形態2の変形例のランタンリングを例示する図8相当図である。
図11図11は、第1変形例の軸封装置のランタンリングに対するパージガスの供給位置を例示する平面図である。
図12図12は、第2変形例の軸封装置のランタンリングに対するパージガスの供給位置を例示する平面図である。
図13図13は、第3変形例のランタンリングを示す斜視図である。
図14図14は、第3変形例のランタンリングの構成および使用時における動作を示す平面図である。
図15図15は、その他の実施形態の軸封装置の概略構成を例示する断面図である。
図16図16は、比較例の軸封装置の概略構成を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、図面は、本開示を概念的に説明するためのものである。よって、図面では、本開示の技術の理解を容易にするために寸法、比または数を、誇張あるいは簡略化して表す場合がある。
【0013】
《実施形態1》
この実施形態1の軸封装置1は、回転ポンプ、往復動ポンプ、バルブ、攪拌機などの各種の流体機器100に使用される。流体機器100は、水や油などの液体、空気やガスなどの気体、スラリーなどの泥状物といった流体(以下、内部流体と称する)を取り扱う。流体機器100は、図1に示す軸部材110を備える。軸部材110は、可動軸であって、軸心CL周りの回転運動、軸方向Da(軸心CLに沿う方向)への往復運動またはヘリカル運動を行う。
【0014】
本例の軸部材110は、軸本体112と、スリーブ114とを備える。軸本体112は、流体機器100の駆動軸である。軸本体112は、水平方向に向く軸心CLを持つ。スリーブ114は、円筒状物であって、軸本体112に挿通される。スリーブ114は、軸部材110の外装を構成する。スリーブ114は、図示しないセットスクリューなどの締結具により軸本体112に固定される。軸本体112とスリーブ114との間は、シール部材(Oリング)116によってシールされる。
【0015】
-軸封装置の構成-
図1に示すように、軸封装置1は、軸部材110の周囲で流体機器100の内部と外部との間を軸封し、流体機器100で扱う内部流体が外部に漏れ出すのを防止する。本例の軸封装置1は、上述のように水平方向に延びる軸部材110に適用される。軸封装置1は、スタフィングボックス2と、複数のグランドパッキン3と、ランタンリング10と、一対の滑り部材5と、パッキン押え(グランド)6と、押圧機構7と、ガス供給装置8とを備える。
【0016】
スタフィングボックス2には、軸部材110が挿入される。スタフィングボックス2の内周面と軸部材110の外周面との間には、環状の収容空間Scが形成される。複数のグランドパッキン3、ランタンリング10および一対の滑り部材5は、収容空間Scに収容される。複数のグランドパッキン3、ランタンリング10および一対の滑り部材5は、軸部材110周りに配置され、軸部材110の軸方向Daにおいて並ぶ。本例のランタンリング10は、複数のグランドパッキン3よりも機内側に配置される。
【0017】
一対の滑り部材5は、ランタンリング10の軸方向Daにおける両側に配置される。滑り部材5は、円環状の板体である。滑り部材5は、ランタンリング10が回転したときに生じる摩擦力を低減させる。滑り部材5の摩擦係数は、スタフィングボックス2(厳密には同ボックス2の機内側に位置する底面)の摩擦係数よりも小さく、且つグランドパッキン3の摩擦係数よりも小さい。滑り部材5は、例えば四フッ化エチレン樹脂(PTFE:Polytetrafluoroethylene)からなる。
【0018】
複数のグランドパッキン3、ランタンリング10および一対の滑り部材5は、機内側から機外側に向けて、滑り部材5、ランタンリング10、滑り部材5、複数のグランドパッキン3の順で配置される。パッキン押え6は、最も機外側に位置するグランドパッキン3に押し当てられる。押圧機構7は、パッキン押え6を所定の圧力で弾性的に押圧する。そのことで、パッキン押え6は、複数のグランドパッキン3を軸部材110の軸方向Daに押圧する。
【0019】
押圧機構7は、締付けボルト7aと、圧縮コイルばね7bと、締付けナット7c、カラー7dとを備える。締付けボルト7aは、パッキン押え6の機外側の端部に設けられたフランジ6fに挿通される。そして、締付けボルト7aの基端部は、スタフィングボックス2の機外側の端部に設けられたフランジ2fにねじ込まれる。締付けナット7cは、締付けボルト7aのうちパッキン押え6のフランジ6fから突き出した先端側の部分に螺合される。
【0020】
圧縮コイルばね7bは、締付けボルト7aの先端側の部分に挿通され、パッキン押え6のフランジ6fと締付けナット7cとの間に介在する。カラー7dは、有底円筒体であって、圧縮コイルばね7bを覆う。カラー7dの底壁は、締付けボルト7aに挿通され、圧縮コイルばね7bと締付けナット7cとに挟み込まれて保持される。カラー7dは、圧縮コイルばね7bの圧縮量に拘わらずパッキン押え6の押圧方向における締付けナット7cとの相対位置を不変とされる。
【0021】
複数のグランドパッキン3はそれぞれ、パッキン押え6により圧縮され、押し潰すように変形される。それによって、各グランドパッキン3は、スタフィングボックス2の内周面および軸部材110の外周面に面接触する。各グランドパッキン3は、軸部材110の上記運動(回転運動、往復運動またはヘリカル運動)に係る動作を許容した状態で、流体機器100で扱う内部流体をシールする。ランタンリング10は、軸封装置1の軸部材110周りにパージガスを流通させる部材である。パージガスは、加圧流体の一例である。
【0022】
スタフィングボックス2におけるランタンリング10の外周部分には、2つのガス供給孔2pが形成される。本例のガス供給孔2pは、ランタンリング10の直上位置と直下位置とに設けられる。ガス供給孔2pは、軸部材110の軸方向Daから見てランタンリング10の左右両側に設けられてもよい。各ガス供給孔2pには、ガス配管9が接続される。ガス供給装置8は、ガス配管9にパージガスを送り出し、ガス供給孔2pからランタンリング10にパージガスを供給する。パージガスには、例えば窒素ガスなどの不活性ガスが用いられる。
【0023】
-ランタンリングの構成-
図2図4に示すように、ランタンリング10は、一対の円環板(第1円環板12、第2円環板14)と、複数の羽根部16とを備える。一対の円環板は、第1円環板12と、第2円環板14とである。第1円環板12および第2円環板14は、互いに対向して配置される。第1円環板12および第2円環板14は、内径および外径が互いに同じ円環状に形成される。ランタンリング10は、第1円環板12が機外側に位置し、第2円環板14が機内側に位置する向きで収容空間Scに設置される。ランタンリング10は、スタフィングボックス2に対して相対的に回転可能である。
【0024】
複数の羽根部16は、第1円環板12と第2円環板14の間に周方向に互いに間隔をあけて設けられる。各羽根部16は、板状体であって、第1円環板12と第2円環板14とを連結する。各羽根部16の一端は、第1円環板12の内周端部に接続される。各羽根部16の他端は、第2円環板14の外周端部に接続される。複数の羽根部16は、第1円環板12から第2円環板14に向かって放射状に広がるように設けられる。各羽根部16は、流体受け部として機能する。流体受け部は、ガス供給孔2pを通じて外周側から供給されるパージガスを受ける部分である。
【0025】
各羽根部16は、パージガスの流れを受ける外面16sを有する。各羽根部16の外面16sは、ランタンリング10の径方向における外方に臨み、ランタンリング10の周方向に倣って広がる。各羽根部16は、外面16sを第1円環板12側に向けるように当該ランタンリング10の軸方向Daに対して傾斜する。各羽根部16は、パージガスによる外力を受けて回転トルクを発生する。各羽根部16の外面16sとその外面16sを垂直な方向に通る当該ランタンリング10の径方向とがなす角度α(図4参照)は、例えば、30°以上且つ70°以下に設定される。
【0026】
各羽根部16の上記角度αが70°超であると、当該羽根部16でパージガスを受けたときに発生する回転トルクが比較的小さくなる上に、パージガスのランタンリング10の内周側への流通が羽根部16で阻害される。一方、各羽根部16の上記角度αが30°未満であると、当該羽根部16でパージガスを受けたときに発生する回転トルクが比較的小さくなる上に、ランタンリング10に当該羽根部16を成形し難い。これに対して、本例のように、各羽根部16の上記角度αが30°以上且つ70°以下であると、比較的大きな回転トルクを得ると共に、パージガスのランタンリング10の内周側へのスムーズな流通を実現し、さらに羽根部16の成形性を良くするのに有利である。各羽根部16の当該角度αは、同じ観点から、40°以上且つ50°以下であることが好ましい。
【0027】
図5にも示すように、本例のランタンリング10は、分割タイプに構成される。ランタンリング10は、2つの分割体10Pによって構成される。各分割体10Pは、半円弧状を有する半割体である。2つの分割体10Pは、互いに組み合わせられることで、全体として円環状を構成する。2つの分割体10Pは、一対の接合ピン18を用いて継ぎ合わせられる。2つの分割体10Pの互いに接合される両側の端面にはそれぞれ、ピン孔20が形成される。
【0028】
図6に示すように、一方のピン孔20は、分割体10Pの第1円環板12をなす円弧板12Pの端面に形成される。他方のピン孔20は、分割体10Pの第2円環板14をなす円弧板14Pの端面に形成される。図5に示すように、各接合ピン18は、2つの分割体10Pの互いに対応する各ピン孔20に挿入される。2つの分割体10Pは、第1円環板12および第2円環板14をなす各円弧板12P,14Pの両端面を突き合わせた状態で、接合ピン18を介して接続される。2つの分割体10Pの継ぎ目には分割ライン22が形成される。
【0029】
ランタンリング10(各分割体10P)は、金属製または樹脂製の部品である。ランタンリング10に用いられる金属材料としては、ステンレス、銅が挙げられる。ランタンリング10に用いられる樹脂材料としては、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)が挙げられる。四フッ化エチレン樹脂(PTFE)は、耐熱性および耐薬品性と共に滑り性(低摩擦性、自己潤滑性)を有し、ランタンリング10の材料として好適に用いられる。ランタンリング10は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)などのカーボン材で構成されてもよい。
【0030】
第1円環板12の外面(第2円環板14とは反対側の表面)には、複数のタップ孔24が形成される。タップ孔24は、ランタンリング10の抜き出し作業に用いられる。タップ孔24は、例えば、第1円環板12の周方向に等間隔で距離をあけた4箇所に設けられる。
【0031】
図16に示すように、ランタンリング210がスタフィングボックス202に固定された軸封装置301では、圧力のかかった内部流体FLが、収容空間Scに侵入することがある。特に、軸封装置301が本例のように水平方向に延びる軸部材310に適用される場合、収容空間Scに侵入してきた内部流体FLが自重で下側に溜まる傾向がある。そのため、ガス供給孔202pからランタンリング210を通じて軸部材310周りにパージガスを供給しても、パージガスがランタンリング210の全周に行き渡る前に上側部分から機内側に抜けるショートパスが発生し易い。
【0032】
このようなショートパスが発生すると、パージガスの流通する部分がランタンリング210の上側に偏り、ランタンリング210の下側で内部流体FLのパージを行えない部分が生じる。そうなると、ランタンリング210が内部流体FLに晒されるため、内部流体FLがランタンリング210に設けられた抜き出し用のタップ孔に噛み込んだり、ランタンリング210とスタフィングボックス202との間やランタンリング210の分割ラインに固着したりして、ランタンリング210のメンテナンス作業が困難になる。
【0033】
これに対して、本例の軸封装置1では、ランタンリング10が外周側から供給されるパージガスを受けて回転する構成を採用する。図1図3および図4に二点鎖線の矢印で示すように、スタフィングボックス2の上下両側の各ガス供給孔2pから供給されたパージガスは、ランタンリング10の羽根部16の外面16sに当てられる。羽根部16の外面16sに当たったパージガスは、ランタンリング10の周方向に流れた後、隣り合う羽根部16の間からランタンリング10の内周側に流れる。そして、パージガスは、ランタンリング10の内周側からスタフィングボックス2と軸部材110との間を通じて流体機器100の内部に抜ける。
【0034】
羽根部16は、パージガスの流れを受けると、回転トルクを発生する。それにより、ランタンリング10が、軸部材110周りの一方向(図2および図3に実線矢印で示す方向または破線矢印で示す方向)に回転する。ランタンリング10は、回転動作を開始すると、ガス供給孔2pと対応した位置関係となる羽根部16でパージガスを順次受けるため、ランタンリング10の回転動作が継続する。ランタンリング10が回転すると、その回転動作に伴い、パージガスがランタンリング10の周方向に好適に広がり、スタフィングボックス2の収容空間Scに侵入する内部流体を押し戻す効果が得られる。また、内部流体がランタンリング10に付着しても、その内部流体をランタンリング10の回転による遠心力で飛ばす効果が得られる。
【0035】
-実施形態1の特徴-
この実施形態1のランタンリング10は、外周側から供給されるパージガスを受ける複数の羽根部16を備える。複数の羽根部16はそれぞれ、パージガスによる外力を受けて回転トルクを発生する。回転トルクが発生すると、ランタンリング10が軸部材110周りで回転する。そのようにランタンリング10が回転することで、流体機器100で扱う内部流体の侵入を抑制できる。これにより、内部流体のパージをランタンリング10の全周に亘って行い、内部流体の押し戻し効果を得ることができる。さらに、ランタンリング10の回転動作により、ランタンリング10に付着した内部流体の飛ばし効果を得ることができる。これにより、内部流体がランタンリング10のタップ孔24に噛み込んだり、ランタンリング10とスタフィングボックス2との間やランタンリング10の分割ライン22に固着したりするのを抑制できる。その結果、ランタンリング10のメンテナンス作業を容易に行える。
【0036】
この実施形態1のランタンリング10では、各羽根部16の外面16sとその外面16sを垂直な方向に通る当該ランタンリング10の径方向とがなす角度は、30°以上且つ70°以下に設定される。各羽根部16の上記角度αが30°以上且つ70°以下であると、パージガスの流れを羽根部16で受けたときに比較的大きな回転トルクを得ると共に、パージガスのランタンリング10の内周側へのスムーズな流通を実現し、さらに羽根部16の成形性を良くするのに有利である。
【0037】
この実施形態1の軸封装置1では、ランタンリング10が外周側から供給されるパージガスを受けて回転する。そのことで、スタフィングボックス2の収容空間Scに侵入する内部流体を押し戻す効果と、ランタンリング10に付着した内部流体を遠心力で飛ばす効果とが得られる。これにより、軸封装置1の軸部材110周りのシール性を向上させることができる。
【0038】
この実施形態1の軸封装置1では、ランタンリング10の両側に滑り部材5が配置される。滑り部材5は、ランタンリング10が回転したときに生じる摩擦力を低減させる。それによって、ランタンリング10がパージガスを羽根部16で受けたときに発生する回転トルクで回転し易くなり、上述の内部流体の押し戻し効果と内部流体の飛ばし効果とを好適に得ることができる。
【0039】
この実施形態1の軸封装置1では、滑り部材5が四フッ化エチレン樹脂(PTFE)からなる。四フッ化エチレン樹脂(PTFE)は、滑り性(低摩擦性、自己潤滑性)に優れるので、滑り部材5の材料として好適である。
【0040】
この実施形態1の軸封装置1は、水平方向に延びる軸部材110に適用される。従来の軸封装置が本例のように水平方向に延びる軸部材110に適用される場合、上述したように、収容空間Scに侵入してきた内部流体が自重で下側に溜まる傾向があり、ショートパスが発生し易い。本例の軸封装置1は、流体機器100における内部流体の押し戻し効果と内部流体の飛ばし効果とを得られることから、水平方向に延びる軸部材110の軸封装置として有効である。
【0041】
〈実施形態1の変形例〉
図7に示すように、ランタンリング10は、分割タイプではなく、一体成形品として構成されてもよい。このようなランタンリング10には、分割ライン22が形成されないが、第1円環板12にタップ孔24が設けられる。本例のランタンリング10も、上記実施形態1と同様に、外周側から供給されるパージガスを羽根部16で受けて回転するように構成される。よって、流体機器100の内部流体を機内側へ押し戻す効果と、ランタンリング10に付着した内部流体を遠心力で飛ばす効果とを得ることができる。
【0042】
《実施形態2》
この実施形態2の軸封装置1は、ランタンリング10の構成が上記実施形態1と異なる。なお、本実施形態では、ランタンリング10の構成が上記実施形態1と異なる他は軸封装置1について上記実施形態1と同様に構成されるので、構成の異なるランタンリング10についてのみ説明し、同一の構成箇所については、その詳細な説明を省略する。
【0043】
図8および図9に示すように、この実施形態2のランタンリング10において、複数の羽根部16にはそれぞれ、径方向に貫通する貫通孔17が形成される。各羽根部16は、パージガスによる外力を受けて回転トルクを発生する。ランタンリング10は、外周側から供給されるパージガスを羽根部16の外面16sで受けて回転する。貫通孔17は、パージガスをランタンリング10の外周側から内周側に通過させる。本例のランタンリング10は、上記実施形態1と同様な分割タイプに構成される。
【0044】
-実施形態2の特徴-
この実施形態2のランタンリング10では、各羽根部16に貫通孔17が形成される。ガス供給孔2pから供給されたパージガスの一部は、貫通孔17を通じてランタンリング10の内周側へ流れる。そのことで、パージガスを軸部材110の周囲に速やかに行き渡らせることができる。これにより、内部流体のパージをランタンリング10の全周に亘って行い、内部流体の押し戻し効果を好適に得ることができる。
【0045】
〈実施形態2の変形例〉
図10に示すように、ランタンリング10は、分割タイプではなく、一体成形品として構成されてもよい。このようなランタンリング10には、分割ライン22が形成されないが、第1円環板12にタップ孔24が設けられる。本例のランタンリング10も、上記実施形態2と同様に、外周側から供給されるパージガスを、羽根部16で受けて回転すると共に、貫通孔17を通じてランタンリング10の内周側へ流れるように構成される。よって、流体機器100の内部流体を押し戻す効果を好適に得ることができる。
【0046】
《第1変形例》
図11に示すように、本例の軸封装置1では、ランタンリング10に対して三方向(図11に二点鎖線の白抜き矢印で示す)からパージガスを供給する。図示しないが、スタフィングボックス2におけるランタンリング10の外周に位置する周壁部分には、3つのガス供給孔2pが形成される。本例のガス供給孔2pは、スタフィングボックス2の周方向においてアンバランスに配置される。具体的には、ガス供給孔2pは、ランタンリング10の直上位置および直下位置(図11に二点鎖線で示す上下矢印の位置)と、軸部材110の軸方向Daから見てランタンリング10の左右の片側位置(図11に二点鎖線で示す左矢印の位置)とにそれぞれ設けられる。
【0047】
この第1変形例の軸封装置1では、ランタンリング10に対して左右非対称な位置で三方向からパージガスを供給する。そうすることで、パージガスによる外力で各羽根部16に発生する回転トルクをランタンリング10の回転動作に効率的に利用できる。これにより、ランタンリング10の回転を促進できる。このことは、上述した内部流体の押し戻し効果と、内部流体の飛ばし効果とを好適に得るのに有利である。
【0048】
《第2変形例》
図12に示すように、本例の軸封装置1では、ランタンリング10に対して三方向(図12に二点鎖線の白抜き矢印で示す)からパージガスを供給する。図示しないが、スタフィングボックス2におけるランタンリング10の外周に位置する周壁部分には、3つのガス供給孔2pが形成される。本例のガス供給孔2pは、ランタンリング10の周方向においてアンバランスに配置される。具体的には、ガス供給孔2pは、ランタンリング10の直下位置(図12に二点鎖線で示す上矢印の位置)と、軸部材110の軸方向Daから見てランタンリング10の左右の両側位置(図12に二点鎖線で示す左右矢印の位置)とにそれぞれ設けられる。
【0049】
この第2変形例の軸封装置1によれば、上記第1変形例と同様に、ランタンリング10の回転を促進できる。それにより、上述した内部流体の押し戻し効果と内部流体の飛ばし効果とを効果的に得ることができる。特に、本例の軸封装置1は、内部流体が溜まり易い下側に偏った位置からパージガスを供給するので、水平方向に延びる軸部材110に適用される軸封装置として有利である。
【0050】
《第3変形例》
図13および図14に示すように、本例のランタンリング10では、各羽根部16の外面16sが径方向における外方に臨む面に対して周方向における一方側に傾斜する。複数の羽根部16の外面16sは、ランタンリング10の周方向において、互いに同じ向きに傾斜する。各羽根部16の外面16sとその外面16sの中心に対応する位置でのランタンリング10の円周上の接線TLとがなす角度β(図14参照)は、例えば5°以上且つ20°以下に設定される。
【0051】
この第3変形例のランタンリング10では、各羽根部16の外面16sが周方向における一方側に傾斜する。羽根部16は、外周側から供給されるパージガスの流れを外面16sで受けると、当該外面16sの傾斜側とは反対方向への回転トルクを発生する。それにより、ランタンリング10の回転方向を一方向に設定できる。
【0052】
以上のように、本開示の技術の例示として、好ましい実施形態について説明した。しかし、本開示の技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。上記実施形態について、本開示の技術の趣旨を逸脱しない範囲においてさらに色々な変形が可能なこと、またそうした変形も本開示の技術の範囲に属することは、当業者に理解されるところである。
【0053】
例えば、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0054】
図15に示すように、軸封装置1において、ランタンリング10は、スタフィングボックス2内の収容空間Scにおける中程に設置されてもよい。この場合、ランタンリング10は、グランドパッキン3とグランドパッキン3との間に配置される。ランタンリング10は、スタフィングボックス2内の収容空間Scにおける任意の位置に設置可能である。
【0055】
ランタンリング10は、上記実施形態1とは逆向きの姿勢でスタフィングボックス2内の収容空間Scに収容されてもよい。すなわち、ランタンリング10は、第2円環板14が機外側に位置し、第1円環板12が機内側に位置する向きで収容空間Scに設置されてもよい。
【0056】
また、ランタンリング10は、流体受け部として機能する複数の羽根部16を備える構成としたが、これに限らず、どのような態様であっても、パージガスによる外力を受けて回転トルクを発生する流体受け部を備えていればよい。
【0057】
滑り部材5は、ランタンリング10の軸方向Daにおける一方側のみに配置されてもよい。滑り部材5は、ランタンリング10の機内側または機外側でランタンリング10とグランドパッキン3との間に設けられてもよい。また、滑り部材5は、ランタンリング10とスタフィングボックス2の機内側に位置する底面との間のみに設けられてもよい。
【0058】
上記実施形態では、滑り部材5が四フッ化エチレン樹脂(PTFE)からなるとしたが、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)は滑り部材5の材料の一例に過ぎず、滑り部材5は、ランタンリング10が回転したときに生じる摩擦力を低減させることが可能であれば、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)以外の材料によって構成されてもよい。
【0059】
上記実施形態では、軸封装置1が加圧流体としてパージガスを使用するとしたが、パージガスは加圧流体の一例に過ぎず、ランタンリング10を用いて軸部材110周りに流通させることで、流体機器100における内部流体のパージを行うことが可能であれば、加圧流体としては、水やグリースなど、その他の流体を使用しても構わない。
【0060】
上記第1~第3変形例については、上記実施形態1と共通の構成を図示しながら説明したが、上記実施形態2においても勿論、上記第1~第3変形例と同様な構成を採ることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上説明したように、本開示の技術は、ランタンリングおよび軸封装置について有用である。
【符号の説明】
【0062】
1 軸封装置
2 スタフィングボックス
3 グランドパッキン(パッキン)
5 滑り部材
6 パッキン押え
10 ランタンリング
12 第1円環板
14 第2円環板
16 羽根部(流体受け部)
17 羽根部の外面
110 軸部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16