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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130794
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】流体圧緩衝器
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/46 20060101AFI20230913BHJP
【FI】
F16F9/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035293
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 一樹
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA50
3J069EE03
3J069EE62
(57)【要約】
【課題】減衰特性を変更可能な減衰弁の搭載性を向上させること。
【解決手段】車両に搭載される油圧緩衝器100は、シリンダチューブ10と、シリンダチューブ10に進退自在に挿入されるロッド12と、ロッド12に連結されシリンダチューブ10内をボトム側室1とロッド側室2とに区画するピストン14と、ボトム側室1とロッド側室2との間の作動油の流れに対して抵抗を付与し、パイロット圧に応じて減衰特性が変更可能な減衰弁20と、減衰弁20へのパイロット圧の供給と遮断を切り換える電磁弁30と、を備え、パイロット圧として、ボトム側室1又はロッド側室2の作動流体が用いられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される流体圧緩衝器であって、
シリンダチューブと、
前記シリンダチューブに進退自在に挿入されるロッドと、
前記ロッドに連結され前記シリンダチューブ内をボトム側室とロッド側室とに区画するピストンと、
前記ボトム側室と前記ロッド側室との間の作動流体の流れに対して抵抗を付与し、パイロット圧に応じて減衰特性が変更可能な減衰弁と、
前記減衰弁へのパイロット圧の供給と遮断を切り換える電磁弁と、を備え、
前記パイロット圧として、前記ボトム側室又は前記ロッド側室の作動流体が用いられることを特徴とする流体圧緩衝器。
【請求項2】
請求項1に記載の流体圧緩衝器であって、
前記パイロット圧として、前記ボトム側室の作動流体が用いられ、
前記ボトム側室には加圧ガスが封入されていることを特徴とする流体圧緩衝器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の流体圧緩衝器であって、
前記減衰弁は、直列に複数設けられ、
前記電磁弁は、並列に複数設けられ、
複数の前記電磁弁は、複数の前記減衰弁へのパイロット圧の供給と遮断をそれぞれ切り換えることを特徴とする流体圧緩衝器。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の流体圧緩衝器であって、
前記減衰弁として、互いに並列に設けられ作動流体の流れに対して抵抗を付与する第1減衰弁及び第2減衰弁を有し、
前記第1減衰弁は、前記ボトム側室及び前記ロッド側室の一方から他方に向かう作動流体の流れに対してのみ抵抗を付与することを特徴とする流体圧緩衝器。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載の流体圧緩衝器であって、
前記電磁弁が設けられ、前記ボトム側室又は前記ロッド側室の作動流体をパイロット圧として前記減衰弁へ導くパイロット通路と、
前記パイロット通路における前記電磁弁の下流側から前記ボトム側室又は前記ロッド側室へパイロット圧を導く逆止弁と、をさらに備えることを特徴とする流体圧緩衝器。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つに記載の流体圧緩衝器であって、
前記ロッドは、
前記ピストンに連結され前記シリンダチューブに摺動自在に支持されるロッド本体と、
前記シリンダチューブの外部に露出するヘッド部と、
前記ロッド本体の内部に形成されるロッド内空間と、を有し、
前記ロッド内空間は、前記ボトム側室に連通する第1空間と、前記ロッド側室に連通する第2空間と、を有し、
前記減衰弁及び前記電磁弁は、前記ヘッド部に設けられ、
前記パイロット圧は、前記第1空間又は前記第2空間を通じて供給されることを特徴とする流体圧緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体圧緩衝器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の流体圧緩衝器では、ピストンロッドは、シリンダの外部へと延出するロッド部と、ロッド部の端部に連結されてシリンダ内を摺動自在に移動し、シリンダ内をボトム側室とロッド側室に区画するピストンと、を有する。ロッド部は、ロッド部の内部に形成されてシリンダのボトム側室と連通するロッド内空間と、ロッド内空間とシリンダのロッド側室とを接続する第1連通路と、第1連通路に設けられ減衰力を発生するオリフィスプラグと、を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-206374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の流体圧緩衝器において、減衰特性を変更可能な減衰弁を搭載する場合には、減衰弁を電磁弁とすることが考え得る。しかし、減衰弁を通過する作動流体が高圧大流量である場合には、減衰弁が大型化してしまい、減衰弁の搭載性が悪くなってしまう。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、減衰特性を変更可能な減衰弁の搭載性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車両に搭載される流体圧緩衝器であって、シリンダチューブと、シリンダチューブに進退自在に挿入されるロッドと、ロッドに連結されシリンダチューブ内をボトム側室とロッド側室とに区画するピストンと、ボトム側室とロッド側室との間の作動流体の流れに対して抵抗を付与し、パイロット圧に応じて減衰特性が変更可能な減衰弁と、減衰弁へのパイロット圧の供給と遮断を切り換える電磁弁と、を備え、パイロット圧として、ボトム側室又はロッド側室の作動流体が用いられることを特徴とする。
【0007】
この発明では、ボトム側室又はロッド側室の作動流体をパイロット圧として減衰弁の減衰特性が変更可能であり、パイロット圧の供給と遮断は電磁弁によって切り換えられるため、減衰弁が大型化することがない。よって、減衰力を変更可能な減衰弁の搭載性を向上させることができる。
【0008】
また、本発明は、パイロット圧として、ボトム側室の作動流体が用いられ、ボトム側室には加圧ガスが封入されていることを特徴とする。
【0009】
この発明では、ボトム側室には加圧ガスが封入されているため、流体圧緩衝器の作動中にボトム側室が負圧になることはないため、減衰弁を安定して動作させることができる。
【0010】
また、本発明は、減衰弁は直列に複数設けられ、電磁弁は並列に複数設けられ、複数の電磁弁は、複数の減衰弁へのパイロット圧の供給と遮断をそれぞれ切り換えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、減衰弁として、互いに並列に設けられ作動流体の流れに対して抵抗を付与する第1減衰弁及び第2減衰弁を有し、第1減衰弁は、ボトム側室及びロッド側室の一方から他方に向かう作動流体の流れに対してのみ抵抗を付与することを特徴とする。
【0012】
これらの発明では、車両の状態に応じて最適な減衰特性を実現することができる。
【0013】
また、本発明は、流体圧緩衝器は、電磁弁が設けられ、ボトム側室又はロッド側室の作動流体をパイロット圧として減衰弁へ導くパイロット通路と、パイロット通路における減衰弁の下流側からボトム側室又はロッド側室へパイロット圧を導く逆止弁と、をさらに備えることを特徴とする。
【0014】
この発明では、電磁弁がパイロット圧の供給を遮断した際のパイロット通路の残圧が逆止弁を通じて抜けるため、減衰弁をスムーズに切り換えることができる。
【0015】
また、本発明は、ロッドは、ピストンに連結されシリンダチューブに摺動自在に支持されるロッド本体と、シリンダチューブの外部に露出するヘッド部と、ロッド本体の内部に形成されるロッド内空間と、を有し、ロッド内空間は、ボトム側室に連通する第1空間と、ロッド側室に連通する第2空間と、を有し、減衰弁及び電磁弁は、ヘッド部に設けられ、パイロット圧は、第1空間又は第2空間を通じて供給されることを特徴とする。
【0016】
この発明では、パイロット流体へのガスの混入を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、減衰力を変更可能な減衰弁の搭載性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る流体圧緩衝器の流体圧回路図である。
図2】本発明の実施形態に係る流体圧緩衝器の断面図である。
図3】本発明の実施形態の変形例に係る流体圧緩衝器の流体圧回路図である。
図4】本発明の実施形態の変形例に係る流体圧緩衝器の流体圧回路図である。
図5】本発明の実施形態の変形例に係る流体圧緩衝器の流体圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る流体圧緩衝器について説明する。
【0020】
以下では、流体圧緩衝器が車両に搭載される油圧緩衝器100である場合について説明する。油圧緩衝器100は、例えば、車両の車体と車軸との間に介装され、減衰力を発生させて車体の振動を抑制する装置である。
【0021】
図1に示すように、油圧緩衝器100は、筒状のシリンダチューブ10と、シリンダチューブ10に進退自在に挿入されシリンダチューブ10の外部へと延出するロッド12と、ロッド12の先端に連結されシリンダチューブ10の内周面に沿って摺動自在に移動するピストン14と、を備える。油圧緩衝器100は、シリンダチューブ10が上側、ロッド12が下側となる向きに車両に搭載される。
【0022】
シリンダチューブ10内は、ピストン14によってボトム側室1とロッド側室2とに区画される。ボトム側室1とロッド側室2には、それぞれ作動流体としての作動油が封入される。ボトム側室1には、シリンダチューブ10に対するロッド12の進入、退出に伴うシリンダチューブ10内の容積変化を補償すると共に、ばね作用を発揮するための加圧ガスGが作動油と共に封入される。このように、油圧緩衝器100は、ガスGによるばね作用によって車体を支持可能なエアサスペンションの機能を有する。この場合、車体を支持するばねを別途設けなくても、油圧緩衝器100によって減衰力の発生及び車体の支持が可能となる。
【0023】
なお、これに限らず、シリンダチューブ10内にガスが封入されなくてもよい。また、ボトム側室1の内部に移動自在に設けられ、ボトム側室1を作動油が封入される液室とガスGが封入される気室とに隔てるフリーピストンが設けられてもよい。また、シリンダチューブ10外に、ボトム側室1に接続されたアキュムレータを設け、アキュムレータに気室を設けてもよい。
【0024】
ボトム側室1とロッド側室2は、流路3を通じて接続される。油圧緩衝器100は、流路3に設けられ、ロッド側室2とボトム側室1との間の作動油の流れに対して抵抗を付与して減衰力を発生する減衰弁20を備える。
【0025】
流路3は、途中で枝分かれして形成され、互いに並列な第1流路21及び第2流路22を有する。減衰弁20として、第1流路21に設けられ作動油の流れに対して抵抗を付与する第1減衰弁20Aと、第2流路22に設けられ作動油の流れに対して抵抗を付与する第2減衰弁20Bと、を有する。第1減衰弁20Aと第2減衰弁20Bは互いに並列に設けられる。
【0026】
第1流路21には、ボトム側室1からロッド側室2への作動油の流れのみを許容する逆止弁23が設けられる。したがって、第1減衰弁20Aは、ボトム側室1からロッド側室2へ向かう作動油の流れに対してのみ抵抗を付与する。本実施形態では、第1減衰弁20Aは、例えば、固定オリフィスである。
【0027】
第2減衰弁20Bは、ボトム側室1とロッド側室2との間の作動油の流れの双方向のいずれに対しても抵抗を付与する。第2減衰弁20Bは、パイロット圧に応じてポジションが切り換わり、各ポジションで通過する作動油の流れに付与する抵抗が異なる。つまり、第2減衰弁20Bは、パイロット圧に応じて減衰特性が変更可能である。
【0028】
本実施形態では、第2減衰弁20Bは、通過する作動油の流れに所定の抵抗を付与する第1絞りポジション25Aと、第1絞りポジション25Aによって付与される抵抗とは異なる大きさの抵抗を付与する第2絞りポジション25Bと、の2ポジションを有する。つまり、第1絞りポジション25Aと第2絞りポジション25Bとは、通過する作動油の流れに対する圧力損失特性が異なっている。
【0029】
第2減衰弁20Bは、ポジションを切り換える弁体(図示省略)と、弁体を付勢する付勢部材としてのスプリング26と、パイロット圧が供給されるパイロット室27と、を有する。第2減衰弁20Bは、第1絞りポジション25Aとなるように弁体がスプリング26によって付勢されている。第2減衰弁20Bは、パイロット室27にパイロット圧が導かれることによって、弁体がスプリング26の付勢力に抗して移動して、第2絞りポジション25Bに切り換わる。パイロット圧の供給が遮断されると、第2減衰弁20Bは、スプリング26の付勢力によって第1絞りポジション25Aに切り換わる。
【0030】
油圧緩衝器100が収縮作動した際には、ボトム側室1の圧力が上昇し、ボトム側室1の作動油は、一部が逆止弁23を開弁し第1減衰弁20Aを通過してロッド側室2に導かれ、残りが第2減衰弁20Bを通過してロッド側室2に導かれる。このように、油圧緩衝器100の収縮作動時には、ボトム側室1の作動油は、第1減衰弁20A及び第2減衰弁20Bの両方を通過してロッド側室2に導かれる。このため、油圧緩衝器100は、収縮作動時には、第1減衰弁20A及び第2減衰弁20Bが全体として発揮する流路抵抗に応じた減衰力を発生する。
【0031】
油圧緩衝器100が伸長作動した際には、ロッド側室2の圧力が上昇し、ロッド側室2の作動油は、第2減衰弁20Bを通過してボトム側室1に導かれる。一方、ロッド側室2の圧力上昇によって逆止弁23は閉弁するため、ロッド側室2の作動油は、第1減衰弁20Aを通じてはボトム側室1に導かれない。このため、油圧緩衝器100は、伸長作動時には、第2減衰弁20Bが発揮する流路抵抗に応じた減衰力を発生する。したがって、収縮作動時には第1減衰弁20Aを通じたボトム側室1からロッド側室2への作動油の流れが許容される分、油圧緩衝器100は、伸長作動時の方が収縮作動時よりも大きな減衰力を発生する。これにより、車両が路面の突起を乗り上げたような場合には、油圧緩衝器100は比較的スムーズに収縮作動し、その後の伸長作動時に大きな減衰力を発生して、路面から車体に入力される振動を効果的に減衰させる。
【0032】
なお、第1流路21、第1減衰弁20A、及び逆止弁23は、必須の構成ではなく、第2減衰弁20Bのみで減衰力が発生されるように構成してもよい。
【0033】
油圧緩衝器100は、第2減衰弁20Bへのパイロット圧の供給と遮断を切り換える電磁弁30を備える。電磁弁30はパイロット通路33に設けられる。パイロット通路33は、流路3から分岐して設けられ、ボトム側室1と第2減衰弁20Bのパイロット室27とを接続する。パイロット通路33は、ボトム側室1の作動油をパイロット圧として第2減衰弁20Bのパイロット室27へ導く構成であればよく、例えば、ボトム側室1に直接接続されてもよい。
【0034】
電磁弁30は、パイロット圧の供給を遮断する遮断ポジション30Aと、パイロット圧を供給する供給ポジション30Bと、の2ポジションを有する。
【0035】
電磁弁30は、コントローラ35から入力される電気信号によって作動が制御される。電磁弁30は、ポジションを切り換える弁体(図示省略)と、弁体を付勢する付勢部材としてのスプリング31と、通電によって弁体をスプリング31の付勢力に抗して移動させるソレノイド32と、を有する。
【0036】
電磁弁30は、遮断ポジション30Aとなるように弁体がスプリング31によって付勢されている。通電によってソレノイド32が励磁されると、弁体がスプリング31の付勢力に抗して移動して、電磁弁30は供給ポジション30Bに切り切り換わる。ソレノイド32への通電が遮断されると、電磁弁30は、スプリング31の付勢力によって遮断ポジション30Aに切り換わる。
【0037】
車両には、荷台に積まれた積荷の重量(積載重量)を検知する検知器34が設けられ、検知器34が検知した信号はコントローラ35に出力される。積載重量が所定重量未満の場合には、コントローラ35は、検知器34からの信号に基づき電磁弁30のソレノイド32への通電を遮断する。また、積載重量が所定重量以上の場合には、コントローラ35は、検知器34からの信号に基づき電磁弁30のソレノイド32へ通電する。このように、車両の積載重量が少ない場合には、電磁弁30は遮断ポジション30Aとなり、第2減衰弁20Bへのパイロット圧の供給が遮断され、第2減衰弁20Bは第1絞りポジション25Aとなる。また、車両の積載重量が多い場合には、電磁弁30は供給ポジション30Bとなり、第2減衰弁20Bへパイロット圧が供給され、第2減衰弁20Bは第2絞りポジション25Bとなる。
【0038】
ここで、ダンプトラックのような最大積載重量が大きい車両では、積荷が空の状態と、積荷がある状態とでは、積荷を含めた車両全体の重量が大きく異なるため、油圧緩衝器100で減衰するエネルギーも大きく異なる。しかし、本実施形態では、電磁弁30により、車両の積載重量に応じて第2減衰弁20Bの減衰特性が変更されるため、油圧緩衝器100は、車両の積載重量に応じた最適な減衰特性を発揮することができる。
【0039】
本実施形態では、第2減衰弁20Bのポジションを切り換えるためのパイロット圧として、ボトム側室1の作動油が用いられる。これに代えて、パイロット圧として、ロッド側室2の作動油を用いてもよい。ただ、車両走行中に車輪が路面の窪みの底に着地した際や、車輪が路面の突起を乗り上げる際には、油圧緩衝器100は一時的に急激に収縮作動するため、ロッド側室2が負圧になる可能性がある。これに対して、ボトム側室1は、車体重量を支持しており、かつボトム側室1には加圧ガスGが封入されているため、油圧緩衝器100の作動中に負圧になることはない。したがって、パイロット圧として、ボトム側室1の作動油を用いる方が好ましい。
【0040】
以上にて説明したように、本実施形態は、減衰特性が変更可能なパイロット駆動型の第2減衰弁20Bへのパイロット圧の供給と遮断を電磁弁30によって切り換える構成である。ここで、ダンプトラックのような大型の車両では、搭載される油圧緩衝器100も大型であるため、第2減衰弁20Bを通過する作動油の流量が多い。また、ダンプトラックのような最大積載重量が大きい車両では、車両全体の重量が大きいため、その重量を支える油圧緩衝器100内の作動油の圧力は高い。さらに、油圧緩衝器100は、シリンダチューブ10内にガスGが封入されておりエアサスペンションの機能も有するため、シリンダチューブ10内の作動油の圧力は高くなる。このように、油圧緩衝器100がダンプトラックのような大型の車両に搭載される場合には、第2減衰弁20Bは高圧大流量の作動油の流れを切り換えられる弁である必要がある。第2減衰弁20B自体を電磁弁とした場合には、第2減衰弁20Bのポジションを切り換えるためには、大きなソレノイド推力が必要となるため、第2減衰弁20Bに設けるソレノイドが大型化してしまう。したがって、油圧緩衝器100への第2減衰弁20Bの搭載性が悪い。
【0041】
これに対して、本実施形態では、第2減衰弁20Bはパイロット駆動型であるため、大型化することはない。また、第2減衰弁20Bへのパイロット圧の供給と遮断は、電磁弁30によって切り換えられるが、電磁弁30が設けられるのはパイロット通路33であり、パイロット通路33を流れるパイロット流体の流量は少ない。このように、電磁弁30は高圧低流量の作動油の流れを切り換えられる弁であれば足り、大きなソレノイド推力を必要としないため、小型化することができる。したがって、油圧緩衝器100への第2減衰弁20Bの搭載性が向上し、ひいては、油圧緩衝器100を小型化することができる。
【0042】
次に、図2を参照して、油圧緩衝器100の構造、及び油圧緩衝器100への減衰弁20及び電磁弁30の搭載例について説明する。図2は、油圧緩衝器100の断面図である。
【0043】
シリンダチューブ10は、有底筒状であり、その開口端にはロッド12が摺動自在に挿通するシリンダヘッド11が設けられる。シリンダチューブ10の閉塞端(シリンダヘッド11とは逆側の端部)には、油圧緩衝器100を車両に取り付けるための取付部10aが設けられる。
【0044】
ロッド12は、ピストン14に連結されシリンダチューブ10のシリンダヘッド11に摺動自在に支持されるロッド本体51と、シリンダチューブ10の外部に露出するヘッド部52と、を有する。
【0045】
ロッド本体51には、ピストン14側の端面に開口するロッド内空間40が形成される。ロッド本体51の端部は、ボルト(図示省略)によってピストン14に連結される。
【0046】
ヘッド部52は、ロッド本体51よりも大径に形成され、油圧緩衝器100のストローク位置に関わらず、シリンダチューブ10の外部に常時露出する。つまり、ヘッド部52は、ロッド12において、シリンダヘッド11に対して摺動しない部分である。ヘッド部52は、例えば、ロッド本体51とは別体に形成され、溶接等によりロッド本体51の端部に接続される。なお、ロッド本体51とヘッド部52は、一体に形成されてもよい。
【0047】
ヘッド部52には、油圧緩衝器100の収縮作動時のストロークエンドを規定するストッパ部52aと、油圧緩衝器100を車両に取り付けるための取付部52bと、が設けられる。ストッパ部52aには、油圧緩衝器100の収縮作動時にストロークエンドでのシリンダヘッド11とロッド12との衝突を防止する環状のクッションリング53が設けられる。
【0048】
ロッド内空間40には、円筒状のパイプ43が設けられる。パイプ43の一端は、ヘッド部52に形成された挿入穴52cに挿入され、他端はピストン14に形成された挿入穴14aに挿入される。このように、パイプ43は、ヘッド部52とピストン14によって挟まれて設けられる。
【0049】
ロッド内空間40にパイプ43が設けられることによって、ロッド内空間40は、パイプ43の中空部である第1空間41と、パイプ43の外周面とロッド本体51の内周面によって区画された環状の第2空間42と、に区画される。第1空間41は、ピストン14に形成された貫通孔14bを通じてボトム側室1に連通する。第2空間42は、ロッド12のロッド本体51に形成された複数の貫通孔51aによってロッド側室2と連通する。このように、ロッド内空間40は、ボトム側室1に連通する第1空間41と、ロッド側室2に連通する第2空間42と、を有する。第1空間41及び第2空間42は、ボトム側室1とロッド側室2を接続する流路3の一部を構成する。
【0050】
流路3、第1減衰弁20A、第2減衰弁20B、及び電磁弁30は、ロッド12のヘッド部52に設けられる。第2減衰弁20Bを駆動するためのパイロット圧を導くパイロット通路33もヘッド部52に設けられる。パイロット圧は、ボトム側室1から第1空間41及びパイロット通路33を通じて第2減衰弁20Bに導かれる。このように、パイロット圧は、第1空間41及びヘッド部52に設けられるパイロット通路33を通じて導かれる構成であって、油圧緩衝器100の鉛直上方側に溜まっているガスGに対して鉛直下方側から取り出される。したがって、パイロット流体にガスGが混入することが防止されるため、第2減衰弁20Bの作動が安定する。このように、ガスGが封入される気室をフリーピストンにより区画しない場合であっても、パイロット圧をガスGに対して鉛直下方側から取り出すことによって、パイロット流体へのガスGの混入を防ぐことができる。
【0051】
なお、パイロット圧としてロッド側室2の作動油を用いる場合には、第2空間42及びヘッド部52に設けられるパイロット通路を通じて第2減衰弁20Bのパイロット室27にパイロット圧を導くようにすればよい。
【0052】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0053】
第2減衰弁20Bの減衰特性はボトム側室1の作動油をパイロット圧として変更可能であり、パイロット圧の供給と遮断は電磁弁30によって切り換えられるため、第2減衰弁20Bが大型化することがない。よって、減衰力を変更可能な第2減衰弁20Bの搭載性を向上させることができる。
【0054】
以下に、上記実施形態の変形例について説明する。以下のような変形例も本発明の範囲内であり、以下の変形例と上記実施形態の構成とを組み合わせたり、以下の変形例同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0055】
(1)図3に示す油圧緩衝器101では、第2減衰弁20Bが第2流路22に直列に複数設けられ、電磁弁30が並列に複数設けられ、複数の電磁弁30は、複数の第2減衰弁20Bへのパイロット圧の供給と遮断をそれぞれ切り換える。上記実施形態に係る油圧緩衝器100は、減衰特性を2パターン有する。これに対して、本変形例に係る油圧緩衝器101は、減衰特性を4パターン有する。したがって、車両の積載重量に応じて、より最適な減衰特性を実現することができる。
【0056】
(2)図4に示す油圧緩衝器102では、第1減衰弁20Aも、パイロット圧に応じて減衰特性が変更可能である。つまり、第1減衰弁20Aは、上記実施形態に係る油圧緩衝器100の第2減衰弁20Bと同一の構成である。また、電磁弁30が並列に2つ設けられ、2つの電磁弁30は、第1減衰弁20A及び第2減衰弁20Bへのパイロット圧の供給と遮断をそれぞれ切り換える。本変形例においても、車両の積載重量に応じて、より最適な減衰特性を実現することができる。
【0057】
なお、油圧緩衝器102において、電磁弁30を1つのみとし、1つの電磁弁30を通じて導かれるパイロット圧によって、第1減衰弁20A及び第2減衰弁20Bを作動させるようにしてもよい。また、第1流路21に設けられる逆止弁23を逆向きに設けてもよい。つまり、第1減衰弁20Aは、ボトム側室1及びロッド側室2の一方から他方に向かう作動油の流れに対してのみ抵抗を付与するように構成してもよい。さらに、第2減衰弁20Bが設けられる第2流路22に、ロッド側室2からボトム側室1への作動油の流れのみを許容する逆止弁を設けてもよい。その場合には、第2減衰弁20Bは、ロッド側室2からボトム側室1へ向かう作動油の流れに対してのみ抵抗を付与する。
【0058】
(3)図5に示す油圧緩衝器103は、パイロット通路33のうち電磁弁30と第2減衰弁20Bとの間であるパイロット弁30の下流部分33aからボトム側室1のみへパイロット圧を導く逆止弁39を備える。逆止弁39により、電磁弁30が供給ポジション30Bから遮断ポジション30Aへ切り換わった際に、パイロット通路33におけるパイロット弁30の下流部分33aにパイロット圧が残ってしまった場合には、油圧緩衝器103の伸長作動時に、逆止弁39を通じてその残圧がボトム側室1側へと抜けるため、第2減衰弁20Bがスムーズに第1絞りポジション25Aへと切り換わる。なお、逆止弁39は、パイロット通路33におけるパイロット弁30の下流部分33aからロッド側室2のみへパイロット圧を導くように設けてもよい。この場合には、油圧緩衝器103の収縮作動時に、逆止弁39を通じて下流部分33aの残圧がロッド側室2側へと抜ける。
【0059】
(4)上記実施形態では、油圧緩衝器100は、シリンダチューブ10が上側、ロッド12が下側となる向きに車両に搭載される形態について説明した。しかし、これとは反対に、油圧緩衝器100は、シリンダチューブ10が下側、ロッド12が上側となる向きに車両に搭載されてもよい。この場合、ボトム側室1のガスGが上方へ移動しないように、作動油が封入される液室とガスが封入される気室とに隔てるフリーピストンをボトム側室1内に設ける必要がある。または、シリンダチューブ10外に、ボトム側室1に接続されたアキュムレータを設け、アキュムレータに気室を設けてもよい。
【0060】
(5)上記実施形態では、油圧緩衝器100は、ロッド12の先端がシリンダチューブ10の外部に突出する片ロッド型であるが、ロッド12の両端がシリンダチューブ10の外部に突出する両ロッド型でもよい。
【0061】
以下、本発明の各実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0062】
車両に搭載される油圧緩衝器100~103(流体圧緩衝器)は、シリンダチューブ10と、シリンダチューブ10に進退自在に挿入されるロッド12と、ロッド12に連結されシリンダチューブ10内をボトム側室1とロッド側室2とに区画するピストン14と、ボトム側室1とロッド側室2との間の作動油(作動流体)の流れに対して抵抗を付与し、パイロット圧に応じて減衰特性が変更可能な減衰弁20と、減衰弁20へのパイロット圧の供給と遮断を切り換える電磁弁30と、を備え、パイロット圧として、ボトム側室1又はロッド側室2の作動流体が用いられる。
【0063】
この構成では、ボトム側室1又はロッド側室2の作動油をパイロット圧として減衰弁20の減衰特性が変更可能であり、パイロット圧の供給と遮断は電磁弁30によって切り換えられるため、減衰弁20が大型化することがない。よって、減衰力を変更可能な減衰弁20の搭載性を向上させることができる。
【0064】
また、パイロット圧として、ボトム側室1の作動油が用いられ、ボトム側室1には加圧ガスGが封入されている。
【0065】
この構成では、ボトム側室1には加圧ガスGが封入されているため、油圧緩衝器100の作動中にボトム側室1が負圧になることはないため、減衰弁20を安定して動作させることができる。
【0066】
また、減衰弁20は直列に複数設けられ、電磁弁30は並列に複数設けられ、複数の電磁弁30は、複数の減衰弁20へのパイロット圧の供給と遮断をそれぞれ切り換える。
【0067】
また、減衰弁20として、互いに並列に設けられ作動油の流れに対して抵抗を付与する第1減衰弁20A及び第2減衰弁20Bを有し、第1減衰弁20Aは、ボトム側室1及びロッド側室2の一方から他方に向かう作動油の流れに対してのみ抵抗を付与する。
【0068】
これらの構成では、車両の状態に応じて最適な減衰特性を実現することができる。
【0069】
また、油圧緩衝器100~103は、電磁弁30が設けられ、ボトム側室1又はロッド側室2の作動油をパイロット圧として減衰弁20へ導くパイロット通路33と、パイロット通路33における電磁弁30の下流側からボトム側室1又はロッド側室2へパイロット圧を導く逆止弁39と、をさらに備える。
【0070】
この構成では、電磁弁30がパイロット圧の供給を遮断した際のパイロット通路33の残圧が逆止弁39を通じて抜けるため、減衰弁20をスムーズに切り換えることができる。
【0071】
また、ロッド12は、ピストン14に連結されシリンダチューブ10に摺動自在に支持されるロッド本体51と、シリンダチューブ10の外部に露出するヘッド部52と、ロッド本体51の内部に形成されるロッド内空間40と、を有し、ロッド内空間40は、ボトム側室1に連通する第1空間41と、ロッド側室2に連通する第2空間42と、を有し、減衰弁20及び電磁弁30は、ヘッド部52に設けられ、パイロット圧は、第1空間41又は第2空間42を通じて供給される。
【0072】
この構成では、パイロット流体へのガスの混入を防ぐことができる。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0074】
100,101,102,103…油圧緩衝器(流体圧緩衝器)、1…ボトム側室、2…ロッド側室、10…シリンダチューブ、12…ロッド、14・・・ピストン、20…減衰弁、20A…第1減衰弁、20B…第2減衰弁、25A…第1絞りポジション、25B…第2絞りポジション、27…パイロット室、30…電磁弁、30A…遮断ポジション、30B…供給ポジション、33…パイロット通路、39…逆止弁、40…ロッド内空間、41…第1空間、42…第2空間、51…ロッド本体、52…ヘッド部
図1
図2
図3
図4
図5