(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130800
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】産業用ロボット設備の保守システム
(51)【国際特許分類】
G05B 19/418 20060101AFI20230913BHJP
G06F 3/04815 20220101ALI20230913BHJP
G06Q 10/20 20230101ALI20230913BHJP
B25J 19/00 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G06F3/04815
G06Q10/00 300
B25J19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035299
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】内藤 佑太
【テーマコード(参考)】
3C100
3C707
5E555
5L049
【Fターム(参考)】
3C100AA38
3C100AA53
3C100AA63
3C100BB12
3C100BB13
3C100BB29
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3C707BS12
3C707MS15
5E555AA54
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5E555BB06
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5E555EA07
5E555EA11
5E555EA14
5E555FA00
5L049AA20
(57)【要約】
【課題】元の状態に戻し忘れる作業ミスの発生を抑制できる産業用ロボット設備の保守システムを提供する
【解決手段】実施形態の産業用ロボット設備の保守システム1は、実空間における位置を取得する位置取得部10aと、作業時に状態が変更される変更箇所を特定可能な識別情報を実空間における変更箇所の位置に対応付けて変更箇所一覧として記録する記録部10bと、変更箇所一覧に記録されている識別情報の実空間における位置を仮想空間における位置に対応付ける仮想化部10cと、識別情報を表示する表示部としての作業側表示部13と、変更箇所一覧に記録されている識別情報のうち仮想空間における作業者の視野内に位置する識別情報を実空間における位置に対応させて表示部に表示することにより、変更箇所を作業者に視認可能に提示する提示部10dとを備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業用ロボット設備を保守するための産業用ロボット設備の保守システムであって、
位置を取得する位置取得部と、
作業時に状態が変更される変更箇所を特定可能な識別情報を位置に対応付けて変更箇所一覧として記録する記録部と、
変更箇所一覧に記録されている識別情報を仮想空間内に配置する仮想化部と、
識別情報を表示する表示部と、
変更箇所一覧に記録されている識別情報のうち仮想空間における作業者の視野内に位置する識別情報を、実空間における位置に対応させて前記表示部に表示することにより、変更箇所を作業者に視認可能に提示する提示部と、
を備える産業用ロボット設備の保守システム。
【請求項2】
前記記録部は、作業が行われる前の状態を変更前状態としてさらに記録し、
前記提示部は、変更前状態をさらに提示する請求項1記載の産業用ロボット設備の保守システム。
【請求項3】
前記記録部は、変更箇所に対して行われる作業内容をさらに記録し、
前記提示部は、作業内容をさらに提示する請求項1記載の産業用ロボット設備の保守システム。
【請求項4】
作業手順を管理する管理部を備え、
前記管理部は、変更箇所を記録する記録作業、および、記録されている変更箇所を変更前の状態に復帰させる復帰作業を作業手順として管理し、
前記記録部は、復帰作業が行われた変更箇所を、変更箇所一覧から削除する、または、復帰作業が行われていない変更箇所と区別可能にする請求項1記載の産業用ロボット設備の保守システム。
【請求項5】
前記管理部は、復帰作業が行われたことを作業者以外が確認する確認作業を作業手順としてさらに管理し、
前記記録部は、復帰作業が行われた変更箇所に対する承認を得られた場合に、当該変更箇所を、変更箇所一覧から削除する、または、復帰作業が行われていない変更箇所と区別可能にする請求項4記載の産業用ロボット設備の保守システム。
【請求項6】
前記位置取得部は、実空間における作業者の位置を取得し、
前記記録部は、取得された作業者の位置を実空間における変更箇所の位置として記録する請求項1記載の産業用ロボット設備の保守システム。
【請求項7】
撮像部を備え、
前記位置取得部は、実空間における前記撮像部の位置を取得し、
前記記録部は、取得された前記撮像部の位置を実空間における変更箇所の位置として記録する請求項1記載の産業用ロボット設備の保守システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の設備で構成されている産業用ロボット設備を保守するための産業用ロボット設備の保守システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、拡張現実技術を利用して異常発生と判定された工場設備の保守を支援する保守支援装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、産業用ロボット設備を保守する実際の現場では、異常が発生した個所以外にも、作業時に状態を変更する設備等が存在することがある。例えば、産業用ロボットの周囲に設置されている安全柵が施錠されている場合には、安全柵の内側で作業するために開錠することがある。あるいは、作業を安全に行うために電源系統や空気供給系統を閉鎖したり、他者が設備を操作することを防止するためのいわゆるロックアウトやタグアウトを行ったりすることもある。
【0005】
このような状態を変更した場合には元の状態に復帰させることが求められている。しかし、実際の現場では、例えば作業者が失念したなどの理由によって元の状態に戻し忘れるといった作業ミスが発生し、産業用ロボットの稼働に支障をきたすおそれがあった。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、元の状態に戻し忘れる作業ミスの発生を抑制できる産業用ロボット設備の保守システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載した発明では、産業用ロボット設備を保守するための産業用ロボット設備の保守システムは、位置を取得する位置取得部と、作業時に状態が変更される変更箇所を特定可能な識別情報を位置に対応付けて変更箇所一覧として記録する記録部と、変更箇所一覧に記録されている識別情報を仮想空間内に配置する位置に対応付ける仮想化部と、を備えている。
【0008】
産業用ロボット設備が設置されている現場では、異常が発生した個所以外にも作業時に状態を変更することがある。その場合、施錠や物品の配置などのように、現場によって事情が異なることからいわゆる作業手順としては明確に示すことができないことが想定される。そして、そのような変更箇所は、何らかの状態を変更した場合には元の状態に復帰させることが求められるも。
【0009】
しかし、例えば作業者が失念したなどの理由によって元の状態に戻し忘れるといった作業ミスが発生すると、産業用ロボットの稼働に支障をきたすことになる。これは、例えばタグアウト時に取り付けた警告タグを外し忘れた場合などのように、設備を実際に動かすだけであれば問題ないようなものも含まれている。
【0010】
そのため、保守システムは、識別情報を表示する表示部と、変更箇所一覧に記録されている識別情報のうち仮想空間における作業者の視野内に位置する識別情報を、実空間における位置に対応させて表示部に表示することにより、変更箇所を作業者に視認可能に提示する提示部とを備えている。
【0011】
これにより、まず、変更箇所を特定可能な識別情報を表示することにより作業者に復帰作業を行うことを促すことができる。そして、識別情報を仮想空間における作業者の視野内に位置する識別情報を実空間における位置に対応させて表示部に表示することにより、実空間においては他の設備などによって隠されていて直接的には見えない位置に存在する識別情報であっても作業者に対して提示することができる。その結果、変更箇所を見落とすおそれを低減でき、元の状態に戻し忘れる作業ミスの発生を抑制することができる。
【0012】
請求項2に記載した発明では、記録部は、作業が行われる前の状態を変更前状態としてさらに記録し、提示部は、変更前状態をさらに提示する。これにより、復帰作業をする際に戻すべき元の状態を把握することができ、また、例えば作業時に位置を移動させた備品等を元の位置に戻すことなども容易に行うことができる。
【0013】
請求項3に記載した発明では、記録部は、変更箇所に対して行われる作業内容をさらに記録し、提示部は、作業内容をさらに提示する。これにより、どのような変更を行ったのかを把握することができるようになり、復帰作業をする際に間違った状態にしてしまうおそれを低減することができる。
【0014】
請求項4に記載した発明では、作業手順を管理する管理部を備え、管理部は、変更箇所を記録する記録作業、および、記録されている変更箇所を変更前の状態に復帰させる復帰作業を作業手順として管理し、記録部は、復帰作業が行われた変更箇所を、変更箇所一覧から削除する、または、復帰作業が行われていない変更箇所と区別可能にする。これにより、復帰作業を行うべき箇所を管理することができるとともに、復帰作業が行われていない変更箇所については識別情報が提示されるため、または、復帰作業が行われていない変更箇所とは区別可能になるため、復帰作業をし忘れるおそれを低減することができる。
【0015】
請求項5に記載した発明では、管理部は、復帰作業が行われたことを作業者以外が確認する確認作業を作業手順としてさらに管理し、記録部は、復帰作業が行われた変更箇所に対する承認を得られた場合に、当該変更箇所を、変更箇所一覧から削除する、または、復帰作業が行われていない変更箇所と区別可能にする。これにより、いわゆるダブルチェックにより復帰作業を行ったことを管理することができ、作業ミスが発生するおそれをさらに低減することができる。
【0016】
請求項6に記載した発明では、位置取得部は、実空間における作業者の位置を取得し、記録部は、取得された作業者の位置を実空間における変更箇所の位置として記録する。これにより、識別情報の取得を容易に行うことができる。
【0017】
請求項7に記載した発明では、撮像部を備え、位置取得部は、実空間における撮像部の位置を取得し、記録部は、取得された撮像部の位置を実空間における変更箇所の位置として記録する。これにより、変更箇所の位置の取得と例えば上記した変更前状態の取得とを同時に行うことができ、作業効率を向上出せることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態による保守システムの構成例を模式的に示す図
【
図5】産業用ロボット設備の配置例を模式的に示す図
【
図7】識別情報および位置の取得態様例を模式的に示す図
【
図9】仮想空間への識別情報の配置態様と実空間への表示例とを模式的に示す図
【
図10】識別情報を取得する際の操作態様例を模式的に示す図
【
図13】作業終了の承認時の操作態様例を模式的に示す図
【
図14】復帰作業が未完の状態における識別情報の表示態様例を模式的に示す図
【
図16】他の識別情報の取得態様例を模式的に示す図
【
図17】変更前画像の他の表示態様例を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態による産業用ロボット設備の保守システム1の構成例を示している。ここで、産業用ロボット設備とは、産業用ロボットそのものに限らず、産業用ロボットを稼働させる際に必要とされる各種の装置や各種の計器類、ワークの搬送機器や供給機器、電力やツールの動力源となる配管類、安全柵や作業机などの備品類を意味しており、産業用ロボットを正確に、また、安全に稼働させるために設けられている物品を総称するものである。
【0020】
産業用ロボットの一例として示しているロボット2は、垂直多関節型のいわゆる6軸ロボットである。ただし、産業用ロボットとしては、垂直多関節型のいわゆる7軸ロボットや水平多関節型のいわゆる4軸ロボットを想定することもできる。つまり、保守システム1は、6軸ロボットや7軸ロボットのようにアームが回転することによって姿勢が変化するもの、また、4軸ロボットのようにアームが回転したり直動シャフトが上下動したりすることにより姿勢が変化するものを、産業用ロボットとして対象にすることができる。
【0021】
ロボット2は、設置面に設置されるベース、ベースに対して相対回転可能に設けられているショルダ、ショルダに対して相対回転可能に設けられている下アーム、下アームに対して相対回転可能に設けられている第1上アーム、第1上アームに対して同軸で相対回転可能に設けられている第2上アーム、第2上アームの先端に設けられている手首を有している。そして、ロボット2は、手首の先端に取り付けられているフランジに図示しないハンドやツールが取り付けられ、教示された動作を繰り返し実行する。
【0022】
このロボット2には、ロボット2の種類や型式などを示す例えば二次元コートのような識別子2aが、作業者(H1)から視認可能な位置に設けられている。また、ロボット2は、ベースの所定の位置に所定の数だけ配置されている例えば3つのアンカー2b1、アンカー2b2およびアンカー2b3によって設置面に固定されている。これらのアンカー2bの位置やアンカー2b同士の間隔は、ロボット2の種類によって定まっている。換言すると、各アンカー2bは、ロボット2の向きや位置あるいは種類に基づく形状を特定可能な識別構造に相当する。
【0023】
制御装置3は、ロボット2と接続されており、ロボット2の動作を制御する。また、制御装置3は、作業者が操作する操作装置4と接続可能になっており、操作装置4に入力された操作を受け付けるとともに、入力された操作に応じてロボット2を制御することにより、例えばロボット2の教示作業などを可能にする。
【0024】
操作装置4は、本実施形態ではロボット2に対して教示作業を行う教示装置を想定している。この操作装置4は、例えば液晶パネルや有機ELパネルなどにより構成され、ロボット2を操作する際のユーザインターフェースや各軸の回転角度といった情報を表示する操作用表示部4aを備えている。また、操作装置4は、イネーブルスイッチやデッドマンスイッチ、ボタンやスイッチあるいは操作用表示部4aに対応して設けられているタッチパネルなどによって構成されている操作用入力部4bを備えている。
【0025】
ただし、
図1に示す操作装置4の構成は一例であり、制御装置3と通信可能に接続されてロボット2を操作できるものであれば、例えばノート型パソコンやスマートホンあるいはタブレットパソコンなどで操作用のソフトウェアを実行する構成のものを採用することができる。
【0026】
この操作装置4は、有線通信方式あるいは無線通信方式の通信経路によって、保守作業を行う作業者(A1)が所持する作業者端末5と通信可能に接続されている。この作業者端末5は、ネットワーク6を介して、管理者(H2)が所持している管理者端末7や管理装置8と通信可能に接続されている。なお、本実施形態では、作業者端末5としていわゆるスマートホンを想定しているが、例えばタブレットパソコンなどのように作業者が携帯可能なものであればよい。
【0027】
作業者端末5は、
図2に示すように、作業側制御部10、作業側記憶部11、作業側撮像部12、作業側表示部13、スピーカ14、マイク15、作業側操作部16、作業側通信部17、位置センサ18、および加速度センサ19などを備えている。作業側制御部10は、図示しないCPU、ROMおよびRAMなどを備えており、作業側記憶部11に記憶されているプログラムを実行することにより作業者端末5全体を制御する。
【0028】
作業側記憶部11は、例えば半導体メモリなどによって構成されており、作業側制御部10で実行されるプログラムや各種のデータを記憶している。また、作業側記憶部11には、ロボット2の種類、種類に応じたロボット2の形状データ、保守作業に必要となる各種のアプリケーションプログラムなども記憶されている。また、作業側記憶部11には、後述する識別情報や変更箇所一覧なども記憶される。なお、ロボット2の形状データは操作装置4や管理装置8からその都度ダウンロードする構成とすることもできるし、記憶されていない種類のロボット2の形状データを新たにダウンロードする構成とすることもできる。
【0029】
作業側撮像部12は、例えばCMOSカメラやCCDカメラなどで構成されており、後述するように作業時に変更する箇所や作業現場を撮像する。このとき、撮像された画像や映像は作業側表示部13に表示される。作業側表示部13は、例えば液晶パネルや有機ELパネルなどにより構成されており、作業側制御部10から出力される映像信号に基づいて、後述する識別情報の表示など、保守作業に必要となる各種の情報を表示する。作業側操作部16は、例えば作業側表示部13に対応して設けられているタッチパネルなどによって構成されており、作業者の操作が入力される。
【0030】
スピーカ14は、作業側制御部10から出力される音声信号に応じた音声を出力する。マイク15は、作業者の音声を入力して作業側制御部10に対して音声信号として出力する。作業側通信部17は、操作装置4およびネットワーク6との間で通信を行う。なお、
図2には1つの作業側通信部17が設けられている構成を例示しているが、操作装置4とネットワーク6とで通信方式が異なる場合には、複数の通信方式に対応した作業側通信部17を設けたり、通信方式ごとに異なる作業側通信部17を複数設けたりすることができる。
【0031】
位置センサ18は、例えばGPS装置などで構成されており、実空間における作業者端末5の位置を3次元座標系で検出する。加速度センサ19は、例えば3軸方向への加速度を検出するセンサで構成されており、作業者端末5に加わる3軸方向への加速度に基づいて作業者端末5の向きや傾きを検出する。なお、
図2に示す作業者端末5の構成は一例であり、他の機能を備えていてもよい。
【0032】
この作業者端末5には、位置取得部10a、記録部10b、仮想化部10c、提示部10d、および管理部10eなどの機能部が設けられている。本実施形態では、これらの機能部は、作業側制御部10でプログラムを実行することによってソフトウェアで実現されている。
【0033】
位置取得部10aは、位置センサ18の検知結果に基づいて、実空間における作業者端末5の位置、および、作業者端末5の向きや傾き取得する処理を実行する機能部である。詳細は後述するが、位置取得部10aは、作業者端末5の位置、向きおよび傾きに基づいて、作業側撮像部12によって撮像されて作業側表示部13に表示されている範囲、つまりは、作業者端末5を介した場合の作業者の視野を特定する。
【0034】
記録部10bは、詳細は後述するが、作業時に状態が変更される変更箇所を特定可能な識別情報を、実空間における変更箇所の位置に対応付けて変更箇所一覧として記録する処理を実行する機能部である。また、記録部10bは、作業が行われる前の状態を変更前状態として記録するとともに、変更箇所に対して行われる作業内容を記録する。なお、変更箇所一覧や作業前状態および作業内容は、データとして作業側記憶部11に記憶される。
【0035】
仮想化部10cは、詳細は後述するが、記録部10bが記録した識別情報を仮想空間内に配置する処理を実行する機能部である。本実施形態の場合、仮想化部10cは、記録した識別情報の実空間における位置を仮想空間における位置に対応付けることにより、識別情報を仮想空間内に配置する。提示部10dは、詳細は後述するが、変更箇所一覧に記録されている識別情報のうち仮想空間における作業者の視野内に位置する識別情報を、実空間における位置に対応させて作業側表示部13に表示することにより、記録した変更箇所すなわち変更前の状態に復帰させる必要がある箇所を作業者に視認可能に提示する。
【0036】
管理部10eは、詳細は後述するが、保守作業時の作業手順を管理するものであり、変更箇所を記録する記録作業、および、記録されている変更箇所を変更前の状態に復帰させる復帰作業を作業手順として管理する。また、管理部10eは、復帰作業が行われたことを作業者以外が確認する確認作業を作業手順として管理する。なお、後述するように、復帰作業が行われた変更箇所に対する承認を植えられた場合には、記録部10bによって当該変更箇所は変更箇所一覧から削除される。
【0037】
管理者端末7は、本実施形態では作業者端末5と同じスマートホンを想定しており、
図3に示すように、管理側制御部20、管理側記憶部21、管理側撮像部22、管理側表示部23、スピーカ24、マイク25、管理側操作部26、管理側通信部27、位置センサ28、および加速度センサ29などを備えている。ただし、管理者端末7は、例えばノート型パソコンやタブレットパソコンあるいはデスクトップパソコンなどを利用することもできる。この管理者端末7は、作業者端末5からの通知を受けて対応する処理を実行するいわゆるイベントドリブン型の処理を行う。
【0038】
また、管理者端末7には、承認部20aが設けられている。この承認部20aは、詳細は後述するが、作業者端末5からの通知に応じて、作業履歴の記録と、変更箇所を復帰させる作業を行ったことの承認とを行う処理を実行する機能部である。この承認部20aは、管理側制御部20でプログラムを実行することによってソフトウェアで実現されている。
【0039】
管理装置8は、本実施形態ではいわゆるサーバ装置などを想定しており、ネットワーク6を介して作業者端末5との間で通信可能であるとともに、後述する承認タスクを実行可能に構成されている。管理装置8は、
図4に要部のみを示しているが、制御部30、制御部30で実行するプログラムや各種のデータを記憶する記憶部31、およびネットワーク6を介した通信を行うための通信部32などを備えている。
【0040】
また、管理装置8は、制御部30でプログラムを実行することによってソフトウェアで実現されている承認部30aを備えている。この承認部30aは、管理者端末7の承認部20aと同様に、作業者端末5からの通知に応じて作業履歴の記録と、変更箇所を復帰させる作業を行ったことの承認とを行う処理を実行する。なお、本実施形態の場合、保守システム1としては管理者端末7または管理装置8のどちらか一方が少なくとも設けられていればよい。
【0041】
次に、上記した保守システム1の作用について説明する。
例えば、
図5に実際の現場の配置態様の一例を示すように、ロボット2の周囲に安全柵としてのパーティション40が設置されており、パーティション40の内側に入るための扉41にはカギ42が設けられているとする。この場合、パーティション40の内側で作業するためにはカギ42を開錠する必要がある。つまり、作業時には、産業用ロボットを安全に稼働させるために設けられている扉41のカギ42を、施錠状態から開錠状態に変更することがある。なお、
図5では、本実施形態で想定している変更箇所を分かり易くする示すために、例えばカギ42などの変更箇所にハッチングを付している。
【0042】
また、作業を安全に行うために、例えばツールに空気を供給する空気供給設備のバルブ43を閉鎖したり、電源供給設備のブレーカ44をオフしたりすることがある。このとき、バルブ43やブレーカ44を他者が誤って設備を稼働させたりしないようにするためにロックアウトやタグアウトを行うことがある。また、例えばロボット2の近傍に作業台45が設けられている場合には、作業中の始業にならないように作業台45を移動させることがある。また、コンベア46の点検等の作業をする際には、パーティション40を固定するカギ47aやカギ47bを外して一部のパーティション40を取り外すことがある。
【0043】
このように、実際に保守作業を行う場合には、異常が発生した個所以外にも、作業時に何かしらの状態を変更する変更箇所が存在する。そして、状態を変更した変更箇所につい、作業の終了時に、作業前の状態に戻すことが求められる。例えば、カギ42を施錠したり、バルブ43やブレーカ44を元の状態に戻したり、ロックアウトを解除したり、タグアウト時に張り付けた警告タグを取り外したりする必要がある。以下、変更箇所を元の状態に戻す作業を復帰作業と称する。
【0044】
しかし、現実的には、例えば作業者が復帰作業を失念していたり、メモを見落としたりするなどの理由により、復帰作業が行われないという作業ミスが発生していた。そして、そのような作業ミスは、産業用ロボットの稼働に支障を生じさせることになる。そこで、保守システム1は、以下のようにして、作業ミスの発生を抑制している。
【0045】
まず、
図6は、保守作業をする際の作業者端末5における処理の流れと、管理者端末7での処理の流れとを示している。これらの処理は上記した機能部によって処理が行われるものの、以下では説明の簡略化のために作業者端末5と管理者端末7を主体にして説明する。ただし、
図6に示す管理者端末7での処理は管理装置8で行うこともできる。
【0046】
この
図6に示すように、作業者端末5は、作業者によって変更箇所を取得する処理が開始されると、作業側撮像部12により対象となる箇所を撮像する(S1)。このとき、作業者端末5は、
図7に変更箇所の特定手法の一例を示すように、作業側撮像部12で撮像した画像と、その画像内で対象を指定するためのマーカー(M1)とを作業側表示部13に表示する。このマーカー(M1)で指定された箇所が、状態を変更する変更箇所になる。なお、
図7では、複数並んで配設されているバルブ43のうち、バルブ43bが対象となっている例を模式的に示している。
【0047】
また、作業者端末5は、画像の撮像を指示するための撮像アイコン(P1)と、その変更箇所に対応付けて記憶する付帯情報を設定するための複数のタッチアイコン(P2)とを表示する。例えば、タッチアイコン(P2a)は、付帯情報として通し番号を設定するものである。また、タッチアイコン(P2b)は、付帯情報として作業内容ここではロックアウトを設定するものである。また、タッチアイコン(P2c)は、付帯情報として作業内容ここではバルブの開放を設定するものである。また、タッチアイコン(P2d)は、付帯情報として作業内容ここではバルブの閉鎖を設定するものである。また、タッチアイコン(P2e)は、付帯情報として任意の内容を設定するものである。
【0048】
なお、
図7ではタッチアイコン(P2a)にハッチングを付すことにより、タッチアイコン(P2a)が選択された状態であることを模式的に示している。なお、
図7に示すタッチアイコンの数や種類および付帯情報は一例であり、よく使われるものを優先的に表示したりデフォルトとして選択したりするなど、適宜変更することができる。
【0049】
作業者端末5は、作業者によって設定する情報が選択されて撮像アイコンがタッチ操作されると、作業側撮像部12により画像を撮像する。これにより、変更箇所の作業前の状態、つまりは、変更前状態が画像として取得される。続いて、作業者端末5は、
図6に示すように、撮像時の作業者端末5の位置を取得する(S2)。この処理は、主として位置取得部10aによって行われる。
【0050】
変更箇所を撮像する場合、
図7に位置の算出手法として一例を示すように、作業者は、作業者端末5を対象箇所となるバルブ43bの近傍に近づけて撮像すると考えられる。換言すると、変更箇所が撮像された場合には、変更箇所と作業者端末5とはある程度近くに位置していると考えられる。また、保守システム1の目的は復帰作業を忘れないようにすることであることから、変更箇所の位置を厳密に特定する必要性は低く、復帰作業を行うべき箇所が把握できる程度の大まかな位置であってもよいと考えられる。
【0051】
そのため、本実施形態では、実空間における作業者端末5つまりは作業側撮像部12の位置を、実空間における変更箇所の位置として取得している。位置を取得すると、作業者端末5は、
図6に示すように、取得した情報をまとめて識別情報を作成して記録する(S3)。
【0052】
この識別情報は、
図8に識別情報例として示すように、変更箇所として取得した際の通し番号(No.2)、実空間における位置(rX2,rY2,rZ2)、位置を取得した日時(yyyy/mm/dd/HH/mm/ss)、および、後述する仮想空間にける位置(vX2,vY2,vZ2)などのデータ構造(D1)を含んでいる。つまり、作業時に状態が変更される変更箇所を特定可能な識別情報は、実空間における位置に対応付けて記録されている。なお、本実施形態ではカギ42を開錠したことが1番目の変更箇所であり、その後にバルブ43の操作が行われた状況を想定しているため、
図8では通し番号が「2」となっている。
【0053】
また、識別情報には、変更箇所の位置を示すための位置提示画像(M2)、付帯情報を示す情報提示画像(M3)、および変更前情報として取得された変更前画像(M4)などのデータの集合体である。なお、変更前画像には、マーカー(M1)に対応する位置にマーカー画像(M4a)が付されており、画像中に例えば複数のバルブ43a、バルブ43bおよびバルブ43cがある場合にどのバルブ43が変更箇所であるのかを把握可能となっている。
【0054】
このように作成された識別情報は、
図8に変更箇所一覧例として示すように、例えば識別情報(J1)、識別情報(J2)、識別情報(J3)といった個別の識別情報をまとめて管理するための変更箇所一覧(R1)として記録される。この処理は、主として記録部10bによって行われる。そして、作業者端末5は、
図6に示すように、変更箇所一覧に記録された識別情報の実空間における位置を、仮想空間における位置に対応付ける(S4)。
【0055】
具体的には、作業者端末5は、まず、例えば
図5に示すようにロボット2の実空間における(rX,rY、rZ)を、
図9に仮想空間内の配置態様例として示すように、仮想空間における座標系(vX,vY、vZ)に対応付ける。本実施形態では、作業者端末5は、ロボット2の実空間における位置を仮想空間における座標系(vX,vY、vZ)の原点に対応付けている。
【0056】
そして、作業者端末5は、変更箇所一覧に記録されている識別情報のそれぞれの位置を仮想空間における座標系に対応付け、
図8に示したように識別情報として記録され、変更箇所が更新される。これにより、各識別情報は、仮想空間内の対応する位置に模式的に配置された状態となる。なお、ロボット2の実空間における位置は、簡易的には例えばロボット2の近傍で作業者端末5の位置を取得することにより取得でき、その場合、ロボット2の設置面を実空間におけるZ軸の原点とすればよい。
【0057】
このとき、例えば
図5に示す作業位置(K1)に作業者が位置しており、その作業位置からロボット2の方向を作業者が見ているとする。その場合、
図9に仮想空間内の配置態様として示すように、仮想空間内の作業位置(vK1)から矢印F1にて示す向きにおける所定の角度範囲(α)内には、カギ42、バルブ43、およびブレーカ44が位置している一方、カギ47aおよびカギ47bは外れている。この角度範囲は、作業者に見ている範囲に相当するものであり、本実施形態の場合には作業側撮像部12の画角に対応している。
【0058】
そのため、
図9に実空間での表示態様例として示すように、作業側撮像部12で撮像されて作業側表示部13に表示される現場の風景には、カギ42、バルブ43、およびブレーカ44に対応する識別情報が重畳表示されて作業者に提示されることになる。このとき、カギ42は扉41の反対側に位置しており、ブレーカ44はロボット2の背後に隠れて位置していることから、実空間においては作業者から直接的に見ることができないものの、識別情報については仮想空間の座標に基づいて表示されることから視認可能となっている。
【0059】
つまり、保守システム1では、いわゆる拡張現実技術のように実空間で見えている物体に対して情報を付加する手法とは異なり、実空間では見えていない物体に対する識別情報についても作業者に対して提示することができる構成となっている。
【0060】
識別情報を記録すると、作業者端末5は、
図6に示すように識別情報を記録したことを管理者端末7に通知する(S5)。このとき、作業者端末5は、仮想空間の位置に対応付けた識別情報を変更箇所一覧に記録するとともに、例えば通し番号のように各識別情報を区別可能な情報を付加して通知する。そして、作業者端末5は、作業者によって変更箇所を記録する作業を終了する旨の操作が入力されると(S6:YES)、処理を終了する。
【0061】
一方、管理者端末7は、作業者端末5から通知を受けると、作業記録を更新する(T1)。この作業記録は、受信した通知の履歴であり、後述するように全ての変更箇所を元の状態にもとしたか否かを判定するために管理者端末7で管理されるデータである。
【0062】
このように、保守システム1は、変更箇所つまりは状態を元に戻すべき箇所の識別情報をそれぞれ取得および記録する。この場合、一例ではあるが、
図10に示すように作業者端末5に変更箇所を取得する作業手順を表示することにより、位置の取得や識別情報の記録を容易に行うことができる。例えば、作業者端末5は、作業者端末5にタッチ操作に対応した撮像アイコン(P10)、管理者端末7に通知するための通知アイコン(P11)、変更箇所を記録する作業を終了する旨を入力するための終了アイコン(P12)などを表示する。
【0063】
そして、作業者端末5は、撮像アイコン(P10)がタッチ操作されると、
図7に示したように作業側撮像部12を起動して変更箇所の特定、位置の取得および付帯情報の付与を行う画面表示をすることにより、上記したステップS1~S4の処理を自動的に実行する構成とすることができる。
【0064】
また、作業者端末5は、管理者端末7や管理装置8と協働する構成の場合には、通知アイコン(P11)がタッチ操作されると、通知を行う構成とすることができる。また、管理者端末7では、作業者端末5から通知を受けた場合に、元の状態に戻すことが必要となる要復帰作業として作業履歴(R2)を更新および記録することになる。なお、管理者端末7や管理装置8との連携を前提としている場合には、撮像が完了した時点で管理者端末7や管理装置8に通知する構成とすることができる。
【0065】
さて、作業者は、識別情報を記録した後、保守作業を実施する。そして、作業者は、保守の終了時に、変更箇所を元の状態に戻す復帰作業を実施する。このとき、変更箇所は、作業者から見えない場所に位置していたり、例えばブレーカ44などが配電盤に収容されていて直接的には見えない状態になっていたりする可能性がある。そして、作業者から見えない位置にある場合、変更箇所を見落として復帰作業をし忘れる可能性が高くなる。
そこで、作業者端末5は、作業者による復帰作業を支援する。
【0066】
作業者端末5は、作業者によって復帰作業を開始する旨の操作が入力されると、
図11に示すように、操作画面を表示する(S10)。この操作画面には、
図12に操作画面例として一例を示すように、タッチ操作に対応した変更箇所を提示するための提示アイコン(P20)、作業終了を通知するための作業終了アイコン(P21)、変更箇所一覧に記録されている変更箇所の数(M19)が表示される。
【0067】
そして、作業者によって提示アイコンがタッチ操作されると、作業者端末5は、
図11に示すように視野を特定し(S11)、特定した視野内に位置する識別情報を提示する(S12)。このとき、
図12に変更箇所表示例として一例を示すように、作業側表示部13には、変更箇所一覧に記録されている識別情報のうち、作業側撮像部12の画角の範囲内に位置する1番、2番、3番の変更箇所に対応する識別情報が、例えば上記した位置提示画像や情報提示画像とともに表示される。なお、識別情報は、位置を把握可能な状態で提示されていればよく、位置提示画像あるいは情報提示画像の一方を表示する構成とすることができる。
【0068】
いずれかの識別情報がタッチ操作されて選択されると、作業者端末5は、
図11に示すように、選択された識別情報に対応付けられている変更前画像を表示して(S13)、復帰作業が行われたか否かを判定し(S14)、復帰作業が行われていない場合には(S14:NO)待機する。このとき、
図12に復帰作業画面例として一例を示すように、作業側表示部13には、作業者がバルブ43の状態を復帰させるためにその近傍に近づいたとすると、作業側撮像部12で撮像している画像(P22)、位置提示画像(M2)、情報提示画像(M3)、変更前画像(M4)、および復帰作業の完了を入力するための復帰完了アイコン(P23)が表示される。
【0069】
作業者端末5は、作業者がバルブ43bを変更前画像(M4)に示されている元の状態に戻して復帰完了アイコン(P22)をタッチ操作すると、
図11に示すように復帰作業が行われたと判定して(S14:YES)、選択されている識別情報を削除することにより変更箇所一覧を更新し、その変更箇所に対する復帰作業が行われたことを、変更箇所を特定可能な情報とともに管理者端末7に通知して(S15)、
図12に示すように復帰作業画面から最初の操作画面に遷移する。また、通知を受けた管理者端末7は、復帰作業が行われたことから、対応する変更箇所を作業履歴から削除することにより、作業履歴を更新する(T10)。
【0070】
続いて、作業者端末5は、次の変更箇所の提示を求める提示操作があったか否か(S16)、および、終了操作があったか否かを判定し(S17)、いずれの操作も無いと判定した場合には(S16:NO、S17:NO)待機する。そして、作業者が操作画面で提示アイコン(P20)をタッチ操作すると、作業者端末5は、提示操作があったと判定して(S16:YES)、ステップS11に移行する。
【0071】
これに対して、作業者が全ての変更箇所についての復帰作業を実施したと判断して作業終了アイコン(P21)をタッチ操作すると、作業者端末5は、終了操作があったと判定して(S17:YES)、保守作業の終了を管理者端末7に通知する(S18)。そして、管理者端末7は、保守作業の終了を受信すると、作業履歴を参照して、全ての復帰作業が実施済みであるか否かを判定し(T11)、全ての復帰作業が実施されていると判定した場合には(T11:YES)、作業の終了を承認する承認通知を作業者端末5に送信する(T12)。
【0072】
例えば、管理者端末7は、
図13に未完作業なしの承認態様例として示すように、作業終了の通知を受信したことを表示し、作業履歴を参照して復帰作業が実施されていない未完作業がないと判定した場合には、承認アイコン(P30)を表示して管理者の操作を待機し、管理者が承認アイコン(P30)をタッチ操作すると承認通知を作業者端末5に送信する。
【0073】
このとき、作業者端末5は、
図11に示すように、再確認通知を受信したか否か(S19)、および、承認通知を受信したか否か(S20)を判定しており、いずれも受信していない場合には(S19:NO、S20:NO)待機する。一方、作業者端末5は、承認通知を受信した場合には(S19:NO、S20:YES)、作業を終了する。このとき、作業者端末5は、
図13に示すように、承認通知を受信したことを示すメッセージアイコン(P31)を表示することにより、管理者によって作業終了が承認されたことを作業者に提示する。
【0074】
これに対して、例えば、カギ47bを元の状態に戻していないにもかかわらず、作業者が全ての変更箇所に対して復帰作業を実施したと勘違いして、カギ42を施錠して
図5に示す作業位置(K2)で作業終了を通知したとする。この場合、管理者端末7は、
図13に未完作業ありの承認態様例として示すように、作業終了の通知を受信したものの、作業履歴には復帰作業が実施されていない未完作業があることから、再確認アイコン(P32)を表示して管理者の操作を待機する。そして、管理者が再確認アイコン(P32)をタッチ操作すると、管理者端末7は再確認通知を作業者端末5に送信する。
【0075】
一方、再確認通知を受信した作業者端末5は、再確認通知を受信したことを示すメッセージアイコン(P33)を表示することで作業者に報知する。そして、作業者がメッセージアイコン(P33)をタッチ操作すると、作業者端末5は、例えば
図11に示すステップS11に移行して識別情報を提示する。
【0076】
この場合、上記したように、識別情報は仮想空間における位置に基づいて表示されることから、
図14に示すように、作業位置(K2)からはカギ47bを直接的には見ることができない場合であっても、識別情報は、実空間において視野を遮る例えばパーティション40のような物体をあたかも透過した態様で表示されるため、作業者が変更箇所を把握することができる。この場合、作業者は、簡易的には、ある位置において周囲を360度見渡すことにより、復帰作業を実施していない変更箇所を見つけることができる。
【0077】
そして、変更箇所を把握した作業者は、識別情報が示されている方向に移動したり、表示されている識別情報をタッチ操作して変更前画像を表示したりすることにより、復帰作業が行われていない変更箇所を特定する。なお、本実施形態では、作業側撮像部12で周囲を撮像することにより、変更箇所を把握することができる。また、特定した変更箇所に対する復帰作業は当然実施される。
【0078】
以上説明した保守システム1によれば、次のような効果を得ることができる。
実施形態の保守システム1は、産業用ロボット設備を保守するためのものであって、位置を取得する位置取得部10aと、作業時に状態が変更される変更箇所を特定可能な識別情報を位置に対応付けて変更箇所一覧に記録する記録部10bとを備えている。
【0079】
産業用ロボット設備が設置されている現場では、異常が発生した個所以外にも作業時に状態を変更することがある。その場合、施錠や物品の配置などのように、現場によって事情が異なることからいわゆる作業手順としては明確に示すことができないことが想定される。そして、そのような変更箇所は、何らかの状態を変更した場合には元の状態に復帰させることが求められるも。
【0080】
しかし、例えば作業者が失念したなどの理由によって元の状態に戻し忘れるといった作業ミスが発生すると、産業用ロボットの稼働に支障をきたすことになる。これは、例えばタグアウト時に取り付けた警告タグを外し忘れた場合などのように、設備を実際に動かすだけであれば問題ないようなものも含まれている。
【0081】
そのため、保守システム1は、変更箇所一覧に記録されている識別情報を仮想空間内に配置する仮想化部10cと、識別情報を表示する作業側表示部13と、変更箇所一覧に記録されている識別情報のうち仮想空間における作業者の視野内に位置する識別情報を、実空間における位置に対応させて作業側表示部13に表示することにより、変更箇所を作業者に視認可能に提示する提示部10dとを備えている。
【0082】
これにより、まず、変更箇所を特定可能な識別情報を表示することにより作業者に復帰作業を行うことを促すことができる。そして、識別情報を仮想空間における作業者の視野内に位置する識別情報を実空間における位置に対応させて作業側表示部13に表示することにより、実空間においては他の設備などによって隠されていて直接的には見えない位置に存在する識別情報であっても作業者に対して提示することができる。その結果、変更箇所を見落とすおそれを低減でき、元の状態に戻し忘れる作業ミスの発生を抑制することができる。
【0083】
また、保守システム1の記録部10bは、作業が行われる前の状態を変更前状態としてさらに記録し、提示部10dは、変更前状態をさらに提示する。これにより、復帰作業をする際に戻すべき元の状態を把握することができ、また、例えば作業時に位置を移動させた備品等を元の位置に戻すことなども容易に行うことができる。
【0084】
また、保守システム1の記録部10bは、変更箇所に対して行われる作業内容をさらに記録し、提示部10dは、作業内容をさらに提示する。これにより、どのような変更を行ったのかを把握することができるようになり、復帰作業をする際に間違った状態にしてしまうおそれを低減することができる。
【0085】
また、保守システム1は、作業手順を管理する管理部10eを備え、管理部10eは、変更箇所を記録する記録作業、および、記録されている変更箇所を変更前の状態に復帰させる復帰作業を作業手順として管理し、記録部10bは、復帰作業が行われた変更箇所を変更箇所一覧から削除する。これにより、復帰作業を行うべき箇所を管理することができるとともに、復帰作業が行われていない変更箇所については識別情報が提示されるため、復帰作業をし忘れるおそれを低減することができる。
【0086】
また、保守システム1の管理部10eは、復帰作業が行われたことを作業者以外が確認する確認作業を作業手順としてさらに管理し、記録部10bは、復帰作業が行われた変更箇所に対する承認を得られた場合に、当該変更箇所を変更箇所一覧から削除する。これにより、いわゆるダブルチェックにより復帰作業を行ったことを管理することができ、作業ミスが発生するおそれをさらに低減することができる。
【0087】
また、保守システム1の位置取得部10aは、実空間における作業者の位置を取得し、記録部10bは、取得された作業者の位置を実空間における変更箇所の位置として記録する。これにより、識別情報の取得を容易に行うことができる。
【0088】
また、保守システム1は、撮像部としての作業側撮像部12を備え、位置取得部10aは、実空間における撮像部の位置を取得し、記録部10bは、取得された撮像部の位置を実空間における変更箇所の位置として記録する。これにより、変更箇所の位置の取得と例えば上記した変更前状態の取得とを同時に行うことができ、作業効率を向上出せることができる。
【0089】
実施形態の保守システム1は、変更箇所を特定する際、タッチアイコンを表示することにより、作業の手順を視認可能且つ実施すべき順番を把握可能に提示している。これにより、作業自体を忘れたり端折ってしまったりすることを防止できる。また、作業名をタッチ操作することにより対応する処理を実行できることから、作業手順を間違うことなく、且つ、容易に対応する作業を実施することが可能になる。
【0090】
本発明は、上記した、あるいは、図面に記載した実施形態のみに限定されるものではなく、以下に説明するように、その要旨を逸脱しない範囲での種々の変形、拡張あるいは他の構成との組み合わせが均等の範囲に含まれる。
【0091】
図16に示すように、識別情報の提示は、作業者端末5への表示に限らず、例えば他の提示手法その1として示すように作業者が装着する眼鏡型表示器50や、他の提示手法その2として示すように作業者の視野を覆うように装着するゴーグル型表示器60などに表示することができる。なお、ゴーグル型表示器60は、実空間が見える構造のものである。この場合、眼鏡型表示器50やゴーグル型表示器60に対して、作業側表示部13に相当する投影装置51、作業側撮像部12に相当するカメラ52、位置センサ18あるいは加速度センサ19に相当するセンサ類53などを設ける構成とすることができる。
【0092】
このような構成によっても、実空間においては他の設備などによって隠されていて直接的には見えない位置に存在する識別情報であっても作業者に対して提示することができる。その結果、変更箇所を見落とすおそれを低減でき、元の状態に戻し忘れる作業ミスの発生を抑制することができるなど、実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0093】
また、
図16に他の識別情報の取得例その1として示すように、現場を撮像するのではなく、作業者端末5において識別情報を取得するための専用プログラムを実行する構成とすることができる。その場合、例えば識別情報を取得するための取得アイコン(P40)を作業者がタッチ操作すると、取得した現在位置を位置情報(P41)として表示し、付帯情報を選択する選択アイコン(P42)を表示して作業者の操作を促すことにより、識別情報を取得することができる。このような構成により、例えば現場の撮像が禁止されている場合であっても、識別情報を取得すること、また、上記した実施形態のように変更箇所一覧を管理することができる。なお、ここに示した各選択アイコン(P42a~P42e)は一例である。
【0094】
また、他の識別情報の取得例その2として示すように、作業者が例えば指で変更箇所を示した場合に、画像処理によって指を識別して画像中における変更箇所を特定したり、作業者端末5への操作や音声入力によって変更箇所を特定する指示を入力したりする構成とすることができる。また、他の識別情報の取得例その3として示すように、取得した変更前画像を表示し、画像中の位置を作業者が指で示すことにより、変更箇所を特定する指示を入力したりする構成とすることもできる。
【0095】
また、
図17に変更前画像の表示例その1、および、変更前画像の表示例その2として示すように、変更前画像(M2)を例えば作業側撮像部12で撮像した画像と異なる表示色、異なる線種、異なる透過率、輪郭を抽出したいわゆるワイヤーフレーム画像などで表示することができる。また、変更前画像(M2)を、作業側撮像部12で撮像した画像に重畳表示することもできる。これにより、変更箇所を元の状態にどのように戻せばよいのか、また、戻し終わった後に正しく元の状態に戻せているかを容易に確認することができる。
【0096】
また、実施形態ではロボット2の近傍で位置を取得することで仮想空間における座標系の原点を取得する構成を例示したが、ロボット2を撮像することにより原点を取得する構成とすることができる。具体的には、ロボット2は、設置面に設置するためのアンカー2bが、種類ごとに、所定の位置に、所定の数だけ設けられている。そのため、ロボット2の側方から撮像した各アンカー2bの位置関係を大きさとから、ロボット2が設置されている実空間に置ける位置を取得することができる。
【0097】
実施形態では作業者端末5の位置を変更箇所の位置として取得する例を示したが、作業者端末5の傾きから作業者端末5と変更箇所と位置関係を求め、作業者端末5の傾きに沿って例えば30cm離れた位置を、変更箇所の位置として取得する構成とすることができる。また、作業者の位置を取得する場合には、作業者の身長や手の長さを一般成人の代表値などで代用し、作業者の位置から手の長さだけ離れた位置を、変更箇所の位置として取得する構成とすることができる。
【0098】
実施形態では全ての復帰作業を実施したか否かを作業者が判断して次の変更箇所を提示するか否かを入力する構成を例示したが、変更箇所一覧を参照して、変更箇所が変更箇所一覧に記録されている場合には、自動的に識別情報を提示する構成とすることができる。これにより、復帰作業をし忘れるおそれをさらに低減することができる。
【0099】
また、保守システム1は、識別情報の表示を作業者の操作によって表示または非表示に切り替える構成とすることができる。また、保守システム1は、識別情報を、作業者からの距離に応じて相対的に拡大または縮小して表示することができる。
【0100】
実施形態ではネットワーク6を介して通信する構成の保守システム1を例示したが、ネットワーク6を介して通信する構成は必須ではなく、作業者端末5で完結した保守システム1を構築することができる。すなわち、ネットワーク6や管理者端末7あるいは管理装置8を備えていない保守システム1を構築することもできる。この場合、作業者端末5において作業前姿勢を取得したこと、および、作業前姿勢に復帰させたことを確認可能にする構成とすることができる。
【0101】
このような構成によっても、作業前姿勢を取得し忘れたり、作業前姿勢への復帰を忘れたりすることを防止でき、産業用ロボットを作業前姿勢に復帰させることができる。その場合、作業者端末5の作業履歴を管理者に見せて確認あるいは承認を受ける構成とすることもできる。
【0102】
実施形態では作業前姿勢の取得と作業前姿勢への復帰とを管理者または管理装置8により確認あるいは承認する構成を例示したが、作業前姿勢の取得または業前姿勢への復帰の一方について確認あるいは承認する構成とすることができる。また、管理者端末7や管理装置8による確認あるいは承認を行わず、作業前姿勢を取得したことや作業前姿勢へ復帰させたことを作業履歴として作業者端末5や管理装置8に記録する構成とすることができる。また、例えば作業前姿勢を取得したことの確認は管理装置8で行い、作業前姿勢へ復帰させたことの承認は管理者端末7で行う構成とすることもできる。
【0103】
実施形態では電子媒体の手順書で作業手順も連携して管理する構成例を示したが、作業手順を管理するためのアプリケーションプログラムを個別に実行し、手順書と作業の管理とを分離する構成とすることもできる。これにより、定期メンテナンスのように決まった作業が行われるのではなく、故障の修理のように作業手順が必ずしも決まっていない場合にも対応することができる。この場合、実施形態では作業を行うためのアプリケーションプログラムを手順書から呼び出し可能に連携させる例を示したが、手順書とは個別に実行する構成とすることもできる。勿論、各プログラムの一部を連携させる構成とすることもできる。
【0104】
実施形態では作業開始と作業前姿勢の取得をそれぞれ通知することで、作業前姿勢を取得したか否かを管理者あるいは管理装置8側で確認可能な構成を例示したが、簡略化することができる。例えば、作業開始は通知せず、作業前姿勢の取得を通知する構成とすることができる。また、さらに簡略化して、作業開始と作業前姿勢の取得を通知せず、作業前姿勢に復帰させた作業の承認を依頼する構成とすることもできる。
【0105】
また、管理者端末7や管理装置8との通信そのものを行わず、作業者端末5において作業前姿勢に復帰させたか否かを確認する構成とする構成、つまりは、作業者端末5で作業前姿勢の復帰確認を行う態様の保守システム1を構築することもできる。
【0106】
実施形態では携帯端末に各機能部を設ける構成例を示したが、携帯端末に設けられている各機能部の一部を制御装置3や操作装置4、あるいは、ネットワーク6に接続されている管理装置8などに設け、複数の装置にて保守システム1としての機能を分担する構成とすることができる。
【0107】
例えば負荷の高い処理をサーバ装置に実行させたり、管理部10eをサーバ装置に設けて作業手順を一括管理したりする構成とすることができる。また、実施形態で例示した作業者端末5の各機能部を操作装置4に実装し、操作装置4で完結する保守システム1や、操作装置4と管理者端末7あるいは管理装置8とを通信可能に接続した保守システム1を構築することもできる。また、設備の設置場所などのデータを電子的に記録している例えば設備管理システムなどの他のシステムとの間で通信可能に接続し、作業履歴や作業内容を設備管理システムなどと共有する構成とすることもできる。
【0108】
実施形態では復帰作業が行われた変更箇所を変更箇所一覧から削除する構成を例示したが、復帰作業が行われた変更箇所を、復帰作業が行われていない変更箇所とは区別可能にする構成とすることができる。この場合、提示部は、例えば復帰作業が行われた変更箇所と復帰作業が行われていない変更箇所とで表示色や表示する文字等の表示態様を変更することにより、両者を区別可能に提示することが可能となり。これにより、復帰作業が行われていない変更箇所を作業者が容易に特定することが可能となり、復帰作業をし忘れてしまうおそれを低減することができる。
【0109】
実施形態では実空間にける位置を個別に取得して仮想空間内に位置に対応付ける構成例を示したが、実空間との対応付けを行うことなく、仮想空間内だけで識別情報の位置を取得および表示する構成とすることができる。この場合、位置取得部は、仮想空間における位置を取得する。この場合、最初に仮想空間内の基準となる基準位置を特定する処理を実施し、位置センサ28や加速度センサ29あるいはジャイロセンサなどにより、基準位置からの相対的な位置関係に基づいて他の識別情報を取得および記録する構成とすることができる。そして、基準位置からの相対的な位置関係や作業者の視野の向きに基づいて識別情報を表示することにより、実空間の位置に併せて識別情報を表示することができる。
【0110】
この場合、例えば最初に識別情報を取得した際の実空間における位置を仮想空間の座標系の原点として基準位置に設定することができる。また、建物の入口等を実空間における基準位置として予め設定し、実空間における基準位置において保守システム1に基準位置にいることを入力したり、GPS装置で取得される実空間における位置をそのまま仮想空間における位置とみなして、識別情報の取得や表示を行う構成としたりすることができる。また、仮想空間における位置を実空間における位置に対応付けて記憶することで、設備の設置場所を電子的に記録している他のシステムとの連携を取ることも可能となる。
【0111】
このような仮想空間内での位置関係に基づいて識別情報を提示する構成によっても、作業者に復帰作業を行うことを促すことができ、他の設備などによって隠されていて直接的には見えない位置に存在する識別情報であっても作業者に対して提示することができ、変更箇所を見落とすおそれを低減できて元の状態に戻し忘れる作業ミスの発生を抑制することができるなど、実施形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0112】
図面中、1は保守システム、2はロボット(産業用ロボット、設備)、3は制御装置(設備)、4は操作装置(設備)、5は作業者端末、7は管理者端末、8は管理装置、10aは位置取得部、10bは記録部、10cは仮想化部、10dは提示部、10eは管理部、12は作業側撮像部(撮像部)、13作業側表示部(表示部)、14はスピーカ(提示部)、18は位置センサ(位置取得部)、19は加速度センサ(位置取得部)、
20aは承認部、40はパーティション(設備)、41は扉(設備)、42はカギ(設備)、43はバルブ(設備)、44はブレーカ(設備)、45は作業台(設備)、46はコンベア(設備)、47はカギ(設備)、50は眼鏡型表示器(提示部、表示部)、51は投影装置(表示部)、52はカメラ(撮像部)、53はセンサ類(位置取得部)、60はゴーグル型表示器(提示部、表示部)を示す。