(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130862
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】不飽和炭化水素捕捉剤、新規化合物及び金属有機構造体
(51)【国際特許分類】
B01J 20/22 20060101AFI20230913BHJP
C07D 213/24 20060101ALI20230913BHJP
C07D 231/12 20060101ALI20230913BHJP
C07F 1/08 20060101ALN20230913BHJP
C07F 15/04 20060101ALN20230913BHJP
【FI】
B01J20/22 A
C07D213/24
C07D231/12
C07F1/08 C
C07F15/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035407
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】松本 隆也
(72)【発明者】
【氏名】河野 正規
(72)【発明者】
【氏名】大津 博義
(72)【発明者】
【氏名】パベル ユーソフ
(72)【発明者】
【氏名】ジュンシク キム
【テーマコード(参考)】
4C055
4G066
4H048
4H050
【Fターム(参考)】
4C055AA01
4C055AA04
4C055BA01
4C055CA01
4C055DA25
4C055DB10
4C055EA03
4G066AA14D
4G066AB06D
4G066AB10B
4G066AB12B
4G066AB24B
4G066BA09
4G066BA23
4G066BA26
4G066CA51
4G066DA05
4G066FA03
4H048AA03
4H048AB80
4H048VA32
4H048VA56
4H048VB10
4H050AA03
4H050AB80
(57)【要約】
【課題】炭素-炭素二重結合を少なくとも1つ有する不飽和炭化水素を高い選択性で捕捉することができる不飽和炭化水素捕捉剤を提供すること。
【解決手段】本開示の一側面に係る不飽和炭化水素捕捉剤は、炭素-炭素二重結合を少なくとも1つ有する不飽和炭化水素捕捉剤であって、金属と、金属に配位している配位子とを有する金属有機構造体を含有し、配位子が、含窒素芳香族複素環を有する化合物を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素-炭素二重結合を少なくとも1つ有する不飽和炭化水素捕捉剤であって、
金属と、前記金属に配位している配位子とを有する金属有機構造体を含有し、
前記配位子が、含窒素芳香族複素環を有する化合物を含む、不飽和炭化水素捕捉剤。
【請求項2】
前記不飽和炭化水素が、炭素数が4~5の鎖状ジオレフィンを含む、請求項1に記載の不飽和炭化水素捕捉剤。
【請求項3】
前記不飽和炭化水素が、炭素数が4~5の鎖状モノオレフィンを含む、請求項1に記載の不飽和炭化水素捕捉剤。
【請求項4】
前記金属が、周期表第2族~14族の金属を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の不飽和炭化水素捕捉剤。
【請求項5】
前記含窒素芳香族複素環を有する化合物が、下記一般式(1)で表される化合物を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の不飽和炭化水素捕捉剤。
【化1】
[式中、Ar
1~Ar
4は、それぞれ独立に1価の含窒素芳香族複素環基を表し、X
1~X
4は、それぞれ独立に1~3の整数を表す。]
【請求項6】
前記含窒素芳香族複素環を有する化合物が、下記一般式(1-1)~(1-3)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の不飽和炭化水素捕捉剤。
【化2】
[式中、X
1~X
4は、それぞれ独立に1~3の整数を表す。]
【化3】
[式中、X
1~X
4は、それぞれ独立に1~3の整数を表す。]
【化4】
[式中、X
1~X
4は、それぞれ独立に1~3の整数を表す。]
【請求項7】
前記配位子が、ハロゲンを更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の不飽和炭化水素捕捉剤。
【請求項8】
前記金属が、Cuを含み、
前記配位子が、Iを更に含み、
前記含窒素芳香族複素環を有する化合物が、前記一般式(1-1)で表される化合物を含み、
前記一般式(1-1)で表される化合物をL1とすると、金属有機構造体の組成式が、Cu2I2L1で表される、請求項6に記載の不飽和炭化水素捕捉剤。
【請求項9】
前記金属が、Cuを含み、
前記配位子が、Iを更に含み、
前記含窒素芳香族複素環を有する化合物が、前記一般式(1-2)で表される化合物を含み、
前記一般式(1-2)で表される化合物をL2とすると、金属有機構造体の組成式が、Cu2I2L2で表される、請求項6に記載の不飽和炭化水素捕捉剤。
【請求項10】
前記金属が、Niを含み、
前記含窒素芳香族複素環を有する化合物が、前記一般式(1-3)で表される化合物を含み、
前記一般式(1-3)で表される化合物をL3とすると、金属有機構造体の組成式が、Ni2L3で表される、請求項6に記載の不飽和炭化水素捕捉剤。
【請求項11】
前記金属が、Cuを含み、
前記含窒素芳香族複素環を有する化合物が、前記一般式(1-3)で表される化合物を含み、
前記一般式(1-3)で表される化合物をL3とすると、金属有機構造体の組成式が、Cu2L3で表される、請求項6に記載の不飽和炭化水素捕捉剤。
【請求項12】
下記一般式(1-3)で表される化合物。
【化5】
[式中、X
1~X
4は、それぞれ独立に1~3の整数を表す。]
【請求項13】
金属と、前記金属に配位している配位子とを有する金属有機構造体を含有し、
前記金属が、第1遷移系列元素からなる金属を含み、
前記配位子が、請求項12に記載の化合物を含む、金属有機構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、不飽和炭化水素捕捉剤、新規化合物及び金属有機構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
イソプレンや1,3-ブタジエンなどのジエン類は、合成ゴム製造の出発物質として、また非常に多くの化合物の中間体として有用な化合物である。ジエン類はナフサ分解装置などの留分からの分離により得られる。炭素数が5である留分としては、イソプレン、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、1-ペンテン、イソペンタン及びノルマルペンタンなどが挙げられる。また、炭素数が4である留分としては、1,3-ブタジエン、イソブテン、1-ブテン、2-ブテン、ノルマルブタン及びイソブタンなどが挙げられる。各留分中の各成分の沸点が近いため蒸留法ではイソプレンや1,3-ブタジエンの分離は困難である。現在、C5留分からのイソプレン分離及びC4留分からの1,3-ブタジエン分離には抽出蒸留法が用いられているが、抽出溶剤の再生で消費するエネルギーが大きい課題がある。そのため、より省エネルギーでジエン類を分離回収できるPSA/TSA法(吸着分離法)が注目されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、金属有機構造体としてMIL-125及びNH2-MIL-125を用いることで、2-メチルブタン及びイソプレンのうちイソプレンを選択的に捕捉できることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Kim, S., Ahn, W., catalysis today, 2013, 204, 85-93.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1に開示の金属有機構造体には、イソプレンの選択性の点で改善の余地がある。
【0006】
本開示は、炭素-炭素二重結合を少なくとも1つ有する不飽和炭化水素を高い選択性で捕捉することができる不飽和炭化水素捕捉剤を提供する。また、本開示は、そのような不飽和炭化水素捕捉剤として有用な新規な金属有機構造体及び新規化合物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面は、炭素-炭素二重結合を少なくとも1つ有する不飽和炭化水素捕捉剤であって、金属と、金属に配位している配位子とを有する金属有機構造体を含有し、配位子が、含窒素芳香族複素環を有する化合物を含む、不飽和炭化水素捕捉剤に関する。
【0008】
一態様において、不飽和炭化水素は、炭素数が4~5の鎖状ジオレフィンを含んでいてよい。一態様において、不飽和炭化水素は、炭素数が4~5の鎖状モノオレフィンを含んでいてよい。一態様において、金属は、周期表第2族~14族の金属を含んでいてよい。
【0009】
一態様において、含窒素芳香族複素環を有する化合物は、下記一般式(1)で表される化合物を含んでいてよい。
【化1】
[式中、Ar
1~Ar
4は、それぞれ独立に1価の含窒素芳香族複素環基を表し、X
1~X
4は、それぞれ独立に1~3の整数を表す。]
【0010】
一態様において、含窒素芳香族複素環を有する化合物は、下記一般式(1-1)~(1-3)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含んでいてよい。
【化2】
[式中、X
1~X
4は、それぞれ独立に1~3の整数を表す。]
【化3】
[式中、X
1~X
4は、それぞれ独立に1~3の整数を表す。]
【化4】
[式中、X
1~X
4は、それぞれ独立に1~3の整数を表す。]
【0011】
一態様において、配位子は、ハロゲンを更に含んでいてよい。
【0012】
一態様において、金属は、Cuを含み、配位子は、Iを更に含み、含窒素芳香族複素環を有する化合物は、一般式(1-1)で表される化合物を含み、一般式(1-1)で表される化合物をL1とすると、金属有機構造体の組成式は、Cu2I2L1で表されてよい。
【0013】
一態様において、金属は、Cuを含み、配位子は、Iを更に含み、含窒素芳香族複素環を有する化合物は、一般式(1-2)で表される化合物を含み、一般式(1-2)で表される化合物をL2とすると、金属有機構造体の組成式は、Cu2I2L2で表されてよい。
【0014】
一態様において、金属は、Niを含み、含窒素芳香族複素環を有する化合物は、一般式(1-3)で表される化合物を含み、一般式(1-3)で表される化合物をL3とすると、金属有機構造体の組成式は、Ni2L3で表されてよい。
【0015】
一態様において、金属は、Cuを含み、含窒素芳香族複素環を有する化合物は、一般式(1-3)で表される化合物を含み、一般式(1-3)で表される化合物をL3とすると、金属有機構造体の組成式は、Cu2L3で表されてよい。
【0016】
本開示の他の一側面は、下記一般式(1-3)で表される化合物に関する。
【化5】
[式中、X
1~X
4は、それぞれ独立に1~3の整数を表す。]
【0017】
本開示の更に他の一側面は、金属と、金属に配位している配位子とを有する金属有機構造体を含有し、金属が、第1遷移系列元素からなる金属を含み、配位子が、上記他の一側面に係る化合物を含む、金属有機構造体に関する。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、炭素-炭素二重結合を少なくとも1つ有する不飽和炭化水素を高い選択性で捕捉することができる不飽和炭化水素捕捉剤が提供される。また、本開示によれば、そのような不飽和炭化水素捕捉剤として有用な新規な金属有機構造体及び新規化合物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1(a)は、実施例1の金属有機構造体を用いて測定されたガス吸脱着等温線である。
図1(b)は、実施例2の金属有機構造体を用いて測定されたガス吸脱着等温線である。
【
図2】
図2(a)は、実施例3の金属有機構造体を用いて測定されたガス吸脱着等温線である。
図2(b)は、実施例4の金属有機構造体を用いて測定されたガス吸脱着等温線である。
【
図3】
図3(a)は、実施例3の金属有機構造体について粉末X線回折を行うことで得られるピークチャートと、金属有機構造体[Ni
2L
13]の粉末X線回折のシミュレーションにより得られるピークチャートである。
図3(b)は、実施例4の金属有機構造体について粉末X線回折を行うことで得られるピークチャートと、金属有機構造体[Cu
2L
13]の粉末X線回折のシミュレーションにより得られるピークチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0021】
[不飽和炭化水素捕捉剤]
本実施形態に係る不飽和炭化水素捕捉剤は、金属と、金属に配位している配位子とを有する金属有機構造体を含有し、配位子が、含窒素芳香族複素環を有する化合物を含む。本実施形態に係る不飽和炭化水素捕捉剤によれば、不飽和炭化水素を高い選択性で捕捉することができる。
【0022】
本実施形態に係る不飽和炭化水素捕捉剤が捕捉する不飽和炭化水素は、炭素-炭素二重結合を少なくとも1つ有する。このような不飽和炭化水素の炭素数は、一層高い選択性で捕捉できる傾向にあることから、4及び5であることが好ましい。不飽和炭化水素は、鎖状であってよい。このような不飽和炭化水素としては、例えば、モノオレフィン及びジオレフィン(ジエン)が挙げられる。モノオレフィンとしては、例えば、1-ペンテン、トランス-2ーペンテン、シス-2-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、1-ブテン、トランス-2-ブテン、シス-2-ブテン及びイソブテンが挙げられる。ジエンとしては、例えば、イソプレン、トランス-ピペリレン、シス-ピペリレン及び1,3-ブタジエンが挙げられ、一層高い選択性で捕捉できる傾向にあることから、イソプレンであることが好ましい。なお、本開示における「炭素-炭素二重結合を少なくとも1つ有する不飽和炭化水素」は、芳香族化合物を含まない。
【0023】
金属有機構造体の含有量は、不飽和炭化水素捕捉剤の全量を基準として、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上または100質量%であってもよい。
【0024】
<金属有機構造体>
以下、金属有機構造体について詳述する。
【0025】
金属有機構造体(MOF:Metal Organic Framework)は、多孔質配位高分子(PCP:Porous Coordination Polymer)としても、細孔性ネットワーク錯体(PCN:Porous Coordination Network)としても知られている。
【0026】
金属有機構造体は、フレームワークを有する。フレームワークは、結節点となる金属に配位子が配位結合を介して結合することにより構築され、構成元素と化学結合(主に、共有結合、及び配位結合)とから構成される。
【0027】
金属有機構造体は、不飽和炭化水素を捕捉可能であり、且つ、不飽和炭化水素を脱離可能である。金属有機構造体の内部には、金属有機構造体の立体構造によって細孔が形成されている。細孔は、不飽和炭化水素が収まることができる空間である。
【0028】
吸着及び脱離を行う原料が、イソプレン及び2-メチルブタンを含み、原料におけるイソプレンと2-メチルブタンとのモル比(イソプレン:2-メチルブタン)が1:1である場合に、金属有機構造体におけるイソプレンの吸着量は、2-メチルブタン1molに対して、50kPa、25℃において、1.8mol以上、2.2mol以上、9.0mol以上又は300mol以上であってもよい。
【0029】
吸着及び脱離を行う原料が、2-メチル-1-ブテン及び2-メチルブタンを含み、原料における2-メチル-1-ブテンと2-メチルブタンとのモル比(2-メチル-1-ブテン:2-メチルブタン)が1:1である場合に、金属有機構造体における2-メチル-1-ブテンの吸着量は、2-メチルブタン1molに対して、50kPa、25℃において、1.4mol以上、1.6mol以上、5.0mol以上又は80mol以上であってもよい。
【0030】
吸着及び脱離を行う原料が、イソプレン及び2-メチル-1-ブテンを含み、原料におけるイソプレンと2-メチル-1-ブテンとのモル比(イソプレン:2-メチル-1-ブテン)が1:1である場合に、金属有機構造体におけるイソプレンの吸着量は、2-メチル-1-ブテン1molに対して、50kPa、25℃において、1.2mol以上、1.4mol以上、1.5mol以上又は3.5mol以上であってもよい。
【0031】
各種原料における吸着量の比は、原料に含有されるそれぞれの成分についてガス吸脱着等温線を測定し、測定結果から、Ideal adsorbed solution theory(IAST)法に基づき、Lee, S.; Lee, J. H.; Kim, J. Korean J. Chem. Eng. 2018, 35, 214-221.に記載の方法に沿って算出できる。
【0032】
吸着及び脱離を行う原料が、イソプレン及び2-メチルブタンを含み、原料におけるイソプレンと2-メチルブタンとのモル比(イソプレン:2-メチルブタン)が1:1である場合に、金属有機構造体におけるイソプレンの吸着量は、50kPa、25℃において、8mmol/g以上であることが好ましい。
【0033】
金属は、不飽和炭化水素を一層高い選択性で捕捉できる傾向にあることから、周期表第2族~14族の金属であることが好ましく、第1遷移系列元素からなる金属であることが好ましく、Cu及びNiであることが更に好ましい。周期表第2族~14族の金属としては、例えば、Zr、Cd、Ti、Cu、Zn、Fe、Cr、Ni、Co、Mo、Hf、Mg、Al、Si、Cu、Zr、Zn及びCdが挙げられる。第1遷移系列元素からなる金属としては、例えば、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuが挙げられる。
【0034】
配位子は、含窒素芳香族複素環を有する化合物を含む。含窒素芳香族複素を有する化合物は、例えば、含窒素芳香族複素に含まれる窒素原子により金属に配位している。含窒素芳香族複素環を有する化合物は、不飽和炭化水素を一層高い選択性で捕捉できる傾向にあることから、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましく、下記一般式(1-1)~(1-3)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることが更に好ましい。
【化6】
[式中、Ar
1~Ar
4は、それぞれ独立に1価の含窒素芳香族複素環基を表し、X
1~X
4は、それぞれ独立に1~3の整数を表す。]
【化7】
[式中、X
1~X
4は、それぞれ独立に1~3の整数を表す。]
【化8】
[式中、X
1~X
4は、それぞれ独立に1~3の整数を表す。]
【化9】
[式中、X
1~X
4は、それぞれ独立に1~3の整数を表す。]
【0035】
式(1)中、Ar1~Ar4としては、例えば、ピリジン基、ピラゾール基、トリアゾール基及びテトラゾール基が挙げられ、不飽和炭化水素を一層高い選択性で捕捉できる傾向にあることから、ピリジン基及びピラゾール基であることが好ましい。
【0036】
式(1)、(1-1)、(1-2)及び(1-3)中、X1~X4は、不飽和炭化水素を一層高い選択性で捕捉できる傾向にあることから、1であることが好ましい。
【0037】
上記一般式(1-1)で表される化合物は、不飽和炭化水素を一層高い選択性で捕捉できる傾向にあることから、下記式(1-1a)で表される化合物(3-TPPM:Tetra-4-(3-pyridyl)phenyl methane)であることが好ましい。
【化10】
【0038】
上記一般式(1-2)で表される化合物は、不飽和炭化水素を一層高い選択性で捕捉できる傾向にあることから、下記式(1-2a)で表される化合物(4-TPPM:Tetra-4-(4-pyridyl)phenyl methane)であることが好ましい。
【化11】
【0039】
上記一般式(1-3)で表される化合物は、不飽和炭化水素を一層高い選択性で捕捉できる傾向にあることから、下記式(1-3a)で表される化合物(pyrazolate TPM:Tetrakis-4-(4-1H-pyrazolyl)phenyl methane)であることが好ましい。
【化12】
【0040】
配位子は、ハロゲンを更に含んでいてよい。ハロゲンとしては、例えば、F、Cl、Br及びIが挙げられ、不飽和炭化水素を一層高い選択性で捕捉できる傾向にあることから、Iであることが好ましい。
【0041】
金属有機構造体の組成式は、不飽和炭化水素を一層高い選択性で捕捉できる傾向にあることから、[M2I2L]又は[M2L]で表されることが好ましく、[Cu2I2L1]、[Cu2I2L2]、[Ni2L3]又は[Cu2L3]で表されることがより好ましい。ここで、Mは、金属を表し、Lは、含窒素芳香族複素環を有する化合物を表し、L1は、上記一般式(1-1)で表される化合物を表し、L2は、上記一般式(1-2)で表される化合物を表し、L3は、上記一般式(1-3)で表される化合物を表す。
【0042】
上記一般式(1-1)で表される化合物の製造方法は特に制限されず、例えば、下記のスキームの合成反応に従って製造する方法が挙げられる。
【化13】
[式(1A)中、Y
1~Y
4は、ハロゲン原子であり、X
1~X
4は、それぞれ独立に1~3の整数を表す。]
【0043】
上記スキームの合成反応は、いわゆる鈴木・宮浦カップリング反応である。反応において用いるパラジウム触媒としては、例えば、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリド(PdCl2(dppf))、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(Pd(PPh3)4)、ビス(トリフェニルホスフィン)ジクロロパラジウム(Pd(PPh3)2Cl2)、ビス(ベンジリデンアセトン)パラジウム(Pd(dba)2)、トリス(ベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd2(dba)3)、ビス(トリtert-ブチルホスフィン)パラジウム(Pd(P-t-Bu3)2)、酢酸パラジウム(Pd(OAc)2)及びクロロ[(トリ-tert-ブチルホスフィン)-2-(2-アミノビフェニル)]パラジウム(II)((tBu3P)Pd G2)が挙げられる。これらの触媒は、公知の適切な配位子とともに使用してもよい。触媒の使用量は、例えば、上記式(1B)で表される化合物に対して20モル%以下、又は10モル%以下であってもよい。また、配位子を用いる場合、その使用量は、例えば、上記式(1B)で表される化合物に対して20モル%以下、又は10モル%以下であってもよい。
【0044】
上記一般式(1-1)で表される化合物を得る反応には、塩基を用いてもよい。塩基としては、例えば、水酸化物類、アルコキシド類、フッ化物塩類、炭酸塩類、リン酸塩類及びフッ化物塩類が挙げられる。水酸化物類としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化セシウムが挙げられる。アルコキシド類としては、例えば、tert-ブトキシナトリウム及びtert-ブトキシカリウムが挙げられる。フッ化物塩類としては、例えば、フッ化リチウム、フッ化カリウム及びフッ化セシウムが挙げられる。炭酸塩類としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム及び炭酸水素カリウムが挙げられる。リン酸塩類としては、例えば、リン酸カリウムが挙げられる。アミン類としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、n-ブチルアミン及びジイソプロピルエチルアミンが挙げられる。これらのうち、目的物を効率よく得る観点から、塩基は、炭酸塩類、リン酸塩類であることが好ましく、炭酸カリウム及び炭酸セシウムであることがより好ましい。塩基の使用量は、式(1B)1molに対し、1~20molが好ましく、2~10molがより好ましい。
【0045】
上記一般式(1-1)で表される化合物を得る反応に用いる溶媒としては、反応に悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されないが、例えば、脂肪族炭化水素、ハロゲン化脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル、アミド、ラクタム、ラクトン、アルコール、尿素誘導体、スルホキシド及び水が挙げられる。脂肪族炭化水素としては、例えば、ペンタン、n-ヘキサン、n-オクタン、n-デカン及びデカリンが挙げられる。ハロゲン化脂肪族炭化水素としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン及び四塩化炭素が挙げられる。芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、ニトロベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン及びメシチレンが挙げられる。エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン及び1,2-ジエトキシエタンが挙げられる。アミドとしては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)及びN,N-ジメチルアセトアミドが挙げられる。ラクタムとしては、例えば、N-メチルピロリドンが挙げられる。ラクトンとしては、例えば、γ-ブチロラクトンが挙げられる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール及びプロパノールが挙げられる。尿素誘導体としては、例えば、N,N-ジメチルイミダゾリジノン及びテトラメチルウレアが挙げられる。スルホキシドとしては、例えば、ジメチルスルホキシド、スルホラン等)、ニトリル(アセトニトリル、プロピオニトリル及びブチロニトリルが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
上記式(1B)で表される化合物の仕込み量は、効率よくカップリング反応が進行することから、上記式(1A)で表される化合物1molに対し、4~10molが好ましく、4.2~10molがより好ましい。
【0047】
上記一般式(1-1)で表される化合物を得る反応の反応温度は、用いる原料化合物や触媒の種類や量を考慮しつつ、溶媒の融点から沸点までの範囲で適宜設定されるが、通常0~200℃程度であり、好ましくは20~100℃である。また、反応時間は、用いる原料化合物や反応温度等に応じて異なるため一概に規定できないが、通常1~72時間程度である。
【0048】
上記一般式(1-1)で表される化合物を得る反応は、反応容器内に、窒素を流通させた状態で行うことが好ましい。
【0049】
上記一般式(1-2)で表される化合物の製造方法は特に制限されず、例えば、下記のスキームの合成反応に従って製造する方法が挙げられる。
【化14】
【0050】
上記スキームの合成反応は、式(1B)で表される化合物に代えて式(1C)で表される化合物を用いること以外は、上記一般式(1-1)で表される化合物を得る反応と同様にして行うことができる。
【0051】
上記一般式(1-3)で表される化合物の製造方法は特に制限されず、例えば、下記のスキームの合成反応に従って製造する方法が挙げられる。
【化15】
[式(1E)中、X
1~X
4は、それぞれ独立に1~3の整数を表す。]
【0052】
上記一般式(1E)で表される化合物を得る工程では、いわゆる鈴木・宮浦カップリング反応を進行させる。反応において用いるパラジウム触媒、配位子、塩基及び溶媒は、上記一般式(1-1)で表される化合物の合成と同様のものを用いることができる。触媒の使用量は、例えば、式(1D)で表される化合物に対して20モル%以下、又は10モル%以下であってもよい。配位子の使用量は、例えば、式(1D)で表される化合物に対して20モル%以下、又は10モル%以下であってもよい。塩基の使用量は、式(1D)1molに対し、1~20molが好ましく、2~10molがより好ましい。
【0053】
上記式(1D)で表される化合物の仕込み量は、効率よくカップリング反応が進行することから、上記式(1A)で表される化合物1molに対し、4~10molが好ましく、4.2~10molがより好ましい。反応温度及び反応時間は、上記一般式(1-1)で表される化合物の合成と同様であってよい。反応は、反応容器内に、窒素を流通させた状態で行うことが好ましい。
【0054】
上記一般式(1-3)で表される化合物を得る工程で用いられる酸としては、例えば、塩酸が挙げられる。上記一般式(1-3)で表される化合物を得る工程で用いられる溶媒としては、例えば、エタノールが挙げられる。本工程の反応温度は、例えば、85~90℃であってよい。溶媒としてエタノールを用いる場合には、本工程の反応温度は、エタノールが還流する温度であれば特に制限されない。
【0055】
<金属有機構造体の製造方法>
金属有機構造体の製造方法としては、特に限定されず、金属有機構造体の製法として公知の手法を採用することができ、例えば、ワンポット合成法(例えば、自己集積化法、ソルボサーマル法、マイクロ波照射法、イオノサーマル法、ハイスループット法等)、段階的合成法(例えば、金属有機結節構造前駆体錯体法、錯体配位子法、in-situ逐次合成法、合成後修飾法等)、ソノケミカル合成法及びメカノケミカル合成法が挙げられる。これらの中でも、安定的な熱力学的生成物が得られる点から、ソルボサーマル法が好ましい。ソルボサーマル法を用いた金属有機構造体の製造は、例えば、文献(Shi-Bin Ren, et al. CrystEngComm, 2009, 11, 1834-1836)を参照して行うことができる。
【0056】
以下に、ソルボサーマル法を用いて、上記一般式(1-3)で表される化合物と、銅とを含有する金属有機構造体を製造する方法の一例を説明する。
【0057】
ソルボサーマル法では、例えば、上記一般式(1-3)で表される化合物と、銅化合物と、溶媒との混合物を加熱する。
【0058】
銅化合物としては、例えば、Cu(NO3)2・3H2O、CuCl2、Cu(OAc)2・H2O、 CuSO4・5H2O及びCu(ClO4)2・6H2Oが挙げられる。溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)及び水が挙げられる。溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。溶媒がDMF及び水を含む場合には、DMFと水との体積比(DMF:水)は、9:1~5:5であってよく、8:2~6:4であることが好ましい。溶媒には、酢酸などの添加剤を配合してもよい。添加剤の配合量は、溶媒1mlに対して5~11μLであることが好ましく、9~11μLであることがより好ましい。
【0059】
混合物における上記一般式(1-3)で表される化合物と、銅化合物との配合比率としては、特に限定されない。配合時において、上記一般式(1-3)で表される化合物と、銅化合物に含まれる銅元素のモル比(上記一般式(1-3)で表される化合物:銅化合物に含まれる銅元素)は、1:1~1:4であることが好ましく、1:1.5~1:2.5であることがより好ましい。
【0060】
金属有機構造体を製造する際、必要に応じて、結晶化の促進のためにモジュレーターを用いてもよい。モジュレーターとしては、例えば、トリフェニルホスフィン、ピリジニウム塩酸塩及びイソキノリンが挙げられる。金属有機構造体を製造する際のモジュレーターの使用量としては、特に限定されないが、上記一般式(1-3)で表される化合物に対して、0.5~10当量が好ましく、1~5当量がより好ましい。
【0061】
金属有機構造体を製造する際の溶媒の使用量としては、特に限定されない。
【0062】
加熱の際に、原料溶液を任意の密封容器に入れて行ってもよく、原料溶液を還流させながら行ってもよい。
【0063】
加熱の温度としては、特に限定されず、例えば、反応性を高める観点から100℃以上、又は120℃以上であってよく、また、反応中の蒸気漏れを防止する観点から150℃以下であってよい。
【0064】
加熱の時間としては、特に限定されず、加熱の温度に合わせて適宜に調整することができる。加熱の時間は、例えば、反応を完全に完成させる観点から、6時間以上、10時間以上、12時間以上、18時間以上、24時間以上、30時間以上、36時間以上、42時間以上、48時間以上、54時間以上、又は60時間以上であってよく、また96時間以下、84時間以下、72時間以下、60時間以下、48時間以下、24時間以下、12時間以下、又は10時間以下であってよい。
【0065】
また、反応終了後、得られた生成物に対して、適宜に後処理を行ってよい。
【0066】
後処理として、例えば、得られた生成物をろ過することを行ってよい。また、必要に応じて、ろ過で得られたろ塊に対して、貧溶媒等を加え、室温で又は適宜に加熱をして、分散させてから、再度ろ過してもよい。ここで、貧溶媒としては、目的の金属有機構造体が溶解しにくい溶媒であってよく、例えば、水、アセトニトリル、ヘキサン、エタノール、ジメチルホルムアミド等を用いてよい。また、加熱する場合の温度は、例えば、40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、又は80℃以上であってよく、また100℃以下、90℃以下、又は80℃以下であってよい。加熱する場合の加熱時間は、例えば、1時間以上、2時間以上、6時間以上、10時間以上、又は12時間以上であってよく、また24時間以下、又は16時間以下であってよい。
【0067】
また、ろ過又は再度ろ過で得られたろ塊を適宜に乾燥させることによって、目的の金属有機構造体を得ることができる。ここで、乾燥は、常圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよいが、効率向上の観点から減圧下で行うことが好ましい。また、乾燥する場合の温度は、例えば20℃以上、25℃以上、40℃以上、50℃以上、又は60℃以上であってよく、また100℃以下、90℃以下、80℃以下、又は60℃以下であってよい。乾燥する場合の乾燥時間は、例えば1時間以上、2時間以上、6時間以上、10時間以上、又は12時間以上であってよく、また24時間以下、又は16時間以下であってよい。
【0068】
金属有機構造体の用途としては、特に限定されないが、不飽和炭化水素の捕捉性に優れることから不飽和炭化水素捕捉剤が好ましく、モノオレフィン及びジエンの捕捉性に優れる点から、モノオレフィン捕捉剤及びジエン捕捉剤がより好ましい。また、モノオレフィン捕捉剤は、モノオレフィンを貯蔵することができるモノオレフィン貯蔵システムに好適に用いることができる。ジエン捕捉剤は、ジエンを貯蔵することができるジエン貯蔵システムに好適に用いることができる。
【実施例0069】
以下に、本開示を実施例に基づいて具体的に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0070】
[式(1-1a)で表される化合物の合成]
下記式(1-1a)で表される化合物(3-TPPM)を合成した。合成は、以下の合成スキームに基づいて行った。
【化16】
【0071】
<式(I-I)で表される化合物の合成>
Trityl chloride(10.37g、37.2mmol)をアニリン(20ml)に加え200℃で5分間加熱撹拌して混合物を得た。混合物に含まれる成分を十分に溶解させた後、混合物の温度が120℃となるまで冷却した。冷却後の混合物に塩酸(2M,40ml)とメタノール(60ml)を加え、120℃のまま還流しながら1時間撹拌した。反応後の混合物を室温まで冷却した。冷却後の混合物に吸引ろ過を行いろ紙上に残渣を得た。残渣をろ紙上で水で洗浄し、その後80℃で減圧乾燥することにより4-Tritylaniline hydrochlorideの粗生成物(収量:12.49g、35.17mmol)を得た。収率は94.5%であった。得られた4-Tritylaniline hydrochloride全量にアセトニトリル(40mL)を加えて1時間攪拌することで混合物を得た。塩酸(12M、10mL)及び次亜リン酸(20mL)を得られた混合物に加え50℃で加熱して反応液を得た。反応液に亜硝酸ナトリウム(4.6g、67mmol)を徐々に加え、一晩攪拌した。反応液からろ過により固体を回収した。回収した固体を水及びエタノールで洗浄し一日乾燥した。熱DMF(35mL)を溶媒として乾燥後の固体を再結晶して結晶を得た。結晶を昇華精製することで上記式(I-I)で表される化合物(Tetraphenylmethane)を白色固体として得た(収量:1.420g、2.142mmol、収率:12.6%)。
【0072】
<式(I-II)で表される化合物の合成>
Tetraphenylmethane(5.120g、16.0mmol)に臭素10mlを滴下し30分間撹拌して混合物を得た。-78℃(エタノール及び液体窒素)で混合物を冷却させた後、エタノール50mlを混合物にゆっくり加えて一晩撹拌した。混合物を室温へと冷却し、水と飽和チオ硫酸水溶液で洗い流しながら吸引ろ過を行った。ろ紙上の残渣をクロロホルムで溶解させ、エタノールを貧溶媒として再結晶を行うことにより上記式(I-II)で表される化合物(Tetrakis(4-bromophenyl)methane、収量:9.90g、15.56mmol、収率:97.3%)を桃色針状結晶として得た。
【0073】
<式(1-1a)で表される化合物の合成>
Tetrakis(4-bromophenyl)methane(1.440g、2.26mmol)、3-ピリジルボロン酸(1.968g、13.7mmol)及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0.345g、0.331mmol)をシュレンク管(容量:250ml)に加えた。シュレンク管の脱気と窒素ガスの置換を3回繰り返した。その後、窒素ガスのバブリングにより脱気を施したトルエン40ml、エタノール30ml、炭酸ナトリウム(2.48g、2.34mmol)飽和水溶液16mlをシュレンク管に加えて混合物を得た。得られた混合物を90℃で2日間還流して反応を進行させた。反応後、混合物を室温に冷却し、ろ過を行った。ろ液から分液操作により有機層を抽出した。ロータリーエバポレーターを用いて有機層を乾固することで粗生成物を得た。カラムクロマトグラフィーにより粗生成物から上記式(1-1a)で表される化合物(3-TPPM、収量:0.314g、0.500mmol、収率:22.1%)を白色固体として得た。溶出液には、酢酸エチル及びメタノール(体積比(酢酸エチル:メタノール=1:2)を用いた。得られた白色固体をメタノールに溶解し、再結晶を行うことで無色透明な針状結晶を得た。
【0074】
[式(1-2a)で表される化合物の合成]
下記式(1-2a)で表される化合物(4-TPPM)を合成した。合成は、以下の合成スキームに基づいて行った。
【化17】
【0075】
Tetrakis(4-bromophenyl)methane(1.508g、2.37mmol)、4-ピリジルボロン酸(1.968g、16.0mmol)及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0.400g、0.345mmol)をシュレンク管(容量:250ml)に加えた。シュレンク管の脱気と窒素ガスの置換を3回繰り返した。その後、窒素ガスのバブリングにより脱気を施したトルエン60ml、エタノール20ml及び炭酸ナトリウム(2.46g、2.32mmol)飽和水溶液18mlをシュレンク管に加えて混合物を得た。得られた混合物を90℃で2日間還流して反応を進行させた。反応後、混合物を室温に冷却した。混合物を濾過して固体を集めることで粗生成物を得た。クロロホルムを用いたソックスレー抽出により粗組成物から上記式(1-2a)で表される化合物(Tetrakis(4-(pyridinyl)phenyl)methane)(収量:0.209g、0.332mmol、収率:14.6%)を白色固体として得た。
【0076】
[式(1-3a)で表される化合物の合成]
下記式(1-3a)で表される化合物(pyrazolate TPM)を合成した。合成は、以下の合成スキームに基づいて行った。
【化18】
【0077】
<式(I-III)で表される化合物の合成>
窒素気流下、Tetrakis(4-bromophenyl)methane,(1272mg、2mmol)、1-(Tetrahydro-2H-pyran-2-yl)-4-(4,4,5,5-tetramethyl-1,3,2-dioxaborlan-2-yl-)-1H-pyrazole(2502mg,9mmol)及び[Pd(PPh3)4](460mg,0.4mmol)をシュレンク管に加え、脱気した。30分間窒素バブルを施した飽和NaHCO3溶液、エタノール(40mL)及びトルエン(80mL)をシュレンク管に加えて混合物を得た。得られた混合物を窒素雰囲気下にて90℃で2日間還流した。混合物から有機相を分離して有機層を乾固することで茶色固体を得た。この茶色固体をカラムクロマトグラフィーにより精製して上記式(I-III)で表される化合物(収率:58%、収量:531mg)を白色固体として得た。
【0078】
<式(1-3a)で表される化合物の合成>
Tetrakis(4-(1-(trtrahydro-2H-pyran-2-yl)-1H-pyrazol-4-yl)phenyl)methane(531mg、0.582mmol)を100mLエタノール中に懸濁させ、そこに1M塩酸を10mL加えて混合物を得た。混合物を95℃で一晩還流し、徐冷した。混合物を濾過することで白色固体を回収した。得られた白色固体を水に懸濁させた溶液を得た。溶液のpHが7~8となるように溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えた。溶液を濾過することで白色固体を回収した。白色固体を水で洗浄し、80℃で真空乾燥して上記式(1-3a)で表される化合物(収率:83%、収量:283mg)を得た。
【0079】
1H NMR(JEOL,400MHz,DMSO-d
6,基準:DMSOの溶媒ピーク(solvent residual peak)を2.5ppmとした。):δ 7.197(8H,d,J=7.200),7.529(8H,d,J=6.800),8.002(8H,s)
【化19】
13C NMR(JEOL,400MHz,DMSO-d
6,基準:DMSOの溶媒ピーク(solvent residual peak)を39.52ppmとした。):δ 63.538(a),124.607(b),130.775(c),130.527(d),120.335(e),120.774(f),144.171(g)
【化20】
【0080】
1H-NMRスペクトル(400MHz)及び13C-NMRスペクトル(400MHz)は日本電子(JEOL)のJNM-ECA400IIによって測定した。測定試料は重ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)に溶解させた。
【0081】
[金属有機構造体の合成]
(実施例1)
上記式(1-1a)で表される化合物をL11とすると、組成式が、Cu2I2L11で表される金属有機構造体を合成した。具体的には、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)100mlをオイルバスで165℃に加熱した。上記式(1-1a)で表される化合物(72.0mg、0.115mmol)及び[Cu4I4(PPh3)4](216.0mg、0.119mmol)をDMAに溶解させ溶液を得た。溶液が黄色透明になったことを確認したのちオイルバスから溶液を取り出した。溶液を室温まで冷却して金属有機構造体を得た。得られた金属有機構造体は、黄色の結晶であった。
【0082】
(実施例2)
上記式(1-2a)で表される化合物をL12とすると、組成式が、Cu2I2L12で表される金属有機構造体を合成した。具体的には、DMA50ml及びDMSO50mlからなる溶液をオイルバルで185℃に加熱した。上記式(1-2a)で表される化合物(72.0mg、0.115mmol)及び[Cu4I4(PPh3)4](216.0mg、0.119mmol)を溶液に溶解させた。溶液が黄色透明になったことを確認したのち、オイルバスから溶液を取り出した。溶液を室温まで冷却して金属有機構造体を得た。得られた金属有機構造体は、黄色の結晶であった。
【0083】
(実施例3)
上記式(1-3a)で表される化合物をL13とすると、組成式が、Ni2L13で表される金属有機構造体を合成した。具体的には、上記式(1-3a)で表される化合物(23.4mg、0.04mmol)、硝酸ニッケル6水和物(23.3、0.08mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(7mL)、蒸留水(3mL)及び酢酸(100μL)をテフロン(登録商標)製の耐圧容器に加えて混合物を得た。混合物を150℃にて24時間加熱した。混合物を冷却し、混合物から黄色固体をろ過した。得られた黄色固体をDMF及びメタノール(MeOH)で洗浄し、窒素雰囲気下で乾燥することで金属有機構造体を21.8mg得た。得られた金属有機構造体は、黄色の粉末であった。
【0084】
(実施例4)
上記式(1-3a)で表される化合物をL13とすると、組成式が、Cu2L13で表される金属有機構造体を合成した。具体的には、上記式(1-3a)で表される化合物(23.4mg、0.04mmol)、硝酸銅3水和物(23.3、0.08mmol)及びDMF(10mL)をテフロン(登録商標)製の耐圧容器に加えて混合物を得た。混合物を150℃にて24時間加熱した。混合物を冷却し、混合物から黄灰色固体をろ過した。得られた黄灰色固体をDMF及びメタノール(MeOH)で洗浄し、窒素雰囲気下で乾燥することで金属有機構造体を23mg得た。得られた金属有機構造体は、暗黄色の粉末であった。
【0085】
[ガス吸脱着等温線の測定]
(実施例1)
金属有機構造体について、イソプレン、2-メチル-1-ブテン及び2-メチルブタンのそれぞれの吸脱着等温線を測定した。まず、金属有機構造体に吸着されている溶媒(DMA)を極性が低く沸点が低い溶媒にソックスレー抽出法により置換した。金属有機構造体の細孔に吸着されている溶媒と、金属有機構造体とは、強く相互作用している。そのため、金属有機構造体をそのまま真空加熱すると細孔が崩れる可能性がある。具体的には、アセトン及び金属有機構造体の混合物を90℃で1日間、ソックスレー管にて還流した。それにより、吸着されていたDMAがアセトンに置換された。次いで、ヘキサン及び金属有機構造体の混合物を90℃で2日間、ソックスレー管にて還流した。それにより、吸着されていたアセトンがヘキサンに置換された。ヘキサンは相互作用が少なく細孔を保てることが期待される。混合物を乾燥させることで測定用の試料を得た。吸脱着等温線の測定には、マイクロトラック・ベルの全自動ガス吸着測定装置BELSORP MAXを用いた。測定温度は、25℃とした。試料を乳鉢ですりつぶし、約60mgをガラスの測定容器に入れ、測定装置に取り付けた。ロータリーポンプとターボ分子ポンプにより容器内を真空引きして細孔内の溶媒を取り除いた。真空引きの温度は50℃、時間は12時間とした。真空引き後の試料を用いて吸脱着等温線を測定した。ガスの吸着と脱着を1サイクルとして4サイクル目の吸脱着等温線を
図1(a)に示した。また、4サイクル目のイソプレンの吸着量を表1に示した。
【0086】
(実施例2)
金属有機構造体について実施例1と同様にしてソックスレー抽出法により溶媒を置換することで測定用の試料を得た。真空引きの温度を75℃としたこと以外は、実施例1と同様にして吸脱着等温線を測定した。ガスの吸着と脱着を1サイクルとして1サイクル目の吸脱着等温線を
図1(b)に示した。また、1サイクル目のイソプレンの吸着量を表1に示した。
【0087】
(実施例3及び4)
メタノール及び金属有機構造体の混合物を24時間ソックスレー管にて還流した。混合物を乾燥させることで測定用の試料を得た。真空引きの温度を200℃、時間を20時間としたこと以外は、実施例1と同様にして吸脱着等温線を測定した。ガスの吸着と脱着を1サイクルとして1サイクル目の吸脱着等温線を
図2(a)(実施例3)及び
図2(b)(実施例4)に示した。また、1サイクル目のイソプレンの吸着量を表1に示した。
【0088】
[吸着量の比率の算出]
(実施例1~4)
ガス吸脱着等温線の測定結果を用いて各実施例で得られた金属有機構造体についてガスの吸着量の比率を算出した。比率は、温度25℃、圧力50kPaの条件下のものを算出した。具体的には、下記ガスの吸着量の比率を算出した。
・イソプレン(IP)の吸着量と2-メチルブタン(2MB)の吸着量とのモル比(イソプレンの吸着量:2-メチルブタンの吸着量)
・イソプレンの吸着量と2-メチル-1-ブテン(2MB-ene)の吸着量とのモル比(イソプレンの吸着量:2-メチル-1-ブテンの吸着量)
・2-メチル-1-ブテンの吸着量と2-メチルブタンの吸着量とのモル比(2-メチル-1-ブテンの吸着量:2-メチルブタンの吸着量)
【0089】
算出は、Ideal adsorbed solution theory(IAST)法に基づき、Lee, S.; Lee, J. H.; Kim, J. Korean J. Chem. Eng. 2018, 35, 214-221.に記載の方法に沿って行った。結果を表1に示した。
[細孔のサイズの測定]
(実施例1、3~4)
得られた金属有機構造体について細孔のサイズを測定した。具体的には、金属有機構造体の温度77Kにおける窒素吸脱着曲線を測定した。測定結果をNLDFT(Non Local Density Functional Theory)法に基づき解析した。解析には、ソフトウエア「BELMaster」を用いた。結果を表1に示した。
【0090】
[BET比表面積の測定]
(実施例1、3~4)
得られた金属有機構造体についてBET比表面積を測定した。具体的には、金属有機構造体の温度77Kにおける窒素吸脱着曲線を測定した。測定結果をソフトウエア「BELMaster」により解析することでBET比表面積を算出した。結果を表1に示した。
【0091】
[粉末X線回折測定]
(実施例3)
得られた金属有機構造体について粉末X線回折(PXRD)測定を行った。粉末X線回折測定にはリガク(Rigaku)全自動多目的X線回折装置 SmartLabを用いた。室温において、粉末試料にCuK特性X線(λ=1.5418Å)を照射し、D/teX Ultra(1D)detectorにより試料を回転させながら回折パターンを検出した。結果を
図3(a)に示す。この結果は、結晶中の溶媒を除去する前のものである。また、金属有機構造体[Ni
2L
13]の粉末X線回折のシミュレーション結果を
図3(a)に示す。シミュレーション結果は、Dinca. M, Dailly. A, Long. J. R, Chem. Eur. J. 2008, 14, 10280-10285にて報告されているものである。金属有機構造体[Ni
2L
13]の粉末X線回折の実測結果は、シミュレーション結果とおおよそ一致した。
【0092】
(実施例4)
得られた金属有機構造体について実施例3と同様にして粉末X線回折(PXRD)測定を行った。結果を
図3(b)に示す。この結果は、結晶中の溶媒を除去する前のものである。また、金属有機構造体[Cu
2L
13]の粉末X線回折のシミュレーション結果を
図3(b)に示す。シミュレーション結果は、Dinca. M, Dailly. A, Long. J. R, Chem. Eur. J. 2008, 14, 10280-10285にて報告されているものである。金属有機構造体[Cu
2L
13]の粉末X線回折の実測結果は、シミュレーション結果とおおよそ一致した。
【0093】
【0094】
表1には、金属有機構造体であるMIL-125及びNH2-MIL-125について細孔サイズ、BET比表面積、イソプレン吸着量及びイソプレンの吸着量と2-メチルブタンの吸着量との比率の文献値(Kim, S., Ahn, W., catalysis today, 2013, 204, 85-93.参照)を併記した。