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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130869
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】接眼鏡筒
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/00 20060101AFI20230913BHJP
   G02B 21/18 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
G02B21/00
G02B21/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035426
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】322004393
【氏名又は名称】株式会社エビデント
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100182936
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】民部田 洸介
(72)【発明者】
【氏名】正村 泉
(72)【発明者】
【氏名】牧田 翔
(72)【発明者】
【氏名】谷 洋輔
【テーマコード(参考)】
2H052
【Fターム(参考)】
2H052AA13
2H052AB10
2H052AB18
2H052AB26
2H052AD31
2H052AF14
2H052AF22
(57)【要約】
【課題】顕微鏡のアイポイントを適切な高さに維持しながらAR表示機能を提供する。
【解決手段】接眼鏡筒200は、接眼レンズ103を装着する、顕微鏡用の接眼鏡筒である。接眼鏡筒200は、顕微鏡からの光で光学像が形成される像面に補助画像を重ねるプロジェクタ210を備える。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接眼レンズを装着する、顕微鏡用の接眼鏡筒であって、
顕微鏡からの光で光学像が形成される像面に補助画像を重ねる重畳装置を備える
ことを特徴とする接眼鏡筒。
【請求項2】
請求項1に記載の接眼鏡筒において、
前記重畳装置は、前記補助画像を前記像面に投影するプロジェクタであり、
前記接眼鏡筒は、さらに、
前記重畳装置からの光を前記顕微鏡からの光の光路へ合流させる第1の光学素子と、
前記重畳装置からの光と前記顕微鏡からの光の両方の進行方向を折り返す折り返し光学系と、
前記第1の光学素子と前記折り返し光学系の間に配置された結像レンズと、を備える
ことを特徴とする接眼鏡筒。
【請求項3】
請求項2に記載の接眼鏡筒において、
前記接眼鏡筒は、デジタルカメラを装着する3眼鏡筒であり、さらに、
前記顕微鏡からの光を前記接眼レンズへ向かう光と前記デジタルカメラへ向かう光に分割する第2の光学素子を備える
ことを特徴とする接眼鏡筒。
【請求項4】
請求項3に記載の接眼鏡筒において、さらに、
前記顕微鏡からの光の入射口が形成された、前記接眼鏡筒を前記顕微鏡に締結する締結部と、
前記デジタルカメラと前記第2の光学素子の間に配置された第2の結像レンズと、を備え、
前記第2の光学素子は、前記結像レンズと前記締結部の間に配置される
ことを特徴とする接眼鏡筒。
【請求項5】
請求項4に記載の接眼鏡筒において、
前記結像レンズは、前記第2の結像レンズの焦点距離とは異なる焦点距離を有する
ことを特徴とする接眼鏡筒。
【請求項6】
請求項4に記載の接眼鏡筒において、
前記第2の結像レンズは、前記結像レンズの焦点距離よりも短い焦点距離を有する
ことを特徴とする接眼鏡筒。
【請求項7】
請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載の接眼鏡筒において、
前記第2の結像レンズは、前記接眼鏡筒の筐体外部に露出しないように、前記筐体内に設けられる
ことを特徴とする接眼鏡筒。
【請求項8】
請求項3乃至請求項7のいずれか1項に記載の接眼鏡筒において、
前記接眼鏡筒は、
右目用の光路と左目用の光路を有する、実体顕微鏡に取り付けられる接眼鏡筒であり、
前記右目用の光路と前記左目用の光路の他方に配置された、光量を抑制する光学素子をさらに備え、
前記第2の光学素子は、前記右目用の光路と前記左目用の光路の一方に配置される
ことを特徴とする接眼鏡筒。
【請求項9】
請求項3乃至請求項8のいずれか1項に記載の接眼鏡筒において、
前記第2の光学素子は、入射光に対して透過光を反射光よりも多く形成するビームスプリッタである。
ことを特徴とする接眼鏡筒。
【請求項10】
請求項2乃至請求項9のいずれか1項に記載の接眼鏡筒において、
前記接眼鏡筒は、右目用の光路と左目用の光路を有する、実体顕微鏡に取り付けられる接眼鏡筒であり、
前記第1の光学素子は、
前記右目用の光路に配置され、前記重畳装置からの光を前記右目用の光路へ合流させる第1の右目用光学素子と、
前記左目用の光路に配置され、前記重畳装置からの光を前記左目用の光路へ合流させる第1の左目用光学素子と、を含む
ことを特徴とする接眼鏡筒。
【請求項11】
請求項10に記載の接眼鏡筒において、さらに、
前記重畳装置からの光を前記第1の右目用光学素子へ向かう光と前記第1の左目用光学素子へ向かう光へ分割する第3の光学素子と、
前記右目用の光路に形成される右目用の補助画像の位置を調整する第1の調整部と、
前記左目用の光路に形成される左目用の補助画像の位置を調整する第2の調整部と、を備え、
前記第1の調整部と前記第2の調整部の一方は、前記重畳装置と前記第3の光学素子との間の光路上に配置された、向きを調整可能な第1の反射部材を含み、
前記第1の調整部と前記第2の調整部の他方は、前記第3の光学素子と前記第1の右目用光学素子又は前記第1の左目用光学素子との間の光路上に配置された、向きを調整可能な第2の反射部材を含む
ことを特徴とする接眼鏡筒。
【請求項12】
請求項2乃至請求項11のいずれか1項に記載の接眼鏡筒において、さらに、
前記折り返し光学系よりも前記接眼レンズ側に設けられた、アイポイントの高さを調整する高さ調整部を備える
ことを特徴とする接眼鏡筒。
【請求項13】
請求項12に記載の接眼鏡筒において、
前記高さ調整部は、
前記接眼レンズが装着され、水平方向の軸周りにあおり方向に回動する回動部と、
前記回動部の前記軸に取り付けられた、前記回動部の回転量の1/2だけ前記軸周りに回転する反射部材と、を含む
ことを特徴とする接眼鏡筒。
【請求項14】
請求項2乃至請求項13のいずれか1項に記載の接眼鏡筒において、
前記第1の光学素子は、入射光に対して透過光を反射光よりも多く形成するビームスプリッタである。
ことを特徴とする接眼鏡筒。
【請求項15】
請求項2乃至請求項14のいずれか1項に記載の接眼鏡筒において、
前記結像レンズは、前記接眼鏡筒の筐体外部に露出しないように、前記筐体内に設けられる
ことを特徴とする接眼鏡筒。
【請求項16】
請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載の接眼鏡筒において、さらに、
前記接眼レンズを備え、
前記接眼レンズが凹レンズである
ことを特徴とする接眼鏡筒。
【請求項17】
請求項1乃至請求項16のいずれか1項に記載の接眼鏡筒において、
前記接眼鏡筒は、単一の筐体からなる
ことを特徴とする接眼鏡筒。
【請求項18】
請求項1乃至請求項17のいずれか1項に記載の接眼鏡筒において、
前記重畳装置は、前記接眼鏡筒に取り付けられる2本の接眼レンズの間の中心線からオフセットした位置に設けられる
ことを特徴とする接眼鏡筒。
【請求項19】
請求項1乃至請求項18のいずれか1項に記載の接眼鏡筒において、さらに、
前記接眼鏡筒の背面に、前記重畳装置と信号をやりとりするためのケーブルが挿抜されるコネクタを備える
ことを特徴とする接眼鏡筒。
【請求項20】
請求項1乃至請求項19のいずれか1項に記載の接眼鏡筒において、さらに、
前記接眼レンズが装着される前記接眼鏡筒の前面に、前記重畳装置への指示を入力するための操作部を備える
ことを特徴とする接眼鏡筒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、接眼鏡筒に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボット等による作業の自動化が進む現在においても、手作業での組み立てが要求される製品は少なくなく、例えば、医療機器はその一例である。医療機器のような精密機器の組み立ては、細かな作業も多いため、顕微鏡下で行われることが多く、対象物を両目で立体視可能な実体顕微鏡がしばしば利用される。
【0003】
しかしながら、対象物を観察しながら組み立て作業を行っている最中に手順書を確認するためには、接眼レンズから一旦目を離して、手順書が表示されているディスプレイ等に視線を移さなければならない。そして、確認後は、改めて接眼レンズを覗いて組み立て作業を継続することになるため、作業効率が上がりにくい。
【0004】
このような課題に関連する技術は、例えば、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載の顕微鏡システムでは、顕微鏡の中間像位置に画像(以降、この画像をAR画像という。)を投影することで、接眼レンズを覗いたまま必要な情報を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/042413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の顕微鏡システムでは、プロジェクタを含む中間鏡筒を接眼鏡筒と顕微鏡本体部分との間に取り付けることでAR画像を投影する構成が採用されている。しかしながら、顕微鏡に中間鏡筒が追加されると、予め良好な高さに設計されているアイポイントが中間鏡筒の高さの分だけ高くなってしまう。アイポイントの高さの変化は、システムのエルゴノミック性を劣化させる虞があり、観察時の利用者の姿勢にも悪影響が及んでしまう。
【0007】
以上のような実情を踏まえ、本発明の一側面に係る目的は、顕微鏡のアイポイントを適切な高さに維持しながらAR表示機能を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る接眼鏡筒は、接眼レンズを装着する顕微鏡用の接眼鏡筒であって、顕微鏡からの光で光学像が形成される像面に補助画像を重ねる重畳装置を備える。
【発明の効果】
【0009】
上記の態様によれば、顕微鏡のアイポイントを適切な高さに維持しながらAR表示機能を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る顕微鏡システムの構成を示したである。
図2】本発明の一実施形態に係る顕微鏡の構成を示した図である。
図3】像面に形成される画像の構成を説明するための図である。
図4】斜め前方から見た本発明の一実施形態に係る顕微鏡の斜視図である。
図5】斜め後方から見た本発明の一実施形態に係る顕微鏡の斜視図である。
図6】本発明の一実施形態に係る接眼鏡筒の斜視図である。
図7】本発明の一実施形態に係る接眼鏡筒の正面図である。
図8】本発明の一実施形態に係る接眼鏡筒の上面図である。
図9】本発明の一実施形態に係る接眼鏡筒の構成を示した図である。
図10】斜め前方から見た本発明の一実施形態に係る接眼鏡筒内の光路を示した図である。
図11】斜め前方から見た本発明の一実施形態に係る接眼鏡筒内の光学系を示した図である。
図12】斜め後方から見た本発明の一実施形態に係る接眼鏡筒内の光路を示した図である。
図13】斜め後方から本発明の一実施形態に係る接眼鏡筒内の光学系を示した図である。
図14】実体顕微鏡の観察光路から分岐した光を撮像装置へ導く構成を示した図である。
図15】斜め上方から見たプロジェクタ210から出射した光を実体顕微鏡の観察光路へ導く構成を示した図である。
図16】上方から見たプロジェクタ210から出射した光を実体顕微鏡の観察光路へ導く構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る顕微鏡システムの構成を示したである。図2は、本発明の一実施形態に係る顕微鏡の構成を示した図である。図3は、像面に形成される画像の構成を説明するための図である。図1に示す顕微鏡システム1は、利用者が接眼レンズ103を覗いたまま行う顕微鏡下での作業中に、必要な情報を利用者に提供するものである。図1から図3を参照しながら、顕微鏡システム1の構成について説明する。
【0012】
顕微鏡システム1は、図1に示すように、顕微鏡100と、複数の入力装置400と、モニタ500と、Webカメラ600と、制御装置700と、を備えている。
【0013】
顕微鏡100は、接眼レンズ103を用いた目視観察と撮像装置300を用いたデジタル撮影の両方に対応可能な実体顕微鏡である。顕微鏡100は、図2に示すように、目視観察のため、右目用の光路と左目用の光路を独立に有し、右目用の光路と左目用の光路のそれぞれに形成された試料の光学像を接眼レンズ103(接眼レンズ103a、接眼レンズ103b)経由でそれぞれの目で観察することで、試料を立体的に観察することができる。このため、顕微鏡100は、例えば、精密機器の組み立て作業などの用途に好適である。
【0014】
顕微鏡100は、焦準ハンドル110を備えている。焦準ハンドル110を操作することで、試料と対物レンズ101の間の距離を変更して試料へピントを合わせることができる。
【0015】
顕微鏡100は、ズームハンドル120で操作可能なズームレンズ102(ズームレンズ102a、ズームレンズ102b)を備えている。ズームハンドル120を操作することで、接眼レンズ103を覗いて試料の観察を継続しながら観察倍率を変更することができる。
【0016】
顕微鏡100は、着脱自在な接眼鏡筒200を備えている。接眼鏡筒200は、実体顕微鏡に取り付けられる顕微鏡用の接眼鏡筒であり、その内部に、上述した右目用の光路と左目用の光路を有している。接眼鏡筒200は、接眼レンズ103(接眼レンズ103a、接眼レンズ103b)と撮像装置300を装着する3眼鏡筒である。
【0017】
接眼鏡筒200は、顕微鏡100との着脱構造として丸アリ継手201を有している。丸アリ継手201は、接眼鏡筒200を顕微鏡100に着脱可能に締結する締結部である。丸アリ継手201には、顕微鏡100からの光が入射する入射口が形成されている。
【0018】
接眼鏡筒200は、撮像装置300との着脱構造として丸アリ継手202を有している。丸アリ継手202は、接眼鏡筒200を撮像装置300に着脱可能に締結する締結部である。丸アリ継手202には、接眼鏡筒200からの光が撮像装置300へ出射する出射口が形成されている。
【0019】
接眼鏡筒200は、プロジェクタ210を備えている。プロジェクタ210は、接眼鏡筒200が顕微鏡100に装着された状態で顕微鏡100からの光で試料の光学像が形成される像面に、利用者が必要とする情報を補助画像として投影する。プロジェクタ210は、例えば、液晶デバイス、DMD(登録商標)デバイス、有機ELデバイスで構成されてもよく、単板式であっても3板式であってもよい。
【0020】
プロジェクタ210は、補助画像を像面に投影して光学像に重畳する重畳装置である。より具体的には、プロジェクタ210は、制御装置700からの命令により指定された補助画像を像面に投影する。これにより、利用者は、接眼レンズ103を覗くことで、例えば、図3に示すような、像面に形成されている、補助画像B1が光学像A1上に重畳した重畳画像を観察することができる。
【0021】
利用者は、操作部230を操作することで、プロジェクタ210の投影機能のON/OFFを切り替えて、像面への補助画像の重畳の開始又は停止する指示することができる。
【0022】
なお、補助画像は、現実の試料の光学像上に重ねて表示される拡張現実に相当する。このため、以降では、補助画像をAR画像ともいい、また、補助画像を像面に投影すること、つまり、利用者が補助画像を視覚的に認識可能とすること、をAR表示ともいう。
【0023】
プロジェクタ210からの光は、投影レンズ211とビームスプリッタ213と調整機構(調整機構212、調整機構214)を経由して右目用と左目用の光路へ導かれる。調整機構212と調整機構214は、像面上における補助画像の位置を調整する機構である。
【0024】
以降では、右目用の光路と左目用の光路をまとめて観察光路ともいう。また、プロジェクタ210から観察光路に合流するまでの光路をAR光路という。さらに、後述するように観察光路から撮像装置300へ分岐した光路を撮像光路という。
【0025】
接眼鏡筒200に設けられた右目用と左目用の光路は、基本的に同様の構成を有している。具体的には、接眼鏡筒200は、右目用と左目用の光路のそれぞれに、ビームスプリッタ224(ビームスプリッタ224a、ビームスプリッタ224b)、結像レンズ225(結像レンズ225a、結像レンズ225b)、折り返し光学系226(折り返し光学系226a、折り返し光学系226b)を備えている。なお、ビームスプリッタ224は、第1の光学素子の一例である。これらの光学系を通過した光は、その後、アイポイント高さ調整機構227と目幅調整機構228を経由して接眼レンズ103へ導かれる。
【0026】
ただし、右目用と左目用の光路は、その一方にのみ、撮像光路へ光を導くためのビームスプリッタ221が設けられているという点で、異なっている。なお、ビームスプリッタ221は、第2の光学素子の一例である。また、右目用と左目用の光路のうちビームスプリッタ221が設けられていない光路には、ビームスプリッタ221の代わりにNDプリズム222が設けられている。
【0027】
右目用と左目用の光路のうちビームスプリッタ221が設けられた光路では、ビームスプリッタ221へ入射した光の一部が撮像光路に導かれる。そのため、その分だけ接眼レンズ103まで到達する光量が少なくなる。NDプリズム222は、ビームスプリッタ221によって撮像光路に導かれる光量と同じだけ入射光を減光するものであり、これにより、右目用と左目用の光路から接眼レンズ103に到達する光量の差を小さく抑えるという役割を担っている。
【0028】
顕微鏡100は、試料を撮像し、試料のデジタル画像を取得する撮像装置300を備えている。撮像装置300は、丸アリ継手202によって接眼鏡筒200に装着される。接眼鏡筒200内の撮像光路には、観察光路上の結像レンズ225とは別の結像レンズ223が設けられている。結像レンズ223は、第2の結像レンズの一例であり、観察光路からビームスプリッタ221によって撮像光路に導かれた光を撮像装置300の撮像面に集光する。
【0029】
撮像装置300は、二次元イメージセンサを有するデジタルカメラである。イメージセンサは、特に限定しないが、例えば、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサなどである。撮像装置300が取得したデジタル画像は、制御装置700へ出力される。また、デジタル画像は、モニタ500へ直接出力されてもよい。
【0030】
入力装置400及びモニタ500は、制御装置700に接続されている。入力装置400は、特に限定しないが、図1に示すように、例えば、マウス401、キーボード402、フットスイッチ403、バーコードリーダ404などを含んでもよい。モニタ500は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどである。Webカメラ600は、撮影した画像を、例えばインターネットなどのネットワーク経由で制御装置700へ送信する。Webカメラ600は、例えば、顕微鏡システム1を利用する利用者を撮影する。
【0031】
以上のように構成された顕微鏡システム1によれば、プロジェクタ210が像面に補助画像を投影することにより、利用者は、接眼レンズ103から目を離すことなく必要な情報を得ることができる。即ち、AR表示機能を利用して必要な情報を得ることができる。
【0032】
さらに、顕微鏡システム1は、既存の顕微鏡に対する拡張機能である上述したAR表示機能を、機能拡張のための中間鏡筒を用いて実現する代わりに、接眼鏡筒200内に、補助画像を像面に投影するための構成一式を収容することによって実現している。これにより、顕微鏡100のアイポイントの高さを既存の顕微鏡のアイポイントの高さから大きく変わってしまうことを回避している。即ち、接眼鏡筒200及び顕微鏡システム1によれば、顕微鏡のアイポイントを適切な高さに維持しながらAR表示機能を提供することができる。
【0033】
以下、AR表示機能を提供する接眼鏡筒200についてさらに詳細に説明する。図4は、斜め前方から見た本発明の一実施形態に係る顕微鏡の斜視図である。図5は、斜め後方から見た本発明の一実施形態に係る顕微鏡の斜視図である。図6は、本発明の一実施形態に係る接眼鏡筒の斜視図である。図7は、本発明の一実施形態に係る接眼鏡筒の正面図である。図8は、本発明の一実施形態に係る接眼鏡筒の上面図である。まず、図4から図8を参照しながら、接眼鏡筒200の外観形状について注目して、接眼鏡筒200を説明する。
【0034】
接眼鏡筒200では、図4、及び、図6から図8に示すように、接眼レンズ103が装着される前面に、プロジェクタ210への指示を入力するための操作部230が設けられる。さらに、接眼鏡筒200では、図4から図8に示すように、側面にはAR表示機能付きの接眼鏡筒200の主電源のスイッチ240が設けられている。
【0035】
操作部230には、図7に示すように、AR表示機能のON/OFFを切り替えるスイッチ231と、AR表示の明るさを調整するスイッチ232とスイッチ233が設けられている。スイッチ232は、AR表示の明るさを明るくするためのスイッチである。スイッチ232が押下されることでプロジェクタ210から出射される光量が増加する。一方で、スイッチ233は、AR表示の明るさを暗くするためのスイッチである。スイッチ232が押下されることでプロジェクタ210から出射される光量が減少する。
【0036】
図7及び図8に示すように、操作部230とスイッチ240はいずれも接眼レンズ103を覗いている利用者の左側に位置するように配置されている。このように操作部230とスイッチ240を利用者に対して同じ方向にまとめて配置することで、利用者が各種のスイッチ操作を片手で行うことが可能となっている。
【0037】
図7に示すように、接眼鏡筒200を正面から見ると、双眼の接眼レンズ103の中間を通る平面P上に、顕微鏡100への締結部である丸アリ継手201と、撮像装置300への締結部である丸アリ継手202が設けられている。つまり、丸アリ継手201の中心軸と丸アリ継手202の中心軸は、いずれもおよそ平面Pに一致している。
【0038】
接眼レンズ103を覗いている利用者の正中線はおよそ平面P上に位置することになる。このため、対物レンズ101からの光線が入射する入射口が形成された丸アリ継手201が平面P上に設けられることで、観察対象の試料が接眼レンズ103を覗いている利用者の正面に位置することになる。このような構成は、利用者が接眼レンズ103を覗きながら行う試料に対する各種作業を容易にする上で重要であり、接眼鏡筒200を備える顕微鏡100が高い作業性を確保することに貢献する。
【0039】
接眼鏡筒200は、拡張機能であるAR表示を実現する構成を平面Pに対して片側、より具体的には、正面から見て左側、に収容している。即ち、プロジェクタ210は、接眼レンズ103が取り付けられる2本の接眼レンズ(接眼レンズ103a、接眼レンズ103b)の間の中心線からオフセットした位置に設けられている。このため、接眼鏡筒200は、平面Pに対して対称な形状ではなく、図4から図8に示すように、左側に突出した形状を有している。より詳細には、図4から図6、及び、図8に示すように、左側に突出した部分がさらに後方にも伸長した形状を有している。
【0040】
このような形状は、片側(左側)への突出量が大きくなりすぎることを回避しながら、接眼鏡筒200内にAR表示機能を提供する構成を収容するためのスペースを確保することを可能とする。また、着脱構造(締結部)の後方に大きな背面空間を確保することが可能となるため、図4及び図5に示すように、確保された背面空間を架台の支柱を配置する空間として利用することができる。これにより、接眼鏡筒200によれば、他の顕微鏡製品との高い互換性を維持しながら、AR表示機能を提供することができる。
【0041】
接眼鏡筒200の背面、より具体的には、左側に突出し後方に伸長した部分の背面には、図5に示すように、プロジェクタ210と信号をやり取りするためのケーブルが挿抜されるコネクタ250が設けられている。プロジェクタ210は、左側に突出し後方に伸長した部分の最奥部、つまり、コネクタ250の付近に、正面に向けて収容されている。
【0042】
コネクタ250には、具体的には、電源ケーブル、制御用ケーブル、映像入力用ケーブルが挿抜され、これらのケーブルによってプロジェクタ210に電力や信号が供給される。なお、3本のケーブルのうち、制御用ゲーブル、映像入力用ケーブルの他端は、制御装置700に接続される。
【0043】
図9は、本発明の一実施形態に係る接眼鏡筒の構成を示した図である。図10は、斜め前方から見た本発明の一実施形態に係る接眼鏡筒内の光路を示した図である。図11は、斜め前方から見た本発明の一実施形態に係る接眼鏡筒内の光学系を示した図である。図12は、斜め後方から見た本発明の一実施形態に係る接眼鏡筒内の光路を示した図である。図13は、斜め後方から本発明の一実施形態に係る接眼鏡筒内の光学系を示した図である。図14は、実体顕微鏡の観察光路から分岐した光を撮像装置へ導く構成を示した図である。図15は、斜め上方から見たプロジェクタ210から出射した光を実体顕微鏡の観察光路へ導く構成を示した図である。図16は、上方から見たプロジェクタ210から出射した光を実体顕微鏡の観察光路へ導く構成を示した図である。以下、図9から図16を参照しながら、接眼鏡筒200の内部構成について注目して、接眼鏡筒200を説明する。
【0044】
対物レンズ101及びズームレンズ102を経由した光は、図9に示すように、丸アリ継手201に形成された入射口201aから平行光束として接眼鏡筒200へ入射する。
【0045】
顕微鏡100から接眼鏡筒200に入射した光のうち、右目用の光路と左目用の光路の一方(この例では左目用の光路)を進行する光は、例えば図9から図11などに示すように、まず、ビームスプリッタ221に入射する。ビームスプリッタ221は、図9に示すように、顕微鏡100からの光を接眼レンズ103へ向かう光(つまり、観察光路を進行する光)と撮像装置300へ向かう光(つまり、撮像光路を進行する光)に分割する。
【0046】
このような観察光路から撮像光路を分岐させるビームスプリッタ221を、AR光路を観察光路に合流させるビームスプリッタ224よりも入射側に配置する構成では、プロジェクタ210からの光が撮像装置300へ入射することを防ぐことができる。これにより、試料からの光のみを撮像装置300へ導くことができるため、撮像装置300で、AR画像が写り込んでいない試料のデジタル画像を取得することができる。デジタル画像にAR画像が含まれないことで、例えば人工知能を用いたデジタル画像の解析において、AR画像が画像解析の妨げとなることなく、試料の状態を正しく判断することができる。
【0047】
ビームスプリッタ224をビームスプリッタ221よりも入射側に配置した構成でも、露光タイミングと投影タイミングが重ならないように制御することで、撮像装置300で、AR画像が写り込んでいない試料のデジタル画像を取得することができる。ただし、この場合、特にプロジェクタ210が面順次方式を採用している場合には、光学像と補助画像の明るさを個別に調整することが困難になる。従って、ビームスプリッタ221は、ビームスプリッタ224よりも入射側に配置されることが望ましい。なお、デジタル画像とAR画像の合成は、制御装置700上で任意に実行することが可能である。
【0048】
ビームスプリッタ221は、入射光に対して透過光を反射光よりも多く形成するビームスプリッタであり、反射光路である撮像光路よりも透過光路である観察光路により多くの光を導くように構成されている。具体的には、ビームスプリッタ221は、特に限定しないが、例えば、8割を透過し且つ2割を反射する透過優位の光学特性を有している。これにより、撮像装置300でデジタル画像を取得しながら、試料を明るく観察することを可能としている。
【0049】
一方で、顕微鏡100から接眼鏡筒200に入射した光のうち、右目用の光路と左目用の光路の他方(この例では右目用の光路)を進行する光は、図14及び図15に示すように、まず、NDプリズム222に入射する。
【0050】
NDプリズム222は、光量を抑制する光学素子である。NDプリズム222は、左右の光路での光量差を抑制するために設けられているため、ビームスプリッタ221を透過する光の割合に合わせて入射光を透過すればよい。ビームスプリッタ221が8割透過する光学特性を有している場合には、NDプリズム222も、20%の減光性能を有することが望ましい。
【0051】
NDプリズム222は、左右の光路での光路長差を抑制するためにも用いられる。ビームスプリッタ221とプリズム長を合わせることにより、右目用と左目用の光路の光路長も合わせることができるため、周辺光量などの光学性能の差も抑制することができる。
【0052】
ビームスプリッタ221を反射し、撮像光路に導かれた光は、図9及び図14に示すように、結像レンズ223に入射する。結像レンズ223は、ビームスプリッタ221と撮像装置300の間に配置されている。
【0053】
接眼鏡筒内に配置される結像レンズは、しばしば入射口付近に設けられる。これに対して、接眼鏡筒200では、ビームスプリッタ221が結像レンズ223と丸アリ継手201の間に設けられている。これにより、結像レンズ223は、接眼鏡筒200の筐体外部に露出しないように筐体内に設けられることになるため、結像レンズ223が汚れにくくなり、光学性能の劣化が生じにくくなる。
【0054】
結像レンズ223に入射した光は、収斂光束に変換され、図9図12、及び、図14に示すように、反射部材229で鉛直上方に向けて反射する。その後、丸アリ継手202に形成された出射口を経由して撮像装置300の撮像面上に集光する。
【0055】
なお、撮像光路へ光を導くビームスプリッタ221は、入射光を接眼鏡筒200の背面に向けて反射するように配置されている。即ち、撮像光路は、観察光路から接眼鏡筒200の背面に向かって延び、さらに、丸アリ継手202の下方で向きを変えて、接眼鏡筒200の上部に装着された撮像装置300へ向かって鉛直上方に向かって延びている。これにより、丸アリ継手201と丸アリ継手202の両方を、図8に示すように、接眼レンズ103の中心を通る平面P上に配置しながら、撮像装置300へ至る光線の折り返し回数を最小限に抑えている。
【0056】
丸アリ継手201と丸アリ継手202を平面P上に配置する構成は、撮像装置300が装着された接眼鏡筒200の重心の偏りに起因する悪影響を最小限に抑える上で望ましい。例えば、丸アリ継手201と丸アリ継手202が共有する平面Pが鉛直方向と平行になるため、接眼鏡筒200の上面に固定される比較的重い構造物である撮像装置300の影響を小さくすることが可能であり、その結果、例えば、丸アリ継手201に過度な曲げ応力を加わることを回避することができる。
【0057】
ビームスプリッタ221とNDプリズム222のそれぞれを通過した左右の光路の光は、その後、図9から図13、及び、図15に示すように、それぞれビームスプリッタ224a、ビームスプリッタ224bに入射する。一方で、AR光路からの光も、図9から図13図15、及び、図16に示すように、ビームスプリッタ224aとビームスプリッタ224bに入射する。
【0058】
より詳細には、プロジェクタ210からの光は、まず、投影レンズ211で平行光束に変換される。投影レンズ211は、視野内に含まれるプロジェクタ210の投影素子(例えば、デジタルミラーデバイスのミラー)の数、つまり、画素数が最も多くなり、且つ、プロジェクタ210の像が接眼レンズ103の視野を満たす、つまり、プロジェクタ210の像が視野数以上の大きさに投影される、ような倍率に設定されている。また、投影レンズ211は、画素サイズよりも細かい分解能が得られるような開口数(NA)を有しており、これにより、高精細な補助画像を、視野全面に投影することができる。
【0059】
投影レンズ211で平行光束に変換された光は、その後、調整機構212を反射した後に、ビームスプリッタ213へ入射する。ビームスプリッタ213は、入射光を、左目用の光路に置かれたビームスプリッタ224aへ向かう光と右目用の光路に置かれたビームスプリッタ224bへ向かう光へ分割する。具体的には、ビームスプリッタ213は、第3の光学素子の一例であり、5割を透過し且つ5割を反射する光学特性を有している。これにより、右目用の光路と左目用の光路とに均等に光を導くことができる。
【0060】
ビームスプリッタ213で分割された光のうちビームスプリッタ224aに向かう光は、直接ビームスプリッタ224aに入射する。一方で、ビームスプリッタ224bに向かう光は、調整機構214で反射した後にビームスプリッタ224bに入射する。
【0061】
2つの調整機構は、それぞれ、反射部材と、反射部材の反射面に対して2軸で反射部材が有する反射面の法線方向を調整可能な機構を有している。調整機構212に含まれる反射部材は、プロジェクタ210とビームスプリッタ213との間の光路上に配置されている。反射部材の向きを変えることで、調整機構212で反射した光の進行方向を変化させて、それによって、像面における左目用の補助画像の位置と右目用の補助画像の位置を調整することができる。なお、調整機構212は、主に左目用の光路に形成される左目用の補助画像の位置を調整するために用いられる。即ち、調整機構212は、左目用の光路に形成される左目用の補助画像の位置を調整する調整部である。
【0062】
一方、調整機構214に含まれる反射部材は、ビームスプリッタ213とビームスプリッタ224bの間の光路上に配置されている。反射部材の向きを変えることで、調整機構214で反射した光の進行方向を変化させて、それによって、像面における右目用の補助画像の位置を調整することができる。調整機構214は、右目用の光路に形成される右目用の補助画像の位置を調整するために用いられる。即ち、調整機構214右目用の光路に形成される右目用の補助画像の位置を調整する調整部である。
【0063】
接眼鏡筒200では、調整機構212と調整機構214のそれぞれで像面における補助画像の位置を調整することで、左右の光学像に対する左右の補助画像の位置を独立に調整することができる。これにより、光学像と補助画像の相対的な位置関係を個別に調整することができるため、光学像と補助画像の同時融像性を改善することができる。
【0064】
ビームスプリッタ224には、顕微鏡100からの光とプロジェクタ210からの光が入射する。ビームスプリッタ224は、図9に示すように、プロジェクタ210からの光を顕微鏡100からの光の光路へ合流させる。より詳細には、ビームスプリッタ224は、図15及び図16に示すように、左目用の光路に配置され、プロジェクタ210からの光を左目用の光路へ合流させる第1の左目用光学素子であるビームスプリッタ224aと、右目用の光路に配置され、プロジェクタ210からの光を右目用の光路へ合流させる第1の右目用光学素子であるビームスプリッタ224bを含んでいる。
【0065】
ビームスプリッタ224(ビームスプリッタ224a、ビームスプリッタ224b)は、入射光に対して透過光を反射光よりも多く形成するビームスプリッタであり、顕微鏡100からの光のロスを少なく抑えながらプロジェクタ210からの光と合成するように構成されている。具体的には、ビームスプリッタ224は、特に限定しないが、例えば、8割を透過し且つ2割を反射する透過優位の光学特性を有している。これにより、顕微鏡100からの光を大きく減光することなくプロジェクタ210からの光と合成することができる。
【0066】
ビームスプリッタ224で合成された光は、その後、結像レンズ225に入射する。ビームスプリッタ224で合成された光は、いずれも平行光束である。このため、どちらの光(顕微鏡100からの光とプロジェクタ210からの光)も結像レンズ225によって収斂光束に変換されて、同じ面上に像を形成する。これにより、光学像が形成される像面上に補助画像が形成される。より詳細は、図11に示すように、左目用の光路を進行する光は、結像レンズ225aによって収斂光束に変換され、右目用の光路を進行する光は、結像レンズ225bによって収斂光束に変換される。
【0067】
結像レンズ225で収斂光束に変換された光は、その後、図9に示すように、折り返し光学系226へ入射する。折り返し光学系226は、入射した光の進行方向を折り返す光学系であり、ここでは、鉛直上方に向かって進行するプロジェクタ210からの光と顕微鏡100からの光の両方の進行方向を下方へ向けて折り返す。
【0068】
折り返し光学系226は、図2及び図10から図13に示すように、左目用の光路に配置された折り返し光学系226aと、右目用光路に配置された折り返し光学系226bを含んでいる。折り返し光学系226(折り返し光学系226aと折り返し光学系226b)には、例えば、ポロプリズムを採用することができる。折り返し光学系226で光の進行方向を下方へ向けることで、アイポイントの高さが高くなりすぎることを防止して、アイポイントの高さを抑えることができる。
【0069】
接眼鏡筒200では、ビームスプリッタ224と折り返し光学系226の間に結像レンズ225が配置されている。これにより、結像レンズ225は、接眼鏡筒200の筐体外部に露出しないように筐体内に設けられることになるため、結像レンズ225が汚れにくくなり、光学性能の劣化が生じにくくなる。
【0070】
また、接眼鏡筒においてしばしば採用される、結像レンズを入射口付近に配置する構成と比較して、接眼鏡筒200では、結像レンズ225は、接眼鏡筒200内のより高い位置に配置される。このように、結像レンズ225を高い位置に、つまり、折り返し光学系226の近くに配置することで、折り返し光学系226から下方へ向かう光路を従来よりも長く確保することができる。これにより、アイポイントの高さをより低く設計することが可能となる。
【0071】
折り返し光学系226で下方に向けて出射した光は、その後、図9に示すように、アイポイント高さ調整機構227と目幅調整機構228を通って接眼レンズ103に入射する。
【0072】
アイポイント高さ調整機構227は、折り返し光学系226よりも接眼レンズ103側に設けられた、アイポイントの高さを調整する高さ調整部である。アイポイント高さ調整機構227は、図9に示すように、水平方向の軸周りに接眼レンズ103とともにあおり方向に回動する回動部227aと、回動部227aの軸に取り付けられた、回動部227aの回転量の1/2だけ軸周りに回転する反射部材227bと、を含んでいる。
【0073】
反射部材227bが回動部227aの回転量の1/2だけ回転することで、折り返し光学系226から反射部材227bへ入射する光の入射角と反射部材227bで反射した光の出射角とがそれぞれ回転量の1/2だけ大きく(又は小さく)なる。つまり、折り返し光学系226から反射部材227bへ入射する光が回転量と同じ角度だけ反射部材227bで偏向することになる。
【0074】
従って、回動部227aの向きによらず接眼レンズ103への光の入射角度は常に一定の角度に維持され、接眼レンズ103に対する結像位置も維持される。このため、観察性能の劣化などを生じさせることなく、利用者の身長などに応じてアイポイント高さ調整機構227でアイポイントの高さを自由に調整することができる。
【0075】
目幅調整機構228には、例えば、ジーテントップ型が採用される。ただし、その他のタイプの構造が採用されてもよい。目幅調整機構228を用いることで、利用者の瞳孔間距離に合わせて接眼レンズ103間の距離を調整することができる。
【0076】
アイポイント高さ調整機構227と目幅調整機構228を設けることで、アイポイントの高さや左右のアイポイントの間の距離を、利用者の身体的特徴(例えば、身長や座高、瞳孔間距離)に合わせて調整することができる。これにより、高いエルゴノミック性を実現して顕微鏡システム1の利用者の作業負担の軽減に貢献することができる。
【0077】
また、AR光路と観察光路が合流する位置よりも後段にアイポイント高さ調整機構227と目幅調整機構228が設けられていることで、これらの調整機構で発生する機械的な運動に起因する僅かな像ずれが光学像と補助画像で同じ量だけ生じることになる。このため、光学像と補助画像の同時融像性を維持しながら各種調整を行うことができる。
【0078】
アイポイント高さ調整機構227及び目幅調整機構228を通過した光は、接眼レンズ103に入射する。接眼レンズ103は、例えば、凹レンズであってもよく、顕微鏡100は、ガリレオ式の実体顕微鏡であってもよい。接眼レンズ103に凹レンズを用いることで、接眼鏡筒200をコンパクトに構成してもよい。利用者は、接眼レンズ103を覗くことで、光学像に補助画像が重畳した画像を確認することができる。
【0079】
以上のように構成された接眼鏡筒200では、上述したように、結像レンズ225を折り返し光学系226に近づけて配置することで、アイポイント高さを低く抑えることができる。このため、接眼鏡筒200にAR表示に必要な構成を収容することで、中間鏡筒を用いた場合と比較したアイポイント高さの上昇を抑えつつ、さらに、接眼鏡筒200単体でもアイポイント高さをより低く抑えることができるため、顕微鏡システム1全体で機能拡張に起因するアイポイント高さの上昇を抑えることができる。
【0080】
また、接眼鏡筒200では、観察用の結像レンズ225と撮像用の結像レンズ223を別々に設けている。このため、2つの結像レンズの間で焦点距離を異ならせることができる。具体的には、結像レンズ225は、結像レンズ223の焦点距離よりも短い焦点距離を有している。結像レンズ225の焦点距離を結像レンズ223の焦点距離も短くすることで、撮像装置300で接眼レンズ103を覗いて利用者が観察している試料の範囲よりも広い範囲の画像を得ることができる。さらに、結像レンズ225の焦点距離が短いことで、接眼鏡筒200を高さ方向に従来よりも薄く設計することが可能であり、接眼鏡筒200をコンパクトに構成することができる。さらに、撮像装置300の設置高さも低くなるため、撮像装置300が装着された接眼鏡筒200の重心を下げることもできる。
【0081】
また、AR表示機能を有する接眼鏡筒200は、単一の筐体内に観察光路とAR光路と撮像光路を有し、それらの位置関係は、筐体内で常に一定である。このため、中間鏡筒でAR表示機能を拡張する場合と比較して、AR表示機能を用いて観察を行う際に利用者が行うべき調整作業を大幅に減らすことができる。
【0082】
上述した実施形態は、発明の理解を容易にするために具体例を示したものであり、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。上述の実施形態を変形した変形形態および上述した実施形態に代替する代替形態が包含され得る。つまり、実施形態は、その趣旨および範囲を逸脱しない範囲で構成要素を変形することが可能である。また、1つ以上の実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより、新たな実施形態を実施することができる。また、各実施形態に示される構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよく、または実施形態に示される構成要素にいくつかの構成要素を追加してもよい。さらに、各実施形態に示す処理手順は、矛盾しない限り順序を入れ替えて行われてもよい。即ち、本発明の接眼鏡筒は、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲において、さまざまな変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0083】
1 顕微鏡システム
100 顕微鏡
101 対物レンズ
102、102a、102b ズームレンズ
103、103a、103b 接眼レンズ
130 支柱
200 接眼鏡筒
201、202 丸アリ継手
210 プロジェクタ
211 投影レンズ
212、214 調整機構
213、221、224、224a、224b ビームスプリッタ
222 NDプリズム
223、225、225a、225b 結像レンズ
226、226a、226b 折り返し光学系
227 アイポイント高さ調整機構
227a 回動部
227b、229 反射部材
228 目幅調整機構
230 操作部
250 コネクタ
300 撮像装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16