(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130879
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】免震構造及びその施工工法
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20230913BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
E04H9/02 331E
E04H9/02 331A
F16F15/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035437
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長屋 圭一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 朋成
(72)【発明者】
【氏名】木村 寛之
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139AC26
2E139AC33
2E139CA02
2E139CA22
2E139CC02
3J048AA01
3J048AA07
3J048BA08
3J048BG01
3J048BG04
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】高品質な免震構造を提供する。
【解決手段】下部支承部と、前記下部支承部の上方かつ構造物の下方に位置し、前記下部支承部に対して水平方向に移動可能な上部支承部と、前記上部支承部と前記構造物との隙間に充填されて硬化した充填物を有し、前記上部支承部と前記構造物とを接合する支持部と、を備える免震構造。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部支承部と、
前記下部支承部の上方かつ構造物の下方に位置し、前記下部支承部に対して水平方向に移動可能な上部支承部と、
前記上部支承部と前記構造物との隙間に充填されて硬化した充填物を有し、前記上部支承部と前記構造物とを接合する支持部と、を備える免震構造。
【請求項2】
前記上部支承部及び前記構造物の少なくとも1つに固定された、前記支持部を覆う部材をさらに備える、請求項1に記載の免震構造。
【請求項3】
前記構造物は前記支持部に接触するベースプレートを有し、
前記ベースプレートには、前記隙間と前記ベースプレートの上部とにつながる開口部が形成される、請求項1または2に記載の免震構造。
【請求項4】
前記充填物はモルタルである、請求項1から3のいずれか1項に記載の免震構造。
【請求項5】
下部支承部と、前記下部支承部の上方かつ構造物の下方に位置し、前記下部支承部に対して水平方向に移動可能な上部支承部と、を設置する設置工程、
前記構造物と前記上部支承部との隙間に充填物を充填する充填工程、及び
前記充填物を硬化させて前記構造物と前記上部支承部とを接合する工程を含む、
免震構造の施工方法。
【請求項6】
前記充填工程の前において、
前記構造物及び前記上部支承部の少なくとも1つに部材を固定して前記隙間を包囲する工程をさらに含む、請求項5に記載の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造及びその施工工法に関する。
【背景技術】
【0002】
上部構造物と下部構造物との間に免震装置が設置され、免震装置を介して上部構造物が支持される免震構造が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
大スパン架構をジャッキダウン工法で架設する場合等、免震装置に取り合う上部構造物脚部に施工時に回転変形が生じる場合、免震装置を水平に設置することが困難となる恐れがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、一態様として、下部支承部と、前記下部支承部の上方かつ構造物の下方に位置し、前記下部支承部に対して水平方向に移動可能な上部支承部と、前記上部支承部と前記構造物との隙間に充填されて硬化した充填物を有し、前記上部支承部と前記構造物とを接合する支持部と、を備える免震構造を提供する。
【0006】
また本発明は、一態様として、下部支承部と、前記下部支承部の上方かつ構造物の下方に位置し、前記下部支承部に対して水平方向に移動可能な上部支承部と、前記上部支承部と前記構造物との隙間に充填されて硬化した充填物を有し、前記上部支承部と前記構造物とを接合する支持部と、を備える免震構造を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高品質な免震構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】免震装置の説明図である。理解を容易にするため、上部支承部は透視し、外形だけ示している。
【
図4】実施形態による免震構造の断面図と側面図である。
【
図6】実施形態における施工工程を示すフローである。
【
図7】実施形態による免震構造の側面図であり、(a)ベント解体時の架構の状況、及び(b)免震構造の状況を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
図1~
図5に示すように、本発明の一実施形態に係る免震構造1は、下部構造物2と、下部構造物2の上方にある上部構造物3との間に形成される。免震構造1は、下部構造物2の上に設置された免震装置4と、免震装置4と上部構造物3との間に位置する接合部5とを主に備える。
【0010】
なお以下では、上部構造物3の架構が延びる水平な方向をX方向とし、X方向に直交する方向をY方向とする。免震装置4など各部材、装置の方向に関しては、下部構造物2及び上部構造物3に設置された状態に基づいて説明を行う。
【0011】
下部構造物2は、鉄筋コンクリート(RC)またはモルタルによって形成された構造物であり、上部構造物3の下方に間隔を空けて形成される。下部構造物2には免震装置4を載置するために直方体形状の架台21が形成されており、その上面は無収縮モルタルによって略水平に形成される。
【0012】
上部構造物3は、X方向において略水平に延びる鉄骨造の架構部33と、架構部33の端部に接合された脚部32と、脚部32の下端部を支持するベースプレート31と、梁34と、を備える。梁34は、Y方向に延びる鉄骨梁であり、その端部は脚部32に剛接される。
【0013】
架構部33は、脚部32などを介して免震装置4によって支持される構造物であり、免震装置4の設置前には、ベント支柱Bによって支持される(
図1)。また、梁34も、脚部32などを介して免震装置4によって支持される構造物であり、免震装置4の設置前においてはジャッキJによって支持される(
図2)。架構部33及び梁34は、本実施形態において鉄骨造構造物であるが、RC造など他種の構造物であってもよい。
【0014】
ベースプレート31は、上面視で矩形に形成された板状の鋼製部材である。ベースプレート31には、ベースプレート31を上下に貫通する開口部31Aが形成される(
図4、
図5)。実施形態において、開口部31Aは脚部32の内外において設けられるが、その個数、位置、または配置は、脚部32の形状など各設計条件等に応じて適宜設定される。
【0015】
脚部32は、上下に延びる鉄骨部材であり、架構部33及び梁34の端部に接合される。脚部32の下端部は、ベースプレート31に溶接により接合されている。脚部32は略矩形の断面を有する角筒状の部材であり、中心には中空部32Bが形成される。また、脚部32の側面部には、脚部32の外部と中空部32Bとを接続する開口部32Aが形成される。
【0016】
免震装置4は、
図1~
図5に示すように、下部構造物2と上部構造物3との間に設置される。免震装置4は、地震などの外力に起因する振動が上部構造物3と下部構造物2との間で伝達されることを抑制する機能を持つ。
【0017】
免震装置4は、本実施形態では球面滑り支承を備えた免震装置であり、下部支承部41と、上部支承部42と、下部支承部41及び上部支承部42の間に配置される滑動体43とを備える。
【0018】
下部支承部41は、下部構造物2に固定されるプレート412と、プレート412にボルトなどの接合部材を介して支持される下側滑動部411とを有する。
【0019】
下側滑動部411は、上面視で略矩形状の下部と曲面を有する上部とを有し、下側滑動部411下部の角部にはボルトを通す貫通孔が形成される。これらの貫通孔に通されたボルトによって、下側滑動部411はプレート412に接合される。
【0020】
プレート412は、上面視で略矩形状の板材であり、プレート412の角部には下側滑動部411と接合するためのボルトを通すネジ穴が形成される。プレート412の下面には、架台21に対する定着をとるための、上下に延びる頭付きスタッド412Aが複数個接合される。
【0021】
上部支承部42は、上部構造物3に接合部5を介して固定されるプレート422と、プレート422に接合部材を介して支持される上側滑動部421とを有する。プレート422は、上面視で矩形に形成された鋼製の板状部材であり、その上面は接合部5と接触する。
【0022】
下側滑動部411の上部は、上方に曲率中心を有する球殻の一部をなすように形成される。また、上側滑動部421は、下方に曲率中心を有する球殻の一部をなすように形成された部材である。上側滑動部421及び下側滑動部411の上部は、中心が一致するように上下に対向するとともに、同じ曲率を有するため上下に対称な形状を形成する。上側滑動部421及び下側滑動部411の上部は、厚さ数ミリ程度のステンレス製板材をプレス加工することによって形成される。
【0023】
滑動体43は、略円柱形状の部材であり、下方に曲率中心を持つ球面状の上面、及び、上方に曲率中心を持つ球面状の下面を有している。滑動体43は、下側滑動部411及び上側滑動部421の双方に接触した状態で保持される。下部支承部41と上部支承部42とが水平方向に相対移動する場合、滑動体43は、下側滑動部411及び上側滑動部421との接触を維持しつつ略水平方向に滑って移動する。
【0024】
接合部5は、
図1~
図5に示すように、プレート422と上部構造物3との間に形成される部材である。接合部5は、モルタルを硬化させることによって形成された支持部51と、支持部51の外周部を包囲するように設置された4枚の鋼製板材52とを備える(
図5、
図5)。
【0025】
支持部51は、上部構造物3と上部支承部42との間に形成された、略直方体形状の部材である。支持部51は、ベースプレート31と上部支承部42との間にモルタルを充填して硬化させることによって形成され、上部支承部42とベースプレート31とを接合し、両者の間で軸力及びせん断力などの荷重を伝達する機能を有する。
【0026】
板材52は、水平方向に延びる長方形の板材であり、それぞれが支持部51の側面を覆うように設置される。板材52の上端部は、隅肉溶接によってベースプレート31に固定される。また、板材52の下端部は、隅肉溶接によってプレート422に固定される。
【0027】
板材52は、ベースプレート31及びプレート422に溶接されることにより両者を接合し、せん断力を伝達する機能を有する。
【0028】
<施工工程>
免震構造1の施工工程について
図6のフローを用いて説明する。施工は、S1~S9の各工程によって構成される。
【0029】
作業者は、上部構造物3を構築した後でベントBを解体し、架構部33の支持を解除する(S1)。一方で、ジャッキJによる梁34の支持は維持された状態とする。ベントBの支持が解除されるため、
図7に点線で示すように、架構部33は自重によって下方に撓み、脚部32及びベースプレート31は架構部33のスパン中央に向けて回転し、傾く。
【0030】
工程S3では、免震装置4が、脚部32の下方に配置される。配置の方法としては、仮設材などによって脚部32から免震装置4を吊下げてもよいし、周囲の足場、支保工などによって免震装置4を支持してもよい。免震装置4は、プレート412、422などの各部材が水平となるように配置される。配置後、プレート422とベースプレート31との間には、隙間Gが形成される(
図4、
図7(b))。
【0031】
工程S5では板材52が設置される。板材52は、隙間Gを包囲するように配置される。さらに板材52の上部長辺はプレート422に、下部長辺はベースプレート31に、隅肉溶接によって接合される。
【0032】
次にモルタルの充填が行われる(S7)。作業者は、板材52同士の突合せ部分の間隙を利用して、または板材52に穿孔して、モルタルを隙間Gに注入する。
【0033】
モルタルの充填は開口部32Aを用いて確認することが可能である。詳細に述べると、プレート422とベースプレート31の間にモルタルが満たされると、モルタルは開口部31Aを介してベースプレート31の上方へ流出する。また、中空部32Bに侵入したモルタルは、さらに開口部32Aから外部に流出する。そのため、作業者は目視によって、モルタルの充填を確認することができる。
【0034】
充填後、十分な時間を取ってモルタルを硬化させ、その後ジャッキJが梁34から取り外される(S9)。このようにして免震構造1の施工が完了する。
【0035】
なお、ジャッキJの取り外し前に基礎21が施工される。具体的には、基礎21の配筋及び型枠設置がなされ、次いでコンクリートの打設と養生が行われる。プレート412は、スタッド412Aを介して基礎21に固定される。
【0036】
基礎21の施工は、任意のタイミングにおいて開始可能であり、工程S3~S7と並行して実施することができる。基礎21のコンクリートの養生期間と隙間Gに充填したモルタルの養生期間とを重複させることが、工期短縮の観点では望ましい。基礎21の施工を工程S1のジャッキダウン後に実施することにより、脚部32に生じた水平変位の影響を基礎21で吸収し、免震装置4へ変位の影響が及ぶことを防止できる。
【0037】
免震装置4設置(S3)の前に基礎21を施工する工程としてもよい。この場合、プレート412がまず基礎21上部に固定され、その後の工程S3において、免震装置4のうち下側滑動部411以上の部分がプレート412上に設置される。
【0038】
<動作>
地震などの外力に起因する振動が発生した場合には、上部構造物3と下部構造物2との間に、水平方向にずれる方向の力が働く。これにより、上部構造物3及び下部構造物2が、下側滑動部411、上側滑動部421、及び滑動体43を介して相対的に略水平方向に移動する。この移動によって、免震装置4による免震機能が発揮される。
【0039】
振動が終息すると、下側滑動部411、上側滑動部421及び滑動体43の形状及び重力により、各部材中心が上面視でほぼ一致するように、免震装置4の形状が復元される。
【0040】
<効果>
上記実施形態において免震構造1は、下部支承部41と、下部支承部41の上方かつ上部構造物3の下方に位置し、下部支承部41に対して水平方向に移動可能な上部支承部42と、接合部5とを備える。接合部5は、上部支承部42と上部構造物3との隙間Gに充填されて硬化したモルタル(充填物に相当)を有し、上部支承部42と上部構造物3とを接合する。
【0041】
また免震構造1の施工は、下部支承部41と上部支承部42とを設置する設置工程(S3)、上部構造物3と上部支承部42との隙間Gにモルタルを充填する充填工程(S7)、及びモルタルを硬化させて上部構造物3と上部支承部42とを接合する工程(S9)を含む。
【0042】
上記構成によって、免震構造1を正確に施工することができる。以下に、実施形態を用いて詳細に述べる。上部構造物3においては、免震構造1の施工前にベントBによる支持を取り外す必要がある。その際、
図7のように自重によって架構部33が撓み、これに伴って脚部32及びベースプレート31も傾く。
【0043】
ベースプレート31と上部支承部42との間に隙間Gが形成されているため、ベースプレート31の変形や傾きは、上部支承部42の方向や形状には影響しない。そのため、上部支承部42をベースプレート31に直接接触させる従来の工法と異なり、ベースプレート31の形状や姿勢の調整を行わなくとも、上部支承部42を水平に設置することが可能となる。特に、ベースプレート31とプレート422における接触面の削り出し加工(フェイシング加工)を行う必要がない。このように、上部構造物3の傾きや部材の歪みに対する特別の調整や作業がなくとも、免震構造1を正確にまたは容易に施工できる。
【0044】
また上記構成は、上部構造物3に回転変位が生じた状況で免震化する場合にも適用が可能であるため、様々な工程、工法に対応できる。ジャッキダウンによって上部構造物3を免震装置4の上に載置する工法に限らず、その他工法において上部構造物に回転が生じた場合にも免震構造1を適用し、生じた回転を隙間G(支持部51)において吸収することができる。このように、高品質な免震構造1に仕上げることができる。
【0045】
板材52は、上部支承部42及び上部構造物3の少なくとも何れかに接合され、前記支持部51を覆う。
【0046】
上部支承部42及び上部構造物3に接合された場合には、板材52は、せん断力を伝達する機能も発揮する。支持部51だけでなく、板材52によってもせん断力を伝達する機能が担われるので、上部支承部42と上部構造物3との接合がより強固なものとなる。また、板材52が支持部51(隙間G)の側方を覆うように設置されることにより、モルタル充填時の型枠としても機能する。そのため、型枠を別途用意する必要が無く、施工が迅速容易である。
【0047】
上部構造物3は支持部51に接触するベースプレート31を有し、ベースプレート31には、隙間Gとベースプレート31の上部とを接続する開口部31Aが形成される。
【0048】
上記構成では、開口部31Aは、モルタル充填時の充填確認用の窓、またはモルタル充填時における空気抜きの孔として機能する。作業者は、開口部31Aからモルタルが上方に流出したことを確認して、容易にモルタルの充填を確認し、正確に施工を実施できる。また、開口部31Aが空気抜きとして機能するため、隙間G内におけるモルタル充填不良の発生が防止される。
【0049】
上記実施形態では、隙間Gの充填物としてモルタルが使用される。モルタルは、硬化前の流動性が高いため、隙間G内部で空隙を作ることなく容易に充填される。また、コンクリートと同等の強度及び剛性を発揮するため、荷重を伝達する構造物として適当である。
【0050】
<変形例>
上記実施形態では、板材52は、ベースプレート31及びプレート422に溶接されたが、どちらか一方に溶接される構造となってもよい。また、支持部51が荷重を伝達する機能を有するため、板材52は設置されなくともよい。この場合、板材52の代わりに、木型枠などによって隙間Gが覆われ、モルタルの充填作業が行われる。
【0051】
免震装置4の種類は、球面滑り支承に限らない。したがって、積層ゴムなど様々な種類の装置が免震装置4として適用可能である。
【0052】
実施形態では隙間Gの充填物としてモルタルが使用されたが、モルタル以外の充填物が使用されてもよい。また、充填時における充填物の相は液相に限らず、ゲル状や粉状など充填物の性質に応じて様々な状態がとられ得る。
【0053】
支持部51には、充填物以外の部材が存在してもよい。例えば、支持部51の形状や大きさによっては、配筋やスタッドなどの部材が介在し得る。
【0054】
なお、脚部32は、H型など中空断面を持たない形状であってもよい。その他の部材に関しても、設計に応じて様々な断面形状とし得る。
【符号の説明】
【0055】
1 免震構造
2 下部構造物
3 上部構造物
4 免震装置
5 接合部