(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130894
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】非水系電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20230913BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230913BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230913BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20230913BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
H01M4/38 Z
H01M4/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035470
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】320011605
【氏名又は名称】MUアイオニックソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 貴大
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL18
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB29
(57)【要約】
【課題】優れた容量維持率を有する非水系電解液二次電池を提供する。
【解決手段】正極と、負極と、非水系電解液とを備える非水系電解液二次電池であって、前記負極が、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料を含有し、前記非水系電解液が、分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物を含有し、該Ma-Z結合を有する化合物において、Maは、長周期型周期表における5族金属原子を表し、Zはハロゲン原子を表す、非水系電解液二次電池。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、非水系電解液とを備える非水系電解液二次電池であって、
前記負極が、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料を含有し、
前記非水系電解液が、分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物を含有し、該Ma-Z結合を有する化合物において、Maは、長周期型周期表における5族金属原子を表し、Zはハロゲン原子を表す、非水系電解液二次電池。
【請求項2】
Zがフッ素原子又は塩素原子である、請求項1に記載の非水系電解液二次電池。
【請求項3】
Maがバナジウム原子、ニオブ原子、及びタンタル原子から選択される、請求項1又は2に記載の非水系電解液二次電池。
【請求項4】
Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料が、金属シリコン及びシリコン酸化物から選択される少なくとも一つを含む、請求項1~3のいずれかに記載の非水系電解液二次電池。
【請求項5】
非水系電解液がリチウム塩を電解質として含む、請求項1~4のいずれかに記載の非水系電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の携帯電話、ノートパソコン等のいわゆる民生用の小型機器用の電源や、電気自動車用等の駆動用車載電源等の広範な用途において、リチウムイオン二次電池等の非水系電解液二次電池が実用化されており、より高い電池特性への要求が高まっている。なかでも、近年、リチウムイオン二次電池の高容量化がより一層求められているため、高容量な負極活物質として、Liと合金化可能な金属等を含む物質が注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、TiとSiとを有する金属間化合物、またはTiとSnとを有する金属間化合物を具備した負極と、リチウムイオンを吸蔵・放出する正極と、非水溶媒と特定のリチウム塩とを有する非水電解液とを備えた、高容量かつ長寿命な非水電解質二次電池が開示されている。また、特許文献2には、集電体の両面に、リチウムと合金化可能な金属またはリチウムと合金化可能な金属元素を含む材料を含有する負極活物質およびバインダーを含有する負極合剤層を有しており、集電体の片面側の負極合剤層と集電体との90°での剥離強度A(N/m)と、集電体の他面側の負極合剤層と集電体との90°での剥離強度B(N/m)との比B/Aが、0.85~1.15であることにより、充放電サイクル特性が良好な非水二次電池を構成し得る非水二次電池用負極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-157896号公報
【特許文献2】特開2013-191359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、Liと合金化可能な金属は充放電に伴う体積変化が大きく、電解液との表面反応が顕著であるため、容量維持率が低下するという問題点がある。
【0006】
本発明は、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料を含有する負極を備えた非水系電解液二次電池であって、容量維持率が向上した非水系電解液二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記の課題を解決すべく、鋭意検討した結果、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料を含有する負極と、長周期型周期表の5族の元素を含む特定の化合物を含有する電解液とを組み合わせることにより、上記課題を解決しうることを見出した。即ち、本発明の要旨は、以下の[1]~[5]に示す通りである。
【0008】
[1] 正極と、負極と、非水系電解液とを備える非水系電解液二次電池であって、
前記負極が、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料を含有し、
前記非水系電解液が、分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物を含有し、該Ma-Z結合を有する化合物において、Maは、長周期型周期表における5族金属原子を表し、Zはハロゲン原子を表す、非水系電解液二次電池。
[2] Zがフッ素原子又は塩素原子である、[1]に記載の非水系電解液二次電池。
[3] Maがバナジウム原子、ニオブ原子、及びタンタル原子から選択される、[1]又は[2]に記載の非水系電解液二次電池。
[4] Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料が、金属シリコン及びシリコン酸化物から選択される少なくとも一つを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の非水系電解液二次電池。
[5] 非水系電解液がリチウム塩を電解質として含む、[1]~[4]のいずれかに記載の非水系電解液二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料を含有する負極を備える非水系電解液二次電池において、優れた容量維持率を有する非水系電解液二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「α~β」は、α以上、β以下の数値範囲を意味する。「周期表」はIUPACが定める2018年12月1日版の長周期型周期表を意味する。
【0011】
[非水系電解液二次電池]
本発明の一実施態様である非水系電解液二次電池は、正極と、負極、非水系電解液とを備え、前記負極がLiと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料を含有し、前記非水系電解液が、分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物を含有する、非水系電解液二次電池である。以下、本発明に係る非水系電解液二次電池を構成する負極、正極等について説明する。
【0012】
本発明に係る非水系電解液は、分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物を含有する。
【0013】
[1-1.分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物]
分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物は、分子内に5族金属原子Maと、ハロゲン原子Zとの結合を少なくとも一つ有する化合物であれば特に制限がなく、任意のものを用いることができる。なお、分子内にMa-Z結合を複数有する場合は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0014】
前記Maとしては、タンタル原子、ニオブ原子、バナジウム原子が好ましく、Liと合金化可能な金属等を含む物質の表面反応抑制の観点からニオブ原子、バナジウム原子が好ましく、特にバナジウム原子が好ましい。また、Liと合金化可能な金属等を含む物質と炭素系材料と両方の表面反応抑制の観点からタンタル原子又はニオブ原子が好ましく、タンタル原子が特に好ましい。
前記Zとしては、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子が好ましく、フッ素原子又は塩素原子がより好ましく、Liと合金化可能な金属等を含む物質の表面反応抑制の観点から塩素原子が特に好ましい。
【0015】
分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物としては、例えば、MbMaZ6で表される化合物(Mbは、アルカリ金属原子又はオニウム化合物である。以下同様)、MaZ5で表される化合物、MaOZ3で表される化合物、Mb2MaZ7で表される化合物等が挙げられる。
前記Mbとしては、アルカリ金属原子が好ましく、ナトリウム、カリウム又はリチウムがより好ましく、ナトリウム又はリチウムが更に好ましく、リチウムが特に好ましい。
【0016】
MbMaZ6で表される化合物としては、例えば、ヘキサフルオロタンタル酸リチウム、ヘキサフルオロニオブ酸リチウム、ヘキサフルオロバナジウム酸リチウム、ヘキサクロロタンタル酸リチウム、ヘキサクロロニオブ酸リチウム、ヘキサクロロバナジウム酸リチウム、ヘキサフルオロタンタル酸ナトリウム、ヘキサフルオロニオブ酸ナトリウム、ヘキサフルオロバナジウム酸ナトリウム、ヘキサクロロタンタル酸ナトリウム、ヘキサクロロニオブ酸ナトリウム、ヘキサクロロバナジウム酸ナトリウム、ヘキサフルオロタンタル酸カリウム、ヘキサフルオロニオブ酸カリウム、ヘキサフルオロバナジウム酸カリウム、ヘキサクロロタンタル酸カリウム、ヘキサクロロニオブ酸カリウム、ヘキサクロロバナジウム酸カリウム等が挙げられる。
【0017】
MaZ5で表される化合物としては、例えば、五フッ化タンタル、五フッ化ニオブ、五フッ化バナジウム、五塩化タンタル、五塩化ニオブ、五塩化バナジウム、五臭化タンタル、五臭化ニオブ、五臭化バナジウム等が挙げられる。
【0018】
MaOZ3で表される化合物としては、例えば、酸化三フッ化タンタル、酸化三フッ化ニオブ、酸化三フッ化バナジウム、酸化三塩化タンタル、酸化三塩化ニオブ、酸化三塩化バナジウム、酸化三臭化タンタル、酸化三臭化ニオブ、酸化三臭化バナジウム等が挙げられる。
【0019】
Mb2MaZ7で表される化合物としては、例えば、ヘプタフルオロタンタル酸リチウム、ヘプタフルオロニオブ酸リチウム、ヘプタフルオロバナジウム酸リチウム、ヘプタクロロタンタル酸リチウム、ヘプタクロロニオブ酸リチウム、ヘプタクロロバナジウム酸リチウム、ヘプタフルオロタンタル酸ナトリウム、ヘプタフルオロニオブ酸ナトリウム、ヘプタフルオロバナジウム酸ナトリウム、ヘプタクロロタンタル酸ナトリウム、ヘプタクロロニオブ酸ナトリウム、ヘプタクロロバナジウム酸ナトリウム、ヘプタフルオロタンタル酸カリウム、ヘプタフルオロニオブ酸カリウム、ヘプタフルオロバナジウム酸カリウム、ヘプタクロロタンタル酸カリウム、ヘプタクロロニオブ酸カリウム、ヘプタクロロバナジウム酸カリウム等のMb2MaZ7で表される化合物等が挙げられる。
【0020】
上記化合物のなかでも、MbMaZ6で表される化合物、MaZ5で表される化合物、MaOZ3で表される化合物が好ましく、ヘキサフルオロタンタル酸リチウム、ヘキサフルオロニオブ酸リチウム、ヘキサフルオロバナジウム酸リチウム等の5族金属六フッ化物リチウム塩;ヘキサクロロタンタル酸リチウム、ヘキサクロロニオブ酸リチウム、ヘキサクロロバナジウム酸リチウム等の5族金属六塩化物リチウム塩;五フッ化タンタル、五フッ化ニオブ、五フッ化バナジウム等の5族金属五フッ化物;五塩化タンタル、五塩化ニオブ、五塩化バナジウム等の5族金属五塩化物;酸化三フッ化タンタル、酸化三フッ化ニオブ、酸化三フッ化バナジウム等の5族金属酸フッ化物;酸化三塩化タンタル、酸化三塩化ニオブ、酸化三塩化バナジウム等の5族金属酸塩化物が更に好ましく、5族金属五塩化物、5族金属五フッ化物、5族金属酸塩化物がより好ましく、酸化三塩化バナジウム、五塩化ニオブ、五フッ化タンタル、五塩化タンタルが特に好ましい。なお、上述のZについては互いに同じであっても異なっていてもよく、また、複数のMbがある場合において、互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0021】
分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物は市販されているものであってもよく、合成して入手したものであってもよい。
【0022】
分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物の非水系電解液中の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り、特に限定されない。具体的には、非水系電解液全量に対する分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物の含有量の下限値としては、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましい。また、上限値としては、10質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物の含有量が上記の範囲内であると、他の電池性能を損なうことなく、容量維持率向上効果がさらに発現しやすくなる。非水系電解液が分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物を2種以上含む場合は、それらの合計量を、分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物の含有量とする。
【0023】
なお、分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物の分子構造の同定方法や含有量の測定方法は、特に制限されず、化合物種に応じて公知の方法から適宜選択して用いることができる。公知の方法としては、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析、核磁気共鳴(NMR)、液体クロマトグラフィー等を組み合わせる手法が挙げられる。
【0024】
非水系電解液が分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物を含有することで、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料を含有する負極を備える非水系電解液二次電池の容量維持率を向上する効果を奏する。このような効果を奏する理由は明確ではないが、次の機構によるものと考えられる。
Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料を含有する負極は、充放電時の体積変化が大きいために、充放電時に負極と電解液との間で副反応が生じやすく容量劣化が大きくなる。非水系電解液中に含まれる分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物は、電池内で吸着及び/又は反応して負極上に堆積し強固な構造を形成することで、負極表面の被膜を安定化できると考えられる。この効果により、負極と電解液との間の副反応が抑制され、充放電による容量維持率の低下が抑制されると考えられる。
【0025】
[1-2.電解質]
<リチウム塩>
非水系電解液における電解質としては、通常、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、この用途に用いることが知られているものであれば特に制限がなく、任意のものを用いることができ、具体的には以下のものが挙げられる。
【0026】
例えば、フルオロホウ酸リチウム塩類、フルオロリン酸リチウム塩類、タングステン酸リチウム塩類、カルボン酸リチウム塩類、スルホン酸リチウム塩類、リチウムイミド塩類、リチウムメチド塩類、リチウムオキサラート塩類、及び含フッ素有機リチウム塩類等が挙げられる。
【0027】
中でも、フルオロホウ酸リチウム塩類としてLiBF4;フルオロリン酸リチウム塩類としてLiPF6、Li2PO3F、LiPO2F2;スルホン酸リチウム塩類としてLiFSO3、CH3SO3Li;リチウムイミド塩類としてLiN(FSO2)2、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンジスルホニルイミド;リチウムメチド塩類として、LiC(FSO2)3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3;リチウムオキサラート塩類として、リチウムジフルオロオキサラートボレート、リチウムビス(オキサラート)ボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトフォスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラート)フォスフェート、リチウムトリス(オキサラート)フォスフェート等が、低温出力特性やハイレート充放電特性、インピーダンス特性、高温保存特性、サイクル特性等を向上させる効果がある点からより好ましい。さらに好ましくは、LiPF6、LiN(FSO2)2、リチウムビス(オキサラート)ボレート及びLiFSO3であり、特に好ましくはLiPF6である。また、上記電解質塩は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
2種類以上の電解質塩の組み合わせとして、特段の制限はないが、LiPF6及びLiN(FSO2)2;LiPF6及びLiBF4;LiPF6及びLiN(CF3SO2)2;LiBF4及びLiN(FSO2)2;LiBF4及びLiPF6及びLiN(FSO2)2が挙げられる。なかでも、LiPF6及びLiN(FSO2)2;LiPF6及びLiBF4;LiBF4、LiPF6及びLiN(FSO2)2が好ましい。
【0028】
非水系電解液中の電解質の総濃度は、特に制限はないが、非水系電解液の全量に対して、通常8質量%以上、好ましくは8.5質量%以上、より好ましくは9質量%以上であり、また、通常18質量%以下、好ましくは17質量%以下、より好ましくは16質量%以下である。電解質の総濃度が上記範囲内であると、電気伝導率が電池動作に適正となるため、十分な出力特性が得られる傾向にある。ただし、[1-1.分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物]に該当する電解質化合物が非水系電解液に含まれる場合、分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物以外の電解質を必ず含有する。したがって、本実施形態の非水系電解液の構成成分として、「分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物に該当する化合物」が「電解質」に該当する場合であっても、「電解質」の量には、該「分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物に該当する化合物」の量は含まれない。
【0029】
[1-3.非水系溶媒]
非水系電解液は、一般的な非水系電解液と同様、通常はその主成分として、上述した電解質を溶解する非水系溶媒を含有する。用いられる非水系溶媒は上述した電解質を溶解すれば特に制限はなく、公知の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、飽和環状カーボネート、鎖状カーボネート、鎖状カルボン酸エステル、環状カルボン酸エステル、エーテル系化合物、及びスルホン系化合物等が挙げられるが、これらに特に限定されない。有機溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
2種以上の有機溶媒の組み合わせとして、特段の制限はないが、飽和環状カーボネート及び鎖状カルボン酸エステル、環状カルボン酸エステル、又は鎖状カーボネートの組み合わせ、並びに飽和環状カーボネート、鎖状カーボネート及び鎖状カルボン酸エステルの組み合わせが挙げられる。なかでも、飽和環状カーボネート及び鎖状カーボネートの組み合わせが好ましい。
【0030】
[1-3-1.飽和環状カーボネート]
飽和環状カーボネートとしては、例えば、炭素数2~4のアルキレン基を有するものが挙げられ、リチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から炭素数2~3の飽和環状カーボネートが好ましく用いられる。
飽和環状カーボネートとしては、具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。中でも、エチレンカーボネート又はプロピレンカーボネートが好ましく、酸化・還元されにくいエチレンカーボネートがより好ましい。飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
飽和環状カーボネートの含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常3体積%以上、好ましくは5体積%以上であり、一方、通常90体積%以下、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。この範囲とすることで、非水系電解液の誘電率の低下に由来する電気伝導率の低下を回避し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性、負極に対する安定性、サイクル特性を良好な範囲としやすくなり、非水系電解液の酸化・還元耐性が向上し、高温保存時の安定性が向上する傾向にある。
なお、本実施形態における体積%とは25℃、1気圧における体積を意味する。
【0031】
[1-3-2.鎖状カーボネート]
鎖状カーボネートとしては、例えば、通常炭素数3~7のものが用いられ、電解液の粘度を適切な範囲に調整するために、炭素数3~5の鎖状カーボネートが好ましく用いられる。
鎖状カーボネートとしては、具体的には、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n-プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネートが挙げられる。特に好ましくはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートである。
また、フッ素原子を有する鎖状カーボネート類(以下、「フッ素化鎖状カーボネート」と略記する場合がある。)も好適に用いることができる。フッ素化鎖状カーボネートが有するフッ素原子の数は、1以上であれば特に制限されないが、通常6以下であり、好ましくは4以下である。フッ素化鎖状カーボネートが複数のフッ素原子を有する場合、当該複数のフッ素原子は互いに同一の炭素に結合していてもよく、異なる炭素に結合していてもよい。
フッ素化鎖状カーボネートとしては、フルオロメチルメチルカーボネート等のフッ素化ジメチルカーボネート誘導体;2-フルオロエチルメチルカーボネート等のフッ素化エチルメチルカーボネート誘導体;エチル-(2-フルオロエチル)カーボネート等のフッ素化ジエチルカーボネート誘導体;等が挙げられる。
鎖状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
鎖状カーボネートの含有量は特に限定されないが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常15体積%以上であり、好ましくは20体積%以上、より好ましくは25体積%以上であり、また、通常90体積%以下、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。鎖状カーボネートの含有量を上記範囲とすることによって、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、ひいては非水系電解液二次電池の出力特性を良好な範囲としやすくなる。
【0032】
さらに、特定の鎖状カーボネートに対して、エチレンカーボネートを特定の含有量で組み合わせることにより、電池性能を著しく向上させることができる。
例えば、特定の鎖状カーボネートとしてジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを選択した場合、エチレンカーボネートの含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の溶媒全量に対して、通常15体積%以上、好ましくは20体積%以上、また、通常45体積%以下、好ましくは40体積%以下であり、ジメチルカーボネートの含有量は、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常15体積%以上、好ましくは20体積%以上、また、通常50体積%以下、好ましくは40体積%以下であり、エチルメチルカーボネートの含有量は、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常20体積%以上、好ましくは30体積%以上、また、通常55体積%以下、好ましくは50体積%以下である。含有量を上記範囲内とすることで、高温安定性に優れ、ガス発生が抑制される傾向がある。
また、例えば、特定の鎖状カーボネートとしてエチルメチルカーボネートを選択した場合、エチレンカーボネートの含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の溶媒全量に対して、通常15体積%以上、好ましくは20体積%以上、また、通常45体積%以下、好ましくは40体積%以下であり、エチルメチルカーボネートの含有量は、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常55体積%以上、好ましくは60体積%以上、また、通常85体積%以下、好ましくは80体積%以下である。含有量を上記範囲内とすることで、高温安定性に優れ、ガス発生が抑制される傾向がある。
【0033】
[1-3-3.鎖状カルボン酸エステル]
鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、吉草酸メチル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、及びピバル酸メチルが挙げられる。なかでも、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルが電池特性向上の点から好ましい。上述の化合物の水素の一部をフッ素で置換した鎖状カルボン酸エステル(例えば、トリフルオロ酢酸メチル、トリフルオロ酢酸エチル等)も好適に使える。
鎖状カルボン酸エステルの配合量は、非水系溶媒全量に対して、通常1体積%以上、好ましくは5体積%以上、より好ましくは15体積%以上である。この範囲であれば、非水系電解液の電気伝導率を改善し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性を向上させやすくなる。また、鎖状カルボン酸エステルの配合量は、通常70体積%以下、好ましくは50体積%以下、より好ましくは40体積%以下である。このように上限を設定することにより、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、電気伝導率の低下を回避し、負極抵抗の増大を抑制し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性を良好な範囲としやすくなる。
【0034】
[1-3-4.環状カルボン酸エステル]
環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン、及びγ-バレロラクトンが挙げられる。これらの中でも、γ-ブチロラクトンがより好ましい。上述の化合物の水素の一部をフッ素で置換した環状カルボン酸エステルも好適に使える。
環状カルボン酸エステルの配合量は、非水系溶媒全量に対して、通常1体積%以上、好ましくは5体積%以上、より好ましくは15体積%以上である。この範囲であれば、非水系電解液の電気伝導率を改善し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性を向上させやすくなる。また、環状カルボン酸エステルの配合量は、通常70体積%以下、好ましくは50体積%以下、より好ましくは40体積%以下である。このように上限を設定することにより、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、電気伝導率の低下を回避し、負極抵抗の増大を抑制し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性を良好な範囲としやすくなる。
【0035】
[1-3-5.エーテル系化合物]
エーテル系化合物としては、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタン、エチレングリコールジ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールジ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等の炭素数3~10の鎖状エーテル、及びテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、2-メチル-1,3-ジオキサン、4-メチル-1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン等炭素数3~6の環状エーテルが好ましい。なお、上述のエーテル系化合物の一部の水素がフッ素にて置換されていてもよい。
なかでも、炭素数3~10の鎖状エーテルとしては、リチウムイオンへの溶媒和能力が高く、イオン解離性を向上させ、粘性が低く、高いイオン伝導度を与えることから、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタンが好ましく、炭素数3~6の環状エーテルとしては、高いイオン伝導度を与えることから、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン等が好ましい。
エーテル系化合物の含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常1体積%以上、好ましくは2体積%以上、より好ましくは3体積%以上、また、通常30体積%以下、好ましくは25体積%以下、より好ましくは20体積%以下である。エーテル系化合物の含有量が上記の範囲内であれば、エーテル系化合物によるリチウムイオン解離度の向上と非水系電解液の粘度低下に由来するイオン伝導度の向上効果を確保しやすい。また、負極活物質が炭素系材料の場合、鎖状エーテルがリチウムイオンと共に共挿入される現象を抑制できることから、入出力特性や充放電レート特性を適正な範囲とすることができる。
【0036】
[1-3-6.スルホン系化合物]
スルホン系化合物としては、特に制限されず、環状スルホンであってもよく、鎖状スルホンであってもよい。環状スルホンの場合、炭素数が通常3~6、好ましくは3~5であり、鎖状スルホンの場合、炭素数が通常2~6、好ましくは2~5である。また、スルホン系化合物1分子中のスルホニル基の数は、特に制限されないが、通常1又は2である。
環状スルホンとしては、モノスルホン化合物であるトリメチレンスルホン類、テトラメチレンスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類等;ジスルホン化合物であるトリメチレンジスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類等が挙げられる。中でも誘電率と粘性の観点から、テトラメチレンスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類がより好ましく、テトラメチレンスルホン類(スルホラン類)が特に好ましい。
スルホラン類としては、スルホラン及びスルホラン誘導体が好ましい。スルホラン誘導体としては、スルホラン環を構成する炭素原子上に結合した水素原子の1以上がフッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基で置換されたものが好ましい。
中でも、2-メチルスルホラン、3-メチルスルホラン、2-フルオロスルホラン、3-フルオロスルホラン、2,3-ジフルオロスルホラン、2-トリフルオロメチルスルホラン、3-トリフルオロメチルスルホラン等が、イオン伝導度が高く入出力が高い点で好ましい。
また、鎖状スルホンとしては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、モノフルオロメチルメチルスルホン、ジフルオロメチルメチルスルホン、トリフルオロメチルメチルスルホン、ペンタフルオロエチルメチルスルホン等が挙げられる。なかでも、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、モノフルオロメチルメチルスルホンが電解液の高温保存安定性が向上する点で好ましい。
スルホン系化合物の含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常0.3体積%以上、好ましくは0.5体積%以上、より好ましくは1体積%以上であり、また、通常40体積%以下、好ましくは35体積%以下、より好ましくは30体積%以下である。スルホン系化合物の含有量が上記範囲内であれば、高温保存安定性に優れた電解液が得られる傾向にある。
【0037】
[1-4.助剤]
本発明の非水系電解液には、本発明の効果を著しく損なわない範囲において、各種の助剤を含有していてもよい。助剤としては、従来公知のものを任意に用いることができる。なお、助剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
助剤としては、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、フッ素含有環状カーボネート、イソシアネート基を有する化合物、イソシアヌル酸骨格を有する化合物、硫黄含有有機化合物、リン含有有機化合物、ケイ素含有化合物、芳香族化合物、シアノ基を有する有機化合物、フッ素非含有カルボン酸エステル、環状エーテル化合物、カルボン酸無水物、ホウ酸アニオン含有化合物、P-F結合及びP=O結合を有するリン酸アニオン含有化合物、S=O結合を有するアニオン含有化合物、オキサラート錯体アニオン含有化合物等が例示できる。例えば、国際公開第2015/111676号に記載の化合物等が挙げられる。
これらの中でも、P-F結合及びP=O結合を有するリン酸アニオン含有化合物、S=O結合を有するアニオン含有化合物、及びオキサラート錯体アニオン含有化合物から選ばれる少なくとも1種のアニオン含有化合物、及び/又は炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、フッ素含有環状カーボネートから選ばれる少なくとも1種のカーボネート化合物が好ましい。
【0038】
助剤の含有量は特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液全量に対して、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、また、通常15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
環状エーテル化合物は、非水系電解液において助剤として用いることもできるし、[1-3.非水系溶媒]の欄で示したとおり非水系溶媒としても用いることができるものも含まれる。
環状エーテル化合物を助剤として用いる場合は、非水系電解液全量に対して、4質量%未満の量で用いることが好ましい。ホウ酸アニオン含有化合物、オキサラート錯体アニオン含有化合物、モノフルオロリン酸アニオン含有化合物、及びジフルオロリン酸アニオン含有化合物は、非水系電解液において助剤として用いることもできるし、[1-2.電解質]の欄で示したとおり電解質として用いることができるものも含まれる。これら化合物を助剤として用いる場合は、非水系電解液全量に対して、3質量%未満で用いることが好ましい。
【0039】
[2.正極]
正極は、正極活物質を集電体表面の少なくとも一部に有する。
【0040】
[2-1.正極活物質]
正極活物質は、リチウム遷移金属系化合物である。
【0041】
[2-1-1.リチウム遷移金属系化合物]
リチウム遷移金属系化合物とは、リチウムイオンを脱離、挿入することが可能な構造を有する化合物であり、例えば、硫化物やリン酸塩化合物、ケイ酸化合物、ホウ酸化合物、リチウム遷移金属複合酸化物等が挙げられる。なかでも、リチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。
リチウム遷移金属複合酸化物としては、三次元的拡散が可能なスピネル構造や、リチウムイオンの二次元的拡散を可能にする層状構造に属するものが挙げられる。スピネル構造を有するものは、一般的にLixM2O4(Mは1種以上の遷移金属、xは通常0.9以上、1.5以下)と表され、具体的にはLiMn2O4、LiCoMnO4、LiNi0.5Mn1.5O4、LiCoVO4等が挙げられる。層状構造を有するものは、一般的にLixMO2(Mは1種以上の遷移金属)と表される。具体的にはLiCoO2、LiNiO2、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2、Li1.05Ni0.33Co0.33Mn0.33O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、Li1.05Ni0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2、LiNi0.34Co0.33Mn0.33O2等が挙げられる。
【0042】
なかでも、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、下記組成式(1)で示される遷移金属酸化物であることがより好ましい。
Lia1Nib1Coc1Md1O2 (1)
(式(1)中、a1、b1、c1及びd1はそれぞれ、0.90≦a1≦1.10、0.30≦b1≦0.98、0.01≦c1≦0.5、0.00≦d1≦0.50を満たす数値を示し、0.50≦b1+c1かつb1+c1+d1=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
組成式(1)中、0.01≦d1≦0.50の数値を示すことが好ましい。
【0043】
特に、下記組成式(2)で示される遷移金属酸化物であることが好ましい。
Lia2Nib2Coc2Md2O2 (2)
(式(2)中、a2、b2、c2及びd2はそれぞれ、0.90≦a2≦1.10、0.50≦b2≦0.98、0.01≦c2<0.50、0.01≦d2<0.50を満たす数値を示し、b2+c2+d2=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
組成式(2)で表されるリチウム遷移金属酸化物の好適な具体例としては、例えば、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、Li1.05Ni0.50Co0.20Mn0.30O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2、LiNi0.34Co0.33Mn0.33O2等が挙げられる。
各組成式中、MはMn又はAlを含むことが好ましく、Mnを含むことがより好ましく、Mnであることがさらに好ましい。リチウム遷移金属酸化物の構造安定性が高まり、繰り返し充放電した際の構造劣化が抑制されるためである。
【0044】
[2-1-2.異元素導入]
また、リチウム遷移金属複合酸化物は、上述の組成式に含まれる元素以外の元素(異元素)が導入されてもよい。
【0045】
[2-1-3.表面被覆]
上記正極活物質の表面に、正極活物質とは異なる組成の物質(表面付着物質)が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム等の酸化物、硫酸リチウム等の硫酸塩、炭酸リチウム等の炭酸塩等が挙げられる。
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加、乾燥する方法等により該正極活物質表面に付着させることができる。
表面付着物質の量としては、該正極活物質に対して、好ましくは1μmol/g以上であり、また、10μmol/g以上が好ましく、通常1mmol/g以下で用いられる。
本明細書においては、正極活物質の表面に、上記表面付着物質が付着したものも「正極活物質」という。
【0046】
[2-1-4.ブレンド]
なお、これらの正極活物質は一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0047】
[2-2.正極の構成と製造方法]
以下に、正極の構成と製造方法について述べる。本実施形態において、正極活物質を用いる正極の製造は、常法により行うことができる。即ち、正極活物質と結着剤、並びに必要に応じて導電材及び増粘剤等を乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、又はこれらの材料を、水系溶媒及び有機系溶媒等の液体媒体に溶解又は分散させてスラリーとして、これを正極集電体に塗布し、乾燥することにより、正極活物質層を集電体上に形成する塗布法により正極を得ることができる。また、例えば、上述の正極活物質をロール成形してシート電極としてもよいし、圧縮成形によりペレット電極としてもよい。
以下、正極集電体に順次スラリーの塗布及び乾燥する場合について説明する。
【0048】
[2-2-1.活物質含有量]
正極活物質の、正極活物質層中の含有量は、通常80質量%以上、99.5質量%以下である。
【0049】
[2-2-2.電極密度]
塗布、乾燥によって得られた正極活物質層は、正極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。集電体上に存在している正極活物質層の密度は、通常1.5g/cm3以上4.5g/cm3以下である。
【0050】
[2-2-3.導電材]
導電材としては、公知の導電材を任意に用いることができる。具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト);アセチレンブラック等のカーボンブラック;ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素系材料;等が挙げられる。導電材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。導電材は、正極活物質層中に、通常0.01質量%以上50質量%以下含有するように用いられる。
【0051】
[2-2-4.結着剤]
正極活物質層の製造に用いる結着剤としては、例えば、塗布法により正極活物質層を形成する場合は、スラリー用の液体媒体に対して溶解又は分散される材料であれば、その種類は特に制限されないが、耐候性、耐薬品性、耐熱性、難燃性等からポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンシアニド等のCN基含有ポリマー等が好ましい。
また、上記のポリマー等の混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体等も使用できる。なお、結着剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、結着剤として樹脂を用いる場合、その樹脂の重量平均分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1万以上300万以下である。分子量がこの範囲であると電極の強度が向上し、電極の形成を好適に行うことができる。
正極活物質層中の結着剤の割合は、通常0.1質量%以上80質量%以下である。
【0052】
[2-2-5.集電体]
正極集電体の材質としては特に制限されず、公知のものを任意に用いることができる。具体例としては、アルミニウム、銅、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料が挙げられる。中でもアルミニウムが好ましい。
集電体の形状としては、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられる。これらのうち、金属箔又は金属薄膜が好ましい。なお、金属薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
正極の集電体の形状が板状や膜状等である場合、該集電体の厚さは任意であるが、通常1μm以上、1mm以下である。
【0053】
[2-2-6.正極板の厚さ]
正極板の厚さは特に限定されないが、高容量かつ高出力の観点から、正極板の厚さから集電体の厚さを差し引いた正極活物質層の厚さは、集電体の片面に対して通常10μm以上、500μm以下である。
【0054】
[2-2-7.正極板の表面被覆]
また、上記正極板は、その表面に、正極板とは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよく、当該物質としては、正極活物質の表面に付着していてもよい表面付着物質と同じ物質が用いられる。
【0055】
[3.負極]
負極は、負極活物質を集電体表面の少なくとも一部に有する。
【0056】
[3-1.負極活物質]
負極に使用される負極活物質は、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料を含有する。
本発明においては、負極活物質として、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料以外の電気化学的に金属イオンを吸蔵・放出可能なものを含有することができる。その具体例としては、炭素系材料、リチウム含有金属複合酸化物材料、及びこれらの混合物等が挙げられる。
これらの負極活物質は1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意に組み合わせて併用してもよい。
【0057】
[3-1-1.Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料]
Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料は、従来公知のいずれのものも使用可能であるが、容量とサイクル寿命の点から、例えば、Si、Sb、Sn、Al、As、及びZnからなる群より選ばれる金属又は半金属であることが好ましい。また、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料が金属を2種類以上含有する場合、当該材料は、これらの金属の合金からなる合金材料であってもよい。
また、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料としては、金属及び/又は半金属の酸化物、窒化物、炭化物等が挙げられる。該材料は、Liと合金化可能な金属を2種以上含有していてもよい。これらの中でも、Si元素を含む材料が好ましく、金属シリコン又はシリコン酸化物(SiOx:0<x≦2)が高容量化の点で更に好ましい。
また、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料は、後述する負極の製造時で既にLiと合金化されていてもよい。Liと合金化された金属化合物としては、LiySi(0<y≦4.4)、Li2wSiO2+w(0<w≦2)等が挙げられる。
【0058】
[3-1-2.炭素系材料]
炭素系材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素、炭素被覆黒鉛、黒鉛被覆黒鉛及び樹脂被覆黒鉛等が挙げられる。なかでも、天然黒鉛が好ましい。炭素系材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
天然黒鉛としては、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛及び/又はこれらの黒鉛に球形化や緻密化等の処理を施した黒鉛粒子等が挙げられる。これらの中でも、粒子の充填性又は充放電レート特性の観点から、球形化処理を施した球状もしくは楕円体状の黒鉛粒子が特に好ましい。
黒鉛粒子の平均粒子径(d50)は、通常1μm以上、100μm以下である。
【0059】
[3-1-3.炭素系材料の物性]
負極活物質としての炭素系材料は、以下の(1)~(4)に示した物性及び形状等の特徴の内、少なくとも1項目を満たしていることが好ましく、複数の項目を同時に満たすことが特に好ましい。
(1)X線回折パラメータ
炭素系材料の学振法によるX線回折で求めた格子面(002面)のd値(層間距離)は、通常0.335nm以上0.360nm以下である。また、学振法によるX線回折で求めた炭素系材料の結晶子サイズ(Lc)は、1.0nm以上である。
(2)体積基準平均粒径
炭素系材料の体積基準平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の平均粒径(メジアン径)であり、通常1μm以上、100μm以下である。
(3)ラマンR値、ラマン半値幅
炭素系材料のラマンR値は、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトル法を用いて測定した値であり、通常0.01以上、1.5以下である。
また、炭素系材料の1580cm-1付近のラマン半値幅は特に制限されないが、通常10cm-1以上、100cm-1以下である。
(4)BET比表面積
炭素系材料のBET比表面積は、BET法を用いて測定した比表面積の値であり、通常0.1m2・g-1以上100m2・g-1以下である。
負極活物質中に性質の異なる炭素系材料が2種以上含有していてもよい。ここでいう性質とは、X線回折パラメータ、体積基準平均粒径、ラマンR値、ラマン半値幅及びBET比表面積の群から選ばれる1つ以上の特性を示す。
好ましい例としては、体積基準粒度分布がメジアン径を中心としたときに左右対称とならないこと、ラマンR値が異なる炭素系材料を2種以上含有していること、及びX線回折パラメータが異なること等が挙げられる。
【0060】
[3-1-4.リチウム含有金属複合酸化物材料]
負極活物質として用いられるリチウム含有金属複合酸化物材料としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能であれば、特に制限されないが、高電流密度充放電特性の点からチタンを含むリチウム含有金属複合酸化物材料が好ましく、リチウムとチタンの複合酸化物(以下、「リチウムチタン複合酸化物」と略記する場合がある)がより好ましく、スピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物が出力抵抗を大きく低減するので特に好ましい。
また、リチウムチタン複合酸化物のリチウム及び/又はチタンが、他の金属元素、例えば、Al、Ga、Cu及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素で置換されていてもよい。
リチウムチタン複合酸化物として、Li4/3Ti5/3O4、Li1Ti2O4及びLi4/5Ti11/5O4が好ましい。また、リチウム及び/又はチタンの一部が他の元素で置換されたリチウムチタン複合酸化物として、例えば、Li4/3Ti4/3Al1/3O4が好ましい。
【0061】
[3-1-5.Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料と炭素系材料との混合物]
Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料と炭素系材料との混合物は、前記のLiと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料と黒鉛等の炭素系材料が互いに独立した粒子の状態で混合されている混合体でもよいし、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料が黒鉛等炭素系材料の表面又は内部に存在している複合体でもよい。
Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料と炭素系材料の合計に対するLiと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料の含有割合は、通常0.1質量%以上99質量%以下である。好ましくは、0.1質量%以上50質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上15質量%以下である。
負極活物質の同定及び含有量測定は、試料をアルカリ溶解した後、ICP発光分光法により行う。
【0062】
[3-2.負極の構成と製造方法]
負極の製造は、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のいずれの方法を用いてもよい。例えば、負極活物質に、結着剤、水系溶媒及び有機系溶媒等の液体媒体、必要に応じて、増粘剤、導電材、充填材等を加えてスラリーとし、これを集電体に塗布、乾燥した後にプレスして負極活物質層を形成することによって作製することができる。また、例えば、負極活物質又はその前駆体を気化させ、集電体に堆積させたものをそのまま又は反応性雰囲気下で処理することで作製することもできる。
前記気化による堆積方法としては、真空蒸着、分子線蒸着、マグネトロンスパッタリング、イオンビームスパッタリング等が挙げられる。反応性雰囲気下での処理としては、酸素雰囲気下での加熱、アンモニア雰囲気下での加熱、アルゴン雰囲気下での加熱、窒素雰囲気下での加熱等が挙げられる。
以下に、前記スラリーを調製して集電体に塗布乾燥した後にプレスする方法によって負極活物質層を形成する場合の具体的な構成を示す。
【0063】
[3-2-1.活物質含有量]
負極活物質の、負極活物質層中の含有量は、通常80質量%以上、99.5質量%以下である。
【0064】
[3-2-2.電極密度]
塗布、乾燥によって得られた負極活物質層は、負極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。負極活物質を電極化した際の電極構造は特に制限されないが、集電体上に存在している負極活物質層の密度は、通常1g・cm-3以上、2.2g・cm-3以下である。
【0065】
[3-2-3.増粘剤]
増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調整するために使用される。増粘剤としては、特に制限されないが、具体的には、カルボキシメチルセルロース及びその塩、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
増粘剤を用いる場合には、負極活物質に対する増粘剤の割合は、通常0.1質量%以上、5質量%以下である。
【0066】
[3-2-4.結着剤]
負極活物質を結着する結着剤としては、非水系電解液や電極製造時に用いる液体媒体に対して安定な材料であれば、特に制限されない。
具体例としては、SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、エチレン-プロピレンゴム等のゴム状高分子及びポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体等のフッ素系高分子等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
負極活物質に対する結着剤の割合は、通常0.1質量%以上20質量%以下である。
特に、結着剤がSBRに代表されるゴム状高分子を主要成分に含有する場合には、負極活物質に対する結着剤の割合は、通常0.1質量%以上5質量%以下である。また、結着剤がポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子を主要成分に含有する場合には負極活物質に対する結着剤の割合は、通常1質量%以上、15質量%以下である。
【0067】
[3-2-5.集電体]
負極活物質を保持させる集電体としては、公知のものを任意に用いることができる。負極の集電体としては、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料が挙げられるが、加工し易さとコストの点から特に銅が好ましい。
集電体の形状としては、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられる。これらのうち、金属箔又は金属薄膜が好ましい。なお、金属薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
負極の集電体の形状が板状や膜状等である場合、該集電体の厚さは任意であるが、通常1μm以上、1mm以下である。
【0068】
[3-2-6.負極板の厚さ]
負極(「負極板」ともいう。)の厚さは用いられる正極(「正極板」ともいう。)に合わせて設計されるものであり、特に制限されないが、負極材の厚さから集電体厚さを差し引いた負極活物質層の厚さは通常15μm以上、300μm以下である。
【0069】
[3-2-7.負極板の表面被覆]
また、上記負極板は、その表面に、負極活物質とは異なる組成の物質が付着したもの(表面付着物質)を用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム等の酸化物、硫酸リチウム等の硫酸塩、炭酸リチウム等の炭酸塩等が挙げられる。
【0070】
[4.セパレータ]
正極と負極との間には、短絡を防止するために、通常はセパレータを介在させる。この場合、非水系電解液は、通常はこのセパレータに含浸させて用いる。
セパレータの材料や形状については特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。
【0071】
[5.電池設計]
[5-1.電極群]
電極群は、上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介してなる積層構造のもの、及び上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のもののいずれでもよい。電極群の体積が電池内容積に占める割合(以下、電極群占有率と称する)は、通常40%以上、90%以下である。
【0072】
[5-2.集電構造]
電極群が前述の積層構造のものでは、各電極層の金属芯部分を束ねて端子に溶接して形成される構造が好適に用いられる。電極内に複数の端子を設けて抵抗を低減する構造も好適に用いられる。電極群が前述の捲回構造のものでは、正極及び負極にそれぞれ複数のリード構造を設け、端子に束ねることにより、内部抵抗を低くすることができる。
【0073】
[5-3.保護素子]
保護素子として、過大電流等による発熱とともに抵抗が増大するPTC(Positive Temperature Coefficient)素子、温度ヒューズ、サーミスター、異常発熱時に電池内部圧力や内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)等を使用することができる。上記保護素子は高電流の通常使用で作動しない条件のものを選択することが好ましく、保護素子がなくても異常発熱や熱暴走に至らない設計にすることがより好ましい。
【0074】
[5-4.外装体]
非水系電解液二次電池は、通常、上記の非水系電解液、負極、正極、セパレータ等を外装体(外装ケース)内に収納して構成される。この外装体に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り公知のものを任意に採用することができる。
外装ケースの材質は用いられる非水系電解液に対して安定な物質であれば特に限定されるものではないが、堅牢性の観点から、ステンレス鋼が好適に用いられ、軽量化の観点から、アルミニウム、アルミニウム合金の金属又はラミネートフィルムが好適に用いられる。
上記金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、又は、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。
【0075】
[5-5.形状]
また、外装ケースの形状も任意であり、例えば円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等の何れであってもよい。
【実施例0076】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
本実施例及び比較例に使用した化合物を以下に示す。
化合物1:五塩化タンタル(TaCl5)
化合物2:五塩化ニオブ(NbCl5)
化合物3:酸化三塩化バナジウム(VOCl3)
化合物4:五フッ化タンタル(TaF5)
比較化合物1:三塩化インジウム(InCl3)
比較化合物2:四塩化チタン(TiCl4)
【0077】
<実施例1-1>
[非水系電解液の調製]
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合物(体積比3:7)に、十分に乾燥させたLiPF6を非水系電解液中の濃度として1.0mol/Lとなるように溶解し、基準電解液1を調製した。基準電解液1に対してモノフルオロエチレンカーボネートを質量比100:10で混合し、基準電解液2を調製した。基準電解液2に対して、下記表1に記載の含有量となるように化合物1を加えて、実施例1-1の非水系電解液を調製した。なお、下記表1中の「含有量(質量%)」は、非水系電解液全体を100質量%としたときの化合物1の含有量である。
【0078】
[負極の作製]
厚さ110μmの銅箔の片面に、厚さ200nmのSi薄膜をスパッタリング法により成膜し、負極とした。下記表1中、この負極をSiと表記する。
【0079】
[非水系電解液二次電池の製造]
アルゴンを充填させたドライボックス内で、負極導電体を兼ねるステンレス鋼製の缶体に上述の負極を収容し、その上にポリオレフィン製セパレータを配置して、上記の非水系電解液100μLを滴下し、その上に対向電極として金属リチウムを載置した。この缶体と正極導電体を兼ねる封口板とを、絶縁用のガスケットを介してかしめて密封し、コイン型の非水系電解液二次電池を作製した。
【0080】
<非水系電解液二次電池の評価>
[初期コンディショニング]
25℃の恒温槽中、0.05C(1Cとは、充電又は放電に1時間かかる電流値を意味する。)に相当する電流で、0.005Vまで充電した後、1.5Vまで放電する操作を3回繰り返して、初期コンディショニングを行った。
【0081】
[充放電サイクル試験]
上記の方法で初期コンディショニングを行った非水系電解液二次電池に対して、次のように充放電サイクル試験を行った。
25℃の恒温槽中、0.005Vまで充電し、1.5Vまで放電する操作を50回行った。25回目、50回目の充放電は0.1Cに相当する電流で行い、その他の充放電は1Cで行った。
充放電サイクル試験後の放電容量は、50回目の放電容量(mAh)から求めた。表1に、比較例1-1の非水系電解液二次電池の充放電サイクル試験後の放電容量を100とした際の実施例1-1の非水系電解液二次電池の充放電サイクル試験後の放電容量の相対値を示す。
【0082】
<実施例1-2~1-4及び比較例1-1~1-3>
非水系電解液の調製において、化合物1を化合物2~4若しくは比較化合物1~2に変更した、又は化合物1を用いなかった他は実施例1-1と同様にして、非水系電解液二次電池を作製した。
得られた非水系電解液二次電池について、実施例1-1と同様にして充放電サイクル試験を行った。結果を表1に示す。なお、表1中の実施例1-2~1-4及び比較例1-2~1-3の充放電サイクル試験後の放電容量は、比較例1-1の非水系電解液二次電池の充放電サイクル試験後の放電容量を100とした際の相対値を示す。
【0083】
<比較例1-4>
[非水系電解液の調製]
基準電解液2の調製において、化合物1を用いなかった他は実施例1-1と同様にして、非水系電解液を調製した。
[負極の作製]
炭素系材料98質量部に、増粘剤として、カルボキシメチルセルロースナトリウムが1質量部となるように水性ディスパージョンを加え、さらに結着剤としてスチレン-ブタジエンゴムが1質量部となるように水性ディスパージョンを加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。得られたスラリーを厚さ10μmの銅箔の片面に塗布して乾燥した後、プレスして負極とした。下記表1中、この負極を炭素系材料と表記する。
[非水系電解液電二次池の製造]
非水系電解液及び負極を上記で調製及び作製した非水系電解液及び負極とした他は実施例1-1と同様にして、非水系電解液二次電池を作製した。
<非水系電解液二次電池の評価>
初期コンディショニング及び充放電サイクル試験を実施例1-1と同様の条件で行った。
【0084】
<比較例1-5>
非水系電解液を実施例1-1と同様に調製した他は比較例1-4と同様にして、非水系電解液二次電池を作製した。
得られた非水系電解液二次電池について、実施例1-1と同様にして充放電サイクル試験を行った。結果を表1に示す。なお、充放電サイクル試験後の放電容量は、比較例1-4との非水系電解液二次電池の充放電サイクル試験後の放電容量を100とした際の相対値を示す。
【0085】
【0086】
表1から、実施例1-1~1-4で示されるように、分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物1~4を含む非水系電解液と、Liと合金化可能な半金属元素を含む材料を含有する負極とを備える非水系電解液二次電池は、同じ負極を備え分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物を含まない非水系電解液を備える非水系電解液二次電池を用いた比較例1-1と比較して、充放電サイクル試験後の放電容量の低下を抑制し、容量維持率が高いことがわかる。また、Maとして長周期型周期表における5族金属原子ではないインジウム原子を用いた比較化合物1及びチタン原子を用いた比較化合物2を含む非水系電解液と、Liと合金化可能な半金属元素を含む材料を含有する負極とを備える非水系電解液二次電池は、充放電サイクル試験後の放電容量が比較例1-1と同程度又は低下していた。
更に、比較例1-4及び1-5に示されるように、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料を含有しない炭素系材料を含む負極を備え、分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物を含む非水系電解液を備えた比較例1-5の非水系電解液二次電池の充放電サイクル試験後の放電容量低下は抑制されず、むしろ放電容量が比較例1-4よりも低下していた。
【0087】
<実施例2-1>
[非水系電解液の調製]
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートの混合物(体積比3:4:3)に、十分に乾燥させたLiPF6を非水系電解液中の濃度として1.0mol/Lとなるように溶解させた(以下、これを基準電解液3と呼ぶ。)。基準電解液3、モノフルオロエチレンカーボネート、及びビニレンカーボネートを質量比100:2:2となるように混合し、基準電解液4を調製した。基準電解液4に対して、下記表2に記載の含有量となるように化合物1を加えて実施例2-1の非水系電解液を調製した。なお、下記表2中の「含有量(質量%)」は、非水系電解液全体を100質量%としたときの化合物1の含有量である。
【0088】
[正極の作製]
正極活物質としてLiNi0.34Coo0.33Mn0.33O285質量部と、導電材としてアセチレンブラック10質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)5質量部とを、N-メチルピロリドン溶媒中で混合して、スラリー化した。これを厚さ21μmのアルミニウム箔の両面に均一に塗布、乾燥した後、プレスして正極とした。
【0089】
[負極の作製]
平均粒子径50nmのSi微粒子を平均粒子径35μmの鱗片状黒鉛に分散させ、ハイブリダイゼーションシステム(株式会社奈良機械製作所製)に投入し、ローター回転数7000rpm、180秒間、装置内を循環又は滞留させて処理し、Siと黒鉛粒子との複合体を得た。得られた複合体を、焼成後の被覆率が、16.8%になるように炭素系物となる有機化合物としてコールタールピッチを混合し、2軸混練機により混練・分散させた。得られた分散物を、焼成炉に導入し、窒素雰囲気下で1000℃、3時間、焼成した。得られた焼成物は、更にハンマーミルで粉砕後、篩(45μm)を実施し、Liと合金化可能な半金属元素を含む材料を作製した。作製した材料中の珪素元素の含有量は14.0質量%であった。
なお、Siと黒鉛粒子との複合体中の珪素元素の含有量は、試料をアルカリで完全に溶融した後、水で溶解、定容し、誘導結合プラズマ発光分析装置(株式会社堀場製作所製、商品名:ULTIMA2C)にて測定を行い、検量線から珪素元素量を算出し、その後、珪素元素量をSiと黒鉛粒子との複合体の質量で割ることで、珪素元素の含有量を算出することができる。
【0090】
負極活物質(上記のLiと合金化可能な半金属元素を含む材料と黒鉛とを質量比35:65で混合した混合物)に対して、増粘剤、バインダーとしてそれぞれ、カルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)、及び、スチレン-ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン-ブタジエンゴムの濃度50質量%)を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。このスラリーを厚さ10μmの銅箔の片面に均一に塗布、乾燥した後、プレスして負極とした。なお、乾燥後の負極において、負極活物質:カルボキシメチルセルロースナトリウム:スチレン-ブタジエンゴム=97.5:1.5:1の質量比となるように作製した。下記表中、この負極をSi+Cと表記する。
【0091】
[非水系電解液二次電池の製造]
上述の正極、負極、及びポリエチレン製のセパレータを、負極、セパレータ、正極の順に積層して電池要素を作製した。この電池要素を、アルミニウム(厚さ40μm)の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムからなる袋内に正極と負極の端子を突設するように挿入した後、上記調整後の非水系電解液を袋内に注入し、真空封止を行い、ラミネート型セルの非水系電解液二次電池を作製した。
【0092】
<非水系電解液二次電池の評価>
[初期コンディショニング]
25℃の恒温槽中、上記の方法で作製した非水系電解液二次電池を、0.05Cに相当する電流で6時間定電流充電した後、0.2Cで3.0Vまで放電した。続いて0.2Cで4.1Vまで定電流-定電圧充電(以下、「CC-CV充電」という)を行った。その後、45℃に72時間保持しエージングを実施した。その後、0.2Cで3.0Vまで放電し、非水系電解液二次電池を安定させた。さらに、0.2Cで4.2VまでCC-CV充電を行った後、0.2Cで3.0Vまで放電し、初期コンディショニングを行った。
【0093】
[充放電サイクル試験]
上記の方法で初期コンディショニングを行った非水系電解液二次電池に対して、次のように充放電サイクル試験を行った。
45℃の恒温槽中、4.2VまでCC-CV充電し、2.5Vまで放電する操作を200回行った。50回目、100回目、150回目、200回目の充放電は0.2Cに相当する電流で行い、その他の充放電は0.5Cで行った。
サイクル試験後の放電容量は、200回目の放電容量(mAh/g)から求めた。表2に、比較例2-1の非水系電解液二次電池の充放電サイクル試験後放電容量を100とした際の実施例2-1の非水系電解液二次電池の充放電サイクル試験後の放電容量の相対値を示す。
【0094】
<比較例2-1>
非水系電解液として基準電解液4を用いた他は実施例2-1と同様にして、非水系電解液二次電池を作製した。
得られた非水系電解液二次電池について、実施例2-1と同様にして充放電サイクル試験を行った。
【0095】
【0096】
表2から、実施例2-1で示されるように、分子内に少なくとも一つMa-Z結合を有する化合物1を含む非水系電解液と、Liと合金化可能な半金属元素を含む材料を含有する負極を備える非水系電解液二次電池は、同じ負極を備え分子内に少なくともMa-Z結合を有する化合物を含まない非水系電解液を備える非水系電解液二次電池を用いた比較例2-1と比較して、充放電サイクル試験後の放電容量の低下を抑制し、容量維持率が高いことがわかる。
以上のことから、本発明に係る非水系電解液二次電池は、従来の非水系電解液二次電池と比べ容量維持率を向上でき、有用である。
本発明の非水系電解液二次電池は、充放電を繰り返した後においても、放電容量の低下が抑制され、優れた容量維持率を有する。従って、本発明の非水系電解液二次電池は、従来、非水系電解液二次電池が用いられている電子機器等のあらゆる分野において好適に利用できる。本発明の非水系電解液二次電池の用途の具体例としては、例えば、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、携帯オーディオプレーヤー、小型ビデオカメラ、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、バイク、原動機付自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、電動工具、ストロボ、カメラ、家庭用バックアップ電源、事業所用バックアップ電源、負荷平準化用電源、自然エネルギー貯蔵電源等が挙げられる。