(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013093
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】インクジェットインク組成物及び記録方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/30 20140101AFI20230119BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20230119BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20230119BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
C09D11/30
C09D11/54
B41M5/00 120
B41M5/00 132
B41J2/01 501
B41J2/01 125
B41J2/01 123
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117028
(22)【出願日】2021-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】浅川 裕太
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FA04
2C056FA10
2C056FC01
2C056HA42
2C056HA46
2H186AB03
2H186AB05
2H186AB06
2H186AB12
2H186AB27
2H186AB41
2H186AB55
2H186AB57
2H186BA08
2H186DA12
2H186FA14
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB30
2H186FB31
2H186FB48
2H186FB58
4J039AD03
4J039AD09
4J039BA04
4J039BC12
4J039BC36
4J039BC50
4J039BC55
4J039BC57
4J039BC79
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039BE28
4J039CA06
4J039EA36
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】耐擦性及び発色性が良好な画像を形成できるインクジェットインク組成物を提供する。
【解決手段】色材と、樹脂と、アミド類、含硫黄類、環状エーテル類のいずれかであって下記条件(a)及び条件(b)を満たす水溶性の低分子有機化合物Aと、下記条件(c)を満たすシリコーン系界面活性剤と、を含有する、水系インクであるインクジェットインク組成物。条件(a)10質量%水溶液の表面張力が42mN/m以上56mN/m以下 条件(b)標準沸点が150℃以上300℃以下 条件(c)20℃の水への溶解度が1質量%以下
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材と、樹脂と、
アミド類、含硫黄類、環状エーテル類のいずれかであって下記条件(a)及び条件(b)を満たす水溶性の低分子有機化合物Aと、
下記条件(c)を満たすシリコーン系界面活性剤と、
を含有する、水系インクであるインクジェットインク組成物。
条件(a)10質量%水溶液の表面張力が42mN/m以上56mN/m以下
条件(b)標準沸点が150℃以上300℃以下
条件(c)20℃の水への溶解度が1質量%以下
【請求項2】
請求項1において、
前記低分子有機化合物Aの含有量が、前記インクジェットインク組成物全量に対して1質量%以上10質量%以下である、インクジェットインク組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
10質量%水溶液の表面張力が35mN/m以下の有機溶剤を、9質量%を超えて含有しない、インクジェットインク組成物。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記シリコーン系界面活性剤の含有量が、前記インクジェットインク組成物全量に対して0.1質量%以上2質量%以下である、インクジェットインク組成物。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項において、
前記樹脂が、樹脂粒子を含み、
前記樹脂粒子が、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂のいずれかで構成された、インクジェットインク組成物。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項において、
有機溶剤の合計の含有量が、前記インクジェットインク組成物全量に対して5質量%以上30質量%以下である、インクジェットインク組成物。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項において、
前記インクジェットインク組成物に含有する、アミド類、含硫黄類、環状エーテル類のいずれかであって前記条件(b)を満たす水溶性の低分子有機化合物の総質量を100質量%とした場合に、前記低分子有機化合物Aの含有量が80質量%以上である、インクジェットインク組成物。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか一項において、
低吸収記録媒体又は非吸収記録媒体への記録に用いられる、インクジェットインク組成物。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか一項において、
下記一般式(1)で表されるアニオン性界面活性剤を含む、インクジェットインク組成物。
【化1】
(一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1以上20以下の直鎖又は分岐のアルキル基を表し、m及びnは、それぞれ独立に、0以上20以下の整数を表し、Mは、一価の陽イオンになり得る原子を表す。)
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載のインクジェットインク組成物をインクジェット法により記録媒体に付着させるインク付着工程を備える、記録方法。
【請求項11】
請求項10において、
前記インク付着工程は、前記記録媒体の表面温度が50℃以下で行われる、記録方法。
【請求項12】
請求項10又は請求項11において、
前記記録媒体に付着した前記インクジェットインク組成物を加熱する一次加熱工程を備える、記録方法。
【請求項13】
請求項10ないし請求項12のいずれか一項において、
凝集剤を含有する処理液を前記記録媒体に付着させる処理液付着工程を備える、記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク組成物及び記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット法は、記録媒体に対して高品質の画像を形成できるため、従来から種々の技術開発が行われてきた。例えば、インクジェット法を用いた記録装置の開発のみならず当該装置で使用するインクジェットインク組成物の開発も盛んである。さらに、記録装置、インクジェットインク組成物、記録媒体等の組み合わせにおける種々の課題の解決が試みられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、凹凸のある記録媒体に対して樹脂成分を含むインクジェットインク組成物を適用して、インク組成物に含窒素溶剤を含有させて樹脂成分を溶解し、耐擦性を向上させる記録方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インクジェットインク組成物中の樹脂成分を溶解させる溶剤を用いた場合に、溶剤によっては十分な耐擦性が得られないことが分かってきた。
【0006】
さらに、樹脂成分を溶解させる溶剤を用いた場合に、得られる画像の発色が悪くなることも分かってきた。
【0007】
このように、耐擦性及び発色性が良好な画像を形成できるインクジェットインク組成物の点で未だ不十分であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るインクジェットインク組成物の一態様は、
色材と、
樹脂と、
アミド類、含硫黄類、環状エーテル類のいずれかであって下記条件(a)及び条件(b)を満たす水溶性の低分子有機化合物Aと、
下記条件(c)を満たすシリコーン系界面活性剤と、
を含有する、水系インクである。
条件(a)10質量%水溶液の表面張力が42mN/m以上56mN/m以下
条件(b)標準沸点が150℃以上300℃以下
条件(c)20℃の水への溶解度が1質量%以下
【0009】
本発明に係る記録方法の一態様は、
上述のインクジェットインク組成物をインクジェット法により記録媒体に付着させるインク付着工程を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態の記録方法に用いるインクジェット記録装置の一例の概略図。
【
図2】実施形態の記録方法に用いるインクジェット記録装置の一例のキャリッジ周辺の概略図。
【
図3】実施形態の記録方法に用いるインクジェット記録装置の一例のブロック図。
【
図4】実施形態の記録方法に用いるインクジェット記録装置で記録を行う際に行われる処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0012】
本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを表し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタクリレートを表す。
【0013】
1.インクジェットインク組成物
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、色材と、樹脂と、アミド類、含硫黄類、環状エーテル類のいずれかであって下記条件(a)及び条件(b)を満たす水溶性の低分子有機化合物Aと、下記条件(c)を満たすシリコーン系界面活性剤と、を含有する、水系インクである。
条件(a)10質量%水溶液の表面張力が42mN/m以上56mN/m以下
条件(b)標準沸点が150℃以上300℃以下
条件(c)20℃の水への溶解度が1質量%以下
以下、本実施形態のインクジェットインク組成物やその成分について説明する。
【0014】
インクジェットインク組成物中の樹脂成分を溶解させる溶剤を用いた場合に、溶剤によっては十分な耐擦性が得られないことが分かってきた。具体的には、溶剤の表面張力が低い場合、溶剤が記録媒体に浸透しやすく、溶剤が記録媒体に浸透してしまい記録媒体上でインクジェットインク組成物に含まれる樹脂成分を溶解することが十分にできないためと推測する。
【0015】
さらに、樹脂成分を溶解させる溶剤として表面張力の高い溶剤を用いると、得られる画像の発色が悪くなることも分かってきた。このことは、記録媒体でぬれ広がり難く、インクジェットインク組成物の記録媒体上での濡れ広がりが不十分となったためと推測する。
【0016】
そこで、本実施形態のインクジェットインク組成物は、上記の低分子有機化合物Aと、上記の特定のシリコーン系界面活性剤とを含有することで、耐擦性及び発色性が良好な画像を形成できるインクジェットインク組成物としたものである。
【0017】
1.1.色材
インクジェットインク組成物は、色材を含む。色材は、顔料であっても染料であってもよい。
【0018】
(顔料)
顔料としては、カーボンブラック、チタンホワイトを含む無機顔料、有機顔料等を用いることができる。
【0019】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ等を用いることができる。
【0020】
カーボンブラックとしては、三菱化学株式会社製のNo.2300、900、MCF88、No.20B、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No2200B等が挙げられる。デグサ社製のカラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリテックス35、U、V、140U、スペシャルブラック6、5、4A、4、250等を例示できる。コロンビアカーボン社製のコンダクテックスSC、ラーベン1255、5750、5250、5000、3500、1255、700等を例示できる。キャボット社製のリガール400R、330R、660R、モグルL、モナーク700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、エルフテックス12等を例示できる。
【0021】
有機顔料としては、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料又はアゾ系顔料等を例示できる。
【0022】
インクジェットインク組成物に用いられる有機顔料の具体例としては下記のものが挙げられる。
【0023】
シアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、15:34、16、22、60等;C.I.バットブルー4、60等が挙げられ、好ましくは、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4、及び60からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を例示できる。
【0024】
マゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントレッド122、202、及び209、C.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を例示できる。
【0025】
イエロー顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14C、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、119、110、114、128、129、138、150、151、154、155、180、185、等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントイエロー74、109、110、128、138、155、及び180からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を例示できる。
【0026】
オレンジ顔料としては、C.I.ピグメントオレンジ36若しくは43又はこれらの混合物を例示できる。グリーン顔料としては、C.I.ピグメントグリーン7若しくは36又はこれらの混合物を例示できる。
【0027】
また、光輝性顔料を用いてもよく、媒体に付着させたときに光輝性を呈しうるものであれば特に限定されないが、例えば、アルミニウム、銀、金、白金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、及び銅からなる群より選択される1種又は2種以上の合金(金属顔料ともいう)の金属粒子や、パール光沢を有するパール顔料を挙げることができる。パール顔料の代表例としては、二酸化チタン被覆雲母、魚鱗箔、酸塩化ビスマス等の真珠光沢や干渉光沢を有する顔料が挙げられる。また、光輝性顔料は、水との反応を抑制するための表面処理が施されていてもよい。
【0028】
また、白色顔料を用いてもよく、例えば、金属酸化物、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の金属化合物が挙げられる。金属酸化物としては、例えば二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等が挙げられる。また、白色顔料には、中空構造を有する粒子を用いてもよい。
【0029】
上記顔料は、1種単独でも、2種以上を併用してもよい。顔料は、耐光性、耐候性、耐ガス性などの保存安定性の観点から有機顔料であることが好ましい。
【0030】
顔料は、顔料分散剤を用いて分散して用いてもよい。また顔料は、オゾン、次亜塩素酸、発煙硫酸等により、顔料表面を酸化、あるいはスルホン化して自己分散顔料として分散して用いてもよい。
【0031】
顔料分散剤は、顔料をインクジェットインク組成物中で分散させる機能を有している。顔料分散剤は、水溶性のものでもよいが、完全な水溶性を有さないものが好ましく、一部又は全部が顔料に結合又は吸着して、顔料の表面の親水性を高めることにより、顔料を分散させると考えられる。顔料分散剤の種類は、特に限定されない。
【0032】
顔料分散剤は高分子化合物であり、その例としては、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸-アクリルニトリル共重合体、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル-(メタ)アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、等のアクリル系樹脂及びその塩が挙げられる。なお、本明細書では(メタ)アクリル酸に由来する骨格を有し、マレイン酸又はその類似化合物に由来する骨格を有しない重合体をアクリル系樹脂という。
【0033】
また、顔料分散剤としては、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体、酢酸ビニル-マレイン酸エステル共重合体等のマレイン酸系樹脂及びその塩;架橋構造の有無を問わないウレタン系樹脂及びその塩;ポリビニルアルコール類;酢酸ビニル-クロトン酸共重合体及びその塩等の樹脂を挙げることができる。
【0034】
なお、アクリル系樹脂は、上記したようなアクリル系モノマー(アクリル系単量体)の重合体の他に、アクリル系モノマーと他のモノマーとの共重合体でもよい。例えば、他のモノマーとしてビニル系モノマーとの共重合体としたアクリルビニル樹脂でもアクリル系樹脂と称する。また例えば、上記のスチレン系樹脂のうち、スチレン系モノマーとアクリル系モノマーとの共重合体であるものもアクリル系樹脂に含める。さらに、アクリル系樹脂というときは、その塩やそのエステル化物も含める。
【0035】
顔料分散剤の市販品としては、例えば、X-200、X-1、X-205、X-220、X-228(星光PMC社製)、ノプコスパース(登録商標)6100、6110(サンノプコ株式会社製)、ジョンクリル67、586、611、678、680、682、819(BASF社製)、DISPERBYK-190(ビックケミー・ジャパン株式会社製)、N-EA137、N-EA157、N-EA167、N-EA177、N-EA197D、N-EA207D、E-EN10(第一工業製薬製)等が挙げられる。
【0036】
アクリル系顔料分散剤の市販品としては、BYK-187、BYK-190、BYK-191、BYK-194N、BYK-199(ビックケミー株式会社製)、アロンA-210、A6114、AS-1100、AS-1800、A-30SL、A-7250、CL-2東亜合成株式会社製)等が挙げられる。
【0037】
ウレタン系顔料分散剤の市販品としては、BYK-182、BYK-183、BYK-184、BYK-185(ビックケミー株式会社製)、TEGO Disperse710(Evonic Tego Chemi社製)、Borchi(登録商標)Gen1350(OMG Borschers社製)等が挙げられる。
【0038】
顔料分散剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。顔料分散剤の合計の含有量は、インク100質量%に対して、0.1質量%以上30質量%以下、好ましくは0.5質量%以上25質量%以下、より好ましくは1質量%以上20質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以上15質量%以下である。顔料分散剤の含有量が0.1質量%以上であることにより、顔料の分散安定性を確保することができる。また、顔料分散剤の含有量が30質量%以下であれば、インクジェットインク組成物の粘度を小さく抑えることができる。
【0039】
また、顔料分散剤の重量平均分子量は、500以上であることがさらに好ましい。このような顔料分散剤を用いることにより、臭気が少なく、顔料の分散安定性をさらに良好にすることができる。
【0040】
顔料を顔料分散剤により分散させる場合には、顔料と顔料分散剤との比率は10:1~1:10が好ましく、4:1~1:3がより好ましい。
【0041】
また、顔料の体積平均粒子径(D50)は、動的光散乱法で計測した場合の体積平均粒子(D50)が20nm以上300nm以下であり、より好ましくは体積平均粒子径(D50)が30nm以上200nm以下、さらに好ましくは体積平均粒子径(D50)が40nm以上100nm以下である。
【0042】
インクジェットインク組成物が顔料分散剤で分散された顔料を含有する場合には、その顔料分散剤は、アクリル系樹脂からなることが好ましい。これにより、インクジェットインク組成物における顔料の分散性をより良好にすることができる。
【0043】
(染料)
インクジェットインク組成物には、色材として染料を用いてもよい。染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、塩基性染料、及び分散染料が使用可能である。染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー17、23、42、44、79、142、C.I.アシッドレッド52、80、82、249、254、289、C.I.アシッドブルー9、45、249、C.I.アシッドブラック1、2、24、94、C.I.フードブラック1、2、C.I.ダイレクトイエロー1、12、24、33、50、55、58、86、132、142、144、173、C.I.ダイレクトレッド1、4、9、80、81、132、225、227、C.I.ダイレクトブルー1、2、15、71、86、87、98、165、199、202、C.I.ダイレクトブラック19、38、51、71、154、168、171、195、C.I.リアクティブレッド14、32、55、79、141、249、C.I.リアクティブブラック3、4、35が挙げられる。
【0044】
また、染料としては、下記式(y-1)で表される化合物又はその塩、
【0045】
これらの色材は、顔料、染料の別を問わず、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
色材の合計の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量(100質量%)に対して、好ましくは0.10質量%以上20.0質量%以下であり、より好ましくは0.20質量%以上15.0質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以上10.0質量%以下である。色材を含まない、若しくは、着色することを目的としない程度に色材を含有する(例えば0.1質量%以下)、クリア組成物(クリアインク)としてもよい。
【0047】
1.2.樹脂
インクジェットインク組成物は、樹脂を含有する。樹脂は、高分子化合物であり、インクジェットインク組成物中で分散状態を形成する樹脂粒子の態様であってもよいし、インクジェットインク組成物に溶解する態様を用いてもよい。樹脂は、記録媒体に付着させたインクジェットインク組成物による画像の密着性、耐擦性などを向上させる機能を有する。樹脂は、樹脂粒子を含むことがより好ましい。
【0048】
樹脂粒子としては、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂(スチレンアクリル系樹脂を含む)、フルオレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル系樹脂等からなる樹脂粒子が挙げられる。なかでも、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオフレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましい。これらの樹脂粒子は、エマルジョン形態で取り扱われることが多いが、粉体の性状であってもよい。また、樹脂粒子は1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0049】
ウレタン系樹脂とは、ウレタン結合を有する樹脂の総称である。ウレタン系樹脂には、ウレタン結合以外に、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン樹脂等を使用してもよい。また、ウレタン系樹脂として、市販品を用いてもよく、例えば、スーパーフレックス 460、460s、840、E-4000(商品名、第一工業製薬株式会社製)、レザミン D-1060、D-2020、D-4080、D-4200、D-6300、D-6455(商品名、大日精化工業株式会社製)、タケラック WS-5100、WS-6021、W-512-A-6(商品名、三井化学ポリウレタン株式会社製)、サンキュアー2710(商品名、LUBRIZOL社製)、パーマリンUA-150(商品名、三洋化成工業社製)などの市販品を用いてもよい。
【0050】
アクリル系樹脂は、少なくとも(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどのアクリル系単量体を1成分として重合して得られる重合体の総称であって、例えば、アクリル系単量体から得られる樹脂や、アクリル系単量体とこれ以外の単量体との共重合体などが挙げられる。例えばアクリル系単量体とビニル系単量体との共重合体であるアクリル-ビニル系樹脂などが挙げられる。また例えば、ビニル系単量体としては、スチレンなどが挙げられる。
【0051】
アクリル系単量体としてはアクリルアミド、アクリロニトリル等も使用可能である。アクリル系樹脂を原料とする樹脂エマルジョンには、市販品を用いてもよく、例えばFK-854(商品名、中央理科工業社製)、モビニール952B、718A(商品名、日本合成化学工業社製)、NipolLX852、LX874(商品名、日本ゼオン社製)等の中から選択して用いてもよい。
【0052】
スチレン・アクリル系樹脂は、スチレン単量体と(メタ)アクリル系単量体とから得られる共重合体であり、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。スチレン・アクリル系樹脂には、市販品を用いても良く、例えば、ジョンクリル62J、7100、390、711、511、7001、632、741、450、840、74J、HRC-1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX-7630A、352J、352D、PDX-7145、538J、7640、7641、631、790、780、7610(商品名、BASF社製)、モビニール966A、975N(商品名、日本合成化学工業社製)、ビニブラン2586(日信化学工業社製)等を用いてもよい。
【0053】
ポリオレフィン系樹脂は、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィンを構造骨格に有するものであり、公知のものを適宜選択して用いることができる。オレフィン樹脂としては、市販品を用いることができ、例えばアローベースCB-1200、CD-1200(商品名、ユニチカ株式会社製)等を用いてもよい。
【0054】
また、樹脂粒子は、エマルジョンの形態で供給されてもよく、そのような樹脂エマルジョンの市販品の例としては、マイクロジェルE-1002、E-5002(日本ペイント社製商品名、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン)、ボンコート4001(DIC社製商品名、アクリル系樹脂エマルジョン)、ボンコート5454(DIC社製商品名、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン)、ポリゾールAM-710、AM-920、AM-2300、AP-4735、AT-860、PSASE-4210E(アクリル系樹脂エマルジョン)、ポリゾールAP-7020(スチレン・アクリル樹脂エマルジョン)、ポリゾールSH-502(酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ポリゾールAD-13、AD-2、AD-10、AD-96、AD-17、AD-70(エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ポリゾールPSASE-6010(エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)(昭和電工社製商品名)、ポリゾールSAE1014(商品名、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、日本ゼオン社製)、サイビノールSK-200(商品名、アクリル系樹脂エマルジョン、サイデン化学社製)、AE-120A(JSR社製商品名、アクリル樹脂エマルジョン)、AE373D(イーテック社製商品名、カルボキシ変性スチレン・アクリル樹脂エマルジョン)、セイカダイン1900W(大日精化工業社製商品名、エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ビニブラン2682(アクリル樹脂エマルジョン)、ビニブラン2886(酢酸ビニル・アクリル樹脂エマルジョン)、ビニブラン5202(酢酸アクリル樹脂エマルジョン)(日信化学工業社製商品名)、エリーテルKA-5071S、KT-8803、KT-9204、KT-8701、KT-8904、KT-0507(ユニチカ社製商品名、ポリエステル樹脂エマルジョン)、ハイテックSN-2002(東邦化学社製商品名、ポリエステル樹脂エマルジョン)、タケラックW-6020、W-635、W-6061、W-605、W-635、W-6021(三井化学ポリウレタン社製商品名、ウレタン系樹脂エマルジョン)、スーパーフレックス870、800、150、420、460、470、610、700(第一工業製薬社製商品名、ウレタン系樹脂エマルジョン)、パーマリンUA-150(三洋化成工業株式会社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、サンキュアー2710(日本ルーブリゾール社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、NeoRez R-9660、R-9637、R-940(楠本化成株式会社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、アデカボンタイター HUX-380,290K(株式会社ADEKA製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、モビニール966A、モビニール7320(日本合成化学株式会社製)、ジョンクリル7100、390、711、511、7001、632、741、450、840、74J、HRC-1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX-7630A、352J、352D、PDX-7145、538J、7640、7641、631、790、780、7610(以上、BASF社製)、NKバインダーR-5HN(新中村化学工業株式会社製)、ハイドランWLS-210(非架橋性ポリウレタン:DIC株式会社製)、ジョンクリル7610(BASF社製)等が挙げられる。
【0055】
樹脂が、樹脂粒子を含む場合、樹脂粒子は、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂のいずれかで構成されることがより好ましい。このようにすると、インクジェット記録装置の記録ヘッドのノズルノズルの目詰まり回復性をさらに良好、かつ、耐擦性がさらに良好な画像を得やすくなる。
【0056】
水溶性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、マレイン酸系樹脂が挙げられる。マレイン酸系樹脂とは、マレイン酸類に由来する構造を有する高分子化合物である。
マレイン酸類としては、エチレンの炭素-炭素二重結合で結合する隣り合う炭素原子のそれぞれにカルボキシル基が1つずつ結合した構造を有する化合物や、これの誘導体である化合物があげられる。
【0057】
マレイン酸類の具体例としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸等が挙げられる。マレイン酸類は、上記の隣り合う炭素原子のそれぞれに結合したカルボキシル基が、脱水環化したものや、エステル化したものでもよい。カルボキシル基が塩を形成したものもカルボキシル基に含める。
【0058】
上記の誘導体としては、カルボキシル基が上記のように誘導されたものや、エチレン骨格がさらに置換基を有するものなどが挙げられる。
【0059】
マレイン酸類の中でも、マレイン酸や、マレイン酸のカルボキシル基が誘導されたものが好ましい。
【0060】
マレイン酸系樹脂は、マレイン酸類に由来するカルボキシル基が、脱水環化したものや、エステル化したものでもよい。カルボキシル基が塩を形成したものもカルボキシル基に含める。
【0061】
マレイン酸類に由来する構造を有する高分子化合物は、マレイン酸類が少なくとも用いられて重合や共重合が行われて得られた高分子化合物であることができる。
【0062】
マレイン酸系樹脂は、マレイン酸類の重合体であってもよいし、マレイン酸類及び他のモノマーの共重合体であってもよい。この場合の他のモノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルナフタレン、酢酸ビニル等のビニルモノマーや、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のエステル類等のアクリルモノマーを挙げることができる。
【0063】
マレイン酸系樹脂は、マレイン酸類に由来する構造を有し、隣り合う炭素原子にカルボキシル基又はカルボキシル基に由来する構造を有する。ここで、例えばアクリル酸の重合体は、一般的に公知の手法によって重合すると、いわゆるヘッド-テイルで重合することから、隣り合う炭素にカルボキシル基が配置されることは、統計的にまれである。そのため、アクリル酸類の重合体は、マレイン酸類を重合する場合と比較すれば、重合体においてカルボキシル基が主鎖の炭素鎖において隣り合って配置されることはまれである。これにより、例えばNMR(核磁気共鳴法)等により、隣り合うカルボキシル基の由来がマレイン酸類に由来するものかどうかの確認が可能である。
【0064】
マレイン酸系樹脂のカルボキシル基は、エステル化されたものであってもよい。例えば、水酸基を有する化合物によりエステル化されたものでもよい。マレイン酸類に由来する構造の2つのカルボキシル基は、エステル化されていなくてもよいし、一方がエステル化されていてもよいし、両方がエステル化されていてもよい。
【0065】
また、マレイン酸類に由来する構造のカルボキシル基がエステル化されていない場合には、水系のインクジェットインク組成物中でカルボン酸として存在してもよいし、アンモニア、アルカノールアミン又はアルキルアミンで部分的あるいは完全に中和されていてもよい。
【0066】
マレイン酸系樹脂は、マレイン酸類のカルボキシル基に由来する構造を多く含むことから水溶性を有する。そのため、水系のインクジェットインク組成物中では、マレイン酸系樹脂の分子鎖が広がりを有している。これにより、インクジェットインク組成物と処理液とが混合した場合に、マレイン酸系樹脂が凝集剤と出会う確率が高まっている。そのため、マレイン酸系樹脂は、凝集性が良好であり、これによりインクセットを用いて得られる画像の画質を高めることができる。
【0067】
マレイン酸系樹脂のマレイン酸類に由来する構造の2つのカルボキシル基のうち、一方がエステル化されると、得られる画像の耐水性が向上する傾向がある。また、マレイン酸類に由来する構造の2つのカルボキシル基がエステル化されていない場合には、得られる画像の耐水性が低下する傾向がある。エステル化の程度により、マレイン酸系樹脂の親水性及び疎水性のバランスを調節することができ、これによりインクジェットインク組成物の保存安定性をより良好とできるとともに、得られる画像の耐水性をさらに向上することができる。例えば、スチレン無水マレイン酸ハーフエステル共重合体塩は、親水性及び疎水性のバランスの点で好ましい。これはエステル化されたカルボキシル基は疎水性が高く、反応時の不溶化、固液分離を促進しているためと推測される。
【0068】
なおマレイン酸系樹脂が、無水マレイン酸に由来する構造を含む場合、水中では、無水物が加水によりカルボキシル基になっていると考えられる。
【0069】
なお、マレイン酸系樹脂は、水溶性樹脂であり、顔料分散剤とは異なり、インクジェットインク組成物中で顔料などに吸着等をせずインクの溶媒成分である水に溶解した溶液として存在するものであることが好ましい。これにより優れた凝集性を示す。本項で説明しているマレイン酸系樹脂は、インクが顔料分散剤で分散された顔料を含有する場合、顔料分散剤とは別途、インクに含有されるものである。
【0070】
マレイン酸系樹脂は、その粒子を構成する樹脂の骨格や官能基の数、性質に依存して、後述するプロピオン酸カルシウム等の凝集剤の作用により凝集性を示す。
【0071】
マレイン酸系樹脂は、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等の酸性基を有することが好ましい。すなわち、マレイン酸類に由来するカルボキシル基が酸又は塩の状態で存在する場合や、マレイン酸類に由来するカルボキシル基の全部がエステル化された場合であっても骨格やエステル基にカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等の酸性基を酸又は塩の状態で有することが好ましい。また、当該酸性基は、アンモニア、アルカノールアミン又はアルキルアミンで部分的あるいは完全に中和されていてもよい。
【0072】
マレイン酸系樹脂の重量平均分子量は、2000以上100000以下が好ましく、5000以上60000以下がより好ましく、10000以上50000以下がさらに好ましい。重量平均分子量がこの範囲であると、得られる画像の凝集ムラの抑制と、耐擦性の向上をさらに良好にすることができる。インクジェットヘッドからの吐出安定性も良好である。
【0073】
マレイン酸系樹脂の市販品としては、例えば、SNディスパーサント5027、5029(以上、サンノプコ株式会社製)、サンスパールPS-8(三洋化成工業株式会社製)、マリアリムHKM-50A、150A、AKM-0531、SC-0505K、ポリスターOMA(以上、日油株式会社製)、デモールP、EP、ST、ボイズ520、521(以上、花王株式会社製)、ポリティA550(ライオン株式会社製)、アラスター703S、ポリマロン1318、351T、385、372、375CB、482、482S、1329(以上、荒川化学工業株式会社製)、XIRAN1440H、2625H、1000H、2000H、3000H(以上、ポリスコープ社製)、イソバン-104(株式会社クラレ製)、フローレンG-700AMP、G-700DMEA(以上、共栄社化学株式会社製)等が挙げられる。
【0074】
樹脂の含有量は、インクジェットインク組成物の全質量に対して、全固形分として、0.1質量%以上20質量%以下、好ましくは1質量%以上15質量%以下、より好ましくは2質量%以上10質量%以下である。
【0075】
1.3.低分子有機化合物A
インクジェットインク組成物は、アミド類、含硫黄類、環状エーテル類のいずれかであって下記条件(a)及び条件(b)を満たす水溶性の低分子有機化合物Aを含む。
条件(a)10質量%水溶液の表面張力が42mN/m以上56mN/m以下
条件(b)標準沸点が150℃以上300℃以下
【0076】
低分子有機化合物Aの低分子は、分子量が500以下の化合物をいう。分子量は、400以下が好ましく、300以下がより好ましい。50~200がさらに好ましい。
【0077】
低分子有機化合物Aは水溶性である。水溶性は、20℃の水において、溶解度が10質量%超の水溶性を有する。例えば、20℃で、水に該化合物を所定の濃度で混合して攪拌後、目視により、溶け残りが見えたり混合液全体が白濁して見えたりしないものである場合に水に溶けたとする。水に溶けた場合の、水に混合した該化合物の最低濃度が10質量%超である場合に、水溶性とする。溶解度を示すときの質量%は、水と低分子有機化合物を混合した混合液の総質量に対する、低分子有機化合物の質量%である。
【0078】
低分子有機化合物Aは、10質量%水溶液の表面張力が42mN/m以上56mN/m以下(条件(a))であり、標準沸点が150℃以上300℃以下(条件(b))である。
【0079】
条件(a)について、10質量%水溶液の表面張力は、条件(a)であるが、45mN/m以上55mN/m以下がより好ましく、46mN/m以上54.5mN/m以下がさらに好ましく、47mN/m以上54.5mN/m以下がよりさらに好ましい。さらには、50.0~54.5mN/mが好ましい。表面張力は、20℃にて、定法により測定できる。
【0080】
表面張力が上記範囲以上の場合、記録媒体への低分子有機化合物Aの浸透を低減でき、樹脂を充分に溶解することができ、耐擦性に優れる。表面張力が上記範囲以下の場合、記録媒体上で、インクがぬれ広がりやすく、発色性に優れる。
【0081】
条件(b)について、標準沸点は、条件(b)であるが、160℃以上290℃以下がより好ましく、170℃以上280℃以下がさらに好ましく、175℃以上276℃以下がよりさらに好ましい。さらには、200~270℃が好ましく、230~270℃がより好ましい。
【0082】
標準沸点が300℃以下、好ましくは280℃以下であると、二次乾燥工程におけるインクジェットインク組成物の乾燥性がさらに良好となり、耐擦性にも優れる。一方、標準沸点が上記範囲以上であると、記録媒体上で、樹脂を十分に溶解しないうちに、低分子有機化合物Aが蒸発してしまうことを低減でき、耐擦性に優れる。標準沸点は、定法により測定できる。
【0083】
条件(a)及び条件(b)を満たす水溶性の低分子有機化合物Aの具体例の一例を表1に示す。
【0084】
【0085】
インクジェットインク組成物は、上記の低分子有機化合物Aを一種単独で用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0086】
インクジェットインク組成物は、低分子有機化合物Aを含有することにより、低分子有機化合物Aが特に水分散性の樹脂の溶解助剤として機能しやすいので、水分散性の樹脂の粒子が膨潤及び/又は軟化しやすい。これにより、形成される画像の表面の平坦性がさらに向上し、画像の耐擦性をさらに良好にすることができる。
【0087】
アミド類は、アミド構造を有する水溶性の低分子有機化合物であればよい。アミド類としては、環状アミド、非環状(鎖状)アミドがあげられる。
【0088】
含硫黄類は、分子中に硫黄原子を有する水溶性の低分子有機化合物であればよい。含硫黄類としては、例えば、スルホン類、スルホキシド類などがあげられる。
環状エーテル類としては、環状エーテル構造を有する水溶性の低分子有機化合物であればよい。例えば4~8員環の環状エーテル構造を有するものなどがあげられる。環を構成する酸素原子数は1~3が好ましい。オキセタン類、ソルケタール類などがあげられる。
【0089】
低分子有機化合物Aとして、アミド類を選択すると、例えば、低吸収性記録媒体上に付着させたインクジェットインク組成物の表面乾燥性及び定着性をより向上でき好ましい。またアミド類は、塩化ビニル系樹脂を適度に軟化・溶解する作用に優れる傾向がある。そのため、アミド類は、塩化ビニル系樹脂を含有する記録媒体の記録面を軟化・溶解して、記録媒体の内部にインクジェットインク組成物を浸透させることができる。このようにインクジェットインク組成物が記録媒体に浸透することで、インクジェットインク組成物の成分が強固に定着し、かつ、インクジェットインク組成物の表面がより乾燥しやすくなる。したがって、得られる画像は、表面乾燥性及び定着性により優れたものとなりやすい。
【0090】
インクジェットインク組成物における低分子有機化合物Aの含有量は、インクジェットインク組成物の全量に対して、0.5~15質量%が好ましい。さらには、1質量%以上10質量%以下が好ましく、2質量%以上9質量%以下がより好ましく、3質量%以上8質量%以下がさらに好ましく、4質量%以上8質量%以下がことさら好ましい。この範囲の含有量であれば、形成される画像の表面の平坦性がさらに向上し、画質及び耐擦性のさらに良好な画像を形成できる。
【0091】
低分子有機化合物Aは、樹脂溶解化合物としての機能を有し、表面張力が42mN/m以上のものを用いることで、記録媒体に浸透し難くなり、記録媒体上で樹脂を充分に溶解することができ、画像の耐擦性を優れたものとできる。
【0092】
1.4.シリコーン系界面活性剤
インクジェットインク組成物は、下記条件(c)を満たすシリコーン系界面活性剤を含有する。
条件(c)20℃の水への溶解度が1質量%以下
【0093】
インクジェットインク組成物が、条件(c)を満たすシリコーン系界面活性剤を含有することにより、記録媒体に付着した際の横方向(付着面に沿う方向)の濡れ広がりを良好にすることができ、優れた発色性の画像を形成することができる。条件(c)を満たすシリコーン系界面活性は、疎水性が比較的高く、低吸収性記録媒体、非吸収性記録媒体に対して、濡れやすく広がりやすくなると考えられる。
【0094】
前述の低分子有機化合物Aは、10質量%水溶液の表面張力が42mN/m以上であることにより、低分子有機化合物の10質量%水溶液の表面張力がこれ未満だった場合と比べて、記録媒体への浸透性が抑制されたものとなる。この場合に、低分子有機化合物Aによって、インクの記録媒体へのぬれ広がり性も抑制される傾向があり、インクがぬれ広がらなくなってしまう。このため、インクの発色性が劣ってしまう傾向がある。
【0095】
そこで、本実施形態のインクジェットインク組成物は、条件(c)を満たすシリコーン系界面活性剤を含有することにより、インクが前述の低分子有機化合物Aを含有する場合であっても、記録媒体に付着したインクの濡れ広がりを良好にすることができ、優れた発色性の画像を形成することができる。
【0096】
なお、低分子有機化合物の10質量%水溶液の表面張力が56mN/m超であると、インクの記録媒体での濡れ広がり性がさらに抑制されてしまい、インクが条件(c)を満たすシリコーン系界面活性剤を含有したとしても、発色性が劣ってしまう。
【0097】
そこで、インクが、低分子有機化合物Aと、条件(c)を満たすシリコーン系界面活性剤とを含有することで、耐擦性と発色性が優れることができる。
【0098】
条件(c)について、20℃の水への溶解度は、0.8質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましく、0.2質量%以下がよりさらに好ましい。
【0099】
溶解度は、以下のようにして求める。まず、20℃の環境下で、溶解度が1質量%以下か否かを判定するには、1質量%水溶液(シリコーン系界面活性剤:水=1g:99g混合液)を作製し撹拌したとき、無色透明なら溶解していると判定し、溶解度は1質量%を超えているとする。半透明、不透明又は未溶解物がある場合、溶解しないと判定し、溶解度は1質量%以下とする。
【0100】
条件(c)を満たすシリコーン系界面活性剤の具体例を表2に示す。
【0101】
【0102】
シリコーン系界面活性剤の含有量は、インクジェットインク組成物全量に対して0.1質量%以上2質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上1質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以上0.8質量%以下であることがさらに好ましい。含有量がこの範囲であれば、ノズルの目詰まり回復性がさらに良好、かつ、画質がさらに良好な画像を得ることができる。
【0103】
シリコーン系界面活性剤は、その分子構造において、Si鎖及び/又はポリオキシアルキレン鎖の長短を調節することにより、水への溶解性を調節できる。例えば、Si鎖を長くすること、又は、ポリオキシアルキレン鎖を短くすることにより、水への溶解度を低くすることができる。
【0104】
1.5.その他の成分
1.5.1.アニオン性界面活性剤
インクジェットインク組成物は、下記一般式(1)で表されるアニオン性界面活性剤を含んでもよい。
【0105】
【化1】
(一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1以上20以下の直鎖又は分岐のアルキル基を表し、m及びnは、それぞれ独立に、0以上20以下の整数を表し、Mは、一価の陽イオンになり得る原子を表す。)
【0106】
なお、一般式(1)中、-SO3Mは、インクジェットインク組成物中で電離してイオン化して、-SO3
-、及び、M+となっていてもよい。
【0107】
インクジェットインク組成物が、上記アニオン性界面活性剤を含有することにより、シリコーン系界面活性剤との相乗効果により、記録媒体との親和性がより高くなるので、画質及び耐擦性がさらに良好な画像を得ることができる。
【0108】
アニオン性界面活性剤の具体例としては、Disponil SUS IC 875(BASFジャパン株式会社製)、サンモリンOT-70、カラボンDA-72(三洋化成工業株式会社製)、エアロールCT-1(東邦化学工業株式会社製)、アデカコールEC-8600(株式会社ADEKA製)、REWOPOL SB DO 75 PG(エボニックジャパン株式会社製)、等が挙げられる。
【0109】
アニオン性界面活性剤を用いる場合、その含有量は、インクジェットインク組成物全量に対して0.05質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上0.8質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下であることがさらに好ましい。含有量がこの範囲であれば、上記作用を得やすい。
【0110】
1.5.2.水
インクジェットインク組成物は、水を含有する水系インクである。水系とは主要な溶媒成分の1つとして水を含有する組成物である。水は主となる溶媒成分として含んでもよく、乾燥により蒸発する成分である。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものであることが好ましい。また、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌した水を用いると、処理液やインクジェットインク組成物を長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を抑制できるので好適である。水の含有量はインクジェットインク組成物の総量に対して好ましくは40質量%以上であり、さらには45質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上98質量%以下であり、さらに好ましくは55質量%以上95質量%以下である。
【0111】
1.5.3.1. その他の低分子有機化合物
インクジェットインク組成物は、アミド類、含硫黄類、環状エーテル類のいずれかであって前述の条件(b)を満たす水溶性の低分子有機化合物を含有しても良い。
【0112】
つまり、低分子有機化合物A以外にも、アミド類、含硫黄類、環状エーテル類のいずれかである水溶性の低分子有機化合物であって、条件(b)を満たすが条件(a)は満たさない化合物を含有してもよい。これを、その他の低分子有機化合物という。
【0113】
インクジェットインク組成物は、アミド類、含硫黄類、環状エーテル類のいずれかであって前述の条件(b)を満たす水溶性の低分子有機化合物の総質量を100質量%とした場合に、上述した低分子有機化合物A(条件(a)及び条件(b)を満たすもの)の含有量が50質量%以上とすることが好ましい。
【0114】
すなわち、上述した低分子有機化合物Aに加えて、インク組成物が、アミド類、含硫黄類、環状エーテル類のいずれかである水溶性の低分子有機化合物であって条件(b)を満たすが条件(a)は満たさない化合物(その他の低分子有機化合物)を含有する場合は、これも含めた合計の総質量を100質量%とした場合に、低分子有機化合物Aが50質量%以上であることが好ましい。さらには、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。上限は100質量%以下である。つまり、その他の低分子有機化合物を含有しなくてもよい。
【0115】
すなわち、アミド類、含硫黄類、環状エーテル類のいずれかであって、標準沸点が150℃以上300℃以下である水溶性の低分子有機化合物の合計を100質量%としたとき、その中で10質量%水溶液の表面張力が42mN/m以上56mN/mであるものの質量割合が、上記範囲以上であることが好ましい。
【0116】
このようにすれば、低分子有機化合物Aの効果を十分に発揮でき、ノズルの目詰まり回復性がさらに良好、かつ、画質及び耐擦性がさらに良好な画像を得ることができる。
【0117】
その他の低分子有機化合物としては、後述する有機溶剤のうちのアミド類、含硫黄類、環状エーテル類があげられるが、その他の低分子有機化合物としては、常温で固体のものも含んでもよい。
【0118】
1.5.3.2. 有機溶剤
インクジェットインク組成物は、有機溶剤を含有してもよい。有機溶剤は、常温で液体の低分子有機化合物である。上述の水溶性の低分子有機化合物Aやその他の低分子有機化合物であって、常温で液体のものは、有機溶剤でもあり得る。
【0119】
有機溶剤は、水溶性低分子有機化合物や、または水溶性低分子有機化合物以外のものであってもよい。有機溶剤は水溶性の有機溶剤であることが好ましい。有機溶剤の機能としては、記録媒体に対するインクジェットインク組成物の濡れ性を向上させることや、インクジェットインク組成物の保湿性を高めることが挙げられる。また、有機溶剤は、浸透剤としても機能できる。
【0120】
有機溶剤としては、例えば、アミド類、含硫黄類、環状エーテル類、アルキレングリコールエーテル類、環状エステル類、エステル類、多価アルコール等を挙げることができる。これらの中でも、アルキレングリコールエーテル類、多価アルコール等が好ましい。
【0121】
アミド類としては環状アミド類、非環状アミド類などを挙げることができる。非環状アミド類としてはアルコキシアルキルアミド類などが挙げられる。インクジェットインク組成物がアミド類を含有する場合には、画像の耐擦性や記録媒体上での濡れ拡がりをさらに良好にすることができる。有機溶剤がアミド類を含むことが好ましく、特に非環状アミドが好ましい。
【0122】
環状アミド類としては、ラクタム類が挙げられ、例えば、2-ピロリドン、1-メチル-2-ピロリドン、1-エチル-2-ピロリドン、1-プロピル-2-ピロリドン、1-ブチル-2-ピロリドン、等のピロリドン類、2-ピペリドン、ε-カプロラクタム、N-メチル-ε-カプロラクタム、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、5-メチル-2-ピロリドン、β-プロピオラクタム、ω-ヘプタラクタム、スクシンイミド、などが挙げられる。これらは凝集剤の溶解性や、後述する樹脂粒子の皮膜化を促進させる点で好ましく、特に2-ピロリドン、ε-カプロラクタムがより好ましい。
【0123】
非環状アミド類としては、例えば、アルキルアミド類が挙げられ、例えば、アルコキシアルキルアミド類が挙げられる。なお、アルキルアミド類として、アルコキシアルキルアミド類以外のものとしては、アルコキシアルキルアミド類において、アルコキシ基を有さない構造のもの等が挙げられる。
【0124】
非環状アミド類としては、例えば、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、等のアルコキシアルキルアミド類、N,N-ジメチルアセトアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアセトアミド、N-メチルアセトアセトアミド、N,N-ジメチルイソ酪酸アミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロピオンアミド、などを例示することができる。
【0125】
また、アルコキシアルキルアミド類として、下記一般式(2)で表される化合物を用いることも好ましい。
【0126】
R1-O-CH2CH2-(C=O)-NR2R3 ・・・(2)
【0127】
上記式(2)中、R1は、炭素数1以上4以下のアルキル基を示し、R2及びR3は、それぞれ独立にメチル基又はエチル基を示す。「炭素数1以上4以下のアルキル基」は、直鎖状又は分岐状のアルキル基であることができ、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基であることができる。上記式(1)で表される化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0128】
式(2)で表される化合物の機能としては、例えば、低吸収性記録媒体上に付着させたインクジェットインク組成物の表面乾燥性及び定着性を高めることが挙げられる。特に、上記式(2)で表される化合物は、塩化ビニル系樹脂を適度に軟化・溶解する作用に優れている。そのため、上記式(2)で表される化合物は、塩化ビニル系樹脂を含有する被記録面を軟化・溶解して、低吸収性記録媒体の内部にインクジェットインク組成物を浸透させることができる。このようにインクジェットインク組成物が低吸収性記録媒体に浸透することで、インクジェットインク組成物が強固に定着し、かつ、インクジェットインク組成物の表面が乾燥しやすくなる。したがって、得られる画像は、表面乾燥性及び定着性に優れたものとなりやすい。
【0129】
また、上記式(2)中、R1は、炭素数1のメチル基であることがより好ましい。上記式(2)において、R1がメチル基である化合物の標準沸点は、R1の炭素数が2以上4以下のアルキル基である化合物の標準沸点と比較して低い。そのため、上記式(2)において、R1がメチル基である化合物を用いると、付着領域の表面乾燥性(特に高温多湿環境下で記録された場合の画像の表面乾燥性)を一層向上できる場合がある。
【0130】
アミド類を用いる場合の含有量は、インクジェットインク組成物の全質量に対して、特に限定されないが、2質量%以上50質量%以下程度であり、4質量%以上30質量%以下であることが好ましい。上記範囲にあることで、画像の定着性及び表面乾燥性(特に高温多湿環境下で記録された場合の表面乾燥性)を一層向上できる場合がある。
【0131】
含硫黄類としては、スルホキシド類、スルホン類などを挙げることができる。
【0132】
スルホキシド類としては、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、等の非環状スルホキシド類、テトラメチレンスルホキシド、等の環状スルホキシド類などがある。スルホン類としては、3-メチルスルホラン、スルホラン、等の環状スルホン類、エチルイソプロピルスルホン、エチルメチルスルホン、ジメチルスルホン、等の非環状スルホン類を例示することができる。
【0133】
環状エーテル類としては、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメチルイソソルビド、3-メチル-3-オキセタンメタノール、3-エチル-3-オキセタンメタノール、2-ヒドロキシメチルオキセタン、テトラヒドロフルフリルアルコール、グリセロールホルマール、ソルケタール、1,4-ジオキサン-2,3-ジオール、ジヒドロレボグルコセノン、等を例示することができる。
【0134】
アルキレングリコールエーテル類としては、アルキレングリコールのモノエーテル又はジエーテルであればよく、アルキルエーテルが好ましい。具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類、及び、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等のアルキレングリコールジアルキルエーテル類が挙げられる。アルキレングリコールエーテルは、アルキレングリコールの部分の炭素数は2~6が好ましく、エーテルの部分1つの炭素数は1以上4以下が好ましい。
【0135】
また、上記のアルキレングリコールエーテルは、モノエーテルよりも、ジエーテルのほうが、インクジェットインク組成物中の樹脂を溶解又は膨潤させやすい傾向があり、形成される画像の耐擦性が良好となる傾向がある点でより好ましい。一方、モノエーテルの方が、インクジェットインク組成物の濡れ性がより向上する場合があり好ましい。
【0136】
環状エステル類としては、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、β-ブチロラクトン、β-バレロラクトン、γ-バレロラクトン、β-ヘキサノラクトン、γ-ヘキサノラクトン、δ-ヘキサノラクトン、β-ヘプタノラクトン、γ-ヘプタノラクトン、δ-ヘプタノラクトン、ε-ヘプタノラクトン、γ-オクタノラクトン、δ-オクタノラクトン、ε-オクタノラクトン、δ-ノナラクトン、ε-ノナラクトン、ε-デカノラクトン等の環状エステル類(ラクトン類)、並びに、それらのカルボニル基に隣接するメチレン基の水素が炭素数1以上4以下のアルキル基によって置換された化合物を挙げることができる。
【0137】
エステル類としては、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メトキシブチルアセテート、等のグリコールモノアセテート類、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、エチレングリコールアセテートプロピオネート、エチレングリコールアセテートブチレート、ジエチレングリコールアセテートブチレート、ジエチレングリコールアセテートプロピオネート、ジエチレングリコールアセテートブチレート、プロピレングリコールアセテートプロピオネート、プロピレングリコールアセテートブチレート、ジプロピレングリコールアセテートブチレート、ジプロピレングリコールアセテートプロピオネート、等のグリコールジエステル類が挙げられる。
【0138】
多価アルコールは、分子中に2個以上の水酸基を有する化合物である。多価アルコールは、アルカンが2個以上の水酸基で置換されたアルカンポリオール類や、該アルカンポリオール類の2分子以上が水酸基同士が分子間で縮合した縮合物などがあげられる。多価アルコールは、炭素数2~10のものが好ましい。
【0139】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール(別名:1,2-プロパンジオール)、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール、等の1,2-アルカンジオール類、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール(別名:1,3-ブチレングリコール)、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、等が挙げられる。多価アルコール類は、1種単独か又は2種以上を混合して使用することができる。
【0140】
多価アルコールは、主に浸透溶剤及び/又は保湿溶剤として機能することができる。特に、炭素数5以上の1,2-アルカンジオール類は浸透溶剤としての性質が強い傾向がある。
【0141】
インクジェットインク組成物が有機溶剤を含む場合、有機溶剤を一種単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。また、有機溶剤の、インクジェットインク組成物全質量に対する合計の含有量は、例えば、5質量%以上50質量%以下であり、5質量%以上30質量%以下が好ましく、10質量%以上25質量%以下がより好ましく、15質量%以上25質量%以下がさらに好ましい。有機溶剤の含有量が上記範囲内にあることでノズルの目詰まり回復性がより良好、かつ、乾燥性がより良好な画像を得ることができる。
【0142】
また、インクジェットインク組成物が有機溶剤を含む場合、上記例示した有機溶剤のうち、標準沸点が160.0℃以上280.0℃以下の有機溶剤を含有することがより好ましい。このようにすれば、形成される画像の乾燥、定着がより早い記録を行うことができる。また、画像の耐擦性、記録媒体上での濡れ拡がり及び/又は画像の乾燥性をさらに良好にすることができる。
【0143】
さらに、インクジェットインク組成物は、標準沸点が280.0℃超の多価アルコールの有機溶剤を1.0質量%を超えて含有しないことがより好ましい。インクジェットインク組成物における、標準沸点が280℃を越える多価アルコールの有機溶剤の含有量は、インクジェットインク組成物の全質量に対して5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下、より特に好ましくは0.1質量%以下である。標準沸点が280℃を越える多価アルコールの有機溶剤の含有量の下限は0質量%でもよい。X質量%を超えて含有しない、というとき、含有量がX質量%以下であるという意味であり、含有しない又はX質量%以下で含有するという意味である。なお、インクジェットインク組成物は、トリメチロールプロパン、グリセリン等の標準沸点が280℃以上の多価アルコールを必要に応じて含有してもよい。
【0144】
このようにすれば、形成される画像の乾燥が良好となり、より早い記録を行うことができ、記録媒体との密着性も向上できる。さらには、インクジェットインク組成物は、標準沸点が280.0℃超の有機溶剤(多価アルコールに限らず)を上記の範囲とすることも、より好ましい。標準沸点が280℃を越える有機溶剤としては、例えば、グリセリン、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0145】
また、インクジェットインク組成物は、上記有機溶剤のうち、10質量%水溶液の表面張力が35mN/m以下の有機溶剤を、9質量%を超えて含有しないことがより好ましい。このようにすれば、さらに発色性の良好な画像を形成できる。
【0146】
1.5.4.界面活性剤
インクジェットインク組成物は、上述のシリコーン系界面活性剤及びアニオン性界面活性剤以外の界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤は、インクジェットインク組成物の表面張力を低下させ記録媒体や下地との濡れ性を向上させる機能を備える。界面活性剤の中でも、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤のうち、上記条件(c)を満たさないもの、及びフッ素系界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0147】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG-50、104S、420、440、465、485、SE、SE-F、504、61、DF37、DF-110D、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上全て商品名、エア・プロダクツ&ケミカルズ社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD-001、PD-002W、PD-003、PD-004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF-103、AF-104、AK-02、SK-14、AE-3(以上全て商品名、日信化学工業社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上全て商品名、川研ファインケミカル社製)が挙げられる。
【0148】
上記条件(c)を満たさないシリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリシロキサン系化合物が好ましく挙げられる。当該ポリシロキサン系化合物としては、特に限定されないが、例えばポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。当該ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK-306、BYK-307、BYK-3331、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-348、BYK-346、BYK-348、BYK-349、BYK-3420、BYK-3480、BYK-3481(以上商品名、ビックケミー・ジャパン社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上商品名、信越化学工業社製)、SAG003、SAG502、SAG503A、SAG008(以上全て商品名、日信化学工業社製)、TEGO WET 260、TEGO WET 280、TEGO WET KL245(以上全て商品名、エボニックジャパン社製)、DOWSIL 502W(商品名、ダウ東レ株式会社製)が挙げられる。
【0149】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましく、具体例としては、BYK-3440(ビックケミー・ジャパン社製)、サーフロンS-241、S-242、S-243(以上商品名、AGCセイミケミカル社製)、フタージェント215M(ネオス社製)等が挙げられる。
【0150】
インクジェットインク組成物に界面活性剤を含有させる場合には、複数種を含有させてもよい。インクジェットインク組成物に界面活性剤を含有させる場合の含有量は、全質量に対して、好ましくは0.1質量%以上2.0質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以上1.5質量%以下、より好ましくは、0.3質量%以上1.0質量%以下である。
【0151】
1.5.5.添加剤
インクジェットインク組成物は、添加剤として、尿素類、アミン類、糖類等を含有してもよい。尿素類としては、尿素、エチレン尿素、テトラメチル尿素、チオ尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等、及び、ベタイン類(トリメチルグリシン、トリエチルグリシン、トリプロピルグリシン、トリイソプロピルグリシン、N,N,N-トリメチルアラニン、N,N,N-トリエチルアラニン、N,N,N-トリイソプロピルアラニン、N,N,N-トリメチルメチルアラニン、カルニチン、アセチルカルニチン等)等が挙げられる。
【0152】
アミン類としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジブチルエタノールアミン、N-アミノエチルエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、N-tert-ブチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン、N-tert-ブチルジエタノールアミン、2-アミノ-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、5-アミノ-1-ペンタノール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、3-アミノ-1,2-プロパンジオール、3-メチルアミノ-1,2-プロパンジオール、プロパノールアミン、N,N-ジメチルプロパノールアミン、N,N-ジエチルプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N,N-ジメチルイソプロパノールアミン、N,N-ジエチルイソプロパノールアミン、等のアルカノールアミン類が挙げられる。尿素類やアミン類は、pH調整剤として機能させてもよい。
【0153】
糖類としては、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、及びマルトトリオース等が挙げられる。
【0154】
1.5.6.その他
インクジェットインク組成物は、さらに必要に応じて、防腐剤・防かび剤、防錆剤、キレート化剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防黴剤等の成分を含有してもよい。
【0155】
1.6.インクジェットインク組成物の製造及び物性
インクジェットインク組成物の20℃における粘度は、好ましくは2mPa・s以上15mPa・s以下である。インクジェットインク組成物の20℃における粘度が前記範囲内にあると、インクジェット法にさらに好適となり、ノズルからインクジェットインク組成物がより適切に吐出され、インクジェットインク組成物の飛行曲がりや飛散を一層低減することができるため、インクジェット記録装置にさらに好適に使用することができる。
【0156】
インクジェットインク組成物は、上記した各成分を適宜の順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。
【0157】
1.7.インクジェットインク組成物の用途
本実施形態のインクジェットインク組成物は、低吸収記録媒体又は非吸収記録媒体への記録に用いられることがより好適である。インクジェットインク組成物は、低吸収記録媒体又は非吸収記録媒体であっても画質及び耐擦性が良好な画像を得ることができる。
【0158】
1.8.作用効果
本実施形態のインクジェットインク組成物によれば、低分子有機化合物Aが条件(a)及び条件(b)を満たす結果、ノズルの目詰まり回復性が良好、かつ、画質及び耐擦性が良好な画像を得ることができる。
【0159】
すなわち、本実施形態のインクジェットインク組成物では、低分子有機化合物Aの表面張力が条件(a)を満たさない程度に低いと、記録媒体上での濡れ広がり性が得られるが、同時に記録媒体の厚さ方向への浸透性も高まってしまうため、表面張力が条件(a)を満たすようにして浸透性を押さえている。インクジェットインク組成物は、記録媒体上での濡れ広がり性を補うように条件(c)を満たすシリコーン系界面活性剤を含有している。
【0160】
他方、本実施形態のインクジェットインク組成物では、低分子有機化合物Aの表面張力が条件(a)を満たさない程度に高いと、条件(c)を満たすシリコーン系界面活性剤を用いても記録媒体上での濡れ広がり性が不足するので、条件(a)に上限を設けている。すなわち、本実施形態のインクジェットインク組成物では、低分子有機化合物Aは、表面張力が高すぎず低すぎない所定の範囲のものを用い、これと上記特定のシリコーン界面活性剤とを用いることで、優れた発色と、耐擦性を両立している。
【0161】
2.記録方法
本実施形態に係る記録方法は、上述のインクジェットインク組成物をインクジェット法により記録媒体に付着させるインク付着工程を備える。
【0162】
2.1.記録媒体
本実施形態に係る記録方法で画像を形成する記録媒体は、インクジェットインク組成物等の液体を吸収する記録面を有するものであっても、液体を吸収する記録面を有しないものであってもよい。したがって記録媒体としては、特に制限はなく、例えば、紙、布等の液体吸収性記録媒体、印刷本紙などの液体低吸収性記録媒体、金属、ガラス、フィルム、高分子等の液体非吸収性記録媒体などが挙げられる。しかし、本実施形態の記録方法の優れた効果は、液体低吸収性又は液体非吸収性の記録媒体に対して画像を記録する場合により顕著となる。すなわち、本実施形態の記録方法によれば、凝集ムラの比較的生じやすい低吸収性記録媒体又は非吸収性記録媒体であっても、高画質で耐擦性の良好な画像を形成することができる。
【0163】
液体低吸収性又は液体非吸収性の記録媒体とは、液体を全く吸収しない、又はほとんど吸収しない性質を有する記録媒体を指す。定量的には、液体非吸収性又は液体低吸収性の記録媒体とは、「ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m2以下である記録媒体」を指す。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙-液体吸収性試験方法-ブリストー法」に述べられている。これに対して、液体吸収性の記録媒体とは、液体非吸収性及び液体低吸収性に該当しない記録媒体のことを示す。なお、本明細書では、液体低吸収性及び液体非吸収性を、単に低吸収性及び非吸収性と称することがある。
【0164】
液体非吸収性の記録媒体としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック類のフィルムやプレート、鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属類のプレート、又はそれら各種金属を蒸着により製造した金属プレートやプラスチック製のフィルム、ステンレスや真鋳等の合金のプレート等が挙げられる。また、紙等の基材上にプラスチックがコーティングされているもの、紙等の基材上にプラスチックフィルムが接着されているもの、吸収層(受容層)を有していないプラスチックフィルム等も例示できる。ここでいうプラスチックとしては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0165】
また、液体低吸収性の記録媒体としては、表面に液体を受容するための塗工層(受容層)が設けられた記録媒体が挙げられ、例えば、基材が紙であるものとしては印刷本紙が挙げられ、基材がプラスチックフィルムであるものとして、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン等の表面に、親水性ポリマー等が塗工されたもの、シリカ、チタン等の粒子がバインダーとともに塗工されたものが挙げられる。
【0166】
液体吸収性の記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、液体の浸透性が高い電子写真用紙などの普通紙、インクジェット用紙(シリカ粒子やアルミナ粒子から構成されたインク吸収層、あるいは、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマーから構成されたインク吸収層を備えたインクジェット専用紙)から、液体の浸透性が比較的低い一般のオフセット印刷に用いられるアート紙、コート紙、キャスト紙等が挙げられる。さらに、液体吸収性の記録媒体としては、布帛、不織布等も例示することができる。
【0167】
なお、記録媒体は、無色透明、半透明、着色透明、有彩色不透明、無彩色不透明等であってもよい。また、記録媒体は、それ自体が着色されていたり、半透明や透明であってもよい。
【0168】
2.2.インク付着工程
インク付着工程は、記録ヘッドと記録媒体とを相対的に走査しながらインクジェットインク組成物を付着させる態様であれば、どのような方式で行われてもよい。例えば、記録ヘッドをインクジェットヘッドとし、インクジェットヘッドからインクジェットインク組成物を吐出するインクジェット法により行うことが好ましい。このようにすれば、小型の装置で少量多種類の印刷を効率よく行うことができる。インクジェット法以外にもアナログ印刷方式などによりインクの付着を行ってもよい。
【0169】
インク付着工程は、インクジェット記録装置により容易に実行できる。インクジェット記録装置の詳細については後述する。インクジェット法によりインクジェットヘッドからインクを吐出して記録に用いる組成物を、インクジェットインク組成物という。
【0170】
本実施形態の記録方法によれば、上述のインクジェットインク組成物を用いるので、画質及び耐擦性が良好な画像を得ることができる。
【0171】
インク付着工程は、記録媒体の表面温度が50℃以下で行われてもよい。すなわち、インク付着工程は、記録媒体を加熱することなく行われてもよく、加熱して行われてもよく、加熱する場合には、記録媒体の表面温度が50℃以下となるように加熱する。このようにすれば、画質及び耐擦性が良好な画像をさらに乾燥性良く得ることができる。なおインク付着工程は、必要に応じて冷却して行われてもよい。
【0172】
2.3.その他の工程
記録方法は、処理液付着工程、加熱工程、ラミネート工程等を備えてもよい。
【0173】
2.3.1.処理液付着工程
処理液付着工程は、処理液を記録媒体へ付着させる工程である。処理液を記録媒体に付着させる方法としては、インクジェット法、塗布による方法、処理液を各種のスプレーを用いて記録媒体に塗布する方法、処理液に記録媒体を浸漬させて塗布する方法、処理液を刷毛等により記録媒体に塗布する方法等の非接触式及び接触式のいずれか又はそれらを組み合わせた方法を用いることができる。
【0174】
処理液付着工程は、インクジェット記録装置により行ってもよい。このようにすれば、1つのインクジェット記録装置で処理液及びインクジェットインク組成物を記録媒体に付着できるのでより好ましい。処理液について以下に説明し、インクジェット記録装置の詳細については後述する。
【0175】
(処理液)
処理液は、凝集剤を含有する。以下、処理液に含有される各成分について説明する。
【0176】
(凝集剤)
処理液は、インクジェットインク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する。上述したインクジェットインク組成物は、処理液の凝集剤による樹脂や色材の凝集性に優れ、優れた画質の画像を得ることができる。
【0177】
凝集剤は、インクジェットインク組成物に含まれる樹脂、顔料、水分散性樹脂などの成分の分散性に作用することで、これらの分散体の少なくとも1つを凝集させる機能を有する。凝集剤による分散体の凝集の程度は、凝集剤と対象のそれぞれの種類によって異なり、調節することができる。このような凝集作用により、例えば、画像の発色を高めること、及び/又は、画像の定着性を高めることができる。
【0178】
凝集剤としては、特に限定されるものではないが、金属塩、酸、カチオン性化合物等が挙げられ、カチオン性化合物としては、カチオン性樹脂(カチオン性ポリマー)、カチオン性界面活性剤等を用いることができる。これらの中でも、金属塩としては多価金属塩が好ましく、カチオン性化合物としてはカチオン性樹脂が好ましい。酸としては有機酸、無機酸が挙げられ有機酸が好ましい。そのため、凝集剤としては、カチオン性樹脂、有機酸、及び多価金属塩から選ばれることが、得られる画質、耐擦性、光沢等が特に優れる点で好ましい。
【0179】
金属塩としては好ましくは多価金属塩であるが、多価金属塩以外の金属塩も使用可能である。これらの凝集剤の中でも、インクに含まれる成分との反応性に優れるという点から、金属塩、及び有機酸から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。また、カチオン性化合物の中でも、処理液に対して溶解しやすいという点から、カチオン性樹脂を用いることが好ましい。また、凝集剤は複数種を併用することも可能である。
【0180】
多価金属塩とは、2価以上の金属イオンとアニオンから構成される化合物である。2価以上の金属イオンとしては、例えば、カルシウム、マグネシウム、銅、ニッケル、亜鉛、バリウム、アルミニウム、チタン、ストロンチウム、クロム、コバルト、鉄等のイオンが挙げられる。これらの多価金属塩を構成する金属イオンの中でも、インクの成分の凝集性に優れているという点から、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンの少なくとも一方であることが好ましい。
【0181】
多価金属塩を構成するアニオンとしては、無機イオン又は有機イオンである。すなわち、本発明における多価金属塩とは、無機イオン又は有機イオンと多価金属とからなるものである。このような無機イオンとしては、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン等が挙げられる。有機イオンとしては有機酸イオンが挙げられ、例えばカルボン酸イオンが挙げられる。
【0182】
なお、多価金属化合物はイオン性の多価金属塩であることが好ましく、特に、上記多価金属塩がマグネシウム塩、カルシウム塩である場合、処理液の安定性がより良好となる。また、多価金属の対イオンとしては、無機酸イオン、有機酸イオンのいずれでもよい。
【0183】
上記の多価金属塩の具体例としては、重質炭酸カルシウム及び軽質炭酸カルシウムといった炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、水酸化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、塩化バリウム、炭酸亜鉛、硫化亜鉛、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、硝酸銅、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸アルミニウム、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸マグネシウム、プロピオン酸アルミニウム、乳酸カルシウム、乳酸マグネシウム、乳酸アルミニウム等が挙げられる。これらの多価金属塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。これらの中でも、水への十分な溶解性を得られる点で、硫酸マグネシウム、硝酸カルシウム、乳酸アルミニウム、プロピオン酸カルシウムのうち少なくともいずれかが好ましい。なお、これらの金属塩は、原料形態において水和水を有していてもよい。
【0184】
多価金属塩以外の金属塩としてはナトリウム塩、カリウム塩などの一価の金属塩が挙げられ、例えば硫酸ナトリウム、硫酸カリウムなどが挙げられる。
【0185】
有機酸としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、シュウ酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、ピルビン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩等が好適に挙げられる。有機酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。有機酸の塩で金属塩であるものは上記の金属塩に含める。
【0186】
無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。無機酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0187】
カチオン性樹脂(カチオン性ポリマー)としては、例えば、カチオン性のウレタン系樹脂、カチオン性のオレフィン系樹脂、カチオン性のアミン系樹脂、カチオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0188】
カチオン性のウレタン系樹脂としては、市販品を用いることができ、例えば、ハイドラン CP-7010、CP-7020、CP-7030、CP-7040、CP-7050、CP-7060、CP-7610(商品名、大日本インキ化学工業株式会社製)、スーパーフレックス 600、610、620、630、640、650(商品名、第一工業製薬株式会社製)、ウレタンエマルジョン WBR-2120C、WBR-2122C(商品名、大成ファインケミカル株式会社製)等を用いることができる。
【0189】
カチオン性のオレフィン樹脂は、エチレン、プロピレン等のオレフィンを構造骨格に有するものであり、公知のものを適宜選択して用いることができる。また、カチオン性のオレフィン樹脂は、水や有機溶媒等を含む溶媒に分散させたエマルジョン状態であってもよい。カチオン性のオレフィン樹脂としては、市販品を用いることができ、例えば、アローベースCB-1200、CD-1200(商品名、ユニチカ株式会社製)等が挙げられる。
【0190】
カチオン性のアミン系樹脂(カチオン性ポリマー)としては、構造中にアミノ基を有するものであればよく、公知のものを適宜選択して用いることができる。例えば、ポリアミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリルアミン樹脂などが挙げられる。ポリアミン樹脂は樹脂の主骨格中にアミノ基を有する樹脂である。ポリアミド樹脂は樹脂の主骨格中にアミド基を有する樹脂である。ポリアリルアミン樹脂は樹脂の主骨格中にアリル基に由来する構造を有する樹脂である。
【0191】
また、カチオン性のポリアミン系樹脂としては、センカ株式会社製のユニセンスKHE103L(ヘキサメチレンジアミン/エピクロルヒドリン樹脂、1%水溶液のpH約5.0、粘度20~50(mPa・s)、固形分濃度50質量%の水溶液)、ユニセンスKHE104L(ジメチルアミン/エピクロルヒドリン樹脂、1%水溶液のpH約7.0、粘度1~10(mPa・s)、固形分濃度20質量%の水溶液)などを挙げることができる。さらにカチオン性のポリアミン系樹脂の市販品の具体例としては、FL-14(SNF社製)、アラフィックス100、251S、255、255LOX(荒川化学社製)、DK-6810、6853、6885;WS-4010、4011、4020、4024、4027、4030(星光PMC社製)、パピオゲンP-105(センカ社製)、スミレーズレジン650(30)、675A、6615、SLX-1(田岡化学工業社製)、カチオマスター(登録商標)PD-1、7、30、A、PDT-2、PE-10、PE-30、DT-EH、EPA-SK01、TMHMDA-E(四日市合成社製)、ジェットフィックス36N、38A、5052(里田化工社製)が挙げられる。
【0192】
ポリアリルアミン樹脂は、例えば、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリアリルアミンアミド硫酸塩、アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩コポリマー、アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩コポリマー、アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩コポリマー、アリルアミン塩酸塩・ジメチルアリルアミン塩酸塩コポリマー、アリルアミン・ジメチルアリルアミンコポリマー、ポリジアリルアミン塩酸塩、ポリメチルジアリルアミン塩酸塩、ポリメチルジアリルアミンアミド硫酸塩、ポリメチルジアリルアミン酢酸塩、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルアミン酢酸塩・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト・二酸化硫黄コポリマー、メチルジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミドコポリマー等を挙げることができる。
【0193】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、第1級、第2級、及び第3級アミン塩型化合物、アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、脂肪族アミン塩、ベンザルコニウム塩、第4級アンモニウム塩、第4級アルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、オニウム塩、イミダゾリニウム塩等があげられる。具体的には、例えば、ラウリルアミン、ヤシアミン、ロジンアミン等の塩酸塩、酢酸塩等、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、ジメチルエチルラウリルアンモニウムエチル硫酸塩、ジメチルエチルオクチルアンモニウムエチル硫酸塩、トリメチルラウリルアンモニウム塩酸塩、セチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイド、ジヒドロキシエチルラウリルアミン、デシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。なお、カチオン性界面活性剤は、後述する凝集剤として機能するが、インクジェットインク組成物に含有されてもよい。しかし、カチオン性界面活性剤は、処理液に凝集剤として含有されることがより好ましい。
【0194】
これらの凝集剤は、複数種を使用してもよい。また、これらの凝集剤のうち、多価金属塩、有機酸、カチオン性樹脂の少なくとも一種を選択すれば、凝集作用がより良好であるので、より高画質な(特に発色性の良好な)画像を形成することができる。
【0195】
処理液における、凝集剤の合計の含有量は、例えば、処理液の全質量に対して、0.1質量%以上20質量%以下であり、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、2質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。なお、凝集剤が溶液や分散体で共有される場合においても、固形分の含有量として上記範囲であることが好ましい。凝集剤の含有量が1質量%以上であれば、凝集剤がインクに含まれる成分を凝集させる能力が十分得られる。また、凝集剤の含有量が30質量%以下であることで、処理液中での凝集剤の溶解性や分散性がより良好になり、処理液の保存安定性等を向上できる。
【0196】
また、処理液に含まれる有機溶剤の疎水性が高い場合であっても、処理液中における凝集剤の溶解性が良好になるという点から、凝集剤には、25℃の水100gに対する溶解度が、1g以上であるものを使用することが好ましく、3g以上80g以下にあるものを使用することがより好ましい。
【0197】
(その他の成分)
処理液は、機能を損なわない限り、凝集剤の他に、水溶性低分子有機化合物、有機溶剤、界面活性剤、水、ワックス、添加剤、防腐剤・防かび剤、防錆剤、キレート化剤、酸化防止剤、防黴剤等の成分を含有してもよい。これらの成分は、上述のインクジェットインク組成物と同様であるので、詳細な説明を省略する。処理液は水系の処理液が好ましい。
【0198】
処理液は前述の低分子有機化合物Aを含有してもよい。この場合、耐擦性や画質などがより優れ好ましい。
【0199】
また、処理液は、前述の条件(c)を満たすシリコーン系界面活性剤を含有しても良い。この場合、耐擦性や画質などがより優れ好ましい。低分子有機化合物Aや条件(c)を満たすシリコーン系界面活性剤の含有量などの条件は、前述のインクにおけるものと同様にすればよい。
【0200】
処理液は、上記した各成分を適宜の順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。
【0201】
記録方法が、凝集剤を含有する処理液を記録媒体に付着させる処理液付着工程を備える場合、さらに画質が良好な画像を得ることができる。なお、処理液付着工程は、インク付着工程よりも先に行われることがより好ましい。このようにすれば、処理液に含まれる凝集剤をインクジェットインク組成物に対して十分に作用させることができる。また、本実施形態の記録方法は、必要に応じさらに処理液及びインクジェットインク組成物の1種以上を記録媒体へ付着させる工程を含んでいてもよい。これらの工程の順序及び回数には制限はなく、必要に応じて適宜に行うことができる。なおこの場合、処理液及び各インクジェットインク組成物は、互いに記録媒体上の同じ領域に付着されてもされなくてもよい。本実施形態の記録方法によれば、高画質で耐擦性の良好な画像を形成することができる。
【0202】
2.3.2.加熱工程
(一次加熱工程)
本実施形態の記録方法のインク付着工程は、記録媒体に付着した組成物を加熱する加熱工程を備えてもよい。このようにすれば、高画質で耐擦性の良好な画像が得られ、かつ、記録速度が高いという効果をより顕著に得ることができる。このような加熱工程を一次加熱工程という。一次加熱工程は、記録媒体に付着したインクジェットインク組成物(インク)を速やかに加熱し乾燥するものである。記録媒体に付着したインク組成物の溶媒成分の少なくとも一部を蒸発させる加熱である。加熱された記録媒体にインクを付着するか、記録媒体にインクが付着後、早い時期に記録媒体を加熱するものであり、記録媒体にインク滴が付着後およそ1秒以内に該インク滴に加熱が始まるものである。
【0203】
一次加熱工程は、処理液付着工程及び/又はインク付着工程の前又は付着工程の際に記録媒体を加熱する工程を備えてもよい。一次加熱工程は、加熱機構を用いて乾燥させる手段により行うことができる。加熱機構を用いて乾燥させる手段としては、記録媒体に対して常温の送風や温風の送風を行う手段(送風式)、及び、記録媒体に熱を発生する放射線(赤外線等)を照射する手段(輻射式)、記録媒体に接して記録媒体に熱を伝える部材(伝導式)、並びに、これらの手段の2種以上を組み合わせが挙げられる。一次加熱工程を有する場合、これらの中でも輻射式で行われることがより好ましい。加熱機構を用いた一次加熱工程は、記録媒体に付着した組成物を直ちに乾燥促進するものである。
【0204】
一次加熱工程は、後述するように各組成物が付着する直前又は付着した直後の位置に配置された加熱機構により行われることが好ましい。このようにすれば、インクジェットヘッドの加熱が抑制されるので、耐目詰まり性がより優れ、吐出安定性の向上を期待できる。
【0205】
インクジェットインク組成物の付着工程でのインク付着時の記録媒体の表面温度は50℃以下が好ましく、45.0℃以下がさらに好ましく、43.0℃以下がより好ましく、40.0℃以下がさらに好ましく、38.0℃以下がさらにより好ましく、35.0℃以下が特に好ましく、32.0℃以下がさらに好ましく,30.0℃以下がより好ましく、28.0℃以下が特に好ましい。一方、下限は、20.0℃以上が好ましく、23.0℃以上がより好ましく、25.0℃以上がさらに好ましく、28.0℃以上が特に好ましく、30.0℃以上がさらに好ましく、32.0℃以上がより好ましい。
【0206】
一次加熱工程を行う場合、一次加熱による記録媒体表面温度は、上記範囲が好ましい。特に28.0℃以上が好ましい。
【0207】
該温度は付着工程における記録媒体の記録面の組成物の付着を受けた部分の表面温度であり、記録領域における付着工程の最高の温度である。表面温度が上記範囲以下の場合、目詰まり低減や高光沢の点でより好ましい。上記範囲以上の場合、画像の耐久性や、組成物の広がりが良く画質が優れる点でより好ましい。
【0208】
付着時の記録媒体の表面温度は、加熱機構を用いた一次加熱工程を行うことで比較的高くすることができ、行わないことで比較的低くすることができる。
【0209】
一次加熱工程を行う場合は、上述の付着工程の1つ又は2つ以上と同時に行われることができる。一次加熱工程が付着工程と同時に行われる場合には、記録媒体の表面温度は43.0℃以下とすることが好ましく、40.0℃以下とすることがより好ましい。
【0210】
本実施形態の記録方法において、記録媒体に付着したインクジェットインク組成物を加熱する一次加熱工程を備える場合、画質及び耐擦性が良好な画像をさらに乾燥性良く得ることができる。
【0211】
(後加熱工程)
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、上記の各付着工程後の一次加熱工程後に、さらに記録媒体を加熱する後加熱工程を備えてもよい。後加熱工程は、二次加熱工程ともいう。後加熱工程は、記録媒体のある領域に対して付着するインクが全て付着後およそ1秒超より後に加熱が始まるものである。
【0212】
後加熱工程は、適宜の加熱手段を用いて行うことができる。後加熱工程は、例えば、アフターヒーター(後述のインクジェット記録装置1の例では加熱ヒーター5が相当する。)により行われる。また、加熱手段は、インクジェット記録装置に備えられた加熱手段に限らず、他の乾燥手段を用いてもよい。これにより得られる画像を乾燥させ、より十分に定着させることができるので、例えば、記録物を早期に使用できる状態にすることができる。
【0213】
この場合の記録媒体の温度は、特に限定されないが、例えば、記録物に含まれる樹脂粒子を構成する樹脂成分のTg等を鑑みて設定し得る。水分散性樹脂やワックスを構成する樹脂成分のTgを考慮する場合には、樹脂成分のTgよりも5.0℃以上、好ましくは10.0℃以上に設定するとよい。
【0214】
後加熱工程の加熱によって到達する記録媒体の表面温度は、30.0℃以上120.0℃以下、好ましくは40.0℃以上100.0℃以下、より好ましくは50.0℃以上95℃以下であり、さらに好ましくは70℃以上90℃以下である。後加熱工程の加熱によって到達する記録媒体の表面温度は、特に好ましくは80℃以上である。記録媒体の温度がこの程度の範囲であれば、記録物中に含まれる樹脂粒子の皮膜化、平坦化を行うことができるとともに、得られる画像を乾燥させ、より十分に定着させることができる。
【0215】
2.3.3.ラミネート工程
記録方法により得られ記録物が、記録面にラミネート処理を施して用いられてもよい。記録媒体にラミネートするラミネート工程は、インクジェットインク組成物を付着した記録媒体の記録面に対して、フィルムを貼り合わせる等してフィルムを積層して行うことができる。また、特に限定されないが、公知の接着剤を記録物の記録面に付着させ、そこにフィルムを貼り合わせてもよく、接着剤が付着しているフィルムを記録物の記録面に貼り合わせてもよい。他に、フィルムが溶融した溶融樹脂を用いて、記録物の記録面に溶融樹脂を押し出して、記録物の記録面上でフィルムとして成形することもできる。ラミネートに用いるフィルムなどの材料としては、例えば、樹脂製のフィルムを用いることができる。記録物をラミネートすることで、記録物の耐擦性がより良好となり、また記録物に固体物が当たるなど過度の扱われかたをする場合の保護性が優れる点で好ましい。また、記録物とフィルムを貼り合わせた後は、さらに加熱して又は常温で押圧して、充分に密着させることが好ましい。
【0216】
3.インクジェット記録装置
本実施形態に係る記録方法に好適なインクジェット記録装置の一例について図面を参照しながら説明する。インクジェット記録装置は、インクジェットインク組成物のインク付着工程を行うインクジェットヘッドと、一次加熱機構と、を含む。そして上述の記録方法を行うことができる。
【0217】
図1は、インクジェット記録装置を模式的に示す概略断面図である。
図2は、
図1のインクジェット記録装置1のキャリッジ周辺の構成の一例を示す斜視図である。
図1、2に示すように、インクジェット記録装置1は、インクジェットヘッド2と、IRヒーター3と、プラテンヒーター4と、加熱ヒーター5と、冷却ファン6と、プレヒーター7と、通気ファン8と、キャリッジ9と、プラテン11と、キャリッジ移動機構13と、搬送手段14と、制御部CONTを備える。インクジェット記録装置1は、
図2に示す制御部CONTにより、インクジェット記録装置1全体の動作が制御される。
【0218】
インクジェットヘッド2は、処理液及びインクジェットインク組成物をインクジェットヘッド2のノズルから吐出して付着させることにより記録媒体Mに記録を行う構成である。本実施形態において、インクジェットヘッド2は、シリアル式のインクジェットヘッドであり、記録媒体Mに対して相対的に主走査方向に複数回走査してインクを記録媒体Mに付着させる。インクジェットヘッド2は
図2に示すキャリッジ9に搭載される。インクジェットヘッド2は、キャリッジ9を記録媒体Mの媒体幅方向に移動させるキャリッジ移動機構13の動作により、記録媒体Mに対して相対的に主走査方向に複数回走査される。媒体幅方向とは、インクジェットヘッド2の主走査方向である。主走査方向への走査を主走査ともいう。
【0219】
またここで、主走査方向は、インクジェットヘッド2を搭載したキャリッジ9の移動する方向である。
図1においては、矢印SSで示す記録媒体Mの搬送方向である副走査方向に交差する方向である。
図2においては、記録媒体Mの幅方向、つまりS1-S2で表される方向が主走査方向MSであり、T1→T2で表される方向が副走査方向SSである。なお、1回の走査で主走査方向、すなわち、矢印S1又は矢印S2の何れか一方の方向に走査が行われる。そして、インクジェットヘッド2の主走査と、記録媒体Mの搬送である副走査を複数回繰り返し行うことで、記録媒体Mに対して記録する。すなわち、処理液付着工程及びインク付着工程は、インクジェットヘッド2が主走査方向に移動する複数回の主走査と、記録媒体Mが主走査方向に交差する副走査方向へ移動する複数回の副走査と、により行われる。
【0220】
インクジェットヘッド2にインクジェットインク組成物及び処理液をそれぞれ供給するカートリッジ12は、独立した複数のカートリッジを含む。カートリッジ12は、インクジェットヘッド2を搭載したキャリッジ9に対して着脱可能に装着される。複数のカートリッジのそれぞれには異なる種類のインクジェットインク組成物や処理液が充填されており、カートリッジ12から各ノズルにインクジェットインク組成物及び処理液が供給される。なお、本実施形態においては、カートリッジ12はキャリッジ9に装着される例を示しているが、これに限定されず、キャリッジ9以外の場所に設けられ、図示せぬ供給管によって各ノズルに供給される形態でもよい。
【0221】
インクジェットヘッド2の吐出には従来公知の方式を使用することができる。本実施形態では、圧電素子の振動を利用して液滴を吐出する方式、すなわち、電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成する吐出方式を使用する。
【0222】
インクジェット記録装置1は、インクジェットヘッド2からのインクジェットインク組成物の吐出時に記録媒体Mを加熱するためのIRヒーター3及びプラテンヒーター4を備える。IRヒーター3又はプラテンヒーター4により一時加熱工程を行うことができる。さらに本実施形態において、一次加熱工程で記録媒体Mを乾燥する際には、後述の通気ファン8等を用いることができる。
【0223】
なお、IRヒーター3を用いると、インクジェットヘッド2側から赤外線の輻射により放射式で記録媒体Mを加熱することができる。これにより、インクジェットヘッド2も同時に加熱されやすいが、プラテンヒーター4等の記録媒体Mの裏面から加熱される場合と比べて、記録媒体Mの厚みの影響を受けずに昇温することができる。また、温風又は環境と同じ温度の風を記録媒体Mにあてて記録媒体M上のインクを乾燥させる各種のファン(例えば通気ファン8)を備えてもよい。
【0224】
プラテンヒーター4は、インクジェットヘッド2によって吐出された処理液やインクジェットインク組成物が記録媒体Mに付着された時点から早期に乾燥することができるように、インクジェットヘッド2に対向する位置において記録媒体Mを、プラテン11を介して加熱することができる。プラテンヒーター4は、記録媒体Mを伝導式で加熱可能なものであり、本実施形態の記録方法では、これにより加熱された記録媒体Mに対してインクジェットインク組成物を付着させることができる(一次加熱)。そのため、記録媒体M上でインクジェットインク組成物を早期に固定することができ、画質を向上させることができる。
【0225】
加熱ヒーター5は、記録媒体Mに付着された処理液やインクジェットインク組成物を乾燥及び固化させる、つまり、二次加熱又は二次乾燥用のヒーターである。加熱ヒーター5は、後加熱工程に用いることができる。加熱ヒーター5が、画像が記録された記録媒体Mを加熱することにより、インクジェットインク組成物中に含まれる水分等がより速やかに蒸発飛散して、インクジェットインク組成物中に含まれる樹脂によってインク膜が形成される。このようにして、記録媒体M上においてインク膜が強固に定着又は接着して造膜性が優れたものとなり、優れた高画質な画像が短時間で得られる。
【0226】
インクジェット記録装置1は、冷却ファン6を有していてもよい。記録媒体Mに記録されたインクジェットインク組成物を乾燥後、冷却ファン6により記録媒体M上のインクジェットインク組成物を冷却することにより、記録媒体M上に密着性よくインク塗膜を形成することができる。
【0227】
また、インクジェット記録装置1は、記録媒体Mに対してインクジェットインク組成物が付着される前に、記録媒体Mを予め加熱するプレヒーター7を備えていてもよい。さらに、インクジェット記録装置1は、記録媒体Mに付着したインクジェットインク組成物がより効率的に乾燥するように通気ファン8を備えていてもよい。
【0228】
キャリッジ9の下方には、記録媒体Mを支持するプラテン11と、キャリッジ9を記録媒体Mに対して相対的に移動させるキャリッジ移動機構13と、記録媒体Mを副走査方向に搬送するローラーである搬送手段14を備える。キャリッジ移動機構13と搬送手段14の動作は、制御部CONTにより制御される。
【0229】
図3は、インクジェット記録装置1の機能ブロック図である。制御部CONTは、インクジェット記録装置1の制御を行うための制御ユニットである。インターフェース部101(I/F)は、コンピューター130(COMP)とインクジェット記録装置1との間でデータの送受信を行うためのものである。CPU102は、インクジェット記録装置1全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリー103(MEM)は、CPU102のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものである。CPU102は、ユニット制御回路104(UCTRL)により各ユニットを制御する。なお、インクジェット記録装置1内の状況を検出器群121(DS)が監視し、その検出結果に基づいて、制御部CONTは各ユニットを制御する。
【0230】
搬送ユニット111(CONVU)は、インクジェット記録の副走査(搬送)を制御するものであり、具体的には、記録媒体Mの搬送方向及び搬送速度を制御する。具体的には、モーターによって駆動される搬送ローラーの回転方向及び回転速度を制御することによって記録媒体Mの搬送方向及び搬送速度を制御する。
【0231】
キャリッジユニット112(CARU)は、インクジェット記録の主走査(パス)を制御するものであり、具体的には、インクジェットヘッド2を主走査方向に往復移動させるものである。キャリッジユニット112は、インクジェットヘッド2を搭載するキャリッジ9と、キャリッジ9を往復移動させるためのキャリッジ移動機構13とを備える。
【0232】
ヘッドユニット113(HU)は、インクジェットヘッド2のノズルからのインクジェットインク組成物の吐出量を制御するものである。例えば、インクジェットヘッド2のノズルが圧電素子により駆動されるものである場合、各ノズルにおける圧電素子の動作を制御する。ヘッドユニット113により各インク付着のタイミング、インクジェットインク組成物のドットサイズ等が制御される。また、キャリッジユニット112及びヘッドユニット113の制御の組合せにより、1走査あたりのインクジェットインク組成物の付着量が制御される。
【0233】
乾燥ユニット114(DU)は、IRヒーター3、プレヒーター7、プラテンヒーター4、加熱ヒーター5等の各種ヒーターの温度を制御する。
【0234】
上記のインクジェット記録装置1は、インクジェットヘッド2を搭載するキャリッジ9を主走査方向に移動させる動作と、搬送動作(副走査)とを交互に繰り返す。このとき、制御部CONTは、各パスを行う際に、キャリッジユニット112を制御して、インクジェットヘッド2を主走査方向に移動させるとともに、ヘッドユニット113を制御して、インクジェットヘッド2の所定のノズル孔からインクジェットインク組成物の液滴を吐出させ、記録媒体Mにインクジェットインク組成物の液滴を付着させる。また、制御部CONTは、搬送ユニット111を制御して、搬送動作の際に所定の搬送量(送り量)にて記録媒体Mを搬送方向に搬送させる。
【0235】
インクジェット記録装置1では、主走査(パス)と副走査(搬送動作)が繰り返されることによって、複数の液滴を付着させた記録領域が徐々に搬送される。そして、アフターヒーター5により、記録媒体Mに付着させた液滴を乾燥させて、画像が完成する。その後、完成した記録物は、巻き取り機構によりロール状に巻き取られたり、フラットベット機構で搬送されたりしてもよい。
【0236】
図4は、インクジェット記録装置において記録を行う際に行われる処理を示すフローチャートの例である。インクジェット記録装置の制御部は、記録を開始する場合に、ステップ400で、記録モードの決定を行う。記録モードは、ノズルの配置、吐出量、重ね打ちの態様、記録時のインクジェットヘッドの動作、記録媒体の動作、加熱機構の制御等の記録の詳細が定められた記録の態様である。記録の詳細には記録のパス数(記録媒体の同一の記録領域に対して主走査を行う回数)も含まれる。
【0237】
記録モードの決定は、インクジェット記録装置に対して、コンピューターなどの外部機器から入力した入力信号によって決定されたり、インクジェット記録装置が備えるユーザー入力部へのユーザーの入力情報によって決定される。ここで、外部機器からの入力信号や、ユーザーの入力情報は、記録モードを直接指定する情報であってもよいし、記録する記録媒体種情報や、記録速度の指定や、画質の指定などの、記録に関する情報であってもよい。また記録に関する情報はこれらには限られない。後者の場合は、インクジェット記録装置は、予め記録に関する情報に対応する記録モードを定めた対応情報を制御部などのインクジェット記録装置内に記録しており、対応情報を参照して記録モードを決定する。又はAI技術(人工知能技術)を利用して決定してもよい。
【0238】
ステップS401では、決定された記録モードを判別する。ステップS402又はS403では、決定された記録モードに応じて、記録モードに対応付いたパス数を設定する。ステップS404では記録を実行する。記録モードの種類は図では第1記録モードと第2記録モードの2つを示したが、3つ以上あってもよい。
【0239】
この例の場合、記録装置は、記録モードに応じて記録のパス数(記録媒体の同一の記録領域に対して主走査を行う回数)を異ならせることができ、多様な記録を行うことができるので好ましい。
【0240】
以上例示したインクジェット記録装置によれば、本実施形態の記録方法を好適に適用することができる。
【0241】
4.実施例
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。以下「%」は、特に記載のない限り、質量基準である。
【0242】
4.1.顔料分散体の調製
滴下漏斗、窒素導入官、還流冷却官、温度計及び攪拌装置を備えたフラスコにメチルエチルケトン(MEK)50gを加え、窒素バブリングしながら、75℃に加温した。そこへ、メタクリル酸ブチル80g、メタクリル酸メチル50g、スチレン15g、メタクリル酸20gのモノマーとMEK50g、重合開始剤(アゾビスイソブチロニトリル/AIBN)500mgの混合物を滴下漏斗より3時間かけ滴下した。滴下後さらに6時間加熱還流し、放冷後揮発した分のMEKを加え、樹脂溶液(樹脂固形分50質量%、酸価79mg/KOH、Tg65℃)を得た。その溶液20gに、中和剤として20質量%水酸化ナトリウム水溶液を所定量加えて塩生成基を100%中和し、そこへ攪拌しながら、顔料(カーボンブラック)50gを少しずつ加えた後、ビーズミルで2時間混練した。得られた混練物にイオン交換水200gを加え攪拌後、減圧下、加温しMEKを留去した。さらに、イオン交換水で濃度を調整し、顔料分散体(顔料固形分20質量%、樹脂固形分5重量%)を得た。
【0243】
4.2.インクジェットインク組成物の調製
表3及び表4の組成になるように各成分を容器に入れて、マグネチックスターラーで2時間混合及び攪拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターで濾過することで、実施例及び比較例に係るインクジェットインク組成物(インクA~インクX)を得た。
【0244】
【0245】
【0246】
表3、4中の略称等は以下の通りである。
・CPL:ε-カプロラクタム、標準沸点267℃(混合表面張力54.1)(環状アミド類)
・MSF:3-メチルスルホラン、標準沸点276℃(混合表面張力51.7)(含硫黄類)
・EOXM:3-エチル-3-オキセタンメタノール、標準沸点220℃(混合表面張力47.8)(環状エーテル類)
・2P:2-ピロリドン、標準沸点245℃(混合表面張力60.2)(環状アミド類)
・CHP:N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、標準沸点290℃(混合表面張力40.8)(環状アミド類)
・DMPA:3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、標準沸点215℃(混合表面張力57.8)(鎖状アミド類)
・DMSO:ジメチルスルホキシド、標準沸点189℃(混合表面張力68.0)(含硫黄類)
・DMIS:ジメチルイソソルビド、標準沸点240℃(混合表面張力58.0)(環状エーテル類)
・1,2BD:1,2-ブタンジオール、標準沸点192℃(混合表面張力51.3)(アルカンジオール類)
・1,2HD:1,2-ヘキサンジオール、標準沸点224℃(混合表面張力26.9)(アルカンジオール類)
・PG:プロピレングリコール、標準沸点188℃(混合表面張力61.2)(アルカンジオール類)
・TIPA:トリイソプロパノールアミン、標準沸点301℃(混合表面張力45.4)(アルカノールアミン類)
・ジョンクリル631:スチレンアクリル系樹脂エマルジョン、BASFジャパン株式会社製
・ハイテックE-6500:ポリエチレン系ワックスエマルジョン、東邦化学工業株式会社製
・BYK-3420:シリコーン系界面活性剤(溶解度0.1~0.5%)、ビックケミージャパン株式会社製
・BYK-3480:シリコーン系界面活性剤(溶解度0.1%未満)、ビックケミージャパン株式会社製
・BYK-348:シリコーン系界面活性剤(溶解度1%超)、ビックケミージャパン株式会社製
・Disponil SUS IC 875:一般式(1)に係るアニオン性界面活性剤、BASFジャパン株式会社製
・サーフィノールDF110D:アセチレングリコール系界面活性剤(消泡剤)、日信化学工業株式会社製
【0247】
なお、混合表面張力は、試験液として、各低分子有機化合物または有機溶剤の10質量%水溶液を調製し、例えば、自動表面張力計CBVP-Z(商品名、協和界面科学株式会社製)を用いて、20℃の環境下で白金プレートをインクで濡らしたときの表面張力を確認することにより測定した値(mN/m)である。
【0248】
4.3.処理液の調製
表5の組成になるように各成分を容器に入れて、マグネチックスターラーで2時間混合及び攪拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターで濾過することで、処理液(処理液A~処理液C)を得た。
【0249】
【0250】
表5中の略称等は以下の通りである。
・カチオマスターPD-7:アミン・エピクロロヒドリン系カチオン性樹脂。四日市合成株式会社製
なお、ジカルボン酸は有機酸に分類される。その他は、表3、4の脚注参照。
【0251】
4.4.評価方法
4.4.1.記録試験
以下の記録条件で、各実施例及び各比較例の記録物を作成した。
(印刷条件)
・印刷機:SC-R5050セイコーエプソン株式会社製 改造機
・解像度:1200×1200dpi
・付着量:インク組成物18mg/inch2、処理液2mg/inch2
・印刷パターン:ベタパターン(ブラック単色(カラーインク))
・走査回数:9回
・プラテン加熱温度(一次加熱):表6に記載
・後乾燥温度(二次加熱):80℃
・記録媒体:3686、Trisolv Poster Paper(シール社製、コート紙)
・プラテンギャップ:1.7mm
【0252】
上記印刷機のヘッドのノズル列に、インク及び処理液を充填して記録を行った。処理液を用いた例は、インクと処理液を、同一の主走査で、同一の主走査領域に吐出して付着させた。
【0253】
4.4.2.画質(発色)の評価
記録試験の条件で、記録媒体をセットし、ベタパターンを印刷した。測色計i1 iO2(エックスライト社製)でOD値を測色した(光源はD50を使用した。)。以下の基準で評価して、結果を表6に示した。
AA:OD値が2.1以上
A:OD値が2.0以上、2.1未満
B:OD値が1.8以上、2.0未満
C:OD値が1.8未満
【0254】
4.4.3.画質(凝集ムラ)の評価
記録試験の条件で、記録媒体をセットし、ベタパターンを印刷し、印刷物を目視観察した。以下の基準で評価して、結果を表6に示した。
AA:凝集ムラがない(均一)
A:凝集ムラが若干見えるが問題ない
B:凝集ムラは目立つが許容できる
C:凝集ムラが目立つ。さらに記録パターンの端部が直線になっておらずインクが溢れている。
なお、凝集ムラとは、ベタパターン中においてインクの色が不均一になって見えることである。
【0255】
4.4.4.耐擦性の評価
記録試験の条件で、記録媒体にベタパターンを印字後30分室温放置し、ベタパターン印字部を30×150mm矩形に切断し、平織布を使用して学振式耐擦試験機(荷重500g)で100回擦った際のインクの剥がれ度合を目視評価した。以下の基準で評価して、結果を表6に示した。
AA:剥がれなし
A:評価面積に対し2割未満の剥がれあり
B:評価面積に対し5割未満の剥がれあり
C:評価面積に対し5割以上の剥がれあり
【0256】
4.4.5.目詰まり回復性の評価
記録試験の条件で、意図的にノズルに不吐出を発生させた。この状態で、表6中のプラテン温度条件で3時間空走させた。記録後、クリーニングを3回行い、最終的にインク列で何本ノズル抜けが発生しているかを評価した。1回のクリーニングは、ノズル列から0.5gインクを排出させた。なおノズルの不吐出は、水で湿らせたベンコットでノズル面を叩いて、発生させた。ノズル列は400個のノズルから構成される。なお、処理液については評価対象とはしなかった。以下の基準で評価して、結果を表6に示した。
AA:ノズル不吐出なし
A:ノズル不吐出1%未満
B:ノズル不吐出1%以上3%未満
C:ノズル不吐出3%以上
【0257】
4.4.6.保存安定性の評価
各インクインク組成物について、30gを気泡が混入しないようにアルミパックに封入後、60℃恒温槽で6日間放置した。取り出して自然冷却後、レオメーター(MCR702/アントンパール社製)にてせん断速度200s-1の粘度を測定し、初期(インク調合直後)の粘度と比較して増粘率を算出した。以下の基準で評価して、結果を表3、表4に示した。
A:増粘率3%未満
B:増粘率3%以上、5%未満
C:増粘率5%以上
【0258】
【0259】
4.5.評価結果
色材と、樹脂と、アミド類、含硫黄類、環状エーテル類のいずれかであって条件(a)及び条件(b)を満たす水溶性の低分子有機化合物Aと、条件(c)を満たすシリコーン系界面活性剤と、を含有する、水系インクである各実施例のインクジェットインク組成物は、何れも画像の耐擦性及び画質に優れることが判明した。これに対し、そうではない比較例では、何れも、画像の耐擦性又は画質が悪かった。
【0260】
上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態及び各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0261】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0262】
上述した実施形態及び変形例から以下の内容が導き出される。
【0263】
インクジェットインク組成物は、
色材と、
樹脂と、
アミド類、含硫黄類、環状エーテル類のいずれかであって下記条件(a)及び条件(b)を満たす水溶性の低分子有機化合物Aと、
下記条件(c)を満たすシリコーン系界面活性剤と、
を含有する、水系インクである。
条件(a)10質量%水溶液の表面張力が42mN/m以上56mN/m以下
条件(b)標準沸点が150℃以上300℃以下
条件(c)20℃の水への溶解度が1質量%以下
【0264】
このインクジェットインク組成物によれば、低分子有機化合物Aが条件(a)及び条件(b)を満たす結果、ノズルの目詰まり回復性が良好、かつ、画質及び耐擦性が良好な画像を得ることができる。
【0265】
上記インクジェットインク組成物において、
前記低分子有機化合物Aの含有量が、前記インクジェットインク組成物全量に対して1質量%以上10質量%以下であってもよい。
【0266】
このインクジェットインク組成物によれば、さらにノズルの目詰まり回復性が良好、かつ、画質及び耐擦性が良好な画像を得ることができる。
【0267】
上記インクジェットインク組成物において、
10質量%水溶液の表面張力が35mN/m以下の有機溶剤を、9質量%を超えて含有しなくてもよい。
【0268】
このインクジェットインク組成物によれば、さらに発色性の良好な画像を形成できる。
【0269】
上記インクジェットインク組成物において、
前記シリコーン系界面活性剤の含有量が、前記インクジェットインク組成物全量に対して0.1質量%以上2質量%以下であってもよい。
【0270】
このインクジェットインク組成物によれば、さらにノズルの目詰まり回復性が良好、かつ、画質及び耐擦性が良好な画像を得ることができる。
【0271】
上記インクジェットインク組成物において、
前記樹脂が、樹脂粒子を含み、
前記樹脂粒子が、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂のいずれかで構成されてもよい。
【0272】
このインクジェットインク組成物によれば、さらにノズルの目詰まり回復性が良好、かつ、耐擦性が良好な画像を得ることができる。
【0273】
上記インクジェットインク組成物において、
有機溶剤の合計の含有量が、前記インクジェットインク組成物全量に対して5質量%以上30質量%以下であってもよい。
【0274】
このインクジェットインク組成物によれば、さらにノズルの目詰まり回復性が良好、かつ、乾燥性が良好な画像を得ることができる。
【0275】
上記インクジェットインク組成物において、
前記インクジェットインク組成物に含有する、アミド類、含硫黄類、環状エーテル類のいずれかであって前記条件(b)を満たす水溶性の低分子有機化合物の総質量を100質量%とした場合に、前記低分子有機化合物Aの含有量が80質量%以上であってもよい。
【0276】
このインクジェットインク組成物によれば、さらにノズルの目詰まり回復性が良好、かつ、画質及び耐擦性が良好な画像を得ることができる。
【0277】
上記インクジェットインク組成物において、
低吸収記録媒体又は非吸収記録媒体への記録に用いられてもよい。
【0278】
このインクジェットインク組成物によれば、低吸収記録媒体又は非吸収記録媒体であっても画質及び耐擦性が良好な画像を得ることができる。
【0279】
上記インクジェットインク組成物において、
下記一般式(1)で表されるアニオン性界面活性剤を含んでもよい。
【0280】
【化2】
(一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1以上20以下の直鎖又は分岐のアルキル基を表し、m及びnは、それぞれ独立に、0以上20以下の整数を表し、Mは、一価の陽イオンになり得る原子を表す。)
【0281】
このインクジェットインク組成物によれば、アニオン性界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤の相乗効果により、記録媒体との親和性が高くなるので、画質及び耐擦性がさらに良好な画像を得ることができる。
【0282】
記録方法は、
上述のインクジェットインク組成物をインクジェット法により記録媒体に付着させるインク付着工程を備える。
【0283】
この記録方法によれば、画質及び耐擦性が良好な画像を得ることができる。
【0284】
上記記録方法において、
前記インク付着工程は、前記記録媒体の表面温度が50℃以下で行われてもよい。
【0285】
この記録方法によれば、画質及び耐擦性が良好な画像をさらに乾燥性良く得ることができる。
【0286】
上記記録方法において、
前記記録媒体に付着した前記インクジェットインク組成物を加熱する一次加熱工程を備えてもよい。
【0287】
この記録方法によれば、画質及び耐擦性が良好な画像をさらに乾燥性良く得ることができる。
【0288】
上記記録方法において、
凝集剤を含有する処理液を前記記録媒体に付着させる処理液付着工程を備えてもよい。
【0289】
この記録方法によれば、さらに画質が良好な画像を得ることができる。
【符号の説明】
【0290】
1…インクジェット記録装置、2…インクジェットヘッド、2a…ノズル面、3…IRヒーター、4…プラテンヒーター、5…加熱ヒーター、6…冷却ファン、7…プレヒーター、8…通気ファン、9…キャリッジ、11…プラテン、12…カートリッジ、13…キャリッジ移動機構、14…搬送手段、101…インターフェース部、102…CPU、103…メモリー、104…ユニット制御回路、111…搬送ユニット、112…キャリッジユニット、113…ヘッドユニット、114…乾燥ユニット、121…検出器群、130…コンピューター、CONT…制御部、MS…主走査方向、SS…副走査方向、M…記録媒体