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特開2023-130937指標値算出装置、指標値算出方法、および指標値算出プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130937
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】指標値算出装置、指標値算出方法、および指標値算出プログラム
(51)【国際特許分類】
   F22B 37/38 20060101AFI20230913BHJP
【FI】
F22B37/38 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035536
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】植田 全紀
(72)【発明者】
【氏名】白石 裕司
(72)【発明者】
【氏名】南 一彦
(72)【発明者】
【氏名】勝木 誠
(72)【発明者】
【氏名】原田 浩希
(57)【要約】
【課題】入手しやすいデータから伝熱管の腐食に関する指標値を算出する。
【解決手段】指標値算出装置(1)は、ボイラの燃料の硫黄含有量および塩素含有量を特定する含有量特定部(101)と、学習済みモデル(113)を用いて含有量特定部(101)が特定する硫黄含有量および塩素含有量から伝熱管の腐食に関する指標値を算出する指標値算出部(103)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラの燃料の硫黄含有量および塩素含有量を特定する含有量特定部と、
燃料の硫黄含有量および塩素含有量を説明変数とし、当該燃料を燃焼させたときに発生する排熱を回収する伝熱管の腐食に関する指標値を目的変数として機械学習することにより構築された学習済みモデルを用いて、前記含有量特定部が特定する硫黄含有量および塩素含有量から前記指標値を算出する指標値算出部と、を備える指標値算出装置。
【請求項2】
前記学習済みモデルの説明変数には、前記燃料の燃焼時に排出される排出ガスの温度である排ガス温度と、前記伝熱管の管壁温度とが含まれている、請求項1に記載の指標値算出装置。
【請求項3】
前記伝熱管に関する熱計算により前記排ガス温度と前記管壁温度とを算出する温度算出部を備え、
前記指標値算出部は、前記学習済みモデルを用いて、前記温度算出部が算出する前記排ガス温度および前記管壁温度と、前記含有量特定部が特定する硫黄含有量および塩素含有量とから、前記指標値を算出する、請求項2に記載の指標値算出装置。
【請求項4】
対象施設が備えるボイラにおいて排熱を回収する伝熱管に付着する灰の組成を特定する組成特定部と、
前記対象施設または他の施設におけるボイラの伝熱管に付着する灰の組成を説明変数とし、当該伝熱管の腐食に関する指標値を目的変数として機械学習することにより構築された学習済みモデルを用いて、前記組成特定部が特定する組成から、前記対象施設における前記指標値を算出する指標値算出部と、を備える指標値算出装置。
【請求項5】
前記組成特定部は、前記伝熱管に付着する灰の組成として、当該灰における硫黄含有量と塩素含有量を少なくとも特定する、請求項4に記載の指標値算出装置。
【請求項6】
前記組成特定部は、前記伝熱管に付着する灰の組成として、当該灰におけるアルカリ金属の含有量を少なくとも特定する、請求項4または5に記載の指標値算出装置。
【請求項7】
前記組成特定部は、前記伝熱管に付着する灰の組成として、当該灰における重金属の含有量を少なくとも特定する、請求項4から6の何れか1項に記載の指標値算出装置。
【請求項8】
1または複数の情報処理装置が実行する指標値算出方法であって、
ボイラの燃料の硫黄含有量および塩素含有量を特定する含有量特定ステップと、
燃料の硫黄含有量および塩素含有量を説明変数とし、当該燃料を燃焼させたときに発生する排熱を回収する伝熱管の腐食に関する指標値を目的変数として機械学習することにより構築された学習済みモデルを用いて、前記含有量特定ステップで特定される硫黄含有量および塩素含有量から前記指標値を算出する指標値算出ステップと、を含む指標値算出方法。
【請求項9】
1または複数の情報処理装置が実行する指標値算出方法であって、
対象施設が備えるボイラにおいて排熱を回収する伝熱管に付着する灰の組成を特定する組成特定ステップと、
前記対象施設または他の施設におけるボイラの伝熱管に付着する灰の組成を説明変数とし、当該伝熱管の腐食に関する指標値を目的変数として機械学習することにより構築された学習済みモデルを用いて、前記組成特定ステップで特定される組成から、前記対象施設における前記指標値を算出する指標値算出ステップと、を含む指標値算出方法。
【請求項10】
請求項1に記載の指標値算出装置としてコンピュータを機能させるための指標値算出プログラムであって、前記含有量特定部および前記指標値算出部としてコンピュータを機能させるための指標値算出プログラム。
【請求項11】
請求項4に記載の指標値算出装置としてコンピュータを機能させるための指標値算出プログラムであって、前記組成特定部および前記指標値算出部としてコンピュータを機能させるための指標値算出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラにおいて排熱を回収する伝熱管の腐食に関する指標値を算出する指標値算出装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料を燃焼させた排熱を利用して発電を行う発電プラントに設けられているボイラでは、水管や過熱器管等の伝熱管により排熱を回収する。このような伝熱管は、長期間にわたって高温状態にさらされるうえ、燃料に含まれる腐食成分の影響等も受けるため、腐食が進みやすい。このため、実用に耐えない程度まで伝熱管の腐食が進んでしまわないように、伝熱管の継続的な管理と、適切な頻度での補修や交換が必要になる。
【0003】
伝熱管の管理に関する先行技術としては、例えば下記の特許文献1が挙げられる。下記の特許文献1には、ボイラの燃焼ガス中の塩化水素濃度の測定値等からボイラ伝熱管の寿命を予測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6871662号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術には、予測に用いるデータの入手が容易ではないという問題がある。具体的には、特許文献1の技術では、ボイラの燃焼ガス中の塩化水素濃度を連続して測定すると共にその積算値を算出し、予め求めた相関係数と算出した積算値とに基づいてボイラ伝熱管の肉厚を推測している。このため、ボイラの燃焼ガス中の塩化水素濃度をある程度の期間連続して測定する必要がある。このように、特許文献1の技術では、予測に用いるデータの入手が容易であるとはいえない。
【0006】
本発明の一態様は、入手しやすいデータから伝熱管の腐食に関する指標値を算出することが可能な指標値算出装置等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る指標値算出装置は、燃料の硫黄含有量および塩素含有量を特定する含有量特定部と、燃料の硫黄含有量および塩素含有量を説明変数とし、当該燃料を燃焼させたときに発生する排熱を回収する伝熱管の腐食に関する指標値を目的変数として機械学習することにより構築された学習済みモデルを用いて、前記含有量特定部が特定する硫黄含有量および塩素含有量から前記指標値を算出する指標値算出部と、を備える。
【0008】
また、上記の課題を解決するために、本発明の他の態様に係る指標値算出装置は、対象施設が備えるボイラにおいて排熱を回収する伝熱管に付着する灰の組成を特定する組成特定部と、前記対象施設または他の施設におけるボイラの伝熱管に付着する灰の組成を説明変数とし、当該伝熱管の腐食に関する指標値を目的変数として機械学習することにより構築された学習済みモデルを用いて、前記組成特定部が特定する組成から、前記対象施設における前記指標値を算出する指標値算出部と、を備える。
【0009】
そして、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る指標値算出方法は、1または複数の情報処理装置が実行する指標値算出方法であって、ボイラの燃料の硫黄含有量および塩素含有量を特定する含有量特定ステップと、燃料の硫黄含有量および塩素含有量を説明変数とし、当該燃料を燃焼させたときに発生する排熱を回収する伝熱管の腐食に関する指標値を目的変数として機械学習することにより構築された学習済みモデルを用いて、前記含有量特定ステップで特定される硫黄含有量および塩素含有量から前記指標値を算出する指標値算出ステップと、を含む。
【0010】
また、上記の課題を解決するために、本発明の他の態様に係る指標値算出方法は、1または複数の情報処理装置が実行する指標値算出方法であって、対象施設が備えるボイラにおいて排熱を回収する伝熱管に付着する灰の組成を特定する組成特定ステップと、前記対象施設または他の施設におけるボイラの伝熱管に付着する灰の組成を説明変数とし、当該伝熱管の腐食に関する指標値を目的変数として機械学習することにより構築された学習済みモデルを用いて、前記組成特定ステップで特定される組成から、前記対象施設における前記指標値を算出する指標値算出ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、入手しやすいデータから伝熱管の腐食に関する指標値を算出することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態1に係る指標値算出装置の構成例を示すブロック図である。
図2】ごみ焼却施設における伝熱管の配置と構成を示す図である。
図3】2次過熱器と3次過熱器の内部を通過する蒸気の流れと、2次過熱器と3次過熱器の周囲を通過する排ガスの流れを示す図である。
図4】上記指標値算出装置が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
図5】本発明の実施形態2に係る指標値算出装置の構成例を示すブロック図である。
図6】上記指標値算出装置が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態1〕
(装置構成)
図1は、本実施形態に係る指標値算出装置1の構成例を示すブロック図である。指標値算出装置1は、燃料を燃焼させたときに発生する排熱を回収してボイラに伝達するための伝熱管の腐食に関する指標値を算出する装置である。
【0014】
指標値算出装置1は、例えば、発電用のボイラを備えたごみ焼却施設における伝熱管の腐食に関する指標値を算出することもできる。この場合、燃料はごみ(廃棄物)ということになる。また、指標値算出装置1は、例えば、バイオマス燃料を燃やして発電する発電施設における伝熱管の腐食に関する指標値を算出することもでき、この場合、燃料はバイオマス燃料ということになる。
【0015】
図示のように、指標値算出装置1は、指標値算出装置1の各部を統括して制御する制御部10と、指標値算出装置1が使用する各種データを記憶する記憶部11を備えている。また、指標値算出装置1は、指標値算出装置1が他の装置と通信するための通信部12、指標値算出装置1に対する各種データの入力を受け付ける入力部13、および指標値算出装置1が各種データを出力するための出力部14を備えている。
【0016】
また、制御部10には、含有量特定部101、温度算出部102、および指標値算出部103が含まれている。そして、記憶部11には、運転データ111、温度算出式112、および学習済みモデル113が記憶されている。
【0017】
含有量特定部101は、伝熱管の腐食に関する指標値を算出する対象となる対象施設におけるボイラの燃料の硫黄含有量および塩素含有量を特定する。ボイラの燃料がごみすなわち廃棄物である場合、含有量特定部101は、焼却するごみの硫黄含有量および塩素含有量を特定する。例えば、焼却するごみに含まれる硫黄の重量パーセント濃度(ごみに含まれる硫黄成分の重量を、当該ごみの重量から水分の重量を除いた乾燥重量で除した値をパーセントに直した値)を硫黄含有量としてもよい。なお、含有量を示す指標値としてどのようなものを適用するかは任意である。例えば、含有量を示す指標値として、予め定めた基準値に対する比を用いてもよい。塩素含有量についても同様である。硫黄含有量および塩素含有量は入力部13を介して入力されてもよいし、通信部12を介した通信により他の装置から取得されてもよい。
【0018】
温度算出部102は、伝熱管に関する熱計算により、燃料の燃焼時に排出される排出ガスの温度である排ガス温度と伝熱管の管壁温度とを算出する。排ガス温度および管壁温度の算出方法は、後記「排ガス温度の算出方法」および「管壁温度の算出方法」の項目で説明する。
【0019】
指標値算出部103は、伝熱管の腐食に関する指標値を算出する。より詳細には、指標値算出部103は、学習済みモデル113を用いて、含有量特定部101が特定する硫黄含有量および塩素含有量と、温度算出部102が算出する排ガス温度および管壁温度から指標値を算出する。なお、排ガス温度および管壁温度を用いることは必須ではない。
【0020】
指標値算出部103が算出する指標値は、伝熱管の腐食に関するものであればよい。例えば、指標値算出部103は、伝熱管の腐食の進行度合いを予測する指標値として、伝熱管の減肉速度すなわち伝熱管の厚さが所定期間にどの程度薄くなるかを示す指標値を算出してもよい。また、例えば、指標値算出部103は、算出した減肉速度と、伝熱管の現在の肉厚と、伝熱管の最小限の肉厚とに基づき、伝熱管の残り寿命を示す指標値を算出してもよい。同様にして、指標値算出部103は、所定期間における減肉量や、所定期間後の伝熱管の肉厚等の予測値を指標値として算出することもできる。なお、伝熱管の残り寿命を目的変数とする学習済みモデル113を構築してもよく、この場合、指標値算出部103は、上述のような計算を介さずに伝熱管の残り寿命を算出することができる。
【0021】
運転データ111は、指標値算出の対象となる対象施設における運転データであり、排ガス温度と管壁温度を算出するために用いられる。また、温度算出式112は、排ガス温度と管壁温度を算出するための数式である。温度算出式112および運転データ111の詳細は、後記「排ガス温度の算出方法」および「管壁温度の算出方法」の項目で説明する。
【0022】
学習済みモデル113は、伝熱管の腐食に関する指標値を算出するためのモデルである。より詳細には、学習済みモデル113は、燃料の硫黄含有量および塩素含有量を説明変数とし、当該燃料を燃焼させたときに発生する排熱を回収する伝熱管の腐食に関する指標値を目的変数として機械学習することにより構築された学習済みモデルである。指標値算出の対象となる対象施設で取得されたデータを用いて機械学習されたものであってもよいし、他の施設で取得されたデータを用いて機械学習されたものであってもよい。学習済みモデルの詳細は後記「学習済みモデルについて」の項目で説明する。
【0023】
以上のように、指標値算出装置1は、ボイラの燃料の硫黄含有量および塩素含有量を特定する含有量特定部101と、燃料の硫黄含有量および塩素含有量を説明変数とし、当該燃料を燃焼させたときに発生する排熱を回収する伝熱管の腐食に関する指標値を目的変数として機械学習することにより構築された学習済みモデル113を用いて、含有量特定部101が特定する硫黄含有量および塩素含有量から指標値を算出する指標値算出部103と、を備える。
【0024】
燃料の硫黄含有量および塩素含有量は、伝熱管の腐食に与える影響が大きいことが分かっているから、上記の構成によれば、伝熱管の腐食に関する指標値を算出することができる。また、燃料の硫黄含有量および塩素含有量は、指標値算出の対象となる対象施設を稼働させなくても特定することが可能であり、比較的入手しやすいデータである。したがって、上記の構成によれば、比較的入手しやすいデータから伝熱管の腐食に関する指標値を算出することができるという効果を奏する。例えば、上記の構成によれば、指標値算出の対象となる施設の設計段階等において伝熱管の腐食に関する指標値を算出し、その指標値を設計に反映させることも可能になる。
【0025】
(学習済みモデルについて)
上述のように、学習済みモデル113は、燃料の硫黄含有量および塩素含有量を説明変数とし、当該燃料を燃焼させたときに発生する排熱を回収する伝熱管の腐食に関する指標値を目的変数として機械学習することにより構築された学習済みモデルである。
【0026】
学習済みモデル113の説明変数には、燃料の硫黄含有量および塩素含有量が少なくとも含まれていればよく、これら以外にも伝熱管の腐食に関連のある各種情報を説明変数に含めることが可能である。本実施形態では、燃料の硫黄含有量および塩素含有量に加えて、燃料の燃焼時に排出される排出ガスの温度である排ガス温度(より正確には伝熱管の周囲の排ガス温度)と、伝熱管の管壁温度についても説明変数とする例を説明する。排ガス温度と管壁温度も伝熱管の腐食に与える影響が大きいことが分かっているから、上記の構成によれば、伝熱管の腐食に関する高精度な指標値を算出することができる。
【0027】
また、上述のように、指標値算出装置1は、伝熱管に関する熱計算により排ガス温度と管壁温度とを算出する温度算出部102を備えていてもよい。この場合、指標値算出部103は、説明変数に排ガス温度と管壁温度が含まれる学習済みモデル113を用いて、温度算出部102が算出する排ガス温度および管壁温度と、含有量特定部101が特定する硫黄含有量および塩素含有量とから指標値を算出する。
【0028】
排ガス温度と管壁温度は、通常、指標値算出の対象となる対象施設を稼働させて実測する必要があるが、上記の構成によれば、伝熱管に関する熱計算により排ガス温度と伝熱管の管壁温度を算出する。このため、上記の構成によれば、指標値算出の対象となる施設を稼働させなくても伝熱管の腐食に関する指標値を算出することができる。
【0029】
無論、排ガス温度と管壁温度は必ずしも指標値算出装置1が算出する必要はなく、指標値算出装置1のユーザが入力部13を介して入力した、あるいは通信部12を介した通信により他の装置から取得した排ガス温度と管壁温度を用いて指標値を算出してもよい。この場合、温度算出部102は省略してもよい。
【0030】
学習済みモデル113は、説明変数と目的変数との関係を示す教師データを用いた機械学習により構築すればよい。教師データは、指標値算出の対象となる対象施設で使用された燃料の硫黄含有量および塩素含有量や、当該施設で収集された運転データから算出された(あるいは当該施設で収集された)排ガス温度および管壁温度と、当該施設における指標値の値(例えば減肉速度)とを対応付けたものであってもよい。このように、指標値算出の対象となる施設で収集されたデータを教師データとして用いることにより、当該施設における指標値の算出精度を高めることができる。
【0031】
なお、学習済みモデル113の説明変数である硫黄含有量等の値や、目的変数である指標値の値は、一般的な発電施設であれば概ね共通した傾向を示す。このため、特定の施設で収集されたデータを教師データとして機械学習された学習済みモデル113であっても、その施設でしか利用できないものとはならず、他の施設における指標値の算出にも利用できる汎用的なものとなる。
【0032】
つまり、学習済みモデル113の教師データは指標値算出の対象となる対象施設で取得されたデータであってもよいし、他の施設で取得されたデータであってもよい。ただし、何れの場合であっても、施設の運転条件が伝熱管の腐食に影響するのであれば、少なくともそのような運転条件については対象施設と同等にして取得されたデータを教師データとすることが好ましい。例えば、対象施設の蒸気温度を400度として運転することが決まっている場合、蒸気温度400度あるいはそれに近い条件下で取得されたデータを教師データとして構築した学習済みモデル113を用いることが好ましい。
【0033】
学習済みモデル113の学習アルゴリズムは、上述のような説明変数から目的変数を導出できるようなものであればよく、特に限定されない。例えば、ニューラルネットワークやサポートベクターマシン等の学習アルゴリズムを適用してもよい。また、例えば、ELM(Extreme Learning Machine)のような順伝搬型ニューラルネットワークを適用してもよい。学習済みモデル113としてELMを適用することにより、比較的少ない教師データにより実用に足りる精度の指標値を算出できることが本発明者らの実験で確認されている。
【0034】
なお、指標値算出装置1は、学習済みモデル113の生成や、その機械学習に用いる上述のような教師データの生成を行ってもよい。この場合、教師データを生成する教師データ生成部と、学習済みモデル113を生成する学習部とを図1の制御部10に追加すればよい。
【0035】
(伝熱管の配置と構成について)
指標値算出装置1は、発電用のボイラを備えたごみ焼却施設における伝熱管の腐食に関する指標値を算出することもできる。以下では、図2に基づいて、ごみ焼却施設5における伝熱管の配置と構成について説明する。図2は、ごみ焼却施設5における伝熱管の配置と構成を示す図である。
【0036】
図2に示すごみ焼却施設5では、燃焼室51内でごみを燃焼させる。ごみの燃焼によって生じた高温の排ガスは、燃焼室51の上方に設けられた流路52に流れ込むようになっている。また、燃焼室51および流路52の壁面は水管壁53となっている。水管壁53は、図2に部分的に拡大して示すように、断熱壁532の内側に水管531を配した構成となっている。水管531の内部は水が循環するようになっている。
【0037】
また、流路52には、ボイラ給水を予熱する排ガスエコノマイザ54、水管531の内部の循環水を蒸発させて蒸気にする蒸気ドラム55、1次過熱器56、2次過熱器57、および3次過熱器58が設けられている。1次過熱器56は、図2に拡大して示すように、入口部561から出口部563まで一続きになった過熱器管562により構成されている。なお、図示は省略しているが、2次過熱器57および3次過熱器58も1次過熱器56と同様に蛇行する一続きの過熱器管で構成されている。
【0038】
水管531は、排ガスエコノマイザ54に接続されており、排ガスにより温められた水管531内の循環水は排ガスエコノマイザ54に供給される。この循環水は、排ガスエコノマイザ54でさらに加温されて蒸気ドラム55に供給され、蒸気ドラム55はこの循環水を蒸発させて蒸気に変える。
【0039】
蒸気ドラム55が発生させた蒸気は、1次過熱器56に供給されて過熱される。より詳細には、蒸気ドラム55が発生させた蒸気は、1次過熱器56の入口部561から過熱器管562内に入り、過熱器管562内で過熱されて出口部563から排出される。続いて、過熱された蒸気は2次過熱器57で再び過熱され、その後3次過熱器58でさらに過熱された上で、図示しない蒸気タービンに供給される。蒸気タービンはこの過熱蒸気により回転し、この回転動力を利用して発電が行われる。
【0040】
このように、ごみ焼却施設5では、燃焼室51内でごみを燃焼させることによって生じた排熱が、水管531および1次過熱器56~3次過熱器58内の過熱器管によって回収される。つまり、水管531および1次過熱器56~3次過熱器58内の過熱器管は、排熱を回収する伝熱管である。指標値算出装置1は、このような水管531や過熱器管の腐食に関する指標値を算出することができる。
【0041】
(排ガス温度の算出方法)
温度算出部102による排ガス温度の算出方法を図3に基づいて説明する。図3は、2次過熱器57Aと3次過熱器58Aの内部を通過する蒸気の流れと、2次過熱器57Aと3次過熱器58Aの周囲を通過する排ガスの流れを示す図である。なお、図示していないが、2次過熱器57Aに対して排ガスの流れ方向の下流側には1次過熱器が配置されている。
【0042】
図に示す3次過熱器58Aは、2次過熱器57Aと隣接して設けられている。図3に一点鎖線の矢印で示すように、2次過熱器57Aに入った蒸気は、2次過熱器57Aの内部を通過した後、3次過熱器58Aに入り、3次過熱器58Aの内部を通過して、3次過熱器58Aから放出される。一方、排ガスは3次過熱器58から2次過熱器57Aに向かって流れる。
【0043】
図3では、2次過熱器57Aの入り口における排ガス温度をTg,2,in(℃)、2次過熱器57Aの出口における排ガス温度をTg,2,out(℃)と表している。同様に、3次過熱器58Aの入り口における排ガス温度をTg,3,in(℃)、3次過熱器58Aの出口における排ガス温度をTg,3,out(℃)と表している。
【0044】
上記の各温度のうち、3次過熱器58Aの入り口における排ガス温度Tg,3,inは、3次過熱器58Aの入り口付近に温度計を設けることにより計測することができる。また、3次過熱器58Aの出口における排ガス温度Tg,3,outは、排ガスの比熱c(kJ/m3N℃)と、3次過熱器58Aの出口における排ガスのエンタルピhg,3,out(kJ/m3N)を用いて下記の数式(1)のように表すことができる。なお、比熱cは定数である。
【0045】
【数1】
【0046】
また、2次過熱器57Aの入り口における排ガス温度Tg,2,inは、Tg,3,outと等しいとみなすことができる。つまり、Tg,2,in=Tg,3,outの関係が成り立つ。そして、2次過熱器57Aの出口における排ガス温度Tg,2,outは、排ガスの比熱c(kJ/m3N℃)と、2次過熱器57Aの出口における排ガスのエンタルピhg,2,out(kJ/m3N)を用いて下記の数式(2)のように表すことができる。
【0047】
【数2】
【0048】
また、数式(1)におけるhg,3,outは、排ガス流量F(m3N/h)、3次過熱器58Aの入り口における排ガスのエンタルピhg,3,in(kJ/m3N)、蒸気流量V(m3N/h)、3次過熱器58Aの入り口における蒸気エンタルピhv,3,in(kJ/m3N)、および3次過熱器58Aの出口における蒸気エンタルピhv,3,out(kJ/m3N)を用いて下記の数式(3)のように表すことができる。なお、排ガス流量Fと蒸気流量Vは計測可能である。
【0049】
【数3】
【0050】
また、上記数式(3)におけるhg,3,inは、排ガスの比熱c(kJ/m3N℃)とTg,3,inから下記の数式(4)により算出することができる。つまり、hg,3,inは、計測したTg,3,inに定数である比熱cを乗じることにより算出することができる。
【0051】
【数4】
【0052】
また、数式(2)におけるhg,2,outは、下記の数式(5)で表される。なお、hv,2,in(kJ/m3N)は2次過熱器57Aの入り口における蒸気エンタルピであり、hv,2,out(kJ/m3N)は2次過熱器57Aの出口における蒸気エンタルピである。
【0053】
【数5】
【0054】
また、蒸気エンタルピは、蒸気圧力と蒸気温度から算出することができ、蒸気圧力と蒸気温度は計測することができる。したがって、温度算出部102は、3次過熱器58Aにおける蒸気圧力と蒸気温度の計測値を用いて、蒸気エンタルピhv,3,out、hv,3,inを算出し、算出したこれらの値と、排ガス流量Fおよび蒸気流量Vの計測値と、Tg,3,inの計測値と排ガスの比熱の積であるhg,3,in(上記数式(4))とを上記数式(3)に代入することにより、hg,3,outを算出することができる。そして、温度算出部102は、算出したhg,3,outを上記数式(1)に代入することにより、排ガス温度Tg,3,outを算出することができる。
【0055】
また、温度算出部102は、2次過熱器57Aにおける蒸気圧力と蒸気温度の計測値を用いて、蒸気エンタルピhv,2,out、hv,2,inを算出し、算出したこれらの値と、上述のようにして算出したhg,3,outと、排ガス流量Fおよび蒸気流量Vの計測値とを上記数式(5)に代入することにより、hg,2,outを算出することができる。そして、温度算出部102は、算出したhg,2,outを上記数式(2)に代入することにより、排ガス温度Tg,2,outを算出することができる。
【0056】
なお、上記の計算に用いる数式は、温度算出式112として記憶部11に記憶させておけばよい。また、上記の計算に用いる各計測値は、運転データ111として入力すればよい。
【0057】
(管壁温度の算出方法)
続いて、管壁温度の算出方法を説明する。過熱器管の管壁温度をT(℃)、当該過熱器管の周囲の排ガス温度をT(℃)とすると、管壁温度Tは、排ガス温度Tと、伝熱量Q(kcal/h)と、過熱器管の外径rと、ガス熱伝達率α(kcal/m2h℃)と、過熱器管の長さL(m)とを用いて下記の数式(6)のように表される。
【0058】
【数6】
【0059】
また、伝熱量Qは、熱通過率K(kcal/mh℃)と、排ガス温度をTと、過熱器管内の流体温度T(℃)、および過熱器管の長さLとを用いて下記の数式(7)のように表される。
【0060】
【数7】
【0061】
そして、数式(6)の伝熱量Qに数式(7)の右辺を代入することにより下記の数式(8)が導かれる。
【0062】
【数8】
【0063】
また、熱通過率Kは、ガス熱伝達率αと、過熱器管の外径r(m)と、過熱器管の内径r(m)と、熱伝導率λ(kcal/mh℃)と、過熱器管内の流体の熱伝達率α(kcal/m2h℃)とを用いて下記の数式(9)のように表される。
【0064】
【数9】
【0065】
上記数式(8)、(9)において、熱伝導率λ、ガス熱伝達率α、流体の熱伝達率α、内径r、および外径rは、何れも定数である。したがって、数式(9)から熱通過率Kも定数となる。よって、温度算出部102は、上述のようにして算出した排ガス温度をTと流体温度Tを上記数式(8)に代入することにより、管壁温度Tを算出することができる。
【0066】
例えば、3次過熱器58Aの出口付近の管壁温度Tm,3,outを算出する場合、温度算出部102は、3次過熱器58Aの出口付近の排ガス温度Tg,3,outと、熱通過率Kと、3次過熱器58Aの出口付近の流体(すなわち蒸気)温度Tf,3,outを上記数式(8)に代入する。数式(8)は、温度算出式112として記憶部11に記憶させておけばよく、Tf,3,outは、運転データ111として入力すればよい。
【0067】
(処理の流れ)
指標値算出装置1が実行する処理の流れ(指標値算出方法)について図4に基づいて説明する。図4は、指標値算出装置1が実行する処理の一例を示すフローチャートである。なお、以下では、図3に示した3次過熱器58Aが備える過熱器管の腐食に関する指標値を算出する例を説明する。
【0068】
S11では、温度算出部102が、運転データ111の入力を受け付ける。運転データ111は入力部13を介して入力されてもよいし、通信部12を介した通信により他の装置から入力されてもよい。具体的には、運転データ111には、上記「排ガス温度の算出方法」で説明した、排ガス温度および管壁温度を算出するために用いる各種の計測値が含まれている。
【0069】
S12では、温度算出部102が、S11で入力された運転データ111と、温度算出式112とを用いて、3次過熱器58A付近の排ガス温度と、3次過熱器58Aの過熱器管の管壁温度を算出する。例えば、温度算出部102は、上記「排ガス温度の算出方法」で説明したように数式(1)~(5)と運転データ111とを用いて、3次過熱器58Aの出口における排ガス温度Tg,3,outを算出してもよい。そして、温度算出部102は、上記「管壁温度の算出方法」で説明したように、算出した排ガス温度Tg,3,outおよび運転データ111と数式(8)とを用いて、3次過熱器58Aの過熱器管の管壁温度Tを算出してもよい。
【0070】
S13では、含有量特定部101が、対象施設におけるボイラの燃料の硫黄含有量および塩素含有量を特定する。例えば、ボイラの燃料が焼却されるごみである場合、S13では当該ごみの硫黄含有量および塩素含有量が特定される。硫黄含有量および塩素含有量は入力部13を介して入力されてもよいし、通信部12を介した通信により他の装置から取得されてもよい。また、S13で特定される硫黄含有量および塩素含有量は、実際に燃料(例えばごみ)を分析して特定されたものであってもよいし、一般的な燃料の組成等を基に算出した想定値であってもよい。
【0071】
S14では、指標値算出部103が、学習済みモデル113を用いて、S12で算出された排ガス温度および管壁温度と、S13で特定された硫黄含有量および塩素含有量から、3次過熱器58Aの過熱器管の腐食に関する指標値を算出する。具体的には、指標値算出部103は、排ガス温度、管壁温度、硫黄含有量、および塩素含有量を学習済みモデル113に入力することにより、学習済みモデル113から指標値が出力される。これにより、図4の処理は終了する。なお、指標値算出部103は、算出した指標値を記憶部11に記憶してもよいし、出力部14に出力させてもよいし、通信部12を介して他の装置に送信してもよい。
【0072】
以上のように、本実施形態に係る指標値算出方法は、ボイラの燃料の硫黄含有量および塩素含有量を特定する含有量特定ステップ(S13)と、燃料の硫黄含有量および塩素含有量を説明変数とし、当該燃料を燃焼させたときに発生する排熱を回収する伝熱管の腐食に関する指標値を目的変数として機械学習することにより構築された学習済みモデル113を用いて、S13で特定される硫黄含有量および塩素含有量から指標値を算出する指標値算出ステップ(S14)と、を含む。このように、本実施形態に係る指標値算出方法によれば、燃料の硫黄含有量および塩素含有量という入手しやすいデータから伝熱管の腐食に関する指標値を算出することができる。
【0073】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0074】
(装置構成)
本実施形態に係る指標値算出装置2の構成を図5に基づいて説明する。図5は、指標値算出装置2の構成例を示すブロック図である。指標値算出装置2は、実施形態1の指標値算出装置1と同様に、燃料を燃焼させたときに発生する排熱を回収してボイラに伝達するための伝熱管の腐食に関する指標値を算出する装置である。
【0075】
指標値算出装置2は、実施形態1の指標値算出装置1と比べて、制御部10および記憶部11がそれぞれ制御部20および記憶部21に変っている点で相違している。制御部20には、組成特定部201と指標値算出部202が含まれている。また、記憶部21には学習済みモデル211が記憶されている。
【0076】
組成特定部201は、ボイラにおいて排熱を回収する伝熱管に付着する灰の組成を特定する。例えば、組成特定部201は、伝熱管に付着した灰を成分分析することにより特定された、当該灰に含まれる各成分の重量パーセント濃度を灰の組成として特定してもよい。なお、組成特定部201が特定する組成の詳細は後記「学習済みモデルについて」の項目で説明する。
【0077】
灰の組成は、入力部13を介して入力されてもよいし、通信部12を介した通信により他の装置から取得されてもよい。なお、灰の組成は、実際に伝熱管に付着した灰を上述のように分析して特定されたものであってもよいし、設計想定値(施設の設計上そのような組成となると想定される値)であってもよい。
【0078】
指標値算出部202は、伝熱管の腐食に関する指標値を算出する。より詳細には、指標値算出部202は、学習済みモデル211を用いて、組成特定部201が特定する灰の組成から指標値を算出する。算出する指標値は実施形態1と同様に伝熱管の腐食に関するものであればよく、例えば、指標値算出部202は、減肉速度や伝熱管の残り寿命等を示す指標値を算出してもよい。
【0079】
学習済みモデル211は、実施形態1の学習済みモデル113と同様に、伝熱管の腐食に関する指標値を算出するためのモデルである。学習済みモデル211の説明変数はボイラの伝熱管に付着する灰の組成であり、この点で学習済みモデル113と相違している。学習済みモデル211は、指標値算出の対象となる対象施設で取得されたデータを用いて機械学習されたものであってもよいし、他の施設で取得されたデータを用いて機械学習されたものであってもよく、この点については学習済みモデル113と同様である。
【0080】
以上のように、指標値算出装置2は、対象施設が備えるボイラにおいて排熱を回収する伝熱管に付着する灰の組成を特定する組成特定部201と、対象施設または他の施設におけるボイラの伝熱管に付着する灰の組成を説明変数とし、当該伝熱管の腐食に関する指標値を目的変数として機械学習することにより構築された学習済みモデル211を用いて、組成特定部201が特定する組成から、対象施設における指標値を算出する指標値算出部202と、を備える。
【0081】
伝熱管に付着する灰の組成は、伝熱管の腐食に相関があることが分かっているから、上記の構成によれば、伝熱管の腐食に関する指標値を算出することができる。また、上記の構成によれば、灰の組成という比較的入手しやすいデータから伝熱管の腐食に関する指標値を算出することができるという効果を奏する。
【0082】
(学習済みモデルについて)
学習済みモデル211は、伝熱管に付着する灰の組成を説明変数とし、当該伝熱管の腐食に関する指標値を目的変数として機械学習することにより構築された学習済みモデルである。学習済みモデル211の説明変数は、灰を構成する全成分の組成を示すものであってもよいし、一部の成分の組成を示すものであってもよい。組成特定部201は、学習済みモデル211の説明変数となっている成分の含有量を特定する。
【0083】
例えば、組成特定部201は、伝熱管に付着する灰の組成として、当該灰における硫黄含有量と塩素含有量を少なくとも特定してもよい。伝熱管に付着する灰における硫黄含有量および塩素含有量は、伝熱管の腐食に強い相関があることが分かっているから、上記の構成によれば、伝熱管の腐食に関する高精度な指標値を算出することができる。
【0084】
また、例えば、組成特定部201は、伝熱管に付着する灰の組成として、当該灰におけるアルカリ金属の含有量を少なくとも特定してもよい。伝熱管に付着する灰におけるアルカリ金属の含有量は、伝熱管の腐食に相関があることが分かっているから、上記の構成によれば、伝熱管の腐食に関する高精度な指標値を算出することができる。なお、伝熱管に付着する灰に含まれるアルカリ金属としては、例えばナトリウム、カリウム等が挙げられる。
【0085】
さらに、例えば、組成特定部201は、伝熱管に付着する灰の組成として、当該灰における重金属の含有量を少なくとも特定してもよい。伝熱管に付着する灰における重金属の含有量は、伝熱管の腐食に相関があることが分かっているから、上記の構成によれば、伝熱管の腐食に関する高精度な指標値を算出することができる。なお、伝熱管に付着する灰に含まれる重金属としては、例えば銅、亜鉛、鉛等が挙げられる。
【0086】
また、伝熱管に付着する灰に含まれる主要な成分全ての組成を説明変数とする学習済みモデル211を用いてもよい。この場合、組成特定部201は、上述の硫黄、塩素、ナトリウム、カリウム、銅、亜鉛、および鉛に加えて、酸素、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、およびカルシウム等の含有量を特定してもよい。
【0087】
実施形態1の学習済みモデル113と同様に、学習済みモデル211は、説明変数と目的変数との関係を示す教師データを用いた機械学習により構築すればよい。教師データは、指標値算出の対象となる施設または他の施設で採取された灰の組成と、当該施設における指標値の値(例えば減肉速度)とを対応付けたものであってもよい。また、学習済みモデル113と同様に、学習済みモデル211のアルゴリズムは、上述のような説明変数から目的変数を導出できるようなものであればよく、特に限定されない。
【0088】
また、指標値算出装置2は、学習済みモデル211の生成や、その機械学習に用いる上述のような教師データの生成を行ってもよい。この場合、教師データを生成する教師データ生成部と、学習済みモデル211を生成する学習部とを図5の制御部20に追加すればよい。
【0089】
(処理の流れ)
指標値算出装置2が実行する処理の流れ(指標値算出方法)について図6に基づいて説明する。図6は、指標値算出装置2が実行する処理の一例を示すフローチャートである。なお、以下では、図2に示したごみ焼却施設5における過熱器管562の腐食に関する指標値を算出する例を説明する。
【0090】
S21では、組成特定部201が、過熱器管562に付着した灰の組成を特定する。灰の組成は入力部13を介して入力されてもよいし、通信部12を介した通信により他の装置から入力されてもよい。上述のように、S21で特定される灰の組成は、実際に過熱器管562に付着した灰を分析して特定されたものであってもよいし、設計想定値であってもよい。
【0091】
S22では、指標値算出部202が、学習済みモデル211を用いて、S21で特定された灰の組成から過熱器管562の腐食に関する指標値を算出する。具体的には、指標値算出部202は、灰の組成すなわち灰に含まれる各成分の含有量を学習済みモデル211に入力することにより、学習済みモデル211から指標値が出力される。これにより、図6の処理は終了する。なお、指標値算出部202は、算出した指標値を記憶部21に記憶してもよいし、出力部14に出力させてもよいし、通信部12を介して他の装置に送信してもよい。
【0092】
以上のように、本実施形態に係る指標値算出方法は、対象施設が備えるボイラにおいて排熱を回収する伝熱管に付着する灰の組成を特定する組成特定ステップ(S21)と、対象施設または他の施設におけるボイラの伝熱管に付着する灰の組成を説明変数とし、当該伝熱管の腐食に関する指標値を目的変数として機械学習することにより構築された学習済みモデル211を用いて、S21で特定される組成から、対象施設における指標値を算出する指標値算出ステップ(S22)と、を含む。これにより、灰の組成という入手しやすいデータから伝熱管の腐食に関する指標値を算出することができる。
【0093】
〔変形例〕
上述の実施形態で説明した各処理の実行主体は任意であり、上述の例に限られない。例えば、図4に示した指標値算出方法は、指標値算出装置1の代わりに複数の情報処理装置が実行する構成としてもよい。例えば、図4のS11およびS12の処理を1つの情報処理装置に実行させ、当該情報処理装置が算出した排ガス温度および管壁温度を他の情報処理装置に出力するようにしてもよい。この場合、他の情報処理装置がS13およびS14の処理を行えばよい。図6に示した指標値算出方法についても同様であり、指標値算出装置2の代わりに複数の情報処理装置が実行する構成としてもよい。
【0094】
〔ソフトウェアによる実現例〕
指標値算出装置1および2(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部10および20に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラム(指標値算出プログラム)により実現することができる。
【0095】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0096】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0097】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0098】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0099】
1 指標値算出装置
101 含有量特定部
102 温度算出部
103 指標値算出部
113 学習済みモデル
2 指標値算出装置
201 組成特定部
202 指標値算出部
211 学習済みモデル

図1
図2
図3
図4
図5
図6