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特開2023-130947ビスホスホリル架橋スチルベン化合物及び油滴染色剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130947
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】ビスホスホリル架橋スチルベン化合物及び油滴染色剤
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/6568 20060101AFI20230913BHJP
   C09B 23/14 20060101ALI20230913BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230913BHJP
   C12N 1/00 20060101ALN20230913BHJP
【FI】
C07F9/6568 CSP
C09B23/14 500
C12Q1/02
C12N1/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035547
(22)【出願日】2022-03-08
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PLURONIC
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「研究題目名:励起ダイナミクス制御に基づくヘテロπ電子系の創製」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 茂弘
(72)【発明者】
【氏名】多喜 正泰
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4H050
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ05
4B063QR66
4B063QS32
4B063QX02
4B065AA93X
4B065BA25
4B065BB25
4B065BC03
4B065BC07
4B065BD34
4B065CA46
4B065CA60
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB20
4H050AC90
4H050WA01
4H050WA15
4H050WA24
4H050WA26
(57)【要約】      (修正有)
【課題】油滴の組成やミトコンドリア内膜の膜構造(膜組成)を推定することができる油滴染色剤及びミトコンドリア内膜染色剤を提供する。
【解決手段】一般式(1):

[式中、Ar及びArは同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。R及びRは同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換シクロアルキル基、又は置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。Y及びYは同一又は異なってもよくホスフィンオキサイド基等を示す。]
で表される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
[式中、
Ar及びArは同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
及びRは同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換シクロアルキル基、又は置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。
ただし、R及びRは一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。R及び/又はRはArと一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。
及びYは同一又は異なって、一般式(2):
【化2】
(Arは非置換芳香族炭化水素環又は非置換複素芳香環を示す。
は酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で表される基を示す。]
で表される、ビスホスホリル架橋スチルベン化合物。
【請求項2】
前記Arが、置換若しくは非置換多環芳香族炭化水素環である、請求項1に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物。
【請求項3】
前記Arが、置換若しくは非置換多環芳香族炭化水素環である、請求項1又は2に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物。
【請求項4】
前記Arが、非置換多環芳香族炭化水素環である、請求項1~3のいずれか1項に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物。
【請求項5】
前記Yが、酸素原子である、請求項1~4のいずれか1項に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物を含有する、蛍光色素。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物を含有する、油滴染色剤。
【請求項8】
油滴中の組織を蛍光寿命によって識別する、請求項7に記載の油滴染色剤。
【請求項9】
一般式(3):
【化3】
[式中、
Ar及びArは同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
及びRは同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換シクロアルキル基、又は置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。
ただし、R及びRは一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。R及び/又はRはArと一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。
及びYは同一又は異なって、一般式(4):
【化4】
(Arは置換基を有する芳香族炭化水素環又は置換基を有する複素芳香環を示す。
は酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で表される基を示す。]
で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物を含有する、ミトコンドリア内膜染色剤。
【請求項10】
ミトコンドリア内膜中に存在する組織を蛍光寿命によって識別する、請求項8又は9に記載のミトコンドリア内膜染色剤。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか1項に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物、請求項6に記載の蛍光色素、又は請求項7若しくは8に記載の油滴染色剤を用いる、油滴の組成を推定する方法。
【請求項12】
請求項9又は10に記載のミトコンドリア内膜染色剤を用いる、ミトコンドリア内膜の膜構造を推定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスホスホリル架橋スチルベン化合物及び油滴染色剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪滴に代表される油滴染色剤は、細胞内における脂肪滴等の油滴の動態を観察するうえで有用である。油滴染色剤としては、耐光性脂肪滴染色剤LAQ1をはじめ、多種多様な脂肪滴染色剤が市販されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ACS Materials Lett. 2021, 3, 1, 42-49
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脂肪滴を構成する中性脂肪の組成は、細胞の種類によって異なることが知られている。また、同一細胞内においても、脂肪滴の特性は異なると考えられている。しかしながら、従来の脂肪滴染色剤では、個々の脂肪滴の特性を評価することはできず、脂肪滴の構成成分を識別することや、脂肪滴の組成を推定することは困難であった。例えば、脂肪滴内の中性脂肪は、トリアシルグリセロールと、コレステロールエステルの2種類に大別されるが、その2種類の組成の違いを評価することは困難であった。また、同様に、ミトコンドリア内膜の膜構造(膜組成)の違いを評価することも困難であった。
【0005】
本発明は、上記のような従来の課題を解決しようとするものであり、油滴の組成やミトコンドリア内膜の膜構造(膜組成)を推定することができる油滴染色剤及びミトコンドリア内膜染色剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、特定のビスホスホリル架橋スチルベン骨格を有する化合物は、リン原子上の芳香環が置換基を有さない場合は、油滴を染色することができるだけでなく、油滴が有する組織を蛍光寿命によって識別し、それぞれ区別することができるため、油滴の組成を推定することができることを見出した。また、本発明者らは、この特定のビスホスホリル架橋スチルベン骨格を有する化合物は、リン原子上の芳香環が置換基を有する場合は、ミトコンドリア内膜中に存在する組織を識別でき、ミトコンドリア内膜の膜構造(膜組成)を推定できることも見出した。本発明者らは、このような知見に基づき、さらに研究を重ね本発明を完成した。即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0007】
項1.一般式(1):
【0008】
【化1】
[式中、
Ar及びArは同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
及びRは同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換シクロアルキル基、又は置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。
ただし、R及びRは一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。R及び/又はRはArと一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。
及びYは同一又は異なって、一般式(2):
【0009】
【化2】
(Arは非置換芳香族炭化水素環又は非置換複素芳香環を示す。
は酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で表される基を示す。]
で表される、ビスホスホリル架橋スチルベン化合物。
【0010】
項2.前記Arが、置換若しくは非置換多環芳香族炭化水素環である、項1に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物。
【0011】
項3.前記Arが、置換若しくは非置換多環芳香族炭化水素環である、項1又は2に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物。
【0012】
項4.前記Arが、非置換多環芳香族炭化水素環である、項1~3のいずれか1項に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物。
【0013】
項5.前記Yが、酸素原子である、項1~4のいずれか1項に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物。
【0014】
項6.項1~5のいずれか1項に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物を含有する、蛍光色素。
【0015】
項7.項1~5のいずれか1項に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物を含有する、油滴染色剤。
【0016】
項8.油滴中の組織を蛍光寿命によって識別する、項7に記載の油滴染色剤。
【0017】
項9.一般式(3):
【0018】
【化3】
[式中、
Ar及びArは同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
及びRは同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換シクロアルキル基、又は置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。
ただし、R及びRは一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。R及び/又はRはArと一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。
及びYは同一又は異なって、一般式(4):
【0019】
【化4】
(Arは置換基を有する芳香族炭化水素環又は置換基を有する複素芳香環を示す。
は酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で表される基を示す。]
で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物を含有する、ミトコンドリア内膜染色剤。
【0020】
項10.ミトコンドリア内膜中に存在する組織を蛍光寿命によって識別する、項8又は9に記載のミトコンドリア内膜染色剤。
【0021】
項11.項1~5のいずれか1項に記載のビスホスホリル架橋スチルベン化合物、項6に記載の蛍光色素、又は項7若しくは8に記載の油滴染色剤を用いる、油滴の組成を推定する方法。
【0022】
項12.項9又は10に記載のミトコンドリア内膜染色剤を用いる、ミトコンドリア内膜の膜構造を推定する方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明のビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、油滴内部の構成成分を識別し、それぞれ区別することができるため、油滴の組成を推定することができる油滴染色剤として使用することができる。
【0024】
脂肪滴を構成する中性脂肪の組成は、細胞の種類によって異なることが知られていることから、本発明のビスホスホリル架橋スチルベン化合物によれば、細胞の種類を識別することもできる。
【0025】
また、本発明のミトコンドリア内膜染色剤は、ミトコンドリア内膜中に存在する組織を識別でき、ミトコンドリア内膜の膜構造(膜組成)を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】MitoPBRed(実施例1)を用いたHeLa細胞の蛍光寿命イメージング顕微鏡法(FLIM)像である。右図は、左図の拡大図である。
図2】MitoPBRed(実施例1)を用いたHeLa細胞の蛍光寿命イメージング顕微鏡法(FLIM)像を左図に示し、カルボニルシアニド-m-クロロフェニルヒドラゾン(CCCP)で処理した後のカルボニルシアニド-m-クロロフェニルヒドラゾン(CCCP)を右図に示す。
図3】カルボニルシアニド-m-クロロフェニルヒドラゾン(CCCP)で処理した前後のMitoPBRed(実施例1)の蛍光寿命を示す。
図4】LipiCo(実施例2)を用いて、蛍光寿命イメージング顕微鏡法(FLIM)により様々な細胞を染色した結果を示す。左図は蛍光寿命イメージング顕微鏡法(FLIM)像、中図は明視野イメージ、右図は蛍光寿命でソートした蛍光寿命イメージング顕微鏡法(FLIM)像のピクセル数を示すヒストグラムである。なお、図4の中図において、スケールバーは10μmである。
図5】LipiCo(実施例2)を用いて、蛍光寿命イメージング顕微鏡法(FLIM)によりHuH-7細胞を染色した結果を示す。
図6】コレステロール添加直後及び6時間後に蛍光寿命イメージング顕微鏡法(FLIM)によりHuH-7細胞を染色した際の蛍光寿命の結果を示す。左図は、コレステロール添加直後の蛍光寿命でソートした蛍光寿命イメージング顕微鏡法(FLIM)像のピクセル数を示すヒストグラムであり、右図は、コレステロール添加6時間後の蛍光寿命でソートした蛍光寿命イメージング顕微鏡法(FLIM)像のピクセル数を示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書において、「含有する(comprise)」は、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」も包含する概念である。
【0028】
本明細書において、範囲を「A~B」で表す場合、特に限定されない限り、A以上B以下を意味する。
【0029】
1.ビスホスホリル架橋スチルベン化合物
本発明のビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、一般式(1):
【0030】
【化5】
[式中、
Ar及びArは同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
及びRは同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換シクロアルキル基、又は置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。
ただし、R及びRは一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。R及び/又はRはArと一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。
及びYは同一又は異なって、一般式(2):
【0031】
【化6】
(Arは非置換芳香族炭化水素環又は非置換複素芳香環を示す。
は酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で表される基を示す。]
で表される。
【0032】
また、本発明のミトコンドリア内膜染色剤は、一般式(3):
【0033】
【化7】
[式中、
Ar及びArは同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
及びRは同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換シクロアルキル基、又は置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。
ただし、R及びRは一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。R及び/又はRはArと一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。
及びYは同一又は異なって、一般式(4):
【0034】
【化8】
(Arは置換基を有する芳香族炭化水素環又は置換基を有する複素芳香環を示す。
は酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で表される基を示す。]
で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物を含有する。
【0035】
つまり、本発明では、一般式(1)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は新規化合物であり、油滴中の組織を識別できるため油滴の組成を推定できる油滴染色剤として使用できる一方、である。一般式(1)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、ミトコンドリア内膜中の組織を識別できるためミトコンドリア内膜の膜構造を推定できるミトコンドリア内膜染色剤として使用できる。
【0036】
一般式(1)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、リン原子に結合する酸素原子及び環Arの位置によって、一般式(1A)及び(1B):
【0037】
【化9】
[式中、
Ar及びArは同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
Ar3a及びAr3bは同一又は異なって、非置換芳香族炭化水素環又は非置換複素芳香環を示す。
及びRは同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換シクロアルキル基、又は置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。
ただし、R及びRは一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。R及び/又はRはArと一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。
3a及びY3bは同一又は異なって、酸素原子又は硫黄原子を示す。]
で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物がいずれも包含される。
【0038】
上記の一般式(1A)で表されるトランスビスホスホリル架橋スチルベン化合物と、一般式(1B)で表されるシスビスホスホリル架橋スチルベン化合物とは、いずれも、油滴内部の組織(例えば、脂肪滴内部のトリアシルグリセロール及びコレステロールエステル)によって蛍光寿命が異なるものであるため、油滴内部の組織、例えば、トリアシルグリセロール及びコレステロールエステルを識別し、それぞれ区別することができ、油滴の組成を推定することができる。また、脂肪滴を構成する中性脂肪の組成は、細胞の種類によって異なることが知られていることから、上記ビスホスホリル架橋スチルベン化合物の蛍光寿命も異なるものであり、上記の一般式(1A)で表されるトランスビスホスホリル架橋スチルベン化合物と、一般式(1B)で表されるシスビスホスホリル架橋スチルベン化合物とは、いずれも、蛍光寿命によって、細胞の種類を識別することもできる。
【0039】
また、上記した一般式(1)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、電子供与基であるアミノ基又は置換アミノ基を有することで、環境応答性を付与するとともに、吸収ピーク波長の長波長化も達成することができ、細胞内小器官に対する光毒性を低減することができる。
【0040】
さらに、上記した一般式(1)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、ビスホスホリル架橋スチルベン骨格を有することにより、MitoPB Yellow(一般式(1)におけるYがビス(4-メトキシフェニル)メチレン基である化合物)が光退色するほどの強力な光照射によっても、吸収強度がほとんど低下しないほどの耐光性を付与することが可能である。
【0041】
また、一般式(3)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、リン原子に結合する酸素原子及び環Arの位置によって、一般式(3A)及び(3B):
【0042】
【化10】
[式中、
Ar及びArは同一又は異なって、置換若しくは非置換芳香族炭化水素環又は置換若しくは非置換複素芳香環を示す。
Ar4a及びAr4bは置換基を有する芳香族炭化水素環又は置換基を有する複素芳香環を示す。
及びRは同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換シクロアルキル基、又は置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。
ただし、R及びRは一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。R及び/又はRはArと一緒になって隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。
6a及びY6bは同一又は異なって、酸素原子又は硫黄原子を示す。]
で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物がいずれも包含される。
【0043】
上記の一般式(3A)で表されるトランスビスホスホリル架橋スチルベン化合物と、一般式(3B)で表されるシスビスホスホリル架橋スチルベン化合物とは、いずれも、ミトコンドリア内膜内部の組織によって蛍光寿命が異なるものであるため、ミトコンドリア内部の組織を識別し、それぞれ区別することができ、ミトコンドリア内膜の膜構造を推定することができる。
【0044】
なお、上記したビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、環Arに対して官能基が結合している場合には、オルガネラ局在性や分散性を制御することが可能であり、ミトコンドリア内膜染色剤として使用することが可能であることから、一般式(3)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、生体内で誘導放出抑制(STED)イメージング等の超解像顕微鏡で繰り返し観察するのに適した化合物である。
【0045】
また、上記した一般式(3)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、電子供与基であるアミノ基又は置換アミノ基を有することで、環境応答性を付与するとともに、吸収ピーク波長の長波長化も達成することができ、ミトコンドリアに対する光毒性を低減することができる。
【0046】
さらに、上記した一般式(3A)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、ビスホスホリル架橋スチルベン骨格を有することにより、MitoPB Yellow(一般式(3)におけるYがビス(4-メトキシフェニル)メチレン基である化合物)が光退色するほどの強力な光照射によっても、吸収強度がほとんど低下しないほどの耐光性を付与することが可能である。
【0047】
一般式(1)、(1A)及び(1B)、(3)、(3A)及び(3B)において、Arで示される芳香族炭化水素環としては、単環芳香族炭化水素環及び多環芳香族炭化水素環のいずれも採用でき、例えば、単環芳香族炭化水素環としてベンゼン環が挙げられ、多環芳香族炭化水素環としてナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フルオレン環、ピレン環、トリフェニレン環等が挙げられる。
【0048】
Arで示される芳香族炭化水素環は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、後述のアルキル基、後述のシクロアルキル基、後述のアリール基、後述のヘテロアリール基、アルケニル基(ビニル基、プロペニル基等)、アルキニル基(エチニル基、1-プロピニル基等)、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、-OR(Rは有機基を示す)で示される基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0049】
一般式(1)、(1A)及び(1B)、(3)、(3A)及び(3B)において、Arで示される複素芳香環としては、例えば、単環複素芳香環として、ピリジン環、ピラジン環等が挙げられ、多環複素芳香環として、インドール環、イソインドール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環等が挙げられる。
【0050】
Arで示される複素芳香環は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、後述のアルキル基、後述のシクロアルキル基、後述のアリール基、後述のヘテロアリール基、アルケニル基(ビニル基、プロペニル基等)、アルキニル基(エチニル基、1-プロピニル基等)、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、-OR(Rは有機基を示す)等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0051】
Arとしては、油滴染色、油滴内部の組織の識別、細胞の識別、ミトコンドリア内膜染色、ミトコンドリア内膜の組織の識別、構造安定性、吸収ピーク波長、細胞内小器官に対する光毒性、耐光性等の観点から、置換又は非置換芳香族炭化水素環が好ましく、多環芳香族炭化水素環が好ましい。
【0052】
なお、Arが置換又は非置換多環芳香族炭化水素環である場合、一般式(1)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、一般式(1C)及び(1D):
【0053】
【化11】
[式中、Ar、Y、Y、R及びRは前記に同じである。
Arは置換又は非置換芳香族炭化水素環を示す。]
で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物のいずれも採用できるし、一般式(3)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、一般式(3C)及び(3D):
【0054】
【化12】
[式中、Ar、Y、Y、R及びRは前記に同じである。
Arは置換又は非置換芳香族炭化水素環を示す。]
で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物のいずれも採用できる。
【0055】
一般式(1C)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、リン原子に結合する基Y及び環Arの位置によって、一般式(1C1)及び(1C2):
【0056】
【化13】
[式中、Ar、Ar3a、Ar3b、Ar、R、R、Y3a及びY3bは前記に同じである。]
で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物がいずれも包含される。
【0057】
また、一般式(1D)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、リン原子に結合する基Y及び環Arの位置によって、一般式(1D1)及び(1D2):
【0058】
【化14】
[式中、Ar、Ar4a、Ar4b、Ar、R、R、Y6a及びY6bは前記に同じである。]
で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物がいずれも包含される。
【0059】
一般式(3C)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、リン原子に結合する基Y及び環Arの位置によって、一般式(3C1)及び(3C2):
【0060】
【化15】
[式中、Ar、Ar4a、Ar4b、Ar、R、R、Y6a及びY6bは前記に同じである。]
で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物がいずれも包含される。
【0061】
また、一般式(3D)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、リン原子に結合する基Y及び環Arの位置によって、一般式(3D1)及び(3D2):
【0062】
【化16】
[式中、Ar、Ar4a、Ar4b、Ar、R、R、Y6a及びY6bは前記に同じである。]
で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物がいずれも包含される。
【0063】
一般式(1C)、(1C1)、(1C2)、(1D)、(1D1)、(1D2)、(3C)、(3C1)、(3C2)、(3D)、(3D1)及び(3D2)において、Arで示される芳香族炭化水素環としては、単環芳香族炭化水素環及び多環芳香族炭化水素環のいずれも採用でき、例えば、単環芳香族炭化水素環としてベンゼン環が挙げられ、多環芳香族炭化水素環としてナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フルオレン環、ピレン環、トリフェニレン環等が挙げられる。このうち、油滴染色、油滴内部の組織の識別、細胞の識別、ミトコンドリア内膜染色、ミトコンドリア内膜の組織の識別、構造安定性、吸収ピーク波長、細胞内小器官に対する光毒性、耐光性等の観点から、ベンゼン環が特に好ましい。
【0064】
Arで示される芳香族炭化水素環は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、後述のアルキル基、後述のシクロアルキル基、後述のアリール基、後述のヘテロアリール基、アルケニル基(ビニル基、プロペニル基等)、アルキニル基(エチニル基、1-プロピニル基等)、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、-OR(Rは有機基を示す)等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0065】
一般式(1C)、(1C1)、(1C2)、(1D)、(1D1)、(1D2)、(3C)、(3C1)、(3C2)、(3D)、(3D1)及び(3D2)において、Arで示される複素芳香環としては、例えば、単環複素芳香環として、ピリジン環、ピラジン環等が挙げられ、多環複素芳香環として、インドール環、イソインドール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環等が挙げられる。
【0066】
Arで示される複素芳香環は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、後述のアルキル基、後述のシクロアルキル基、後述のアリール基、後述のヘテロアリール基、アルケニル基(ビニル基、プロペニル基等)、アルキニル基(エチニル基、1-プロピニル基等)、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、-OR(Rは有機基を示す)等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0067】
なお、Arが置換又は非置換単環芳香族炭化水素環である場合と比較すると、一般式(1C)、(1C1)、(1C2)、(3C)、(3C1)又は(3C2)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、吸収におけるε及び蛍光におけるΦがさらに優れており、さらに、一般式(1C)、(1C1)、又は(1C2)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物についてはより選択的に油滴を染色しやすく、一般式(3C)、(3C1)、又は(3C2)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物については対象となるミトコンドリア内膜をより強く且つより明瞭に発光させることが可能である。
【0068】
また、Arが置換又は非置換単環芳香族炭化水素環である場合と比較すると、一般式(3D)、(3D1)又は(3D2)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、吸収ピーク波長及び蛍光ピーク波長をより長波長化することが可能であり、さらに、一般式(1C)、(1C1)、又は(1C2)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物についてはより選択的に油滴を染色しやすく、一般式(3C)、(3C1)、又は(3C2)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物についてはより選択的にミトコンドリア内膜を染色しやすい。
【0069】
以上から、Arの構造によって、光物性に多様性を持たせることが可能であり、要求物性に応じて、Arの構造を適宜調整することが好ましい。
【0070】
一般式(1)、(2)、(1A)、(1B)、(1C)、(1C1)、(1C2)、(1D)、(1D1)、(1D2)、(3)、(4)、(3A)、(3B)、(3C)、(3C1)、(3C2)、(3D)、(3D1)及び(3D2)において、Ar、Ar、Ar、Ar4a及びAr4bで示される芳香族炭化水素環としては、単環芳香族炭化水素環及び多環芳香族炭化水素環のいずれも採用でき、例えば、単環芳香族炭化水素環としてベンゼン環が挙げられ、多環芳香族炭化水素環としてナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フルオレン環、ピレン環、トリフェニレン環等が挙げられる。このうち、油滴染色、油滴内部の構成成分の識別、細胞の識別、構造安定性、吸収ピーク波長、細胞内小器官に対する光毒性、耐光性等の観点から、ベンゼン環が特に好ましい。
【0071】
Arで示される芳香族炭化水素環は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、後述のアルキル基、後述のシクロアルキル基、後述のアリール基、後述のヘテロアリール基、アルケニル基(ビニル基、プロペニル基等)、アルキニル基(エチニル基、1-プロピニル基等)、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、-OR(Rは有機基を示す)等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0072】
Arで示される芳香族炭化水素環は、置換基を有さないものである。つまり、Arは、無置換である、上記した芳香族炭化水素環が挙げられる。
【0073】
Ar、Ar4a及びAr4bで示される芳香族炭化水素環は、置換基を有するものである。つまり、Ar、Ar4a及びAr4bは、上記した置換基を1~6個(好ましくは1~3個)有する、上記した芳香族炭化水素環が挙げられる。
【0074】
一般式(1)、(2)、(1A)、(1B)、(1C)、(1C1)、(1C2)、(1D)、(1D1)、(1D2)、(3)、(4)、(3A)、(3B)、(3C)、(3C1)、(3C2)、(3D)、(3D1)及び(3D2)において、Ar、Ar、Ar、Ar4a及びAr4bで示される複素芳香環としては、例えば、単環複素芳香環として、ピリジン環、ピラジン環等が挙げられ、多環複素芳香環として、インドール環、イソインドール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環等が挙げられる。
【0075】
Arで示される複素芳香環は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、後述のアルキル基、後述のシクロアルキル基、後述のアリール基、後述のヘテロアリール基、アルケニル基(ビニル基、プロペニル基等)、アルキニル基(エチニル基、1-プロピニル基等)、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、-OR(Rは有機基を示す)等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0076】
Arで示される複素芳香環は、置換基を有さないものである。つまり、Arは、無置換である、上記した複素芳香環が挙げられる。
【0077】
Ar、Ar4a及びAr4bで示される複素芳香環は、置換基を有するものである。つまり、Ar、Ar4a及びAr4bは、上記した置換基を1~6個(好ましくは1~3個)有する、上記した複素芳香環が挙げられる。
【0078】
Arとしては、油滴染色、油滴内部の組織の識別、細胞の識別、ミトコンドリア内膜染色、ミトコンドリア内膜の組織の識別、構造安定性、吸収ピーク波長、細胞内小器官に対する光毒性、耐光性等の観点から、置換又は非置換芳香族炭化水素環が好ましく、置換又は非置換単環芳香族炭化水素環(置換又は非置換ベンゼン環)がより好ましい。
【0079】
Arとしては、油滴染色、油滴内部の組織の識別、細胞の識別、ミトコンドリア内膜染色、ミトコンドリア内膜の組織の識別、構造安定性、吸収ピーク波長、細胞内小器官に対する光毒性、耐光性等の観点から、非置換芳香族炭化水素環が好ましく、非置換単環芳香族炭化水素環(非置換ベンゼン環)がより好ましい。
【0080】
Ar、Ar4a及びAr4bとしては、油滴染色、油滴内部の組織の識別、細胞の識別、ミトコンドリア内膜染色、ミトコンドリア内膜の組織の識別、構造安定性、吸収ピーク波長、細胞内小器官に対する光毒性、耐光性等の観点から、置換芳香族炭化水素環が好ましく、置換単環芳香族炭化水素環(置換ベンゼン環)がより好ましい。
【0081】
一般式(1)、(1A)、(1B)、(1C)、(1C1)、(1C2)、(1D)、(1D1)、(1D2)、(3)、(3A)、(3B)、(3C)、(3C1)、(3C2)、(3D)、(3D1)及び(3D2)において、R及びRで示されるアルキル基としては、直鎖アルキル基及び分岐鎖アルキル基のいずれも採用でき、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等のC1-10アルキル基(特にC1-6アルキル基)が挙げられる。
【0082】
及びRで示されるアルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、後述のシクロアルキル基、後述のアリール基、後述のヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0083】
一般式(1)、(1A)、(1B)、(1C)、(1C1)、(1C2)、(1D)、(1D1)、(1D2)、(3)、(3A)、(3B)、(3C)、(3C1)、(3C2)、(3D)、(3D1)及び(3D2)において、R及びRで示されるシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のC3-10シクロアルキル基(特にC4-8シクロアルキル基)が挙げられる。
【0084】
及びRで示されるシクロアルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、上記アルキル基、後述のアリール基、後述のヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0085】
一般式(1)、(1A)、(1B)、(1C)、(1C1)、(1C2)、(1D)、(1D1)、(1D2)、(3)、(3A)、(3B)、(3C)、(3C1)、(3C2)、(3D)、(3D1)及び(3D2)において、R及びRで示されるアリール基としては、例えば、単環アリール基、縮環アリール基及び多環アリール基のいずれも採用でき、例えば、単環アリール基としてフェニル基が挙げられ、縮環アリール基としてナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、ピレニル基、トリフェニレニル基等が挙げられ、多環アリール基としてビフェニル基、ターフェニル基等のC6-18アリール基(特にC6-14アリール基)が挙げられる。
【0086】
及びRで示されるアリール基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、上記アルキル基、上記アリール基、後述のヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0087】
一般式(1)、(1A)、(1B)、(1C)、(1C1)、(1C2)、(1D)、(1D1)、(1D2)、(3)、(3A)、(3B)、(3C)、(3C1)、(3C2)、(3D)、(3D1)及び(3D2)において、R及びRで示されるヘテロアリール基としては、単環ヘテロアリール基及び縮環ヘテロアリール基のいずれも採用でき、例えば、単環ヘテロアリール基としてピロリル基、チエニル基、フラニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピペリジル基、ピリジル基、ピラジル基等が挙げられ、縮環ヘテロアリール基としてインドリル基、イソインドリル基、ベンゾイミダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基等が挙げられる。
【0088】
及びRで示されるヘテロアリール基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、上記ハロゲン原子、上記アルキル基、上記アリール基、上記ヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0089】
なかでも、R及びRとしては、環境応答性を付与しやすく、吸収ピーク波長の長波長化しやすく、細胞を識別しやすく、一般式(1)、(1A)、(1B)、(1C)、(1C1)、(1C2)、(1D)、(1D1)又は(1D2)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物については油滴を染色しやすく油滴内部の組織を識別しやすく、一般式(3)、(3A)、(3B)、(3C)、(3C1)、(3C2)、(3D)、(3D1)又は(3D2)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物についてはミトコンドリア内膜を染色しやすくミトコンドリア内膜の組織を識別しやすい観点から、置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基が好ましく、置換若しくは非置換アリール基がより好ましく、非置換アリール基がさらに好ましい。
【0090】
なお、R及びRは一緒になって、隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。つまり、-NRで表される基が、
【0091】
【化17】
等で表される基であってもよい。
【0092】
また、R及び/又はRはArと一緒になって、隣接する窒素原子とともに環を形成してもよい。つまり、Ar-NRで表される構造が、
【0093】
【化18】
等であってもよい。
【0094】
この場合、Arにおいて、-NRで表される基が結合する置換位置は特に制限されない。
【0095】
Ar、Ar、Ar、Ar4a、Ar4b、及びArで示される芳香族炭化水素環及び複素芳香環が置換基を有する場合、置換基としての-ORにおけるRで示される有機基としては、特に制限はなく、アルキル基、ポリエチレングリコール基若しくはその誘導体基(-(CO))等が挙げられる。
【0096】
Ar、Ar、Ar、Ar4a、Ar4b、及びArで示される芳香族炭化水素環及び複素芳香環が置換基を有する場合、置換基としての-ORにおけるRで示されるアルキル基としては、直鎖アルキル基及び分岐鎖アルキル基のいずれも採用できるが、染色対象によって適切な基を選択することが好ましい。
【0097】
で示されるアルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、エポキシ基、リン含有基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基(-COOR)、アミド基若しくはその誘導体基(-CONHR)等が挙げられる。
【0098】
で示されるアルキル基の置換基としてのリン含有基としては、特に制限はなく、オルガネラ局在性や分散性を制御しやすい観点からは、一般式(5):
-P (4-n) (5)
[式中、Rは同一又は異なって、置換若しくは非置換(ヘテロ)アリール基を示す。
は同一又は異なって、ハロゲン原子を示す。
nは1~3の整数を示す。]
で表される基が挙げられる。
【0099】
一般式(5)において、Rで示されるアリール基としては、例えば、単環アリール基、縮環アリール基及び多環アリール基のいずれも採用でき、例えば、単環アリール基としてフェニル基が挙げられ、縮環アリール基としてナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、ピレニル基、トリフェニレニル基等が挙げられ、多環アリール基としてビフェニル基、ターフェニル基等のC6-18アリール基(特にC6-14アリール基)が挙げられる。
【0100】
で示されるアリール基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、上記アルキル基、上記アリール基、後述のヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0101】
一般式(5)において、Rで示されるヘテロアリール基としては、単環ヘテロアリール基及び縮環ヘテロアリール基のいずれも採用でき、例えば、単環ヘテロアリール基としてピロリル基、チエニル基、フラニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピペリジル基、ピリジル基、ピラジル基等が挙げられ、縮環ヘテロアリール基としてインドリル基、イソインドリル基、ベンゾイミダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基等が挙げられる。
【0102】
で示されるヘテロアリール基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、上記ハロゲン原子、上記アルキル基、上記アリール基、上記ヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、例えば、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0103】
なかでも、Rとしては、オルガネラ局在性や分散性を制御しやすい観点から、置換若しくは非置換アリール基が好ましく、非置換アリール基がより好ましい。
【0104】
一般式(5)において、Xで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、オルガネラ局在性や分散性を制御しやすい観点から、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が好ましく、塩素原子、臭素原子等がより好ましく、臭素原子がさらに好ましい。
【0105】
一般式(5)において、nは、オルガネラ局在性や分散性を制御しやすい観点から、1~3の整数が好ましく、2又は3がより好ましく、3がさらに好ましい。
【0106】
で示されるアルキル基の置換基としてのアルコキシカルボニル基(-COOR)としては、Rとしてアルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等)を含んでいれば特に限定なく使用することができ、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基等が挙げられる。
【0107】
で示されるアルキル基の置換基としてのアミド基若しくはその誘導体基(-CONHR)としては、Rとして水素原子又はアルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等)を含んでいれば特に限定なく使用することができ、例えば、アミド基、N-メチルアミド基、N-エチルアミド基、N-n-プロピルアミド基、N-イソプロピルアミド基等が挙げられる。
【0108】
一般式(5)において、Rで示されるポリエチレングリコール基若しくはその誘導体基(-(CO))としては、Rとして水素原子又はアルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等)を含み、mとして例えば1~100の整数を採用していれば特に限定なく使用することができ、例えば、-(CO)CHを好ましく使用することができる。
【0109】
以上のような条件を満たすRで示される有機基としては、具体的には、
【0110】
【化19】
[式中、R及びRは前記に同じである。Phはフェニル基を示す。kは5~15の整数を示す。mは2~100の整数を示す。]
等が挙げられる。
【0111】
上記のような条件を満たす一般式(1)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物としては、例えば、
【0112】
【化20】
【0113】
【化21】
等が挙げられる。
【0114】
また、上記のような条件を満たす一般式(3)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物としては、例えば、
【0115】
【化22】
【0116】
【化23】
等で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物が挙げられる。なお、これらの式中、R及びRは、同一又は異なって、
【0117】
【化24】
[式中、Phはフェニル基を示す。mは1~100の整数を示す。]
等が挙げられる。特に、後述の実施例において示されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物が好ましい。
【0118】
上記したビスホスホリル架橋スチルベン化合物の製造方法は特に制限されない。
【0119】
Arが置換基、例えば、-OR(Rは有機基を示す)で示される基を有するビスホスホリル架橋スチルベン化合物については、既報(Organic Letters (2020), 22(8), 3185-3189、Journal of Organic Chemistry (2015), 80(8), 3790-3797等)にしたがって合成することができる。
【0120】
また、Arが非置換であるビスホスホリル架橋スチルベン化合物については、既報(Chem. Asian J., 13, 1616-1624 (2018))に記載の方法に準拠して、例えば後述の実施例にしたがって合成することができる。後述の実施例に記載のない化合物についても、例えば、適切な化合物を使用することにより、同様の方法で合成することができる。
【0121】
3.蛍光色素、油滴染色剤及びミトコンドリア内膜染色剤
本発明の蛍光色素は、上記のビスホスホリル架橋スチルベン化合物を含有する。
【0122】
本発明の蛍光色素は、ビスホスホリル架橋スチルベン骨格を有するために耐光性に優れる。
【0123】
さらに、一般式(1)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物を使用した場合は、油滴内部の組織(例えば、脂肪滴内部のトリアシルグリセロール及びコレステロールエステル)によって蛍光寿命が異なるものであるため、油滴内部の組織、例えば、トリアシルグリセロール及びコレステロールエステルを識別し、それぞれ区別することができ、油滴の組成を推定することができる。また、脂肪滴を構成する中性脂肪の組成は、細胞の種類によって異なることが知られていることから、上記ビスホスホリル架橋スチルベン化合物の蛍光寿命も異なるものであり、蛍光寿命によって、細胞の種類を識別することもできる。また、脂肪滴中のトリアシルグリセロール及びコレステロールエステルを例に取ると、上記のビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、コレステロールエステルが多いほど蛍光寿命が長くなる蛍光にあるため、コレステロール量が多いほど蛍光寿命が長くなる。このため、上記のビスホスホリル架橋スチルベン化合物の蛍光寿命から、脂肪滴中のトリアシルグリセロール及びコレステロールエステルの組成を推定することが可能であり、どのようなプロセスで脂肪滴がコレステロールを貯蔵するか等の知見を得ることが期待される。しかも、上記したビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、細胞内の脂肪球(脂肪滴)等の油滴を強く蛍光させ、脂肪球(脂肪滴)等の油滴以外の組織の蛍光を抑制することができる。上記したビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、脂肪球(脂肪滴)等の油滴以外の組織の蛍光を抑制することにより、脂肪球(脂肪滴)等の油滴の蛍光強度を他の組織の蛍光強度よりも著しく大きくすることができる。このため、脂肪球(脂肪滴)等の油滴は、小さいサイズでも油滴(特に細胞内脂肪滴)を高感度に検出でき、さらに、他の組織の蛍光染色を抑制できる。このため、一般式(1)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物を用いた本発明の蛍光色素は、油滴染色剤(特に、脂肪滴染色剤)として使用できる点で有用である。また、このような本発明の蛍光色素を使用することで、油滴の組成を推定することもできるし、細胞の種類を識別することもできる。
【0124】
また、一般式(3)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物を使用した場合は、ミトコンドリア内膜の組織(例えば、ミトコンドリア内膜中のホスファチジルコリン(PC)、コレステロールエステル、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、カルジオリピン(CL)等)によって蛍光寿命が異なるものであるため、ミトコンドリア内膜の組織、例えば、蛍光寿命が長く均一相を形成しやすいホスファチジルコリン(PC)、コレステロールエステル等と、蛍光寿命が短く不均一相を形成しやすいホスファチジルコリン(PC)、コレステロールエステル等と、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、カルジオリピン(CL)等とを識別し、それぞれ区別することができ、ミトコンドリア内膜の膜構造(膜組成)を推定することができる。しかも、一般式(3)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、ミトコンドリア内膜を強く蛍光させ、その他の組織の蛍光を抑制することができる。一般式(3)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物は、ミトコンドリア内膜以外の組織の蛍光を抑制することにより、ミトコンドリア内膜の蛍光強度を他の組織の蛍光強度よりも著しく大きくすることができる。このため、ミトコンドリア内膜の組織は、小さいサイズでも高感度に検出でき、さらに、他の組織の蛍光染色を抑制できる。このため、一般式(3)で表されるビスホスホリル架橋スチルベン化合物を用いた本発明の蛍光色素は、ミトコンドリア内膜染色剤として使用できる点で有用である。また、このような本発明の蛍光色素を使用することで、ミトコンドリア内膜の膜構造(膜組成)を推定することができる。
【0125】
本発明の蛍光色素(油滴染色剤又はミトコンドリア内膜染色剤)は、上記したビスホスホリル架橋スチルベン化合物又はその溶媒和物を含有している。その使用形態は特に制限はなく、例えば、有機溶媒中に溶解させて溶液とすることができる。この際、小さいサイズの油滴やミトコンドリア内膜の組織でも高感度に検出(染色)しやすく、油滴やミトコンドリア内膜以外の組織の蛍光を抑制しやすく、、油滴やミトコンドリア内膜内部の組織を識別しやすく、細胞を識別しやすい観点から、上記したビスホスホリル架橋スチルベン化合物の含有量は、10nmol/L~10μmol/Lが好ましく、100nmol/L~5μmol/Lがより好ましい。特に、含有量を100nmolから500nmol等のように小さくしても高感度に油滴(特に細胞内脂肪球)やミトコンドリア内膜の組織を検出することが可能である。このように、本発明では、ビスホスホリル架橋スチルベン化合物の含有量を低く抑えることもできることから、生細胞へのダメージを抑制しやすい。
【0126】
本発明の蛍光色素(油滴染色剤又はミトコンドリア内膜染色剤)を、上記したビスホスホリル架橋スチルベン化合物を含有する溶液とする場合、使用し得る有機溶媒としては、油滴(特に脂肪球)を高感度に蛍光しやすく、油滴内部の構成成分を識別しやすく、細胞を識別しやすい観点から、非極性溶媒が好ましい。
【0127】
非極性溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族有機溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン等の脂肪族ハロゲン化炭化水素等が挙げられる。
【0128】
本発明の蛍光色素(油滴染色剤又はミトコンドリア内膜染色剤)を溶液の形態とする場合、生細胞内で使用しやすく、小さいサイズでも油滴(特に細胞内の脂肪球)やミトコンドリア内膜の組織を高感度に検出しやすく、他の組織の蛍光染色を抑制しやすく、油滴やミトコンドリア内膜の内部の組織を識別しやすく、細胞を識別しやすい観点から、pHは5~11程度が好ましく、6.5~7.5程度がより好ましい。本発明の油滴染色剤のpHを調整するために、緩衝剤(ヘペス緩衝剤、トリス緩衝剤、トリシン-水酸化ナトリウム緩衝剤、リン酸系緩衝剤、リン酸緩衝生理食塩水等)等を使用することもできる。
【実施例0129】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
【0130】
特に制限しない限り、全ての反応は、窒素雰囲気下で行った。特に制限しない限り、市販の溶媒及び試薬は、精製せずに使用した。
【0131】
なお、実施例において、蛍光寿命は、Hamamatsu Picosecond Fluorescence Measurement System C4780(PLP-10レーザー)により測定した。なお、蛍光寿命イメージング顕微鏡法(FLIM)画像は、Leica TCS SP8 STED 3Xにより取得し、FLIMfitにより画像化した。
【0132】
実施例1:MitoPBRed
【0133】
【化25】
は、以下の方法にしたがって合成した。
【0134】
なお、 2-ブロモ-3-ヨードナフタレンは、既報(Synthesis, 2005, 5, 798-803)にしたがって合成した。
【0135】
(10-ブロモ-n-デシル)トリフェニルホスホニウムブロミドは、既報(Chem, Commn, 2014, 50, 15366-15369)にしたがい合成した。
【0136】
(反応1)
【0137】
【化26】
窒素パージしたフラスコに2-ブロモ-3-ヨードナフタレン(5.4g,16.2mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド(PdCl(PPh;231mg,0.33mmol)、CuI(62mg,0.33mmol)、トリエチルアミン(EtN;70mL)を加え、凍結脱気法で厳密に脱気した。トリメチルシリルアセチレン(2.47mL)をシリンジで添加し、室温で一晩撹拌した。混合物を濾過して不溶性化合物を除去し、濾液を減圧下で濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)で精製し、黄色液体として2-ブロモ-3-[2-(トリメチルシリル)エチニル]ナフタレンを得た(4.3g,収率86%)。
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.05 (d, J = 19.9 Hz, 2H), 7.77-7.70 (m, 2H), 7.51-7.48 (m, 2H), 0.31 (s, 7H)。
【0138】
得られた2-ブロモ-3-[2-(トリメチルシリル)エチニル]ナフタレン(4.2g,14.0mmol)のCHOH /テトラヒドロフラン(1/1,v/v,140mL)溶液にKCO(5.8g,42.0mmol)を加え、室温で8時間撹拌した。 生成物をCHCl(40mL)で抽出し、1M HCl(100mL)で洗浄した後、NaSOで乾燥させた。溶媒を減圧除去し、茶色の固体として2-ブロモ-3-エチニルナフタレンを得た(3.1g,収率97%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.08 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.80-7.71 (m, 2H), 7.56-7.48 (m, 2H), 3.40 (s, 1H)。
【0139】
2-ブロモ-4-クロロ-1-ヨードベンゼン(3.98g,12.5mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(Pd(PPh;1.45g,13.0mmol)及びCuI(47.7mg,0.25mmol)のトリエチルアミン(150mL)懸濁液を脱気し、これに、上記で得られた2-ブロモ-3-エチニルナフタレン(2.9g,12.5mmol)を加えた。室温で一晩攪拌した後、混合物をトルエン(150mL)で希釈し、濾過して不溶性化合物を除去した。得られた濾液を減圧下で濃縮した後、エタノールから再結晶して精製し、2-ブロモ-3-((2-ブロモ-4-クロロフェニル)エチニル)ナフタレン(化合物1)を白色固体(4.4g,収率85%)として得た。
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.12 (d, J = 5.5 Hz, 2H), 7.84-7.77 (m, 1H), 7.76-7.72 (m, 1H), 7.66 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.57 (d, J = 8.3 Hz, 1H), 7.54-7.49 (m, 2H), 7.31 (dd, J = 8.3, 2.0 Hz, 1H).
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 134.98, 134.23, 133.97, 133.76, 132.47, 131.75, 131.24, 127.97, 127.80, 127.65, 127.08, 126.99, 126.03, 123.93, 122.17, 121.63, 93.61, 91.03。
【0140】
(反応2)
【0141】
【化27】
得られた2-ブロモ-3-((2-ブロモ-4-クロロフェニル)エチニル)ナフタレン(化合物1;1.0g,2.38mmol)の無水テトラヒドロフラン(無水THF;20mL)溶液に、tert-ブチルリチウム(tBuLi)のn-ペンタン溶液(1.6M,6.1mL,9.7mmol)を-78℃で0.5時間かけて滴下した。-78℃で2時間撹拌した後、クロロ-N,N-ジエチルアミノ-(4-メトキシフェニル)ホスフィン(化合物2;1.23g,5.0mmol)を添加し、得られた混合物を-78℃で0.5時間撹拌した後、0℃で30分保った。その後、再び-78℃まで冷却した後、PCl(1.3mL,15mmol)を添加し、混合物を室温まで昇温させた。そのまま室温で17時間撹拌した後、混合物に水(1mL)を加えた。ついで、H(30%,0.8mL)の水溶液を0℃で添加し、30分間撹拌した後、NaSO(10%,50mL)の水溶液を0℃で添加した。反応混合物を酢酸エチル(EtOAc;200mL)で抽出し、有機層を食塩水(30mL)で洗浄、無水NaSOによる乾燥の後、濾過した。得られた濾液を減圧下で濃縮した後、得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl/アセトン=1/10~1/1)で精製し、緑黄色固体としてトランス-PO-Na2を469mg(収率34%)、緑黄色固体としてシス-PO-Na2を540mg(39%)得た。
トランス-PO-Na2:
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.11 (dd, J = 11.5, 1.8 Hz, 1H), 7.84-7.72 (m, 7H), 7.60 (dt, J = 11.3, 1.4 Hz, 1H), 7.56-7.45 (m, 2H), 7.42-7.34 (m, 2H), 7.02-6.92 (m, 4H), 3.80 (d, J = 0.8 Hz, 6H).
31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 32.54, 32.32, 31.04, 30.82.
HRMS (ESI): m/z calcd. For C32H24ClO4P2: 569.0833 ([M+H]+); found: 569.0826。
シス-PO-Na2:
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.14 (dd, J = 11.5, 1.7 Hz, 1H), 7.87 (d, J = 3.3 Hz, 1H), 7.80 (t, J = 8.2 Hz, 2H), 7.69-7.59 (m, 5H), 7.59-7.48 (m, 2H), 7.48-7.41 (m, 2H), 6.97-6.91 (m, 4H), 3.82 (d, J = 1.3 Hz, 6H).
31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 31.00 (d, J = 37.0 Hz), 29.78 (d, J = 37.0 Hz).
HRMS (ESI): m/z calcd. For C32H24ClO4P2: 569.0833 ([M+H]+); found: 569.0827。
【0142】
(反応3)
【0143】
【化28】
得られたトランス-PO-Na2(90mg,0.158mmol)、ジフェニルアミン(133mg,0.79mmol)、酢酸パラジウム(Pd(OAc);2.1mg,0.0095mmol)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’, 4’,6’-トリイソプロピルビフェニル(Xphos;9mg,0.019mmol)、KCO(131mg,0.948mmol)を無水トルエン(10mL)に加え、窒素雰囲気下、90℃で24時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、濾過により不溶性化合物を除去した。減圧下で溶媒を除去した後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(アセトン/CHCl=1/15-1/10)で精製し、赤色固体としてトランス-PO-Naphox(2,3)M(100mg,収率90%) を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.08 (dd, J = 11.5, 1.9 Hz, 1H), 7.84-7.73 (m, 7H), 7.48 (dtd, J = 16.1, 7.0, 1.0 Hz, 2H), 7.35 (dt, J = 11.3, 2.0 Hz, 1H), 7.30-7.21 (m, 5H), 7.11-7.03 (m, 6H), 7.02-6.93 (m, 5H), 3.82 (d, J = 2.7 Hz, 6H).
31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 33.21 (d, J = 37.4 Hz), 31.35 (d, J = 37.3 Hz).
HRMS (ESI): m/z calcd. For C44H34NO4P2: 702.1958 ([M+H]+); found: 702.1955。
【0144】
(反応4)
【0145】
【化29】
得られたトランス-PO-Naphox(2,3)M(90mg,0.128mmol)の無水CHCl(8mL)溶液に、BBr(0.28mL,2.56mmol)を-78℃でゆっくり滴下した。-78℃で1時間撹拌した後、4時間かけてゆっくりと室温まで昇温した。水(5mL)を0℃で加え、混合物を酢酸エチル(EtOAc;20mL×2)で抽出した。有機層をNaSOで乾燥後、粗生成物をカラムクロマトグラフィー(CHOH/CHCl=1/20)で精製し、赤色固体としてトランス-PO-Na3を得た(80mg,収率92%)。
1H NMR (400 MHz, CH3OH-d4) δ8.19 (dd, J = 11.7, 1.9 Hz, 1H), 7.95-7.84 (m, 2H), 7.78 (d, J = 3.4 Hz, 1H), 7.73-7.63 (m, 4H), 7.63-7.52 (m, 2H), 7.36-7.26 (m, 5H), 7.20 (dt, J = 11.4, 2.0 Hz, 1H), 7.16-7.03 (m, 7H), 6.98-6.91 (m, 4H).
31P NMR (162 MHz, CH3OH-d4) δ 36.29 (d, J = 38.0 Hz), 34.71 (d, J = 38.4 Hz).
HRMS (ESI): m/z calcd. For C42H30NO4P2: 673.1650 ([M+H]+); found: 674.1641。
【0146】
(反応5)
【0147】
【化30】
得られたトランス-PO-Na3(30mg,0.0445mmol)、(10-ブロモデシル)トリフェニルホスホニウムブロミド(25mg,0.0445mmol)、及び KCO(123mg,0.89mmol)を無水ジメチルホルムアミド(無水DMF;3.6mL)に加え、室温で24時間撹拌した。その後、エピブロモヒドリン(12.2mg,0.089mmol)を室温で添加し、混合物を50℃で14時間撹拌した。室温まで冷却後、水(20mL)を加え、CHCl(20mL)で抽出した。有機層を水(20mL)で2回洗浄し、無水NaSOで乾燥後、濾過した。濾液を減圧下で濃縮した後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHOH/CHCl=1/30-1/10)で精製し、橙赤色固体としてトランス-PO-NaphoxA1/A2を得た(13mg,収率24%)。
HRMS (ESI): m/z calcd. For C73H67NO5P3: 1130.4227 ([M-Br]+); found: 1130.4229。
【0148】
実施例2:LipiCo
【0149】
【化31】
実施例1において、2-ブロモ-3-((2-ブロモ-4-クロロフェニル)エチニル)ナフタレン(化合物1)と化合物2とを反応させる代わりに、メトキシ置換されていない化合物:
【0150】
【化32】
を化合物1と反応させる他は、実施例1の反応1~2と同様に反応を進行させ、目的化合物であるLipiCo:
【0151】
【化33】
を得た。
【0152】
実施例1の反応1で得られた2-ブロモ-3-((2-ブロモ-4-クロロフェニル)エチニル)ナフタレン(化合物1;1.27g,3.02mmol)の無水テトラヒドロフラン(無水THF;25mL)溶液に、tert-ブチルリチウム(tBuLi)のn-ペンタン溶液(1.6M,7.7mL,12.3mmol)を-78℃で滴下した。-78℃で2時間撹拌した後、クロロ-N,N-ジエチルアミノ-フェニルホスフィン(化合物4;1.24mL,6.30mmol)を添加し、得られた混合物を-78℃で0.5時間撹拌した後、0℃で0.5時間保った。その後、再び-78℃まで冷却した後、PCl(1.6mL,18.3mmol)を添加し、混合物を室温まで昇温させた。そのまま室温で19時間撹拌した後、混合物に水(1mL)を加えた。ついで、H(30%,50mL)の水溶液を0℃で添加し、反応混合物を酢酸エチル(EtOAc)で抽出し、有機層を食塩水で洗浄、無水NaSOによる乾燥の後、濾過した。得られた濾液を減圧下で濃縮した後、得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl,トランス-6 Rf=0.15,シス-6 Rf=0.08)で精製し、緑黄色固体としてトランス-6を837mg(1.64mmol,収率55%)、緑黄色固体としてシス-6を482mg(0.95mmol,31%)得た。
トランス-6:
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 8.16 (d, J = 12.0 Hz, 1 H), 7.93-7.83 (m, 5 H), 7.81 (d, J = 9.6 Hz, 2 H), 7.65-7.39 (m, 11 H).
31P{1H} NMR (202 MHz, CDCl3): δ 32.2 (d, J = 38.8 Hz), 30.8 (d, J = 38.8 Hz).
HRMS (ESI): m/z calcd. for C30H19ClNaO2P2: 531.0441 ([M+Na]+); found. 531.0437。
シス-6:
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 8.18 (dd, J = 11.4 Hz, 1.8 Hz, 1 H), 7.91 (d, J = 3.7 Hz, 1 H), 7.82 (t, J = 8.2 Hz, 2 H), 7.76-7.65 (m, 6 H), 7.60-7.45 (m, 9 H).
31P{1H} NMR (202 MHz, CDCl3): δ 30.7 (d, J = 39.0 Hz), 29.6 (d, J = 39.0 Hz).
HRMS (ESI): m/z calcd. for C30H19ClNaO2P2: 531.0441 ([M+Na]+); found. 531.0436。
【0153】
得られたトランス-6(219mg,0.43mmol)、ジフェニルアミン(259mg,1.53mmol)、酢酸パラジウム(Pd(OAc);15mg,0.07mmol)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’, 4’,6’-トリイソプロピルビフェニル(Xphos;26mg,0.05mmol)、KCO(314mg,2.27mmol)を無水トルエン(25mL)に加え、窒素雰囲気下、還流下で38時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、HCl(1M)の水溶液を添加し、混合物をトルエンで3回抽出した。合わせた有機層を食塩水で洗浄し、無水NaSOで乾燥し、さらに濾過した。濾液を減圧下で濃縮した後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl~7/1 CHCl/アセトン,Rf=0.6(CHCl/アセトン中))に供し、さらに、生成物を分取ゲル浸透クロマトグラフィーで精製し、赤色固体としてLipiCo(91.1mg,0.142mmol,収率33%) を得た。
1H NMR (500 MHz, acetone-d6): δ 8.25 (d, J = 10.9 Hz, 1H), 8.00 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 7.87 (dd, J = 12.3 Hz, 7.2 Hz, 5H), 7.65 (q, J = 7.8 Hz, 3H), 7.60-7.55 (m, 5H), 7.39-7.33 (m, 5H), 7.23 (d, J = 11.5 Hz, 1H), 7.15 (t, J = 7.2 Hz, 6H), 7.08 (d, J = 8.6 Hz, 1H).
31P{1H} NMR (202 MHz, CDCl3): δ 32.9 (d, J = 33.3 Hz), 31.1 (d, J = 33.3 Hz).
HRMS (ESI): m/z calce. for C42H29NNaO2P2: 664.1566([M+Na]+); found. 664.1559。
【0154】
試験例1:ミトコンドリア内膜の染色
500nMのMitoPBRed(実施例1)、10%FBS、0.5%DMSO及び0.05% pluronic F127を含むDMEM培地中でHeLa細胞を、5体積%COインキュベーター中で2時間37℃で培養した。細胞をDMEM(-)で3回洗浄後、DMEM(+)で置換し、Leica TCS SP8 STED 3Xを用いて、蛍光寿命イメージング顕微鏡法(FLIM)により、ミトコンドリア内膜を観察した。励起波長は490nm、蛍光波長は550~750nmであり、振幅は20MHzとした。結果を図1及び図2左図に示す。
【0155】
次に、500nMのMitoPBRed、10%FBS,0.5%DMSO,0.05%pluronic F127を含むDMEM培地中でHeLa細胞を、5体積%COインキュベーター中で2時間37℃で培養した。細胞をDMEM(-)で3回洗浄後、DMEM(+)で置換し、その後、10μMとなるようにカルボニルシアニド-m-クロロフェニルヒドラゾン(CCCP)を添加し、3時間37℃で静置した。同様に、蛍光寿命イメージング顕微鏡法(FLIM)により観察した結果を図2右図に示し、CCCP添加前後によるMitoPBRedの蛍光寿命の違いを図3に示す。なお、図2右図は、図2左図と同じ領域を観察した図である。
【0156】
以上の結果、液体均一相は、ホスファチジルコリン(PC)が多いドメインであり、より疎水性が高く、蛍光寿命が長い傾向にあるため、図1及び図2左図上、赤く表示されている。一方、液体不均一相は、ホスファチジルエタノールアミン(PE)及びカルジオリピン(CL)が多いドメインであり、より親水性が高く、蛍光寿命が短い傾向にあるため、図1上、青く表示されている。同じミトコンドリア内膜であっても、その部位によって、液体均一相はホスファチジルコリン(PC)量及びコレステロールエステル量が高く、液体不均一相はホスファチジルエタノールアミン(PE)量及びカルジオリピン(CL)量が低いと想定される。また、カルボニルシアニド-m-クロロフェニルヒドラゾン(CCCP)で処理した後は、ROSによる不飽和リン脂質の分解によりホスファチジルコリン(PC)量及びコレステロールエステル量が増大し、ミトコンドリア内膜が硬くなり、蛍光寿命が上昇していることが推測される。
【0157】
試験例2:様々な細胞中の脂肪滴の染色
イメージングを行う1日前に、各細胞を400μMのオレイン酸で処理した。500nMのLipiCo(実施例2)、10%FBS及び0.1%DMSOを含むDMEM培地中で細胞を3時間培養した.DMEM(-)で3回洗浄後、DMEM(+)で置換し、Leica TCS SP8 STED 3Xを用いて、蛍光寿命イメージング顕微鏡法(FLIM)により、細胞内部の脂肪滴を観察した。励起波長は488nm、蛍光波長は550~650nmであり、振幅は20MHzとした。
【0158】
結果を図4に示す。図4において、左図は蛍光寿命イメージング顕微鏡法(FLIM)像、中図は明視野イメージ、右図は蛍光寿命でソートした蛍光寿命イメージング顕微鏡法(FLIM)像のピクセル数を示すヒストグラムである。なお、図4の中図において、スケールバーは10μmである。この結果、細胞の種類によって蛍光寿命が異なることが示されており、蛍光寿命の違いによって細胞を識別できることが示唆される。
【0159】
ここで、HuH-7細胞を例に取ると、部位によって蛍光寿命の異なる組織が存在していた。図4とは別に、同様の方法で、HuH-7細胞を染色した結果を図5に示す。図5からは、単一細胞中でも、組織によって、蛍光寿命は5.5ナノ秒から6.8ナノ秒までの不均一な分布をしていた。なお、図4では、6.0~8.5ナノ秒を範囲として測定したのに対し、図5では、6.5~8.0ナノ秒を範囲として測定した。
【0160】
LipiCo(実施例2)が有する特異な特性を利用すると、肝細胞の脂肪滴へのコレステロールの代謝蓄積プロセスを観測することが可能である。
【0161】
500nMのLipiCo(実施例2)に、コレステロールを170μMとなるように添加した他は上記と同様に、HuH-7細胞を染色させた。コレステロール添加直後及び6時間後に蛍光寿命イメージング顕微鏡法(FLIM)によりHuH-7細胞を染色した際の蛍光寿命の結果を図6に示す。図6左図は、コレステロール添加直後の蛍光寿命の結果であり、図6右図は、コレステロール添加6時間後の蛍光寿命の結果である。
【0162】
この結果、コレステロールを添加すると、培養時間を増やすことにより蛍光寿命が増大することが示されている。この場合、蛍光寿命が広く分布しており、コレステロールが全ての脂肪滴に均一に取り込まれるわけではなく、各脂肪滴が代謝プロセスにおいて異なる役割を果たしていることを示唆している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6