(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130972
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】黄ぐすみ抑制方法、黄ぐすみ抑制剤のスクリーニング方法、及び黄ぐすみ感受性の評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20230913BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035595
(22)【出願日】2022-03-08
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】飛田 亮三
(72)【発明者】
【氏名】堀場 聡
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045CB09
2G045DA20
2G045FB02
2G045FB03
(57)【要約】
【課題】新たな黄ぐすみ抑制方法、黄ぐすみ抑制剤のスクリーニング方法、及び黄ぐすみ感受性の評価方法を提供する。
【解決手段】PRDX4を増加させることにより黄ぐすみを抑制するための方法、PRDX4を指標とする黄ぐすみ抑制剤のスクリーニング方法、及び黄ぐすみ感受性の評価方法を提供する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の黄ぐすみを抑制するための美容目的の方法であって、
対象のPRDX4の発現又は活性を増加することを含む、前記方法。
【請求項2】
黄ぐすみ抑制剤のスクリーニング方法であって、
皮膚試料におけるPRDX4の発現又は活性を指標とする、前記方法。
【請求項3】
黄ぐすみ抑制剤のスクリーニング方法であって、
皮膚試料に候補薬剤を施すこと;
候補薬剤を施した前後の皮膚試料におけるPRDX4の発現又は活性を測定すること;及び
前記候補薬剤を施した皮膚試料におけるPRDX4の発現又は活性が該薬剤を施す前と比較して増加する場合、前記薬剤に黄ぐすみ抑制剤作用があると評価すること;
を含む、前記方法。
【請求項4】
前記黄ぐすみの抑制は、PRDX4によりコラーゲンのカルボニル化を阻害することを介して達成される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
黄ぐすみ感受性を評価するための美容目的の方法であって、
対象から採取された皮膚試料におけるPRDX4の発現又は活性の測定値を指標として該対象の皮膚の黄ぐすみ感受性を評価することを含む、前記方法。
【請求項6】
前記測定値が低いほど前記対象の皮膚の黄ぐすみ感受性が高いと評価する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記黄ぐすみはコラーゲンのカルボニル化に起因する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
PRDX4の発現又は活性はM2マクロファージの誘導又は活性化により促進される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
黄ぐすみ感受性を評価するシステムであって、
あらかじめ設定したPRDX4の発現又は活性の基準値に関するデータを記憶するデータベース部と、
対象のPRDX4の発現又は活性に関するデータを入力するデータ入力部と、
前記データベース部で記憶されているPRDX4の発現又は活性の基準値を参照して、前記データ入力部に入力された対象のPRDX4の発現又は活性に関するデータと比較して計算する、計算部と、
前記計算部による計算結果に基づいて黄ぐすみ感受性を評価する評価部と、
前記評価部により評価した結果を表示する表示部を有する、前記システム。
【請求項10】
前記表示部は、前記評価部により対象の黄ぐすみ感受性が高いと評価された場合、黄ぐすみ抑制のための提案を更に表示する、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記提案は、PRDX4の発現又は活性を増加させることである、請求項10に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PRDX4を増加させることにより黄ぐすみを抑制するための方法、PRDX4を指標とする黄ぐすみ抑制剤のスクリーニング方法、及び黄ぐすみ感受性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の黄色化、いわゆる黄ぐすみは、紫外線や加齢に伴い顕著となり、これは皮膚タンパク質の糖化、カルボニル化、ニトロ化等に起因することが報告されている(特許文献1~6、非特許文献1)。
【0003】
黄ぐすみの程度は、例えば、色相、明度、彩度、ニトロ化タンパク、カルボニル化タンパク、外観目視検査、特定の評価装置等によって評価することが可能である(特許文献1~6、非特許文献1)。特許文献1は、グルコシノレートを含むカルボニル化抑制剤を有効成分とする黄ぐすみ抑制剤を開示する。特許文献2はヘスペレチン及び/又はグリコシルヘスペレチンを有効成分とする肌の黄ぐすみを低減するための皮膚外用剤を開示する。特許文献3は、リンゴポリフェノールを有効成分とする黄ぐすみ発生抑制剤を開示する。特許文献4は、ハイビスカス抽出物を含有する黄ぐすみ抑制剤を開示する。特許文献5は、ニトロ化タンパクを指標とする黄ぐすみ度の測定・判定法及び黄ぐすみ改善素材のスクリーニング法を開示する。特許文献6は、黄ぐすみを含むいきいきとした顔の度合いを推定する方法を開示する。特許文献7は、ショウガ抽出物等を含む顔色改善剤を開示する。更なる黄ぐすみ抑制剤及びそのスクリーニング方法の探索が求められる。
【0004】
また、紫外線や加齢といった要因によりどの程度黄ぐすみが起こりやすいかという感受性については、現在の肌色からは予測できないことが多い。このような傾向は、個人により異なり、客観的に判断する術も乏しいのが現状であるため、黄ぐすみを防ぐための対策を事前に講じることは困難である。事前に黄ぐすみ感受性が評価できれば、黄ぐすみの予防が行いやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6902392号公報
【特許文献2】特開2021-73320号公報
【特許文献3】特許第6681064号公報
【特許文献4】特開2021-147335号公報
【特許文献5】特許第6474752号公報
【特許文献6】特開2021-129977号公報
【特許文献7】特許第3183741号公報
【特許文献8】国際公開2020/213743号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】資生堂ニュースリリース「資生堂、肌の「黄ぐすみ」の新メカニズムを解明」 2010年8月31日 https://corp.shiseido.com/jp/newsimg/archive/00000000001187/1187_y7i15_jp.pdf
【非特許文献2】岩井ら、「角層タンパク質のカルボニル化による肌透明感の低下」J. Soc. Cosmet. Chem. Jpn. 42 (1) 16-21 (2008)
【非特許文献3】舛田ら、「化粧品および肌色の計測技術」 色材, 76[2],78-83 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、新たな黄ぐすみ抑制方法、黄ぐすみ抑制剤のスクリーニング方法、及び黄ぐすみ感受性の評価方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らによる鋭意研究の結果、黄ぐすみ感受性はPRDX4に関与し、黄ぐすみはPRDX4により抑制できることが新たに発見された。
【0009】
PRDX4(Peroxiredoxin 4、ペルオキシレドキシン4)とは、抗酸化酵素のペルオキシレドキシンファミリーのメンバーであり、癌、動脈硬化、糖尿病などに対する抑制効果、創傷治療促進効果等が報告されている。しかしながら、PRDX4が皮膚の黄ぐすみと関連することは知られていなかった。
【0010】
本願は以下の発明を提供する。
(1) 対象の黄ぐすみを抑制するための美容目的の方法であって、
対象のPRDX4の発現又は活性を増加することを含む、前記方法。
(2) 黄ぐすみ抑制剤のスクリーニング方法であって、
皮膚試料におけるPRDX4の発現又は活性を指標とする、前記方法。
(3) 黄ぐすみ抑制剤のスクリーニング方法であって、
皮膚試料に候補薬剤を施すこと;
候補薬剤を施した前後の皮膚試料におけるPRDX4の発現又は活性を測定すること;及び
前記候補薬剤を施した皮膚試料におけるPRDX4の発現又は活性が該薬剤を施す前と比較して増加する場合、前記薬剤に黄ぐすみ抑制剤作用があると評価すること;
を含む、前記方法。
(4) 前記黄ぐすみの抑制は、PRDX4によりコラーゲンのカルボニル化を阻害することを介して達成される、(1)~(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5) 黄ぐすみ感受性を評価するための美容目的の方法であって、
対象から採取された皮膚試料におけるPRDX4の発現又は活性の測定値を指標として該対象の皮膚の黄ぐすみ感受性を評価することを含む、前記方法。
(6) 前記測定値が低いほど前記対象の皮膚の黄ぐすみ感受性が高いと評価する、(5)に記載の方法。
(7) 前記黄ぐすみはコラーゲンのカルボニル化に起因する、(1)~(6)のいずれか1項に記載の方法。
(8) PRDX4の発現又は活性はM2マクロファージの誘導又は活性化により促進される、(1)~(7)のいずれか1項に記載の方法。
(9)黄ぐすみ感受性を評価するシステムであって、
あらかじめ設定したPRDX4の発現又は活性の基準値に関するデータを記憶するデータベース部と、
対象のPRDX4の発現又は活性に関するデータを入力するデータ入力部と、
前記データベース部で記憶されているPRDX4の発現又は活性の基準値を参照して、前記データ入力部に入力された対象のPRDX4の発現又は活性に関するデータと比較して計算する、計算部と、
前記計算部による計算結果に基づいて黄ぐすみ感受性を評価する評価部と、
前記評価部により評価した結果を表示する表示部を有する、前記システム。
(10)前記表示部は、前記評価部により対象の黄ぐすみ感受性が高いと評価された場合、黄ぐすみ抑制のための提案を更に表示する、(9)に記載のシステム。
(11)前記提案は、PRDX4の発現又は活性を増加させることである、(10)に記載のシステム。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、対象のPRDX4の発現または活性に基づいて、簡便かつ客観的に黄ぐすみ感受性が評価することが可能になる。また、PRDX4の発現または活性を増加することによって黄ぐすみを抑制することができる。更に、PRDX4を指標とすることで黄ぐすみを抑制するための化合物や組成物を探索するスクリーニングを行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実験3の結果であり、M1又はM2マクロファージ培養上清液を添加した場合の線維芽細胞におけるPRDX4発現量(log2(CPM))を示す。
【
図2】
図2は、実験4の結果であり、線維芽細胞にM1又は及びM2マクロファージ培養上清液を加えた場合のPRDX4の免疫染色像を示す。
【
図3】
図3は、
図2の免疫染色像に対し画像解析ソフトImageJを用いて細胞あたりのPRDX4の輝度値(PRDX4/細胞)を定量した結果を示す。**p < 0.01, *p < 0.05 (Tukey-Kramer検定)
【
図4】
図4は、実験5の結果であり、アクロレインによりカルボニル化を誘導させたコラーゲンスポンジの黄色化をPRDX4が抑制する様子を示す。
【
図5】
図5は、実験5のコラーゲンスポンジについて分光測色計CM-2600dを用いてb*値を定量した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
紫外線を浴びた皮膚や老化した皮膚では黄ぐすみが目立ち、とりわけ光老化した皮膚では顕著となる。一方、M1マクロファージに対するM2マクロファージの比率の上昇といったM1/M2バランスの調整により光老化を予防・改善できることが知られている。マクロファージは、体内の様々な組織に局在し、異物や病原体に対する免疫応答を惹起する細胞であり、未分化状態のM0マクロファージからM1タイプとM2タイプに分化する。M1マクロファージは炎症型として、M2マクロファージはリペア型(抗炎症型)として知られている(特許文献8)。しかしながら、黄ぐすみとM1マクロファージやM2マクロファージとの詳細なメカニズムについては不明な点が多い。
【0014】
そこで、本発明者らは、M1又はM2マクロファージ培養上清液添加によりその発現量が変化する数多くの因子から黄ぐすみ抑制に関与する因子を網羅解析により探索した。かかる鋭意研究の結果、M2マクロファージ培養上清液添加により発現が上昇するPRDX4が顕著な黄ぐすみ抑制効果を奏することを発見した。本願発明は、黄ぐすみがPRDX4に関連するという本願発明者らによる新たな発見に基づく。
【0015】
黄ぐすみは、皮膚の色が黄色化することを言う。黄ぐすみは、皮膚タンパク質の糖化、カルボニル化、ニトロ化によるもの等がある。カルボニル化は、皮膚タンパク質に、過酸化脂質の代謝物であるアクロレイン等のカルボニル化合物が付加することにより皮膚タンパク質がカルボニル化することを指す。皮膚タンパク質がカルボニル化することにより変性し、かかる変性によりこれらの皮膚タンパク質が黄色く変色することが知られている。とりわけ、紫外線や活性酸素により角層及び真皮におけるタンパク質がカルボニル化することが報告されており、また、脂質の過剰摂取、乾燥等の要因も黄ぐすみを促進する(非特許文献1、2、特許文献1~6)。本発明のある態様では、黄ぐすみはコラーゲンやエラスチンといった皮膚タンパク質のカルボニル化に起因する。本発明のある態様では、皮膚タンパク質のカルボニル化は、過酸化水素などの酸化物質、アクロレインなどのカルボニル化合物により引き起こされる。
【0016】
黄ぐすみの程度は、例えば、対象の皮膚又は取得した皮膚画像に対し、黄みの指標であるb*値、色相、明度、彩度、カルボニル化タンパク、波長、蛍光輝度、RBGカラーチャネルデータ等から得られる特定の指標や、分光測色計、色差計、画像解析装置といった装置より測定することができ、あるいは、訓練された評価者による外観目視検査等により評価することもできる(非特許文献1~3特許文献1~6)。
【0017】
本発明は、対象のPRDX4の発現又は活性を増加することを含む、対象の黄ぐすみを抑制するための方法を提供する。
【0018】
本発明者らにより、PRDX4は、M2マクロファージ培養上清液により発現が増加することが発見された。よって、対象のPRDX4の発現又は活性を増加することは、M2マクロファージを増加させること、M1マクロファージに対するM2マクロファージの比率の上昇させること等によるM1/M2バランスの調整により達成してもよい。M1/M2バランスの調整は、特許文献8に記載のような成分や方法より達成可能であるため、これらを用いてもよい。更に、本発明者らにより、後述するスクリーニング方法によりZingiber aromaticum、Zingiber purpureum Roscoe.等の生薬が線維芽細胞といった皮膚細胞におけるPRDX4を増加させることが発見されたため、これらの生薬を用いることもできる。なお、Zingiber aromaticum、Zingiber purpureum Roscoe.等の生薬は老齢皮膚において物理刺激により減少する核局在YAP(Yes-associated protein)を有する細胞を増加させる効果があることも確認している。また、PRDX4を適切な濃度、例えば約0.1μg/ml~約1000μg/ml、約1μg/ml~約100μg/ml、約10μg/ml等で含む組成物を使用することによっても達成できる。その他PRDX4の発現や活性と関連があると認められる手段を講じること、後述するスクリーニング方法により得られる黄ぐすみ抑制剤を摂取すること等によるものであってもよいがこれらに限定されない。
【0019】
また、本願は、皮膚試料におけるPRDX4の発現又は活性を指標とする黄ぐすみ抑制剤のスクリーニング方法を提供する。黄ぐすみ抑制剤のスクリーニング方法は、皮膚試料に候補薬剤を施すこと;候補薬剤を施した前後の皮膚試料におけるPRDX4の発現又は活性を測定すること;及び前記候補薬剤を施した皮膚試料におけるPRDX4の発現又は活性が該薬剤を施す前と比較して増加する場合、前記薬剤に黄ぐすみ抑制剤作用があると評価することを含んでもよい。
【0020】
また、本発明のスクリーニング方法においては、皮膚試料に候補薬剤を添加し、また対照として候補薬剤を加えずに、一定時間培養し、候補薬剤を添加した場合のPRDX4の発現または活性と候補薬剤を加えない場合のPRDX4の発現または活性を比較し、前記候補薬剤を施した皮膚試料におけるPRDX4の発現又は活性が対照のものより増加する場合、前記薬剤に黄ぐすみ抑制剤作用があると評価することを含んでもよい。
【0021】
本発明のスクリーニング方法において使用する皮膚試料は、採取後の皮膚試料、例えば、ヒト等の動物から採取された後のex vivoの状態の皮膚試料であってもよいし、ヒト等の動物から採取された皮膚細胞を培養した、例えば、単層又は重層培養細胞、培養角化細胞又は培養線維芽細胞といったin vitroの状態であってもよい。あるいは、3D皮膚モデルなどの人工皮膚試料等であってもよい。皮膚試料は、PRDX4の発現又は活性を測定することができれば限定されない。
【0022】
PRDX4の発現または活性の増加は、例えば、候補薬剤を添加する前または候補薬剤を添加しない対照に比べて、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上、200%以上、300%以上、400%以上、又は500%以上高いPRDX4遺伝子発現量またはタンパク質産生量を示すことであってもよい。
【0023】
また、本発明は、対象の皮膚試料におけるPRDX4の発現又は活性の測定値を指標として対象の皮膚の黄ぐすみ感受性を評価する方法及び/又はシステムも提供する。
【0024】
黄ぐすみ感受性とは、紫外線、ストレス等の刺激により活性酸素が多くなる環境や、脂質の過剰摂取等により過酸化脂質が多くなりがちな環境に置かれた場合、黄ぐすみが起こりやすい傾向を指す。将来どの程度黄ぐすみが起こりやすいかの感受性については現在の肌色からは予測できないことが多いが、本発明者らによりPRDX4がコラーゲンといった皮膚タンパクのカルボニル化を抑制することが発見され、PRDX4の発現又は活性が低い場合黄ぐすみ感受性が高く、同等の環境でもPRDX4の発現又は活性が高い者よりも皮膚が黄色化しやすいことが導かれた。黄ぐすみ感受性が客観的に判断できれば、カウンセラーの技量や経験によらず一定のレベルでカウンセリングを行い肌色の悪化を予防または肌色を改善するための生活習慣などのアドバイスや化粧品を事前に提案することが可能になり、黄ぐすみを防ぐための対策を事前に講じることが可能になる。よって、本発明の方法及び/又はシステムは、黄ぐすみ感受性が高いと評価された対象に上述のような助言を提示するものであってもよい。
【0025】
評価は、対象のPRDX4の発現又は活性の測定値が低いほど対象の皮膚の黄ぐすみ感受性が高いと評価するものであってもよい。あるいは、対象の測定値が特定の値より低い場合にその対象の皮膚の黄ぐすみ感受性が高いと評価するものであってもよい。また、対象のPRDX4の発現又は活性の測定値を、あらかじめ設定したPRDX4の発現又は活性の基準値と比較し、対象の測定値が基準値よりも低い場合に対象の皮膚の黄ぐすみ感受性が高いと評価することであってもよい。基準値は、対象を含む又は含まない複数の対象から採取した皮膚試料のPRDX4の発現又は活性のデータに基づく値であってもよい。また、基準値は、対象の皮膚試料の採取時とは異なる時期に同じ対象から採取した皮膚試料のPRDX4の発現又は活性のデータに基づく値であってもよい。
【0026】
対象の測定値が基準値よりも低いとは、例えば、対象のPRDX4の発現又は活性の測定値が基準値よりも10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上低いことを意味するものであってもよい。
【0027】
対象の皮膚の黄ぐすみ感受性を評価する方法及び/又はシステムにおいて使用する皮膚試料は、採取後の皮膚試料、例えば、ヒト等の動物対象から採取された後のex vivoの状態の皮膚試料であってもよいし、非特許文献2に記載のような方法により非侵襲的に採取された皮膚試料であってもよいし、対象由来の皮膚細胞培養物、例えば、単層又は重層培養細胞、培養角化細胞又は培養線維芽細胞といったin vitroの状態であってもよい。あるいは、対象由来の皮膚細胞などを用い作成した3D皮膚モデルなどの人工皮膚試料であってもよい。生体試料は、対象のPRDX4の発現又は活性が測定できれば限定されない。PRDX4の発現又は活性は上記のような皮膚試料を用い、PCR等によりPRDX4遺伝子の発現量を測定してもよく、免疫染色、ELISA等によりPRDX4タンパク量を測定してもよい。
【0028】
例えば、本願の方法は、1又は複数のコンピュータにより実行される黄ぐすみ感受性を評価する方法であって、統計的手法によりあらかじめ求めた黄ぐすみの程度とPRDX4の発現又は活性の値と関連付ける関数を取得する手順と、対象のPRDX4の発現又は活性に関するデータを取得する手順と、前記対象のPRDX4の発現又は活性に関するデータを前記関数に当てはめて計算する手順と、前記計算手順により計算された結果に基づいて皮膚の黄ぐすみ感受性の評価を統計的に行う手順と、前記評価手順により評価された結果を表示する手順を有する方法であってもよい。
【0029】
本願にかかる方法は、美容目的であり、医師や医療従事者が行う医療行為は除かれることがある。また、本願にかかる方法は、対象の美容行為を支援する方法であってもよい。
【実施例0030】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0031】
実験1:ヒト単球由来細胞株THP-1の培養とM1/M2培養上清液の回収
Journal of the American College of Cardiology, Vol. 62, No. 20, 2013, November 12, 2013:1890-901に記載の方法に従い,ヒト由来の株化細胞であるTHP-1を用いて、M1、M2マクロファージへ分化誘導した。THP-1を10%FBS-RPMI(ナカライテスク、30263-95)でT175 flaskにて培養した。サブコンフルエントにまで増殖したことを確認後に細胞を回収し、PMA(100nM)を添加した10%FBS-RPMI 4ml/well、 2×106cells/wellの濃度で6well plateに播種した。24時間後にIFN-γ(20ng/mL)、LPS(100ng/mL)を添加した10%FBS-RPMIを1ml/well追加添加しM1マクロファージへの分化刺激を、IL-4(20ng/mL)、IL-13(20ng/mL)を添加した10%FBS-RPMIを1ml/well追加添加しM2マクロファージへの分化刺激を行った。24時間後に各ウェルの培地をアスピレートしPBSで洗浄後、0.5%FBS-RPMI 5ml/wellに置換した。0.5%FBS-RPMI 5ml/wellで48時間培養した後、培養上清液を全量回収しM1及びM2マクロファージ培養上清液として回収し、下記実験3に用いた。対照ではマクロファージの培養以外は同じ組成の培地(マクロファージの培養をしていない0.5% FBS-RPMI)を回収した。
【0032】
実験2:ヒト新生児由来線維芽細胞の培養
ヒト新生児由来線維芽細胞を10%FBS-DMEM(Thermo Fisher Science、11885084)でT175 flaskにて培養した。サブコンフルエントにまで増殖したことを確認後に、0.025%トリプシンを加え、37℃、3分間インキュベートして細胞を剥がし、10%FBS-DMEMで反応を止めた後、細胞を回収した。遠心後、細胞数をカウントし適切な細胞濃度で下記実験3に用いた。
【0033】
実験3:M1/M2マクロファージ培養上清液添加により発現が変化する遺伝子の網羅解析
実験1で得たM1及びM2マクロファージ培養上清液を実験2で培養した線維芽細胞に添加し、M1またはM2マクロファージ培養上清液添加により発現が変化する遺伝子を以下の網羅解析により探索した。具体的には、RNA-seqのリードをSTARを使用してヒトゲノム(hg19)にマッピングした。得られたカウントデータについて、低発現遺伝子のフィルタリング後にそれぞれのサンプル間のサイズ補正およびlog2変換を行なった。以上の方法でサンプル毎に算出したlog2(CPM)について、RパッケージのedgeRの機能であるglmQLFitとglmQLFTestを用いて、quasi-likelihood F-testで2群間比較を行った後Benjamini-Hochberg法で多重比較検定補正を行なってq-valueを算出した。
【0034】
実験3の結果、M1またはM2マクロファージ培養上清液添加により発現が変化する多くの遺伝子を発見したが、中でもM2マクロファージ培養上清液添加によるPRDX4の発現増加が顕著に見られた(
図1)。そこで、M2マクロファージ培養上清液添加によりPRDX4タンパク量の増加が見られることを確認すべく下記の方法で免疫染色を行った。
【0035】
実験4:免疫染色
【0036】
実験2で培養した線維芽細胞を10%FBS-DMEM 1ml/well、0.8×105cells/wellの濃度で4well chamberに播種した。24時間後に0.5%FBSと500μMのアスコルビン酸を添加したM1/M2マクロファージ培養上清液を1ml/well添加した。対照ではマクロファージの上清液を含まないこと以外は同じ組成の培地を用いた。その後48時間後に0.5%FBS-DMEM 0.5ml/well に置換した。さらに24時間後に4%PFAに置換しオーバーナイトで固定処理を行った。続いて0.1% Triton X-100/PBSに3分間置換し透過処理を行った。さらにDAKO Protein Block Serum-Free Ready-To-Useを用いて室温で20分間ブロッキングした後PRDX4に対する抗体(Proteintech、10703-1-AP)を用いて蛍光免疫染色を行った。なお固定後の各ステップの間にPBSによる洗浄を行った。
【0037】
実験4の結果として得られた免疫染色像を
図2に示す。また、この免疫染色像に対し、画像解析ソフトImageJを用いてPRDX4の輝度値を定量した結果を
図3に示す。線維芽細胞にM2マクロファージ培養上清液を添加するとPRDX4タンパク量が対照やM1マクロファージ培養上清液の場合と比べ有意に増えることが確認された。
【0038】
実験5:コラーゲンスポンジにおける黄色化とPRDX4による黄色化抑制効果
コラーゲンスポンジ マイティー(KOKEN, CSM-50)を96 well plateに置き、アクロレイン(AccuStandard、M-8015B-5031-03、終濃度5mM)、アクロレイン(終濃度5mM)とPRDX4(Abcam、ab93947、終濃度10μg/ml)の同時添加、並びに対照群(MilliQ)の3群について、各200μl/wellで37℃、24時間インキュベートした後、白色校正版(コニカミノルタ社、CR-A44)上に乗せ、i phone 7の標準カメラアプリで写真を撮影した。また、これらのコラーゲンスポンジを、分光測色計CM-2600d(コニカミノルタ社)を用いて黄みの指標であるb*値を測定することにより黄色化の程度を定量化した。
【0039】
実験5の結果の画像を
図4に示す。また、コラーゲンスポンジについて上記方法でb*値を測定した結果を
図5に示す。アクロレインによりコラーゲンが黄色化するものの、PRDX4を投与した場合、黄色化が抑制されることがわかった。したがって、PRDX4は、皮膚タンパクのカルボニル化による黄ぐすみを抑制する効果があることがわかった。
【0040】
これらの実験により、M1/M2マクロファージ上清液添加により発現が変化する数多くの因子の中から、M2マクロファージ上清液添加により遺伝子発現が増加する(
図1)とともにタンパク量も増加し(
図2、3)、かつ、黄ぐすみ抑制効果(
図4、5)がある因子としてPRDX4を発見した。以上の結果から、PRDX4の低い対象ほど黄ぐすみ感受性が高く、過酸化脂質代謝物の増加、活性酸素の上昇といった黄ぐすみが起こりやすい環境に置かれると黄ぐすみを抑制しにくいことがわかった。よって、対象のPRDX4を指標とすることで、簡便かつ客観的に黄ぐすみ感受性を予測できる。また、本発明により、PRDX4の発現または活性を増加する対策を採ることで黄ぐすみを抑制することが可能になる。この対策は、黄ぐすみ感受性が高いと対象にとりわけ有効である。また、PRDX4を指標とすることで黄ぐすみ抑制剤を探索するためのスクリーニングを簡便に行うことが可能になる。