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  • 特開-太陽電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130980
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20230913BHJP
【FI】
H01L31/04 112Z
H01L31/04 166
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035604
(22)【出願日】2022-03-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽光発電主力電源化推進技術開発/太陽光発電の新市場創造技術開発/壁面設置太陽光発電システム技術開発(開口部向けペロブスカイトBIPVモジュールの開発)」委託研究産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴之
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA11
5F151FA04
(57)【要約】
【課題】光電変換特性の低下を抑制するのに適した構成を有する太陽電池を提供する。
【解決手段】本開示の太陽電池100は、第1電極2、電子輸送層3、光電変換層4、および第2電極6、をこの順で備えている。電子輸送層3は、SnO2と、SnO2とは異なる金属酸化物と、の混合物を含む。電子輸送層3は、例えば、主成分としてSnO2を含んでいてもよい。光電変換層4は、例えば、ペロブスカイト化合物を含んでいてもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極、電子輸送層、光電変換層、および第2電極、をこの順で備え、
前記電子輸送層は、SnO2と、SnO2とは異なる金属酸化物と、の混合物を含む、
太陽電池。
【請求項2】
前記電子輸送層は、主成分としてSnO2を含む、
請求項1に記載の太陽電池。
【請求項3】
前記電子輸送層におけるSnO2に対する前記金属酸化物の物質量比は、0.002以上かつ0.667以下である、
請求項1または2に記載の太陽電池。
【請求項4】
前記物質量比は、0.0045以上かつ0.0455以下である、
請求項3に記載の太陽電池。
【請求項5】
前記金属酸化物は、SnO2よりも大きいバンドギャップを有する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項6】
前記金属酸化物は、MgOを含む、
請求項1から5のいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項7】
前記光電変換層は、ペロブスカイト化合物を含む、
請求項1から6のいずれか一項に記載の太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、既存のシリコン型太陽電池にかわる新しい太陽電池として、有機薄膜太陽電池およびペロブスカイト太陽電池の研究開発が進められている。ペロブスカイト太陽電池は、光電変換材料として、ABX3(Aは1価のカチオン、Bは2価のカチオン、Xは1価のアニオン)で示されるペロブスカイト型結晶、およびその類似の構造体(以下、「ペロブスカイト化合物」という)を用いている。
【0003】
非特許文献1は、長寿命化を目的に、電子輸送層としてSnO2層およびMgO層からなる積層体を備えたペロブスカイト太陽電池を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“Highly efficient perovskite solar cells for light harvesting under indoor illumination via solution processed SnO2/MgO composite electron transport layers”, Nano Energy, 49, 290-299 (2018). [DOI: 10.1016/j.nanoen.2018.04.027]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は、光電変換特性の経時的な低下を抑制するのに適した構成を有する太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の太陽電池は、
第1電極、電子輸送層、光電変換層、および第2電極、をこの順で備え、
前記電子輸送層は、SnO2と、SnO2とは異なる金属酸化物と、の混合物を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、光電変換特性の経時的な低下を抑制するのに適した構成を有する太陽電池を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の実施形態による太陽電池100の断面図を示す。
図2図2は、本開示の実施形態による太陽電池の変形例である太陽電池200の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本開示の基礎となった知見)
ペロブスカイト太陽電池は、文献「Qingfeng Dong et al., Science, 2015, 347, 6225, 967-970」に示されるように、ペロブスカイト化合物が持つ特徴的な物性である高い光吸収係数と長い拡散長により、数百ナノメートルの厚さで高効率な発電が可能である。さらに、ペロブスカイト太陽電池の特徴として、既存のシリコン太陽電池と比較して使用材料が少ないこと、形成過程に高い温度が必要でないこと、および塗布で形成できること、が挙げられる。
【0010】
ペロブスカイト太陽電池の実使用を想定すると、光電変換効率とともに寿命が重要な指標となる。寿命を評価するために、熱加速試験、すなわち、ペロブスカイト太陽電池を高温状態で保持した時の光電変換効率の時間変化を評価することが一般的な手法として知られている。
【0011】
ペロブスカイト太陽電池の高効率化および長寿命化を達成する一つの手法として、電子輸送層の修飾が報告されている。電子輸送層の表面を、電子輸送層の材料よりもエネルギーバンドギャップが大きい別の材料で修飾することで、電子輸送層/光電変換層の界面で生じる正孔および電子の再結合を抑制できる。その結果、光電変換効率が向上する。一例として、非特許文献1では、SnO2層の表面をMgOで修飾したSnO2層/MgO層の積層体を電子輸送層として備えたペロブスカイト太陽電池を報告している。
【0012】
本発明者は、さらなる長寿命化のために上記知見に基づいてさらなる検討を行い、SnO2と、SnO2とは異なる酸化物との混合物を含む電子輸送層を備えた本開示の太陽電池に到達した。
【0013】
本明細書において用いられる用語「ペロブスカイト太陽電池」とは、ペロブスカイト化合物を光電変換材料または光吸収材料として含む太陽電池を意味する。
【0014】
(本開示の実施形態)
本開示の実施形態による太陽電池は、第1電極、電子輸送層、光電変換層、および第2電極、をこの順で備え、電子輸送層は、SnO2と、SnO2とは異なる金属酸化物と、の混合物を含む。
【0015】
以上の構成によれば、太陽電池の光電変換特性の低下を抑制できる。
【0016】
図1は、本開示の実施形態による太陽電池100の断面図を示す。
【0017】
図1に示されるように、太陽電池100は、基板1、第1電極2、電子輸送層3、光電変換層4、正孔輸送層5、および第2電極6を、この順で備える。
【0018】
図2は、本開示の実施形態による太陽電池の変形例である太陽電池200の断面図を示す。
【0019】
図2に示されるように、本実施形態による太陽電池は、さらに中間層を備えていてもよい。
【0020】
太陽電池200は、基板1、第1電極2、電子輸送層3、光電変換層4、中間層7、正孔輸送層5、および第2電極6を、この順で備える。
【0021】
以下、本開示の太陽電池の各構成要素について、具体的に説明する。
(基板1)
基板1は、太陽電池の各層を保持する役割を果たす。
【0022】
基板1は、透明な材料から形成することができる。このような材料として、ガラス基板またはプラスチック基板を用いることができる。プラスチック基板は、プラスチックフィルムであってもよい。
【0023】
第1電極2が十分な強度を有している場合、第1電極2によって各層を保持することができるので、基板1を設けなくてもよい。
【0024】
(第1電極2)
第1電極2は、導電性を有する。
【0025】
第1電極2は、透光性を有し得る。第1電極2は、例えば、可視領域から近赤外領域の光を透過させる。
【0026】
第1電極2は、例えば、透明であり、かつ導電性を有する金属酸化物から構成されうる。このような金属酸化物の例は、
(i)インジウム-錫複合酸化物、
(ii)インジウム-亜鉛複合酸化物
(iii)アンチモンがドープされた酸化錫、
(iv)フッ素がドープされた酸化錫、
(v)ホウ素、アルミニウム、ガリウム、およびインジウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素がドープされた酸化亜鉛、または
(vi)これらの複合物、
である。
【0027】
第1電極2は、透明でない材料を用いて、光が透過するパターンを設けて形成されてもよい。光が透過するパターンの例は、線状(例えば、ストライプ状)、波線状、格子状(例えば、メッシュ状)、または多数の微細な貫通孔が規則的または不規則に配列されたパンチングメタル状のパターンである。第1電極2がこれらのパターンを有すると、電極材料が存在しない部分を光が透過することができる。
【0028】
透明でない材料の例は、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、チタン、鉄、ニッケル、スズ、亜鉛、またはこれらのいずれかを含む合金である。導電性を有する炭素材料が、透明でない材料として使用されてもよい。
【0029】
第1電極2の光の透過率は、例えば、50%以上であってもよく、80%以上であってもよい。第1電極2が透過すべき光の波長は、光電変換層4の吸収波長に依存する。
【0030】
第1電極2は、例えば、1nm以上かつ1000nm以下の厚みを有していてもよい。
【0031】
(電子輸送層3)
電子輸送層3は、SnO2と、SnO2とは異なる金属酸化物と、の混合物を含む。電子輸送層3の全体が均一な組成を有する。
【0032】
電子輸送層3は、主成分としてSnO2を含んでもよい。
【0033】
ここで、主成分とは、電子輸送層3において、物質量比で最も多く含まれる成分のことである。
【0034】
SnO2とは異なる金属酸化物は、SnO2よりも大きいバンドギャップを有していてもよい。SnO2のバンドギャップは、3.6eVである。これにより、電子輸送層3および光電変換層4の界面で生じる正孔および電子の再結合を抑制しやすくなる。その結果、太陽電池の特性が向上する。
【0035】
当該金属酸化物の例は、Mg、Al、Zr、Li、Na、K、Ca、Sr、またはBaの酸化物である。
【0036】
SnO2とは異なる金属酸化物は、MgOを含んでもよい。
【0037】
MgOは絶縁体であるため、非特許文献1のように電子輸送層がSnO2層およびMgO層からなる積層体である場合、MgO層を厚くしすぎると電子が流れず、太陽電池の変換効率が低下し得る。一方、本開示の太陽電池の電子輸送層はSnO2とSnO2とは異なる金属酸化物との混合物を含んでいるため、変換効率が低下することなく、電子輸送層および光電変換層の界面で生じる正孔および電子の再結合を抑制することができる。
【0038】
電子輸送層3におけるSnO2に対するSnO2とは異なる金属酸化物の物質量比は、0.0020以上かつ0.667以下であってもよい。当該物質量比が0.667以下である場合、SnO2を同一粒径の球状粒子とみなしたとき、SnO2粒子が最密充填で互いに接している状態となり得る。当該物質量比が0.0020以上である場合、金属酸化物の効果を発揮しやすくなる。以上の構成によれば、太陽電池の光電変換特性の経時的な低下をより抑制できる。
【0039】
電子輸送層3におけるSnO2に対するSnO2とは異なる金属酸化物の物質量比は、0.0045以上かつ0.0455以下であってもよい。
【0040】
(光電変換層4)
光電変換層4は、光電変換材料を含む。
【0041】
光電変換材料は、例えば、ペロブスカイト化合物であってもよい。すなわち、光電変換層4は、ペロブスカイト化合物を含んでいてもよい。
【0042】
ペロブスカイト化合物は、太陽光スペクトルの波長域における光吸収係数が高く、かつ、キャリア移動度が高い。したがって、ペロブスカイト化合物を含む太陽電池(すなわち、ペロブスカイト太陽電池)は、高い光電変換効率を有する。
【0043】
ペロブスカイト化合物は、例えば、組成式ABX3により表される。ここで、Aは1価のカチオンであり、Bは2価の金属カチオンであり、Xは1価のアニオンである。
【0044】
1価のカチオンAの例は、有機カチオンまたはアルカリ金属カチオンである。
【0045】
有機カチオンの例は、メチルアンモニウムカチオン(CH3NH3 +)またはホルムアミジニウムカチオン(NH2CHNH2 +)である。
【0046】
アルカリ金属カチオンの例は、CsカチオンまたはRbカチオンである。
【0047】
2価のカチオンBの例は、Pbカチオン、Snカチオン、またはGeカチオンである。
【0048】
1価のアニオンXの例は、ハロゲンアニオンである。ハロゲンアニオンは、例えば、塩素、臭素、またはヨウ素である。
【0049】
A、B、およびXは、それぞれ、複数種類のイオンを含んでいてもよい。
【0050】
光電変換層4の厚みは、その光吸収の大きさにもよるが、例えば、100nm以上かつ2000nm以下である。
【0051】
光電変換層4は、溶液による塗布法などを用いて形成することができる。
【0052】
(中間層7)
本実施形態による太陽電池は、さらに中間層7を備えてもよい。これにより、第2電極6を形成する際の太陽電池へのダメージ(例えば、正孔輸送層5へのダメージ)が緩和され、光電変換特性の低下を抑制できる。なお、第2電極6を形成する際の太陽電池へのダメージとは、例えば、第2電極6をスパッタ法によって形成する場合には、例えばプラズマにより正孔輸送層5がダメージを受けて特性が低下してしまうこと等が考えられる。
【0053】
中間層7は、例えば、光電変換層4および正孔輸送層5の間に配置される。
【0054】
中間層7は、塩化物、臭化物、およびヨウ化物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含む。
【0055】
中間層7に含まれる上記化合物は、アンモニウムカチオンを含んでいてもよい。
【0056】
中間層7に含まれる上記化合物は、炭素を含み、かつ8以下の炭素数を有していてもよい。炭素数が8以下であれば、疎水性が強くなるのを抑制できるため、その上に形成する正孔輸送層5を均一に塗布しやすくなる。
【0057】
中間層7に含まれる当該化合物は、炭素を含み、かつ、4以上かつ8以下の炭素数を有していてもよい。上記化合物の炭素数が4以上かつ8以下であることにより、中間層7は、第2電極6を形成する際に例えば正孔輸送層5に生じるダメージをより緩和することができ、かつ中間層7の疎水性が強くなるのを抑制できる。
【0058】
中間層7に含まれる当該化合物は、例えば、下記式(1)により表されてもよい。
R-NH3X …(1)
ここで、上記式(1)において、
Rは、炭化水素基であり、
Xは、塩素、臭素およびヨウ素からならなる群より選択される少なくとも1つである。
【0059】
上記式(1)において、Rは、8以下の炭素数を有する炭化水素基であってもよい。また、Rは、4以上かつ8以下の炭素数を有する炭化水素基であってもよい。
【0060】
上記式(1)において、Rは、アルキル基、フェニル基、またはフェニルアルキル基であってもよい。
【0061】
中間層7に含まれる当該化合物は、臭化ブチルアンモニウム、臭化ヘキシルアンモニウム、臭化オクチルアンモニウム、臭化フェニルエチルアンモニウム、およびヨウ化フェニルエチルアンモニウムからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0062】
光電変換材料(例えば、ペロブスカイト化合物)および正孔輸送材料それぞれへの高い親和性の観点から、中間層7に含まれる当該化合物は、臭化ブチルアンモニウムであってもよい。
【0063】
高い耐熱性の観点から、中間層7に含まれる当該化合物は、ヨウ化フェニルエチルアンモニウムであってもよい。
【0064】
電荷注入を阻害しないために、中間層7の厚みは、10nm以下であってもよい。
【0065】
(正孔輸送層5)
正孔輸送層5は、正孔輸送材料を含む。正孔輸送材料は、正孔を輸送する材料である。
【0066】
正孔輸送材料は、トリフェニルアミン誘導体であってもよい。
【0067】
トリフェニルアミン誘導体の例は、ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリフェニルメチル)アミン](以下、「PTAA」という)またはPTAA誘導体である。PTAA誘導体として、PTAAの水素原子またはメチル基の少なくとも一部が、別の官能基に置き換わっていてもよい。例えば、PTAAのメチル基の少なくとも一部は、水素原子またはメトキシ基に置き換わっていてもよい。あるいは、PTAAの水素原子の少なくとも一部は、メチル基またはメトキシ基に置き換わっていてもよい。
【0068】
正孔輸送層5は、トリフェニルアミン誘導体だけでなく、別の正孔輸送材料も含んでいてもよい。正孔輸送材料の例は、有機物または無機半導体である。
【0069】
正孔輸送材料として用いられる有機物の例は、Poly(3-hexylthiophene-2、5-diyl)(以下、「P3HT」という)またはpoly(3、4-ethylenedioxythiophene)(以下、「PEDOT」という)である。分子量は、特に限定されないが、高分子体であってもよい。
【0070】
正孔輸送材料として用いられる無機半導体の例は、Cu2O、CuGaO2、CuSCN、CuI、CuPC、NiOx1、MoOx2、V25、または酸化グラフェンのようなカーボン系材料である。ここで、0<x1であり、1≦x1≦1.5であってもよい。また、0<x2であり、2≦x2≦3であってもよい。
【0071】
正孔輸送層5は、正孔輸送層材料だけでなく、フルオロボロン系化合物を含んでいてもよい。フルオロボロン系化合物は、正孔の濃度を高めるための添加剤として添加される。フルオロボロン系化合物は、高い安定性および正孔輸送材料を酸化するのに適した酸化還元電位を有する。
【0072】
フルオロボロン系化合物は、例えば、ペンタフルオロフェニル基を有するホウ素化合物である。このような化合物の例は、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(TPFPB)、4-Isopropyl-4’-methyldiphenyliodoniumtetrakis(pentafluorophenyl)borate、またはN,N-Dimethylanilinium Tetrakis(pentafluorophenyl)borateである。
【0073】
フルオロボロン系化合物は、TPFPBまたはTPFPB誘導体であってもよい。
【0074】
正孔輸送層5は、互いに異なる材料から形成される複数の層を含んでいてもよい。
【0075】
正孔輸送層5の厚さは、抵抗を低減するために、1nm以上かつ1000nm以下であってもよく、10nm以上かつ500nm以下であってもよい。
【0076】
正孔輸送層5の形成方法の例は、塗布法または印刷法である。塗布法の例は、ドクターブレード法、バーコート法、スプレー法、ディップコーティング法、またはスピンコート法である。印刷法の例は、スクリーン印刷法である。正孔輸送層5は、複数の材料を混合して得られた膜を加圧または焼成することにより形成されてもよい。正孔輸送材料が低分子の有機物または無機半導体である場合、真空蒸着法により正孔輸送層5が形成されてもよい。
【0077】
正孔輸送層5は、支持電解質および溶媒を含んでいてもよい。支持電解質および溶媒は、正孔輸送層5中の正孔を安定化させる効果を有する。
【0078】
支持電解質の例は、アンモニウム塩またはアルカリ金属塩である。アンモニウム塩の例は、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、六フッ化リン酸テトラエチルアンモニウム、イミダゾリウム塩、またはピリジニウム塩である。アルカリ金属塩の例は、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Li-TFSI)、LiN(SO2n2n+12、LiPF6、LiBF4、過塩素酸リチウム、または四フッ化ホウ素カリウムである。
【0079】
正孔輸送層5に含まれる溶媒は、高いイオン伝導性を有していてもよい。当該溶媒は、水系溶媒であってもよく、有機溶媒であってもよい。溶質を安定化するために、当該溶媒は有機溶媒であってもよい。有機溶媒の例は、4-tert-ブチルピリジン(以下、「tBP」という)、ピリジン、およびn-メチルピロリドンのような複素環化合物である。
【0080】
溶媒として、イオン液体を単独で用いてもよく、他種の溶媒に混合して用いてもよい。イオン液体は、低い揮発性および高い難燃性を有する。
【0081】
イオン液体の例は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラシアノボレートのようなイミダゾリウム化合物、ピリジン化合物、脂環式アミン化合物、脂肪族アミン化合物、またはアゾニウムアミン化合物である。
【0082】
(第2電極6)
第2電極6は、導電性を有する。
【0083】
第1電極2および第2電極6のうち、少なくとも光を入射させる側の電極が透光性を有していればよい。したがって、第1電極2および第2電極6の一方は、透光性を有していなくてもよい。すなわち、第1電極2および第2電極6の一方は、透光性を有する材料を用いていなくてもよいし、光を透過させる開口部分を含むパターンを有していなくてもよい。
【0084】
第2電極6は、例えば、透明であり、かつ導電性を有する酸化物から構成されうる。このような酸化物の例は、インジウム-錫複合酸化物、インジウム-亜鉛複合酸化物、またはインジウム-タングステン複合酸化物である。このように、第2電極6は、酸化インジウムを母材とする導電性酸化物を含んでいてもよい。膜質の安定性の観点から、第2電極6は、インジウム-亜鉛複合酸化物を含んでいてもよい。
【0085】
第2電極6の形成方法の例は、気相成長法である。気相成長法の例は、化学蒸着法またはスパッタ法である。
【0086】
(太陽電池の製造方法)
本実施形態による太陽電池は、例えば、以下の方法によって作製することができる。
【0087】
ここでは、一例として、太陽電池200の製造方法を説明する。
【0088】
まず、基板1の表面に、例えば化学蒸着法またはスパッタ法などによって、第1電極2を形成する。次に、第1電極2の上に、例えば塗布法などによって、電子輸送層3を形成する。次に、電子輸送層3の上に、例えば塗布法などによって、光電変換層4を形成する。次に、光電変換層4の上に、例えば塗布法などによって、中間層7を形成する。次に、中間層7の上に、例えば塗布法などによって、正孔輸送層5を形成する。次に、正孔輸送層5の上に、例えばスパッタ法などによって、第2電極6を形成する。
【0089】
このようにして、太陽電池200が得られる。
【0090】
なお、太陽電池100は、中間層7が形成されないことを除き、太陽電池200と同様の方法で作製され得る。
【実施例0091】
以下、実施例を参照しながら、本開示がより詳細に説明される。
【0092】
<実施例1>
実施例1による太陽電池の各構成要素は、以下の通りである。
・基板:ガラス基板(厚さ:0.7mm)
・第1電極:インジウム-錫複合酸化物(ITO:インジウムドープSnO2層、表面抵抗10Ω/sq.ジオマテック製)
・電子輸送層:酸化スズ(SnO2)および酸化マグネシウム(MgO)の混合物(原料液中のMg/Sn物質量比が0.0045)
・光電変換層:NH2CHNH2PbI3を主に含む層(厚さ:約500nm)
・中間層:ヨウ化フェネチルアンモニウム(PEAI、GreatCell Solar製)
・正孔輸送層:ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン](PTAA、奥本研究所製)(ただし、添加剤としてリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Li-TFSI、東京化成製)を含む)(厚さ:約50nm)
・第2電極:インジウム-亜鉛複合酸化物(IZO:10wt%ZnOドープIn23)(厚さ:100nm)
【0093】
(太陽電池の作製)
基板および第1電極として、ITO層が形成された導電性ガラス基板(ジオマテック製)を用いた。当該ガラス基板は、25mm角であり、0.7mmの厚みを有していた。
【0094】
次に、酢酸マグネシウム四水和物(Mg(CH3COO)2・4H2O、Aldrich製)を超純水(富士フイルム和光純薬製)に溶解した9mMの水溶液(9mM Mg(CH3COO)2・4H2O水溶液)を調製した。続いて、SnO2コロイド分散液(15%、Alfa Aesar製)、9mM Mg(CH3COO)2・4H2O水溶液、および超純水(富士フイルム和光純薬製)を、SnO2コロイド分散液:Mg(CH3COO)2・4H2O水溶液:超純水=2:1:6の体積比で混合し、SnO2およびMg(CH3COO)2・4H2Oを含む電子輸送層原料液を調製した。当該原料液中に含まれるMg/Sn物質量比は、0.0045となる。
【0095】
電子輸送層原料液(500μL)を第1電極上にスピンコート(3000rpm、30秒間)で塗布した後、150℃のホットプレート上で60分間アニールした。このようにして、電子輸送層が形成された。
【0096】
次に、PbI2(1.15M、東京化成製)、FAI(1.05M,GreatCell Solar製)、PbBr2(0.18M、東京化成製)、MABr(0.09M、GreatCell Solar製)、FABr(0.09M、GreatCell Solar製)、およびMACl(0.42M、GreatCell Solar製)を含む溶液を調製した。当該溶液の溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO、Acros Organics製)およびN,N-ジメチルホルムアミド(DMF、Acros Organics製)の混合物であった。当該溶液におけるDMSOおよびDMFの混合比は、体積比でDMSO:DMF=1:8であった。この溶液(60μL)を電子輸送層の上に、トルエン(600μL)を滴下しながらスピンコート(2000rpm、55秒間)した。その後、150℃のホットプレート上で20秒間アニールした後、100℃のホットプレート上で60分間アニールした。このようにして、光電変換層が形成された。
【0097】
次に、PEAI(2mM、GreatCell Solar製)をイソプロパノール(IPA、富士フイルム和光純薬製)に溶解した溶液を調製した。この溶液(80μL)を光電変換層上にスピンコート(4000rpm、20秒間)した後、100℃のホットプレート上で10分間アニールした。このようにして、中間層が形成された。
【0098】
次に、PTAA(35mM、奥本研究所製)をトルエン(富士フイルム和光純薬製)に溶解した溶液と、Li-TFSI(1.8M、東京化成製)をアセトニトリル(富士フイルム和光純薬製)に溶解した溶液を調製した。続いて、35mM PTAA溶液、4-tert-ブチルピリジン(tBP、Aldrich製)および1.8M Li-TFSI溶液を、PTAA溶液:tBP:Li-TFSI溶液=10000:75:72の体積比で混合し、正孔輸送層原料液を調製した。
【0099】
正孔輸送層原料液(80μL)を中間層上にスピンコート(4000rpm、20秒間)した後、80℃のホットプレート上で10分間アニールした。このようにして、正孔輸送層が形成された。
【0100】
最後に、正孔輸送層の上に、10%ZnOドープIn23ターゲットを用い、背圧:3×10-4Pa、基板-ターゲット間距離:100mm、基板温度:室温、電力:20W、圧力:1.0Pa、酸素濃度:0.4%の条件で、厚さ100nmのIZO層がスパッタにより堆積された。このようにして、第2電極が形成された。
【0101】
以上のようにして、実施例1による太陽電池が得られた。
【0102】
上述した工程のうち、電子輸送層を形成する工程および第2電極を形成する工程以外は、-40℃以下の露点を有するドライルーム内で実施された。
【0103】
<実施例2>
電子輸送層原料液中に含まれるMg/Sn物質量比を0.0090とした以外は、実施例1と同様にして、実施例2による太陽電池が得られた。
【0104】
<実施例3>
電子輸送層原料液中に含まれるMg/Sn物質量比を0.0136とした以外は、実施例1と同様にして、実施例3による太陽電池が得られた。
【0105】
<実施例4>
電子輸送層原料液中に含まれるMg/Sn物質量比を0.0182とした以外は、実施例1と同様にして、実施例4による太陽電池が得られた。
【0106】
<実施例5>
電子輸送層原料液中に含まれるMg/Sn物質量比を0.0227とした以外は、実施例1と同様にして、実施例5による太陽電池が得られた。
【0107】
<実施例6>
電子輸送層原料液中に含まれるMg/Sn物質量比を0.0273とした以外は、実施例1と同様にして、実施例6による太陽電池が得られた。
【0108】
<実施例7>
電子輸送層原料液中に含まれるMg/Sn物質量比を0.0364とした以外は、実施例1と同様にして、実施例7による太陽電池が得られた。
【0109】
<実施例8>
電子輸送層原料液中に含まれるMg/Sn物質量比を0.0455とした以外は、実施例1と同様にして、実施例8による太陽電池が得られた。
【0110】
<比較例1>
電子輸送層原料液として、Mgを含まないSnO2のみからなる原料液を用い、電子輸送層原料液のスピンコート後のアニール時間を30分間とした以外は、実施例1と同様にして、比較例1による太陽電池が得られた。
【0111】
具体的には、比較例1では、SnO2コロイド分散液(15%、Alfa Aesar製)と超純水(富士フイルム和光純薬製)とをSnO2コロイド分散液:超純水=2:7の体積比で混合したものを、電子輸送層原料液とした。
【0112】
<比較例2>
電子輸送層を形成する手順を下記に示す手順に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例2による太陽電池が得られた。
【0113】
SnO2コロイド分散液(15%、Alfa Aesar製)と超純水(富士フイルム和光純薬製)とをSnO2コロイド分散液:超純水=2:7の体積比で混合し、SnO2を含む電子輸送層原料液を調製した。この原料液(500μL)を第1電極上にスピンコート(3000rpm、30秒間)で塗布した後、150℃のホットプレート上で30分間アニールすることでSnO2層が形成された。続いて、Mg(CH3COO)2・4H2O(Aldrich製)をエタノール(富士フイルム和光純薬製)に溶解した2mMのMg(CH3COO)2・4H2O溶液を調製した。比較例2のMg(CH3COO)2・4H2O溶液の濃度は、実施例2で用いた電子輸送層原料液中に含まれるMg(CH3COO)2・4H2Oの濃度と同水準となる。上記Mg(CH3COO)2・4H2O溶液(150μL)をSnO2層上にスピンコート(3000rpm、30秒間)した後、150℃のホットプレート上で60分間アニールした。このようにして、電子輸送層が形成された。
【0114】
<比較例3>
SnO2層上に塗布するMg(CH3COO)2・4H2O溶液の濃度を4mMとした以外は、比較例2と同様にして、比較例3による太陽電池が得られた。比較例3のMg(CH3COO)2・4H2O溶液の濃度は、実施例4で用いた電子輸送層原料液中に含まれるMg(CH3COO)2・4H2Oの濃度と同水準となる。
【0115】
<比較例4>
SnO2層上に塗布するMg(CH3COO)2・4H2O溶液の濃度を6mMとした以外は、比較例2と同様にして、比較例4による太陽電池が得られた。比較例4のMg(CH3COO)2・4H2O溶液の濃度は、実施例6で用いた電子輸送層原料液中に含まれるMg(CH3COO)2・4H2Oの濃度と同水準となる。
【0116】
<比較例5>
SnO2層上に塗布するMg(CH3COO)2・4H2O溶液の濃度を8mMとした以外は、比較例2と同様にして、比較例5による太陽電池が得られた。比較例5のMg(CH3COO)2・4H2O溶液の濃度は、実施例7で用いた電子輸送層原料液中に含まれるMg(CH3COO)2・4H2Oの濃度と同水準となる。
【0117】
[太陽電池特性の評価]
実施例1から8および比較例1から5による太陽電池について熱耐久試験を行った。
【0118】
まず、実施例1から8および比較例1から5による太陽電池の初期の光電変換効率が、ソーラーシミュレータ(ALS440B、BAS製)を100mW/cm2の出力に設定し、疑似太陽光下で評価された。印加電圧に対する出力電流値を1.2Vから0Vまで変化させて記録し、光電変換効率を算出した。
【0119】
次いで、対象の太陽電池は、85℃の恒温槽内に300時間保管され、300時間後に恒温槽より取出された後、ソーラーシミュレータを100mW/cm2の出力に設定し、疑似太陽光下で熱耐久試験後の光電変換効率が評価された。印加電圧に対する出力電流値を1.2Vから0Vまで変化させて記録し、光電変換効率を算出した。光電変換効率の維持率が、85℃300時間保管後の光電変換効率/初期の光電変換効率、により算出された。実施例1から8および比較例1から5による太陽電池の熱耐久試験後の光電変換効率および光電変換効率の維持率は、表1に示される。
【0120】
【表1】
【0121】
(考察)
表1に示されるように、電子輸送層としてSnO2およびMgOの混合物を含む実施例1から8による太陽電池は、電子輸送層としてSnO2のみを備える比較例1およびSnO2層とMgO層との積層体を備える比較例2から5による太陽電池に比べて、85℃300時間保管後における光電変換効率が高い値を示した。
【0122】
電子輸送層におけるSnO2に対するMgOの物質量比が同じである場合、電子輸送層がSnO2およびMgOの混合物を含む太陽電池は、SnO2層とMgO層との積層体を備える太陽電池に比べて、光電変換効率の維持率が高い値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本開示の太陽電池は、従来の太陽電池の用途を含む種々の用途に使用できる。
【符号の説明】
【0124】
1 基板
2 第1電極
3 電子輸送層
4 光電変換層
5 正孔輸送層
6 第2電極
7 中間層
100、200 太陽電池
図1
図2