(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130982
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】2’-ビニルRNAホスホロアミダイトユニットの開発
(51)【国際特許分類】
C07H 19/10 20060101AFI20230913BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20230913BHJP
C07H 19/20 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
C07H19/10
C12N15/09 Z
C07H19/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035609
(22)【出願日】2022-03-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、「戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)」、「ゲノムスケールのDNA設計・合成による細胞制御技術の創出」、「ゲノム完全化学合成を指向した革新的フロー合成法の開発」、委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】大窪 章寛
(72)【発明者】
【氏名】久恒 一賜
【テーマコード(参考)】
4C057
【Fターム(参考)】
4C057AA20
4C057BB02
4C057DD01
4C057LL10
4C057LL14
4C057LL17
4C057LL21
4C057LL29
4C057LL40
(57)【要約】
【課題】本発明は、長鎖核酸合成に使用するための新規なホスホロアミダイトユニットを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によれば、ホスホロアミダイト法に基づく核酸の化学合成に使用するための、2’位がビニル基で保護されたヌクレオシド-O-ホスホロアミダイト誘導体、及び該誘導体を用いることを含む長鎖核酸を合成する方法が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホロアミダイト法に基づく核酸の化学合成に使用するための、2’位がビニル基で保護されたヌクレオシド-O-ホスホロアミダイト誘導体。
【請求項2】
下記式:
【化1】
〔式中、
Bは、天然核酸塩基又は保護基で保護された天然核酸塩基であり;
R
1は、水素原子又は水酸基の保護基であり;
R
2は、-N(R
4)
2(式中、R
4は、独立して、C
1~6アルキル基、または窒素、硫黄及び酸素からなる群から選択される3個までのヘテロ原子を有する4~7員環のへテロシクロアルキル若しくはヘテロシクロアルケニルである)、モルホリノ基、又はジアルキルアミノ基であり;
R
3は、2-シアノエチル基、2-トリメチルシリルエチル基、ニトロフェニルエチル基、又は2-ニトロエチル基である〕
で表される、請求項1に記載のヌクレオシド-O-ホスホロアミダイト誘導体。
【請求項3】
Bが、アデニン、グアニン、シトシン、チミン、及びウラシルからなる群から選択される、請求項2に記載のヌクレオシド-O-ホスホロアミダイト誘導体。
【請求項4】
ホスホロアミダイト法に基づく核酸の化学合成において、請求項1~3のいずれか1項に記載されるヌクレオシド-O-ホスホロアミダイト誘導体を用いることを含む、長鎖核酸を合成する方法。
【請求項5】
(a)固相担体に結合させたヌクレオシドの5’又は3’水酸基を酸処理により除去する工程;
(b)請求項1~3のいずれか1項に記載のヌクレオシド-O-ホスホロアミダイト誘導体を酸触媒で活性化し、縮合反応により固相担体上のヌクレオシドの5’又は3’水酸基と三価リン酸結合により連結させる工程;
(c)未反応の該5’又は3’水酸基をキャッピングする工程;及び
(d)該三価リン酸結合を酸化する工程
を含む反応サイクルを反復的に行うことを含む、請求項4に記載の長鎖核酸を合成する方法。
【請求項6】
核酸がRNAである、請求項4又は5に記載の長鎖核酸を合成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な2’-ビニルRNAホスホロアミダイトユニット及び該ユニットを用いた長鎖RNA合成法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アンチセンスやsiRNAなどに次ぐ核酸を利用した医薬として、より長鎖のRNAを利用した薬剤研究が盛んに行われている。その一例として、数百から一万塩基を超えるような、セントラルドグマにおける中間遺伝物質である、mRNAを利用したmRNA医薬(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)が挙げられる。
【0003】
医薬(又は医薬品)として作用する30量体以下の短いRNA(アンチセンス分子/siRNA)は、工業的に大量合成が可能である。一方、Covid-19などの感染症ワクチンとして注目されている、特定のタンパク質を発現することができるmRNAなどは、160塩基以上と鎖長が長いため、効率よく化学合成できる手法はない。
【0004】
そのため、これらの長鎖RNAを医薬や汎用性の高い分子ツールとして利用するためには、高純度、かつ低コスト合成が可能な化学合成法の確立が必須である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chaudhary, N.; Weissman, D.; Whitehead, K. A. Nat. Rev. Drug. Discov. 2021, 20, 817-838.
【非特許文献2】Xu, S.; Yang, K.; Li, R.; Zhang, L. Int. J. Mol. Sci. 2020, 21, 6582
【非特許文献3】Sahin, U.; Kariko, K.; Tureci, O. Nat. Rev. Drug. Discov. 2014, 13, 759-780
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、鎖長の長いRNAを効率よく化学合成するための手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、長鎖RNA合成を可能にする新規なホスホロアミダイトユニットを開発し、該ユニットを用いることによって、長鎖RNAの合成収率を向上させることに成功し、本発明を完成するに至った。本発明は、新たに開発した2’水酸基を立体的に世界最小のビニル基で保護したホスホロアミダイトユニットを使用して、長鎖RNAを高収率で回収することを特徴とする。
【0008】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1]ホスホロアミダイト法に基づく核酸の化学合成に使用するための、2’位がビニル基で保護されたヌクレオシド-O-ホスホロアミダイト誘導体。
[2]下記式:
【0009】
【0010】
〔式中、
Bは、天然核酸塩基又は保護基で保護された天然核酸塩基であり;
R1は、水素原子又は水酸基の保護基であり;
R2は、-N(R4)2(式中、R4は、独立して、C1~6アルキル基、または窒素、硫黄及び酸素からなる群から選択される3個までのヘテロ原子を有する4~7員環のへテロシクロアルキル若しくはヘテロシクロアルケニルである)、モルホリノ基、又はジアルキルアミノ基であり;
R3は、2-シアノエチル基、2-トリメチルシリルエチル基、ニトロフェニルエチル基、又は2-ニトロエチル基である〕
で表される、[1]に記載のヌクレオシド-O-ホスホロアミダイト誘導体。
[3]Bが、アデニン、グアニン、シトシン、チミン、及びウラシルからなる群から選択される、[2]に記載のヌクレオシド-O-ホスホロアミダイト誘導体。
[4]ホスホロアミダイト法に基づく核酸の化学合成において、[1]~[3]のいずれか1つに記載されるヌクレオシド-O-ホスホロアミダイト誘導体を用いることを含む、長鎖核酸を合成する方法。
[5](a)固相担体に結合させたヌクレオシドの5’又は3’水酸基を酸処理により除去する工程;
(b)[1]~[3]のいずれか1つに記載のヌクレオシド-O-ホスホロアミダイト誘導体を酸触媒で活性化し、縮合反応により固相担体上のヌクレオシドの5’又は3’水酸基と三価リン酸結合により連結させる工程;
(c)未反応の該5’又は3’水酸基をキャッピングする工程;及び
(d)該三価リン酸結合を酸化する工程
を含む反応サイクルを反復的に行うことを含む、[4]に記載の長鎖核酸を合成する方法。
[6]核酸がRNAである、[4]又は[5]に記載の長鎖核酸を合成する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、新たに開発したホスホロアミダイトユニットを提供することにより、長鎖核酸(好ましくはRNA)を高収率で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ビニル基の脱保護条件の検討を行った結果を示す。典型例として2’位をビニル基で保護した化合物を60℃でpH3.0、3.5、4.0、5.0酢酸水溶液もしくは水、45℃でpH3.0酢酸水溶液に晒し、試薬投入直後、15/30分、1/2/4/8/24時間後に反応液を分注し、逆相HPLCによる解析を行った。例としてpH3.5で60℃の経時変化の様子を示す。
【
図2】
図1のHPLC結果から算出した、各pHにおける脱保護割合(
図1左上の化合物の減少率)をプロットしたグラフを示す。
【
図3】ヌクレアーゼP
1を用いたリン酸ジエステル結合の転位反応を検証した結果を示す。Aバッファ-:0.03M NH
4OAc、Bバッファー:CH
3CN;勾配:20-20%Bバッファー;流速:1ml/分。
【
図4】NMRを用いたリン酸ジエステル結合の転移及び切断反応を検証した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ホスホロアミダイト法による核酸合成法において、2’位をビニル基で保護したヌクレオシド-O-ホスホロアミダイト誘導体(以下、単に「ホスホロアミダイトユニット」と称することがある)を使用することを特徴とし、これにより、従来より一般に使用されている2’位が他の保護基(例えば、TBDMS、TOM、CEMなど)で保護されたヌクレオシド-O-ホスホロアミダイト誘導体と比較して、高収率で化学合成した長鎖核酸を得ることができる。本発明において「核酸」又は「核酸配列」とは、「ヌクレオチド」又は「ヌクレオチド配列」と同義に使用され、2塩基長(2mer又は2bp)以上のヌクレオチドを指し、オリゴヌクレオチド(<102bp)、遺伝子(102~103bp)、遺伝子クラスター(103~104bp)、ゲノム(>105bp)が含まれ得る。本発明では、化学合成の対象とする核酸は、DNA(オリゴデオキシリボヌクレオチド)及びRNA(オリゴリボヌクレオチド)であり得るが、ビニル基により2’位の水酸基を保護することを目的とするため、核酸はRNAが好ましい。
【0014】
本発明は、2’位をビニル基で保護したホスホロアミダイトユニットを用いることにより高収率で長鎖核酸を合成することができる。本明細書で使用する場合、用語「長鎖」とは、核酸の長さとして、30~300mer、好ましくは50~200merを指す。また、本発明によれば、従来法と比較して、長鎖核酸の収率を少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、又はそれ以上で向上させることができる。
【0015】
本発明のホスホロアミダイトユニット及び該ホスホロアミダイトユニットを用いた長鎖合成法、概して、当該技術分野において当業者に公知である、例えば、PCA法による遺伝子合成、Gibson Assembly法による遺伝子クラスター合成に適用することができる。より具体的には、本発明の長鎖合成法は、公知のCaruthersらのホスホロアミダイト法、その改良法であるKosterらのβ-シアノエチルホスホロアミダイト法又はそれらの改良法の原理に基づく。これらの公知の方法は、縮合反応に用いるヌクレオシド-3’-O-ホスホロアミダイト誘導体を、酸触媒を用いてそのN-N-ジイソプロピルアミノ基に対しプロトンを供与して活性化し、それにより固相担体上に固定された核酸(ヌクレオシド又はポリヌクレオチド)の5’-末端のヌクレオシドの5’-水酸基(5’-末端水酸基)との間で縮合反応を起こさせ、それらを三価リン酸結合により結合させること、及びその三価リン酸結合を酸化して安定な五価リン酸結合にすることに基づくものである。
【0016】
本発明の長鎖合成法では、ヌクレオシド-3’-O-ホスホロアミダイト誘導体又はヌクレオシド-5’-O-ホスホロアミダイト誘導体の全部又は一部に、2’位がビニル基で保護された核酸を用いる点以外は、上記の公知のホスホロアミダイト法によるオリゴヌクレオチド合成法の各工程を実施することでよい。なお、ホスホロアミダイト誘導体を構成する核酸塩基としては、天然核酸塩基であり得、例えば、アデニン、グアニン、シトシン、チミン、又はウラシルが挙げられる。
【0017】
一般的に使用されているβ-シアノエチルホスホロアミダイト法による典型的なオリゴヌクレオチド固相合成サイクルを以下に示す。下記「Pro」は、2’位の水酸基の保護基を表す。
【0018】
【0019】
上記に示されるように、ホスホロアミダイト法は、(1)脱保護→(2)縮合(カップリング)→(3)キャッピング→(4)酸化の4工程を固相担体表面で連続的に繰り返し、1サイクル毎に1つの塩基を3’→5’の方向に伸長する。本発明では、ホスホロアミダイトによって核酸の3’位の水酸基を保護することにより、5’→3’の方向に塩基を伸長することができる。
【0020】
DNA合成におけるホスホロアミダイト法は、150塩基程度の長さの配列を安定的に合成できる手法であるが、RNAの合成においては最長でも130塩基程度で、実際に安定的に合成できる鎖長は60塩基ほどとされている。この重大な差異の主な原因として、ホスホロアミダイトの2’-水酸基の保護基の存在が挙げられる。前提として、2’-保護基はオリゴヌクレオチド合成を通して安定である必要があり、DMTr基除去時の酸性条件や、塩基部脱保護や切り出し時の塩基性に影響を受けてはいけない。RNAは塩基性条件もしくは強酸性条件で、リン酸ジエステル結合の転位や、ヌクレオチド鎖切断等の重篤な副反応を起こすことが知られている(下記参照)。そのため、2’-保護基は合成中や切り出し条件で脱離しないことや、穏和な条件で脱保護可能である必要がある。
【0021】
【0022】
また、2’-水酸基はホスホロアミダイトがカップリングする反応部位に非常に近いため、立体的に大きい保護基であると鎖伸長反応に大きく干渉し、カップリング効率が低下してしまう。それ故、2’-保護基は3’-位に影響を及ぼしにくい立体構造の保護基が望ましい。加えて、2’-水酸基選択的に修飾基を導入することは難しく、通常は生成が困難な2’,3’-保護体を分離する必要がある(下記参照)。そのため、2’-選択的な修飾が可能な保護基が求められる。
【0023】
【0024】
これまでに、RNA合成用に様々な2’-保護基が開発されてきたが、その中で最も広く使用されているのはtert-ブチルジメチルシリル(TBDMS)基である。TBDMS基は、鎖伸長中に安定であるが、カップリング反応速度が極端に遅い(600秒以上)問題が挙げられた。これは、TBDMS基が嵩高い保護基であることに起因している。また、脱保護時にフッ化物イオンを使用するため、マイクロアレイ法やガラスビースを用いた合成に特別な注意を払う必要がある。他の保護基として、立体障害を少なくしたトリイソプロピルシリルオキシメチル(TOM)基はより短いカップリング時間(90秒)で高いカップリング効率(99.3%)を示している。さらに、酸で脱保護可能なビス(2-アセトキシエトキシ)メチル(ACE)基や、光で脱保護可能な(2-ニトロベンジル)オキシメチル(NBOM)基や、最も長鎖の合成の報告がある2-シアノエトキシメチル(CEM)基など様々な保護基が存在する(下記参照)。しかし、CEM基であっても130塩基の合成しか行われておらず20)、mRNA医薬や、U1 snRNAの化学合成には不十分であると考えられる。
【0025】
【0026】
そこで本発明者らは上記の課題を解決すべく、全く新しい2’-保護基としてビニ
ル基の使用を検討した。ビニル基は、TBDMS基やCEM等の保護基と比較して、立体的に最も小さい保護基であり、高いカップリング効率が見込めるため、mRNAやU1 snRNAのような長鎖RNAを合成できる可能性があると考えられた(下記参照)。
【0027】
【0028】
また、ビニル基は塩基性条件で安定であることと、0.4M酢酸程度の酸やテトラジンに対して不安定であることが報告されている。そのため、アンモニア水を用いる固相担体からの切り出し時に安定でありながら、非常に穏和な条件での脱保護が可能であると考えられる。このことから、前述のリン酸ジエステル結合の転位やヌクレオチド鎖切断等の副反応を起こさない有用な保護基であることが示唆される。加えて、Gallagherら(Gallagher, W. P.; Deshpande, P. P.; Li, J.; Katipally, K.; Sausker, J. Org. Lett. 2015, 17, 14-17)により、2’,3’-メチルアセタールを経由したビニル基の2’-水酸基選択な導入法が報告されており、ホスホロアミダイトユニット自体も効率よく入手可能であることが予想し得る(下記参照)。
【0029】
【0030】
(1)2’位をビニル基で保護したヌクレオシド-O-ホスホロアミダイト誘導体
本発明によれば、ホスホロアミダイト法に基づく核酸の化学合成に使用するための、5炭糖の2’位をビニル基で保護したヌクレオシド-O-ホスホロアミダイト誘導体が提供される。ホスホロアミダイト法は、上記に概説した通りであり、従来のホスホロアミダイトユニットの全部又は一部を、本発明の2’位をビニル基で保護したヌクレオシド-O-ホスホロアミダイト誘導体(ホスホロアミダイトユニット)に置換して使用される。
【0031】
本発明のホスホロアミダイトユニットは、下記の一般式で表されることが好ましい。なお、式(I-1)で表される化合物は、2’位がビニル基で保護されたヌクレオチド-3’-O-ホスホロアミダイト誘導体であり、一方、式(I-2)で表される化合物は、2’位が保護基で保護されたヌクレオチド-5’-O-ホスホロアミダイト誘導体である。
【0032】
【0033】
上記式中、Bは、天然核酸塩基又は保護基で保護された天然核酸塩基であり得る。「天然核酸塩基」とは、通常の核酸配列に含まれる核酸塩基を指し、アデニン、グアニン、シトシン、チミン、及びウラシルが含まれる。「保護された天然核酸塩基」とは、天然核酸塩基中にアミノ基が存在する場合は、該アミノ基が保護基によって保護された核酸塩基を指す。「アミノ基を保護する基」には、限定されないが、PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS、第3版、JOHN WILLY&SONS出版(1999年)等に記載されている保護基であってもよい。「アミノ基の保護基」の例としては、例えば、ピバロイル基、ピバロイロキシメチル基、トリフルオロアセチル基、フェノキシアセチル基、4-イソプロピルフェノキシアセチル基、4-tert-ブチルフェノキシアセチル基、アセチル基、ベンゾイル基、イソブチリル基、ジメチルホルムアミジニル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0034】
R1は、水素原子又は水酸基の保護基であり得る。「水酸基の保護基」としては、上記の天然核酸塩基に存在する水酸基を保護基であってもよい。「水酸基を保護する保護基」には、限定されないが、ジメトキシトリチル基(DMTr)、ニトロベンジル基、ニトロフェニルエチルエステル基(NPE)、ジメトキシニトロベンジルエステル基(DMNB)、ブロモヒドロキシクマリン(Bhc)基、ジメトキシベンゾイン基、2-ニトロピペロニルオキシカルボニル(NPOC)基、2-ニトロベラトリルオキシカルボニル(NVOC)基、5’-(α-メチル-2-ニトロピペロニル)オキシカルボニル(MeNPOC)基、2-(2-ニトロ-4-エチル-5-チオフェニルフェニル)プロピルオキシカルボニル(PhSNPPOC)基、α-メチル-2-ニトロベラトリルオキシカルボニル(MeNVOC)基、2,6-ジニトロベンジルオキシカルボニル(DNBOC)基、α-メチル-2,6-ジニトロベンジルオキシカルボニル(MeDNBOC)基、1-(2-ニトロフェニル)エチルオキシカルボニル(NPEOC)基、1-メチル-1-(2-ニトロフェニル)エチルオキシカルボニル(MeNPEOC)基、9-アントラセニルメチルオキシカルボニル(ANMOC)基、1-ピレニルメチルオキシカルボニル(PYMOC)基、3’-メトキシベンゾイニルオキシカルボニル(MBOC)基、3’,5’-ジメトキシベンゾイルオキシカルボニル(DMBOC)基、7-ニトロインドリニルオキシカルボニル(NIOC)基、5,7-ジニトロインドリニルオキシカルボニル(DNIOC)基、2-アントラキノニルメチルオキシカルボニル(AQMOC)基、α,α-ジメチル-3,5-ジメトキシベンジルオキシカルボニル基、5-ブロモ-7-ニトロインドリニルオシキカルボニル(BNIOC)基、tert-ブチルジメチルシリル(TBDMS)基、トリイソプロピルシリルオキシメチル(TOM)基、2-シアノエトキシメチル(CEM)基、光機能性保護基(例えば、2-(4-エチル-2-ニトロ-5-チオフェニルフェニル)プロポキシカルボニル(SPOC)基)等が挙げられる。
【0035】
R2は、-N(R4)2(R4は、独立して、C1~6アルキル基、または窒素、硫黄及び酸素からなる群から選択される3個までのヘテロ原子を有する4~7員環のへテロシクロアルキル若しくはヘテロシクロアルケニルである)、モルホリノ基、又はジアルキルアミノ基であり得る。本明細書で使用される場合、用語「アルキル基」とは、直鎖、分枝鎖又は環状の1価の脂肪族飽和炭化水素基を指し、好ましくは炭素原子数1~6のアルキル基、より好ましは炭疽原子数1~3のアルキル基である。「アルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0036】
R3は、リン酸基の保護基であり、例えば、2-シアノエチル基、2-トリメチルシリルエチル基、ニトロフェニルエチル基、又は2-ニトロエチル基であり得る。本発明では、保護基の脱離容易性の点から、酸性条件下では脱離しないが塩基性条件下で容易に脱離する保護基が好ましく、2-シアノエチル基がより好ましい。
【0037】
これまでに、ホスホロアミダイト法を用いた核酸合成において使用されているホスホロアミダイトユニットでは、2’位の保護基としてシリル系(例えば、TBDMS)、オキシメチレン系(例えば、TOM)、又はオキシメチレンシアン系(例えば、CEM)が使用されてきた。しかしながら、RNA固有の性質に起因して、RNA化学合成における2’-保護基の適切な選択は重要な課題である。RNA鎖は、塩基性条件下においては不安定であることが知られ、塩基性条件下では2’-保護基の脱離に伴って、3’位から2’位へのリン酸基の転位が見られ、RNA鎖が切断されることがある。また、ホスホロアミダイトユニットのカップリング反応において、保護された2’位部分が立体障害の原因となり、カップリング効率の低下、即ち、所望のRNA鎖の収率が低くなることがある。さらに、モノマーユニットの合成時における2’位の選択性が低くなり、精製を困難にさせることもある。
【0038】
本発明のホスホロアミダイトユニットは、2’位の保護基である、従来のTBDMSやCEMなどとは異なり、分子の嵩高さが非常に小さいビニル基を使用するため、カップリング反応における立体障害を最小限に抑えることができる。また、穏和な条件下で脱保護をすることもでき、塩基性条件下であっても非常に安定である。さらに、モノマーユニット合成時の選択性が高い(95%以上)こともまた特徴的である。
【0039】
例えば、脱保護として、式(I-1)又は(I-2)中の置換基R1にSPOC基などの光機能性保護基を選択することにより、塩基性条件下で安定であるだけでなく、より穏和な条件下(すなわち、光照射)で容易に脱保護をすることが可能である。
【0040】
後述する実施例1では、典型例として、天然核酸塩基としてウリジンを有し、2’位をビニル基で保護したモノマーユニットとして2’-O-ビニルウリジンを合成する手法を開示するが、これらの合成法に限定されず、所望の核酸塩基を有する該モノマーユニットを合成することは当業者に容易に理解される。実施例1の手法は、環状シリルエーテルを経由して、2’-O-ビニルウリジンを合成しているが、その他に、2’、3’-メチルアセタールを経由した合成法を用いてもよい。
【0041】
後述する実施例2では、上記で作製した2’-O-ビニルウリジンを出発原料として、ホスホロアミダイトユニットを合成する手法を開示する。
【0042】
(2)長鎖核酸合成
本発明によれば、本発明のホスホロアミダイトユニットを用いて、長鎖核酸を合成する方法が提供される。なお、当業者に理解されるように、核酸配列中に核酸を導入する数及び核酸の種類は、合成の目的とする核酸配列に応じて適宜、決定することができる。また、上記の通り、ホスホロアミダイト法は、固相担体上で(1)脱保護→(2)縮合(カップリング)→(3)キャッピング→(4)酸化の4工程を連続的に行うものであるが、1塩基分の鎖伸長反応を完了する過程を1サイクルとし、それを目的の鎖長に達するまで繰り返し行うことにより、目的の核酸配列を得ることができる。
【0043】
当業者に理解されるように、核酸配列の固相合成に使用される固相担体として、種々の形態及び組成を有することができ、天然に存在する材料(天然材料)、合成により修飾された天然材料、又は合成材料から得ることができる。例えば、シリコン;ガラス(例えば、微小多孔質ガラス、多孔質ガラス(例えば、コントロールポアドガラス(CPG)など);金属(例えば、金、プラチナなど);フェライトを芯にグリシンメタクリレートで表面を覆った磁性ビーズ;プラスチック(例えば、ポリエチレングリコール樹脂、シリカゲル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂);多糖(例えば、アガロース、デキストラン、ニトロセルロースなど);ポリアクリルアミド;ポリビニルアルコール;ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートとのコポリマーなどが挙げられる。固相担体の形状としては、板状(基板状)、ビーズ状、糸状、球状、多角形状、粉末状など、任意の形状のものであってもよい。また、固相担体は、任意の形態で用いることができるが、DNA/RNA自動合成装置等では、カラム等の容器に充填した形態で用いることが好ましい。また、上記と関連して、使用される固相担体として、従来よりDNAチップ及び遺伝子検出用マイクロアレイを製造するために用いられているものを特に制限なく用いることができる。
【0044】
ヌクレオシドの固相担体上への固定は、常法により行うことができ、例えば、好ましくはリンカーを介して行うことができる。具体的には、ヌクレオシドを固定した固相担体は、固相担体上のシラノール水酸基にアミノプロピル基等のアミノアルキル基が導入されたものにヌクレオシド-3’-O-サクシニル体が結合されたものでもよい。あるいは、保護ヌクレオシドにQリンカーを用いて固相担体に導入したものでもよいし、ヌクレオシドのアミダイト体を固相担体ユニバーサルサポートに導入したものも公知技術として本発明において利用することができる。
【0045】
以下、前述のホスホロアミダイト法の反応工程を、典型例を用いて簡単に説明する。
(a)脱保護工程
固相担体上に固定された核酸(オリゴヌクレオチド又はヌクレオシド)を酸処理することにより、その核酸の5’-末端のヌクレオシドの5’-水酸基(以下、単に「5’-水酸基」とも呼ぶ)の保護基を酸性条件下で脱離(脱保護)させ、この5’-水酸基を遊離状態とする。5’-水酸基の保護基は、限定されないが、一般的にはジメトキシトリチル基(DMTr)である。5’-水酸基からのジメトキシトリチル基の脱離は、限定されはないが、好ましくは、3%トリクロロ酢酸-ジクロロメタン溶液又は3%ジクロロ酢酸-ジクロロメタン溶液を用いることができる。
【0046】
(b)縮合工程(カップリング工程)
上記脱保護工程で脱保護された5’-水酸基を有する固相担体上の核酸に、次に該核酸に連結させるべきヌクレオシド-3’-O-ホスホロアミダイト誘導体と、活性化剤である酸触媒とを添加する。この結果、ヌクレオシド-3’-O-ホスホロアミダイト誘導体は、酸触媒により活性化され、それに固相担体上の核酸の遊離5’-水酸基が反応して、両者は縮合反応により連結されることになる。この縮合反応により生じる結合は、三価のリン酸結合である。
【0047】
酸触媒としては、限定されないが、1H-テトラゾール、5’-エチルチオ-1H-テトラゾール、ベンチルチオ-1H-テトラゾール、ジシアノイミダゾール、サッカリン/1-メチルイミダゾールなどの公知の酸触媒(活性化剤)を使用することができる。酸触媒は、アセトニトリル等の溶媒に溶解させた溶液として添加することが好ましく、その酸触媒溶液は0.1M~0.45M、好ましくは0.25M~0.45Mで調製したものを用いることができるが、この濃度に限定されるものではなく、当業者が適宜調節可能である。
【0048】
(c)キャッピング工程
上記縮合工程後、固相担体上のヌクレオシドの未反応の5’-水酸基を、脱保護工程で脱保護するものとは別の保護基で保護することにより、不活性化(すなわち、キャッピング)することができる。
【0049】
ホスホロアミダイト法はこれまでに開発されたリン酸エステル縮合反応の中では最も活性があり、98~99%の5’-水酸基と反応する。その結果、固相担体上にはわずかに未反応の5’-水酸基を有するヌクレオシドが残存することになるが、これは次の鎖長伸長反応サイクルで伸長反応を生じると分離し難い不純物となるため、未反応の遊離な状態の5’-水酸基を有する未反応のヌクレオシド又はヌクレオチドを次のサイクルに持ち越さないようにする、キャッピングにより未反応の5’-水酸基を不活性化して伸長反応を停止させることが好ましい。
【0050】
キャッピングは、公知の方法で行うことができるが、一般的には、その未反応の5’-水酸基をアセチル化することにより行うことが好ましい。未反応の5’-水酸基のアセチル化は、限定されないが、無水酢酸又は無水フェノキシ酢酸によるアセチル化を利用することができる。また、未反応の5’-水酸基のキャッピングには、非塩基不安定性試薬(例えば、UniCap)を使用して達成され、脱保護後、ヌクレオチド配列上に遊離水酸基ではなくリン酸基を残すことができる。
【0051】
上記の例において、未反応の5’-水酸基のキャッピングのためには、例えば、無水酢酸を含む溶液を、反応時に生じる酢酸と塩形成させるための塩基性触媒と共に固相担体に添加することが好ましい。無水酢酸を含む溶液と、塩基性触媒である1-メチルイミダゾール等を含む溶液は、別々に調製してキャッピング工程の際に用時調製することが好ましい。無水酢酸とともに添加される塩基性触媒としては、限定されないが、1-メチルイミダゾール、ピリジン、2,6-ルチジンなどが挙げられる。無水酢酸及び塩基性触媒は、各々、適切な溶媒(例えば、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル等)に溶解した溶液として添加すればよい。
【0052】
(d)酸化工程
上記縮合工程で鎖伸長されたヌクレオチドの三価のリン酸結合を、酸化試薬を固相担体に添加することにより酸化し、安定な五価の正リン酸結合に変換する。三価のリン酸結合(三価リン酸トリエステル結合)は加水分解されやすく不安定なためである。酸化試薬としては、公知の酸化試薬を用いることができるが、例えば、ヨウ素を含む水性溶液又は過酸化物などを好適に使用することができる。具体例としては、0.02Mヨウ素-ピリジン溶液を水性溶媒又は有機溶媒に溶解した溶液、例えば、ヨウ素-ピリジン-水-テトラヒドロフラン溶液、(1S)-(+)-(10-カンファースルホニル)オキサジリジン、t-ブチルハイドロパーオキシド-メチレンクロリドなどの過酸化物を用いることができるが、これに限定されない。
【0053】
核酸塩基の種類を変更して、上記工程(a)~(d)を繰り返すことにより、所望の核酸配列を得ることができる。
【0054】
上記のホスホロアミダイト法は、縮合反応はP-N結合を有するホスホロアミダイトユニットを活性化することにより行われ、反応も迅速にできることから、今日のDNA/RNA自動合成機に採用されている。
【0055】
(3)2’-O-ビニル保護を利用したRNAの合成後修飾
ビニル基を用いた核酸合成法の他にはない利点として、アルケンの反応性の高さを利用して、核酸合成後に修飾を加えることができる。飽和炭化水素エーテル系の2’-保護基は追加の反応を起こし難いが、末端アルケンであるビニル基は様々な付加反応し得る。本発明によれば、ビニル基に対してUV照射下でジメトキシフェニルアセトフェノン(DMPA)を反応させることで、チオール-エン-クリック反応により付加させることでき、また、p-トルエンスルホン酸(PTSA)触媒下でチオールやアルコールを反応させ、アセタール結合を介して修飾を加えることができる。このように本発明のアミダイトユニットは、分子内にビニル基を有することから、該ビニル基と、チオール、アルコール、又は他の任意の化合物との反応を介して様々な合成後修飾を行うことができる。
【実施例0056】
以下、本発明を実施例に基づいて、より具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0057】
本実施例で使用した試薬及び機器は以下の通りである。
有機合成試薬、有機溶媒
和光純薬工業、東京化成工業、関東化学、Sigma-Aldrich、Funakoshiより購入した。
シリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)
順相TLCとしてMerck社製Kieselgel 60 F245を用いた。展開溶媒には、CH2Cl2:CH3OH系、CH2Cl2:EtOAc系、n-ヘキサン:CH2Cl2系、n-ヘキサン:EtOAc系を用い、必要であればピリジンまたはトリエチルアミンを添加した。化合物の検出には、UV(254nm)、発色試薬として5%硫酸CH3OH溶液、アニスアルデヒドを用いた。
シリカゲルカラムクロマトグラフィー
Wakogel C-200(和光純薬工業)、中性シリカゲル60N(関東化学)、Purif-Pack-EX SI-25(昭光サイエンス)を試料に対し、約10-50倍量を用いて精製した。溶出溶媒には、TLCで用いた展開溶媒と同様な混合溶媒や必要があればピリジンまたはトリエチルアミンを0.5-1.0%添加した。
【0058】
リサイクル分取HPLC
日本分析工業社製LC-9201またはLC-5060にゲル濾過カラム(GS-310)を接続し用いた。溶出溶媒には、CH2Cl2、CH3CNなどを用いた。
1
H NMRスペクトル
Varian AS500(500MHz)を用いた測定した。内部標準として、測定溶媒に由来するピークを基準とした。(DMSO:2.50、CDCl3:7.26、CD3OD:3.31、CD3CN:1.94、ピリジン:8.74ppm)
13
C NMRスペクトル
Bruker biospin・AVNCE III 400(100MHz)を用いて測定した。内部標準として、測定溶媒に由来するピークを基準とした。(DMSO:39.52、CDCl3:77.16ppm)
31
P NMRスペクトル
Bruker biospin・AVNCE III 400(161MHz)を用い測定した。85%正リン酸を外部標準として用いた。
DNA/RNA自動合成機、DNAオリゴマー
大日本精機のns-8IIを使用した。必要な試薬は、Glen Reserch Inc.より購入した。本論文において合成した修飾体ホスホロアミダイトユニットは、乾燥CH3CN(0.1M)に溶解しDNA合成機に導入した。また、未修飾のオリゴヌクレオチドは、Integrated DNA Technologiesより購入して用いた。
【0059】
逆相-HPLC
Waters 2695またはShimadzu LC2050C 3Dを接続して用いた。カラムは、XBridge(商標)C18 5μm(4.6×150mm)を用いた。分取精製は、Shimadzu SIL-10APにLC-6AD、CBM-20A、SPD-M20Aを接続し、カラムとしてXBridge(商標)Prep C18 5μm(10×250mm)を用いた。カラム温度40℃において、0.03M酢酸アンモニウム水溶液(pH7.0)に対し、CH3CNを加え、濃度勾配をかけて流した。
陰イオン交換HPLC
Shimadzu LC-2030C 3D plusを接続して用いた。カラムは、DIONEX社製DNAPak(商標)PA-100(4×250mm)を用いた。分取精製は、Shimadzu SCL-10にLC-10AD、CTO-10A、SPD-M10Aを接続して用いた。カラム温度50℃において、溶出溶媒として25mMリン酸ナトリウム水溶液(pH6.0)に対し、1M塩化ナトリウム-25mMリン酸ナトリウム水溶液(pH6.0)を加え濃度勾配をかけて流した。分取した際には、必要に応じてSep-pak Cartridge(C18)を用いて脱塩操作を行った。
ゲル電気泳動撮影
フルオロ・イメージアナライザーGEHealthcare Typhoon FLA 9500を用いて、ポリアクリルアミドゲル電気泳動後の写真を撮影した。
【0060】
実施例1:2’-O-ビニルウリジンの合成
本実施例では、2’-O-ビニル 3’-ホスホロアミダイトの合成に際し、その前駆体である2’-O-ビニルウリジンの合成を行った。ここでは、ウリジンの2’-水酸基をビニル化する手法として、2通りの経路を用いた。第1は、下記のスキーム1に示すような環状シリルエーテルを経由し、ビニル基を導入する経路を設計した。Markiewiczらが報告したこのシリル保護基はヌクレオシド2’-水酸基選択的に修飾基を導入する手法として広く用いられている(Markiewicz, W. T.; Wiewiorowski, M. Nucleic Acids Res. 1978, 5, s185-s190)。また、ビニル化の方法としてDujardinらの報告した、ブレンステッド酸を触媒とするエチルビニルエーテル(EVE)を用いた2段階のビニル化反応(Dujardin, G.; Rossignol, S.; Brown, E. Tetrahedron lett. 1995, 36, 1653-1656)を採用した。
【0061】
【0062】
2つ目として、下記のスキーム2に示すような2’,3’-メチルアセタールを経由し、ビニル基を導入する経路を設計した。この経路は、Hoyeらが報告した環状アセタールの開環を伴うビニル化反応(Rychnovsky, S. D.; Hoye, R. C. J. Am. Chem. Soc. 1994, 116, 1753-1765)を元に、Gallagherらがヌクレオシド2’-水酸基選択的なビニル基導入法として開発した反応(Gallagher, W. P., et al.、2015、前掲)を採用した。
【0063】
【0064】
(1)環状シリルエーテルを経由した、2’-O-ビニルウリジンの合成
環状シリルエーテルを経由したスキーム1での合成を試みた。ウリジンを出発原料に、Markiewiczらの報告(前掲)に従い、1.2当量の1,3-ジクロロ-1,1,3,3-テトライソプロピルジシロキサンを用いて、3’,5’-水酸基を保護した化合物1-1を収率72%で得た。次いで、(パラトルエンスルホン酸ピリジニウム)PPTS存在下で5.0当量のエチルビニルエーテルを反応させ、中間体化合物1-2を得たのちに、ルイス酸触媒として(トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル)TMSOTfを4.0当量加えることでビニル基へと変換し、化合物1-3を2工程61%の収率で合成した。最後に、Et3N-3HFを1.3当量加え、シリル保護の脱保護を行うことで、目的物である2’-O-ビニルウリジン(化合物1-4)を収率83%で合成した(下記の合成経路参照)。
【0065】
【0066】
(a)3’,5’-O-(1,1,3,3-テトライソプロピル-1,3-ジシロキサンジイル)ウリジンの合成
【0067】
【0068】
ウリジン(5.00g、20.5mmol)を乾燥ピリジン(5ml)で3回共沸したのち、アルゴン雰囲気下で乾燥ピリジン(100ml)に溶解させ、0℃で10分間撹拌した。その後、1,3-ジクロロ-1,1,3,3-テトライソプロピルジシロキサン(7.86ml、24.6mmol)を加え、0℃で20時間反応させた。次に、水(5ml)を加え反応を停止させ、反応液にEtOAc(400ml)を加え、水(400ml)と飽和食塩水(400ml)で洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥した後、溶媒を減圧留去し粗精製物を得た。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(C-200,n-ヘキサン:EtOAc)で精製し、化合物1-1(7.18g、72%)を得た。
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 0.96-1.15 (m, 28H), 2.85 (d, J =1.4 Hz, 1H), 4.01 (dd, J = 13.2, 2.9 Hz, 1H), 4.09 (dt, J = 8.7, 2.4 Hz, 1H), 4.15-4.22 (m, 2H), 4.40 (dd, J = 8.7, 5.0 Hz, 1H), 5.68 (dd, J = 8.5, 1.9 Hz, 1H), 5.72 (s, 1H), 7.65 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 8.04 (br-s, 1H).
【0069】
(b)3’,5’-O-(1,1,3,3-テトライソプロピル-1,3-ジシロキサンジイル)-2’-O-ビニルウリジンの合成
【0070】
【0071】
化合物1-1(7.18g,14.8mmol)をアルゴン雰囲気下で乾燥CH2Cl2(30.0ml)に溶解させた。次いで、エチルビニルエーテル(7.07ml、73.8mmol)、PPTS(372mg,1.48mmol)を加え、室温で19時間撹拌した。その後、反応液にCH2Cl2(400ml)を加え、飽和重曹水(400ml)で洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥したのち、溶媒を減圧留去し、化合物1-2の粗精製物を得た。
【0072】
得られた化合物1-2の粗製精物を乾燥CH2Cl2(59.2ml)に溶解させ、Et3N(19.4ml、141mmol)を加え、0℃で10分間撹拌した。その後、TMSOTf(10.7ml,59.2mmol)を加えて0℃で20時間反応させた。反応液にCH2Cl2(50ml)を加え、NH4OAc(5.93g、77.0mmol)を含む水(77ml)で洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥したのち、溶媒を減圧留去し粗精製物を得た。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(C-200、n-ヘキサン:EtOAc)で精製し、化合物1-3(4.62g、61%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 0.88-1.16 (m, 28H), 3.97 (d, 1H), 4.14-4.19 (m, 2H), 4.22-4.31 (m, 3H), 4.57 (d, J = 13.9 Hz, 1H), 5.69 (d, J = 8.3 Hz, 1H), 5.76 (s, 1H), 6.52 (dd, J = 13.9, 6.4 Hz, 1H), 7.89 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 8.46 (s, 1H).; 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 12.7, 13.0, 13.3, 13.6, 16.9, 17.1, 17.1, 17.2, 17.4, 17.4, 17.5, 17.6, 59.6, 68.1, 81.9, 82.1, 88.8, 91.2, 101.9, 139.8, 150.0, 150.9, 163.5.; HRMS (ESI) m/z: [M+Na]+ calcd for C23H40N2NaO7Si2 535.2266; found 535.2275.
【0073】
(c)2’-O-ビニルウリジンの合成
【0074】
【0075】
化合物1-3を出発原料とする経路と、化合物1-5を出発原料とする経路の2通りの手法で合成した。
【0076】
経路1:化合物1-3(4.62g、9.01mmol)を乾燥THF(60.0ml)に溶解させ、Et3N(6.21ml、45.1mmol)を加えて5分間撹拌した。そこへ、トリエチルアミントリヒドロフルオリド(1.91ml、11.7mmol)を添加し、室温で19時間反応させた。その後、反応液にCH2Cl2(200ml)を加え、水(250ml)で5回抽出した。次いで、水層を減圧留去し、化合物1-4の粗精製物を得た。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(C-200、CH2Cl2:MeOH)で精製し、化合物1-4(2.03g,83%)を得た。
【0077】
経路2:化合物1-5(300g、1.11mmol)を乾燥CH2Cl2(4.11ml)に溶解させた。そこへ、Et3N(1.94ml、14.4mmol)、TMSOTf(2.01ml、11.1mmol)を順に加え、45℃で7時間反応させた。その後、反応液を4.3M NH4OAc水溶液(5.16ml)に滴下し、室温で20分撹拌した。反応液にCH2Cl2(50ml)を加え、水(50ml)で洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥したのち、溶媒を減圧留去した。次いで、得られた抽出物をTHF(7.40ml)に溶解させ、Et3N(1.49ml、11.1mmol)、トリエチルアミントリヒドロフルオリド(235μl、1.44mmol)を加えて室温で1時間反応させた。反応液にトリメチルエトキシシラン(1.35ml、8.66mmol)を加えて室温で30分撹拌したのち、溶媒を減圧留去した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(SI-25、CH2Cl2:MeOH)で精製し、化合物1-4(229mg、6%)を得た。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 3.54-3.71 (m, J = 51.6, 2H), 3.89 (dt, J = 4.2, 2.4 Hz, 1H), 4.07 (dd, J = 5.2, 1.6 Hz, 1H), 4.20 (q, J = 4.2 Hz, 1H), 4.33 (dd, J = 11.2, 1.6 Hz, 1H), 4.41 (t, J = 3.6 Hz, 1H), 5.20 (t, J = 4.2 Hz, 1H), 5.37 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 5.66 (dd, J = 6.4, 1.6 Hz, 1H), 5.89 (d, J = 3.6 Hz, 1H), 6.47 (dd, J = 11.2, 5.2 Hz, 1H), 7.94 (d, J = 6.4 Hz, 1H), 11.36 (s, 1H).; 13C NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ 60.2, 67.9, 80.2, 84.8, 86.3, 89.3, 101.9, 140.3, 150.4, 150.9, 163.0.; HRMS (ESI) m/z: [M+Na]+ calcd for C11H14N2NaO6 293.0744; found 293.0748.
【0078】
(d)2’,3’-O-エチリデンウリジンの合成
【0079】
【0080】
ウリジン(3.00g、12.3mmol)に乾燥CH3CN(6.00ml)、H2SO4(40.0μl、0.750μmol)を加えて溶解させた。その後、乾燥CH3CN(6.00ml)に溶解させたアセトアルデヒド(1.03ml、18.4mmol)を加え、室温で22時間撹拌した。析出した固体を吸引濾過し、CH3CN(300ml)で洗浄し、濾物を真空乾燥することで化合物1-5(3.02g、91%)を得た。
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 1.37 (d, J = 4.8 Hz, 3H), 3.50-3.61 (m, 2H), 4.11 (q, J = 4.6 Hz, 1H), 4.66 (dd, J = 6.6, 3.2 Hz, 1H), 4.84 (dd, J = 6.6, 2.7 Hz, 1H), 5.09 (t, J = 4.8 Hz, 1H), 5.15 (q, J = 4.8 Hz, 1H), 5.63 (dd, J = 8.0, 2.2 Hz, 1H), 5.81 (d, J = 2.7 Hz, 1H), 7.81 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 11.39 (s, 1H).
【0081】
(2)2’,3’-メチルアセタールを経由した2’-O-ビニルウリジンの合成
2’,3’-メチルアセタールウリジン(化合物1-5)を経由したスキーム2で2’-O-ビニルウリジンの合成を行った。ウリジンを出発原料として、1.5当量のアセトアルデヒドを反応させ、収率91%で2’,3’-水酸基のアセタール化を行った。その後、10当量のTMSOTfを加え、Et3N-3HFで後処理することで2’-O-ビニルウリジンを76%の収率で合成した(下記の合成経路参照)。
【0082】
【0083】
上記結果より、スキーム1では4工程36%の収率で目的物が得られるのに対し、スキーム2では2工程69%の収率で2´-O-ビニルウリジンを合成でき、2倍近い収率で目的物を合成することに成功した。また、スキーム1で用いる1,3-ジクロロ-1,1,3,3-テトライソプロピルジシロキサンは比較的高価な試薬であるため、スキーム1で2’-O-ビニルウリジンを合成すると合成コストも高くなってしまう。その一方で、スキーム2では比較的安価な試薬のみを用いるため、合成コストの面でも有用な経路を開拓したといえる。
【0084】
過去に用いられてきた2’-水酸基保護基の導入効率は、TOM基で40-60%、2-Nbom基で39%、2-(4-トリルスルホニル)エトキシメチル(TEM)基で26-38%程度と報告されており、それらと比べても同等、もしくはそれ以上の高い効率で2’-水酸基保護ヌクレオシドを得られるとわかった。
【0085】
実施例2:DMTr-2’-O-ビニルウリジン 3’-ホスホロアミダイトの合成
実施例1で合成した2’-O-ビニルウリジンを用いて、DMTr-2’-O-ビニルウリジン 3’-ホスホロアミダイトの合成を行った。下記のスキーム3に示すように、2’-O-ビニルウリジンを出発原料に、ピリジン溶媒下で1.2当量のDMTr-Clを反応させ、化合物1-6を収率95%で得た。次に、1H-テトラゾールを触媒として1.2当量のホスホロジアミダイトを用いてホスフィチル化することで、目的物であるDMTr-2’-O-ビニルウリジン 3’-ホスホロアミダイトを収率80%で得た。
【0086】
【0087】
(1)SPOC-2’-O-ビニルウリジン 3’-ホスホロアミダイトの合成
DMTrアミダイトと同様に、2’-O-ビニルウリジンへ5’-水酸基保護基を導入する下記に示すような経路を設計し、合成を行った。2’-O-ビニルウリジンを出発原料に、ジクロロメタン-ピリジン混合溶媒下で1.0当量のSPOC-Clを反応させた。その結果、驚くべきことに、5’-付加体(化合物1-9)ではなく3’-付加体(化合物1-9-3’)が主生成物として得られることがわかった(下記参照)。しかし、目的としている5’-付加体の収率が極めて低いため、下記経路はSPOC-2’-O-ビニルウリジンを合成する経路としては適さないと考えられる。
【0088】
【0089】
そこで、新たに下記に示す2’,3’-メチルアセタールに対してSPOC-Clを反応させる合成経路を設計した。この経路であれば、確実に5’-水酸基にSPOCを導入させることができ、より効率的にホスホロアミダイトを合成可能になると予測された。
【0090】
【0091】
下記のスキーム4に従い、SPOC-2’-O-ビニルウリジン 3’-ホスホロアミダイトの合成を行った。化合物1-5を出発原料に、ピリジン-ジクロロメタン混合溶媒下で1.2当量のSPOC-Clを加え反応をかけ、化合物1-8を収率65%で得た。その後、トリエチルアミン存在下で10当量のTMSOTfを反応させ、化合物1-9を収率32%で合成した。次いで、定法に従い、1.2当量のホスホロジアミダイトを用いてホスフィチル化し、収率39%で目的物であるSPOC-2’-O-ビニルウリジン 3’-ホスホロアミダイトを合成した。
【0092】
【0093】
(a)5’-O-(4,4’-ジメトキシトリチル)-2’-O-ビニルウリジンの合成
【0094】
【0095】
化合物1-4(650mg、2.41mmol)を乾燥ピリジン(1ml)で3回共沸した。その後、アルゴン雰囲気下で乾燥ピリジン(14.2ml)に溶解させ、4,4’-ジメトキシトリメチルクロリド(978mg、2.89mmol)を加えて5時間撹拌した。その後、MeOH(3ml)を加え反応を停止させ、反応液にCH2Cl2(100ml)を加え、飽和重曹水(100ml)で洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥したのち、溶媒を減圧留去し粗精製物を得た。次いで、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(C-200、n-ヘキサン:EtOAc)で精製し、化合物1-6(1.31g、95%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 2.51 (d, J = 7.5 Hz, 1H), 3.51 (qd, J = 11.2, 2.4 Hz, 2H), 3.73 (d, J = 1.5 Hz, 6H), 4.06 (dt, J = 7.4, 2.4 Hz, 1H), 4.24 (dd, J = 6.4, 2.4 Hz, 1H), 4.35 (dd, J = 5.0, 2.2 Hz, 1H), 4.45-4.57 (m, 2H), 5.26 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 5.93 (d, J = 2.1 Hz, 1H), 6.52 (dd, J = 14.0, 6.8 Hz, 1H), 6.77-6.81 (m, 4H), 7.13-7.27 (m, 7H), 7.30-7.35 (m, 2H), 7.93 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 9.64 (br-s, 1H).; 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 55.4, 61.6, 68.8, 81.5, 83.3, 87.3, 87.5, 92.3, 102.5, 113.4, 127.3, 128.2, 130.2, 135.2, 140.2, 144.4, 149.8, 150.3, 158.8, 163.6.; HRMS (ESI) m/z: [M+Na]+ calcd for C32H32N2NaO8 595.2051; found 595.2066.
【0096】
(b)5’-O-(4,4’-ジメトキシトリチル)-2’-O-ビニルウリジン 3’-(2-シアノエチルN,N-ジイソプロピルホスホルアミダイト)の合成
【0097】
【0098】
化合物1-6(1.15g、2.00mmol)を乾燥ピリジン(2ml)で3回、乾燥トルエン(2ml)で3回、乾燥CH2Cl2(2ml)で3回共沸した。その後、アルゴン雰囲気下で乾燥CH3CN(20.0ml)に溶解させ、ジイソプロピルアミン(226μL、1.60mmol)、1H-テトラゾール(115mg、1.60mmol)を加え、1分間撹拌したのちに、2-シアノエチルN,N,N’,N’-テトライソプロピルホスホロジアミダイト(762μL、2.40mmol)を加え、室温で5時間撹拌した。次いで、反応溶液にCH2Cl2(200ml)を加え、飽和重曹水(200ml)で5回洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られた粗精製物をシリカゲルクロマトグラフィー(C-200、n-ヘキサン:EtOAc、1%Et3N含有)で溶出し、目的物を含むフラクションを回収し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をゲル濾過カラムに移し、CH3CNを溶出溶媒としてリサイクル分取を行った。その後、粗精製物をジシソプロピルエーテル-ジエチルエーテル(v/v 1:2)に溶解させ、2%Na2CO3水溶液で5回洗浄し、有機層をNa2SO4で乾燥後、溶媒を減圧留去することで化合物1-7(1.24g、80%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 0.98-1.23 (m, 12H), 2.41 (t, J = 6.2 Hz, 1H), 2.63 (t, J = 6.2 Hz, 1H), 3.41-3.72, 3.83-4.00 (m, 6H), 3.79 (d, J = 3.3 Hz, 6H), 4.16-4.21 (m, 1H), 4.28 (dd, J = 25.0, 7.1 Hz, 1H), 4.42-4.53 (m, 2H), 4.55-4.75 (m, 1H), 5.27 (dd, J = 8.0, 6.4 Hz, 1H), 6.01 (dd, J = 9.0, 2.1 Hz, 1H), 6.55 (ddd, J = 14.0, 6.5, 2.0 Hz, 1H), 6.81-6.91 (m, 4H), 7.21-7.34 (m, 7H), 7.40 (t, J = 8.8 Hz, 2H), 8.01 (dd, J = 21.5, 8.2 Hz, 1H), 9.70 (br-s, 1H).; 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 20.4, 24.7, 43.4, 55.3, 58.3, 61.1, 69.6, 80.3, 81.4, 82.5, 87.2, 88.2, 90.8, 102.4, 113.3, 117.6, 127.3, 128.1, 128.3, 130.3, 135.1, 140.1, 144.3, 150.5, 158.8, 163.7.; 31P NMR (161 MHz, CDCl3) δ 150.8, 150,9.; HRMS (ESI) m/z: [M+Na]+ calcd for C41H49N4NaO9P 795.3129; found 795.3123.
【0099】
(c)2’,3’-O-エチリデン-5’-O-[2-(4-エチル-2-ニトロ-5-チオフェニルフェニル)プロポキシカルボニル]ウリジンの合成
【0100】
【0101】
トリホスゲン(356mg、1.20mmol)を乾燥CH2Cl2(3.00ml)に溶解させ、0℃で10分間撹拌した。そこへ、乾燥CH2Cl2(4.50ml)と2,6-ルチジン(175μl、1.50mmol)に溶解させた2-(4-エチル-2-ニトロ-5-チオフェニルフェニル)プロパノール(356mg、1.50mmol)を10分間かけて滴下し、0℃で2時間反応させた。その後、溶媒を減圧留去し、2-(4-エチル-2ニトロ-5-チオフェニルフェニル)プロピルクロロホルメートの粗精製物を得た。
【0102】
次いで、化合物1-5(486mg、1.80mmol)を乾燥ピリジン(2ml)で3回共沸したのち、アルゴン雰囲気下で乾燥ピリジン(8.00ml)に溶解させ、0℃で10分間撹拌した。そこへ、乾燥CH2Cl2(5.00ml)に溶解させた2-(4-エチル-2-ニトロ-5-チオフェニルフェニル)プロピルクロロホルメートの粗精製物を10分間かけて滴下したのち4-ジメチルアミノピリジン(9.16mg、75.0μmol)を加え、0℃で20時間反応させた。反応液にCH2Cl2(200ml)を加え、飽和重曹水(200ml)、飽和食塩水(200ml)で洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥したのち、溶媒を減圧留去した。その後、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SI-25、n-ヘキサン:EtOAc)で精製し、化合物1-8(602mg,65%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 1.07 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.29 (t, J = 7.5 Hz, 3H), 1.47 (d, J = 4.8 Hz, 3H), 2.78 (q, J = 7.2 Hz, 2H), 3.73 (sext, J = 6.8 Hz, 1H), 3.88-4.14 (m, 2H), 4.24-4.34 (m, 2H), 4.35-4.42 (m, 1H), 4.71-4.78 (m, 1H), 4.91 (dt, J = 7.4, 2.0 Hz, 1H), 5.21 (q, J = 4.7 Hz, 1H), 5.67 (dd, J = 26.8, 8.0 Hz, 1H), 5.73 (s, 1H), 6.86 (s, 1H), 7.27 (dd, J = 9.8, 8.2 Hz, 1H), 7.42 (br-s, 5H), 7.68 (s, 1H), 9.46 (br-d, J = 7.9 Hz, 1H).; 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 13.6, 17.3, 19.9, 26.2, 32.8, 67.4, 72.0, 81.5, 84.9, 85.1, 94.1, 102.9, 106.0, 124.2, 127.5, 129.1, 130.0, 131.9, 133.8, 135.0, 141.6, 142.1, 143.9, 147.7, 150.2, 154.5, 163.4.; HRMS (ESI) m/z: [M+Na]+ calcd for C29H31N3NaO10S 636.1622; found 636.1634.
【0103】
(d)5’-O-[2-(4-エチル-2-ニトロ-5-チオフェニルフェニル)プロポキシカルボニル]-2’-O-ビニルウリジンの合成
【0104】
【0105】
化合物1-4を出発原料とする経路と、化合物1-8を出発原料とする経路の2通りの手法で合成した。
【0106】
経路1:トリホスゲン(132mg、444μmol)を乾燥CH2Cl2(2.00ml)に溶解させ、0℃で10分間撹拌した。そこへ、乾燥CH2Cl2(3.55ml)と2,6-ルチジン(64.7μl、555μmol)に溶解させた2-(4-エチル-2-ニトロ-5-チオフェニルフェニル)プロパノール(176mg、555μmol)を10分間かけて滴下し、0℃で3時間反応させた。溶媒を減圧留去し、2-(2-ニトロ-4-エチル-5-チオフェニルフェニル)プロピルクロロホルメートの粗精製物を得た。
【0107】
次いで、化合物1-4(150mg、555μmol)を乾燥ピリジン(1ml)で3回共沸したのち、アルゴン雰囲気下で乾燥ピリジン(2.96ml)に溶解させ、-20℃で10分間撹拌した。そこへ、乾燥CH2Cl2(1.85ml)に溶解させた2-(2-ニトロ4-エチル-5-チオフェニルフェニル)プロピルクロロホルメートの粗精製物を10分間かけて滴下したのち、4-ジメチルアミノピリジン(3.39mg、27.8μmol)を加え、-20℃で3時間反応させた。反応液にCH2Cl2(50ml)を加え、飽和重曹水(50ml)、飽和食塩水(50ml)で洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥したのち、溶媒を減圧留去した。その後、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SI-25、CH2Cl2:EtOAc)で精製し、化合物1-9(62.7mg,18%)を得た。
【0108】
経路2:化合物1-8(3.14g,5.12mmol)を乾燥ピリジン(3ml)で3回、乾燥トルエン(3ml)で3回、乾燥CH2Cl2(3ml)で3回共沸したのち、乾燥CH2Cl2(19.0ml)に溶解させた。そこへ、Et3N(8.93ml、66.6mmol)、TMSOTf(9.27ml、51.2mmol)を順に加え、45℃で6時間反応させた。その後、反応液を4.3M NH4OAc水溶液(23.8ml)に滴下し、室温で20分撹拌した。反応液にCH2Cl2(300ml)を加え、水(300ml)で洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥したのち、溶媒を減圧留去した。次いで、得られた抽出物をTHF(34.1ml)に溶解させ、Et3N(6.87ml、51.2mmol)、トリエチルアミントリヒドロフロリド(1.08ml、6.66mmol)を加えて室温で1時間反応させた。反応液にトリメチルエトキシシラン(6.24ml、39.9mmol)を加えて室温で30分撹拌したのち、溶媒を減圧留去した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(SI-25、CH2Cl2:EtOAc)で精製し、化合物1-9(990mg、32%)を得た。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 1.05 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.20 (t, J = 7.5 Hz, 3H), 2.75 (q, J = 7.4 Hz, 2H), 3.53 (sext, J = 6.5 Hz, 1H), 3.97-4.05 (m, 2H), 4.05-4.09 (m, 1H), 4.10-4.20 (m, 2H), 4.20-4.27 (m, 1H), 4.29-4.38 (m, 1H), 4.50 (q, J = 4.7 Hz, 1H), 5.53 (ddd, J = 13.8, 8.1, 1.7 Hz, 1H), 5.59 (dd, J = 6.2, 2.0 Hz, 1H), 5.84 (t, J = 3.3 Hz, 1H), 6.47 (dd, J = 14.1, 6.6 Hz, 1H), 7.07 (s, 1H), 7.37-7.51 (m, 5H), 7.60 (dd, J = 11.2, 8.1 Hz, 1H), 7.81 (s, 1H), 11.42 (s, 1H).; 13C NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ 13.6, 17.1, 25.5, 32.4, 67.0, 68.3, 70.9, 79.2, 80.7, 87.6, 89.4, 102.1, 124.0, 128.4, 128.7, 130.0, 131.6, 132.5, 134.6, 140.5, 141.7, 142.0, 147.8, 150.2, 150.8, 153.9, 162.9.; HRMS (ESI) m/z: [M+Na]+ calcd for C29H31N3NaO10S 636.1622; found 636.1636.
【0109】
(e)5’-O-[2-(4-エチル-2-ニトロ-5-チオフェニルフェニル)プロポキシカルボニル]-2’-O-ビニルウリジン 3’-(2-シアノエチルN,N-ジイソプロピルホスホルアミダイト)の合成
【0110】
【0111】
2-シアノエチル N,N,N’,N’-テトライソプロピルホスホロジアミダイトを使用する経路と、2-シアノエチル N,N-ジイソプロピルクロロホスホロアミダイトを使用する経路の2通りの手法で合成した。
【0112】
経路1:化合物1-9(228mg、371μmol)を乾燥ピリジン(1ml)で3回、乾燥トルエン(1ml)で3回、乾燥CH2Cl2(1ml)で3回共沸した。その後、アルゴン雰囲気下で乾燥CH3CN(3.71ml)に溶解させ、ジイソプロピルアミン(41.9μL、297μmol)、1H-テトラゾール(21.4mg、297μmol)を加え、1分間撹拌したのちに、2-シアノエチル N,N,N’,N’-テトライソプロピルホスホロジアミダイト(141μL、445μmol)を加え、室温で5時間撹拌した。次いで、反応溶液にCH2Cl2(100ml)を加え、飽和重曹水(100ml)で5回洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られた粗精製物をシリカゲルクロマトグラフィー(C-200、n-ヘキサン:EtOAc、1%Et3N含有)で溶出し、目的物を含むフラクションを回収し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をゲル濾過カラムに移し、CH3CNを溶出溶媒としてリサイクル分取を行った。その後、粗精製物をジイソプロピルエーテル-ジエチルエーテル(v/v 1:2)に溶解させ、2%Na2CO3水溶液で5回洗浄し、有機層をNa2SO4で乾燥後、溶媒を減圧留去することで化合物1-10(116mg、39%)を得た。
【0113】
経路2:化合物1-9(228mg,371μmol)を乾燥ピリジン(1ml)で3回、乾燥トルエン(1ml)で3回、乾燥CH2Cl2(1ml)で3回共沸した。その後、アルゴン雰囲気下で乾燥CH2Cl2(3.71ml)に溶解させ、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(310μL、1.78mmol)、2-シアノチル N,N-ジイソプロピルクロロホスホロアミダイト(99μL、445μmol)を順に加え、室温で6時間撹拌した。次いで、反応溶液にCH2Cl2(100ml)を加え、飽和重曹水(100ml)で5回洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られた粗精製物をシリカゲルクロマトグラフィー(C-200、n-ヘキサン:EtOAc、1%Et3N含有)で溶出し、目的物を含むフラクションを回収し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をゲル濾過カラムに移し、CH3CNを溶出溶媒としてリサイクル分取を行った。その後、粗精製物をジイソプロピルエーテル-ジエチルエーテル(v/v 1:2)に溶解させ、2%Na2CO3水溶液で5回洗浄し、有機層をNa2SO4で乾燥後、溶媒を減圧留去することで化合物1-10(117mg、39%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 1.03-1.22 (m, 15H), 1.30 (t, J = 7.5 Hz, 3H), 2.56-2.68 (m, 2H), 2.75-2.84 (m, 2H), 3.53-4.20 (m, 9H), 4.23-4.51 (m, 6H), 5.53-5.70 (m, 1H), 5.87-5.90 (m, 1H), 6.46 (ddd, J = 27.0, 14.0, 6.5 Hz, 1H), 6.87 (s, 1H), 7.42 (br-s, 5H), 7.48 (dd, J = 18.6, 8.2 Hz, 1H), 7.67 (br-s, 1H), 9.15 (br-s, 1H).; 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 1.1, 8.2, 13.6, 17.2, 20.5, 24.7, 26.2, 29.8, 32.7, 43.5, 58.0, 58.8, 66.0, 69.6, 70.3, 72.3, 79.3, 80.4, 81.1, 89.1, 90.7, 102.9, 117.8, 124.2, 127.3, 129.1, 130.0, 131.9, 133.8, 134.8, 140.0, 141.8, 144.1, 147.8, 150.4, 154.4, 163.1.; 31P NMR (161 MHz, CDCl3) δ 150.7, 150.8, 150,9, 151.0.; HRMS (ESI) m/z: [M+Na]+ calcd for C38H48N5NaO11PS 836.2701; found 836.2712.
【0114】
(f)[2-シアノエチル 5’-O-(4,4’-ジメトキシトリチル)-2’-O-ビニルウリジル]-(3’-5’)-(3’-O-アセチルチミジン)の合成
【0115】
【0116】
化合物1-7(77.3mg,100μmol)、3’-O-アセチルチミジン(28.4mg、100μmol)乾燥ピリジン(1ml)で3回、乾燥トルエン(1ml)で3回、乾燥CH2Cl2(1ml)で3回共沸した。その後、アルゴン雰囲気下で乾燥CH3CN(1.00ml)に溶解させ、Molecular sieves 3A(20.0mg)を加え、室温で20分間撹拌したのちに、1H-テトラゾール(28.8mg、400μmol)を加え、室温で30分間反応させ、中間体化合物1-11を得た。次いで、反応溶液に5.5M tert-ブチルヒドロペルオキシドデカン溶液(36.4μl、200μmol)を加え、室温で30分間撹拌したのち、5%Na2S2O3水溶液(2ml)を添加することで反応を停止させた。反応溶液にCH2Cl2(50ml)を加え、5%Na2S2O3水溶液(50ml)で3回洗浄し、有機層をNa2SO4で乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られた粗精製物をシリカゲルクロマトグラフィー(C-200、CH2Cl2:MeOH、1%ピリジン含有)で精製し、化合物1-12(37.6mg、39%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 1.88 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 2.08 (d, J = 5.6 Hz, 3H), 2.16-2.42 (m, 2H), 2.48-2.68 (m, 1H), 2.73 (t, J = 6.1 Hz, 1H), 3.45-3.55 (m, 1H), 3.68 (dd, J = 27.1, 10.3 Hz, 1H), 3.79 (dd, J = 5.5, 1.6 Hz, 6H), 3.91-4.33 (m, 5H), 4.33-4.41 (m, 2H), 4.48 (ddd, J = 13.7, 11.2, 2.3 Hz, 1H), 4.63-4.76 (m, 1H), 5.13-5.33 (m, 3H), 5.97 (dd, J = 21.0, 2.8 Hz, 1H), 6.29 (ddd, J = 31.4, 8.6, 5.8 Hz, 1H), 6.54 (ddd, J = 14.4, 8.1, 6.6 Hz, 1H), 6.81-6.87 (m, 4H), 7.18-7.39 (m, 9H), 7.83 (dd, J = 8.2, 3.5 Hz, 1H), 9.53 (br-d, J = 31.6 Hz, 1H), 9.78 (br-d, J = 22.0 Hz, 1H).; 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 12.5, 19.7, 21.0, 36.9, 55.4, 61.2, 62.7, 67.9, 73.7, 73.9, 79.6, 81.6, 82.5, 84.9, 87.6, 87.9, 92.0, 102.9, 111.9, 113.5, 116.3, 127.5, 128.2, 128.4, 130.4, 130.4, 134.8, 135.2, 139.7, 144.0, 150.1, 150.6, 159.0, 163.3, 163.8, 170.6.; 31P NMR (161 MHz, CDCl3) δ -2.7, -2.4.; HRMS (ESI) m/z: [M+Na]+ calcd for C47H50N5NaO16P 994.2882; found 994.2904.
【0117】
(g)(2’-O-ビニルウリジル)-(3’-5’)-(3’-O-アセチルチミジン)の合成
【0118】
【0119】
化合物1-12を出発原料として液相合成する経路と、チミジンユニットが担持された固相担体を出発原料として固相合成する2通りの経路で合成した。
【0120】
経路1:化合物1-12(100mg、103μmol)に28%アンモニア水-EtOH(v/v 1:1、5.00ml)を加え、室温で3時間撹拌し、0.1M NH4OAc水溶液(3ml)で反応液を希釈し、減圧留去することで化合物1-13の粗精製物を得た。その後、pH4.5酢酸水溶液(3ml)を添加し、40℃で4時間反応をかけた。次いで、28%アンモニア水(1ml)を加えて反応を停止させ、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(SI-25、CH2Cl2:MeOH、1%Et3N含有)で精製し、化合物1-14(30.0mg、51%)を得た。
【0121】
経路2:5’-O-(4,4’-ジメトキシトリチル)-2’-デオキシチミジンが担持されたCPG(1μmol)を出発原料として、RNA自動合成機を用いて化合物1-10をカップリングさせることで合成した。鎖伸長サイクルは表1に示すものを適用し、カップリング時間は30秒もしくは360秒で行った。
【0122】
【0123】
合成後、固相担体にジオキサン-H2O中の0.1M NaOH(v/v 1:1)(1mL)を加え、室温で5時間撹拌し、固相担体からの切り出しとリン酸部の脱保護を行った。固相担体を濾過により除去したのち、C-18 Sep-Pakカートリッジを用いて脱塩を行った。逆相HPLCを用いて精製し化合物1-14(630nmol、63%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CD3OD) δ 1.92 (s, 3H), 2.14-2.34 (m, 2H), 3.88 (qd, J = 12.7, 2.2 Hz, 2H), 3.97-4.01 (m, 1H), 4.04-4.16 (m, 3H), 4.25-4.29 (m, 1H), 4.43 (dd, J = 14.0, 1.8 Hz, 1H), 4.50 (dt, J = 5.9, 3.1 Hz, 1H), 4.61 (br-t, J = 4.0 Hz, 1H), 4.76 (ddd, J = 8.1, 6.2, 5.1 Hz, 1H), 5.67 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 5.94 (d, J = 3.2 Hz, 1H), 6.33 (t, J = 6.8 Hz, 1H), 6.56 (dd, J = 14.0, 6.5 Hz, 1H), 7.81 (br-s, 1H), 8.18 (d, J = 8.1 Hz, 1H).; 31P NMR (161 MHz, CD3OD) δ -0.6.; HRMS (ESI) m/z: [M-H]- calcd for C21H26N4O13P 573.1239; found 573.1242.
【0124】
実施例3:核酸合成条件下におけるNMRを用いたビニル基の安定性試験
実施例1で合成した2’-O-ビニルウリジンを用いて、ホスホロアミダイト法での合成サイクルの各反応条件における、ビニル基の安定性をNMRを用いて調査し、ビニル基が核酸合成の保護基として使用できるかどうかを確かめた。
【0125】
化合物1-3(35.9mg,70.0μmol)もしくは化合物1-4(18.9mg,70.0μmol)に以下に示す試薬と重溶媒(700μl)を加え、充分撹拌したのち、反応液をNMRチューブに移し、試薬添加後5/10/15/20/30分、1/6/12/24時間の各時間で1H NMRを測定した。但し、UV照射実験では、ミクロチューブへ入れた反応液にLEDレーザーを底から2mmの距離から照射し、2/4/6/12/24時間ごとにNMRチューブへ移して測定した。365nmレーザー強度:LED照射口から2mmで91mW/cm2、Fiber-Coupled LED、365nm M365FP1(THOR LABS)。
【0126】
下記の表2に示される各試薬におけるビニル基の安定性を示す各1H NMRチャートを示さないが、安定性を評価した結果を同表にまとめた。
【0127】
【0128】
実施例4:ヌクレオチド二量体におけるビニル基の脱保護評価
実施例2で合成した化合物1-14(11.0μg、19.2nmol)にpH3.0/3.5/4.0/5.0酢酸水溶液(1ml)もしくは水(1ml)を加え、60℃に加熱した。その後、試薬投入直後/15/30分、1/2/4/8/24時間後に40μlずつ分注し、0.1M NH
4OAc水溶液(80μl)で希釈した。次いで、分注したサンプルを逆相HPLCで分析をし、化合物1-14、1-15のピーク面積比からビニル基脱保護の割合を算出した(
図1参照)。
【0129】
上記のHPLC結果から算出した、各pHにおける脱保護割合(化合物1-14の減少率)をプロットしたグラフを
図2に示す。
【0130】
60℃でpHを変化させた結果から、pH3.0では2時間以内に、pH3.5では8時間以内、pH4.0では24時間以内に脱保護が完了し、pH5.0では24時間で8割程度しか脱保護できないことがわかった(
図2左)。このことから、pHが3から5の間ではpHが低いほど早く脱保護され、その速度はpHが4.0よりも高い場合極端に下がるといえる。これまでFifeによってビニルエーテルの加水分解のpH依存性を調査した際にも、同様の反応速度変化をしていた(Fife, T. H. J. Am. Chem. Soc. 1965, 87, 1084-1089)ことからこの結果が妥当であると考えられる。このとき、pH5.0の条件よりも水を加えた条件の方が早く脱保護されている。これはヌクレオチド二量体のリン酸基由来の水素イオンによって、系中のpHが低くなったためであると考えられる。
【0131】
さらに、pH3.0で温度を変化させた結果では、60℃で2時間以内に脱保護が完了するのに対し、45℃では8時間程度かかることがわかる(
図2右)。このことから、45-60℃の間では温度が高いほど早く脱保護され、Kresgeらの報告(Kresge, A. J.; Chiang, Y. J. Chem. Soc. B. Phys. Org. 1967, 58-61)と同様にビニル基の加水分解には熱依存性があるといえる。
【0132】
以上より、pH .0、60℃の条件においてビニル基は最も早く脱保護され、2時間以内に反応が完結することがわかった。ビニル基は、過去に報告されてきたTBDMS基(Bu4NF 4h)やCEM基(Bu4NF 5h)、TOM基(Bu4NF 5h以上)などと比べ、短時間で脱保護可能であるといえる。また、ALE基(NH2NH2-H2O 1h)等の比較的短時間で脱保護可能な保護基と同等の速度かつ、穏和な条件で反応が完結する有用な保護基である。
【0133】
実施例5:ビニル基脱保護時のリン酸ジエステル結合の転位及び切断反応検証
オリゴヌクレオチドの2’-水酸基保護脱保護時に強い酸性または塩基性条件に晒すと、ヌクレオチド鎖切断やリン酸ジエステル結合の転位反応が起きることが知られている。一般的に、pH3-7の間であれば、そのような副反応は起きないとされているが、実際にどのような挙動を示すかは、基質によって異なるはずである。本実施例では、ビニル基を脱保護した際に副反応が起こらないかを酵素実験とNMRによって調査した。
【0134】
(1)ヌクレアーゼP1を用いたリン酸ジエステル結合の転位反応検証
ヌクレアーゼP1を用いてビニル基脱保護時の転位反応の有無を検証した。ヌクレアーゼP1は3’-5’リン酸ジエステル結合のみを特異的に切断するヌクレアーゼで、ビニル基脱保護時に転位反応が起きて2’-5’結合が生成していた場合、ヌクレアーゼ活性は作用せず、転移化合物1-15-2’が残存すると考えられる(下記参照)。
【0135】
【0136】
化合物1-14(11.0μg,19.2nmol)にpH3.0酢酸水溶液(1ml)を加え、60℃で反応させた。3時間後に反応液へ0.1M NH
4OAc水溶液(2ml)を加え、溶媒を減圧留去し、化合物1-15の粗精製物を得た。その後、化合物1-15(4.36μg、7.68nmol)にRNase不含水(247μl)、500mM NaOAc水溶液(2.50μl)、ヌクレアーゼP
1(New England Biolabs Inc.)(50.0U、0.500μl)を順に加え、37℃で16時間反応させた。ついで、75℃で10分間加熱しヌクレアーゼP
1を失活させ、Amicon Ultra-0.5(3K)(Merck KGaA Inc.)を用いて酵素の除去および脱塩を行った。得られた残渣を逆相HPLCにて解析をすることで転位反応の有無を評価した(
図3参照)。
【0137】
化合物1-15のピークがヌクレアーゼP1による処理をすることで消失していることが確認できる。また、ヌクレアーゼP1を加えた後にTTPとウリジンと考えられる2つのピークの出現が観察できる。このことから、化合物1-14をpH3.0の酢酸水溶液で処理した場合、リン酸ジエステル結合の転位を起こさずに、ビニル基の脱保護が完了することが示唆された。
【0138】
(2)NMRを用いたリン酸ジエステル結合の転位及び切断反応検証
次に、ビニル基脱保護時の副反応について、NMRを用いて検証を行った。上記酵素実験の場合と同様に、化合物1-14(10mg,17.4μmol)にpH3.0酢酸水溶液(3ml)を加え、60℃で撹拌した。その後、3/8/24時間後に1mlずつ分注し、28%アンモニア水(500μl)を加えて反応を停止させた。分注をサンプルの溶媒を減圧留去したのちに、
1H、
31P NMR測定をすることで転位反応の有無を評価した(
図4参照)。
【0139】
1H NMRの結果では、化合物1-14で確認できたビニル基の-CH=Cのピークが3時間後に消失していることや、その他の箇所に転位や鎖切断を起こしたようなピークが確認できないことがわかる。また、31P NMRの結果からも、ピークがそれぞれ1本ずつしか観測できないことから、転位や鎖切断などの副反応は起きていないと考えられる。
【0140】
以上より、pH3.0の酢酸水溶液であれば、リン酸ジエステル結合の転位やヌクレオチチド鎖切断等の副反応を起こさずに、ビニル基を脱保護可能であると結論づけられる。この結果は、Kosonenらにより調査された、リン酸ジエステル結合の転位と鎖切断が起きるpH(<1.5)(Kosonen, M.; Hakala, K.; Lonnberg, H. J. Chem. Soc., Perkin Trans. 2, 1998, 3, 663-670)と比較しても妥当であるといえる。
本発明は、新規に開発した2’位をビニル基で保護したRNAホスホロアミダイトユニットを用いることによって、高収率、高純度かつ低コストで長鎖核酸を得ることができるため、医薬や汎用性の高い分子ツールとして応用することができる。
本明細書に引用する全ての刊行物及び特許文献は、参考により全体として本明細書中に援用される。なお、例示の目的として、本発明の特定の実施形態を本明細書において説明したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、種々の改変が行われる場合があることは、当業者に容易に理解されるであろう。