(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130994
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/103 20060101AFI20230913BHJP
【FI】
A61B3/103
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035625
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】501299406
【氏名又は名称】株式会社トーメーコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】辺 光春
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA09
4C316AA13
4C316AB16
4C316FY01
4C316FY05
4C316FY06
(57)【要約】
【課題】 被検眼の眼軸長によらず、被検眼の眼底部に対して好適に光束を投光し得る技術を提案する。
【解決手段】 眼科装置は、被検眼の眼底部にスポット状の光束を投光する光源を有する投光光学系と、被検眼の眼底部からの反射光を受光する受光素子を有する受光光学系と、を備える測定光学系と、受光素子の出力に基づいて、被検眼の眼屈折力を算出する演算装置と、測定光学系の光路に配置されており、光源から投光される光束を偏向させる光束偏向部材と、光源から投光される光束が、被検眼に対してリング状に走査されるように光束偏向部材を駆動する駆動装置と、を備えている。光束偏向部材は、駆動装置によって駆動されたときに、光源から投光される光束の進行方向が被検眼と光束偏向部材との間で交差するように設けられている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科装置であって、
被検眼の眼底部にスポット状の光束を投光する光源を有する投光光学系と、前記被検眼の前記眼底部からの反射光を受光する受光素子を有する受光光学系と、を備える測定光学系と、
前記受光素子の出力に基づいて、前記被検眼の眼屈折力を算出する演算装置と、
前記測定光学系の光路に配置されており、前記光源から投光される前記光束を偏向させる光束偏向部材と、
前記光源から投光される前記光束が、前記被検眼に対してリング状に走査されるように前記光束偏向部材を駆動する駆動装置と、
を備えており、
前記光束偏向部材は、前記駆動装置によって駆動されたときに、前記光源から投光される前記光束の進行方向が前記被検眼と前記光束偏向部材との間で交差するように設けられている、眼科装置。
【請求項2】
前記光束偏向部材は、前記光束の進行方向が交差する交差位置と共役な位置に配置されている、請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記受光光学系は、前記被検眼の前記眼底部と共役な位置に配置されており、前記反射光を前記受光素子に対してリング状に集光させる光学部材をさらに有している、請求項1又は2に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記受光光学系は、前記被検眼の前記眼底部と共役な位置に格子状に配置される複数のレンズであって、それぞれが前記反射光を前記受光素子に対して格子点状に集光させる前記複数のレンズ、を有する光学部材をさらに有している、請求項1又は2に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記駆動装置は、前記被検眼に入射される前記光束の進行方向が、前記被検眼の内部において略平行となるように、前記光束偏向部材を駆動する、請求項1~4のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項6】
前記被検眼の中心窩の直径を1.5mm、前記被検眼の眼球レンズの焦点距離を17.1mm、前記被検眼の角膜頂点から前記光束の進行方向が交差する交差位置までの距離をa’、前記交差位置から前記被検眼の前記眼球レンズに入射する前記光束と前記眼科装置の光軸とがなす角をθ、としたときに、
a>fである場合、以下の式;
【数12】
を満たし、
a<fである場合、以下の式;
【数13】
を満たすように、前記光束偏向部材の位置、又は、前記光束の振り角が設定される、請求項1~5のいずれか一項に記載の眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、眼科装置に関する。
【0002】
特許文献1には、眼屈折力を測定する眼科装置が開示されている。この装置は、投光光学系及び受光光学系を有する測定光学系と、演算手段と、光束偏向部材と、回転手段を備える。投光光学系は、被検眼の眼底にスポット状の光束を投光する。受光光学系は、被検眼の眼底からの反射光を取り出して受光素子に受光させる。演算手段は、受光素子の出力に基づいて眼屈折力を測定する。光束偏向部材は、測定光学系の光路に配置され、瞳孔と共役な位置から外れた位置に配置されている。回転手段は、光束偏向部材を光軸周りに回転させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、スポット状に投光される光束を光軸周りに回転する光束偏向部材によって偏向させることで、当該光束を眼底部に対してリング状に走査する。光束偏向部材によって偏向された光束は、被検眼内部で眼科装置の光軸に対して傾斜して進み得る。このため、眼底部に照射される光束の走査径が、被検眼の眼軸長に応じて変化し得る。その結果、被検眼の眼軸長によっては、眼底部に照射される光束が、中心窩から離れた位置を走査されてしまい、測定値が自覚屈折力の検査値から乖離してしまう。本明細書は、被検眼の眼軸長によらず、被検眼の眼底部に対して好適に光束を投光し得る技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示する眼科装置は、被検眼の眼底部にスポット状の光束を投光する光源を有する投光光学系と、前記被検眼の前記眼底部からの反射光を受光する受光素子を有する受光光学系と、を備える測定光学系と、前記受光素子の出力に基づいて、前記被検眼の眼屈折力を算出する演算装置と、前記測定光学系の光路に配置されており、前記光源から投光される前記光束を偏向させる光束偏向部材と、前記光源から投光される前記光束が、前記被検眼に対してリング状に走査されるように前記光束偏向部材を駆動する駆動装置と、を備えている。前記光束偏向部材は、前記駆動装置によって駆動されたときに、前記光源から投光される前記光束の進行方向が前記被検眼と前記光束偏向部材との間で交差するように設けられている。
【0006】
上記の眼科装置では、光束偏向部材が駆動装置によって駆動されたときに、光束が被検眼に対してリング状に走査されるとともに、光束の進行方向が被検眼と光束偏向部材との間で交差する。すなわち、この眼科装置では、光束偏向部材によって偏向された光束が、眼科装置の光軸から離れる方向に傾斜して被検眼に入射する。このため、リング状に走査される光束は、被検眼の眼球レンズ(すなわち、被検眼を1つのレンズと見做したときの当該レンズ)を通過するときに、その進行方向が平行に近づく方向に屈折して進む。したがって、この眼科装置では、被検眼の眼軸長が比較的長い又は短い場合であっても、眼底部に照射される光束の走査径がそれほど変化せず、被検眼の眼底部に対して好適に光をリング状に走査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】実施例1の眼科装置の屈折力測定光学系の投光光学系を説明するための図。
【
図3】実施例1の眼科装置の屈折力測定光学系の受光光学系を説明するための図。
【
図5】屈折力測定光学系の投光光学系の光の光路を模式的に示す図。
【
図6】実施例1の眼科装置のフロントモニター光学系を説明するための図。
【
図7】実施例1の眼科装置の位置検出投光光学系を説明するための図。
【
図8】実施例1の眼科装置の位置検出受光光学系を説明するための図。
【
図9】実施例1の眼科装置の固視標光学系を説明するための図。
【
図10】屈折力測定光学系の投光光学系の光の経路を模式的に示す図。
【
図11】屈折力測定光学系の受光光学系の光の経路を模式的に示す図。
【
図12】短眼軸眼においてピボット位置及び光束の振り角の条件式を算出するための図。
【
図13】長眼軸眼においてピボット位置及び光束の振り角の条件式を算出するための図。
【
図14】ピボット位置及び光束の振り角が条件を満たす範囲を示すグラフ。
【
図15】実施例2の眼科装置の屈折力測定光学系の受光光学系の光の経路を模式的に示す、
図11に対応する図。
【
図17】実施例3の眼科装置の屈折力測定光学系の投光光学系の光の光路を模式的に示す、
図5に対応する図。
【
図18】実施例4の眼科装置の屈折力測定光学系の投光光学系の光の光路を模式的に示す、
図5に対応する図。
【
図19】実施例5の眼科装置の屈折力測定光学系の投光光学系の光の光路を模式的に示す、
図5に対応する図。
【0008】
本明細書が開示する技術要素を、以下に列記する。なお、以下の各技術要素は、それぞれ独立して有用なものである。
【0009】
本技術の一実施形態では、前記光束偏向部材は、前記光束の進行方向が交差する交差位置と共役な位置に配置されていてもよい。
【0010】
このような構成によると、光束の進行方向を被検眼と光束偏向部材との間で簡易に交差させることができる。
【0011】
本技術の一実施形態では、前記受光光学系は、前記被検眼の前記眼底部と共役な位置に配置されており、前記反射光を前記受光素子に対してリング状に集光させる光学部材をさらに有していてもよい。
【0012】
このような構成によると、受光素子に結像したリング像を楕円近似して解析することにより、被検眼の球面度数、円柱度数を算出することができる。
【0013】
本技術の一実施形態では、前記受光光学系は、前記被検眼の前記眼底部と共役な位置に格子状に配置される複数のレンズであって、それぞれが前記反射光を前記受光素子に対して格子点状に集光させる前記複数のレンズ、を有する光学部材をさらに有していてもよい。
【0014】
このような構成によると、受光素子に対して格子点状に入力された反射光の位置座標に基づいて、被検眼の眼球によって生じる波面の歪み(すなわち、眼球の全収差)を計測することができる。
【0015】
本技術の一実施形態では、前記駆動装置は、前記被検眼に入射される前記光束の進行方向が、前記被検眼の内部において略平行となるように、前記光束偏向部材を駆動してもよい。
【0016】
このような構成によると、被検眼の眼軸長によらず、被検眼の眼底部に対して精度良く光束を照射することができる。
【0017】
本技術の一実施形態では、前記被検眼の中心窩の直径を1.5mm、前記被検眼の眼球レンズの焦点距離を17.1mm、前記被検眼の角膜頂点から前記光束の進行方向が交差する交差位置までの距離をa’、前記交差位置から前記被検眼の前記眼球レンズに入射する前記光束と前記眼科装置の光軸とがなす角をθ、としたときに、
a>fである場合、以下の式;
【数1】
を満たし、
a<fである場合、以下の式;
【数2】
を満たすように、前記光束偏向部材の位置、又は、前記光束の振り角が設定されてもよい。
【0018】
このような構成によると、被検者の被検眼の眼軸長によらず、被検眼の中心窩の直径よりも小さい走査径で光束をリング状に走査することができる。
【0019】
(実施例1)
以下、実施例1に係る眼科装置10について説明する。本実施例の眼科装置10は、被検眼Eの眼屈折力を他覚的に測定する眼屈折力測定装置である。眼科装置10は、
図1に示す光学系20を備えている。光学系20は、屈折力測定光学系と、フロントモニター光学系と、位置検出光投光光学系と、位置検出光受光光学系と、固視標光学系と、被検眼Eを観察する観察光学系(図示省略)を備える。観察光学系は、公知の眼科装置に用いられているものを利用できるため、その詳細な説明は省略する。なお、以下ではまず、理想的な被検眼E(例えば、Gullstrand模型眼)に対して設定される、理想的な光学配置について説明する。
【0020】
図2に示すように、屈折力測定光学系の投光光学系は、光源120と、レンズ122と、偏光ビームスプリッタ124と、2次元スキャナ108(光束偏向部材の一例)と、ダイクロイックミラー110と、ダイクロイックミラー126と、対物レンズ128と、によって構成されている。
【0021】
光源120は、SLD(super luminescent diode)、LD(laser diode)、LED(light emitting diode)等の赤外点光源である。光源120は、中心波長が0.83μmの光を出射する。光源120から出力された光は、レンズ122及び偏光ビームスプリッタ124を透過し、2次元スキャナ108に入射される。2次元スキャナ108は、不図示の駆動装置によって駆動されることで、入射する光束を被検眼Eの眼底部に対してx方向及びy方向の2方向に走査する。本実施例では、2次元スキャナ108にガルバノスキャナが用いられている。なお、2次元スキャナ108には、ガルバノスキャナ以外のものを用いてもよく、例えば、2軸スキャンが可能なMEMSミラーを用いてもよい。2次元スキャナ108から出射された光は、ダイクロイックミラー110を透過し、ダイクロイックミラー126で反射され、対物レンズ128に入射する。対物レンズ128に入射した光は、対物レンズ128を透過して、被検眼Eの眼底部(例えば、中心窩等)に照射される。
【0022】
図3に示すように、屈折力測定光学系の受光光学系は、対物レンズ128と、ダイクロイックミラー126と、ダイクロイックミラー110と、2次元スキャナ108と、偏光ビームスプリッタ124と、レンズ130と、ミラー132と、アパーチャ134と、レンズ136と、リングレンズ138(光学部材の一例)と、2次元センサ140(受光素子の一例)と、焦点調整機構142と、雲霧機構(図示省略)によって構成されている。
【0023】
図2及び3の比較から明らかなように、被検眼Eの眼底部で散乱した光の経路は、対物レンズ128から偏光ビームスプリッタ124までは、投光光学系と同一の経路となる。偏光ビームスプリッタ124では、被検眼Eの眼底部で散乱した光のうちS偏光成分のみが反射され、レンズ130を介してミラー132に照射される。ミラー132に照射された光は、アパーチャ134、レンズ136、リングレンズ138を透過する。
【0024】
図4に示すように、リングレンズ138は、平板上に円筒レンズをリング状に形成したレンズ部138aと、レンズ部138aを除く範囲に遮光のためのコーティングを施した遮光部138bとによって構成されている。リングレンズ138は、遮光部138bが被検眼Eの眼底部と共役な位置となるように配置される。これにより、眼底部からの反射光が瞳孔周辺部から遮光部138bに対応した大きさでリング状に取り出される。リングレンズ138に反射光が入射すると、2次元センサ140の検出面には、リングレンズ138と同じサイズの像がリング状に結像する。2次元センサ140で結像されたリング像に基づいて、被検眼Eの屈折力が算出される。例えば、2次元センサ140で結像されたリング像を楕円近似して解析することにより、被検眼Eの球面度数や円柱度数の屈折度を算出することができる。
【0025】
ここで、
図5を参照して、屈折力測定光学系における測定光束の走査について説明する。
図5は、光源120から出射される光が被検眼Eまで照射される光路を示しており、光路上に配置された一部の光学部材(すなわち、レンズ122、2次元スキャナ108、対物レンズ128)のみを図示し、その他の光学部材は図示を省略している。また、2次元スキャナ108は、光路L1のうちの、被検眼Eと対物レンズ128の間の範囲と共役な位置に配置される。このため、屈折力測定光学系では、2次元スキャナ108によって走査された光が、対物レンズ128と被検眼Eの間の範囲で眼科装置10の光軸(光路L1)と交差する。すなわち、屈折力測定光学系では、被検眼Eの手前でピボットを結ぶスキャンとなる。また、屈折力測定光学系では、対物レンズ128と被検眼Eの間で交差した光が、被検眼Eの内部に入射したときに眼科装置10の光軸に対して平行になるように、ピボット位置(交差位置)Pが設定される。すなわち、屈折力測定光学系では、当該ピボット位置Pが、被検眼Eを1つのレンズと見做したときの当該レンズの前側焦点と一致するように設定される。このため、屈折力測定光学系では、2次元スキャナ108によって走査された光が、眼科装置10の光軸に対して略平行に眼底部に到達する。すなわち、屈折力測定光学系では、テレセントリックスキャンとなり、測定光束は、被検眼Eの内部で、測定光軸から所定距離離れた位置を保ったまま円状に走査され、眼底部に到達する。
【0026】
また、屈折力測定光学系は、焦点調整機構142を備えている。焦点調整機構142は、光源120と、アパーチャ134と、レンズ136と、リングレンズ138と、2次元センサ140を光軸(光路L2、L3)の方向に一体的に移動させる移動装置(図示省略)を備えている。焦点調整機構142は、移動装置を駆動することによって、被検眼Eの屈折力に応じて、光源120の位置と2次元センサ140の位置を被検眼Eの眼底部と共役な位置に移動することができ、精度よく屈折力測定を行うことができる。
【0027】
次に、フロントモニター光学系について説明する。
図6に示すように、フロントモニター光学系は、LED144、146と、対物レンズ128と、ダイクロイックミラー126と、ダイクロイックミラー110と、アパーチャ148と、レンズ150と2次元センサ152によって構成されている。
【0028】
LED144、146は、被検眼Eの斜め前方に配置されており、被検眼Eの前眼部を照明する。LED144、146は、中心波長が0.76μmの光を出射する。被検眼Eで反射された光は、対物レンズ128を透過し、ダイクロイックミラー126、110で反射し、アパーチャ148、レンズ150を透過し、2次元センサ152上で前眼部の正面画像が結像する。2次元センサ152で撮像された被検眼Eの前眼部像は、図示しない表示装置に表示される。なお、アパーチャ148は、対物レンズ128の後側焦点に配置され、前眼部画像がデフォーカスしていても画像倍率が変わらないようになっている。
【0029】
次に、位置検出光投光光学系について説明する。
図7に示すように、位置検出光投光光学系は、LED154と、レンズ156と、ダイクロイックミラー158と、ダイクロイックミラー126と、対物レンズ128によって構成されている。LED154は、中心波長が0.94μmの光を出射する。LED154から出射された光は、レンズ156、ダイクロイックミラー158、126、対物レンズ128を透過し、被検眼Eの角膜を照射する。被検眼Eに照射された光は、被検眼Eの角膜表面で鏡面反射し、角膜頂点の延長線上にLED154の発光面の虚像が形成される。
【0030】
次に、位置検出光受光光学系について説明する。位置検出光受光光学系は、光軸(光路L1)に直交する方向(横方向)の角膜頂点位置を検出すると共に、光軸方向(奥行き方向)の角膜頂点位置を検出する。
図8に示すように、位置検出光受光光学系は、レンズ160及び2次元センサ162と、レンズ164及び2次元センサ166によって構成されている。レンズ160と2次元センサ162は、被検眼Eの斜め前方に配置されている。レンズ164と2次元センサ166も、被検眼Eの斜め前方に配置されている。レンズ164及び2次元センサ166と、レンズ160及び2次元センサ162とは、光軸(光路L1)に対して対称な位置に配置されている。被検眼Eの角膜頂点からわずかにずれた位置で反射した光は、斜め方向に反射し、レンズ160を透過し、2次元センサ162にLED154の発光面の虚像が投影される。同様に、被検眼Eの角膜頂点からわずかにずれた位置で反射した光は、レンズ164を透過し、2次元センサ166にLED154の発光面の虚像が投影される。本実施例の眼科装置10では、2次元センサ162、166で検出されるLED154の発光面の虚像に基づいて、光軸(光路L1)に直交する方向(横方向)の角膜頂点位置が検出されると共に、光軸方向(奥行き方向)の角膜頂点位置が検出される。
【0031】
次に、固視標光学系について説明する。
図9に示すように、固視標光学系は、LED168と、レンズ170と、ミラー172と、ダイクロイックミラー158、126と、対物レンズ128と、ダイクロイックミラー116とによって構成されている。LED168は、白色光を出射する。LED168からの光は、被検者が固視するためのシンボルが印刷された画像フィルムを透過し、ミラー172で反射される。ミラー172で反射された光は、ダイクロイックミラー158で反射し、ダイクロイックミラー126、対物レンズ128、ダイクロイックミラー116を透過して被検眼Eに向かって照射される。なお、LED168及び画像フィルムは、光軸方向(光路L4に沿った方向)に移動可能となっており、被検眼Eの屈折力に応じて位置が調整される。
【0032】
次に、眼科装置10を用いて、被検眼Eの眼屈折力の測定を実行する処理について説明する。まず、検査者が眼科装置10の操作部(例えば、タッチパネルモニタ)に検査開始の指示を入力すると、演算装置(図示省略)が、被検眼Eと眼科装置10のアライメントを実行する。アライメントは、眼科装置10が備える位置検出光学系(
図7、8)を用いて実行される。なお、アライメントの方法については公知であるため、その詳細な説明は省略する。
【0033】
被検眼Eと眼科装置10のアライメントが完了すると、演算装置は、屈折力測定を実行する。屈折力測定は、以下の手順で実行される。まず、演算装置は、2次元スキャナ108を調整する。このとき、演算装置は、予め定められた設定値範囲に基づいて、スキャンする走査径と被検眼Eへの照射位置を調整する。設定値範囲については、後に詳述する。
【0034】
2次元スキャナ108の調整が終わると、演算装置は、光源120をオンにする。
図10は、投光光学系において、光源120から出射される光束が被検眼Eまで照射される光路を示しており、光路上に配置された一部の光学部材(すなわち、レンズ122、2次元スキャナ108、対物レンズ128)のみを図示し、その他の光学部材は図示を省略している。また、
図10では、2次元スキャナ108が光を走査している態様が簡略化して描かれている。
図10に示すように、光源120から出射された光束は、レンズ122、2次元スキャナ108、対物レンズ128を経て、被検眼Eの眼底部にスポット状の点光源像を形成する。このとき、駆動装置によって2次元スキャナ108が駆動されることにより、光源120からの光束が被検眼Eに対してリング状に走査され、スポット状の点光源像が、被検眼Eの眼底部に対してリング状に照射される。
【0035】
図11は、受光光学系において、眼底部から反射される光束が2次元センサ140に結像するまでの光路を示しており、光路上に配置された一部の光学部材(すなわち、対物レンズ128、2次元スキャナ108、レンズ130、アパーチャ134、レンズ136、リングレンズ138、2次元センサ140)のみを図示し、その他の光学部材は図示を省略している。眼底部に投影された点光源像は、反射、散乱されて被検眼Eを射出し、対物レンズ128、2次元スキャナ108、レンズ130を介してアパーチャ134を通り、レンズ136及びリングレンズ138によって2次元センサ140にリング状に結像する。なお、
図11に示すように、眼底部からの反射光束は、投光光学系と同じ2次元スキャナ108によって、それ以降の光学系では、被検眼Eに対する光束の偏向がなかったかのように逆走査される。
【0036】
演算装置は、2次元センサ140から出力される画像を取り込み、当該画像を解析することによって屈折力を測定する。このとき、不図示の雲霧機構を用いて、被検眼Eの水晶体による屈折調節力を排除した状態で、屈折力を測定してもよい。なお、雲霧機構は、公知の眼科装置に用いられているものを採用することができるため、その詳細な説明は省略する。
【0037】
なお、光源120は、被検眼Eの眼底部と共役な位置に配置される。これによって、光源120から出射される光を被検眼Eの眼底部に集光させることができる。また、2次元スキャナ108により、測定光束が被検眼Eの瞳孔上で光軸を中心としてリング状に走査される。このため、白内障等による混濁部位を避けて測定することが可能となり、スペックルノイズによる測定精度の悪化を抑制することができる。
【0038】
上述した説明では、眼科装置10によって眼屈折力を測定するときの、理想的な被検眼Eに対する各光学部材の理想的な配置を説明した。しかしながら、本技術分野においては、被検眼Eの眼底部に照射されるリング状の光束の走査径が、被検眼Eの中心窩の直径以下であれば、十分な精度で他覚的に眼屈折力を測定できることが知られている。そこで、本発明者らは、眼科装置10において、精度良く(すなわち、自覚屈折力の値との乖離が小さい)眼屈折力を測定可能な条件について検討した。
【0039】
上述した説明では、2次元スキャナ108によって走査された光が、所定のピボット位置Pで交差して被検眼Eに入射することにより、眼科装置10の光軸に対して平行に眼底部まで到達した。しかしながら、実際には、被検眼Eに入射した光が当該光軸に対して完全に平行とならない場合であっても、被検眼Eの眼軸長によっては、眼底部に照射される光束の走査径が被検眼Eの中心窩の直径以下となり得る。すなわち、被検眼Eに入射した光が当該光軸に対して平行ではない場合、眼軸長によって、当該走査径が中心窩の直径よりも大きくなる場合や小さくなる場合がある。
【0040】
以下では、走査径が中心窩の直径以下となる(すなわち、走査径の最大値が中心窩の直径以下となる)ための、ピボット位置P及び2次元スキャナ108による光束の振り角(ピボット位置Pから被検眼Eの眼球レンズに入射する光束と、眼科装置10の光軸とがなす角(以下、入射角度と言うことがある。))θの、眼軸長に対応する条件について説明する。
【0041】
図12は、被検眼Eの眼球レンズ(すなわち、被検眼Eを1つのレンズと見做したときの当該レンズ)OLの焦点(前側焦点)よりも角膜から離間する位置に、ピボット位置Pを設定した場合の光束の経路を示している。眼球レンズOLの焦点距離(主点から前側焦点までの距離)をf、眼球レンズOLの主点からピボット位置Pまでの距離をa、眼球レンズOLの主点からピボット位置Pの眼球レンズOLに対する共役位置Qまでの距離をbとすると、近軸近似より、以下の式(1)が成立する。
【0042】
【0043】
図12に示すようにピボット位置Pを設定した場合、a>fであるため、bが正の値となり、眼球レンズOLを透過した光は眼底部の中心に収束する(すなわち、眼底部の中心に近づく)ように屈折して進む。したがって、光束の走査径は、眼球レンズを通過した直後に最大となる。すなわち、被検眼Eの眼底部に照射される光束の走査径は、被検眼Eの眼軸長が短いほど大きくなる。したがって、a>fと設定した場合、一般的な眼軸長よりも短い(すなわち、いわゆる短眼軸眼である)被検眼Eにおいて、走査径の最大値が中心窩の直径以下となるための各値の条件を算出する。
【0044】
ここで、眼球レンズOLの主点に照射される光束の高さ(眼科装置10の光軸からの距離)をh0、主点から短眼軸眼の眼底部までの空気換算距離をALSとすると、眼底部における光束の走査半径(眼底部の中心からの距離)hSは、以下の式(2)で表すことができる。
【0045】
【0046】
また、光束の振り角θは、以下の式(3)で表すことができる。
【0047】
【0048】
上述した通り、眼科装置10により精度良く眼屈折力を測定するためには、走査径が中心窩の直径以下であることを要するため、中心窩の直径をdとしたときに、以下の式(4)が成立する必要がある。
【0049】
【0050】
式(1)~(4)より、眼球レンズOLの主点からピボット位置Pまでの距離aと、光束の振り角θの条件は、以下の式(5)の通り表すことができる。
【0051】
【0052】
図13は、ピボット位置Pを被検眼Eの眼球レンズOLの焦点(前側焦点)よりも角膜に近接する位置に設定した場合の光束の経路を示している。
図13に示すようにピボット位置Pを設定した場合、a<fであるため、bが負の値となり、眼球レンズOLを透過した光は眼底部の周囲に発散する(すなわち、眼底部の中心から離れる)ように屈折して進む。したがって、光束の走査径は、眼球レンズOLから遠ざかるほど大きくなる。すなわち、被検眼Eの眼底部に照射される光束の走査径は、被検眼Eの眼軸長が長いほど大きくなる。したがって、a<fと設定した場合、一般的な眼軸長よりも長い(すなわち、いわゆる長眼軸眼である)被検眼Eにおいて、走査径の最大値が中心窩の直径以下となるための各値の条件を算出する。
【0053】
式(2)と同様に、主点から長眼軸眼の眼底部までの空気換算距離をAL
Lとすると、眼底部における光束の走査半径h
Lは、
図13から以下の式(6)で表すことができる。なお、上述の通り、bは負の値を有するため、
図13では、眼球レンズOLの主点から共役位置Qまでの距離を「-b」として以下の式(6)を導出している。
【0054】
【0055】
したがって、式(1)、(3)、(4)、(6)より、眼球レンズOLの主点からピボット位置Pまでの距離aと、光束の振り角θの条件は、以下の式(7)の通り表すことができる。
【0056】
【0057】
ここで、中心窩の直径dや眼球レンズの焦点距離fの値は、被検眼Eの主点から眼底部までの空気換算距離ALS、ALLよりも被検者によるばらつきが小さい。すなわち、上記式(5)及び(7)においては、直径d及び焦点距離fを固定値として設定することができる。具体的には、直径dは、本技術分野において知られている一般的な中心窩の直径である約1.5mmと設定することができる。また、焦点距離fについては、Gullstrand模型眼の全屈折力が58.64Dであることから、1000/58.6=17.1(mm)と設定することができる。
【0058】
一方、上記式(5)における空気換算距離ALSについては、短眼軸長の下限(すなわち、考慮すべき最短の眼軸長)を算出する。具体的には、国際標準化機構による国際規格ISO10342:2010に定められたレフラクトメータ測定範囲上限である+15D及び、上記焦点距離fから、1/(1/17+15/1000)=13.6(mm)と設定することができる。また、上記式(7)における空気換算距離ALLについては、長眼軸長の上限(すなわち、考慮すべき最長の眼軸長)を算出する。具体的には、国際規格ISO10342:2010に定められたレフラクトメータ測定範囲下限である-15D及び、上記焦点距離fから、1/(1/17-15/1000)=22.9(mm)と設定することができる。以上の数値を、式(5)及び式(7)に代入することにより、距離a及び振り角θの条件式を算出することができる。具体的には、以下の式(8)及び(9)を満たす範囲であると求めることができる。
【0059】
【0060】
【0061】
なお、実際に被検眼Eの眼屈折力を測定する際には、ピボット位置Pは、被検眼Eの角膜頂点からの距離a’として設定される。しかしながら、眼球レンズOLの主点は、被検眼Eの内部に存在するため、被検眼Eの角膜頂点から前側焦点までの実際の距離は、焦点距離17.1mmに一致しない。このため、実際に条件を算出する際には、Gullstrand模型眼の角膜頂点から前側焦点までの距離が15.7mmであることに基づいて、上記式(8)及び(9)における距離aを、a=a’-15.7+17.1=a’+1.4(mm)に補正して条件を算出する。
【0062】
図14は、式(8)及び式(9)を満たす範囲(ハッチングされた領域)を示すグラフである。距離a’及び入射角度θのそれぞれを、
図14に示すハッチングされた領域内の値に設定することにより、リング状に走査された光束の走査径を、被検眼Eの眼軸長によらず、被検眼Eの中心窩の直径以下とすることができる。すなわち、精度良く眼屈折力を測定することができる。なお、本実施例では、2次元スキャナ108によって偏向される光束が、被検眼Eの手前でピボットを結ぶように設定されている。このため、
図14において、縦軸上及び横軸上(すなわち、a’=0mm、θ=0°)は、条件に含まれない。
【0063】
(実施例2)
実施例1では、リングレンズ138を用いることで、被検眼Eの眼底部で散乱した光を2次元センサ140の受光面にリング状に結像させた。実施例2では、
図15に示すように、リングレンズ138に代えて、レンズアレイ238(光学部材の一例)が配置されている。
図16に示すように、レンズアレイ238は、平板上に格子状に配置された複数のレンズ238aと、各レンズ238aを除く範囲に遮光のためのコーティングが施された遮光部238bとによって構成されている。レンズアレイ238は、実施例1のリングレンズ138と同様に、遮光部238bが被検眼Eの眼底部と共役な位置となるように配置される。これにより、眼底部からの反射光が、瞳孔周辺部から遮光部238bに対応した格子点状に取り出される。レンズアレイ238に反射光が入射すると、2次元センサ140の検出面には、各レンズ238aに対応するドットパターンの像が結像する。本実施例では、2次元センサ140で結像されたドットパターンに基づいて、被検眼Eの屈折力が算出される。例えば、2次元センサ140に結像した各ドットの位置座標を検出することにより、被検眼Eの眼球によって生じる波面の歪み(すなわち、眼球の全収差)を計測することができる。
【0064】
(実施例3)
実施例3の眼科装置では、
図17に示すように、実施例1の2次元スキャナ108に代えて、リレーレンズ208が配置されている。リレーレンズ208は、実施例1の2次元スキャナ108と同様、ピボット位置Pと共役な位置に配置される。リレーレンズ208は、不図示の駆動装置(例えば、中空モータ、ボイスコイルモータ(VCM)等)によって、眼科装置の光軸に直交する面上で、当該光軸を中心としてリング状に駆動される。本実施例では、リレーレンズ208が、眼科装置の光軸に対してリング状に偏心することにより、リレーレンズ208に入射する光束を偏向させ、被検眼Eの眼底部に対してリング状に走査することができる。本実施例では、リレーレンズ208とVCM等の駆動装置との組み合わせによって、低コストで光束をリング状に走査することができる。
【0065】
(実施例4)
実施例4の眼科装置では、
図18に示すように、実施例1の2次元スキャナ108に代えて、楔形のプリズム308が配置されている。プリズム308は、実施例1の2次元スキャナ108と同様、ピボット位置Pと共役な位置に配置される。プリズム308は、不図示の駆動装置(例えば、中空モータ)によって光軸を中心に回転駆動される。本実施例では、プリズム308が、光軸を中心として回転することにより、プリズム308に入射する光束を偏向させ、被検眼Eの眼底部に対してリング状に走査することができる。本実施例においても、プリズム308と中空モータとの組み合わせによって、低コストで光束をリング状に走査することができる。
【0066】
(実施例5)
実施例5の眼科装置では、
図19に示すように、実施例1の2次元スキャナ108に代えて、平面平行板408が配置されている。本実施例では、平面平行板408は、対物レンズ128の焦点距離となる位置でピボットを結ぶように厚みや傾斜角度が調整されている。平面平行板408は、不図示の駆動装置(例えば、中空モータ)によって光軸を中心に回転駆動される。本実施例では、平面平行板408が光軸を中心として回転することにより、平面平行板408に入射する光束を、入射光束と同じ進行方向(すなわち、光軸方向)で、光軸の周囲から出力する。すなわち、平面平行板408が回転することにより、平面平行板408からは、光軸と平行なリング状に走査された光束が出力される。したがって、本実施例においても、光源120から出射される光束を、被検眼Eの眼底部に対してリング状に走査することができる。
【0067】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0068】
10:眼科装置
20:光学系
108:2次元スキャナ
120:光源
128:対物レンズ
138:リングレンズ
140:2次元センサ