(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131021
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】方法、システム、及び、装置
(51)【国際特許分類】
G01N 22/04 20060101AFI20230913BHJP
G01N 22/00 20060101ALI20230913BHJP
G01N 27/02 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
G01N22/04 Z
G01N22/00 U
G01N27/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035665
(22)【出願日】2022-03-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年3月12日に岩城昴琉、岩本孝太、内田悠斗、坂本雅弥、及び黒木太司により、2021年電子情報通信学会総合大会にて公開。 令和3年3月12日に高松陸、岩城昴琉、岩本孝太、坂本雅弥、及び黒木太司により、2021年電子情報通信学会総合大会にて公開。
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(71)【出願人】
【識別番号】000144452
【氏名又は名称】株式会社三宅
(74)【代理人】
【識別番号】110001782
【氏名又は名称】弁理士法人ライトハウス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒木 太司
(72)【発明者】
【氏名】三宅 正光
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA14
2G060AD02
2G060AF03
2G060AF06
2G060AG08
2G060CA01
2G060FA01
2G060KA05
(57)【要約】
【課題】
アンテナを利用した地表面下の含水率を推定可能な方法、システム、及び、装置を提供することを目的とする。また、アンテナの電波受信強度についての情報を有効利用する方法、システム、及び、装置を提供することを目的とする。
【解決手段】
地表面上で、且つ、地表面の近傍に設置したアンテナにより電磁波を受信するステップと、受信した電磁波の受信強度に応じて地表面下の含水率を特定するステップとを有する方法、及び、地表面上で、且つ、地表面の近傍に設置したアンテナにより電磁波を受信するステップと、受信した電磁波の受信強度が所定の条件を満たしたことを検知するステップとを有する方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表面上で、且つ、地表面の近傍に設置したアンテナにより電磁波を受信するステップと、
受信した電磁波の受信強度に応じて地表面下の含水率を特定するステップと
を有する、方法。
【請求項2】
地表面上で、且つ、地表面の近傍に設置したアンテナにより電磁波を受信するステップと、
受信した電磁波の受信強度が所定の条件を満たしたことを検知するステップと
を有する、方法。
【請求項3】
所定の条件を満たしたことを検知したことを報知するステップ
を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
受信した電磁波に関する情報を第1の装置から送信するステップと、
前記電磁波に関する情報を第2の装置にて受信するステップと
を有し、
含水率を特定するステップ又は所定の条件を満たしたことを検知するステップが、受信した前記電磁波に関する情報をもとに、第2の装置にて実行される、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
電磁波がラジオ放送波である、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
受信強度が、前記電磁波を送信するための送信電力に対する、アンテナにより電磁波を受信した際の受信電力の比である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
第1の装置と第2の装置とを備えるシステムであって、
第1の装置が、
地表面上で、且つ、地表面の近傍に設置したアンテナにより受信した電磁波に関する情報を送信する送信手段
を備え、
第2の装置が、
電磁波に関する情報を受信する受信手段と、
受信した電磁波に関する情報をもとに、地表面下の含水率を特定する特定手段と
を備える、システム。
【請求項8】
第1の装置と第2の装置とを備えるシステムであって、
第1の装置が、
地表面上で、且つ、地表面の近傍に設置したアンテナにより受信した電磁波に関する情報を送信する送信手段
を備え、
第2の装置が、
電磁波に関する情報を受信する受信手段と、
受信した電磁波に関する情報が、所定の条件を満たしたことを検知する検知手段と
を備える、システム。
【請求項9】
第1の装置が、アンテナに接続されたリアクタンス回路に接続され、
送信手段が、リアクタンス回路に接続される、請求項7又は8に記載のシステム。
【請求項10】
第1の装置が、
アンテナにより電磁波を受信することで発生する電流を整流する整流手段、及び/又は、前記電流を増幅する増幅手段
を備え、
送信手段が、整流及び/又は増幅された電流に基づく信号を、電磁波に関する情報として送信する、請求項7~9のいずれかに記載のシステム。
【請求項11】
電磁波を受信するアンテナと、
受信した電磁波に関する情報を送信する送信手段と、
アンテナに接続されたリアクタンス回路に接続され、
送信手段が、リアクタンス回路に接続される、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナを利用した方法、システム、及び、装置に関する。
【背景技術】
【0002】
局所的豪雨などを原因とする河川の氾濫や土砂災害など自然災害に対する対策が従来検討されている。このような自然災害への対策のための方法として、例えば、地中を伝播する弾性波と地中の含水率とをセンサを用いて測定し、堤防の流域にわたる堤防の地中状況を監視することが検討されている(特許文献1)。また、地中の含水率は、潅水などの事業においても非常に重要な情報であることが知られている(例えば、特許文献2)。
【0003】
特許文献1において、含水率の計測方法としては、土中内の圧力の大小から含水率を求める方法、2つの電極端子を地中内に離して埋め込んでおき、この2つの電極間のインピーダンスの値の変化から含水率を求める方法、土中内の誘電率や誘導成分の変化から含水率を求める方法が検討されている。また、特許文献2においては、土壌含水率を光学的に測定することが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-46597号公報
【特許文献2】特開2002-65086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の第一の目的は、アンテナを利用した地表面下の含水率を推定可能な方法、システム、及び、装置を提供することである。
【0006】
本発明の第二の目的は、アンテナの電波受信強度についての情報を有効利用する方法、システム、及び、装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、
[1]地表面上で、且つ、地表面の近傍に設置したアンテナにより電磁波を受信するステップと、受信した電磁波の受信強度に応じて地表面下の含水率を特定するステップとを有する、方法;
[2]地表面上で、且つ、地表面の近傍に設置したアンテナにより電磁波を受信するステップと、受信した電磁波の受信強度が所定の条件を満たしたことを検知するステップとを有する、方法;
[3]所定の条件を満たしたことを検知したことを報知するステップを有する、前記[2]に記載の方法;
[4]受信した電磁波に関する情報を第1の装置から送信するステップと、前記電磁波に関する情報を第2の装置にて受信するステップとを有し、含水率を特定するステップ又は所定の条件を満たしたことを検知するステップが、受信した前記電磁波に関する情報をもとに、第2の装置にて実行される、前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法;
[5]電磁波がラジオ放送波である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の方法;
[6]受信強度が、前記電磁波を送信するための送信電力に対する、アンテナにより電磁波を受信した際の受信電力の比である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の方法;
[7]第1の装置と第2の装置とを備えるシステムであって、第1の装置が、地表面上で、且つ、地表面の近傍に設置したアンテナにより受信した電磁波に関する情報を送信する送信手段を備え、第2の装置が、電磁波に関する情報を受信する受信手段と、受信した電磁波に関する情報をもとに、地表面下の含水率を特定する特定手段とを備える、システム;
[8]第1の装置と第2の装置とを備えるシステムであって、第1の装置が、地表面上で、且つ、地表面の近傍に設置したアンテナにより受信した電磁波に関する情報を送信する送信手段を備え、第2の装置が、電磁波に関する情報を受信する受信手段と、受信した電磁波に関する情報が、所定の条件を満たしたことを検知する検知手段とを備える、システム;
[9]第1の装置が、アンテナに接続されたリアクタンス回路に接続され、送信手段が、リアクタンス回路に接続される、前記[7]又は[8]に記載のシステム;
[10]第1の装置が、アンテナにより電磁波を受信することで発生する電流を整流する整流手段、及び/又は、前記電流を増幅する増幅手段を備え、送信手段が、整流及び/又は増幅された電流に基づく信号を、電磁波に関する情報として送信する、前記[7]~[9]のいずれかに記載のシステム;
[11]電磁波を受信するアンテナと、受信した電磁波に関する情報を送信する送信手段と、アンテナに接続されたリアクタンス回路に接続され、送信手段が、リアクタンス回路に接続される、装置;
により達成することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アンテナを利用して地表面下の含水率を推定可能な方法、システム、及び、装置を提供することができる。また、本発明によれば、アンテナの電波受信強度についての情報を有効利用する方法、システム、及び、装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態にかかる、装置の概略図である。
【
図2】(a)は本発明の実施の形態にかかる、リアクタンス回路の概略図であり、(b)は、
図2(a)に示すリアクタンス回路を模式的に表した回路図である。
【
図3】本発明の実施の形態にかかる、電波受信回路素子の構成を示す概略図である。
【
図4】含水率変化に対する透過係数S21の解析結果を示すグラフの一例である。
【
図5】共振時における、含水率に対する、リアクタンス回路の入力インピーダンスの関係を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施の形態にかかる、装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という。)について以下詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されるものでなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
(第一の実施の形態):含水率の推定方法
第一の実施の形態は、地表面上で、且つ、地表面の近傍に設置したアンテナにより電磁波を受信し、受信した電磁波の受信強度に応じて地表面下の含水率を特定する方法に関する。受信強度は、受信アンテナにより電磁波を受信した際の受信電力で表される。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態にかかる、装置の概略図であり、第一の実施の形態の方法を実施する装置である。
図1に示すように、本実施の形態の装置1は、アンテナ2と、電波受信回路素子3と、リアクタンス回路4とを備える。
【0013】
アンテナ2は、電磁波を受信する機能を有する。アンテナ2にて受信する電磁波は、アンテナ2から所定の距離が離れた、所定の送信アンテナから発信されたものであることが好ましい。所定の送信アンテナから特定の強度で、特定の周波数の範囲で発信された電磁波について、アンテナ2における受信強度を特定することで、地中の土、砂等の媒体の含水率を推定する、或いは、地中の土、砂等の媒体の含水率が所定の範囲にあることを検知することができる。
【0014】
アンテナ2で受信する電磁波は、電磁波であれば特に限定されないが、波長が10~1kmの長波(LF)、波長が1km~100mの中波(MF)、波長が100~10mの短波(HF)、波長が10~1mの超短波(VHF)、波長が1m~10cmの極超短波(UHF)、波長が10~1cmのセンチ波(SHF)、波長が1cm~1mmのミリ波(EHF)や、波長が1~0.1mmのサブミリ波などの電波が実用的な観点から好ましい。これらの中でも、電磁波が含水土壌の奥深くまで浸透する観点から、電磁波は、地上波テレビ放送波や、ラジオ放送波、標準周波数報時電波に利用される標準電波であることが好ましい。特に、地表波による伝搬が主である、長波から中波を利用するAMラジオ放送波や標準周波数時報電波である場合は、アンテナを地表面上で、且つ、地表面の近傍に設置した場合の受信感度が良好であることから好ましい。
【0015】
アンテナ2で受信する電磁波について、より詳細には、周波数が30kHz以上であることが好ましく、500kHz以上であることがより好ましい。また、アンテナ2で受信する電磁波は、周波数が3GHz以下であることが好ましく、1000MHz以下であることがより好ましく、1.6MHz以下であることがさらに好ましい。周波数が上記範囲である場合は、アンテナを地表面上で、且つ、地表面の近傍に設置した場合の受信感度が良好であることから好ましい。
【0016】
アンテナ2の形状は、電磁波を受信できる限り、特に限定されるものではなく、受信する電磁波の波長によって、棒状、平面状、スパイラル状などの形状から適宜選択すればよい。棒状の場合、モノポール方式やダイポール方式など、公知のいずれの方式のアンテナも採用することができる。その他、チップアンテナなどのいわゆる小型化アンテナを用いてもよい。
【0017】
アンテナ2を構成する材料も、電磁波を受信できる限り、特に限定されるものではなく、例えば、銅や、アルミニウムなど受信アンテナとして用いられる公知の材料を採用することができる。また、アンテナの材料が、樹脂などにより被覆されていてもよく、無被覆であってもよい。汎用性の観点からは、銅やアルミニウムの線材であることが好ましい。また、耐候性の観点からは、樹脂などにより被覆されているものであることが好ましい。
【0018】
アンテナ2は、地表面上で、且つ、地表面の近傍に設置される。任意の地点に設置するアンテナ2を、地表面上で、且つ、地表面の近傍に設置する場合は、地中や、地表面から離れた空間に設置する場合に比べて、電磁波の伝搬損失は小さく、アンテナの受信電力は高いものになる。
【0019】
アンテナ2で受信した電磁波は、交流信号として伝送線5を通過し、電波受信回路素子3へ伝送される。伝送線5は、銅線などの単線や、同軸ケーブルなど、公知のアンテナケーブルを用いることができる。
【0020】
ここで、アンテナ2で受信する電磁波には、種々の波長の電磁波が含まれる。アンテナ2により受信した電磁波の受信感度を向上させる観点からは、アンテナ2と電波受信回路素子3との間に、ノイズを除去するためのフィルタ機能を設けることが好ましい。
【0021】
上記フィルタ機能として、
図2(a)に示すリアクタンス回路を用いることで、前記送信アンテナにて発信された電磁波とは異なる周波数帯の電磁波をノイズとして除去することが可能となる。リアクタンス回路としては、その共振周波数が、前記送信アンテナにて発信された電磁波の周波数と一致又は近似しているものを用いることで、前記送信アンテナにて発信された電磁波とは異なる周波数帯の電磁波を除去することができる。
【0022】
以下、リアクタンス回路について、説明する。
図2(a)は、本発明の実施の形態にかかる、リアクタンス回路4の概略図である。リアクタンス回路4は、シート状又はフィルム状の絶縁体に回路が形成されており、
図2(a)は、リアクタンス回路4を、前記シート状又はフィルム状の絶縁体の平面に対し、垂直な方向から正視した場合の概略を表す図である。リアクタンス回路4は、シート状又はフィルム状の絶縁体7の表裏に回路状コイル部8と回路状コイル部9とを備えてなる。表裏の回路状コイル部8と回路状コイル部9とは、絶縁体7を挟んで重なる部分に設けられた接続部10(10a、10b、10c)により、電気的に接続されている。また、リアクタンス回路4は、導線11及び導線12を備え、a点にてアンテナ2に接続した導線と電気的に接続され、b点にて後述の電波受信回路素子3に接続した伝送線5と電気的に接続される。
【0023】
絶縁体7には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等の樹脂フィルムを用いることができる。回路状コイル部8と回路状コイル部9とは、絶縁体7上に、アルミ箔、銅箔等の金属箔を配置することで形成することができる。或いは、絶縁体7上に、金属、カーボン等を含む導電性塗料の塗布または金属蒸着を行うことによって形成してもよい。
【0024】
図2(b)は、
図2(a)に示すリアクタンス回路を模式的に表した回路図である。
図2(a)に示すリアクタンス回路4において、絶縁体7を挟んで回路状コイル部8と回路状コイル部9とが表裏で重なる部分が可変の平行平板コンデンサ(
図2(b)の可変コンデンサC)として、回路状コイル部8と回路状コイル部9とがインダクタンスLとして、回路状コイル部8と回路状コイル部9とを形成する金属又は導電性部材の抵抗が抵抗Rとして機能し、全体として並列共振回路を構成する。
【0025】
リアクタンス回路4は、アンテナ2にて受信しようとする電磁波の周波数に応じて、コンデンサCとインダクタンスLとを調整することで、所望の周波数に共振する並列共振回路とすることができる。例えば、リアクタンス回路4において、コンデンサCとインダクタンスLの値が大きくなるように設計すると、より低い周波数において共振条件を満たすものとなる。コンデンサCとインダクタンスLの値は、送信アンテナから受信する電磁波の周波数に応じて、リアクタンス回路4における回路状コイル部8と回路状コイル部9のサイズや巻き数を変更することで調整可能である。
【0026】
(リアクタンス回路4の設置位置)
リアクタンス回路4は、地中に設けても、地表に接するように設けても、空中に設けてもよいが、リアクタンス回路4全体を地中に設けた場合は、リアクタンス回路4が含水率によって一種のスイッチ動作をし、より正確な含水率の特定が可能となるので好ましい。リアクタンス回路4の共振周波数近傍でのインピーダンスについて、以下に詳述する。
【0027】
まず、
図2(b)に示すリアクタンス回路4のa点とb点間のインピーダンスZ
abは、下数式(1)で表される。
【0028】
【0029】
数式(1)を有理化し、実部RLと虚部XLとに分けると、RLとXLはそれぞれ以下の数式(2)、数式(3)で表される。
【0030】
【0031】
【0032】
ここで、上記数式(3)において、並列共振状態はリアクタンスXLがゼロのとき、すなわち、数式(3)の分子:L-CR2-ω2L2Cがゼロのときである。また、このような共振状態が現れる共振周波数は、f0(=ω/2π)であるから、数式(3)とf0=ω/2πとから、共振周波数は、下数式(4)で表されることになる。
【0033】
【0034】
ところで、リアクタンス回路4においてコンデンサの容量Cは、回路が設置された土壌の含水率の変化に対して、浮遊容量であるために変化する。回路が設置された土壌の含水率が上昇すると、周囲の比誘電率が高くなり、その結果の電荷を蓄積しやすくなるので、浮遊容量が大きくなる。この現象を数式(3)において考察すると、周波数が共振周波数f0のとき、数式(3)はXL=0になる。
【0035】
またこのとき、リアクタンス回路4における実部について検討すると、数式(4)で1≫C/L×R2であるから、数式(2)の分母は、下数式(5)で表される。そして、共振周波数近傍では、数式(2)は、数式(6)と表される。
【0036】
【0037】
【0038】
上述のように、土壌中に埋めたリアクタンス回路4は共振周波数近傍において、土壌の含水率が増加すると、浮遊容量Cが増加する。その結果、数式(6)より、Zab値は、減少することになる。
【0039】
図5は、共振時における、含水率に対する、リアクタンス回路の入力インピーダンスの関係を示すグラフである。すなわち、含水率に対する、上記数式(6)におけるR
L(Z
ab)の値との関係を示す。
【0040】
受信した電波が、リアクタンス回路4において共振条件を満たすと、上記虚数部分がゼロとなり(リアクタンスがゼロ)となり、RLのみの回路となる。この場合、リアクタンス回路4に電流が流れる状態となる。また、共振時は、含水率が大きくなるにしたがって、リアクタンス回路の入力インピーダンスが数百Ωオーダーにまで低下し、回路に電流が流れる状態となり、スイッチング動作をすると考えられる。
【0041】
他方、受信した電波が、リアクタンス回路4において共振条件を満たさない場合はリアクタンスが無視できないほど大きくなり、リアクタンス回路はオープンの状態(電流が流れない状態)となる。また、共振していても含水率が非常に小さい場合も、Rが大きくなるために、リアクタンス回路がオープンの状態と同等となる。このように、リアクタンス回路4は、測定対象であるアンテナ2設置箇所の土壌等の含水率によって、スイッチング動作をする。
【0042】
このように、合成インピーダンスZabが小さくなると、受信強度が大きくなり、より正確な検出が可能となる。その結果、より正確な含水率の特定が可能となる。
【0043】
電波受信回路素子3は、受信した電磁波に関する情報を送信する機能を有する。
図3は、本発明の実施の形態にかかる、電波受信回路素子の構成を示す概略図である。
図3に示すように、本実施の形態の電波受信回路素子3は、フィルタ21と、増幅部22と、整流部23と、送信部24とを備える。電波受信回路素子3は、駆動のための電源システムを備えることができる。電波受信回路素子3は、
図1に示すように、アースされた状態である。
【0044】
また、電波受信回路素子3は、設置される箇所にもよるが、
図1に示すように、絶縁性の支持体6により支持された状態で設けることもできる。
【0045】
(装置1の動作)
以下、
図1と
図3とを用いて、アンテナ2で受信した電磁波に関する情報を送信する一連の動作を説明する。
図1において、アンテナ2で受信した電磁波は、交流電気信号として伝送線5を通過して、アンテナ2とa点にて接続したリアクタンス回路4に伝送され、リアクタンス回路4を通過して、リアクタンス回路4とb点にて接続した伝送線5を通過し、電波受信回路素子3に伝送される。
【0046】
伝送された交流電気信号は、
図3の電波受信回路素子3のローパスフィルタにより構成されるフィルタ21によりろ波され、増幅部22において信号が増幅される。増幅された交流信号は、整流部23において直流信号に変換されて、送信部24に伝送されて、送信部24から電磁波に関する情報として、所定のネットワークを経由してコンピュータ装置に送信される。フィルタ21は、受信感度により任意に設けることとしてもよい。
【0047】
(含水率の推定)
送信部24から送信された、地表面上で、且つ、地表面の近傍に設置したアンテナにより受信した電磁波に関する情報が含まれる信号は、コンピュータ装置において受信される。コンピュータ装置は、受信した電磁波に関する情報が含まれる信号に基づいて、アンテナ設置箇所の地表面下の近傍の所定の位置の含水率を特定することができる。ここで、所定の位置は適宜設定することができる。例えば、アンテナ設置個所の直下の深さ10cmにおける土の含水率と、その時の電磁波の受信強度との対応関係を予め測定しておき、これら複数の含水率と電磁波の受信強度との対応関係をデータテーブルとして設定しておく。そして、前記データテーブルを参照することで、実際に測定された受信強度をもとに、対応する深さ10cmの土の含水率を特定することができる。よって、例えば、アンテナ設置個所の直下の深さ30cmにおける土の含水率と、その時の電磁波の受信強度との複数の対応関係をデータテーブルとして設定していた場合は、実際に測定された受信強度から、アンテナ設置個所の直下の深さ30cmにおける土の含水率を推定することができる。
【0048】
コンピュータ装置は、電磁波に関する情報を受信する受信手段と、受信した情報を演算処理する機能を有するものであれば、タブレット型端末、スマートフォン、デスクトップ型パーソナルコンピュータ、ノート型のパーソナルコンピュータなど、いずれも用いることができる。
【0049】
含水率の特定は、以下のように実行される。すなわち、予め
図1に示す装置1を用いて、含水率が既知の測定対象についてアンテナ2により電磁波を受信した際の受信電力を測定し、種々の含水率に対する測定値から、含水率とアンテナ2の受信電力との関係をデータテーブルやグラフとして取得しておく。そして、含水率が未知の測定対象について受信アンテナにより電磁波を受信した際の受信電力を計測し、含水率と受信アンテナにより電磁波を受信した際の受信電力との関係のデータテーブルやグラフに基づいて、対応する含水率を特定する。
【0050】
含水率の特定は、受信アンテナにより電磁波を受信した際の受信電力の値を用いてもよいし、送信アンテナから電磁波を送信するための送信電力に対する、アンテナにより電磁波を受信した際の受信電力の比(以下において、透過係数S21ともいう)を用いても特定することができる。この場合、含水率とアンテナ2の受信電力との関係に加えて、透過係数S21とアンテナ2の受信電力との関係をデータテーブルやグラフを取得しておくことが好ましい。
【0051】
図4は、含水率変化に対する透過係数S21の解析結果を示すグラフの一例である。
図4に示すグラフの縦軸は20log|S21|(dB)を表し、横軸は土壌の含水率(%)を表す。
【0052】
解析モデルとして、地表から200mの高さに設置した送信アンテナと、地表から100mの高さに設置した受信アンテナを用いる。送信アンテナは、1MHzの電磁波を送信するものとし、受信アンテナは、5mのモノポールアンテナの先端を地表面上に向けて、且つ、地表面の近傍に垂直に設置する。送信アンテナと受信アンテナとの直線距離は1865mとする。
【0053】
上記解析モデルにおいて、受信アンテナを設置した土壌の含水率を0%、5%、10%、15%、25%、30%と変化させて、受信アンテナにより電磁波を受信した際の受信電力を測定する。受信アンテナにより電磁波を受信した際の受信電力と、電磁波を送信するための送信電力とから、透過係数S21を決定し、
図4に示すグラフのデータを得る。
図4に示すグラフを利用することで、例えば、受信アンテナにより電磁波を受信した際の受信電力の測定値から求められる透過係数S21が0.00316である場合、20log|S21|は-50dBであるから、含水率は8%と特定することができる。
【0054】
含水率の特定は、受信アンテナにより電磁波を受信した際の受信電力及び透過係数S21の他、リアクタンス回路4におけるインピーダンスの値を用いることもできる。リアクタンス回路4のインピーダンスは、a点とb点間の電流と電圧を測定することにより測定値から、公知の方法によりインピーダンスの値を特定することができる。
【0055】
インピーダンスの値を用いる場合も、受信電力の値を用いて含水率を特定する場合と同様に、含水率を特定することができる。すなわち、含水率が既知の測定対象についてインピーダンスの値を測定し、種々の含水率に対する測定値から、含水率とインピーダンスの値との関係をデータテーブルやグラフとして取得しておく。そして、含水率が未知の測定対象についてインピーダンスの値を計測し、含水率とインピーダンスの値との関係のデータテーブルやグラフに基づいて、対応する含水率を特定する。
【0056】
(他の装置構成の態様)
上記第一の実施の形態においては、
図1に示すように、リアクタンス回路4が地中にある場合について主に説明したが、リアクタンス回路4が空中にあっても、地表面上で、且つ、地表面の近傍に設置したアンテナにより電磁波を受信し、受信した電磁波の受信強度に応じて地表面下の含水率を特定することができる。
【0057】
図6は、本発明の実施の形態にかかる、装置の概略図であり、リアクタンス回路4が空中にある場合の装置構成の一例である。
図6で示すように、地表面上で、且つ、地表面の近傍に設置した同軸ケーブルアンテナ14の内導体と空中に存在するリアクタンス回路4とを導線13により接続し、リアクタンス回路4と電波受信回路素子3とを伝送線5により接続する。地表面側の同軸ケーブルアンテナ14の内導体は電線として突出させ、地表面に向けられて配置する。この場合、内導体である導線13は開放でもよいが、
図6に示すように、地表側の導線13を同軸ケーブルアンテナ14の外導体に短絡すると、受信電力の受信感度を向上させることができるのでより好ましい。
図6においては、リアクタンス回路4を含む装置構成を示したが、リアクタンス回路4を含まない装置構成であっても、第一の実施の形態の方法を実施することができる。
図6に示すように、リアクタンス回路4を用いた方が受信電力の受信感度をより向上させることができることから好ましい。
【0058】
図1に示す装置1と同様、電波受信回路素子3は必要に応じて支持体6により支持する態様とすることができる。また、電波受信回路素子3とリアクタンス回路4とを導線13により接続する態様としてもよい。
【0059】
(第二の実施の形態):含水率の異常検知方法
第二の実施の形態は、地表面上で、且つ、地表面の近傍に設置したアンテナにより受信し、受信した電磁波の受信強度が所定の条件を満たしたことを検知する方法に関する。
【0060】
第二の実施の形態は、第一の実施の形態と同様の装置において実行可能である。すなわち、第一の実施の形態における
図1又は
図6に示す装置、
図2に示すリアクタンス回路を用いることができる。第二の実施の形態は、第一の実施の形態における、コンピュータ装置において受信された電磁波に関する情報が含まれる信号に基づいて、含水率を特定することに代えて、受信した電磁波の受信強度が所定の条件を満たしたことを検知する。
【0061】
第一の実施の形態における場合と同様、送信部24から送信された、地表面上で、且つ、地表面の近傍に設置したアンテナにより受信した電磁波に関する情報が含まれる信号は、コンピュータ装置において受信される。
【0062】
コンピュータ装置は、受信した電磁波に関する情報が含まれる信号に基づいて受信した電磁波の受信強度が所定の条件を満たしたことを検知する。所定の条件とは、例えば、受信強度が所定の値よりも大きいことや、所定の値よりも小さいことである。電磁波の受信強度が所定の条件を満たしたことの検知は、受信した電磁波の受信強度と所定の値とを比較し、受信強度が所定の値であるか、所定のよりも大きいか、小さいかにより判定される。
【0063】
また、予め
図1に示す装置1を用いて、含水率が既知の測定対象についてアンテナ2により電磁波を受信した際の受信電力を測定し、種々の含水率に対する測定値から、含水率とアンテナ2の受信電力との関係をデータテーブルやグラフとして取得しておいてもよい。この場合、受信強度と含水率との関係から、受信強度が所定の値よりも大きい場合は、受信アンテナにより電磁波を受信した際の測定地における地表面下の含水率が所定の値よりも大きい場合に相当すると判定できる。また、受信強度が所定の値よりも小さい場合は、受信アンテナにより電磁波を受信した際の測定地における地表面下の含水率が所定の値よりも小さい場合に相当すると判定できる。
【0064】
上記電磁波の受信強度が所定の条件を満たしたことの検知は、受信アンテナにより電磁波を受信した際の受信電力の値を用いてもよいし、送信アンテナから電磁波を送信するための送信電力に対する、アンテナにより電磁波を受信した際の受信電力の比(透過係数S21)を用いても特定することができる。この場合、含水率とアンテナ2の受信電力との関係に加えて、透過係数S21とアンテナ2の受信電力との関係をデータテーブルやグラフを取得しておくことが好ましい。
【0065】
第二の実施の形態において、上記所定の条件を満たしたことを検知したことを報知する態様とすることができる。報知の方法としては、所定の条件を満たしたことを検知するためのコンピュータ装置の表示画面に、所定の条件を満たしたことがわかる態様で表示したり、所定の条件を満たしたことがわかる態様で音声を発信することができる。
【0066】
また、報知の方法としては、上記コンピュータ装置とは別に備えられるコンピュータ装置の表示画面、ディスプレイ装置、スピーカーなどの他の装置に対して、所定の条件を満たしたことがわかる態様で表示したり、所定の条件を満たしたことがわかる態様で音声を発信するようにしてもよい。
【0067】
受信強度が所定の値よりも大きいことを検知したことを報知することで、受信アンテナにより電磁波を受信した際の測定地における地表面下の含水率が所定の値よりも大きくなっており、土砂崩れなどの危険性があることを知らせることができる。また、受信強度が所定の値よりも小さいことを検知したことを報知することで、受信アンテナにより電磁波を受信した際の測定地における地表面下の含水率が所定の値よりも小さく、土砂崩れなどの危険がないこと、又は、危険性が低くなったことを知らせることができる。
【0068】
また、潅水事業などにおいて、受信強度が所定の値よりも大きいことを検知したことを報知することで、受信アンテナにより電磁波を受信した際の測定地における地表面下の含水率が所定の値よりも大きくなっており、給水が十分であること知らせることができる。また、受信強度が所定の値よりも小さいことを検知したことを報知することで、受信アンテナにより電磁波を受信した際の測定地における地表面下の含水率が所定の値よりも小さく、給水が必要であることを知らせることができる。
【0069】
上記第二の実施の形態において、受信した電磁波の受信強度が所定の条件を満たしたことを検知したことを報知する態様について説明したが、その他、透過係数S21が所定の条件を満たしたことを検知したことを報知する態様としてもよい。すなわち、透過係数S21が閾値よりも大きい場合に報知する、又は、透過係数S21が閾値よりも小さい場合に報知する態様としても、土砂崩れなどの危険や、給水に関する情報を知らせることができる。
【0070】
本発明の方法、システム、及び、装置によれば、電磁波の受信感度を良好にすることができ、アンテナを利用した地表面下の含水率を推定可能である。また、本発明の方法、システム、及び、装置によれば、アンテナの電波受信強度が含水率と所定の関係を満たすことを検出又は特定できることから、アンテナの受信強度を、土砂崩れなどの自然災害の対策や、潅水事業の情報源として有効利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 装置
2 アンテナ
3 電波受信回路素子
4 リアクタンス回路
5 伝送線
6 支持体
7 絶縁体
8,9 回路状コイル部
10 接続部
11、12、13 導線