(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131037
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに加工品
(51)【国際特許分類】
C23C 8/18 20060101AFI20230913BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20230913BHJP
C22C 38/28 20060101ALI20230913BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20230913BHJP
C21D 9/46 20060101ALN20230913BHJP
【FI】
C23C8/18
C22C38/00 302Z
C22C38/28
C22C38/60
C21D9/46 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035683
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田井 善一
(72)【発明者】
【氏名】若村 麻衣
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA09
4K037EA10
4K037EA12
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EA32
4K037EA33
4K037EA35
4K037EA36
4K037EB06
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4K037FB00
4K037FF03
4K037FG00
4K037FJ02
4K037FJ06
4K037FJ07
4K037GA07
4K037JA06
(57)【要約】
【課題】加工時に素地が部分的に露出しても耐食性が良好なステンレス鋼材を提供する。
【解決手段】素地の表面に酸化皮膜を有するステンレス鋼材である。酸化皮膜は、厚みが50nm以上のCr2O3内層を有し、全体厚みが300~1000nm、キャリア密度が2.00×1020個/cm3以下、L*a*b*表色系における明度指数L*が50.0以下、クロマネチックス指数a*及びb*が±5.00以内である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地の表面に酸化皮膜を有するステンレス鋼材であって、
前記酸化皮膜は、厚みが50nm以上のCr2O3内層を有し、全体厚みが300~1000nm、キャリア密度が2.00×1020個/cm3以下、L*a*b*表色系における明度指数L*が50.0以下、クロマネチックス指数a*及びb*が±5.00以内であるステンレス鋼材。
【請求項2】
前記素地は、質量基準で、Mn:0.05~1.00%、Cr:16.00~25.00%及びTi:0.08~0.50%を含む、請求項1に記載のステンレス鋼材。
【請求項3】
前記素地は、質量基準で、C:0.100%以下、Si:1.00%以下、P:0.100%以下、S:0.100%以下、Ni:1.00%以下、Cu:1.00%以下、Mo:2.00%以下、N:0.100%以下から選択される少なくとも1種を更に含む、請求項2に記載のステンレス鋼材。
【請求項4】
前記素地は、質量基準で、Nb:0.50%以下、Al:1.00%以下、Zr:1.00%以下、Co:1.00%以下、V:1.00%以下、W:1.00%以下、REM:0.100%以下、Ca:0.100%以下、Sn:0.100%以下、B:0.0100%以下から選択される少なくとも1種を更に含む、請求項2又は3に記載のステンレス鋼材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のステンレス鋼材の製造方法であって、
ステンレス圧延材に対し、O2濃度が1~10体積%、水蒸気濃度が5~20体積%であり、且つ以下の式(1):
2×O2濃度+水蒸気濃度 ・・・(1)
で表される値が15~30である雰囲気下、900℃以上の温度で30秒以上の熱処理を行うステンレス鋼材の製造方法。
【請求項6】
前記ステンレス圧延材は、質量基準で、Mn:0.05~1.00%、Cr:16.00~25.00%及びTi:0.08~0.50%を含む、請求項5に記載のステンレス鋼材の製造方法。
【請求項7】
前記ステンレス圧延材は、質量基準で、C:0.100%以下、Si:1.00%以下、P:0.100%以下、S:0.100%以下、Ni:1.00%以下、Cu:1.00%以下、Mo:2.00%以下、N:0.100%以下から選択される少なくとも1種を更に含む、請求項6に記載のステンレス鋼材の製造方法。
【請求項8】
前記ステンレス圧延材は、質量基準で、Nb:0.50%以下、Al:1.00%以下、Zr:1.00%以下、Co:1.00%以下、V:1.00%以下、W:1.00%以下、REM:0.100%以下、Ca:0.100%以下、Sn:0.100%以下、B:0.0100%以下から選択される少なくとも1種を更に含む、請求項6又は7に記載のステンレス鋼材の製造方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載のステンレス鋼材の加工品であって、
加工部の一部に素地が露出した部分を有する加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼材は、耐食性に優れた素材であり、光沢のある銀白色の地肌を活かし、内装建材、外装建材、排気系部品などの各種部品に用いられている。また、ステンレス鋼材の意匠性を高める目的で、化学発色法、塗装法、酸化処理法などの方法を用いて、黒色を代表とする色調が付与されることも多い。例えば、特許文献1には、酸化処理法によってステンレス鋼材の表面に黒色化皮膜(酸化皮膜)が形成された黒色ステンレス鋼材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステンレス鋼材を用いて各種製品を製造する場合、曲げ加工、溶接、研磨などの各種加工が行われる。このとき、加工条件(例えば、曲げ半径が大きい曲げ加工など)によっては、ステンレス鋼材の表面に形成された酸化皮膜が割れて素地が部分的に露出することがある。このようなステンレス鋼材の素地が露出した部分は、酸化皮膜が表面に存在しないため、耐食性が低下し、腐食の原因となる。
【0005】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、加工時に素地が部分的に露出しても耐食性が良好なステンレス鋼材及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、耐食性が良好な加工品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ステンレス鋼材の表面に所定の特徴を有する酸化皮膜を形成することにより、加工時に素地が部分的に露出しても耐食性が低下し難くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、素地の表面に酸化皮膜を有するステンレス鋼材であって、
前記酸化皮膜は、厚みが50nm以上のCr2O3内層を有し、全体厚みが300~1000nm、キャリア密度が2.00×1020個/cm3以下、L*a*b*表色系における明度指数L*が50.0以下、クロマネチックス指数a*及びb*が±5.00以内であるステンレス鋼材である。
【0008】
また、本発明は、前記ステンレス鋼材の製造方法であって、
ステンレス圧延材に対し、O2濃度が1~10体積%、水蒸気濃度が5~20体積%であり、且つ以下の式(1):
2×O2濃度+水蒸気濃度 ・・・(1)
で表される値が15~30である雰囲気下、900℃以上の温度で30秒以上の熱処理を行うステンレス鋼材の製造方法である。
【0009】
さらに、本発明は、前記ステンレス鋼材の加工品であって、加工部の一部に素地が露出した部分を有する加工品である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加工時に素地が部分的に露出しても耐食性が良好なステンレス鋼材及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、耐食性が良好な加工品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例における部分研磨の位置を説明するための上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、上記の観点に基づいて完成された本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
なお、本明細書において成分に関する「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
【0013】
<ステンレス鋼材>
本発明の実施形態に係るステンレス鋼材は、素地と、素地の表面に形成された酸化皮膜とを有する。
ここで、本明細書において「ステンレス鋼材」とは、ステンレス鋼から形成された材料のことを意味し、その材形は特に限定されない。材形の例としては、板状(帯状を含む)、棒状、管状などが挙げられる。また、断面形状がT形、I形などの各種形鋼であってもよい。
酸化皮膜は、ステンレス鋼材に耐食性及び黒色の色調を付与する機能を有する。
まず、酸化皮膜の特徴について説明する。
【0014】
(Cr2O3内層の厚み:50nm以上)
酸化皮膜は、厚みが50nm以上のCr2O3内層を有する。
Cr2O3内層は、酸化皮膜の素地側に形成される層であり、酸化皮膜のバリア性(素地の保護能)を担保する機能を有する。この機能を確保する観点から、Cr2O3内層の厚みの下限値は、50nm、好ましくは60nm、更に好ましくは70nmである。一方、Cr2O3内層の厚みの上限値は、特に限定されないが、好ましくは900nm、より好ましくは800nmである。
【0015】
(全体厚み:300~1000nm)
酸化皮膜の全体厚みは、色調に影響を与える。所望の黒色の色調を付与する観点から、全体厚みの下限値は、300nm、好ましくは310nm、より好ましくは320nmである。一方、全体厚みが大きくなると、ステンレス鋼材の加工時に酸化皮膜の割れや剥離が生じ易くなる。そのため、全体厚みの上限値は、1000nm、好ましくは950nm、より好ましくは900nmである。
【0016】
ここで、本明細書において、酸化皮膜の全体厚みは、グロー放電発光分光法(GD-OES)を用いて得られた深さ方向の成分濃度プロファイルにおいて表面からO(酸素)が最大値の1/4となるポイントまでの深さとした。また、Cr2O3内層の厚みは、酸化皮膜中で、Cr濃度/(Fe濃度+Cr濃度+Mn濃度+Ti濃度)×100が70%以上の範囲となる部分とした。各元素の濃度は、グロー放電発光分光法(GD-OES)によって求めることができる。
【0017】
(キャリア密度:2.00×1020個/cm3以下)
金属の腐食は、金属溶解(アノード反応)と金属溶解部周辺の酸素還元(カソード反応)とが対で起こることによって進行する。これはアノード反応で発生した電子をカソード反応で消費することで電気的な中性が保たれるためである。したがって、ステンレス鋼材におけるカソード反応を抑制することができれば、アノード反応(金属溶解)も抑制することができる。
カソード反応は、水が存在する環境において、アノード反応で生じた電子が金属内を移動し、表面で水中の溶存酸素と反応することで起こる。そのため、カソード反応は、電子が移動し難い絶縁性物質で金属の表面を被覆することによって抑制することができる。ただし、Cr2O3を主体とする酸化皮膜は、構造欠陥(例えば、酸素空孔や、Crと価数の異なる金属)が電子の移動を担うキャリアとなるため、絶縁性が十分とはいえず、カソード反応を十分に抑制することができない。したがって、ステンレス鋼材におけるカソード反応を十分に抑制するためには、酸化皮膜のキャリア密度を制御することが重要となる。
【0018】
酸化皮膜のキャリア密度の上限値は、上記の理由から、2.00×1020個/cm3、好ましくは1.00×1020個/cm3である。また、酸化皮膜のキャリア密度の上限値を上記のように設定することで、加工時に素地が部分的に露出しても腐食が起こり難くなる。一方、酸化皮膜のキャリア密度の下限値は、小さいほどカソード反応を抑制する効果が高くなるため特に限定されないが、一般的に1.00×1014個/cm3、好ましくは1.00×1015個/cm3である。
ここで、本明細書において、酸化皮膜のキャリア密度は、電気化学インピーダンス測定によって測定することができる。
【0019】
(明度指数L*:50.0以下、クロマネチックス指数a*及びb*:±5.00以内)
酸化皮膜は、L*a*b*表色系における明度指数L*が50.0以下、クロマネチックス指数a*及びb*が±5.00以内である。明度指数L*、クロマネチックス指数a*及びb*が上記範囲内であれば、所望の黒色色調が得られているということができる。
ここで、本明細書において「明度指数L*」及び「クロマネチックス指数a*及びb*」は、JIS Z8722:2009に準拠して測定することができる。
【0020】
酸化皮膜は、Mn及びCrの複合酸化物(Mn-Crスピネル酸化物)を表層に有することが好ましい。このようなMn及びCrの複合酸化物を表層に設けることにより、酸化皮膜のキャリア密度を上記の範囲に制御し易くなる。
【0021】
ステンレス鋼材の素地は、特に限定されないが、上記の特徴を有する酸化皮膜を形成し易くする観点から、Mn:0.05~1.00%、Cr:16.00~25.00%及びTi:0.08~0.50%を含むことが好ましい。
また、ステンレス鋼材の素地は、C:0.100%以下、Si:1.00%以下、P:0.100%以下、S:0.100%以下、Ni:1.00%以下、Cu:1.00%以下、Mo:2.00%以下、N:0.100%以下から選択される少なくとも1種を更に含んでもよい。
さらに、ステンレス鋼材の素地は、Nb:0.50%以下、Al:1.00%以下、Zr:1.00%以下、Co:1.00%以下、V:1.00%以下、W:1.00%以下、REM:0.100%以下、Ca:0.100%以下、Sn:0.100%以下、B:0.0100%以下から選択される少なくとも1種を更に含んでもよい。
【0022】
ステンレス鋼材の素地は、一態様において、Mn:0.05~1.00%、Cr:16.00~25.00%、Ti:0.08~0.50%、C:0.100%以下、Si:1.00%以下、P:0.100%以下、S:0.100%以下、Ni:1.00%以下、Cu:1.00%以下、Mo:2.00%以下、N:0.100%以下を含み、残部がFe及び不純物からなる組成とすることができる。
また、ステンレス鋼材の素地は、別の態様において、Mn:0.05~1.00%、Cr:16.00~25.00%、Ti:0.08~0.50%、C:0.100%以下、Si:1.00%以下、P:0.100%以下、S:0.100%以下、Ni:1.00%以下、Cu:1.00%以下、Mo:2.00%以下、N:0.100%以下、Nb:0.50%以下、Al:1.00%以下、Zr:1.00%以下、Co:1.00%以下、V:1.00%以下、W:1.00%以下、REM:0.100%以下、Ca:0.100%以下、Sn:0.100%以下、B:0.0100%以下を含み、残部がFe及び不純物からなる組成とすることができる。
ここで、本明細書において「不純物」とは、ステンレス鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップなどの原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。例えば、不純物には、不可避的不純物も含まれる。不純物としては、例えばOが挙げられる。
上記の各元素の含有量の限定理由を以下に説明する。
【0023】
(Mn:0.05~1.00%)
Mnは、酸化皮膜(黒色化熱処理後の黒色化皮膜)の色調を担保するのに有効な元素である。特に、MnはCrとの複合酸化物を形成することで、黒色の色調を与える。ただし、Mnの含有量が多すぎると、腐食起点となるMnSを生成し易くなるとともに、フェライト相を不安定化させる。そのため、Mnの含有量の上限値は、1.00%、好ましくは0.95%、より好ましくは0.90%である。一方、Mnの含有量が少なすぎると、上記の効果が十分に得られないことがある。そのため、Mnの含有量の下限値は0.05%、好ましくは0.055%、より好ましくは0.06%である。
【0024】
(Cr:16.00~25.00%)
Crは、ステンレス鋼材の耐食性及び耐酸化性を向上させるのに有効な元素である。また、Crは、酸化皮膜(黒色化熱処理後の黒色化皮膜)の色調を担保するのに有効な元素でもある。ただし、Crの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の靭性が低下するとともに、酸化皮膜の成長を阻害し、黒色の色調を有する酸化皮膜を形成できない。そのため、Crの含有量の上限値は、25.00%、好ましくは24.50%、より好ましくは24.00%である。一方、Crの含有量が少なすぎると、上記の効果が十分に得られない。そのため、Crの含有量の下限値は、16.00%、好ましくは16.25%、より好ましくは16.50%である。
【0025】
(Ti:0.08~0.50%)
Tiは、耐粒界腐食性(鋭敏化抑制作用)に影響を与える元素である。また、Tiは、酸化皮膜(黒色化熱処理後の黒色化皮膜)の色調を担保するのに有効な元素でもある。特に、TiはCrとの複合酸化物を形成することで、黒色の色調を与えるとともに、表面にTi酸化物(TiO2)を形成することで酸化皮膜の剥離を抑制することもできる。ただし、Tiの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性及び表面品質が低下する。そのため、Tiの含有量の上限値は、0.50%、好ましくは0.45%、より好ましくは0.40%である。また、Tiの含有量が少なすぎると、上記の効果が十分に得られない。そのため、Tiの含有量の下限値は、0.08%、好ましくは0.085%、より好ましくは0.09%である。
【0026】
(C:0.100%以下)
Cは、ステンレス鋼材の耐粒界腐食性(鋭敏化抑制作用)や加工性などの特性に影響を与える元素である。ただし、Cの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性及び耐粒界腐食性が低下してしまう。そのため、Cの含有量の上限値は、0.100%、好ましくは0.080%、より好ましくは0.060%である。一方、Cの含有量の下限値は、特に限定されないが、Cの含有量を過剰に少なくすることは精練コストの上昇につながる。そのため、Cの含有量の下限値は、好ましくは0.0001%、好ましくは0.0003%である。
【0027】
(Si:1.00%以下)
Siは、ステンレス鋼材の耐酸化性を向上させる元素である。ただし、Siの含有量が多すぎると、加工性及び溶接部靭性が低下する。そのため、Siの含有量の上限値は、1.00%、好ましくは0.90%、より好ましくは0.80%である。一方、Siの含有量の下限値は、特に限定されないが、Siによる効果を得る観点から、好ましくは0.005%、より好ましくは0.01%、更に好ましくは0.015%である。
【0028】
(P:0.100%以下)
Pは、ステンレス鋼材の溶接性や加工性などの特性に影響を与える元素である。Pの含有量が多すぎると、上記の特性が低下する恐れがある。そのため、Pの含有量の上限値は、0.100%、好ましくは0.080%、より好ましくは0.060%である。一方、Pの含有量の下限値は、特に限定されないが、Pの含有量を過剰に少なくすることは精練コストの上昇につながる。そのため、Pの含有量の下限値は、好ましくは0.001%、より好ましくは0.005%である。
【0029】
(S:0.100%以下)
Sは、腐食起点となるMnSを生成し、ステンレス鋼材の溶接部靭性などの特性に影響を与える元素である。Sの含有量が多すぎると、上記の特性が低下する恐れがある。そのため、Sの含有量の上限値は、0.100%、好ましくは0.080%、より好ましくは0.060%である。一方、Sの含有量の下限値は、特に限定されないが、Sの含有量を過剰に少なくすることは精練コストの上昇につながる。そのため、Sの含有量の下限値は、好ましくは0.0001%、より好ましくは0.0002%である。
【0030】
(Ni:1.00%以下)
Niは、ステンレス鋼材の耐食性及び溶接部靭性を向上させるのに有効な元素である。ただし、Niの含有量が多すぎると、フェライト相が不安定化するとともに、製造コストも上昇する。そのため、Niの含有量の上限値は、1.00%、好ましくは0.90%、より好ましくは0.80%である。一方、Niの含有量の下限値は、特に限定されないが、上記の効果を得る観点から、好ましくは0.005%、より好ましくは0.01%である。
【0031】
(Cu:1.00%以下)
Cuは、ステンレス鋼材の耐食性を向上させるのに有効な元素である。ただし、Cuの含有量が多すぎると、フェライト相が不安定化するとともに、製造コストも上昇する。そのため、Cuの含有量の上限値は、1.00%、好ましくは0.90%、より好ましくは0.80%である。一方、Cuの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.005%、より好ましくは0.01%である。
【0032】
(Mo:2.00%以下)
Moは、ステンレス鋼材の耐食性及び耐酸化性を向上させるのに有効な元素である。ただし、Moの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性の低下及び製造コストの上昇を招く。そのため、Moの含有量の上限値は、2.00%、好ましくは1.95%、より好ましくは1.90%である。一方、Moの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.001%、好ましくは0.005%である。
【0033】
(N:0.100%以下)
Nは、耐粒界腐食性(鋭敏化抑制作用)や加工性などの特性に影響を与える元素である。ただし、Nの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の耐粒界腐食性や加工性が低下する。また、Nの含有量が多くなると、TiNが析出し易くなって鋼中の固溶Ti量が減少し、黒色化熱処理後に黒色化皮膜の形成が阻害される。また、形成された窒化物は、腐食の起点になり易く、耐食性を低下させる。そのため、Nの含有量の上限値は、0.100%、好ましくは0.095%、より好ましくは0.090%である。一方、Nの含有量の下限値は、特に限定されないが、Nの含有量を過剰に少なくすることは精練コストの上昇につながる。そのため、Nの含有量の下限値は、好ましくは0.001%、より好ましくは0.003%である。
【0034】
(Nb:0.50%以下)
Nbは耐粒界腐食性(鋭敏化抑制作用)などの特性に影響を与える元素である。ただし、Nbの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性及び靭性が低下する。そのため、Nbの含有量の上限値は、0.50%、好ましくは0.45%、より好ましくは0.40%である。一方、Nbの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.005%、より好ましくは0.01%である。
【0035】
(Al:1.00%以下、Zr:1.00%以下、Co:1.00%以下、V:1.00%以下、W:1.00%以下)
Al、Zr、Co、V及びWは、ステンレス鋼材の耐酸化性を向上させるのに有効な元素である。ただし、Al、Zr、Co、V及びWの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性及び靭性が低下するとともに、製造コストの上昇につながる。そのため、Al、Zr、Co、V及びWの含有量の上限値はいずれも、1.00%、好ましくは0.95%、より好ましくは0.90%である。一方、Al、Zr、Co、V及びWの含有量の下限値はいずれも、特に限定されないが、好ましくは0.0001%、より好ましくは0.0005%である。
【0036】
(REM:0.100%以下、Ca:0.100%以下)
REM及びCaは、ステンレス鋼材の耐酸化性を向上させるのに有効な元素である。ただし、REM及びCaの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の製造コストの上昇につながる。そのため、REM及びCaの含有量の上限値はいずれも、0.100%、好ましくは0.090%、より好ましくは0.080%である。一方、REM及びCaの下限値はいずれも、特に限定されないが、好ましくは0.0001%、より好ましくは0.0003%である。
なお、REMは、Sc、Y及びランタノイドの合計17元素の総称であり、希土類金属を意味する。具体的には、La、Ce、Ndなどが挙げられ、これらのうち1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて含有させることができる。含有される希土類元素が2種以上である場合、上記REM含有量は、これら希土類元素の総含有量を意味する。
【0037】
(Sn:0.100%以下)
Snは、ステンレス鋼材の耐食性を向上させるのに有効な元素である。ただし、Snの含有量が多すぎると、Snが偏析し、製造性が低下する。そのため、Snの含有量の上限値は、0.100%、好ましくは0.090%、より好ましくは0.080%である。一方、Snの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.001%、より好ましくは0.002%である。
【0038】
(B:0.0100%以下)
Bは、ステンレス鋼材の二次加工性を向上させるのに有効な元素である。ただし、Bの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の疲労強度が低下する。そのため、Bの含有量の上限値は、0.0100%、好ましくは0.0090%、より好ましくは0.0080%である。一方、Bの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.0001%、より好ましくは0.0003%である。
【0039】
なお、素地の金属組織はフェライト系である。ここで、本明細書において「フェライト系」とは、常温で金属組織が主にフェライト相であるものを意味する。
【0040】
本発明の実施形態に係るステンレス鋼材は、上記のような特徴を有する酸化皮膜を有するため、加工時に素地が部分的に露出しても耐食性が良好である。したがって、本発明の実施形態に係るステンレス鋼材は、様々な加工品の製造に用いるのに好適である。
【0041】
<ステンレス鋼材の製造方法>
本発明の実施形態に係るステンレス鋼材の製造方法は、上記の特徴を有するステンレス鋼材を製造可能な方法であれば特に限定されない。
本発明の実施形態に係るステンレス鋼材は、例えば、ステンレス圧延材に対し、O2濃度が1~10体積%、水蒸気濃度が5~20体積%であり、且つ以下の式(1)で表される値が15~30である雰囲気下、900℃以上の温度で30秒以上の熱処理を行うことによって製造することができる。
2×O2濃度+水蒸気濃度 ・・・(1)
【0042】
熱処理時の雰囲気が上記の条件でないと、酸化皮膜のキャリア密度を上記の範囲に制御することができない。
例えば、O2濃度が10体積%を超えると、酸化皮膜中のMn及びFeの酸化物の量が増大し、キャリア密度が高くなる。一方、O2濃度が1体積%未満であると、所定の厚みの酸化皮膜が形成し難くなる。O2濃度は、酸化皮膜のキャリア密度を上記の範囲に安定して制御する観点から、好ましくは1.5~9.5体積%、より好ましくは2~9%である。
水蒸気濃度が5~20体積%の範囲外であると、酸化皮膜中の格子欠陥が増大し、キャリア密度が高くなる。水蒸気濃度は、酸化皮膜のキャリア密度を上記の範囲に安定して制御する観点から、好ましくは6~19体積%、より好ましくは7~18%である。
式(1)で表される値が15~30の範囲外であると、酸化皮膜中の格子欠陥が増大し、キャリア密度が高くなる。式(1)で表される値は、酸化皮膜のキャリア密度を上記の範囲に安定して制御する観点から、好ましくは15.5~29、より好ましくは16~28である。
【0043】
熱処理の温度が900℃未満及び時間が30秒未満であると、酸化皮膜が十分に成長せず、所望の厚みの酸化皮膜を形成することができない。
熱処理の温度は、所望の厚みの酸化皮膜を安定して形成する観点から、好ましくは900~1200℃、より好ましくは910~1180℃である。
また、熱処理の時間は、所望の厚みの酸化皮膜を安定して形成する観点から、好ましくは30~300秒、より好ましくは35~280秒である。
【0044】
ステンレス圧延材としては、特に限定されず、熱延材、冷延材などを用いることができる。圧延材は、当該技術分野において公知の方法に従って製造することができる。例えば、冷延材は、所定の組成を有するステンレス鋼を溶製し、熱間圧延、焼鈍及び酸洗を行った後、冷間圧延することによって製造することができる。
【0045】
ステンレス圧延材の組成は、特に限定されないが、上記の特徴を有する酸化皮膜を形成し易くする観点から、Mn:0.05~1.00%、Cr:16.00~25.00%及びTi:0.08~0.50%を含むことが好ましい。
また、ステンレス圧延材は、C:0.100%以下、Si:1.00%以下、P:0.100%以下、S:0.100%以下、Ni:1.00%以下、Cu:1.00%以下、Mo:2.00%以下、N:0.100%以下から選択される少なくとも1種を更に含んでもよい。
さらに、ステンレス圧延材は、Nb:0.50%以下、Al:1.00%以下、Zr:1.00%以下、Co:1.00%以下、V:1.00%以下、W:1.00%以下、REM:0.100%以下、Ca:0.100%以下、Sn:0.100%以下、B:0.0100%以下から選択される少なくとも1種を更に含んでもよい。
【0046】
ステンレス圧延材は、一態様において、Mn:0.05~1.00%、Cr:16.00~25.00%、Ti:0.08~0.50%、C:0.100%以下、Si:1.00%以下、P:0.100%以下、S:0.100%以下、Ni:1.00%以下、Cu:1.00%以下、Mo:2.00%以下、N:0.100%以下を含み、残部がFe及び不純物からなる組成とすることができる。
また、ステンレス圧延材は、別の態様において、Mn:0.05~1.00%、Cr:16.00~25.00%、Ti:0.08~0.50%、C:0.100%以下、Si:1.00%以下、P:0.100%以下、S:0.100%以下、Ni:1.00%以下、Cu:1.00%以下、Mo:2.00%以下、N:0.100%以下、Nb:0.50%以下、Al:1.00%以下、Zr:1.00%以下、Co:1.00%以下、V:1.00%以下、W:1.00%以下、REM:0.100%以下、Ca:0.100%以下、Sn:0.100%以下、B:0.0100%以下を含み、残部がFe及び不純物からなる組成とすることができる。
【0047】
<加工品>
本発明の実施形態に係る加工品は、上記のステンレス鋼材の加工品である。
ここで、本明細書において、ステンレス鋼材の加工品とは、ステンレス鋼材を公知の各種方法によって加工された製品を意味する。加工方法としては、特に限定されないが、例えば、プレス、研磨、ロールフォーミングなどが挙げられる。
【0048】
本発明の実施形態に係る加工品は、加工部の一部に素地が露出した部分を有する。このように素地が露出した部分が存在していても、当該部分の腐食が起こり難いため、加工品の耐食性を向上させることができる。
【0049】
本発明の実施形態に係る加工品は、耐食性が良好であるため、耐食性が要求される各種製品に用いることができる。加工品の例としては、特に限定されないが、例えば、マフラーなどの排気系部品、取り付け治具と接合される外装建材パネルなどが挙げられる。
【実施例0050】
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0051】
表1に示す組成(残部はFe及び不純物である)を有するステンレス鋼を溶製し、熱間圧延して厚み3.0mmの熱延板を得た後、熱延板を1050℃で焼鈍して酸洗することによって熱延焼鈍板を得た。次に、熱延焼鈍板を冷間圧延して厚み1.0mmの冷延板を得た。次に、冷延板を表2に示す条件で熱処理してステンレス鋼板を得た。熱処理において、雰囲気炉内でO2ガス、N2ガス及び水蒸気の導入比を調整することで所定のO2濃度及び水蒸気濃度に制御した。得られたステンレス鋼板から300mm(圧延方向)×100mm(幅方向)の試験片を切り出した。
【0052】
【0053】
【0054】
上記の試験片について、以下の評価を行った。
【0055】
(酸化皮膜の全体厚み及びCr2O3内層の厚み)
試験片から50mm角の測定用試験片を切り出し、表面をアセトンで脱脂させた。次に、JIS K0144:2018に準拠するグロー放電発光分光法(GD-OES)を用いて前処理皮膜の分析を行った。
GD-OESでは、得られた深さ方向の成分濃度プロファイルにおいて表面からO(酸素)が最大値の1/4となるポイントまでの深さを酸化皮膜の厚みとした。また、酸化皮膜中で、Cr濃度/(Fe濃度+Cr濃度+Mn濃度+Ti濃度)×100が70%以上の範囲となる部分をCr2O3内層の厚みとした。各元素の濃度は、GD-OESによって得られた深さ方向の成分濃度プロファイルから算出した。
【0056】
(酸化皮膜のキャリア密度)
試験片から20mm×15mmの測定用試験片を切り出し、一端に導線をスポット溶接して接続し、試験面10mm×10mm以外の部分をシリコーン樹脂(信越化学工業株式会社製の一液縮合型RTVゴムKE44)で被覆した。次に、試験液として0.1モル/LのNa2SO4水溶液を使用し、Ar脱気雰囲気下、30℃で電気化学インピーダンス測定を行った。電気化学インピーダンス測定は、北斗電工株式会社製の電気化学測定システムHZ-7000を用い、所定の電位で正弦波を印加することでインピーダンス変化を測定し、酸化皮膜の静電容量Cを測定した。測定電位は-0.2~0.5V vs.SSE(SSEは、飽和KCl銀塩化銀電極型照合電極を示す)、正弦波1Hz~100kHz、振幅10mVとした。得られたCを元にMott-Schottkyプロットと呼ばれる1/C2-V曲線のグラフにおいて、0~-0.4Vにおけるグラフの傾きAを最小二乗法で導出した。傾きAとキャリア密度Nqは下記式の関係で表されるため、この式に基づいて傾きAから酸化皮膜のキャリア密度を導出した。
【0057】
【0058】
上記式中、Nqはキャリア密度であり、AはMott-Schottkyプロットの傾きであり、eは電気素量(1.62×10-19C)であり、εは酸化皮膜の比誘電率(12)であり、ε0は真空の誘電率(8.854×10-12F/m)である。
【0059】
(色調)
酸化皮膜の任意の5箇所について、測定径3mmφの分光測色計を用いてJIS Z8722:2009に準拠した色調測定を行い、平均値をJIS Z8781-4:2013に準拠するCIELAB(L*a*b*表色系)である明度指数L*、クロマネチックス指数a*、b*で示した。
【0060】
上記の色調の測定条件は、以下の通りとした。
装置:コニカミノルタ 分光測色計 CM-700d
光源:パルスキセノンランプ
受光素子:デュアル36素子シリコンフォトダイオードアレイ
ターゲットマスク:φ3mm
測定:10°視野
補助イルミナント:D65 昼光、色温度6504K
正反射処理モード:SCI
【0061】
(加工品の耐食性:CCT試験)
試験片を研磨によって加工して加工試験品を得た。
研磨は、幅50mm×長さ100mmの形状に切削加工した後、冷却しながら部分研磨又は全面研磨を行い、加工試験品を得た。部分研磨は5mmφの円形に素地が露出するよう、試験片に12箇所行った。加工試験品における部分研磨の位置を
図1に示す。
次に、上記の加工試験品を用いて複合サイクル(CCT)試験によって耐食性を評価した。CCT試験は、次のようにして行った。
まず、引張加工及び研磨加工によって得られた加工試験品については、測定用試験片の3つの側面(幅方向の側面1つを除く)を樹脂(信越化学工業株式会社製の一液縮合型RTVゴムKE44)で被覆した。また、TIG溶接加工によって得られた加工試験品については、溶接部が中央に位置するように幅50×長さ100mmの測定用試験片に切り出した後、測定用試験片の3つの側面(幅方向の側面1つを除く)を樹脂(信越化学工業株式会社製の一液縮合型RTVゴムKE44)で被覆した。次に、70mm×150mmのベークライト板の上に20mmφ×10mmのポリエチレン製チューブ2個を接着し、その上に加工試験品(測定用試験片)の樹脂で被覆されていない側面と反対側の面を配置して接着した。次に、このようにして得られたサンプルを、加工試験品(測定用試験片)の表面が水平面に対して75°、且つ加工試験品(測定用試験片)の樹脂で被覆されていない側面が下部となるようにしてCCT装置に配置し、5%塩水噴霧(35℃、2時間)、乾燥(60℃、25%RH、4時間)、湿潤(50℃、95%RH、2時間)を1サイクルとして10サイクル行った。その後、サンプルを水洗及び乾燥し、加工試験品(測定用試験片)の表面における発銹面積率を評価した(JIS Z2371:2015に準拠)。この評価において、レイティングナンバ(R.N.)が8.0以上(発銹面積率が0.25%以下に相当)であれば耐食性が良好、RNが8.0未満であれば耐食性が劣ると判断することができる。
上記の結果を表3に示す。
【0062】
【0063】
表3に示されるように、試験No.1-1~1-5のステンレス鋼板(本発明例)は、厚みが50nm以上のCr2O3内層を有し、全体厚みが300~1000nm、キャリア密度が2.00×1020個/cm3以下、L*a*b*表色系における明度指数L*が50.0以下、クロマネチックス指数a*及びb*が±5.00以内である酸化皮膜を有しているため、加工時に素地が部分的に露出しても耐食性が良好であった。
【0064】
これに対して試験No.2-1のステンレス鋼板(比較例)は、熱処理時間が短すぎる上、全面研磨したため、酸化皮膜の厚みが非常に小さくなった。また、このステンレス鋼板は、酸化皮膜のキャリア密度も高くなりすぎてしまった。そのため、このステンレス鋼板は、耐食性が十分でなかった。
試験No.2-2のステンレス鋼板(比較例)は、熱処理時のO2濃度及び式(1)の値が高すぎたため、酸化皮膜のキャリア密度が高くなりすぎてしまった。そのため、このステンレス鋼板は、耐食性が十分でなかった。
試験No.2-3のステンレス鋼板(比較例)は、熱処理時の水蒸気濃度及び式(1)の値が高すぎたため、酸化皮膜のキャリア密度が高くなりすぎてしまった。そのため、このステンレス鋼板は、耐食性が十分でなかった。
試験No.2-4のステンレス鋼板(比較例)は、熱処理時の式(1)の値が高すぎたため、酸化皮膜のキャリア密度が高くなりすぎてしまった。そのため、このステンレス鋼板は、耐食性が十分でなかった。
【0065】
試験No.2-5のステンレス鋼板(比較例)は、熱処理時間が短すぎたため、酸化皮膜の全体厚みやCr2O3内層の厚みが小さくなりすぎてしまった。そのため、このステンレス鋼板は、耐食性が十分でなかった。
試験No.2-6のステンレス鋼板(比較例)は、Mn含有量が少なすぎるとともにTiを含んでいないため、所望の黒色色調が得られなかった。
試験No.2-7のステンレス鋼板(比較例)は、Tiを含んでいないため、所望の黒色色調が得られなかった。
試験No.2-8のステンレス鋼板(比較例)は、Cr含有量が少なすぎたため、キャリア密度が高くなりすぎてしまった。そのため、このステンレス鋼板は、耐食性が十分でなかった。
【0066】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、加工時に素地が部分的に露出しても耐食性が良好なステンレス鋼材及びその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、耐食性が良好な加工品を提供することができる。