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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131057
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】搬送ケース及び移動体の脱出方法
(51)【国際特許分類】
   B64G 1/66 20060101AFI20230913BHJP
   B64G 1/16 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
B64G1/66 Z
B64G1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035730
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】522092572
【氏名又は名称】株式会社ダイモン
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 紳一郎
(57)【要約】
【課題】車輪を有する移動体を複数のケース部材の間から確実に脱出させることが可能な搬送ケース及び脱出方法を提供する。
【解決手段】
移動体である探査車1は、右車輪2及び左車輪3を有している。探査車1を搬送する搬送ケース5は、探査車1を収容する第1及び第2のケース部材6,7を備える。右車輪2及び左車輪3は、回転軸線O,Oから径方向に離れた位置に突起233,333を有している。第1及び第2のケース部材6,7には、右車輪2及び左車輪3の突起233,333がそれぞれ係合する612a,612b,613a,613b,712a,712b,713a,713bが形成されている。探査車1の脱出時には、搬送ケース5内で右車輪2及び左車輪3が回転することにより、探査車1の脱出動作が行われる。
【選択図】図16C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を有する移動体を搬送する搬送ケースであって、
前記移動体を収容する第1及び第2のケース部材を備え、
前記車輪は、回転軸線から径方向に離れた位置に突起を有し、
前記第1及び第2のケース部材の少なくとも何れかには、前記突起が係合する係合部が形成されており、
前記突起が前記係合部に係合した状態で前記車輪が回転することにより、前記移動体の脱出動作が行われる、
搬送ケース。
【請求項2】
前記第1及び前記第2のケース部材には、前記車輪の回転軸線方向に沿って前記車輪の中心部と並ぶ位置にそれぞれ開口が形成されており、
前記係合部は、前記開口に連通して設けられた切り欠きである、
請求項1に記載の搬送ケース。
【請求項3】
搬送ケースによって搬送される移動体の前記搬送ケースからの脱出方法であって、
前記移動体は、前記搬送ケースに収容される車輪を有し、前記車輪の回転軸線から径方向に離れた位置に突起が設けられており、
前記搬送ケースは、第1及び第2のケース部材を有し、前記第1及び第2のケース部材の少なくとも何れかに前記突起が係合する係合部が形成されており、
前記突起が前記係合部に係合した状態で前記車輪が回転することにより、前記移動体の脱出動作が行われる、
移動体の脱出方法。
【請求項4】
前記移動体が前記第1及び第2のケース部材の少なくとも何れかに保持された状態で前記車輪を回転させることにより、前記移動体が前記第1及び第2のケース部材に対して脱出方向に移動する、
請求項3に記載の移動体の脱出方法。
【請求項5】
前記移動体は、前記車輪を回転させながら前記第1及び第2のケース部材から重力方向に脱出して自由落下する、
請求項3又は4に記載の移動体の脱出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体を搬送するための搬送ケース、及び移動体の搬送ケースからの脱出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば月面などのように、人が容易に到達できない場所を探査するための無人探査車が開発されている。本出願人は、このような無人探査車として、特許文献1,2に記載のものを提案している。特許文献1,2に記載の無人探査車は、本体部と、本体部の幅方向両端において同軸上に配置された一対の車輪と、本体部の後方に設けられて地面に接地する接地体とを備えている。また、無人探査車を目的地に運搬して着陸させる探査機としては、例えば特許文献3に記載のものが提案されている。
【0003】
特許文献3に記載の探査機は、移動体である無人探査車を収納する探査機本体と、探査機本体から下方に延設された着陸脚とを備えている。探査機本体は、着陸脚が天体表面に接した後に横転して天体表面上に倒伏し、探査機本体の上面の開口を閉鎖する蓋体が開くように構成されている。探査機本体が天体表面上に倒伏する際の衝撃は、探査機本体に設けられたエアバッグ装置によって吸収される。また、無人探査車は、内部にガスを封入したバッグを隙間に詰め込むことによって探査機本体の内部に固定されており、着陸後にこのバッグ内のガスを放出することにより固定が解除される構造となっている。無人探査車は、探査機本体が天体表面上に倒伏した後、開いた状態の蓋体を道坂として自走し、探査機本体から脱出して天体表面を走行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-168970号公報
【特許文献2】特開2020-172222号公報
【特許文献3】特開2002―205698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば特許文献3に記載されているように、移動体を目的地まで搬送するものでは、移動体が目的地において確実に脱出可能でなければならない。また、搬送対象物である移動体をロケット等の飛翔体によって目的地に運搬する場合には、小型軽量化も重要な課題となる。
【0006】
そこで、本発明は、車輪を有する移動体を複数のケース部材の間から確実に脱出させることが可能な搬送ケース及び脱出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するため、車輪を有する移動体を搬送する搬送ケースであって、前記移動体を収容する第1及び第2のケース部材を備え、前記車輪は、回転軸線から径方向に離れた位置に突起を有し、前記第1及び第2のケース部材の少なくとも何れかには、前記突起が係合する係合部が形成されており、前記突起が前記係合部に係合した状態で前記車輪が回転することにより、前記移動体の脱出動作が行われる、搬送ケースを提供する。
【0008】
また、本発明は、上記の目的を達成するため、搬送ケースによって搬送される移動体の前記搬送ケースからの脱出方法であって、前記移動体は、前記搬送ケースに収容される車輪を有し、前記車輪の回転軸線から径方向に離れた位置に突起が設けられており、前記搬送ケースは、第1及び第2のケース部材を有し、前記第1及び第2のケース部材の少なくとも何れかに前記突起が係合する係合部が形成されており、前記突起が前記係合部に係合した状態で前記車輪が回転することにより、前記移動体の脱出動作が行われる、移動体の脱出方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車輪を有する移動体を複数のケース部材の間から確実に脱出させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A図1Aは、探査車の正面図である。
図1B図1Bは、探査車の上面図である。
図1C図1Cは、探査車の右車輪側を示す側面図である。
図1D図1Dは、探査車の左車輪側を示す側面図である。
図2A図2Aは、探査車の斜視図である。
図2B図2Bは、探査車の斜視図である。
図3図3は、図1BのA-A線における探査車の断面図である。
図4A図4Aは、右車輪を示す構成図である。
図4B図4Bは、図4AのB-B線断面図である。
図5A図5Aは、左車輪を示す構成図である。
図5B図5Bは、図5AのC-C線断面図である。
図6A図6Aは、探査車の月面への着地前の状態を示す説明図である。
図6B図6Bは、探査車の月面への着地後の状態を示す説明図である。
図7A図7Aは、搬送ケースの正面図である。
図7B図7Bは、搬送ケースの底面図である。
図7C図7Cは、搬送ケースの右車輪側の側面図である。
図7D図7Dは、搬送ケースの左車輪側の側面図である。
図8A図8Aは、図7AのD-D線断面図である。
図8B図8Bは、図8Aの部分拡大図である。
図9図9は、図7DのE-E線断面図である。
図10A図10Aは、第1のケース部材の正面図である。
図10B図10Bは、第1のケース部材の上面図である。
図10C図10Cは、第1のケース部材の右車輪側の側面図である。
図10D図10Dは、第1のケース部材の左車輪側の側面図である。
図11A図11Aは、図10BのF-F線断面図である。
図11B図11Bは、図10BのG-G線断面図である。
図12A図12Aは、第1のケース部材を示す斜視図である。
図12B図12Bは、第1のケース部材を示す斜視図である。
図13A図13Aは、第2のケース部材の正面図である。
図13B図13Bは、第2のケース部材の上面図である。
図13C図13Cは、第2のケース部材の右車輪側の側面図である。
図13D図13Dは、第2のケース部材の左車輪側の側面図である。
図14図14は、図13BのH-H線断面図である。
図15A図15Aは、第2のケース部材を示す斜視図である。
図15B図15Bは、第2のケース部材を示す斜視図である。
図16A図16Aは、搬送ケースが開いた状態を示す説明図である。
図16B図16Bは、探査車が脱しつつある状態を示す説明図である。
図16C図16Cは、探査車が脱しつつある状態を示す説明図である。
図16D図16Dは、探査車が自由落下しつつある状態を示す説明図である。
図17A図17Aは、搬送ケースの下端部を下方から見た状態を示す説明図である。
図17B図17Bは、図17AのI-I線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
図1A図1Dは、本発明の実施の形態に係る搬送ケースによって搬送される探査車(ローバー)1の外観を示し、図1Aは正面図、図1Bは上面図、図1Cは右車輪2側を示す側面図、図1Dは左車輪3側を示す側面図である。図2A及び図2Bは、探査車1の斜視図である。図3は、図1BのA-A線における探査車1の断面図である。図4Aは、右車輪2を示す構成図であり、図4Bは、図4AのB-B線断面図である。図5Aは、左車輪3を示す構成図であり、図5Bは、図5AのC-C線断面図である。
【0012】
探査車1は、車幅W(図1A参照)が例えば10~20cmの手のひらサイズの移動体であり、その重量が例えば0.5kgである。探査車1は、例えば月面等の人が容易に到達できない場所を探査するために用いられる。本実施の形態では、探査車1が月面に着陸する着陸船に取り付けられた搬送ケースに収容されて搬送される場合について説明する。
【0013】
探査車1は、右車輪2及び左車輪3と、車体10を有する本体11と、本体11に取り付けられたコネクタ12と、第1の接地体13及び第2の接地体14とを備えている。第1の接地体13及び第2の接地体14は、複数の連結シャフト151によって車体10に連結されている。第1の接地体13と第2の接地体14とは、複数の補助連結シャフト152によって連結されている。
【0014】
探査車1は、第1の接地体13を進行方向の後方側で接地させて走行する第1の前進走行状態と、本体11の天地を反転させ、第2の接地体14を進行方向の後方側で接地させて走行する第2の前進走行状態とを切り替えることができる。本実施の形態において、右車輪2とは、第1の前進走行状態における前進方向に対する右側の車輪をいい、左車輪3とは、第1の前進走行状態における前進方向に対する左側の車輪をいう。
【0015】
車体10は、図3に示すように、右車輪2と左車輪3との間で前後方向に延在する胴部101と、胴部101から第1の前進走行状態における前進方向の右側に突出して設けられた右側アーム部102と、胴部101から第1の前進走行状態における前進方向の左側に突出して設けられた左側アーム部103とを一体に有している。
【0016】
右側アーム部102の外周面102aは、右車輪2の回転軸線Oに対して垂直な径方向外方に向かって中央部が膨出するように湾曲した部分球面状に形成されている。左側アーム部103の外周面103aは、左車輪3の回転軸線Oに対して垂直な径方向外方に向かって中央部が膨出するように湾曲した部分球面状に形成されている。
【0017】
胴部101には、図1Bに破線で示すように、コントローラ110、及び着陸船との無線通信を行う通信部111が収容されている。また、胴部101には、カメラ112、及びカメラ112の撮影対象を照射する一対のライト113が収容されている。本実施の形態では、カメラ112が探査車1の進行方向の前端部に配置されており、進行方向の前方を撮影するが、カメラ112の配置位置はこれに限らない。カメラ112によって撮影された画像の画像データは、通信部111によって着陸船に送信される。
【0018】
胴部101における後端部には、コネクタ12が突出して取り付けられている。コネクタ12は、円筒状のボス部121と、ボス部121よりも外径が大きい円盤状のフランジ部122とを有しており、ボス部121及びフランジ部122が車体10の外部に配置されている。
【0019】
右側アーム部102には、図3に示すように、右車輪2を駆動する右側駆動モータ114と、右側駆動モータ114の回転を減速する減速機構115と、一対のバッテリー116とが収容されている。左側アーム部103には、左車輪3を駆動する左側駆動モータ117と、左側駆動モータ117の回転を減速する減速機構118と、一対のバッテリー119とが収容されている。
【0020】
コントローラ110、通信部111、カメラ112、ライト113、右側駆動モータ114、及び左側駆動モータ117は、バッテリー116,119を電源として作動する。コントローラ110は、通信部111によって受信した指令信号に基づいて、カメラ112、ライト113、右側駆動モータ114、及び左側駆動モータ117を制御することが可能である。
【0021】
右車輪2は、減速機構115の出力軸115aと一体に回転するインナホイール部材21と、インナホイール部材21の外周に配置されたアウタホイール部材22と、インナホイール部材21とアウタホイール部材22とを連結する環状の連結部材23とを有している。減速機構115の出力軸115aは、キー115bによってインナホイール部材21に回り止めされている。インナホイール部材21は、右側アーム部102に固定された支持部材15に軸受16を介して回転可能に支持されている。減速機構115の出力軸115a及びキー115bは、複数のボルト201によって抜け止めされている。
【0022】
インナホイール部材21は、その中心部における外面21aが連結部材23に覆われておらず、回転軸線Oに沿った軸方向において連結部材23よりも外方に突出している。インナホイール部材21の外面21aには、複数のボルト201がそれぞれ挿入される複数のボルト孔211が開口している。連結部材23は、内周環状部231と外周環状部232とを一体に有しており、内周環状部231が複数のボルト202及びスタッド203によってインナホイール部材21に固定され、外周環状部232が複数のボルト204及びスタッド205によってアウタホイール部材22に固定されている。
【0023】
同様に、左車輪3は、減速機構118の出力軸118aと一体に回転するインナホイール部材31と、インナホイール部材31の外周に配置されたアウタホイール部材32と、インナホイール部材31とアウタホイール部材32とを連結する環状の連結部材33とを有している。減速機構118の出力軸118aは、キー118bによってインナホイール部材31に回り止めされている。インナホイール部材31は、左側アーム部103に固定された支持部材17に軸受18を介して回転可能に支持されている。減速機構118の出力軸118a及びキー118bは、複数のボルト301によって抜け止めされている。
【0024】
インナホイール部材31は、その中心部における外面31aが連結部材33に覆われておらず、回転軸線Oに沿った軸方向において連結部材33よりも外方に突出している。インナホイール部材31の外面31aには、複数のボルト301がそれぞれ挿入される複数のボルト孔311が開口している。連結部材33は、内周環状部331と外周環状部332とを一体に有しており、内周環状部331が複数のボルト302及びスタッド303によってインナホイール部材31に固定され、外周環状部332が複数のボルト304及びスタッド305によってアウタホイール部材32に固定されている。
【0025】
右車輪2のアウタホイール部材22は、図4A及び図4Bに示すように、インナホイール部材21の外周を覆うように配置された円筒状の基部221と、基部221の外縁から延在して右側アーム部102の外周面102aを覆うように形成されたリム部222と、リム部222の外周面222aから突出して形成された複数の爪部223とを一体に有している。リム部222には、軽量化のための複数の開口220が形成されている。
【0026】
左車輪3のアウタホイール部材32は、図5A及び図5Bに示すように、インナホイール部材31の外周を覆うように配置された円筒状の基部321と、基部321の外縁から延在して左側アーム部103の外周面103aを覆うように形成されたリム部322と、リム部322の外周面322aから突出して形成された複数の爪部323とを一体に有している。リム部322には、軽量化のための複数の開口320が形成されている。
【0027】
爪部223,323は、右車輪2及び左車輪3の周方向に対して垂直に形成された板状である。本実施の形態では、16個の爪部223が周方向等間隔に設けられている。探査車1が硬い地面を走行する際には、爪部223,323の先端面223a,323aが地面に接する。また、探査車1が砂地を走行する際には、爪部223,323が砂を掻きながら走行する。爪部223,323の先端面223a,323aは、右車輪2及び左車輪3における車体10の胴部101側の端部から基部221,321にかけて、全体が凸曲面状に湾曲している。
【0028】
図6A及び図6Bは、探査車1の月面への着地前後の状態を示す説明図である。探査車1は、月面400に着陸した着陸船4に取り付けられた搬送ケース5から脱出し、月の重力によって自由落下して月面400に着地する。着陸船4は、着陸船本体41と、複数の着陸脚部42と、月面400への降下速度を調節して複数の着陸脚部42が月面400に接地する際の衝撃を緩和するためのガスを噴射する複数のノズル43とを有している。図4A及び図4Bでは、複数の着陸脚部42及び複数のノズル43のうち、それぞれ一つの着陸脚部42及びノズル43を示している。以下の説明において、「上」、「下」とは、着陸船4が着陸した状態における月の重力方向に沿った鉛直方向の上下をいう。また、「水平」とは、月の重力方向に対して垂直な方向をいう。
【0029】
探査車1は、搬送ケース5に収容された状態で着陸船4によって搬送される搬送対象物である。着陸船本体41は、搬送ケース5が取り付けられた支持体411を有している。搬送ケース5は、支持体411の下面411aに取り付けられている。なお、図6A及び図6Bに示す例では、支持体411が着陸船本体41の側方に突出して設けられているが、支持体411が着陸船本体41の下方に設けられていてもよい。また、図6A及び図6Bに示す例では、着陸船本体41に一つの搬送ケース5が取り付けられているが、着陸船本体41に複数の搬送ケース5を取り付け、これら複数の搬送ケース5のそれぞれに探査車1を収容してもよく、搬送ケース5及び探査車1と共に他の物品を着陸船4によって月面400に運んでもよい。
【0030】
搬送ケース5は、着陸船4が月面400に着陸した後に開き、探査車1が月面400に落下する。搬送ケース5は、第1のケース部材6及び第2のケース部材7を有し、ロケットによる着陸船4の打ち上げ時の振動に耐え得るように探査車1を保持している。以下、搬送ケース5の構成について、詳細に説明する。
【0031】
図7A図7Cは、探査車1が収容された搬送ケース5を示し、図7Aは正面図、図7Bは底面図、図7Cは右車輪2側の側面図、図7Dは左車輪3側の側面図である。図8Aは、図7AのD-D線断面図である。図8Bは、図8Aの部分拡大図である。図9は、図7DのE-E線断面図である。図10A図10Dは、第1のケース部材6を単体で示し、図10Aは正面図、図10Bは上面図、図10Cは右車輪2側の側面図、図10Dは左車輪3側の側面図である。図11Aは、図10BのF-F線断面図であり、図11Bは、図10BのG-G線断面図である。図12A及び図12Bは、第1のケース部材6を示す斜視図である。図13A図13Dは、第2のケース部材7を単体で示し、図13Aは正面図、図13Bは上面図、図13Cは右車輪2側の側面図、図13Dは左車輪3側の側面図である。図14は、図13BのH-H線断面図である。図15A及び図15Bは、第2のケース部材7を示す斜視図である。
【0032】
搬送ケース5は、炭素繊維束を樹脂によって硬化させた板材を所定の形状に成形してなる第1のケース部材6及び第2のケース部材7と、第2のケース部材7を第1のケース部材6に対して揺動可能に支持する蝶番50と、第1のケース部材6に取り付けられた第1のコネクタ81及びアース板82と、第2のケース部材7に収容された第2のコネクタ83、第2のコネクタ83を保持するコネクタ保持部材84、コイルばね85、コイルばね85を保持するコイルばね保持部材86、及びケーブル保持部材87と、第1のコネクタ81と第2のコネクタ83とを接続するケーブル88と、探査車1の搬送時において第1のケース部材6と第2のケース部材7とを閉じた状態に維持する閉鎖部材としての糸状体91(図7B参照)が巻かれる第1乃至第3のボビン891~893とを備えている。
【0033】
図8Bに示すように、第2のコネクタ83は、円筒状の円筒部831と、外周面に雄ねじが形成された雄ねじ部832とを有しており、円筒部831の内側に探査車1のコネクタ12のボス部121が嵌合する。コネクタ保持部材84は、第2のコネクタ83の雄ねじ部832が内面に螺合する円筒部841と、円筒部841の外周に設けられたフランジ部842とを有している。コイルばね85は、探査車1のコネクタ12のフランジ部122を下方に向かって押し付けている。コイルばね保持部材86は、複数のボルト801によってコネクタ保持部材84のフランジ部842に固定された底部861と、コイルばね85を囲む円筒状の円筒部862とを有している。ケーブル保持部材87は、コネクタ保持部材84のフランジ部842の上方に配置されている。ケーブル保持部材87には、ケーブル88を挿通させる開口870が形成されている。
【0034】
第1のケース部材6は、第2のケース部材7側に開口するケース本体61と、探査車1の右車輪2の一部を収容する第1の右側車輪保持部62と、探査車1の左車輪3の一部を収容する第1の左側車輪保持部63と、着陸船本体41の支持体411への取り付けのための複数の取付穴640が形成された上板部64と、ケース本体61における第2のケース部材7側の端部に設けられた一対の対向板部65,66とを有している。
【0035】
ケース本体61は、奥板部611と、奥板部611の水平方向の両端部から第2のケース部材7側に延びる右側板部612及び左側板部613と、奥板部611の下端部から第2のケース部材7側に延びる底板部614とを有している。第1のコネクタ81は、奥板部611を貫通して取り付けられている。第1のコネクタ81には、図6A及び図6Bに示すように、着陸船4から延びる着陸船ケーブル44が接続される。探査車1には、着陸船ケーブル44及びケーブル88を介して、バッテリー116,119を充電するための電源や、着陸船4が月面400に着陸したことを示す信号などが供給される。アース板82は、奥板部511を貫通するアースボルト802によって奥板部611の外面に取り付けられている。アース板82には、図6A及び図6Bに示すように、着陸船4から延びるアース線45が接続される。
【0036】
第1のケース部材6は、上板部64の複数の取付穴640にそれぞれ挿通される複数のボルト92によって支持体411に固定される。上板部64には、軽量化のための複数の貫通穴641が形成されている。また、上板部64には、コイルばね85の復元力によって、ケーブル保持部材87が弾性的に押し付けられている。
【0037】
第2のケース部材7は、第1のケース部材6側に開口するケース本体71と、探査車1の右車輪2の他の一部を収容する第2の右側車輪保持部72と、探査車1の左車輪3の他の一部を収容する第2の左側車輪保持部73と、探査車1の第1の接地体13及び第2の接地体14を保持する接地体保持部74と、接地体保持部74とケース本体71とを接続する接続板部75と、ケース本体71における第1のケース部材6側の端部に設けられた一対の対向板部76,77とを有している。
【0038】
第2のケース部材7のケース本体71は、奥板部711と、奥板部711の水平方向の両端部から第1のケース部材6側に延びる右側板部712及び左側板部713と、奥板部711の下端部から第1のケース部材6側に延びる底板部714と、奥板部711の上端部から第1のケース部材6側に延びる上板部715とを有している。接地体保持部74は、探査車1の後端部における第1の接地体13及び第2の接地体14のそれぞれの一部を覆う笠状である。接地体保持部74には、ケーブル88を挿通させる切り欠き740、及び軽量化のための複数の貫通穴741が形成されている。接続板部75は、接地体保持部74を奥板部711に固定している。
【0039】
蝶番50は、図7Bに示すように、第1のケース部材6の上板部64に固定された第1の羽根板501と、第2のケース部材7の奥板部711の上端部に固定された第2の羽根板502と、第1の羽根板501と第2の羽根板502とを連結する連結軸503とを有している。連結軸503は、第1の羽根板501に設けられた筒部501a、及び第2の羽根板502に設けられた筒部502aに挿通されている。本実施の形態では、第2のケース部材7が蝶番50の連結軸503を中心として第1のケース部材6に対して揺動し、搬送ケース5が開くように構成されている。
【0040】
搬送ケース5が閉じた状態では、第1のケース部材6の一対の対向板部65,66と第2のケース部材7の一対の対向板部76,77とがそれぞれ平行に向かい合う。第2のケース部材7の一対の対向板部76,77には、第1のケース部材6側に向かって突出する複数の嵌合突起761,771が設けられている。第1のケース部材6の一対の対向板部65,66には、第2のケース部材7の一対の対向板部76,77の複数の嵌合突起761,771がそれぞれ嵌合する複数の嵌合穴651,661が形成されている。これにより、搬送ケース5が閉じた状態において、対向板部65,66,76,77に対して平行な方向への第1のケース部材6と第2のケース部材7との相対移動が規制される。なお、第1のケース部材6の対向板部65,66に嵌合突起を設けると共に、第2のケース部材7の対向板部76,77に嵌合穴を形成してもよい。
【0041】
第1のケース部材6の第1の右側車輪保持部62と第2のケース部材7の第2の右側車輪保持部72とは、それぞれ右車輪2の約半分を保持している。第1のケース部材6の第1の左側車輪保持部63と第2のケース部材7の第2の左側車輪保持部73とは、それぞれ左車輪3の約半分を保持している。第1の右側車輪保持部62及び第1の左側車輪保持部63は、搬送ケース5から探査車1が離脱するときに第1のケース部材6の下端部に位置するように設けられている。同様に、第2の右側車輪保持部72及び第2の左側車輪保持部73は、搬送ケース5から探査車1が離脱するときに第2のケース部材7の下端部に位置するように設けられている。
【0042】
これにより、探査車1は、右車輪2及び左車輪3から月面400に着地する。右車輪2及び左車輪3は、走行時における障害物との衝突時などの衝撃にも十分耐え得るように車体10に対する支持剛性が確保されているため、右車輪2及び左車輪3を下にして月面400に向かって探査車1を落下させることにより、着地の際の衝撃による損傷の発生を防ぐことができる。また、探査車1が接地する箇所の月面400が砂に覆われている場合には、右車輪2及び左車輪3の複数の爪部223,323が砂にめり込むことにより、着地の際の衝撃が緩和される。
【0043】
前述のように、右車輪2及び左車輪3の外周面にあたる複数の爪部223,323の先端面223a,323aは、右車輪2及び左車輪3の回転軸線O,Oに沿った断面において凸曲面状に湾曲しており、第1の右側車輪保持部62及び第2の右側車輪保持部72の内面62a,72aは、右車輪2における複数の爪部223の先端面223aの湾曲形状に沿った湾曲面である。また、第1の左側車輪保持部63及び第2の左側車輪保持部73の内面63a,73aは、左車輪3における複数の爪部323の先端面323aの湾曲形状に沿った湾曲面である。
【0044】
この湾曲形状により、例えばロケットの打ち上げ時において探査車1が回転軸線O,Oに沿った方向に大きく振動したとき、右車輪2の複数の爪部223の先端面223aが第1の右側車輪保持部62の内面62a及び第2の右側車輪保持部72の内面72aに線状に接触し、左車輪3の複数の爪部323の先端面323aが第1の左側車輪保持部63の内面63a及び第2の左側車輪保持部73の内面73aに線状に接触する。これにより、振動による荷重が一点に集中してしまうことが抑制され、爪部223,323や第1及び第2の右側車輪保持部62,72もしくは第1及び第2の左車輪保持部63,73に割れや変形が発生することを防ぐことが可能となる。
【0045】
第1のケース部材6及び第2のケース部材7には、右車輪2の回転軸線O方向に沿って右車輪2の中心部と並ぶ位置に、それぞれ右側開口601,701が形成されている。また、第1のケース部材6及び第2のケース部材7には、左車輪3の回転軸線O方向に沿って左車輪3の中心部と並ぶ位置に、それぞれ左側開口602,702が形成されている。第1のケース部材6の右側開口601及び左側開口602、ならびに第2のケース部材7の右側開口701及び左側開口702は、それぞれ半円状である。第1のケース部材6には、右側開口601が右側板部612に、左側開口602が左側板部613に、それぞれ形成されている。第2のケース部材7には、右側開口701が右側板部712に、左側開口702が左側板部713に、それぞれ形成されている。
【0046】
第1のケース部材6の右側開口601及び第2のケース部材7の右側開口701は、搬送ケース5の右側窓部51(図7C参照)を構成する。第1のケース部材6の左側開口602及び第2のケース部材7の左側開口702は、搬送ケース5の左側窓部52(図7D参照)を構成する。右側窓部51は、右車輪2の回転軸線Oを中心とする円径であり、左側窓部52は、左車輪3の回転軸線Oを中心とする円径である。本実施の形態では、右側窓部51の直径が右車輪2の連結部材23の内周環状部231の直径と同等であり、左側窓部52の直径が左車輪3の連結部材33の内周環状部331の直径と同等である。
【0047】
搬送ケース5に右側窓部51が形成されていることにより、探査車1が振動を受けた際に、右車輪2のインナホイール部材21の中心部における外面21aが第1のケース部材6及び第2のケース部材7の右側板部612,712に衝突し、割れ等の損傷が発生することが回避される。また、搬送ケース5に左側窓部52が形成されていることにより、探査車1が振動を受けた際に、左車輪3のインナホイール部材31の中心部における外面31aが第1のケース部材6及び第2のケース部材7の左側板部613,713に衝突することが回避される。
【0048】
またさらに、第1のケース部材6及び第2のケース部材7の右側板部612,712における右車輪2に対向する部分の剛性が右側開口601,701によって低減され、第1のケース部材6及び第2のケース部材7の左側板部613,713における左車輪3に対向する部分の剛性が左側開口602,702によって低減される。これにより、探査車1が振動を受けて右車輪2が右側板部612,712に衝突した際の衝撃、及び左車輪3が左側板部613,713に衝突した際の衝撃が緩和される。
【0049】
図4A及び図4Bに示すように、右車輪2には、回転軸線Oから径方向に離れた位置に一対の突起233が設けられている。本実施の形態では、右車輪2の連結部材23の外周環状部232に、回転軸線Oと平行な軸方向に突出する一対の突起233が設けられている。第1のケース部材6の右側板部612には、一対の突起233がそれぞれ係合する一対の第1の右側係合部612a,612bが形成されている。第2のケース部材7の右側板部712には、一対の突起233がそれぞれ係合する一対の第2の右側係合部712a,712bが形成されている。第1の右側係合部612a,612bは、右側開口601に連通して設けられた切り欠きによって形成され、第2の右側係合部712a,712bは、右側開口701に連通して設けられた切り欠きによって形成されている。第1の右側係合部612a,612b及び第2の右側係合部712a,712bには、一対の突起233のそれぞれの一部が収容される。
【0050】
図5A及び図5Bに示すように、左車輪3には、回転軸線Oから径方向に離れた位置に一対の突起333が設けられている。本実施の形態では、左車輪3の連結部材33の外周環状部332には、回転軸線Oと平行な軸方向に突出する一対の突起333が設けられている。第1のケース部材6の左側板部613には、一対の突起333がそれぞれ係合する一対の第1の左側係合部613a,613bが形成されている。第2のケース部材7の左側板部713には、一対の突起333がそれぞれ係合する一対の第2の左側係合部713a,713bが形成されている。第1の左側係合部613a,613bは、左側開口602に連通して設けられた切り欠きによって形成され、第2の左側係合部713a,713bは、左側開口702に連通して設けられた切り欠きによって形成されている。第1の左側係合部613a,613b及び第2の左側係合部713a,713bには、一対の突起333のそれぞれの一部が収容される。
【0051】
探査車1が搬送ケース5に収容された状態で右車輪2が回転すると、一対の突起233が回転軸線Oを中心として回転することにより、第1のケース部材6の右側板部612と第2のケース部材7の右側板部712とが離間する。また、探査車1が搬送ケース5に収容された状態で左車輪3が回転すると、一対の突起333が回転軸線Oを中心として回転することにより、第1のケース部材6の左側板部613と第2のケース部材7の左側板部713とが離間する。これにより、搬送ケース5が開かれ、探査車1が搬送ケース5から脱出可能となる。
【0052】
また、搬送ケース5が開かれた後に、右車輪2及び左車輪3を回転させて探査車1が脱出するようにしてもよい。次に、搬送ケース5が開いた後に右車輪2及び左車輪3を回転させて探査車1が脱出する場合の探査車1の脱出方法を、図16A乃至図16Dを参照して説明する。
【0053】
図16Aは、第2のケース部材7及び探査車1の重量によって第2のケース部材7が第1のケース部材6によって動き、搬送ケース5が開いた状態を示す説明図である。第2のケース部材7は、第1のケース部材6から遠い位置にある奥板部711に蝶番50の第2の羽根板502が固定されているので、第2のケース部材7及び探査車1の重量によって第2のケース部材7が第1のケース部材6に対して揺動する。この状態では、探査車1が第2のケース部材7に保持されている。
【0054】
図16B及び図16Cは、探査車1が右側駆動モータ114及び左側駆動モータ117の駆動力によって右車輪2及び左車輪3を回転させ、第2のケース部材7から脱しつつある状態を示している。図16Bは、右車輪2側を示し、図16Cは、左車輪3側を示している。この際、探査車1のコントローラ110は、右車輪2の一対の突起233のうち下方に位置する一方の突起233が第2の右側係合部712aに係合し、左車輪3の一対の突起333のうち下方に位置する一方の突起333が第2の左側係合部713aに係合した状態で、右車輪2及び左車輪3を矢印A,A方向に回転させる。
【0055】
これにより、探査車1の脱出動作が行われる。より具体的には、右車輪2が第2の右側係合部712aに係合する突起233を支点として回動して第2の右側車輪保持部72から脱すると共に、左車輪3が第2の左側係合部713aに係合する突起333を支点として回動して第2の左側車輪保持部73から脱する。ここで、右車輪2及び左車輪3を矢印A,A方向に回転させることによる探査車1の第2のケース部材7に対する移動方向は、探査車1が搬送ケース5から脱出するための脱出方向である。
【0056】
図16Dは、探査車1が搬送ケース5から自由落下しつつある状態を示している。この際、探査車1のコネクタ12がコイルばね85の復元力によって第2のコネクタ83から離脱する。探査車1のコントローラ110は、右車輪2及び左車輪3が着地するまでは右車輪2及び左車輪3を矢印A,A方向に回転させ続ける。つまり、探査車1は、右車輪2及び左車輪3を回転させながら第1のケース部材6及び第2のケース部材7から重力方向に脱出して自由落下する。これにより、右車輪2及び左車輪3が着地した際、直ちに探査車1の車体10が月面400に対して傾いて第1の接地体13が月面400に接地し、探査車1の接地時において本体11が受ける衝撃が緩和される。
【0057】
搬送ケース5には、第1のケース部材6及び第2のケース部材7が開く前に、探査車1のカメラ112によって第1のケース部材6及び第2のケース部材7の内部から外部を撮影可能とする撮影用の窓部53(図7B参照)が形成されている。窓部53は、搬送ケース5内の探査車1のカメラ112に対向する部位に形成されており、本実施の形態では、第1のケース部材6の底板部614及び第2のケース部材7の底板部714にそれぞれ半円状に形成された開口603,703によって窓部53が構成されている。これにより、探査車1は、第1のケース部材6及び第2のケース部材7が開く前に月面400の状態を撮影可能である。
【0058】
次に、着陸船4が月面400に着陸するまで、搬送ケース5の第1のケース部材6と第2のケース部材7とを閉じた状態に維持するための構成、及び第1のケース部材6及び第2のケース部材7の閉状態を解除するための構成について、図17A及び図17Bを参照して説明する。
【0059】
図17Aは、搬送ケース5の下端部を下方から上方に向かって見た状態を示す説明図である。図17Bは、図17AのI-I線断面図である。搬送ケース5は、探査車1の搬送時において、第1のケース部材6と第2のケース部材7との間に掛け回された糸状体91により、第1のケース部材6及び第2のケース部材7が閉じた閉鎖状態に維持される。糸状体91は、熱可塑性を有する樹脂からなり、例えばナイロン、フロロカーボン、ポリエチレン、もしくはポリエステルを、糸状体91の材料として好適に用いることができる。
【0060】
糸状体91は、複数の巻き付け部としての第1乃至第3のボビン891~893に巻き付けられる。第1のボビン891は、ボルト803によって第1のケース部材6の底板部614に固定され、第2のボビン892及び第2のボビン893は、ボルト804,805によって第2のケース部材7の底板部714に固定されている。撮影用の窓部53は、第1乃至第3のボビン891~893に囲まれた位置に形成されている。
【0061】
第1のケース部材6は、糸状体91を加熱によって切断するための発熱体67を有している。発熱体67は、糸状体91による第1のケース部材6と第2のケース部材7との閉鎖状態を解除する解除部材である。本実施の形態では、発熱体67が通電によって発熱する線状の電熱線であり、第1及び第2の直線部671,672及び半円状の円弧部673を有するU字状に形成されている。発熱体67は、第1の直線部671が第1の保持部材681に保持され、第2の直線部672が第2の保持部材682に保持されている。第1及び第2の保持部材681,682は、円筒状であり、発熱体67に通電されたときの温度よりも高い耐熱温度を有している。第1のケース部材6の底板部614には、第1の保持部材681が挿通された貫通孔614a、及び第2の保持部材682が挿通された貫通孔614bが形成されている。
【0062】
第1のボビン891は、一対の大径円盤部891a,891bと、一対の大径円盤部891a,891bの間に形成された小径円盤部891cとを有している。一対の大径円盤部891a,891bには、発熱体67の第1の直線部671の一部を収容する切り欠き890がそれぞれ形成されており、この第1の直線部671の一部に糸状体91が接している。本実施の形態では、第2及び第3のボビン892,893が第1のボビン891と共通する構造を有しており、第2及び第3のボビン892,893にも切り欠き890が形成されているが、第2及び第3のボビン892,893には切り欠き890が形成されていなくてもよい。
【0063】
糸状体91は、張力が付与された状態で第1乃至第3のボビン891~893に巻かれており、糸状体91の両端部が結び目910において結ばれている。第1乃至第3のボビン891~893は、図17Aに示す第1のケース部材6及び第2のケース部材7の開き方向Dに対して垂直な横方向Dにおいて、第1のボビン891が第2のボビン892と第3のボビン893との間に配置されている。これにより、横方向Dに沿った方向の第1のケース部材6と第2のケース部材7との相対移動が抑制されている。
【0064】
発熱体67には、着陸船ケーブル44の一対の電線441,442によって電流が供給される。発熱体67に電流が供給されると、発熱体67が発熱し、糸状体91が発熱体67に接している部分で切断される。これにより、第2のケース部材7が第1のケース部材6に対して揺動し、搬送ケース5が開状態となる。
【0065】
以上説明した本実施の形態によれば、第1のケース部材6が第1の右側車輪保持部62及び第1の左側車輪保持部63を有すると共に、第2のケース部材7が第2の右側車輪保持部72及び第2の左側車輪保持部73を有し、右車輪2が第1の右側車輪保持部62及び第2の右側車輪保持部72に保持され、左車輪3が第1の左側車輪保持部63及び第2の左側車輪保持部73に保持される。これにより、搬送ケース5を小型軽量で簡素な構成としながらも探査車1を運搬時の振動に耐え得るように保持することができる。また、第1の右側車輪保持部62及び第1の左側車輪保持部63が第1のケース部材6の下端部に設けられ、第2の右側車輪保持部72及び第2の左側車輪保持部73が第2のケース部材7の下端部に設けられているので、探査車1を右車輪2及び左車輪3から着地させることができる。
【0066】
また、本実施の形態によれば、探査車1が自らの動力によって右車輪2及び左車輪3を回転させ、搬送ケース5から脱出するので、例えば搬送ケース5に第1のケース部材6と第2のケース部材7とを相対移動させるためのモータ等のアクチュエータを備える必要がなく、搬送ケース5を小型軽量に構成することができる。
【0067】
また、本実施の形態によれば、右車輪2の突起233が第2のケース部材7の第2の右側係合部712aに係合し、左車輪3の突起333が第2のケース部材7の第2の左側係合部713aに係合した状態で、右車輪2及び左車輪3を矢印A,A方向に回転させて探査車1が搬送ケース5から脱出するので、脱出時に右車輪2又は左車輪3が空転してしまうことがなく、探査車1が確実に搬送ケース5から脱出することができる。
【0068】
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、この実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、一部の構成を省略し、あるいは構成を追加もしくは置換して、適宜変形して実施することが可能である。またさらに、例えば下記のように変形して実施することも可能である。
【0069】
上記の実施の形態では、第2のケース部材7が第1のケース部材6に対して動いて搬送ケース5が開く場合について説明したが、第1のケース部材6が第2のケース部材7に対して動いて搬送ケース5が開くようにしてもよい。また、上記の実施の形態では、第2のケース部材7が蝶番50によって揺動する場合について説明したが、これに限らず、例えば第2のケース部材7が第1のケース部材6に対して水平方向にスライドするようにしてもよい。
【0070】
上記の実施の形態では、右車輪2が一対の脱出用の突起233を有し、かつ左車輪3が一対の脱出用の突起333を有する場合について説明したが、右車輪2の突起233又は左車輪3の突起333を省略してもよい。つまり、右車輪2に突起233を設ければ左車輪3に突起333を設けなくてもよく、左車輪3に突起333を設ければ右車輪2に突起233を設けなくてもよい。また、右車輪2の一対の突起233のうち着地時における上側の突起233を省略してもよく、左車輪3の一対の突起333のうち着地時における上側の突起333を省略してもよい。なお、右車輪2の一対の突起233及び左車輪3の一対の突起333の何れかを省略する場合には、省略する突起に対応する係合部を第1及び第2のケース部材6,7に形成しなくてもよい。
【0071】
上記の実施の形態では、探査車1が着陸船4によって月に運ばれ、月面400に着地する場合を例にとって説明したが、探査車1が搬送される場所は、月に限らず他の天体であってもよく、地球上であってもよい。また、探査車1にカメラ112以外の探査用の装置を取り付けてもよい。
【0072】
上記の実施の形態は、探査車1が右車輪2及び左車輪3をそれぞれ一つずつ有する場合について説明したが、本発明に係る搬送ケースによって搬送される探査車は、左右の前輪及び左右の後輪を有する4輪車であってもよく、さらに多くの車輪を備えていてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1…探査車(移動体)
2…右車輪
233…突起
3…左車輪
333…突起
5…搬送ケース
6…第1のケース部材
601…右側開口
602…左側開口
612a,612b…第1の右側係合部
613a,613b…第1の左側係合部
7…第2のケース部材
701…右側開口
702…左側開口
712a,712b…第2の右側係合部
713a,713b…第2の左側係合部
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図13C
図13D
図14
図15A
図15B
図16A
図16B
図16C
図16D
図17A
図17B