(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131092
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】腸内短鎖脂肪酸生成促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7016 20060101AFI20230913BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20230913BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230913BHJP
A61K 36/185 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
A61K31/7016
A23L33/105 ZNA
A61P43/00 105
A61K36/185
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166329
(22)【出願日】2022-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2022034991
(32)【優先日】2022-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390037604
【氏名又は名称】カクイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【弁理士】
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】岩元 正孝
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB07
4B018LB08
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD31
4B018ME01
4B018ME11
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA66
4C086ZB21
4C088AB13
4C088AC03
4C088BA06
4C088CA25
4C088NA14
4C088ZA66
4C088ZB21
(57)【要約】
【課題】少なくとも酢酸、プロピオン酸及び酪酸の3種の短鎖脂肪酸の生成を促進するための腸内短鎖脂肪酸生成促進剤を提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも酢酸、プロピオン酸及び酪酸の3種の短鎖脂肪酸の生成を促進するための腸内短鎖脂肪酸生成促進剤であって、セロビオースを含有することを特徴とする腸内短鎖脂肪酸生成促進剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも酢酸、プロピオン酸及び酪酸の3種の短鎖脂肪酸の生成を促進するための腸内短鎖脂肪酸生成促進剤であって、
セロビオースを含有することを特徴とする腸内短鎖脂肪酸生成促進剤。
【請求項2】
前記セロビオースが、綿花の酵素分解物である請求項1に記載の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤。
【請求項3】
成人1人の1日あたりの前記セロビオースの摂取量が、100~1500mgである請求項1に記載の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤。
【請求項4】
大腸内におけるIgA抗体の産生を促進するための請求項1から3のいずれか一つに記載の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも酢酸、プロピオン酸及び酪酸の3種の短鎖脂肪酸の生成を促進するための腸内短鎖脂肪酸生成促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腸内環境を整えることは疾病予防や健康維持の観点から重要なことであり、腸内環境には腸内細菌が影響を及ぼしていることが知られている。
【0003】
腸内細菌が生成する短鎖脂肪酸は、SCFA(Short-Chain Fatty Acid)とも呼ばれ、上皮細胞のエネルギー源として利用されるのみならず、疾病予防や健康維持に重要な役割を果たしている。具体的には、腸内細菌が生成する短鎖脂肪酸は、炎症を抑制したり血糖の上昇を抑制したりすることが知られている。腸内細菌が生成する短鎖脂肪酸の中でも、疾病予防や健康維持には、酢酸、プロピオン酸及び酪酸の3つの短鎖脂肪酸が重要である。
【0004】
近年、腸内細菌による短鎖脂肪酸の生成を促進することを目的として、様々な技術が開発されている。例えば、特許文献1には、フコースを有効成分として含有する腸内短鎖脂肪酸生成促進組成物が記載されている。また、例えば、特許文献2には、大麦の穀粒又はその粉砕物と、イヌリンとを含む腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-170335号公報
【特許文献2】特開2021-10348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、少なくとも酢酸、プロピオン酸及び酪酸の3種の短鎖脂肪酸の生成を促進するための腸内短鎖脂肪酸生成促進剤を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、セロビオースを含有する物質が、腸内細菌による短鎖脂肪酸(少なくとも、酢酸、プロピオン酸及び酪酸の3種の短鎖脂肪酸)の生成を促進することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 少なくとも酢酸、プロピオン酸及び酪酸の3種の短鎖脂肪酸の生成を促進するための腸内短鎖脂肪酸生成促進剤であって、セロビオースを含有することを特徴とする腸内短鎖脂肪酸生成促進剤。
[2] 前記セロビオースが、綿花の酵素分解物である[1]に記載の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤。
[3] 成人1人の1日あたりの前記セロビオースの摂取量が、100~1500mgである[1]に記載の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤。
[4] 大腸内におけるIgA抗体の産生を促進するための[1]から[3]のいずれか一つに記載の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、少なくとも酢酸、プロピオン酸及び酪酸の3種の短鎖脂肪酸の生成を促進するための腸内短鎖脂肪酸生成促進剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、便培養液(便培養液を遠心分離して得たペレット)に含まれる腸内細菌の属組成を示すグラフである(被験者KI1~KI2)。
【
図1B】
図1Bは、便培養液(便培養液を遠心分離して得たペレット)に含まれる腸内細菌の属組成を示すグラフである(被験者KI3~KI4)。
【
図1C】
図1Cは、便培養液(便培養液を遠心分離して得たペレット)に含まれる腸内細菌の属組成を示すグラフである(被験者KI5~KI6)。
【
図2A】
図2Aは、便培養液(便培養液を遠心分離して得た上清)に含まれる短鎖脂肪酸量を示すグラフである(被験者KI1~KI2)。
【
図2B】
図2Bは、便培養液(便培養液を遠心分離して得た上清)に含まれる短鎖脂肪酸量を示すグラフである(被験者KI3~KI4)。
【
図2C】
図2Cは、便培養液(便培養液を遠心分離して得た上清)に含まれる短鎖脂肪酸量を示すグラフである(被験者KI5~KI6)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0012】
本実施形態は、少なくとも酢酸、プロピオン酸及び酪酸の3種の短鎖脂肪酸の生成を促進するための腸内短鎖脂肪酸生成促進剤に関する。
【0013】
本明細書において、腸内短鎖脂肪酸生成促進とは、腸内細菌による短鎖脂肪酸の生成が促進されることを指す。腸内細菌による短鎖脂肪酸の生成が促進されると、腸内細菌による短鎖脂肪酸の生成量が増加する。なお、腸内細菌が生成する短鎖脂肪酸は、食物繊維などの難消化性の多糖類を腸内細菌が発酵することで生成される、腸内細菌の代謝産物(発酵産物)であると考えられている。
【0014】
本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤による腸内短鎖脂肪酸生成促進効果は、酢酸やプロピオン酸や酪酸を生成する腸内細菌が増殖することによる短鎖脂肪酸の生成促進効果と、酢酸やプロピオン酸や酪酸を生成する腸内細菌の短鎖脂肪酸生成能力が向上することによる短鎖脂肪酸の生成促進効果の両方を含む概念である。後述する実施例からすると、本実施形態による腸内短鎖脂肪酸生成促進効果は、腸内細菌の増殖による生成促進効果と、腸内細菌の短鎖脂肪酸生成能力の向上による生成促進効果の両方に起因する効果であると推察される。
【0015】
短鎖脂肪酸の生成を促進する腸内細菌は、腸内に存在する細菌である。
【0016】
腸内細菌のうち、酢酸を生成する細菌としては、バクテロイデス(Bacteroides)属菌や、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌や、プレボテーラ(Prevotella)属菌や、ルミノコッカス属菌や、アッカーマンシア(Akkermansia)属菌が知られている。
【0017】
腸内細菌のうち、プロピオン酸を生成する細菌としては、バクテロイデス(Bacteroides)属菌や、ファスコラークトバクテリウム(Phascolarctobacterium)属菌や、ベイロネラ(Veillonella)属菌や、ディアリスター(Dialister)属菌や、メガスファエラ(Megasphaera)属菌や、コプロコッカス(Coprococcus)属菌や、サルモネラ(Salmonella)属菌や、ロゼブリア属(Roseburia)菌や、ルミノコッカス属(Ruminococcus)菌が知られ
ている。
【0018】
腸内細菌のうち、酪酸を生成する細菌としては、フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属菌や、エリシペラトクロストリジウム(Erysipelatoclostridium)属菌や、アナエロスティペス(Anaerostipes)属菌や、コプロコッカス(Coprococcus)属菌や、ユーバクテリウム(Eubacterium)属菌や、ロゼブリア属(Roseburia)菌が知られている。
【0019】
本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤によって生成が促進される短鎖脂肪酸には、少なくとも酢酸、プロピオン酸及び酪酸の3種の短鎖脂肪酸(以下、単に「3種の短鎖脂肪酸」ともいう)が含まれる。本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤によって生成が促進される短鎖脂肪酸は、3種の短鎖脂肪酸のみに限定されるものではなく、これら以外の他の短鎖脂肪酸を含んでいてもよい。3種の短鎖脂肪酸以外の他の短鎖脂肪酸としては、例えば、イソ酪酸を挙げることができる。なお、本明細書において、短鎖脂肪酸とは、炭素の数が2~4個の脂肪酸を指す。
【0020】
本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤には、セロビオースが含有されている。セロビオースは、2つのグルコース分子がβ1、4結合でつながった二糖であり、C12H22O11で表される物質である。
【0021】
本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤に含有されるセロビオースは、その製造方法について特に限定されるものではなく、例えば、セルロース系物質をセルラーゼで分解する方法や、グルコース糖の単糖類又はその誘導体を縮合もしくは糖転移させる方法や、スクロースから合成する方法で得られたセロビオースを用いることができる。
【0022】
セルロース系物質をセルラーゼで分解する方法において、セルロース系物質は、特に限定されるものではなく、植物性及び動物性のいずれも適用可能である。具体的には、コットン、木材、竹、ケナフ、ムギ、イネ、バクテリアセルロース等に含有される天然物由来の繊維質物質や、それらを一旦溶剤に溶解させ再生させた再生セルロース、又はそれらに化学処理を施してセルロース誘導体としたもの等を用いることができる。これらのセルロース系物質は、いずれか1種を用いても良いし、2種以上を併用してもよい。特に、溶解や化学処理を経ない天然のセルロース系物質は、得られるセロビオースに人体に有害な溶剤や化学物質が含まれないため好ましい。
【0023】
セルロース系物質をセルラーゼで分解する方法において、セルラーゼは、セルロースに対する分解活性を有するものであれば特に限定されるものではない。セルラーゼは、セルラーゼ以外の物質を含むものであってもよく、セルラーゼ産生菌体そのものや、セルラーゼ産生菌が分泌する酵素を精製したものや、精製酵素を賦形剤、安定化剤等の添加剤とともに製剤化したものを用いてもよい。
【0024】
セルロース系物質をセルラーゼで分解する方法において、その方法は、セルロース系物質をセルラーゼで分解することができれば特に限定されるものではないが、例えば、セルロース系物質を水性媒体中に懸濁させ、その懸濁液にセルラーゼを添加し、攪拌又は振とうしながら、加温して糖化反応を行う方法等を挙げることができる。その際の懸濁方法、攪拌方法、セルロース系物質及びセルラーゼの添加方法及び添加順序、それらの濃度等の反応条件は、セロビオースの収率等の観点から適宜設定することができる。また、反応液のpH及び温度等の条件は、セルラーゼが失活しない条件であれば良く、例えば、常圧で反応を行う場合、温度は5~95℃、pHは1~11の範囲とすることができる。
【0025】
本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤に含有されるセロビオースは、腸内細菌による短鎖脂肪酸(少なくとも、3種の短鎖脂肪酸)の生成をより促進する観点から、綿花(脱脂綿)の酵素分解物であることが好ましく、綿花(脱脂綿)のセルラーゼ分解物であることがより好ましい。
【0026】
上述した方法で製造したセロビオースは、必要に応じて、酵素除去、脱塩、脱色等の精製処理を施すことができる。精製方法は、公知の方法を用いることができ、特に制限されるものでない。精製方法の具体例としては、クロマトグラフィー処理、精密濾過、限外濾過、逆浸透膜濾過等の濾過処理、晶析処理、イオン交換樹脂による処理、活性炭処理等を挙げることができ、これらの処理のいずれかを単独で、または複数の処理を組み合わせて行うことができる。
【0027】
本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤において、セロビオースの含有量は、特に限定されるものでない。セロビオースの含有量は、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)によって測定することができる。高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)の測定条件は例えば以下のようにすることができる。
HPLC装置:ウォーターズ社製 Alliance高速液体クロマトグラフ
カラム:Shodex SUGAR KS―801内径8.0mm×長さ300mm
移動相:超純水
試料注入量:10μl
送液量:1.0mL/分
カラムオーブン温度:50℃
検出器:示差屈折検出器
【0028】
本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤の摂取量は、特に限定されるものではないが、例えば、成人の1日あたりのセロビオースの摂取量が100~2000mgとなる量とすることができる。腸内細菌による短鎖脂肪酸(少なくとも、3種の短鎖脂肪酸)の生成をより促進する観点からは、本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤の摂取量は、成人の1日あたりのセロビオースの摂取量が100~1500mgとなる量であることが好ましく、成人の1日あたりのセロビオースの摂取量が200~1000mgとなる量であることがより好ましい。
【0029】
本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤の摂取頻度は、特に限定されるものではないが、例えば、1日に1~2回とすることができる。本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤の摂取期間は、例えば、3週間以上とすることができ、4週間以上とすることが好ましい。
【0030】
本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤の使用形態は、特に限定されるものではなく、医薬品、医薬部外品、飲食品、添加剤などのあらゆる使用形態とすることができる。また、本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤の状態は、特に限定されるものではなく、液体、固体、半固体、ゲル体などのあらゆる状態とすることができる。なお、本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤の摂取方法は、使用形態や状態に応じて適宜設定することができ、例えば、経口により摂取することができる。
【0031】
本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤は、セロビオースに加えて、セロビオース以外の他の成分が含有されていてもよい。例えば、本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤を医薬品や医薬部外品や飲食品とする場合、本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤には、セロビオースに加えて、賦型剤、結合剤、安定剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、懸濁剤、コーティング剤、溶媒(例えば、エタノールなど)や、食品又は飲料中に含まれる成分が含有されていてもよい。
【0032】
特に、本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤を飲食品とする場合、通常の飲食品としてもよいが、特定保健用食品等の特別用途食品や、栄養機能食品や、機能性表示食品としてもよい。飲食品としては、例えば、栄養補助食品(サプリメント)、牛乳、乳飲料、清涼飲料(例えば、炭酸飲料、ノンアルコール飲料、ジュース、コーヒー飲料、茶系飲料、ミネラルウォーター、スポーツ飲料など)、豆乳飲料、乳酸菌飲料、ココア、アルコール飲料(例えば、ビール、発泡酒、その他の醸造酒、リキュール、日本酒、甘酒、ワイン、焼酎など)、加工乳、発酵乳、調製粉乳、インスタント粉末から調製される飲料及びその他の飲料、シリアル、ヨーグルト、チーズ、パン、ピッツァクラスト、アイスクリーム、ビスケット、クラッカー、キャンディ、グミ、ガム及びその他の菓子類、流動食、病者用食品、幼児用粉乳等食品、授乳婦用粉乳等食品、飼料などを挙げることができる。
【0033】
本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤の剤形は、特に限定されるものではなく、使用形態や使用状態に応じて適宜設定できる。例えば、本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤を医薬品や医薬部外品やサプリメントなどの飲食品とする場合、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤等の剤形とすることができる。
【0034】
本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤を摂取する摂取者は、ヒトに限定されるものではなく、ヒト以外の動物であってもよい。ヒト以外の動物としては、ヒト以外の哺乳類を挙げることができ、より具体的にはイヌ、ネコ等の愛玩動物、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ等の家畜を例示することができる。
【0035】
本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤は、セロビオースと必要に応じて含有される上述した成分とを適宜混合し、常法により製造することができ、その製造方法や製造条件について、特に限定されるものではない。
【0036】
以上説明した本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤によれば、腸内細菌による短鎖脂肪酸(少なくとも、3種の短鎖脂肪酸)の生成を促進することができる。その結果、腸内短鎖脂肪酸生成促進剤を摂取していない場合と比較して、腸内における短鎖脂肪酸量(少なくとも、3種の短鎖脂肪酸量)を増加させることができる。
【0037】
特に、本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤に含有されるセロビオースは、消化酵素で分解されにくい難消化性の物質であり、大腸にまで到達することができる。このため、本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤によれば、大腸内の細菌による短鎖脂肪酸(少なくとも、3種の短鎖脂肪酸)の生成を促進することができる。その結果、大腸内における短鎖脂肪酸量(少なくとも、3種の短鎖脂肪酸量)を増加させることができる。
【0038】
ここで、大腸内で産生される短鎖脂肪酸は、大腸のリンパ濾胞において免疫細胞に作用し、大腸内でのIgA産生を促進することが知られている(Kang Chen et al., “Rethinking mucosal antibody responses: IgM, IgG and IgD join IgA” Nature Reviews Immunology, 2020 July, 20(7), pages 427-441)。このため、大腸内における短鎖脂肪酸量(少なくとも、3種の短鎖脂肪酸量)を増加させることができる本実施形態の腸内短鎖脂肪酸生成促進剤によれば、大腸内でのIgA産生を促進することもできる。つまり、本発明の一実施形態には、大腸内でのIgA産生を促進するための腸内短鎖脂肪酸生成促進剤が含まれる。
【実施例0039】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0040】
<評価1>
[試験品(サンプル)の準備]
試験品(サンプル)として、下記表1に示す物質を用意した。
【表1】
【0041】
なお、上記表1に示すCel(セロビオース)は、綿花(脱脂綿)をセルラーゼで分解し、その後、精製処理をして得られたセロビオースである。具体的には、脱脂綿を適宜粉砕した後、水と共に磨砕したものに、固形分の1%相当のセルラーゼを添加し、40℃で3~24時間程度反応させることによって、セルラーゼによる綿花(脱脂綿)の分解を行った。その後、反応生成物をろ過した後、脱塩、濃縮して粉末の分解物を得た。また、200gの分解物を温水に溶解して、0.2μmのフィルターでろ過した溶液を加熱濃縮し、析出した結晶を集めて純水で洗浄した。この精製操作により、Cel(セロビオース)を得た。なお、HPLC分析の結果、Celにおけるセロビオースの純度は99.7%であり、0.3%以下のグルコースとセロトリオースがCelに含まれていた。
【0042】
HPLCの測定条件には以下の条件を用いた。
HPLC装置:ウォーターズ社製 Alliance高速液体クロマトグラフ
カラム:Shodex SUGAR KS―801内径8.0mm×長さ300mm
移動相:超純水
試料注入量:10μl
送液量:1.0mL/分
カラムオーブン温度:50℃
検出器:示差屈折検出器
【0043】
[便培養液の調製及び培養]
6名の健康な日本人の成人男女(以下、それぞれ「被験者KI1~KI6」という。)から便を採取した。文献1(「Dynamic Omics Approach Identifies Nutrition-Mediated Microbial Interactions」、Journal of Proteome Research、Volume 10、Issue 2、2011年、824-836頁)に記載される方法で調製したModified YCFA培地に、採取した便をそれぞれ懸濁させ、便を同濃度(0.1w/v%)で含む便懸濁液を取得した。炭酸ガスをバブリングすることで酸素を除去した超純水に、上記表1に示す試験品を各々溶解させ、これを便懸濁液に添加することで便培養液を得た。便培養液における試験品の濃度は、いずれも0.3w/v%に統一した。取得した便培養液を96穴プレートに分注し、嫌気条件下において37℃で16時間培養した。16時間の培養後、便培養液を回収し、遠心分離した。遠心分離後、ペレット(固形分)及び上澄みを回収し、ペレットを腸内細菌の特定のために使用し、上澄みを短鎖脂肪酸濃度の特定のために使用した。
【0044】
[腸内細菌の種類及び存在比の特定]
文献2(「The Effects of Enteral Nutrition on the Intestinal Environment in Patients in a Persistent Vegetative State」、Foods、Volume 11、Issue 4、2022年、549)の「2.2. 16S Amplicon Sequencing Analysis of Intestinal Microbiota」に記載される方法(及び条件)に従い、便培養液を遠心分離して得たペレットから腸内細菌のDNAを抽出し、抽出したDNAを鋳型として、16S rRNA遺伝子のV1-V2領域のDNA断片をPCRにて増幅した。なお、プライマーには、配列番号1で示される下記表2のフォワードプライマーと、配列番号2で示される下記表2のリバースプライマーを用いた。
【表2】
【0045】
PCRにより得られた増幅産物の配列をIllumina MiSeq(イルミナ株式会社)を用いたペアエンド法により解析した。なお、配列の解析は、Illumina MiSeqのマニュアルに従って行った。
【0046】
解析により得られた塩基配列から、QIIME2ソフトウェア(ver.2019.10)(https://forum.qiime2.org/t/qiime-2-2019-10-is-now-available/12280)のワークフローに則って細菌系統組成を算出した。具体的には、まず、cutadapt(Martin M (2011) Cutadapt removes adapter sequences from high-throughput sequencing reads. EMBnet journal; Vol 17, No 1: Next Generation Sequencing Data Analysis)を使用し、プライマー配列を除外した。その後、DADA2(https://benjjneb.github.io/dada2/index.html)を用いて、3’末端塩基削除、PhiX由来の塩基配列除去、及びクオリティーフィルタリングを行い、高品質の塩基配列を得た。さらに、DADA2を用いて、ノイズ除去(シーケンスエラーの修正)、ペアエンド配列のマージ、及びキメラ配列除去を行い、ASV(Amplicon Sequence Variant)代表配列を得た。次に、これら代表配列の細菌属をQIIME2のナイーブベイズ分類器により同定した。なお、本解析ではSilva(https://www.arb-silva.de)が提供するSILVA SSU Refを99%の閾値でクラスタリングして得られた代表配列のうち、V1-V2領域を切り出した配列を教師データとして用いた。
【0047】
上述した方法で得られたASV組成から属(genus)組成を作成した。結果を
図1A~
図1Cに示す。なお、
図1A~
図1Cに示す属組成では、相対存在比が合計で0.001未満の細菌については、その他の細菌として取り扱った。
【0048】
また、培地に添加した試験品毎、試験品無添加群(コントロール)と試験品添加群とを群間比較し、Wilcoxonの符号付順位検定での有意な増加・減少が認められた細菌(p<0.05)の有無を確認した。結果を下記表3に示す。なお、下記表3において、「増」は有意差がある増加を意味し、「減」は有意差がある減少を意味する。
【表3】
【0049】
上記表3から明らかなとおり、Cel(セロビオース)を添加した便培養液では、コントロール(試験品無添加群)の便培養液と比較し、酪酸を生成することが知られているエリシペラトクロストリジウム属菌と、酢酸を生成することが知られているパラバクテロイデス属菌が優位に増加していた。一方で、いずれの試験品を添加した便培養液でも、プロピオン酸を生成する腸内細菌については、有意な増加は認められなかった。
【0050】
[短鎖脂肪酸濃度の特定]
便培養液を遠心分離して得た上清を、フィルターユニット付きチューブ(メルク / ウルトラフリー(Ultrafree)-MC, GV 0.22 μm / UFC30GVNB)でろ過し、試料溶液を得た。上記文献2の「2.3.2. Fecal Sample Pretreatment and Standard Preparation」に記載される方法(及び条件)に従い、得られた試料溶液を用いて誘導体化処理を施した。誘導体化処理後、上記文献2の「2.3.3. LC-TOFMS Condition」及び「2.3.4. LC-TOFMS Measurement」に記載される方法(及び条件)に従い、液体クロマトグラフ飛行時間型質量分析計(LC-TOF/MS)を用いた測定を行い、検出されたピークのカラム保持時間、質量電荷比(m/z)、及びピーク面積を取得した。これらの情報を標準試料の測定結果と照合することで各ピークに対応する短鎖脂肪酸を同定した。なお、標準試料(内部標準物質)には、和光純薬工業社製の酢酸及び酪酸と、ナカライテスク社製のプロピオン酸及びイソ酪酸を用いた。
【0051】
また、上述した液体クロマトグラフ飛行時間型質量分析により検出されたピークは、遠心分離して得た上清毎に内部標準物質との面積比が一定になるように補正し、上清間で相対定量が可能な値(相対面積比、relative area)に変換した。そして、濃度既知の標準試料を用いて作成した検量線と比較することにより、上清中の短鎖脂肪酸の絶対定量を行った。結果を
図2A~
図2Cに示す。
【0052】
また、培地に添加した試験品毎、試験品無添加群(コントロール)と試験品添加群とを群間比較し、Wilcoxonの符号付順位検定での有意な増加・減少が認められた短鎖脂肪酸(p<0.05)の有無を確認した。結果を下記表4に示す。なお、下記表4において、「増」は有意差がある増加を意味し、「減」は有意差がある減少を意味する。
【0053】
【0054】
上記表4から明らかなとおり、Cel(セロビオース)を添加した便培養液中(便培養液を遠心分離して得た上清中)では、コントロールの便培養液と比較し、酪酸、プロピオン酸、及び酢酸の量が有意に増加していた。この結果から、Cel(セロビオース)は、腸内細菌による酢酸、プロピオン酸及び酪酸の3種の短鎖脂肪酸の生成を促進できることが理解できた。
【0055】
また、上記表4から明らかなとおり、Cel(セロビオース)を添加するとプロピオン酸が優位に増加するが、上記表3から明らかなとおり、Cel(セロビオース)を添加してもプロピオン酸を生成する腸内細菌の有意な増加は確認できなかった。これらの結果からすると、Celによる腸内細菌の短鎖脂肪酸生成促進効果は、酢酸やプロピオン酸や酪酸を生成する腸内細菌が増殖することによる短鎖脂肪酸の生成促進効果だけでなく、酢酸やプロピオン酸や酪酸を生成する腸内細菌の短鎖脂肪酸生成能力が向上することによる短鎖脂肪酸の生成促進効果に起因した効果であると推察された。
【0056】
<評価2>
[試験品(サンプル)の準備]
評価1と同様の方法でセロビオース(Cel)を取得した。HPLC分析の結果、得られたCelにおけるセロビオースの純度は98.6%であり、1.0%のグルコースと0.4%のセロトリオースがCelに含まれていた。
【0057】
[被験者の選定]
被験者として、20歳以上80歳未満の日本人の成人男女から7名(以下、それぞれ「被験者S01~S07」という。)を選定した。なお、被験者からは、以下の(1)~(5)に該当するものは除外した。
(1)試験食品摂取開始の1ヶ月前よりセロビオースを摂取した者、また試験期間中に摂取する予定がある者。
(2)試験に影響を与える可能性のある特定保健用食品、機能性表示食品、健康食品(サプリメントを含む)を週3回以上常用しており、同意取得時から中止できない者。
(3)自己免疫疾患などの免疫関連、消化器等に重篤な疾患の現病歴がある者。
(4)妊娠中、授乳中、あるいは試験期間中に妊娠する意思のある者。
(5)試験品にアレルギーがある者。
【0058】
[検体の取得]
試験品の摂取を開始する日の前日に、各被験者から便(以下、「摂取前検体」ともいう)を採取した。摂取前検体を採取した日の翌日から、1gのCelを1日に1回各被験者に摂取させた。Celの摂取(1g/1回/1日)を4週間継続させ、最後のCelを摂取した日の翌日の便(以下、「摂取後検体」ともいう)を各被験者から採取した。
【0059】
[検体中のIgA濃度の測定]
摂取前検体及び摂取後検体を-80℃で少なくとも16時間凍結乾燥させ、凍結乾燥させた摂取前検体及び摂取後検体(以下、これらを「乾燥させた検体」ともいう)を得た。乾燥させた各検体を粉砕した後、乾燥させた検体10mgあたり1mLとなる量のPBSに懸濁して5分間攪拌した。各検体懸濁液を遠心分離により固液分離し、上澄み800μlをフィルター(メルク社製の0.22μmフィルター;SLGVR33RB)でろ過して検体抽出液を得た。この検体抽出液を、それぞれ、ELISA定量キット(Abcam PLC社製のIgA Human Simple Step ELISA kit;ab196263)に含まれる試薬(Sample Diluent NS)を用いて2000倍希釈した後、前述したELISA定量キットを用いて乾燥させた検体1gにおけるIgA濃度を求めた。なお、ELISA定量キットよる測定は、メーカー推奨プロトコル(付属される説明書に記載のプロトコル)に従って行った。
【0060】
被験者S01~S07の摂取前検体中のIgA濃度の平均値及び、被験者S01~S07の摂取後検体中のIgA濃度の平均値を下記表5に示す。なお、下記表5では、乾燥させた検体1gにおけるIgA濃度を示している。
【0061】
【0062】
上記表5に示す通り、セロビオース摂取後の検体は、セロビオース摂取前の検体と比較して、IgA濃度の平均値が2倍以上も高かった。この結果から、Cel(セロビオース)は、大腸内でのIgA産生を促進することが理解できた。