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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131100
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】卵様食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 15/00 20160101AFI20230913BHJP
   A23L 29/256 20160101ALI20230913BHJP
【FI】
A23L15/00 Z
A23L29/256
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198505
(22)【出願日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2022035660
(32)【優先日】2022-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】514327060
【氏名又は名称】株式会社TWO
(71)【出願人】
【識別番号】000104113
【氏名又は名称】カゴメ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 桂太
(72)【発明者】
【氏名】葛原 大士
【テーマコード(参考)】
4B041
4B042
【Fターム(参考)】
4B041LC03
4B041LD01
4B041LH10
4B041LH16
4B041LK02
4B041LK18
4B041LK27
4B041LP01
4B041LP25
4B042AC04
4B042AD37
4B042AE08
4B042AK06
4B042AK07
4B042AK09
4B042AK11
4B042AK16
4B042AP02
4B042AP14
4B042AP24
4B042AP30
(57)【要約】
【課題】卵の使用量を大幅に減じ、あるいは卵を全く使用することなく、本物の卵と同様の食感を再現可能な卵様食品の製造方法を提供すること。
【解決手段】アルギン酸類を含む調合液と、カルシウム塩水溶液と、を混合してゲル化させることでゲル状物を得る工程(A)を含み、前記アルギン酸類の濃度が前記調合液に対して0.1~10.0質量%であり、前記カルシウム塩水溶液の濃度が0.1~5.0質量%である、卵様食品の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸類を含む調合液と、カルシウム塩水溶液と、を混合してゲル化させることでゲル状物を得る工程(A)を含み、
前記アルギン酸類の濃度が前記調合液に対して0.1~10.0質量%であり、前記カルシウム塩水溶液の濃度が0.1~5.0質量%である、卵様食品の製造方法。
【請求項2】
前記アルギン酸類を含む調合液に対して前記カルシウム塩水溶液を除々に添加する、請求項1記載の卵様食品の製造方法。
【請求項3】
前記アルギン酸類が、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、およびアルギン酸アンモニウムからなる群から選択されるいずれか1種以上である、請求項1又は2記載の卵様食品の製造方法。
【請求項4】
前記カルシウム塩が、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、フマル酸カルシウム、クエン酸カルシウム、コハク酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、および水酸化カルシウムからなる群から選択されるいずれか1種以上である、請求項1~3のいずれか一項記載の卵様食品の製造方法。
【請求項5】
前記調合液に、植物油脂と、野菜由来原料と、を加えて乳化させる工程(B)をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項記載の卵様食品の製造方法。
【請求項6】
前記植物油脂は、亜麻仁油、エゴマ油、オリーブオイル、グレープシードオイル、コーン油、ごま油、米油、大豆油、菜種油、パーム油、ひまわり油、べに花油、および綿実油からなる群から選択されるいずれか1種以上である、請求項5記載の卵様食品の製造方法。
【請求項7】
前記野菜由来原料は、カロテノイド含有植物の加工品である、請求項5又は6記載の卵様食品の製造方法。
【請求項8】
前記カロテノイド含有植物は、ニンジン、カボチャ、パプリカ、柑橘類、およびマンゴーからなる群から選択されるいずれか1種以上である、請求項7記載の卵様食品の製造方法。
【請求項9】
前記カロテノイド含有植物の加工品は、ニンジン搾汁、ニンジン濃縮汁、ニンジンパルプ、およびニンジンピューレからなる群から選択されるいずれか1種以上である、請求項7記載の卵様食品の製造方法。
【請求項10】
前記工程(A)で得られたゲル状物と、卵黄様液体と、を混合する工程(C)をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項記載の卵様食品の製造方法。
【請求項11】
前記卵黄様液体は、植物油脂と野菜由来原料とを含む、請求項10記載の卵様食品の製造方法。
【請求項12】
前記ゲル状物と前記卵黄様液体の混合割合は0.1:1~10:1(質量比)である、請求項10又は11記載の卵様食品の製造方法。
【請求項13】
前記卵様食品はスクランブルエッグ様食品である、請求項1~12のいずれか一項記載の卵様食品の製造方法。
【請求項14】
アルギン酸類と、カルシウムと、を含み、前記アルギン酸類と前記カルシウムによってゲル化された部分を含む、卵様食品。
【請求項15】
植物油脂と野菜由来原料とをさらに含む、請求項14記載の卵様食品。
【請求項16】
前記野菜由来原料は前記植物油脂によって乳化されている、請求項15記載の卵様食品。
【請求項17】
前記植物油脂は、亜麻仁油、エゴマ油、オリーブオイル、グレープシードオイル、コーン油、ごま油、米油、大豆油、菜種油、パーム油、ひまわり油、べに花油、および綿実油からなる群から選択されるいずれか1種以上である、請求項15又は16に記載の卵様食品。
【請求項18】
前記野菜由来原料は、カロテノイド含有植物の加工品である、請求項15~17のいずれか一項記載の卵様食品。
【請求項19】
前記カロテノイド含有植物の加工品は、ニンジン搾汁、ニンジン濃縮汁、ニンジンパルプ、およびニンジンピューレからなる群から選択されるいずれか1種以上である、請求項18記載の卵様食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵様食品の製造方法および卵様食品に関する。
【背景技術】
【0002】
卵焼きやスクランブルエッグといった卵食品は、家庭内や外食産業・食品小売店などにおいて提供される調理済み加工食品として広く親しまれ食されている一方で、動物性食品である卵はアレルギーを起こす力が強いため、卵アレルギーを持つ人は卵食品を極力避けなくてはならない。また、卵には多くのコレステロールが含まれているため、健康に関心の高い消費者にはコレステロールを低減した食品が望まれている。こうした事情から、卵を用いず或いは使用量を極力低減し、且つ、卵の味や食感などを再現した卵様食品に対する需要は年々高まっている。
【0003】
特許文献1には、熱凝固性植物タンパク素材と大豆クリームとを含む液体生地を調製し、これを通常の卵焼成凝固食品の調理工程に即して焼成することにより、全卵と大きな割合で置換することができ、あるいは全卵を全く使用することなく、通常の卵焼きやスクランブルエッグなどの卵焼成凝固食品と同様の製法で製造することのできる卵様焼成凝固食品を提供できることが開示されている。
特許文献2には、カードランを攪拌ゲル化した膨潤ゲルに乳化剤の存在下に食用油脂を添加して攪拌し、更に、アルギン酸塩及び遅効性を有するカルシウム塩を添加し、攪拌した後、脱気処理及び加熱処理を行なうことにより、天然の卵白の味覚や食感に極めて近似したテクスチャーや味覚を有する卵白様食品素材を得ることができることが開示されている。
特許文献3には、澱粉性野菜乃至澱粉細胞と蛋白ペーストを混合、加熱することを特徴とするスクランブルエッグ様食品の製造法について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-169488号公報
【特許文献2】特開2009-136247号公報
【特許文献3】特開2002-119260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、引用文献1~3に開示された方法により得られた卵様食品は、色味、風味、食感などの面において、本物の鶏卵を用いた卵食品と比較して未だ満足できる品質であるとは言えない。特に卵食品の中でもスクランブルエッグは、食感、喉越し、風味、色合い、とりわけ柔らかさ、半生感、とろみなどに特徴のある食品であるが、卵を用いない卵様食品において、このような食感を得ることは容易ではない。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、卵の使用量を大幅に減じ、あるいは卵を全く使用することなく、本物の卵と同様の食感を再現可能な卵様食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、アルギン酸類を含む調合液と、カルシウム塩水溶液と、を混合してゲル化させることでゲル状物を得る工程において、アルギン酸類の濃度と、カルシウム塩の濃度を適切な範囲に調製することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
アルギン酸類を含む調合液と、カルシウム塩水溶液と、を混合してゲル化させることでゲル状物を得る工程(A)を含み、
前記アルギン酸類の濃度が前記調合液に対して0.1~10.0質量%であり、前記カルシウム塩水溶液の濃度が0.1~5.0質量%である、卵様食品の製造方法。
[2]
前記アルギン酸類を含む調合液に対して前記カルシウム塩水溶液を除々に添加する、上記[1]記載の卵様食品の製造方法。
[3]
前記アルギン酸類が、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、およびアルギン酸アンモニウムからなる群から選択されるいずれか1種以上である、上記[1]又は[2]記載の卵様食品の製造方法。
[4]
前記カルシウム塩が、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、フマル酸カルシウム、クエン酸カルシウム、コハク酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、および水酸化カルシウムからなる群から選択されるいずれか1種以上である、上記[1]~[3]のいずれか記載の卵様食品の製造方法。
[5]
前記調合液に、植物油脂と、野菜由来原料と、を加えて乳化させる工程(B)をさらに含む、上記[1]~[4]のいずれか記載の卵様食品の製造方法。
[6]
前記植物油脂は、亜麻仁油、エゴマ油、オリーブオイル、グレープシードオイル、コーン油、ごま油、米油、大豆油、菜種油、パーム油、ひまわり油、べに花油、および綿実油からなる群から選択されるいずれか1種以上である、上記[5]記載の卵様食品の製造方法。
[7]
前記野菜由来原料は、カロテノイド含有植物の加工品である、上記[5]又は[6]記載の卵様食品の製造方法。
[8]
前記カロテノイド含有植物は、ニンジン、カボチャ、パプリカ、柑橘類、およびマンゴーからなる群から選択されるいずれか1種以上である、上記[7]記載の卵様食品の製造方法。
[9]
前記カロテノイド含有植物の加工品は、ニンジン搾汁、ニンジン濃縮汁、ニンジンパルプ、およびニンジンピューレからなる群から選択されるいずれか1種以上である、上記[7]記載の卵様食品の製造方法。
[10]
前記工程(A)で得られたゲル状物と、卵黄様液体と、を混合する工程(C)をさらに含む、上記[1]~[9]のいずれか記載の卵様食品の製造方法。
[11]
前記卵黄様液体は、植物油脂と野菜由来原料とを含む、上記[10]記載の卵様食品の製造方法。
[12]
前記ゲル状物と前記卵黄様液体の混合割合は0.1:1~10:1(質量比)である、上記[10]又は[11]記載の卵様食品の製造方法。
[13]
前記卵様食品はスクランブルエッグ様食品である、上記[1]~[12]のいずれか記載の卵様食品の製造方法。
[14]
アルギン酸類と、カルシウムと、を含み、前記アルギン酸類と前記カルシウムによってゲル化された部分を含む、卵様食品。
[15]
植物油脂と野菜由来原料とをさらに含む、上記[14]記載の卵様食品。
[16]
前記野菜由来原料は前記植物油脂によって乳化されている、上記[15]記載の卵様食品。
[17]
前記植物油脂は、亜麻仁油、エゴマ油、オリーブオイル、グレープシードオイル、コーン油、ごま油、米油、大豆油、菜種油、パーム油、ひまわり油、べに花油、および綿実油からなる群から選択されるいずれか1種以上である、上記[15]又は[16]に記載の卵様食品。
[18]
前記野菜由来原料は、カロテノイド含有植物の加工品である、上記[15]~[17]のいずれか記載の卵様食品
[19]
前記カロテノイド含有植物の加工品は、ニンジン搾汁、ニンジン濃縮汁、ニンジンパルプ、およびニンジンピューレからなる群から選択されるいずれか1種以上である、上記[18]記載の卵様食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、卵の使用量を大幅に減じ、あるいは卵を全く使用することなく、本物の卵と同様の食感を再現可能な卵様食品の製造方法、および卵様食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
[卵様食品の製造方法]
本実施形態の卵様食品の製造方法は、
アルギン酸類を含む調合液と、カルシウム塩水溶液と、を混合してゲル化させることでゲル状物を得る工程(A)を含み、
前記アルギン酸類の濃度が前記調合液に対して0.1~10.0質量%であり、前記カルシウム塩水溶液の濃度が0.1~5.0質量%である。
本実施形態において「卵様食品」とは、卵食品における卵原料の一部、あるいは全部を植物由来原料に代替した食品をいい、温泉卵様、卵焼き様、オムレツ様、炒り卵様、スクランブルエッグ様などの様々な形状の卵様食品が包含される。中でも、本実施形態における製造方法により、本物の卵を用いた場合と同等の色味、風味、食感が得られる傾向にあることから、卵様食品としてはスクランブルエッグ様食品であることが好ましい。
【0012】
<工程(A)>
本発明者らは、卵様食品の製造方法において、アルギン酸類を含む調合液と、カルシウム塩水溶液と、を混合してゲル化させることでゲル状物を得る工程を含み、さらに、当該工程におけるアルギン酸類のゲル状物に対する濃度と、カルシウム塩水溶液の濃度を適切な範囲に調製することで、本物の鶏卵を用いた卵食品と極めて類似する或いは同様の食感を有する卵様食品が得られることを見出した。
【0013】
工程(A)において、アルギン酸類の濃度は調合液に対して0.1~10.0質量%である。アルギン酸類の濃度が調合液に対して0.1~10.0質量%の範囲内にある場合、ゲルが緩すぎも硬すぎもせず、最終的に得られる卵様食品に本物の卵に近い食感を付与することができる。ここで、アルギン酸類の濃度は、調合液を製造する際の原材料の使用量から計算した値である。アルギン酸類の濃度は調合液に対して、0.2~5.0質量%でもよく、0.3~3.0質量%でもよく、0.4~3.0質量%でもよく、0.6~3.0質量%でもよく、0.5~1.5質量%でもよく、好ましくは、0.5~1.2質量%であり、より好ましくは0.5~1.0質量%であり、特に好ましくは0.6~0.7質量%である。アルギン酸類の濃度が調合液に対して上記好ましい範囲にある場合、特にスクランブルエッグ様食品において、本物の卵を用いた場合と同等の優れた食感が得られる傾向にある。
【0014】
工程(A)において、カルシウム塩水溶液の濃度は0.1~5.0質量%である。好ましくは、0.5~5.0質量%である。また好ましくは、0.7~5.0質量%である。カルシウム塩水溶液の濃度が0.1質量%未満である場合、ゲル化反応スピードが遅く十分にゲル化しない傾向にあり、5.0質量%を超える場合、反応スピードが早く攪拌をする前にゲル化して固まってしまう傾向にある。カルシウム塩水溶液の濃度は0.3~3.0質量%でもよく、0.3~2.0質量%でもよく、好ましくは0.4~1.0質量%であり、より好ましくは0.4~0.8質量%であり、特に好ましくは0.5~0.6質量%である。カルシウム塩水溶液の濃度が上記好ましい範囲にある場合、特にスクランブルエッグ様食品において、本物の卵を用いた場合と同等の優れた食感が得られる傾向にある。
【0015】
アルギン酸類を含む調合液と、カルシウム塩水溶液と、を混合する際の混合方法については特に限定されず、アルギン酸類を含む調合液に対してカルシウム塩水溶液を添加してもよく、カルシウム塩水溶液に対してアルギン酸類を含む調合液を添加してもよい。中でも、アルギン酸類を含む調合液に対してカルシウム塩水溶液を除々に添加することが、所望の卵様食品の食感に合わせてゲル化度合いを調整することが容易となるため好ましい。
【0016】
アルギン酸類としては、特に限定されず、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、およびアルギン酸アンモニウムからなる群から選択されるいずれか1種以上が挙げられる。上記アルギン酸群は、水溶性で食品に良く活用されており、中でもアルギン酸ナトリウムがより好ましい。
【0017】
カルシウム塩としては、特に限定されず、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、フマル酸カルシウム、クエン酸カルシウム、コハク酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、および水酸化カルシウムからなる群から選択されるいずれか1種以上が挙げられ、中でも、乳酸カルシウムがより好ましい。
【0018】
<工程(B)>
本実施形態の卵様食品の製造方法は、
アルギン酸類を含む調合液に植物油脂と野菜由来原料を加えて乳化させる工程(B)をさらに含んでいてもよい。
工程(A)における調合液に植物油脂と野菜由来原料を加えて乳化させることで、本物の卵食品と極めて類似する或いは同様の風味や色味を有する卵様食品が得られる傾向にある。ここで、色味としては、明度、色相、及び彩度などの色調を含む。
【0019】
植物油脂と野菜由来原料を調合液に加えるタイミングは特に限定されず、アルギン酸類を添加する前でも後でもよく、アルギン酸の添加と同時に加えてもよい。
【0020】
工程(B)において乳化させた後の乳化状態は、好ましくは、オイルインウォーター型(以下、「O/W型」ともいう。)である。乳化の手段としては特に限定されず、高圧処理、磨砕処理、ミキシング処理、ミル処理、などが挙げられる。
【0021】
<植物油脂>
植物油脂としては、特に限定されず、亜麻仁油、エゴマ油、オリーブオイル、グレープシードオイル、コーン油、ごま油、米油、大豆油、菜種油、パーム油、ひまわり油、べに花油、および綿実油からなる群から選択されるいずれか1種以上が挙げられ、油に独特の風味が少ない油脂が好ましく、菜種油、ひまわり油、べに花油、綿実油がより好ましく、特に好ましくは菜種油である。
【0022】
調合液中の植物油脂の含有量は、特に限定されないが、好ましくは4~15質量%、より好ましくは6~10質量%、さらに好ましくは6~8質量%である。調合液中の植物油脂の含有量が15質量%以下であると、乳化せずに分離することを回避できる傾向にあり、4質量%以上であると、色彩がオレンジ色寄りから卵色寄りになる傾向にある。
【0023】
<野菜由来原料>
野菜由来原料としては、特に限定されず、カロテノイド含有植物の加工品、および穀類加工品からなる群から選択されるいずれか1種以上であることが好ましい。
【0024】
(カロテノイド含有植物の加工品)
カロテノイド含有植物とは、カロテノイドを含有する植物である。カロテノイドとは、動植物に広く存在する黄色、橙色又は赤色の色素である。カロテノイド含有植物としては、β-カロテン含有植物であることが好ましい。また、本実施形態において、カロテノイド含有植物は、最終的に得られる卵様食品の風味と色味の観点から、ニンジン、カボチャ、パプリカ、柑橘類、およびマンゴーからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。柑橘類としては、特に、オレンジ、又はミカンであることが好ましい。
【0025】
カロテノイド含有植物の加工品とは、カロテノイド含有植物を原料とする加工品である。当該加工品の形態は、特に限定されないが、搾汁液、搾汁パルプ、搾汁液の濃縮汁、乾燥粉末、ピューレなどが挙げられる。
【0026】
カロテノイド含有植物の加工品としては、最終的に得られる卵様食品の風味と色味の観点から、ニンジン加工品であることが好ましく、中でも、ニンジン搾汁、ニンジン濃縮汁、ニンジンパルプ、ニンジンピューレであることがより好ましい。ニンジン搾汁とは、ニンジンを破砕して搾汁し、若しくは裏ごしし、パルプ分の一部、あるいは全部を除去したものをいう。また、ニンジン濃縮汁とは、ニンジン搾汁を濃縮したものをいう。ニンジン濃縮汁を希釈して搾汁の状態に戻したものもニンジン搾汁という。ニンジンピューレとは、ニンジンをすり潰し、裏ごしをして滑らかに整えた半液体状のものをいう。
【0027】
本実施形態において、原料として用いられるニンジン加工品は、黄色ニンジンの加工品、又は橙色ニンジンの加工品であることが好ましい。
【0028】
(穀類加工品)
本実施形態における穀類加工品とは、加工された穀類である。穀類としては、イネ科の植物、及びマメ科の植物を含むものであり、米、小麦、大麦、オーツ麦、大豆、エンドウ豆、インゲン豆、ソラマメ、ひよこ豆、レンズマメ、アワ、ヒエ、キビ、などが挙げられる。
【0029】
穀類加工品としては、穀類の搾汁、又はピューレであることが好ましい。穀類加工品としては、例えば、インゲン豆ピューレ、エンドウ豆プロテイン、豆腐、および豆乳、などが挙げられる。
【0030】
本実施形態の製造方法において穀類加工品を用いる目的は、最終的に得られる卵様食品の色調の調整、特に明度の調整である。穀類加工品であって、その色相が白色に近いものは、他の食品原料と調合されることによって、調合液の明度や彩度を変化させ、明るい色調とすることが可能となる。当該観点から、穀類加工品の穀類は、米、小麦、オーツ麦、大豆、白インゲン豆、といった、加工品の色調が白色であるものが好ましい。
【0031】
本実施形態における卵様食品における穀類加工品の含有量の下限値は、好ましくは2質量%、より好ましくは3質量%であり、上限値は好ましくは20質量%、より好ましくは10質量%である。また、穀類加工品などの植物性原料は、タンパク質を含有することもあるが、本実施の形態における卵様食品におけるタンパク質含量は、3.0重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、2.0重量%以下である。
【0032】
野菜由来原料の野菜としては、上述したカロテノイド含有植物および穀類以外にも、トマト、カブ、大根、ホウレンソウ、ピーマン、アスパラガス、大麦若葉、春菊、カラシ菜、サラダ菜、小松菜、明日葉、甘藷、馬鈴薯、モロヘイヤ、パプリカ、パセリ、セロリ、三つ葉、レタス、ラディッシュ、紫蘇、茄子、インゲン、カボチャ、牛蒡、ネギ、生姜、大蒜、ニラ、トウモロコシ、さやえんどう、オクラ、かぶ、きゅうり、ウリ、ズッキーニ、へちま、もやしなどが含まれていてもよい。さらには、レモン、オレンジ、ネーブルオレンジ、グレープフルーツ、ミカン、ライム、スダチ、柚子、シイクワシャー、タンカンなどの柑橘類、リンゴ、ウメ、モモ、サクランボ、アンズ、プラム、プルーン、カムカム、ナシ、洋ナシ、ビワ、イチゴ、ラズベリー、ブラックベリー、カシス、クランベリー、ブルーベリー、メロン、スイカ、キウイフルーツ、ザクロ、ブドウ、バナナ、グァバ、アセロラ、パインアップル、マンゴー、パッションフルーツ、レイシなどの果物由来原料が含まれていてもよい。
【0033】
<工程(C)>
本実施形態における卵様食品の製造方法においては、工程(A)で得られたゲル状物と、卵黄様液体と、を混合する工程(C)をさらに含んでいてもよい。
【0034】
<卵黄様液体>
本実施形態における卵黄様液体は、卵黄様の色味とコクを付与した調合液であり、特に限定されない。卵黄様液体は、上述した工程(A)におけるカルシウム塩水溶液混合前の調合液と同じでもよく、工程(A)の調合液とは各成分の含有割合などが異なった調合液を用いてもよいが、好ましくは、植物油脂と野菜由来原料とを含み、より好ましくは植物油脂により乳化された調合液である。
【0035】
工程(C)において、ゲル状物と卵黄様液体との混合割合は特に限定されないが、好ましくはゲル状物:卵黄様液体の質量比率で1:1~10:1であり、より好ましくは1:1~7:1であり、さらに好ましくは1:2~5:1であり、特に好ましくは1:3~4:1である。卵黄様液体の比率が上記よりも少ないと、卵黄様液体をきれいに工程(A)で得られたゲル状物にまとわすことができない傾向にあり、上記よりも多いと、液量が多く卵様食品の食感が損なわれる傾向にある。
【0036】
本実施形態の卵様食品の製造方法においては、上述した工程(A)~(C)以外にも、加熱工程や充填工程を有していてもよい。
加熱工程は、例えば、調合液の殺菌やゲル化の促進を目的として実施される。加熱の方法としては、特に限定されず、例えば、プレート式殺菌、及びチューブラー式殺菌方法、などが挙げられる。
充填工程における充填方法は公知の方法でよい。また、本卵様食品が充填される(詰められる)容器は、公知の物でよく、例えば、ビニル製容器、缶、瓶、紙容器、及びペット製容器、などが挙げられる。
【0037】
[卵様食品]
本実施形態における卵様食品は、アルギン酸類と、カルシウムと、を含み、前記アルギン酸類と前記カルシウムによってゲル化された部分を含む。ここで、アルギン酸類については上記で説明したものと同様である。
【0038】
また、本実施形態における卵様食品は、植物油脂と野菜由来原料とをさらに含んでいてもよい。ここで、植物油脂と野菜由来原料については、上記で説明したものと同様である。野菜由来原料は植物油脂によって乳化されていることが好ましく、これにより本物の卵を用いた場合と同等の色味や風味を再現できる傾向にある。
【0039】
本実施形態における卵様食品は、一部に鶏卵を含んでいてもよい。ただし、動物性原材料を極力使用しない観点から、本卵様食品に含有される卵の質量割合は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下で、特に好ましくは0質量%である。
【0040】
卵様食品には調味料が含まれていてもよく、調味料としては、例えば、砂糖、食用酢、みりん、しょうゆ、ウスターソース、塩、うま味調味料、酵母エキス、畜肉エキスなどが挙げられる。動物性原材料不使用の観点からは、畜肉エキス、魚エキスなどの動物性原料を使用しないことが好ましい。また、人工的な呈味を避けることから、うま味調味料を使用しないことが好ましい。
【0041】
卵様食品は、各種添加剤が適宜添加されていてもよい。当該添加剤は、通常、飲食品に添加されるものであり、例えば、甘味料、酸味料、着色料、pH調整剤、酸化防止剤、香料、増粘剤、凝固剤、乳化剤などが挙げられる。
【0042】
増粘剤とは、対象物の粘度を増加させるために用いられる剤である。凝固剤とは、対象物を凝固させるために用いられる剤である。上述した成分以外の本卵様食品で使用可能な増粘剤、又は凝固剤は、特に限定されないが、例えば、ペクチン、寒天、澱粉、加工澱粉、カラギーナン、グァーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、ガラクトマンナン、アラビアガム、セルロース、ゼラチン、カードランなどが挙げられる。
【0043】
上述した調味料や添加剤は、工程(A)~(C)のいずれかで用いられても、それ以外の工程で用いられても、いずれでもよい。
【0044】
卵様食品の粘度は、特に限定されない。卵様食品が液状である場合、B型粘度は1,000~5,000mPa・sであることが好ましい。B型粘度の測定方法は公知の方法でよく、測定手段を例示すると、TVB-10型粘度計(東機産業株式会社製)を用いて、20℃、回転数を12rpmとし、開始後60秒後の条件である。
【0045】
卵様食品のコレステロール含量は、特に限定されないが、好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下であり、さらに好ましくは0質量%である。コレステロール含量の測定方法は、公知の方法でよい。
【0046】
卵様食品の可溶性固形分量(以下、「Brix」ともいう。)は、特に限定されないが、好ましくは4以上、かつ20以下である。また、Brixの測定方法は公知の方法でよく、測定手段を例示すると、光学屈折率計(NAR-3T ATAGO社製)である。
【0047】
卵様食品のpHは、特に限定されないが、呈味の観点から、好ましくは、5.0以上7.0以下であり、より好ましくは5.5以上6.5以下である。
【実施例0048】
本発明を実施例及び比較例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
(ゲル状物の製造)
以下の1~8の原材料を全てミキサー(BRAUN社製マルチクイック ハンドブレンダーMQ500)に投入し、30秒間ミキシングすることで、乳化状態のアルギン酸ナトリウムを含む調合液を得た。
【0050】
【表1】
【0051】
得られた調合液のアルギン酸ナトリウム濃度は0.6質量%であった。
次いで得られた調合液を加熱し、85℃に達したら火を止め、氷水で冷却した。10℃以下まで冷却した後、鍋に薄く広げ、あらかじめ調製しておいた0.5質量%乳酸カルシウム水溶液を薄く広げた調合液を覆うように鍋にゆっくりと注ぐことでゲル化反応を起こした。
【0052】
次いでゴムへらでゆっくりと撹拌し、ゲルを適当な大きさに砕いた後、ゲルをつぶさないように水で乳酸カルシウム水溶液を洗い流し、よく水を切ることでゲル状物を得た。
【0053】
(卵黄様液体の製造)
上記と同様に1~8の原材料を全てミキサー(BRAUN社製マルチクイック ハンドブレンダーMQ500)に投入し、30秒間ミキシングすることで、乳化状態のアルギン酸ナトリウムを含む調合液を得た
得られた調合液を加熱し、85℃に達したら火を止め、氷水で冷却することで卵黄様液体を得た。
【0054】
(スクランブルエッグ様食品の製造)
上記で得られたゲル状物80gと卵黄様液体20gとを混合(質量比4:1)することでスクランブルエッグ様食品を得た。得られたスクランブルエッグ様食品は、食感、色味、風味が本物の卵を用いたスクランブルエッグと極めて類似(或いは同等)であり、品質に優れたものであった。
【0055】
[実施例2~実施例5]
アルギン酸ナトリウム及び乳酸カルシウムの濃度を以下の表に示す濃度に変更したこと以外は実施例1と同様の方法によりスクランブルエッグ様食品を得た。
【0056】
【表2】
【0057】
得られたスクランブルエッグ様食品は、いずれも食感、色味、風味が本物の卵を用いたスクランブルエッグと極めて類似(或いは同等)であり、品質に優れたものであった。
【0058】
[実施例6~実施例8]
調合液の製造に用いた菜種油の使用量を以下の表に示す濃度に変更したこと以外は実施例1と同様の方法によりスクランブルエッグ様食品を得た。
【0059】
【表3】
【0060】
実施例6のスクランブルエッグ様食品は、コクがなく風味がやや劣っていた。一方、実施例7のスクランブルエッグ様食品は、アルギン酸ナトリウムのみでは乳化の進行が遅かったが、キサンタンガムを加えることで乳化が確認できた。実施例8のスクランブルエッグ様食品は油の味が強くなりすぎて、やや風味に劣っていた。
【0061】
[実施例9]
実施例1で得られたゲル状物と卵黄様液体との混合割合を変えることで、温泉卵様、卵焼き様、オムレツ様、炒り卵様など、様々な形状の卵様食品を製造した。
【0062】
[比較例、実施例10~実施例20]
原材料の配合を以下の表4に記載のものとし、アルギン酸ナトリウム及び乳酸カルシウムの濃度を以下の表5に示す濃度に変更したこと以外は実施例1と同様の方法によりスクランブルエッグ様食品を製造した。
【0063】
スクランブルエッグと同様の形状、及び食感を有したものを「○」、スクランブルエッグよりやや硬め、又はやや柔らかい形状、及び食感であるが、許容範囲のものを「△」、スクランブルエッグとは異なる形状、及び食感であるものを「×」と評価した。
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
(各サンプルの評価コメント)
比較例1は、アルギン酸の濃度が低く、十分なゲルを形成をしなかった。実施例10乃至13は、アルギン酸濃度の高まりにより、スクランブルエッグ様のゲルを形成した。比較例2は、アルギン酸濃度が高く、ゲル形成能が強かったため、スクランブルエッグの食感としては硬すぎた。実施例14は、やや緩い性状ではあったが、スクランブルエッグとして許容できる性状であった。実施例15乃至18は、アルギン酸濃度及びカルシウム濃度が適正範囲であり、スクランブルエッグ様のゲルを形成した。実施例19及び実施例20は、アルギン酸濃度、又はカルシウム濃度の高さにより、やや硬めの食感ではあったが、スクランブルエッグとして許容できる性状であった。