(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131140
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】白金ナノシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 55/00 20060101AFI20230913BHJP
【FI】
C01G55/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034254
(22)【出願日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2022034914
(32)【優先日】2022-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020~2022年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/共通課題解決型基盤技術開発/二次元反応場制御によるナノシート触媒/触媒層の高耐久化技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(71)【出願人】
【識別番号】000198709
【氏名又は名称】石福金属興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹中 壮
(72)【発明者】
【氏名】青木 直也
(72)【発明者】
【氏名】小林 健太朗
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA01
4G048AB02
4G048AB08
4G048AC08
4G048AD02
4G048AE05
(57)【要約】
【課題】比表面積が大きく、且つ凝集し難い形状の白金ナノシートの量産化を可能にする製造方法を提供する。
【解決手段】酸化グラフェンシートの水分散液と白金化合物が溶解している水溶液の混合液が、凍結乾燥されることにより酸化グラフェンシートと白金化合物の複合化物を得、当該複合化物を加熱還元した後、白金ナノシートを得る、ことを特徴とする白金ナノシートの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化グラフェンシートの水分散液と白金化合物が溶解している水溶液とが混合されることによる混合液の調製工程と、
前記混合液が凍結乾燥されることによる、前記酸化グラフェンシートの複数が積層されると共にその積層されたシート間に前記白金化合物が封じ込められたまたはインターカレーションされた構造体の形成工程と、
前記構造体の熱処理により、前記封じ込められたまたはインターカレーションされた白金化合物が還元され、白金が析出されることによる白金ナノシートの形成工程と、
前記工程で形成された白金ナノシートから酸化グラフェンシートが除去されることによる、白金ナノシートの取得工程を含む、
ことを特徴とする白金ナノシートの製造方法。
【請求項2】
酸化グラフェンシートの有する官能基であるエポキシ基もしくはヒドロキシ基のいずれか一つ、またはそれら官能基の合計の官能基密度が所定の密度である前記酸化グラフェンシートを用意する工程を請求項1の工程の前に含む、ことを特徴とする請求項1記載の白金ナノシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金ナノシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズの微細な白金を担体に担持する触媒は、例えば、燃料電池触媒に利用することができる。
【0003】
特許文献1には、貴金属塩、例えば、白金塩を親水性溶媒に溶解させて溶液を調整する工程Aと、前記溶液を疎水性溶媒に滴下して液滴状とした後、前記疎水性溶媒に酸化グラフェンを添加して撹拌を行う工程Bと、疎水性溶媒中に残存する酸化グラフェンを取り除いた後、オートクレーブ中150~190℃の温度にて加温を行う工程Cを経て、得られた生成物にアルコール中で超音波を照射することで白金ナノシートが得られることが開示されている。
しかし、上記白金塩溶液の滴下量を増やすと、酸化グラフェンの間に封じ込めない白金化合物が混在しやすくなり、白金ナノシートだけでなく白金の凝集体も生成されることで、白金ナノシートだけを取り出すことが困難になる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-031042
【非特許文献1】W. S. Hummers, Jr., and R. E. Offeman, J. Am. Chem. Soc. 80 (1958), 1339.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、燃料電池用触媒は、高活性化のため比表面積が大きく、高耐久化のため凝集し難い白金触媒の製造方法の開発が課題となっている。
【0006】
本発明の目的は、比表面積が大きく、且つ凝集し難い形状の白金ナノシートの量産化を可能にする製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を達成すべく鋭意検討した結果、テンプレートを用いた白金ナノシートの生成工程とテンプレートの除去工程とを含む白金ナノシートの製造方法において、テンプレートを用いた白金ナノシートの生成工程が、シート状の酸化グラフェンを分散させた液体と白金化合物が溶解している水溶液とが混合された後、取得される混合液が凍結乾燥されることにより、積層する酸化グラフェンシートの間に白金化合物が封じ込められまたはインターカレーションされ、次いで、熱処理されて、酸化グラフェンシート表面に白金ナノシートが還元・析出された後、酸化グラフェンシートが化学処理で除去されることで白金ナノシートが得られる製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
したがって、本発明の主たる特徴または態様としては次のものが挙げられる。
1. 酸化グラフェンシートの水分散液と白金化合物が溶解している水溶液とが混合されることによる混合液の調製工程と、
前記混合液が凍結乾燥されることによる、前記酸化グラフェンシートの複数が積層されると共にその積層されたシート間に前記白金化合物が封じ込められたまたはインターカレーションされた構造体の形成工程と、
前記構造体の熱処理により、前記封じ込められたまたはインターカレーションされた白
金化合物が還元され、白金が析出されることによる白金ナノシートの形成工程と、
前記工程で形成された白金ナノシートから酸化グラフェンシートが除去されることによる、白金ナノシートの取得工程を含む、
ことを特徴とする白金ナノシートの製造方法。
2. 前記1に記載の製造方法であって、
酸化グラフェンシートの有する官能基であるエポキシ基もしくはヒドロキシ基のいずれか一つ、またはそれら官能基の合計の官能基密度が所定の密度である前記酸化グラフェンシートを用意する工程を請求項1の工程の前に含む、ことを特徴とする請求項1記載の白金ナノシートの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従うと、比表面積が大きく、且つ凝集し難い形状の白金ナノシートの量産化を可能にする製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】酸化グラフェンシートのFT-IRスペクトルである。
【
図2】実施例1において得られた白金ナノシートのTEM画像である。
【
図3】実施例2におけるヒドロキシ基の官能基密度とナノシートサイズの関係を表している。
【
図4】実施例2におけるエポキシ基の官能基密度とナノシートサイズの関係を表している。
【
図5】実施例2におけるヒドロキシ基とエポキシ基を合計した官能基密度とナノシートサイズの関係を表している。
【
図6】実施例2において得られた白金ナノシートのTEM画像である。
【発明を実施するための形態または本発明の詳細な説明】
【0010】
以下、本発明または本明細書で使用される技術用語は、特に定義しない限り当該技術分野で常用されている意味内容を有するのと理解される。
【0011】
白金ナノシートは、当該シートの厚さが少なくともナノサイズであるものである。白金ナノシートの厚さは、限定されるものでないが、0.5 nm~5 nm、好ましくは、0.5 nm~4 nmである。
【0012】
本発明は、酸化グラフェンシートの水分散液と白金化合物が溶解している水溶液とが混合されることによる混合液の調製工程を含む。
【0013】
理論に拘束されるものでないが、酸化グラフェンシートは、テンプレートとしての役割を果たす。酸化グラフェンシートは、限定されるものでないが、平均大きさ4.5~30 μm、平均厚さ1 nmのものを使用することができる。平均大きさ5~10 μm、の酸化グラフェンシートを使用することもできる。
【0014】
当該工程における白金化合物は、例えば、塩化白金酸、塩化白金のような親水性の塩を使用することができる。
【0015】
例えば、酸化グラフェンシートを水に分散させた液(酸化グラフェンシートの水分散液)と塩化白金酸を水に溶解させた水溶液とがスターラーによる10分~1時間攪拌下で混合される。または、前記分散液と前記水溶液を混合して形成された混合液を含む容器が激しく振とうされる、もしくは、混合液が超音波で撹拌されても良い。
【0016】
上記混合液中での塩化白金酸の濃度は、0.05~6g/Lとすることができる。塩化白金酸の
濃度は、0.08~2g/Lが好ましい。上記混合液中での酸化グラフェンの量は、0.5~1.5g/Lとすることができる。
【0017】
本発明は、上記混合液が凍結乾燥されることによる、酸化グラフェンシートの複数が積層されると共にその積層されたシート間に白金化合物が封じ込められたまたはインターカレーションされた(挿入された)構造体の形成工程を含む。
【0018】
混合液の凍結乾燥は、混合液が凍結されて凍結体を得て、減圧下で、その凍結体が乾燥されることである。上記混合液が凍結されて凍結体を得る方法は、例えば、その混合液を含む容器を液体窒素中に2~5分間静置して凍結させることができる。または、冷凍庫中で数時間~10数時間静置させても良い。
【0019】
次に、凍結体の減圧乾燥を行う。減圧乾燥時の圧力は例えばロータリーポンプで到達できる範囲である、例えば0.1Pa~100Paとすることができる。0.1~10Paが好ましい。減圧乾燥時の温度は常温でもよく、例えば25~60℃の温度でも良い。減圧乾燥時間は、例えば、10時間~200時間行うことができる。好ましくは100時間~120時間行うことができる。
【0020】
例えば、凍結体を真空チャンバーに入れ、80時間~150時間ロータリーポンプで減圧し、水を除去し乾燥させる。
【0021】
凍結乾燥を行うことにより、酸化グラフェンシートの複数が積層すると共にその積層されたシート間に白金化合物が封じ込められたまたはインターカレーションされた(挿入された)構造体が形成される。前記構造体は、具体的には粉末状態で得られる。
【0022】
本発明は、上記構造体の熱処理により、封じ込められたまたはインターカレーションされた(挿入された)白金化合物が還元され、白金が析出されることによる白金ナノシートの形成工程を含む。なお、熱処理時に加圧してもよい。
【0023】
上記熱処理は、具体的には、先ず、上記構造体に疎水性有機溶媒を加える。疎水性有機溶媒としては、例えばヘキサンやシクロヘキサンを使用することができる。
【0024】
その構造体と有機溶媒を共にテフロン製密封容器にいれて熱処理を行う。所定の処理温度で有機溶媒が気化し容器内の圧力が増加し、白金化合物の分解温度をより下げることができる。
【0025】
上記の熱処理は、例えば140~240℃で、より好ましくは、140~180℃で行うことができる。
熱処理時間は、3時間以上行う。熱処理時間は6時間~48時間が好ましい。熱処理時間は20~30時間がより好ましい。
【0026】
上記の工程で、封じ込まれた白金化合物が還元・析出されて白金ナノシート化されている構造体が得られる。当該構造体も、具体的には粉末状態の構造体が得られる。
【0027】
本発明は、上記の白金ナノシート化されている構造体から酸化グラフェンシートが除去された白金ナノシートの取得工程を含む。
【0028】
酸化グラフェンシートの除去は、化学処理によって行うことができる。
【0029】
例えば、白金ナノシートが付いた酸化グラフェンシート(粉末状態の構造体)を過マン
ガン酸カリウムで化学処理して酸化グラフェンシートを除去する。また、酸化グラフェンの除去は、過マンガン酸カリウムの代わりに硝酸を用いてもよい。
【0030】
具体的には、上記粉末と硝酸ナトリウムと濃硫酸、それに過マンガン酸カリウムを純水に混合し、20~50℃で1~10時間反応させる。これにより、酸化グラフェンシートの除去が行われる。上記混合物中のそれぞれの物質の量は、酸化グラフェン1g当たり、硝酸ナトリウムが0.6~1g、濃硫酸が0.6~1L、過マンガン酸カリウムが4~40gとすることができる。また、反応温度は35~45℃、時間は2~5時間が好ましい。
【0031】
次に、上記混合物から過剰の過マンガン酸カリウムを除去する。具体的には、その混合物に過酸化水素水を添加してスターラーで0.2~1時間撹拌させる。例えば、その混合物(酸化グラフェン1g当たり)に濃度10~30%の過酸化水素水0.6~3Lを加える。また、撹拌時間は0.3~0.7時間が好ましい。次に、例えば、遠心分離し、上澄み液を取除く。
【0032】
次に上澄み液を取り除かれた下層を洗浄する。具体的には、下層に超純水を添加して撹拌させ、遠心分離し、上澄み液を取除く。この操作を、必要により、複数回行う。
【0033】
その結果、白金ナノシート分散液を得る。
【0034】
以上の工程により、平均サイズが、大きさ1600nm2(40×40nm相当)以下、厚さ5nm以下の白金ナノシートを作製することができる。具体的には、白金ナノシートが分散している分散液が得られる。
【0035】
本発明では、酸化グラフェンシートの有する官能基であるエポキシ基もしくはヒドロキシ基のいずれか一つ、またはそれら官能基の合計の官能基密度が所定の密度である前記酸化グラフェンシートを用意する工程を請求項1の工程の前に含む、ようにしても良い。
【0036】
酸化グラフェンシートは、例えば、上記非特許文献1に記載の方法で合成されるように、過マンガン酸カリウム等の酸化剤で酸化されることにより、シートの面内方向及び水平方向に複数の種類の含酸素官能基を有している。含酸素官能基とは、例えばヒドロキシ基やエポキシ基が該当する。
【0037】
ここでいう官能基密度とは、赤外吸収スペクトルにおけるC=C伸縮振動のピーク強度(1620 cm
-1付近)と比較した各含酸素官能基の分子振動のピーク強度比を指す。含酸素官能基の分子振動とは、例えばヒドロキシ基のC-O伸縮振動(1220 cm
-1付近)やエポキシ基のC-O伸縮振動(1050 cm
-1付近)が該当する。また、官能基の分子振動はフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)により計測することができる。酸化グラフェンシートのFT-IR測定結果を
図1に示した。
官能基密度=(含酸素官能基の分子振動のピーク強度)/(C=C伸縮振動のピーク強度)
【0038】
上記非特許文献1には、Hummers法と呼ばれる酸化グラフェンシートの合成方法が記載されている。手順としては、黒鉛粉末と硝酸ナトリウム、硫酸を混合し、氷冷しながら撹拌しているところに過マンガン酸カリウムを徐々に添加し、35℃で30分反応させる。その後、水を加えて98℃に加温、さらに過酸化水素水を添加し、ろ過・洗浄を行うことで酸化グラフェンシートが得られる。
【0039】
このとき、過マンガン酸カリウムの量もしくは反応温度、または反応時間を変化することにより、酸化グラフェンシートの官能基密度を調整することができる。具体的には、過マンガン酸カリウムの量を増加するもしくは反応温度を上昇する、または反応時間を長く
すると、酸化グラフェンシートの官能基密度が増加する傾向を示す。そこで、過マンガン酸カリウムの量、反応温度、反応時間を調節することで、所定の官能基密度の酸化グラフェンシートを得ることができる。なお、一定の範囲を超えて過マンガン酸カリウムの量を増加するもしくは反応温度を上昇する、または反応時間を長くすると、酸化グラフェンシートの官能基密度が減少していく傾向を示す。また、酸化グラフェンシートの官能基密度をFT-IRで計測し、所定の官能基密度の酸化グラフェンシートを選択することによっても、所定の官能基密度の酸化グラフェンシートを得ることができる。
【0040】
上記方法によって、酸化グラフェンシートの有する官能基であるエポキシ基もしくはヒドロキシ基のいずれか一つ、またはそれら官能基の合計の官能基密度が所定の密度である前記酸化グラフェンシートを用意することができる。
【0041】
本発明者らは、テンプレートである酸化グラフェンの官能基密度の増加に伴って白金ナノシートの平均サイズが上昇することを見出した。
【0042】
酸化グラフェンシートが有している所定の官能基密度を変化させると、製造される白金ナノシートのサイズが変化する理由は、理論に拘束されるものではないが、積層された酸化グラフェンシート間に白金化合物が封じ込められ、またはインターカレーションされる際に、官能基密度が高いほど白金化合物との間により強い静電相互作用がはたらき、白金化合物が層間に集まりやすくなるためと考えられる。また、官能基は還元剤としてもはたらくため、密度が高いほど還元反応が進行し、白金の結晶成長が促進されると考えられる。以上の結果、官能基の密度に応じたサイズの白金ナノシートが出来ると考えられる。
【0043】
酸化グラフェンシートの含酸素官能基であるヒドロキシ基およびエポキシ基について官能基密度を計測し、官能基密度の異なるサンプル5水準を用意した。その結果を表1に示す。ここで、エポキシ基およびヒドロキシ基の官能基の合計の官能基密度とは、エポキシ基の官能基密度とヒドロキシ基の官能基密度の和と定義する。
【0044】
ヒドロキシ基の密度が増加するとエポキシ基の密度も増加する傾向を示す。したがって、酸化グラフェンの有するエポキシ基もしくはヒドロキシ基のいずれか一つ、またはそれら官能基の合計の密度を所定の密度に限定または制御することにより、製造する白金ナノシートのサイズを制御することができる。
【0045】
【0046】
一態様として、酸化グラフェンシートとして、ヒドロキシ基の官能基密度が0.5~1.0の範囲のものを使用することができ、エポキシ基の官能基密度が0.7~1.2の範囲のものを使用することができる。
【0047】
白金ナノシートは、テンプレートである酸化グラフェンの官能基密度の増加に伴って平
均サイズが上昇する。その制御可能範囲は例えば、80~6400nm2(9×9~80×80nm相当)である。
【0048】
例えば、後述の実施例の結果に基づけば、酸化グラフェンシートの官能基密度(ヒドロキシ基)を「0.720」とすると、平均サイズ約100nm2(10×10nm相当)の白金ナノシートが得られる。
【0049】
また、酸化グラフェンシートの官能基密度(ヒドロキシ基)をそれぞれ、「0.797」、「0.841」、「0.873」とすると、平均サイズがそれぞれ、約400nm2(20×20nm相当)、約900nm2(30×30nm相当)、約1600nm2(40×40nm相当)の白金ナノシートが得られる。
【0050】
また、酸化グラフェンシートの官能基密度(ヒドロキシ基)をそれぞれ、「0.897」、「0.917」、「0.934」とすると、平均サイズがそれぞれ、約2500nm2(50×50nm相当)、約3600nm2(60×60nm相当)、約4900nm2(70×70nm相当)白金ナノシートが得られる。
【0051】
このようにして、酸化グラフェンシートの有する官能基であるエポキシ基もしくはヒドロキシ基のいずれか一つ、またはそれら官能基の合計の官能基密度が所定の密度である前記酸化グラフェンシートを用意すると、それに応じたサイズの白金ナノシートを製造することができる。
【0052】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0053】
[実施例1]
平均大きさ5μm、平均厚さ1nmの酸化グラフェンシート水分散液(株式会社仁科マテリアル製、濃度:1g/L)20mLと、塩化白金酸を水に溶解させた水溶液(白金濃度:1000g/L)10μLを加え混合した後、30分間攪拌した。
【0054】
次に、上記混合液を液体窒素中で5分静置して凍結させた。
【0055】
次に、水を除去するために上記凍結体を室温で加熱しつつ96時間ロータリーポンプを用いて減圧し、積層した酸化グラフェンシートの間に塩化白金酸を封じ込めた粉末を得た。
【0056】
次いで、上記粉末とシクロヘキサン30mLをテフロン製密封容器に投入した後、180℃で24時間加熱し、積層した酸化グラフェンシートの間に白金ナノシートを還元・析出させることで、白金ナノシートと酸化グラフェンシートの複合体を得た。
【0057】
次いで、上記粉末20mgに対して硝酸ナトリウム10mgと濃硫酸10mLを投入し、撹拌した後に過マンガン酸カリウム120mgを追加し、10分撹拌後に45℃で3時間反応させることで酸化グラフェンを酸化除去した。
【0058】
そして超純水20mLと30%過酸化水素水10mLを添加して30分間撹拌した後、4000 rpmで30分間遠心分離し、上澄み液を取り除いた。超純水を加えて12,000rpmで30分間遠心分離する操作を2回行うことで洗浄し、最後に上層を取り除き、白金ナノシート5mgを含む溶液を得た。
【0059】
製造した白金ナノシートの平均サイズは、大きさ900nm2(30×30nm相当)、厚さ4nmであった。
【0060】
上記工程により得られた白金ナノシートの透過電子顕微鏡(TEM)観察を行った結果を
図2に示した。この画像より、本発明の製造法によって平板状のナノシートが製造できることが確認できた。
【0061】
次に、白金ナノシートサイズの制御方法について具体的に説明する。
【0062】
[実施例2~6]
表1に示す酸化グラフェンシートのSample 1~Sample 5を使用した以外は、実施例1と同様にして実施例2~6の白金ナノシートを製造した。Sample 1のヒドロキシ基及びエポキシ基の密度は表1の中では最小であり、そこからSample 5に向けて密度が上昇している。
【0063】
得られた白金ナノシートの平均サイズは、大きさ82~4028nm2、厚さ4nmであった。
【0064】
【0065】
テンプレートとして用いた酸化グラフェンシートのヒドロキシ基もしくはエポキシ基、または両者を合計した官能基密度と、実施例1の方法で製造した白金ナノシート平均サイズの関係を
図3~5に示した。これらのグラフより、ヒドロキシ基もしくはエポキシ基、または両者を合計した官能基密度の増加に比例して白金ナノシートのサイズが伸長することを確認できる。
【0066】
上記工程により得られた白金ナノシートの透過電子顕微鏡(TEM)観察を行った結果を
図6に示した。この画像からも、所定の官能基密度の酸化グラフェンシートを使用することで白金ナノシートのサイズを制御することができることが確認できる。
【0067】
[比較例1]
親水性の白金塩として塩化白金酸H2PtCl6を含有する水溶液(白金濃度:1000g/L)を調製した。
【0068】
次に、100mLのビーカーにシクロヘキサン30mLを入れ、上記で調製した塩化白金酸の水溶液4.2μLを、マイクロピペットを用いて滴下し、ビーカーの底に塩化白金酸水溶液が液滴状で沈降した状態とし、その後、凍結乾燥させた粉末状の酸化グラフェン10mgを添加して35℃で3日間撹拌を行った。
【0069】
撹拌終了後、シクロヘキサン相に残存した酸化グラフェンを除去し、オートクレーブ中で180℃にて6時間、加熱を行った。
【0070】
次に、上記工程で得られた生成物を2‐プロパノール中で超音波を照射することによって分散させ、白金ナノシートを取り出した。白金ナノシートだけでなく白金の凝集体も生
成された。
【0071】
上記白金ナノシート製造法は、白金化合物溶液を酸化グラフェンの間に封じ込めないものが発生したため、凝集体が混在してしまったと考える。
【0072】
一方、本発明による製造方法では、白金化合物の溶液量に依存することなく、白金ナノシートのみを選択的に回収することができる。