(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131148
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】スルホニウム含有ポリマー
(51)【国際特許分類】
C08G 65/48 20060101AFI20230913BHJP
C08G 61/12 20060101ALI20230913BHJP
C07C 381/12 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
C08G65/48
C08G61/12
C07C381/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034910
(22)【出願日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2022035382
(32)【優先日】2022-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】冨田 育義
(72)【発明者】
【氏名】一二三 遼祐
(72)【発明者】
【氏名】今井 智大
(72)【発明者】
【氏名】宮田 佳典
(72)【発明者】
【氏名】井宮 弘人
【テーマコード(参考)】
4H006
4J005
4J032
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB90
4H006AC63
4H006BB11
4H006TN30
4J005AA24
4J005BA00
4J005BB02
4J005BD00
4J032CA32
4J032CA43
4J032CB04
4J032CD02
4J032CE03
4J032CF03
4J032CG01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】アニオン伝導性が優れるとともに、高温、アルカリ性条件下でも耐久性に優れる材料を提供する。
【解決手段】下記一般式(1);
(式中、R
1~R
3は、同一又は異なって、置換基、又は、ポリマーが有する他の構造との直接結合を表す。p、q、rは、それぞれ、環構造に結合するR
1~R
3の個数を表し、0~5の整数であり、その合計は3~15の整数である。R
1~R
3の少なくとも3個は、環構造における-Sに対してオルト位の位置に結合する。R
1~R
3は、複数個が結合して更に環構造を形成していてもよい。)で表されるカチオン構造を含むことを特徴とするスルホニウム含有ポリマー。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1);
【化1】
(式中、R
1~R
3は、同一又は異なって、置換基、又は、ポリマーが有する他の構造との直接結合を表す。p、q、rは、それぞれ、環構造に結合するR
1~R
3の個数を表し、0~5の整数であり、その合計は3~15の整数である。R
1~R
3の少なくとも3個は、環構造における-Sに対してオルト位の位置に結合する。R
1~R
3は、複数個が結合して更に環構造を形成していてもよい。)で表されるカチオン構造を含むことを特徴とするスルホニウム含有ポリマー。
【請求項2】
下記一般式(2);
【化2】
(式中、R
4~R
11は、同一又は異なって、炭化水素基、エーテル基、アシル基、アミド基、アミノ基、及び、ハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種からなる基を表す。s、t、u、vは、それぞれ、環構造に結合するR
8~R
11の個数を表し、sは0~3の整数であり、tは0~2の整数であり、uは0~5の整数であり、vは0~5の整数である。R
4~R
11は、複数個が結合して更に環構造を形成していてもよい。)で表されるカチオン構造、又は、下記一般式(2A);
【化3】
(式中、R
12~R
18は、同一又は異なって、炭化水素基、エーテル基、アシル基、アミド基、アミノ基、及び、ハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種からなる基を表す。w、x、yは、それぞれ、環構造に結合するR
16~R
18の個数を表し、wは0~3の整数であり、xは0~4の整数であり、yは0~4の整数であり、その合計は2~11の整数である。R
16~R
18の少なくとも2個は、環構造における-Sに対してメタ位の位置に結合する。R
12~R
18は、複数個が結合して更に環構造を形成していてもよい。)で表されるカチオン構造を含むことを特徴とするスルホニウム含有化合物。
【請求項3】
請求項1に記載のスルホニウム含有ポリマー又は請求項2に記載のスルホニウム含有化合物を製造する方法であって、
該製造方法は、スルフィド化合物、スルホキシド化合物、又は、これら化合物由来の構造単位とアラインとを反応させる工程を含むことを特徴とするスルホニウム含有ポリマー又はスルホニウム含有化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のスルホニウム含有ポリマー又は請求項2に記載のスルホニウム含有化合物を製造する方法であって、
該製造方法は、強酸及び/又は強酸無水物の存在下で、スルホキシド化合物又はスルホキシド化合物由来の構造単位をスルホニウム化する工程を含むことを特徴とするスルホニウム含有ポリマー又はスルホニウム含有化合物の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のスルホニウム含有ポリマー又は請求項2に記載のスルホニウム含有化合物を含むことを特徴とするイオン交換膜。
【請求項6】
請求項1に記載のスルホニウム含有ポリマー又は請求項2に記載のスルホニウム含有化合物を含むことを特徴とする電解質材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホニウム含有ポリマーに関する。より詳しくは、燃料電池、水電解装置における電解質材料等として好適に用いられるスルホニウム含有ポリマー、スルホニウム含有化合物、これらの製造方法、イオン交換膜、及び、電解質材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池や水電解装置等、水素をエネルギー源として活用することが期待され、種々の研究開発がなされている。
燃料電池や水電解装置等の心臓部材である固体高分子電解質膜としてプロトン交換膜(PEM:Proton Exchange Membrane)が利用されているが、Nafion(登録商標)に代表されるスルホン酸系の材料は強酸性であり腐食性が高いため、周辺部材の材質に高価な金属が必要(例えば、プロトン交換膜を含んで構成される水電解装置において、給電体にTi、Pt等が、触媒にPt、Ir等が、バイポーラープレートにTi等がそれぞれ必要)となり、コスト増加の原因となっている。一方、プロトン交換膜の代わりに水酸化物イオンを伝導するアニオン交換膜(AEM:Anion Exchange Membrane)を利用すれば、周辺部材に安価な金属部材を使用できると考えられる。
【0003】
アニオン交換膜を構成するポリマーには、アニオン伝導性の他、化学的安定性等の基本的特性が重要である。
アニオン伝導性を担うアニオン交換基としては、第4級アンモニウム基が従来から用いられている(例えば、特許文献1~6参照)。また、第4級ホスホニウム基を含むアニオン伝導性材料についての研究例(例えば、特許文献7、非特許文献1参照)や第3級スルホニウム基を含むアニオン伝導性材料についての研究例(例えば、特許文献8、非特許文献2参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-70782号公報
【特許文献2】特開2013-107916号公報
【特許文献3】特開2015-125888号公報
【特許文献4】特開2010-92660号公報
【特許文献5】国際公開2008/022775号明細書
【特許文献6】特開2009-173898号公報
【特許文献7】特開2021-161223号公報
【特許文献8】特開2007-94356号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 6499-6502
【非特許文献2】RSC Adv., 2012, 33, 12683-12685
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、第4級アンモニウム基は、高温・塩基性(アルカリ性)条件下ではホフマン脱離、求核置換反応等により分解し、化学的安定性(耐久性)に乏しかった。
本発明者らは、高耐久性のカチオンとして、第4級ホスホニウム基を既に見出している(例えば、特許文献7)。
ここで第3級スルホニウム基は、第4級ホスホニウム基に比べると、イオン交換基のサイズが小さいため、イオン交換容量を上げ易く、イオン伝導性(アニオン伝導性)の面でより有利であると考えられる。
一方、本発明者らが非特許文献2に記載の第3級スルホニウム基を含むポリスルホンについて検証した結果、高温、アルカリ性条件下では耐久性が低いことを確認した。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、アニオン伝導性が優れるとともに、高温、アルカリ性条件下でも耐久性に優れる材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アニオン伝導性が優れるとともに、耐久性に優れる材料について種々検討し、特定のスルホニウムカチオンを有する材料とすると、アニオン伝導性が優れるとともに、高温、アルカリ性条件下でも耐久性に優れ、種々の用途に好適に使用できる可能性があることを見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明(1)は、下記一般式(1);
【化1】
(式中、R
1~R
3は、同一又は異なって、置換基、又は、ポリマーが有する他の構造との直接結合を表す。p、q、rは、それぞれ、環構造に結合するR
1~R
3の個数を表し、0~5の整数であり、その合計は3~15の整数である。R
1~R
3の少なくとも3個は、環構造における-Sに対してオルト位の位置に結合する。R
1~R
3は、複数個が結合して更に環構造を形成していてもよい。)で表されるカチオン構造を含むことを特徴とするスルホニウム含有ポリマーである。
【0010】
本発明(2)は、下記一般式(2);
【化2】
(式中、R
4~R
11は、同一又は異なって、炭化水素基、エーテル基、アシル基、アミド基、アミノ基、及び、ハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種からなる基を表す。s、t、u、vは、それぞれ、環構造に結合するR
8~R
11の個数を表し、sは0~3の整数であり、tは0~2の整数であり、uは0~5の整数であり、vは0~5の整数である。R
4~R
11は、複数個が結合して更に環構造を形成していてもよい。)で表されるカチオン構造、又は、下記一般式(2A);
【化3】
(式中、R
12~R
18は、同一又は異なって、炭化水素基、エーテル基、アシル基、アミド基、アミノ基、及び、ハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種からなる基を表す。w、x、yは、それぞれ、環構造に結合するR
16~R
18の個数を表し、wは0~3の整数であり、xは0~4の整数であり、yは0~4の整数であり、その合計は2~11の整数である。R
16~R
18の少なくとも2個は、環構造における-Sに対してメタ位の位置に結合する。R
12~R
18は、複数個が結合して更に環構造を形成していてもよい。)で表されるカチオン構造を含むことを特徴とするスルホニウム含有化合物でもある。
【0011】
本発明(3)は、本発明(1)のスルホニウム含有ポリマー又は本発明(2)のスルホニウム含有化合物を製造する方法であって、上記製造方法は、スルフィド化合物、スルホキシド化合物、又は、これら化合物由来の構造単位とアラインとを反応させる工程を含むことを特徴とするスルホニウム含有ポリマー又はスルホニウム含有化合物の製造方法である。
【0012】
本発明(4)は、本発明(1)のスルホニウム含有ポリマー又は本発明(2)のスルホニウム含有化合物を製造する方法であって、該製造方法は、強酸及び/又は強酸無水物の存在下で、スルホキシド化合物又はスルホキシド化合物由来の構造単位をスルホニウム化する工程を含むことを特徴とするスルホニウム含有ポリマー又はスルホニウム含有化合物の製造方法である。
【0013】
本発明(5)は、本発明(1)のスルホニウム含有ポリマー又は本発明(2)のスルホニウム含有化合物を含むことを特徴とするイオン交換膜である。
【0014】
本発明(6)は、本発明(1)のスルホニウム含有ポリマー又は本発明(2)のスルホニウム含有化合物を含むことを特徴とする電解質材料である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のスルホニウム含有ポリマー又は本発明のスルホニウム含有化合物は、上述の構成よりなり、アニオン伝導性に優れるとともに、高温、アルカリ性条件下でも耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、各スルホニウム含有化合物についての、1M KOH中、80℃の条件下においた時間と、残存量との関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、各スルホニウム含有化合物についての、1M KOH中、80℃の条件下においた時間と、残存量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0018】
<本発明のスルホニウム含有ポリマー>
本発明のスルホニウム含有ポリマーは、上記一般式(1)で表されるカチオン構造を有する。上記カチオン構造の位置は、ポリマー中の主鎖でもよく、側鎖でもよい。
カチオン構造の位置がポリマー中の主鎖であるとは、上記一般式(1)で示されるS原子が主鎖にあることをいい、この場合、本発明のスルホニウム含有ポリマーは、上記カチオン構造のみを主鎖に有するホモポリマーであってもよく、上記カチオン構造と、別の構造(構造単位)とをそれぞれ主鎖に有するコポリマー(共重合ポリマー)であってもよい。
カチオン構造の位置がポリマー中の側鎖であるとは、上記一般式(1)で示されるS原子が側鎖にあることをいい、この場合、本発明のスルホニウム含有ポリマーは、上記カチオン構造を側鎖の一部に有するものであってもよく、側鎖の全部に有するものであってもよい。
【0019】
上記カチオン構造において、R1~R3は、同一又は異なって、置換基、又は、ポリマーが有する他の構造との直接結合を表す。
上記置換基は、特に限定されず、炭化水素基、アルコキシ基、アシル基、チオアルキル基等の有機基;エーテル基;アミド基;アミノ基;ハロゲン原子、これらの2種以上が結合してなる基等を使用できるが、例えば、炭化水素基、エーテル基、アシル基、アミド基、アミノ基、及び、ハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種からなる基であることが好ましい。
上記置換基が、炭化水素基、エーテル基、アシル基、アミド基、アミノ基、及び、ハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種からなる基であるとは、これら基・原子のうち1種のみからなる基であってもよく、2種以上が結合してなる基であってもよい。
なお、炭化水素基は、炭素及び水素からなる基をいい、脂肪族飽和炭化水素基(アルキル基)、脂肪族不飽和炭化水素基(アルケニル基等)、芳香族炭化水素基(アリール基)、これらの2種以上が結合してなる基のいずれであってもよい。エーテル基は、エーテル結合(エーテル結合している酸素原子)をいい、例えば、上記一般式(1)で示されるS原子に結合した芳香環の炭素原子と、1価の炭化水素基の炭素原子のそれぞれに直接結合した酸素原子が好適である。アシル基は、オキソ酸(好ましくは、カルボン酸)からヒドロキシ基を除いたかたちの有機基をいう。アミド基は、カルボニル基と窒素原子からなるアミド結合をいう。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子が好ましい。
【0020】
上記置換基は、その価数は特に限定されないが、通常は1価又は2価である。
1価の置換基としては、特に限定されないが、例えば、1価の炭化水素基、アシル基、アミノ基、ハロゲン原子等が好ましいものとして挙げられる。1価の炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、炭素数1~18の脂肪族飽和炭化水素基、炭素数2~18の脂肪族不飽和炭化水素基、炭素数6~18の芳香族炭化水素基、又は、炭素数7~18のアラルキル基等が好ましい。なお、アラルキル基は、ベンジル基のように、脂肪族炭化水素基とともに芳香環を有するものをいう。
1価の炭化水素基は、中でも、炭素数1~12の脂肪族飽和炭化水素基、炭素数2~12の脂肪族不飽和炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、炭素数7~12のアラルキル基であることが好ましく、炭素数1~6の脂肪族飽和炭化水素基、炭素数2~6の脂肪族不飽和炭化水素基、炭素数6の芳香族炭化水素基であることがより好ましく、メチル基、エチル基であることが更に好ましい。
【0021】
2価の置換基としては、例えば、上述した1価の置換基から更に水素原子が1個脱離した構造のもの(2価の炭化水素基等)や、エーテル基(エーテル結合している酸素原子)、その他の2価の酸素原子、アミド基、硫黄原子等が挙げられる。2価の置換基は、一般式(1)で示される芳香環と結合するとともに、ポリマーが有する他の構造と結合していてもよく、後述するように、2価の置換基どうしが結合して更に環構造を形成していてもよい。
【0022】
上記一般式(1)で表される構造において、上記置換基は、炭化水素基及び/又はエーテル基からなる基であることがより好ましい。
例えば、上記置換基は、炭化水素基、又は、一般式:-O-C6H(5-x)Rxで表される基(Rは、同一又は異なって、炭化水素基を表し、環構造における-Oに対してオルト位及び/又はメタ位の位置に結合することが好適である。xは、1~5の整数であり、好適には1又は2である。炭化水素基としては、上述した炭化水素基として好ましいものを好適に使用できる。)であることが更に好ましい。
また例えば、上記置換基が炭化水素基であることが、本発明における好ましい形態の1つである。
また、上記置換基はアルコキシ基であることも、本発明における好ましい形態の1つである。特にアルコキシ基が-Sに対してオルト位又はパラ位の位置に置換すると電子的効果(電子供与基として正電荷を安定化する効果)からも、より一層耐久性が優れるものになると考えられる。
【0023】
上記一般式(1)で表される構造において、R1~R3は、それぞれ、環構造に複数個結合していてもよい。
上記一般式(1)で表される構造において、p、q、rは、それぞれ、環構造に結合するR1~R3の個数を表し、0~5の整数であり、その合計は3~15の整数である。
本発明の効果をバランス良く発揮する観点からは、例えば、p、q、rは、それぞれ、1~5の整数であることが好ましく、1~4の整数であることがより好ましく、1~3の整数であることが更に好ましく、2又は3であることが特に好ましい。また、p、q、rの合計は、4~14の整数であることが好ましく、5~13の整数であることがより好ましく、6~12の整数であることが更に好ましい。
【0024】
本発明のスルホニウム含有ポリマーにおいて、R1~R3の少なくとも3個は、環構造における-Sに対してオルト位の位置に結合する。
環構造における-Sに対してオルト位の位置に置換基等を導入し、カチオン中心(S)周辺の基を嵩高いものとすることで、アルカリ性条件下でも水酸化物イオンがカチオン中心(S)と反応することを立体障害により充分に防止でき、カチオン構造の分解を充分に防止して耐久性(特に、アルカリ耐性)がより向上すると考えられる。また、本発明の効果は立体障害による作用効果が主なものと考えられる。置換基が炭化水素基等の電子供与基である場合は、電子的効果(電子供与基からの電子供与による正電荷の安定化)からも、耐久性がより一層優れるものになると考えられる。
ここで、R1~R3の3個が、上記オルト位の位置に結合する場合、例えば、R1、R2、R3の各1個が、上記オルト位の位置に結合していてもよいし、R12個とR21個の合計3個が、上記オルト位の位置に結合していてもよい。
また上記の場合において、R1~R3の3個が上記オルト位の位置に結合する上記置換基を表すものであってもよく、R1~R3の2個が上記オルト位の位置に結合する上記置換基を表し、R1~R3の1個が上記オルト位の位置に結合する上記直接結合を表すものであってもよく、R1~R3の1個が上記オルト位の位置に結合する上記置換基を表し、R1~R3の2個が上記オルト位の位置に結合する上記直接結合を表すものであってもよく、R1~R3の3個が上記オルト位の位置に結合する上記直接結合を表すものであってもよい。
例えば、R1~R3の少なくとも各1個が、上記オルト位の位置に結合することが好ましい。すなわち、3個の芳香環それぞれのオルト位に上記置換基又は上記直接結合があることが更に好ましい。
なお、芳香環のオルト位に上記置換基又は上記直接結合があるとは、各芳香環に2つあるオルト位の少なくとも1つに上記置換基又は上記直接結合があることをいう。
【0025】
耐久性をより優れたものとする観点からは、R1~R3の少なくとも4個が、環構造における-Sに対してオルト位の位置に結合することが本発明における好ましい実施形態の1つである。
またアニオン伝導性をより優れたものとする観点からは、R1~R3のうち3個のみが、環構造における-Sに対してオルト位の位置に結合することもまた本発明における好ましい実施形態の1つである。
なお、上記一般式(1)で表される構造において、-Sに対してオルト位の位置に結合する上記置換基又は上記直接結合は合計6個まで可能である。
【0026】
更に、上記R1~R3の少なくとも1個(より好適には少なくとも2個、更に好適には少なくとも3個、特に好適には少なくとも4個)が、オルト位の置換基であることが好ましく、オルト位の炭化水素基であることがより好ましい。
【0027】
更に、上記R1~R3の少なくとも1個(より好適には少なくとも2個、更に好適には少なくとも3個)は、環構造における-Sに対してメタ位に結合することが本発明における好ましい形態の1つである。
例えば、上記R1~R3の少なくとも1個(より好適には少なくとも2個、更に好適には少なくとも3個)は、環構造における-Sに対してメタ位に結合する置換基であることが本発明における好ましい形態の1つである。
例えば、上記R1~R3の少なくとも各1個が、環構造における-Sに対してメタ位に結合する置換基であることもまた本発明における好ましい形態の1つである。
これにより、立体障害による効果から、耐久性が更に優れるものとなる。なお、置換基が電子供与基である場合は電子的効果(電子供与基からの電子供与による正電荷の安定化)から、耐久性が一層優れる。
【0028】
そして、上記R1~R3の少なくとも1個は、環構造における-Sに対してパラ位に結合することが好ましい。
例えば、上記R1~R3の少なくとも1個は、環構造における-Sに対してパラ位に結合する置換基であることが好ましい。
これにより、立体障害による効果から、耐久性が更に優れるものとなる。なお、置換基が電子供与基である場合は電子的効果(電子供与基からの電子供与による正電荷の安定化)から、耐久性が一層優れる。
【0029】
例えば、上記R1~R3の少なくとも4個は、環構造における-Sに対してオルト位に結合する置換基であり、上記R1~R3の少なくとも2個は、環構造における-Sに対してメタ位に結合する置換基であり、上記R1~R3の少なくとも1個は、環構造における-Sに対してパラ位に結合する置換基であることが特に好ましい。
これにより、立体障害による効果から、耐久性に優れる効果が顕著になる。なお、置換基が電子供与基である場合は電子的効果(電子供与基からの電子供与による正電荷の安定化)から、耐久性が一層優れる。
【0030】
本明細書中、ポリマーが有する他の構造は、他の一般式(1)で表される構造でもよく、別の構造(繰り返し単位である構造単位、又は、その他の構造)でもよい。
カチオン構造の位置が、ポリマー中の主鎖である場合は、例えば、上記R1、R2の各1個、上記R1、R3の各1個、又は、上記R2、R3の各1個を、それぞれ、ポリマーが有する他の構造との直接結合とすることができる。
またカチオン構造の位置が、ポリマー中の側鎖である場合は、例えば、上記R12個、上記R22個、上記R32個、又は、上記R1~R3のうちの1個を、ポリマーが有する他の構造との直接結合とすることができる。
なお、上記ポリマーが有する他の構造との直接結合の代わりに、ポリマーが有する他の構造と結合している2価の置換基を用いることも可能である。
【0031】
上記一般式(1)で表される構造において、R1~R3は、複数個が結合して更に環構造を形成していてもよい。
例えば、隣り合う2個の2価の置換基どうしが結合して、当該置換基が結合する芳香環(ベンゼン環)とともに、ナフタレン環、ベンゾイミダゾール環等の縮環構造を形成していてもよい。
【0032】
本発明のスルホニウム含有ポリマーが、上記一般式(1)で表される構造と、別の構造単位とをそれぞれ主鎖に有する共重合ポリマーである場合、別の構造単位としては特に限定されないが、芳香環を含む構造単位が好ましい。芳香環としては、ベンゼン環、ビフェニル、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、トリフェニレン環、ピレン環、フルオレン環、インデン環、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、インドール環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾチアジアゾール環等が挙げられ、別の構造単位としてこれらの1種又は2種以上を含むものを使用できる。
また別の構造単位が、酸素原子を更に含むポリエーテル構造や硫黄原子を更に含むポリアリーレンスルフィド構造、ポリスルホン構造を有することもまた好ましい。
【0033】
上記別の構造単位がベンゼン環である本発明のスルホニウム含有ポリマーとしては、例えば、下記(1a-1)で表される構造を有するポリマー(コポリマー)が挙げられる。
【化4-1】
【0034】
上記式(1a-1)中、R1~R3、pは、一般式(1)におけるR1~R3、pと同様である。q′、r′は、それぞれ、0~4の整数であり、1~3の整数であることが好ましく、2又は3であることがより好ましい。p、q′、r′の合計は、3~13の整数であり、4~12の整数であることが好ましく、5~11の整数であることがより好ましく、6~10の整数であることが更に好ましい。Raは、置換基、又は、ポリマーが有する他の構造との直接結合を表し、R1~R3と同様のものを使用できる。wは、環構造に結合するRaの個数を表し、0~4の整数である。なお、Raは、R1~R3と同様に、複数個が結合して更に環構造を形成していてもよい。m及びnは配合比又は繰り返し単位数であり、それぞれ1~100の数値を示す。oは、繰り返し単位数であり、1~500の数値を示す。 mの合計数は、好ましくは10以上であり、より好ましくは20以上である。mの合計数は、上限は特に制限されないが、好ましくは500以下である。また、nの合計数は、好ましくは10以上であり、より好ましくは20以上である。nの合計数は、上限は特に制限されないが、好ましくは500以下である。
なお、本明細書中、「mの合計数」とは、本発明のスルホニウム含有ポリマー中に含まれる、mを付した丸カッコで括られた構造(以下、構造Aともいう)の数をいう。例えば「mの合計数が10以上」とは、本発明のスルホニウム含有ポリマー中に含まれる、構造Aの数が10以上であることをいい、例えば、構造Aが、nを付した丸カッコで括られた構造(以下、構造Bともいう)と交互に繋がった形態で「o」が10以上の形態や、構造Aが10個以上連続して繋がったブロックが存在するようなポリマーの形態を含む。「nの合計数」についても同様である。
更に、交互共重合体、ブロック共重合体等の形態によらず、ポリマーは以下の形態であることが好ましい。すなわち、ポリマー中に構造Aが10個以上(より好ましくは20個以上)含まれる形態が好ましい。また、ポリマー中に構造Aが500個以下含まれる形態が好ましい。そして、ポリマー中に構造Bが10個以上(より好ましくは20個以上)含まれる形態が好ましい。また、ポリマー中に構造Bが500個以下含まれる形態が好ましい。
【0035】
また上記一般式(1)で表されるカチオン構造を含む本発明のスルホニウム含有ポリマーとしては、例えば、下記(1a-2)で表される構造のみからなるポリマー(ホモポリマー)が挙げられる。
【化4-2】
【0036】
上記式(1a-2)中、R1~R3、p、q′、r′は、一般式(1a-1)におけるR1~R3、p、q′、r′と同様である。mは、繰り返し単位数であり、1以上である。mは、好ましくは10以上であり、より好ましくは20以上である。mは、その上限は特に制限されないが、好ましくは500以下である。
【0037】
更に、別の構造単位がベンゼン環以外の構造単位である本発明のスルホニウム含有ポリマーとしては、例えば、下記(1a-3)で表される構造を有するポリマー(コポリマー)が挙げられる。
【化4-3】
【0038】
上記式(1a-3)中、R1~R3、p、q′、r′、m、n、oは、一般式(1a-1)におけるR1~R3、p、q′、r′、m、n、oと同様である。Xは、ベンゼン環以外の構造単位を表す。
上記Xは、特に制限されないが、上記別の構造単位として例示した構造単位の内、ベンゼン環以外のものが挙げられる。中でも、ビフェニル、フルオレン環が好ましい。
なお、上記式(1a-1)~(1a-3)では、R2、R3が結合する環構造における-Sに対してパラ位の位置に、ポリマーが有する他の構造との直接結合が形成されている。ここで、式(1)において、R2、R3がそれぞれ複数あってもよいところ、R2、R3の各1個が、環構造における-Sに対してパラ位の位置に結合する、ポリマーが有する他の構造との直接結合を表すと考えることができる。
【0039】
本発明のスルホニウム含有ポリマーが、上記カチオン構造を側鎖に有する(一般式(1)で示されるS原子が側鎖にある)場合、本発明のスルホニウム含有ポリマーの主鎖の構造は特に限定されないが、上述した芳香環やポリエーテル構造、ポリアリーレンスルフィド構造、ポリスルホン構造、重合性のビニル基含有単量体由来の構造、上記カチオン構造のS原子以外の部分、これらの組合せを有するもの等が挙げられる。例えば、主鎖としては、ポリオレフィン、ポリシクロオレフィン等のビニル重合体;ポリフェニレン等のポリアリーレン;ポリフェニレンエーテル等のポリアリーレンエーテル;ポリフェニレンスルフィド等のポリアリーレンスルフィド;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリアミドイミド等が挙げられる。
【0040】
主鎖にポリオレフィンを含む本発明のスルホニウム含有ポリマーとしては、例えば、下記(1b-1)で表される構造を含むものが挙げられる。
また主鎖にポリフェニレンを含む本発明のスルホニウム含有ポリマーとしては、例えば、下記(1b-2)、(1b-3)で表される構造を含むものが挙げられる。
【化4-4】
【0041】
上記式(1b-1)~(1b-3)中、R1~R3、Ra、p、q、r、w、m、n、oは、式(1a-1)において上述したものと同様である。式(1b-2)中、q′′は、0~3の整数であり、1~3の整数であることが好ましい。p、q′′、rの合計は、3~13である。式(1b-1)、(1b-3)中、r′は、0~4の整数であり、1~4の整数であることが好ましい。p、q、r′の合計は、3~14である。
【0042】
なお、上記(1b-1)で表される構造を含むスルホニウム含有ポリマーは、例えば、下記反応式により得ることができる。下記反応式中、AIBNは、アゾビスイソブチロニトリルを表す。
【化4-5】
【0043】
上記(1b-3)で表される構造を含むスルホニウム含有ポリマーは、例えば、下記反応式により得ることができる。下記反応式中、Ni(cod)
2は、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケルを表し、bpyは、ビピリジンを表す。
【化4-6】
【0044】
本発明のスルホニウム含有ポリマーは、カウンターアニオンX-を有していてもよい。カウンターアニオンX-としては、カウンターアニオンとして一般的な無機塩を用いることができ、例えばF-、Cl-、Br-、I-等のハロゲン化物イオンや、水酸化物イオン、トリフルオロメタンスルホナート等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
【0045】
本発明のスルホニウム含有ポリマーは、そのヒドロキシイオン交換容量が、特に制限されないが、0.3mmol/g以上であることが好ましく、より好ましくは0.4mmol/g以上であり、更に好ましくは0.5mmol/g以上である。該ヒドロキシイオン交換容量は、その上限は特に限定されないが、通常、3.0mmol/g以下である。
本発明のスルホニウム含有ポリマーは、アニオン伝導性に優れながら、耐久性に優れるものであり、水の電気分解やアルカリ燃料電池用の固体高分子電解質膜の他、相間移動触媒、光酸発生剤等の多くの用途に好適に使用できる可能性がある。
【0046】
<本発明のスルホニウム含有化合物>
本発明のスルホニウム含有化合物は、例えば、上記一般式(2)で表されるカチオン構造を含むものである。
【0047】
式中、R4~R11は、同一又は異なって、炭化水素基、エーテル基、アシル基、アミド基、アミノ基、及び、ハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種からなる基を表す。
なお、上記一般式(2)で表されるカチオン構造を含む本発明のスルホニウム含有化合物では、R10、R11が結合する環構造における-Sに対してオルト位の位置(4箇所)にそれぞれ水素原子が結合していてもよいが、R10、R11が結合する環構造における-Sに対してオルト位の位置の少なくとも1つに置換基又は他のポリマーとの直接結合が結合していることが好ましい。
R8~R11は、それぞれ、環構造に複数個結合していてもよく、R4~R11は、複数個が結合して更に環構造を形成していてもよい。
以上により、本発明のスルホニウム含有化合物は、本発明のスルホニウム含有ポリマーと同様に、優れた耐久性を有する。
【0048】
上記一般式(2)では、上記R4~R11における置換基が2価の置換基である場合、2価の置換基は、2価の置換基どうしが結合して環構造を形成している。その他は、本発明のスルホニウム含有化合物におけるR4~R11が表す置換基、その好ましい形態は、上述した本発明のスルホニウム含有ポリマーにおけるR1~R3が表す置換基、その好ましい形態と同様である。
【0049】
本発明のスルホニウム含有化合物はまた、上記一般式(2A)で表されるカチオン構造を含むものであってもよい。上記一般式(2A)で表されるカチオン構造を含む本発明のスルホニウム含有化合物は、耐久性が際立って優れる。
【0050】
式中、R12~R18は、同一又は異なって、炭化水素基、エーテル基、アシル基、アミド基、アミノ基、及び、ハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種からなる基を表す。
R16~R18は、それぞれ、環構造に結合していなくてもよく、環構造に1個結合していてもよく、環構造に複数個結合していてもよい。
【0051】
上記R16~R18の少なくとも1個(より好適には少なくとも2個)は、環構造における-Sに対してメタ位に結合する置換基であることが好ましい。
これにより、立体障害による効果から、耐久性が更に優れるものとなる。なお、置換基が電子供与基である場合は電子的効果(電子供与基からの電子供与による正電荷の安定化)から、耐久性が一層優れる。
【0052】
また上記R16~R18の少なくとも1個は、環構造における-Sに対してパラ位に結合する置換基であることが好ましい。
これにより、立体障害による効果から、耐久性が更に優れるものとなる。なお、置換基が電子供与基である場合は電子的効果(電子供与基からの電子供与による正電荷の安定化)から、耐久性が一層優れる。
【0053】
例えば、上記R16~R18の少なくとも2個は、環構造における-Sに対してメタ位に結合する置換基であり、上記R1~R3の少なくとも1個は、環構造における-Sに対してパラ位に結合する置換基であることが特に好ましい。
これにより、立体障害による効果から、耐久性に優れる効果がより一層顕著になる。なお、置換基が電子供与基である場合は電子的効果(電子供与基からの電子供与による正電荷の安定化)から、耐久性が一層優れる。
【0054】
なお、R12~R18は、複数個が結合して更に環構造を形成していてもよい。上記一般式(2A)では、上記R12~R18における置換基が2価の置換基である場合、2価の置換基は、2価の置換基どうしが結合して環構造を形成している。その他は、本発明のスルホニウム含有化合物におけるR12~R18が表す置換基、その好ましい形態は、上述した本発明のスルホニウム含有ポリマーにおけるR1~R3が表す置換基、その好ましい形態と同様である。
【0055】
本発明のスルホニウム含有化合物は、通常、上記一般式(2)で表されるカチオン構造又は上記一般式(2A)で表されるカチオン構造と、カウンターアニオンX-からなるものである。本発明のスルホニウム含有化合物が有するカウンターアニオンX-としては、カウンターアニオンとして一般的な無機塩を用いることができ、例えばF-、Cl-、Br-、I-等のハロゲン化物イオンや、水酸化物イオン、トリフルオロメタンスルホナート等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
【0056】
本発明のスルホニウム含有化合物は、そのヒドロキシイオン交換容量が、特に制限されないが、0.3mmol/g以上であることが好ましく、より好ましくは0.4mmol/g以上であり、更に好ましくは0.5mmol/g以上である。該ヒドロキシイオン交換容量は、その上限は特に限定されないが、通常、3.0mmol/g以下である。
本発明のスルホニウム含有化合物は、耐久性に優れ、電解質材料、相間移動触媒、光酸発生剤等の多くの用途に好適に使用できる可能性がある。
【0057】
<本発明のスルホニウム含有ポリマー又はスルホニウム含有化合物の製造方法>
本発明のスルホニウム含有化合物は、種々の方法により得ることができるが、例えば、スルフィド化合物又はスルホキシド化合物にアラインを反応させて、芳香環を付加することで好適に得ることができる。
また本発明のスルホニウム含有ポリマーは、種々の方法により得ることができるが、例えば、スルフィド化合物又はスルホキシド化合物にアラインを反応させて、芳香環を付加し、これを他のモノマーと反応させることで好適に得ることができる。または、スルフィド化合物又はスルホキシド化合物と他のモノマーとを反応させ、ポリマー化したうえで、スルフィド化合物由来の構造単位又はスルホキシド化合物由来の構造単位とアラインとを反応させて、ポリマーに芳香環を付加することでも好適に得ることができる。
すなわち、本発明のスルホニウム含有ポリマー又はスルホニウム含有化合物の製造方法は、スルフィド化合物、スルホキシド化合物、又は、これら化合物由来の構造単位とアラインとを反応させる工程を含む。
本明細書中、「由来の」とは、実際にその化合物を重合等して形成したものでなくてもよく、実際にその化合物を重合等して形成したものと同様の構造のもの、すなわち、その化合物を特徴づける骨格(例えば、スルフィド骨格-S-、スルホキシド骨格-(S=O)-)を含むものであればよい。「構造単位」は、ポリマー中のその化合物を特徴づける骨格が含まれている構造を意味し、通常、ポリマー中のモノマー1個分に相当する単位である。
【0058】
本発明のスルホニウム含有化合物はまた、例えば、強酸及び/又は強酸無水物の存在下で、スルホキシド化合物をスルホニウム化することで好適に得ることができる。
強酸は、水中の酸解離定数pKaが3以下である酸をいい、金属ハロゲン化物等の無機酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機酸を使用でき、中でも、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機酸が好ましい。強酸無水物は、強酸である有機酸の無水物をいい、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸無水物が好ましい。
スルホキシド化合物をスルホニウム化するとは、スルホキシド化合物と芳香環含有化合物とを反応しておこなうことができる。
【0059】
また本発明のスルホニウム含有ポリマーは、例えば、スルホキシド化合物と芳香環含有化合物とを反応させて、芳香環を付加(スルホニウム化)し、これを他のモノマーと反応させたのち重合したり、他のモノマーと反応させながら重合したりすることで好適に得ることができる。または、スルホキシド化合物と他のモノマーとを反応させ、ポリマー化したうえで、スルホキシド化合物由来の構造単位と芳香環含有化合物とを反応させて、ポリマーに芳香環を付加(スルホニウム化)することでも好適に得ることができる。更に、芳香環を片方の末端に有し、もう片方の末端にスルホキシドを有する化合物を、スルホニウム化を伴って重合することでも好適に得ることができる。更に、構造単位に芳香環を有するポリマー(言い換えれば、芳香環含有ポリマー)に、スルホキシド化合物を反応させることでも好適に得ることができる。
すなわち、本発明のスルホニウム含有ポリマー又はスルホニウム含有化合物の製造方法は、強酸及び/又は強酸無水物の存在下で、スルホキシド化合物又はスルホキシド化合物由来の構造単位をスルホニウム化する工程を含む。
「スルホキシド化合物由来の」とは、上述したように、実際にスルホキシド化合物を重合等して形成したものでなくてもよく、スルホキシド化合物を特徴づける骨格であるスルホキシド骨格-(S=O)-を含むものであればよい。「構造単位」は、ポリマー中のスルホキシド骨格が含まれている構造を意味し、通常、ポリマー中のモノマー1個分に相当する単位である。
【0060】
本発明のスルホニウム含有ポリマー又はスルホニウム含有化合物の製造方法により、第3級スルホニウム構造を簡便に形成することができる。
【0061】
上記スルフィド化合物は、例えば下記一般式(3):
【化4】
(式中、R
2、R
3、q、rは、上述した一般式(1)におけるR
2、R
3、q、rと同様である。)で表される化合物であることが好ましい。
【0062】
上記スルホキシド化合物は、例えば下記一般式(4):
【化5】
(式中、R
2、R
3、q、rは、上述した一般式(1)におけるR
2、R
3、q、rと同様である。)で表される化合物であることが好ましい。
【0063】
上記アラインは、下記一般式(5-1)で表される化合物であるか、又は、下記一般式(5-1)で表される化合物及び下記一般式(5-2)で表される化合物であることが好ましい。
【化6】
(式中、R
1、Rは、一般式(1)に関して上述したR
1、Rと同様である。p′、xは、それぞれ、0~4の整数であり、1~4の整数であることが好ましい。)
【0064】
上記一般式(5-1)又は(5-2)で表される化合物は、それぞれ、例えば下記一般式(6-1)又は(6-2):
【化7】
(式中、TMSは、トリメチルシリル基を表す。Tfは、トリフルオロメタンスルホニル基を表す。R
1、R、p′、xは、一般式(5-1)、(5-2)で上述したとおりである。)で表される化合物を、例えばフッ化セシウム等のフッ化物と反応させて得ることができる。
【0065】
上記スルフィド化合物又はスルホキシド化合物とアラインとを反応させる工程は、アセトニトリル等の有機溶媒中で行うことができる。反応温度は、例えば15~60℃であることが好ましい。反応時間は、例えば1~48時間であることが好ましい。圧力条件は、特に限定されず、常圧下、加圧下、減圧下のいずれであってもよい。
なお、上述した一般式(6-1)又は(6-2)で表される化合物をフッ化物と反応させて上記一般式(5-1)又は(5-2)で表される化合物を得る工程は、上記反応工程と同時に行うことができる。本発明のスルホニウム含有化合物の製造方法は、安定な原料化合物(例えば、上記一般式(6-1)又は(6-2)で表される化合物)から一段階の反応で行うことが可能であり、非常に簡便に本発明のスルホニウム含有化合物を得ることができるものである。
【0066】
なお、上述した一般式(6-1)又は(6-2)で表される化合物を反応させて上記一般式(5-1)又は(5-2)で表される化合物を得る工程は、下記反応式で表される。
【化8】
【0067】
本発明のスルホニウム含有化合物の製造方法は、例えば、下記反応式:
【化9】
で表される反応工程を含むものとすることができる。
なお、上記式(4a)で表される化合物と、上記式(5-1a)で表される化合物と、上記式(5-2a)で表される化合物から、式(2)で表される化合物が生成する反応について、想定される反応機構を示しているが、この反応は、1工程で式(2)で表される化合物を生成させることができるものである。例えば、上記式(5-1a)で表される化合物と、上記式(5-2a)で表される化合物が同一である場合、通常、上記式(5-1a)で表される化合物2当量が、上記式(4a)で表される化合物1当量に対して連続して反応し、式(2)で表される化合物が1工程で一気に生成する。なお、上記式(5-1a)で表される化合物と、上記式(5-2a)で表される化合物が異なっている場合、この反応は、開始時から3種類すべての原料を用いて1工程で式(2)で表される化合物を生成させるものであってもよいし、上記式(4a)で表される化合物と、上記式(5-1a)で表される化合物とを先ず反応させた後、上記式(5-2a)で表される化合物を後添加して、上記反応機構で示される順序に沿って2工程で反応させるものであってもよい。
【0068】
本発明のスルホニウム含有化合物の製造方法は、例えば、下記反応式:
【化10】
で表される反応工程を含むものとすることができる。
上記では、上記式(4x)で表される化合物と、上記式(A)で表される化合物とを、強酸の存在下で反応させ、式(2A)で表される化合物が生成する反応を示している。強酸とともに、又は、強酸に代えて、強酸無水物を用いてもよい。強酸、強酸無水物は、上述した通りである。
R
12~R
18、x~wは、上記式(2A)において上述した通りである。
上記反応は、例えばジクロロメタン等のハロゲン溶媒中で行うことができる。反応温度は、例えば5~50℃の範囲内とすることができる。反応時間は、例えば10分~6時間の範囲内とすることができる。
【0069】
本発明のスルホニウム含有ポリマーの製造方法は、特に限定されないが、例えば、スルホニウム含有化合物をポリマー化するものとすることができる。
すなわち、スルホニウム含有化合物の中でも、ハロゲン原子等の官能基を少なくとも2つ有する化合物(1c)又は(1d)と、ジヒドロキシ化合物等の二官能基含有化合物(7)とを反応させてポリマー化することで、本発明のスルホニウム含有ポリマーを得ることができる。このポリマー化反応は、炭酸カリウム等の塩基の存在下、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の有機溶媒中で行うことができる。反応温度は、例えば100~200℃であることが好ましい。反応時間は、例えば6~48時間であることが好ましい。圧力条件は、特に限定されず、常圧下、加圧下、減圧下のいずれであってもよい。
【0070】
カチオン構造を主鎖に有する本発明のスルホニウム含有ポリマーの製造方法は、例えば、下記反応式:
【化11】
で表される反応工程を含むものとすることができる。
上記反応式において、Y
1、Y
2は、同一又は異なって、ハロゲン原子を表す。R
1~R
3、p、q′、r′は、一般式(1a-1)におけるR
1~R
3、p、q′、r′と同様である。Zは、2価の有機基を表し、好ましくは2価の炭化水素基を表し、より好ましくは2価の、芳香環を含む炭化水素基を表す。nは、1以上であり、例えば2~1000であり、好ましくは2~500である。
【0071】
カチオン構造を側鎖に有する本発明のスルホニウム含有ポリマーの製造方法は、例えば、下記反応式:
【化12】
で表される反応工程を含むものとすることができる。
なお、上記ポリマー化反応の反応式において、Y
1、Y
2、R
1~R
3、Z、nは、上記反応式において上述した通りである。p、q′′、rは、式(1b-2)にて上述した通りである。
【0072】
本発明のスルホニウム含有ポリマーの製造方法はまた、例えば、スルフィド化合物をポリマー化したうえでアラインと反応させるものとすることができる。
先ず、ハロゲン原子等の官能基を少なくとも2つ有するスルフィド化合物(3a)又は(3b)と、ジヒドロキシ化合物等の二官能基含有化合物(7)とを反応させてポリマー化する。この反応は、例えば、上述したポリマー化反応と同様の条件下でおこなうことができる。
【0073】
上記反応により得られたポリマー1当量に、アラインを1当量反応させることで、本発明のスルホニウム含有ポリマーを得ることができる。このポリマーとアラインとの反応は、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル等の有機溶媒中で行うことができる。反応温度は、例えば-10~40℃であることが好ましい。反応時間は、例えば10~48時間であることが好ましい。圧力条件は、特に限定されず、常圧下、加圧下、減圧下のいずれであってもよい。
【0074】
カチオン構造を主鎖に有する本発明のスルホニウム含有ポリマーの製造方法は、例えば、下記反応式:
【化13】
で表される反応工程を含むものとすることができる。
上記反応式において、Y
1、Y
2、R
1~R
3、Z、nは、上記反応式において上述した通りである。p′、q′、r′は、それぞれ、0~4の整数であり、1~3の整数であることが好ましく、2又は3であることがより好ましい。p′、q′、r′の合計は、3~12の整数であり、4~11の整数であることが好ましく、6~10の整数であることがより好ましい。
【0075】
カチオン構造を側鎖に有する本発明のスルホニウム含有ポリマーの製造方法は、例えば、下記反応式:
【化14】
で表される反応工程を含むものとすることができる。
なお、上記反応式において、Y
1、Y
2、R
1~R
3、Z、nは、上記反応式において上述した通りである。p′は、0~4の整数であり、1~3の整数であることが好ましく、2又は3であることがより好ましい。q′′は、0~3の整数であり、1~3の整数であることが好ましく、2又は3であることがより好ましい。rは、0~5の整数であり、1~4の整数であることが好ましく、1~3の整数であることがより好ましく、2又は3であることが更に好ましい。p′、q′′、rの合計は、3~12の整数であり、4~11の整数であることが好ましく、6~10の整数であることがより好ましい。
【0076】
本発明のスルホニウム含有ポリマーの製造方法は更に、例えば、スルホキシド化合物をポリマー化したうえでアラインと反応させるものとすることができる。
先ず、ハロゲン原子を少なくとも2つ有するスルホキシド化合物(4b)と、ジヒドロキシ化合物等の二官能基含有化合物(7)とを反応させてポリマー化する。この反応は、上述したポリマー化反応と同様の条件下でおこなうことができる。
【0077】
上記反応により得られたポリマー1当量に、アラインを2当量反応させることで、本発明のスルホニウム含有ポリマーを得ることができる。この反応は、例えば、上述したポリマーとアラインとの反応と同様の条件下でおこなうことができる。
【0078】
カチオン構造を主鎖に有する本発明のスルホニウム含有ポリマーの製造方法は、例えば、下記反応式:
【化15】
で表される反応工程を含むものとすることができる。
上記反応式において、Y
1、Y
2、R
1~R
3、p′、q′、r′、R、x、Z、nは、上記反応式において上述した通りである。
【0079】
なお、上記式(8b)で表されるポリマーと、上記式(5-1)で表される化合物と、上記式(5-2)で表される化合物から、式(9b)で表されるポリマーが生成する反応について、想定される反応機構を示しているが、この反応は、1工程で式(8b)で表されるポリマーから式(9b)で表されるポリマーを生成させることができるものである。例えば、上記式(5-1)で表される化合物と、上記式(5-2)で表される化合物が同一である場合、通常、上記式(5-1)で表される化合物2当量が、式(8b)で表されるポリマー1当量に対して連続して反応し、式(9b)で表されるポリマーが1工程で一気に生成する。なお、上記式(5-1)で表される化合物と、上記式(5-2)で表される化合物が異なっている場合、この反応は、開始時から3種類すべての原料を用いて1工程で式(9b)で表されるポリマーを生成させるものであってもよいし、上記式(8b)で表されるポリマーと、上記式(5-1)で表される化合物とを先ず反応させた後、上記式(5-2)で表される化合物を後添加して、上記反応機構で示される順序に沿って2工程で反応させるものであってもよい。
【0080】
カチオン構造を側鎖に有する本発明のスルホニウム含有ポリマーの製造方法は、例えば、下記反応式:
【化16】
で表される反応工程を含むものとすることができる。
なお、上記ポリマー化反応の反応式において、Y
1、Y
2、R
1~R
3、p′、q′′、r、R、x、Z、nは、上記反応式において上述した通りである。
【0081】
本発明のスルホニウム含有ポリマーの製造方法は、下記反応式:
【化17】
で表される反応工程を含むものであってもよい。
上記反応式において、Y
1、Y
2、R
1~R
3、p、q′、r′、Z、nは、上記反応式において上述した通りである。x、1-xは、それぞれ、構成単位数を比率で表すものである。Y
3、Y
4は、同一又は異なって、ハロゲン原子を表す。
先ず、ハロゲン原子を2つ有するスルフィド化合物(3a)と、有機ジハロゲン化合物(7a)とを反応させてポリマー化し、スルフィド含有ポリマー(8f)(ランダム共重合体)を得る。この反応は、例えば、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル、ビピリジン、1,5-シクロオクタジエンの存在下、THF等の有機溶媒中で行うことができる。この反応は、例えば50~90℃の反応温度で、還流しながら行うことができる。反応時間は、例えば3~100時間の範囲内とすることができる。
【0082】
次いで、スルフィド含有ポリマー(8f)を酸化し、スルホキシド含有ポリマー(8g)(ランダム共重合体)を得る。この反応は、例えばm-クロロ過安息香酸等の酸化剤の存在下、ジクロロメタン等の有機溶媒中で行うことができる。反応温度は、例えば5~50℃の範囲内とすることができる。反応時間は、例えば3~100時間の範囲内とすることができる。
【0083】
更に、スルホキシド含有ポリマー(8g)を、芳香族化合物と反応させて、スルホニウム含有ポリマー(9d)(ランダム共重合体)を得る。この反応は、強酸及び/又は強酸無水物の存在下、ジクロロメタン等の有機溶媒中で行うことができる。反応温度は、例えば5~50℃の範囲内とすることができる。反応時間は、例えば3~100時間の範囲内とすることができる。
【0084】
本発明のスルホニウム含有ポリマーの製造方法は、下記反応式:
【化18】
で表される反応工程を含むものであってもよい。
上記反応式において、Y
1、Y
2、R
1~R
3、p、q′、r′、Z、nは、上記反応式において上述した通りである。
先ず、ハロゲン原子を2つ有するスルフィド化合物(3a)と、ジオキサボロラン化合物(7b)とを反応させてポリマー化し、スルフィド含有ポリマー(8h)(交互共重合体)を得る。この反応は、例えば、炭酸カリウム等の塩基、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムの存在下、THFと水の混合溶媒等の溶媒中で行うことができる。この反応は、例えば60~100℃の反応温度とし、還流しながら行うことができる。反応時間は、例えば3~80時間の範囲内とすることができる。
【0085】
次いで、スルフィド含有ポリマー(8h)を酸化し、スルホキシド含有ポリマー(8i)(交互共重合体)を得る。この反応は、例えばm-クロロ過安息香酸等の酸化剤の存在下、ジクロロメタン等の有機溶媒中で行うことができる。反応温度は、例えば5~50℃の範囲内とすることができる。反応時間は、例えば3~100時間の範囲内とすることができる。
【0086】
更に、スルホキシド含有ポリマー(8i)を、芳香族化合物と反応させて、スルホニウム含有ポリマー(9e)(交互共重合体)を得る。この反応は、強酸及び/又は強酸無水物の存在下、ジクロロメタン等の有機溶媒中で行うことができる。反応温度は、例えば5~50℃の範囲内とすることができる。反応時間は、例えば3~100時間の範囲内とすることができる。
【0087】
本発明のスルホニウム含有ポリマーの製造方法は、下記反応式:
【化19】
で表される反応工程を含むものであってもよい。
上記反応式において、R
1~R
3、p、q′、r′、nは、上記反応式において上述した通りである。
上記反応式では、スルホキシド含有化合物を、スルホニウム化を伴って重合することにより、スルホニウム含有ポリマー(9f)を得る。この反応は、強酸及び/又は強酸無水物の存在下、アセトニトリル、メタノール、エタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の有機溶媒中で行うことができる。反応温度は、例えば5~50℃の範囲内とすることができる。反応時間は、例えば3~100時間の範囲内とすることができる。
【0088】
本発明のスルホニウム含有ポリマーの製造方法は、下記反応式:
【化20】
で表される反応工程を含むものであってもよい。
上記反応式において、R
1~R
3、p、q′、r′、nは、上記反応式において上述した通りである。
上記反応式では、芳香環含有ポリマー(より具体的には、芳香環に置換基を有するポリスチレン等の、置換基を有する芳香環をもつポリマー)に、スルホニウム化を伴ってスルホキシド含有化合物を反応させ、スルホニウム含有ポリマー(9g)を得る。この反応は、強酸及び/又は強酸無水物の存在下、ジクロロメタン等の有機溶媒中で行うことができる。反応温度は、例えば5~50℃の範囲内とすることができる。反応時間は、例えば3~100時間の範囲内とすることができる。
【0089】
<本発明のイオン交換膜>
本発明は、本発明のスルホニウム含有ポリマー又は本発明のスルホニウム含有化合物を含むことを特徴とするイオン交換膜でもある。
本発明のイオン交換膜は、ガスバリア性、機械的特性等の基本的性能を充分に発揮しながら、アニオン伝導性に優れるとともに、高温、アルカリ性条件下でも耐久性に優れるため、例えば、水の電気分解やアルカリ燃料電池用の固体高分子電解質膜として有用である。
【0090】
なお、上述したように、スルホニウムはホスホニウムに比べると、イオン交換基のサイズが小さい(テトラフェニルホスホニウムの分子量339に対してトリフェニルスルホニウムの分子量は263)ため、イオン交換容量(ヒドロキシイオン交換容量)を上げ易く、イオン伝導性(アニオン伝導性)の面で有利である。
なお、イオン交換容量は、下記式で表される。
IEC(イオン交換容量)=1000/EW(mmol/g)
EW(等価容量):イオン交換基1モル当たりの乾燥状態の材料のグラム数(イオン交換基の分子量に比例する)
本発明のイオン交換膜における、スルホニウム含有ポリマー又はスルホニウム含有化合物は、そのヒドロキシイオン交換容量が、0.3mmol/g以上であることが好ましい。より好ましくは0.4mmol/g以上であり、更に好ましくは0.5mmol/g以上である。該ヒドロキシイオン交換容量は、その上限は特に限定されないが、通常、3.0mmol/g以下である。
【0091】
本発明のイオン交換膜は、平均膜厚が10~1000μmであることが好ましい。該平均膜厚は、より好ましくは、20~500μmである。
本発明のイオン交換膜の平均膜厚は、マイクロメーターを用いて任意の5点を測定した平均値である。
【0092】
本発明のイオン交換膜を製造する方法は、膜が形成される限り特に制限されず、本発明のスルホニウム含有ポリマー又はスルホニウム含有化合物を溶媒に溶解し、平坦面上に注いで有機溶媒を蒸発させる方法や、後述する本発明の電解質材料をロールで圧延して膜状に成形する方法、平板プレス等で圧延して膜状に成形する方法や、射出成形法、押出成形法、キャスト法等の膜状に成形する方法を用いることができる。これらの成形方法は単独で用いてもよく、2種以上の方法を組み合わせて用いてもよい。
上記製造方法は、上述したように、電解質材料を膜状に成形する工程の他に、膜を乾燥させる工程を含んでいてもよい。乾燥温度は適宜設定すればよいが、例えば60℃~160℃で行うことができる。
【0093】
<本発明の電解質材料>
本発明は、本発明のスルホニウム含有ポリマー又は本発明のスルホニウム含有化合物を含むことを特徴とする電解質材料でもある。
本発明の電解質材料は、本発明のスルホニウム含有ポリマー又は本発明のスルホニウム含有化合物の他、その他の成分、溶媒等を含んでいてもよい。
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;アルキレングリコールモノアルキルエーテル;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
本発明の電解質材料は、アニオン伝導性に優れるとともに、高温、アルカリ性条件下でも耐久性に優れる。
【実施例0094】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「%」は「モル%」を意味するものとする。
(数平均分子量、重量平均分子量の測定)
溶離液としてクロロホルムを用いてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により以下の条件で測定した。
装置:島津製作所LC-9A
(視差屈折計検出器:島津製作所RID-10A、UV/VIS検出器:SPD-10A)
カラム:TSK-gel(GMH-HRM×2)
カラム温度:40℃
溶離液:クロロホルム
流速:1.0mL/min
分子量標準物質:ポリスチレン
【0095】
(化合物の合成)
<ベンザイン前駆体の合成>
合成例1:ベンザイン前駆体1の合成
2-ブロモフェノール(10.4g,60mmol)と1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン(25.3mL,120mmol,2.0eq.)をTHF(20mL)に溶解させ、加熱還流下で3時間撹拌した。減圧下で溶媒を留去したのち1H-NMRでシリル保護体が生成しているのを確認した。生成物をTHF(78mL)に溶解させ、-78℃に冷却したのちノルマルブチルリチウム(41.3mL,66mmol,ca.1.6M,1.1eq.)をゆっくり加え、-78℃下で30分間攪拌した後、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(20.3g,72mmol,1.2eq.)をゆっくり加え、-78℃下で30分間攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え反応をクエンチしたのち、酢酸エチルで有機層を抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した後ろ過し、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン/酢酸エチル=40/1〔体積比〕)で精製し、ベンザイン前駆体1(14.9g,50mmol,83%)を無色透明油状物質として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。なお、TMSは、トリメチルシリル基、Tfは、トリフルオロメタンスルホニル基を意味する。以下の合成例、実施例においても同様である。
1H-NMR(300MHz,CDCl3):δ7.54(dd,J=7.6,1.6Hz,1H),7.44(ddd,J=8.0,7.6,2.0Hz,1H),7.38-7.29(m,2H),0.304(s,9H)
【0096】
【0097】
合成例2:ベンザイン前駆体2の合成
2,5-ジメチルフェノール(1.2g,10mmol)の二硫化炭素(30mL)溶液に対し、N-ブロモスクシンイミド(2.0g,11mmol,1.1当量)をアルゴン雰囲気下、0℃で加え、室温に昇温し3時間撹拌した。固形成分をろ別し、溶媒を減圧留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン)により精製することで、ブロモ化体(1.7g,8.3mmol,83%)を得た。この生成物及び1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン(0.84mL,4.0mmol,2.0当量)をTHF(1.5mL)に溶解させ、2時間加熱還流を行った後、減圧濃縮した。ここに、THF(2.6mL)を加え、0℃に冷却した。ノルマルブチルリチウム(1.6M,2.5mL,4.0mmol,2.0当量)を加え、20分間撹拌した。続いてトリフルオロメタンスルホン酸無水物(0.70mL,4.0mmol,2.0当量)を0℃で加え、室温に昇温し、20分間撹拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え反応をクエンチしたのち、酢酸エチルで有機層を抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させたのち、減圧下で溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン)により精製し、ベンザイン前駆体2(0.26g,0.80mmol,40%)を無色透明油状物質として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。
1H-NMR(300MHz,CDCl3):δ=7.03(d,J=7.5Hz,1H),6.91(d,J=7.5Hz,1H),2.33(s,3H),1.97(s,3H),0.42(s,9H)
【0098】
【0099】
<スルホニウム塩類の合成>
参考例1:スルホニウム含有化合物1の合成
2-ヨードトルエン(2.2g,10mmol)のトルエン(15mL)溶液に、二硫化炭素(0.76g,10mmol)、ヨウ化銅(I)(0.19g,1.0mmol)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU,3.0g,10mmol)を加え、100℃で12時間加熱した。精製水を加えて反応をクエンチしたのち、酢酸エチルで有機層を抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させたのち、減圧下で溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン)で精製したのち、メタノール溶液から再結晶を行い、ビス-(o-トリル)スルフィド(1.9g,8.8mmol,88%)を白色固体として得た。フッ化セシウム(0.23g,1.5mmol)をフラスコに入れ、真空引きをしてヒートガンで約5分間加熱して含有水分を除去した。アルゴンガスで置換後、上記で合成したビス-(o-トリル)スルフィド(0.11g,0.50mmol)と乾燥アセトニトリル(5.0mL)を加えた後、0℃でベンザイン前駆体2(0.49g,1.5mmol,3.0当量)をゆっくり滴下し、室温で24時間撹拌した。反応後溶液をろ過後、減圧下で溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;塩化メチレン/メタノール=20/1〔体積比〕)で精製し、スルホニウム含有化合物1(0.085g,0.18mmol,36.1%)を橙色粉末として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。スペクトルデータを以下に示す。
1H-NMR(300MHz,CDCl3):δ=7.73(dt,J=7.6Hz,1.1Hz,2H),7.60(d,J=7.7Hz,2H),7.47(m,4H),7.12(d,J=9.1,2H),6.81(s,1H),2.57(s,6H),2.52(s,3H),2.36(s,3H)
【0100】
【0101】
実施例1:スルホニウム含有化合物2の合成
ビス-(o-トリル)スルフィド(0.22g,1.0mmol)を塩化メチレン(10mL)に溶解させ、m-クロロ過安息香酸を(0.19g,1.1mmol,1.1当量) を0℃で加え、室温に昇温し12時間撹拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え反応をクエンチしたのち、塩化メチレンで有機層を抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させたのち、減圧下で溶媒を留去した。シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン/酢酸エチル=4/1〔体積比〕)により精製後、ヘキサン/酢酸エチルからの再結晶により、ビス-(o-トリル)スルホキシド(0.20g,0.86mmol,86%)を白色固体として得た。参考例1と同様の手順でビス-(o-トリル)スルホキシド(0.12g,0.50mmol)、ベンザイン前駆体2(0.49g,1.5mmol,3.0当量)、フッ化セシウム(0.23g,1.5mmol)、アセトニトリル(5.0mL)を反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、スルホニウム含有化合物2(0.17g,0.29mmol,57%)を橙色粉末として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。スペクトルデータを以下に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=7.76-7.72(m,1H),7.62(m,3H),7.55(d,J=7.6Hz,1H),7.41(d,J=7.9Hz,1H),7.15-7.10(m,1H),6.86-6.80(m,3H),6.55(d,J=7.6Hz,1H),5.28(s,1H),2.69(s,3H),2.54(s,3H),2.39(s,3H),2.08(s,3H),1.92(s,6H)
【0102】
【0103】
実施例2:スルホニウム含有化合物3の合成
参考例1と同様の手順で、2,5-ジメチル-1-ヨードベンゼン(2.3g,10mmol)、二硫化炭素(0.76g,10mmol)、ヨウ化銅(I)(0.19g,1.0mmol)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU,3.0g,20mmol)をトルエン(15mL)中反応させ、シリカゲルクロマトグラフィーと再結晶で精製し、ビス-(2,5-ジメチルフェニル)スルフィド(0.93g,3.8mmol,75%)を白色固体として得た。実施例1と同様の手順で、ビス-(2,5-ジメチルフェニル)スルフィド(0.24g,1.0mmol)とm-クロロ過安息香酸(0.19g,1.1mmol,1.1当量)を塩化メチレン(10mL)中反応させ、シリカゲルクロマトグラフィーと再結晶で精製し、ビス-(2,5-ジメチルフェニル)スルホキシド(0.22g,0.86mmol,86%)を白色固体として得た。更に参考例1と同様の手順で、ビス-(2.5-ジメチルフェニル)スルホキシド(0.13 g,0.50mmol)、ベンザイン前駆体2(0.49g,1.5mmol,3.0当量)、フッ化セシウム(0.23g,1.5mmol)、アセトニトリル(5.0mL)を反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、スルホニウム含有化合物3(0.16g,0.26mmol,53%)を淡い橙色粉末として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。スペクトルデータを以下に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=7.66(d,J=7.9Hz,1H),7.57(d,J=7.8Hz,1H),7.48-7.44(m,3H),7.11(d,J=7.9Hz,1H),6.88(dd,J=21.5,7.8Hz,2H),6.58(d,J=7.6Hz,1H),6.53(s,1H),5.22(s,1H),2.78(s,3H),2.48(d,J=8.4Hz,6H),2.39(s,3H),2.11(s,3H),1.92(d,J=7.7Hz,6H),1.82(s,3H)
【0104】
【0105】
参考例2:スルホニウム含有化合物4の合成
参考例1と同様の手順で、ビス-(2,4,6-トリメチルフェニル)スルホキシド(0.14g,0.50mmol)、ベンザイン前駆体1(0.48g,1.5mmol,3.0当量)、フッ化セシウム(0.23g,1.5mmol)、アセトニトリル(5.0mL)を反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、スルホニウム含有化合物4(0.25g,0.43mmol,86%)を橙色油状液体として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。スペクトルデータを以下に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=7.74-7.69(m,1H),7.46-7.36(m,3H),7.31-7.27(m,2H),7.18(s,4H),7.04(dd,J=8.4,1.0Hz,1H),6.95(dd,J=8.6,1.0Hz,2H)
【0106】
【0107】
比較例1:スルホニウム含有化合物5の合成
参考例1と同様の手順で、ビス-(o-トリル)スルフィド(0.11g,0.50mmol)、ベンザイン前駆体1(0.48g,1.5mmol,3.0当量)、フッ化セシウム(0.23g,1.5mmol)、アセトニトリル(5.0mL)を反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、スルホニウム含有化合物5(0.19g,0.43mmol,86%)を黄色固体として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。スペクトルデータを以下に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=7.84―7.73(m,5H),7.68(td,J=7.6,1.1Hz,2H),7.55(d,J=7.7Hz,2H),7.52-7.48(m,2H),7.02(dd,J=8.1,1.0Hz,2H),2.59(s,6H)
【0108】
【0109】
実施例3:スルホニウム含有化合物6の合成
真空下でマグネシウム(20mmol,0.49g)をヒートガンで20分間加熱したのち、Ar雰囲気下で2,4,6-トリメチルブロモベンゼン(20mmol,4.0g,3.0mL)のTHF(20mL)溶液を滴下したのち、3時間加熱還流を行った。これを室温に冷却したのち、0℃の塩化チオニル(10mmol,1.2g,0.72mL)のTHF(20mL)溶液に滴下し、室温で終夜撹拌した。水を加えたのち、酢酸エチルで有機層を抽出し、硫酸マグネシウムにより乾燥して溶媒を減圧留去した。シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン/酢酸エチル=4/1[体積比])により精製後、ヘキサン/ジクロロメタン混合溶媒で再結晶を行い、ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)スルホキシド(4.6mmol,1.3g,収率46%)を無色透明な結晶として得た。参考例1と同様の手順でビス(2,4,6-トリメチルフェニル)スルホキシド(0.51mmol,0.15g)、ベンザイン前駆体2(1.5mmol,0.49g)、フッ化セシウム(1.5mmol,0.23g)、アセトニトリル(5.0mL)、THF(5.0mL)を反応させ、シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒;ジクロロメタン/メタノール=19/1[体積比])で精製し、スルホニウム含有化合物6(0.48mmol,0.31g,収率96%)を黄色結晶として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。
【化28】
【0110】
実施例4:スルホニウム含有化合物7の合成
Ar雰囲気下でビス(2,5-ジメチルフェニル)スルホキシド(0.49mmol,0.13g)にメシチレン(0.50mmol,0.061g,0.070mL)、ジクロロメタン(5.0mL)を加えた。-78℃に冷却したのち、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(0.50mmol,0.14g,0.082mL)を滴下し、室温で1時間撹拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、ジクロロメタンで有機層を抽出し、硫酸マグネシウムにより乾燥したのち、溶媒を減圧留去した。その後、シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒;ジクロロメタン/メタノール=19/1[体積比])で精製し、目的物スルホニウム含有化合物7(0.42mmol,0.22g,収率86%)を褐色固体として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。
【化29】
【0111】
実施例5:スルホニウム含有ポリマー1の合成
真空下でマグネシウム(20mmol,0.49g)をヒートガンで20分間加熱したのち、Ar雰囲気下で2-ブロモ-5-フルオロ-1,3-ジメチルベンゼン(20mmol,4.1g)のTHF(20mL)溶液を滴下したのち、3時間加熱還流を行った。その後、0℃で塩化チオニル(10mmol,1.2g,0.72mL)のTHF(20mL)溶液を滴下したのち、室温で終夜撹拌した。水を加えたのち、酢酸エチルで有機層を抽出し、硫酸マグネシウムにより乾燥して溶媒を減圧留去した。シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン/酢酸エチル=4/1[体積比])で精製したのち、ヘキサン/ジクロロメタン混合溶媒で再結晶を行い、ビス(4-フルオロ-2,6-ジメチルフェニル)スルホキシド(7.5mmol,2.2g,収率75%)を無色透明な結晶として得た。
Ar雰囲気下でビス(4-フルオロ-2,6-ジメチルフェニル)スルホキシド(2.0 mmol,0.59g)にビスフェノールA(2.0mmol,0.45g)、炭酸カリウム(2.8mmol,0.39g)、N-メチルピロリドン(4.0mL)を加え、180℃で7時間撹拌した。反応溶液を室温に冷却したのち、N-メチルピロリドン(13mL)を加え、過剰量の水による再沈殿を2回行った。析出した固体を真空下50℃で6時間乾燥させ、スルホキシド含有ポリマー1(0.64g,収率66%)を薄桃色粉末として得た。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、数平均分子量は4200、重量平均分子量は46200であった。
真空下でフッ化セシウム(1.8mmol,0.27g)を5分間加熱したのち、Ar雰囲気下でスルホキシド含有ポリマー1(0.072g)と、アセトニトリル(1.0mL)、THF(9.0mL)を加えた。0℃でベンザイン前駆体2(1.8mmol,0.59g)を滴下したのち、室温で48時間撹拌した。不溶物を吸引ろ過により除去し、クロロホルムで洗浄したのち、溶媒を減圧留去した。残渣にクロロホルム(2.0mL)を加え、過剰量の酢酸エチルへの滴下による再沈殿を行った。析出した固体を過剰量の脱イオン水で洗浄したのち、真空下50℃で6時間乾燥させ、スルホニウム含有ポリマー1(0.073g,収率58%)を橙色粉末として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。
【化30】
【0112】
実施例6:スルホニウム含有ポリマー2(ランダム共重合体)の合成
Ar雰囲気下で、2,2’-ビピリジン(3.0mmol,0.47g)に1,5-シクロオクタジエン(3.0mmol,0.32g,0.36mL)、Ni(cod)2(3.0mmol,0.84g)、THF(6.0mL)を加え、30分間加熱還流した。ここに、ビス(4-ブロモ-2,5-ジメチルフェニル)スルフィド(0.60mmol,0.24g)と2,7-ジブロモ-9,9-ジ-n-オクチルフルオレン(0.60mmol,0.33g)のTHF(6.0mL)溶液を滴下し、72時間加熱還流した。30wt%塩酸(2.1mL)を加えた過剰量のメタノールに、反応溶液を滴下し、析出した固体をメタノールで洗浄したのち、真空下、30℃で乾燥してスルフィド含有ポリマー1(ランダム共重合体)(0.53g,収率88%)を白色粉末として得た。
Ar雰囲気下で、スルフィド含有ポリマー1(0.25g)にジクロロメタン(5.0mL)を加えたのち、0℃でm-クロロ過安息香酸(0.40mmol,0.099g)を加え、室温に昇温し、終夜撹拌した。反応溶液から溶媒を減圧留去したのち、クロロホルム(3.0mL)を加え、過剰量のメタノールに滴下した。析出した固体をメタノールで洗浄したのち、真空下30℃で乾燥し、スルホキシド含有ポリマー2(ランダム共重合体)(0.26g,収率99%)を黄色粉末として得た。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、数平均分子量は10500、重量平均分子量は62200であった。
【0113】
スルホキシド含有ポリマー2(ランダム共重合体)(0.15g)にメシチレン(0.35mmol,0.042g,0.049mL)、ジクロロメタン(7.0mL)を加え、―78℃に冷却し、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(0.35mmol,0.098g,0.057mL)を滴下し、室温に昇温したのち、終夜撹拌した。飽和した炭酸水素ナトリウム/メタノール溶液を滴下後、溶媒を減圧留去した。メタノール(3.0mL)を加え、過剰量の脱イオン水に滴下し、析出した固体を脱イオン水で洗浄したのち、真空下50℃で乾燥し、スルホニウム含有ポリマー2(ランダム共重合体)(0.16g、収率76%)をベージュ色の粉末として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。
【化31】
【0114】
実施例7:スルホニウム含有ポリマー2(交互共重合体)の合成
Ar雰囲気下で、ビス(4-ブロモ-2,5-ジメチルフェニル)スルフィド(0.20mmol,0.80g)、2,7-ビス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-9,9-ジオクチルフルオレン(0.20mmol,0.13g)、炭酸カリウム(1.0mmol,0.14g)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.021mmol,0.025g)にTHF(10mL)、脱イオン水(2.5mL)を加え、48時間加熱還流を行った。溶媒を減圧留去したのち、クロロホルム(1.5mL)を加え、30wt%塩酸(0.70mL)を加えた過剰量のメタノールに滴下した。析出した固体をメタノールで洗浄したのち、真空下、30℃で乾燥してスルフィド含有ポリマー1(交互共重合体)(0.16g,収率60%)を淡い黄色粉末として得た。
【0115】
Ar雰囲気下で、スルフィド含有ポリマー1(交互共重合体)(0.077g)にジクロロメタン(4.0mL)を加えたのち、0℃でm-クロロ過安息香酸(0.12mmol,0.030g)を加え、室温に昇温し、終夜撹拌した。反応溶液から溶媒を減圧留去したのち、クロロホルム(1.0mL)を加え、過剰量の飽和炭酸水素ナトリウム/メタノール溶液に滴下した。析出した固体をメタノールで洗浄したのち、真空下30℃で乾燥し、スルホキシド含有ポリマー2(交互共重合体)(0.075g,収率95%)を黄色粉末として得た。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、数平均分子量は6200、重量平均分子量は17700であった。
【0116】
スルホキシド含有ポリマー2(交互共重合体)(0.031g)にメシチレン(0.47mmol,0.056g,0.065mL)、ジクロロメタン(3.0mL)を加え、―78℃に冷却し、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(0.47mmol,0.13g,0.077mL)を滴下し、室温に昇温したのち、終夜撹拌した。飽和した炭酸水素ナトリウム/メタノール溶液を滴下後、溶媒を減圧留去した。メタノール(1.0mL)を加え、過剰量の脱イオン水に滴下し、析出した固体を脱イオン水で洗浄したのち、真空下50℃で乾燥し、スルホニウム含有ポリマー2(交互共重合体)(0.041g、収率97%)を橙色の粉末として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。
【化32】
【0117】
(化学的安定性の評価)
<スルホニウム含有化合物の化学的安定性評価(イオン交換基の安定性)>
スルホニウム含有化合物中のイオン交換基の塩基に対する化学的安定性を、
1H-NMR分光測定をもとに以下の方法によって評価した。水酸化カリウムを重メタノール溶媒に溶解した。水酸化カリウム溶液は1Mの濃度のものを調製した。各スルホニウム含有化合物を上記の水酸化カリウム溶液に溶解させ、サンプル溶液を調製した。また、内部標準物質である1,4-ジオキサンを添加した。各スルホニウム含有化合物溶液を入れたNMRチューブを室温で
1H-NMR測定を行った。次に、各スルホニウム含有化合物溶液をオイルバス中80℃で加熱し、所定の時間を経過した後
1H-NMR測定を行った。各サンプルの残存率を下記式により算出し、分解挙動を追跡した。
残存率={(加熱後のスルホニウム含有化合物のピーク面積)/(1,4-ジオキサンのピーク面積)}/{(加熱前のスルホニウム含有化合物のピーク面積)/(1,4-ジオキサンのピーク面積)}×100(%)
結果を下記表1、表2、
図1、及び、
図2に示す。表2、
図2では、より長時間後(7日後)の残存率評価を示している。
【0118】
【0119】
【0120】
表1、表2、
図1、及び、
図2の結果より、オルト位の置換基数が3~6個である、実施例1~4、参考例1、2のスルホニウム含有化合物は、48時間後の残存率が39~100%であり、優れていた。また、実施例2~4はいずれも7日後の残存率が82%以上であり、特に優れていた。一方、オルト位の置換基数が2個である比較例1のスルホニウム含有化合物は、48時間後の残存率が0%であった。
カチオン中心(S)に近いオルト位の置換基数が少なくとも3個以上であれば、アルカリ性条件下でも水酸化物イオンがカチオン中心(S)と反応することを主に立体障害により充分に防止でき、カチオン構造の分解を充分に防止して耐久性(特に、アルカリ耐性)がより向上すると考えられる。また、メタ位、パラ位の置換基が増加すると、さらなる立体効果や電子的効果が得られることで、より耐久性が増すと考えられる。このような作用効果は、カチオン中心(S)周辺が同様に嵩高いものであれば他の化合物・ポリマーであっても同様に発揮されると考えられる。
なお、本実施例(参考例)・比較例のスルホニウム含有化合物は、イオン交換基の分子量が比較的小さいことから、イオン交換容量が大きく、優れたアニオン伝導性を実現できる。
【0121】
(アニオン交換膜の作成・物性評価)
<アニオン交換膜の成膜>
膜はドロップキャスト法で作成した。スルホニウム含有ポリマー1(28mg)に0.20mLのDMAcを加え溶解させた。この溶液を10cm×10cmのガラス基板に滴下し、オーブンで60℃,24時間常圧下で加熱後、24時間真空乾燥した。その後、ガラス基板から膜を剥がし、1M NaOH溶液に24時間室温で浸漬させ、脱イオン水で洗浄後、各種測定を行った。他のスルホニウム含有ポリマーも同様の方法で成膜、評価した。
【0122】
<熱安定性評価>
アニオン交換膜の熱安定性を熱重量測定(TGA)によって測定した。40~800℃の温度範囲で測定を行い、熱分解温度(Td:5重量%熱分解温度)を求めた。Tdを表3に示す。
【0123】
<含水率(Water Uptake:WU)>
脱イオン水に24時間浸漬させペーパータオルで表面の水気をとり、湿潤重量(Mw)を測定した。その後、60℃で24時間真空乾燥を行い、乾燥重量(Md)を測定した。含水率(WU)は以下の式にそれぞれ測定したMwとMdを代入することで算出した。結果を表3に示す。
WU(%)=(Mw-Md)/Md×100%
Md:乾燥重量 Mw:湿潤重量
【0124】
<イオン交換容量(Ion Exchange Capacity:IEC)測定>
イオン交換容量とはアニオン交換膜の取り込める対アニオンの量を示し、通常は取り込んだヒドロキシイオンについて測定される。IECが高いほど相対的に膜抵抗は低くなり、燃料電池、水電解槽などのデバイスにおいて高い発電効率が期待される。
IECは次のように測定した。アニオン交換膜を1M水酸化ナトリウム水溶液に室温で48時間浸漬し、軽くペーパータオルで水気を取った後0.025M HCl溶液に24時間浸漬させた。指示薬としてフェノールフタレイン溶液を数滴加え、0.025M水酸化ナトリウム水溶液で滴定を行った。IECを、下記式を用いて算出した。
IEC[mmol/g]=(VHCl×CHCl-VNaOH×CNaOH)/M
VHCl:塩酸の体積 CHCl:塩酸の濃度 VNaOH:水酸化ナトリウムの体積 CNaOH:水酸化ナトリウムの濃度 M:試料の重量
算出したイオン交換容量の数値を表3に示す。
【0125】
【表3】
上記の結果から、本発明の実施例の膜は、優れた安定性を持つと同時に充分なアニオン伝導性を達成することができる。