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特開2023-131151水質評価用匂いセンサ素子、水質評価用匂いセンサおよび水質評価装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131151
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】水質評価用匂いセンサ素子、水質評価用匂いセンサおよび水質評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/04 20060101AFI20230913BHJP
   G01N 27/12 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
G01N27/04 F
G01N27/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035020
(22)【出願日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2022035552
(32)【優先日】2022-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】石田 智信
(72)【発明者】
【氏名】下元 佑也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智大
(72)【発明者】
【氏名】金澤 岳
(72)【発明者】
【氏名】篠原 修一
【テーマコード(参考)】
2G046
2G060
【Fターム(参考)】
2G046AA22
2G046AA23
2G046AA24
2G046AA25
2G046AA26
2G046BA01
2G046BB02
2G046BG07
2G046DC18
2G046FA01
2G046FC07
2G060AA01
2G060AB26
2G060AF08
2G060AG03
2G060BB08
2G060BC03
2G060JA01
2G060KA01
(57)【要約】
【課題】廃水などの発する対象気体に対するより適切な感度および安定性を示す水質評価用匂いセンサ素子を提供する。
【解決手段】第1金属配線(313A)と、前記第1金属配線(313A)とは離間している第2金属配線(313B)と、前記第1金属配線(313A)の少なくとも一部と前記第2金属配線(313B)の少なくとも一部とに接する匂い物質受容層(315)とを備えた食品状態評価用匂いセンサ素子(31)において、匂い物質受容層(315)に、ポリウレタン樹脂、界面活性剤および導電性炭素材料を含む樹脂組成物を含める。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属配線と、
前記第1金属配線とは離間している第2金属配線と、
前記第1金属配線の少なくとも一部と前記第2金属配線の少なくとも一部とに接しており、ポリウレタン樹脂(A)、界面活性剤(B)および導電性炭素材料(C)を含む樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層と、
を備える水質評価用匂いセンサ素子。
【請求項2】
前記界面活性剤(B)は8~18のHLB値を有する請求項1に記載の水質評価用匂いセンサ素子。
【請求項3】
前記ポリウレタン樹脂(A)と前記界面活性剤(B)との重量比[(A)/(B)]が1.0~4.0である請求項1に記載の水質評価用匂いセンサ素子。
【請求項4】
前記導電性炭素材料(C)の含有量が、前記ポリウレタン樹脂(A)、前記界面活性剤(B)および前記導電性炭素材料(C)の合計100重量%に対し、5~75重量%である請求項1に記載の水質評価用匂いセンサ素子。
【請求項5】
前記ポリウレタン樹脂(A)は、芳香族ポリイソシアネートを含む、請求項1に記載の水質評価用匂いセンサ素子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の少なくとも1つの水質評価用匂いセンサ素子と、
前記水質評価用匂いセンサ素子に給電するための電源と、
前記電源から給電された水質評価用匂いセンサ素子の前記匂い物質受容層の電気伝導性を示す測定値を出力する測定機器と、
を備える水質評価用匂いセンサ。
【請求項7】
前記電源は、前記少なくとも1つの水質評価用匂いセンサ素子に対して、定電流を供給するかまたは定電圧を印加する、請求項6に記載の水質評価用匂いセンサ。
【請求項8】
請求項6に記載の水質評価用匂いセンサ、および推定装置を備える水質評価装置であって、
前記推定装置は、
前記測定機器から前記測定値を取得する取得部と、
前記少なくとも1つの水質評価用匂いセンサ素子の電気伝導性の経時的な変化を解析する解析部と、
推定モデルに基づいて評価対象水から発せられた対象気体に対する評価結果を推定する推定部と、を備え、
前記推定モデルは、複数種類の前記対象気体それぞれに関して得られた、前記少なくとも1つの水質評価用匂いセンサ素子に当該対象気体を触れさせた場合の前記解析部による解析結果と、当該対象気体の識別情報との組み合わせを含む学習用データを用いた機械学習によって生成されたものである、
水質評価装置。
【請求項9】
請求項8に記載の水質評価装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、前記取得部、前記解析部、および前記推定部としてコンピュータを機能させるための制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水や浄水用原水などの水質を評価するための、水質評価用匂いセンサ素子、水質評価用匂いセンサおよび水質評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理技術の発達により、人間の五感のうち機械的な測定が十分に達成できていない嗅覚を何らかの方法で数値化することができれば、幅広い産業分野で利用可能であることが期待される。例えば、医療分野では介護・介助、未病予防診断や疾病検査など、環境分野では工場などでの臭気管理、バイオガス利用の分野での発酵工程管理や排水処理の管理など、安全分野では土砂崩れや水害などの予兆検知、エンジンオイルや機械動作油の劣化検知などが可能になる。また、食品分野では植物や肉などの食材の熟成状態検知、例えば酒類などの発酵食品の工程管理、植物の栽培管理や食品の生産・保管・流通過程での品質管理など、マーケティング分野では香粧品、体臭、香り環境、商材の香りのプロデュースなどに利用可能である。これまでに、特定の気体物質(ガス)を検出する方法は半導体ガスセンサなどによって高精度・高感度の測定が実現されている。様々な匂いに対して異なる応答特性を有するセンサが報告されており、センサが含む受容体の組成についても検討がされている。
【0003】
特許文献1に記載の発明は、半導体ガスセンサの半導体を導電性高分子に置き換えて導電性高分子表面への匂い成分の吸着を検出する仕組みを提案している。特許文献1では、熱分解しやすい匂い成分およびセンサの検出部表面で酸化還元反応を生じない物質の検出が可能になることを報告している。
【0004】
また、特許文献2においては、有機ポリマーと導電性物質の混合物の電気抵抗が有機ガスに曝露されることで変化する性質に着目している。特許文献2では、上記混合物のうち有機ポリマーの組成が異なる有機ポリマー/導電性物質の組み合わせを複数調製し、これらを電気抵抗アレイとしてセンサに用いると、同一の有機ガスに曝露された際の電気抵抗変化がそれぞれ異なることが記載されている。これを利用して、電気抵抗変化のパターンと匂い(すなわち、有機ガスの混合物)の種類を帰属することによって匂いを識別できることが特許文献2では報告されている。
【0005】
さらに、特許文献3において、上記の有機ポリマーに対して可塑剤を添加することでセンサの応答速度が向上することが報告されている。
【0006】
一方、廃水や浄水用原水などの発する臭気(匂い)を測定しようとする技術が知られている。
【0007】
特許文献4および5には、廃水の臭気強度を計測し、計測結果に基づいて廃水処理に対するフィードバック制御を行う技術が開示されている。また、特許文献6には、臭気物質の吸着による共振周波数もしくは電気抵抗の変化により臭気物質の濃度を測定する匂いセンサを用い、臭気物質濃度が基準値を超えた場合に浄水用原水の取水を停止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11-23508号公報
【特許文献2】特表平11-503231号公報
【特許文献3】特表2002-519633号公報
【特許文献4】特開2010-155189号公報
【特許文献5】特許第4922214号公報
【特許文献6】特開平10-296235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
廃水や浄水用原水などの発する匂いを測定するセンサは、必然的に水分を含む環境に曝されることとなる。そのような環境では、センサの劣化が進行し、測定結果の信頼性を維持することが困難となっている。
【0010】
本発明の一態様は、匂いに対してより適切な感度および安定性を示す水質評価用匂いセンサ素子、水質評価用匂いセンサおよび水質評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明の一態様に係る水質評価用匂いセンサ素子、水質評価用匂いセンサおよび水質評価装置は、第1金属配線と、前記第1金属配線とは離間している第2金属配線と、前記第1金属配線の少なくとも一部と前記第2金属配線の少なくとも一部とに接しており、ポリウレタン樹脂(A)、界面活性剤(B)および導電性炭素材料(C)を含む樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層とを備える水質評価用匂いセンサ素子、それを用いた水質評価用匂いセンサおよび水質評価装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、より適切な感度および安定性を示す水質評価用匂いセンサ素子、水質評価用匂いセンサおよび水質評価装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る匂いセンサの構成の一例を示す概略図である。
図2】センサ素子の構成の一例を示す上面図である。
図3図2に示すセンサ素子の構成の一例を示す断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る匂い測定装置の構成の一例を示す概略図である。
図5】匂い測定装置の構成の一例を示す機能ブロック図である。
図6】推定装置が推定モデルを生成する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図7】匂い測定装置の構成の一例を示す機能ブロック図である。
図8】推定装置が匂い物質を推定する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意図する。
【0016】
〔1.樹脂組成物〕
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、匂い物質受容層を形成するための樹脂組成物であって、ポリウレタン樹脂(A)、界面活性剤(B)および導電性炭素材料(C)を含む。
【0017】
本明細書中、「匂い物質」とは、広義において匂い物質受容層に吸着可能な物質を意味する。従って、一般的に匂いの原因物質とされていない物質も含まれる。「匂い」には原因となる匂い物質が複数含まれることが多く、また、匂い物質として認知されていない物質または未知の匂い物質も存在する。本発明の一実施形態は、匂い物質受容層への匂い物質の吸着量が匂い物質の種類によって異なることに着目するものである。
【0018】
なお、本明細書中、単に「匂い物質」と記載した場合であっても、個々の匂い物質ではなく、複数の匂い物質が含まれ得る「匂い物質の集合体」を意味する場合がある。
【0019】
「匂い物質」としては特に限定されないが、例えばヘキサン、酢酸エチル、メタノール、炭酸ジエチル、トルエン、d-リモネン、ボルナン-2-オン、シス-3-ヘキセノール、β-フェニルエチルアルコール、シトラール、L-カルボン、γ-ウンデカラクトン、オイゲノール、リナリルアセテート、メントール、ベンズアルデヒド、バニリン、ヘキサナール、エタノール、吉草酸ペンチル、リナロール、2-プロパノール等が挙げられる。
【0020】
また、本明細書中、「匂い物質受容層」とは、識別対象となる匂い物質を吸着する層を意味する。匂い物質受容層は上述の樹脂組成物から形成される。匂い物質受容層は、後述のセンサ素子の一部として設けられ得る。
【0021】
引用文献1に記載のセンサでは、単体の化合物からなる匂いの検出は可能であると考えられる。一方で多くの匂いは複数の物質の混合物である。引用文献1に記載のセンサでは検出部に匂いの成分を識別させる機能がないため、混合物に対する匂い識別性能が十分でない。引用文献2では検出部に用いる導電性を示す高分子の化学構造の違いを利用して、それぞれの導電性高分子を介して検出部が示す種々の化合物に対する応答に違いを持たせることで混合物としての匂いを認識させることができることが示されている。しかしながら、導電性を示す高分子の化学構造は限られており、任意の匂い成分に対する検出部の応答を感度良く分離することが難しく、類似の成分からなる匂い同士を識別させることは難しい。引用文献3では有機ポリマーと可塑剤と導電性物質からなる混合物を検出材料として検出部に用いて匂い成分が有機ポリマー中に浸透することを上記混合物の電気抵抗変化として検出する方法を提案している。異なる組成の有機ポリマーを用いれば浸透する匂い成分が異なることを利用して異なる組成の有機ポリマーを含む上記の検出材料からなる検出部を複数並列して用いるアレイにすることで、混合物としての匂いを認識させることができる。しかしながら、上記の有機ポリマーおよび可塑剤を含有する有機ポリマーでは、有機ポリマー/導電性物質の組み合わせを複数用意したとしても、有機ポリマー同士の化学的な性質の差が小さいため、匂いの識別性能は十分でない。これらの従来技術では例えば、複数の物質が相互作用する現実の匂いパターンまたは組成が不明である物質による現実の匂いパターンを的確に検知できない。
【0022】
本発明者らは、上述した樹脂組成物に吸着した匂い物質の量に応じて樹脂組成物の電気伝導性が異なること、および、上述の樹脂組成物への吸着過程は匂い物質毎に異なっていることに着目し、本発明の一実施形態に係る樹脂組成物およびセンサ素子等を発明するに至った。そして、このような樹脂組成物を用いることにより、匂いの識別性能を向上させることができる。例えば、複数の物質が相互作用する現実の匂いパターンまたは組成が不明である物質による現実の匂いパターンをも識別することができる。
【0023】
<ポリウレタン樹脂(A)>
ポリウレタン樹脂(A)としては、例えば、ポリオール(x)に由来する部分とポリイソシアネート(y)に由来する部分からなる重合体、すなわち、ポリオール(x)とポリイソシアネート(y)とを重合させてなる重合体などを挙げることができる。
【0024】
ポリウレタン樹脂(A)は、1種類のポリウレタン樹脂からなるものであってもよく、2種類以上のポリウレタン樹脂の混合物であってもよい。
【0025】
前記ポリオール(x)としては、例えば、ポリオキシアルキレンジオール(x1)およびポリエステルジオール(x2)からなる群から1種以上選択されるポリオールを挙げることができる。
【0026】
前記ポリオール(x)は、1種類のポリオールからなるものであってもよく、2種類以上のポリオール(x)の混合物であってもよい。
【0027】
前記ポリオキシアルキレンジオール(x1)は、炭素数が2~4のオキシアルキレン基を有するポリエステルジオールであることが好ましく、ポリオキシエチレンジオール、ポリオキシプロピレンジオール、プロピレンオキサイド-エチレンオキサイド共重合ジオール(ランダムおよび/またはブロック共重合体)およびポリテトラメチレンエーテルグリコールからなる群から1種以上選択されることがより好ましい。
【0028】
前記ポリオキシアルキレンジオール(x1)の数平均分子量は、500~20,000であることが好ましく,1,000~15,000であることがより好ましく,2,000~10,000であることが更に好ましい。なお、前記数平均分子量は後述の方法にて測定され得る。
【0029】
前記ポリエステルジオール(x2)としては、例えば、炭素数2~10の脂肪族ジオールおよび芳香族ジオールからなる群から1種以上選択されるジオールと、炭素数2~10の脂肪族ジカルボン酸および炭素数8~12の芳香族ジカルボン酸からなる群から1種以上選択されるジカルボン酸との縮合により得られるポリエステルジオール等を挙げることができる。
【0030】
前記炭素数2~10の脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレンジオール、プロピレンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,7-ヘプタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオールおよび1,10-デカンジオールなどを挙げることができる。
【0031】
前記芳香族ジオールとしては、例えば、1,4-ベンゼンジメタノールおよび1,4-ベンゼンジエタノールなどを挙げることができる。
【0032】
前記炭素数2~10の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸およびフマル酸などを挙げることができる。
【0033】
また、前記炭素数2~10の脂肪族ジカルボン酸は、環構造を有していてもよい。前述の環構造を有し、かつ、炭素数2~10である脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、1,1-シクロプロパンジカルボン酸、1,1-シクロブタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸およびビシクロ[2.2.2]オクタン-1,4-ジカルボン酸などを挙げることができる。
【0034】
前記炭素数8~12の芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸などを挙げることができる。
【0035】
前記ポリエステルジオール(x2)の数平均分子量は、1,000~20,000であることが好ましく、1,500~15,000であることがより好ましく、2,000~10,000であることが更に好ましい。なお、前記数平均分子量は後述の方法にて測定され得る。
【0036】
前記ポリイソシアネート(y)としては、例えば、炭素数8~16の芳香族ポリイソシアネート、炭素数5~12の鎖状脂肪族ポリイソシアネート、炭素数9~15の脂環式ポリイソシアネートなどを挙げることができる。これらのポリイソシアネートは、2~3個またはそれ以上のイソシアネート基を有してよい。
【0037】
前記ポリイソシアネート(y)は、1種類のポリイソシアネートからなるものであってもよく、2種類以上のポリイソシアネートの混合物であってもよい。
【0038】
前記炭素数8~16の芳香族ポリイソシアネートとしては、2,6-トリレンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、粗製トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、粗製ジフェニルメタンジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、4,4’-ジイソシアナト-3,3’-ジメチルビフェニルおよび1,5-ジイソシアナトナフタレンなどを挙げることができる。例えば、測定対象が汚水からの匂いを測定する場合、芳香族ポリイソシアネートを用いて構成されたポリウレタン樹脂(A)を用いてもよい。
【0039】
前記炭素数5~12の鎖状脂肪族ポリイソシアネートとしては、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートおよびトリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(2,2,4-および2,4,4-の混合物)などを挙げることができる。
【0040】
前記炭素数9~15の脂環式ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンおよびノルボルナンジイソシアネートなどを挙げることができる。
【0041】
前記ポリウレタン樹脂(A)において、数平均分子量を元に計算したポリオール(x)のモル数とポリイソシアネート(y)のモル数とのモル比(ポリオール(x)/ポリイソシアネート(y))は、1.0~1.1であることが好ましく、1.0~1.05であることがより好ましい。
【0042】
前記ポリウレタン樹脂(A)の数平均分子量は,好ましくは10,000~300,000であり、より好ましくは15,000~250,000であり、更に好ましくは20,000~200,000である。なお、前記数平均分子量は後述の方法にて測定され得る。
【0043】
<数平均分子量の測定条件>
本明細書において、数平均分子量は、特に限定されないが、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、以下の条件で測定され得る。なお、GPCに供する試料としては、例えば、ポリウレタン樹脂(A)、ポリオキシアルキレンジオール(x1)およびポリエステルジオール(x2)等の測定対象を適当な溶媒に溶解させた後、得られた溶液をグラスフィルターにて濾過して得られる濾液を用いることができる。ポリウレタン樹脂(A)を溶解させる溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)が挙げられる。ポリオキシアルキレンジオール(x1)を溶解させる溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)が挙げられる。ポリエステルジオール(x2)を溶解させる溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)が挙げられる。
【0044】
装置(一例) :東ソー(株)製 HLC-8120
カラム(一例):Guardcolumn α〔東ソー(株)製〕とTSK GEL α-M〔東ソー(株)製〕とを各1本連結したもの、TSK GEL GMH6 2本 〔東ソー(株)製〕、または、TSK GEL SuperH3000〔東ソー(株)製〕とTSK GEL SuperH4000〔東ソー(株)製〕とを各1本連結したもの
測定温度 :40℃
試料溶液 :0.25重量%の溶液
溶液注入量 :100μl
検出装置 :屈折率検出器
また、該数平均分子量を算出するための検量線は、基準物質として、異なる数平均分子量(500、1050、2800、5970、9100、18100、37900、96400、190000、355000、1090000、または2890000)を有する12種類の標準ポリスチレン(TSKstandard POLYSTYRENE、東ソー(株)製)のそれぞれを用いて得られた12個の数平均分子量の測定値に基づき、最小二乗法を用いて作成することができる。
【0045】
前記ポリエステルジオール(x2)は、例えば、公知の製造方法によって得ることができる。具体的には,撹拌装置、温度制御装置、窒素導入管付きの反応容器に、ポリオール、ポリカルボン酸および重合触媒を投入し、所定の温度にて、窒素気流下にて、生成する水を留去しながら、当該ポリオールと当該ポリカルボン酸とを4時間反応させた後、さらに5~20mmHgの減圧下にて1時間反応させることによって、ポリエステルジオール(x2)を得る方法を挙げることができる。前記重合触媒としては、例えば、テトライソプロポキシチタンなどを挙げることができる。前記所定の温度は、特に限定されないが、例えば、200℃で有り得る。
【0046】
前記ポリウレタン樹脂(A)は、例えば、公知の製造方法によって得ることができる。具体的には、以下の(1)~(3)に示す工程を含む方法を挙げることができる。
【0047】
(1)冷却管、撹拌機および窒素導入管の付いた反応槽中に、構成単量体としてのポリオール(x)およびポリイソシアネート(y)、並びに、必要に応じて反応溶媒および反応触媒を導入し、常圧かつ窒素雰囲気下にて、所定の温度、例えば、約65℃にて、所定の時間、例えば、10時間撹拌して、当該ポリオール(x)と当該ポリイソシアネート(y)とを反応させる工程。ここで、前記ポリオール(x)は、ポリオキシアルキレンジオール(x1)及び/又はポリエステルジオール(x2)を含有し得る。
【0048】
(2)工程(1)の後、前記反応槽の内部に、反応停止剤、さらに必要に応じて鎖伸長剤を滴下し、さらに1時間撹拌を続ける工程。
【0049】
(3)工程(2)の後、前記反応槽内から、所望の濃度に希釈されたポリウレタン樹脂(A)を得る工程。
【0050】
前記反応溶媒としては,一般的に用いられる非プロトン性溶媒であれば特に限定なく用いることができる。前記反応溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)等を使用することができる。
【0051】
前記反応触媒としては、一般的にウレタン反応において用いられる触媒を用いることができる。前記反応触媒としては、例えば、アミン触媒(トリエチルアミン,N-エチルモルホリン、トリエチレンジアミン(DABCO)等)、スズ触媒(ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、オクチル酸スズ等)、チタン触媒(テトラブチルチタネート等)を用いることができる。前記反応触媒の使用量は、得られるポリウレタン樹脂(A)の重量に対して0.1重量%以下である。
【0052】
前記反応温度は、ウレタン化反応において通常実施可能な温度が適当であり、例えば、20~140℃であり得、反応時間を好適な範囲に制御するとの観点から、40~100℃の範囲であることは好ましい。
【0053】
ポリウレタン樹脂(A)の製造には、さらに鎖伸長剤(P)を用いてもよい。
【0054】
本発明の一実施形態に係るポリウレタン樹脂の製造に使用する鎖伸長剤(P)としては、必須成分としてのポリアミン(P1)および任意成分としてのポリオール(P2)等が挙げられる。鎖伸長剤(P)は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0055】
ポリアミン(P1)としては、炭素数2~12のジアミン(エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、トルエンジアミン及びピペラジン等)、ポリ(n=2~6)アルキレン(炭素数2~6)ポリ(n=3~7)アミン(ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、ジヘキシレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン及びヘキサエチレンヘプタミン等)及びヒドラジン又はその誘導体(二塩基酸ジヒドラジド例えばアジピン酸ジヒドラジド等)等が挙げられる。
【0056】
ポリオール(P2)としては、Mnが500未満のジオールが挙げられ、炭素数2~8の脂肪族2価アルコール[直鎖ジオール(エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール及び1,6-ヘキサンジオール等)及び分岐アルキル鎖を有するジオール(1,2-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,2-、1,3-又は2,3-ブタンジオール等)等];炭素数6~10の脂環基含有2価アルコール[1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン及び2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン等];炭素数8~20の芳香環含有2価アルコール[m-又はp-キシリレングリコール、ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン、ビス(ヒドロキシエトキシ)ベンゼン];ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールS及びビスフェノールF等)の炭素数2~12のアルキレンオキサイド(以下「AO」と略記)付加物、ジヒドロキシナフタレンのAO付加物及びビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート等]等が挙げられる。Mnが500未満のジオールは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0057】
ポリウレタン樹脂(A)の製造にはポリウレタン樹脂の分子量を調整する目的で反応停止剤(Q)を使用してもよい。
【0058】
反応停止剤(Q)としては、炭素数1~10のモノアルコール(メタノール、プロパノール、ブタノール及び2-エチルヘキサノール等)及び炭素数2~8のモノアミン[炭素数2~8のモノ又はジアルキルアミン(n-ブチルアミン及びジ-n-ブチルアミン等)、炭素数2~6のモノ又はジアルカノールアミン(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びプロパノールアミン等)]等が挙げられる。これらの内で好ましいのは炭素数2~6のモノ又はジアルカノールアミンである。反応停止剤(Q)は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0059】
<界面活性剤(B)>
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、以下で説明するような界面活性剤(B)を含んでいてもよい。界面活性剤(B)は、後述する導電性炭素材料(C)の分散剤としての作用を呈する。界面活性剤(B)は、上記の作用を発現する範囲において、公知の界面活性剤から適宜に選ぶことが可能である。
【0060】
界面活性剤(B)は、特に制限はないが、8~18のHLB値を有していることが好ましく、更に好ましくは9~17であり、特に好ましくは10~16である。このようなHLB値の界面活性剤(B)を用いることによって、良好な匂い識別性能が得られる。
【0061】
ここでの「HLB値」とは、親水性と親油性のバランスを示す指標であって、例えば「界面活性剤入門」〔2007年三洋化成工業株式会社発行、藤本武彦著〕212頁に記載されている小田法による計算値として知られているものであり、グリフィン法による計算値ではない。
【0062】
HLB値は有機化合物の有機性の値と無機性の値との比率から計算することができる。
【0063】
HLB=10×無機性/有機性
ここで、上式中の無機性および有機性の値は藤田らによって提案された有機性と無機性を表現する指標値を表しており、前記「界面活性剤入門」213頁に記載の表の値を用いて算出できる。
【0064】
界面活性剤(B)としては、例えばアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0065】
アニオン性界面活性剤としては、炭素数10~24のカルボン酸のアルカリ金属塩および炭素数14~24のアルキルスルホン酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0066】
前記炭素数10~24のカルボン酸としては、例えば、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ペンタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、トリコサン酸およびテトラコサン酸等が挙げられる。
【0067】
前記炭素数14~24のアルキルスルホン酸が有するアルキル基としては、例えば、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基およびテトラコシル基等が挙げられる。
【0068】
前記アルカリ金属塩が含むアルカリ金属としては、例えば、ナトリウムおよびカリウム等が挙げられる。
【0069】
カチオン性界面活性剤としては、炭素数12~24のアルキル基を有する第4級アンモニウムのハロゲン化物塩等が挙げられる。
【0070】
前記炭素数12~24のアルキル基を有する第4級アンモニウムとしては、例えばテトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、ジメチルジオクチルアンモニウム、ジデシルジメチルアンモニウム、デシルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム、トリデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、メチルトリオクチルアンモニウム、オクチルトリメチルアンモニウム、トリブチルメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、ノナデシルトリメチルアンモニウム、イコシルトリメチルアンモニウム、ヘンイコシルトリメチルアンモニウム、ヘプタデシルトリメチルアンモニウムおよびペンタデシルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0071】
前記ハロゲン化物塩としては、例えばフッ化物塩、塩化物塩、臭化物塩およびヨウ化物塩等が挙げられる。
【0072】
両性界面活性剤としては、例えば、炭素数10~22のアルキル基を有するジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウム分子内塩、炭素数10~22のアルキル基を有するN-アルキル-N,N-ジメチルグリシン等が挙げられる。
【0073】
炭素数10~22のアルキル基を有するジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩としては、例えばデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ウンデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ドデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、トリデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、テトラデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ペンタデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ヘキサデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ヘプタデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、オクタデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ノナデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、イコシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ヘンイコシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩およびドコシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩等が挙げられる。
【0074】
炭素数10~22のアルキル基を有するN-アルキル-N,N-ジメチルグリシンとしては、N-ドデシル-N,N-ジメチルグリシンおよびN-オクタデシル-N,N-ジメチルグリシン等が挙げられる。
【0075】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、高級アルコールエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0076】
高級アルコールとしては、1-ヘキシルアルコール、1-ヘプチルアルコール、1-オクチルアルコール、1-ノニルアルコール、1-デシルアルコール、1-ウンデシルアルコール、1-ドデシルアルコール、1-トリデシルアルコール、1-テトラデシルアルコール、1-ペンタデシルアルコール、1-ヘキサデシルアルコール、1-ヘプタデシルアルコール、1-オクタデシルアルコール等が挙げられる。
【0077】
エチレンオキサイド付加モル数は、匂い識別性能の観点から5~50が好ましく、より好ましくは5~40が好ましく、さらに好ましくは5~30である。
【0078】
前記ポリウレタン樹脂(A)と前記界面活性剤(B)との重量比[(A)/(B)]は、匂い識別性能の観点により、好ましくは1.0~4.0であり、更に好ましくは1.0~2.3であり、最も好ましくは1.0~1.5である。
【0079】
前記ポリウレタン樹脂(A)と前記界面活性剤(B)とは相溶していても相溶していなくても良い。
【0080】
界面活性剤(B)は、導電性炭素材料(C)に対する分散性の観点から、ノニオン性界面活性剤であることが好ましい。また、界面活性剤(B)は、導電性炭素材料(C)に対する分散性の観点から、アミド基、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基のうち少なくとも1つを有することが好ましい。また、界面活性剤(B)は、導電性炭素材料(C)に対する分散性の観点から、オキシエチレン鎖、オキシプロピレン鎖、および、オキシエチレン・オキシプロピレンのランダム構造もしくはブロック構造、の少なくとも1つを有することが好ましい。なお、オキシエチレン・オキシプロピレンのランダム構造は、オキシエチレンとオキシプロピレンとの両方が不規則に連結してなる鎖状構造である。また、オキシエチレン・オキシプロピレンのブロック構造は、オキシエチレンが連結してなるオキシエチレンブロックと、オキシプロピレンが連結してなるオキシプロピレンブロックとが連結してなる鎖状構造である。
【0081】
<導電性炭素材料(C)>
本明細書において、導電性炭素材料(C)とは、体積固有抵抗が0.1Ω・cm以下の炭素材料のことである。上述の樹脂組成物は、ポリウレタン樹脂(A)と界面活性剤(B)との混合物中に導電性炭素材料(C)が分散している状態である。導電性炭素材料(C)同士が互いに接触して導電経路を形成することで樹脂組成物が導電性を有する。
【0082】
導電性炭素材料(C)としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブおよびグラフェン等が挙げられる。
【0083】
カーボンブラックの市販品としては、ケッチェンブラックEC(オランダ・アクゾ社製商品名)、ケッチェンブラックEC-300J(ライオンスペシャリティケミカルズ(株)製商品名)、ケッチェンブラックEC-600JD(ライオンスペシャリティケミカルズ(株)製商品名)、シーストG116、116(東海カーボン社製商品名)、ニテロン#10(新日鉄化学(株)社製商品名)、デンカブラック(電気化学工業(株)社製商品名)およびSUPER C-65(米国・MTI Corporation社製品名)等がある。
【0084】
カーボンナノチューブの市販品としては、VGCF-H(昭和電工(株)社製諸品名)等がある。
【0085】
グラフェンの市販品としては、シグマアルドリッチ社製がある。
【0086】
前記導電性炭素材料(C)の形状は、好ましくは繊維状または球状である。
【0087】
繊維状である場合、繊維径は好ましくは0.1~10μmであり、更に好ましくは0.1~5μmである。繊維長は好ましくは0.1~10μmであり、更に好ましくは1~10μmである。
【0088】
球状である場合、1次粒子径が好ましくは10nm~200nmであり、更に好ましくは20nm~150nmである。
【0089】
また、導電性炭素材料は、樹脂組成物中での導電性及びセンサ感度の観点から、一次粒子径が100nm以下であることが好ましい。導電性炭素材料の粒子径は、公知の方法で求めることが可能である。例えば導電性炭素材料の粒子径は透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、画像処理装置(例えばキーエンス製のデジタルマイクロスコープVHX-700F)を用いて画像解析することにより測定することができる。導電性炭素材料が公知の物または市販品である場合には、粒子径は、文献値またはカタログ値であってもよい。
【0090】
導電性炭素材料(C)の含有量は、測定時間を短く保ち、また、測定誤差を小さく保つことにより良好な正解率が得られるという観点から、ポリウレタン樹脂(A)、界面活性剤(B)および導電性炭素材料(C)の合計100重量%に対し、好ましくは25~75重量%であり、更に好ましくは30~65重量%であり、最も好ましくは35~55重量%である。あるいは、匂い物質を受容する感度の観点から、導電性炭素材料(C)の含有量は、ポリウレタン樹脂(A)、界面活性剤(B)および導電性炭素材料(C)の合計100重量%に対し、5~30重量%であってもよく、5~20重量%であってもよく、5~10重量%であってもよい。
【0091】
樹脂組成物は、本発明の効果が得られる範囲において、前述したポリウレタン樹脂(A)、界面活性剤(B)および導電性炭素材料(C)以外の他の成分をさらに含有していてもよい。他の成分の例には、溶媒(D)が含まれる。当該他の成分は、本発明の効果および当該他の成分による効果の両方が得られる範囲で好適に使用され得る。
【0092】
溶媒(D)は、ポリウレタン樹脂(A)と界面活性剤(B)との相溶性を高める観点、樹脂組成物中における導電性炭素材料(C)の分散性を高める観点、または樹脂組成物の塗布性を高める観点から樹脂組成物に配合することが可能である。溶媒(D)の例には、N-メチル-2-ピロリドン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酪酸エチル、酪酸ブチル、酢酸エチル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、トルエンおよびキシレンが含まれる。
【0093】
樹脂組成物における溶媒(D)の含有量は、上記の観点の観点から適宜に決定し得る。たとえば、樹脂組成物における溶媒(D)の含有量は、塗工性の観点から、ポリウレタン樹脂(A)、界面活性剤(B)および導電性炭素材料(C)の合計100重量部に対して、100~10000重量部であることが好ましい。
【0094】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物の製造方法の具体的な一例を示せば、下記の通りである。
【0095】
前記樹脂組成物は、ポリウレタン樹脂(A)、界面活性剤(B)、導電性炭素材料(C)および必要に応じて溶媒(D)を混合して、撹拌機で均一に混練することでスラリーとして得られる。溶媒(D)を添加する場合では、溶媒(D)は樹脂組成物から留去される。溶媒(D)は、均一に混合して生成した樹脂組成物から留去してもよいし、後述のセンサ素子の製造時に生成した塗膜から留去してもよい。
【0096】
前記溶媒(D)としては、乾燥によって除去できる媒体であれば特に限定されないが、好ましくはN-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、酢酸エチレン、水、トルエンおよびキシレン等が挙げられる。
【0097】
〔2.センサ素子31〕
上述した樹脂組成物は、樹脂組成物に匂い物質Aが吸着した場合と、匂い物質Aとは異なる匂い物質Bが吸着した場合とで、電気伝導性の経時的な変化が異なる。この性質を利用すれば、匂い物質を検出・識別可能なセンサ素子31を実現することができる。
【0098】
以下では、本発明の一実施形態に係る樹脂組成物を適用したセンサ素子31の概要および効果について説明する。
【0099】
センサ素子31は、上述の樹脂組成物を含む匂い物質受容層315、第1金属配線313A、および第2金属配線313Bを備えている。なお、以下では、第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bを区別しない場合、金属配線313と記す場合がある。
【0100】
ここで、第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bについて、図2および図3を用いて説明する。図2は、センサ素子31の構成の一例を示す上面図であり、図3は、図2に示すセンサ素子31の構成の一例を示す断面図である。
【0101】
第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bは、匂い物質受容層315(すなわち、樹脂組成物)の電気伝導性の変化を計測するための電極として機能する金属配線である。すなわち、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとは互いに離間しており、匂い物質受容層315は、第1金属配線の少なくとも一部と第2金属配線の少なくとも一部とに接している。一例において、第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bは、互いに直接接していない金属配線であり、図2に示すように、互いに略平行な金属配線であってもよい。
【0102】
図2に示すように第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bを含む金属配線313は、基板311上に配置されていてもよい。基板311は、電子回路に一般的に用いられるガラスエポキシ等の基板であり得る。金属配線313は、銅、または金等の金属配線であり得る。基板の面に対して垂直な方向から見た第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bそれぞれの太さは10μm~2mmが好ましく、更に好ましくは10μm~1mmである。基板の面に対して平行な方向から見た第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bそれぞれの高さ、すなわち厚さは1μm~100μmが好ましく、更に好ましくは10μm~50μmである。第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bの間隔は1μm~3mmが好ましく、更に好ましくは1μm~1.5mmである。金属配線313の長さは100μm~50mmが好ましく、更に好ましくは500μm~30mmである。
【0103】
金属配線313はシール基板312上に配置されていてもよい。図3は、図2のA-A断面を示している。図3に示すようにガラスエポキシ等の基板311上にシール基板312を配置し、そのシール基板312上に金属配線313が配置されていてもよい。基板311上にシール基板312を固定するためにビニールテープ314を用いていてもよい。また、ビニールテープ314は、金属配線313の余分な部分をマスクすることにより、金属配線313の露出部分の長さを調整するためにも用いられ得る。ここで、金属配線313の露出部分とは、金属配線313と匂い物質受容層315とが接する部分である。ビニールテープ314は、金属配線313と匂い物質受容層315とが接する部分の長さを調節するための絶縁体でもあり得る。
【0104】
匂い物質受容層315は、第1金属配線313Aの少なくとも一部と第2金属配線313Bの少なくとも一部とに接していてもよい。匂い物質受容層315は、例えば、図2および図3に示すように、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとに挟まれた領域を埋めるように配されていてもよい。
【0105】
匂い物質受容層315は、第1金属配線313Aの少なくとも一部と第2金属配線313Bの少なくとも一部とに接していてもよい。匂い物質受容層315は、例えば、図2および図3に示すように、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとに挟まれた領域を埋めるように配されていてもよい。
【0106】
匂い物質受容層315の電気伝導性(すなわち、センサ素子31の電気伝導性)が低い場合、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとの間隔は所定の距離(例えば、500μm)以下であることが望ましい。
【0107】
センサ素子31は、匂い物質Aが吸着した場合と、匂い物質Aとは異なる匂い物質Bが吸着した場合とで、電気伝導性の経時的な変化が異なる樹脂組成物を適用することにより、さまざまな匂い物質を検出したり、識別したりすることが可能である。なお、後述する匂いセンサ30では、匂い物質を検出するための構成(金属配線313および匂い物質受容層315)が設けられた基板311を備えるセンサ素子31が複数配設されていてもよい。それぞれの基板311には、同じ組成の匂い物質受容層315を含む複数のセットが配設されていてもよい。複数のセンサ素子31が配設される場合、センサ素子31ごとに定電圧電源および電圧計を備える。匂いセンサ30において、各基板311上に匂い物質を検出するための構成(金属配線313および匂い物質受容層315)が1つ配設されていてもよい。あるいは、匂いセンサ30において、1つの基板311上に匂い物質を検出するための構成(金属配線313および匂い物質受容層315)のセットが複数配設されていてもよい。後者の場合、基板311上に設けられるセットの各々に定電圧電源および電圧計が接続される。
【0108】
匂いセンサ30が備える複数の匂い物質受容層315それぞれの組成は、同じであってもよいし異なっていてもよい。匂いセンサ30が同じ組成の匂い物質受容層315を含む場合、複数の匂い物質受容層315それぞれにおいて同じ匂い物質を検出することができる。また、匂いセンサ30がそれぞれ異なる組成の匂い物質受容層315を含む場合、複数の匂い物質受容層315のそれぞれは、匂い物質に対して異なる応答をする。このように、匂い物質を検出するための構成のセットを複数備えることで、匂いセンサ30における匂い物質の識別精度を向上させることができる。
【0109】
〔3.匂いセンサ30〕
以下では、センサ素子31を適用した匂いセンサ30の概要および効果について、図4を用いて説明する。図4は、センサ素子31を適用した匂いセンサ30の構成の一例を示すブロック図である。なお、図1に示すセンサ素子31において、ビニールテープ314は簡略化のためにその図示を省略している。
【0110】
匂いセンサ30は、匂い物質を検出するセンサ素子31、定電圧電源32(電源)、および電圧計33(測定機器)を備えている。
【0111】
センサ素子31の第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとはリード線Wで接続されている。図4には、リード線Wに定電圧電源32および電圧計33が配された例を示している。
【0112】
定電圧電源32は、センサ素子31に給電するための電源である。定電流源32は、センサ素子31にリード線を介して定電圧を供給する。定電圧電源32が供給する電圧値は、0.5V~10Vであり、例えば2.5Vまたは5.0Vである。
【0113】
電圧計33は、定電圧電源32から供給された定電圧を匂い物質受容層315に供給した場合に、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとの間に生じる電位差を測定する。
【0114】
なお、匂いセンサ30は、匂い物質測定用の回路において、電圧計33の前段にアンプ(不図示)を備えており、当該アンプは取得した信号を増幅し電圧計33に供給する。
【0115】
また、匂いセンサ30は、匂い物質測定用の回路のほかにリファレンス回路を備えており、電圧計33は、匂い物質測定用の回路において取得された値とリファレンス回路において取得された値との差(電位差)を電圧値として取得する。
【0116】
匂いセンサ30は、必須の構成ではないが、筐体34をさらに備えていてもよい。筐体34は、匂い物質を含む空気を内包可能な容器である。筐体34を備えている場合、センサ素子31は筐体34内に設置される。
【0117】
筐体34は、匂い物質を導入するための導入口341および匂い物質を含む空気を排出するための排出口342を備えている。匂い物質の導入は、導入口341から匂い物質を浸漬したろ紙等を筐体34内に挿入することによって行われてもよいし、匂い物質を含む空気を導入口341から筐体34内に挿入することによって行われてもよい。筐体34は、匂い物質を所定の濃度(例えば、200ppm)以上含む空気を内包するための容器である。
【0118】
筐体34の排出口342には、必須では無いが、気流生成用ファン35が配されていてもよい。気流生成用ファン35は、筐体34内に気流を生じさせたり、筐体34内の気体を排出口342から筐体34外へ排出させたりするためのものである。
【0119】
なお、匂いセンサ30は、定電圧電源32の代替として不図示の定電流源(電源)、電圧計33の代替として不図示の電流計(測定機器)を備えていてもよい。この場合、定電流源は、センサ素子31に給電するための電源として機能し、センサ素子31にリード線を介して定電流を印加する。一方、電流計は、匂い物質受容層315に定電圧が印加された場合に、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとの間を流れる電流値を測定する。第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bはいずれも電極として機能し得る。以下、金属配線313が電極として機能する場合には、「電極313」と記載する場合もある。
【0120】
匂いセンサ30は、センサ素子31に匂い物質が吸着する前後における、該センサ素子31の電気伝導性の経時的な変化を示す測定値を出力する。これにより、さまざまな匂い物質を検出したり、識別したりすることが可能である。
【0121】
〔4.匂い測定装置100〕
上述した匂いセンサ30は、センサ素子31にさまざまな匂い物質が吸着した場合、該センサ素子31の電気伝導性の経時的な変化を匂い物質毎に出力することができる。この匂いセンサ30を適用すれば、匂い物質Aがセンサ素子31に吸着した場合の該センサ素子31の電気伝導性の経時的な変化と、匂い物質Bがセンサ素子31に吸着した場合の該センサ素子31の電気伝導性の経時的な変化と比較することができる。このような比較結果に基づいて、センサ素子31に吸着した匂い物質を推定可能な匂い測定装置100を実現することができる。
【0122】
さらに、匂い測定装置100は、機械学習によって生成した推定モデル22を用いれば、高精度な匂い物質の推定を行うことができる。推定モデル22は、複数の匂い物質のそれぞれを少なくとも1つのセンサ素子31に吸着させた場合に測定される測定値と、該測定値を与えた匂い物質に固有の識別情報との組み合わせを含む学習用データを用いて生成され得る。
【0123】
以下では、匂いセンサ30を適用した匂い測定装置100の概要および効果について説明する。匂い測定装置100は、上述した樹脂組成物を適用したセンサ素子31に生じた電気伝導性の変化から、センサ素子31に吸着した匂い物質を推定する装置である。
【0124】
本実施形態の匂い測定装置100は、複数のセンサ素子31A(以下、「センサ素子群31A」とも称する)を備えるセンサチャンバ60と、匂い物質を含む対象試料が導入され、対象試料から発生した匂い物質を含む気体が内包される対象試料受入部50とを別々に備える。本実施形態では、センサ素子群31Aに含まれる個々のセンサ素子31を単に「センサ素子31」と記す。
【0125】
本実施形態の匂い測定装置100は、対象試料受入部50の内部の、匂い物質を含む気体を別の気体(キャリアガス)を用いてセンサチャンバ60の方へ押し出す構成を採用している。本実施形態において、対象試料受入部50内に対象試料が導入された場合の該対象試料受入部50内の気体(すなわち、検出対象の匂い物質を含む気体)を第1気体と称す。一方、第1気体をセンサチャンバ60の方へ押し出すためのキャリアガスのことを第2気体と称す。
【0126】
図1は、匂い測定装置100の概略図である。図1に示すように、匂い測定装置100は、匂いセンサ30、対象試料受入部50、センサチャンバ60、気体供給部80、および推定装置10を備える。また、匂い測定装置100は、調節部51をさらに備えてもよい。また、匂い測定装置100は、推定装置10aをさらに備えてもよい。
【0127】
図1は、一例として、気体供給部80から、対象試料受入部50、センサチャンバ60の順に気体が流れる例を示している。気体供給部80、対象試料受入部50、およびセンサチャンバ60は、それぞれ管体で接続されている。
【0128】
[対象試料受入部50]
対象試料受入部50は、匂い物質を含む対象試料を内部に受け入れて第1気体を保持可能である。対象試料受入部50は、内部に進入する第2気体が通過する第1口501と、内部から出る第1気体および第2気体が通過可能な第2口502とを備えている。図1では、第1口501は、対象試料受入部50の紙面上部に設置され、第2口502は、対象試料受入部50の紙面下部に設置される態様を示すが、これに限定されない。例えば、第1口501および第2口502の位置は、第1気体に含まれる匂い成分の種類および組み合わせなどに応じて適宜設定し得る。例えば、第1気体に含まれる匂い成分の単位体積当たりの重量(すなわち、比重)が第2気体より重い場合と、軽い場合とで、第1口501の位置および第2口502の位置を変更してもよい。また、対象試料受入部50は、図4と同じく、気流生成用ファン35を内部に備えていてもよい。
【0129】
対象試料受入部50は、液体または固体の対象試料を受け入れるための試料導入口503を備える。対象試料受入部50は、対象試料を設置するための設置部(不図示)を備えていてもよい。対象試料が液体である場合、設置部は、液体を保持するためのコップであってもよいし、対象試料が固体である場合、設置部は、固体が静置されるシャーレであってもよい。対象試料受入部50には、対象試料が試料導入口503から第1気体として気体状態で導入されてもよい。このように、対象試料受入部50が、液体または固体の対象試料を受け入れ可能であることにより、第1気体中の匂い物質の濃度を調節することが可能である。例えば、同一の匂い物質であっても、第1気体中の匂い物質の濃度の高低を調節することが容易である。
【0130】
対象試料受入部50の内側面には、匂い物質に対して不活性な素材が配されていてよい。匂い物質に対して不活性な素材は、センサチャンバ60に送り出される気体に含まれる匂い物質の各々の濃度を大きく変化させない素材である。例えば、匂い物質に対して不活性な素材は、匂い物質が吸着したり、溶け込んだりしにくい素材である。匂い物質に対して不活性な素材としては、例えば、ガラス、金属、樹脂が挙げられる。金属を採用する場合、ステンレス鋼(SUS)が好ましく、樹脂を採用する場合、フッ素系樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
【0131】
対象試料受入部50の内側面が第1気体に含まれる匂い物質を吸着する素材である場合、各部に匂い物質が吸着して、後の測定に影響を及ぼす虞がある。
【0132】
このように対象試料受入部50の内側面が匂い物質に対して不活性な素材であることにより、内側面の素材と、第1気体に含まれる匂い物質とが反応する、または内側面に匂い物質が吸着するなどの虞が低減される。従って、センサチャンバ60に供給された第1気体に含まれる匂い物質が、対象試料受入部50に内包されている間に変化する、または匂い物質の濃度が薄まるなどの虞が低減する。
【0133】
匂い測定装置100は、対象試料が液体または固体であっても、対象試料受入部50を備えることにより、第1気体をセンサチャンバ60に送り込む前に対象試料受入部50内で第1気体の濃度を均一にすることができる。また、匂い測定装置100は、対象試料受入部50を備えることにより、第1気体をセンサチャンバ60へ一定の流量で押し出すことができる。これにより、匂い測定装置100は、測定を繰り返し行う場合であっても、毎回同じ条件でセンサチャンバ60へ第1気体を送ることができるため、繰り返し安定した測定を行うことができる。
【0134】
対象試料受入部50内の容積は、センサチャンバ60内の容積の1倍以上200倍以下であることが好ましい。特に、対象試料受入部50内の容積は、センサチャンバ60内の容積よりも大きいことが好ましい。対象試料受入部50内の容積は、センサチャンバ60内の容積の2倍以上がより好ましく、4倍以上であることがさらに好ましい。また、対象試料受入部50内の容積は、センサチャンバ60内の容積の100倍以下であることが好ましく、60倍以下であることがさらに好ましい。対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積に対して1倍以上の大きさであることにより、センサチャンバ60における匂い物質の濃度が適切に調整され、センサチャンバ60が備えるセンサによる測定結果が安定して出力される。また、対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積に対して200倍以下であることにより、対象試料受入部50内の温湿度調整がしやすくなるため、センサによる測定結果が安定して出力されると共に、匂い測定装置100のサイズをコンパクトに収めることができる。
【0135】
対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積の1倍未満である場合は、対象試料受入部50で発生した匂い物質がセンサチャンバ60内で希釈され、センサにおける測定感度が低下する虞がある。また、対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積の200倍よりも大きい場合は、対象試料受入部50の容積が大き過ぎるため、第1気体の濃度、温度、湿度の均一性が低下し、測定を繰り返し行う場合に、同じ条件でセンサチャンバ60に第1気体を送ることができない虞がある。さらに匂い測定装置100全体のサイズが大きくなる虞がある。
【0136】
図1では、一例として、対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積の8倍の例を示している。
【0137】
例えば、管体93の内側面が、第1気体に含まれる匂い物質を吸着する素材である場合、各部に匂い物質が吸着して、後の測定に影響を及ぼす虞がある。そこで、第1気体を対象試料受入部50からセンサチャンバ60へと導く管体93の内側面に、対象試料受入部50の内側面と同様に、匂い物質に対して不活性な素材が配されることが好ましい。匂い物質に対して不活性な素材としては、例えば、ガラス、金属、樹脂が挙げられる。金属を採用する場合、ステンレス鋼(SUS)が好ましく、樹脂を採用する場合、フッ素系樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
【0138】
対象試料受入部50は、管体92および管体93から着脱可能な構成であってもよい。
このように、対象試料受入部50が着脱可能であることにより、前の測定が終了し、次の測定を行う場合に、対象試料受入部50内をパージせずとも新しい対象試料受入部50を付け替えることができる。これによれば、匂い測定装置100は、複数の測定を短時間で行うことができる。
【0139】
また、対象試料受入部50が着脱可能であることにより、匂い測定装置100とは別体の保温室を用いて、対象試料を導入した対象試料受入部50を所望の温度に保持することができる。これによれば、例えば、後述する調節部51を匂い測定装置100に設けることが出来ない場合であっても、匂い測定装置100は、対象試料受入部50の温度を調節することができる。
【0140】
[調節部51]
調節部51は、対象試料受入部50内に内包されている第1気体の温度および湿度の少なくとも一方を調節する。調節部51が温度を調節する場合、調節部51は、例えば、ヒータまたは冷却器である。この場合、調節部51は、対象試料受入部50全体を覆うような構成であってもよい。また、調節部51が湿度を調節する場合、調節部51は、例えば、加湿器または除湿器である。調節部51は、第1気体の種類ごとに温度および湿度の少なくとも一方を調節してもよいし、同じ第1気体の測定中において所定時間毎に温度および湿度の少なくとも一方を変化させてもよい。
【0141】
調節部51が、対象試料受入部50内の第1気体の温度および湿度の少なくとも一方を調節することにより、匂い測定装置100は、例えば、第1気体の種類(気体の重さ、揮発性など)に応じた条件を用いてセンサチャンバ60へ第1気体を送ることができる。
また、これによれば、匂い測定装置100は、安定した濃度の第1気体をセンサチャンバ60へ送ることができ、測定の精度が向上する。
【0142】
[センサチャンバ60]
センサチャンバ60は、匂い物質を測定するためのセンサ素子31を格納する空間である。センサチャンバ60には、対象試料受入部50の第2口502と接続されている。具体的には、センサチャンバ60は、気体供給口601と、気体排出口602とを備え、対象試料受入部50の第2口502と、気体供給口601とが接続されている。
【0143】
センサチャンバ60は、第1気体に含まれる匂い物質に応じた測定結果を出力可能な複数のセンサ素子31Aを備える。複数のセンサ素子31Aは、それぞれ異なる樹脂組成物を物質受容層として備えるセンサ素子31であってよい。すなわち、複数のセンサ素子31Aは、それぞれのセンサ素子31の匂い物質に対する感度および特異性が異なっていてよい。図1のセンサチャンバ60は、一例として、センサ素子31と、センサ素子31bとを含むが、これに限定されない。また、図1のセンサチャンバ60は、センサ素子31、31bとは異なる樹脂組成物を物質受容層として備えるセンサ素子31cを備えている。センサ素子31と、センサ素子31bとは、第1気体に含まれる同じ匂い物質に応じた測定結果を出力可能であるが、それぞれが出力する測定結果は異なる。匂い物質に応じた測定結果は、例えば、匂い物質の濃度に応じた測定結果である。なお、以下の説明において特にセンサ素子31、31b、31cおよび後述するセンサ素子31dを区別しない場合、「センサ素子31」と総称する。
【0144】
センサチャンバ60には、それぞれ異なる樹脂組成物を物質受容層として備えるセンサ素子31がどのような組み合わせで、どのような配置で設置されてもよい。また、センサチャンバ60には、同じ樹脂組成物を物質受容層として備えるセンサ素子31が複数設置されていてもよい。
【0145】
ここで、センサ素子31と、センサ素子31bとは、それぞれが異なる匂い物質に応じた測定結果を出力可能なセンサ素子であってもよい。例えば、センサチャンバ60には、第1気体に含まれる匂い物質に応じた測定結果を出力可能なセンサ素子31と、第1気体に含まれる匂い物質とは異なる第2匂い物質に応じた測定結果を出力可能なセンサ素子31bとが配置されていてもよい。例えば、匂いセンサ30は、匂い物質受容層315に用いた樹脂組成物が互いに異なるセンサ素子31、31bを備えていてもよい。
【0146】
匂い物質を吸着する特性が異なる樹脂組成物を匂い物質受容層315に用いたセンサ素子31を複数備えることにより、匂い測定装置100は、複数の匂い物質についての推定を同時に実行することができる。なお、本発明の一実施形態に係るセンサ素子31に加えて、匂い物質受容層315に界面活性剤(B)を含まないセンサ素子31を併用してもよい。
【0147】
また、匂い測定装置100を用いれば、既知の匂い物質のそれぞれについて、センサ素子31の電気伝導性の変化を示す第1変化パターンと、センサ素子31bの電気伝導性の変化を示す第2変化パターンとを得ることが可能である。推定モデル22は、第1変化パターンおよび第2変化パターンの両方を用いた機械学習によって生成されてもよい。匂い測定装置100は、このように生成された推定モデル22を用いて匂い物質を推定するため、各匂い物質をより精密に識別することが可能である。
【0148】
図1のセンサチャンバ60は、一例として、4個×4列の配置で複数のセンサ素子31Aを備えている。センサ素子31Aの数、ならびにセンサ素子31Aの配列の仕方は限定されない。センサチャンバ60が備えるセンサ素子31Aの合計の数も特に限定されないが、例えば、2個、16個、64個であってよい。
【0149】
センサチャンバ60の内側面の素材は、対象試料受入部50と同様に、匂い物質に対して不活性な素材であることが好ましい。匂い物質に対して不活性な素材としては、例えば、ガラス、金属、樹脂が挙げられる。金属を採用する場合、ステンレス鋼(SUS)が好ましく、樹脂を再送する場合、フッ素系樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。センサチャンバ60の内側面の素材が、第1気体に含まれる匂い物質を吸着する素材の場合、センサチャンバに匂い物質が吸着することにより、後の測定におけるセンサ素子31からの出力の変化量が小さくなり、匂い測定装置100が正確な測定を行えない虞がある。
【0150】
[複数のセンサ素子31A(センサ素子群31A)]
複数のセンサ素子31Aは薄膜を備えてもよい。一例として、図2および図3の匂い物質受容層315が薄膜である。
【0151】
センサチャンバ60内に匂い物質を含む第1気体を送り込む態様として、例えば、センサチャンバ60の気体排出口602側に真空ポンプを設置し、真空ポンプを用いて気体を引くことにより、センサチャンバ60の気体供給口601側から匂い物質をセンサチャンバ60へ送り込む態様が考えられる。しかし、センサ素子31、31bが薄膜を備える場合、センサチャンバ60内が陰圧であると、薄膜が膨張して、センサ素子31、31bが安定した測定結果を出力できない虞がある。本実施形態に係る匂い測定装置100であれば、センサチャンバ60および対象試料受入部50の第1口501側から気体供給部80が気体を押すことによりセンサチャンバ60に第1気体を送り込むため、センサチャンバ60内の圧力は陽圧である。このため、匂い測定装置100は、複数のセンサ素子31Aが薄膜を備えていても安定した測定結果を得ることができる。
【0152】
また、複数のセンサ素子31Aの薄膜は、導電性炭素材料、樹脂組成物、および界面活性剤を含んでもよい。
【0153】
[気体供給部80]
気体供給部80は、対象試料受入部50の第1口501と接続されており、対象試料受入部50の内部へ第2気体を送ることによって、第1気体を対象試料受入部50内からセンサチャンバ60の方へ送り出す。
【0154】
気体供給部80と、対象試料受入部50との間にはバルブ81を備えていてもよい。バルブ81の開閉によって、気体供給部80からのガス供給の開始および停止を調節してもよい。
【0155】
このように、対象試料受入部50の第1口501側から気体供給部80が気体を押すことによりセンサチャンバ60に第1気体を送り込むため、センサチャンバ60内の圧力は陽圧である。このため、匂い測定装置100は、安定した測定結果を得ることができる。また、バルブ81の開閉によって、第2気体を送ることができるため、匂い測定装置100は、任意のタイミングで第1気体を対象試料受入部50内からセンサチャンバ60の方へ送り出すことができる。これによれば、匂い測定装置100は、センサ素子群31Aを用いて第1気体に含まれる匂い物質を繰り返し測定する場合、各センサ素子31が出力する波形の形の再現性を向上させることができる。
【0156】
第2気体は、不活性ガスまたは空気であってよい。不活性ガスとしては、例えば、アルゴン、窒素などが挙げられる。第2気体が不活性ガスである場合、気体供給部80はガスボンベであってよい。
【0157】
また、第2気体が空気である場合、気体供給部80はポンプであってよい。この場合、
対象試料受入部50に内包される第1気体と反応する成分を除去するために、匂い測定装置100は、対象試料受入部50の第1口501側に、一例として、活性炭フィルタを備えていてもよい。
【0158】
匂い測定装置100は、対象試料受入部50の第1口501側、さらに具体的にはバルブ81と、気体供給部80との間にマスフローコントローラをさらに備えてもよい。この構成を採用した匂い測定装置100は、対象試料受入部50からセンサチャンバ60へ一定の流量で第1気体を送ることができ、複数のセンサ素子31Aが安定して出力を行うことができる。
【0159】
なお、図1では、対象試料受入部50の内部から出た第1気体および第2気体が管体93およびセンサチャンバ60を通る構成を示したが、この構成に限定されない。匂い測定装置100の対象試料受入部50は、センサチャンバ60に対して大きい容積を持つため、測定時に対象試料受入部50の内部の第1気体の全量をセンサチャンバ60に送り出す必要はない。また、測定後に、対象試料受入部50の内部を、第2気体を用いてパージする場合、対象試料受入部50とセンサチャンバ60とが接続されている必要はない。そこで、匂い測定装置100は、管体93にバルブ(不図示)を配置して、対象試料受入部50の内部から出た第1気体および第2気体がセンサチャンバ60を通さずに排気可能な構成であってもよい。
【0160】
まず、本発明の一実施形態に係る匂い測定装置100の構成について、図1を用いて説明する。図1は、匂い測定装置100の構成の一例を示すブロック図である。
【0161】
図1に示すように、匂い測定装置100は、推定装置10、および匂いセンサ30を備えている。
【0162】
[推定装置10]
推定装置10は、匂いセンサ30によって検出された匂い物質を推定する装置である。推定装置10は、例えばコンピュータであり、不図示のCPUおよびメモリを備えている。推定装置10は、匂いセンサ30と通信可能に接続されている。具体的には、推定装置10は、匂いセンサ30から取得した計測値を解析することによって、匂い物質の推定を実行する。センサチャンバ60が、センサ素子31、センサ素子31bとは異なる樹脂組成物を物質受容層315に用いたセンサ素子31cをさらに備える場合、推定装置10は、センサ素子31cに定電圧を供給して電圧計によって測定される測定値をさらに取得し解析してもよい。また、推定装置10は、測定値そのもの、測定値をプロットした波形、および推定モデルに基づいた未知の匂い物質の推定結果を表示してもよい。また、推定装置10は、複数の匂い物質を含む気体に対して、それぞれの匂い物質の存在割合の変化を示す数値、およびグラフなどを表示してもよい。また、推定装置10は、匂い物質を推定するために用いる推定モデル22を生成してもよい。
【0163】
<推定モデル22の生成>
次に、匂い物質を推定するために用いる推定モデル22を生成する処理を行う匂い測定装置100の構成、および、推定モデル22を生成する処理について、図5および図6を用いて説明する。
【0164】
推定モデル22は、複数の匂い物質のそれぞれを少なくとも1つのセンサ素子に吸着させた場合に電圧計33によって測定される測定値と、該測定値を与えた匂い物質に固有の識別情報との組み合わせを含む学習用データを用いた機械学習によって生成される。ここで、匂い物質に固有の識別情報とは、例えば、匂い物質の名称、CAS番号、および化学式等であってもよい。
【0165】
(推定装置10の構成(推定モデル22の生成))
図5は、匂い測定装置100の構成の一例を示す機能ブロック図である。なお、説明の便宜上、図1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0166】
図5に示すように、推定装置10は、入力部15、制御部1、記憶部2を備えている。
【0167】
入力部15は、ユーザからの各種入力操作を受付けるためのものであり、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等であってもよい。
【0168】
制御部1は、測定値取得部11(取得部)、変化パターン解析部12(解析部)、学習制御部13、および推定モデル生成部14を備えている。
【0169】
測定値取得部11は、電圧計33から測定値を取得する。また測定値取得部11は、取得した測定値を用いて、センサ素子31の電気伝導性を示す値(例えば、抵抗値、およびインピーダンスなど)を算出する。測定値取得部11は、電圧計33から所定の時間間隔(例えば0.1秒間隔)で測定値を取得してもよい。
【0170】
変化パターン解析部12は、少なくとも1つのセンサ素子31の電気伝導性の経時的な変化を解析する。変化パターン解析部12は、測定値取得部11によって算出された抵抗値を用いて、匂い物質が吸着したことによるセンサ素子31の電気伝導性の変化量を示す値を算出する。変化パターン解析部12は、算出した電気伝導性の変化量の時間変化を示す変化パターンを示すデータを生成する。変化パターン解析部12は、生成した変化パターンが既知の匂い物質である場合、生成した変化パターンを該既知の匂い物質に固有の識別情報と対応付けて、変化パターンデータベース21(学習用データ)に格納してもよい。
【0171】
学習制御部13は、記憶部2から変化パターンデータベース21を読み出して、機械学習による推定モデル22の生成を制御する。ここで、変化パターンデータベース21は、複数の匂い物質をセンサ素子31に吸着させた場合に測定される測定値と、該測定値を与えた既知の匂い物質に固有の識別情報との組み合わせを含むデータベースである。学習制御部13は、変化パターンデータベース21から読み出した変化パターンを推定モデル生成部14に入力する。また、学習制御部13は、推定モデル生成部14に入力した変化パターンに対応する匂い物質の識別情報と、推定モデル生成部14から出力される推定結果とを比較し、比較結果に応じた補正指示を推定モデル生成部14に出力する。
【0172】
推定モデル生成部14は、変化パターンデータベース21に格納されている変化パターンを用いた機械学習アルゴリズムによって、推定モデル22を生成する。推定モデル生成部14は、公知の教師有り機械学習アルゴリズムを用いて推定モデル22を生成する構成であってもよい。推定モデル生成部14に適用可能な機械学習アルゴリズムとしては、例えば、k近似法(k-nearest neighbor method)、ロジスティック回帰、サポートベクトルマシン、ランダムフォレスト、およびニューラルネットワーク等が挙げられる。
【0173】
(推定モデル22を生成する処理)
以下、制御部1の各部が行う具体的な処理については、図6を用いて説明する。図6は、推定装置10が推定モデル22を生成する処理の流れの一例を示すフローチャートである。推定モデル22は、複数の匂い物質のそれぞれを少なくとも1つのセンサ素子31に吸着させた場合に電圧計33によって測定される測定値と、該測定値を与えた匂い物質に固有の識別情報との組み合わせを含む学習用データを用いた機械学習によって生成される。ここで、匂い物質に固有の識別情報とは、例えば、匂い物質の名称、CAS番号、および化学式等であってもよい。
【0174】
まず、測定値取得部11は、匂い物質を対象試料受入部50へ導入する前の匂いセンサ30において測定された電圧値V0を取得し、抵抗値R0を算出する。抵抗値R0は、好ましくは200~1000Ωであり、さらに好ましくは250~900Ωであり、最も好ましくは300~800Ωである。その後、匂い物質を対象試料受入部50に入れる(ステップS1)。
【0175】
一方、入力部15は、対象試料受入部50内に導入した、既知の匂い物質の名称等の入力を受け付ける(ステップS2)。ステップS2の処理はステップS1の前に行ってもよい。
【0176】
次に、測定値取得部11は、センサ素子31への匂い物質吸脱着前後の過程における電圧値Vの変化量(ΔV)データ(波形または経時的変化パターン)を取得する(ステップS3)。
【0177】
続いて、変化パターン解析部12は、匂い物質吸脱着前後の過程における電圧値Vの変化量(ΔV)データ(波形または経時的変化パターン)と入力された既知の匂い物質の名称とを対応付けて変化パターンデータベースに記憶する(ステップS4)。
【0178】
所定種類の既存の匂い物質について変化パターンが記憶されていない場合(ステップS5にてNO)、すなわち、機械学習に用いるデータがまだ不足している場合、ステップS1に戻る。
【0179】
所定種類の既存の匂い物質について変化パターンが記憶された場合(ステップS5にてYES)、学習制御部13は、変化パターンデータベース21に記憶されている、既知の匂い物質についての変化パターンを読み出して、推定モデル生成部14に入力する。推定モデル生成部14は、変化パターンデータベース21に格納されている経時的変化パターン(または変化パターンから抽出した特徴量)に基づき、機械学習によって推定モデル22を生成する(ステップS6)。
【0180】
推定モデル生成部14は、所定の機械学習によって生成した推定モデル22を記憶部2に格納する(ステップS7)。
【0181】
図5および図6に示す例では、推定装置10が推定モデル22を生成しているが、これに限定されない。例えば、推定装置10とは異なる外部のコンピュータであって、学習制御部13および推定モデル生成部14と同じ機能を備えるコンピュータに変化パターンデータベース21と同じデータを提供して、推定モデル22を作成させてもよい。
【0182】
<匂い物質の推定>
次に、推定モデル22を用いて匂い物質を推定する匂い測定装置100aの構成、および、推定処理について、図7および図8を用いて説明する。
【0183】
(推定装置10aの構成(推定処理の実行))
図7は、匂い測定装置100aの構成の一例を示す機能ブロック図である。なお、説明の便宜上、図1および図5にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0184】
図7に示すように、推定装置10aは、制御部1a、記憶部2a、および出力部18を備えている。ここで、図7は、図5に示す推定装置10を、匂い物質の推定処理に利用した場合の構成例を示している。すなわち、図5に示す推定装置10と図7に示す推定装置10aとは、同じハードウェア構成を備えるコンピュータであってもよい。
【0185】
出力部18は、ユーザに推定結果を提示するためのものであり、例えば、ディスプレイ、スピーカ、ランプ等であってもよい。
【0186】
制御部1aは、測定値取得部11(取得部)、変化パターン解析部12(解析部)、推定部16、および出力制御部17を備えている。
【0187】
推定部16は、推定モデル22を用いて、匂いセンサ30から取得した測定値を解析した解析結果から匂い物質を推定する。
【0188】
出力制御部17は、推定結果を出力するように出力部18を制御する。
【0189】
(推定処理)
以下、制御部1aの各部が行う具体的な処理については、図8を用いて説明する。図8は、推定装置10aが匂い物質を推定する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0190】
まず、測定値取得部11は、匂い物質を対象試料受入部50へ導入する前の匂いセンサ30において測定された電圧値V0を取得し、抵抗値R0を算出する。その後、未知の匂い物質(性状問わない)を対象試料受入部50に導入する(ステップS11)。
【0191】
次に、測定値取得部11は、センサ素子31への未知の(すなわち、推定対象の)匂い物質吸脱着前後の過程における電圧値Vの変化量(ΔV)データ(波形または経時的変化パターン)を取得する(ステップS12)。
【0192】
次に、推定部16は、推定モデル22に基づき、経時的変化パターン(または変化パターンから抽出した特徴量)から、未知の匂い物質を推定する(ステップS13)。
【0193】
出力制御部17は、出力部を制御して、推定結果を出力する(ステップS14)。
【0194】
上述の実施形態では、推定モデル22を生成する推定装置10および推定モデル22を用いて匂い物質を推定する推定装置10aについて説明した。なお、推定装置10と推定装置10aとは、別体の装置であってもよいし、1つの装置であってもよい。
【0195】
<センサ素子の製造方法>
以下、匂い測定装置100において用いられる、複数種類のセンサ素子31を製造する製造方法について説明する。センサ素子31の匂い物質受容層315は、その原料として様々な組成を有するスラリーを使用し得る。
【0196】
(スラリー調製工程)
まず、導電性炭素材料および樹脂組成物の混合比が異なる複数種類のスラリーが調製される。導電性炭素材料および樹脂組成物の混合比は、所望する匂い物質受容層315の感度および検知特異性によって適宜設定されればよい。スラリーは、導電性炭素材料および樹脂組成物以外に溶媒、添加剤、および界面活性剤を含んでいてもよい。
【0197】
(電極配置工程)
次に、基板上に電極が配置される。電極は、第1電極および第2電極を備えていてよい。第1電極および第2電極は、平行直線状、平行曲線状、櫛形状、および同心円状に配置されてもよい。また、第1電極および第2電極は、前記のどの形状が採用される場合においても、互いに線対称、または点対称で配置されていることが好ましい。さらに、第1電極および第2電極は平行直線状又は平行曲線状に配置されていることがより好ましい。第1電極および第2電極は、第1金属配線313Cが互いに垂直になるようT字状に配された2本の金属配線(313aおよび金属配線313c)によって構成され、第2金属配線313Dが互いに垂直になるようT字状に配された2本の金属配線(313cおよび金属配線313d)によって構成され、第1金属配線313Cと、第2金属配線313Dとは、金属配線313aと、金属配線313cとが向かい合うように平行線状に配置されることが好ましい。このように第1金属配線および第2金属配線が配置されることにより、匂い測定装置100は、気体に含まれる匂い物質を高精度に測定することができる。
【0198】
(領域規定工程)
続いて、電極が配置された基板上に、複数種類のスラリーのそれぞれを塗布する塗布領域が規定される。塗布領域は、例えば、レジストが配されることによって規定されてもよい。また、塗布工程において、スラリーがノズルから滴下される場合は、塗布領域は、ノズル径に合わせて規定されてもよい。レジストMは、塗布領域330を規定するように配されている。塗布領域330は、基板311がむきだしの状態である。
【0199】
塗布領域330の広さは、複数種類のスラリーのそれぞれに対して同じになるよう規定されてもよい。すなわち、導電性炭素材料および樹脂組成物の混合比がそれぞれ異なるスラリーであっても、スラリーを塗布するための塗布領域330の面積は、均一であってよい。これによれば、混合比が異なる、複数種類のスラリーを用いても、乾燥させた後の複数種類の匂い物質受容層315の面積のばらつきが少なくなる。
【0200】
塗布領域330は、一例として円状であるが、塗布領域330の形状はこれに限定されない。塗布領域330の形状は、円状、または帯状であってよい。これにより、円状、または帯状の匂い物質受容層315が形成される。
【0201】
塗布領域330の形状が円状である場合、円の直径は、0.2mm以上、5mm以下であってよく、塗布領域330の形状が帯状である場合、帯の短方向の長さが0.2mm以上、5mm以下であってよい。これにより、円の直径が0.2mm以上、5mm以下の円状の匂い物質受容層315c、また、帯の短方向の長さが0.2mm以上、5mm以下の円状の匂い物質受容層315dが形成される。
【0202】
レジストMが配される方法は特に限定されないが、規定された領域にソルダーレジストをシルク印刷し、その後ソルダーレジストをUV硬化させる方法、レジストフィルムを基板に貼付する方法、規定された領域のレジストのみを硬化し、未硬化部分を除去する方法などが挙げられる。
【0203】
(塗布工程)
続いて、複数種類のスラリーのそれぞれが塗布領域330に塗布される。スラリーが塗布される方法は、従来公知の方法を適用可能であり、ノズルから滴下されてもよく、スプレーされてもよく、スピンコートされてもよい。スラリーが塗布される方法は、特にノズルから滴下される方法が好ましく、例えば武蔵エンジニアリング株式会社製のIMAGE MASTER350PCSmartにSUS製金属ニードルノズル(内径0.1mmΦ,外形0.23mm)を使用することで、所望の塗布形状を得ることができる。
【0204】
(乾燥工程)
最後に、塗布領域330に塗布されたスラリーを乾燥させて、匂い物質受容層315が形成される。スラリーの乾燥方法としては、特に限定されないが、例えば、常圧で100℃、1時間加熱し、その後真空乾燥機内で減圧しながら100℃で1時間加熱する方法を採用することができる。
【0205】
<ソフトウェアによる実現例>
推定装置10、10aの制御ブロック(特に制御部1)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0206】
後者の場合、推定装置10、10aは、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路等を用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)等をさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0207】
〔小括〕
<1>本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、匂い物質受容層を形成するための樹脂組成物であって、ポリウレタン樹脂(A)、界面活性剤(B)および導電性炭素材料(C)を含む、樹脂組成物である。
<2>前記<1>に記載の樹脂組成物は、前記界面活性剤(B)が8~18のHLB値を有していてもよい。
<3>前記<1>または<2>に記載の樹脂組成物は、前記ポリウレタン樹脂(A)と前記界面活性剤(B)との重量比[(A)/(B)]が1.0~4.0であってもよい。
<4>前記<1>~<3>のいずれかに記載の樹脂組成物は、前記導電性炭素材料(C)の含有量が、前記ポリウレタン樹脂(A)、前記界面活性剤(B)および前記導電性炭素材料(C)の合計100重量%に対し、5~75重量%であってもよい。
<5>本発明の一実施形態に係るセンサ素子は、前記<1>~<4>のいずれかに記載の樹脂組成物を含む匂い物質受容層、第1金属配線、および第2金属配線を備えるセンサ素子であって、前記第1金属配線と前記第2金属配線とは離間しており、前記匂い物質受容層は、前記第1金属配線の少なくとも一部と前記第2金属配線の少なくとも一部とに接している、センサ素子である。
<6>本発明の一実施形態に係る匂いセンサは、前記<5>に記載の少なくとも1つのセンサ素子と、前記センサ素子に給電するための電源と、前記電源から給電されたセンサ素子の前記匂い物質受容層の電気伝導性を示す測定値を出力する測定機器と、を備える、匂いセンサである。
<7>前記<6>に記載の匂いセンサにおいて、前記電源は、前記少なくとも1つのセンサ素子に対して、定電流を供給するかまたは定電圧を印加してもよい。
<8>本発明の一実施形態に係る匂い測定装置は、前記<6>または<7>に記載の匂いセンサ、および推定装置を備える匂い測定装置であって、前記推定装置は、前記測定機器から前記測定値を取得する取得部と、前記少なくとも1つのセンサ素子の電気伝導性の経時的な変化を解析する解析部と、推定モデルに基づいて匂い物質を推定する推定部と、を備え、前記推定モデルは、複数の匂い物質のそれぞれを前記少なくとも1つのセンサ素子に吸着させた場合に前記測定機器によって測定される測定値と、該測定値を与えた匂い物質に固有の識別情報との組み合わせを含む学習用データを用いた機械学習によって生成される、匂い測定装置である。
<9>本発明の一実施形態に係る制御プログラムは、前記<8>に記載の匂い測定装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、前記取得部、前記解析部、および前記推定部としてコンピュータを機能させるための制御プログラムである。
【0208】
〔5.水質評価用匂いセンサおよび水質評価装置としての実施形態〕
以下では、上述した匂いセンサ素子、匂いセンサおよび匂い測定装置を、水質評価用匂いセンサ素子、水質評価用匂いセンサおよび水質評価装置として活用する実施形態について説明する。
【0209】
本実施形態における水質評価の対象としては、工場からの廃水や、ダムにおける貯水、浄水場が取水する浄水用原水などが想定されるが、これらに限らず、有害物質や微生物、汚泥などの不純物を含み得ることに起因して匂いを発し得る様々な水が該当する。例えば、化学工場、パルプ工場、澱粉工場、染料工場、およびし尿処理工場などからの廃水、飲食店などからの廃水も、本実施形態における水質評価の対象となり得る。
【0210】
水質評価による評価結果としては、例えば、臭い/臭くはないの区別のほか、種々のものが考えられる(これら評価結果の例示は、後述する「識別情報」に関する説明を参照)。
【0211】
本実施形態では、上述した実施形態を応用し、n個の匂いセンサ素子を用い、それぞれを水質評価用匂いセンサ素子として機能させる。これら水質評価用匂いセンサ素子の数nは、例えば、人間の感じる匂いの感応評価の代替用途などでは2個以上が好ましいが、一種類の匂い物質を検知する用途などでは1個であってもよい。また、水質評価用匂いセンサ素子の数nは、コストや装置のサイズ等の観点から256個以下でよく、好ましくは128個以下、より好ましくは64個である。水質評価用匂いセンサ素子の数nは1個や2個であってもよい。これらn個の水質評価用匂いセンサ素子では、匂い物質受容層315における樹脂組成物、特に界面活性剤の種類が互いに異なっていることが好ましい。
【0212】
なお、匂い物質受容層315は水質評価用匂いセンサ素子の「感応膜」ということもできる。また、水質評価用匂いセンサ素子は、水質評価用匂いセンサにおけるプローブの機能を有しているということもできる。
【0213】
n個の水質評価用匂いセンサ素子を用いる水質評価装置では、それぞれの水質評価用匂いセンサ素子の電気伝導性の変化を示す変化パターンを、第1~第n変化パターンとして用い、推定モデル22を生成すればよい。
【0214】
推定モデル22を生成するためには、他の何らかの手法により評価済みのサンプル気体に関し、1組の第1~第n変化パターンと、当該サンプル気体に関する評価結果を示す識別情報との組み合わせを含む学習データを用いての機械学習を行えばよい。
【0215】
この識別情報は、水質評価装置による評価目的に応じて設定すればよい。この識別情報としては、例えば以下に例示する情報が考えられる。
(1)臭い/臭くはないの区別情報。
(2)臭さの程度を示す定量的情報。
(3)サンプル気体に含まれる複数の匂い物質それぞれの構成比率を特定する情報。匂い物質の組み合わせとしては、例えばチオール、アルデヒド、高級脂肪酸、アンモニア、硫化水素、メチルカプタン、硫化メチル、二硫化メチルなどの群から選択することができる。なお、匂い物質の種類は一種であってもよい。また、複数種であっても、その構成比率まで特定することなく、各匂い物質が一定量以上存在するかしないかを示す情報であってもよい。
【0216】
なお、識別情報は、複数種類の情報の組み合わせであってもよい。例えば、上記(1)と(3)との組み合わせとすれば、水質評価装置は、「臭い」または「臭くはない」といった感覚的な情報とともに、対象とする匂い物質それぞれの構成比率を特定する情報、例えば「チオール、アルデヒド、高級脂肪酸、アンモニア、硫化水素、メチルカプタン、硫化メチル、二硫化メチルの構成比率はA:B:C:D:E:F:G:H」といった情報を評価結果として出力することができるようになる。
【0217】
以上のとおり、本実施形態の水質評価用匂いセンサ素子は、第1金属配線と、前記第1金属配線とは離間している第2金属配線と、前記第1金属配線の少なくとも一部と前記第2金属配線の少なくとも一部とに接しており、ポリウレタン樹脂(A)、界面活性剤(B)および導電性炭素材料(C)を含む樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層とを備える水質評価用匂いセンサ素子である。
【0218】
また、本実施形態の水質評価用匂いセンサは、少なくとも1つの前記水質評価用匂いセンサ素子と、前記水質評価用匂いセンサ素子に給電するための電源と、前記電源から給電された水質評価用匂いセンサ素子の前記匂い物質受容層の電気伝導性を示す測定値を出力する測定機器とを備える水質評価用匂いセンサである。
【0219】
また、本実施形態の水質評価装置は、前記水質評価用匂いセンサ、および推定装置を備える水質評価装置であって、前記推定装置は、前記測定機器から前記測定値を取得する取得部と、前記少なくとも1つの水質評価用匂いセンサ素子の電気伝導性の経時的な変化を解析する解析部と、推定モデルに基づいて評価対象水から発せられた対象気体に対する評価を推定する推定部と、を備え、前記推定モデルは、複数種類の前記対象気体それぞれに関して得られた、前記少なくとも1つの水質評価用匂いセンサ素子に当該対象気体を触れさせた場合の前記解析部による解析結果と、当該対象気体の識別情報との組み合わせを含む学習用データを用いた機械学習によって生成されたものである。
【0220】
また、本実施形態の制御プログラムは、前記水質評価装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、前記取得部、前記解析部、および前記推定部としてコンピュータを機能させるための制御プログラムである。
【0221】
水質評価用匂いセンサ素子、水質評価用匂いセンサ、水質評価装置は、上述した水質評価用匂いセンサ素子以外の既知の様々な匂いセンサ素子を用いることによっても実現し得る。
【0222】
しかしながら、上述した水質評価用匂いセンサ素子、すなわち、ポリウレタン樹脂(A)、界面活性剤(B)および導電性炭素材料(C)を含む樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層を備える水質評価用匂いセンサ素子を用いることにより、水質評価用匂いセンサ素子の個数や種類(匂い物質受容層315における樹脂組成物の種類)を適切に選択しておけば、同一のハードウェア構成であっても、機械学習に用いる学習データ次第で、評価対象水の発する対象気体に対するより適切な感度を示す測定を実現することができる。上記匂い物質受容層は、夾雑物を含む揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)の中から特定の匂い物質の量や、複数の匂い物質の比率をセンシングするのに適しており、このことが、評価対象水から発せられる対象気体の分析に有利に働くからである。
【0223】
また、上述した水質評価装置では、機械学習に用いる学習データ次第で、多様な評価対象水から発せられた対象気体に対する広汎な評価を実現することができ、またそれらによって推定モデルを更新していくことができる。
【0224】
先行技術文献欄に挙げた特許文献4から6に開示の技術では、従来の匂いセンサが用いられていることから、その測定結果と例えば人間による匂いの感じ方との間にずれが生じやすい。人間が悪臭と感じる匂い物質は1種類ではなく、悪臭と感じる原因となる匂い物質を夾雑物の中から的確にセンシングすることが大切であるところ、この点が特許文献4から6に開示の技術では十分ではなかった。
【0225】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0226】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る水質評価用匂いセンサ素子は、第1金属配線と、前記第1金属配線とは離間している第2金属配線と、前記第1金属配線の少なくとも一部と前記第2金属配線の少なくとも一部とに接しており、ポリウレタン樹脂(A)、界面活性剤(B)および導電性炭素材料(C)を含む樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層と、を備える。
【0227】
本発明の態様2に係る水質評価用匂いセンサ素子は、上記態様1において、前記界面活性剤(B)は8~18のHLB値を有していてもよい。
【0228】
本発明の態様3に係る水質評価用匂いセンサ素子は、上記態様1または2において、前記ポリウレタン樹脂(A)と前記界面活性剤(B)との重量比[(A)/(B)]が1.0~4.0であってもよい。
【0229】
本発明の態様4に係る水質評価用匂いセンサ素子は、上記態様1から3のいずれかにおいて、前記導電性炭素材料(C)の含有量が、前記ポリウレタン樹脂(A)、前記界面活性剤(B)および前記導電性炭素材料(C)の合計100重量%に対し、5~75重量%であってもよい。
【0230】
本発明の態様5に係る水質評価用匂いセンサ素子は、上記態様1から4のいずれかにおいて、前記ポリウレタン樹脂(A)は、芳香族ポリイソシアネートを含んでいてもよい。
【0231】
本発明の態様6に係る水質評価用匂いセンサは、上記態様1から5のいずれかに記載の少なくとも1つの水質評価用匂いセンサ素子と、前記水質評価用匂いセンサ素子に給電するための電源と、前記電源から給電された水質評価用匂いセンサ素子の前記匂い物質受容層の電気伝導性を示す測定値を出力する測定機器と、を備える。
【0232】
本発明の態様7に係る水質評価用匂いセンサは、上記態様6において、前記電源は、前記少なくとも1つの水質評価用匂いセンサ素子に対して、定電流を供給するかまたは定電圧を印加してもよい。
【0233】
本発明の態様8に係る水質評価装置は、上記態様6または7に記載の水質評価用匂いセンサ、および推定装置を備える水質評価装置であって、前記推定装置は、前記測定機器から前記測定値を取得する取得部と、前記少なくとも1つの水質評価用匂いセンサ素子の電気伝導性の経時的な変化を解析する解析部と、推定モデルに基づいて評価対象水から発せられた対象気体に対する評価結果を推定する推定部と、を備え、前記推定モデルは、複数種類の前記対象気体それぞれに関して得られた、前記少なくとも1つの水質評価用匂いセンサ素子に当該対象気体を触れさせた場合の前記解析部による解析結果と、当該対象気体の識別情報との組み合わせを含む学習用データを用いた機械学習によって生成されたものである。
【0234】
本発明の態様9に係る制御プログラムは、上記態様8に記載の水質評価装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、前記取得部、前記解析部、および前記推定部としてコンピュータを機能させるための制御プログラムである。
【実施例0235】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0236】
[製造例1~11]
<ポリエステルジオール(x2)の作製>
攪拌翼、撹拌装置、窒素流入口および流出口を備えた反応容器に、加熱冷却装置、温度計、温度調節装置、重合触媒導入管および窒素導入管を取り付けた。この反応容器は、反応容器内部を減圧可能なシール構造を有している。前記反応容器内に、表1に記載の重量部にて、ジオールとジカルボン酸とを加え、さらに重合触媒としてチタニウムジイソプロポキシビストリエタノールアミネート0.5重量部を投入した。その後、前記反応容器を、撹拌しながら200℃まで昇温し、窒素気流を流しつつ、副生する水を留去しながら5時間かけて、前記ジオールと前記ジカルボン酸とを反応させた。続いて、前記反応容器内部の圧力を10mmHgに減圧した後、さらに1時間、前述の反応を進行させることによって、ポリエステルジオール(x2-1)~(x2-11)を得た。
【0237】
得られたポリエステルジオール(x2)の各数平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、以下の条件で測定し、その結果を表1に記載した。
【0238】
装置 :東ソー(株)製 HLC-8120
カラム :TSK GEL GMH6 2本 〔東ソー(株)製〕
測定温度 :40℃
試料溶液 :0.25重量%のTHF(テトラヒドロフラン)溶液
溶液注入量 :100μl
検出装置 :屈折率検出器
また、数平均分子量の測定は、ポリエステルジオール(x2)をTHFに溶解させ、不溶解分をグラスフィルターで濾別したものを試料溶液として行った。
【0239】
【表1】
【0240】
[製造例12~28]
<ポリウレタン樹脂(A)の作製>
表2に記載のポリオール(x)とポリイソシアネート(y)を用いて、以下に示す方法にて、ポリウレタン樹脂(A)を得た。
【0241】
具体的には、攪拌翼、撹拌装置、窒素流入口および流出口を備えた反応容器に、加熱冷却装置、温度計、温度調節装置、重合触媒導入管および窒素導入管を取り付けた。この反応容器は、反応容器内部を減圧可能なシール構造を有していた。前記反応容器内に表2に記載の重量部にて、ポリオキシアルキレンジオール(x1)及び/又はポリエステルジオール(x2)を含有するポリオール(x)と、ポリイソシアネート(y)とを加え、さらに、反応溶媒と反応触媒としてジブチルスズジラウレートとを投入した。その後、前記反応容器内部を、常圧かつ窒素雰囲気下とし、前記反応容器内部の温度を65℃に昇温させ、当該温度を保ちながら、前記反応容器内部を10時間かけて撹拌し、前記ポリオール(x)と前記ポリイソシアネート(y)とを反応させた。続いて、撹拌後に、前記反応容器内部に、反応停止剤として1-ブタノール5部を加えた後、さらに前記反応容器内部の撹拌を1時間続けた。その結果、ポリウレタン樹脂(A‐1)~(A-17)を得た。なお、前記反応溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)を使用した。
【0242】
得られたポリウレタン樹脂(A)の各数平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、以下の条件で測定し、その結果を表3に記載した。
【0243】
装置 :東ソー(株)製 HLC-8120
カラム :TSK GEL SuperH3000〔東ソー(株)製〕と、TSK GEL SuperH4000〔東ソー(株)製〕とを各1本連結したもの
測定温度 :40℃
試料溶液 :0.25重量%のDMF(ジメチルホルムアミド)溶液
溶液注入量 :100μl
検出装置 :屈折率検出器
また、数平均分子量の測定は、ポリウレタン樹脂(A)をDMFに溶解させ、不溶解分をグラスフィルターで濾別したものを試料溶液として行った。
【0244】
【表2】
【0245】
【表3】
【0246】
[製造例29~41]
<高級アルコールエチレンオキサイド付加物の作製>
反応容器内部を減圧または加圧可能なシール構造を有する攪拌翼、撹拌装置、窒素流入口、流出口およびエチレンオキサイド流入口を備えた反応容器に、加熱冷却装置、温度計、圧力計、温度調節装置および窒素導入管を取り付けた。前記反応容器に、窒素雰囲気下、30部のモレキュラーシーブス3Aで2時間乾燥させた表4に記載の重量部の高級アルコール、触媒である水酸化カリウム3部を仕込み、減圧窒素置換を行った。前記反応容器内部を、160℃まで昇温し、表4に記載の重量部のエチレンオキサイドを反応容器内部の圧力が0.5MPa(G)となるよう流量を調整しながら滴下して反応させた。滴下終了後1時間撹拌を続け、その後、前記反応容器内部の温度を室温まで降温させ、高級アルコールエチレンオキサイド付加物(NS-1)~(NS-13)を得た。
【0247】
【表4】
【0248】
[実施例1~236、比較例1~17]
<スラリーの作製>
ポリウレタン樹脂(A)、界面活性剤(B)、導電性炭素材料(C)および溶媒(D)としての酢酸エチルを表5~20に記載した量でポリプロピレン製容器に量り取り、混合物を得た。当該混合物を、自転・公転ミキサー((株)シンキー社製ARE-310)を用いて2000回転/分で60分間撹拌して、スラリーを得た。当該スラリーを、匂い物質受容層を形成するための樹脂組成物として用いた。なお、下記表5~20において、「(A)/(B)比率」とは、ポリウレタン樹脂(A)と界面活性剤(B)との重量比を意味する。
【0249】
表5~20に記載の、高級アルコールエチレンオキサイド付加物以外の界面活性剤(B)は東京化成工業(株)で市販されているものを用いた。また、高級アルコールエチレンオキサイド付加物については前記の方法で調製した(NS-1)~(NS-13)を用いた。
【0250】
表5~20に記載の導電性炭素材料(C)は、SUPER-C65(カーボンブラック)はMTI Corporation社製、VGCF-H(カーボンナノチューブ)は昭和電工(株)社製、デンカブラック(カーボンブラック)はデンカ(株)社製、ケッチェンブラックEC-300J(カーボンブラック)およびケッチェンブラックEC-600JD(カーボンブラック)はライオンスペシャリティケミカル(株)社製をそれぞれ用いた。
【0251】
<センサ素子の作製>
間隙幅500μmの複数の金属配線を備えたシール基板(ICB-073、サンハヤト(株)製)から、2本1組の金属配線を含むシール基板を切り出した。切り出したシール基板を、さらに金属配線の長さが3.5cmとなるように切断した。
【0252】
切断されたシール基板をガラス板の上に、金属配線が上になるよう両面テープで貼り付けた。また、金属配線の露出部分の長さが3.0cmとなるように、金属配線の余分な部分にビニールテープを貼り付けてマスクした。ついで、前記の方法で調製したそれぞれのスラリーを、バーコーター(No.4)を用いて金属配線の露出部に塗布した。塗布後、100℃に加熱した順風乾燥機で3時間乾燥させた。乾燥後、室温まで冷却してから、匂い物質受容層を備えた金属配線をガラス板から剥離して、センサ素子(E-1)~(E-236)および比較用センサ素子(E’-1)~(E’-17)を得た。
【0253】
【表5】
【0254】
【表6】
【0255】
【表7】
【0256】
【表8】
【0257】
【表9】
【0258】
【表10】
【0259】
【表11】
【0260】
【表12】
【0261】
【表13】
【0262】
【表14】
【0263】
【表15】
【0264】
【表16】
【0265】
【表17】
【0266】
【表18】
【0267】
【表19】
【0268】
【表20】
【0269】
[実施例237~462、比較例18~34]
<樹脂組成物およびセンサ素子の評価>
樹脂組成物の評価は、センサ素子(E)および比較用センサ素子(E’)から得られるデータを比較することで行うことができる。
【0270】
<測定方法>
検体(匂い物質)を導入する導入口と検体が均一に広がるようエアフローを作るためのファンとを備えた筐体を作製した。端子を外部へ取り出すためのリード線をはんだ付けしたセンサ素子(E-1)~(E-226)および比較用センサ素子(E’-1)~(E’-17)のうち、評価対象のセンサ素子を筐体内に設置した。
【0271】
筐体外部に取り出したリード線の末端に1mAの定電流電源と、リード線の両端子にかかる電圧を測定するための電圧計を取りつけ、電圧計の測定値をコンピュータで記録した。
【0272】
筐体内の検体の濃度が200ppmとなるようにろ紙に検体を浸漬させ、当該ろ紙を導入口から挿入した。ろ紙の挿入後すぐに測定を開始した。測定開始から60秒後に再びファンを60秒間回転させ、筐体内の蒸気を外部に排出させながら測定を行った。なお、電圧の測定は0.1秒間隔で実施した。また、測定は同じ条件につき、100回繰り返し行った。
【0273】
検体としては、ヘキサン、酢酸エチル、メタノール、炭酸ジエチル、またはトルエンを用いた。
【0274】
<評価方法>
各時間で測定された電圧と定電流電源から供給される電流値1mAを用いて、オーム法則から電気抵抗Rを算出した。検体導入前の抵抗R0を予め測定しておき、R/R0を算出した。
【0275】
R/R0の0.1秒間隔の時間変化を用いて各々の検体に対するセンサ素子の応答性を、k近傍法を使用して分析した。センサ素子(E-1)~(E-226)または比較用センサ素子(E’-1)~(E’-17)について、前記の測定を行い、各実施例および各比較例に該当する100回×5検体=計500回分の測定データを学習データ数:テストデータ数=80:20となるようランダムに分割し、学習データに対してk近傍法による分類器(学習モデル)を作成した。各実施例および比較例の分類器についてテストデータを分類させた際の正解率をセンサ素子の性能指標とし、正解率が高いほどセンサ素子としての性能が高いと判断できる。各実施例における分類器の作成および正解率算出には、対応するセンサ素子(E)によって得られたデータと当該センサ素子(E)と同一のポリウレタン樹脂(A)を用いた比較用センサ素子(E’)によって得られたデータの両方を用いた。
【0276】
<評価結果>
評価結果を以下に示す。
【0277】
【表21】
【0278】
【表22】
【0279】
【表23】
【0280】
【表24】
【0281】
【表25】
【0282】
【表26】
【0283】
実施例1~226にて製造されたセンサ素子を使用した匂いセンサと比較例1~17にて製造されたセンサ素子を使用した匂いセンサのそれぞれにおける、前記性能評価にて算出された正解率を比較する。
【0284】
例えば、センサ素子(E-1)を用いた、実施例237の匂いセンサの正解率は72%である一方、センサ素子(E-1)と同一のポリウレタン樹脂(A)を使用している比較用センサ素子(E’-9)を用いた、比較例26の匂いセンサの正解率は27%であった。
【0285】
表21~26に記載の通り、センサ素子(E-1)~(E-226)を用いた、実施例237~462の匂いセンサの正解率は、比較用センサ素子(E’-1)~(E’-17)を用いた、比較例18~34の匂いセンサの正解率よりも高かった。
【0286】
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物およびこれを用いたセンサ素子を用いた匂いセンサは、良好な匂い識別性能を有すると言える。
【0287】
また、導電性炭素材料(C)の含有量が増加するほど、Rmax/R0の値は低下する傾向にあった。Rmax/R0の値が小さいほど測定誤差が増えるため、Rmax/R0の値は大きいほど良い。
【0288】
[実施例463~472]
<導電性炭素材料(C)の含有量の評価>
導電性炭素材料(C)の含有量を変化させることで、測定開始直後のR/R0の値を制御できる。前記と同じ方法で、各センサ素子(E-227)~(E-236)を用いてR/R0を測定した。測定終了後、測定開始から1秒後におけるR/R0を抽出し、表27に記載した。また、測定中のRの最大値をRmaxとして、Rmax/R0(%)の値も表27に併せて記載した。
【0289】
【表27】
【0290】
表27に記載のとおり、導電性炭素材料(C)が増えるほど、具体的には25重量%以上である場合に、測定開始1秒後のR/R0の値が増大し、導電性炭素材料(C)の含有量30重量%以上の範囲である場合に、測定開始1秒後のR/R0の値が特に顕著に増大する。測定開始1秒後のR/R0が大きいほど測定時間の短縮および消費電力の削減につながるため、導電性炭素材料(C)の含有量は、25重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることが特に好ましいと言える。なお、導電性炭素材料(C)の含有量が75重量%以下であると、シール基板に対する導電性炭素材料(C)の密着性がより良好であり、センサ素子(E)により適していた。
【0291】
一方、表27に記載のとおり、導電性炭素材料(C)の含有量が増加するほどRmax/R0の値は低下し、測定誤差が増える。しかしながら、実施例463~472における、導電性炭素材料(C)の含有量が75重量%以下の範囲においては、Rmax/R0の値は大きく低下しておらず、測定誤差は小さく保たれていると考えられる。そのため、導電性炭素材料(C)の含有量は、測定時間を短く保ち、また、測定誤差を小さく保つことにより良好な正解率が得られるという観点から、ポリウレタン樹脂(A)、界面活性剤(B)および導電性炭素材料(C)の合計100重量%に対し、好ましくは25~75重量%であり、更に好ましくは30~65重量%であり、最も好ましくは35~55重量%である。あるいは、匂い物質を受容する感度の観点から、導電性炭素材料(C)の含有量は、ポリウレタン樹脂(A)、界面活性剤(B)および導電性炭素材料(C)の合計100重量%に対し、5~30重量%であってもよく、5~20重量%であってもよく、5~10重量%であってもよい。
【0292】
[実施例473、比較例35]
<匂いセンサおよび匂い測定装置の評価>
匂いセンサおよび匂い測定装置の評価は、下記のシステムに組み込んだセンサ素子(E-1)~(E-226)を用いて匂いを識別させた際の正解率と比較用センサ素子(E’-1)~(E’-17)を用いて匂いを識別させた際の正解率とを比較することで行うことができる。
【0293】
<測定方法>
検体(匂い)を導入する導入口と検体が均一に広がるようエアフローを作るためのファンとを備えた筐体を作製した。端子を外部へ取り出すためのリード線をそれぞれはんだ付けしたセンサ素子(E-1)~(E-226)を筐体内に格納した匂いセンサ(F)、比較用センサ素子(E’-1)~(E’-17)を筐体内に格納した比較用匂いセンサ(F’)を用いた。
【0294】
筐体外部に取り出したリード線の末端に1mAの定電流電源と、リード線の両端子にかかる電圧を測定するための電圧計を取りつけ、電圧計の測定値をコンピュータで記録した。
【0295】
筐体内の検体の濃度が200ppmとなるようにろ紙に検体を浸漬させ、当該ろ紙を導入口から挿入した。ろ紙の挿入後すぐに測定を開始した。測定開始から60秒後に再びファンを60秒間回転させ、筐体内の蒸気を外部に排出させながら測定を行った。なお、電圧の測定は0.1秒間隔で実施した。また、測定は同じ条件につき、100回繰り返し行った。
【0296】
検体としては、d-リモネン、ボルナン-2-オン、シス-3-ヘキセノール、β-フェニルエチルアルコール、シトラール、L-カルボン、γ-ウンデカラクトン、オイゲノール、リナリルアセテートを用いた。検体はいずれも東京化成工業(株)社製のものを用いた。
【0297】
<評価方法>
各時間で測定された電圧と定電流電源から供給される電流値1mAとを用いて、オーム法則から電気抵抗Rを算出した。検体導入前の抵抗R0を予め測定しておき、R/R0を算出した。
【0298】
R/R0の0.1秒間隔の時間変化を用いて各々の検体に対するセンサ素子の応答性を、k近傍法を使用して分析した。匂いセンサ(F)および比較用匂いセンサ(F’)について、前記の測定を行い、それぞれのセンサについて100回×9検体=計900回分の測定データを学習データ数:テストデータ数=80:20となるようランダムに分割し、学習データに対してk近傍法による分類器(学習モデル)を作成した。各実施例および比較例の分類器についてテストデータを分類させた際の正解率を匂いセンサの性能指標とし、正解率が高いほどセンサとしての性能が高いと判断できる。
【0299】
<評価結果>
上記の測定の結果、匂いセンサ(F)の正解率は75%、比較用匂いセンサ(F’)の正解率は31%となり、本発明の一実施形態に係る樹脂組成物およびこれを用いたセンサ素子を用いた匂いセンサが良好な匂い識別性能を有すると言える。
【0300】
[実施例474~699、比較例36~52]
<混合物である検体を用いた際の評価>
<混合物である検体の調製方法>
前記単体の検体に加えて、混合物である検体を次の方法で調製した。メントール、ベンズアルデヒド、酢酸エチル、バニリン、ヘキサナール、エタノール、吉草酸ペンチル、リナロール、2-プロパノールをそれぞれ200ppmの気体となるようデシケーター内で調製し、混合物原料とした。次いで、三方コックとセプタムゴムを取り付けた500mLの2口ナスフラスコを真空減圧後に密封した。各混合物原料から下記の体積をシリンジで採取し、密封した2口ナスフラスコのゴムセプタムから注入した。
混合物検体1:
メントール(150mL)
ベンズアルデヒド(150mL)
酢酸エチル(150mL)
混合物検体2:
バニリン(150mL)
ヘキサナール(150mL)
エタノール(150mL)
混合物検体3:
吉草酸ペンチル(150mL)
リナロール(150mL)
2-プロパノール(150mL)
<混合物である検体を含む測定方法>
実施例237~462、比較例18~34と同様に、センサ素子(E-1)~(E-226)および比較用センサ素子(E’-1)~(E’-17)のうち、評価対象のセンサ素子を筐体内に設置した。定電流電源、電圧計、コンピュータも同様に配置した。
【0301】
前記の方法で調製した混合物検体20mLをシリンジで採取し、当該混合物検体を導入口から注入した。混合物検体の注入後すぐに測定を開始した。測定開始から60秒後に再びファンを60秒間回転させ、筐体内の蒸気を外部に排出させながら測定を行った。なお、電圧の測定は0.1秒間隔で実施した。また、測定は同じ条件につき、100回繰り返し行った。
【0302】
<混合物である検体を用いた際の評価方法>
上記の方法で得られたデータと前記の単体である検体について行った測定により得られたデータ(実施例237~462、比較例18~34)とを利用して、前記の単体である検体について行った評価方法と同様の方法で評価を行い、正解率を算出した。すなわち、以下の方法で評価を行った。
【0303】
各時間で測定された電圧と定電流電源から供給される電流値1mAを用いて、オーム法則から電気抵抗Rを算出した。検体導入前の抵抗R0を予め測定しておき、R/R0を算出した。
【0304】
R/R0の0.1秒間隔の時間変化を用いて各々の検体に対するセンサ素子の応答性を、k近傍法を使用して分析した。センサ素子(E-1)~(E-226)または比較用センサ素子(E’-1)~(E’-17)について、前記の測定を行い、各実施例および各比較例に該当する100回×8検体=計800回分の測定データを学習データ数:テストデータ数=80:20となるようランダムに分割し、学習データに対してk近傍法による分類器(学習モデル)を作成した。各実施例および比較例の分類器についてテストデータを分類させた際の正解率をセンサ素子の性能指標とし、正解率が高いほどセンサとしての性能が高いと判断できる。各実施例における分類器の作成および正解率算出には、対応するセンサ素子(E)によって得られたデータと当該センサ素子(E)と同一のポリウレタン樹脂(A)を用いた比較用センサ素子(E’)によって得られたデータの両方を用いた。
【0305】
<混合物である検体を用いた際の評価結果>
評価結果を以下に示す。
【0306】
【表28】
【0307】
【表29】
【0308】
【表30】
【0309】
【表31】
【0310】
【表32】
【0311】
【表33】
【0312】
実施例474~699、比較例36~52に記載の匂いセンサのそれぞれにおける、前記性能評価にて算出された正解率を比較する。
【0313】
例えば、センサ素子(E-1)を用いた、実施例474の匂いセンサの正解率は67%である一方、センサ素子(E-1)と同一のポリウレタン樹脂を使用している比較用センサ素子(E’-9)を用いた、比較例44の匂いセンサの正解率は40%であった。
【0314】
表28~33に記載の通り、センサ素子(E-1)~(E-226)を用いた、実施例474~699の匂いセンサの正解率は、比較用センサ素子(E’-1)~(E’-17)を用いた、比較例36~52の匂いセンサの正解率よりも高かった。
【0315】
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物およびこれを用いたセンサ素子を用いた匂いセンサは、検体が混合物である場合であっても、良好な匂い識別性能を有すると言える。
【0316】
[製造例42]
<ポリエステルジオール(x2)の作製>
攪拌翼、撹拌装置、窒素流入口および流出口を備えた反応容器に、加熱冷却装置、温度計、温度調節装置、重合触媒導入管および窒素導入管を取り付けた。この反応容器は、反応容器内部を減圧可能なシール構造を有している。前記反応容器内に、1,4-ブタンジオール47.4部とアジピン酸69.8部を加え、さらに重合触媒としてチタニウムジイソプロポキシビストリエタノールアミネート0.5重量部を投入した。その後、前記反応容器を、撹拌しながら200℃まで昇温し、窒素気流を流しつつ、副生する水を留去しながら、酸価が1以下になるまでエステル化を行い、ポリエステルジオール(x2-12)を得た。
【0317】
得られたポリエステルジオール(x2-12)の水酸基価は53.4、酸価は0.2、数平均分子量は2100であった。
【0318】
[製造例43]
<ポリウレタン樹脂(A-18)の作製>
攪拌翼、撹拌装置、窒素流入口および流出口を備えた反応容器に、加熱冷却装置、温度計、温度調節装置、重合触媒導入管および窒素導入管を取り付けた。この反応容器は、反応容器内部を減圧可能なシール構造を有していた。前記反応容器内にポリエチレングリコール(数平均分子量2,000)[商品名「PEG-2000」三洋化成工業(株)製](x1-1)26.6部、4,4‘-又は2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)(y-1)1.36部を仕込み、窒素雰囲気下60℃で6時間反応させ、NCO含量3.34重量%のウレタンプレポリマーを得た。なお、NCO含量は、JIS K1603-1:2007に従って測定した。続いて、40℃に冷却後、酢酸エチル47部を加え均一な溶液とした。次にイソプロパノール23部を加えて均一になるまで撹拌後、前記反応容器内部に、鎖伸長剤としてイソホロンジアミン1.47部、反応停止剤としてジエタノールアミン0.56部を加えた後、さらに前記反応容器内部の撹拌を1時間続けた。その結果、ポリウレタン樹脂(A-18)を得た。(A-18)の数平均分子量は13,300であった。
【0319】
得られたポリウレタン樹脂(A)の各数平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、以下の条件で測定し、その結果を表34に記載した。
【0320】
装置 :東ソー(株)製 HLC-8120
カラム :TSK GEL SuperH3000〔東ソー(株)製〕と、TSK GEL SuperH4000〔東ソー(株)製〕とを各1本連結したもの
測定温度 :40℃
試料溶液 :0.25重量%のDMF(ジメチルホルムアミド)溶液
溶液注入量 :100μl
検出装置 :屈折率検出器
【0321】
【表34】
【0322】
表1中の(y-1)MDIは4,4‘-又は2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、(y-2)HDIはヘキサメチレンジイソシアネート、(y-3)IPDIはイソホロンジイソシアネートを表す。
【0323】
また、数平均分子量の測定は、ポリウレタン樹脂(A)をDMFに溶解させ、不溶解分をグラスフィルターで濾別したものを試料溶液として行った。
【0324】
[製造例44]
<ポリウレタン樹脂(A-19)の作製>
ポリエチレングリコール(x1-1)の代わりに、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(平均分子量2000)[商品名「PTMG2000」三菱ケミカル(株)製](x1-2)を26.6部仕込み、窒素雰囲気下60℃で6時間反応させ、NCO含量3.34重量%のウレタンプレポリマーを得た。続いて、40℃に冷却後、酢酸エチル47部を加え均一な溶液とした。次にイソプロパノール23部を加えて均一になるまで撹拌後、前記反応容器内部に、鎖伸長剤としてイソホロンジアミン1.47部、反応停止剤としてジエタノールアミン0.56部を加えた後、さらに前記反応容器内部の撹拌を1時間続けた。その結果、ポリウレタン樹脂(A-19)を得た。(A-19)の数平均分子量は13,000であった。
【0325】
[製造例45]
<ポリウレタン樹脂(A-20)の作製>
ポリエチレングリコール(x1-1)の代わりに、製造例1で合成したポリエステルジオール(x2-12)を26.8部、MDI(y-1)を1.36部に代えて1.31部を仕込み、窒素雰囲気下60℃で6時間反応させ、NCO含量3.22重量%のウレタンプレポリマーを得た。続いて、40℃に冷却後、酢酸エチル47部を加え均一な溶液とした。次にイソプロパノール23部を加えて均一になるまで撹拌後、前記反応容器内部に、鎖伸長剤としてイソホロンジアミン1.41部、反応停止剤としてジエタノールアミン0.54部を加えた後、さらに前記反応容器内部の撹拌を1時間続けた。その結果、ポリウレタン樹脂(A-20)を得た。(A-20)の数平均分子量は14,000であった。
【0326】
[製造例46]
<ポリウレタン樹脂(A-21)の作製>
ポリエチレングリコール(x1-1)を26.6部に代えて27.0部、MDI(y-1)の代わりにHDI(y-2)0.93部を仕込み、窒素雰囲気下110℃で6時間反応させ、NCO含量3.58重量%のウレタンプレポリマーを得た。続いて、40℃に冷却後、酢酸エチル47部を加え均一な溶液とした。次にイソプロパノール23部を加えて均一になるまで撹拌後、前記反応容器内部に、鎖伸長剤としてイソホロンジアミン1.49部、反応停止剤としてジエタノールアミン0.57部を加えた後、さらに前記反応容器内部の撹拌を1時間続けた。その結果、ポリウレタン樹脂(A-21)を得た。(A-21)の数平均分子量は12,500であった。
【0327】
[製造例47]
<ポリウレタン樹脂(A-22)の作製>
ポリエチレングリコール(x1-1)の代わりに、ポリテトラメチレンエーテルグリコール2000(x1-2)を27.0部、MDI(y-1)の代わりにHDI(y-2)0.93部を仕込み、窒素雰囲気下110℃で6時間反応させ、NCO含量3.58重量%のウレタンプレポリマーを得た。続いて、40℃に冷却後、酢酸エチル47部を加え均一な溶液とした。次にイソプロパノール23部を加えて均一になるまで撹拌後、前記反応容器内部に、鎖伸長剤としてイソホロンジアミン1.49部、反応停止剤としてジエタノールアミン0.57部を加えた後、さらに前記反応容器内部の撹拌を1時間続けた。その結果、ポリウレタン樹脂(A-22)を得た。(A-22)の数平均分子量は12,000であった。
【0328】
[製造例48]
<ポリウレタン樹脂(A-23)の作製>
ポリエチレングリコール(x1-1)の代わりに、製造例1で合成したポリエステルジオール(x2-12)を27.1部、MDI(y-1)の代わりにHDI(y-2)0.89部を仕込み、窒素雰囲気下110℃で6時間反応させ、NCO含量3.44重量%のウレタンプレポリマーを得た。続いて、40℃に冷却後、酢酸エチル47部を加え均一な溶液とした。次にイソプロパノール23部を加えて均一になるまで撹拌後、前記反応容器内部に、鎖伸長剤としてイソホロンジアミン1.43部、反応停止剤としてジエタノールアミン0.54部を加えた後、さらに前記反応容器内部の撹拌を1時間続けた。その結果、ポリウレタン樹脂(A-23)を得た。(A-23)の数平均分子量は13,000であった。
【0329】
[製造例49]
<ポリウレタン樹脂(A-24)の作製>
ポリエチレングリコール(x1-1)を26.6部に代えて26.7部、MDI(y-1)の代わりにIPDI(y-3)1.22部を仕込み、窒素雰囲気下110℃で6時間反応させ、NCO含量3.42重量%のウレタンプレポリマーを得た。続いて、40℃に冷却後、酢酸エチル47部を加え均一な溶液とした。次にイソプロパノール23部を加えて均一になるまで撹拌後、前記反応容器内部に、鎖伸長剤としてイソホロンジアミン1.48部、反応停止剤としてジエタノールアミン0.56部を加えた後、さらに前記反応容器内部の撹拌を1時間続けた。その結果、ポリウレタン樹脂(A-24)を得た。(A-24)の数平均分子量は12,800であった。
【0330】
[製造例50]
<ポリウレタン樹脂(A-25)の作製>
ポリエチレングリコール(x1-1)の代わりに、ポリテトラメチレンエーテルグリコール2000(x1-2)を26.7部、MDI(y-1)の代わりにIPDI(y-3)1.22部を仕込み、窒素雰囲気下110℃で6時間反応させ、NCO含量3.42重量%のウレタンプレポリマーを得た。続いて、40℃に冷却後、酢酸エチル47部を加え均一な溶液とした。次にイソプロパノール23部を加えて均一になるまで撹拌後、前記反応容器内部に、鎖伸長剤としてイソホロンジアミン1.48部、反応停止剤としてジエタノールアミン0.56部を加えた後、さらに前記反応容器内部の撹拌を1時間続けた。その結果、ポリウレタン樹脂(A-25)を得た。(A-25)の数平均分子量は13,000であった。
【0331】
[製造例51]
<ポリウレタン樹脂(A-26)の作製>
ポリエチレングリコール(x1-1)の代わりに、製造例1で合成したポリエステルジオール(x2-12)を26.9部、MDI(y-1)の代わりにIPDI(y-3)1.17部を仕込み、窒素雰囲気下110℃で6時間反応させ、NCO含量 重量%のウレタンプレポリマーを得た。続いて、40℃に冷却後、酢酸エチル47部を加え均一な溶液とした。次にイソプロパノール23部を加えて均一になるまで撹拌後、前記反応容器内部に、鎖伸長剤としてイソホロンジアミン1.42部、反応停止剤としてジエタノールアミン0.54部を加えた後、さらに前記反応容器内部の撹拌を1時間続けた。その結果、ポリウレタン樹脂(A-26)を得た。(A-26)の数平均分子量は13,500であった。
【0332】
[センサ素子E-237~E-253、比較用センサ素子E‘-18、E’-19]
<スラリー作製>
ポリウレタン樹脂(A-18)~(A-26)、界面活性剤(B)、導電性炭素材料(C)および溶媒(D)を表35、表36に記載した量でガラス製容器に量り取り、混合物を得た。当該混合物を、自転/公転ミキサー((株)シンキー製ARE-310)を用いて2000回転/分で20分間撹拌して、スラリーを得た。こうして当該スラリーとして樹脂組成物1~17を得た。
【0333】
ポリエステルジオール(x2-12)1.8部、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリドを1.2部、SUPER C-65を2部およびN-メチルピロリドン45部をガラス製容器に量り取り、混合物を得た。当該混合物を、前述のスラリー作製方法と同様の操作にて撹拌して、スラリーを得た。こうして当該スラリーとして樹脂組成物r1を得た。
【0334】
ポリウレタン樹脂(A-18)3部、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリドを2部およびN-メチルピロリドン45部をガラス製容器に量り取り、混合物を得た。当該混合物を、前述のスラリー作製方法と同様の操作にて撹拌して、スラリーを得た。こうして当該スラリーとして樹脂組成物r2を得た。
【0335】
<センサ用基板K-1の製造>
間隔幅500μmの複数の金属配線を備えたシール基板(ICB-073、サンハヤト(株)製)から、2本1組の金属配線を含むシール基板を切り出した。切り出したシール基板を、さらに金属配線の長さが3.5cmとなるように切断した。
【0336】
切断されたシール基板をガラス板の上に、金属配線が上になるように両面テープで貼り付けた。また、金属配線の露出部分の長さが3.0cmとなるように、金属配線の余分な部分にビニールテープを貼り付けてマスクした。
【0337】
これによりセンサ用基板K-1を作製した。
【0338】
<センサ素子>
作製したセンサ用基板K-1に、バーコーター(No.4)を用いて、樹脂組成物1~17、および樹脂組成物r1、r2それぞれを金属配線の露出部に塗布した。塗布後、100℃に加熱した循風乾燥機で3時間乾燥させた。乾燥後、室温まで冷却してから、匂い物質受容層315を備えた金属配線をガラス板から剥離して、センサ素子(E-237)~(E-253)、比較用センサ素子(E‘-18)、(E’-19)を作製した。なお、同様の操作を10回繰り返し行い、各センサ素子につき10個ずつ作製した。
【0339】
センサ素子(E-237)~(E-253)について、それぞれの基板の種類および樹脂組成物の組成を表35に示す。また、比較用センサ素子(E‘-18)、(E’-19)について、それぞれの基板の種類および樹脂組成物の組成を表36に示す。
【0340】
【表35】
【0341】
【表36】
【0342】
<実施例700~716、比較例53、54>
[匂いセンサの作製]
検体(匂い物質)を導入する導入口および温度調整用のアルミブロック恒温槽を備えた対象試料受入部と、気体供給用の窒素ガスボンベ、マスフローコントローラ、センサチャンバを備えた筐体を作製した。端子を外部へ取り出すためのリード線を10個のセンサ素子(E-237)のそれぞれにはんだ付けし、10個のセンサ素子(E-237)を筐体内に設置した。センサ素子(E-237)ごとに、筐体外部に取り出したリード線の末端に1mAの定電流電源と、リード線の両端子にかかる電圧を測定するための電圧計とを接続した。こうして10個のセンサ素子(E-237)を有する匂いセンサ1を構成した。
【0343】
センサ素子(E-237)に代えてセンサ素子(E-238)~(E-253)および比較用センサ素子(E’-18)、(E’-19)を用いる以外は匂いセンサ1と同様にして、匂いセンサ2~17およびc1、c2をそれぞれ構成した。
【0344】
〔評価〕
[食品工場廃水(余剰汚泥)]K食品工場から余剰汚泥を1L採取した。余剰汚泥の性状は、pH6.6、TS1.6%、SS1.1%、有機分53%であった。採取した余剰汚泥は5℃に保持したインキュベータ内に保管した。
【0345】
[ΔV変動係数の測定-1]
匂いセンサ1~17およびc1、c2のそれぞれについて、匂いセンサの対象試料受入部に検体として、採取した余剰汚泥を5g入れた。その後、キャリアガス導入部からキャリアガスとしての窒素をセンサ素子が設置されている筐体内へ、ガスフロー調整器によって1L/minの流量で流し、外部に排出した。この間、センサ素子に接続されている電圧計の測定値をコンピュータで記録した。こうして、匂いセンサにおける10個のセンサ素子のそれぞれの電圧値を測定した。各匂いセンサの各センサ素子について、検体導入前の出力電圧V0および検体導入中の電圧Vの差の最大値ΔVを算出した。この値をΔVd=0とした。また、各匂いセンサで得られた10個の最大値ΔVのデータの標準偏差σおよび平均値μを算出し、センサ素子を形成する樹脂組成物のΔV変動係数(=σ/μ)を求めた。この時の変動係数の値をΔVd=0変動係数とした。
【0346】
測定終了後、センサ素子を取り外し、200mlビーカーに採取した余剰汚泥100gとともにガラス製デシケーター内に入れ、45℃の恒温槽で7日間静置した。7日後、センサ素子を取り出し、元の通り匂いセンサに取り付けた。匂いセンサの対象試料受入部に検体として、採取した余剰汚泥を5g入れ、同様の測定を行い、最大値ΔVを算出し、ΔVd=7を得た。得られたΔVd=7について、ΔVd=0に対する比率(ΔVd=7/ΔVd=0)を求めた。また、各匂いセンサで得られた10個の最大値ΔVのデータの標準偏差σおよび平均値μを算出し、センサ素子を形成する樹脂組成物のΔV変動係数(=σ/μ)を求めた。この時の変動係数の値をΔVd=7変動係数とした。
【0347】
実施例700~716の匂いセンサ1~17、および比較例53、54の匂いセンサc1、c2のそれぞれの樹脂組成物の材料の組成と物性を表37に示す。
【0348】
【表37】
【0349】
<考察>
表37に示されるように、匂いセンサ1~17は、いずれも、実用上問題ないか、あるいは実用上好ましいΔV変動係数を示している。また初日に測定したΔVおよび、センサ素子を7日間、余剰汚泥の蒸気環境下に曝した後で測定したΔVに大きな変動がないことが分かった。さらにそれぞれのΔV変動係数にも大きな差がないことが分かった。これらのことから、水分の多い環境に暴露した場合でも、センサの劣化が起こりにくく、測定結果の信頼性を確保できていることが分かった。
【0350】
実施例700~716と、比較例53との対比によれば、ポリウレタン樹脂、界面活性剤、および導電性炭素材料を含む樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層を備える匂いセンサ1~17に比べ、ポリウレタン樹脂を含まない樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層を備える匂いセンサc1の方が、ΔV変動係数が大きくなった、さらに水分の多い環境に暴露した前後で、ΔVが大きく変動しており、またΔV変動係数も大きくなることが分かった。このように、匂いセンサ1~17の方が匂いセンサc1よりも実用上好ましい匂い物質受容層を備えることが分かった。
【0351】
また比較例54記載の通り、導電性炭素材料を含まない樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層を備える匂いセンサc2は導電性を有さないことから、電圧を測定することができなかった。
【0352】
実施例703、711および712間での対比によれば、樹脂組成物に含まれるポリウレタン樹脂(A)と界面活性剤(B)との重量比[(A)/(B)]が異なる場合でも実用上問題ないΔV変動係数が得られている。特に[(A)/(B)]=1.5である樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層を備える匂いセンサ4のΔV変動係数が最も小さい値であり、さらに水分の多い環境に暴露した前後でのΔV変動係数の差が最も小さかった。
【0353】
実施例703、713~716間での対比によれば、樹脂組成物に含まれる導電性炭素材料(C)の含有量が異なる場合でも実用上問題ないΔV変動係数が得られている。特に(C)の含有量が40重量%である樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層を備える匂いセンサ4のΔV変動係数が最も小さい値であり、さらに水分の多い環境に暴露した前後でのΔV変動係数の差が最も小さかった。
【0354】
実施例700~708間での対比によれば、樹脂組成物に含まれるポリウレタン樹脂に使用したポリイソシアネートの種類が異なる場合でも実用上問題ないΔV変動係数が得られている。特に脂肪族ポリイソシアネートを使用したポリウレタン樹脂を含む樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層を備える匂いセンサ4~6のΔV変動係数が最も小さい値であり、さらに水分の多い環境に暴露した前後でのΔV変動係数の差が最も小さかった。
【0355】
<実施例717~733、比較例55、56>
[匂いセンサの作製]
実施例700~716および比較例53、54で作製した匂いセンサ1~17およびc1、c2をそのまま使用し、以下の評価を実施した。
【0356】
〔評価〕
[下水(消化汚泥)]
消化処理したA市処理場から消化汚泥を1L採取した。消化汚泥の性状は、pH7.2、TS3.0%、SS2.5%、有機分74%、アルカリ度4,350mg-CaCO3/Lであった。採取した消化汚泥は5℃に保持したインキュベータ内に保管した。
【0357】
[ΔV変動係数の測定-2]
匂いセンサ1~17およびc1、c2のそれぞれについて、匂いセンサの対象試料受入部に検体として、採取した消化汚泥を5g入れた。その後、キャリアガス導入部からキャリアガスとしての窒素をセンサ素子が設置されている筐体内へ、ガスフロー調整器によって1L/minの流量で流し、外部に排出した。この間、センサ素子に接続されている電圧計の測定値をコンピュータで記録した。こうして、匂いセンサにおける10個のセンサ素子のそれぞれの電圧値を測定した。各匂いセンサの各センサ素子について、検体導入前の出力電圧V0および検体導入中の電圧Vの差の最大値ΔVを算出した。この値をΔVd=0とした。また、各匂いセンサで得られた10個の最大値ΔVのデータの標準偏差σおよび平均値μを算出し、センサ素子を形成する樹脂組成物のΔV変動係数(=σ/μ)を求めた。この時の変動係数の値をΔVd=0変動係数とした。
【0358】
測定終了後、センサ素子を取り外し、200mlビーカーに採取した消化汚泥100gとともにガラス製デシケーター内に入れ、45℃の恒温槽で10日間静置した。10日後、センサ素子を取り出し、元の通り匂いセンサに取り付けた。匂いセンサの対象試料受入部に検体として、採取した消化汚泥を5g入れ、同様の測定を行い、最大値ΔVを算出し、ΔVd=10を得た。得られたΔVd=10について、ΔVd=0に対する比率(ΔVd=10/ΔVd=0)を求めた。また、各匂いセンサで得られた10個の最大値ΔVのデータの標準偏差σおよび平均値μを算出し、センサ素子を形成する樹脂組成物のΔV変動係数(=σ/μ)を求めた。この時の変動係数の値をΔVd=10変動係数とした。
【0359】
実施例717~733の匂いセンサ1~17、および比較例55、56の匂いセンサc1、c2のそれぞれの樹脂組成物の材料の組成と物性を表38に示す。
【0360】
【表38】
【0361】
<考察>
表38に示されるように、匂いセンサ1~17は、いずれも、実用上問題ないか、あるいは実用上好ましいΔV変動係数を示している。また初日に測定したΔVおよび、センサ素子を10日間、消化汚泥の蒸気環境下に曝した後で測定したΔVに大きな変動がないことが分かった。さらにそれぞれのΔV変動係数にも大きな差がないことが分かった。これらのことから、水分の多い環境に暴露した場合でも、センサの劣化が起こりにくく、測定結果の信頼性を確保できていることが分かった。
【0362】
実施例717~733と、比較例55との対比によれば、ポリウレタン樹脂、界面活性剤、および導電性炭素材料を含む樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層を備える匂いセンサ1~17に比べ、ポリウレタン樹脂を含まない樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層を備える匂いセンサc1の方が、ΔV変動係数が大きくなった、さらに水分の多い環境に暴露した前後で、ΔVが大きく変動しており、またΔV変動係数も大きくなることが分かった。このように、匂いセンサ1~17の方が匂いセンサc1よりも実用上好ましい匂い物質受容層を備えることが分かった。
【0363】
また比較例56記載の通り、導電性炭素材料を含まない樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層を備える匂いセンサc2は導電性を有さないことから、電圧を測定することができなかった。
【0364】
実施例720、728および729間での対比によれば、樹脂組成物に含まれるポリウレタン樹脂(A)と界面活性剤(B)との重量比[(A)/(B)]が異なる場合でも実用上問題ないΔV変動係数が得られている。特に[(A)/(B)]=1.5である樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層を備える匂いセンサ4のΔV変動係数が最も小さい値であり、さらに水分の多い環境に暴露した前後でのΔV変動係数の差が最も小さかった。
【0365】
実施例720、730~733間での対比によれば、樹脂組成物に含まれる導電性炭素材料(C)の含有量が異なる場合でも実用上問題ないΔV変動係数が得られている。特に(C)の含有量が40重量%である樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層を備える匂いセンサ4のΔV変動係数が最も小さい値であり、さらに水分の多い環境に暴露した前後でのΔV変動係数の差が最も小さかった。
【0366】
実施例717~725間での対比によれば、樹脂組成物に含まれるポリウレタン樹脂に使用したポリイソシアネートの種類が異なる場合でも実用上問題ないΔV変動係数が得られている。特に脂肪族ポリイソシアネートを使用したポリウレタン樹脂を含む樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層を備える匂いセンサ4~6のΔV変動係数が最も小さい値であり、さらに水分の多い環境に暴露した前後でのΔV変動係数の差が最も小さかった。
【0367】
<実施例734~750、比較例57、58>
[匂いセンサの作製]
検体(匂い物質)を導入する導入口および気流生成用ファン、センサチャンバを備えた筐体を作製した。端子を外部へ取り出すためのリード線を10個のセンサ素子(E-237)のそれぞれにはんだ付けし、10個のセンサ素子(E-237)を内に設置した。センサ素子(E-237)ごとに、筐体外部に取り出したリード線の末端に1mAの定電流電源と、リード線の両端子にかかる電圧を測定するための電圧計とを接続した。こうして10個のセンサ素子(E-237)を有する匂いセンサ18を構成した。
【0368】
センサ素子(E-237)に代えてセンサ素子(E-238)~(E-253)および比較用センサ素子(E’-18)、(E’-19)を用いる以外は匂いセンサ18と同様にして、匂いセンサ19~34およびc3、c4をそれぞれ構成した。
【0369】
〔評価〕
[化学工場の濃厚廃液(工場廃水)]
三洋化成工業株式会社の京都工場から排出される濃厚廃液を検体として用いた。
【0370】
[ΔV変動係数の測定-3]
匂いセンサ18~34およびc3、c4のそれぞれについて、匂いセンサの検体導入口に、濃厚廃液タンクから配管を接続した。その後、気流生成ファンを作動させセンサ素子が設置されている筐体内へ、濃厚廃液の蒸気を流し、外部に排出した。この間、センサ素子に接続されている電圧計の測定値をコンピュータで記録した。こうして、匂いセンサにおける10個のセンサ素子のそれぞれの電圧値を測定した。各匂いセンサの各センサ素子について、検体導入前の出力電圧V0および検体導入中の電圧Vの差の最大値ΔVを算出した。この値をΔVd=0とした。
【0371】
気流生成ファンを作動させ続け、測定を継続し、30日後の最大値ΔVを算出し、ΔVd=30を得た。得られたΔVd=30について、ΔVd=0に対する比率(ΔVd=30/ΔVd=0)を求めた。また、各匂いセンサで得られた10個の最大値ΔVのデータの標準偏差σおよび平均値μを算出し、センサ素子を形成する樹脂組成物のΔV変動係数(=σ/μ)を求めた。この時の変動係数の値をΔVd=30変動係数とした。
【0372】
実施例734~750の匂いセンサ18~34、および比較例57、58の匂いセンサc3、c4のそれぞれの樹脂組成物の材料の組成と物性を表39に示す。
【0373】
【表39】
【0374】
<考察>
表39に示されるように、匂いセンサ1~17は、いずれも、実用上問題ないか、あるいは実用上好ましいΔV変動係数を示している。また初日に測定したΔVおよび、センサ素子を30日間、化学工場廃水の環境下に曝した後で測定したΔVに大きな変動がないことが分かった。さらにそれぞれのΔV変動係数にも大きな差がないことが分かった。これらのことから、水分の多い環境に暴露した場合でも、センサの劣化が起こりにくく、測定結果の信頼性を確保できていることが分かった。
【0375】
実施例734~750と、比較例57との対比によれば、ポリウレタン樹脂、界面活性剤、および導電性炭素材料を含む樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層を備える匂いセンサ1~17に比べ、ポリウレタン樹脂を含まない樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層を備える匂いセンサc1の方が、ΔV変動係数が大きくなった、さらに水分の多い環境に暴露した前後で、ΔVが大きく変動しており、またΔV変動係数も大きくなることが分かった。このように、匂いセンサ1~17の方が匂いセンサc1よりも実用上好ましい匂い物質受容層を備えることが分かった。
【0376】
また比較例58記載の通り、導電性炭素材料を含まない樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層を備える匂いセンサc2は導電性を有さないことから、電圧を測定することができなかった。
【0377】
実施例737、745および746間での対比によれば、樹脂組成物に含まれるポリウレタン樹脂(A)と界面活性剤(B)との重量比[(A)/(B)]が異なる場合でも実用上問題ないΔV変動係数が得られている。特に[(A)/(B)]=1.5である樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層を備える匂いセンサ4のΔV変動係数が最も小さい値であり、さらに水分の多い環境に暴露した前後でのΔV変動係数の差が最も小さかった。
【0378】
実施例737、747~750間での対比によれば、樹脂組成物に含まれる導電性炭素材料(C)の含有量が異なる場合でも実用上問題ないΔV変動係数が得られている。特に(C)の含有量が40重量%である樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層を備える匂いセンサ4のΔV変動係数が最も小さい値であり、さらに水分の多い環境に暴露した前後でのΔV変動係数の差が最も小さかった。
【0379】
実施例734~742間での対比によれば、樹脂組成物に含まれるポリウレタン樹脂に使用したポリイソシアネートの種類が異なる場合でも実用上問題ないΔV変動係数が得られている。特に脂肪族ポリイソシアネートを使用したポリウレタン樹脂を含む樹脂組成物を含んだ匂い物質受容層を備える匂いセンサ4~6のΔV変動係数が最も小さい値であり、さらに水分の多い環境に暴露した前後でのΔV変動係数の差が最も小さかった。
【0380】
以上のように、ポリウレタン樹脂を含む水質評価用匂いセンサ素子は、ポリウレタン樹脂を含まないセンサ素子に比べて、廃水および浄水用原水などから発せられる匂いを正確に検知した。また、ポリウレタン樹脂を含む水質評価用匂いセンサ素子は、ポリウレタン樹脂を含まないセンサ素子に比べて、水分を含む環境に曝される環境かにおいて、安定した測定性能を示した。
【0381】
特に、芳香族ポリイソシアネートを用いて構成されたポリウレタン樹脂(A)を適用した水質評価用匂いセンサ素子は、廃水および浄水用原水などから発せられる匂いを正確に測定できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0382】
本発明は、工業や生活に用いられる水質管理のための匂い識別センサとして有用である。例えば、浄水原水の水質管理に使用することもできる。また、工場などからの廃水の匂いの変化を、該廃水の水質(例えば、pHやCODなどの値)の変化と組み合わせて取得することも可能となる。このようなデータは、廃水に対してどのような浄化処理が必要かを判定したり、浄化処理を行う設備の稼働要否を判定したりする際に有用なデータとなり得る。
【符号の説明】
【0383】
10、10a 推定装置
11 測定値取得部(取得部)
12 変化パターン解析部(解析部)
16 推定部
30 匂いセンサ
31、31b センサ素子
32 定電圧電源(電源)
33 電圧計(測定機器)
100、100a 匂い測定装置
313A、313C 第1金属配線
313B、313D 第2金属配線
315、315c、315d 匂い物質受容層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8