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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131184
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】屈折特性測定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/028 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
A61B3/028
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035759
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100166408
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 邦陽
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 隆之
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA13
4C316AB06
4C316FA01
4C316FY01
4C316FY02
4C316FY05
4C316FZ02
(57)【要約】
【課題】2つの開口を通して第1の光と第2の光を眼に入射させて屈折特性を測定する屈折検査装置において、検査の精度や効率を向上させる。
【解決手段】眼(25)の屈折特性を測定する屈折特性測定装置(1)であって、光射出部(20)と、光射出部と眼との間に位置し、光射出部が発した光を絞って通過させる第1開口(11)及び第2開口(12)を有する開口部材(10)と、第1開口に設けられ、第1の波長帯域の光を透過させる第1光学素子(13)と、第2開口に設けられ、第2の波長帯域の光を透過させる第2光学素子(14)と、を備え、光射出部は、白色光を射出する背景部(23)と、第1の波長帯域の光に対する補色となる第1の光(L1)を射出する第1視標部(21)と、第2の波長帯域の光に対する補色となる第2の光(L2)を射出する第2視標部(22)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼の屈折特性を測定する屈折特性測定装置であって、
光射出部と、
前記光射出部と眼との間に位置し、前記光射出部が発した光を絞って通過させる第1開口及び第2開口を有する開口部材と、
前記第1開口に設けられ、第1の波長帯域の光を透過させ、第2の波長帯域の光の透過を阻止する第1光学素子と、
前記第2開口に設けられ、前記第2の波長帯域の光を透過させ、前記第1の波長帯域の光の透過を阻止する第2光学素子と、を備え、
前記光射出部は、白色光を射出する背景部と、前記第1の波長帯域の光に対する補色となる第1の光を射出する第1視標部と、前記第2の波長帯域の光に対する補色となる第2の光を射出する第2視標部と、を備えることを特徴とする屈折特性測定装置。
【請求項2】
前記第1の波長帯域の光は緑色光、前記第2の波長帯域の光は赤色光であり、前記第1視標部が射出する前記第1の光はマゼンタ色の光であり、前記第2視標部が射出する前記第2の光はシアン色の光であることを特徴とする請求項1に記載の屈折特性測定装置。
【請求項3】
前記背景部は、波長帯域440nm~475nmに最大強度がある青色成分の光と、波長帯域520nm~550nmに最大強度がある緑色成分の光と、波長帯域600nm~650nmに最大強度がある赤色成分の光との合成で前記白色光を発し、
前記第1視標部は、前記青色成分の光と前記赤色成分の光との合成で前記第1の光を発し、
前記第2視標部は、前記青色成分の光と前記緑色成分の光との合成で前記第2の光を発することを特徴とする請求項2に記載の屈折特性測定装置。
【請求項4】
前記第1光学素子は、下記条件(1)及び(2)を満たすことを特徴とする請求項3に記載の屈折特性測定装置。
(1)TB1/TG1<1/10
(2)TR1/TG1<1/10
G1:前記第2の光のうち前記緑色成分の最大強度に相当する波長における前記第1光学素子の透過率。
B1:前記第1の光のうち前記青色成分の最大強度に相当する波長における前記第1光学素子の透過率。
R1:前記第1の光のうち前記赤色成分の最大強度に相当する波長における前記第1光学素子の透過率。
【請求項5】
前記第2光学素子は、下記条件(3)及び(4)を満たすことを特徴とする請求項3に記載の屈折特性測定装置。
(3)TB2/TR2<1/10
(4)TG2/TR2<1/10
R2:前記第1の光のうち前記赤色成分の最大強度に相当する波長における前記第2光学素子の透過率。
B2:前記第2の光のうち前記青色成分の最大強度に相当する波長における前記第2光学素子の透過率。
G2:前記第2の光のうち前記緑色成分の最大強度に相当する波長における前記第2光学素子の透過率。
【請求項6】
前記第1開口及び前記第2開口は直径が同じ円形であり、
前記第1開口を通して観察される第1視野領域と前記第2開口を通して観察される第2視野領域とが重なる重複領域に、前記第1視標部に対応する形状の第1視標像と、前記第2視標部に対応する形状の第2視標像とが観察されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の屈折特性測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼の屈折特性を測定する屈折特性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡やコンタクトレンズを処方する際に、眼の屈折特性を測定する屈折検査が行われる。屈折検査として、呈示された視標や光の見え方を被検者自身が識別する自覚式検査や、眼球に入射させた光線などを外部から観察する他覚式検査が知られている。
【0003】
特許文献1において、自覚式検査で簡単に眼の屈折検査を行える装置及び方法が提案されている。この装置及び方法は、シャイナー(Scheiner)の原理を利用したものであり、眼の前方に配した測定用ディスクに、光を絞って通過させる2つの開口を設け、2つの開口を通過して網膜に到達した第1の光と第2の光の見え方(2つの像の位置関係)に基づいて、眼の屈折特性を測定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-103743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の屈折検査装置及び屈折検査方法では、2つの開口に異なる透過特性を持たせて、第1の光と第2の光がそれぞれ対応する一方の開口のみを透過するように設定している。正確な検査を行うためには、各開口を透過した第1の光と第2の光が適正な位置で瞳孔に入射して網膜に到達するように、測定用ディスクに対する眼の位置や向きを設定する必要がある。この設定は、2つの開口に対応する視野領域の見え方に基づいて行うため、正確な設定を実現するには、被験者による視野領域の見やすさが重要である。
【0006】
また、眼の屈折特性を高い精度で検査するためには、第1の光による像と第2の光による像の位置関係を被験者が識別しやすいことが求められる。
【0007】
本発明は、以上の要求を満たすべく、2つの開口を通して第1の光と第2の光を眼に入射させて屈折特性を測定する屈折検査装置において、検査の精度や効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、眼の屈折特性を測定する屈折特性測定装置であって、光射出部と、前記光射出部と眼との間に位置し、前記光射出部が発した光を絞って通過させる第1開口及び第2開口を有する開口部材と、前記第1開口に設けられ、第1の波長帯域の光を透過させ、第2の波長帯域の光の透過を阻止する第1光学素子と、前記第2開口に設けられ、前記第2の波長帯域の光を透過させ、前記第1の波長帯域の光の透過を阻止する第2光学素子と、を備え、前記光射出部は、白色光を射出する背景部と、前記第1の波長帯域の光に対する補色となる第1の光を射出する第1視標部と、前記第2の波長帯域の光に対する補色となる第2の光を射出する第2視標部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
前記第1の波長帯域の光は緑色光、前記第2の波長帯域の光は赤色光であり、前記第1視標部が射出する前記第1の光はマゼンタ色の光であり、前記第2視標部が射出する前記第2の光はシアン色の光であることが好ましい。
【0010】
一例として、前記背景部は、波長帯域440nm~475nmに最大強度がある青色成分の光と、波長帯域520nm~550nmに最大強度がある緑色成分の光と、波長帯域600nm~650nmに最大強度がある赤色成分の光との合成で前記白色光を発し、前記第1視標部は、前記青色成分の光と前記赤色成分の光との合成で前記第1の光を発し、前記第2視標部は、前記青色成分の光と前記緑色成分の光との合成で前記第2の光を発することが好ましい。
【0011】
前記第1光学素子は、下記条件(1)及び(2)を満たすことが好ましい。
(1)TB1/TG1<1/10
(2)TR1/TG1<1/10
G1:前記第2の光のうち前記緑色成分の最大強度に相当する波長における前記第1光学素子の透過率。
B1:前記第1の光のうち前記青色成分の最大強度に相当する波長における前記第1光学素子の透過率。
R1:前記第1の光のうち前記赤色成分の最大強度に相当する波長における前記第1光学素子の透過率。
【0012】
前記第2光学素子は、下記条件(3)及び(4)を満たすことが好ましい。
(3)TB2/TR2<1/10
(4)TG2/TR2<1/10
R2:前記第1の光のうち前記赤色成分の最大強度に相当する波長における前記第2光学素子の透過率。
B2:前記第2の光のうち前記青色成分の最大強度に相当する波長における前記第2光学素子の透過率。
G2:前記第2の光のうち前記緑色成分の最大強度に相当する波長における前記第2光学素子の透過率。
【0013】
前記第1開口及び前記第2開口は直径が同じ円形であり、前記第1開口を通して観察される第1視野領域と前記第2開口を通して観察される第2視野領域とが重なる重複領域に、前記第1視標部に対応する形状の第1視標像と、前記第2視標部に対応する形状の第2視標像とが観察されることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、2つの開口を通して第1の光と第2の光を眼に入射させて屈折特性を測定する屈折検査装置において、被験者が観察する視野領域や像が見やすくなり、検査の精度や効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】屈折特性測定装置の概略構成を示す図である。
図2】屈折特性測定装置に対する眼の位置を示す図である。
図3】屈折特性測定装置での検査時に被験者が観察する視野領域及び視標像を示す図である。
図4】眼の屈折特性に応じた第1視標像と第2視標像の見え方の例を示す図である。
図5】比較例の屈折特性測定装置での検査時に被験者が観察する視野領域及び視標像を示す図である。
図6】可視光線の比視感度を示すグラフである。
図7図5の比較例から光射出装置の背景部を白色に変更した場合に被験者が観察する視野領域及び視標像を示す図である。
図8】本実施形態の屈折特性測定装置で、被験者が観察する第1視野領域と第2視野領域の見え方を個別に表した図である。
図9】本実施形態の屈折特性測定装置での検査時に被験者が観察する視野領域及び視標像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
屈折特性測定装置1による眼の屈折検査(屈折特性の測定)の概要について、図1から図4を参照して説明する。この屈折特性の測定は、異なる2つの開口を通過した光がレンズで屈折し、焦点位置で交差して一つになり、焦点位置から離れた位置では2つに分離するという、シャイナー(Scheiner)の原理を利用したものである。
【0017】
屈折特性測定装置1は、測定用ディスク(開口部材)10と光射出装置(光射出部)20とを有しており、光射出装置20と被験者の眼25(図2)との間に測定用ディスク10が配置される。
【0018】
測定用ディスク10は平板状であり、第1開口11と第2開口12が形成されている。第1開口11と第2開口12は、光射出装置20が射出した光を絞って通過させるピンホールとして機能する円形開口である。第1開口11と第2開口12の大きさ(直径)は同じである。また、第1開口11と第2開口12の大きさ及び互いの中心間距離は、シャイナーの原理が発現する程度に設定される。第1開口11と第2開口12が並ぶ方向(第1開口11と第2開口12の互いの中心を結ぶ方向)を、開口配列方向とする。
【0019】
光射出装置20は、測定用ディスク10と平行な平面状の射出面を有し、射出面から測定用ディスク10に向けて同距離から第1の光L1及び第2の光L2を射出する。光射出装置20は射出面上に2つの矩形状の第1視標部21及び第2視標部22を有し、第1視標部21から第1の光L1が射出され、第2視標部22から第2の光L2が射出される。詳細は後述するが、第1の光L1の色と第2の光L2の色は異なる。光射出装置20の射出面は、第1視標部21及び第2視標部22以外の領域が背景部23となっており、背景部23からも光を射出することができる。
【0020】
光射出装置20では、第1視標部21と第2視標部22の相対的な位置を、測定用ディスク10の開口配列方向に沿って変化させることが可能である。また、射出面に対して垂直な軸(第1視標部21と第2視標部22の境界を通る軸)を中心として第1視標部21と第2視標部22の角度位置を変化させることができる。第1視標部21と第2視標部22の周囲の背景部23上には、角度位置の目安となる放射状の方向指標24が形成されている。
【0021】
光射出装置20による配光は様々な形態を選択可能である。例えば、第1視標部21と第2視標部22と背景部23の領域をそれぞれ異なる色で発光させる透過型の面光源(ディスプレイ)を用いることができる。あるいは、第1視標部21と第2視標部22と背景部23の領域をそれぞれ光反射部とし、第1視標部21と第2視標部22と背景部23で反射された光を配光してもよい。
【0022】
第1開口11には第1光学素子13が設けられ、第2開口12には第2光学素子14が設けられている。詳細は後述するが、第1光学素子13と第2光学素子14はそれぞれ、異なる色(波長帯域)の光のみを透過させる選択透過性(分光特性)を有している。第1光学素子13は、第1の波長帯域の光を透過させ、第2の波長帯域の光の透過を阻止する。第2光学素子14は、第2の波長帯域の光を透過させ、第1の波長帯域の光の透過を阻止する。この選択透過性を利用して、第1開口11を通して第1視標部21に対応する形状が識別され、第2開口12を通して第2視標部22に対応する形状が識別されるようになる。
【0023】
図2に示すように、被験者の眼25の視軸Q(瞳孔26の中心を通る仮想の軸線)が第1開口11と第2開口12の中間を通るように、光射出装置20と被験者の眼25の間に測定用ディスク10を配置する。この配置により、第1開口11を通る第1の光L1と、第2開口12を通る第2の光L2が、被験者の眼25の瞳孔26に入射して網膜27に達する。
【0024】
以上のような構成及び条件で、第1視標部21から第1の光L1を配光し、第2視標部22から第2の光L2を配光した場合に、被験者により観察される視野領域と像の見え方を図3に示した。なお、後述する本発明の実施形態や比較例では、視野領域や像にそれぞれ色が付いているが、ここでは色の違いについての言及は省略して、それぞれの視野領域や像を被験者が識別できるものとして、眼の屈折特性の測定の概要を説明する。
【0025】
図3に示すように、第1開口11を通して観察される略円形の第1視野領域30と、第2開口12を通して観察される略円形の第2視野領域31とが、中央の重複領域32で重なっている。第1視標部21に対応する部分が第1視標像33として見え、第2視標部22に対応する部分が第2視標像34として見える。
【0026】
測定用ディスク10及び光射出装置20に対して被験者の眼25が適正な位置にある場合、図3のように、重複領域32上に第1視標像33と第2視標像34が位置して見える。
【0027】
眼25の屈折特性が適正な場合、第1開口11を通過した第1の光L1が網膜27上に到達する位置と、第2開口12を通過した第2の光L2が網膜27上に到達する位置とが、第1開口11及び第2開口12の開口配列方向において合致する。この場合、被験者は、第1視標像33と第2視標像34が開口配列方向において重なって見える。つまり、光射出装置20側でそれぞれが矩形状の第1視標部21と第2視標部22が直線状に並んでいる場合に、図4(A)のように、矩形状の第1視標像33と第2視標像34が直線状に並んで見える。
【0028】
これに対し、適正な眼の屈折力に対して眼25の屈折力が大きい場合には、第1開口11を通過した第1の光L1と、第2開口12を通過した第2の光L2は、網膜27に到達する前に交差する。逆に、適正な眼の屈折力に対して眼25の屈折力が小さい場合、第1開口11を通過した第1の光L1と、第2開口12を通過した第2の光L2は、網膜27上で交差せず、且つ網膜27に到達する前で交差せずに、網膜27に到達する(第1の光L1と第2の光L2が交差する位置が、網膜27よりも後方になる)。従って、これらの場合は、被験者は、第1視標像33と第2視標像34が、開口配列方向においてずれて見える。つまり、光射出装置20側でそれぞれが矩形状の第1視標部21と第2視標部22が直線状に並んでいる場合に、矩形状の第1視標像33と第2視標像34が、直線状に並ばないように見える。図4(B)は、眼25の屈折力が適正よりも大きい場合の見え方の例を表し、図4(C)は、眼25の屈折力が適正よりも小さい場合の見え方の例を表している。
【0029】
このような第1視標像33と第2視標像34の見え方に基づいて、眼25の屈折特性の情報を得ることができる。但し、被験者の側で2つの像のずれを定量的に識別して屈折特性を導き出すことは難しい。そのため、光射出装置20側で開口配列方向に沿って第1視標部21と第2視標部22の位置関係を変化させながら、第1視標像33と第2視標像34が開口配列方向で重なって見える(第1視標像33と第2視標像34が直線状に並んで見える)合致状態にし、当該合致状態における第1視標部21と第2視標部22の位置関係(ずれ量やずれの方向)から、眼25の屈折力を算出する。
【0030】
屈折特性測定装置1を構成する処理部2は、コンピュータなどからなり、開口配列方向に沿った第1視標部21と第2視標部22の位置変更を制御する。例えば、キーボードやタッチパネルなどの入力デバイスに対する被験者や測定者の入力操作に応じて、第1視標部21と第2視標部22の位置が変化するようにする。また、処理部2は、光射出装置20における射出面と測定用ディスク10との距離情報を、距離センサなどから取得する。そして処理部2は、網膜27上で第1視標像33と第2視標像34が前述の合致状態にあるときの、開口配列方向に沿った第1視標部21と第2視標部22の位置ずれ量に基づいて、眼25の屈折力を算出する。眼25の屈折力の算出については、前述した特許文献1(特開2020-103743号公報)に記載された式などを利用できる。
【0031】
以上の屈折特性測定装置1によれば、被験者に第1視標像33と第2視標像34の合致状態を識別させるだけで、眼25の屈折力を精度良く測定することができる。光射出装置20で複雑な発光制御を行ったり、被験者や測定者が第1視標像33と第2視標像34のずれ量を記憶したりする必要がないので、屈折特性測定装置1の構造や制御をシンプルにできると共に、測定の手間も軽減される。
【0032】
眼の屈折特性には方位方向依存性があるので、実際の屈折検査では、以上に述べた屈折特性の測定を複数の方位で行う必要がある。具体的には、第1開口11と第2開口12の開口配列方向を、水平方向、鉛直方向、水平方向及び鉛直方向の中間方位、の3つ以上に設定して、それぞれで測定を行うことが望ましい。
【0033】
屈折特性測定装置1では、第1開口11と第2開口12に光の選択透過性を持たせ、第1開口11を通して第1視標部21に対応する形状のみが観察され、第2開口12を通して第2視標部22に対応する形状のみが観察されるようにする。これにより、網膜27に同時に写る像が第1視標像33と第2視標像34の2つのみとなり、被験者が第1視標像33と第2視標像34の位置ずれの有無を正確に判断しやすくなる。
【0034】
第1開口11及び第2開口12においてこのような光の選択透過性を持たせるために、第1開口11に第1光学素子13を備え、第2開口12に第2光学素子14を備える。第1光学素子13と第2光学素子14は、可視光線の波長の範囲のうち異なる波長帯域の光を透過させる光学フィルタである。
【0035】
ところで、自覚式検査を行う屈折特性測定装置1では、図3に示す第1視野領域30、第2視野領域31、重複領域32、第1視標像33、第2視標像34を被験者が識別しやすくすることによって、検査の精度や効率を向上させることができる。本発明は、光射出装置20の各部が射出する光の色と、測定用ディスク10の第1開口11(第1光学素子13)と第2開口12(第2光学素子14)における分光特性とを所定の関係にすることにより、被験者による観察時の視認性が顕著に向上することを見出してなされたものであり、その詳細を以下に説明する。
【0036】
なお、図5図7図9では、2つの視標像が開口配列方向で合致している場合を示しているが、これは一例であり、眼25の屈折特性に応じて、図4(B)や図4(C)のように2つの視標像が開口配列方向でずれて見える場合もある。
【0037】
まず、本発明とは異なる条件設定を行った比較例を説明する。例えば、従来の眼の自覚式検査において、緑色や赤色の観察指標を用いるものが知られており、これを踏襲して、光射出装置20の第1視標部21から射出する第1の光L1を緑色光、第2視標部22から射出する第2の光L2を赤色光とする。光射出装置20の背景部23は黒色になっている。すなわち、比較例では、光射出装置20が、緑色光を射出する第1視標部21と、赤色光を射出する第2視標部22と、黒色の背景部23とを備えている(図1中の「比較例」の箇所を参照)。
【0038】
第1光学素子13として、緑色光を透過させ、赤色光の透過を阻止する光学フィルタを用いる。第2光学素子14として、赤色光を透過させ、緑色光の透過を阻止する光学フィルタを用いる。つまり、比較例では、第1光学素子13が透過させる光の波長帯域と、第1視標部21から射出する第1の光L1(緑色光)の波長帯域が略同じであり、第2光学素子14が透過させる光の波長帯域と、第2視標部22から射出する第2の光L2(赤色光)の波長帯域が略同じである。
【0039】
第1光学素子13と第2光学素子14の作用によって、緑色光である第1の光L1は第1開口11のみを通って眼25の網膜27に達し、赤色光である第2の光L2は第2開口12のみを通って眼25の網膜27に達する。背景部23が黒色であるため、第1視標部21の情報のみが第1開口11を通過し、第2視標部22の情報のみが第2開口12を通過する。
【0040】
この場合の被験者による視野領域と像の見え方を、図5を参照して説明する。第1開口11に対応する略円形の第1視野領域30GDは、緑色光を透過させる第1光学素子13を通して黒色の背景部23を観察したものであり、周辺光の影響によって暗緑色(明度の低い緑色)に見える。第2開口12に対応する略円形の第2視野領域31RDは、赤色光を透過させる第2光学素子14を通して黒色の背景部23を観察したものであり、周辺光の影響によって暗赤色(明度の低い赤色)に見える。重複領域32YDは、第1視野領域30GDの暗緑色と第2視野領域31RDの暗赤色の合成(加法混色)により暗黄色(明度の低い黄色)に見える。
【0041】
第1視標部21が射出する緑色光は、第2光学素子14により第2開口12の透過を阻止され、第1光学素子13を備えた第1開口11のみを透過して、重複領域32上に緑色の第1視標像33Gとして見える。第2視標部22が射出する赤色光は、第1光学素子13により第1開口11の透過を阻止され、第2光学素子14を備えた第2開口12のみを透過して、重複領域32上に赤色の第2視標像34Rとして見える。
【0042】
測定用ディスク10と光射出装置20に対して被験者の眼25が適正な位置にある場合、図5に示すように、第1視野領域30GDと第2視野領域31RDが互いに均等に重なって見え、重複領域32YD上に第1視標像33Gと第2視標像34Rが位置する。
【0043】
屈折検査の際には、以上の適正な見え方になるように、被験者の顔の位置や向きを設定する必要がある。しかし、第1視野領域30GDと第2視野領域31RDがそれぞれ、背景部23の黒色を背景にした暗緑色と暗赤色であると、それぞれの視野領域が暗くて被験者が識別しづらいという問題がある。
【0044】
可視光線の比視感度を図6に示した。図6のグラフから分かるように、緑色光(一例として、530nm~540nm付近の波長帯域の光)に比べて、赤色光(一例として、610nm~640nm付近の波長帯域の光)は比視感度が低い。そのため、図5における暗緑色の第1視野領域30GDと暗赤色の第2視野領域31RDのうち、被験者にとっては、特に第2視野領域30RDが見えにくい傾向となる。
【0045】
なお、第1開口11を通る光と第2開口12を通る光によって2つの視標像が別々に観察されるという条件を満たしていれば、被験者の眼に入射する2つの光が緑色光と赤色光ではなくても、屈折検査を行うことが可能である。例えば、第1視標部21が青色光(一例として、450nm~465nm付近の波長帯域の光)を射出し、第1光学素子13として青色光を通す光学フィルタを用いることも可能である。しかし、図6から分かるように、青色光は緑色光に比べて比視感度が低く、第1開口11を通して見る視野領域が見えにくくなりやすいという点で、赤色光の場合と同様の問題がある。
【0046】
ここで、本件発明者は、光射出装置20の背景部23を黒色にせず、背景部23から白色光を射出することで、第1開口11と第2開口12に対応するそれぞれの視野領域の明度が高くなり、識別しやすくなることに着眼した。前述した比較例に対して背景部23が白色光を射出する変更を行った場合における、被験者による視野領域と像の見え方を、図7を参照して説明する。
【0047】
第1開口11に対応する略円形の第1視野領域30GLは、緑色光を透過させる第1光学素子13を通して、背景部23から射出された白色光を観察することにより、白色光の緑色成分によって明緑色(明度の高い緑色)に見える。第2開口12に対応する略円形の第2視野領域31RLは、赤色光を透過させる第2光学素子14を通して、背景部23から射出された白色光を観察することにより、明赤色(明度の高い赤色)に見える。重複領域32YLは、第1視野領域30GLの明緑色と第2視野領域31RLの明赤色の合成(加法混色)により明黄色(明度の高い黄色)に見える。従って、背景部23が黒色である場合(図5)に比べて、第1視野領域30GL、第2視野領域31RL、重複領域32YLを被験者が識別しやすくなる。
【0048】
しかし、光射出装置20において、白色光を射出する背景部23上に、緑色光を射出する第1視標部21と赤色光を射出する第2視標部22を配した場合には、次の問題が生じる。
【0049】
第1光学素子13を備えた第1開口11を透過するのは、第1視標部21から射出される第1の光L1(緑色光)だけでなく、背景部23から射出される白色光のうち緑色付近の所定の波長帯域の成分も含まれる。すると、第1視標部21からの光と背景部23からの光との屈折誤差によって、第1視標部21の対応部分が緑の単色にならずに、色の異なる部分が混在した二重の像である第1視標像33Xに見えてしまう可能性がある。
【0050】
第2光学素子14を備えた第2開口12を透過するのは、第2視標部22から射出される第2の光L2(赤色光)だけでなく、背景部23から射出される白色光のうち赤色付近の所定の波長帯域の成分も含まれる。すると、第2視標部22からの光と背景部23からの光との屈折誤差によって、第2視標部22の対応部分が赤の単色にならずに、色の異なる部分が混在した二重の像である第2視標像34Xに見えてしまう可能性がある。
【0051】
それぞれが二重の像として見える第1視標像33Xと第2視標像34Xとでは、被験者にとって、開口配列方向における位置関係を把握しにくくなってしまうという問題がある。このように、第1光学素子13及び第2光学素子14が透過させる色の光と同色の光を第1視標部21及び第2視標部22が発する関係を維持しながら、背景部23が白色光を発するという変更を行うだけでは、第1開口11と第2開口12に対応する各視野領域(30GL、31RL)が見やすくなる一方で、第1視標部21と第2視標部22のそれぞれに対応する第1視標像33Xと第2視標像34Xの位置関係を識別しにくくなるおそれがある。
【0052】
本件発明者は、研究の結果、光射出装置20における第1視標部21と第2視標部22から射出する光の色を、第1光学素子13が透過させる第1の波長帯域の光の色に対する補色と、第2光学素子14が透過させる第2の波長帯域の光の色に対する補色にすることで、前記問題を解決できることを見出した。
【0053】
具体的な例として、第1視標部21が射出する第1の光L1については、第1光学素子13が透過させる緑色光(第1の波長帯域の光)の補色であるマゼンタ色の光とした。換言すれば、第1の光L1のマゼンタ色は、白色光から緑色光(第1の波長帯域)の成分を減じた色である。
【0054】
また、第2視標部22が射出する第2の光L2については、第2光学素子14が透過させる赤色光(第2の波長帯域の光)の補色であるシアン色の光とした。換言すれば、第2の光L2のシアン色は、白色光から赤色光(第2の波長帯域)の成分を減じた色である。
【0055】
つまり、本発明を適用した実施形態の屈折特性測定装置1では、光射出装置20が、第1の光L1としてマゼンタ色の光を射出する第1視標部21と、第2の光L2としてシアン色の光を射出する第2視標部22と、白色光を射出する背景部23とを備えている(図1中の「本実施形態」の箇所を参照)。
【0056】
図8(A)は、背景部23が白色光を射出し、第1視標部21がマゼンタ色の第1の光L1を射出し、第1光学素子13が緑色光の波長帯域のみを透過させる光学フィルタである場合に、第1開口11に対応する第1視野領域30GGの見え方を単独で示したものである。第2開口12を塞ぐなどして第1開口11の視野のみで観察した場合に、図8(A)のように見える。
【0057】
図8(A)では、第1視野領域30GG全体については、前述した図7の第1視野領域30GLと同様に、白色光を発する背景部23を、第1光学素子13を通して観察することにより、白色光の緑色成分によって明緑色(明度の高い緑色)に見えている。マゼンタ色は白色に対して緑色の成分を除いたもの(緑色に対する補色)であるから、第1視標部21がマゼンタ色の第1の光L1を射出すると、第1光学素子13の透過色(緑色)に対して第1視標部21が呈示する図形が影(補色同士の減色による黒)となる。その結果、第1視野領域30GGのうち第1視標部21に対応する領域は、第1視標部21の形状に色が付いていない第1影部35になる。
【0058】
図8(B)は、背景部23が白色光を射出し、第2視標部22がシアン色の第2の光L2を射出し、第2光学素子14が赤色光の波長帯域のみを透過させる光学フィルタである場合に、第2開口12に対応する第2視野領域31RRの見え方を単独で示したものである。第1開口11を塞ぐなどして第2開口12の視野のみで観察した場合に、図8(B)のように見える。
【0059】
図8(B)では、第2視野領域31RR全体については、前述した図7の第2視野領域31RLと同様に、白色光を発する背景部23を、第2光学素子14を通して観察することにより、白色光の赤色成分によって明赤色(明度の高い赤色)に見えている。シアン色は白色に対して赤色の成分を除いたもの(赤色に対する補色)であるから、第2視標部22がシアン色の第2の光L2を射出すると、第2光学素子14の透過色(赤色)に対して第2視標部22が呈示する図形が影(補色同士の減色による黒)となる。その結果、第2視野領域31RRのうち第2視標部22に対応する領域は、第2視標部22の形状に色が付いていない第2影部36になる。
【0060】
なお、マゼンタ色の第1の光L1を発する第1視標部21を第2開口12の視野で見た場合、第2光学素子14の作用で、背景部23における白色の背景中の赤色の成分とマゼンタ色を区別できないため、第1視標部21が背景部23に埋没して、被験者は第1視標部21の形状を認識できない。
【0061】
また、シアン色の第2の光L2を発する第2視標部22を第1開口11の視野で見た場合、第1光学素子13の作用で、背景部23における白色の背景中の緑色の成分とシアン色を区別できないため、第2視標部22が背景部23に埋没して、被験者は第2視標部22の形状を認識できない。
【0062】
従って、第1視標部21に対応する形状が、第1開口11の視野(第1視野領域30GG)のみで第1影部35として観察される。また、第2視標部22に対応する形状が、第2開口12の視野(第2視野領域31RR)のみで第2影部36として観察される。
【0063】
図8(A)の第1視野領域30GGと図8(B)の第2視野領域31RRを合わせて、本実施形態の屈折特性測定装置1で被験者によって観察される視野領域と像の見え方を図9に示した。測定用ディスク10に対して被験者の眼25が図2に示す適正な位置にある場合、第1視野領域30GGと第2視野領域31RRが中央の重複領域32YYで重なる。
【0064】
前述の通り、第1視野領域30GGと第2視野領域31RRは、背景部23が射出する白色光を第1光学素子13と第2光学素子14を通して観察することにより、明るく見えて識別しやすくなっている。また、前述した図7の重複領域32YLと同様に、図9の重複領域32YYは、第1視野領域30GGの明緑色と第2視野領域31RRの明赤色の合成(加法混色)により明黄色に見えるため、被験者が識別しやすい。
【0065】
第1影部35に相当する部分は重複領域32YLに位置する。すると、第1影部35に相当する部分は、背景部23が射出した白色光のうち、第2開口12(第2光学素子14)を透過した赤色の成分の光(第2視野領域31RRに含まれる)によって、矩形状の第1視標像33RRとして見える。つまり、光射出装置20においてマゼンタ色の第1の光L1を射出する第1視標部21に対応する形状が、赤色の第1視標像33RRとして観察される。
【0066】
第2影部36に相当する部分は重複領域32YLに位置する。すると、第2影部36に相当する部分は、背景部23が射出した白色光のうち、第1開口11(第1光学素子13)を透過した緑色の成分の光(第1視野領域30GGに含まれる)によって、矩形状の第2視標像34GGとして見える。つまり、光射出装置20においてシアン色の光を射出する第2視標部22に対応する形状が、緑色の第2視標像34GGとして観察される。
【0067】
このように、第1視野領域30GGでは第1視標部21に対応する箇所が第1影部35となり、第2視野領域31RRでは第2視標部22に対応する箇所が第2影部36となるように、第1の光L1の色と第2の光L2の色を設定したことにより、第1視野領域30GGと第2視野領域31RRが重複領域32YYで重なる状態では、第1影部35の箇所が単色(赤色)の第1視標像33RRになり、第2影部36の箇所が単色(緑色)の第2視標像34GGになる。これにより、第1視標像33RRと第2視標像34GGは、図7に示す第1視標像33Xと第2視標像34Xのような複数の色が混在した像にはならず、被験者にとって識別しやすい。
【0068】
従って、図9に示す第1視野領域30GG、第2視野領域31RR、重複領域32YY、第1視標像33RR、第2視標像34GGはいずれも、明度が高く、色の区別が行いやすいものとして観察されて、被験者による視認性が向上する。より詳しくは、第1視野領域30GG、第2視野領域31RR、重複領域32YYを明瞭に識別できるので、測定の準備段階において、重複領域32YY上に第1視標像33RRと第2視標像34GGを位置させるための調整が容易になり、屈折特性測定装置1に対する眼25の適正な位置合わせを行いやくなる。また、第1視標像33RRと第2視標像34GGはそれぞれ、赤と緑の単色のシンプルな矩形状として明瞭に見えるため、開口配列方向における第1視標像33RRと第2視標像34GGの合致状態の判断を行いやすくなる。その結果、検査の精度や効率を向上させることができる。
【0069】
なお、図9の説明として、第1視野領域30GGを明緑色、第2視野領域31RRを明赤色、第1視標像33RRを赤色、第2視標像34GGを緑色と表現したが、これは第1視標像33RRや第2視標像34GGよりも、第1視野領域30GGや第2視野領域31RRの方が必ず明るく見えるという意味ではない。比較例(図5)における第1視野領域30GDの暗緑色や第2視野領域30RDの暗赤色との対比で、第1視野領域30GGや第2視野領域31RRの方が視認性に優れるという意味で、明緑色、明赤色と表現したものである。
【0070】
第1視標像33RRは、背景部23の白色光に含まれる赤色の成分が第1影部35に乗ったものであるため、重複領域32YY上で識別しやすく明瞭に観察することができる。第2視標像34GGは、背景部23の白色光に含まれる緑色の成分が第2影部36に乗ったものであるため、重複領域32YY上で識別しやすく明瞭に観察することができる。従って、第1視野領域30GGと第2視野領域31RRだけではなく、第1視標像33RRと第2視標像34GGについても高い視認性を得ることができる。
【0071】
前述したように、第1開口11の視野で見た場合(図8(A))と、第2開口12の視野で見た場合(図8(B))と、2つの視野の重複領域(重複領域32YY)で見た場合(図9)とで、第1視標部21と第2視標部22のそれぞれの図形は、異なる色の状態に見える。例えば、測定用ディスク10に対して被験者の眼25が適正な位置ではない場合には、第1影部35や第2影部36に色が乗らず、赤色の第1視標像33RRや緑色の第2視標像34GGとして見えないことがある。そのため、被験者の眼25が適正な位置にあるか否かを、第1視野領域30GG、第2視野領域31RR、重複領域32YYの位置関係の見え方に加えて、第1視標部21と第2視標部22に対応する部分の色の見え方に基づいても判断することができる。
【0072】
以上の効果は、第1開口11(第1光学素子13)と第2開口12(第2光学素子14)がそれぞれ緑色の波長帯域の光と赤色の波長帯域の光を透過させ、これら2色の補色であるマゼンタ色の光とシアン色の光を第1視標部21と第2視標部22が射出し、さらに背景部23が白色光を射出することによって得られる。第1光学素子13と第2光学素子14に付与する分光特性と、光射出装置20の射出面の各領域から発する光の色設定とによって特徴づけられるものであるため、屈折特性測定装置1における複雑な構造や制御を必要とせず、低コストに実現できるという点で優れている。
【0073】
前述のように緑色は比視感度が高いので、第1視野領域30GGや第2視標像34GGの色として緑色を用いることにより、これらの部分の識別のしやすさが向上する。また、第2視野領域31RRや第1視標像33RRの色として赤色を用いることにより、緑色である第1視野領域30GGや第2視標像34GGとの視覚的な区別をつけやすくなる。
【0074】
続いて、屈折特性測定装置1において、以上に説明した特徴を実現する条件設定の具体例を示す。まず、光射出装置20について述べる。
【0075】
光射出装置20の背景部23から射出する光を、下記a1、b1、c1の色成分の合成による白色光とすることが好ましい。
a1:波長440mm~475nmに最大強度を持つ青色成分。
a2:波長520mm~550nmに最大強度を持つ緑色成分。
a3:波長600mm~650nmに最大強度を持つ赤色成分。
【0076】
光射出装置20の第1視標部21から射出する第1の光L1を、下記a1、a3の色成分の合成によるマゼンタ色の光とすることが好ましい。
a1:波長440mm~475nmに最大強度を持つ青色成分。
a3:波長600mm~650nmに最大強度を持つ赤色成分。
【0077】
光射出装置20の第2視標部22から射出する第2の光L2を、下記a1、a2の色成分の合成によるシアン色の光とすることが好ましい。
a1:波長440mm~475nmに最大強度を持つ青色成分。
a2:波長520mm~550nmに最大強度を持つ緑色成分。
【0078】
光射出装置20として、第1視標部21と第2視標部22と背景部23の領域をそれぞれ異なる色で発光させることが可能な透過型の面光源を用いる場合、入手性の高さや発光制御の行いやすさなどの点で、LEDバックライト方式やレーザーバックライト方式の液晶ディスプレイが適している。このような液晶ディスプレイが発する光の三原色では、青色成分の中心波長が450nm~465nmの範囲、緑色成分の中心波長が530nm~540nmの範囲、赤色成分の中心波長が610nm~640nmの範囲である場合が多い。そして、製品の個体差や温度依存性による発色のばらつきを考慮して、各範囲にそれぞれ±10nm程度の余裕を持たせて、a1、a2、a3の値を設定している。
【0079】
続いて、第1開口11と第2開口12における分光特性についての好適な条件を述べる。
【0080】
第1開口11に設ける第1光学素子13は、第1の光L1(マゼンタ色)の透過を抑制し、背景部23の白色光のうち波長520mm~550nmに最大強度を持つ緑色成分を透過させる光学フィルタであり、以下の条件(1)、(2)を満たすことが好ましい。
(1)TB1/TG1<1/10
(2)TR1/TG1<1/10
G1:第2の光L2(シアン色)のうち緑色成分(520nm~550nm)の最大強度に相当する波長λG2における透過率。
B1:第1の光L1(マゼンタ色)のうち青色成分(440nm~475nm)の最大強度に相当する波長λB1における透過率。
R1:第1の光L1(マゼンタ色)のうち赤色成分(600nm~650nm)の最大強度に相当する波長λR1における透過率。
【0081】
条件(1)を満たすことにより、マゼンタ色である第1の光L1の青色成分の透過を抑制してクロストークを低減する効果が得られる。条件(2)を満たすことにより、マゼンタ色である第1の光L1の赤色成分の透過を抑制してクロストークを低減する効果が得られる。従って、条件(1)、(2)を満たす第1光学素子13を用いることで、第1の光L1の透過を十分に抑制し、第2の光L2の緑色成分を十分に透過させることができる。
【0082】
第2開口12に設ける第2光学素子14は、第2の光L2(シアン色)の透過を抑制し、背景部23の白色光のうち波長600mm~650nmに最大強度を持つ赤色成分を透過させる光学フィルタであり、以下の条件(3)、(4)を満たすことが好ましい。
(3)TB2/TR2<1/10
(4)TG2/TR2<1/10
R2:第1の光L1(マゼンタ色)のうち赤色成分(600nm~650nm)の最大強度に相当する波長λR1における透過率。
B2:第2の光L2(シアン色)のうち青色成分(440nm~475nm)の最大強度に相当する波長λB2における透過率。
G2:第2の光L2(シアン色)のうち緑色成分(520nm~550nm)の最大強度に相当する波長λG2における透過率。
【0083】
条件(3)を満たすことにより、シアン色である第2の光L2の青色成分の透過を抑制してクロストークを低減する効果が得られる。条件(4)を満たすことにより、シアン色である第2の光L2の緑色成分の透過を抑制してクロストークを低減する効果が得られる。従って、条件(3)、(4)を満たす第2光学素子14を用いることで、第2の光L2の透過を十分に抑制し、第1の光L1の赤色成分を十分に透過させることができる。
【0084】
続いて、サンプル品により構成した光射出装置20、第1光学素子13、第2光学素子14の実施例を示す。
【0085】
<実施例1>
光射出装置20(LEDバックライト使用の液晶ディスプレイ)
λB1=450nm
λG2=540nm
λR1=610nm
第1光学素子13(波長530nm付近に透過率のピークを有するバンドパスフィルタ)
B1=0.00
G1=0.54
R1=0.03
B1/TG1=0.00
R1/TG1≒0.06
【0086】
<実施例2>
光射出装置20(LEDバックライト使用の液晶ディスプレイ)
λB2=450nm
λG2=540nm
λR1=610nm
第2光学素子14(波長600nm付近が透過限界波長であるロングパスフィルタ)
B2=0.00
G2=0.00
R2=0.65
B2/TG2=0.00
R2/TG2=0.00
【0087】
<実施例3>
光射出装置20(レーザーバックライト使用の液晶ディスプレイ)
λB1=450nm
λG2=540nm
λR1=610nm
第1光学素子13(波長535nm付近に透過率のピークを有するバンドパスフィルタ)
B1=0.00
G1=0.63
R1=0.03
B1/TG1=0.00
R1/TG1≒0.05
【0088】
<実施例4>
光射出装置20(レーザーバックライト使用の液晶ディスプレイ)
λB2=465nm
λG2=530nm
λR1=639nm
第2光学素子14(波長575nm付近が透過限界波長であるロングパスフィルタ)
B2=0.00
G2=0.00
R2=0.88
B2/TG2=0.00
R2/TG2=0.00
【0089】
以上から、実施例1及び実施例3の第1光学素子13はいずれも、条件(1)及び条件(2)を満たしている。また、実施例2及び実施例4の第2光学素子14はいずれも、条件(3)及び条件(4)を満たしている。各実施例で例示した分光特性のバンドパスフィルタやロングパスフィルタは、光学機器における色補正用や色分解用として広く流通しており、入手性に優れている。
【0090】
以上、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において、さまざまな変形、変更が可能である。
【0091】
前述の実施形態では、第1光学素子13が透過させる第1の波長帯域の光を緑色光、第2光学素子14が透過させる第2の波長帯域の光を赤色光とした上で、第1視標部21がマゼンタ色(緑色の補色)の第1の光L1を射出し、第2視標部22がシアン色(赤色の補色)の第2の光L2を射出している。この設定により、被験者が第1開口11と第2開口12を通して観察する2つの視野領域(第1視野領域30GG、第2視野領域31RR)と2つの視標像(第1視標像33RR、第2視標像34GG)が、比視感度の高い緑色と、緑色に対して心理補色の関係に近い赤色とになり、被験者による視認性を良くすることができる。
【0092】
しかし、第1光学素子13と第2光学素子14がそれぞれ透過させる波長帯域の光と、第1視標部21が射出する第1の光L1と、第2視標部22が射出する第2の光L2とに関して、前述の実施形態から色の設定を変更することも可能である。
【0093】
屈折特性測定装置の細部構成については、前述の実施形態の屈折特性測定装置1とは異なっていてもよい。例えば、測定用ディスク10に設ける第1開口11と前記第2開口12の形状として、円形以外を選択することも可能である。また、第1視標部21と第2視標部22の形状は、矩形以外であってもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 :屈折特性測定装置
10 :測定用ディスク(開口部材)
11 :第1開口
12 :第2開口
13 :第1光学素子
14 :第2光学素子
20 :光射出装置(光射出部)
21 :第1視標部
22 :第2視標部
23 :背景部
24 :方向指標
25 :眼
26 :瞳孔
27 :網膜
30GG :第1視野領域
31RR :第2視野領域
32YY :重複領域
33RR :第1視標像
34GG :第2視標像
35 :第1影部
36 :第2影部
L1 :第1の光
L2 :第2の光
Q :視軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9