(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131205
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】多孔質セラミックスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 38/06 20060101AFI20230914BHJP
C08B 3/06 20060101ALN20230914BHJP
C08B 3/20 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
C04B38/06 H
C08B3/06
C08B3/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035801
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】598163064
【氏名又は名称】学校法人千葉工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】持田 隆佑
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和明
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 寛人
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090BA26
4C090BB02
4C090BB12
4C090BB33
4C090BB36
4C090BB52
4C090BB65
4C090BB97
4C090CA38
4C090DA10
4C090DA24
(57)【要約】
【課題】気孔の分布の偏りが抑制された多孔質セラミックスの製造方法を提供する。
【解決手段】上記課題は、粉末状のセラミックス原料、セルロース粒子及び発泡剤を混ぜて発泡させ気泡形成体を形成する形成工程を有し、前記セルロース粒子は、平均繊維幅が1~1000 nmの乾燥した微細繊維状セルロースが多数凝集したものである、ことを特徴とする多孔質セラミックスの製造方法。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状のセラミックス原料、セルロース粒子及び発泡剤を混ぜて発泡させ気泡形成体を形成する形成工程を有し、
前記セルロース粒子は、平均繊維幅が1~1000nmの乾燥した微細繊維状セルロースが多数凝集したものである、
ことを特徴とする多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項2】
前記微細繊維状セルロースは、セルロース繊維にアシル基が導入されたものである、
請求項1記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項3】
前記セルロース粒子は、平均粒子径が10~500μmであり、固め嵩密度が0.1~1.0mg/cm3となるものである、
請求項1記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項4】
前記セルロース粒子が加熱乾燥して得られたものである、
請求項1記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項5】
前記多孔質セラミックスは、圧縮強さが1~10MPaである、
請求項1記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項6】
前記セラミックス原料1質量部に対して前記セルロース粒子を0.01~0.5質量部添加するものである、
請求項1記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項7】
全気孔率が50%~95%であり、全気孔率に占める開気孔率が55%~99%
請求項6記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項8】
前記気泡形成体を焼結して多孔質セラミックスを得る焼結工程を有し、
前記焼結工程は、多段階に昇温して行い、少なくとも0.5~24時間、950~1100℃を維持する恒温工程を有するものである、
請求項1記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項9】
前記発泡剤のHLB値が7~16である、
請求項2記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項10】
気孔の真円度が0.1以下である、
請求項1記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨補填材等として利用可能な多孔質セラミックスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、リン酸カルシウムを含有するセラミックス材料は、骨補填材として注目され、生体親和性や安全性に優れていることから、人工骨材料、ドラッグデリバリーシステム(DDS)用の薬剤担持材料、細胞培養用の足場材料等の用途に用いられている。また、リン酸カルシウム系セラミックス材料は骨に関する疾患、例えば腫瘍、変性疾患などの治療に用いられてもいる。
【0003】
このように、リン酸カルシウム系セラミックス材料は骨補填材としての用途に用いられ、これに関する研究開発が従来よりなされている。リン酸カルシウム系セラミックス材料に関する技術を開示する文献として次の特許文献1を例示することができる。特許文献1は、生体吸収性セラミックスで形成され、所定条件を満足する多孔質構造を有することを特徴とする生体吸収性インプラントに関する技術を開示し、この技術によれば、優れた骨結合能力を維持しつつも補填作業時はもちろん補填作業が完了するまで形状を保持し、高い有用性を保持することができるとしている。
【0004】
別の文献、特許文献2は、β-リン酸三カルシウムからなる多孔質セラミックスの内部に、骨髄細胞が組み込まれていることを特徴とする人工骨に関する技術を開示し、この技術によれば、良好に骨形成を促進することが可能な人工骨材とすることができ、等方圧等の機械的刺激やVEGFのような細胞増殖因子を複合することにより、さらに確実に骨形成することができ、有用性を向上させることができるとしている。
【0005】
特許文献3は、開気孔と閉気孔を有するセラミックスに関する技術に関して、セルロースナノファイバーを用いて製造した多孔質体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-184878号公報
【特許文献2】特開2002-282285号公報
【特許文献3】特開2020-196649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リン酸カルシウム系セラミックス材料が骨補填材の用途に用いられる場合、骨伝導性が重要な要素となってくる。具体的には、骨形成細胞を当該材料に備わる開気孔から材料内部に遊走・定着させて、骨を形成させる性質に優れることが求められる。
【0008】
特許文献3では、気孔が多数備わる多孔質セラミックスを提案しているが、この多孔質セラミックスが開示された図面を見るに、気孔の形成面が丸みを帯びるものというよりも角ばった形状をしているように見受けられる。このような気孔の形状は、骨補填材の一般の用途では特段問題ないと考えられるものの、骨伝導性の観点から見た場合、不具合が発生する可能性がある。
【0009】
例えば、気孔の形成面が角ばった形状であるがゆえに、骨形成細胞がスムーズに遊走せずに、滞留を起こすようなデッドスペースが発生する可能性がある。
【0010】
また、特許文献1や特許文献2では、セラミックス原料をプレス成形する、また発泡させて多孔質セラミックスを製造しているが、この製造方法では、形成される気孔が多孔質セラミックスの上部に偏ってしまうおそれがある。
【0011】
そこで、本発明が解決しようとする主たる課題は、気孔の分布の偏りが抑制された多孔質セラミックスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(第1の態様)
上記課題を解決するための態様は、次のとおりである。
粉末状のセラミックス原料、セルロース粒子及び発泡剤を混ぜて発泡させ気泡形成体を形成する形成工程を有し、
前記セルロース粒子は、平均繊維幅が1~1000nmの乾燥した微細繊維状セルロースが多数凝集したものである、
ことを特徴とする多孔質セラミックスの製造方法。
【0013】
(第2の態様)
前記微細繊維状セルロースは、セルロース繊維にアシル基が導入されたものである、
第1の態様の多孔質セラミックスの製造方法。
【0014】
(第3の態様)
前記セルロース粒子は、平均粒子径が10~500μmであり、固め嵩密度が0.1~1.0g/cm3となるものである、
第1の態様の多孔質セラミックスの製造方法。
【0015】
(第4の態様)
前記セルロース粒子が加熱乾燥して得られたものである、
第1の態様の多孔質セラミックスの製造方法。
【0016】
(第5の態様)
前記多孔質セラミックスは、圧縮強さが1~10MPaである、
第1の態様の多孔質セラミックスの製造方法。
【0017】
(第6の態様)
前記セラミックス原料1質量部に対して前記セルロース粒子を0.01~0.5質量部添加するものである、
第1の態様の多孔質セラミックスの製造方法。
【0018】
(第7の態様)
全気孔率が50%~95%であり、全気孔率に占める開気孔率が55%~99%である、
第6の態様の多孔質セラミックスの製造方法。
【0019】
(第8の態様)
前記気泡形成体を焼結して多孔質セラミックスを得る焼結工程を有し、
前記焼結工程は、多段階に昇温して行い、少なくとも0.5~24時間、950~1120℃を維持する高温工程を有するものである、
第1の態様の多孔質セラミックスの製造方法。
【0020】
(第9の態様)
前記発泡剤のHLB値が7~16である、
第2の態様の多孔質セラミックスの製造方法。
【0021】
(第10の態様)
気孔の真円度が0.1以下である、
第1の態様の多孔質セラミックスの製造方法。
【0022】
本態様で製造された多孔質セラミックスは、気孔が局所に偏ることが抑制されたものとなっているが、これは、厳密にはその理由が明らかではないが、おそらく次のように考えることができる。本態様に用いるセルロース粒子は、気泡が破泡するのを抑制する発泡助剤として作用する。本態様に用いられるセルロース粒子は、乾燥した微細繊維状セルロースが多数凝集したものであり、嵩密度が微細繊維状セルロースそのものよりも低いものとなっている。嵩密度が低いので、セルロース粒子が液体内で沈降しづらく、分散した状態が維持される。気泡はセルロース粒子がなければ、浮力により浮上するところであるが、セルロース粒子が分散しているので、浮上が遮られる。その結果、気泡が分散した状態の気泡形成体となり、最終的に全体に分散され、局所的な偏りが抑制される。
【0023】
また、本態様で製造された多孔質セラミックスは、全気孔に占める、超ミクロ気孔の百分率が小さいという特徴を有する。この原因は定かではないが、おそらくセルロース粒子を核として超ミクロな気泡が集まって一定の大きさの気泡となることによるものと推測される。
【0024】
また、形成される気孔は、従来の製造方法で製造された多孔質セラミックスの気孔よりも、大径の気孔や角ばった気孔の割合が少ない。これは、セルロース粒子の分散によって、気泡同士が合体して大きな気泡になるのが抑制され、相対的に小径の気孔が多くを占めることによるものと考えられる。気泡が小径であるが故にその形状も丸みを帯びたものが多くを占めることとなる。
【0025】
また、副次的な効果として、アシル化されたセルロース粒子を材料として製造された多孔質セラミックスは、気孔の形状が丸みを帯びたものとなる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、主な効果として、気孔の孔径分布の偏りが抑制された多孔質セラミックスの製造方法になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】アセチル化処理されたセルロース分子鎖の構造式の一例を表す図である。
【
図3】アセチル化したセルロース粒子のSEM画像である。
【
図4】アセチル化処理されたセルロース粒子を液体に混ぜた状態を表した図である。
【
図5】アセチル化処理されたセルロース粒子を液体に混ぜた状態を表した図である。
【
図6】アセチル化処理されたセルロース粒子を液体に混ぜた状態を表した図である。
【
図7】多孔質セラミックスの各片のSEM像である。
【
図10】β-TCP粉末のFT-IRスペクトルである。
【
図11】アセチル化処理されたセルロース粒子のFT-IRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
【0029】
本形態の多孔質セラミックスの製造方法は、例えば、粉末状のセラミックス原料、セルロース粒子及び発泡剤を混ぜて発泡させ気泡形成体を形成する形成工程を有し、前記セルロース粒子は、平均繊維幅が1~1000nmの乾燥した微細繊維状セルロースが多数凝集したものである、ことを特徴とする。
【0030】
多孔質セラミックスの製造に当たっては、上記態様のうちセルロース粒子を除いて製造することはもちろん可能であるが、セルロース粒子と発泡剤を添加することで、次の効果がある。一般的に発泡した気泡は静置しておくと時間経過とともに、浮力により浮き上がったり、破泡したりする。セラミックス原料、発泡剤とともにセルロース粒子が含まれていると、気泡の浮上や破泡が抑制される効果がある。これは、セルロース粒子が発泡した液中に分散された状態となっていることで、気泡の流動がセルロース粒子によって妨げられ、またセルロース粒子が気泡の形成面の一部となり、気泡が消失するのを抑制することによるものと思われる。
【0031】
(セラミックス原料)
セラミックス原料としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、チタニア、サイアロン、カーボン、炭化珪素、窒化珪素、スピネル、アルミン酸ニッケル、チタン酸アルミニウム、リン酸カルシウム等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、本形態の多孔質セラミックスを骨補填材として使用する場合においては、リン酸カルシウムを使用するのが好ましい。
【0032】
リン酸カルシウムとしては、例えば、ハイドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム、第二リン酸カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム、リン酸カルシウム系ガラス等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、β型リン酸三カルシウム(β-Ca3(PO4)2)(以下、単に「β-TCP」ともいう。)を使用するのが特に好ましい。
【0033】
セラミックス原料は、平均粒径500μm以下の粉末状であるのが好ましく、平均粒径10~500μmの粉末状であるのがより好ましい。
【0034】
β-TCPの粉末は、次の方法によって製造すると好適である。まず、炭酸カルシウム(CaCO3)及びリン酸水素カルシウム二水和物(CaHPO4・2H2O)に純水を加え、ボールミル、ニーダー等の混合機を使用する等して混合する。この混合は、例えば、24~48時間行うと好適である。また、純水は、常温でもよいが、70~90℃に加温しておくと容易に粉末が分散され好適である。
【0035】
次に、この混合により得られた混合物を乾燥する。この乾燥は、例えば、60~70℃で行うと好適である。また、この乾燥は、24~48時間行うと好適である。
【0036】
この乾燥により得られた乾燥体は、いったん粉砕する。この粉砕は、平均粒径が、例えば、0.3~0.5μmとなるまで行うと好適である。この粉砕は、例えば、メノウ乳鉢、自動乳鉢、スタンプミル、乾式ボールミル、ハンマーミル等の粉砕器具を使用して行うことができる。
【0037】
次に、この粉砕により得られた粉砕物を仮焼する。この仮焼は、例えば、700~800℃で行うと好適である。この際、昇温速度は、例えば、3℃/分とすることができる。この仮焼は、8~24時間行うと好適である。
【0038】
この仮焼により得られた仮焼体は、再度粉砕する。この粉砕は、平均粒径が、例えば、0.3~0.5μmとなるまで行うと好適である。この粉砕も前述した粉砕器具を使用して行うと好適である。
【0039】
以上のようにして、粉末状のβ-TCPが得られる。
【0040】
(微細繊維状セルロース)
本形態の形成工程で添加するセルロース粒子は、微細繊維状セルロース(「CNF」ともいう。)が凝集して形成されたものである。そこで、セルロース粒子を説明する前に、微細繊維状セルロースについて次に説明する。
微細繊維状セルロースとしては、例えば、繊維幅が異なる複数種のセルロース繊維、繊維幅が一種のセルロース繊維、あるいはセルロース繊維及びセルロース繊維の凝集物を使用することができ、特に、平均繊維幅が1~1000nmのセルロース繊維を使用するのが好ましい。セルロース繊維は熱分解性を有し、セラミックス原料が焼結する程度に加熱すると気化する等して消失する特性を有する。
【0041】
ここで、「繊維幅が異なる複数種のセルロース繊維」の意味について、説明を加える。本形態において繊維幅が異なる複数種のセルロース繊維とは、平均繊維幅が所定の範囲内にあるセルロース繊維を1種類としてカウントし、平均繊維幅がこれとは異なる範囲内にあるセルロース繊維を他の1種類としてカウントし、このような前提のもと、セルロース繊維が複数種類となる場合を意味する。
【0042】
微細繊維状セルロースの原料としては、広葉樹、針葉樹等を原料とする木材パルプ、ワラ・バガス等を原料とする非木材パルプ、回収古紙、損紙等を原料とする古紙パルプ(DIP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0043】
ただし、不純物の混入を可及的に避けるために、木材パルプを使用するのが好ましい。木材パルプとしては、例えば、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ、機械パルプ(TMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。なお、広葉樹クラフトパルプは、広葉樹晒クラフトパルプであっても、広葉樹未晒クラフトパルプであっても、広葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。同様に、針葉樹クラフトパルプは、針葉樹晒クラフトパルプであっても、針葉樹未晒クラフトパルプであっても、針葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。また、機械パルプとしては、例えば、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、漂白サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0044】
(前処理)
セルロース繊維は、必要により、アルカリ処理、酵素処理、酸処理、酸化処理、叩解等の前処理を施すことができる。微細繊維状セルロースに解繊するのに先立って、パルプに前処理を施しておくことで、解繊の回数を大幅に減らすことができ、解繊のエネルギーを削減することができる。しかしながら、解繊後のセルロース繊維に前処理を施してももちろんよい。
【0045】
解繊に先立ってアルカリ処理すると、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの水酸基が一部解離し、分子がアニオン化することで分子内及び分子間水素結合が弱まり、解繊におけるセルロース繊維の分散が促進される。
【0046】
アルカリ処理に使用するアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム等の有機アルカリ等を使用することができる。ただし、製造コストの観点からは、水酸化ナトリウムを使用するのが好ましい。
【0047】
解繊に先立って酵素処理や酸処理、酸化処理を施すと、微細繊維状セルロースの保水度を高く、結晶化度を低くすることができ、かつ均質性を高くすることができる。例えば微細繊維状セルロースの保水度は300%以上、より好ましくは350%以上である。同保水度が300%を下回ると、微細繊維状セルロース自体の保水力が低く、脱水性は高いものの、セルロースの微細化の程度が低く、所望の大きさのセルロース粒子を得にくくなる。
【0048】
一方、酵素処理や酸処理、酸化処理によると、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの非晶領域が分解され、結果、微細化処理のエネルギーを低減することができ、繊維の均一性や分散性を向上することができる。繊維の均一性は、セルロース粒子の均一性や、ひいては気孔の均一性に直結する。また、前処理により、繊維全体に占める、結晶領域の割合が上がるため、微細繊維状セルロースの分散性が向上する。ただし、前処理は、微細繊維状セルロースのアスペクト比を低下させるため、過度の前処理は避けるのが好ましい。
【0049】
原料の解繊は、例えば、ビーター、高圧ホモジナイザー、高圧均質化装置等のホモジナイザー、グラインダー、摩砕機等の石臼式摩擦機、単軸混練機、多軸混練機、ニーダーリファイナー、ジェットミル等を使用して原料を叩解することによって行うことができる。ただし、リファイナーやジェットミルを使用して行うのが好ましい。
【0050】
原料パルプの解繊は、得られる微細繊維状セルロースの物性等が、以下に示すような所望の値又は評価となるように行うのが好ましい。
【0051】
<平均繊維幅>
微細繊維状セルロースの平均繊維幅(平均繊維径。単繊維の直径平均。)は1000nm以下であり、好ましくは500nm以下、より好ましくは100nm以下、特に好ましくは50nm以下である。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が1000nmを超えると、形成されるセルロース粒子が粒子状ではなく、繊維状のものが残存しやすく、セラミックと混合した際に、繊維状で孔径を開けてしまい、適切な強度の多孔質体を得にくくなる、孔径を得にくくなる。比表面積の相対的に小さいもの、すなわち多孔質形状に乏しいものとなる。微細繊維状セルロースの平均繊維幅1nm以上であり、好ましくは3nm以上、より好ましくは10nm以上である。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が1nm未満だと、保水性と関連し、高保水性を持つため、乾燥したセルロース粒子を得にくくなる。
【0052】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等によって調整することができる。
【0053】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅の測定方法は、次のとおりである。
まず、固形分濃度0.01~0.1質量%の微細繊維状セルロースの水分散液100mlをテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、エタノール100mlで1回、t-ブタノール20mlで3回溶媒置換する。次に、凍結乾燥し、オスミウムコーティングして試料とする。この試料について、構成する繊維の幅に応じて3,000倍~30,000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡SEM画像による観察を行う。具体的には、観察画像に二本の対角線を引き、対角線の交点を通過する直線を任意に三本引く。さらに、この三本の直線と交錯する合計100本の繊維の幅を目視で計測する。そして、計測値の中位径を平均繊維幅とする。
【0054】
<平均繊維長>
微細繊維状セルロースの平均繊維長(単繊維の長さの平均)は、例えば、好ましくは0.01~1000μm、より好ましくは0.03~500μmとするとよい。当該平均繊維長が1000μmを超えると、微細繊維状セルロースの凝集によって形成されたセルロース粒子の径が大きくなり過ぎて、当該セルロース粒子を用いて製造された多孔質セラミックスの気孔が歪んだ形状になり易くなる。当該平均繊維長が0.01μm未満だと、セルロース粒子を製造する際に、微細繊維状セルロースを液体に入れる等の操作を行うと溶けてしまうので、セルロース粒子の形成が困難になるおそれがある。
【0055】
平均繊維長は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
【0056】
微細繊維状セルロースの平均繊維長の測定方法は、平均繊維幅の場合と同様にして、各繊維の長さを目視で計測する。計測値の中位長を平均繊維長とする。
【0057】
<軸比>
微細繊維状セルロースの軸比(平均繊維長/平均繊維幅)は、好ましくは10~1,000,000、より好ましくは30~500,000である。微細繊維状セルロースの軸比が10未満であるとセルロース分はほぼ粒子形状であるので、セルロース粒子を形成しがたくなる。他方、軸比が1,000,000を超えると繊維相互の絡まり度合いが大きく、セルロース粒子が所望の平均粒子径になりにくくなる。
【0058】
<結晶化度>
微細繊維状セルロースの結晶化度は、下限が50以上であるとよく、より好ましくは60以上、特に好ましくは70以上であり、上限が100以下であるとよく、より好ましくは95以下、特に好ましくは90以下である。同結晶化度が50未満であると、乾燥時の温度変化などの影響により、繊維の絡み合いが弱くなり、所望の粒子径のセルロース粒子を形成し難いものとなる。
【0059】
結晶化度は、JIS-K0131(1996)の「X線回折分析通則」に準拠して、X線回折法により測定した値である。なお、微細繊維状セルロースは、非晶質部分と結晶質部分とを有しており、結晶化度は微細繊維状セルロース全体における結晶質部分の割合を意味する。
【0060】
<疑似粒度分布>
微細繊維状セルロースの擬似粒度分布曲線におけるピーク値は、1つのピークであるのが好ましい。1つのピークである場合、微細繊維状セルロースの繊維長及び繊維径の均一性が高く、セルロース粒子を製造する際に微細繊維状セルロース相互の絡み合いが容易に生じるので、製造されたセルロース粒子を再分散させてもほどけにくいものとなる。また、粒子径のばらつきが小さいセルロース粒子となる。
【0061】
微細繊維状セルロースのピーク値はISO-13320(2009)に準拠して測定する。より詳細には、粒度分布測定装置(株式会社セイシン企業のレーザー回折・散乱式粒度分布測定器)を使用して微細繊維状セルロースの水分散液における体積基準粒度分布を調べる。そして、この分布から微細繊維状セルロースの最頻径を測定する。この最頻径をピーク値とする。微細繊維状セルロースは、水分散状態でレーザー回折法により測定される擬似粒度分布曲線において単一のピークを有することが好ましい。このように、一つのピークを有する微細繊維状セルロースは、十分な微細化が進行しており、微細繊維状セルロースとしての良好な物性を発揮することができ、好ましい。なお、上記単一のピークとなる微細繊維状セルロースの粒径の擬似粒度分布のピーク値は、例えば300μm以下であるのが好ましく、200μm以下であるのがより好ましく、100μm以下であるのが特に好ましい。ピーク値が300μmを超えると、相対的に大きな繊維が多く、セルロース粒子の粒子径のばらつきが大きく、セルロース粒子形状が不均一になりやすい
【0062】
微細繊維状セルロースの粒径におけるピーク値、及び擬似粒度分布の中位径は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等によって調整することができる。
【0063】
<保水度>
微細繊維状セルロースの保水度は、特に限定されないが例えば未変性の微細繊維状セルロースであれば、300%以上、より好ましくは350%である。上限値は特に限定されないが、保水度が1000%を上回ると、微細繊維状セルロース自体の保水力が高く脱水性に乏しいので、乾燥過程を経て製造したとしても、乾燥時間が長くなり生産性が悪くなる。一方、微細繊維状セルロースの保水度の下限は特に限定されないが、300%未満だと、微細繊維状セルロースの微細化が進行しておらず、セルロース粒子になりにくく、繊維状のまま存在し、所望の粒子を得られなくなる。
【0064】
微細繊維状セルロースの保水度は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
【0065】
微細繊維状セルロースの保水度は、JAPAN TAPPI No.26(2000)に準拠して測定した値である。
【0066】
<パルプ粘度>
解繊した微細繊維状セルロースのパルプ粘度は、1~10cps、より好ましくは2~9cps、特に好ましくは3~8cpsである。パルプ粘度は、セルロースを銅エチレンジアミン液に溶解させた後の溶解液の粘度であり、パルプ粘度が大きいほどセルロースの重合度が大きいことを示しており、繊維そのものの強さにも影響する。
【0067】
<B型粘度>
微細繊維状セルロースを水に分散して得られるスラリー(濃度2%)のB型粘度は、1000~200000cpsが好ましく、1500~100000cpsがより好ましく、2000~90000cpsが特に好ましい。当該スラリーのB型粘度を以上の範囲内にすると、セラミックス原料との混合や、混合物の乾燥、成形加工等が容易になる。
【0068】
(セルロース粒子)
本発明においてセルロース粒子は発泡助剤として作用する。従来の多孔質セラミックスは、一例として発泡剤を発泡させて気泡形成体を得て、この発泡形成体を焼結して製造されていた。他方、本発明の形態では、セルロース粒子が発泡により形成された気泡の流動や消失を抑制するように作用する。この作用により、製造される多孔質セラミックス中に形成される気孔の分布の偏りが軽減され、極端に大きな径の気孔の形成が抑制されるので、骨補填材の用途に即したものとなる。
【0069】
本実施形態のセルロース粒子は、微細繊維状セルロースが乾燥して形成されたものであるが、微視的に見ると、微細繊維状セルロースが単体のまま乾燥して凝集(たとえて言うと、一本の糸が糸内で絡み合うこと)し形成されたものもあれば、微細繊維状セルロースが複数、乾燥時に凝集して凝集塊となったものもある。微細繊維状セルロースが構成単位であるセルロースにヒドロキシ基(OH基)及び水素基(H基)を有するので、微細繊維状セルロースを有するセルロース粒子もヒドロキシ基及び水素基を有する。ヒドロキシ基や水素基が他のヒドロキシ基や水素基と水素結合することで、微細繊維状セルロースが同セルロース内部で又は相互に水素結合して凝集して、セルロース粒子が形成される。セルロース粒子を液体に混ぜると、加水分解等して水素結合がほどけ、セルロースの凝集が弱まって部分的又は全体がほどけた微細繊維状セルロースが液体に分散することになる。中には、セルロース相互の凝集がほどけずセルロース粒子のまま液体に分散することもある。
【0070】
本実施形態のセルロース粒子は、大小様々な粒子径を有することが特徴的である。具体的には、統計上セルロース粒子(又はセルロース粒子群)の粒子径の広がりが大きい、すなわち、粒子径の分散係数が大きいものとなっている。なお、当該セルロース粒子は、真球度に優れるものではなく、個々が凹凸を有し、多孔質形状であり、異なる形状をしている。
【0071】
<平均粒子径>
セルロース粒子は、平均粒子径が10~500μm、好ましくは15~400μm、さらに好ましくは20~300μmとなるものである。当該平均粒子径が500μmを超過すると、気孔の径が大きいもの(マクロ気孔又はそれ以上の径の気孔)が多く形成され、かつ歪んだ形状の気孔が形成される傾向にある。このような気孔を有する多孔質セラミックスは、強度が著しく小さいので骨補填材としての用途に向かないおそれがある。他方、当該平均粒子径が10μm未満のセルロース粒子は製造が困難である。
【0072】
セルロース粒子の平均粒子径(後述するメディアン径、累計10%径、及び累計90%)は、ISO-13320(2009)に準拠した測定装置、具体的にはレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(粒度分布)「LA-960V2」を用いて、セルロース粒子に付着した水分を飛ばさずに乾式方法にて測定をした数値である。
【0073】
<比表面積>
セルロース粒子の比表面積は好ましくは10m2/g以下、より好ましくは8m2/g以下、さらに好ましくは5m2/g以下である、同比表面積の下限は特に制限されないが0.01m2/gである。同比表面積が10m2/gを上回ると、セルロース粒子の表面に微状な凹凸が多くなることを示し、また粒子そのものも軽量、かつ嵩密度も低くなるため、セラミック原料を混合すると粒子が破壊されやすい。他方同比表面積が0.01m2/gを下回ると、粒子表面に凹凸がなく、密な粒子となりやすく強度も出やすいが、その製造が非常に困難である。
【0074】
比表面積は、BET法により測定した。具体的には、測定器にカンタクローム・インスツルメンツ社製NOVA4200eを用い、窒素ガスによる吸着法により測定した。準拠する試験方法は、JISZ8830:2013である。
【0075】
<水分率>
セルロース粒子の水分率は好ましくは50%以下、より好ましくは40%、さらに好ましくは30%以下である。同水分率が50%を超えるセルロース粒子は、多くの水分が含まれ、油系分散媒に混ぜて分散させても、分散状態が維持されない場合がある。
【0076】
<嵩密度>
本実施形態に係るセルロース粒子は、好ましくは固め嵩密度が0.1~1.0g/cm3、より好ましくは固め嵩密度が0.1~0.9g/cm3、さらに好ましくは固め嵩密度が0.1~0.8g/cm3の範囲となるものである。当該固め嵩密度が1.0g/cm3を超えるセルロース粒子は、繊維同士が強固に絡み合った凝集体となっており、液体に添加すると、自重により次第に沈降し始めることがあり分散性に優れるものとはいえない。当該固め嵩密度が0.1g/cm3未満のセルロース粒子は、空気中で粉体が崩壊しやすくハンドリング性に乏しい。
【0077】
<圧縮度>
本実施形態に係るセルロース粒子のゆるめ嵩密度と固め嵩密度、圧縮度の間には、次の関係式[数1]が成り立つ。
[数1]
(圧縮度(%))=((固め嵩密度)-(ゆるめ嵩密度))/(固め嵩密度)×100
【0078】
固め嵩密度及びゆるめ嵩密度はCarrの流動性指数の算出に用いられる項目の一つであり、ASTM D6393-99 圧縮度測定方法に準拠して測定した。測定は、「多機能型粉体物性測定器マルチテスターMT-02」(株式会社セイシン企業製)である。
【0079】
セルロース粒子の圧縮度については、圧縮度が好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%であるとよい。本実施形態のセルロース粒子は軽量であるため、ゆるめ嵩密度の測定後に固め嵩密度を測定するために行う圧縮操作を行う過程で空隙が解消される(すなわち、セルロース粒子間に形成された空隙の解消によって容器内でセルロース粒子が相互に密に充填される)のみであり、セルロース粒子自体の密度の変化が小さく、粒子形状の崩壊が起こりにくい。他方、セルロース粒子の圧縮度の下限は、特段制限されない(すなわち0%)が、上記の空隙が僅かに発生することを考慮すると例えば1%以上であってもよい。
【0080】
(製造)
セルロース粒子は、微細繊維状セルロースを原料として凍結乾燥する手法や減圧乾燥する手法、加熱乾燥する手法、噴霧乾燥する手法、噴霧式凍結・減圧乾燥による手法によって製造することができるが、特に加熱乾燥による手法を用いると、微細化セルロース同士が強固な凝集力で結合したセルロース粒子を製造することができ好ましい。
【0081】
セルロース粒子は、微細繊維状セルロースを乾燥処理させて得られるものである。加熱乾燥処理されたセルロース粒子は、繊維が相互に凝集し、水系や油系媒体に入れても形状を保つ性質がある。本形態に用いるセルロース粒子としては、ドラムドライ方式により得られるものやスプレードライ方式により得られるものを例示できる。ドラムドライ方式によるセルロース粒子の製造方法によれば、相対的に高濃度の、又は流動性に乏しい微細繊維状セルロースであっても、凝集しにくく、分散が容易な乾燥体を得ることができる。ドラムドライ方式によるセルロース粒子の製造は一例としては次のように行う。
【0082】
微細繊維状セルロースは、例えばスラリー(水分散液)状態で乾燥処理を行うドラムドライヤーに供給することができるが、この場合の微細繊維状セルロースの含有量(絶乾質量%)は、1質量%以上、好ましくは1.5質量%、より好ましくは2.0質量%である。また、当該含有量は、10質量%以下、好ましくは7質量%、より好ましく5質量%である。当該含有量が10質量%を超えると、スラリーの粘度が高すぎてハンドリング性に欠ける。他方、当該含有量が1質量%未満だと、水分を除去するのに多くのエネルギーと時間を消費し、経済的ではない。
【0083】
ドラムドライ方式による乾燥処理で用いるドラムドライヤーは、公知のものであってよい。例えば、ジョンソンボイラー社製品の「ジョンミルダーJM-T型」を用いることができる。ドラムドライヤーとしては、内転式ドラムドライヤーを好適に使用できる。内転式ドラムドライヤーであれば、穏やかな乾燥処理がなされ、比表面積が相対的に小さい乾燥体となる。乾燥処理は、常圧下で行うことができる。
【0084】
ドラムドライヤーの運転条件については、ドラム内面の表面温度が80~200℃、好ましくは90~190℃である。当該表面温度であれば、強固な凝集力のある乾燥体を得ることができる。当該表面温度が200℃を超えると、微細繊維状セルロースの繊維の一部が熱変性を起こすおそれがある。他方、当該表面温度が80℃未満だと、水分の除去に時間を多く費やしてしまうだけでなく、水分が非常に高い粒子となる。また、ドラムドライヤーの回転速度は、ドラムの内径やスラリーの投入量にもよるが、例えば1rpm以上2rpm以下とすることができる。ドラムドライヤーで乾燥させる時間は、スラリーの投入量にもよるが1秒~60秒あれば、十分乾燥し、それを超える時間乾燥させても乾燥体の水分量はそれ以上低くならない。
【0085】
(アシル化)
気泡形成体の形成工程では、上記のとおりに製造されたセルロース粒子を添加するが、添加するセルロース粒子がある程度疎水化されたものであると、気泡形成体を構成する気泡がより長時間にわたり維持されることを本発明の発明者等は見出した。これは、おそらくセルロース粒子が疎水化されることで、液体内でセルロース粒子相互の凝集が抑制されることによるものと考えられる。セルロース粒子を疎水化する手法としては、例えば、セルロース粒子のセルロース繊維を構成するヒドロキシ基をアシル基で置換する手法を挙げることができる。アシル基が導入されたセルロース粒子は、反発の作用により、アシル基が導入されていない場合よりも凝集が起こりにくいものとなる。
【0086】
セルロース粒子に導入するアシル基としては、例えば、アセチル基、プロパノイル基、プロピオニル基やベンゾイル基などを挙げることができる。特にアセチル基を導入したセルロース粒子は、容易に液体に分散されるので好ましい。また、導入に適するアシル基は、発泡剤のHLB値の程度によるところがあるが、発泡剤のHLB値が7~20であれば、高い親水性を呈するものではなく、この場合、組み合わせとしてアセチル基が好ましい。アセチル基が導入されたセルロース粒子であれば、当該セルロース粒子と発泡剤がそれぞれ液体内に適度に分散されたものとなるので、気孔が、偏りが抑制された状態で分布した多孔質セラミックスが製造される。
【0087】
セルロース粒子のアシル化は、セルロース粒子を製造する前の微細繊維状セルロースに行ってもよいし、セルロース粒子を製造した後の当該セルロース粒子に行ってもよい。微細繊維状セルロースをアシル化した場合は、アシル化微細繊維状セルロースを原料としてセルロース粒子を製造するとよい。形成工程でセラミックス原料とセルロース粒子と発泡剤を混ぜた混合物(通常、この混合物は発泡を行うため、水が適量含んだものとなっている。)では、セルロース粒子が分散されたものとなるが、セルロース粒子の一部は微細繊維状セルロースにほどけることがある。しかし、大部分はほどけずにセルロース粒子の形態を維持している。そのため、セルロース粒子をアシル化したものを混合物の構成要素とすれば、アシル化されたセルロース粒子が当該混合物に分散され好ましい。
【0088】
セルロース粒子のアシル化の手法の一例として、無水酢酸を用いたアセチル化を次に示す。容器にセルロース粒子と無水酢酸、ピリジンを入れ、100~110℃で4~72時間加熱する。この間、撹拌をし続けておくと一様にアセチル化反応が促進され好ましい。加熱後、放冷して、無水酢酸、ピリジン及び反応副生成物を取り除き、反応物を得る。
【0089】
アシル化(特にアセチル化)の置換度(DS)は、0.05以上、好ましくは0.05~2.0、より好ましくは0.06~1.9である。置換度(DS)とは、セルロース中の一グルコース単位に対する官能基の平均置換数をいう。アシル化(特にアセチル化)の置換度が0.05未満だと、アシル化した効果が乏しい。アシル化の置換度は、加熱温度、加熱時間を変えることで調節することができる。
【0090】
(発泡剤)
発泡剤の使用(発泡法)には、多くの経験則が存在するというメリットがあるので、発泡剤の使用も現時点においては好ましいものである。この際に使用する発泡剤(起泡剤)としては、界面活性剤であれば特に限定なく用いることができるが、特に非イオン性界面活性剤を用いるのが好ましい。具体的には、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、アルカノールアミド、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。また、これらの非イオン性界面活性剤には、酸化エチレンを添加して発泡剤とすることもできる。
【0091】
特に、ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、非常に毒性が弱く人体への害が少ないし、弱発泡性で適度な大きさの泡が多数発生し、大径の気孔が支配的になりにくいので骨補填材用途の多孔質セラミックスとして好適である。
【0092】
発泡剤のHLB値は、7~16、好ましくは8~15、より好ましくは9~14である。当該HLB値が16を超過すると気孔の形状が真球になりにくいとの知見を発明者等は得ている。これは、おそらく発泡剤が疎水的であるので、ミセルの形成が不安定化することによるものと考えられる。他方HLB値が7未満だと水の表面張力の抑制作用が強く、小径の気孔が多数発生するものとなる。なお、HLB値はグリフェインの方法に準じて算出したものである。
【0093】
(形成工程)
気泡形成体を形成する形成工程は、一例として次の手順で行うことができる。粉末状のセラミックス原料に、発泡剤とセルロース粒子を添加して発泡させて気泡形成体を形成する手順である。発泡には適量の水を混ぜておくとよい。
【0094】
形成工程は、上記手順のほか、次の手順とすることもできる。具体的には、さらに分散剤を添加して行うのであり、前記セラミックス原料に前記分散剤と前記セルロース粒子を添加して混ぜて第1混合物とし、前記第1混合物に前記発泡剤を添加して混ぜて発泡させ気泡形成体を形成するものである、この手順とすることで、気泡分布に偏りが発生しづらくなる。分散剤としては、水溶性高分子化合物、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウム塩等のポリアクリル酸誘導体、ポリカルボン酸アンモニウムなどの中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0095】
分散剤の添加にあたっては、セルロース繊維の分散機能を有し、かつセラミックス原料の分散機能も有する分散剤を使用するのが好適である。このような分散剤としては、ポリアクリル酸アンモニウム(PAA)を使用するのが好ましい。PAAは、気孔形成のために発泡剤を使用する場合において、セラミックス原料の解膠剤として使用することができ、発泡助剤としてセルロース繊維を使用する場合にも有用であることを発明者等は知見している。
【0096】
PAAの濃度は高いものとするのが好ましく、好適には起泡前の混合液全体量(前述の混合物に分散剤を加えた全体量)のうちの10容量%以上、より好適には25~45容量%、特に好適には30~40容量%である。他方、濃度を高くするのではなく添加量を増やすこともできるが、添加量を増やすと次いで行う乾燥の負荷が上がり、乾燥時間を長くするか、乾燥温度を高くする必要が生じる。しかるに、これらの対応によると、セラミックス原料が収縮し易くなり、ひび割れが生じる原因となる。
【0097】
一方、PAAの濃度が高過ぎると、得られる多孔質セラミックスがぼろぼろになり易くなる。
【0098】
混合にあっては、セラミックス原料、セルロース粒子、及び分散剤を混合し、この混合物に発泡剤を添加して、ボールミル、ニーダー等の混合機を使用する等してさらに混合するとよい。この混合は、例えば、5~10分間行うと好適である。この混合操作は、超音波を当てながら行うと泡立ちが良く好ましい。
【0099】
セルロース粒子はセラミックス原料1質量部に対して、0.01~0.5質量部、好ましくは0.05~0.4質量部、より好ましくは0.1~0.4質量部含まれていると、気孔の形状が丸みを帯び、またミクロ気孔、マクロ気孔、超ミクロ気孔の比率が極端に偏らず好ましい。セルロース粒子がセラミックス原料1質量部に対して0.5質量部を超過すると、セルロース粒子の寄与が強く作用して、球形から外れた形状の気泡が多量に発生してしまうおそれがある。また、セルロース粒子がセラミックス原料1質量部に対して0.01質量部未満だと、セルロース粒子を添加した効果が得にくい。
【0100】
次に、この混合により得られた混合物は、極端に大きく発砲した泡が発生することがあるので、タッピングを行って大きな泡を消泡するとよい。その後、低温で乾燥することで気泡形成体が形成される。乾燥の条件は、次の通りにすることができる。温度は、例えば35~70℃、好適には38~42℃である。また、乾燥時間は、例えば2~5日、好適には3日である。この点、本形態においては微細繊維状セルロースを使用することで、ミクロ気孔、マクロ気孔のほか超ミクロ気孔を形成することができる仕様になっており、穏やかな乾燥が適する。
【0101】
(焼結工程)
乾燥によって得られた気泡形成体は、焼結する。この焼結は、気泡形成体を加熱して焼結するものである。加熱は特に限定されないが、二段以上の複数段(段階)で行うとセラミックスのひび割れを抑制でき好ましい。例えば、焼結工程において少なくとも0.5~24時間、950~1100℃を維持する恒温工程を有すると、多孔質セラミックスのひび割れを抑制することができる。
【0102】
また、他の例として、焼結工程を低温焼結と高温焼結との二段で行うのがより好ましい。焼結を二段で行う場合は、当該焼結が180~300℃(好適には200~250℃)での低温焼結と、これに次ぐ800~1100℃(好適には1000~1100℃)での高温焼結とであると好適である。この形態によると、低温焼結においては主にセラミックス原料が焼結され、高温焼結においては主にセルロース繊維等の発泡助剤が気化除去される。低温焼結が先行することで発泡助剤の除去に先立ちセラミックス原料が確実に固まった状態になるため、小さな径の開気孔が確実に形成される。
【0103】
低温焼結の時間は、例えば2~6時間、好適には3~5時間である。また、高温焼結の時間は、例えば40~300分、好適には40~240分である。低温でゆっくり焼結し、高温で一気に発泡助剤を除去してしまうと、セラミックス原料のひび割れ等を可及的に防ぐことができる。なお、昇温速度は、例えば、1~5℃/分とすることができる。
【0104】
また、4段階に焼結するとより好ましい。焼結を4段で行う場合は、第1段階目が150~200℃(好適には160~180℃)で2~6時間の焼結と、これに次ぐ第2段階目が250~350℃(好適には280~320℃)で2~6時間の焼結と、続く第3段階目が350~450℃(好適には380~420℃)で2~6時間の焼結と、その後、第4段階目が950~1100℃(好適には1000~1050℃)で0.5~24時間の焼結とするとよい。4段階による焼結方法の中でも、特に第1段階では、4~5℃/分で昇温して170~190℃とし、3~4時間、当該温度を維持する第1昇温工程と、第2段階では、前記第1昇温工程の後に4~5℃/分で昇温して290~310℃とし、3~4時間、当該温度を維持する第2昇温工程と、第3段階では、前記第2昇温工程の後に4~5℃/分で昇温して390~410℃とし、3~4時間、当該温度を維持する第3昇温工程と、第4段階では、前記第3昇温工程の後に4~5℃/分で昇温して1000~1120℃とし、3~4時間、当該温度を維持する第4昇温工程を有するものが好適である。この形態によると、第1段階~第3段階の焼結においては主にセルロース繊維等の気泡助剤が気化除去され、第4段階の焼結においてはセラミックス原料が焼結される。段階的に昇温することで気泡助剤等の除去が行われた後に,セラミックス原料が焼結していくために、大きな径の気孔、小さな径の気孔が確実に形成される。
【0105】
(多孔質セラミックス)
以上のようにして製造された本形態の多孔質セラミックスは、多数の気孔が形成される。気孔は、多孔質セラミックスの表面から連通する開気孔と、多孔質セラミックスの内部に存在する気孔であり、多孔質セラミックスの表面から連通しない閉気孔とからなる。なお、特許文献、特開昭63-40782号公報には、焼結品は全て閉気孔のない開気孔であった旨の記載が存在する。しかしながら、本発明者等は、発泡助剤として発泡剤を使用した従来の方法(発泡法)によると、閉気孔率が30%程度にもなることを知見している。
【0106】
本形態の多孔質セラミックスは、全気孔率が50~95%、好ましくは60~90%、より好ましくは70~90%である。全気孔率が95%を超過すると骨補填材として用いる強度として不十分になるおそれがある。他方、全気孔率が50%未満だと細胞伸展の良好な足場に用い難いものとなるおそれがある。
【0107】
本形態の多孔質セラミックスの開気孔率は、好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上である。本形態のセラミックス原料は、上記したように閉気孔の百分率を低く抑えているため、このような高い開気孔率にしたとしても強度の点で問題を生じるおそれが極めて少ない。
【0108】
ここで、全気孔率は、全気孔の容積/多孔質セラミックスの容積×100(%)で求めることができ、開気孔率は、開気孔の容積/多孔質セラミックスの容積×100(%)で、閉気孔率は、閉気孔の容積/多孔質セラミックスの容積)×100(%)でそれぞれ求めることができる。
【0109】
また、本形態の多孔質セラミックスは、全気孔率に占める開気孔率の百分率が55%以上、好ましくは80%以上、好適には90%以上であり、99%以下、好ましくは98.5%以下、好適には98以下である。他方、全気孔率に占める閉気孔率の百分率は45%以下、好適には20%以下、より好適には10%以下に抑えられている。このように開気孔の割合を高くすることで、気孔率を極端に高くすることなく、開気孔率を従来と同程度、又はそれ以上とすることができる。したがって、多孔質セラミックスの強度が低下するおそれがない。この点、例えば、骨補填材の場合であれば、骨補填材は骨欠損部に補填され、当該骨欠損部が修復されるまでの初期段階においては骨欠損部の補強を行い、骨欠損部の修復後においては生体骨に吸収される。したがって、骨補填材の強度は、極めて重要である。また、このように開気孔率を高くすることができると、次いで説明するように、ミクロ開気孔及びマクロ開気孔の併存が可能になる。
【0110】
本形態の多孔質セラミックスは、気孔として、孔径が1μm以上かつ20μm未満、好ましくは1μm以上かつ15μm未満、より好ましく1μm以上かつ10μm未満の範囲内にあるミクロ気孔(ミクロ開気孔及びミクロ閉気孔)と、孔径が前記所定の範囲を上回る範囲内にあるマクロ気孔(マクロ開気孔とマクロ閉気孔)が併存している。このようにミクロ気孔とマクロ気孔、特にミクロ開気孔とマクロ開気孔を併存させることで、例えば、本形態の多孔質セラミックスを骨補填材として利用する場合においては、血管や細胞等と、栄養分やたんぱく質等との両方の遊走・定着に対応した多孔質セラミックスとなる。
【0111】
マクロ気孔の孔径は、20μm以上かつ600μm未満、好ましくは20μm以上かつ500μm未満、より好ましくは20μm以上かつ400μm未満である。また、マクロ気孔よりも大径である超マクロ気孔が併存されていてもよい。超マクロ気孔は孔径が600μm以上である。
【0112】
本形態の多孔質セラミックスは、より好適には、孔径がミクロ気孔の範囲を下回る微小径範囲内にある超ミクロ気孔(超ミクロ開気孔及び超ミクロ閉気孔)が併存する。この形態においては、気孔が超ミクロ気孔、ミクロ気孔、及びマクロ気孔(超マクロ気孔を含んでもよい)となり、例えば、本形態の多孔質セラミックスを骨補填材として利用する場合においては、より需要に即したものとなる。
【0113】
超ミクロ開気孔は、前述したセルロース粒子(発泡助剤)が焼結工程で高温により焼失することによって形成される。また、上記小径範囲、つまり超ミクロ開気孔の孔径は、好ましくは1μm未満である。
【0114】
マクロ気孔は、セルロース粒子と発泡剤で形成された気泡と考えられる。ミクロ気孔は、発泡剤が攪拌されて形成された気泡が焼結して形成されたものであり、マクロ気孔は、ミクロ気孔大の気泡が相互に合体する等して形成された大径の気泡が焼結して形成されたものである。気泡は、発泡剤、セルロース粒子、セラミックス原料の添加量やこれらを含む混合物の掻き混ぜ方やタッピングしだいで、小径の気泡となったり、大径の気泡となったりする場合がある。
【0115】
超ミクロ気孔は、微細繊維状セルロースが焼結工程で焼失した結果、形成された気孔である。
【0116】
本形態の多孔質セラミックスは、特徴的には孔径1μm未満の気孔が従来のものよりも少ないものとなっており、孔径1μm以上かつ20μm未満の気孔が従来のものよりも多いものとなっている。
【0117】
したがって、好ましい多孔質セラミックスの形態として、全気孔(すなわち、気孔の全容積の総和)に占める、孔径1μm未満の気孔(すなわち、孔径1μm未満の気孔の全容積の総和)の百分率が20~50%、好ましくは25~50%、より好ましくは30~50%である多孔質セラミックスを挙げることができる。
【0118】
また、全気孔(すなわち、気孔の全容積の総和)に占める、孔径1μm以上かつ20μm未満の気孔(すなわち、孔径1μm以上かつ20μm未満の気孔の全容積の総和)の百分率が20~40%、好ましくは22~40%、より好ましくは25~40%である多孔質セラミックスも好ましい形態である。
【0119】
本形態の多孔質セラミックスは、気孔の平均孔径が10~100μm、好ましくは10~80μm、より好ましくは10~50μmである。気孔の平均孔径が上記範囲にある多孔質セラミックスであれば、骨形成細胞の遊走に用いられる気孔が豊富であり、骨の形成がより妨げなくなされる。
【0120】
マクロ気孔は主に細胞伸展の良好な足場となり、ミクロ気孔は薬剤や組織液の浸入、固定化に関与する。そのため、ミクロ気孔とマクロ気孔との存在比が3:7~7:3、好ましくは4:6~6;4である多孔質セラミックスが好ましい。
【0121】
本形態の多孔質セラミックスは、気孔の真円度が、0.2以下、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.1以下であるとよい。当該円形度が0.2を超えると歪な孔が形成されていることになり、部分的な強度の低下を招くおそれがある。
【0122】
本形態の多孔質セラミックスは、圧縮強さが1MPa以上、好ましくは1.5MPa以上、より好ましくは2MPa以上であり、10MPa以下である。圧縮強さが1MPa未満だと、術時のハンドリング性に乏しいものとなる。他方、圧縮強さの上限は特に限定されないが、例えば、10MPa以下だと、骨形成が抵抗なく行われ、骨欠損の修復がスムーズになされるので好ましい。なお、圧縮強さはJIS-R1608(2003)に準拠し、クロスヘッド速度を0.5mm/分で測定される。
【0123】
焼結工程を経て製造された本形態の多孔質セラミックスは、形状としては特に限定されない。発泡混合液を流し込む容器の形状に左右されるが、例えば直方体をしたものを挙げることができる。直方体であれば、幅6cm×奥行き6cm×高さ3cmを例示できる。このほかにも立方体(例えば、一辺5cm。)等の六面体、球体等として提供することができる。この大きさの多孔質セラミックスを得るにあたっては、例えば、大きな多孔質セラミックスを製造し、適宜の大きさに切り出すとよい。大きく製造し、小さく切り出す方が、多孔質セラミックが均質化する。
【0124】
本形態で製造された多孔質セラミックスは、気孔を形成する形成面が丸みを帯びたものとなっているが、発泡助剤として用いるセルロース粒子にアシル化されたものを用い、発泡剤のHLB値が7~16であれば、より丸みを帯びた気孔が形成され易くなることを発明者等は知見している。このようになるメカニズムは厳密にはわかっていない。しかしながら、おそらく発泡剤とセルロース粒子相互の疎水性が影響しているものと推察できる。従来、多孔質セラミックスを製造するために用いる発泡剤は、HLB値が大であっても小であっても発泡がなされる限り限定されなかった。他方、本形態の多孔質セラミックスの製造においては、発泡剤のHLB値が前述の範囲であるので、発泡剤が所定の疎水性を有している。また、セルロース粒子もアシル化により疎水的になっている。発泡剤、セルロース粒子の双方が疎水的であるので、気泡が好適に分散性され、大径化しにくくなり、角ばった気泡が形成されづらくなり、結果として気泡の形成面が丸みを帯びたものとなると思われる。
【0125】
本態様では、形成される気孔の形状が球状に近いものとなっているが、微細繊維状セルロースを発泡助剤とする従来の製造方法で製造された多孔質セラミックスは、球状から外れた形態(例えば、角ばった形状、気孔の形成面がゴツゴツした形状や多面体、気孔の形成面の一部だけ突出した形状等)となる。
【0126】
(用途)
本形態の多孔質セラミックスは、好適には骨補填材として利用することができる。ただし、骨補填材等の生体材料としてのほか、例えば、フィルター、燃料電池やガス・湿度センサー等の電極、触媒担体、断熱材、経口投与薬、加工食品、飲料、各種吸着カラム材、化粧料、歯磨剤、消臭剤、脱臭剤、入浴剤、洗顔剤、シャンプー、トイレタリー用品等の添加剤などとしても利用することができる。
【0127】
(その他)
本明細書において開気孔率は、アルキメデス法で測定した値である。また、閉気孔率は、全気孔率から開気孔率で引いた値であり、全気孔率はアルキメデス法で求めたかさ比重と計算密度(理論密度)とを用いて計算した値である。
【0128】
本明細書において骨補填材とは、生体のインプラント材として骨、歯、歯根等の補填用に使用する多孔質セラミックスをいう。
【実施例0129】
実施例を次に示す。実施例に用いたセルロース粒子は大王製紙株式会社製「エレックス(登録商標)-P」である。
【0130】
(β-TCP粉末の調製)
β-TCP粉末は、次の手順で調製した。まず、炭酸カルシウム(純度99.5%,和光純薬,和光特級)0.1125mоl及びリン酸水素カルシウム二水和物(純度98.0%,純正特級)0.225mol(Ca/Pmоl比=1.50)に80℃の純水45mlを加え、ジルコニアポット(ニッカトー製)及びジルコニア製ボール(ニッカトー製,直径5mmのボール600g,直径10mmのボール900g)を使用して24時間、湿式混合した。次に、この混合物を70℃で24時間乾燥した。得られた乾燥体は、メノウ乳鉢を使用して粉砕し、更に750℃で10時間、大気雰囲気下で仮焼した。昇温速度は、3℃/分とした。得られた仮焼体は、粉砕して粉末状にした(β-TCP粉末)。この粉末のSEM画像を、
図8に示した。
【0131】
得られたβ-TCP粉末のXRDパターンを
図9に、FT-IRスペクトルを
図10に示した。XRDパターンより上記の得られたβ-TCP粉末が、β-TCPの結晶構造に帰属する回折パターンと一致した。また、副生成物に見られるピークが確認できなかったため、上記の得られたβ-TCP粉末がβ-TCPであると同定された。FT-IRの結果よりβ-TCPに備わるPO
4の変角振動が420cm
-1,580cm
-1近傍に、PO
4の伸縮振動が800~1200cm
-1近傍にそれぞれ見られたため、上記の得られたβ-TCP粉末がβ-TCPであると同定された。
<試験例1>
【0132】
(多孔質セラミックスの作製)
操作手順1:得られたβ-TCPの粉末30g及び(アセチル化していない)セルロース粒子2gを入れた容器に、30%ポリアクリル酸アンモニウム(PAA,和光一級)水溶液50mLを加え、超音波を当てつつハンドミキサーで均一に分散するように5分間撹拌した。なお、超音波は、容器を超音波水槽(アズワン社製)内に浸して当てたものである。その後、発泡剤4mLを当該容器に加えて5分間撹拌して発泡させて発泡体を得た。発泡剤はノニオン界面活性剤のポリオキシエチレンアルキルエーテル(R-О-(CH2CH2O)5-H (RはC12~C14のアルキル基,BT-5,NIKKOL社製)を使用した。
【0133】
操作手順2:得られた発泡体を角さや(縦60mm×横60mm)に流し込み、高さが30mmになるようにタッピングし、その後、乾燥させた。乾燥の条件は、タッピングした発泡体を40℃で48時間放置し、その後70℃で24時間放置して気泡形成体(乾燥体)を得た。得られた乾燥体を焼結した。焼結工程は多段階に行い具体的には次の通りに行った。第1段階として昇温速度5℃/分で昇温して180℃とし、4時間、当該温度を維持した。次に5℃/分で昇温して300℃とし、4時間、当該温度を維持した。さらに5℃/分で昇温して400℃とし、4時間、当該温度を維持した。加えて5℃/分で昇温して1000℃とし、4時間、当該温度を維持した。その後、放冷して多孔質セラミックス(試験例1)を得た。
【0134】
<試験例2>
(アセチル化処理)
セルロース粒子1gに対して、40mLの無水酢酸(富士フイルム和光純薬社製特級)及び2mLのピリジン(富士フイルム和光純薬社製1級)を用いこれらを容器(ビーカー)にいれ、アルミホイルで蓋を被せ、100℃に保ち所定時間(所定時間は4時間である)撹拌をした。その後、攪拌物をアセトンで洗浄しつつ、ろ紙(東洋濾紙社製5C(グレード))で吸引濾過を行い、無水酢酸、ピリジン及び副生成物等を透過させて残分を得た。当該残分を70℃で8時間乾燥した後、室温まで放冷して、これをFT-IRスペクトル測定、走査型電子顕微鏡(SEM)観察の調製試料とした。この試料のFT-IRスペクトル測定結果を
図11に、SEM画像を
図3に示した。
【0135】
FT-IRスペクトル測定の結果より、調製試料は3700cm-1から3000cm-1近傍にOHの伸縮振動に由来する波形が、2950cm-1から2850cm-1近傍にCHの伸縮振動に由来する波形がそれぞれ認められた。これらの波形からセルロース構造が推認される。また、1740cm-1近傍にアセチル基中のC=Oの伸縮振動に由来する波形が、1230cm-1近傍にC-Oの伸縮振動に由来する波形がそれぞれ認められた。これらの波形から調整試料がアセチル基を有するセルロース粒子(アセチル化セルロース粒子)であることが同定された。当該アセチル化セルロース粒子は置換度が0.1であった。
【0136】
(多孔質セラミックスの作製)
多孔質セラミックス(試験例2)は、セルロース粒子としてアセチル化セルロース粒子を用いた以外は試験例1と同様の手順で作製した。
【0137】
<試験例3>
(アセチル化処理)
試験例3でのアセチル化処理は、上記試験例2でのアセチル化処理の手順のうちの攪拌に要した時間(所定時間)を24時間とした以外は同様の手順で行った。当該アセチル化セルロース粒子は置換度が0.15であった。
【0138】
(多孔質セラミックスの作製)
多孔質セラミックス(試験例3)は、セルロース粒子としてアセチル化セルロース粒子を用いた以外は試験例1と同様の手順で作製した。
【0139】
<参考例1>
参考例1の多孔質セラミックスはセルロース粒子を加えずに作製した。
【0140】
(多孔質セラミックスの作製)
多孔質セラミックス(参考例1)は、試験例1の多孔質セラミックスの作製手順のうちのセルロース粒子を加えずに作製した以外は試験例1と同様の手順で作製した。
【0141】
<参考例2>
参考例2の多孔質セラミックスはセルロース粒子の代わりに微細繊維状セルロースのスラリーを加えて作製した。
【0142】
(多孔質セラミックスの作製)
多孔質セラミックス(参考例2)は、試験例1の多孔質セラミックスの作製手順のうちのセルロース粒子2gに代えて微細繊維状セルロースのスラリー0.9g(絶乾質量)(大王製紙株式会社製「エレックス(登録商標)-S」を加えて作製した以外は試験例1と同様の手順で作製した。
【0143】
図11に示す、FT-IRスペクトルから求めたアセチル基の置換度の概算結果より、撹拌に要した時間(上記の所定時間)が長いほどピーク強度が大きくなることがわかった。
【0144】
各試験例及び各参考例の配合を表1に示す。
【0145】
【0146】
<試験1:SEM画像観察>
上記手順で直方体の多孔質セラミックスを得た。多孔質セラミックスは、高さ方向に3等分となる各点を通る水平面を切断面として、水平方向に切断して3つの切断片(上から上片、中片、下片)とした。多孔質セラミックスのSEM画像を
図7にそれぞれ示した。
【0147】
例えば、試験例1について気孔が上片、中片、下片に亘って一様に分布しており、上片のみに偏るようなことは観察されなかった。同様のことが、試験例2,3についてもいえる。
【0148】
<試験2:気泡維持性能試験>
次に、気泡維持性能試験を行った。発泡剤はノニオン界面活性剤のポリオキシエチレンアルキルエーテル(R-О-(CH2CH2O)5-H (RはC12~C14のアルキル基,BT-5,NIKKOL社製)を使用した。
<試験例4>
上記で得られたβ-TCPの粉末30g及び(アセチル化していない)セルロース粒子5gを入れた容器に、10%ポリアクリル酸アンモニウム(PAA,和光一級)水溶液50mLを加え、超音波を当てつつハンドミキサーで均一に分散するように5分間撹拌した。なお、超音波は、容器を超音波水槽(アズワン社製)内に浸して当てたものである。その後、発泡剤4mLを当該容器に加えて5分間撹拌して発泡させて発泡体を得た。この発泡体の全量をメスシリンダーに入れ、静置して、時間経過(0分、60分)における気泡の高さを測定した。これを試験例4とする。
【0149】
<試験例5>
上記で得られたβ-TCPの粉末30g及び置換度0.1のアセチル化セルロース粒子5gを入れた容器に、10%ポリアクリル酸アンモニウム(PAA,和光一級)水溶液50mLを加え、超音波を当てつつハンドミキサーで均一に分散するように5分間撹拌した。なお、超音波は、容器を超音波水槽(アズワン社製)内に浸して当てたものである。その後、発泡剤4mLを当該容器に加えて5分間撹拌して発泡させて発泡体を得た。この発泡体の全量をメスシリンダーに入れ、静置して、時間経過(0分、60分)における気泡の高さを測定した。これを試験例5とする。
【0150】
<参考例3>
上記で得られたβ-TCPの粉末30gを入れた容器に、10%ポリアクリル酸アンモニウム(PAA,和光一級)水溶液50mLを加え、超音波を当てつつハンドミキサーで均一に分散するように5分間撹拌した。なお、超音波は、容器を超音波水槽(アズワン社製)内に浸して当てたものである。その後、発泡剤4mLを当該容器に加えて5分間撹拌して発泡させて発泡体を得た。この発泡体の全量をメスシリンダーに入れ、静置して、時間経過(0分、60分)における気泡の高さを測定した。これを参考例3とする。
【0151】
気泡維持性能試験は、所定の時間経過後にメスシリンダーに入れた発泡体の高さを計測して、泡がどの程度維持されるかについて、気泡維持率という指標で表す試験である。気泡の維持率は次の算式により求めることができる。
(気泡の維持率(%))=(60分経過後の発泡体の高さ(mm))/(0分経過後の発泡体の高さ(mm))×100
【0152】
気泡維持性能試験の結果を表3に示す。試験例4及び試験例5は、参考例3と比較して気泡の維持率が高かった。
【0153】
【0154】
<試験3:分散性能試験>
セルロース粒子の分散性についての試験を行った。
試験3-1:アセチル化されていないセルロース粒子について
水とメシチレンを入れた透明瓶にアセチル化されていないセルロース粒子を混ぜて、相の流動が収まるまで放置した。その結果、水相(下相)とメシチレン相(上相)の二相に分かれ、セルロース粒子は水相の底部に沈降した。また、水とクロロホルムを入れた透明瓶にアセチル化されていないセルロース粒子を混ぜて、相の流動が収まるまで放置した。その結果、水相(上相)とクロロホルム相(下相)の二相に分かれ、セルロース粒子は水相とクロロホルム相の界面に留まった。以上の結果を
図5に示した。
【0155】
試験3-2:アセチル化セルロース粒子(置換度0.10)について
水とメシチレンを入れた透明瓶にアセチル化セルロース粒子を混ぜて、相の流動が収まるまで放置した。その結果、水相(下相)とメシチレン相(上相)の二相に分かれ、セルロース粒子はメシチレン相に分散した。また、水とクロロホルムを入れた透明瓶にアセチル化セルロース粒子を混ぜて、相の流動が収まるまで放置した。その結果、水相(上相)とクロロホルム相(下相)の二相に分かれ、セルロース粒子は水相とクロロホルム相の界面に留まった。以上の結果を
図6に示した。
【0156】
試験3-3:微細繊維状セルロースのスラリー(エレックス(登録商標)-S)について
水とメシチレンを入れた透明瓶に微細繊維状セルロースのスラリーを混ぜて、相の流動が収まるまで放置した。その結果、水相(下相)とメシチレン相(上相)の二相に分かれ、微細繊維状セルロースは水相に分散した。また、水とクロロホルムを入れた透明瓶に微細繊維状セルロースのスラリーを混ぜて、相の流動が収まるまで放置した。その結果、水相(上相)とクロロホルム相(下相)の二相に分かれ、微細繊維状セルロースは水相に分散した。以上の結果を
図4に示した。
【0157】
微細繊維状セルロースは水相に高い分散性を示したのに対して、アセチル化されていないセルロース粒子及びアセチル化セルロース粒子は水相に分散しにくいものとなった。
【0158】
<試験4:気孔の孔径分布測定>
多孔質セラミックスの気孔の孔径分布を測定した。結果を表2に示す。表2において孔径1μm未満とは、気孔の全容積の総和に占める、孔径1μm未満の気孔の全容積の総和の百分率という。また、孔径1μm以上20μm未満とは、気孔の全容積の総和に占める、孔径1μm以上かつ20μm未満の気孔の全容積の総和の百分率という。孔径20μm以上600μm未満とは、気孔の全容積の総和に占める、孔径20μm以上かつ600μm未満の気孔の全容積の総和の百分率という。孔径600μm以上とは、気孔の全容積の総和に占める、孔径600μm以上の気孔の全容積の総和の百分率という。
【0159】
試験例1,2は参考例1,2と比較して、平均孔径が大きいといえる。また、孔径1μm未満の気孔が試験例1,2の方が参考例1,2よりも少なく分布している。さらに、孔径1μm以上20μm未満の気孔が試験例1,2の方が参考例1,2よりも多く分布している。なお、孔径分布の測定はマイクロメリテックス社製「オールポアV9620」を用いて行った。
【0160】
【0161】
<試験4:真円度、圧縮強さ、嵩密度、気孔率>
試験例及び参考例について気孔の真円度、多孔質セラミックスの圧縮強さ、多孔質セラミックスの嵩密度及び、多孔質セラミックスの気孔率を測定した。真円度の測定方法は次のとおりである。SEM画像(50倍)から孔径50~400μmの範囲にある気孔を無作為に10点抽出し、抽出された各気孔について最も長い径(長径)と最も短い径(短径)を測定し、長径と短径の割合を求める。そして、長径を1に正規化して、当該割合から短径の長さ(正規化された短径)を算出する。これを10点について行う。こうして算出された10点の正規化された短径の平均値を求める。次の算式により真円度を求める。
(真円度)=(1-正規化された短径の平均値)/2
真円度は、0に近づくほど真円に近い気孔といえる。
【0162】
圧縮強さは縦6mm×横6mm×高さ9mmに加工した多孔質セラミックスを用いて測定した。