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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131218
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】遠隔作業システム
(51)【国際特許分類】
   B25J 3/00 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
B25J3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035818
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】蔡 麗佳
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS11
3C707BS03
3C707CS08
3C707HS27
3C707JT05
3C707JU12
3C707KS07
3C707KT01
3C707KT05
3C707WA16
(57)【要約】
【課題】遠隔作業者が作業状況を把握しやすくする。
【解決手段】作業システム1は、トーチ14を遠隔操作してワークに対する作業を行わせる遠隔操作部31と、トーチ14の作業状況を報知する報知手段として、画像を表示させる表示部45と、音声を出力させる音声出力部46と、力を出力させる遠隔操作部31とを備える。報知手段のうち、少なくとも2つの出力態様のものは、作業状況に関する情報であって互いに異なる複数の作業情報が対応付けられ、当該複数の作業情報を個別に報知する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業部を遠隔操作してワークに対する作業を行わせる遠隔操作手段と、
前記作業部の作業状況を報知する報知手段と、
を備え、
前記報知手段は、画像を表示させる表示出力と、音声を出力させる音声出力と、前記遠隔操作手段に力を出力させる力出力とのうち、少なくとも2つの出力態様を有し、
前記少なくとも2つの出力態様は、前記作業状況に関する情報であって互いに異なる複数の作業情報が対応付けられ、当該複数の作業情報を個別に報知する、
遠隔操作システム。
【請求項2】
前記複数の作業情報は、前記作業部と前記ワークとの距離の情報を含み、
前記報知手段は、前記力出力により前記距離の情報を報知する、
請求項1に記載の遠隔操作システム。
【請求項3】
前記複数の作業情報は、前記作業部の速度の情報を含み、
前記報知手段は、前記表示出力により前記速度の情報を報知する、
請求項1又は請求項2に記載の遠隔操作システム。
【請求項4】
前記複数の作業情報は、前記作業部の作業音の情報を含み、
前記報知手段は、前記音声出力により前記作業音の情報を報知する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の遠隔操作システム。
【請求項5】
前記表示出力では、前記作業状況に関する情報を、前記作業部を撮影した撮影画像上に重畳して表示させる、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の遠隔操作システム。
【請求項6】
前記少なくとも2つの出力態様は、オンオフの切替えが個別に設定可能である、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の遠隔操作システム。
【請求項7】
前記少なくとも2つの出力態様と前記複数の作業情報とは、互いの対応関係を変更可能である、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の遠隔操作システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠隔作業システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作業者が遠隔から作業ロボットを操作して作業を行う遠隔操作システムが知られている。このような遠隔操作システムでは、作業ロボットに搭載されたカメラによって作業状況が撮影され、作業者はその映像をモニタで視認しながら作業ロボットの遠隔操作を行う(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2019-505391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、作業状況を撮影したカメラ映像だけでは、作業者(操作者)に提示される情報が限られてしまい、作業状況の正確な把握が難しい。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、遠隔作業者が作業状況を把握しやすくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る遠隔操作システムは、
作業部を遠隔操作してワークに対する作業を行わせる遠隔操作手段と、
前記作業部の作業状況を報知する報知手段と、
を備え、
前記報知手段は、画像を表示させる表示出力と、音声を出力させる音声出力と、前記遠隔操作手段に力を出力させる力出力とのうち、少なくとも2つの出力態様を有し、
前記少なくとも2つの出力態様は、前記作業状況に関する情報であって互いに異なる複数の作業情報が対応付けられ、当該複数の作業情報を個別に報知する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、遠隔作業者が作業状況を把握しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係る作業システムを示す概念図である。
図2】実施形態に係る溶接車両の斜視図である。
図3】実施形態に係るトーチの先端部周辺を示す図である。
図4】実施形態に係る作業システムの概略の制御構成を示すブロック図である。
図5】実施形態に係る操作支援処理の流れを示すフローチャートである。
図6】実施形態に係る溶接車両の撮像部で撮影されたトーチ周辺の溶接部の撮影画像例である。
図7】実施形態に係る操作支援処理を説明するための図である。
図8】実施形態に係る操作支援処理を説明するための図である。
図9】実施形態に係る操作支援処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0009】
[作業システムの構成]
図1は、本実施形態に係る作業システム1を示す概念図である。
この図に示すように、作業システム1は、本発明に係る遠隔操作システムの一例であり、作業者(オペレータ)WKの遠隔操作により溶接車両10に溶接作業を行わせるためのものである。具体的に、作業システム1は、溶接車両10と、遠隔操作装置3と、制御装置4とを備える。
【0010】
図2は、溶接車両10の斜視図である。
この図に示すように、溶接車両10は、水平に設置された鉄製の板材(鋼板)20上を矢印α方向に移動しながら、溶接対象物であるワーク、すなわち板材20同士を溶接する溶接ロボットである。溶接後、この板材20は、例えば、床として使用される。
なお、以下では、互いに直交するXYZの各方向を、各図に示すとおり設定する。一例として、XY平面が水平、Z方向が鉛直方向となっている。また、溶接車両10の移動方向(α方向)は、-Y方向となっている。ただし、溶接車両10の移動方向は-Y方向に限定されず、例えばその反対方向(+Y方向)であってもよい。
【0011】
本実施形態の溶接車両10は、アーク溶接により2つの板材20に対してV型開先突合せ溶接を行う。つまり、端部を斜めにカットして開先面(側面20a)とした2つの板材(鋼板)20を突合せてV型溝21の継手とし、この溝(開先)21を埋めるように溶接を行う(図7参照)。溝21の底部にはセラミックの裏当て材25が配置され(図2では図示省略)、裏当て材25の表面が溝21の底面25aとなっている。溝21は、板材20の用途にもよるが、例えば、全長が5m以上、幅が5mm程度、深さが10mm程度である。また、本実施形態では、溝21の長手方向がY方向と平行であり、溝21の幅方向がX方向と平行であり、溝21の深さ方向がZ方向と平行となっている。
溶接車両10は、後述のトーチ14でワイヤ(溶加材:図示せず)を溶融し、当該溶融された溶融物で溝21を埋めることにより、板材20同士を溶接する。
なお、以下では、ワークの表面、すなわち、溝21の側面20a及び底面25aと、板材20の上面20bとを、「ワーク面」という場合がある。
【0012】
具体的に、溶接車両10は、車体11と、溶接装置12と、4つの車輪18と、各車輪18を回転駆動させる駆動部16とを備える。
【0013】
車体11は、各車輪18(車輪本体)を回転可能に支持する回動支持部(支持部)13を有する。
また、各回動支持部13の外側には、駆動部16が固定されている。駆動部16は、例えばギアモータ(ギアードモータ)で構成され、車輪18に連結されている。そして、駆動部16が作動することにより、車輪18を回転させることができる。この回転により、溶接車両10は、例えば板材20の上面20b(表側の面)を走行面として走行することができる。
なお、車輪18の配置数は、本実施形態では4つであるが、これに限定されない。
【0014】
車体11上には、溶接装置12が搭載されている。溶接装置12は、トーチ(溶接トーチ)14と、トーチ14を変位可能に支持する変位機構15とを備える。
トーチ14は、板材20に対して溶接作業を行う作業部である。本実施形態のトーチ14は、アーク放電によりアーク溶接を行うよう構成されている。このアーク溶接により、板材20同士を容易かつ強固に溶接することができる。
【0015】
変位機構15は、第1移動機構151と、第2移動機構152と、第3移動機構153と、回動機構(角度調整機構)154とを有する。
第1移動機構151は、トーチ14を車体11に対して、矢印α方向と平行な方向(Y方向)に移動させる機構である。
【0016】
第1移動機構151には、第2移動機構152が連結されている。第2移動機構152は、トーチ14を車体11に対して、矢印α方向と直交する方向(X方向)に移動させる機構である。
第2移動機構152には、第3移動機構153が連結されている。第3移動機構153は、トーチ14を車体11に対して、上下方向(Z方向)に移動させる機構である。
【0017】
第3移動機構153には、回動機構154が連結されている。回動機構154は、連結部155を介してトーチ14と連結されている。この回動機構154は、トーチ14を車体11に対して水平軸回りに回動させる機構である。
このような構成の変位機構15により、板材20同士の継ぎ目に対するトーチ14の位置および姿勢を適宜変更することができ、溶接を容易に行うことができる。
【0018】
図3は、トーチ14の先端部周辺を示す図である。
この図に示すように、トーチ14には、連結部材171を介して、撮像部17が連結、支持されている。撮像部17は、例えばCMOSカメラやCCDカメラ等で構成され、トーチ14および板材20(溝21)を含む撮影対象を撮像し、その画像情報を取得する。取得された画像情報は制御装置4に送信される。本実施形態の撮像部17は、溶接車両10の進行方向(-Y方向)側の斜め上方から、トーチ14周辺の溶接部を撮影する。
また、トーチ14には、レーザ光照射部19も支持されている。レーザ光照射部19は、溝21を含む板材20に向けてレーザ光LBを照射する。本実施形態のレーザ光照射部19は、トーチ14とX方向で同じ位置に、トーチ14のY方向に隣り合って配置されている。これにより、レーザ光照射部19からのレーザ光LBは、その中心がトーチ14とX方向で同じ位置で照射される。また、本実施形態のレーザ光照射部19は、レーザ光LBとして、X方向に沿ったラインレーザ光を照射するよう構成されている。これにより、後述するように、撮像部17でワーク面の形状を正確に検出することができる。
【0019】
図4は、作業システム1の概略の制御構成を示すブロック図である。
この図に示すように、遠隔操作装置3は、作業者WKが溶接車両10から離れた別室等で、溶接車両10に対して遠隔操作を行う装置である。従って、作業システム1は、作業者WKの操作に溶接車両10が遅延なく追従するリーダフォロアシステムとなっている。
遠隔操作装置3は、作業者WKによって把持され、所望の方向に力を加えることができる遠隔操作部31を有する。
【0020】
作業者WKは、Y方向(に対応した方向)に力を加えて遠隔操作部31を操作すれば、変位機構15の第1移動機構151を介して、トーチ14をY方向に移動させることができる。
同様に、作業者WKは、X方向(に対応した方向)に力を加えて遠隔操作部31を操作すれば、変位機構15の第2移動機構152を介して、トーチ14をX方向に移動させることができる。
また、作業者WKは、Z方向(に対応した方向)に力を加えて遠隔操作部31を操作すれば、変位機構15の第3移動機構153を介して、トーチ14をZ方向に移動させることができる。
遠隔操作部31は、変位機構15を作動させて、トーチ14をX方向と、Y方向と、Z方向とに移動させ得る遠隔操作を行うことができる。また、遠隔操作部31は、後述するように、トーチ14とワークとの距離に応じた反力がフィードバックされる力覚提示デバイスとなっている。遠隔操作部31の形態は特に限定されず、例えばジョイスティック等を用いることができる。
【0021】
制御装置4は、例えばパーソナルコンピュータで構成される。制御装置4は、溶接車両10、遠隔操作装置3及び溶接車両10と電気的に接続されており、作業システム1各部の動作を統括的に制御する。なお、「電気的な接続」とは、無線による接続、有線による接続のいずれもでもよい。
具体的に、制御装置4は、CPU41と、記憶部42と、通信部43と、入力部44と、表示部45と、音声出力部46とを有する。
【0022】
CPU41は、入力部44の操作内容等に基づいて制御装置4の各部を動作させたり、記憶部42に予め記憶されているプログラムを展開し、展開されたプログラムと協働して各種処理を実行したりする。
記憶部42は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等により構成されるメモリであり、各種のプログラム及びデータを記憶するとともに、CPU41の作業領域としても機能する。
【0023】
通信部43は、遠隔操作装置3及び溶接車両10との間で各種情報を送受信可能な通信デバイスである。具体的に、通信部43は、遠隔操作装置3からの入力信号、すなわち命令を受信したり、当該入力信号を溶接車両10の通信部101に送信したりする。
入力部44は、作業者WKが制御装置4を動作させるための各種操作を行う操作手段であり、例えばマウス等のポインティングデバイスやキーボードを含む。
【0024】
表示部45は、例えば液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイその他のディスプレイで構成され、CPU41からの表示信号に基づいて各種情報を表示する。本実施形態の表示部45は、撮像部17で撮像された画像等を表示する。作業者WKは、表示部45に表示された画像を視認しながら、遠隔操作を行うことができる。なお、表示部45は、入力部44の一部を兼ねるタッチパネルであってもよい。
音声出力部46は、例えばスピーカで構成され、CPU41からの音声出力信号に基づいて各種音声を出力する。
本発明に係る報知手段は、互いに異なる出力態様(報知態様)を有する表示部45、音声出力部46及び遠隔操作部31を含む。
【0025】
溶接車両10は、上記構成のほか、通信部101と制御部102を有する。
通信部101は、制御装置4の通信部43との間で各種情報を送受信可能な通信デバイスである。具体的に、通信部101は、制御装置4の通信部43から送信されてきた遠隔操作装置3からの入力信号を受信したり、撮像部17が取得した画像情報等を制御装置4の通信部43に送信したりする。
制御部102は、通信部101が受信した遠隔操作装置3からの入力信号に基づいて、溶接車両10の各部の動作を制御する。これにより、入力信号どおりに溶接車両10が遠隔操作される。
【0026】
[操作支援処理]
続いて、作業システム1の溶接作業時に実行される操作支援処理について説明する。
図5は、操作支援処理の流れを示すフローチャートであり、図6は、溶接車両10の撮像部17で撮影されたトーチ14周辺の溶接部の撮影画像例であり、図7図9は、操作支援処理を説明するための図である。
操作支援処理は、作業者WKが溶接車両10を遠隔操作して行う溶接作業において、作業者WKによる作業状況の把握を促進して遠隔操作を支援する処理である。この操作支援処理は、例えば作業者WKの入力操作に基づいて、制御装置4のCPU41が記憶部42から該当プログラムを読み出して展開することで実行される。
【0027】
図5に示すように、操作支援処理が実行されると、まず制御装置4のCPU41は、作業者WKの遠隔操作によるワークの開先溶接を行う作業を開始する(ステップS1)。
この溶接作業では、CPU41は、作業者WKによる遠隔操作部31の操作内容に対応した入力信号を溶接車両10に送信する。溶接車両10の制御部102は、受信した入力信号に基づいて各部を動作させる。これにより、溶接車両10は、溝21に沿って移動しながら、トーチ14の先端(下端)から下方にワイヤを供給しつつ当該ワイヤを溶融して板材20同士を溶接する。
またこのとき、CPU41は、溶接車両10の撮像部17で撮影されたトーチ14周辺の溶接部の画像(図6参照)を表示部45にリアルタイム表示させる。この溶接部の撮影画像(映像)には、トーチ14先端から供給されるワイヤとワーク(溝21)、これらの間で発生するアーク、当該アークによってワイヤが溶融した溶融池(前方溶融池)が含まれる。作業者WKは、表示部45に表示された撮影画像を視認して溶接状況・状態を確認しながら、遠隔操作部31を操作する。
【0028】
次に、CPU41は、トーチ14の移動速度を算出する(ステップS2)。この算出手法は特に限定されず、駆動部16の動作等に基づいて溶接車両10自体の移動速度を算出してもよいし、撮像部17の撮影画像を画像処理して算出するなどしてもよい。
【0029】
そして、CPU41は、ステップS2で算出したトーチ14の移動速度に基づいて、当該移動速度を作業者WKに報知する表示出力を行う(ステップS3)。
本実施形態では、CPU41は、例えば、トーチ14の移動速度が所定の基準範囲から外れた場合に、これを警告する表示を、表示部45に表示された撮像部17の撮影画像上に重畳させる。この表示態様は特に限定されず、例えばトーチ14の移動速度に応じて段階的に色を変化させたり、「速度落とせ」等の文字や速度数値を表示させたりしてもよい。トーチ14の移動速度の基準範囲は、上限又は下限のみが設定されたものであってもよい。なお、当該ステップS3における「移動速度を報知する表示出力」には、移動速度が基準範囲内の場合であって特段の画像処理を行わないこと(撮影画像の表示のまま)を含む。トーチ14の移動速度を報知する表示は、撮像部17の撮影画像上に重畳させなくともよく、撮影画像の周囲近傍に配置してもよい。
これにより、作業者WKは、表示部45の表示内容からトーチ14の移動速度を感知することができる。また、トーチ14の移動速度が撮像部17の撮影画像と併せて表示されるため、リアルタイムのトーチ14周辺の溶接部の状況とトーチ14の移動速度とを、表示部45から認識・取得することができる。
【0030】
なお、トーチ14の移動速度の基準範囲は、予め設定された所定値であってもよい。
あるいは、トーチ14の移動速度の基準範囲は、撮像部17の撮影画像を画像処理して設定してもよい。この場合についてより詳しく説明する。セラミック等の裏当て材25(図7参照)を使用した開先突合せ溶接では、トーチ14の移動が速すぎるとワイヤが溶融池(前方溶融池)を追い越して裏当て材25の上に来てしまい、放電が消えてしまう。そこで、図6に示すように、撮影画像の画像処理によって例えば色に基づいて溶融池(前方溶融池)を検出し、この溶融池の幅の大きさに基づいてトーチ14の移動速度を報知する表示出力を行う。具体的には、溶融池の幅が小さくなる場合には、トーチ14の移動速度が大きいと判断し、トーチ14の移動速度が大きいことを報知する表示出力を行う(例えば溶融池の領域の色を所定の色(例えば赤色)に変化させる)。反対に溶融池の幅が大きくなる場合には、トーチ14の移動速度が小さいと判断し、トーチ14の移動速度が小さいことを報知する表示出力を行う(例えば溶融池の領域の色を上記所定の色とは異なる色(例えば青色)に変化させる)。この場合の表示態様は特に限定されず、例えばトーチ14の移動速度の大きさ(すなわち溶融池の幅の変化率)に応じて、溶融池の領域の色の濃度を変えるなどしてもよい(例えば、移動速度が大きいほど色の濃度を上げる)。またこの場合、ステップS2でのトーチ14の移動速度の算出が不要であるのは勿論である。また、移動速度の判定に用いる溶融池の幅は、移動方向と直交する方向(X方向)の幅(横幅)であってもよいし、移動方向(Y方向)に沿った幅(縦幅)であってもよい。
【0031】
次に、図5に示すように、CPU41は、溶接車両10の溶接装置12(又は溶接車両10への電力供給源)から溶接電流値(又は電圧値)を取得する(ステップS4)。なお、溶接電流値(又は電圧値)の取得(検出)手法は特に限定されない。
【0032】
そして、CPU41は、ステップS4で検出した溶接電流値(又は電圧値)に基づいて、疑似的な溶接音を生成して音声出力部46から出力させる(ステップS5)。
生成された溶接音は、疑似的とは言え、溶接電流値(又は電圧値)の大きさや変化等に応じたものであるため、ワイヤが溶けた溶融金属(溶滴)のワーク上への移行状態に関する情報を有している。したがって、作業者WKは、音声出力部46から出力される溶接音により、溶滴の移行状態を感知することができる。
なお、疑似的な溶接音に代えて実際の溶接音を用いてもよい。つまり、溶接車両10にマイクを配置して実際の溶接音を拾い、この実際の溶接音を音声出力部46から出力させてもよい。この場合、ステップS4での溶接電流値の取得が不要であるのは勿論である。
【0033】
次に、CPU41は、トーチ14の先端位置とワークとの距離に応じた反力Fを算出し、遠隔操作部31に出力させる(ステップS6)。
具体的には、図7に示すように、トーチ14先端の最近傍点を中心とする関心領域(ROI)を点群データから抽出し、それぞれの点からトーチ14先端に向かうベクトルの加重和として反力Fを求める。ワーク面の点群データは、レーザ光照射部19によって随時取得される。ただし、レーザ光照射部19(又はワークのCADモデル)を用いて予め取得した点群データを用いてもよい。ROIは、点群のうちトーチ14先端に対する最近傍点を中心として、XYの各方向に所定個数の点を取り出して正方形状のものとする。そして、自身からトーチ14先端までの距離にその大きさが反比例する力を、ROIの各点がトーチ14先端に及ぼすとし、それらの合力として反力Fを以下の式(1)により求める。
【数1】
ここで、Piは、個数がNROIであるROI内のi番目の点の位置であり、Prは、トーチ14先端の位置である。また、式(1)の係数Kは対角行列K=diag(kx,ky,kz)であり、kx,ky,kzの値の選び方によって力ベクトルの各成分に異方性を生じさせられるようにしている。kx,ky,kzの値は、例えば、ワークとの距離を同一にして、トーチ14先端を開先中心と開先面の中心にそれぞれ置いたときの力の大きさが同じになるように定める。この値は作業者WKが随時変更できる。
なお、上記式(1)では、反力Fがトーチ14先端位置とワークとの距離(Pr-Pi)に反比例(-1乗)することとしたが、この指数は-1以下の実数(例えば-1.5乗、-2乗、-3乗等)としてもよい。例えば、この指数を-2乗や-3乗にすると、トーチ14先端が開先面に近づくに連れて、反力Fがより急峻に強くなる。
【0034】
このように、遠隔操作部31から出力される反力Fは、トーチ14先端とワーク面との距離に反比例する。そのため、遠隔操作部31を操作する作業者WKは、トーチ14先端がワークに接近するほど強い反力Fを感じる。すなわち、作業者WKは、遠隔操作部31にフィードバックされる反力Fにより、トーチ14とワークとの距離を感知することができる。これにより、ワーク面に対するトーチ14の接近を作業者WKに認識させ、トーチ14とワークとの衝突を好適に防止できる。
【0035】
次に、図5に示すように、CPU41は、操作支援処理を終了させるか否かを判定し(ステップS7)、終了させないと判定した場合には(ステップS7;No)、上述のステップS1へ処理を移行し、溶接作業を続行する。
そして、例えば溶接作業の終了等により、操作支援処理を終了させると判定した場合には(ステップS7;Yes)、CPU41は、操作支援処理を終了させる。
【0036】
このように、本実施形態の操作支援処理では、トーチ14の作業状況(作業状態)に関する複数の作業情報が、互いに異なる出力態様(報知態様)で作業者WKに報知される。具体的には、トーチ14の移動速度が表示部45から表示出力され、トーチ14の溶接音が音声出力部46から音声出力され、トーチ14とワークとの距離に応じた反力Fが遠隔操作部31から力(反力)出力される。
これにより、作業者WKは、互いに異なる出力態様の複数の報知手段から、互いに異なる複数の作業情報を感知・取得できる。換言すれば、複数の作業情報が、互いに異なる出力態様の複数の報知手段に分散されて作業者WKに報知される。したがって、作業者WKは、情報の混同等を起こすことなく、より直感的に複数の作業情報を感知・取得でき、より容易に作業状況を把握することができる。
【0037】
なお、ステップS3、S5、S6における出力態様(報知態様)は、本実施形態のものに限定されない。
例えば、トーチ14とワークとの距離は、反力出力に限定されず、これらの位置関係の情報に基づいて音声や画像表示で出力してもよい。具体的には、トーチ14とワークの距離に応じて、警報音やメロディなどの音声出力、及び/又は警告画像の表示出力が行われることにより、ワークへのトーチ14の接近が作業者WKに報知される。この場合の画像出力は、撮像部17の撮影画像(映像)に情報を合成し、AR(Augmented Reality)画像等としてもよい。例えば図8に示すように、出力する情報の強度(例えば、トーチ14の色の濃さ、反力強さを示す矢印の長さ、音量の大きさや間隔等)を、トーチ14とワークの距離に反比例(又は、距離が近づくにつれて出力を大きく・強く)させてもよい。距離が閾値以上の場合には、特に情報を出力しなくてもよい。
あるいは、レーザ光照射部19により計測したワーク面の三次元形状データを、撮像部17の撮影画像上に重ねて表示してもよい。例えば図9(a)に示すように、ワーク面のうちトーチ14先端に最も近い位置(点)を含んでX方向に沿った線や面を、強調表示部E1として強調表示(例えば色を付ける等)してもよい。このように、ワーク面上におけるトーチ14の接近箇所を撮影画像上で強調表示することにより、例えばトーチ14とワークとの距離を斜めに捉えた撮影画像であっても、当該距離を作業者WKに把握しやすくすることができる。さらに、図9(b)に示すように、トーチ14先端を通るように強調表示部E1をZ方向(トーチ14とワークとの距離の方向)に平行移動させた線を、強調表示部E2として併せて強調表示してもよい。これにより、トーチ14とワークとの距離をより一層作業者WKに把握しやすくすることができる。
【0038】
さらに言えば、本実施形態の操作支援処理では、画像を表示させる表示出力と、音声を出力させる音声出力と、遠隔操作部31に力を出力させる力出力とのうち、少なくとも2つの出力態様(報知態様)に対し、作業状況に関する情報であって互いに異なる複数の作業情報が対応付けられていればよい。また、報知される「トーチ14(作業部)の作業状況に関する作業情報」は、作業者WKによる作業状況の把握を援けるものであればよく、トーチ14の移動速度、トーチ14の溶接音、トーチ14とワークとの距離に限定されない。
【0039】
[本実施形態の技術的効果]
以上のように、本実施形態によれば、画像を表示させる表示出力と、音声を出力させる音声出力と、遠隔操作部31に力を出力させる力出力とのうち、少なくとも2つの出力態様に対し、互いに異なる複数の作業情報が対応付けられ、当該少なくとも2つの出力態様によって個別に報知される。
これにより、作業者WKは、互いに異なる少なくとも2つの出力態様の報知手段から、互いに異なる複数の作業情報を感知・取得できる。換言すれば、複数の作業情報が、互いに異なる出力態様の複数の報知手段に分散されて作業者WKに報知される。したがって、遠隔の作業者WKは、情報の混同等を起こすことなく、より直感的に複数の作業情報を感知・取得でき、作業状況を把握しやすくなる。
【0040】
また、本実施形態によれば、表示部45では、トーチ14の移動速度といった作業情報が、トーチ14周辺の溶接部を撮影した撮影画像上に重畳して表示される。
これにより、作業者WKは、リアルタイムの溶接部の状況(状態)と、トーチ14の移動速度といった作業情報との少なくとも2つの情報を、表示部45から好適に取得できる。
【0041】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限られない。
例えば、複数の報知手段(表示部45、音声出力部46、遠隔操作部31)と、これが報知する複数の作業情報とは、互いの対応関係を変更可能であるのが好ましい。これにより、例えば作業情報の種別、作業者WKの能力や好み等に応じて、作業情報と報知手段の対応関係を好適に設定できる。
また、報知手段(表示部45、音声出力部46、遠隔操作部31)は、オンオフの切替えが個別に設定可能であるのが好ましい。
【0042】
また、上記実施形態では、遠隔操作装置3の操作対象が溶接車両10であることとしたが、本発明に係る遠隔操作手段の操作対象は、ワークに対して作業を行う作業部を有するものであれば特に限定されない。例えば、据え置き型のロボットアームであってもよいし、直動のスライダーやアクチュエータ等であってもよい。
また、遠隔操作装置3と制御装置4とは、一体的に(例えば一体の遠隔操作装置として)構成されてもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、作業システム1により溶接作業が行われることとした。しかし、本発明に係る作業(種別)は溶接に限定されず、作業部を遠隔操作してワークに対して実行可能な作業であればよく、例えば研磨や塗装といった表面加工作業等を含む。
その他、上記実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 作業システム(遠隔操作システム)
3 遠隔操作装置
4 制御装置
10 溶接車両
14 トーチ(作業部)
20 板材(ワーク)
31 遠隔操作部(報知手段)
45 表示部(報知手段)
46 音声出力部(報知手段)
WK 作業者
図1
図2
図3
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図9