(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131228
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】加工工具及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B24D 3/00 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
B24D3/00 310C
B24D3/00 320A
B24D3/00 320B
B24D3/00 340
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035829
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】若林 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】花島 幸司
【テーマコード(参考)】
3C063
【Fターム(参考)】
3C063BB02
3C063BB03
3C063BB24
3C063BC02
3C063CC09
3C063CC13
3C063EE40
3C063FF30
(57)【要約】
【課題】研削屑が挟まり難く、且つ、研削屑が容易に除去できる加工工具を提供する。
【解決手段】加工装置によって回転され、被加工物を研削する加工工具において、 その外周面に固着層によって砥粒20が固着された加工部を有し、砥粒20が回転軸に平行な方向、及び前記回転軸に垂直な平面上の前記外周面の周方向に規則的に配置されている。また、砥粒20は、回転軸に平行な方向、及び外周面の周方向に千鳥状に配置されている。また、砥粒20が回転軸に平行な方向に一列に連続的に配置された砥粒列を複数有し、各砥粒列の砥粒が、回転軸に垂直な平面上の外周面の周方向に、砥粒20の平均粒径以上の一定の間隔を空けて配置されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工装置によって回転され、被加工物を研削する加工工具であって、
その外周面に固着層によって砥粒が固着された加工部を有し、前記砥粒が回転軸に平行な方向、及び前記回転軸に垂直な平面上の前記外周面の周方向に規則的に配置されたことを特徴とする加工工具。
【請求項2】
前記砥粒は、回転軸に平行な方向、及び前記外周面の周方向に千鳥状に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の加工工具。
【請求項3】
前記砥粒が回転軸に平行な方向に一列に連続的に配置された砥粒列を複数有し、各砥粒列の砥粒が、前記回転軸に垂直な平面上の前記外周面の周方向に、前記砥粒の平均粒径以上の一定の間隔を空けて配置されていることを特徴とする請求項1に記載の加工工具。
【請求項4】
前記固着層は、前記加工部の基材上に形成された接着層と、前記接着層上に形成されためっき層とを有する請求項1~3のいずれか一項に記載の加工工具。
【請求項5】
前記固着層は、前記加工部の基材上に形成されたろう材を主成分とする層を有する請求項1~3のいずれか一項に記載の加工工具。
【請求項6】
前記砥粒は、ダイヤモンド、アルミナ又はCBNから形成されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の加工工具。
【請求項7】
加工装置によって回転され、被加工物を研削する加工部を有する加工工具の製造方法であって、
メッシュシートの網目の中に、砥粒をシート面内の互いに直交する2方向に規則的に配置する工程と、
前記メッシュシートの網目の中に配置された砥粒を、接着層が形成された前記加工部を構成する基材の外周面に転写する工程と、
前記砥粒が転写された基材の外周面にめっき層を形成する工程と
を有することを特徴とする加工工具の製造方法。
【請求項8】
前記接着層は導電性接着剤から成り、前記めっき層は電解めっきによって形成されることを特徴とする請求項7に記載の加工工具の製造方法。
【請求項9】
加工装置によって回転され、被加工物を研削する加工部を有する加工工具の製造方法であって、
メッシュシートの網目の中に、砥粒をシート面内の互いに直交する2方向に規則的に配置する工程と、
前記メッシュシートの網目の中に配置された砥粒を、ろう材を主成分とする層が形成された前記加工部を構成する基材の外周面に転写する工程と、
前記砥粒が転写された基材を加熱し、前記ろう材を溶融する工程と
を有することを特徴とする加工工具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工装置によって回転され、被加工物を研削する加工工具及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療或いは歯科技工の際に、歯や歯の被せ物等を研削する加工工具としては、加工部に砥粒をめっき層で固着したものが知られている。特に、砥粒として天然又は人工のダイヤモンド砥粒を用いた加工工具は、歯質だけでなく、樹脂、金属、セラミックスなど広範囲な歯科材料を研削するために用いられている。
【0003】
ところが、このような加工工具で、樹脂から成る義歯や補綴物を研削する場合、被加工部の温度が上昇するために、研削屑が砥粒の間に挟まり、砥粒が埋もれてしまって研削効率が低下する。そのため、加工時間が大幅に延びる問題があった。また、砥粒に巻き付いた研削屑を除去するにも、大変な手間を要していた。
【0004】
これに対し、特許文献1には、円筒状の台金の外周面の長手方向に、砥粒を連続的に固着してなる砥粒列を複数列形成して成る加工工具が記載されている。そして、ここで、隣り合う砥粒列同士の間隔を、砥粒列の周方向の幅の1倍から10倍とすることで、目詰まりが生じにくくなるとしている。
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1には、個々の砥粒の配置に関しては記載されていない。砥粒を列状に連続的に固着しても、砥粒の配置に粗密があった場合には、砥粒が密となった部分に研削屑が挟まり、目詰まりを防ぐ効果が充分ではないことが考えられた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、本発明は、加工装置によって回転され、被加工物を研削する加工工具において、その外周面に固着層によって砥粒が固着された加工部を有し、前記砥粒が回転軸に平行な方向、及び前記回転軸に垂直な平面上の前記外周面の周方向に規則的に配置された構成としたものである。
【0008】
また、本発明は、加工装置によって回転され、被加工物を研削する加工部を有する加工工具の製造方法であって、メッシュシートの網目の中に、砥粒をシート面内の互いに直交する2方向に規則的に配置する工程と、前記メッシュシートの網目の中に配置された砥粒を、接着層が形成された前記加工部を構成する基材の外周面に転写する工程と、前記砥粒が転写された基材の外周面にめっき層を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、加工装置によって回転され、被加工物を研削する加工部を有する加工工具の製造方法であって、メッシュシートの網目の中に、砥粒をシート面内の互いに直交する2方向に規則的に配置する工程と、前記メッシュシートの網目の中に配置された砥粒を、ろう材を主成分とする層が形成された前記加工部を構成する基材の外周面に転写する工程と、前記砥粒が転写された基材を加熱し、前記ろう材を溶融する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、研削屑が挟まり難いために、加工時間が延びることを防ぎ、且つ、研削屑が容易に除去できる加工工具を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態の加工工具を示す概略斜視図。
【
図2】第1実施形態の加工工具の表面構造を説明するための模式的断面図。
【
図3】第1実施形態の加工工具の製造方法を説明するフローチャート。
【
図4】第1実施形態の加工工具の製造方法における砥粒の転写の様子を説明するための図。
【
図5】本発明の第2実施形態の加工工具を示す概略斜視図。
【
図6】第2実施形態の加工工具の製造方法における砥粒の転写の様子を説明するための図。
【
図7】本発明の第3実施形態の加工工具を示す概略斜視図。
【
図8】第3実施形態の加工工具の製造方法における砥粒の転写の様子を説明するための図。
【
図9】本発明の第4実施形態の加工工具の表面構造を説明するための模式的断面図。
【
図10】第4実施形態の加工工具の製造方法を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、フライス加工用刃先交換型チップ、旋削用刃先交換型チップ、歯科用治療機器等で用いられる高速切削工具の刃先交換型チップ等、電動工具の一部品として使用される加工工具に適用できる。また、本発明を、ドリル、エンドミル、メタルソー、ダイヤモンドティーソー、歯科用治療機器等で用いられる高速切削工具、骨を切除するための電動カッター等の手術用器具、グラインダーの研磨工具等に用いても良い。以下の実施形態においては、棒状(円柱状)の加工部を有する加工工具に本発明を用いた場合を例に説明する。
【0013】
以下に、図面を用いて本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、全ての図面を通して、同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0014】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態の加工工具を示す概略斜視図である。また
図2は、本実施形態の加工工具の表面構造を説明するための模式的断面図である。これらの図において、各部の構成は理解を容易にするために強調して描いており、各部の相対的な大きさ、縮尺等は実際の構成とは異なる。また、
図2は後述する加工部の外周面を模式的に平面として描いている。
【0015】
本実施形態において、加工工具1の基材10は、棒状(円柱状)に形成されている。
図1に示すように、基材10は、その長手方向にシャンク部11と、シャンク部11の一端に一体に設けられた加工部12とを有する。シャンク部11は、加工装置に取り付けられ、回転軸Rを中心に、矢印Dの方向又はその反対方向に回転される。基材10は、SUS(Stainless Used Steel)等のステンレス鋼を始めとする金属、アルミ合金等の合金、炭素繊維等から形成することができる。
【0016】
<砥粒の配置>
図1に示すように、加工部12における基材10の外周面には、砥粒20が回転軸Rに平行な方向、及び回転軸Rに垂直な平面内の外周面の周方向に規則的に配置され、固着されている。つまり、回転軸Rに平行な方向のどの位置において回転軸Rに垂直な断面で見ても、基材10の外周面には、規則的に砥粒が配置されている。
【0017】
一般的な加工工具の製造方法では、砥粒の間隔にバラツキが生じ、砥粒の配置に疎と密の箇所がランダムにできてしまう。このような加工工具で、研削を行った場合、特に密の箇所に研削屑が局所的に詰まり、被加工物の加工面の仕上がりが低下してしまったり、前述のように加工時間が延びたりしてしまう。一方で、切削屑が隙間に詰まらないように砥粒の間隔を広くしすぎると、切削能力が落ちてしまう。このように、砥粒の配置は切削能力を決定する大切な要素である。本実施形態は、回転軸方向及び外周面の周方向の2方向に砥粒を規則的に配置することにより、被加工物を研削する箇所と、切削屑を逃がす箇所とをコントロールするものである。このことにより、研削屑が挟まり難く、また、たとえ挟まっても研削屑が容易に除去できる加工工具を得ることができる。
【0018】
<砥粒>
砥粒20の種類は、被加工物よりも硬度が高いものであれば特に限定はされず、被加工物の材料によって適宜選択される。例えば、ダイヤモンドやCBN(Cubic Boron Nitride:立方晶窒化ホウ素)の超砥粒や、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化鉄、酸化セリウム、ジルコニア、シリカ、アルミナ等の一般的に用いられている砥粒から選択できる。体内の骨や歯を切削する用途として加工工具を使用する場合は、ダイヤモンドやCBNが好ましい。
【0019】
また、砥粒20の粒度は、粒度が大きいほど被加工面が滑らかで、砥粒の寿命が長いが、切削能力が落ちる。逆に粒度が小さいほど切削能力が上がるが、被加工面が粗く、寿命が短くなる。よって被加工物の種類や切削効率、作業内容によって適宜選択される。例えば、ダイヤモンド砥粒としては、粒度#40~800(平均粒径0.02~0.4mm、粒度が大きいほど、平均粒径が小さい)のものが知られている。本実施形態においては、粒度#100~120(平均粒径0.13~0.16mm)のダイヤモンド砥粒を用いている。
【0020】
<固着層>
本実施形態において、砥粒20は、固着層によって基材10に固着されている。このような固着層としては、金属を主材料とするものが多く用いられている。固着層の形成方法としては、電着法及びろう付け法が知られている。電着法とは、電解めっき或いは無電解めっきによって、基材上にめっき層を形成することによって砥粒を固着させる方法である。また、ろう付け法とは、金属を含有するペースト状のろう材で砥粒を被固着面に貼り付けた後、加熱してろう材を溶融させることによって、砥粒を固着させる方法である。本発明は、どちらの方法を用いる場合でも適用可能であるが、本実施形態では、電着法を用いている。
【0021】
図2のように、本実施形態において、砥粒20は、基材10上に形成された接着層40及び接着層40上に形成されためっき層30によって基材10上に固着されている。後述するように、接着層40は、砥粒20を仮固定するためのものである。この接着層40で砥粒20が仮固定された状態で、基材10上にめっき層30を形成することによって、砥粒20が基材10に強固に結合される。
【0022】
めっき層30としては、金属めっき層、特にニッケルめっき層を好適に用いることができる。ニッケルめっき層を用いる場合には、その層中に0.1~15重量%、より好ましくは0.1~10重量%のリン単体又はリン化合物が含有されていることが好ましい。リン化合物が含有されていると、ニッケルとリンが複合化し、めっき層の硬さを向上させることができる。リン化合物の含有量が少なすぎるとめっき層の硬さの向上効果が得られ難く、多すぎるとめっき浴のpH値が下がり、めっき条件の調整が難しくなる。めっき液に添加されるリン化合物としては、例えば亜リン酸、亜リン酸塩エチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジブチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリブチル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸二ナトリウム五水和物、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム-水和物などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
めっき層30の厚さとしては、砥粒20の平均粒径の1/3から1/2であれば、砥粒20が埋まり、充分な強度で砥粒20を固着することができる。本実施形態においては、砥粒の平均粒径が0.13~0.16mmなので、めっき層30の厚さは、0.04~0.08mm(40~80μm)とした。
【0024】
<第1実施形態の製造方法>
図3のフローチャートに従って、本実施形態の加工工具の製造方法について説明する。まず、ステップS80において、基材10を加工する。基材10は、SUS等の金属を材料として、切削等の方法によって
図1のように、シャンク部11及び加工部12を有する棒状(円柱状)に形成される。
【0025】
続いて、ステップS81において、加工部12の外周面に接着剤を塗布して、接着層40を形成する。本実施形態では、後ほど電解めっきによってめっき層30を形成するため、接着剤として導電性の接着剤を用いている。また、後工程でニッケルめっきを用いるため、体積抵抗率は低い方が良く、0.5×10-5Ω・m以下が好ましい。更に、後述するように砥粒を仮固定するために、粘度は25Pa・s前後が好ましい。接着剤の塗布には、スプレー塗布、フローコート、ディッピング等、一般的な塗布方法を用いることができる。
【0026】
次に、ステップS82において、接着剤が塗布された加工部12の基材10の外周部に、砥粒20を仮固定する。本実施形態においては、砥粒20を規則的に配置するために、砥粒20を予めパターン配列しておき、基材10の外周部に転写する方法を用いている。
図4は、このような砥粒20の転写の様子を説明するための図である。ここで、
図4(a)は模式的断面図、
図4(b)は平面図を示す。
【0027】
本工程においては、
図4(a)に示す治具50の平面上にメッシュシート60を敷き、このメッシュシート60の全ての網目の中に、
図4(b)のように砥粒20を1個ずつ収容する。これによって、砥粒20をシート面内の互いに直交する2方向に規則的に配置することができる。砥粒20を網目に入れていく方法としては、メッシュシート60の上から砥粒20を散布し、余分な砥粒20を払い落とせば良い。ここで、メッシュシートのメッシュサイズは、網目の中に砥粒20が1個のみ収容されるものとする。先述のように、本実施形態では、平均粒径0.13~0.16mmのダイヤモンド砥粒を用いているため、この砥粒の平均粒径に合わせたメッシュシートを用いている。
【0028】
次に、
図4(a)のように、外周部に接着層40が形成された基材10をメッシュシート60の上に横置きし、矢印Eのように周方向に回転させながら、矢印Fの方向に転がしていく。これによって、砥粒20が接着層40に付着し、基材10の外周部に転写される。ここで、治具50と基材10とのギャップGは、メッシュシートの厚みで制限すると良い。この後、接着層40に熱硬化性接着剤を用いている場合には、基材10を熱処理することで、接着剤を硬化させ、砥粒20を仮固定する。
【0029】
続いて、ステップS83において、砥粒20が仮固定された基材10上にめっき層30を形成することによって、砥粒を強固に固着させる(
図2参照)。本実施形態においては、電解めっき法によるニッケルめっきを用いている。この際、めっき液は、スルファミン酸ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル等を含む電解液が用いられる。このめっき液には、先に説明したリン化合物の他にも、必要に応じてサッカリン、ブチンジオール等の光沢剤や、界面活性剤を添加しても良い。界面活性剤としては、例えば、水溶性のカチオン系、非イオン系、めっき液のpH値においてカチオン性を示す両性界面活性剤等が挙げられる。特に、分子中にC-F結合を有するフッ素系界面活性剤を好適に用いることができる。
【0030】
本実施形態においてめっき層30を形成するための条件は、使用するめっき液の種類などに応じて適宜決定すればよく、一般的なめっき法の場合と同様の液温、pH値、電流値などを適用できる。また、めっき液の攪拌方法も特に限定されず、通常の機械的攪拌手段、例えばスクリュー攪拌、マグネチックスターラーによる攪拌などの方法を採用することができる。また、めっき層30を形成した後、70~300℃の温度で熱処理することによって、めっき層30の表面の硬さをより向上させることができる。
【0031】
このように、ステップS80~S83の工程によって、
図1に示す加工工具1が製造される。本実施形態において、研削屑の除去性を向上させるため、めっき層30に撥水機能を有する化合物粒子を含有させても良い。また、めっき層30を形成した後、このめっき層30上に撥水機能を有する化合物を含む樹脂膜を形成しても良い。撥水機能を有する化合物には、フッ素化合物を好適に用いることができる。フッ素化合物としては、例えばテトラフルオロエチレン重合体、4フッ化エチレン重合体、パーフルオロアルコキシ重合体、6フッ化プロピレン/エチレン共重合体、4フッ化エチレン/エチレン共重合体、パーフルオロメチルビニルエーテルの重合体、パーフルオロアルキルエチル(メタ)アクリレート重合体、パーフルオロアルキルエチル(メタ)アクリレート重合体、パーフルオロスルフォン酸重合体、フルオロアセチレン重合体、フルオロマレイン酸重合体、フッ化グラファイト、クロロトリフルオロエチレン重合体、フッ化ビニル重合体、フッ化ビニリデン重合体、クロロトリフルオロエチレン重合体、1,4-シクロへキシレンジメチレンテレフタレート重合体などを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
<第2実施形態>
図5は、本発明の第2実施形態の加工工具を示す概略斜視図である。
図5において、
図1と同一の部材には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。本実施形態は、基材10の加工部12における砥粒20の配置のみ第1実施形態と相違し、その他は第1実施形態と同一の構造を有するものである。例えば、加工工具1の表面は、
図2に示す模式的断面図と同一の構造を有する。本実施形態においては、加工部12における基材10の外周面に、砥粒20が千鳥状に、換言すると市松柄のパターンで配置されている。この配置でも、砥粒20は、回転軸Rに平行な方向、及び回転軸Rに垂直な平面内の外周面の周方向に規則的に配置されていることになる。
【0033】
本実施形態の加工工具1も、
図3のフローチャートで説明した第1実施形態と同一の方法で製造される。ただ、ステップS82において、砥粒20を仮固定する際の配置パターンが相違する。この様子を
図6に示す。
図6(a)は模式的断面図、
図6(b)は平面図である。
図6において、
図4と同一の部材には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。本実施形態では、メッシュシート60の網目に、繊維と平行な2方向に1粒飛ばしで、互い違いの市松柄のパターンに砥粒20を収容している。このように網目に砥粒20を入れていく方法としては、例えば、メッシュシート60とメッシュサイズの異なるもう一枚のメッシュシートを用いる方法が考えられる。もう一枚のメッシュシートを繊維の方向が45度の角度を為すように、メッシュシート60に重ね合わせ、その上から砥粒20を散布した後、余分な砥粒20を払い落とせば良い。このように、1粒飛ばしで配列された砥粒20は、
図6(a)に示すように、接着層40に付着し、基材10の外表面に転写される。その後、第1実施形態と同一の方法で、加工工具が製造される。
【0034】
<第3実施形態>
図7は、本発明の第3実施形態の加工工具を示す概略斜視図である。
図7において、
図1と同一の部材には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。本実施形態は、基材10の加工部12における砥粒20の配置のみ第1実施形態と相違し、その他は第1実施形態と同一の構造を有するものである。例えば、加工工具1の表面は、
図2に示す模式的断面図と同一の構造を有する。本実施形態においては、加工部12における基材10の外周面に、回転軸Rに平行な方向に、砥粒20が連続して一列のライン状に配列されている。そして、このライン状の砥粒20の列が、砥粒5粒分の一定の間隔を空けて、周方向に複数、配置されている。この配置でも、砥粒20は、回転軸Rに平行な方向、及び回転軸Rに垂直な平面内の外周面の周方向に規則的に配置されていることになる。砥粒20の列の間隔は、本実施形態では砥粒5粒分としたが、砥粒の平均粒径以上の間隔を適宜設定できる。
【0035】
本実施形態の加工工具1も、
図3のフローチャートで説明した第1実施形態と同一の方法で製造される。ただ、ステップS82において、砥粒20を仮固定する際の配置パターンが相違する。この様子を
図8に示す。
図8(a)は模式的断面図、
図8(b)は平面図である。
図8において、
図4と同一の部材には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。本実施形態では、メッシュシート60の網目に、基材10を移動させていく矢印Fの方向に、5粒飛ばしで砥粒20を収容している。矢印Fと直交する方向には、砥粒20は隙間を空けずに連続して収容されている。このように網目に砥粒20を入れていく方法としては、例えば、5粒分の長さに相当するピッチで間隙を有するマスクシートをメッシュシート60に重ね合わせ、その上から砥粒20を散布した後、余分な砥粒20を払い落とせば良い。このように、5粒飛ばしで配列された砥粒20は、
図8(a)に示すように、接着層40に付着し、基材10の外表面に転写される。その後、第1実施形態と同一の方法で、加工工具が製造される。
【0036】
<第4実施形態>
本実施形態は、砥粒を固着させる方法として、第1実施形態の電着法に代えて、ろう付け法を用いたものである。したがって、加工工具1の外観は、
図1に示す第1実施形態と同一である。
図9は、本実施形態の加工工具の表面構造を説明するための模式的断面図である。
図9は、先述の
図2と同様に、加工部の外周面を模式的に平面として描いている。
図9のように、本実施形態において、砥粒20は、ろう材を主成分とする層(以下、ろう材層と記す)70によって基材10上に固着されている。ここで、ろう材層70を除く、基材10及び砥粒20は、第1実施形態と同一の構成、材料が用いられる。
【0037】
<第4実施形態の製造方法>
図10は、本実施形態の加工工具の製造方法を説明するフローチャートである。まず、ステップS90において、基材10を加工する。ここでは、第1実施形態と同一の材料、同一の方法で基材が加工される。続いて、ステップS91において、基材10の外周面にろう材層70を形成する(
図9参照)。ろう材としては、Ag-Cu-Ti系活性化ろう材、Ni-Cr系ろう材、Co-Ni-Cr系ろう材など、一般的なろう材を用いることができる。本実施形態では、ペースト状のろう材を用い、基材10に塗布することによって、ろう材層70を形成している。
【0038】
次に、ステップS92において、砥粒20を仮固定する。この工程は、
図4で説明した第1実施形態と同様に、メッシュシート60を用いて砥粒20を予めパターン配列しておき、基材10の外周部に転写する方法を用いている。ただし、
図4に示す基材10の外周部に塗布された接着層40は、ろう材層70に置き換えられたものになる。ペースト状のろう材は、適度な粘性を有するため、接着剤を用いることなく、砥粒20を転写することが可能である。続いて、ろう材層70を乾燥させて砥粒20がずれないように仮固定する。
【0039】
続いて、ステップS93において、砥粒20が転写された基材を炉に入れて加熱し、ろう材を溶融させる。その後、冷却することで、砥粒20が基材10に強固に固着される。以上の工程によって、本実施形態の加工工具が製造される。本実施形態における砥粒の配置は、第1実施形態と同一であるが、ろう付け法は、第2実施形態或いは第3実施形態のように砥粒を配置する場合にも適用が可能である。
【0040】
以下に、本発明の実施例及び比較例を作成した例を示す。また、これらの実施例及び比較例を用いて、研削テストを行った結果を説明する。
【0041】
<実施例1>
まず、SUS304から成る材料を用い、
図1に示すように先端をφ2.5mmの円柱状に加工した基材10を作成した。この後、基材10の表面改質を行うため、プラズマ処理を実施した。続いて、この基材10の加工部12に導電性接着剤を10μmの厚さで塗布し、接着層40を形成した(
図2参照)。接着剤としては、バインダーがエポキシ系で導電フィラーが銀系のTB3331D(株式会社スリーボンド製)を用いた。
【0042】
次に、
図4に示すように、治具50の平面上に200μmピッチの網目を有するポリエチレン製のメッシュシート60を敷き、この上から砥粒20を散布することによって、網目全てに砥粒20を1個ずつ配列させた。砥粒20としては、平均粒径が150μmのダイヤモンド砥粒を用いた。このメッシュシートの上に、接着層40を形成した基材10を横向きに、ギャップGが150μmと成る位置に保持した。そして、このギャップGを維持した状態で基材10を転がし、基材10の外周面に砥粒20を転写した。その後、基材10を80℃で60分加熱することによって、接着層40を硬化させ、砥粒20を仮固定した。
【0043】
続いて、砥粒20を仮固定した基材10をめっき浴に浸漬し、電流密度5A/dm2とした電解めっきによって、厚さ65μmのめっき層30を形成し、砥粒20を固着させた。めっき液としては、下記の配合のものを用い、最終的にpH2.5に合わせ、調整した。
蒸留水1Lに対し、
硫酸ニッケル:125g
ホウ酸:30g
塩化ナトリウム:25g
次亜リン酸ナトリウム:0.08g
サッカリンナトリウム:0.024g
ドデシル硫酸ナトリウム:0.005g
【0044】
この際、めっき層30の膜厚を均一とするため、基材を回転させながら、めっきを行った。めっきの後、基材10を260℃で熱処理を行うことで、ビッカース硬度が617HVとなり、硬さが向上した。
【0045】
<実施例2>
実施例1と同一の材料を用い、同一の工程で、基材10を加工し、その外周面に接着層40を形成した。次に、実施例1と同一のメッシュシート60を用い、同一の砥粒20をメッシュシートの網目に配列した。ただ、実施例1と異なり、砥粒20は繊維に沿った2方向にそれぞれ1粒飛ばしで、
図6に示すように互い違い(千鳥状)の市松柄のパターンに配列した。このメッシュシート60上を実施例1と同様に基材10を転がし、砥粒20を仮固定した。その後、実施例1と同様にめっき層30の形成及び熱処理を行って、実施例2の加工工具を作成した。
【0046】
<実施例3>
実施例1と同一の材料を用い、同一の工程で、基材10を加工し、その外周面に接着層40を形成した。次に、実施例1と同一のメッシュシート60を用い、同一の砥粒20をメッシュシートの網目に配列した。ただ、実施例1と異なり、砥粒20はライン状に連続して配列された砥粒列を、基材10を転がす方向に5粒飛ばしで、
図8に示すように配列した。このメッシュシート60上を実施例1と同様に基材10を転がし、砥粒20を仮固定した。その後、実施例1と同様にめっき層30の形成及び熱処理を行って、実施例2の加工工具を作成した。
【0047】
<比較例>
まず、実施例1と同一の材料を用い、同一の工程で、基材を加工した。次に、基材の表面に形成される膜の密着性を向上させるため、膜厚数百nmのストライクニッケル膜を成膜した。続いて、この基材を実施例1と同一のめっき浴に浸漬させ、実施例1と同一の条件でめっき層を形成した。ここで、めっきを行っている間に、平均粒径150μmのダイヤモンド砥粒を基材に落下させながら、めっき層を膜厚20μmとなるまで成膜することで、砥粒が基材の表面に仮固定された。続いて、無電解ニッケルめっき浴を用いて、前述しためっき層よりも硬質となるめっき層を膜厚55μmになるまで成膜して、砥粒を固着させた。この際、めっき層の膜厚を均一とするため、基材を回転させながら、めっきを行った。めっき後、基材を260℃で熱処理を行うことで、ビッカース硬度が800HVとなり、硬さが向上した。
【0048】
<研削テスト>
二ケイ酸リチウムブロック(ビッカース硬度600HV)を被加工物とした。この被加工物に対して、実施例1~3の加工工具と、比較例の加工工具とをそれぞれ用いて研削テストを実施した。スピンドル回転数:60000RPMで3分間、上記ブロックの1面を往復しながら研削した。比較例の加工工具は、ダイヤモンド砥粒間に研削屑が挟まり、研削効率が低下した。一方、実施例1~3の加工工具で研削したところ、いずれも研削屑が挟まり難く、研削効率の低下がみられなかった。
【0049】
<他の実施形態>
本発明は、以上説明した実施形態に限らず、種々の応用、変形が可能である。例えば、先述の実施形態においては、加工工具は棒状(円柱状)に形成されているが、加工装置によって回転され、被加工物を研削する外周面を有する形状であれば、どのような形状の加工工具に対しても本発明は適用可能である。また、研削屑をより効率的に除去するため、基材の外周面に溝が形成された加工工具に本発明を用いても構わない。更に、砥粒の配置に関しても、先の実施形態に限定されず、例えば加工工具の外周面に砥粒が螺旋状に固着されたものも本発明の技術的範囲内である。本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない限りにおいて、このような応用例、変形例を全て包含するものである。
【符号の説明】
【0050】
10 基材
20 砥粒
30 めっき層
40 接着層
50 治具
60 メッシュシート