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特開2023-131238抑圧量決定装置、レーダー受信機、抑圧量決定方法、レーダー受信方法、抑圧量決定プログラム、レーダー受信プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131238
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】抑圧量決定装置、レーダー受信機、抑圧量決定方法、レーダー受信方法、抑圧量決定プログラム、レーダー受信プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/292 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
G01S7/292 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035849
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】314012087
【氏名又は名称】株式会社光電製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】林 大介
(72)【発明者】
【氏名】西原 幸伸
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AC02
5J070AC13
5J070AC20
5J070AE07
5J070AF05
5J070AK17
(57)【要約】
【課題】リアルタイム性を維持しつつ、レーダーのみで、適正に海面反射を抑圧するための抑圧量を得る。
【解決手段】本発明の抑圧量決定装置は、マスク生成部、マスク内代表特徴算出部、マスク内代表特徴記録部、方位角範囲内特徴傾向算出部、海面反射特定部、特定海面反射抑圧量決定部を備える。マスク生成部は、受信信号の強度が高い範囲を1つのマスクとしてマスクを生成する。マスク内代表特徴算出部は、マスク内の受信信号が海面での反射信号らしいことを示す代表傾向値を含む代表特徴量を算出する。方位角範囲内特徴傾向算出部は、海面での反射を特定するための条件である傾向値条件を算出する。海面反射特定部は、マスク内の受信信号が海面での反射かを判断する。特定海面反射抑圧量決定部は、海面での反射と判断されたマスクの受信信号を雑音レベル以下に低下させるように抑圧量を決定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海上で受信したレーダーの受信信号から海面での反射信号を抑圧するための抑圧量を決定する抑圧量決定装置であって、
受信信号は、あらかじめ定めた方位ごとに受信し、あらかじめ定めた距離分解能での強度を示す信号であり、
受信信号の強度が連続してあらかじめ定めた値より高い範囲を1つのマスクとしてマスクを生成するマスク生成部と、
マスクごとに、あらかじめ定めたマスク内の受信信号が海面での反射信号らしいことを示す代表傾向値を含む代表特徴量を算出するマスク内代表特徴算出部と、
代表特徴量を、方位ごとに記録するマスク内代表特徴記録部と、
あらかじめ定めた方位の範囲の代表傾向値に基づいて、海面での反射を特定するための条件である傾向値条件を算出する方位角範囲内特徴傾向算出部と、
処理対象の受信信号のマスクごとに、当該マスクの代表傾向値と前記傾向値条件にしたがって、マスク内の受信信号が海面での反射か否かを判断する海面反射特定部と、
処理対象の受信信号のマスクごとに、前記海面反射特定部によって海面での反射と判断されたマスクの受信信号を雑音レベル以下に低下させるように抑圧量を決定する特定海面反射抑圧量決定部と、
を備える抑圧量決定装置。
【請求項2】
請求項1記載の抑圧量決定装置であって、
前記マスク内代表特徴算出部は、マスクの幅を代表傾向値とする
ことを特徴とする抑圧量決定装置。
【請求項3】
請求項1記載の抑圧量決定装置であって、
前記マスク内代表特徴算出部は、隣接するマスクとの間隔を代表傾向値とする
ことを特徴とする抑圧量決定装置。
【請求項4】
請求項2または3記載の抑圧量決定装置であって、
前記傾向値条件は、代表傾向値が存在する確率が高い範囲を、海面での反射信号とする条件である
ことを特徴とする抑圧量決定装置。
【請求項5】
請求項1記載の抑圧量決定装置であって、
前記マスク内代表特徴算出部は、マスク内の受信信号の強度を示す値を代表傾向値とし、マスクまでの距離を示す代表距離と前記代表傾向値の組を代表特徴量とする
ことを特徴とする抑圧量決定装置。
【請求項6】
請求項5記載の抑圧量決定装置であって、
前記傾向値条件は、代表傾向値である強度にあらかじめ定めた代表距離の関数を乗算した値が存在する確率が高い範囲を、海面での反射信号とする条件である
ことを特徴とする抑圧量決定装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の抑圧量決定装置を含み、
さらに、
前記抑圧量にしたがって、受信信号を抑圧する海面反射抑圧部
を備えるレーダー受信機。
【請求項8】
海上で受信したレーダーの受信信号から海面での反射信号を抑圧するための抑圧量を決定する抑圧量決定方法であって、
受信信号は、あらかじめ定めた方位ごとに受信し、あらかじめ定めた距離分解能での強度を示す信号であり、
受信信号の強度が連続してあらかじめ定めた値より高い範囲を1つのマスクとしてマスクを生成するマスク生成ステップと、
マスクごとに、あらかじめ定めたマスク内の受信信号が海面での反射信号らしいことを示す代表傾向値を含む代表特徴量を算出するマスク内代表特徴算出ステップと、
代表特徴量を、方位ごとに記録するマスク内代表特徴記録ステップと、
あらかじめ定めた方位の範囲の代表傾向値に基づいて、海面での反射を特定するための条件である傾向値条件を算出する方位角範囲内特徴傾向算出ステップと、
処理対象の受信信号のマスクごとに、当該マスクの代表傾向値と前記傾向値条件にしたがって、マスク内の受信信号が海面での反射か否かを判断する海面反射特定ステップと、
処理対象の受信信号のマスクごとに、前記海面反射特定ステップによって海面での反射と判断されたマスクの受信信号を雑音レベル以下に低下させるように抑圧量を決定する特定海面反射抑圧量決定ステップと、
を実行する抑圧量決定方法。
【請求項9】
請求項8記載の抑圧量決定方法を含み、
さらに、
前記抑圧量にしたがって、受信信号を抑圧する海面反射抑圧ステップ
を実行するレーダー受信方法。
【請求項10】
請求項1から6のいずれかに記載の抑圧量決定装置としてコンピュータを機能させるための抑圧量決定プログラム。
【請求項11】
請求項7記載のレーダー受信機としてコンピュータを機能させるためのレーダー受信プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海上で受信したレーダーの受信信号から海面での反射信号を抑圧するための抑圧量を決定する抑圧量決定装置、抑圧量決定方法、抑圧量決定プログラム、および決定した抑圧量を用いて海面での反射信号を抑圧するレーダー受信機、レーダー受信方法、レーダー受信プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶に搭載するマリンレーダーでは、航行の安全のために、周囲の船や陸地、航路標識などの障害物を監視する。使用するアンテナは水平方向に狭く、垂直方向に比較的広い指向性をもつファンビームパターンが一般的であり、これを水平方向に回転させながら電波を発射し、周辺物体からの反射波を受信することで物体の距離と方位を把握する。しかし、受信信号には安全航行のために必要な物体(目標物標)からの反射波だけではなく、主に自船近傍に出現する波からの反射波(海面反射)も含まれるため、これが目標物標の識別を妨げる。
【0003】
海面反射は風向・風速など海況によって変化し、概ね近距離では距離の三乗、遠距離では七乗に比例して減衰するとされる(非特許文献1)。海面反射を抑圧する手法としては、従来からSTC(Sensitivity Time Control)が広く利用されている。これは距離によって減衰する海面反射の特徴に合わせ、受信信号に距離のべき乗に反比例した減衰を与えて海面反射を抑圧する処理である。
【0004】
しかし前述のとおり海面反射は風向・風速に影響されるため、レーダーに対する方位によってその挙動が異なる。そのため全方位に一様な減衰を与えた場合には、目標物標の消失、もしくは海面反射の残存といった事象が生じる。この解決策として非特許文献1がある。非特許文献1では、所定の方位角範囲で取得した受信信号から方位角範囲ごとの海面反射強度を推定して、それに応じた抑圧を受信信号に与える。特許文献1では方位角範囲ごとの特徴抽出に加え、距離に応じた各サンプリングポイントで減衰量を決定することによりCFAR(Constant False Alarm Rate)処理で抑圧しきれない海面反射の抑圧を行っている。
【0005】
また以上の処理は基本的に、海面反射レベルが距離によって変化する性質を利用し、距離に応じた減衰曲線(STCカーブ)を全受信信号に与える処理である。しかしこの場合、海面反射とともに目標物標にも減衰が与えられてしまうため、目標物標の大きさによっては識別性の低下や消失が生じてしまう。
【0006】
一方、海面反射抑圧にはスキャン間相関という処理も広く用いられる。これは過去に取得したスキャンデータ(=アンテナ1周分のデータ)を複数保持し、その統計処理によって現在データの海面反射を抑圧する手法である。一般に海面反射は自船近傍に点在し、その出現位置・数は不規則に変化する特徴を有することから、複数スキャンを平均化することで大きな海面反射抑圧効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-25916号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】韮沢富次,岡田洋、“レーダの自動化STC(日本航海学会第51回講演会にて講演)”、日本航海学会論文集、52号,pp.101~108、1974年12月.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1では、受信信号には目標物標からの反射波も含まれることから適正な抑圧量の決定には課題が残る。特許文献1の場合も、やはり受信信号に含まれる反射波の要否判定に課題がある。また、スキャン間相関という処理の場合は、十分な抑圧を得るためには多くのスキャン数が必要であることから、リアルタイム性に乏しく、かつ高速で移動する目標物標を消失しやすいといった課題がある。さらに、レーダーとは別にスキャンごとの絶対方位を把握するための方位センサが必要になる。
本発明は、リアルタイム性を維持しつつ、レーダーのみで、適正に海面反射を抑圧するための抑圧量を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の抑圧量決定装置は、海上で受信したレーダーの受信信号から海面での反射信号を抑圧するための抑圧量を決定する。受信信号は、あらかじめ定めた方位ごとに受信し、あらかじめ定めた距離分解能での強度を示す信号である。抑圧量決定装置は、マスク生成部、マスク内代表特徴算出部、マスク内代表特徴記録部、方位角範囲内特徴傾向算出部、海面反射特定部、特定海面反射抑圧量決定部を備える。マスク生成部は、受信信号の強度が連続してあらかじめ定めた値より高い範囲を1つのマスクとしてマスクを生成する。マスク内代表特徴算出部は、マスクごとに、あらかじめ定めたマスク内の受信信号が海面での反射信号らしいことを示す代表傾向値を含む代表特徴量を算出する。マスク内代表特徴記録部は、代表特徴量を、方位ごとに記録する。方位角範囲内特徴傾向算出部は、あらかじめ定めた方位の範囲の代表傾向値に基づいて、海面での反射を特定するための条件である傾向値条件を算出する。海面反射特定部は、処理対象の受信信号のマスクごとに、当該マスクの代表傾向値と傾向値条件にしたがって、マスク内の受信信号が海面での反射か否かを判断する。特定海面反射抑圧量決定部は、処理対象の受信信号のマスクごとに、海面反射特定部によって海面での反射と判断されたマスクの受信信号を雑音レベル以下に低下させるように抑圧量を決定する。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、海面での反射の特徴から海面反射を特定し、特定した海面反射に対してのみを抑圧する。したがって、本発明の抑圧量決定装置によれば、目標物の識別性を確保したままで、リアルタイム性を維持しつつ、レーダーのみで、適正に海面反射を抑圧するための抑圧量を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の抑圧量決定装置100を有するレーダー受信機200の機能構成例を示す図。
図2】抑圧量決定方法を含むレーダー受信方法の処理フローを示す図。
図3】レーダーから取得される受信信号の例を示す図。
図4】すべての番号(Index)に対して100dB以上を「あらかじめ定めた値より高い」としてマスクを生成し、生成したマスクを図3に追記した例を示す図。
図5】マスクの幅を代表傾向値とした例を図4に追記した例を示す図。
図6】マスクの幅(Indexの数)を代表傾向値とした場合の累積確率分布の例を示す図。
図7】隣接するマスクとの間隔を代表傾向値とした例を図4に追記した例を示す図。
図8】次に遠いマスクまでの距離(Indexの数)を代表傾向値とした場合の累積確率分布の例を示す図。
図9】マスク内の受信信号の強度を示す値を代表傾向値とし、マスクまでの距離を示す代表距離と代表傾向値の組を代表特徴量とした例を、図4に追記した例を示す図。
図10】マスク内の受信信号の強度を示す値を代表傾向値とし、マスクまでの距離を示す代表距離と代表傾向値の組を代表特徴量とした場合の累積確率分布の例を示す図。
図11】コンピュータの機能構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例0014】
図1に本発明の抑圧量決定装置100を有するレーダー受信機200の機能構成例を示す。図2に抑圧量決定方法を含むレーダー受信方法の処理フローを示す。図3は、レーダーから取得される受信信号の例である。図3の横軸は、レーダーの反射信号の番号(Index)を示している。距離分解能の設定によって番号が示す距離は決まる。例えば、距離分解能が20mであれば、番号の1000はレーダーから20kmの距離である。また、距離分解能が0.5mであれば、番号の1000はレーダーから500mの距離である。図3の縦軸は、受信信号の強度(Level)を示している。縦軸の単位はdBである。
【0015】
図3の受信信号の例では、番号が550より遠い距離に陸地があり、番号が550より近い距離には海面での反射(海面反射)がある。図3から分かるように、海面での反射は陸地からの反射よりも弱い。また、非特許文献1などに示されているとおり、距離が遠くなるほど強度は低くなっている。そして、海面反射が存在する範囲では、受信信号の強度が短い距離の間隔で変化している。本発明では、この海面反射は短い距離間隔で変化する性質、距離が遠くなるほど強度が低くなることなどを利用して、計測している方位の受信信号に含まれている海面での反射を特定し、特定した反射に対する抑圧量を決定する。
【0016】
抑圧量決定装置100は、海上で受信したレーダーの受信信号から海面での反射信号を抑圧するための抑圧量を決定する。抑圧量決定装置100は、マスク生成部110、マスク内代表特徴算出部120、マスク内代表特徴記録部130、方位角範囲内特徴傾向算出部140、海面反射特定部150、特定海面反射抑圧量決定部160を備える。レーダー受信機200は、抑圧量決定装置100を含み、さらに、海面反射抑圧部270を備える。「受信信号」は、あらかじめ定めた方位ごとに受信する、あらかじめ定めた距離分解能での強度を示す信号である。あらかじめ定めた方位は、例えば、1度ごと、0.25度ごととすればよい。あらかじめ定めた距離分解能は、0.5m程度から30m程度の間から選べばよく、特に計測したい距離を考慮して選べばよい。例えば、番号が1000まで測定できるとき、距離分解能を0.5mに設定すると計測できる距離は500mである。距離分解能を30mに設定すると計測できる距離は30kmである。
【0017】
マスク生成部110は、受信信号の強度が連続してあらかじめ定めた値より高い範囲を1つのマスクとしてマスクを生成する(S110)。「あらかじめ定めた値より高い」とは、すべての番号(Index)に対して設定したしきい値以上としてもよいし、距離を考慮して定めた値(距離が遠い番号ほど小さい値)に対して設定したしきい値よりも高いとしてもよい。図4は、すべての番号(Index)に対して100dB以上を「あらかじめ定めた値より高い」としてマスクを生成し、生成したマスクを図3に追記した例である。図3に「陸地などからの反射」と示した付近のマスクは幅(強度が連続して高い幅)が広いこと、「海面反射」と示した付近のマスクは幅が狭いことが分かる。言い換えると、「海面反射」と示した付近では多くのマスクが生成されている。
【0018】
マスク内代表特徴算出部120は、マスクごとに、あらかじめ定めたマスク内の受信信号が海面での反射信号らしいことを示す代表傾向値を含む代表特徴量を算出する(S120)。マスク内代表特徴算出部120は、マスクの幅、隣接するマスクとの間隔、マスク内の受信信号の強度を示す値などを代表傾向値とすればよい。なお、代表傾向値をマスク内の受信信号の強度とする場合は、マスクまでの距離を示す代表距離と前記代表傾向値の組を代表特徴量とする。
【0019】
マスク内代表特徴記録部130は、代表特徴量を方位ごとに記録する(S130)。マスク内代表特徴記録部130は、後述する方位角範囲内特徴傾向算出部140の処理で使用するために、あらかじめ定めた過去分の代表特徴量を方位ごと記録する。
【0020】
方位角範囲内特徴傾向算出部140は、あらかじめ定めた方位の範囲の代表傾向値に基づいて、海面での反射を特定するための条件である傾向値条件を算出する(S140)。「あらかじめ定めた方位の範囲」とは、処理対象となっている受信信号よりも過去の受信信号を含めた範囲を意味している。例えば、方位角1度ごとに受信信号を受信する場合に、「あらかじめ定めた方位の範囲」を10度分とするのであれば、処理対象の受信信号に過去の9個分の受信信号を加えればよい。ある程度の方位の範囲では、海面反射は似た性質を有するからである。「あらかじめ定めた方位の範囲」は45度としてもよいし、90度としてもよい。
【0021】
マスクの幅または隣接するマスクとの間隔を代表傾向値とする場合は、「傾向値条件」は、例えば、代表傾向値が存在する確率が高い範囲を、海面での反射信号とする条件とすればよい。マスク内の受信信号の強度を示す値を代表傾向値とする場合は、「傾向値条件」は、例えば、代表傾向値である強度にあらかじめ定めた代表距離の関数を乗算した値が存在する確率が高い範囲を、海面での反射信号とする条件とすればよい。「代表距離の関数」とは、非特許文献1の式(4)に従うのであれば、代表距離の3乗の関数とすればよい。ただし、異なる関数を示している文献もあるので、関数は適宜定めればよい。「代表距離」は、マスクに含まれている距離の範囲内であれば、あらかじめ定めた方法で適宜求めればよい。例えば、マスク内の中心の距離としてもよいし、マスク内の最も強度が高い距離としてもよい。「代表強度」は、あらかじめ定めた方法でマスク内の強度に基づいて求めればよい。例えば、マスク内の平均強度としてもよいし、マスク内で最も高い強度としてもよい。
【0022】
図5は、代表特徴量の例1として、マスクの幅を代表傾向値とした例を図4に追記した例である。ただし、幅が狭いマスクに対しては追記できていない。視認しやすい幅のマスクに対してのみ追記している。マスク内代表特徴算出部120は、実際には、すべてのマスクに対してそれぞれ、代表特徴量を算出する。図6に、マスクの幅(Indexの数)を代表傾向値とした場合の累積確率分布の例を示す。横軸はマスクの幅(Indexの数)である。縦軸は、あらかじめ定めた方位の範囲におけるマスクの数全部を母数としたときのマスクの幅以内のマスクの数の割合(確率)を示している。なお、図6は累積確率分布のイメージを示すための例示であり、図5の例に基づくデータではない。また、累積確率分布以外を用いてもよい。例えば、確率密度関数、平均、分散などを用いてもよい。
【0023】
マスクの幅が狭く、反射信号に含まれる海面での反射信号の割合が高いことが海面での反射の特徴の場合には、例えば、累積確率分布が90%以下の範囲を海面での反射と判断すればよい。この場合のマスクの幅の閾値と、海面での反射であると判断する条件である傾向値条件の範囲を図6に示している。ただし、「90%以下」は例示であり、適宜設定すればよい。また、上限側の閾値だけを設定したが、下限側の閾値も設定してもよい。
【0024】
図7は、代表特徴量の例2として、隣接するマスクとの間隔を代表傾向値とした例を図4に追記した例である。ただし、間隔が狭いマスク同士に対しては追記できていない。視認しやすい幅のマスクに対してのみ追記している。マスク内代表特徴算出部120は、実際には、すべてのマスク同士に対してそれぞれ、代表特徴量を算出する。図8に、次に遠いマスクまでの距離(Indexの数)を代表傾向値とした場合の累積確率分布の例を示す。横軸はマスクまでの距離(Indexの数)である。縦軸は、あらかじめ定めた方位の範囲におけるマスクの数全部を母数としたときのマスクまでの距離以内のマスクの数の割合(確率)を示している。なお、図8は累積確率分布のイメージを示すための例示であり、図7の例に基づくデータではない。また、累積確率分布以外を用いてもよい。例えば、確率密度関数、平均、分散などを用いてもよい。
【0025】
隣接するマスクとの間隔が狭く、反射信号に含まれる海面での反射信号の割合が高いことが海面での反射の特徴の場合には、例えば、累積確率分布が90%以下の範囲を海面での反射と判断すればよい。この場合の次に遠いマスクまでの距離の閾値と、海面での反射であると判断する条件である傾向値条件の範囲を図8に示している。ただし、「90%以下」は例示であり、適宜設定すればよい。また、上限側の閾値だけを設定したが、下限側の閾値も設定してもよい。なお、図7では、隣接するマスクとの間隔として、次に遠いマスクまでの距離を用いたが、近いマスクまでの距離を用いてもよいし、両隣のマスクまでの距離の合計や平均を用いてもよい。
【0026】
図9は、代表特徴量の例3として、マスク内の受信信号の強度を示す値を代表傾向値とし、マスクまでの距離を示す代表距離と代表傾向値の組を代表特徴量とした例を、図4に追記した例である。図9では、マスク内の中心の距離を代表距離とし、マスク内の平均強度を代表強度とした代表特徴量を図4に追記した例である。ただし、幅が狭いマスクに対しては追記できていない。視認しやすい幅のマスクに対してのみ追記している。マスク内代表特徴算出部120は、実際には、すべてのマスクに対してそれぞれ、代表特徴量を算出する。図10に、マスク内の受信信号の強度を示す値を代表傾向値とし、マスクまでの距離を示す代表距離と代表傾向値の組を代表特徴量とした場合の累積確率分布の例を示す。横軸は平均信号レベルに距離の3乗を乗算した値である。縦軸は、あらかじめ定めた方位の範囲におけるマスクの数全部を母数としたときのマスクの数の割合(確率)を示している。なお、図10は累積確率分布のイメージを示すための例示であり、図9の例に基づくデータではない。また、累積確率分布以外を用いてもよい。例えば、確率密度関数、平均、分散などを用いてもよい。
【0027】
反射信号に含まれる海面での反射信号の割合が高い場合には、例えば、累積確率分布が5%以上95%以下の範囲を海面での反射と判断すればよい。この場合の平均信号レベルに距離の3乗を乗算した値の下限側と上限側の閾値と、海面での反射であると判断する条件である傾向値条件の範囲を図10に示している。ただし、「5%」、「95%以下」は例示であり、適宜設定すればよい。
【0028】
海面反射特定部150は、処理対象の受信信号のマスクごとに、当該マスクの代表傾向値と傾向値条件にしたがって、マスク内の受信信号が海面での反射か否かを判断する(S150)。例えば、図6,8,10の例では、「傾向値条件」と示された範囲内のマスク内の受信信号は、海面での反射と判断する。
【0029】
特定海面反射抑圧量決定部160は、処理対象の受信信号のマスクごとに、海面反射特定部150によって海面での反射と判断されたマスクの受信信号を雑音レベル以下に低下させるように抑圧量を決定する(S160)。図3に示した受信信号の場合であれば、80~90dB以下になるように抑圧量を決定すればよい。
【0030】
本発明では、海面での反射の特徴から海面反射を特定し、特定した海面反射に対してのみを抑圧する。したがって、本発明の抑圧量決定装置によれば、目標物の識別性を確保したままで、リアルタイム性を維持しつつ、レーダーのみで、適正に海面反射を抑圧するための抑圧量を得ることができる。
【0031】
海面反射抑圧部270は、マスクごとに決定した抑圧量にしたがって受信信号を抑圧する(S270)。本発明のレーダー受信機200は、海面での反射に限定して反射を抑圧するので、目標物の識別性を確保したままで、海面での反射を抑圧できる。
【0032】
[プログラム、記録媒体]
上述の各種の処理は、図11に示すコンピュータ2000の記録部2020に、上記方法の各ステップを実行させるプログラムを読み込ませ、制御部2010、入力部2030、出力部2040、表示部2050などに動作させることで実施できる。
【0033】
この処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体としては、例えば、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、半導体メモリ等どのようなものでもよい。
【0034】
また、このプログラムの流通は、例えば、そのプログラムを記録したDVD、CD-ROM等の可搬型記録媒体を販売、譲渡、貸与等することによって行う。さらに、このプログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することにより、このプログラムを流通させる構成としてもよい。
【0035】
このようなプログラムを実行するコンピュータは、例えば、まず、可搬型記録媒体に記録されたプログラムもしくはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、一旦、自己の記憶装置に格納する。そして、処理の実行時、このコンピュータは、自己の記録媒体に格納されたプログラムを読み取り、読み取ったプログラムに従った処理を実行する。また、このプログラムの別の実行形態として、コンピュータが可搬型記録媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムに従った処理を実行することとしてもよく、さらに、このコンピュータにサーバコンピュータからプログラムが転送されるたびに、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することとしてもよい。また、サーバコンピュータから、このコンピュータへのプログラムの転送は行わず、その実行指示と結果取得のみによって処理機能を実現する、いわゆるASP(Application Service Provider)型のサービスによって、上述の処理を実行する構成としてもよい。なお、本形態におけるプログラムには、電子計算機による処理の用に供する情報であってプログラムに準ずるもの(コンピュータに対する直接の指令ではないがコンピュータの処理を規定する性質を有するデータ等)を含むものとする。
【0036】
また、この形態では、コンピュータ上で所定のプログラムを実行させることにより、本装置を構成することとしたが、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェア的に実現することとしてもよい。
【符号の説明】
【0037】
100 抑圧量決定装置
110 マスク生成部
120 マスク内代表特徴算出部
130 マスク内代表特徴記録部
140 方位角範囲内特徴傾向算出部
150 海面反射特定部
160 特定海面反射抑圧量決定部
200 レーダー受信機
270 海面反射抑圧部
2000 コンピュータ
2010 制御部
2020 記録部
2030 入力部
2040 出力部
2050 表示部
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