(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131253
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】ブレーキ装置用無励磁作動型ブレーキ及びディスクブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
H02K 7/102 20060101AFI20230914BHJP
F16D 55/36 20060101ALI20230914BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20230914BHJP
H02P 15/00 20060101ALI20230914BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
H02K7/102
F16D55/36 B
B60T13/74 G
H02P15/00 A
H02K7/116
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035879
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山寺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】グエン フイウ クエン
【テーマコード(参考)】
3D048
3J058
5H607
【Fターム(参考)】
3D048BB21
3D048CC49
3D048HH18
3D048QQ11
3J058AA44
3J058AA48
3J058AA58
3J058AA73
3J058AA78
3J058AA79
3J058AA88
3J058BA12
3J058CC07
3J058CC13
3J058CC72
3J058CC77
3J058CD24
3J058FA07
5H607AA12
5H607BB01
5H607BB04
5H607BB14
5H607CC03
5H607DD03
5H607EE07
5H607EE10
5H607EE19
(57)【要約】
【課題】磁束漏れの発生を抑制し、アーマチュアを電磁コイルに近づける方向に移動させる磁気吸引力を十分に確保できる、無励磁作動型ブレーキを実現する。
【解決手段】無励磁作動型ブレーキ42を構成するケーシング81を、ヨークとして機能し、かつ、断面U字形で全体が円環状に構成されたコイル収容部91と、略円筒形状を有し、かつ、コイル収容部91に内嵌された、コイル収容部91とは別体の補助ヨーク90とを含んで構成する。
【選択図】
図19
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電時にモータ軸の回転を許容し、かつ、無通電時に前記モータ軸の回転を阻止する、ブレーキ装置用無励磁作動型ブレーキであって、
ヨークとして機能し、かつ、断面略U字形で全体が円環状に構成されたコイル収容部を有する、ケーシングと、
前記ケーシングに対して前記モータ軸の軸方向に離隔して固定された固定プレートと、
前記コイル収容部に収容された電磁コイルと、
前記固定プレートと前記電磁コイルとの間に配置された、アーマチュアと、
前記固定プレートと前記アーマチュアとの間に、前記モータ軸と同軸に配置された、回転側ディスクと、
前記アーマチュアを、前記モータ軸の軸方向に関して前記電磁コイルから離れる方向に付勢する押圧ばねと、を備え、
前記回転側ディスクは、前記モータ軸又は前記モータ軸と同期して回転する軸に対し、前記モータ軸の軸方向に関する相対変位を可能にかつ前記モータ軸の円周方向の相対変位を不能に係合しており、
前記ケーシングは、略円筒形状を有し、かつ、前記コイル収容部に内嵌された、前記コイル収容部とは別体の補助ヨークをさらに有する、
ブレーキ装置用無励磁作動型ブレーキ。
【請求項2】
前記コイル収容部は、前記電磁コイルの径方向内側に配置された内周側壁部と、前記電磁コイルの径方向外側に配置された外周側壁部と、前記内周側壁部の端部と前記外周側壁部の端部とを前記モータ軸の径方向に連結した底壁部とを有しており、
前記内周側壁部と前記外周側壁部と前記底壁部とは、それぞれの厚さ寸法が同じである、
請求項1に記載したブレーキ装置用無励磁作動型ブレーキ。
【請求項3】
前記ケーシングは、前記コイル収容部を有するケーシング本体と、前記補助ヨークとを含み、
前記コイル収容部は、前記底壁部に、略L字形状の切り起こし片を有しており、
前記補助ヨークは、前記モータ軸の軸方向に関して前記アーマチュアとは反対側に位置する端部に、径方向外側に向けて伸長した外向係合片を有しており、
前記ケーシング本体に対する前記補助ヨークの抜け止めが、前記切り起こし片と前記外向係合片との係合により図られている、
請求項2に記載したブレーキ装置用無励磁作動型ブレーキ。
【請求項4】
前記押圧ばねは、コイルばねであり、前記補助ヨークの径方向内側に配置されている、請求項1~3のうちのいずれか1項に記載したブレーキ装置用無励磁作動型ブレーキ。
【請求項5】
前記補助ヨークは、前記モータ軸の軸方向に関して前記アーマチュアとは反対側に位置する端部に、径方向内側に向けて伸長した内向係合片を有しており、
前記押圧ばねは、前記モータ軸の軸方向に関して、前記アーマチュアと前記内向係合片との間に配置されている、
請求項4に記載したブレーキ装置用無励磁作動型ブレーキ。
【請求項6】
前記ケーシングに対し、前記モータ軸の軸方向に関する相対変位を可能にかつ前記モータ軸の円周方向に関する相対変位を不能に支持された、静止側ディスクをさらに有し、
前記回転側ディスクは、複数備えられており、
前記静止側ディスクは、前記モータ軸の軸方向に関して隣り合う前記回転側ディスク同士の間に配置されている、
請求項1~5のうちのいずれか1項に記載したブレーキ装置用無励磁作動型ブレーキ。
【請求項7】
ロータの軸方向に関して前記ロータよりも内側にシリンダを有するキャリパと、
前記シリンダ内に嵌装されたピストンと、
前記シリンダ内に配置され、回転運動を直線運動に変換することで前記ピストンを前記ロータに向けて押し出す、回転直動変換機構と、
前記キャリパに対して支持固定され、前記回転直動変換機構を駆動する、モータギヤユニットと、を備え、
前記モータギヤユニットは、モータ軸を有する電動モータと、通電時に前記モータ軸の回転を許容し、かつ、無通電時に前記モータ軸の回転を阻止する、無励磁作動型ブレーキとを含み、
前記無励磁作動型ブレーキが、請求項1~6のうちのいずれか1項に記載したブレーキ装置用無励磁作動型ブレーキである、
ディスクブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ装置用無励磁作動型ブレーキ及びディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキ装置は、放熱性に優れるとともに、走行時における制動力の細かな調節が可能であるなどの理由から、自動車の前輪だけでなく、後輪にも採用されるケースが増えている。
【0003】
ディスクブレーキ装置は、制動力を得るために作動油を利用する油圧式のディスクブレーキ装置と、制動力を得るために電気的に駆動可能なアクチュエータを利用する電動式のディスクブレーキ装置とに、大別することができる。
【0004】
電動式のディスクブレーキ装置としては、特開2018-184093号公報などに開示されるように、サービスブレーキによる制動力を、シリンダ内にブレーキオイル(フルード)を送り込むことにより発生させ、パーキングブレーキによる制動力を、電動モータにより回転直動変換機構などの電動式のアクチュエータを駆動して発生させる、電動パーキングブレーキ式の構造が知られている。
【0005】
電動パーキングブレーキ式のディスクブレーキ装置においては、自動車のエンジンを停止し、電動モータへの通電が停止した状態においても、パーキングブレーキによる制動力を保持する必要がある。
【0006】
そこで、特開2016-50629号公報などに開示されるように、電動モータと、パッドを押圧するピストンとの間に、セルフロック機能を備えたウォーム減速機構を設けることが考えられている。このような構成によれば、自動車のエンジンを停止し、電動モータへの通電を停止した状態においても、パッドをロータに押し付けたままの状態に維持することが可能になり、パーキングブレーキによる制動力を保持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-184093号公報
【特許文献2】特開2016-50629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
セルフロック機能を備えたウォーム減速機構は、セルフロック機能を備えていないウォーム減速機構に比べて、摩擦抵抗(エネルギロス)が大きく、入出力特性(効率)が低くなりやすい。
【0009】
このような事情に鑑みて、本発明者等は、セルフロック機能を備えたウォーム減速機構に代えて、無励磁作動型ブレーキを使用することにより、自動車のエンジンを停止し、電動モータへの通電を停止した状態で、パーキングブレーキによる制動力を保持することを考えた。
【0010】
本発明者等が本願発明を完成する以前に考えた、未公開の無励磁作動型ブレーキは、電磁コイルと、該電磁コイルを収容したプレス成形品であるヨークと、アーマチュアと、前記ヨークに固定された固定プレートと、該固定プレートと前記アーマチュアとの間に配置され、電動モータのモータ軸に対し軸方向の変位を可能にかつ円周方向の相対変位を不能に係合した回転側ディスクと、前記アーマチュアを前記固定プレートに向けて付勢する押圧ばねとを備える。
【0011】
前記無励磁作動型ブレーキは、前記電磁コイルに通電した際に、前記ヨーク及び前記アーマチュアに磁気回路を形成する。これにより、前記アーマチュアを、前記押圧ばねの弾力に抗して、前記電磁コイルに近づける方向に移動させる(磁気吸引する)。この結果、前記回転側ディスクが、前記アーマチュアによって前記固定プレートに押し付けられずに済むため、前記モータ軸の回転が許容される。このように、前記無励磁作動型ブレーキは、自動車のエンジンが稼働しており、前記電磁コイルに通電している状態では、前記モータ軸の回転を許容する。
【0012】
これに対し、前記電磁コイルへの通電が停止した無通電時には、前記ヨーク及び前記アーマチュアに、通電時のような磁気回路は形成されない。このため、前記回転側ディスクは、前記アーマチュアによって前記固定プレートに対して押し付けられて、該固定プレートと摩擦係合する。この結果、前記モータ軸の回転が阻止される。このように、前記無励磁作動型ブレーキは、自動車のエンジンを停止し、前記電磁コイルへの通電を停止した状態で、パーキングブレーキによる制動力を保持することができる。
【0013】
ところが、先発明にかかる前記無励磁作動型ブレーキは、前記電磁コイルに通電した際に、磁束漏れが発生しやすく、前記アーマチュアを前記電磁コイルに近づける方向に移動させる力(磁気吸引力)が不足しやすい点で改良の余地がある。
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、磁束漏れの発生を抑制し、アーマチュアを電磁コイルに近づける方向に移動させる磁気吸引力を十分に確保できる、ブレーキ装置用無励磁作動型ブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、磁束漏れが発生する理由について鋭意研究を進めたところ、その原因がヨークの厚さ寸法にあるとの知見を得た。すなわち、ヨークは、低コスト化を図れるなどの理由からプレス加工により製造されることが望ましいが、ヨークをプレス加工により製造した場合、通常、ヨークの厚さ寸法は実質的に一定となる。また、ヨークは、電磁コイルの周囲を覆うように、略U字形の断面形状を有し、全体が円環状に構成される。このため、ヨークをプレス加工により製造した場合、ヨークのうちで、電磁コイルの径方向内側に配置される内周側壁部の厚さ寸法と、電磁コイルの径方向外側に配置される外周側壁部の厚さ寸法とが同じになる。ところが、前記内周側壁部の直径が前記外周側壁部の直径よりも小さいことに基づき、中心軸に直交する仮想平面に関して、前記内周側壁部の断面積は、前記外周側壁部の断面積よりも小さくなるため、前記内周側壁部の内部を通過できる磁束は、前記外周側壁部の内部を通過できる磁束よりも少なくなる。この結果、ヨークの厚さ寸法を一定とした場合に、前記内周側壁部の内部を通過できる磁束が少なくなり、磁束漏れを発生させやすくなるとの知見を得た。本発明は、このような知見に基づき、鋭意検討の結果完成されたものである。
【0016】
本発明の一態様にかかるブレーキ装置用無励磁作動型ブレーキは、通電時にモータ軸の回転を許容し、かつ、無通電時に前記モータ軸の回転を阻止するもので、ケーシングと、固定プレートと、電磁コイルと、アーマチュアと、回転側ディスクと、押圧ばねと、を備える。
前記ケーシングは、ヨークとして機能し、かつ、断面略U字形で全体が円環状に構成されたコイル収容部を有する。
前記固定プレートは、前記ケーシングに対して前記モータ軸の軸方向に離隔して固定される。
前記電磁コイルは、前記コイル収容部に収容される。
前記アーマチュアは、前記固定プレートと前記電磁コイルとの間に配置される。
前記回転側ディスクは、前記固定プレートと前記アーマチュアとの間に、前記モータ軸と同軸に配置される。
前記押圧ばねは、前記アーマチュアを、前記モータ軸の軸方向に関して前記電磁コイルから離れる方向に付勢する。
前記回転側ディスクは、前記モータ軸又は前記モータ軸と同期して回転する軸に対し、前記モータ軸の軸方向に関する相対変位を可能にかつ前記モータ軸の円周方向の相対変位を不能に係合している。
本発明の一態様にかかるブレーキ装置用無励磁作動型ブレーキでは、前記ケーシングは、略円筒形状を有し、かつ、前記コイル収容部に内嵌された、前記コイル収容部とは別体の補助ヨークをさらに有している。
【0017】
本発明の一態様にかかるブレーキ装置用無励磁作動型ブレーキでは、前記コイル収容部を、前記電磁コイルの径方向内側に配置された内周側壁部と、前記電磁コイルの径方向外側に配置された外周側壁部と、前記内周側壁部の端部と前記外周側壁部の端部とを前記モータ軸の径方向に連結した底壁部とを有するものとし、前記内周側壁部と前記外周側壁部と前記底壁部とのそれぞれの厚さ寸法を同じにすることができる。
【0018】
本発明の一態様にかかるブレーキ装置用無励磁作動型ブレーキでは、前記ケーシングを、前記コイル収容部を有するケーシング本体と、前記補助ヨークとを含んで構成することができる。
また、前記コイル収容部を、前記底壁部に、略L字形状の切り起こし片を有するものとし、前記補助ヨークを、前記モータ軸の軸方向に関して前記アーマチュアとは反対側に位置する端部に、径方向外側に向けて伸長した外向係合片を有するものとし、前記ケーシング本体に対する前記補助ヨークの抜け止めを、前記切り起こし片と前記外向係合片との係合により図ることができる。
【0019】
本発明の一態様にかかるブレーキ装置用無励磁作動型ブレーキでは、前記押圧ばねを、コイルばねとし、前記補助ヨークの径方向内側に配置することができる。
この場合には、前記補助ヨークを、前記モータ軸の軸方向に関して前記アーマチュアとは反対側に位置する端部に、径方向内側に向けて伸長した内向係合片を有するものとし、前記押圧ばねを、前記モータ軸の軸方向に関して、前記アーマチュアと前記内向係合片との間に配置することができる。
【0020】
本発明の一態様にかかるブレーキ装置用無励磁作動型ブレーキでは、前記ケーシングに対し、前記モータ軸の軸方向に関する相対変位を可能にかつ前記モータ軸の円周方向に関する相対変位を不能に支持された静止側ディスクをさらに備えることができる。また、前記回転側ディスクを複数備え、前記静止側ディスクを、前記モータ軸の軸方向に関して隣り合う前記回転側ディスク同士の間に配置することができる。
【0021】
本発明の一態様にかかるディスクブレーキ装置は、ロータの軸方向に関して前記ロータよりも内側にシリンダを有するキャリパと、前記シリンダ内に嵌装されたピストンと、前記シリンダ内に配置され、回転運動を直線運動に変換することで前記ピストンを前記ロータに向けて押し出す、回転直動変換機構と、前記キャリパに対して支持固定され、前記回転直動変換機構を駆動する、モータギヤユニットと、を備える。
また、前記モータギヤユニットは、モータ軸を有する電動モータと、通電時に前記モータ軸の回転を許容し、かつ、無通電時に前記モータ軸の回転を阻止する、無励磁作動型ブレーキとを含んで構成される。
本発明の一態様にかかるディスクブレーキ装置では、前記無励磁作動型ブレーキとして、本発明の一態様にかかるブレーキ装置用無励磁作動型ブレーキを使用する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様にかかるブレーキ装置用無励磁作動型ブレーキによれば、磁束漏れの発生を抑制し、アーマチュアを電磁コイルに近づける方向に移動させる磁気吸引力を十分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、実施の形態の第1例のディスクブレーキ装置を、懸架装置に取り付けた状態での姿勢で、車体の外側から見た正面図である。
【
図2】
図2は、実施の形態の第1例のディスクブレーキ装置を、懸架装置に取り付けた状態での姿勢で、車体の中央側から見た背面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態の第1例のディスクブレーキ装置を、
図1の上側から見た平面図である。
【
図4】
図4は、実施の形態の第1例のディスクブレーキ装置を、車体の外側かつ径方向外側から見た斜視図である。
【
図5】
図5は、実施の形態の第1例のディスクブレーキ装置を、車体の中央側かつ径方向外側から見た斜視図である。
【
図8】
図8は、実施の形態の第1例のディスクブレーキ装置から取り外したモータギヤユニットを、車体の外側から見た正面図である。
【
図9】
図9は、実施の形態の第1例のディスクブレーキ装置から取り外したモータギヤユニットを、車体の中央側から見た背面図である。
【
図10】
図10は、実施の形態の第1例にかかるモータギヤユニットを、
図9に示した状態から塞ぎ板部を取り外して示す背面図である。
【
図11】
図11は、実施の形態の第1例にかかるモータギヤユニットの部分断面図である。
【
図12】
図12は、実施の形態の第1例にかかるモータギヤユニットを、ハウジング及び無励磁作動型ブレーキを省略して示す斜視図である。
【
図13】
図13は、実施の形態の第1例にかかる減速機構を示す、模式図である。
【
図14】
図14は、実施の形態の第1例にかかる動力分配機構を取り出し、支持軸の径方向外側から見た図である。
【
図15】
図15は、実施の形態の第1例にかかる動力分配機構を取り出して示す、斜視図である。
【
図16】
図16は、実施の形態の第1例にかかる無励磁作動型ブレーキを取り出して、モータ軸の軸方向から見た図である。
【
図17】
図17は、実施の形態の第1例にかかる無励磁作動型ブレーキを取り出して、モータ軸の径方向外側から見た図である。
【
図18】
図18は、実施の形態の第1例にかかる無励磁作動型ブレーキを取り出して示す、斜視図である。
【
図20】
図20は、実施の形態の第1例にかかる無励磁作動型ブレーキを取り出して示す、分解斜視図である。
【
図21】
図21は、実施の形態の第1例にかかる無励磁作動型ブレーキを構成するケーシングに関する、
図19のD-D線断面に相当する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1~
図21を用いて説明する。
【0025】
〔ディスクブレーキ装置の全体構成〕
本例のディスクブレーキ装置1は、電動パーキングブレーキ式のディスクブレーキ装置であり、油圧式のサービスブレーキとしての機能と、電動式のパーキングブレーキとしての機能を併せ持っている。
【0026】
ディスクブレーキ装置1は、フローティング型のディスクブレーキ装置であり、サポート2と、キャリパ3と、1対のパッド4a、4b(アウタパッド4a、インナパッド4b)と、2個のピストン5a、5b(第1ピストン5a、第2ピストン5b)と、2個の回転直動変換機構6a、6b(第1回転直動変換機構6a、第2回転直動変換機構6b)と、電動モータ40及び無励磁作動型ブレーキ42を含むモータギヤユニット7とを備える。
【0027】
本例は、本発明を比較的大型の車両に組み込まれるディスクブレーキ装置に適用した場合を示している。このため、ディスクブレーキ装置1は、ピストン5a、5b及び回転直動変換機構6a、6bを2個ずつ備えているが、一般的な乗用車用のディスクブレーキ装置に適用する場合には、ピストン及び回転直動変換機構を1個ずつ備えることができる。また、ピストン及び回転直動変換機構は、3個以上ずつ備えることもできる。
【0028】
ディスクブレーキ装置1は、サービスブレーキによる制動力を、キャリパ3に備えられた第1シリンダ20a及び第2シリンダ20bに、作動油であるブレーキオイル(圧油)を送り込むことによって得る。これに対し、ディスクブレーキ装置1は、パーキングブレーキによる制動力を、作動油を利用せず、モータギヤユニット7により第1回転直動変換機構6a及び第2回転直動変換機構6bを駆動することによって得る。
【0029】
ディスクブレーキ装置1に関する以下の説明において、軸方向、周方向及び径方向とは、特に断らない限り、車輪とともに回転する円板状のロータ8(
図7参照)の軸方向、周方向及び径方向をいう。
図1、
図2、
図8、
図9及び
図10の表裏方向、
図3及び
図7の上下方向、
図6の左右方向が、それぞれ軸方向に相当し、車体への取付状態で車体の中央側を軸方向内側といい、車体への取付状態で車体の外側を軸方向外側という。また、
図1、
図2、
図6、
図8、
図9、
図10及び
図11の上下方向、
図3及び
図7の表裏方向が、それぞれ周方向に相当し、かつ、車体への取付状態での上下方向に相当する。また、
図1~
図3、
図7~
図11の左右方向、
図6の表裏方向が、それぞれ径方向に相当し、
図1、
図3、
図7及び
図8の左側、
図2、
図9及び
図10の右側が、それぞれ径方向外側であり、
図1、
図3、
図7及び
図8の右側、
図2、
図9及び
図10の左側が、それぞれ径方向内側である。
【0030】
〈サポート〉
サポート2は、鋳鉄などの鉄系合金の鋳造品であり、ロータ8の軸方向内側に配置されたサポート基部9と、ロータ8の軸方向外側に配置された外側連結部10と、これらサポート基部9の周方向両外側の端部と外側連結部10の周方向両外側の端部とをそれぞれ軸方向に連結する1対の連結腕部11a、11bとを備えている。連結腕部11a、11bのそれぞれの径方向外側部(ロータパス部)には、軸方向内側に開口した図示しない案内孔が形成されている。サポート2は、サポート基部9の径方向内側部に形成された複数(図示の例では4つ)の取付孔12を利用して、車体を構成する懸架装置に固定される。
【0031】
本例のディスクブレーキ装置1は、サポート2を懸架装置に固定した状態で、
図1及び
図2に示すように、一方の連結腕部11aが上下方向に関して上側に配置され、他方の連結腕部11bが上下方向に関して下側に配置される。ただし、本発明を実施する場合に、ディスクブレーキ装置の組み付け方向は、特に問わない。
【0032】
〈アウタパッド及びインナパッド〉
アウタパッド4a及びインナパッド4bは、ロータ8の軸方向両側に配置されている。具体的には、アウタパッド4aは、ロータ8の軸方向外側に配置されており、サポート2に対して軸方向に関する変位を可能に支持されている。また、インナパッド4bは、ロータ8の軸方向内側に配置されており、サポート2に対して軸方向に関する変位を可能に支持されている。
【0033】
アウタパッド4a及びインナパッド4bのそれぞれは、ライニング(摩擦材)13と、該ライニング13の裏面を支持した金属製の裏板(プレッシャプレート)14とを備えている。
【0034】
〈キャリパ〉
キャリパ3は、アルミニウム系合金製又は鉄系合金製で、逆U字形状を有している。キャリパ3は、軸方向外側部に押圧部15を有しており、軸方向内側部にクランプ基部16を有している。また、キャリパ3は、ロータ8の径方向外側に配置され、かつ、押圧部15とクランプ基部16とを軸方向に連結するブリッジ部17を有している。
【0035】
クランプ基部16は、基部本体18と、該基部本体18から周方向両外側にそれぞれ伸長した1対の腕部19a、19bとを備えている。基部本体18は、内部に、それぞれが略円柱状の空間である第1シリンダ20a及び第2シリンダ20bを有している。第1シリンダ20a及び第2シリンダ20bのそれぞれは、軸方向外側には開口しているが、軸方向内側の開口は底部21a、21bによって塞がれている。
【0036】
第1シリンダ20a内には、第1ピストン5aが嵌装されており、第2シリンダ20b内には、第2ピストン5bが嵌装されている。第1ピストン5a及び第2ピストン5bのそれぞれは、たとえばS10CやS45Cなどの炭素鋼製で、有底円筒状に構成されている。
【0037】
第1ピストン5a及び第2ピストン5bの内周面には、雌スプライン23a、23bが備えられている。第1ピストン5aの外周面と第1シリンダ20aの内周面との間部分、及び、第2ピストン5bの外周面と第2シリンダ20bの内周面との間部分は、環状のピストンシール24a、24bにより密閉されている。ピストンシール24a、24bは、第1シリンダ20a及び第2シリンダ20bの軸方向外側部の内周面に形成された、シール溝25a、25bに装着されている。
【0038】
第1ピストン5a及び第2ピストン5bのそれぞれの軸方向外側部は、図示しない回り止め機構により、インナパッド4bの裏板14に対して回り止めされている。第1ピストン5aの外周面の軸方向外側部と第1シリンダ20aの軸方向外側の開口縁部との間部分、及び、第2ピストン5bの外周面の軸方向外側部と第2シリンダ20bの軸方向外側の開口縁部との間部分には、ピストンブーツ26a、26bが掛け渡されている。
【0039】
キャリパ3は、サポート2に対して軸方向に関する変位を可能に支持されている。このために、クランプ基部16を構成する1対の腕部19a、19bに、それぞれガイドピン27a、27bの軸方向内側の端部を固定し、ガイドピン27a、27bの軸方向外側の端部乃至中間部を、サポート2を構成する1対の連結腕部11a、11bに形成した案内孔の内側に、軸方向に関する相対変位を可能に挿入している。また、ガイドピン27a、27bの外周面と案内孔の開口部との間に、ブーツ28a、28bを架け渡している。
【0040】
〈回転直動変換機構〉
第1回転直動変換機構6a及び第2回転直動変換機構6bのそれぞれは、
図6及び
図7に示すように、回転運動を直線運動に変換し、作動時に軸方向に関する全長を変化させる送りねじ機構(ボールねじ装置)であり、回転部材であるスピンドル29a、29bと、直動部材であるナット30a、30bと、複数個のボール31a、31bとを備えている。第1回転直動変換機構6aは、第1ピストン5aをロータ8に向けて押し出し、第2回転直動変換機構6bは、第2ピストン5bをロータ8に向けて押し出す。なお、本発明を実施する場合には、スピンドルとナットとを、ボールを介さずに直接接触させる、滑り式の送りねじ装置を利用することもできる。
【0041】
スピンドル29a、29bは、先端部(軸方向外側部)から中間部にわたる外周面に、螺旋状の軸側ボールねじ溝32a、32bを有している。スピンドル29a、29bの基端部(軸方向内側部)は、クランプ基部16の底部21a、21bに形成された貫通孔33a、33bに挿通されており、後述する第1出力軸68及び第2出力軸69の先端部に対して相対回転不能に接続されている。
【0042】
スピンドル29a、29bの基端寄り部分には、円環状の支承リング34a、34bが相対回転不能に外嵌されている。支承リング34a、34bの軸方向内側面と底部21a、21bの軸方向外側面との間には、スラストベアリング35a、35bを配置している。これにより、スピンドル29a、29bに作用する軸方向荷重(軸力)を底部21a、21bによって支承可能とし、かつ、底部21a、21bに対するスピンドル29a、29bの相対回転を可能としている。
【0043】
ナット30a、30bは、内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝36a、36bを有しており、外周面に雄スプライン37a、37bを有している。ナット30aは、第1ピストン5aの内側に配置された状態で、雄スプライン37aを第1ピストン5aに備えられた雌スプライン23aにスプライン係合させている。また、ナット30bは、第2ピストン5bの内側に配置された状態で、雄スプライン37bを第2ピストン5bに備えられた雌スプライン23bにスプライン係合させている。これにより、ナット30aは、第1ピストン5aに対して、軸方向の相対変位を可能にかつ相対回転を不能に係合しており、ナット30bは、第2ピストン5bに対して、軸方向の相対変位を可能にかつ相対回転を不能に係合している。
【0044】
複数個のボール31a、31bは、軸側ボールねじ溝32a、32bとナット側ボールねじ溝36a、36bとの間に形成される螺旋状の負荷路の内側に、転動可能に配置されている。負荷路の始点と終点とは、ナット30a、30bに固定された循環部品38a、38bにより接続されている。
【0045】
本例の第1回転直動変換機構6a及び第2回転直動変換機構6bは、スピンドル29a、29bを回転駆動することで、ナット30a、30bを軸方向に移動させる。具体的には、スピンドル29a、29bを正回転方向に回転駆動した場合には、ナット30a、30bを、ロータ8に対して近づく方向(軸方向外側)に移動させる。これに対し、スピンドル29a、29bを逆回転方向に回転駆動した場合には、ナット30a、30bを、ロータ8から離れる方向(軸方向内側)に移動させる。
【0046】
〈モータギヤユニット〉
モータギヤユニット(MGU、電動駆動装置)7は、第1回転直動変換機構6a及び第2回転直動変換機構6bを電気的に駆動するためのもので、ハウジング39と、電動モータ40と、減速機構41と、無励磁作動型ブレーキ42とを備える。無励磁作動型ブレーキ42が、特許請求の範囲に記載したブレーキ装置用無励磁作動型ブレーキに相当する。
【0047】
《ハウジング》
ハウジング39は、合成樹脂製又は金属製で、キャリパ3を構成するクランプ基部16に対して支持固定されている。具体的には、ハウジング39は、クランプ基部16の外周面に備えられた1対の取付フランジ部43a、43bを挿通した取付ボルト44a、44b、及び、ハウジング39の径方向内側部を軸方向に挿通した取付ボルト44cを利用して、クランプ基部16の軸方向内側に支持固定されている。
【0048】
ハウジング39は、ハウジング本体45と塞ぎ板部46と蓋体47とから構成されている。ハウジング本体45は、それぞれが中空状に構成された、モータ収容部48と、ギヤ収容部49と、ブレーキ収容部50とを備えている。
【0049】
モータ収容部48は、内側に電動モータ40を収容する部分である。図示の例では、モータ収容部48は、電動モータ40を構成する後述のモータ本体53の外径よりもわずかに大きな内径を有する、円筒形状を有している。
【0050】
ギヤ収容部49は、内側に減速機構41を収容する部分である。図示の例では、ギヤ収容部49は、モータ収容部48よりも容積の大きい筐体に構成されている。
【0051】
図8に示すように、ギヤ収容部49の軸方向内側面を構成する側壁部51には、スピンドル29a、29bのそれぞれの基端部を挿入可能な2つの挿通孔52a、52bが開口している。挿通孔52a、52bの中心軸は、軸方向に向けて配置されている。ギヤ収容部49の軸方向内側の開口部は、塞ぎ板部46により塞がれている。
【0052】
ブレーキ収容部50は、内側に無励磁作動型ブレーキ42を収容する部分である。図示の例では、ブレーキ収容部50は、矩形筐状に構成されている。ブレーキ収容部50の上側の開口部は、蓋体47によって塞がれている。
【0053】
《電動モータ》
電動モータ40は、モータ収容部48の内側に配置されている。電動モータ40は、モータ本体53と、モータ軸54とを有する。なお、
図13には、これらの構成要素(モータ本体53及びモータ軸54)を模式的に示している。
【0054】
モータ本体53は、円筒形状を有するモータハウジング55と、モータハウジング55の内側に配置された図示しないロータ及びステータとを備える。前記ロータは、モータ軸54の軸方向中間部に支持されている。前記ステータは、前記ロータの周囲に配置され、モータハウジング55の内側に支持されている。
【0055】
モータ軸54の軸方向両側の端部は、モータ本体53から軸方向両側に突出している。モータ軸54は、モータ本体53から突出した軸方向一方側の端部に、減速機構41に接続される軸状の第1接続部56を有する。また、モータ軸54は、モータ本体53から突出した軸方向他方側の端部に、無励磁作動型ブレーキ42に接続される軸状の第2接続部57を有する。電動モータ40は、図示しない制御装置からの指令信号に基づいて、モータ軸54を所定方向に所定角度だけ回転させる。
【0056】
《減速機構》
減速機構41は、電動モータ40のトルク(動力)を増大して、第1回転直動変換機構6a及び第2回転直動変換機構6bに伝達するものである。このため、減速機構41は、電動モータ40の回転を、2本のスピンドル29a、29bに対してそれぞれ伝達する。減速機構41は、ギヤ収容部49の内側に収容されている。
【0057】
減速機構41は、ウォーム減速機構58と、動力分配機構(ディファレンシャル)59と、複数の歯車(平歯車)60a~60eとを有する。なお、
図13には、減速機構41の構成要素(ウォーム減速機構58、動力分配機構59及び複数の歯車60a~60e)の一部を模式的に示している。
【0058】
(ウォーム減速機)
ウォーム減速機構58は、電動モータ40を構成するモータ軸54の第1接続部56に接続されている。ウォーム減速機構58は、ウォーム61と、ウォームホイール62とからなり、セルフロック機能を備えていない。このため、本例のウォーム減速機構58は、電動モータ40の回転を、第1回転直動変換機構6a及び第2回転直動変換機構6bに伝達するだけでなく、第1回転直動変換機構6a及び第2回転直動変換機構6bから逆入力された回転を、電動モータ40のモータ軸54に伝達可能である。
【0059】
ウォーム61は、外周面の軸方向中間部にウォーム歯63を有しており、電動モータ40のモータ軸54と同軸に配置されている。ウォーム61は、軸方向他方側の端部(基端部)がモータ軸54の第1接続部56に対して相対回転不能に固定されている。ウォーム61の軸方向一方側の端部は、ギヤ収容部49の内側に、図示しない軸受を介して回転自在に支持されている。
【0060】
ウォームホイール62は、外周面にホイール歯64を有している。ホイール歯64は、ウォーム61に備えられたウォーム歯63と噛合している。ウォームホイール62は、ギヤ収容部49の内側に回転自在に支持された第1中間軸65に対して、相対回転不能に外嵌固定されている。第1中間軸65は、第1回転直動変換機構6aのスピンドル29a及び第2回転直動変換機構6bのスピンドル29bの中心軸と、略平行に配置されている。このため、ウォームホイール62の回転中心軸は、スピンドル29a、29bの中心軸と略平行に配置されている。なお、略平行とは、完全な平行だけでなく、実質的に平行な場合を含む意味である。
【0061】
ギヤ収容部49の内側には、第1中間軸65の他に、第2中間軸66、支持軸67、第1出力軸68及び第2出力軸69が支持されている。第2中間軸66、支持軸67、第1出力軸68及び第2出力軸69は、第1中間軸65と略平行に配置されている。第1中間軸65、第2中間軸66、支持軸67、第1出力軸68及び第2出力軸69は、減速機構41を構成し、このうちの支持軸67は、特に動力分配機構59を構成する。
【0062】
第1中間軸65には、ウォームホイール62から軸方向に外れた部分に、第1の歯車60aが相対回転不能に外嵌固定されている。第1の歯車60aは、ホイール歯64よりも歯数が少なく、第2中間軸66に対して相対回転不能に外嵌固定された第2の歯車60bと噛合している。第2中間軸66には、第2の歯車60bから軸方向に外れた部分に、第2の歯車60bよりも歯数の少ない第3の歯車60cが相対回転不能に外嵌固定されている。第3の歯車60cは、動力分配機構59を構成する後述の入力キャリア73と噛合している。したがって、動力分配機構59は、電動モータ40の動力の伝達方向に関して、ウォーム減速機構58よりも下流側に位置している。
【0063】
第1出力軸68には、最終歯車である第4の歯車60dが外嵌固定されており、第2出力軸69には、最終歯車である第5の歯車60eが外嵌固定されている。第4の歯車60dは、動力分配機構59を構成する後述の第1出力部材76と噛合しており、第5の歯車60eは、動力分配機構59を構成する後述の第2出力部材77と噛合している。
【0064】
第1出力軸68及び第2出力軸69のそれぞれの軸方向外側の端部には、係合孔(セレーション孔)70a、70bが備えられている。本例では、第1回転直動変換機構6a及び第2回転直動変換機構6bを構成するスピンドル29a、29bの軸方向内側の端部(基端部)を、係合孔70a、70に対して相対回転不能に係合させている。これにより、第1出力軸68とスピンドル29aとを、同軸にかつ相対回転不能に接続している。また、第2出力軸69とスピンドル29bとを、同軸にかつ相対回転不能に接続している。このため、最終歯車である第4の歯車60d及び第5の歯車60eの回転中心軸は、スピンドル29a、29bの中心軸と略平行(同軸)に配置されている。本発明を実施する場合には、第1出力軸とスピンドル及び/又は第2出力軸とスピンドルを一体に構成し、最終歯車をスピンドルに対して直接接続することもできる。
【0065】
(動力分配機構)
動力分配機構59は、第3の歯車60cと、最終歯車である第4の歯車60d及び第5の歯車60eとの間に配置されている。動力分配機構59は、第3の歯車60cから入力された動力を、第4の歯車60d及び第5の歯車60eに対して、分配して伝達する機能を有する。
【0066】
具体的には、動力分配機構59は、スピンドル29a、29bの回転負荷の大きさ(回転しやすさ)に応じた動力を、第4の歯車60d及び第5の歯車60eに分配する。これにより、第1回転直動変換機構6a及び第2回転直動変換機構6bの効率の差などにかかわらず、第1回転直動変換機構6aにより第1ピストン5aがインナパッド4bを押圧する力と、第2回転直動変換機構6bにより第2ピストン5bがインナパッド4bを押圧する力とに差が生じることを防止する。
【0067】
動力分配機構59は、1本の支持軸67と、支持軸67の周囲に配置された歯車列71とを有する。動力分配機構59は、支持軸67の軸方向両側の端部を、ハウジング39に対して支持固定することで、ハウジング39に支持され、ギヤ収容部49の内側に配置されている。
【0068】
歯車列71は、複数の歯車(平歯車)からなり、かつ、ユニット化(サブアッセンブリ)されており、一部品として取り扱い可能である。
【0069】
歯車列71は、入力キャリア73と、第1中間歯車74及び第2中間歯車75と、第1出力部材76及び第2出力部材77とからなる。なお、入力キャリア73、第1出力部材76及び第2出力部材77についても、外周面に歯部を有する歯車である。
【0070】
入力キャリア73は、それぞれが円環形状を有する1対の支持環78a、78bと、1対の支持環78a、78bの間に架け渡された複数本(図示の例では合計6本)のピン79a、79bとを有する。1対の支持環78a、78bは、複数本のピン79a、79bにより互いに連結されている。一方の支持環78aは、外周面に第3の歯車60cと噛合する歯部73aを有しており、内側に第2出力部材77が相対回転を可能に挿通されている。他方の支持環78bの内側には、第1出力部材76が相対回転を可能に挿通されている。ピン79a、79bは、支持軸67と平行に配置されている。後述するように、第1出力部材76及び第2出力部材77の内側には支持軸67が挿通されるため、入力キャリア73は、第1出力部材76及び第2出力部材77を介して、支持軸67の周囲に回転自在に支持されている。
【0071】
第1中間歯車74及び第2中間歯車75は、入力キャリア73に対して回転自在に支持されている。具体的には、第1中間歯車74及び第2中間歯車75は、ピン79a、79bの周囲に回転自在に支持されており、1対の支持環78a、78bの間部分に配置されている。第1中間歯車74と第2中間歯車75とは、互いに噛合している。
【0072】
第1出力部材76と第2出力部材77とは、軸方向に離隔した状態で、互いに同軸に配置されている。第1出力部材76は、支持軸67の軸方向内側部の周囲に回転自在に支持されており、第2出力部材77は、支持軸67の軸方向外側部の周囲に回転自在に支持されている。
【0073】
第1出力部材76は、中空筒状に構成されており、外周面に入力歯部76a及び出力歯部76bを有する。入力歯部76aは、第1中間歯車74に対して噛合している。これに対し、出力歯部76bは、第4の歯車60dに対して噛合している。このため、第1出力部材76の回転は、出力歯部76bと第4の歯車60dとの噛合部を通じて、第1出力軸68に伝達される。
【0074】
第2出力部材77は、中空筒状に構成されており、外周面に入力歯部77a及び出力歯部77bを有する。入力歯部77aは、第2中間歯車75に対して噛合している。これに対し、出力歯部77bは、第5の歯車60eに対して噛合している。このため、第2出力部材77の回転は、出力歯部77bと第5の歯車60eとの噛合部を通じて、第2出力軸69に伝達される。
【0075】
本例の動力分配機構59は、パーキングブレーキによる制動力を解除する際(減圧差動時)に、第1出力部材76と第2出力部材77とが相対回転することを防止するために、第1出力部材76と第2出力部材77との間に、図示しない付勢部材を備えている。なお、本発明を実施する場合に、付勢部材の姿勢を保持するとともに、付勢部材との摺接により第1出力部材76及び第2出力部材77に局部的な摩耗が発生するのを防止するために、カップリングを備えることもできる。
【0076】
本例の動力分配機構59は、パーキングブレーキによる制動力を得る際(加圧差動時)に、入力キャリア73が支持軸67を中心として回転(自転)することで、第1中間歯車74及び第2中間歯車75を公転させる。
【0077】
そして、第1出力部材76及び第2出力部材77の回転負荷の大きさ、つまり、スピンドル29a、29bの回転負荷の大きさ(回転しやすさ)が互いに同じである場合には、第1中間歯車74及び第2中間歯車75は、互いに噛合したままの状態で、自転せずに公転のみ行い、第1出力部材76及び第2出力部材77に回転を伝達する。このため、第1中間歯車74と噛合した第1出力部材76、及び、第2中間歯車75と噛合した第2出力部材77はともに、同一方向に同一速度で回転する。スピンドル29a、29bの回転負荷の大きさが互いに同じである場合とは、たとえば、ナット30a、30bの先端部が第1ピストン5a及び第2ピストン5bを押圧せずに、スピンドル29a、29bが無負荷回転している状態や、ナット30a、30bの先端部が第1ピストン5a及び第2ピストン5bを押圧し始めた微小な加圧状態などをいう。
【0078】
これに対し、第1出力部材76及び第2出力部材77の回転負荷の大きさ、つまり、スピンドル29a、29bの回転負荷の大きさが互いに異なる場合には、第1中間歯車74及び第2中間歯車75は、互いに噛合したままの状態で、公転だけでなく自転を行い、第1出力部材76と第2出力部材77との一方又は両方に回転を伝達する。スピンドル29a、29bの回転負荷の大きさが互いに異なる場合とは、第1回転直動変換機構6aと第2回転直動変換機構6bとの効率の差などに起因して、第1ピストン5aと第2ピストン5bとがインナパッド4bを同時に押圧せず、第1ピストン5aと第2ピストン5bとがインナパッド4bを押圧するタイミングがずれる場合に生じる。
【0079】
たとえば、第1ピストン5aが、第2ピストン5bよりも先にインナパッド4bを押圧する場合、第1回転直動変換機構6aを構成するスピンドル29aの回転負荷は、第2回転直動変換機構6bを構成するスピンドル29bの回転負荷よりも大きくなる。この場合、動力分配機構59は、第1出力部材76の回転数が、第2出力部材77の回転数よりも小さくなるように、入力キャリア73の回転を第1出力部材76及び第2出力部材77に分配して伝達する。反対に、第2ピストン5bが、第1ピストン5aよりも先にインナパッド4bを押圧する場合、第1回転直動変換機構6aを構成するスピンドル29aの回転負荷は、第2回転直動変換機構6bを構成するスピンドル29bの回転負荷よりも小さくなる。この場合、動力分配機構59は、第1出力部材76の回転数が、第2出力部材77の回転数よりも大きくなるように、入力キャリア73の回転を第1出力部材76及び第2出力部材77に分配して伝達する。
【0080】
また、本例の動力分配機構59は、パーキングブレーキによる制動力を解除する際(減圧差動時)に、付勢部材の作用により、第1出力部材76と第2出力部材77との相対回転を防止し、第1出力部材76と第2出力部材77との両方を加圧作動時とは逆方向に同時に回転させることができる。このため、第1ピストン5aによるインナパッド4bへの押圧力と、第2ピストン5bによるインナパッド4bへの押圧力との両方をゼロにすることができる。
【0081】
《無励磁作動型ブレーキ》
無励磁作動型ブレーキ42は、
図11に示すように、ハウジング39を構成するブレーキ収容部50に収容されており、電動モータ40を構成するモータ軸54の第2接続部57に接続されている。具体的には、無励磁作動型ブレーキ42は、第2接続部57に対して、接続軸80を介して接続されている。接続軸80は、第2接続部57に対して相対回転不能に接続されている。無励磁作動型ブレーキ42は、摩擦ブレーキであり、自動車のエンジンが稼働中である通電時に、モータ軸54の回転を許容し、かつ、自動車のエンジンが停止した無通電時に、モータ軸54の回転を阻止する機能を有する。なお、無励磁作動型ブレーキ42に関する以下の説明において、軸方向、径方向、周方向とは、特に断らない限り、モータ軸54に関する軸方向、径方向、周方向をいう。
【0082】
無励磁作動型ブレーキ42は、ケーシング81と、固定プレート82と、電磁コイル83と、アーマチュア(押圧プレート)84と、複数(図示の例では3枚)の回転側ディスク85と、複数(図示の例では2枚)の静止側ディスク86と、押圧ばね87とを有する。
【0083】
(ケーシング)
ケーシング81は、ケーシング本体89と、ケーシング本体89とは別体の補助ヨーク90とを有する。なお、本例ではケーシング81は、アーマチュア84に対して軸方向他方側(
図19の上側)に配置される。このため、ケーシング81に関して、軸方向に関してアーマチュア84と反対側に位置する端部とは、軸方向他方側の端部(
図19の上側の端部)を指す。
【0084】
ケーシング本体89は、磁性金属板にプレス加工(深絞り加工)を施して造られており、コイル収容部91と取付フランジ部92とを有する。
【0085】
コイル収容部91は、電磁コイル83を三方から覆うように略U字形の断面形状を有し、全体が円環状に構成されている。コイル収容部91は、ヨーク(継鉄)として機能する。すなわち、コイル収容部91は、電磁コイル83に通電した際に、磁気回路を形成し、磁束が内部を通過する。
【0086】
コイル収容部91は、電磁コイル83の径方向内側に配置された円筒形状を有する内周側壁部93と、電磁コイル83の径方向外側に配置された円筒形状を有する外周側壁部94と、内周側壁部93の軸方向他方側の端部と外周側壁部94の軸方向他方側の端部とを径方向に連結した円輪板形状を有する底壁部95とを有する。内周側壁部93と外周側壁部94とは同軸に配置されている。コイル収容部91は、軸方向一方側に開口している。
【0087】
本例のケーシング本体89は、厚さが一定の磁性金属板にプレス加工を施して造られているため、内周側壁部93の厚さ寸法tiと、外周側壁部94の厚さ寸法toと、底壁部95の厚さ寸法tbとは、互いに同じ大きさである(ti=to=tb)。なお、厚さ寸法が同じとは、実質的に同じである場合を含む意味である。
【0088】
コイル収容部91は、底壁部95の円周方向複数箇所(図示の例では2箇所)に、切り起こし片96を有する。本例では、底壁部95は、2つの切り起こし片96を有している。2つの切り起こし片96は、底壁部95の直径方向反対側に配置されている。切り起こし片96は、底壁部95にプレス加工を施すことにより形成されており、略L字形状を有している。切り起こし片96は、軸方向に立設した立設部96aと、立設部96aの先端部から径方向内側に向けて略直角に折れ曲がった爪部96bとを有する。爪部96bは、コイル収容部91の径方向内側に補助ヨーク90を内嵌した後に、立設部96aの先端部に形成される。なお、本発明を実施する場合に、切り起こし片の数は、適宜変更することができる。
【0089】
取付フランジ部92は、コイル収容部91を構成する外周側壁部94の軸方向一方側の端部に備えられており、径方向外側に向けて伸長している。取付フランジ部92は、外周側壁部94に対して略直角に配置されている。取付フランジ部92は、円環形状を有しており、円周方向複数箇所(図示の例では3箇所)に、後述するリベット100を挿通可能な挿通孔92aを有する。
【0090】
補助ヨーク90は、略円筒形状を有しており、ケーシング本体89を構成するコイル収容部91に内嵌固定され、コイル収容部91とともにヨークとして機能する。
【0091】
補助ヨーク90は、ケーシング本体89を構成する磁性金属板と同種の磁性金属板にプレス加工を施して造られており、筒状部97と、複数(図示の例では2つ)の外向係合片98と、複数(図示の例では4つ)の内向係合片99とを有する。なお、本発明を実施する場合には、補助ヨークを、ケーシング本体とは異なる種類の磁性金属板から造ることもできる。
【0092】
筒状部97は、円筒形状を有しており、コイル収容部91に内嵌されている。本例では、筒状部97は、コイル収容部91に締り嵌めで内嵌されている。このため、筒状部97は、コイル収容部91を構成する内周側壁部93の内径寸法よりもわずかに大きい外径寸法を有している。筒状部97の外周面は、内周側壁部93の内周面に全周にわたり密接している。
【0093】
筒状部97の軸方向寸法は、内周側壁部93の軸方向寸法とほぼ同じである。本例では、筒状部97の厚さ寸法t
aを、次のように設定している。すなわち、
図21示すように、モータ軸54の中心軸に直交する仮想平面において、コイル収容部91及び補助ヨーク90を切断した際に、筒状部97の断面積S
aと内周側壁部93の断面積S
iとの和(S
a+S
i)が、外周側壁部94の断面積S
o以上(S
a+S
i≧S
o)になるように、筒状部97の厚さ寸法t
aを、幾何学的に定めている。ただし、本発明を実施する場合に、筒状部の厚さ寸法は、筒状部の断面積と内径側壁部の断面積との和が、外周側壁部の断面積よりも、小さくなるようにあるいは大きくなるように設定することもできる。たとえば、筒状部の厚さ寸法は、筒状部の断面積と内径側壁部の断面積との和(S
a+S
i)が、外周側壁部の断面積(S
О)の80%~200%の範囲に設定することが好ましい。
【0094】
外向係合片98は、筒状部97の軸方向他方側の端部に備えられており、径方向外側に向けて伸長している。外向係合片98は、略矩形平板状に構成されており、筒状部97に対して略直角に配置されている。本例では、補助ヨーク90は、2つの外向係合片98を有している。2つの外向係合片98は、筒状部97の直径方向反対側に配置されている。なお、本発明を実施する場合に、外向係合片の数は、ケーシング本体の切り起こし片と同数であれば良く、適宜変更することができる。
【0095】
外向係合片98は、ケーシング本体89を構成する底壁部95に備えられた切り起こし片96と軸方向に係合している。具体的には、外向係合片98は、補助ヨーク90をコイル収容部91に内嵌し、かつ、外向係合片98と立設部96aとの位相を一致させた状態で立設部96aの先端部に形成された爪部96bと、機械的に係合している。外向係合片98と切り起こし片96の爪部96bとの係合により、ケーシング本体89に対する補助ヨーク90の軸方向他方側への抜け止めが図られている。
【0096】
外向係合片98は、爪部96bと係合する軸方向他方側の側面に、係合凹部98aを有している。そして、外向係合片98と爪部96bとを係合させた状態で、係合凹部98aの円周方向側面を爪部96bに対向させている。これにより、ケーシング本体89に対する補助ヨーク90の相対回転が防止されている。また、外向係合片98に係合凹部98aを形成することで、切り起こし片96を構成する立設部96aの軸方向寸法を短くでき、爪部96bの径方向寸法を大きくできるため、外向係合片98と爪部96bとの径方向の係合代を大きく確保できる。
【0097】
内向係合片99は、略L字形状を有しており、筒状部97の軸方向他方側の端部に備えられている。内向係合片99は、筒状部97の軸方向他方側の端部から軸方向に伸長した軸方向板部99aと、軸方向板部99aの先端部から径方向内側に向けて伸長した径方向板部99bとを有する。本例では、補助ヨーク90は、4つの内向係合片99を有している。4つの内向係合片99は、円周方向に関して等間隔に配置されている。外向係合片98は、円周方向に隣り合う1対の内向係合片99同士の間に配置されている。なお、本発明を実施する場合に、内向係合片を、径方向伸長部のみから構成することもできる。また、内向係合片の数は、2つ以上であれば足り、適宜変更することができる。
【0098】
(固定プレート)
固定プレート82は、金属板製で、全体が中空三角形状に構成されている。固定プレート82は、ケーシング本体89に対して軸方向に離隔して固定されている。具体的には、固定プレート82は、ケーシング本体89を構成する取付フランジ部92に対して、複数本(図示の例では3本)のリベット100を利用して固定されている。このために、固定プレート82は、径方向外側部の円周方向複数箇所に、リベット100を挿通可能な挿通孔82aを有している。ケーシング本体89と固定プレート82とを、リベット100により固定した状態で、リベット100の周囲には、円筒形状を有するスペーサ101が外嵌されている。別の言い方をすれば、ケーシング本体89と固定プレート82との間には、スペーサ101が挟持されている。このため、スペーサ101の長さ寸法の分だけ、固定プレート82は、ケーシング本体89から軸方向一方側に離隔して配置されている。
【0099】
固定プレート82は、径方向外側部の円周方向複数箇所に、取付孔82bを有している。固定プレート82は、取付孔82bを挿通した図示しない複数のボルトにより、ハウジング39を構成するブレーキ収容部50に対し固定されている。
【0100】
(電磁コイル)
電磁コイル83は、円環状に構成されており、ケーシング81を構成するコイル収容部91の内側に収容されている。本例では、電磁コイル83は、電線102と、該電線102を巻き回した円環形状を有するボビン103とから構成されている。電磁コイル83は、通電により、電磁コイル83の周囲に、
図19中に矢印Xで示す方向(又は矢印Xとは反対方向)の磁界を発生させる。
【0101】
(アーマチュア)
アーマチュア84は、磁性金属板製で、全体が円環板状に構成されている。アーマチュア84は、固定プレート82と電磁コイル83との間に配置され、電磁コイル83が収容されたコイル収容部91の軸方向一方側の開口部を覆う。アーマチュア84は、電磁コイル83に通電した際に、コイル収容部91及び補助ヨーク90とともに、磁気回路を形成する。
【0102】
アーマチュア84は、ケーシング81に対して、軸方向に関する相対変位を可能にかつ円周方向に関する相対変位を不能に支持されている。このために、アーマチュア84は、径方向外側の端部に備えられた通孔84aにリベット100を挿通している。
【0103】
(回転側ディスク)
回転側ディスク85は、固定プレート82とアーマチュア84との間に、モータ軸54と同軸に配置されている。回転側ディスク85は、円板形状を有しており、径方向中央部に、スプライン孔85aを有している。本例では、回転側ディスク85は、複数枚(図示の例では3枚)備えられている。
【0104】
回転側ディスク85は、接続軸80の外周面に備えられた雄スプライン部80aに対してスプライン孔85aをスプライン係合させることで、接続軸80に対して、軸方向に関する相対変位を可能にかつ円周方向に関する相対変位を不能に係合している。このため、回転側ディスク85は、モータ軸54と同期して回転可能である。
【0105】
(静止側ディスク)
静止側ディスク86は、軸方向に関して、回転側ディスク85と交互に配置されている。本例では、静止側ディスク86は、複数枚(図示の例では2枚)備えられており、軸方向に隣り合う回転側ディスク85同士の間に配置されている。
【0106】
静止側ディスク86は、円環形状を有しており、径方向中央部に接続軸80を挿通可能な通孔86aを有し、外周縁部の円周方向複数箇所(図示の例では3箇所)に二股状の係合突起部86bを有する。
【0107】
静止側ディスク86は、係合突起部86bをスペーサ101に係合させることで、ケーシング81に対して、軸方向に関する相対変位を可能にかつ円周方向に関する相対変位を不能に支持されている。このため、静止側ディスク86は、モータ軸54が回転する際にも回転しない。
【0108】
(押圧ばね)
押圧ばね87は、アーマチュア84を、軸方向に関して電磁コイル83から離れる方向である、軸方向一方側(
図19の下側)に向けて押圧する。
【0109】
押圧ばね87は、コイルばねであり、補助ヨーク90の径方向内側に配置されている。そして、押圧ばね87は、軸方向に圧縮された状態で、アーマチュア84と補助ヨーク90に備えられた内向係合片99との間に配置されている。別の言い方をすれば、押圧ばね87は、アーマチュア84と内向係合片99との間で弾性的に突っ張っている。これにより、押圧ばね87は、アーマチュア84を、軸方向に関して電磁コイル83から離れる方向に向けて付勢する。
【0110】
[無励磁作動型ブレーキの動作説明]
本例の無励磁作動型ブレーキ42は、電磁コイル83に通電した際に、電磁コイル83の周囲に配置されたケーシング81及びアーマチュア84に磁気回路を形成する。具体的には、電磁コイル83に通電した際に、コイル収容部91、補助ヨーク90及びアーマチュア84に磁気回路を形成する。これにより、アーマチュア84を、押圧ばね87の弾力に抗して、電磁コイル83に近づける方向に移動させる(磁気吸引する)。別の言い方をすれば、アーマチュア84により、押圧ばね87を弾性的に圧縮変形させる。この結果、回転側ディスク85が、アーマチュア84によって、固定プレート82又は/及び静止側ディスク86に押し付けられずに済むため、モータ軸54の回転が許容される。
【0111】
これに対し、電磁コイル83への通電が停止した無通電時には、コイル収容部91、補助ヨーク90及びアーマチュア84に、通電時のような磁気回路は形成されない。このため、回転側ディスク85は、アーマチュア84によって、固定プレート82又は/及び静止側ディスク86に対し押し付けられて、これら固定プレート82又は/及び静止側ディスク86と摩擦係合する。この結果、モータ軸54の回転が阻止される。
【0112】
[ディスクブレーキ装置の動作説明]
本例のディスクブレーキ装置1によりサービスブレーキを作動させる際には、キャリパ3に備えられた第1シリンダ20a及び第2シリンダ20bに、図示しない通油路を通じてブレーキオイルを送り込む。これにより、第1ピストン5a及び第2ピストン5bを、第1シリンダ20a及び第2シリンダ20bから押し出し、インナパッド4bをロータ8の軸方向内側面に押し付ける。また、押し付けに伴う反力により、キャリパ3を、サポート2に対し軸方向内側に変位させる。そして、キャリパ3の押圧部15により、アウタパッド4aをロータ8の軸方向外側面に押し付ける。これにより、1対のパッド4a、4bとロータ8との接触面に作用する摩擦により、制動力を得る。このように、ディスクブレーキ装置1は、サービスブレーキによる制動力を、ブレーキオイルの導入により、第1ピストン5a及び第2ピストン5bを押し出すことにより得る。
【0113】
ディスクブレーキ装置1によりパーキングブレーキを作動させる際には、モータギヤユニット7を構成する電動モータ40に通電し、減速機構41を介して、第1回転直動変換機構6aを構成するスピンドル29a及び第2回転直動変換機構6bを構成するスピンドル29bを正回転方向に回転駆動する。これにより、ナット30a、30bを軸方向外側に移動させる。そして、第1ピストン5a及び第2ピストン5bをロータ8に向けて押し出すことで、インナパッド4bをロータ8の軸方向内側面に押し付ける。また、押し付けに伴う反力により、キャリパ3を、サポート2に対し軸方向内側に変位させる。そして、キャリパ3の押圧部15により、アウタパッド4aをロータ8の軸方向外側面に押し付ける。これにより、1対のパッド4a、4bとロータ8との接触面に作用する摩擦により、制動力を得る。このように、ディスクブレーキ装置1は、パーキングブレーキによる制動力を、モータギヤユニット7を利用して第1ピストン5a及び第2ピストン5bを押し出すことにより得る。
【0114】
また、自動車のエンジンを停止し、電動モータ40への通電が停止した無通電時には、無励磁作動型ブレーキ42を構成する電磁コイル83への通電も停止する。このため、無励磁作動型ブレーキ42によって、モータ軸54の回転を阻止することができる。つまり、第1ピストン5a及び第2ピストン5bが退避することを阻止し、インナパッド4b及びアウタパッド4aをロータ8の軸方向側面に押し付けたままにできる。したがって、本例のディスクブレーキ装置1は、電動モータ40への通電が停止した状態においても、パーキングブレーキによる制動力を保持することができる。
【0115】
以上のような本例のディスクブレーキ装置1に組み込まれた無励磁作動型ブレーキ42によれば、磁束漏れの発生を抑制することができ、アーマチュア84を電磁コイル83に近づける方向に移動させる磁気吸引力を十分に確保できる。
すなわち、本例の無励磁作動型ブレーキ42は、ケーシング81を、ヨークとして機能するコイル収容部91を備えたケーシング本体89と、コイル収容部91に内嵌された、ケーシング本体89とは別体の補助ヨーク90とから構成している。これにより、ケーシング本体89を、磁性金属板にプレス加工を施して製造することで、内周側壁部93の厚さ寸法tiと外周側壁部94の厚さ寸法toとが同じになる場合にも、内周側壁部93の内部を通過できない(内周側壁部93から漏れ出した)磁束は、補助ヨーク90の筒状部97の内部を通過することができる。つまり、補助ヨーク90を内周側壁部93に内嵌することで、内周側壁部93の厚さ寸法tiを筒状部97の厚さ寸法taの分だけ実質的に大きくしたのと同じ効果が得られる。したがって、本例の無励磁作動型ブレーキ42によれば、ケーシング81から磁束漏れが発生することを抑制できるため、アーマチュア84を電磁コイル83に近づける方向に移動させる磁気吸引力を十分に確保できる。また、ケーシング本体89及び補助ヨーク90を、プレス加工により製造できるため、無励磁作動型ブレーキ42の低コスト化を図ることもできる。
【0116】
また、本例では、筒状部97の厚さ寸法Taを、筒状部97の断面積Saと内周側壁部93の断面積Siとの和(Sa+Si)が、外周側壁部94の断面積So以上になるように設定している。このため、外周側壁部94の内部を通過できる磁束と、筒状部97及び内周側壁部93の内部を通過できる磁束とをほぼ同じにすることができるため、ケーシング81からの磁束漏れを効果的に抑制できる。
【0117】
また、本例では、補助ヨーク90を、ケーシング本体89を構成するコイル収容部91に内嵌するだけではなく、補助ヨーク90に備えられた外向係合片98を、コイル収容部91を構成する底壁部95に備えられた切り起こし片96(爪部96b)に機械的に係合させている。このため、押圧ばね87から補助ヨーク90に作用する軸方向他方側を向いた弾力にかかわらず、補助ヨーク90がケーシング本体89から軸方向他方側へ抜け出ることを有効に防止できる。
【0118】
また、外向係合片98の軸方向他方側の側面に備えられた係合凹部98aの円周方向側面を切り起こし片96の爪部96bに対向させているため、ケーシング本体89に対する補助ヨーク90の相対回転を防止することもできる。
【0119】
さらに、本例では、押圧ばね87を、補助ヨーク90の径方向内側に配置しているため、無励磁作動型ブレーキ42の軸方向寸法の小型化を図れる。また、補助ヨーク90に、押圧ばね87の弾力を支承する内向係合片99を設けているため、押圧ばね87を保持する機能をケーシング81(補助ヨーク90)に持たせることができる。このため、押圧ばねを保持するための専用の部品が不要になるため、部品点数の低減を図ることができる。
【0120】
本例では、無励磁作動型ブレーキ42を備える代わりに、セルフロック機能を備えていないウォーム減速機構58を使用している。このため、セルフロック機能を備えたウォーム減速機構を使用した場合に比べて、摩擦抵抗(エネルギロス)を抑えることができ、入出力特性を高くすることができる。
【0121】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0122】
本発明の無励磁作動型ブレーキは、フローティング型のディスクブレーキ装置に限らず、対向ピストン型のディスクブレーキ装置に適用することもできる。また、本発明の無励磁作動型ブレーキは、ディスクブレーキ装置に限らず、ドラムブレーキ装置に適用することもできる。さらに、本発明の無励磁作動型ブレーキは、自動車用のブレーキ装置に限らず、各種工作機械用のブレーキ装置や各種産業機械用のブレーキ装置などに適用することもできる。
【0123】
本発明は、実施の形態で説明した構造に限定されない。たとえば、本発明を実施する場合には、無励磁作動ブレーキから静止側ディスクを省略し、アーマチュアと固定プレートとの間に、回転側ディスクのみを配置することもできる。また、ケーシング本体を構成するコイル収容部に備えられた抜け止め片の形状、及び、補助ヨークに備えられた外側係合部の形状についても、適宜変更することができる。さらに、補助ヨークに備えられた内向係合片の形状についても、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0124】
1 ディスクブレーキ装置
2 サポート
3 キャリパ
4a アウタパッド
4b インナパッド
5a 第1ピストン
5b 第2ピストン
6a 第1回転直動変換機構
6b 第2回転直動変換機構
7 モータギヤユニット
8 ロータ
9 サポート基部
10 外側連結部
11a、11b 連結腕部
12 取付孔
13 ライニング
14 裏板
15 押圧部
16 クランプ基部
17 ブリッジ部
18 基部本体
19a、19b 腕部
20a 第1シリンダ
20b 第2シリンダ
21a、21b 底部
23a、23b 雌スプライン
24a、24b ピストンシール
25a、25b シール溝
26a、26b ピストンブーツ
27a、27b ガイドピン
28a、28b ブーツ
29a、29b スピンドル
30a、30b ナット
31a、31b ボール
32a、32b 軸側ボールねじ溝
33a、33b 貫通孔
34a、34b 支承リング
35a、35b スラストベアリング
36a、36b ナット側ボールねじ溝
37a、37b 雄スプライン
38a、38b 循環部品
39 ハウジング
40 電動モータ
41 減速機構
42 無励磁作動型ブレーキ
43a、43b 取付フランジ部
44a、44b、44c 取付ボルト
45 ハウジング本体
46 塞ぎ板部
47 蓋体
48 モータ収容部
49 ギヤ収容部
50 ブレーキ収容部
51 側壁部
52a、52b 挿通孔
53 モータ本体
54 モータ軸
55 モータハウジング
56 第1接続部
57 第2接続部
58 ウォーム減速機構
59 動力分配機構
60a~60e 歯車
61 ウォーム
62 ウォームホイール
63 ウォーム歯
64 ホイール歯
65 第1中間軸
66 第2中間軸
67 支持軸
68 第1出力軸
69 第2出力軸
70a、70b 係合孔
71 歯車列
73 入力キャリア
73a 歯部
74 第1中間歯車
75 第2中間歯車
76 第1出力部材
76a 入力歯部
76b 出力歯部
77 第2出力部材
77a 入力歯部
77b 出力歯部
78a、78b 支持環
79a、79b ピン
80 接続軸
80a 雄スプライン部
81 ケーシング
82 固定プレート
82a 挿通孔
82b 取付孔
83 電磁コイル
84 アーマチュア
85 回転側ディスク
85a スプライン孔
86 静止側ディスク
86a 通孔
86b 係合突起部
87 押圧ばね
89 ケーシング本体
90 補助ヨーク
91 コイル収容部
92 取付フランジ部
92a 挿通孔
93 内周側壁部
94 外周側壁部
95 底壁部
96 切り起こし片
96a 立設部
96b 爪部
97 筒状部
98 外向係合片
99 内向係合片
99a 軸方向板部
99b 径方向板部
100 リベット
101 スペーサ
102 電線
103 ボビン