(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131278
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20230914BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20230914BHJP
H01M 50/109 20210101ALI20230914BHJP
H01M 50/184 20210101ALI20230914BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0568
H01M50/109
H01M50/184 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035925
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】菅野 佳実
【テーマコード(参考)】
5H011
5H029
【Fターム(参考)】
5H011AA09
5H011CC06
5H011GG02
5H029AJ04
5H029AJ05
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ03
5H029HJ10
5H029HJ12
(57)【要約】
【課題】本発明は、リフローはんだなどの加熱に耐える耐熱性に優れた非水電解質二次電池の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の非水電解質二次電池は、正極体と、負極体と、支持塩及び溶媒を含む電解液と、セパレータが、正極缶と負極缶によって構成された収容容器に収容されてなる非水電解質二次電池であって、前記セパレータを介し前記収容容器の一側に前記正極体が収容され、前記収容容器の他側に前記負極体が収容されるとともに、前記収容容器内の前記正極体収容側の電解液の支持塩濃度と、前記収容容器内の前記負極体収容側の電解液の支持塩濃度が異なり、前記正極体収容側の支持塩濃度が前記負極体収容側の支持塩濃度より高いことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極体と、負極体と、支持塩及び溶媒を含む電解液と、セパレータが、正極缶と負極缶によって構成された収容容器に収容されてなる非水電解質二次電池であって、
前記セパレータを介し前記収容容器の一側に前記正極体が収容され、前記収容容器の他側に前記負極体が収容されるとともに、
前記収容容器内の前記正極体収容側の電解液の支持塩濃度と、前記収容容器内の前記負極体収容側の電解液の支持塩濃度が異なり、前記正極体収容側の支持塩濃度が前記負極体収容側の支持塩濃度より高いことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記正極体収容側の支持塩濃度が2~3mol/Lであり、前記負極体収容側の支持塩濃度が0.5~1mol/Lであることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記正極缶が有底円筒状であり、
前記負極缶が前記正極缶の開口部内側にガスケットを介在し固定され、
前記正極缶の開口部を前記負極缶側にかしめたかしめ部を設けることで前記収容容器が密封されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
正極体と、負極体と、支持塩及び溶媒を含む電解液と、セパレータが、正極缶と負極缶を接合して構成された収容容器に収容されてなる非水電解質二次電池の製造方法であって、前記収容容器内に、前記正極体と前記負極体と前記電解液と前記セパレータを収容するにあたり、
前記正極体収容側の電解液の支持塩濃度を、前記負極体収容側の電解液の支持塩濃度より高くすることを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記正極体収容側の支持塩濃度を2~3mol/L、前記負極体収容側の支持塩濃度を0.5~1mol/Lとすることを特徴とする請求項4に記載の非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記正極缶が有底円筒状であり、
前記負極缶を前記正極缶の開口部内側にガスケットを介在し固定し、
前記正極缶の開口部を前記負極缶側にかしめたかしめ部を設けることで前記収容容器を密封することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の非水電解質二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型の非水電解質二次電池では、近年、回路基板搭載時のハンダ付けの効率を上げるためリフローハンダ付け対応が求められている。
従来、リチウムマンガン酸化物などの正極活物質とリチウム合金の負極活物質の組み合わせによる小型非水電解質二次電池において、リフローハンダ付け可能な構成が種々提供されている。
例えば、特許文献1に記載の非水電解質二次電池では、電界液の溶質濃度を特定の範囲に調整することで、リフローはんだ付けの高温時に金属酸化物と電解液との反応性を低く抑えることで課題を解決している。
また、以下の特許文献2に記載の非水電解質二次電池では、互いに混じり合わない2種類の電解液を用い、正極側の電解液として耐酸化性の高い電界液を、負極側の電解液として耐還元性の高い電解液を用いた構成を採用し、酸化または還元分解を抑制することにより、電池の劣化を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-327282号公報
【特許文献2】特開2020-177890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の特許文献1に記載の非水電解質二次電池においては、電解液のリチウム塩濃度を1.5~2.5mol/Lに規定し、電解液中のリチウムイオンあるいはアニオン量を増やすことでリフローはんだ付けの問題を解決している。
特許文献1に記載の技術によると、リフローはんだ付け時の高温環境において正極活物質とする金属酸化物と電解液との反応性を低くすることができ、これにより電池性能劣化を抑制できたと考えられる。
ところが、電解液の塩濃度を上げてゆくと、電解液の電導が高くなるに伴い、電池の内部抵抗が高くなるために、電池特性の劣化を引き起こすおそれがある。
【0005】
本発明は、上述の問題に鑑み、リフローはんだ付けに伴う電池特性劣化を防止するとともに、電解液の濃度が高くなることに伴う電池抵抗の増加による電池特性の劣化を防止できる非水電解質二次電池及びその製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
「1」前記課題を解決するため、本発明の一形態に係る非水電解質二次電池は、正極体と、負極体と、支持塩及び溶媒を含む電解液と、セパレータが、正極缶と負極缶によって構成された収容容器に収容されてなる非水電解質二次電池であって、前記セパレータを介し前記収容容器の一側に前記正極体が収容され、前記収容容器の他側に前記負極体が収容されるとともに、前記収容容器内の前記正極体収容側の電解液の支持塩濃度と、前記収容容器内の前記負極体収容側の電解液の支持塩濃度が異なり、前記正極体収容側の支持塩濃度が前記負極体収容側の支持塩濃度より高いことを特徴とする。
【0007】
電解液において正極体収容側の支持塩濃度が高く、負極体収容側の支持塩濃度が低い場合、正極体周囲の電解液中のイオンあるいはアニオン量が増加することで、リフロー時の加熱に伴う高温環境となった場合であっても正極体から電解液中に放出されるイオン量を化学平衡論的に減少させることができる。これにより、リフロー時の加熱に伴う電池性能劣化を防止できる。
リフロー用途の非水電解質二次電池において、リフロー工程は電池組立後のある一定の期間内に行われる。リフロー工程時に正極体収容側の支持塩濃度が高く、負極体収容側の支持塩濃度が低い状態となっていれば、上述のように電池性能劣化を防止できる。
非水電解質二次電池の組立時に正極体収容側の支持塩濃度と、負極体収容側の支持塩濃度に差異が生じていても、リフロー時の熱や時間経過により、いずれ支持塩濃度差は解消され、支持塩濃度は均一化される。これにより、リフロー後あるいは時間経過後の支持塩濃度を均一化することができ、電解液の抵抗を十分に低くして電池特性の劣化を防止できる。
【0008】
「2」前記一形態の非水電解質二次電池では、前記正極体収容側の支持塩濃度が2~3mol/Lであり、前記負極体収容側の支持塩濃度が0.5~1mol/Lであることが好ましい。
【0009】
本形態では、正極体収容側の支持塩濃度を2~3mol/Lに、負極体収容側の支持塩濃度を0.5~1mol/Lとすることにより、リフロー時の電池性能劣化を確実に防止できるとともに、リフロー後あるいは十分な時間の経過後に望ましい支持塩濃度となって優れた電池性能を発揮できる。
【0010】
「3」前記一形態の非水電解質二次電池では、前記正極缶が有底円筒状であり、前記負極缶が前記正極缶の開口部内側にガスケットを介在し固定され、前記正極缶の開口部を前記負極缶側にかしめたかしめ部を設けることで前記収容容器が密封された構成であることが好ましい。
【0011】
本形態では、ガスケットを介し負極缶と正極缶にかしめ部を設けた密閉構造のボタン型の非水電解質二次電池を提供できる。また、この非水電解質二次電池はリフローハンダ付け後の容量低下が少なく、容量維持率に優れるとともに、電解液の抵抗も低く電池特性の劣化も生じ難い非水電解質二次電池を提供できる。
【0012】
「4」本発明の一形態に係る非水電解質二次電池の製造方法は、正極体と、負極体と、支持塩及び溶媒を含む電解液と、セパレータが、正極缶と負極缶を接合して構成された収容容器に収容されてなる非水電解質二次電池の製造方法であって、前記収容容器内に、前記正極体と前記負極体と前記電解液と前記セパレータを収容するにあたり、前記正極体収容側の電解液の支持塩濃度を、前記負極体収容側の電解液の支持塩濃度より高くすることが好ましい。
【0013】
正極体収容側の電解液の支持塩濃度を、負極体収容側の支持塩濃度より高くすると、正極体周囲の電解液中のイオンあるいはアニオン量が増加することで、リフロー時の加熱に伴う高温環境となった場合であっても正極体から電解液中に放出されるイオン量を化学平衡論的に減少させることができる。これにより、リフロー時の加熱に伴う電池性能劣化を防止できる非水電解質二次電池を提供できる。
リフロー用途の非水電解質二次電池において、リフロー工程は電池組立後のある一定の期間内に行われる。リフロー工程時に正極体収容側の支持塩濃度が高く、負極体収容側の支持塩濃度が低い状態となっていれば、上述のように電池性能劣化を防止できる非水電解質二次電池を提供できる。
非水電解質二次電池の組立時に正極体収容側の支持塩濃度と、負極体収容側の支持塩濃度に差異が生じていても、リフロー時の熱や時間経過により、いずれ支持塩濃度差は解消され、支持塩濃度は均一化される。これにより、リフロー後あるいは時間経過後の支持塩濃度を均一化することができ、電解液の抵抗を十分に低くして電池特性の劣化を防止した非水電解質二次電池を提供できる。
【0014】
「5」本発明の一形態に係る非水電解質二次電池の製造方法において、前記正極体収容側の支持塩濃度を2~3mol/L、前記負極体収容側の支持塩濃度を0.5~1mol/Lとすることが好ましい。
【0015】
本形態では、正極体収容側の支持塩濃度を2~3mol/Lに、負極体収容側の支持塩濃度を0.5~1mol/Lとすることにより、リフロー時の電池性能劣化を確実に防止できるとともに、リフロー後あるいは十分な時間の経過後に望ましい支持塩濃度となって優れた電池性能を発揮できる非水電解質二次電池を提供できる。
【0016】
「6」本発明の一形態に係る非水電解質二次電池の製造方法において、前記正極缶が有底円筒状であり、前記負極缶を前記正極缶の開口部内側にガスケットを介在し固定し、前記正極缶の開口部を前記負極缶側にかしめたかしめ部を設けることで前記収容容器を密封することが好ましい。
【0017】
本形態では、ガスケットを介し負極缶と正極缶にかしめ部を設けた密閉構造のボタン型の非水電解質二次電池を提供できる。また、リフローハンダ付け後の容量低下が少なく、容量維持率に優れるとともに、電解液の抵抗も低く電池特性の劣化も生じ難い非水電解質二次電池を提供できる。
【発明の効果】
【0018】
本形態によれば、リフローハンダ付け対応可能であるとともに、電池特性の劣化を防止した非水電解質二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態に係る非水電解質二次電池を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態である非水電解質二次電池の例を挙げ、その構成について
図1を参照しながら詳述する。なお、本発明で説明する非水電解質二次電池とは、正極または負極として用いる活物質とセパレータが収容容器内に収容されてなる二次電池である。また、以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更し表示している。
【0021】
[非水電解質二次電池の第1実施形態]
図1に示す本実施形態の非水電解質二次電池1は、いわゆるコイン(ボタン)型の電池である。この非水電解質二次電池1は、有底円筒状の金属製の正極缶12と、正極缶12の開口部を塞ぐ有蓋円筒状の蓋状の金属製の負極缶22と、正極缶12の内周面に沿って設けられたガスケット40を備えている。
非水電解質二次電池1は、負極缶22の外側にガスケット40を介し正極缶12を配置し、正極缶12の開口部内周縁を内側にかしめ加工して構成された薄型(偏平型)の収容容器2を備えている。収容容器2内には、正極缶12と負極缶22とに囲まれた収容空間が形成され、この収容空間に正極体10と負極体20とがセパレータ30を介し対向配置され、更に電解液50が充填されている。
【0022】
正極缶12の材質として、従来公知のものが用いられ、例えば、SUS316Lあるいは、SUS329J4L等のステンレス鋼が挙げられる。
負極缶22の材質は、正極缶12の材質と同様、従来公知のステンレス鋼が挙げられ、例えば、SUS316LやSUS329J4L、あるいは、SUS304-BA等が挙げられる。また、負極缶には、ステンレス鋼に銅やニッケル等を圧着してなるクラッド材を用いることもできる。収容容器2の外径は、一例として4~12mm程度とされる。
【0023】
(正極体)
本形態において正極体10は、正極集電体14を介し正極缶12の内面(
図1では収容容器2の底壁上面)に電気的に接続され、負極体20は、負極集電体24を介し負極缶22の内面(
図1では収容容器2の天井壁下面)に電気的に接続されている。なお、正極集電体14と負極集電体24を略し、正極体10を直接正極缶12に接続して正極缶12に集電体の機能を持たせても良いし、負極体20を直接負極缶22に接続して負極缶22に集電体の機能を持たせても良い。
ガスケット40は、収容容器2の内部においてセパレータ30の外周縁と接続され、ガスケット40がセパレータ30を保持している。正極体10、負極体20及びセパレータ30には、収容容器2内に充填された電解液50が含浸されている。
【0024】
正極体10において、正極活物質の種類は特に限定されないが、例えば、正極活物質としてスピネル型リチウムマンガン酸化物を含有するものを用いることが好ましい。
正極体10中の正極活物質の含有量は、非水電解質二次電池1に要求される放電容量等を勘案し決定され、50~95質量%の範囲とすることができる。正極活物質の含有量が上記好ましい範囲の下限値以上であれば、充分な放電容量が得られやすく、好ましい上限値以下であれば、正極体10を成形しやすい。
正極体10は、バインダ(以下、正極体10に用いられるバインダを「正極バインダ」ということがある)を含有しても良い。
【0025】
正極バインダとして、従来公知の物質を用いることができ、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)等を選択でき、これらを複数組み合わせて構成したバインダを用いることができる。
また、正極バインダは、上記のうちの1種を単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。正極体10において正極バインダの含有量は、例えば、1~20質量%とすることができる。
なお、本明細書において数値範囲に関し「~」を用いて上限と下限を示す場合、特に説明しない限り上限と下限を含む範囲とする。よって、例えば、1~20質量%と記載した場合、1質量%以上20質量%以下を意味する。
正極集電体14は、従来公知のものを用いることができ、炭素を導電性フィラーとする導電性樹脂接着剤等を例示することができる。
【0026】
また、本実施形態では、正極活物質として、上記のリチウムマンガン酸化物に加え、他の正極活物質を含有していても良く、例えば、モリブデン酸化物、リチウム鉄リン酸化合物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、バナジウム酸化物等、他の金属酸化物の何れか1種以上を含有していても良い。
【0027】
(負極体)
負極体20において、負極活物質の種類は特に限定されないが、例えば、負極活物質としてシリコン酸化物を含有することが好ましい。
負極体20において、負極活物質が炭素被覆SiOX、例えば、SiOX(0≦x<2)で表されるシリコン酸化物を炭素被覆したものからなることが好ましい。
【0028】
また、負極体20は、負極活物質として、上記のSiOX(0≦x<2)に加え、他の負極活物質を含有していても良く、例えば、Si、C等、他の負極活物質を含有していても良い。
負極活物質として粒状のSiOX(0≦x<2)を用いる場合、これらの粒子径(D50)は、特に限定されないが、例えば、0.1~30μmの範囲を選択することができ、より好ましくは1~10μmの範囲を選択することができる。SiOXの粒子径(D50)が、上記範囲の下限値未満であると、例えば、非水電解質二次電池1を過酷な高温高湿環境下において保管・使用した場合や、リフローハンダ付け処理による反応性が高まり、電池特性が損なわれるおそれがあり、また、上限値を超えると、放電レートが低下するおそれがある。
【0029】
負極体20中の負極活物質、即ち、SiOX(0≦x<2)の含有量は、非水電解質二次電池1に要求される放電容量等を勘案して決定され、50質量%以上の範囲を選択することができ、60~70質量%の範囲を選択することが好ましい。
負極体20において、上記元素からなる負極活物質の含有量が、上記範囲の下限値以上であれば、充分な放電容量が得られやすく、また、上限値以下であれば、負極体20を成形しやすい。
【0030】
負極体20は、導電助剤(以下、負極体20に用いられる導電助剤を「負極導電助剤」ということがある)を含有してもよい。負極導電助剤は、正極導電助剤と同様のものである。
負極体20は、バインダ(以下、負極体20に用いられるバインダを「負極バインダ」ということがある)を含有してもよい。
負極バインダとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)等を選択することができる。
【0031】
また、負極バインダは、上記のうちの1種を単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、負極バインダにポリアクリル酸を用いる場合には、ポリアクリル酸を、予め、pH3~10程度に調整しておくことができる。この場合、pHの調整には、例えば、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物や水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物を用いることができる。
負極体20中の負極バインダの含有量は、例えば1~20質量%の範囲とされる。
【0032】
なお、本形態において負極体20の大きさ、厚さについては、正極体10の大きさ、厚さと同様に形成できる。
また、
図1に示す非水電解質二次電池1においては、図示を省略しているが、負極体20の表面、即ち、負極体20と後述のセパレータ30との間に、リチウムフォイルなどのリチウム体60を設けた構成を採用することができる。
【0033】
「電解液」
電解液50は、通常、支持塩を非水溶媒に溶解させた液体である。電解液の電導度は電池の内部抵抗に影響する。このため、通常は電池の内部抵抗を小さくするため、電導度が最大値となる支持塩濃度0.5~1.0mol/Lを採用することが好ましい。
本発明者は種々の溶媒、溶質について検討を行った結果、支持塩濃度を通常採用されている支持塩濃度より高くすることで、リフローハンダ付けにおいて電解液とリチウム含有マンガン酸化物との反応が抑制され、良好なリフロー耐熱性が得られることを発見した。
【0034】
本実施形態の構造では、電池として組立時、収容容器2内に充填されている電解液50において、正極体収容側の電解液50Aの支持塩濃度を2~3mol/Lに、負極体収容側の電解液50Bの支持塩濃度を0.5~1mol/Lに設定する。
なお、上述の電解液50Aの支持塩濃度と上述の電解液50Bの支持塩濃度は、非水電解質二次電池1を組み立てた際の支持塩濃度である。しかし、非水電解質二次電池1を組立後、相当の時間が経過すると、セパレータ30を介し分離されている電解液50Aと電解液50Bとの間で拡散により徐々に成分が均一化され、電解液50の全体が均質化する。この均質化後の電解液の支持塩濃度は、1.0mol/L前後、例えば、0.7~1.5mol/Lの範囲であることが好ましい。
【0035】
電解液の支持塩濃度が高い場合に、電解液とリチウム含有マンガン酸化物あるいはモリブデン酸化物とのリフローハンダ付けにおける反応が抑制されるメカニズムについては不明であるが、支持塩濃度を上げることで電解液中のリチウムイオンあるいはアニオン量が増えることで、リフローハンダ付けにおける高温環境においてリチウムマンガン酸化物から電解液に放出されるリチウムイオンあるいは酸素イオンの量が化学平衡論的に減少したためと考えられる。しかしながら、電解液の支持塩濃度を上げていくと、前述のように電解液の電導が高くなるに伴い電池の内部抵抗が高くなるために、電池特性の劣化を引き起こすおそれがある。
このため、本実施形態の非水電解質二次電池1においては電解液50Aの支持塩濃度を2~3mol/lの範囲とする。リフローハンダ付け可能な非水電解質二次電池を達成するには、リフロー温度において正極活物質との反応性の低い上述の電解液50Aを用いることが好ましい。
【0036】
リフローハンダ付けを行なうには、電解液として、常圧での沸点が200℃以上の非水溶媒を用いることがリフロー温度で安定であると考えられる。リフロー温度は260℃程度に上がる場合があるが、その温度で電池内部の圧力が上がっているせいか常圧での沸点が204℃のγ-ブチロラクトン(γBL)を用いた場合でも電池の破裂はなかった。正負極との組み合わせにおいて、エチレンカーボネート(EC)、γ-ブチロラクトン(γBL)から選ばれる単独または複合物で用いることが良好であると考えられる。
【0037】
また、上述した有機溶媒の他にポリマーを用いることもできる。ポリマーとしては、一般に使用されているものを用いることができ、例えば、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレングリコールジアクリレート架橋体、ポリフッ化ビニリデン、ポリフォスファゼン架橋体、ポリプロピレングリコールジアクリレート架橋体、ポリエチレングリコールメチルエーテルアクリレート架橋体、ポリプロピレングリコールメチルエーテルアクリレート架橋体等が好ましく用いられる。
有機溶媒として、例えば、エチレンカーボネート(EC)、γ-ブチロラクトン(γBL)の混合溶媒を用い、支持塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)または、ホウフッ化リチウム(LiBF4)を用いることができる。
【0038】
支持塩は、非水電解質二次電池の電解液に支持塩として用いられる公知のLi化合物を用いることができ、例えば、LiCH3SO3、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3SO3)2、LiN(FSO2)2等の有機酸リチウム塩;LiPF6、LiBF4、LiB(C6H5)4、LiCl、LiBr等の無機酸リチウム塩等のリチウム塩等が挙げられる。なかでも、リチウムイオン導電性を有する化合物であるリチウム塩が好ましく、LiN(CF3SO2)2、LiN(FSO2)2、LiBF4がより好ましく、耐熱性及び水分との反応性が低く、保存特性を充分に発揮できるという観点から、LiN(CF3SO2)2を用いることができる。
支持塩は、上記のうちの1種を単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
(セパレータ)
セパレータ30は、正極体10と負極体20の間に介在され、大きなイオン透過度を有し、かつ、機械的強度を有する絶縁膜が用いられる。
セパレータ30としては、従来から非水電解質二次電池のセパレータに用いられるものを何ら制限無く適用でき、例えば、アルカリガラス、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス、鉛ガラス等のガラス、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド、ポリイミド(PI)等の樹脂からなる不織布等が挙げられる。中でも、ガラス製不織布が好ましく、ホウ珪酸ガラス製不織布がより好ましい。ガラス製不織布は、機械強度に優れるとともに、大きなイオン透過度を有するため、内部抵抗を低減して放電容量の向上を図ることができる。
セパレータ30の厚さは、非水電解質二次電池1の大きさや、セパレータ30の材質等を勘案して決定され、例えば5~300μmとすることができる。
【0040】
(ガスケット)
ガスケット40は、例えば、熱変形温度230℃以上の樹脂からなることが好ましい。ガスケット40に用いる樹脂材料の熱変形温度が230℃以上であれば、リフローハンダ処理や非水電解質二次電池1の使用中の加熱によってガスケットが著しく変形し、電解液50が漏出するのを防止できる。
ガスケット40は、
図1に示すように、正極缶12の内周面に沿って円環状に形成され、その環状溝41の内部に負極缶22の外周端部22aが配置されている。
ガスケット40は、正極缶12の開口部内周側に隙間無く挿入される外径を有するリング状の外縁部40Aを有する。ガスケット40は、負極缶22の内周縁に隙間無く挿入される外径を有するリング状の内縁部40Bを有する。また、ガスケット40は、これら外縁部40Aおよび内縁部40Bの下端部どうしを接続した底壁部40Cを有する。
従って、ガスケット40の外周縁上面側には負極缶22の外周端部22aを挿入可能な環状溝41が形成されている。
図1に示す正極缶12の開口部12aの周縁部12bを内側、即ち負極缶22側にかしめることで負極缶22とともにガスケット40を挟み込むことができ、収容空間を密封した構造の収容容器2が構成されている。
【0041】
以上のようなガスケット40の材質としては、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、液晶ポリマー(LCP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリエーテルニトリル樹脂(PEN)、ポリエーテルケトン樹脂(PEK)、ポリアリレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。また、これらの材料にガラス繊維、マイカウイスカー、セラミック微粉末等を、30質量%以下の添加量で添加したものを好適に用いることができる。このような材質を用いることで、加熱によってガスケットが著しく変形し、電解液50が漏出するのを防止できる。
【0042】
以上説明した本実施形態の非水電解質二次電池1によれば、電池組立後の正極体収容側の電解液50Aの支持塩濃度が2~3mol/Lに、負極体収容側の電解液50Bの支持塩濃度が0.5~1mol/Lに設定されている。
リフロー用途の非水電解質二次電池1において、リフロー工程は、電池製造後(電池組立後)のある期間内に行われる。リフロー工程を実施する時期において、正極体収容側の電解液50Aの支持塩濃度が2~3mol/Lに、負極体収容側の電解液50Bの支持塩濃度が0.5~1mol/Lに設定される。
リフロー工程により非水電解質二次電池1に熱が作用した場合であっても、支持塩濃度を上げることで電解液中のリチウムイオンあるいはアニオン量が増え、リフローハンダ付けの高温環境においてリチウムマンガン酸化物などの正極活物質から電解液に放出されるリチウムイオンあるいは酸素イオンの量が化学平衡論的に減少する。この結果、非水電解質二次電池1の電池性能劣化を抑制することができる。
【0043】
次に、リフロー工程により回路基板等に非水電解質二次電池1を搭載後、回路基板が搭載されている携帯電話、PDA、ゲーム機、デジタルカメラ等の商品をエンドユーザーが使用するのは、リフロー工程後、相当の時間が経過した後である。
上述のように電解液50Aと電解液50Bの支持塩濃度は異なるが、相当の時間が経過すると、電解液の成分拡散により電解液50A、50Bの支持塩濃度は同じ値に近づく方向となる。上述のように、電解液50Aの支持塩濃度が2~3mol/Lに、電解液50Bの支持塩濃度が0.5~1mol/Lに設定されている場合、相当の時間経過後の電解液50A、50Bの支持塩濃度は、0.7~1.5mol/Lの範囲であるか、この範囲近傍に接近する。
【0044】
電解液50A、50Bの支持塩濃度が0.7~1.5mol/Lの範囲であると、非水電解質二次電池1がリチウムイオン電池である場合、リチウムイオンの伝導度が良好な状態であると言及できる。なお、一般的にリチウムイオン伝導度が最大となるのは、電解液濃度が1mol/L前後の場合であることが知られている。
従って、上述の非水電解質二次電池1であるならば、リフロー工程を経ても電池性能の劣化がなく、エンドユーザーが使用する場合に理想的なリチウムイオン伝導度を備えた状態で非水電解質二次電池1を使用できる。
【実施例0045】
図1に示す構成の非水電解質二次電池を試作し、後述する評価試験を行った。
正極活物質原料として融剤として塩化リチウムを用いて熱処理したLi
4Mn
5O
12を用い、負極活物質としSiOを用いた場合である。下記のようにして作製した正極、負極及び電解液を用いた。また、電池の大きさは外径4.8mm、厚さ1.4mmである。
実施例として正極活物質は次のようにして作成した。はじめに原料となるリチウム含有マンガン酸化物(Li
4Mn
5O
12)を次のように作製した。
【0046】
MnO2(CMD)とLiOH・H2Oをモル比で5:4の割合で、ジルコニアボールを用いボールミルで20時間混合した。次にこの混合物を酸素濃度約30~35%の雰囲気で、500℃、24時間焼成した。焼成したものは、平均粒径約10μmに粉砕した。このようにして作製したリチウム含有マンガン酸化物(Li4Mn5O12)2gを出発原料として用い、市販の塩化リチウム20gを混ぜ、30mlの坩堝に入れ、400℃、72時間加熱した。加熱終了後、純水で内容物を溶解しながら沈殿物を回収した。沈殿物を60℃で乾燥した。
【0047】
正極合剤は次の様にして作製した。上記の沈殿物を粉砕したものに導電剤としてグラファイトを、結着剤としてポリアクリル酸を重量比沈殿物:グラファイト:ポリアクリル酸=90:7:3の割合で混合して正極合剤とし、次にこの正極合剤5mgを2ton/cm2で直径2.4mmのペレットに加圧成形した。その後、この様にして得られた正極ペレットを炭素を含む導電性樹脂接着剤からなる電極集電体を用いて正極缶に接着し一体化した(正極ユニット化)後、250℃で8時間減圧加熱乾燥した。
【0048】
負極は、次の様にして作製した。市販のSiOを粉砕したものを作用極の活物質として用いた。この活物質に導電剤としてグラファイトを、結着剤としてポリアクリル酸をそれぞれ重量比45:40:15の割合で混合して負極合剤とした。合剤2.6mgを2ton/cm2で直径2.4mmのペレットに加圧成形したものを用いた。
その後、この様にして得られた負極ペレットを用い、炭素を導電性フィラーとする導電性樹脂接着剤からなる電極集電体2を用いて負極缶に接着し一体化した(負極ユニット化)後、250℃で8時間減圧加熱乾燥した。さらに、ペレット上にリチウムフォイル106を直径2mm、厚さ0.22mmに打ち抜いたものを圧着し、リチウム-負極ペレット積層電極とした。厚さ0.2mmのガラス繊維からなる不織布を乾燥後φ3mmに打ち抜きセパレータとした。ガスケットは、PEEK製のものを用いた。
【0049】
電解液は、エチレンカーボネート(EC):γ-ブチロラクトン(γBL:GBL)の体積比1:1混合溶媒にホウフッ化リチウム(LiBF
4)あるいは六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を以下の表1に記載の濃度となるように添加した正極用電解液と負極用電解液を用意した。
正極缶と負極缶からなる収容容器をかしめ加工により製造する場合、正極缶に正極体を収容後正極用の電解液を注入し、その後、セパレータを介し負極体を正極缶の上部側に収容し、負極体の周囲に負極用電解液を注入し、その後、正極缶の開口部を負極缶で塞ぎ、正極缶の開口周縁部を
図1に示すようにかしめ加工し、非水電解質二次電池を作製した。
【0050】
表1に示す実施例1~8と比較例1~9に示す、正極活物質、負極活物質、リチウム塩、溶媒を適用し、実施例1~8と比較例1~9に示す正極側の電解液の支持塩濃度(正極濃度と表記)と負極側の電解液の支持塩濃度(負極濃度と表記)に設定して非水電解質二次電池を作製した。
【0051】
【0052】
【0053】
実施例1~8と比較例1~9に示す非水電解質二次電池に対し、260℃に加熱するリフロー工程を施し、リフロー工程前後の非水電解質二次電池において電池高さ(電池缶の膨らみ)を測定し、評価した。(リフロー後の収容容器の厚み)-(リフロー前の収容容器の厚み)が0.03mm以下であれば、問題ないと判断し◎の判定結果とした。
表2に記載の○印は、0.02mm~0.025mmを示し、△は0.025mm~0.03mmを示す。
なお、表に示す比較例1、2、3は、特開2004-327282号に記載されている実施例1、2、3に相当する。
実施例1~8と比較例1~9に示す非水電解質二次電池に対し、260℃に加熱するリフロー工程を施し、リフロー工程前後の非水電解質二次電池における抵抗増加率を測定した。(リフロー後の抵抗/リフロー前の抵抗)の値が、95~110%の場合は◎、110~115%の場合は○、115~120%の場合は△、120%以上の場合は×と判断した。
【0054】
実施例1~8と比較例1~9に示す非水電解質二次電池に対し、260℃に加熱するリフロー工程を施し、リフロー工程前後の非水電解質二次電池における容量変化を測定した。
(リフローしていない非水電解質二次電池の容量/リフローした非水電解質二次電池の容量)の値が95~105%であれば◎と判断し、85~90%の場合は○と判断し、80~95%の場合は△と判断し、80%以下の場合は×と判断した。
【0055】
実施例1~8と比較例1~9に示す非水電解質二次電池に対し、リフロー後のサイクル特性の終止電圧である1.8Vカットを求めた。
75%より大であれば、◎と判断し、70~75%の場合は○と判断し、65~70%の場合は△と判断し、65%以下の場合は×と判断した。
【0056】
実施例1~8と比較例1~9に示す非水電解質二次電池に対し、過放電特性を求めた。過放電特性は、過放電(0V)までのリサイクル特性に相当し、容量劣化が少ない方が良いと考えられる。上述の1.8Vカットより厳しい試験であると判断できる。
50%より大であれば◎と判断し、45~50%の場合は○と判断し、40~45%の場合は△と判断し、40%以下の場合は×と判断した。
【0057】
実施例1~8と比較例1~9に示す非水電解質二次電池に対し、高温高湿保存特性を把握するために、内部抵抗を測定した。これは、寿命の代替え試験であり、抵抗増加が無い方が優れている。内部抵抗は、(リフロー後の高温高湿保存後の抵抗/リフロー後の高温高湿保存前の抵抗)の値が95~120%であれば◎と判定し、120~125%の場合は○と判断し、125~130%の場合は△と判断し、130%以上の場合は×と判断した。
【0058】
実施例1~8と比較例1~9に示す非水電解質二次電池に対し、容量を測定した。これは、寿命の代替え試験であり、容量劣化が少ない方が優れている。
容量は、(リフロー後の高温高湿保存後の容量/リフロー後の高温高湿保存前の容量)の値が85%以上であれば、◎と判定し、80~85%の場合は○と判断し、75~80%の場合は△と判断し、75%以下の場合は×と判断した。
【0059】
表1、表2に示す結果が示すように、正極体収容側の支持塩濃度が2~3mol/Lであり、負極体収容側の支持塩濃度が0.5~1mol/Lである実施例1~9は、いずれの項目の測定結果においても優れた結果を示した。
実施例1~9の非水電解質二次電池は、リフロー前後に膨らむことがなく、抵抗増加が少なく、容量変化が少なく、サイクル特性に優れ、保存特性にも優れていた。
これらに対し比較例1~3、比較例8、9は、正極体収容側の支持塩濃度と負極体収容側の支持塩濃度が等しい例であるが、実施例1~9が示す特性より何れかの特性において劣っている。
【0060】
比較例4、6は、負極体収容側の電解液に支持塩を添加していない試料であるが、膨らみ以外の全ての特性において、実施例1~9より劣っていた。
比較例5、7は、正極体収容側の支持塩濃度と負極体収容側の支持塩濃度の差異を小さくした試料であるが、膨らみと抵抗増加率以外の全ての特性が実施例1~9より劣っていた。
【0061】
なお、実施例1、実施例2と比較例2、比較例3を比較すると、実施例1、実施例2の正極電解液濃度が2mol/lに対し、比較例2の正極電解液濃度が2mol/l、比較例3では更に濃い2.5ml/lとなっているが、リフロー後の膨らみ、抵抗増加、容量は、実施例1、実施例2の方が優れている。これは、特許文献1(特開2004-327282号公報)の、電解液濃度が高いと正極活物質であるリチウム金属酸化物の酸素放出あるいはリチウム放出による劣化を抑えられると記述している内容と矛盾しているように思える。
この理由は、本発明に係る実施例1、実施例2は負極電解液濃度が、比較例2、比較例3の負極電解液濃度よりも低いことが、関係していると考えられる。
【0062】
電池組立前に電池部品は乾燥され、電池組立は露点が-40℃以下のドライルームなどで行われているが、組立てた電池内の水分(H
2O)はゼロではない。また、組立後の非水電解質二次電池は大気に晒されるが、
図1に示すように「かしめ封止」した構造の非水電解質二次電池には僅かではあるが、大気から電池内に水分(H
2O)の流入がある。
非水電解質二次電池のリフロー工程において、こうして電池に含有された微量H
2Oにより電解液溶質のリチウム塩の分解が行われるが、この分解反応は負極側で起こると考えられる。
【0063】
比較例2、比較例3は負極の電解液の塩濃度が低いため、この負極近傍の電解液溶質のリチウム塩の分解反応が抑えられていると思われる。
すなわち、リフローによる電池の劣化の原因として、影響度(リフロー劣化の大きい)順に、(1)正極活物質の分解、(2)負極活物質による溶質(リチウム塩)分解となっているため、実施例1、実施例2は、比較例2、比較例3よりも正極電解液濃度は薄いが、負極の電解液濃度が薄いため、リフロー特性は若干であるが良くなっていると考えられる。
【0064】
実施例1、実施例2、実施例3、実施例4を比較すると、正極電解液濃度が高い実施例3、実施例4の方が、リフロー特性は優れており、また実施例1、実施例2、実施例3、実施例4と、比較例1、比較例2、比較例3と比較すると、リフロー後のサイクル特性、高温高湿保存特性とも優れている。
【0065】
比較例4、実施例1、実施例2、比較例5は、正極電解液濃度は2mol/lで、負極電解液濃度が0mol/l、0.5mol/l、1mol/l、1.5mol/lとなっている。比較例4はリフロー特性の膨らみは抑えられているが、その他の特性は悪い。これは電池内の溶質(リチウム塩)濃度が低いためと思われる。
また、比較例5ではリフロー特性の膨らみと抵抗増加は抑えられているが、その他の特性は悪い。これは電池内の溶質(リチウム塩)濃度が高すぎるためと考えられる。
【0066】
比較例6、実施例3、実施例4、比較例7は、正極電解液濃度は3mol/lで、負極電解液濃度が0mol/l、0.5mol/l、1mol/l、1.5mol/lとなっている。比較例6はリフロー特性の膨らみは抑えられているが、その他の特性は悪い。
これは電池内の溶質(リチウム塩)濃度が低いためと思われる。また、比較例7ではリフロー特性の膨らみと抵抗増加は抑えられているが、その他の特性は悪い。これは電池内の溶質(リチウム塩)濃度が高すぎるためと考えられる。
これらの結果から、正極体収容側の支持塩濃度(正極濃度)が2~3mol/Lであり、負極体収容側の支持塩濃度(負極濃度)が0.5~1mol/Lであることが好ましいと判断した。
【0067】
ところで、先の実施形態において説明した非水電解質二次電池を作製する場合、以下に説明する種々の作成手順を採用することができる。
「手順1」
かしめ加工前の正極缶の内底面に導電ペーストなどの接着層を介し正極体10を貼り付け、乾燥後、正極体10に正極体収容側の電解液50Aを供給(滴下)する。かしめ加工前のガスケットを組み付けたかしめ加工前の負極缶を
図1と上下逆向きとして、負極缶の内底面に導電ペーストなどの接着層を介し負極体20を貼り付け、乾燥後、負極体20にセパレータ30を載せ、負極体収容側の電解液50Bを供給(滴下)する。その後、正極缶の開口部と負極缶の開口部を嵌合し、かしめ加工することにより、
図1に示す正極缶12と負極缶22を接合した非水電解質二次電池1を得ることができる。
【0068】
「手順2」
かしめ加工前の正極缶の内底面に導電ペーストなどの接着層を介し正極体10を貼り付け、乾燥後、正極体10に正極体収容側の電解液50Aを供給(滴下)する。かしめ加工前のガスケットを組み付けたかしめ加工前の負極缶を
図1と上下逆向きとして、負極缶の内底面に導電ペーストなどの接着層を介し負極体20を貼り付け、乾燥させた後、負極体20に負極体収容側の電解液50Bを供給(滴下)した後、負極体20上にセパレータ30を載せる。その後、正極缶の開口部と負極缶の開口部を嵌合し、かしめ加工することにより、
図1に示す正極缶12と負極缶22を接合した非水電解質二次電池1を得ることができる。
【0069】
「手順3」
かしめ加工前の正極缶の内底面に導電ペーストなどの接着層を介し正極体10を貼り付け、乾燥後、正極体収容側の電解液50Aを供給(滴下)し、正極体10上にセパレータ30を載せる。かしめ加工前のガスケットを組み付けたかしめ加工前の負極缶を
図1と上下逆向きとして、負極缶の内底面に導電ペーストなどの接着層を介し負極体20を貼り付け、乾燥させた後、負極体20に負極体収容側の電解液50Bを供給(滴下)する。その後、正極缶の開口部と負極缶の開口部を嵌合し、かしめ加工することにより、
図1に示す正極缶12と負極缶22を接合した非水電解質二次電池1を得ることができる。
【0070】
以上説明の手順1~3は、正極体10または正極体10とセパレータ30を収容した正極缶に、正極体収容側の電解液50Aを収容するとともに、負極体20とセパレータ30または負極体20を収容し、かしめ加工前のガスケットを備えた負極缶に、負極体収容側の電解液50Bを収容した後、正極缶に負極缶をかしめ加工により接合することで
図1に示す非水電解質二次電池1を製造する方法であると説明できる。
【0071】
「手順4」
かしめ加工前のガスケットを組み付けたかしめ加工前の負極缶を
図1と上下逆向きとして、負極缶の内底面に導電ペーストなどの接着層を介し負極体20を貼り付け、乾燥させた後、負極体20上にセパレータ30を載せ、セパレータ30に負極体収容側の電解液50Bを供給(滴下)する。電解液50Bはセパレータ30を介し負極体20にも含浸される。セパレータ30上に正極体10を載せ、正極体収容側の電解液50Aを供給(滴下)する。
図1と上下逆向きとしたかしめ加工前の正極缶の内底面に導電ペーストなどの接着層を塗布しておき、乾燥後、このかしめ加工前の正極缶を前述の負極缶に嵌合し、かしめ加工する。以上により
図1に示す構成の非水電解質二次電池1を製造できる。
【0072】
「手順5」
かしめ加工前のガスケットを組み付けたかしめ加工前の負極缶を
図1と上下逆向きとして、負極缶の内底面に導電ペーストなどの接着層を介し負極体20を貼り付け、乾燥させる。乾燥後の負極体20に負極体収容側の電解液50Bを滴下(供給)する。この後、負極体20上にセパレータ30を載せる。次に、セパレータ30上に正極体10を載せ、正極体収容側の電解液50Aを滴下(供給)する。
図1と上下逆向きとしたかしめ加工前の正極缶の内底面に導電ペーストなどの接着層を塗布しておき、乾燥後、このかしめ加工前の正極缶を前述の負極缶に嵌合し、かしめ加工する。以上により
図1に示す構成の非水電解質二次電池1を製造できる。
【0073】
以上説明の手順4、5は、かしめ加工前のガスケットを備え、負極体20または負極体20とセパレータ30を収容した負極缶に、負極缶側の電解液50Bを供給し、負極缶に負極体20を収容した場合はセパレータ30を設置した上に正極体10を設置し、負極缶に負極体20とセパレータ30を収容した場合はセパレータ30の上に正極体10を設置し、正極体10に正極体側の電解液50Aを供給した後、負極缶に正極缶をかしめ加工により接合する方法であると説明できる。
【0074】
「手順6」
かしめ加工前のガスケットを組み付けたかしめ加工前の正極缶の内底面に導電ペーストなどの接着層を介し正極体10を貼り付け、乾燥後、正極体収容側の電解液50Aを供給(滴下)し、正極体10上にセパレータ30を載せる。セパレータ30の上に負極体20を載せ、負極缶側の電解液50Bを滴下(供給)する。内底面に導電ペーストなどの接着層を塗布し乾燥させた負極缶22を前述の正極缶に被せ、かしめ加工により正極缶と負極缶を接合する。このかしめ加工により
図1に示す構成の非水電解質二次電池1を製造できる。
【0075】
「手順7」
かしめ加工前のガスケットを組み付けたかしめ加工前の正極缶の内底面に導電ペーストなどの接着層を介し正極体10を貼り付け、乾燥後、正極体10上にセパレータ30を載せ、正極体収容側の電解液50Aをセパレータ30の上から滴下(供給)する。電解液50Aはセパレータ30を介し正極体10にも含浸される。セパレータ30の上に負極体20を載せ、負極体20に負極缶側の電解液50Bを滴下(供給)する。内底面に導電ペーストなどの接着層を塗布し乾燥させた負極缶22を前述の正極缶に被せ、かしめ加工により正極缶と負極缶を接合する。このかしめ加工により
図1に示す構成の非水電解質二次電池1を製造できる。
【0076】
以上説明の手順6、7は、かしめ加工前のガスケットを備え、正極体10または正極体10とセパレータ30を収容したかしめ加工前の正極缶に、正極缶側の電解液50Aを収容し、正極缶に正極体10を収容した場合はセパレータ30を設置した上に負極体20を設置し、正極缶に正極体10とセパレータ30を収容した場合はセパレータ30上に負極体20を設置し、負極体20に直接、あるいは、セパレータ30を介して負極体側の電解液50Bを滴下(供給)した後、正極缶に負極缶を接合する方法であると説明できる。
【0077】
「手順8」
かしめ加工前のガスケットを備えたかしめ加工前の正極缶の内底面中央部に導電ペーストなどの接着層を塗布して乾燥させ、この正極缶中央部に正極缶側の電解液50Aを滴下し、ここに正極体10を載せる。続いて正極体10の上にセパレータ30と負極体20を載せ、負極体20に負極体側の電解液50Bを滴下(供給)する。この後、内底面中央部に導電ペーストなどの接着層を塗布し乾燥させたかしめ加工前の負極缶を前述の正極缶に被せ、かしめ加工により正極缶と負極缶を接合する。このかしめ加工により
図1に示す構成の非水電解質二次電池1を製造できる。
【0078】
以上説明の手順8は、かしめ加工前のガスケットを備えたかしめ加工前の正極缶に正極缶側の電解液を収容し、かしめ加工前の正極缶に正極体10とセパレータ30と負極体20を収容し、負極体20に負極体側の電解液を供給した後、正極缶に負極缶をかしめ加工により接合する方法であると説明できる。
以上説明したように、非水電解質二次電池1を製造する場合の手順は種々の手順を採用可能であるが、ここで説明した手順以外でも
図1に示す構成を実現できる手順であれば、いずれの手順を採用しても良い。
1…非水電解質二次電池、2…収容容器、10…正極体、12…正極缶、12a…開口部、12b…周縁部、14…正極集電体、20…負極体、22…負極缶、22a…外周端部、24…負極集電体、30…セパレータ、40…ガスケット、41…環状溝、50A…電解液、50B…電解液。