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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131283
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】還元ペレットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 13/02 20060101AFI20230914BHJP
   C22B 1/16 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C21B13/02
C22B1/16 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035933
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(72)【発明者】
【氏名】山木 修
(72)【発明者】
【氏名】夏井 琢哉
(72)【発明者】
【氏名】中野 薫
【テーマコード(参考)】
4K001
4K012
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001BA02
4K001CA23
4K001DA10
4K001HA09
4K001KA13
4K012DC05
(57)【要約】
【課題】自溶性ペレットを用いて水素還元シャフト炉により高炉用の還元ペレットを効率的に製造する、高炉用還元ペレットの製造方法を提供する。
【解決手段】自溶性ペレットを、シャフト炉で水素を主要成分とする還元ガスにより還元する還元ペレットの製造方法であって、前記自溶性ペレットの試料について還元ガスによる還元試験を複数の還元温度で行う第1の工程と、前記還元試験の試験結果に基づいて、前記自溶性ペレットが未還元の状態またはウスタイトまで予備還元された状態から所定の還元率となるまでの到達時間と還元温度との関係を求める第2の工程と、前記関係に基づいて、1000℃以下の範囲において前記到達時間が最も短く還元効率が最も高い還元温度を決定し、決定した前記還元温度に基づいて前記シャフト炉において還元ペレットを製造する際の還元ガスの吹込み温度を設定する第3の工程と、を備えることを特徴とする還元ペレットの製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自溶性ペレットを、シャフト炉で水素を主要成分とする還元ガスにより還元する還元ペレットの製造方法であって、
前記自溶性ペレットの試料について還元ガスによる還元試験を複数の還元温度で行う第1の工程と、
前記還元試験の試験結果に基づいて、前記自溶性ペレットが未還元の状態またはウスタイトまで予備還元された状態から所定の還元率となるまでの到達時間と還元温度との関係を求める第2の工程と、
前記関係に基づいて、1000℃以下の範囲において前記到達時間が最も短く還元効率が最も高い還元温度を決定し、決定した前記還元温度に基づいて前記シャフト炉において還元ペレットを製造する際の還元ガスの吹込み温度を設定する第3の工程と、を備えることを特徴とする還元ペレットの製造方法。
【請求項2】
前記第3の工程において、前記第2の工程で求めた前記関係を適用したシャフト炉モデルによる計算を行って、前記到達時間が最も短い前記還元温度に対応する還元ガスの吹込み温度を算出し、還元ペレットを製造する際の前記還元ガスの吹き込み温度として設定することを特徴とする請求項1に記載の還元ペレットの製造方法。
【請求項3】
前記第3の工程において、前記到達時間が最も短い前記還元温度をシャフト炉モデルにおけるペレットの条件として適用して複数の還元ガスの吹き込み温度について操業の計算を行い、前記計算を行った操業において最も還元効率が高い還元ガスの吹き込み温度を、還元ペレットを製造する際の還元ガスの吹込み温度に設定することを特徴とする請求項1に記載の還元ペレットの製造方法。
【請求項4】
複数の還元温度ごとの前記試験結果に対して、未反応核モデルによる反応解析を行って、還元温度と化学反応速度係数との関係式を求め、前記関係式を前記シャフト炉モデルにおけるペレットの条件として適用して計算を行うことを特徴とする請求項2または3に記載の還元ペレットの製造方法。
【請求項5】
前記所定の還元率は90%であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の還元ペレットの製造方法。
【請求項6】
前記自溶性ペレットの塩基度は、1.2以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の還元ペレットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉用の還元ペレットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止の観点からCO削減が求められており、要求される削減量は増加の一途をたどっている。鉄鋼業においてはCO排出量の多くが製銑工程によるものであり、その中でも特に高炉におけるCO排出量の削減が求められる。高炉におけるCO削減は、高炉で使用する還元材(コークス、微粉炭など)の削減等により可能であり、その方法の一つとして還元鉄装入があげられる。鉄まで還元された鉄鉱石原料(還元鉄)を装入することで、高炉内の大きな吸熱反応であるFeO+C→Fe+CO(直接還元)の反応を減らすことができる。これにより、溶銑を1t製造するために必要な熱量が減少し、還元材量を減らすことが可能となる。
【0003】
他方で、鉄鉱石の資源劣質化に伴い微粉原料の割合が増加していることから、微粉原料を有効活用可能なペレットの使用量増加が求められている。このような状況下において、製銑工程のCO排出量削減を達成するためには、高炉に装入するための還元鉄として、鉄に還元された状態のペレット(以下、「還元ペレット」ともいう。)を用いるとともに、その還元ペレットを効率的に製造する方法が求められる。還元鉄製造方法や、その活用プロセスは複数存在するが、たとえば特許文献1のように、シャフト炉を用いて還元ペレットを製造する方法がある。特許文献1では、石炭ガス化ガス等を還元ガスとして炉下部から吹込んで、ペレット形状の酸化鉄等を還元して還元ペレットを製造している。
【0004】
さらに、シャフト炉における還元処理として水素還元を行って還元ペレットを製造し、製造した還元ペレットを高炉に用いるプロセスも想定されている。この場合、水素還元シャフト炉は水素還元が主体のため、CO排出を最小限に抑えられる。そして還元ペレットを高炉に用いることで高炉でのCO排出量も大幅に低減可能なプロセスである。
【0005】
従来、シャフト炉での還元ペレットの製造においては、酸性ペレットと呼ばれる、塩基度が0.5未満程度のものが用いられている。ここで塩基度とは、ペレット中の成分におけるCaOとSiO2の質量比であるCaO/SiO2である。この酸性ペレット(還元した酸性ペレットも含む)を多量に高炉に装入する場合、高炉スラグの塩基度調整を目的として、CaO源として主に石灰石(CaCO3)やドロマイト(CaCO3・MgCO3)といった炭酸塩を装入する必要が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5880790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これらの炭酸塩は高炉内において、CaCO3→CaO+CO2の反応式で表される吸熱の分解反応を生じるため、高炉内における塊状帯の昇温遅れを引き起こす。一般的に酸化鉄の還元速度は温度に比例して向上するため、この昇温遅れにより、酸化鉄のガスによる還元(間接還元)率が低下する。間接還元率が低下すると、高炉の下部において、直接還元の割合が増加し、それに伴って使用する高炉の還元材が増加するという問題がある。
【0008】
そのため高炉操業として投入される還元ペレットは、塩基度が0.5以上の自溶性ペレットの方が望ましい。
【0009】
そこで、本発明は、自溶性ペレットを用いて水素還元シャフト炉により高炉用の還元ペレットを効率的に製造する還元ペレットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その発明の要旨は以下の通りである。
【0011】
(1)自溶性ペレットを、シャフト炉で水素を主要成分とする還元ガスにより還元する還元ペレットの製造方法であって、前記自溶性ペレットの試料について還元ガスによる還元試験を複数の還元温度で行う第1の工程と、前記還元試験の試験結果に基づいて、前記自溶性ペレットが未還元の状態またはウスタイトまで予備還元された状態から所定の還元率となるまでの到達時間と還元温度との関係を求める第2の工程と、前記関係に基づいて、1000℃以下の範囲において前記到達時間が最も短く還元効率が最も高い還元温度を決定し、決定した前記還元温度に基づいて前記シャフト炉において還元ペレットを製造する際の還元ガスの吹込み温度を設定する第3の工程と、を備えることを特徴とする還元ペレットの製造方法。
【0012】
(2)前記第3の工程において、前記第2の工程で求めた前記関係を適用したシャフト炉モデルによる計算を行って、前記到達時間が最も短い前記還元温度に対応する還元ガスの吹込み温度を算出し、還元ペレットを製造する際の前記還元ガスの吹き込み温度として設定することを特徴とする上記(1)に記載の還元ペレットの製造方法。
【0013】
(3)前記第3の工程において、前記到達時間が最も短い前記還元温度をシャフト炉モデルにおけるペレットの条件として適用して複数の還元ガスの吹き込み温度について操業の計算を行い、前記計算を行った操業において最も還元効率が高い還元ガスの吹き込み温度を、還元ペレットを製造する際の還元ガスの吹込み温度に設定することを特徴とする上記(1)に記載の還元ペレットの製造方法。
【0014】
(4)複数の還元温度ごとの前記試験結果に対して、未反応核モデルによる反応解析を行って、還元温度と化学反応速度係数との関係式を求め、前記関係式を前記シャフト炉モデルにおけるペレットの条件として適用して計算を行うことを特徴とする上記(2)または(3)に記載の還元ペレットの製造方法。
【0015】
(5)前記所定の還元率は90%であることを特徴とする上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の還元ペレットの製造方法。
【0016】
(6)前記自溶性ペレットの塩基度は、1.2以下であることを特徴とする上記(1)から(5)のいずれか1つに記載の還元ペレットの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、自溶性ペレットを用いて水素還元シャフト炉により高炉用の還元ペレットを効率的に製造する還元ペレットの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の還元ペレットの製造方法を示すフローチャートである。
図2】還元温度800℃における各ペレットの還元率の経時変化を示すグラフである。
図3】還元温度900℃における各ペレットの還元率の経時変化を示すグラフである。
図4】還元温度1000℃における各ペレットの還元率の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施形態に係る水素還元シャフト炉(以下、単に「シャフト炉」ともいう。)は、炉下部から水素ガスを炉内に吹込んで還元ペレットを製造する。供給される本実施形態の水素ガスは、水素ガスのみで構成される純水素ガスに限られず、水素を主要成分とする水素系ガスも含むものである。たとえば、天然ガスを改質して製造される、水素ガスを70mol%以上含有する一酸化炭素等との混合ガスであってもよい。このような水素系ガスであっても、純水素ガスの場合と同様に本実施形態のペレットが還元されるので、本実施形態の還元ペレットの製造方法を適用できる。
【0020】
次に、本実施形態でシャフト炉に装入される原料のペレットについて説明する。原料のペレットは、ペレット製造設備によって、鉄鉱石と副原料を混合して造粒し、焼成することで製造される。副原料は、石灰石やバインダなどである。
【0021】
本実施形態の原料のペレットは、自溶性ペレットである。そして、本実施形態における自溶性ペレットは、塩基度が0.75以上のペレットであることが好ましい。上述の通り塩基度は、ペレットの成分におけるCaOとSiOの質量比(CaO/SiO)である。一般的に塩基度が0.5未満のペレットは酸性ペレットであり、塩基度が0.5以上のペレットは自溶性ペレットである。
【0022】
塩基度が0.5未満のペレットを多量に使用する場合には、高炉において塩基度調整のために石灰石(CaCO)やドロマイト(CaCO・MgCO)などの炭酸塩を装入する必要がある。装入されたCaCOは上述の通りCaCO→CaO+COの吸熱反応によって高炉の昇温遅れが引き起こされる。それにより酸化鉄のガスによる間接還元率が低下し直接還元率が増加することになり、結果的に還元材が増加するので好ましくない。
【0023】
これに対して、本実施形態の自溶性ペレットの場合、その還元ペレットを高炉の原料として多量に用いても、炭酸塩の装入量を抑えられるので、還元材比の増加量を抑制することができる。
【0024】
そして、塩基度が0.75以上の自溶性ペレットの場合、還元を行うシャフト炉内の還元温度をより高くしても還元速度が上昇せず、逆に還元効率が下がる場合があり、後述のように還元効率が最大となる還元温度が存在する。そのため、塩基度が0.75以上のペレットを用いる場合に、本実施形態の方法でシャフト炉における還元温度を設定、制御して還元することで、効率よくペレットを還元することができる。
【0025】
還元を行うペレットの塩基度の上限値は特に限定されないが、少なくとも塩基度1.2以下においては、還元温度によって還元効率が変化し、後述のように還元効率が最大となる還元温度が存在する。そのため、本実施形態の方法で還元効率が最大となる還元温度に設定し還元ペレットを製造することで、効率よく還元ペレットを製造できる。
【0026】
次に、図1に基づいて本実施形態の還元ペレットの製造方法を説明する。図1は、還元ペレットの製造方法を示すフローチャートである。まず、第1の工程として、水素還元を行う酸化鉄のペレットについて、複数の還元温度で水素還元試験を行う(S101)。次に第2の工程として、S101における試験結果から、各還元温度と還元率が90%に到達した時間との関係を求める(S102)。次に、第3の工程として、S102で求めた関係に基づいて、シャフト炉内の還元温度が1000℃以下において還元効率の最も高い温度となるような操業条件(水素ガス吹込み温度)を決定する(S103)。以上が、本実施形態の還元ペレットの製造方法の概要である。
【0027】
各工程の詳細について説明する。第1の工程として、S101では、原料のペレットについて、様々な還元温度で水素還元試験を行う。この水素還元試験は、実際の原料のペレットから抽出した試料に対して試験を行って、ペレット全体の適正な還元温度を推測するために行う。具体的には、原料として用いるペレットから少量(数個程度)の試料を用意し、還元試験装置の反応管内において、純水素ガス雰囲気下で加熱して酸化鉄から金属鉄まで還元させる。そして、その際の重量変化を測定し、重量変化に基づいて経時的な還元率の変化を求める。同一種類のペレットについて複数の還元温度(反応管内の温度)で還元試験を行い、それぞれの還元温度について還元率の経時変化を求める。還元試験を行うペレットについては、未還元の状態で用いてもよいし、ウスタイトまで予備還元した状態で用いてもよいが、同じ還元状態のペレットに対して複数の還元温度で還元試験を行う。後述のように、ウスタイトから金属鉄への還元試験結果に対する未反応核モデルによる反応解析結果を、シャフト炉モデルに適用して操業条件を決定する場合には、S101においてもウスタイトまで予備還元したペレットを用いて試験を行えばよい。
【0028】
還元試験装置は、電気炉や、電気炉の反応管内に水素ガスを供給するガス供給部や、試料の重量を測定する重量変化測定部などで構成されるものであればよく、例えば熱天秤を用いてよい。還元率は、還元前と還元開始後の試料の重量変化に基づく、ペレットに含まれる酸素の収支(還元前の酸化鉄に含まれる酸素の質量と還元で除去された酸素の質量)から求められる。
【0029】
なお、シャフト炉で還元ペレットを製造する場合に水素以外の成分を含む水素系ガスを用いる場合には、還元試験においても製造に用いるガスと同じ又は近い成分のガスを用いるのが好ましい。純水素ガスを用いても試験・評価は可能であるが、シャフト炉で使用する還元ガスと近い成分のガスで水素還元試験を行う方が、より正確に還元効率の高い還元温度を評価できる。
【0030】
次に、S102では、求めた還元率の変化から各還元温度についての還元効率の評価を行う。還元効率の評価は、所定の還元率に到達するまでに要した時間に基づき行う。同一種類のペレットについて、異なる還元温度で還元試験を行った場合に、所定の還元率に到達する時間がより短い方が、その還元率までの還元においてより還元効率が高い還元温度である。本実施形態では、S101における試験結果から、各還元温度と還元率90%に到達した時間との関係を求める。具体的には、S101の試験で求めた還元温度ごとの還元率の経時変化のデータから、還元率が90%に到達するまでの到達時間を各還元温度について求める。還元率90%への到達時間がより短い方が、還元効率が高いといえる。
【0031】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、水素ガスによる還元において、還元率が90%未満である場合には還元温度の上昇に伴って還元効率は上昇するのに対し、還元率を90%以上とする場合には、1000℃以下の範囲において還元温度がある温度までは目標還元率(所定の還元率)に到達する所要時間が短くなるが、その温度を超えると所要時間が増加に転じる場合があることがわかった。つまり、還元率を90%以上とする場合に、還元効率が極大(上記所要時間が極小)となる還元温度が存在することがわかった。還元温度が1000℃以上のさらに高い温度域においては再び還元効率は向上するが、水素ガスの昇温への消費エネルギーが増加しエネルギー効率が低下するので好ましくない。よって、上記還元効率が極大となる還元温度で還元を行うことで、1000℃以下の範囲において最も還元効率が高くなる。なお本実施形態において特に説明がない場合には、還元効率が最も高いとは、1000℃以下の範囲において還元効率が最も高いことを意味する。
【0032】
この知見に基づき本実施形態の方法では、還元率が90%以上のペレットを還元効率の最も高い還元温度で効率よく生産可能である。よって、所定の還元率は90%以上であればよいが、本実施形態では所定の還元率を90%として説明する。なお、シャフト炉において90%よりも高い還元率のペレットを製造する場合には、その還元率に応じて上記所定の還元率が設定されれば良い。
【0033】
ここで、以上のS101及びS102の工程の例としてペレットA~Eの複数種類のペレットについて水素還元試験を行った結果について説明する。試験は、還元試験装置において、表1に示す化学組成を有するA~Eの各ペレットについて3個を試料として用い、純水素ガス雰囲気下で、未還元の状態から金属鉄まで還元した。還元試験装置として、熱天秤を用いた。水素ガスは、5NL/minで供給した。還元温度である反応管内の温度を800℃、900℃、1000℃としてそれぞれ還元試験を行った。還元率は、上述の通りペレットの重量変化から求めた。なお、還元率はペレット中の酸化鉄が全てヘマタイトである場合を0%として算出している。
【0034】
【表1】

【0035】
以上の試験結果として、各試料の各還元温度における還元率の経時変化を示すグラフを図2~4に示す。図2は800℃、図3は900℃、図4は1000℃の還元温度の場合のグラフであり、第1の工程における還元試験結果に相当する。また、図2~4に示した還元率変化において90%に到達するまでに要した時間を表2に示す。表2は、第2の工程において導出する各還元温度と還元率90%に到達した時間との関係に相当する。
【0036】
【表2】

【0037】
図2に示す還元温度800℃の場合と図3の還元温度900℃の場合とを比べると、塩基度0.5未満のペレットA、B(酸性ペレット)も、本実施形態に係る塩基度0.75以上のペレットC、D、Eも、還元温度の高い900℃の場合の方が還元率90%に到達する時間は短い。また、図4に示す還元温度1000℃の場合には、塩基度0.5未満のペレットA、Bは、還元率90%の到達時間が900℃の場合よりもさらに短くなった。一方で、本実施形態に係る塩基度0.75以上のペレットC~Eについては、1000℃の場合の還元率90%の到達時間は900℃の場合よりも長くなり、ペレットCやDについては800℃の場合よりも長くなった。また、本実施形態に係るペレットC~Eについて、還元率が90%以上であれば、還元温度が1000℃の場合よりも900℃の場合の方が、その還元率への到達時間が早くなることが確認できた。
【0038】
以上の試験例より、本実施形態に係る塩基度0.75以上の自溶性ペレットについては、還元率を90%以上とする場合には、酸性ペレットのように還元温度を高くすれば還元効率が向上するわけではなく、還元効率が向上し極大となる特定の還元温度が存在することがわかる。そして上記試験により、1000℃以下においてその還元効率が最も高い還元温度が、900℃付近であることが確認された。
【0039】
また、還元温度を900℃付近より高い1000℃とした場合には、還元効率が大きく下がることがわかる。還元温度を高くするためには、水素ガスの吹込み温度を高温とするために多くのエネルギーが必要となる。よって最も還元効率の高い900℃付近の温度よりも高い還元温度で還元を行っても、より多くのエネルギーを消費するにも関わらず、還元効率が低下する。
【0040】
なお、上記試験例は3つの還元温度について評価したが、さらに多くの還元温度で試験を行うことで、より正確に還元温度と90%到達時間との関係を求めることができ、より正確に還元効率を評価できる。後述のように、モデル計算により水素ガス吹き込み温度を算出する場合には、10℃刻み程度の間隔で還元試験を行い、その試験結果を用いてモデル計算を行うことで、より正確に計算を行うことができる。
【0041】
次にS103では、S102で求めた関係に基づいて、シャフト炉内の還元温度が還元効率の最も高い温度となるような操業条件を決定する。具体的には、1000℃以下の範囲において、最も還元効率が高い還元温度Tを決定し、その還元温度Tに基づいて還元ガスの吹込み温度を決定する。上記試験例の場合は、1000℃以下の範囲において還元温度が900℃の場合に還元時間が最も短くなるため、還元効率が最も高くなる温度Tとして900℃を設定して、還元ガスの吹込み温度を決定する。
【0042】
具体的には水素ガスの吹込み温度は、シャフト炉モデルのモデル計算によって決定することができる。モデルによる水素ガスの吹込み温度の決定処理は、(1)未反応核モデルによりペレットの還元反応の速度式(還元温度と化学反応速度係数の関係式)を求めるとともに、最も還元効率が高い還元温度Tを求める工程と、(2)(1)で求めた関係式と最も還元効率が高い還元温度Tを、装入するペレットの値として適用したシャフト炉モデルによる計算(シミュレーション)を行う工程と、(3)(2)の計算結果に基づいて適切な水素ガス吹込み温度を決定する工程によって行われる。
【0043】
まず(1)の工程では、S101で行った複数の還元温度についての水素還元試験結果に対して、未反応核モデルによる反応解析を実施する。これにより、シャフト炉モデルに適用するペレットの条件として、ペレットの還元温度と化学反応速度係数の関係式を算出する。
【0044】
また、試験結果から、シャフト炉モデルに適用するペレットの条件としての、ペレットの最も還元効率が高い還元温度Tを求める。上記の試験例であれば、最も還元効率が高い還元温度Tは900℃となる。なお、最も還元効率が高い還元温度Tを決定する際には、なるべく細かく還元温度を変化させて還元試験を行い、還元率90%への到達時間が最も短くなる還元温度をより正確に求めることが好ましい。例えば、還元温度を10℃刻みで変化させて還元試験を行い、最も還元効率が高い還元温度Tを決定すればよい。また、還元温度Tを決定する場合には、実際に試験を行った複数の還元温度の中から決定してもよいし、試験結果の還元温度と還元効率の関係を示す近似曲線から最も還元効率が高い還元温度を求めてもよい。
【0045】
次に(2)の工程では、装入するペレットの条件として、(1)で求めた関係式及び最も還元効率が高い還元温度Tを用いたシャフト炉モデルによって、シャフト炉の操業の計算を行う。モデルによる計算は、複数の水素ガス吹込み温度条件で行う。複数の水素ガス吹込み温度は、S101及びS102で求めた水素還元試験結果に基づき設定する。例えば、最も還元効率が高い還元温度Tが900℃であった場合には、少なくともシャフト炉内の還元温度が900℃付近となるような水素ガス吹込み温度を含む、複数の水素ガス吹込み温度とする。なお、水素ガスは炉内でペレットに顕熱を奪われるので、シャフト炉内における還元温度はガス吹き込み温度よりも低くなる。当該温度差をモデル計算等で予め確認しておき、その温度差に応じて、還元温度に対応する水素ガス吹き込み温度が設定されればよい。
【0046】
シャフト炉モデルの計算においては、シャフト炉の寸法等の設備条件や、粒径や装入温度などのペレットの条件、吹込みを行う水素ガスの成分や送風量、還元ペレットの生産量などのその他の条件を設定して計算する。また、シャフト炉モデルとしては、公知のモデルを使用することができ、本実施形態の還元ペレットの製造方法においては、一次元シャフト炉モデルを使用することができる。
【0047】
次に(3)の工程では、(2)の工程で行った複数の水素ガス吹込み温度でのモデルによる計算結果から、還元効率が最も高い操業となるガス吹込み温度を求める。還元効率の評価方法は、還元効率が高い操業であることが確認できれば特に限定されないが、例えば生産された還元ペレットの平均還元率をモデル計算により算出して評価することができる。平均還元率がより高かった水素ガス吹込み温度が、その操業条件において還元効率の高い吹込み温度であると言える。実際のシャフト炉において、当該評価を行ったペレットを用いて還元ペレットを生産する場合に、決定した水素ガス吹込み温度で水素ガスを吹込めば、効率よく還元ペレットを製造することができる。
【0048】
なお、以上のS103の(3)の工程においては、複数の還元温度で計算を行って求めた平均還元率からガスの吹き込み温度を決定するとしたが、シャフト炉内の還元温度が、最も還元効率が高い還元温度Tになるようなガス吹き込み温度を、モデル計算によって直接算出し、その温度を実際のガス吹込み温度として決定してもよい。
【0049】
以上の本実施形態の方法によれば、還元効率が極大となるような還元温度が存在する塩基度0.75以上の自溶性ペレットを用いて、シャフト炉での水素還元により還元ペレットを製造する場合に、還元効率の高いガス吹込み温度を求めることができ、効率よく還元ペレットを製造することができる。また、本実施形態によれば、水素ガスの温度を生産効率が低下してしまうような高い温度まで昇温することなく、還元効率の高い温度で吹込みを行うので、水素ガスを加熱するためのエネルギーも抑えることができる。
【0050】
つまり、本実施形態によれば、シャフト炉の操業温度を適正範囲に設定することにより、エネルギー消費量を節減しつつ高い生産量を実現でき、かつ、プロセス全体でCO排出量を削減することができる。また、本実施形態の塩基度0.75の自溶性ペレットから還元ペレットを製造して高炉原料として利用することで、酸性ペレットを用いる場合と比較して、高炉での炭酸塩使用料を抑えることができる。これにより、高炉還元材比を低減することもできる。
【0051】
本実施形態においては、S103における操業条件を決定する方法として、シャフト炉モデルによる計算によって水素ガス吹込み温度を決定する方法を示したが、これに限られない。
【0052】
例えば、S102で求めた関係に基づいて、シャフト炉内の高さ方向における温度分布を、還元効率が低下する温度の領域を小さくし、還元効率が高い温度の領域が大きくなる温度分布となるように、水素ガス吹き込み温度等の操業条件を決定してもよい。温度分布は、例えばシャフト炉内において、上下方向の複数の位置で温度を測定して確認すればよい。
【0053】
さらに別の方法として、S102で求めた関係に基づいて、還元効率の高い温度分布となるような熱流比を決定し、その熱流比をシャフト炉での操業条件として決定してもよい。
【実施例0054】
以下、実施例を示して本発明についてさらに詳細に説明する。実施例では、シャフト炉モデルによる計算(シミュレーション)を行って水素ガスの吹込み温度を決定した。
【0055】
まず、実施形態の試験例で示したペレットDを用いて、ウスタイトから金属鉄への水素還元試験を複数の還元温度で実施し、還元温度と還元率90%の到達時間との関係を求めた。求めた当該関係から、最も還元効率が高い還元温度Tは920℃に設定した。
【0056】
次に、試験結果に対して、一界面未反応核モデルによる反応解析を行った。反応解析により、酸化鉄から還元鉄への還元反応における還元温度と化学反応速度係数の関係式を算出した。
【0057】
そして、算出した関係式および最も還元効率が高い還元温度Tを適用したシャフト炉モデルにより、ペレットを水素還元する操業を計算した。モデルによる計算は、水素ガス吹込み温度を900℃から1030℃の範囲において、10℃刻みで変更して行った。本実施例のモデルの計算では、内径0.1m、高さ4mのシャフト炉を用いた。
【0058】
シャフト炉モデルとして、一次元シャフト炉モデル(参考文献:原,外2名,“鉄鉱石還元用シャフト炉の数学的モデル”,鉄と鋼,一般社団法人日本鉄鋼協会,1976年3月,62巻,3号,p.315-323)を用いた。
【0059】
モデル計算において、上記の通り最も還元効率が高い還元温度Tは920℃とした。ペレットの粒径は12.5mm、ペレットの装入温度は25℃とした。還元ガスは、純水素ガスとし、送風量は356NL/minとした。還元ペレットの生産速度は12.56kg/hとした。
【0060】
表3に、以上の条件で行ったモデル計算の結果として、生産された還元ペレットの水素ガス吹き込み温度ごとの平均還元率を示す。ここでの平均還元率は、モデル計算により算出された製品還元率を指す。
【0061】
【表3】

【0062】
920~940℃の範囲では、平均還元率が90%を超える還元ペレットが生産された。しかし、ガス吹込み温度がより高温の950℃以上の範囲では、平均還元率が一旦低下し、90%を下回った。950℃以上の範囲で平均還元率90%以上のペレットを得るためには、1030℃よりも高いガス吹込み温度にする必要があると解される。以上より、上記シャフト炉において上記条件で操業する場合の最適なガス吹込み温度は、920~940℃であることが求められた。実際のシャフト炉の操業においてこの水素ガス吹込み温度で操業することで、エネルギー消費を抑えつつ、より効率よく還元ペレットを製造できる。
【0063】
一方、ガス吹込み温度を1030℃よりも高い温度として操業を行った場合には、還元率90%以上を達成できたとしても、水素ガスの昇温により多くのエネルギーを消費することになるので、エネルギー効率が悪化する。よって、塩基度0.75以上の自溶性ペレットを水素還元シャフト炉で還元する場合には、本発明の方法に基づいてガス吹込み温度を設定して還元することで、還元ペレットを効率的に生産できることが確認された。

図1
図2
図3
図4