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特開2023-1313切除腔周囲のリスク組織にマルチモダリティ処置を行うための腫瘍床埋植物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023001313
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】切除腔周囲のリスク組織にマルチモダリティ処置を行うための腫瘍床埋植物
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20221222BHJP
   A61N 2/10 20060101ALI20221222BHJP
   A61F 7/12 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
A61N5/10 U
A61N2/10
A61F7/12 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179986
(22)【出願日】2022-11-10
(62)【分割の表示】P 2018551372の分割
【原出願日】2017-03-31
(31)【優先権主張番号】62/315,839
(32)【優先日】2016-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】516241599
【氏名又は名称】トーマス・ジェファーソン・ユニバーシティ
(71)【出願人】
【識別番号】515015252
【氏名又は名称】ドレクセル ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】シュタウファー ポール
(72)【発明者】
【氏名】バー-アド ボイチタ
(72)【発明者】
【氏名】ハーウィッツ マーク
(72)【発明者】
【氏名】ルジンブール アダム
(72)【発明者】
【氏名】マルコロンゴ ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス ダリオ
(72)【発明者】
【氏名】コグネッティ デビッド
(72)【発明者】
【氏名】カレー ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】プルードニコヴァ カチェリーナ
(57)【要約】
【課題】切除腔内に外科的に留置するのに適した生体適合性の埋植用装置の提供。
【解決手段】ボディとしての生体適合性ポリマーと、生体適合性ポリマーのボディ内に配され規則的に間隔が空けられている放射線シードおよび規則的に間隔が空けられている磁性材料、または、ポリマースラブ、中空の厚壁ポリマーシェル、もしくは薄壁ポリマーバルーン内に均一に分布された液体放射性材料および磁性流体材料とを有する装置であって、放射線と組み合わせた、また可能性として生体適合性ポリマーから徐放される化学療法薬および/または免疫療法薬と組み合わせた、局所温熱療法によって、腫瘍マージン内のリスク組織を処置するために、切除腔内に外科的に留置するのに適した装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合性の伸展可能なバルーン;
該生体適合性の伸展可能なバルーンに挿入可能な磁性ナノ粒子溶液;
生体適合性シース;
該生体適合性シース内に位置決めされた1つまたは複数のカテーテルであって、該1つまたは複数のカテーテルは、患者の体外から該生体適合性の伸展可能なバルーンの内部まで伸びており、該1つまたは複数のカテーテルのうちの少なくとも1つが、遠隔操作式後装填装置との結合のために適合および構成されている、カテーテル;および
該遠隔操作式後装填装置と結合された該少なくとも1つのカテーテルを通して、該生体適合性の伸展可能なバルーンの内部へ、取り外し可能に挿入できる、放射線源
を含む、マルチモダリティ処置システムであって、
該システムは、該バルーン周囲の外部磁場を印加するように適合された、非接触型の外部誘導コイルをさらに含むことを特徴とし、
該磁場は、
該生体適合性の伸展可能なバルーンの内部にある該磁性ナノ粒子溶液と誘導結合することにより該磁性ナノ粒子溶液を加温し、かつ、
50kHz~500kHzの範囲の周波数を有する、
前記システム。
【請求項2】
磁性材料の温度をモニタリングするために位置決めおよび構成された1つまたは複数の温度センサーをさらに含む、請求項1に記載のマルチモダリティ処置システム。
【請求項3】
前記生体適合性の伸展可能なバルーン内の伸展可能な内部バルーンをさらに含む、請求項1に記載のマルチモダリティ処置システム。
【請求項4】
伸展可能な内部バルーン内の挿入のための生理食塩水または液状ポリマーをさらに含む、請求項1に記載のマルチモダリティ処置システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
開示される諸態様は、放射線ならびに/または化学療法および/もしくは免疫療法と組み合わせた局所温熱療法によって腫瘍マージンのリスク組織を処置するため、切除腔内に外科的に留置するのに適した、生体適合性の埋植用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
癌の処置においては、一般的に、可能な場合は腫瘍が外科的に除去され、そして手術の後にその領域の放射線治療(RT)が行われる。RTの目的は、切除されなかった腫瘍マージン内に残って分散している病変部を弱らせ、殺し、またはダメージを与えることである。腫瘍再発の場合は、再成長した腫瘍の外科的摘出が再び最良の選択肢となることがあるが、通常、2回目の線量で殺腫瘍性を得ようとすると、周囲の正常組織に対し容認不能な合併症を伴わざるを得ない。切除体積にかかわらず、摘出された腫瘍部のすぐ周囲の組織には、残った微視的病変部から腫瘍が再成長するリスクがある。リスク組織に放射線を集中させかつ周囲の正常組織への線量を最小にする1つの方法は、組織を内側から照射するため切除腔内部に放射性線源を直接置くことである。この手技は、組織中の放射能のレベルおよび持続時間が適切であれば、適切な線量をある期間にわたって緩徐に送達でき、小線源治療と呼ばれる。この手技は、小線源に近接した腫瘍またはリスク組織に放射線を送達するために用いられてもよく、その線源は一般的に、1つもしくは複数の組織内刺入針(interstitial needle)もしくはプラスチックカテーテルを通して、または、バルーンもしくは身体の自然の開口部に挿入された腔内用のカテーテルもしくは器具を通して、埋植される。小線源治療の線源は、平面もしくは立体の埋植物アレイとなるよう腫瘍領域に経皮的に留置された後装填用カテーテルに挿入されるかまたは切除腔内に置かれた、小径の円柱形の放射性シードが、あらかじめ構成された1つまたは複数の平行なストリング(string)の形態となるよう、標的組織中に分布してもよい。代替的に、ワイヤの端部に位置する、非常に放射能の高い単一の放射線源が、埋植された各カテーテルを通って、コンピュータ制御された増分ずつ引っ張られてもよく、この場合は、次のポイントに移動するまでに適切な線量を送達できるよう、各ステップにおける停止時間が計算される。
【0003】
小線源で腫瘍床組織を処置するための既存のプロトコルにおける1つの問題は、腫瘍切除腔の組織壁に不規則な形状で直接縫い付けられるシードストリング(seed string)の周囲の線量が不均一であることである。図1に示されているように、直径の小さい(約1 mm)各シードの表面からの放射方向距離に伴って、線量は非常に急速に指数関数的に減少するが、シードは一般的に各ストリングに沿って約5 mmの間隔が空いている。このため、シードストリングの長さに沿って非常に不均一な線量分布が生じる。加えて、シードストリング同士は1 cmまたはそれ以上の間隔で置かれるので、隣り合うシードストランド(seed strand)間にはさらに大きな線量減少が生じる。シード間においても、そして組織内の望ましい距離(例えば周囲のリスク組織内への5 mmの距離など)においても、充分に高い最小線量を得ようとすると、シード近傍の組織内のピーク線量が極度に高くなり、このことは、シードが重要正常組織の近くに置かれた場合に合併症のリスクをもたらす。事実、シード表面部では、処方される最小の標的組織線量より、最大で500%高い線量が送達されるが、シードからの距離が増えるにつれて線量は急速に低下し非治療レベルに向かう。したがって先行技術による処置は、線量過多により放射線壊死が生じることと、同じ処置ターゲット内の他の組織が線量過少となり、ひいては処置の有効性を低減することとの、両方のリスクを有する。
【0004】
第二の問題は正常組織への毒性に関する。既存のプロトコルにおいて、シードストリングは腫瘍床内の所定の位置に挿入されるかまたはさらに縫合され、そして多くの場合、近くの重要正常組織からシードを隔離するため、追加的な移植組織(すなわち、患者の他の部位から摘出された脂肪組織または筋肉組織)によるフラップが作られる。移植された組織はスペーサーとして機能するが、移植片の厚さは、単一のスラブの中でも大きくばらついていることが多い。このことは、周囲のリスク腫瘍マージンに送達される線量分布に直接影響する。さらに、移植された組織は弱い構造を有している可能性もあるため、小線源治療を送達している間、シードから腫瘍マージンまでの隔離距離またはシードの移動を必ずしも適切に制御できない。埋植の期間は1時間~50日未満にわたる可能性があるが、その期間中にシードが移動すると、予測される線量分布にひずみが生じて、シードが集まった領域では予期されない線量過多となり、シードが初期位置から外れた位置では線量過少となる。
【0005】
外科的切除は、頭頚部、脳、肺、乳房、体幹、および四肢など、身体のほぼあらゆる場所に位置する腫瘍に対して、選択される処置となりうる。本発明による処置が適用できる、腫瘍の典型的な位置の1つは、頭頚部である。臨床アウトカム向上のため、臓器温存手術(1, 2)、高線量小線源治療(3)、化学療法(4, 5)、免疫療法(6-8)、および温熱療法(9-11)など、頭頚部癌に対する新しい処置アプローチを統合することが提唱されている。41~45℃の温度で30~60分間かけて行う局所腫瘍温熱療法は、癌治療おいて最も有望な補助療法の1つであり、充分な加温が可能な部位では治療有効性の大幅な向上に寄与している。同療法は通常、放射線治療および/または化学療法など確立された癌処置モダリティに対する補助として適用され(12-14)、現在では、免疫療法との相乗作用およびその賦活化の可能性が研究されている(15-17)。
【0006】
化学療法は周知であり、ヒトの腫瘍に化学療法剤を送達する方法は多数存在する。最適な送達方法は、部位および腫瘍サイズなどの要因しだいで異なる。おそらく薬剤送達は腫瘍の脈管構造に最も依存するが、その脈管構造は腫瘍体積全体にわたって変動が大きく、大きな腫瘤または急成長している腫瘤の中心部では損なわれていることも多い。化学療法は一般的に全身投与されて良好な効果をもたらすが、多くの固形腫瘍では、重要正常組織に対して毒性と考えられるレベルでも局所濃度が不充分となる。一部の腫瘍では、脂質外層の中に活性薬物を入れて運搬し、心臓、肝臓、および脾臓などの重要正常組織における治療用剤の蓄積を低減させるリポソーム調合物を用いて、治療用剤の局所濃度を高める場合もある。この局所薬剤送達スキームは、やや高体温の温度(例えば40℃)で脂質カプセルが分解して、細胞傷害性薬剤を加温された腫瘍組織中に放出する、温度感受性のリポソーム調合物を用いることで、さらに向上させることができる(18-21)。代替的に、近傍組織に対する効果をより集中させるため、薬剤を体腔内に直接注入してもよい。このアプローチの1例は筋層非浸潤性膀胱癌の処置であり、局所温熱療法を追加することによって局所効果がさらに高まる可能性がある(22-24)。脳内に位置する腫瘍については、薬剤に血液脳関門を通過させるというさらなる問題がある。外科的除去が可能な脳腫瘍に対する1つのアプローチは、望ましい治療用剤を含浸させた薄い生分解性ポリマーの「ウェハー」(例えば、カルムスチン、BCNU、ギリアデルウェハー)を切除腔の内部全体に貼付して、薬剤を周囲組織内に直接放出し、これにより血管および血液脳関門をバイパスすることである(25, 26)。
【0007】
喉頭など頭頚部の処置においては、皮膚表面の近くに位置する腫瘍の局所温熱療法をもたらすのにマイクロ波照射が用いられることが多いが、有効な加温の浸透は約3~4 cmに限定される。外部マイクロ波導波管アプリケーターによる頚部深部腫瘍の処置が報告されているが、上層組織の著しい加温は避けられない(27, 28)。マイクロ波のフェーズドアレイアンテナを用いて組織のより深くまで浸透させることが提唱されており(29, 30)、プロトタイプのアンテナが現在開発中であるが(10, 31)、周囲の重要正常組織を過熱させることなくヒト頭部内で温熱を正確に集中させることは引き続き課題となっている。同様に、身体のより深くまで浸透できる高周波の位相同期輪状配列システムも利用可能であるが(32-34)、波長が長いため温熱の焦点が大きく、周囲の正常組織内に著しいサイドローブ加温をもたらす。いずれの場合も、意図される腫瘍ターゲットの外側にある重要正常組織の著しい加温は、通常、避けられない。外部トランスデューサアレイからの超音波は深部組織ターゲット内で正確に集束できる可能性があるが(35-39)、喉頭などの頭頚部は解剖学的に不均質で、超音波を優先的に反射または吸収する複雑な形状の空気領域および骨領域に近接しているため、このアプローチは頭頚部の腫瘍に対しては問題がある。このように、電磁波および超音波による多数の外部加温装置が利用可能ではあるが、喉頭など頭頚部の小腫瘍については、解剖学的構造が複雑であることと、周囲の重要正常組織の感受性が高いこととにより、外部加温技術の利用は著しく制限される。
【0008】
代替的に、深部の小体積内における温熱の局在化は、さまざまな内部加温源技法によって向上する可能性があり、そのような技法としては組織内高周波電極、マイクロ波アンテナ、超音波トランスデューサ、または、熱伝導をベースとする複数の熱源法(hot source technique)のうちの1つなどがある(40)。これら組織内加温モダリティの大多数では、加温源、電源接続部、および温度モニタリング/制御用センサー類を腫瘍内に挿入するため、針またはカテーテルのアレイを経皮的に挿入する必要がある。鼻咽頭および喉頭など頭頚部腫瘍の多くでは、体外に出た経皮カテーテルのアレイを術後も維持することは苦痛であり、患者に望まれない。ゆえに、頭頚部腫瘍については、低侵襲の局所温熱療法に最も適している可能性があるとして1つの熱源法が抜きんでている。外部磁場を用いて、埋植された強磁性体材料にエネルギーを誘導結合することが、ほぼ45年前から多数のグループによって研究されている(41-45)。初期には、固形腫瘍内に置かれた強磁性の針、球体、および小径のフェロシード(ferroseed)に、1~1.5 cm間隔のプラスチック製カテーテルのアレイを介してエネルギーを結合することが研究の中心となっていた(46-48)。より近年では、全身に送達するかまたは腫瘍内に直接注入してもよい磁性ナノ粒子(49-53)の使用について研究が加速している。これら材料はいずれも、サブメガヘルツの高周波磁場中に置かれると、その強磁性体材料によってパワーが吸収され、そして、高温材料から周囲のより低温の組織への熱伝導によって埋植物周囲の組織が加温される。小径の強磁性埋植物から離れるにつれて(血液灌流が良好な組織では特に)温度が急速に低下するので、埋植物周囲には急な温度勾配が存在する。磁気結合され加温された材料に隣接する組織は概して過熱され、一方、熱源から5 mm未満の組織は充分に加温されない可能性がある(45, 54)。強磁性埋植物のアレイ内の温度制御を向上させる1つの方法は、望ましい埋植物温度において磁性状態から非磁性状態へとキュリー点転移を生じる材料を用いることである(42, 44, 55)。これらのフェロシードは、印加されたパワーレベルにかかわりなく、その合金のキュリー点付近で温度を自己制御し、したがって、内部熱源の温度測定または外部磁場のパワー調整の必要なく、腫瘍のより均一な加温をもたらす。
【0009】
臨床試験では、腫瘍の充分な加温(最低目標温度約41~45℃、60分間の処置)が実現されると、放射線および/または化学療法の奏功率が有意に高まることが示されている(14, 56)。データはまた、温熱処置と放射線処置とを同時に適用すると、放射線に対する反応の熱増感が有意に高まることも示している(57, 58)。腫瘍床の加温を放射線と組み合わせる既存の技術は、腫瘍床の中または周囲に埋植された針またはカテーテル内に置かれた、高周波(RF)、マイクロ波、または超音波の組織内照射源に限定されている。侵襲的なこれらの照射源は、電源および温度モニタリングプローブ用の複数の接続部により、皮膚を通って外部設備と接続されなければならず、患者にとって不快および不便が著しい。
【0010】
全身投与するかまたは腫瘍内に直接注入してもよい超常磁性(サブドメイン)ナノ粒子の誘導加温の利用について、関心が高まっている(49, 50, 53, 59, 60)。全身送達についての課題は、腫瘍組織内の血流が不均質であることおよび粒子の放出が不規則であることから、磁性ナノ粒子の濃度が低く分布も不均等になることである。腫瘍内に蓄積する磁性材料の密度が低いと、高い磁場強度(100 kHzで104 A/m超)が必要になるが、すると、渦電流により正常組織の非特異的加温が生じる可能性があり、これは低密度の磁性粒子の加温を覆い隠してしまうため、処置に対する制限となる。ナノ粒子を腫瘍内に直接注入すると、各針の注入部位に沿って粒子の濃度を高くできるが、注入部位間の組織中への粒子の拡散は一般に起こりにくく、このため粒子の分布が非常に不均等になり、したがって組織温度が不均質になる。それでもなお、複数箇所の針注入で磁性ナノ粒子を平行軌道に注入して、注入軌道間の熱伝導によって組織を加温する手法について、いくつかの臨床的利点が報告されている(51, 61, 62)。
【0011】
同様に、脳腫瘍は頭頚部腫瘍であるが、脳は保護的な骨(頭蓋)の厚い層に囲まれていることから、加温技術に対してさらに課題をもたらす。MRガイド下集束超音波治療(MRgFUS)の近年の進歩により、脳深部の小体積内にエネルギーを集束できる外部多素子トランスデューサアレイの研究が盛んになっている(63)。米国において現在承認されているMRgFUSの臨床適応は、本態性振戦、神経障害性疼痛、およびパーキンソン病の処置に限られているが、それは、これらの疾患では頭蓋の比較的中心近くに位置する小体積の組織に病変が生じる傾向があり、表面順応性のトランスデューサアレイによって比較的良好な集束利得が得られるからである(64)。より大きく、中心部から離れて頭蓋により近い位置に生じる傾向がある脳腫瘍を処置するための技法は、現在研究が行われている。
【0012】
現在まで、脳腫瘍の熱処置は主として、頭蓋下の深部でパワー堆積(power deposition)を局在化できる組織内埋植式の加温源によって実現されている。複数の研究者らが、小型(直径1~2 mm)の同軸ケーブル双極子マイクロ波アンテナを1~2 cm間隔で配したアレイを埋植して脳腫瘍を加温し、組織内小線源治療と組み合わせた(65, 66)。Satohら(67, 68)は、脳腫瘍中の温熱の局在化を目的とした、長さ調節可能なヘリカルコイル式マイクロ波アンテナを開発しており、これは、3~7本のカテーテルアレイで埋植して、組織内温熱療法とI-125小線源治療とを組み合わせることができる。同じグループは、その後の臨床研究で、多形神経膠芽腫を処置するための小線源治療ブースト±組織内マイクロ波温熱療法の無作為化試験を完了させ、2年間の局所コントロールが統計有意に向上したことを示した(69-71)。これとは別に、Steaら(27, 72, 73)は、埋植され外部磁場に結合された強磁性シードの1 cm間隔のアレイにより生成した補助的組織内温熱療法でテント上神経膠腫を処置した患者において、1年後生存率が有意に上昇したことを示した。現在、組織内に埋植され外部磁場に結合された酸化鉄ナノ粒子の列と、外照射放射線治療とを組み合わせて、神経膠芽腫を処置する臨床研究が行われている(51, 61, 62)。
【0013】
したがって本発明は、特定の癌、具体的には頭頚部、脳、および切除腔を生じる他の部位の癌を処置するための、新しい治療用装置および方法を説明する;そのような癌として、胸部、腹部、骨盤内、上肢、および下肢――組織塊の切除部を本明細書に開示する本発明にしたがって処置できる部位――の癌が非限定的に含まれる。
【発明の概要】
【0014】
本発明の目的は、周囲の正常組織に対する毒性が既存の臨床アプローチより低い、腫瘍手術後に残った癌性細胞を処置するためのマルチモダリティ治療用装置と、同装置を使用するための方法に関する。本発明の具体的な目的は、腫瘍切除腔周囲の正常組織における治療合併症を減らしながら、ターゲットに対する最小線量を増大させることによって、線量の均一性を向上させ、そしてこれにより臨床アウトカムおよび癌患者の全般的経験を向上させる製品を作ることである。
【0015】
特定の態様において、本発明の装置は、小線源治療によって、そして任意で局所温熱療法と組み合わせて、外科切除腔の腫瘍マージン内の組織を処置することを目的とする。代替的態様において、化学療法および/もしくは免疫療法が、単独で、または小線源治療および/もしくは温熱療法とともに、利用されてもよく、その場合は、手術時に挿入される、切除腔の形状をした生体適合性マルチモダリティ腫瘍床埋植物からすべての処置が送達される。
【0016】
本発明のさらなる1つの態様は、良好に局在化した線量を埋植物周囲に送達するための永久的な放射性シードと、放射線処置の有効性を高めるため外部磁場中に置かれたときに組織の軽度の加温をもたらす磁性材料とをいずれも含有する、腫瘍床の形状をした埋植物内部から、再発癌に対する向上した温熱小線源治療(thermobrachytherapy)を提供することである。
【0017】
さらなる態様は、喉頭扁平上皮癌の患者の処置を具体的1例とする、局所進行性の頭頚部腫瘍に臓器温存式の小線源治療を行う方法であって、生体適合性ポリマー内部の治療用剤と、外部加温源による加温が可能な磁性材料または鉄材料とを具備する治療用装置を挿入する段階;および、その治療用装置を外部加温源で加温する段階を含む方法に関する。
【0018】
さらなる態様は、患者体内への永久的埋植を意図した、強磁性シードを散在させた小線源治療用シードを含有する生体適合性吸収性ポリマーで作られた腫瘍床埋植物に関する。シードを覆うポリマー層は、術後温熱小線源治療の線量測定値(dosimetry)を向上させるべきであり、そしてその後、身体による長期的拒絶の可能性を最小にするため、かつ/または、その領域の局所的腫脹および嵩を低減させるため、意図される処置の完了後に組織中で分解するべきである。
【0019】
さらなる態様は、強磁性シードを散在させた、永久的な小線源治療用シードを含有する、生体適合性非吸収性ポリマーの腫瘍床埋植物に関する。この形式は、癌患者における術後温熱小線源治療の線量測定値を向上させるべきであり、かつ、乳房、四肢の肉腫、および脳などの部位における望ましくない組織欠損を防ぐため、術後も埋植物の体積が保たれるべきである。
【0020】
さらなる態様は、切除腔周囲のリスク組織を1~10回加温するのに好適なポリマー内に組み込まれた磁性の化学療法剤および/または免疫療法剤を含有する生体適合性吸収性ポリマー埋植物に関し、その加温は、埋植物が外部磁場中に置かれたときに、少なくとも部分的な分解をきたしそして治療用剤を周囲組織中へと迅速に放出するまでポリマーが加温されるのと同時に生じる。
【0021】
さらなる態様は、外照射放射線治療と組み合わせて外部磁場中に置かれたときに切除腔壁を1~10回加温することを意図した磁性材料に加えて、ポリマー内に組み込まれた化学療法剤および/または免疫療法剤を含有する、生体適合性吸収性ポリマー埋植物に関する。この態様において、ポリマーは、一連の熱増感外照射放射線処置の間ずっとインタクトなままであり、その後、緩徐な分解が始まって、照射完了後の安全な時間インターバルにおいて切除腔周囲のリスク組織内へと治療用剤を徐放する。
【0022】
さらなる態様は、周囲のリスク組織に対し温熱小線源治療の併用処置を行うことを意図した、生体適合性の薄層ポリマーの「バルーン」埋植物に関する。バルーンは、磁性ナノ粒子を混合した放射性流体で満たされたときに伸展して腫瘍切除腔を満たすため、弾性である。この戦略は、ポリマーバルーン埋植物の表面の周りに、均一性の高い線量分布と温熱量分布とを提供できる。
【0023】
さらなる態様は、ポリマー埋植物の表面周囲の組織に、均一性の高い線量分布と温熱量分布とを提供するため、2つの異なる流体で満たすことができる同心性の2つの薄い弾性層で構成された生体適合性ポリマー埋植物に関し、内部バルーンは安価な生理食塩水または液状ポリマーで満たされ、一方、切除腔壁と接する外部バルーンは、磁性ナノ粒子を混合した放射性流体を含有する。
【0024】
さらなる態様は、バルーン内に均一に分散した磁性ナノ粒子と組み合わせてバルーン内に放射性線源を後装填するため、バルーンの先端から皮膚表面外部まで伸びる1つまたは複数の内部カテーテルを含有する、生体適合性の薄層ポリマーバルーン埋植物に関する。
【0025】
生体適合性ポリマーコアと放射性シードとを具備し、放射性シードは生体適合性ポリマーの表面上または表面下で規則的に間隔が空けられている、生体適合性ポリマーコアの小線源治療装置であって、腫瘍切除後に腫瘍床内に埋植されたときに装置周囲の組織に送達される線量を提供する装置。特定の態様において、ポリマーコアは、深部体温付近でゲル化して腫瘍切除腔の形状をした軟性固形埋植物を形成する、1成分または複数成分の粘性流体混合物から作製され、ポリマーは、長期間にわたり生体組織中に吸収可能である。他の態様において、生体適合性ポリマーコアは、腫瘍床内への埋植後に体積と形状とを同じまま保つために非吸収性である;さらに他の態様において、ポリマーコアは長期間にわたり生体組織中に吸収可能であり、かつ、免疫刺激性化合物が、ポリマーコアが吸収される際に周囲の腫瘍床内に徐放されるようポリマー内に組み込まれる。
【0026】
生体適合性ポリマーコアと、放射線シードと、磁性材料とを具備し、磁性材料がポリマーコアの表面下または内部に分布している、温熱小線源治療用の埋植装置であって、腫瘍切除後に腫瘍床内に埋植されたときに装置周囲の組織に送達される、小線源治療の線量と温熱療法の温熱量との組み合わせを提供する装置。好ましくは、磁性材料は、ポリマーコアの表面下で規則的に間隔が空けられかつ放射線シードを散在させた円柱形シードまたは球形ペレットであり、そして放射線シードは、強磁性体材料からの温熱と組み合わせてシード埋植物近くの組織に望ましい治療線量の放射線を送達するため体内に永久的に埋植するのに適した、短半減期の放射性シードである。好ましい態様において、磁性材料は、例えば40~100℃、好ましくは40~50℃である望ましい埋植物温度において磁性から非磁性になるキュリー点転移を有する。
【0027】
生体適合性ポリマーコアと、化学療法剤もしくは免疫療法剤またはそれらの組み合わせからなる群より選択される治療用剤と、磁性材料とを具備し、磁性材料がポリマーコア内に埋め込まれているマルチモダリティ埋植装置であって、腫瘍切除後に腫瘍床内に埋植されたときに装置周囲の組織に逐次的または同時に送達される化学療法と温熱療法との組み合わせを提供する装置。
【0028】
弾性または伸展可能な生体適合性ポリマーシェルであって、外面と内面とを有し、かつ、伸展可能ポリマーシェルの内面近傍に埋め込まれており規則的に間隔が空けられている放射性シードおよび磁性材料を具備する、ポリマーシェルと、ポリマーシェル内のポリマーコアとを具備する、マルチモダリティ処置装置。好ましくは、磁性材料は、強磁性の円柱形シード、球形ペレット、粒子、ナノ粒子、強磁性流体、またはそれらの組み合わせからなる群より選択され、40~70℃の範囲の望ましい埋植物温度において磁性から非磁性になるキュリー点転移を備える。治療的用途に応じてポリマーシェルは吸収性または非吸収性であり、周囲組織中への治療用剤の放出を可能にするか、または非吸収性材料で組織を支持する。特定の態様において、外面を伸展させて切除腔を満たすため、内面と外面との間に材料が注入される。
【0029】
中空の中心コアを備えた生体適合性の伸展可能な薄壁ポリマーシェルと、放射性材料と、磁性材料とを具備し、ポリマーシェルが、伸展して腫瘍切除腔を満たすことができる、マルチモダリティ埋植装置。特定の態様において、外部ポリマーシェルを伸展させて腫瘍切除腔を満たすため、生理食塩水、生体適合性の吸収性液体ポリマー、生体適合性の非吸収性液体ポリマー、体内への永久的埋植に適した放射性流体(例えばIotrex、Cesitrex)、デキストランを伴う酸化鉄ナノ粒子など、均一に分布した生体適合性の磁性ナノ粒子の溶液、またはそれらの組み合わせなどの材料がコア内に注入される。その材料は、化学療法剤もしくはリポソーム封入した治療薬、または免疫刺激剤をさらに含んでもよい。
【0030】
伸展して腫瘍切除腔を満たすことができる、生体適合性の伸展可能ポリマーシェルのバルーンと、放射性材料と、磁性材料と、1つまたは複数のカテーテルを含有する中空の中心空間と、バルーン埋植物を組織表面に接続する可撓性シャフトとを具備する、マルチモダリティ処置装置。同装置は、皮膚表面の外部からポリマーシェルの先端まで伸びている少なくとも1つのカテーテルを具備しており、高線量率(HDR)の小線源治療照射源をポリマーシェル内部の中心空間に挿入する遠隔操作式後装填(remote afterloading)が可能であり、そして好ましくは、1つまたは複数のカテーテルが皮膚表面の外部からポリマーシェルの中空空間内部のさまざまな位置まで伸びていて、温度モニタリングプローブを挿入することおよび磁性ナノ粒子溶液などの流体で内部空間を満たすことが可能である。
【0031】
第一および第二のポリマーシェルが伸展して腫瘍切除腔を満たすことができる、第一の生体適合性の伸展可能ポリマーシェルのバルーンおよび第二のポリマーシェルと;放射性材料と;磁性材料と;第二ポリマーシェル内部の、1つまたは複数のカテーテルを含有する中空の中心空間と;第一および第二ポリマーシェルの間の空隙と;バルーン埋植物を組織表面に接続する可撓性シャフトとを具備する、マルチモダリティ処置装置。中空の中心空間内に第一の流体が注入され、第一および第二のポリマーシェルの間の空隙内に第二の流体が注入される。
【0032】
上述の各装置は、装置を切除腔内に挿入しそして癌性細胞の近傍に置くことによって、癌性細胞を処置する方法に利用できる。好ましくは、その方法は、磁性材料を加温しこれにより周囲の腫瘍床組織を加温するため、外部磁場から装置にエネルギーを結合する段階をさらに含む。
【0033】
体内の癌性組織を処置するさらなる方法であって、以下の段階を含む方法:癌性組織の一部を除去し、これにより体内に切除腔を残す段階;ポリマーコアを有する上述の装置を切除腔内に挿入する段階;プレゲル化したポリマーによる少なくとも1つの追加的ピースを用いて、ポリマーコアと周囲の腫瘍切除腔壁との間に追加的スペーシングを施す段階;および、温熱小線源治療送達装置を切除腔内中央の適切な位置に保持するよう凝固する粘性の液体ポリマーを、コア埋植物の周りに注入する段階。好ましくは、同方法は、装置を加温するため、外部磁場で装置にエネルギーを結合する段階をさらに含む。
【0034】
さらなる態様は、体内の癌性組織を処置する方法であって、以下の段階を含む方法に関する:癌性塊の一部を除去し、これにより体内に切除腔を残す段階;ポリマーシェルと中空の中心空間とを有する上述の装置を切除腔内に挿入する段階;伸展させて、温熱小線源治療装置で切除腔を満たすため、放射線材料と鉄材料とを具備する伸展可能材料で中空の中心空間を満たす段階;および、装置を加温するため、外部磁場で装置にエネルギーを結合する段階。
【0035】
体内の癌性組織を処置する方法であって、以下の段階を含む方法:癌性塊の一部を除去し、これにより体内に切除腔を残す段階;中空の中心コアを作り出すよう構成された弾性ポリマー層と、化学療法用、放射性、および鉄性の材料とを具備する上述の装置を切除腔内に挿入する段階であって、伸展させて、同装置で切除腔を満たすよう、中空の中心コアが伸展可能材料で満たされる段階;ならびに、装置を加温し、これにより化学療法剤の局所送達を向上させ、かつ、周囲の腫瘍床組織の放射線、薬剤、および免疫刺激処置に対する感受性を長期的に高めるため、外部磁場で装置にエネルギーを結合する段階。
【0036】
癌細胞を含有する体内の組織領域を処置する方法であって、以下の段階を含む方法:ポリマーコアと、放射線シードと、化学療法剤および/または免疫療法剤と、磁性材料とを具備するマルチモダリティ埋植装置に、標的組織を接触させる段階;ならびに、強磁性体材料を加温しこれにより周囲の腫瘍床組織を加温するため、外部磁場から装置にエネルギーを結合する段階。
【0037】
癌細胞を含有する体内の組織領域を処置する方法であって、以下の段階を含む方法:上述のように、ポリマーコアと、放射線シードと、強磁性材料とを具備するマルチモダリティ埋植装置に、標的組織を接触させる段階;強磁性体材料を加温しこれにより周囲の腫瘍床組織を加温するため、外部磁場から装置にエネルギーを結合する段階;および、ポリマーコアから治療用剤を放出する前、放出中、または放出後のいずれかに、埋植装置付近の組織を外照射で照射する段階。
[本発明1001]
生体適合性ポリマーコアと放射性シードとを具備し、該放射性シードは該生体適合性ポリマーの表面上または表面下で規則的に間隔が空けられている、生体適合性ポリマーコアの小線源治療装置であって、腫瘍切除後に腫瘍床内に埋植されたときに該装置周囲の組織に送達される線量を提供する、装置。
[本発明1002]
ポリマーコアが、
深部体温付近でゲル化して腫瘍切除腔の形状をした軟性固形埋植物を形成する、1成分または複数成分の粘性流体混合物
から作製されている、本発明1001の装置。
[本発明1003]
生体適合性ポリマーコアが、長期間にわたり生体組織中に吸収可能である、本発明1001の装置。
[本発明1004]
生体適合性ポリマーコアが、腫瘍床内への埋植後に体積と形状とを同じまま保つために非吸収性である、本発明1001の装置。
[本発明1005]
シードが、シード埋植物近くの組織に望ましい治療線量の放射線を送達するため体内に永久的に埋植するのに適した短半減期の放射性シードである、本発明1001の装置。
[本発明1006]
シードが、ポリマーの表面下1~10 mmの範囲内の深さに埋め込まれている、本発明1001の装置。
[本発明1007]
ポリマーコアが長期間にわたり生体組織中に吸収可能であり、かつ、治療薬が、該ポリマーコアが吸収される際に周囲の腫瘍床内に徐放されるよう該ポリマー内に組み込まれている、本発明1001の装置。
[本発明1008]
ポリマーコアが長期間にわたり生体組織中に吸収可能であり、かつ、免疫刺激性化合物が、該ポリマーコアが吸収される際に周囲の腫瘍床内に徐放されるよう該ポリマー内に組み込まれている、本発明1001の装置。
[本発明1009]
生体適合性ポリマーコアと、放射線シードと、磁性材料とを具備し、該磁性材料が該ポリマーコアの表面下または内部に分布している、温熱小線源治療(thermobrachytherapy)用の埋植装置であって、腫瘍切除後に腫瘍床内に埋植されたときに該装置周囲の組織に送達される小線源治療の線量と温熱療法の温熱量との組み合わせを提供する、装置。
[本発明1010]
磁性材料が、ポリマーコアの表面下で規則的に間隔が空けられかつ放射線シードを散在させた円柱形シードまたは球形ペレットである、本発明1009の装置。
[本発明1011]
ポリマーコアが、
深部体温またはその付近でゲル化して腫瘍切除腔の形状をした可撓性埋植物を形成する、1成分または複数成分の粘性流体混合物
から作製されている、本発明1009の装置。
[本発明1012]
ポリマーが、長期間にわたり生体組織中に吸収可能である、本発明1009の装置。
[本発明1013]
ポリマーが、腫瘍床内への埋植後長く体積と形状とを同じまま保つために非吸収性である、本発明1009の装置。
[本発明1014]
放射線シードが、強磁性体材料からの温熱と組み合わせてシード埋植物近くの組織に望ましい治療線量の放射線を送達するため体内に永久的に埋植するのに適した短半減期の放射性シードである、本発明1009の装置。
[本発明1015]
磁性材料が、望ましい埋植物温度において磁性から非磁性になるキュリー点転移を有する、本発明1009の装置。
[本発明1016]
温度制御性埋植物の望ましい温度が40~100℃の範囲内の温度である、本発明1009の装置。
[本発明1017]
温度制御性埋植物の望ましい温度が約45~50℃である、本発明1009の装置。
[本発明1018]
放射線シードと、散在する強磁性シードとが、ポリマーの表面下1~10 mmの範囲内の深さに埋め込まれている、本発明1009の装置。
[本発明1019]
生体適合性ポリマーコアが長期間にわたり生体組織中に吸収可能であり、かつ、治療薬が、該ポリマーコアが吸収される際に周囲の腫瘍床内に徐放されるよう該ポリマー内に組み込まれている、本発明1009の装置。
[本発明1020]
生体適合性ポリマーコアが長期間にわたり生体組織中に吸収可能であり、かつ、免疫刺激性化合物が、該ポリマーコアが吸収される際に周囲の腫瘍床内に徐放されるよう該ポリマー内に組み込まれている、本発明1009の装置。
[本発明1021]
温熱療法が、装置に対する外力の印加によってもたらされる、本発明1009の装置。
[本発明1022]
生体適合性ポリマーコアと、化学療法薬もしくは免疫療法薬またはそれらの組み合わせからなる群より選択される治療剤と、磁性材料とを具備し、該磁性材料が該ポリマーコア内に埋め込まれている、マルチモダリティ埋植装置であって、腫瘍切除後に腫瘍床内に埋植されたときに該装置周囲の組織に逐次的または同時に送達される化学療法と温熱療法との組み合わせを提供する、装置。
[本発明1023]
磁性材料が、ポリマー表面下の制御された深さにある規則的に間隔が空けられている円柱形または球形の強磁性シードである、本発明1022の装置。
[本発明1024]
強磁性シードが、ポリマーの表面下1~10 mmの範囲内の深さに埋め込まれている、本発明1023の装置。
[本発明1025]
磁性材料が、望ましい埋植物温度において磁性から非磁性になるキュリー点転移を有する、本発明1022の装置。
[本発明1026]
温度制御性埋植物の望ましい温度が40~100℃の範囲内の温度である、本発明1025の装置。
[本発明1027]
温度制御性埋植物の望ましい温度が約45~50℃である、本発明1026の装置。
[本発明1028]
磁性材料が、生体適合性ポリマー内に均一に分布した磁性ナノ粒子で構成されている、本発明1023の装置。
[本発明1029]
ポリマーが、
深部体温またはその付近でゲル化して腫瘍切除腔の形状をした可撓性埋植物を形成する、1成分または複数成分の粘性流体混合物
から作製されている、本発明1023の装置。
[本発明1030]
生体適合性ポリマーコアが、長期間にわたり緩徐に生体組織中に吸収可能である、本発明1023の装置。
[本発明1031]
生体適合性ポリマーコアが、40~100℃の上昇した温度において速やかに分解して周囲組織中に吸収される、本発明1023の装置。
[本発明1032]
生体適合性ポリマーコアが、45~50℃の上昇した温度において速やかに分解して周囲組織中に吸収され、かつ、治療薬が、該ポリマーコアが吸収される際に周囲の腫瘍床内に速放されるよう該吸収性ポリマー内に組み込まれている、本発明1023の装置。
[本発明1033]
生体適合性ポリマーコアが長期間にわたり生体組織中に吸収可能であり、かつ、治療薬が、該ポリマーが吸収される際に周囲の腫瘍床内に徐放されるよう該吸収性ポリマー内に組み込まれている、本発明1023の装置。
[本発明1034]
生体適合性ポリマーコアが長期間にわたり生体組織中に吸収可能であり、かつ、免疫刺激剤が、該ポリマーが吸収される際に周囲の腫瘍床内に徐放されるよう該ポリマー内に組み込まれている、本発明1023の装置。
[本発明1035]
弾性のまたは伸展可能な生体適合性ポリマーシェルと、該ポリマーシェル内のポリマーコアとを具備する、マルチモダリティ処置装置であって、該ポリマーシェルが、外面と内面とを有し、かつ該伸展可能なポリマーシェルの該内面近傍に埋め込まれており規則的に間隔が空けられている放射性シードおよび磁性材料を具備する、装置。
[本発明1036]
磁性材料が、望ましい埋植物温度において磁性から非磁性になるキュリー点転移を含む、本発明1035の装置。
[本発明1037]
磁性材料が、強磁性の円柱形シード、球形ペレット、粒子、ナノ粒子、強磁性流体、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される、本発明1035の装置。
[本発明1038]
磁性材料が、40~70℃の範囲内の望ましい埋植物温度において磁性から非磁性になるキュリー点転移を含む、本発明1037の装置。
[本発明1039]
望ましい埋植物温度が、約45~50℃のポリマーシェル埋植物表面温度をもたらす、本発明1038の装置。
[本発明1040]
ポリマーシェルが吸収性である、本発明1035の装置。
[本発明1041]
ポリマーシェルが非吸収性である、本発明1035の装置。
[本発明1042]
生体適合性の伸展可能なポリマーシェルが長期間にわたり生体組織中に吸収可能であり、かつ、治療薬または免疫刺激薬が、該ポリマーが吸収される際に周囲の腫瘍床内に徐放されるよう該ポリマーシェル内に組み込まれている、本発明1035の装置。
[本発明1043]
生体適合性の伸展可能なポリマーシェルが長期間にわたり生体組織中に吸収可能であり、かつ、治療薬または免疫刺激薬が、該ポリマーが吸収される際に周囲の腫瘍床内に放出されるようコア内に組み込まれている、本発明1035の装置。
[本発明1044]
外面を伸展させて切除腔を満たすため、内面と該外面との間に材料が注入される、本発明1035の装置。
[本発明1045]
中空の中心コアを備えた生体適合性の伸展可能な薄壁ポリマーシェルと、放射性材料と、磁性材料とを具備し、該ポリマーシェルが、伸展して腫瘍切除腔を満たすことができる、マルチモダリティ埋植装置。
[本発明1046]
外部ポリマーシェルを伸展させて腫瘍切除腔を満たすため、コア内に材料が注入される、本発明1044の装置。
[本発明1047]
前記材料が生理食塩水を含有する、本発明1044の装置。
[本発明1048]
前記材料が生体適合性の吸収性液体ポリマーを含む、本発明1044の装置。
[本発明1049]
前記材料が生体適合性の非吸収性液体ポリマーを含む、本発明1044の装置。
[本発明1050]
コアを満たす材料が、体内への永久的埋植に適した放射性流体(例えばIotrex、Cesitrex)を含む、本発明1044の装置。
[本発明1051]
前記材料が、均一に分布した生体適合性の磁性ナノ粒子の溶液を含む、本発明1044の装置。
[本発明1052]
磁性ナノ粒子の溶液が、デキストランを伴う酸化鉄ナノ粒子である、本発明1050の装置。
[本発明1053]
放射性材料と磁性材料とが相互混合されてコア内部に均一に分布している、本発明1044の装置。
[本発明1054]
前記材料が、磁性パウダー、小球体、ペレット、またはシードなど生体適合性の磁性材料を含む、本発明1044の装置。
[本発明1055]
前記材料が、40~100℃の範囲内の温度でキュリー点転移を生じる生体適合性の磁性材料を含む、本発明1035の装置。
[本発明1056]
前記材料が、約45~50℃の温度でキュリー点転移を生じる生体適合性の磁性材料を含む、本発明1044の装置。
[本発明1057]
前記材料が、化学療法剤またはリポソーム封入した治療薬を含む、本発明1044の装置。
[本発明1058]
前記材料が免疫刺激剤を含む、本発明1044の装置。
[本発明1059]
前記材料が伸展可能な材料である、本発明1044の装置。
[本発明1060]
伸展して腫瘍切除腔を満たすことができる、生体適合性の伸展可能ポリマーシェルのバルーンと、放射性材料と、磁性材料と、1つまたは複数のカテーテルを含有する中空の中心空間と、バルーン埋植物を組織表面に接続する可撓性シャフトとを具備する、マルチモダリティ処置装置。
[本発明1061]
少なくとも1つのカテーテルが、皮膚表面の外部からポリマーシェルの先端まで伸びており、高線量率(HDR)の小線源治療照射源を該ポリマーシェル内部の中心空間へ遠隔操作式後装填挿入(remote afterloading insertion)することを可能にする、本発明1060の装置。
[本発明1062]
温度モニタリングプローブを挿入できるよう、1つまたは複数のカテーテルが、皮膚表面の外部からポリマーシェルの中空空間内部のさまざまな位置まで伸びている、本発明1060の装置。
[本発明1063]
1つのカテーテルが皮膚表面の外部から中空空間まで伸びており、バルーンを伸展させて切除腔を満たすため内部空間を材料で満たすのに適している、本発明1060の装置。
[本発明1064]
伸展可能なポリマーシェルの中空空間が、磁性ナノ粒子溶液と、HDR小線源治療用の1つまたは複数のカテーテルとで満たされる、本発明1060の装置。
[本発明1065]
第一および第二のポリマーシェルが伸展して腫瘍切除腔を満たすことができる、第一の生体適合性の伸展可能ポリマーシェルのバルーンおよび第二のポリマーシェルと;放射性材料と;磁性材料と;第二のポリマーシェル内部の、1つまたは複数のカテーテルを含有する中空の中心空間と;第一および第二のポリマーシェルの間の空隙と;バルーン埋植物を組織表面に接続する可撓性シャフトと
を具備する、マルチモダリティ処置装置。
[本発明1066]
中空の中心空間内に第一の流体が注入され、第一および第二のポリマーシェルの間の空隙内に第二の流体が注入される、本発明1065の装置。
[本発明1067]
体内の癌性組織を処置する方法であって、本発明1001~1066のいずれかの装置を該組織の近傍に置く段階を含む、方法。
[本発明1068]
体内の癌性組織を処置する方法であって、本発明1001~1066のいずれかの装置を切除腔内に挿入する段階を含む、方法。
[本発明1069]
切除腔近傍の体内の癌性細胞を処置するための、本発明1001~1066のいずれかの装置の使用。
[本発明1070]
癌細胞を含有する体内の組織領域を処置する方法であって、以下の段階:
標的組織を本発明1001~1066のいずれかの装置と接触させる段階;および
磁性材料を加温しこれにより周囲の腫瘍床組織を加温するため、外部磁場から該装置にエネルギーを結合する段階
を含む、方法。
[本発明1071]
体内の癌性組織を処置する方法であって、以下の段階:
該癌性組織の一部を除去し、これにより体内に切除腔を残す段階;
本発明1001~1066のいずれかの装置を該切除腔内に挿入する段階;
プレゲル化したポリマーによる少なくとも1つの追加的ピースを用いて、ポリマーコアと周囲の腫瘍切除腔壁との間に追加的スペーシングを施す段階;および
温熱小線源治療送達装置を該切除腔内中央の適切な位置に保持するよう凝固する粘性の液体ポリマーを、コア埋植物の周りに注入する段階
を含む、方法。
[本発明1072]
前記装置を加温するため、外部磁場で該装置にエネルギーを結合する段階をさらに含む、本発明1071の方法。
[本発明1073]
体内の癌性組織を処置する方法であって、以下の段階:
癌性塊の一部を除去し、これにより体内に切除腔を残す段階;
本発明1060~1066のいずれかの装置を該切除腔内に挿入する段階;
伸展させて温熱小線源治療装置で該切除腔を満たすため、伸展可能な材料で中空の中心空間を満たす段階;および
該装置を加温するため、外部磁場で該装置にエネルギーを結合する段階
を含む、方法。
[本発明1074]
体内の癌性組織を処置する方法であって、以下の段階:
癌性塊の一部を除去し、これにより体内に切除腔を残す段階;
本発明1045~1059のいずれかの装置を該切除腔内に挿入する段階;
伸展させて該装置で該切除腔を満たすため、伸展可能な材料で中空の中心コアを満たす段階;ならびに
該装置を加温し、これにより化学療法薬の局所送達を向上させ、かつ、周囲の腫瘍床組織の放射線、薬剤、および免疫刺激処置に対する感受性を長期的に高めるため、外部磁場で該装置にエネルギーを結合する段階
を含む、方法。
[本発明1075]
癌細胞を含有する体内の組織領域を処置する方法であって、以下の段階:
ポリマーコアと、化学療法剤および/または免疫療法剤と、磁性材料とを具備する、本発明1001~1044のいずれかのマルチモダリティ埋植装置に、標的組織を接触させる段階;ならびに
強磁性体材料を加温しこれにより周囲の腫瘍床組織を加温するため、外部磁場から該装置にエネルギーを結合する段階
を含む、方法。
[本発明1076]
癌細胞を含有する体内の組織領域を処置する方法であって、以下の段階:
ポリマーコアと、化学療法剤および/または免疫療法剤と、磁性材料とを具備する、本発明1001~1066のいずれかのマルチモダリティ埋植装置に、標的組織を接触させる段階;
強磁性体材料を加温しこれにより周囲の腫瘍床組織を加温するため、外部磁場から該装置にエネルギーを結合する段階;ならびに
ポリマーコアから治療用剤を放出する前、放出中、または放出後のいずれかに、該埋植装置付近の組織を外照射で照射する段階
を含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】典型的な小径の照射(小線源治療)シードからの放射方向距離に伴う、線量の指数関数的減衰を示した図である。シード表面では処方線量の >500%である線量が、5 mmの距離では100%まで下降している(80%の減少)という、シード近傍の急勾配に注意されたい。次の5 mm(シードから5~10 mmの距離)では、線量の下降は100%から80%(20%の減少)と、より緩やかになる。このことは、シードから0~5 mmの距離に位置する輪状の組織領域では、シードから5~10 mmの距離に位置する組織領域と比較して、線量のばらつきがかなり大きいことを明確に示している。
図2】先行技術を示した図である。(A)先行技術によるフェロシード組織内埋植物アレイの断面図であり、充実性腫瘤(solid mass tumor)の加温を意図した12針アレイにおける幾何学配置と温度測定位置とを示している。(B)直径1.5 mm、長さ10 cmの強磁性#430ステンレス鋼針を12本用いたアレイを、筋肉組織等価ファントム内に置き、Ho = 420 A/mの磁場をかけたときの、アレイ内の位置a、b、およびcにおける典型的な温度上昇を時間に対して示した図である。Staufferら(45)より。シード近傍の組織の温度(Ta)は過度に熱く、一方、シード間の位置における組織温度(TbおよびTc)は温度が低すぎる可能性がある。
図3図3A~Bは、シードによって切除腔壁周囲のリスク組織に送達される線量の均一性を高めるため放射線(RT)シードを表面下3~10 mmの深さに埋め込んだ、吸収性の(または代替的に非吸収性の)ポリマースラブ埋植物を示した図である。この生体適合性の小線源治療腫瘍床埋植物は、線量を安全に送達できるよう >50日間その構造を保ち、その後は約100日間以内に組織中に吸収されるべきである(Cs-131シードを埋め込んだ吸収性ポリマーの例)。手術後に組織の幾何学形状を永久的に維持するため、代わりに非吸収性ポリマーが用いられてもよい。図3Aは、放射線シードの平行ストランドを複数備えた、単一平面の埋植物を示している;図3Bは大きな切除腔用の埋植物を示しており、シードはポリマーコアの外部シェル全体に均一に分布し、組織から隔離するためシード上に3~10 mmのポリマーコーティングが施されている。
図4図4A~Bは、切除腔壁周囲のリスク組織に送達される線量および温熱量の均一性を高めるため、放射線シードと強磁性(HT)シードとを散在させて表面下3~10 mmの深さに埋め込んだ、吸収性の(または代替的に非吸収性の)ポリマー埋植物を示した図である。この生体適合性の温熱小線源治療腫瘍床埋植物は、線量を補助温熱とともに安全に送達できるよう >50日間その構造を保ち、その後は約100日間以内に組織中に吸収されるべきである(Cs-131シードを埋め込んだ吸収性ポリマーの例)。手術後に組織の幾何学形状を永久的に維持するため、代わりに非吸収性ポリマーが用いられてもよい。図4Aは、放射線シードおよびフェロシードの平行ストランドを複数備えた、単一平面の埋植物を示している;図4Bは大きな切除腔用の埋植物を示しており、シードはポリマーコアの外部シェル全体に均一に分布し、組織から隔離するためシード上に3~10 mmのポリマーコーティングが施され、そして、放射線シードとフェロシードとはシードの各線に沿って交互になっているか、または代替的に、すべて放射線シードである平行ストランドとすべてフェロシードである平行ストランドとが散在している。
図5図5A~Bは、切除腔壁周囲のリスク組織に送達される線量および温熱量の均一性を高めるため、周辺部に沿って均一に間隔を空け表面下3~10 mmの深さに埋め込んだフェロシードと、ポリマー内に含浸させた化学療法剤および/または免疫療法剤とを備えた、吸収性の(または代替的に非吸収性の)ポリマー埋植物を示した図である。ポリマーは、フェロシードの加温時に速やかに分解して、その熱処置の間に迅速に、切除腔周囲の加温された組織中に治療用薬剤を放出するよう構成されてもよい。代替的に、ポリマーは、治療用剤の送達および局所活性を高めるため、時間をかけて緩徐に吸収されて、1~10回の熱処置を伴う一定期間にわたって治療用剤を徐放するよう調合されてもよい。埋植物は、温熱小線源/化学/免疫療法を実現するため、フェロシードの周りに均一に散在した放射線治療シードを任意で含有していていもよい。生体適合性マルチモダリティ腫瘍床埋植物のその構成は、線量を補助温熱とともに安全に送達できるよう >50日間その構造を保ち、その後は、化学療法剤および/または免疫療法剤を徐放しながら約100日間で周囲組織中に吸収されるべきである。
図6】フェロシードが散在する放射線シードのストリングを有し、表面周囲に均一に間隔が空けられた、吸収性ポリマーコアによる切除腔埋植物を示した図である。シードが巻き付けられたこのポリマーコアは、シードと周囲組織との間で望ましい隔離を保つためポリマースペーサーとともに切除腔内に挿入され、その際、コアの周りに厚さ3~10 mmのポリマーコーティングを施すため、ゲル化していない粘性の液体ポリマーが切除腔内に注入される。ポリマーゲルは深部体温において数分間で固形となり、そして、放射線シードおよび/またはフェロシードと切除腔壁および腫瘍マージンとの間で3~10 mmの適切な間隔を維持する。
図7】磁性ナノ粒子と化学療法剤および/または免疫療法剤とがポリマー全体にわたって均一に混合されている生体適合性吸収性ポリマーを示した図である。この構成は、望ましいのであればその領域を外照射で照射している間に、外部磁場への磁気結合によって切除腔壁を加温することを可能にする。すべての温熱放射線処置が完了した後、ポリマーは化学療法剤を放出しながら時間をかけて緩徐に吸収される。代替的に、ポリマーは、特定の温度(例えば44℃)で融解し、これにより加温時にすべての化学療法剤を速やかに放出して、化学療法剤を最高濃度の局所用量で送達するよう調合されてもよい。
図8】ポリマーの1~5 mm下にあるポリマーコアの周辺部の周りで均一に間隔が空いた放射線シード(例えばCs-131)を備えた、生体適合性非吸収性ポリマーコア埋植物を示した図である。磁性ナノ粒子と化学療法剤および/または免疫療法剤とがポリマー全体にわたって均一に混合されている、生体適合性吸収性ポリマーの第二の層が、厚さ1-10 mmの吸収性ポリマー層として放射線シードを覆っている。この構成は、小線源治療を送達する50日間の間に、外部磁場との磁気結合によって切除腔壁を1~10回加温することを可能にする。小線源治療の完了後、吸収性ポリマーの外層は、時間をかけて緩徐に吸収され、このとき、化学療法剤を放出するとともに、身体が磁性ナノ粒子を散逸させ体外に除去することを可能にする。
図9図9Aは、放射性材料および/または強磁性材料がシェルの内面に埋め込まれており、伸展して切除腔を満たすよう生理食塩水または液体ポリマーで満たされる、生体適合性の伸展可能な厚壁ポリマーシェルを示している。磁性材料は、放射線の送達中に、外部磁場との結合によって1~10回加温できる。この構成において、生体適合性ポリマーシェルは、審美上または構造上の理由から、身体に吸収されることなく所定の位置に無期限にとどまる。図9Bはポリマーシェル壁の断面を拡大した図であり、シードを切除腔壁組織から隔離する厚さ3~7 mmのポリマー層が存在するようシードが埋め込まれることを示している。
図10】厚さ3~7 mmのシェルの内面に放射性シードが埋め込まれている、生体適合性の伸展可能な厚壁ポリマーシェルを示した図である。この構成において、シェルは、磁性ナノ粒子(もしくは磁性流体)か、または放射流体(例えばIotrex、Cesitrex)と磁性ナノ粒子流体との均質な混合物かで満たされる。磁性ナノ粒子は、放射線の送達中に、外部磁場との結合によって1~10回加温できる。臨床用途に応じて吸収性または非吸収性のポリマーが用いられてもよい。
図11】放射性粒子および/もしくは磁性粒子を含有する粘性コロイド溶液が、腫瘍切除腔内に直接注入されるか、または、腫瘍腔にフィットする伸展可能なシェルの内部に、図10に示すように針もしくはカテーテルを用いて送達される、代替的な構成を示した図である。粘性の液体ポリマーは、より高温である体温または時間硬化によって、腫瘍切除腔内への送達後に短時間で固形になってもよい。埋植物のすべての構成のうち、腫瘍床を満たす、放射線粒子および/または磁性粒子が相互混合したこのコロイド溶液は、茎状が不規則な切除腔に対しても、切除腔壁全体に最も均一な温熱および放射線線量測定値を提供すると考えられる。
図12図12A~Bは、生体適合性の伸展可能な薄壁ポリマー(バルーン)への、生体適合性の可撓性シースの接続を介して、放射線源と加温源とが腫瘍切除腔内に送達される、代替的な構成を示した図である。患者の体外から皮膚の切開部を通り、切除腔内に埋植されたバルーンの先端まで伸びている、1つまたは複数の中心カテーテル内に、放射線シードが挿入されてもよい。典型的に、1つまたは複数の内部カテーテルに沿って、高放射能の放射線シードをあらかじめ計算されたステップで移動させて、バルーンと接触した全組織に最も均一な線量を送達するため、高線量率(HDR)の後装填用装置が用いられる。外部から印加される磁場との結合を介して周囲組織を均一に加温するため、バルーンが磁性ナノ粒子で切除腔を満たすよう、バルーンの内部は別の中心カテーテルを通じて膨張される。バルーン内部のナノ粒子溶液の温度は、別の中心カテーテル内の温度センサーでモニタリングされる。図12Bも、同様の温熱と放射線を切除腔壁に提供するが、外部バルーン壁のすぐ内側でかつ可撓性シースに沿ってカテーテル路に導入できる温度センサーが追加されている。
図13】生体適合性の可撓性シースを介して接続された2つの同心性の薄壁バルーンを備えた、図12の生体適合性バルーン設計の代替的な構成を示した図である。外側バルーンは、外部ポートを通じて、磁性ナノ粒子と放射流体との均質な混合物で満たされてもよく、一方、内側バルーンは、バルーンを伸展させて腫瘍切除腔を満たすため、無菌生理食塩水で膨張されてもよい。磁性ナノ粒子は、放射線の送達中に外部磁場との結合によって1~10回加温されてもよく、この間、外側バルーン壁に接触するカテーテル内に導入された温度プローブで外側バルーン表面の温度が測定される。
【発明を実施するための形態】
【0039】
好ましい態様の詳細な説明
本明細書において用いられる「約(about)」という用語は、述べられる数値の10%以内であることを意味する。
【0040】
「磁性ナノ粒子(magnetic nanoparticle)」という用語は、磁性流体またはMNP流体と互換的に用いられ、磁場を用いて操作できる粒子である。これらの粒子は、好ましくは、外力の印加によって加温することができる。
【0041】
「強磁性シード(ferromagnetic seed)」もしくは「フェロシード(ferroseed)」、または「温熱シード(heat seed)」という用語は、球形または円柱形の金属材料を意味する。これらは個別のシードであってもよく、または、強磁性シードのストリングとして組み合わされているか、もしくは強磁性シードと放射線シードとを備えたストリングとして組み合わされていてもよい。
【0042】
一般的な意味において、本明細書に開示する諸態様は、放射線療法および/もしくは化学療法ならびに/または免疫療法と組み合わせ、そして腫瘍切除腔周囲のリスク組織の輪状周縁部に集束させる、軽度温熱療法(40~45℃で30~60分間の加温)の効果を利用する埋植装置を規定する。併用療法である温熱放射線療法および温熱化学療法の無作為化試験では、局所温熱療法の追加によって著効率が有意に向上すること、および、多数の腫瘍部位について生存面の利点があることが示されている(56)。温熱療法は、線量が限定された再処置の状況において特に効果的である(14, 15)。温熱療法の使用を制限する典型的な問題は、加温源からのパワー堆積パターンを制御しにくいことであり、このため、標的組織の温度に許容不能な不均質性が生じるとともに、周囲の正常組織にも許容不能な加温が生じる。
【0043】
同様に、放射線治療における1つの大きな問題は、正常組織において線量過剰により許容不能な毒性が生じることである。図1に示すように、腫瘍床内に埋植される典型的な小径の放射線源シードの場合、線源近傍の線量は、シードから5 mmの組織周縁部に対して処方される最小(100%)標的線量の5倍を超える。線源から0~0.5 cmの陰影を付けた領域に見られるように、線量は、シード近くの超治療的レベルから非常に急速に降下する。逆に、0.5~1 cmの、第二の陰影を付けた領域において、その降下ははるかに緩やかである。治療の典型的な目標は、すべての重要正常組織を、処方された標的線量の約140%未満に保つことである。明らかに、線量の低下が(500%超から100%まで)80%超となる、線源に近い第一領域においては、その目標が達成されず、一方、線量の低下が(100%から80%まで)わずか20%である、線源からより遠い第二領域においては、その目標が容易に達成される。
【0044】
したがって、本明細書における諸態様は、腫瘍切除腔周囲のリスク組織――癌性組織と正常組織との混合物を含有する組織を処置するための、新しい装置および方法に関する。切除腔は、例えば、腫瘍の大部分を体内から除去できる場合などに、必要となる。残念ながら、外科医は常にすべての腫瘍細胞を除去できるわけではなく、したがって、この腫瘍マージン内に、約5 mm(時にそれ以上)の「リスクのある(at-risk)」組織の周縁部があることが多い。これらの除去可能な癌は、頭部、頚部、胴部、背部、腕、および脚など、事実上、癌が成長しうるあらゆる部位に見られる。例えば、脳癌の患者では、その癌性組織が除去され、頭蓋内部に切除腔が残る場合がある。こうした除去は、無論、他の形態の癌でも広く行われる。
【0045】
したがって、本開示の一態様は、高度に局所化された小線源治療の送達を容易にする、腫瘍縮小手術後に切除腔内に埋植される装置に関する。特定の態様において、小線源治療は、放射線に対する局所反応を増強しかつ周囲の正常組織の合併症を低減するため、周囲のリスク組織の軽度加温と同時に提供される。同製品は、切除腔を満たす生体適合性の組織埋植物(例えば、概ね球形、平面、またはカスタムの形状を備えた、ポリマースラブ、シェル、またはバルーン)で構成される。腫瘍床埋植物に最適な材料は手術部位によって異なる。外科的摘出によって明確な腔が生じる身体領域(例えば、脳、肺、乳房、胴部、咽喉など)に適用するには、本発明の埋植物が軟性の生体適合性ポリマー埋植物で形成されていてもよい。形状は、あらかじめ計画された形状にフィットするよう、製造業者によってあらかじめ形成されてもよい;または、最初は室温において濃い粘性の流体であり、そして、体温上昇(34~37℃)への曝露および/もしくは硬化時間、またはそれらの組み合わせによって固形化して正確に腫瘍床の形状となるポリマーを注入することによって、手術室内で切除腔に合わせてカスタムフィットされてもよい。
【0046】
放射線シードストリングが用いられる場合、それらは、必要な線量を埋植物周囲の組織に送達するため、計算された期間にわたって留置カテーテル内に後装填され、そして次に、数分間、数時間、または数日間にわたって所定の位置にあった後に除去される、高放射能で低半減期の線源であることが多い。一部のプロトコルにおいて、分割照射式の小線源治療による処置を複数回行うためカテーテルアレイが所定の位置に残される場合もあり、または、総線量を送達するためカテーテルが複数回交換される場合もある。代替的に、より長期間にわたって望ましい総線量を送達するため、半減期が短い低放射能の放射線シード(例えば、半減期が<10日のCs-131)がカテーテルなしで外科的に埋植されて組織中に永久的に残される場合もある。Cs-131の場合、線源が最初の放射能レベルから<5%に減衰する前に、約40日間の期間にわたって線量が緩徐に送達される。永久的シード埋植物の1つの利点は、シードを外科的に腫瘍内に置きそして麻酔下で閉創することができ、ゆえに経皮カテーテルの不便さおよび疼痛を排除できることである。線量は、以後、患者が自宅にいる間、40~50日間にわたって連続的に送達されるので、分割照射の処置を受けるために再来院する必要がない。この永久埋植アプローチは、一時的埋植アプローチと比較して患者の入院期間および来院回数が最小限となるので、治療の総費用の点で大きな利点を有する可能性がある。これら利点にもかかわらず、複数の課題が永久シード埋植物の普及を限定している。第一に、>50日間という線量送達の間に放射性シードが意図されない位置に移動して、健常組織を放射線に曝露してしまう可能性がある。第二に、図1に示されているように、組織標的全体にわたって充分に高い最小線量を得るためには、小径シードに近い組織の線量がきわめて高くなる。シードが、重要な正常組織構造(例えば血管または神経)に近い位置に置かれるか、またはそのような位置に移動すると、結果として生じる線量の不均質性が重度の合併症につながる可能性がある。
【0047】
さらなる1つの複雑な問題は、体内の深部で組織標的を均一に加温することに関する。図2は深部の組織領域内に局所的な加温をもたらす先行技術の方法を示している。同図は、それぞれ長さ10 cm x 直径1.5 mmであり、筋肉組織等価ファントム内に1.5 cm間隔で埋植される、ステンレス鋼針12本(または代替的に強磁性シードのストリング12本)の埋植用アレイの中心を通る断面を示している。外部磁場を100 kHzで6分間印加した間に、点 a(シード表面)、b(2つのシードの中間)、および c(4つのシードの中間)で記録された温度を、付随のグラフに示している。明らかに、加温されたシードに近い点 a の温度上昇は、熱傷または超治療的となる可能性がある非常に高い温度を短時間でもたらす。これに比べて、シードから遠い点 b および点 c の温度上昇は、点 a の温度より6℃近く低く、シード近くで温度制限が実現された場合は、シード間の温度が治療レベルに達しない可能性がある。本質的に、組織標的のうち点 a、b、および c の間に位置する限定的な部分のみが治療的となり、その一方、残りの組織は過剰な温熱によって損傷を受けるかまたは充分な温熱を受けないかのいずれかとなるので、このことは熱処置の質を著しく低下させる。したがって、本明細書に開示するように、温熱を、放射線、免疫療法、および化学療法と組み合わせるマルチモダリティ処置には、組織をより均一に加温するための新しい治療戦略が必要である
【0048】
第一の態様として、図3Aに、ポリマーコア22をコーティングしているポリマーコーティング(スペーサー)21を有する、生体適合性ポリマースラブによる小線源治療用の腫瘍床埋植物20を示す。ポリマーコア22の中に、均等に間隔が空いた放射線治療用シード23の平行線(ストランド)3本が描かれており、これらは表面のすぐ下に埋め込まれるかまたはポリマーコア22の表面上に横たわっている。放射線治療用シードは、好ましくは、ポリマーコーティング層21によって、切除腔壁の周囲のリスク組織標的から3~10 mmの間隔が空けられている。
【0049】
ポリマーコーティング21は、吸収性または非吸収性のいずれかである生体適合性ポリマー材料で作られる。非吸収性ポリマーは、例えば皮膚内に腔ができることを防ぐためなど、切除腔を満たして手術後も同体積を保つべきである場合に利用される。逆に、吸収性ポリマーは、切除腔が虚脱して、摘出された腫瘍細胞の成長前のサイズに戻るべきである場合に、有利に利用できる。ポリマーコア22も同様に、非吸収性または吸収性のいずれかのポリマーで作られる。特定の態様において、ポリマーコーティング21およびポリマーコア22の両方に同じポリマーが用いられてもよいが、特定の用途に対し、必要に応じて異なるポリマーまたは密度が利用されてもよい。
【0050】
図3B図3Aの1つのバリエーションを示しており、このバリエーションにおいて、ポリマースラブ埋植物24は、概ね平行な複数のシードストランド中に置かれた放射線治療用シード23と、不規則な形状をした切除腔壁の周辺部全体に、間隔が最も均等となる位置にシードを提供するため、必要に応じて平行シードストランドに対し角度を付けて配向されたシード23Bとを具備する。ポリマーコア22全体にわたって間隔が均一になるよう、適切な数の平行シード23および角度付きシード23Bが、複数のストランドとして、ポリマーコア22内に埋め込まれる。ポリマーコーティング層21は、放射線およびフェロシードを切除腔壁から隔離する、厚さ3~10 mmの均一な隔離を提供する。
【0051】
実のところ、この腫瘍床形状の埋植物の別の好ましい態様では、放射線シードの間に散在しそしてポリマー埋植物の表面または表面下に均一に分布する強磁性シードが追加される。1つの形態において、これらのフェロシード26は形状が同様であり、各シードストリングに沿って放射線シード23と交互になるよう散在する(例えば図4A)。フェロシード26は、患者を非接触型の誘導コイル内部に入れ、電磁エネルギーをフェロシードに結合してこれを加温させる外部磁場を印加することによって、手術後に1回または複数回、望ましい処置温度まで加温されてもよい。放射線の効果を高める適切な温度の送達を容易にするため、シードは、通常45~50℃程度である望ましい処置温度において有効に自己制御するよう、適切なキュリー点温度を有する合金で作製されてもよいが、その温度は、温熱アブレーション用途に対しては100℃もの高温となる可能性もある(44, 74-77)。
【0052】
本発明の腫瘍床埋植物は、多くの臨床用途について、線量の送達完了後にのみ組織中に吸収される生体適合性吸収性ポリマー材料で作製される。ポリマー材料が吸収される際に、埋植物領域はかさが減り、そして、不活性となった放射線シード23および/または散在するフェロシード26のストリングは線維化した組織内に残されて、これにより以降はシードの動きが制限される。一部の臨床用途については、時間が経っても吸収されないポリマーの調合物が好ましい。この永久的埋植物は手術後長期にわたって切除腔の構造を維持し、シードが移動しないことを確実にする。
【0053】
本発明のマルチモダリティポリマー埋植物を用いることの利点として、体外への接続を伴わずに適切な放射線線量および温熱量(ならびに可能性として化学療法剤および/または免疫療法剤の浸出)を送達できる、腫瘍床形状の埋植物を永久的に埋植した状態で、腫瘍切除時に手術創を閉創できることがある。患者は、皮膚を貫通している針またはカテーテルを伴わずに、手術後ほどなく帰宅できる。Cs-131など低エネルギーの線源は、最小限の予防措置を取れば、患者の家族にとって安全である。介在するポリマーが、放射線シードと組織との間に3~10 mmの隔離を提供することにより、線量分布は切除腔周囲のリスク組織全体にわたってはるかに均一になる。個別の放射線シードの代わりに放射流体が均一に混合されている場合、放射線線量測定値は埋植物の表面周囲でさらに均一になる。同様に、埋め込まれた強磁性シードに由来する温熱量も、シードが標的組織から3~10 mm離れていることにより、標準的な組織内加温技術よりはるかに均一になる。そして線量と同様に、温熱量の均一性も、ポリマー内に均一に分布した磁性ナノ粒子を用いることによって最大になる可能性がある。温熱は外部磁場からシードに誘導結合されるので、パワー供給源への外部接続を伴わずに熱処置を実現することができ、侵襲的な接続は必要ない。線量は埋植後約50日間にわたって緩徐に送達され、これにより、手術時に単回照射する場合または手術後に短い時間間隔で複数回の短時間照射をする場合より、全体的な線量を高くし、正常組織の合併症を少なくすることができる。均質性が向上し線量送達の期間が長くなることにより、頚動脈破裂、放射線骨壊死もしくは放射線軟骨壊死、創傷治癒合併症、瘻形成、脳神経の損傷、または、皮膚および皮下組織の壊死などを含む、重度の放射線関連副作用のリスクが低減する。さらに、熱処置を放射線と組み合わせることによるシナジー効果が、正常組織毒性の影響を最小にしながら、治療に対する全体的な反応を大幅に向上させると考えられる(57, 58)。
【0054】
埋植物周囲の組織を加温するための選択肢が検討され、埋植物全体に分布した小さな磁性粒子にエネルギーを結合する、外部から印加される約50~500 kHzの範囲の磁場によって、腫瘍床全体を加温することの実現可能性が確立された。組織深部における強磁性シードによる加温の理論的推定値は、100 kHzで強磁性シードによる加温を行った室内実験で確認されており(45, 48)、先行技術による組織加温用埋植物の1例を図2に示している。強磁性シード埋植物アレイを用いたその後の臨床使用では、深部に位置する腫瘍内に埋植された強磁性シード(72, 78)および磁性ナノ粒子(49, 50, 61, 62)の平行カテーテル埋植用構成に対し、温熱を誘導結合できることが確認されている。これら組織内シードアレイ埋植物の温度測定値(thermal dosimetry)(54)は、高温の強磁性シードと標的組織との間に物理的な隔離を提供する本発明のポリマー埋植物の理論的利点を明瞭に示している。本発明者らは、切除腔埋植物の周囲の腫瘍床組織を処置するための新規かつ独特なアプローチを説明する;その対象には、頭頚部、脳、肺、乳房、肝臓、結腸、および、そのような治療的処置が適しておりかつ従来技術より有効である他の臓器の腫瘍が含まれる。
【0055】
図4Aに、ポリマーコア22と、規則的に間隔が空いた放射線治療用シード23および温熱治療用シード26とを具備する、温熱小線源治療スラブのさらなる態様25を示す。シードとその上に横たわるポリマーの縁部との間に必要な間隔について適切な可視化を提供するため、図4Aに側面図を提供する。図4Bに示されているように、さらなるポリマーコーティングが含まれていてもよい。一貫性があり一様な治療線量が近傍の細胞にもたらされるよう、シード間には規則的かつ一貫性のある間隔が空けられる。
【0056】
図4Bに、ポリマーコア22内に埋め込まれた概ね平行な複数のシードストランド23と、不規則な形状をした切除腔内であっても、ポリマーコアの周辺部全体にわたって間隔が最も均等になる位置にシードを提供するため、必要に応じて平行シードストランド23に対し角度が付いたシード23Bとを有する、温熱小線源治療埋植物のさらなる態様28を提供する。ポリマーコア22全体にわたって間隔が均一になるよう、適切な数の平行シード23および角度付きシード23Bが、複数のストランドとして、ポリマーコア22内に埋め込まれる。同埋植物は、放射線およびフェロシードを切除腔壁から隔離する厚さ3~10 mmの均一な隔離を提供するポリマーコーティング層21をさらに具備する。
【0057】
本発明の1つの好ましい態様において、等しい間隔が空いた放射性シードのメッシュをフィットさせてもよい、生体適合性の吸収性埋植物が手術腔の内部で形成される;放射性シードは約40日間の期間にわたってシードの線量の95%を送達し、その後は線量率が緩徐に低下しつづける。加えて、この埋植物には、例えば図4Aおよび4Bのように、放射線の効果を高めるため外部磁場に結合されて熱処置を送達できる、等しい間隔が空いた強磁性シードのアレイが組み込まれる。熱処置は、週1~7回、1分間~24時間の持続時間にわたって行われてもよい;これらの時間はすべて端の数値を含む。好ましくは、処置は週1~2回で、処置時間は30分間~1時間である。処置後に組織を減圧することが治療上の利益となる腫瘍部位については、腫瘍床埋植物は、温熱放射線療法の線量送達後に数か月をかけて緩徐に吸収され、これによりその部位のかさが減り、そして残った線維性瘢痕の中に、不活性となった生体適合性のシードが永久的に不動の状態で残る。特定の態様において、ポリマーコア22およびコーティング21の各々が、臨床適応上の必要に応じて、吸収されてもよくまたは非吸収性であってもよい。
【0058】
図5Aに、ポリマーコア31内のフェロシード26を具備する温熱/化学/免疫療法用生体適合性ポリマー埋植物30を具備する、さらなる態様を提供する。この態様は、化学療法剤および免疫療法剤をポリマー構造中に混合させて含める機会を提供し、それらの薬剤は、ポリマー材料が吸収される際に埋植物周囲の標的組織中に緩徐に送達される。化学療法用または免疫療法用の材料は、ポリマーコーティング21もしくはポリマーコア31のいずれかの材料中に含浸されるか、または、スペーサー21およびコア31の両方に含浸されてもよい。温熱小線源治療/化学療法/免疫療法によるマルチモダリティ処置を実現するため、埋植物30は、前述の諸態様において示したように、任意で放射線治療用シードを具備していてもよい。放射線治療用シードが利用される態様において、薬剤のこの徐放は通常、温熱小線源治療の処置終了から遅れて生じ、ゆえに、放射線による毒性と化学療法による毒性とに適切な隔離を提供し、かつ一方で、両方の処置による治療的利益を同じマルチモダリティ腫瘍床埋植物で追加できる。
【0059】
図5B図5Aの1つのバリエーションを示しており、このバリエーションにおいて、ポリマースラブ埋植物35は、概ね平行な複数のシードストランド中に置かれたフェロシード26と、不規則な形状をした切除腔内であっても、ポリマーコア31の周辺部全体にわたって間隔が最も均一になる位置に温熱用シードを提供するため、必要に応じて平行シードストランドに対し角度を付けて配向されたシード26Bとを具備する。ポリマーコーティング層21は、フェロシードを切除腔壁から隔離する、厚さ3~10 mmの均一な隔離を提供する。この態様は、化学療法剤および免疫療法剤をポリマー構造中に混合させて含める機会を提供し、それらの薬剤は、ポリマー材料が吸収される際に埋植物周囲の標的組織中に緩徐に送達される。温熱小線源治療/化学療法/免疫療法によるマルチモダリティ処置を実現するため、埋植物35は、前述の諸態様において示したように、任意で放射線治療用シードを具備していてもよい。放射線治療用シードが利用される態様において、温熱小線源治療の処置終了から遅れて生じる薬剤のこの徐放は、放射線による毒性と化学療法による毒性とに適切な隔離を提供し、かつ一方で、両方の処置による治療的利益を同じマルチモダリティ腫瘍床埋植物で追加できると考えられる。
【0060】
図6に、あらかじめ形成された内部ポリマーコア13と、あらかじめ形成されたポリマーコア13の周囲に位置決めされたスペーサー12と、あらかじめ形成された内部コア13と切除腔縁部との間の空間を埋めるため切除腔内に注入される吸収性ポリマー11とを具備する、ポリマースラブ埋植物のさらなる態様10を示す。あらかじめ形成された内部コア13の中にシードストリングが位置決めされている。シードストリングは、あらかじめ形成されたコア13の周辺部の周りで均一に間隔が空いたフェロシードストリング14と、同様に、あらかじめ形成されたコア13の周辺部の周りで均一に間隔が空いた放射線治療用シードストリング15とを具備する。代替的に、個別のフェロシード14および放射線シード15が、コア13の周辺部の周りで均一に散在していてもよい。特定の態様において、約50日間にわたって線量を送達しながら体内に留まることが可能な材料であるという半減期特性により、Cs-131が好ましい放射線源である。吸収性ポリマー11はまた、内部コア13内の放射線シード15およびフェロシード14の上に横たわる均一な厚さのポリマー層を作るため、スペーサー12の周りも満たす。
【0061】
図7に、ポリマー埋植物40が温熱用シードまたは放射線治療用シードを含有しない、温熱化学療法用埋植物の1つのバリエーションを示す。代わりに、スラブ40は、磁性ナノ粒子を均一に含浸させたポリマー41を含有する。これらのナノ粒子は、温熱シードと同様、外部のパワー供給源で加温できる。この構成は、切除腔の領域に提供される外照射放射線治療を、熱伝導による周囲組織の加温と組み合わせることを可能にする。ポリマー41には、任意で、ポリマー材料が吸収される際に標的組織に緩徐に送達される化学療法用または免疫療法用の材料などの治療用材料がさらに含浸される。この吸収期間中に、切除腔埋植物の周囲のリスク組織における治療用剤の局所送達および活性化を高めるため、熱処置が週1~2回適用されてもよい。図7は、任意で追加されてもよい、ポリマー41を囲むさらなるポリマーコーティング42も示している。例えば、埋植物はポリマー41のみを含有するかまたはポリマーコーティング42とポリマー41との両方を含有していてもよく、その各々が、本明細書に説明されるように改変されてもよい。
【0062】
図8に、ポリマーコア41の周辺部の周りで均一に間隔が空いた放射線シード23を備えた、生体適合性の非吸収性多層ポリマー埋植物45を示す。磁性ナノ粒子と化学療法剤および/または免疫療法剤とがポリマー全体にわたって均一に混合されている、生体適合性吸収性ポリマーコーティングの第二の層42が、厚さ3-10 mmの吸収性ポリマー層として放射線シードを覆っている。この構成は、小線源治療を送達する40~50日間の間に、外部磁場との磁気結合によって切除腔壁を例えば1~10回加温することを可能にする。小線源治療の完了後、吸収性ポリマーの外層42は、化学療法剤を放出しながら時間をかけて緩徐に吸収される。熱処置は、組織のマルチモダリティ処置に最適となるよう、放射線処置の期間中に、そしてまた化学療法剤の放出期間中に、週1~2回で続いてもよい。この構成は、マルチモダリティ処置の終了後に切除腔周囲の領域のかさを減らし、かつ、すべての磁性材料を体内から排出させ、一方で、生体適合性ポリマーコア41が非吸収性である場合は、埋め込まれた放射線(RT)シード23とともにポリマーコア41のみを残す。代替的に、RTシード23が埋め込まれたポリマーコア41は、放射線処置の終了後に体内に吸収されて、減衰した放射線シードを切除腔の線維化瘢痕中に残してもよい。
【0063】
上述のいずれかの装置を用いる処置の方法は、装置を切除腔内に挿入する段階を含む。特定のニーズに応じて、装置はあらかじめ成形されてもよく、または、切除腔内でポリマーコアとして硬化する好適な流体で成形されてもよい。ポリマーコアの内部または周囲のいずれかに、放射線シードおよび磁性材料が追加される。任意で、切除腔縁部の細胞と放射線シードとの間に適切な空間を作り出すため、ポリマーコアの周りに液体ポリマーがさらに注入されてもよい。次に、磁性材料(フェロシードまたは磁性ナノ粒子)を加温するため、患者に対して外部から磁力が印加されてもよい。
【0064】
別の好ましい態様について、図9Aに切除腔55が示されている。マルチモダリティ処置装置50は、週1~2回の温熱療法処置を散在させた約50日間にわたる温熱小線源治療を行うため、厚壁ポリマーシェル51の内面51B内に放射線シード53と強磁性シード54とが均一な間隔で埋め込まれている、生体適合性の伸展可能な中空ポリマーシェル51を具備する。中空ポリマーシェル51はバルーンのように伸展可能であり、ゆえに、液体ポリマー、生理食塩水、または他の好適な材料で満たすことができる。液体ポリマーコア52もまた満たされてもよく、そしてそれ自体がポリマーシェル51を外向きに伸展させる。これは外壁51Aを切除腔55に押し付ける。ポリマーシェル51の断面の詳細を図9Bに示す。好ましい態様において、中空コア52は液体ポリマーで満たされて、切除腔55を満たすようポリマーシェル51を伸展させ、これに伴い外面51Bが切除腔壁の細胞に接触する。ポリマーシェル51の厚さ3~8 mmの壁は、放射線シード53およびフェロシード54を切除腔壁周囲の細胞から隔離する、適正な隔離距離を提供する。
【0065】
図10に示す代替的な構成において、装置60は、図9Bに示すように厚壁ポリマーシェル51の内面51B内に放射線シード53が均一な間隔で埋め込まれている、生体適合性の伸展可能な中空ポリマーシェル51で構成される。この構成において、内部は、きつく詰められた小さな強磁性の球体、粒子、または磁性ナノ粒子流体で構成されていてもよい磁性加温材料57で満たされる。厚壁ポリマーシェル51は、外科的留置の前に満たされるかまたは部分的に満たされてもよく、そして、針(またはカテーテル)59およびシリンジ58を介して追加の流体を注入することにより、切除腔を完全に満たすように体積が伸展されてもよい。ポリマーシェル51は、臨床用途に合うよう、非吸収性または吸収性の材料で調合されてもよい。代替的に、磁性加温材料がポリマーシェル51内に混合されて分布し、そして内部コア57が非磁性の流体またはポリマーで満たされてもよい。吸収性ポリマー埋植物に磁性ナノ粒子が用いられる場合、その小さなナノ粒子はポリマーシェルが組織中に吸収される際にその領域から散逸して体から排出されてもよく、一方、放射線シードは、しだいに虚脱する切除腔壁の瘢痕組織中に永久的に固定されて残る。処置後にすべての磁性ナノ粒子がその領域から排除されることは、将来、その領域の磁気共鳴撮影が行われた場合に画像アーチファクトを回避できるという利点を有する。さらに、ポリマーシェル51が磁性ナノ粒子などの磁性材料で満たされてもよく、そしてコア52または57がポリマーで満たされてもよい。このことは、コアを安価に伸展させてポリマーシェル51を外向きに押すことを可能にし、一方、高価な磁性材料は、組織標的に直接接触するポリマーシェルのより小さな体積を満たす。
【0066】
したがって、図9または図10に基づく装置を用いて癌性細胞を処置する方法は、腫瘍を切除し、その切除腔内にポリマーシェルを適用する段階を含む。外科医は次に、コアまたはポリマーコーティング51内のいずれかに流体を注入してもよい。流体または装置それ自体が、加温可能なフェロシードまたは磁性ナノ粒子を具備する。この流体注入は、ポリマーコーティング51が伸展して切除腔の縁部に接触することを可能にする。同方法は、切除腔縁部の細胞の温度を上昇させるため、エネルギー供給源を患者に適用してフェロシードまたは磁性ナノ粒子を加温する段階をさらに含む。
【0067】
図11に、磁性粒子82と均質に混合された放射性材料81を含有する粘性コロイド溶液で構成される、ポリマー埋植物の代替的な構成を示す;粘性コロイド溶液は、例えばシリンジ83などを通りそして針またはカテーテル87を通って体内に入り腫瘍切除腔84に直接注入されてもよく、または、図10に示すように腫瘍腔にフィットする伸展可能なポリマーシェル51の内部に送達されてもよい。粘性の液体ポリマーは、より高温である体温または時間硬化によって、腫瘍切除腔内への送達後に短時間で固形化する、1成分または2成分の混合物として調合されてもよい。埋植物のすべての構成のうち、腫瘍床を満たす、放射線粒子および/または磁性粒子が混合したこのコロイド溶液は、最も均一な温熱および放射線の線量測定値を切除腔壁の周りに提供すると考えられる。
【0068】
図12A~Bに、放射線源と加温源とが生体適合性の可撓性シース4を介して腫瘍切除腔内に送達される、代替的な構成を示す。患者の体外から皮膚の切開部を通り、切除腔内に埋植されたバルーンの先端まで伸びている、1つまたは複数の中心カテーテル2内に、高放射能の線源が挿入されてもよい。典型的に、1つまたは複数の内部カテーテル2に沿って、放射線源をあらかじめ計算されたステップで移動させて、コンピュータで計画した線量分布をバルーンと接触した全組織に送達するため、高線量率(HDR)の後装填用装置が用いられる。外部から印加される磁場との結合を介して周囲組織を均一に加温するため、バルーン7が磁性ナノ粒子で切除腔を満たすよう、バルーン7の内部は別の中心カテーテル3を通じて膨張される。バルーン内部のナノ粒子溶液の温度は、別の中心カテーテル1内の温度センサーでモニタリングされる。図12Bも、同様の温熱と放射線を切除腔壁に提供するが、外部バルーン壁のすぐ内側でかつ可撓性シースに沿ってカテーテル1Bに導入できる温度センサーが追加されている。いずれの構成も生体適合性ポリマーのカラー5を含み、カラーは、カラーを組織表面に係留しこれにより可撓性シャフト4を皮膚に固定するための縫合穴8を備える。
【0069】
図13に、生体適合性の可撓性シース4を通って表面ポートに接続した2つの同心性の薄壁バルーンを備えた、図12の生体適合性バルーン7の代替的な構成を示す。伸展可能な薄壁ポリマーバルーンは両方とも、カラー6によって、固定用可撓性シース4の先端と遠位端とに対し密封される。外側バルーン9は、外部ポートとカテーテル100とを通じて、磁性ナノ粒子と放射流体との均質な混合物110で満たされてもよく、一方、内側バルーン7は、バルーンを伸展させて腫瘍切除腔を満たすため、外部ポートとカテーテル3とを通じて無菌生理食塩水120で満たされる。典型的に、1つまたは複数の内部カテーテル2に沿って、放射線源をあらかじめ計算されたステップで移動させて、バルーンと接触した全組織に最も均一な線量を送達するため、高線量率(HDR)の後装填用装置が用いられる。磁性ナノ粒子は、放射線の送達中に外部磁場との結合によって1~10回加温されてもよく、この間、外側バルーン壁に接触するカテーテル1内に導入された温度プローブで外側バルーン表面の温度が測定される。生体適合性ポリマーのカラー5が、縫合穴8を通る縫合を用いて、可撓性シャフト4を皮膚に係留する。
【0070】
したがって、上述の材料は、腫瘍切除腔の周囲の細胞を処置するため、ヒトの患者において好適に利用できる。好ましい態様において、患者の癌性細胞を処置する方法は、上述のような治療用装置を切除腔に挿入する段階;および、処置対象の癌性細胞において治療的温熱に達するよう、あらかじめ定められた時間にわたって装置内の磁性材料の温度を高めるため外部磁場を印加する段階を含む。処置の有効性を高めるため、外部磁場は、1~100日間の処置期間の過程にわたって1~20回印加されてもよい。さらなる治療用剤が提供される場合、その治療用剤は、適切なタイミングで周囲組織中に放出される放出プロフィールを備えるように調合される。
【実施例0071】
材料、方法、および実施例:
上述の治療用装置の構成要素は、上述の仕様に合致する生体適合性ポリマー材料と、混合容器(2つの成分で送達される場合)と、挿入用装置(シリンジまたはポリマー送達用アプリケーター)と、手術室内で使用するための無菌包装とで構成される。1つの具体的態様において、本発明の製品には、IsoRay Medical(ワシントン州Richland)から入手可能なCs-131シードストリングなどの、規則的に間隔が空いた放射性シードのアレイが組み込まれ、そこに散在させたフェロシード(Best Medical International(バージニア州Springfield)から入手可能なものなど)とともに、ポリマー製品の内部または表面上に埋め込まれている。他の好適なアレンジメントとして、各Cs-131シードを中空ポリマーシェルの内部全体で等距離間隔にした構成も含まれる。Cs-131シードは、小線源治療に適した他の放射性同位体(例えばI-125、Pd-103など)で置換されてもよい。付属物として、腫瘍床埋植物からの線量分布を計算できるよう現在の放射線治療計画作成用ソフトウェアを置換するかまたは適合させるために別途購入されるソフトウェアも含まれうる。
【0072】
上述の製品選択肢について簡潔に説明したように、本発明のポリマー埋植物製品には、異なる腫瘍部位に対してマルチモダリティ処置を最適化する代替的な構成が多数存在する。温熱小線源治療の完了後にその領域を減圧すること、または、温熱小線源治療の後に化学療法剤もしくは免疫刺激剤を徐放する逐次的な処置を行うことのいずれかが有益となる腫瘍に対しては、異なるサイズの手術腔を満たすため、あらかじめ形成およびゲル化された吸収性ポリマーコアと平らな組織スペーサーとが、さまざまなサイズおよび厚さで事前に製造されてもよい。切除腔壁から適切な間隔を空けてシードを覆うため、手術時に、あらかじめ形成された固形コアおよび放射線シードの周りの切除腔内に、ゲル化していない適合する吸収性ポリマー材料が注入されてもよい。長期間のマルチモダリティ処置が有益となる場合は、放射線による毒性と薬剤処置による毒性とに幅を持たせてこれらを隔離するため、温熱小線源治療の終了後にポリマーが組織中に吸収される際に徐放される化学療法剤をポリマー中に混合してもよい。
【0073】
永久的な構造的支持および組織領域の術前形状の維持が有益となる腫瘍部位の場合、腫瘍床埋植物は、処置後に放射線シードおよびフェロシードを永久的に含有して組織中に安定化させて残す生体適合性非吸収性ポリマーで構成される。
【0074】
代替的な製品構成として、放射線シードおよび散在するフェロシードがシェルの内面に埋め込まれている、可撓性で伸展可能な厚壁ポリマーシェルがある。他の製品として、遠隔的に後装填される小線源治療用線源と、切除腔を満たすバルーン内に含有された磁性ナノ粒子溶液の温度をモニタリングするセンサーとを導入するため、組織表面まで伸び出ている内部カテーテルを備えた、薄壁の膨張可能バルーンのポリマーシェルがある。別の代替的構成は、切除腔を満たす薄壁バルーンの内部に放射性流体(例えばIotrexまたはCesitrex)および磁性ナノ粒子溶液の両方を注入するため組織表面の外部まで伸びたカテーテルを備えた、膨張可能バルーンで構成される。さらなる1つの代替物は、生理食塩水または液体ポリマーを含有するための内側バルーンと、磁性材料および/もしくは放射性流体ならびに/または化学療法剤を含有する同心性の外側バルーンという、2つの別個の膨張可能な薄壁バルーンを備えたポリマー埋植物である。これらの構成は上述および図3~13に詳しく説明している。
【0075】
望ましい1つの製品は、以下の特徴および選択肢を有する。製品は、腫瘍縮小手術後の切除腔内部にぴったりフィットする生体適合性の軟性ポリマー埋植物である。埋植物は、室温において高粘度の液体として始まり、より高い温度(体温)で固形化してもよく、または、混合後すみやかに固形化する2成分の配合物として供給されてもよい。切除腔のサイズおよび形状を事前に計画できる場合、あらかじめ製造された、必要なサイズに近い固形のポリマーコア埋植物が、切除腔内に挿入するため無菌包装で手術室(OR)に出荷されうるよう、「在庫」として利用可能であってもよい。一部の場合において、その標準サイズの埋植物は、温度硬化および/または時間硬化によって切除腔の形状どおりに固形化するよう追加の液体または高粘性ポリマーを切除腔内のコア周囲に注入することによる、カスタム化を要する可能性もある。一部の場合において、無菌の生体適合性の粘性液体ポリマーを、コアを伴わずに切除腔内に直接注入することが有益となる可能性もある。
【0076】
これらポリマー埋植物構成のいずれについても、標的組織周囲における線量の均一性を最大にするため、短半減期の放射性シード(例えばCs-131、Pd-103、I-125)が、埋植物周囲で均一の間隔を空けて、ポリマー表面下の固定された深さに埋め込まれる。小線源治療の効果を高めるため、放射線照射期間の間、そしてマルチモダリティ用ポリマー埋植物の吸収により化学療法剤が徐放されている間も、週1~7回、外部磁場に結合することによって、制御された加温を埋植物周囲の組織に行えるよう、望ましい処置温度において温度制御する、キュリー点を有する強磁性のシードまたは粒子が、均一に間隔が空けられかつ放射線シードの間に散在された状態でポリマーの表面下に埋め込まれる。
【0077】
代替的に、本発明の埋植物は、埋植物周囲のリスク組織における放射線量および温熱量の分布が最も均一となるよう、放射性流体および/または磁性ナノ粒子溶液で内部が満たされた中空ポリマーシェルで構成されていてもよい。熟練した外科医は、適切な埋植物を認識すること、ならびに、腫瘍を除去して切除腔を作製する段階、適切な特性を備えた装置を挿入する段階、および、埋植された装置周囲の組織に温熱を与えるため磁力を印加する段階を含む、必要な各段階を理解することができるであろう。
【0078】
本発明の装置の諸態様のバリエーションには、以下の選択肢が非限定的に含まれる。
【0079】
吸収性または非吸収性のポリマーコア。このコアはあらかじめ形成されてもよく、または、時間硬化もしくは温度硬化を介して硬くなる材料として注入されてもよい。コアは、均等に間隔が空いた複数の放射線シードおよび磁性シードを含有する。特定の態様において、放射線シードおよび/または強磁性シードは、放射性および/または磁性の特性を含むナノ粒子溶液で置換される。好ましくは、磁性材料は、適切な処置温度における温度制御を提供するキュリー点転移を有する。ポリマーは、その後ポリマーが吸収される際に近傍組織中に移される治療用または化学療法用の材料を、特に吸収性ポリマー中において、さらに具備していてもよい。
【0080】
ポリマーコアはポリマーコーティングをさらに具備していてもよい。このポリマーコーティングはあらかじめ形成されるかまたは特定の切除部位に注入されてもよく、その場合は、コーティング層注入前にポリマーコア周囲に特定のスペーサーを置く必要が生じる可能性もある。ポリマーコアと同様、ポリマーコーティングも吸収性または非吸収性であってもよく、そして、放射線治療用材料、温熱治療用材料、治療用材料、および化学療法用材料のうちいずれかを含有するかまたはいずれも含有しなくてもよい。ポリマーコアおよびポリマーコーティングは、適宜、切除腔を満たすよう弾性でありかつ伸展してもよく、または、可撓性であるが伸展はしなくてもよい。
【0081】
可撓性材料が利用される場合、それは、コアを囲む単一の可撓性シェルとみなされうる。可撓性シェルは次に、前述の例のようにポリマー材料、放射性材料、温熱材料、治療用剤、および化学療法剤で満たされてもよく、そして次に伸展して切除腔にフィットするよう満たされてもよい。
【0082】
特定の態様において、可撓性シェルそれ自体は中空で、内壁と外壁とを有し、内壁の内部にコアを作り出す。詳しく上述したように、内壁と外壁との間の空間それ自体が材料で満たされてもよい。
【0083】
諸態様の詳しい実施例を以下に提供する。
【0084】
一部の場合において、あらかじめ作製された吸収性の(または非吸収性の)ポリマー埋植物の内部コアを切除腔の形状に合わせることが困難な可能性もある。このことは、多くの腫瘍部位について、サイズの異なる多数の切除腔にフィットする、あらかじめ形成された複数の内部コアを手元に持つことによって解決できる可能性がある。ORトレイ上ですでに無菌状態になっている、あらかじめ形成された複数のコアから、適切なサイズのコアを選択した後、Cs-131シードおよびフェロシードのストリングを表面周囲にすみやかに巻き付けてもよい。次に、切除腔の中央にコアを位置決めしてもよく、このとき、コアの周囲に液体ゲルポリマーを注入して、切除腔を完全に満たすとともに、シードから切除腔壁までの間に必要な距離を提供する。
【0085】
多くの場合、オーバーコート用ポリマーが注入され、固形化してコア周囲で均一な厚さの層となる間、シードを巻き付けた内部コアを切除腔の中央部に良好に保持することは難しいと考えられる。ゆえに、同じポリマー材料を用いてあらかじめ形成した、無菌の断片の「スペーサー」を、望ましいオーバーコートの厚さであらかじめ製造しておいて、切除腔内の、シードを巻き付けた内部コアの周囲に挿入してもよい。そのようなスペーサーは、外側のポリマーコーティングが注入され固形化する間、コアから組織までの適正な隔離距離を確保して、切除腔の中央部に埋植物を保持できる。
【0086】
代替的に、埋植物の表面周囲および/または表面下にシードが均一に埋め込まれた状態で、さまざまなサイズの内部コアがあらかじめ作製されてもよい。このことは、術前に放射線の線量測定値を計画することを可能にする。コアが切除腔全体を満たさない場合は、患者体内への挿入前に、腫瘍床へのフィットが完全となるよう、より厚いポリマー材料の外部コーティング層が、シードを埋め込んだ内部コアに追加され、そして必要に応じて放射線の線量測定値が調整される。
【0087】
切除腔の正確なサイズを事前に計画することは、一部の場合において困難または不可能な可能性もある。しかし、高度な画像検査により、多くの場合、切除腔のおよそのサイズを事前に知ることができるであろう。適切な事前計画により、適切なサイズの腫瘍床埋植物を事前に発注し、そして、手術室内でコアをトリミングするかまたはポリマーの薄いオーバーコートを追加するかのいずれかにより、実際の切除腔にフィットするようサイズをカスタム化できると考えられる。事前評価が充分でなかった手術腔については、伸展可能ポリマーシェルの選択肢を用いて、液体ポリマー、磁性流体、および/または放射性流体でポリマーシェル内部を適切に満たすことにより、埋植物を実際の手術腔にカスタムフィットさせてもよい。
【0088】
強磁性シード(すなわち円柱形または球形)を散在させた永久的な放射線シード(Cs-131、I-125、またはPd-103)と組み合わせる、生体適合性吸収性ポリマー埋植物。以下の構成が含まれる。
【0089】
製造業者により事前に作られるもの――埋植物コアとして用いる吸収性ポリマー材料のスラブ――複数の標準サイズで注文可能。これを、永久的な放射線シードおよびフェロシードが1つの表面上で均一な間隔のメッシュとなっている、望ましい厚さ(例えば3~10 mm)でサイズの合った吸収性ポリマーのスラブで覆う。外科医は、手術室内で、標準サイズのコアを手術腔にフィットするようトリミングし、そして(体積の大きな埋植物については)コアの各側面につき1枚のシード含有層をはめ合わせることにより、適切な腫瘍床埋植物を組み立てる;図3を参照。最も単純なケースにおいて、外科医は、厚さ3~10 mmのポリマーのみのスラブ1つを、放射線シードと散在するフェロシードとのメッシュを合わせ面上に有する、サイズの合った厚さ3~10 mmのスラブ1つに接着して、切除腔内に埋植し、図5Aおよび図6に示すように、厚さ6~20 mmのポリマーサンドイッチの中央部にシードが埋まっている1つの平面を形成する。
【0090】
製造業者により事前に作られるもの――複数の標準的なサイズ/形状で注文可能なポリマー埋植物――永久的な放射線シードと散在する強磁性シードとが、表面下の一定の深さに埋め込まれ、表面周囲でも均一な間隔になっている;図4Bおよび図5B
【0091】
製造業者により事前に作られるもの――2~7日のリードタイムで注文され、カスタムサイズで利用可能なポリマー埋植物――永久的な放射線シードと散在する磁性材料とが、表面下の一定の深さに埋め込まれ、表面周囲でも均一な間隔になっている。図4Bおよび図5B
【0092】
製造業者により事前に作られるもの――切除腔にフィットするよう複数の標準サイズで利用可能なポリマーコア――強磁性の温熱療法シードを散在させた永久的RTシードのストリングを、OR内でカスタムで巻き付けて表面を均一に覆う――次に、吸収性ポリマーの最上層(約3~10 mm)でオーバーコーティングし、腫瘍床内に挿入する。図6
【0093】
製造業者により事前に作られるもの――切除腔の内部に緩くフィットさせるための、複数の標準サイズの埋植物コア――強磁性の温熱療法シードを散在させた永久的RTシードのストリングを、OR内でカスタムで巻き付けて表面を均一に覆う――次に、サイズ不足のそのコアを切除腔の中央部に保持するため、あらかじめ形成された吸収性ポリマーによる厚さ固定のスペーサーとともに切除腔内に埋植し、次に、粘性の液体吸収性ポリマーを埋植物コアの周りに注入して切除腔を満たす。図6を参照。ポリマーがゲル化して、放射線シードとフェロシードとが表面下3~10 mmの望ましい深さに埋め込まれ、ゆえにカスタム形状のポリマーコーティングによって切除腔壁から均一な間隔が空けられた、腫瘍床の形状をした固形埋植物が形成されたら、外科医は手術創を閉じる。
【0094】
本発明の構成には、以上に挙げた選択肢の各々が含まれるが、先述の各態様において、吸収性材料が非吸収性材料に代えられてもよい。事実、一部の場合において、温熱小線源治療の完了後に組織領域を減圧するため埋植物の外層として用いられる吸収性材料と、シードの移動を防ぐため体内に残る非吸収性の内部コア材料とを組み合わせることが、有益となる可能性もある。さらに、密集した磁性粒子によるアーチファクトを伴わずにその領域の処置後MR撮影を行うことを可能にするため、温熱小線源治療の完了後に数週間かけて磁性ナノ粒子が散逸しそして体外に排出されるよう、外側の吸収性ポリマー層が磁性ナノ粒子の均質な混合物を含んでいてもよい。
【0095】
製造業者により事前に作られ、複数の標準サイズで注文可能な、中空の中心部を囲む伸展可能ポリマーシェルを備えた生体適合性非吸収性ポリマー埋植物。このポリマー混合体は可撓性であり、そして、手術創を閉じる前にシェル内部に(針を介して)追加的な液体が注入されると伸展してサイズ拡大できる。このことは、切除腔を満たすまで、バルーンが膨張するようにポリマーシェルが少し伸展することを可能にする。構成には以下のものが含まれる:a)生理食塩水または液体ポリマーで満たされた中空中心部の周りの、厚さ3~7 mmの伸展可能ポリマーシェルの内壁内に埋め込まれた、強磁性シードを散在させた均一な間隔の永久的な放射線シード(Cs-131、Pd-103、I-125);b)磁性流体コアで満たされた中空中心部の周りの、厚さ3~7 mmのポリマーシェルの内壁内に埋め込まれた、均一な間隔の永久的な放射線シード;および、c)放射性流体と相互混合された磁性流体で満たされた中空中心部の周りの、厚さ3~7 mmの伸展可能ポリマーシェル。図9および図10を参照。
【0096】
外科医によって腫瘍切除腔内に注入されるよう、シリンジに入った無菌のゲル化していない形態で製造業者によって供給される、生体適合性ポリマー。このポリマーは、以下の複数の代替的調合物のうちの1つとして供給されると考えられる:a)吸収性のもしくは非吸収性の調合物;b)全体にわたり均質に混合された磁性ナノ粒子を含むポリマーであって、切除腔内に均一に位置決めされた1つもしくは複数の放射線シードもしくはシードストリングの周りに注入されるポリマー;c)均質に混合された磁性ナノ粒子と放射流体とを含む、切除腔内に直接注入するためのポリマー;d)吸収性ポリマー内で磁性ナノ粒子および/もしくは放射性材料と均一に混合された化学療法剤;e)吸収性ポリマー内で磁性ナノ粒子および/もしくは放射性材料ならびに/または化学療法剤と均一に混合された免疫療法剤;または、f)切除腔の中央部にすでに置かれた、サイズ不足のポリマーコアの外側の周りに注入される、上記調合物のいずれか(フィラー)。
【0097】
さらなる態様は、腫瘍または切除腔の周りまたは内部の望ましい作用部位に注入するかまたは3Dプリンティングするための放射性粒子および/または強磁性粒子を含有する、微視的なコロイド溶液またはナノ粒子に関する。注入可能材料の利点は、その材料内のRT材料およびHT材料の分布が小さくかつ均一であることである。このことにより、最終的な部位に対する材料の分布を非常に均一にすることができる。図11に示すように、材料は、任意のサイズもしくは形状の切除腔内、または、部分切除および現存腫瘍の近傍に直接注入されてもよい。
【0098】
図12Aおよび図12Bに示すような製品を含む使用または処置の方法は、バルーンカテーテル装置9を含む態様を提供する。バルーンカテーテルは、温度プローブ用カテーテル1と、RT線源用カテーテル2と、バルーン内に流体を挿入するための弁を備えたポート3と、可撓性の生体適合性シース(またはシャフト)4と、シース4を皮膚に固定するためのカラー5と、バルーンを可撓性シース4に対して密封するためのバルーンカラー6と、バルーン7と、皮膚表面に固定するためカラー5に設けられた縫合穴8とを具備する。可撓性シャフト4は、皮膚の外側から、腫瘍切除腔内に外科的に埋植された薄壁の伸展可能ポリマー「バルーン」まで伸びている、複数のカテーテルを含有する。したがって、切除腔壁に温熱と小線源治療処置とを同時または逐次的に適用するため、装置の挿入後、医師は1つのカテーテル3を利用して、磁性ナノ粒子と均質に混合された放射流体でバルーンを膨張させて切除腔を満たす。別のカテーテル1はバルーン内部の温度をモニタリングするために利用される。
【0099】
中心カテーテル2は、高放射能の放射線源をバルーン内部に挿入して、切除腔壁に対し時系列的(time sequenced)放射線処置を行うため、遠隔操作式後装填装置(remote afterloader)の接続を可能にする。したがって、コンピュータ制御されたプログラムが、切除腔の内壁の細胞に放射線を提供するためのパスに沿って、カテーテルのタイミングを制御する。これを、小線源治療処置とともに温熱を同時または逐次的に適用するため、均質に混合された磁性ナノ粒子溶液でバルーン7を膨張させて切除腔を満たすことと組み合わせてもよい。温度プローブの位置は図12A図12Bとで異なっており、バルーン内の流体の温度を測定する(12A)か、またはバルーンと標的組織との境界部の温度を測定する(12B)。
【0100】
したがって、好適な癌処置装置を提供できる本発明の装置には複数のバリエーションがあり、それらは、処置対象の癌の具体的状況、位置、および当業者に公知の他の要素に基づいて改変されてもよい。したがってこれらは、相乗的な複数の処置モダリティによる治療を提供する目的で患者体内に装置が埋植される、患者の癌を処置する方法において、さらに利用されてもよい。
【0101】
臨床適用
本明細書に説明される諸態様は、先行する特定の方法および態様の進歩から派生した。本発明の新しい処置アプローチが開発された背景として、適切な臨床適用の複数の例を、先行技術による処置方法および典型的な臨床結果とともに説明する;これらは、本明細書に説明する新しい治療用装置および方法の必要性を示している。
【0102】
喉頭癌はヒトのすべての癌の約3%を占める。そうした患者に対する最も一般的な処置は喉頭全摘出術であるが、これは精神的衝撃となりうる障害をもたらすことが避けられず、かつ腫瘍再発の可能性を排除できない。喉頭癌の処置は過去数十年で大きく進歩しているにもかかわらず(79)、90%超の5年生存率が高い信頼性で実現されうるのはT1およびT2の早期癌のみであり、中期および進行期の患者では5年生存率が60%未満である(80)。有望な新しいアプローチの1つは、手術時にそれ自体が腫瘍切除腔内に挿入される、患者特異的な生体適合性の埋植物内に置かれた放射線源から、高線量率の小線源治療を適用することである。先行する1つの方法では、患者が手術室にいる間にコンフォーマルな(conformal)線量を送達するため、後装填用カテーテルは、カテーテルを通じてスキャンされる高線量率(HDR)の放射線源について計算可能な位置を正確に提供するよう、カスタム形成された腫瘍床形状のシリコーン埋植物の中に置かれる(3, 81)。喉頭癌の術中放射線処置を行うため腫瘍床形状のシリコーン埋植物の内部に挿入された後装填用カテーテルからHDR小線源治療を送達するという、この方法の実現可能性は、文献に説明されている(81, 82)。しかし、後装填用カテーテルには、多くの状況においてその使用を限定する固有の限界が複数あるので、より均一な線量の放射線を標的組織に送達でき、かつ皮膚を通って出るカテーテルをできる限り伴わずにすむ、新しい治療法の開発が必要とされている。
【0103】
ロシアで行われた喉頭癌患者48名の予備試験では、喉頭部分切除術を、術中に形成された腫瘍床フィット式シリコーンゲル埋植物により高線量率小線源治療を順次的に切除腔壁に送達することと組み合わせる、腫瘍床埋植物による方法の臨床有望性が示されている(81, 82)。この手技により、切除される組織の体積を減らすことでき、ゆえに臓器機能を温存できる可能性も高くなった。小線源治療用埋植物を伴うこの臓器温存的手術の肯定的結果を、より進行した疾患にも広げるため、現在、接触温熱療法(高温表面の近傍にある組織の加温)を追加することが提唱されている(83)。
【0104】
神経膠腫は最も多く生じる脳腫瘍である。原発性脳腫瘍の約60%は、グレードIVの多形神経膠芽腫(GBM)を含む高グレードの神経膠腫であり、米国および世界でそれぞれ年間約10,000例および74,000例の新規症例がある。1つの処置アプローチは、カテーテルのアレイを経皮的にGBM内に埋植し、小線源治療処置を行うため放射性シード(例えばI-125)をカテーテル内に挿入する方法であり、さらに、小線源治療用シードを引き出した後に同じカテーテル内に挿入した小型の同軸マイクロ波アンテナを介して補助温熱療法が適用される場合とされない場合とがある。このアプローチは、補助温熱療法を伴う場合、小線源治療のみによるGBM処置と比較して、2年間の局所コントロールが15%から31%と2倍を超えて上昇するという、比較的良好な結果を示した(69-71)。組織内マイクロ波温熱療法の追加によって、小線源治療のみの場合と比べて結果が印象的に向上したが、毒性が限界に達し、GBMに関する全体的な長期生存率からは、より有効な処置アプローチを引き続き探索する必要性が示唆された。続いて、GBMを切除し、永久的なI-125シードを手術時に腫瘍床内に直接埋植し、そして全脳照射と組み合わせるという新しい手技が導入された。残念ながら、この手技は放射線毒性および直接接触式シードに起因する再手術率が高すぎる結果となり、生存率の向上も示されなかった(84)。永久的なI-125シード切除腔に埋植するというこのアプローチは、全脳照射を追加しない場合に、より良好な結果となったが(85)、これにより脳転移の率が上昇して、後に追加照射が必要となった。
【0105】
臨床アウトカムを向上させる取り組みにおいて、他の研究者らがマルチモダリティによる脳腫瘍処置を試みている。1つのプロトコルでは、BCNU含浸ウェハーによる化学療法がI-125放射線シードに追加され、切除腔の内部全体に置かれたが、これも、直接接触式の放射線シードおよび同時に放出される抗癌剤による毒性が強すぎる結果となった(25)。対照的に、他の研究者らは、化学療法の放出制御を行うため、生分解性ポリマー埋植物にカルムスチン(86)、ギリアデル(26)、またはシクロフォスファミド(87)を含浸させ、それらを脳腫瘍の切除腔内に埋植した。これら後発の組織内化学療法アプローチでは、不均一な線量分布に起因する毒性はなく、初期の結果は有望であるが、それでもなお改善の余地は多い。
【0106】
より近年では、別の短半減期の放射性材料(Cs-131)について、永久的に埋植可能な治療用剤としての安全性および有効性が研究された。1つのプロトコルでは、シードストランド状のCs-131シードを脳転移の切除腔内に直接埋植する研究が行われ、有望な初期結果が得られている(88)。
【0107】
個々のシードまたはシードストランド周囲の線量のピークおよび谷を滑らかにする取り組みにおける別のアプローチとして、皮膚表面のポートを介してI-125またはCs-131をベースとする放射性流体(例えばIotrexまたはCesitrex)で満たしたバルーンを切除腔内に埋植することが行われた。この場合は、切除腔壁全体にわたるより均一な線量が可能となり、そして、全脳照射を伴わずにバルーンが用いられた場合に有望な初期結果が得られた(89)。
【0108】
補助温熱療法
埋植されたマイクロ波アンテナ、管状超音波放射体、高周波電極、または、小径の高温針もしくはカテーテルのアレイ内部における熱伝導の再配分を介して、組織内温熱療法が組織領域に送達されてもよい(40)。1つを除くすべての組織内加温アプローチにおいて、パワーの印加および熱処置のモニタリング/制御を行うため、患者の体外からつながるワイヤ、針、カテーテル、または他の接続を必要とする。外部磁場に結合した「熱源」による独特の技法が、組織内小線源治療に対する補助療法として、数十年にわたって研究されている(40, 42, 45, 51, 78, 90-93)。そのアプローチの進化の中で、腫瘍床シリコーン埋植物からの腔内小線源治療と組み合わせた組織の加温法として、「腔内接触温熱療法」が提唱されている(83)。このアプローチは、組織内カテーテルアレイ埋植物内の、ピークと谷とを伴う加温で実現できるよりも均一な加温を、周囲の腫瘍床内にもたらせるよう、切除腔を満たす大直径の熱源から熱伝導式の加温を行う段階で構成される。先行する実現可能性研究において、シリコーンと、高周波磁場中に置かれたときに渦電流損によって発熱する、重量比約40%の球形の強磁性ボールとの混合物で、埋植物を形成することが提案された(82, 83, 94)。
【0109】
本発明の好ましい態様は、これら従来の概念に基づくものと異なる。腫瘍床への放射線送達を、シリコーン埋植物に埋め込まれた、限られた数の後装填用カテーテル内の放射線シードの位置からの送達に制限する代わりに、本発明の好ましい態様では、放射線源を装置の周囲および表面下に均一に分散させることによって、放射線の線量測定値を大幅に向上させる。計算された距離のポリマーによって組織を放射性シードから離すこの隔離によって、周囲の腫瘍床における線量勾配が大幅に低下する。本発明の好ましい態様は、加温される大直径の切除腔埋植物の表面から行う接触式温熱療法を追加することによって、小線源治療処置をさらに向上させる。切除腔埋植物への望ましくない経皮的接続がすべて回避される本発明の1つの構成において、以下の特徴が組み合わされる。
i)埋植物内に含有され、約50日間にわたってその線量を緩徐に送達しながら組織内に留まる、永久的に埋植されたCs-131などの短半減期の放射性シードから、小線源治療を提供する;
ii)表面下の固定された距離に均一に分布した強磁性シードか、または磁性材料(例えば、球体、円柱体、磁性ナノ粒子、もしくは磁性流体)のいずれかで埋植物を満たし、そして、外部から印加された磁場によって磁性材料にエネルギーを結合することによって、切除腔表面にほぼ均一な温度を提供する;ならびに
iii)約45~50℃で温度自己制御するキュリー温度を備えた磁性材料を用いることにより、埋植物へのパワー接続および温度プローブ接続がすべてなくなり、したがって、手術後に温熱療法セッションを繰り返し行うことができる。
【0110】
熱伝導をベースとするこのタイプの温熱療法は、文献に報告されている、強磁性の温熱シードによる温熱療法処置と似ているが(27, 45, 48, 72, 78)、腫瘍体積全体ではなく腫瘍切除腔周囲のリスク組織の細い周縁部のみを加温することを目的とする点が異なる。処置を腫瘍床のリスク組織のみに正確に局在化させることは、手術中に形成される埋植物を用いて小線源治療および接触式温熱療法の両方を送達することによって実現できる。
【0111】
従来の高密度針アレイ埋植物の使用を制限していた問題の1つは、小径の熱源の表面付近の温度勾配が大きく、このことが、熱源に隣接する組織を過熱させ、一方でより遠い組織が充分に加温されない一因となっていた。前述のように、埋植物の表面付近の温度勾配は半径に反比例する。すなわち、切除腔を満たす半径1 cmの大きな埋植物は、過去の臨床研究で用いられた半径1 mmの小さな温熱シードと比べて、周囲組織中にもたらす温度勾配が約10分の1であると考えられる(46, 72)。ゆえに、磁性材料が装填された腫瘍床埋植物の周囲の加温は、以前の臨床試験における複数カテーテル式の強磁性シード埋植物アレイで見られた、極端な温度のピークおよび谷に比べて、均一性が大幅に向上していると考えられる(45, 48, 54)。
【0112】
したがって、治療的な温度範囲内の適切なキュリー点温度を有する磁性材料が用いられる。温度自己制御するキュリー点材料の加温特性が確立されれば、侵襲的な温度モニタリングプローブまたはパワー接続を伴わない、磁性の腫瘍床埋植物による完全に非侵襲的な熱処置が可能となる(55)。望ましいキュリー点温度を有する材料を適切に選択することにより、望ましい処置温度が材料それ自体によって制御され、埋植物の温度を外部からモニタリングまたは制御する必要はない。
【0113】
参考文献
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2022-12-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合性の伸展可能なバルーン;
該生体適合性の伸展可能なバルーンに挿入可能な磁性材料および
1つまたは複数のカテーテルであって、該1つまたは複数のカテーテルは、患者の体外から該生体適合性の伸展可能なバルーンの内部まで伸びており、該1つまたは複数のカテーテルのうちの少なくとも1つが、該生体適合性の伸展可能なバルーンの内部への放射線源の挿入のための遠隔操作式後装填装置との結合のために適合および構成されている、カテーテル
含む、マルチモダリティ処置システムであって、
該システムは、該バルーン周囲の外部磁場を印加するように適合された、非接触型の外部誘導コイルをさらに含むことを特徴とし、
該磁場は、
該生体適合性の伸展可能なバルーンの内部にある該磁性材料と誘導結合することにより該磁性材料を加温し、かつ、
50kHz~500kHzの範囲の周波数を有する、
前記システム。
【請求項2】
前記磁性材料は、磁性ナノ粒子、磁性パウダー、磁性流体、およびフェロシードからなる群から選択される1つまたは複数を含む、請求項1に記載のマルチモダリティ処置システム。
【請求項3】
前記磁性材料は、40~100℃の範囲内の温度でキュリー点転移を生じるキュリー点自己制御材料である、請求項1に記載のマルチモダリティ処置システム。
【請求項4】
磁性材料の温度をモニタリングするために位置決めおよび構成された1つまたは複数の温度センサーをさらに含む、請求項1に記載のマルチモダリティ処置システム。
【請求項5】
生体適合性シースと、
該生体適合性シースの外側にあり、かつ、組織表面への固定のために適合および構成されている、カラーと
をさらに含み、
前記1つまたは複数のカテーテルは、該生体適合性シース内に位置決めされる、
請求項1に記載のマルチモダリティ処置システム。
【請求項6】
前記1つまたは複数のカテーテルのうちの少なくとも1つに結合された、遠隔操作式後装填装置をさらに含み、該遠隔操作式後装填装置は、前記バルーンの内部へ放射線源を挿入するようにプログラムされている、
請求項1に記載のマルチモダリティ処置システム。
【請求項7】
前記生体適合性の伸展可能なバルーン内の伸展可能な内部バルーンをさらに含む、請求項1に記載のマルチモダリティ処置システム。
【請求項8】
伸展可能な内部バルーン内の挿入のための生理食塩水または液状ポリマーをさらに含む、請求項7に記載のマルチモダリティ処置システム。