(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131305
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】無線機、無線システム及び無線方法
(51)【国際特許分類】
H04B 1/10 20060101AFI20230914BHJP
H04L 27/00 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
H04B1/10 L
H04L27/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035973
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100093104
【弁理士】
【氏名又は名称】船津 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】武井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】内藤 昌志
【テーマコード(参考)】
5K052
【Fターム(参考)】
5K052BB02
5K052DD04
5K052EE11
5K052FF32
5K052GG12
5K052GG19
5K052GG41
(57)【要約】
【課題】 干渉波のキャンセルを高速に収束させることができる無線機、無線システム及び無線方法を提供する。
【解決手段】 干渉波をチャンネル毎にキャンセルする干渉波キャンセラ信号cを干渉波キャンセラ10で生成し、無線信号bと干渉波キャンセラ信号cとを第2のCPL6で合成して干渉波を除去する際に、第2のAGC20で希望波の受信電力を一定に保つよう利得が制御された残留信号eを用いて干渉波キャンセラ10で生成される干渉波キャンセラ信号を更新する無線機である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多チャンネルの無線信号から干渉波を除去する無線機であって、
受信した無線信号に、干渉波をチャンネル毎にキャンセルする干渉波キャンセラ信号を合成して前記干渉波を除去する際に、希望波の受信電力を一定に保つよう利得が制御された残留信号を用いて前記干渉波キャンセラ信号を更新することを特徴とする無線機。
【請求項2】
前記希望波の受信電力を一定に保つよう残留信号の利得を制御するAGC回路を備え、
前記AGC回路は、前記残留信号から前記希望波を検出する希望波検出部と、前記検出された希望波から平均電力値を算出する算出部と、前記残留信号に前記平均電力値の逆数を乗算する乗算器とを有することを特徴とする請求項1記載の無線機。
【請求項3】
請求項1又は2記載の無線機を有することを特徴とする無線システム。
【請求項4】
多チャンネルの無線信号から干渉波を除去する無線方法であって、
受信した無線信号から、干渉波をチャンネル毎にキャンセルする干渉波キャンセラ信号を生成し、前記無線信号に前記干渉波キャンセラ信号を合成して残留信号を取得し、前記無線信号における希望波の受信電力を一定に保つよう前記残留信号の利得を制御し、当該利得が制御された残留信号を用いて前記干渉波キャンセラ信号を更新することを特徴とする無線方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多チャンネルの無線信号で通信を行う無線機に係り、特に、多チャンネルの干渉波を除去する無線機、無線システム及び無線方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[従来の技術]
従来の無線システムにおいて、無線機の受信処理で、受信電力低下を防止するために受信電力を一定に補正する自動利得制御(AGC:Automatic Gain Control)回路が用いられている。
また、無線システムにおいて、複数のチャンネルを使用して通信を行うものがあり、その場合に、複数のチャンネル毎に干渉波をキャンセルする処理が為されている。
【0003】
[従来の無線機:
図3]
従来の無線システムで用いられる無線機について
図3を参照しながら説明する。
図3は、従来の無線機の構成概略図である。
従来の無線機は、
図3に示すように、アンテナ1と、第1のカプラ(CPL)2と、アナログ/デジタル変換器(A/D)3と、干渉波検出部4と、遅延部5と、第2のカプラ(CPL)6と、デジタル/アナログ変換器(D/A)7と、第1の自動利得制御回路(AGC)8と、アナログ/デジタル変換器(A/D)9と、干渉波キャンセラ10と、復調部30とを基本的に有している。
尚、干渉波キャンセラ10は、複数のチャンネル毎に設けられ、D/A7へは各干渉波キャンセラ10からの出力を統合して入力する。
【0004】
従来の無線機は、アンテナ1で受信した信号bから干渉波検出部4で干渉波信号aを検出し、干渉波キャンセラ10で干渉波をキャンセルするキャンセル信号(キャンセラ信号)cを生成し、第2のCPL6で受信した信号と合成し、残留信号dを第1のAGC8に出力する。
ここで、残留信号dには、干渉波をキャンセルしてはいるものの、干渉波が残留しており、希望波と干渉波が含まれている。
尚、干渉波キャンセラ10の構成及び動作は後述する。
【0005】
そして、第1のAGC8は、A/D9のダイナミックレンジを確保するために残留信号(希望波と干渉波)の変化に追従するように利得を制御する。
利得制御された残留信号eを干渉波キャンセラ10に入力し、その残留信号eを基に干渉波をキャンセルするキャンセル信号cを更新して、D/A7を介して第2のCPL6での合成を行う。
更新した干渉波キャンセル信号cと受信信号の合成を繰り返し、キャンセラを収束させ、受信信号から干渉波を除去し、干渉波が除去された信号を復調部30で復調する。
【0006】
[従来の干渉波キャンセラ:
図4]
従来の干渉波キャンセラ10について
図4を参照しながら説明する。
図4は、従来の干渉波キャンセラの構成概略図である。
従来の干渉波キャンセラ10は、
図4に示すように、直交検波器(Q-DET)11,12と、遅延調整部13と、ウェイト更新部14と、適応フィルタ15と、直交変調器(Q-MOD)16とを備えている。
【0007】
Q-DET11は、干渉波検出部4からの干渉波信号(干渉波の周波数)aとA/D3からのデジタル変換された受信信号bとを入力して直交検波を行い、直交検波の信号を適応フィルタ15と遅延調整部13に出力する。
遅延調整部13は、遅延部5、第2のCPL6、第1のAGC8、A/D9での信号の遅延に合わせて、Q-DET11からの直交検波の信号を遅延させる。
【0008】
Q-DET12は、A/D9からのデジタル変換された残留信号eと干渉波検出部4からの干渉波信号aとを入力して直交検波を行い、直交検波の信号をウェイト更新部14に出力する。
ウェイト更新部14は、遅延調整部13からの直交検波の信号を、A/D9からの残留信号eの直交検波の信号に一致させるよう適応フィルタ15のフィルタのウェイト値を更新する。
【0009】
適応フィルタ15は、有限時間のインパルス応答をもつデジタルフィルタであるFIR(Finite Impulse Response)フィルタであり、ウェイト更新部14から設定されるウェイト値により、干渉波をキャンセルする(打ち消す)ための直交検波の信号を生成する。
Q-MOD16は、適応フィルタ15からの直交検波の信号を直交変調して干渉波キャンセル信号cとしてD/A7に出力する。
以上の干渉波キャンセラ10の構成及び動作により、干渉波をキャンセルする干渉波キャンセル信号cが生成される。
【0010】
[関連技術]
尚、関連する先行技術として、特開平11-195941号公報「AGC回路」(特許文献1)がある。
特許文献1には、希望波電力と妨害波電力を求め、妨害波電力に追従することなく希望波電力の変動に追従する利得制御を行う可変利得増幅器を有するAGC回路が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来のAGC回路を有する無線機では、多チャンネルの干渉波をキャンセルする場合に、収束が進むにつれて干渉波キャンセラでの収束時間が遅くなるという問題点があった。
【0013】
具体的には、希望波に対して干渉波が大きいため、キャンセルの収束が進むと、キャンセル後の残留信号(希望波と干渉波)のうち、干渉波が急激に減衰して小さくなる。その結果、残留信号における希望波と干渉波との差が小さくなり、その差だけに基づいて適応フィルタを調整すると収束時間が長くなってしまうという問題点がある。
【0014】
尚、特許文献1には、干渉波を除去する際に、希望波の受信電力を一定に保つよう利得が制御された残留信号を用いて干渉波キャンセラ信号を生成する構成についての記載がない。
【0015】
本発明は上記実状に鑑みて為されたもので、干渉波のキャンセルを高速に収束させることができる無線機、無線システム及び無線方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、多チャンネルの無線信号から干渉波を除去する無線機であって、受信した無線信号に、干渉波をチャンネル毎にキャンセルする干渉波キャンセラ信号を合成して干渉波を除去する際に、希望波の受信電力を一定に保つよう利得が制御された残留信号を用いて干渉波キャンセラ信号を更新することを特徴とする。
【0017】
本発明は、上記無線機において、希望波の受信電力を一定に保つよう残留信号の利得を制御するAGC回路を備え、AGC回路が、残留信号から希望波を検出する希望波検出部と、検出された希望波から平均電力値を算出する算出部と、残留信号に平均電力値の逆数を乗算する乗算器とを有することを特徴とする。
【0018】
本発明は、無線システムであって、上記無線機を有することを特徴とする。
【0019】
本発明は、多チャンネルの無線信号から干渉波を除去する無線方法であって、受信した無線信号から、干渉波をチャンネル毎にキャンセルする干渉波キャンセラ信号を生成し、無線信号に干渉波キャンセラ信号を合成して残留信号を取得し、無線信号における希望波の受信電力を一定に保つよう残留信号の利得を制御し、当該利得が制御された残留信号を用いて干渉波キャンセラ信号を更新することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、多チャンネルの無線信号から干渉波を除去する無線機であって、受信した無線信号に、干渉波をチャンネル毎にキャンセルする干渉波キャンセラ信号を合成して干渉波を除去する際に、希望波の受信電力を一定に保つよう利得が制御された残留信号を用いて干渉波キャンセラ信号を更新する無線機としているので、希望波の受信電力を一定に保持するよう利得制御された残留信号を基準に干渉波をキャンセルするため、干渉波のレベルを適正化でき、干渉波のキャンセルを高速に収束させることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図4】従来の干渉波キャンセラの構成概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態に係る無線機(本無線機)は、多チャンネルの無線信号から干渉波を除去する無線機であって、受信した無線信号に、干渉波をチャンネル毎にキャンセルする干渉波キャンセラ信号を合成して干渉波を除去する際に、希望波の受信電力を一定に保つよう利得が制御された残留信号を用いて干渉波キャンセラ信号を更新するものであり、希望波の受信電力を一定に保持するよう利得制御された残留信号を基準にして干渉波をキャンセルするため、干渉波のレベルを適正化でき、干渉波のキャンセルを高速に収束させることができるものである。
【0023】
また、本発明の実施の形態に係る無線システム(本システム)は、上記本無線機を複数備えるものであり、干渉波のキャンセルを高速に収束させ、安定した通信を実現できるものである。
【0024】
[本無線機:
図1]
本無線機について
図1を参照しながら説明する。
図1は、本無線機の構成概略図である。
本無線機は、
図1に示すように、アンテナ1と、第1のカプラ(CPL)2と、アナログ/デジタル変換器(A/D)3と、干渉波検出部4と、遅延部5と、第2のカプラ(CPL)6と、デジタル/アナログ変換器(D/A)7と、第1の自動利得制御回路(AGC)8と、アナログ/デジタル変換器(A/D)9と、干渉波キャンセラ10と、第2の自動利得制御回路(AGC)20と、復調部30とを基本的に有している。
尚、従来と同様に、干渉波キャンセラ10は、複数のチャンネル毎に設けられ、D/A7へは各干渉波キャンセラ10からの出力を統合して入力する。
【0025】
[各部]
本無線機の各部について具体的に説明する。
アンテナ1は、多チャンネルの無線信号を受信する。
第1のCPL2は、アンテナ1で受信した信号をA/D3と遅延部5に分配する。
A/D3は、第1のCPL2からの信号をアナログからデジタルに変換して干渉波検出部4に出力する。また、A/D3でデジタル変換された信号bは、分岐されて干渉波キャンセラ10にも出力される。
【0026】
干渉波検出部4は、A/D3からのデジタル信号bから干渉波(U波)を検出し、干渉波信号(干渉波周波数)aを干渉波キャンセラ10に出力する。
遅延部5は、第1のCPL3からのアナログ信号を、干渉波キャンセラ10での干渉波のキャンセル処理に要する時間分遅延させ、第2のCPL6に出力する。
【0027】
第2のCPL6は、遅延部5からのアナログ信号とD/A7からの干渉波キャンセラ信号(キャンセル信号)cを合成し、キャンセル後の残留信号dを第1のAGC8に出力する。
D/A7は、干渉波キャンセラ10からの干渉波キャンセラ信号cをデジタルからアナログに変換して第2のCPL6に出力する。
【0028】
第1のAGC8は、第2のCPL6からのキャンセル後の残留信号(希望波と干渉波)について、A/D9のダイナミックレンジを確保するために残留信号の変化に追従するように利得を制御し、A/D9に出力する。
A/D9は、第1のAGC8からの自動利得制御された残留信号をアナログからデジタルに変換して第2のAGC20に出力する。
【0029】
干渉波キャンセラ10は、
図4で説明したように、干渉波検出部4で検出された干渉波に対して第2のAGC20からの希望波の受信電力を一定に保持するよう利得制御された残留信号dを基準に干渉波をキャンセルする干渉波キャンセラ信号cを生成してD/A7に出力するものである。
【0030】
第2のAGC20は、A/D9からの残留信号dについて、希望波の受信電力が一定となるよう自動利得制御し、利得制御された残留信号eを干渉波キャンセラ10と復調部30に出力する。
復調部30は、第2のAGC20で利得制御された残留信号eを復調処理する。
【0031】
つまり、第2のAGC20によって、希望波の受信電力が一定となるよう利得制御された残留信号には、干渉波が含まれており、キャンセル処理により急速に減衰した残留信号の干渉波を、希望波の一定の受信電力を基に適正なレベルにすることができる。
これは、第2のAGC20で、希望波の受信電力を一定にして、それを基準に干渉波のレベルを適正化するよう変更(更新)して、キャンセル処理を行うものである。
【0032】
[第2のAGC20:
図2]
次に、第2のAGC20について
図2を参照しながら説明する。
図2は、第2のAGCの構成概略図である。
第2のAGC20は、
図2に示すように、希望波検出部21と、希望波平均電力算出部22と、乗算器23とを備えている。
【0033】
希望波検出部21は、A/D9からのデジタル変換された残留信号を入力し、予め特定チャンネルで認識されている周波数の希望波(D波)を検出し、希望波平均電力算出部22に出力する。
希望波平均電力算出部22は、希望波検出部21で検出された希望波(D波)を入力し、希望波の平均電力値(Dp)を算出し、乗算器23に出力する。
【0034】
乗算器23は、A/D9からのデジタル変換された残留信号に、希望波平均電力算出部22からの平均電力値(Dp)の逆数を乗算し、希望波について利得制御された残留信号eを干渉波キャンセラ10と復調部30に出力する。
【0035】
[動作]
次に、本無線機の動作について説明する。
本無線機は、アンテナ1で受信した信号bから干渉波検出部4で干渉波信号aを検出し、干渉波キャンセラ10で干渉波をキャンセルするキャンセラ信号cを生成し、第2のCPL6で受信した信号と合成し、残留信号dを第1のAGC8に出力する。
【0036】
そして、第1のAGC8は、A/D9のダイナミックレンジを確保するために残留信号(希望波と干渉波)の変化に追従するように利得を制御する。
利得制御された残留信号eをA/D変換後に第2のAGC20で希望波の受信電力が一定となるよう利得制御して、利得制御された残留信号eを干渉波キャンセラ10に入力し、その残留信号eを基に干渉波をキャンセルするキャンセラ信号cを更新して、D/A7を介して第2のCPL6での合成を行う。
更新した干渉波キャンセラ信号cと受信信号の合成を繰り返し、キャンセラを収束させ、受信信号から干渉波を除去し、干渉波が除去された信号を復調部30で復調する。
【0037】
また、本システムでは、本無線機を複数備えることで、各無線機における干渉波のキャンセルを高速に収束させ、安定した通信を実現できる効果がある。
【0038】
[実施の形態の効果]
本無線機によれば、多チャンネルの無線信号から干渉波を除去する無線機であって、受信した無線信号bに、干渉波をチャンネル毎にキャンセルする干渉波キャンセラ信号cを干渉波キャンセラ10で生成し、無線信号bと干渉波キャンセラ信号cとを第2のCPL6で合成して干渉波を除去する際に、第2のAGC20で希望波の受信電力を一定に保つよう利得が制御された残留信号eを用いて干渉波キャンセラ信号を更新する無線機としているので、希望波の受信電力を一定に保持するよう利得制御された残留信号eを基準にして干渉波をキャンセルするため、干渉波のレベルを適正化でき、干渉波のキャンセルを高速に収束させることができる効果がある。
【0039】
また、本システムによれば、本無線機を複数備えるようにしているので、各無線機における干渉波のキャンセルを高速に収束させ、安定した通信を実現できる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、干渉波のキャンセルを高速に収束させることができる無線機、無線システム及び無線方法に好適である。
【符号の説明】
【0041】
1…アンテナ、 2…第1のカプラ(CPL)、 3…アナログ/デジタル変換器(A/D)、 4…干渉波検出部、 5…遅延部、 6…第2のカプラ(CPL)、 7…デジタル/アナログ変換器(D/A)、 8…第1の自動利得制御回路(AGC)、 9…アナログ/デジタル変換器(A/D)、 10…干渉波キャンセラ、 11,12…直交検波器(Q-DET)、 13…遅延調整部、 14…ウェイト更新部、 15…適応フィルタ、 16…直交変調器(Q-MOD)、 20…第2の自動利得制御回路(AGC)、 21…希望波検出部、 22…希望波平均電力算出部、 23…乗算器、 30…復調部