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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131320
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/18 20210101AFI20230914BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
H01S5/18
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036004
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】大手 希望
(72)【発明者】
【氏名】黒坂 剛孝
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 和義
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 優
(72)【発明者】
【氏名】杉山 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】上野山 聡
【テーマコード(参考)】
2H149
5F173
【Fターム(参考)】
2H149AA00
2H149DA04
5F173AB53
5F173AB90
5F173AF33
5F173AK21
5F173AL04
5F173AL13
5F173AR52
(57)【要約】      (修正有)
【課題】出力される光像を動的に変化させることが可能な半導体発光素子を提供する。
【解決手段】半導体発光素子1は、半導体積層20と、電極16と、電極17とを備える。半導体積層20は、活性層12及び位相変調層15を含む。位相変調層15は、複数の位相変調領域151を有する。各位相変調領域151は、第1屈折率を有する基本領域15aと、第1屈折率とは異なる第2屈折率を有し二次元状に分布する複数の異屈折率領域15bとを含む。電極16は、半導体積層20の積層方向から見て複数の位相変調領域151とそれぞれ重なる複数の電極部分161を含む。複数の電極部分161は互いに電気的に分離している。複数の位相変調領域151それぞれにおいて共振したレーザ光Lは、共通の照射領域に、複数の異屈折率領域15bの配置に応じた光像となって照射される。複数の位相変調領域151それぞれから出力される光像は互いに位相同期している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と第2面との間に活性層及び位相変調層を含む積層構造を有し、前記位相変調層が、前記位相変調層の厚さ方向と垂直な仮想平面に沿って並び互いに光学的に結合された複数の位相変調領域を有し、前記複数の位相変調領域それぞれが、第1屈折率を有する基本領域と、前記基本領域内に設けられるとともに前記第1屈折率とは異なる第2屈折率を有し前記仮想平面に沿って二次元状に分布する複数の異屈折率領域とを含む半導体積層と、
前記半導体積層の前記第1面と対向する第1電極と、
前記半導体積層の前記第2面と対向する第2電極と、
を備え、
前記第1電極及び前記第2電極の一方または双方が、前記半導体積層の積層方向から見て前記複数の位相変調領域とそれぞれ重なる複数の電極部分を含み、前記複数の電極部分が互いに電気的に分離しており、
前記活性層から出力された光は、前記位相変調層の前記複数の位相変調領域それぞれにおいて前記仮想平面に沿って共振し、前記複数の位相変調領域それぞれから、前記半導体積層の前記第1面及び前記第2面の双方と交差する方向に位置する共通の照射領域に、前記複数の異屈折率領域の配置に応じた光像となって照射され、
前記複数の位相変調領域それぞれから出力される前記光像は互いに位相同期している、半導体発光素子。
【請求項2】
前記複数の位相変調領域それぞれから出力される前記光像の光強度分布は、少なくとも一方向における周期又は位相が、少なくとも2つの前記位相変調領域において互いに異なる正弦波状の分布を含む、請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記複数の位相変調領域それぞれから出力される前記光像の光強度分布は、互いに直交する二方向における周期又は位相が、少なくとも2つの前記位相変調領域において互いに異なる正弦波状の分布を含む、請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記仮想平面に沿った仮想的な正方格子を設定し、前記正方格子を構成する複数の格子点に対し、対応する格子点を通り前記正方格子に対して互いに同一角度で傾斜する直線を格子点毎に設定したときに、前記複数の位相変調領域それぞれにおいて、前記複数の異屈折率領域それぞれの重心が対応する前記直線上に配置され、各異屈折率領域の重心と、各異屈折率領域に対応する格子点との距離が、所定の前記光像に応じて個別に設定されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記位相変調層は、互いに隣り合う前記位相変調領域の間に位置する接続領域を更に有し、
前記接続領域は、前記第1屈折率を有する基本領域と、前記第2屈折率を有する複数の異屈折率領域とを含み、
前記接続領域の前記複数の異屈折率領域の重心が前記正方格子の格子点に位置する、請求項4に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記半導体積層の積層方向から見た前記接続領域の平面形状が格子状である、請求項5に記載の半導体発光素子。
【請求項7】
前記位相変調層の厚さ方向と垂直な断面における前記複数の異屈折率領域の面積が、所定の前記光像に応じて個別に設定されている、請求項4~6のいずれか一項に記載の半導体発光素子。
【請求項8】
互いに隣り合う前記位相変調領域の前記正方格子が互いにずれている、請求項4~7のいずれか一項に記載の半導体発光素子。
【請求項9】
当該半導体発光素子の光出射面と対向して設けられたλ/4板を更に備え、
互いに隣り合う前記位相変調領域の前記正方格子が、
n・a+a/2(但し、aは格子間隔、nは0以上の整数)
だけ互いにずれている、請求項4~7のいずれか一項に記載の半導体発光素子。
【請求項10】
前記第1電極が前記複数の電極部分を含み、
前記積層構造は、前記位相変調層及び前記活性層と前記第1面との間に設けられたクラッド層を更に含み、
前記クラッド層は、前記半導体積層の積層方向から見て、互いに隣り合う前記位相変調領域の間に位置する高抵抗領域を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の半導体発光素子。
【請求項11】
前記位相変調層は前記クラッド層と前記活性層との間に設けられており、
前記高抵抗領域は前記クラッド層の前記第1面側の界面から前記位相変調層に達している、請求項10に記載の半導体発光素子。
【請求項12】
前記半導体積層の積層方向から見た前記高抵抗領域の平面形状が格子状である、請求項10又は11に記載の半導体発光素子。
【請求項13】
主面及び裏面を有する半導体基板を更に備え、
前記半導体積層は前記半導体基板の前記主面上に設けられ、前記半導体積層の前記第2面が前記半導体基板の前記主面と対向しており、
前記第1電極は、前記第1面上に設けられ、前記複数の電極部分を含み、
前記第2電極は前記半導体基板の前記裏面上に設けられている、請求項1~12のいずれか一項に記載の半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、発光装置に関する技術が開示されている。この発光装置は、S-iPM(Static-integrable PhaseModulating)レーザであって、主面の法線方向および法線方向に対して傾斜した傾斜方向の少なくとも一方の方向に光像を形成する光を出力する。この発光装置は、主面を有する基板と、基板上に設けられた発光部と、位相変調層と、を備える。位相変調層は、発光部と光学的に結合された状態で基板上に設けられ、所定の屈折率を有する基本層と、基本層の屈折率とは異なる屈折率を有する複数の異屈折率領域と、を含む。法線方向に直交する位相変調層の設計面上において、複数の異屈折率領域それぞれは、仮想的な正方格子の何れかの格子点に1対1対応するように配置されている。仮想的な正方格子を構成する格子点のうち複数の異屈折率領域が対応付けられている複数の有効格子点において、任意の特定格子点と特定格子点に対応付けられた特定異屈折率領域の重心とを結ぶ線分は、特定格子点に対して最短距離で隣接する複数の周辺格子点と複数の周辺格子点にそれぞれ対応付けられた複数の周辺異屈折率領域の重心とを結ぶ線分それぞれに対して平行である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/111787号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y. Kurosaka et al.," Effects of non-lasing band intwo-dimensional photonic-crystal lasers clarified using omnidirectional bandstructure," Opt. Express 20, 21773-21783 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
二次元状に配列された複数の発光点から出力される光の位相スペクトルおよび強度スペクトルを制御することにより任意の光像を出力する半導体発光素子が研究されている。このような半導体発光素子の構造の1つとして、基板上に設けられた位相変調層を含む構造がある。位相変調層は、基本層と、それぞれが基本層の屈折率とは異なる屈折率を有する複数の異屈折率領域と、を含む。この位相変調層の厚さ方向に直交した面上において仮想的な正方格子が設定された場合、各重心位置それぞれが、出力されるべき光像に応じて仮想的な正方格子の対応する格子点の位置からずれるよう、異屈折率領域それぞれが配置される。このような半導体発光素子は、S-iPMレーザと呼ばれ、基板の主面の法線方向に対して傾斜した方向に、任意形状の光像を形成する光を出力する。
従来、このような半導体発光素子としては、上記特許文献1に記載された発光装置のように、位相変調層において複数の異屈折率領域が予め所定の光像に応じて配置されたものが知られている。複数の異屈折率領域は位相変調層の内部に予め作り込まれているので、各異屈折率領域の位置は固定されている。したがって、この半導体発光素子から出力される光像は静的であり、光像を動かすことはできない。しかしながら、出力される光像を動的に変化させることができれば、任意の光像を出力する半導体発光素子の応用範囲が更に拡がる可能性がある。本開示は、出力される光像を動的に変化させることが可能な半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示による半導体発光素子は、半導体積層と、第1電極と、第2電極とを備える。半導体積層は、第1面と第2面との間に活性層及び位相変調層を含む積層構造を有する。位相変調層は、位相変調層の厚さ方向と垂直な仮想平面に沿って並び互いに光学的に結合された複数の位相変調領域を有する。複数の位相変調領域それぞれは、第1屈折率を有する基本領域と、複数の異屈折率領域とを含む。複数の異屈折率領域は、基本領域内に設けられるとともに、第1屈折率とは異なる第2屈折率を有し、仮想平面に沿って二次元状に分布する。第1電極は、半導体積層の第1面と対向する。第2電極は、半導体積層の第2面と対向する。第1電極及び第2電極の一方または双方は、半導体積層の積層方向から見て複数の位相変調領域とそれぞれ重なる複数の電極部分を含む。複数の電極部分は、互いに電気的に分離している。活性層から出力された光は、位相変調層の複数の位相変調領域それぞれにおいて共振し、複数の位相変調領域それぞれから、半導体積層の第1面及び第2面の双方と交差する方向に位置する共通の照射領域に、複数の異屈折率領域の配置に応じた光像となって照射される。複数の位相変調領域それぞれから出力される光像は互いに位相同期している。
【0007】
この半導体発光素子においては、第1電極及び第2電極の一方または双方が、複数の位相変調領域とそれぞれ重なる複数の電極部分を含む。複数の電極部分は、互いに電気的に分離している。したがって、複数の電極部分に対してそれぞれ独立した電流を供給することができる。これにより、複数の位相変調領域それぞれに光を供給する活性層の複数の領域それぞれの発光強度が独立して制御され、複数の位相変調領域から出力される複数の光像の光強度もまた互いに独立して制御される。複数の光像は、共通の照射領域に照射される。このとき、複数の位相変調領域それぞれから出力される光像は互いに位相同期しているので、複数の光像は、共通の照射領域において互いに干渉することができる。このように、この半導体発光素子によれば、複数の位相変調領域から出力される複数の光像の光強度を個別に調整しつつ複数の光像を互いに干渉させて一つの光像とすることができるので、光像を動的に変化させることができる。
【0008】
上記の半導体発光素子において、複数の位相変調領域それぞれから出力される光像の光強度分布は、少なくとも一方向における周期又は位相が、少なくとも2つの位相変調領域において互いに異なる正弦波状の分布を含んでもよい。或いは、上記の半導体発光素子において、複数の位相変調領域それぞれから出力される光像の光強度分布は、互いに直交する二方向における周期又は位相が、少なくとも2つの位相変調領域において互いに異なる正弦波状の分布を含んでもよい。これらの場合、複数の位相変調領域から出力される複数の光像を、該複数の光像の光強度を個別に調整しつつ互いに重ね合わせることにより、任意の光像を得ることができる。特に、周期が異なる場合、複数の位相変調領域から出力される複数の光像は、離散コサイン変換(Discrete Cosine Transform:DCT)における複数の基底画像となることができる。
【0009】
上記の半導体発光素子において、仮想平面に沿った仮想的な正方格子を設定し、正方格子を構成する複数の格子点に対し、対応する格子点を通り正方格子に対して互いに同一角度で傾斜する直線を格子点毎に設定したときに、複数の位相変調領域それぞれにおいて、複数の異屈折率領域それぞれの重心が対応する直線上に配置され、各異屈折率領域の重心と、各異屈折率領域に対応する格子点との距離が、所定の光像に応じて個別に設定されていてもよい。例えばこのような構成によって、位相変調領域をそれぞれ含む半導体発光素子の複数の部分それぞれがS-iPMレーザを構成し、互いに異なる所定の光像を出力することができる。また、複数の位相変調領域の間で偏光方向を揃えることができる。
【0010】
上記の半導体発光素子において、位相変調層は、互いに隣り合う位相変調領域の間に位置する接続領域を更に有してもよい。そして、接続領域は、第1屈折率を有する基本領域と、第2屈折率を有する複数の異屈折率領域とを含み、接続領域の複数の異屈折率領域の重心が正方格子の格子点に位置してもよい。この場合、互いに隣り合う位相変調領域の間に間隔が設けられるので、複数の電極部分同士の間隔を拡げることが可能になり、これらの位相変調領域に光を供給する活性層の各領域に供給されるべき電流の一部が隣接する領域に漏れる、いわゆる領域間クロストークを低減することができる。更に、接続領域の複数の異屈折率領域の重心が正方格子の格子点に位置することによって、複数の位相変調領域それぞれから出力される光像の位相を互いに同期させることができる。
【0011】
上記の半導体発光素子において、半導体積層の積層方向から見た接続領域の平面形状が格子状であってもよい。この場合、全ての位相変調領域の間に間隔を設けることができるので、領域間クロストークをより効果的に低減することができる。
【0012】
上記の半導体発光素子において、位相変調層の厚さ方向と垂直な断面における複数の異屈折率領域の面積は、所定の光像に応じて個別に設定されてもよい。この場合、位相だけでなく光強度をも各異屈折率領域毎に調整することができるので、光像の設計の自由度を高めることができる。
【0013】
上記の半導体発光素子において、互いに隣り合う位相変調領域の正方格子が互いにずれていてもよい。
【0014】
上記の半導体発光素子は、当該半導体発光素子の光出射面と対向して設けられたλ/4板を更に備え、互いに隣り合う位相変調領域の正方格子が、n・a+a/2(但し、aは格子間隔、nは0以上の整数)だけ互いにずれていてもよい。この場合、互いに隣り合う位相変調領域それぞれから出力される光像の位相が互いにπ(rad)ずれる。したがって、互いに隣り合う位相変調領域それぞれから互いに逆回りの円偏光を出力させることができる。
【0015】
上記の半導体発光素子において、第1電極は複数の電極部分を含み、積層構造は、位相変調層及び活性層と第1面との間に設けられたクラッド層を更に含み、クラッド層は、半導体積層の積層方向から見て、互いに隣り合う位相変調領域の間に位置する高抵抗領域を含んでもよい。この場合、領域間クロストークを低減することができる。
【0016】
上記の半導体発光素子において、位相変調層はクラッド層と活性層との間に設けられており、高抵抗領域は位相変調層に達していてもよい。この場合、領域間クロストークをより効果的に低減することができる。
【0017】
上記の半導体発光素子において、半導体積層の積層方向から見た高抵抗領域の平面形状が格子状であってもよい。この場合、積層方向から見て全ての位相変調領域の間に高抵抗領域を設けることができるので、領域間クロストークをより効果的に低減することができる。
【0018】
上記の半導体発光素子は、主面及び裏面を有する半導体基板を更に備え、半導体積層は半導体基板の主面上に設けられ、半導体積層の第2面が半導体基板の主面と対向しており、第1電極は、第1面上に設けられ、前記複数の電極部分を含み、第2電極は半導体基板の裏面上に設けられてもよい。このように、半導体積層に関して半導体基板とは反対側の面上に複数の電極部分が設けられることにより、複数の電極部分と活性層との距離を短くすることができる。したがって、領域間クロストークを低減することができる。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、出力される光像を動的に変化させることが可能な半導体発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本実施形態の位相分布設計方法が適用される半導体発光素子の積層構造を示す断面図である。
図2図2は、位相変調層の平面図(厚さ方向から見た図)である。
図3図3は、位相変調領域の一部を拡大して示す平面図である。
図4図4は、一つの単位構成領域を拡大して示す図である。
図5図5は、球面座標からXYZ直交座標系における座標への座標変換を説明するための図である。
図6図6は、接続領域の一部を拡大して示す平面図である。
図7図7は、第1電極及び第2電極の平面形状、並びに第1電極及び第2電極に電流を供給するための構成を模式的に示す図である。
図8図8は、位相変調領域における電磁界分布を示す図である。図8の(a)部は、M点での対称性Aの共振モードにおける電磁界分布を示す。図8の(b)部は、M点での対称性Bの共振モードにおける電磁界分布を示す。
図9図9は、比較例に係る電磁界分布を示す図である。図9の(a)部は、M点での対称性Aの共振モードにおける電磁界分布を示す。図9の(b)部は、M点での対称性Bの共振モードにおける電磁界分布を示す。
図10図10は、複数の位相変調領域から出力される複数の光像の例を概念的に示す図である。
図11図11は、複数の位相変調領域から出力される複数の光像の別の例を概念的に示す図である。
図12図12は、複数の位相変調領域から出力される複数の光像の更に別の例を概念的に示す図である。
図13図13は、第1の設計方法を概念的に示す図である。
図14図14は、X方向に2列、Y方向に2行の計4個の位相変調領域を有する位相変調層を示す図である。
図15図15は、第1行に含まれる2個の位相変調領域が位相分布パターンBを有し、第2行に含まれる2個の位相変調領域が位相分布パターンAを有する位相変調層を示す図である。
図16図16は、位相分布パターンA,Bの設計方法を概念的に示す図である。
図17図17は、X方向にm列、Y方向にn行の計m×n個の位相変調領域を有する位相変調層を示す図である。
図18図18は、m×n個の位相分布パターンの設計方法を概念的に示す図である。
図19図19は、第2の設計方法を概念的に示す図である。
図20図20は、位相分布パターンA,Bの設計方法を概念的に示す図である。
図21図21は、m×n個の位相分布パターンの設計方法を概念的に示す図である。
図22図22は、第1変形例として、半導体発光素子の積層構造を示す断面図である。
図23図23は、クラッド層の平面図である。
図24図24は、第2変形例として、半導体発光素子の構成を示す断面図である。
図25図25は、位相変調層を示す平面図である。
図26図26は、位相シフト領域及びその周辺の接続領域を部分的に拡大して示す平面図である。
図27図27は、一つの単位構成領域を拡大して示す図である。
図28図28の(a)部は、位相分布パターンAを設計する際に設定した、照射領域(遠方界)における所望の光像を示す。図28の(b)部は、(a)部に示された光像を波数空間に変換したもの、すなわち波数空間における目標振幅分布を示す。図28の(c)部は、(b)部に示された目標振幅分布に基づいて算出された、位相分布パターンAを示す図である。
図29図29の(a)部は、位相分布パターンBを設計する際に設定した、照射領域(遠方界)における所望の光像を示す。図29の(b)部は、(a)部に示された光像を波数空間に変換したもの、すなわち波数空間における目標振幅分布を示す。図29の(c)部は、(b)部に示された目標振幅分布に基づいて算出された、位相分布パターンBを示す図である。
図30図30の(a)部は、一方の対角線上に位置する2個の位相変調領域それぞれに位相分布パターンAを与え、他方の対角線上に位置する2個の位相変調領域それぞれに位相分布パターンBを与えた様子を示す図である。図30の(b)部は、各電極部分の電流を個別に制御することによって実現される、一方の対角線上に位置する2個の位相変調領域の光強度と、他方の対角線上に位置する2個の位相変調領域の光強度との違いを概念的に示す図である。
図31図31は、位相分布パターンAを有する2個の位相変調領域から出射される光像と、位相分布パターンBを有する2個の位相変調領域から出射される光像とを互いに干渉させたときに想定される、最終的な光像を示す図である。
図32図32の(a)部は、第1の設計方法によって得られた最終的な光像を示す。図32の(b)部は、第2の設計方法によって得られた最終的な光像を示す。
図33図33の(a)部は、位相分布パターンAを設計する際に設定した、照射領域(遠方界)における所望の光像を示す。図33の(b)部は、(a)部に示された光像を波数空間に変換したもの、すなわち波数空間における目標振幅分布を示す。図33の(c)部は、(b)部に示された目標振幅分布に基づいて算出された、位相分布パターンAを示す図である。
図34図34の(a)部は、位相分布パターンBを設計する際に設定した、照射領域(遠方界)における所望の光像を示す。図34の(b)部は、(a)部に示された光像を波数空間に変換したもの、すなわち波数空間における目標振幅分布を示す。図34の(c)部は、(b)部に示された目標振幅分布に基づいて算出された、位相分布パターンBを示す図である。
図35図35の(a)部は、一方の対角線上に位置する2個の位相変調領域それぞれに位相分布パターンAを与え、他方の対角線上に位置する2個の位相変調領域それぞれに位相分布パターンBを与えた様子を示す図である。図35の(b)部は、各電極部分の電流を個別に制御することによって実現される、一方の対角線上に位置する2個の位相変調領域の光強度と、他方の対角線上に位置する2個の位相変調領域の光強度との違いを概念的に示す図である。
図36図36は、位相分布パターンAを有する位相変調領域から出射される光像と、位相分布パターンBを有する位相変調領域から出射される光像とを互いに干渉させたときに想定される、最終的な光像を示す図である。
図37図37は、シミュレーションによって得られた最終的な光像を示す図である。
図38図38は、シミュレーションによって得られた最終的な光像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本開示の半導体発光素子の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
図1は、本実施形態の半導体発光素子1の積層構造を示す断面図である。図1では、半導体発光素子1の厚さ方向に延びる軸をZ軸とするXYZ直交座標系を定義している。半導体発光素子1は、XY面内方向において定在波を形成し、位相制御された平面波をその厚み方向と交差する方向に出力するレーザ光源である。半導体発光素子1は、S-iPMレーザであり、半導体基板10の主面10aに垂直な方向すなわちZ方向、又はZ方向に対して傾斜した方向、或いはその両方を含む方向に向けて、任意形状の光像を出力することができる。
【0023】
半導体発光素子1は、半導体基板10を備える。半導体基板10は、主面10a及び裏面10bを有する。主面10a及び裏面10bの法線方向、及び半導体基板10の厚さ方向はZ方向に沿っている。半導体基板10は、例えばGaAs系半導体、InP系半導体、もしくは窒化物系半導体といった化合物半導体によって構成されている。
【0024】
半導体発光素子1は、半導体積層20を更に備える。半導体積層20は、半導体基板10の主面10a上に設けられている。半導体積層20の積層方向はZ方向に沿っている。半導体積層20は、第1面20aと第2面20bとの間に、クラッド層11、活性層12、クラッド層13、コンタクト層14、及び位相変調層15を含む積層構造を有する。半導体積層20の第2面20bは、半導体基板10の主面10aと対向している。図示例では、クラッド層11が半導体基板10の主面10a上に設けられ、活性層12がクラッド層11上に設けられ、位相変調層15が活性層12上に設けられ、クラッド層13が位相変調層15上に設けられ、コンタクト層14がクラッド層13上に設けられている。すなわち、クラッド層11は活性層12と第2面20bとの間に設けられ、クラッド層13は活性層12と第1面20aとの間に設けられ、クラッド層11,13は活性層12及び位相変調層15を挟んでいる。なお、図示例では位相変調層15は活性層12とクラッド層13との間に設けられているが、位相変調層15はクラッド層11と活性層12との間に設けられてもよい。活性層12とクラッド層13との間、及び活性層12とクラッド層11との間の一方又は双方には、必要に応じて光ガイド層が設けられてもよい。光ガイド層は、キャリアを活性層12に効率的に閉じ込めるためのキャリア障壁層を含んでもよい。
【0025】
クラッド層11、活性層12、クラッド層13、及びコンタクト層14は、例えばGaAs系半導体、InP系半導体、もしくは窒化物系半導体といった化合物半導体によって構成されている。活性層12は、例えば多重量子井戸構造を有する。クラッド層11のエネルギーバンドギャップ、及びクラッド層13のエネルギーバンドギャップは、活性層12のエネルギーバンドギャップよりも大きい。クラッド層11、活性層12、クラッド層13、及びコンタクト層14の厚さ方向は、Z軸方向と一致している。
【0026】
位相変調層15は、活性層12と光学的に結合されている。位相変調層15の厚さ方向は、Z軸方向と一致している。図2は、位相変調層15の平面図(厚さ方向から見た図)である。図1及び図2に示されるように、位相変調層15は、複数の位相変調領域151と、接続領域152とを有する。半導体積層20の積層方向から見た接続領域152の平面形状は、例えば格子状である。複数の位相変調領域151それぞれは、格子状に形成された接続領域152の複数の開口部152aそれぞれに設けられている。
【0027】
複数の位相変調領域151それぞれの平面形状は例えば正方形または長方形である。複数の位相変調領域151は、位相変調層15の厚さ方向と垂直な(言い換えると、XY平面と平行な)仮想平面Pに沿って二次元的に並んでおり、互いに光学的に結合されている。図示例では、複数の位相変調領域151はX方向及びY方向に沿って配列されている。なお、図示例では複数の位相変調領域151が二次元的に並んでいるが、複数の位相変調領域151は一次元的に並んでもよい。図示例では、複数の位相変調領域151は互いに間隔をあけて設けられている。接続領域152は、互いに隣り合う位相変調領域151の間に設けられた部分152bと、複数の位相変調領域151を一括して囲む外側の枠状の部分152cとを含む。
【0028】
図1に示されるように、複数の位相変調領域151それぞれは、基本領域15aと、複数の異屈折率領域15bとを含んで構成されている。同様に、接続領域152もまた、基本領域15aと、複数の異屈折率領域15bとを含んで構成されている。基本領域15aは第1屈折率媒質からなる。基本領域15aは、例えばGaAs系半導体、InP系半導体、もしくは窒化物系半導体といった化合物半導体によって構成されている。複数の異屈折率領域15bは、第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなり、基本領域15a内に存在する。異屈折率領域15bは例えば空洞である。異屈折率領域15bは、基本領域15a上に設けられたキャップ領域15cによって覆われる。キャップ領域15cは、位相変調層15の一部を構成し、例えば基本領域15aと同じ材料からなる。
【0029】
複数の異屈折率領域15bは、仮想平面Pに沿って二次元状に分布する。各位相変調領域151において、複数の異屈折率領域15bは、格子状の略周期構造を含んでいる。モードの等価屈折率をnとし、格子間隔をaとした場合、各位相変調領域151によって選択される波長λは、例えばM点発振の場合、λ=(√2)a×nとして表される。この波長λは、活性層12の発光波長範囲内に含まれる。各位相変調領域151は、活性層12の発光波長のうち波長λ近傍のバンド端波長を選択して、外部に出力することができる。活性層12から各位相変調領域151内に入射した光は、各位相変調領域151内において異屈折率領域15bの配置に応じた所定のモードを形成し、レーザ光Lとして、半導体基板10の裏面10bから半導体発光素子1の外部に出力される。
【0030】
図3は、位相変調領域151の一部を拡大して示す平面図である。図3には一つの位相変調領域151のみを示すが、他の位相変調領域151の構成もこれと同様である。前述したように、位相変調領域151は、基本領域15aと、複数の異屈折率領域15bとを含んでいる。図3では、位相変調領域151に対し、仮想平面Pに沿った仮想的な正方格子を設定している。正方格子の一辺は、X軸と平行であり、他辺はY軸と平行である。正方格子の格子点Oを中心とする正方形状の単位構成領域Rは、X軸に沿った複数列及びY軸に沿った複数行にわたって二次元状に配列されている。各単位構成領域RのXY座標を、それぞれの単位構成領域Rの重心位置により規定する。これらの重心位置は、仮想的な正方格子の格子点Oと一致する。異屈折率領域15bは、各単位構成領域R内に例えば1つ設けられる。異屈折率領域15bの平面形状は、例えば円形状である。格子点Oは、異屈折率領域15bの外部に位置してもよく、異屈折率領域15bの内部に含まれていてもよい。
【0031】
図4は、一つの単位構成領域Rを拡大して示す図である。同図に示すように、異屈折率領域15bのそれぞれは、重心Gを有する。異屈折率領域15bの重心Gは、格子点O毎に設定される直線D上に配置される。直線Dは、各単位構成領域Rに対応する格子点Oを通り、正方格子の各辺に対して傾斜する直線である。つまり、直線Dは、X軸及びY軸の双方に対して傾斜する直線である。正方格子の一辺、言い換えるとX軸に対する直線Dの傾斜角は、βである。
【0032】
傾斜角βは、位相変調領域151内の全ての直線Dにおいて同一である。また、傾斜角βは、複数の位相変調領域151において同一である。傾斜角βは、0°<β<90°を満たし、一例ではβ=45°である。或いは、傾斜角βは、180°<β<270°を満たし、一例ではβ=225°である。傾斜角βが0°<β<90°または180°<β<270°を満たす場合、直線Dは、X軸及びY軸によって規定される座標平面の第1象限から第3象限にわたって延びる。傾斜角βは、90°<β<180°を満たし、一例ではβ=135°である。或いは、傾斜角βは、270°<β<360°を満たし、一例ではβ=315°である。傾斜角βが90°<β<180°または270°<β<360°を満たす場合、直線Dは、X軸及びY軸によって規定される座標平面の第2象限から第4象限にわたって延びる。このように、傾斜角βは、0°、90°、180°及び270°を除く角度となっている。
【0033】
ここで、格子点Oと重心Gとの距離をr(x,y)とする。xは、X軸におけるx番目の格子点の位置であり、yは、Y軸におけるy番目の格子点の位置である。距離r(x,y)が正の値である場合、重心Gは、第1象限または第2象限に位置する。距離r(x,y)が負の値である場合、重心Gは、第3象限または第4象限に位置する。距離r(x,y)が0である場合、格子点Oと重心Gとが互いに一致する。傾斜角度は、45°、135°、225°、275°が好適である。これらの傾斜角度の場合、M点の定在波を形成する4つの波数ベクトル、例えば面内波数ベクトル(±π/a、±π/a)のうちの2つのみが位相変調され、その他の2つが位相変調されない。したがって、安定した定在波を形成することができる。
【0034】
距離r(x,y)は、各位相変調領域151から出力されるべき光像に応じた位相分布φ(x,y)に従って異屈折率領域15b毎に個別に設定される。すなわち、或る座標(x,y)における位相φ(x,y)がφ0である場合には、距離r(x,y)を0と設定する。位相φ(x,y)がπ+φ0である場合には、距離r(x,y)を最大値R0に設定する。位相φ(x,y)が-π+φ0である場合には、距離r(x,y)を最小値-R0に設定する。そして、その中間の位相φ(x,y)に対しては、r(x,y)={φ(x,y)-φ0}×R0/πとなるように距離r(x,y)を設定する。仮想的な正方格子の格子間隔をaとすると、r(x,y)の最大値R0は、例えば下記式(1)の範囲内となる。
【数1】

初期位相φ0は、任意に設定することができる。位相分布φ(x,y)及び距離r(x,y)の分布は、x,yの値で決まる位置毎に特定の値を有するが、必ずしも特定の関数で表わされるとは限らない。
【0035】
複数の位相変調領域151それぞれの異屈折率領域15bの距離r(x,y)の分布を決定することにより、複数の位相変調領域151それぞれから所望の光像を出力させることができる。各位相変調領域151は、以下の条件を満たすよう構成される。
【0036】
第1の前提条件として、正方形状を有するM×N個の単位構成領域Rにより構成される仮想的な正方格子をXY平面上に設定する。M,Nは1以上の整数である。
【0037】
図5に示すように、動径の長さrと、Z軸からの傾き角θtiltと、XY平面上で特定されるX軸からの回転角θrotと、により規定される球面座標(r,θrottilt)を定義する。第2の前提条件として、XYZ直交座標系における座標(ξ,η,ζ)は、球面座標(r,θrottilt)に対して、以下の式(2)~式(4)で示された関係を満たしているものとする。図5は、球面座標(r,θrottilt)からXYZ直交座標系における座標(ξ,η,ζ)への座標変換を説明するための図である。座標(ξ,η,ζ)により、実空間であるXYZ直交座標系において設定される所定平面上の設計上の光像が表現される。
【数2】

【数3】

【数4】
【0038】
各位相変調領域151から出射される光を、角度θtilt及びθrotで規定される方向に向かう輝点の集合とする。このとき、角度θtiltおよびθrotは、座標値kx及びkyに換算されるものとする。座標値kxは、以下の式(5)で規定される規格化波数であって、X軸に対応したK軸上の座標値である。座標値kyは、以下の式(6)で規定される規格化波数であって、Y軸に対応すると共にK軸に直交するK軸上の座標値である。規格化波数は、仮想的な正方格子の格子間隔に相当する波数2π/aを1.0として規格化された波数を意味する。このとき、K軸およびK軸により規定される波数空間において、光像に相当するビームパターンを含む特定の波数範囲は、それぞれが正方形状であるM×N個の画像領域FRで構成される。M,Nは1以上の整数である。整数Mは、整数Mと一致する必要はない。整数Nは、整数Nと一致する必要はない。式(5)および式(6)は、例えば非特許文献1に開示されている。
【数5】

【数6】

a:仮想的な正方格子の格子定数
λ:半導体発光素子1の発振波長
【0039】
波数空間において、画像領域FR(kx,ky)は、K軸方向の座標成分kxとK軸方向の座標成分kyとで特定される。座標成分kxは0以上M-1以下の整数である。座標成分kyは0以上N-1以下の整数である。XY平面上の単位構成領域R(x,y)は、X軸方向の座標成分xとY軸方向の座標成分yとで特定される。座標成分xは0以上M-1以下の整数である。座標成分yは0以上N-1以下の整数である。第3の前提条件として、画像領域FR(kx,ky)それぞれを単位構成領域R(x,y)に二次元逆離散フーリエ変換することで得られる複素振幅CA(x,y)は、jを虚数単位として、以下の式(7)で与えられる。複素振幅CA(x,y)は、振幅項をA(x,y)とすると共に位相項をφ(x,y)とするとき、以下の式(8)により規定される。第4の前提条件として、単位構成領域R(x,y)は、s軸およびt軸で規定される。s軸およびt軸は、X軸およびY軸にそれぞれ平行であって、単位構成領域R(x,y)の中心となる格子点O(x,y)において互いに直交する。
【数7】

【数8】
【0040】
上述した第1~第4の前提条件の下、各位相変調領域151は、以下の条件を満たすよう構成される。すなわち、格子点O(x,y)から対応する異屈折率領域15bの重心Gまでの距離r(x,y)が、下記の関係を満たすように、対応する異屈折率領域15bが単位構成領域R(x,y)内に配置される。
r(x,y)=C×(φ(x,y)-φ0
C:比例定数で例えばR0/π
φ0:任意の定数であって例えば0
所望の光像を得たい場合、当該光像を逆フーリエ変換して、その複素振幅の位相φ(x,y)に応じた距離r(x,y)の分布を複数の異屈折率領域15bに与えるとよい。位相φ(x,y)と距離r(x,y)とは、互いに比例してもよい。
【0041】
図6は、接続領域152の一部を拡大して示す平面図である。図6には接続領域152の一部のみを示すが、接続領域152の他の部分の構成もこれと同様である。前述したように、接続領域152もまた、基本領域15aと、複数の異屈折率領域15bとを含んでいる。接続領域152においても、図3と同様の仮想的な正方格子を設定する。正方格子の一辺は、X軸と平行であり、他辺はY軸と平行である。正方格子の格子定数aは、位相変調領域151と正方格子の格子定数aと等しい。接続領域152では、複数の異屈折率領域15bの重心Gが、正方格子の格子点に位置する。言い換えると、複数の異屈折率領域15bの重心Gの位置が、正方格子の格子点の位置と一致する。従って、接続領域152においては、複数の異屈折率領域15bがX軸及びY軸に沿って周期的に配列されている。
【0042】
再び図1を参照する。半導体発光素子1は、電極16(第1電極)と、電極17(第2電極)とを更に備える。電極16は半導体積層20の第1面20aと対向して設けられ、図示例では、電極16は第1面20a上すなわちコンタクト層14上に設けられている。電極16は、コンタクト層14とオーミック接触を成す。電極17は半導体積層20の第2面20bと対向して設けられ、図示例では、電極17は半導体基板10の裏面10b上に設けられている。電極17は、半導体基板10とオーミック接触を成す。
【0043】
図7は、電極16,17の平面形状、及び電極16,17に電流を供給するための構成を模式的に示す図である。図7に示されるように、電極17は、複数の開口17aを有している。各開口17aは、各位相変調領域151と一対一で対応している。半導体積層20の厚さ方向から見て、開口17aは対応する位相変調領域151と重なる。各開口17aの平面形状は例えば正方形または長方形である。電極16は、複数の電極部分161を含む。複数の電極部分161は、互いに間隙をあけて配列され、互いに電気的に分離している。なお、電極部分が互いに電気的に分離しているとは、半導体積層20を介する経路を除いて、他に電気的に接続される経路が存在しないことを意味する。各電極部分161は、各位相変調領域151と一対一で対応している。半導体積層20の厚さ方向から見て、電極部分161は対応する位相変調領域151と重なる。各電極部分161の平面形状は例えば正方形または長方形である。
【0044】
複数の電極部分161それぞれは、複数の配線33それぞれを介して、個別に駆動回路31と電気的に接続されている。また、電極17は、配線34を介して、駆動回路31と電気的に接続されている。駆動回路31は、配線35を介して、電源回路32と電気的に接続されている。駆動回路31は、電源回路32から電力の供給を受け、複数の電極部分161と電極17との間に駆動電流を供給する。駆動回路31は、電極部分161毎に駆動電流の大きさを自在に変化させることができる。各電極部分161への駆動電流の大きさは、電極部分161毎に独立して設定される。
【0045】
再び図1を参照する。コンタクト層14の各電極部分161と重なる部分を除く他の部分は、電流範囲を限定するために、エッチングにより除去されている。従って、コンタクト層14は、複数の電極部分161にそれぞれ対応する複数の部分に分割されている。コンタクト層14の複数の部分の隙間は、保護膜18によって埋められている。これにより、電極16から露出する半導体積層20の表面が保護される。保護膜18は、例えば、シリコン窒化物(例えばSiN)またはシリコン酸化物(例えばSiO2)といった無機絶縁体からなる。なお、コンタクト層14の各電極部分161と重なる部分を除く他の部分は、除去されていなくてもよい。その場合、保護膜18は、複数の電極部分161の隙間のコンタクト層14上に設けられる。
【0046】
半導体基板10の裏面10bのうち、電極17が設けられた領域を除く他の領域は、開口17a内を含め、反射防止膜19によって覆われている。開口17aを除く他の領域にある反射防止膜19は、除去されてもよい。反射防止膜19は、例えば、シリコン窒化物(例えばSiN)またはシリコン酸化物(例えばSiO2)などの誘電体の単層膜または多層膜からなる。誘電体多層膜としては、例えば、酸化チタン(TiO2)、二酸化シリコン(SiO2)、一酸化シリコン(SiO)、酸化ニオブ(Nb25)、五酸化タンタル(Ta25)、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化チタン(TiO2)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化セリウム(CeO2)、酸化インジウム(In23)、及び酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる誘電体層群から選択される2種類以上の誘電体層を積層した膜を用いることができる。誘電体多層膜は、例えば、波長λの光に対するそれぞれの光学膜厚がλ/4である複数の膜を積層することにより形成される。
【0047】
なお、本実施形態では第1面20aと対向する電極16が複数の電極部分161を含んでいるが、この構成に代えて、またはこの構成と共に、第2面20bと対向する電極17が、複数の電極部分を含んでもよい。この場合、複数の電極部分161と同様に、電極17の複数の電極部分もまた、互いに間隙をあけて配列され、互いに電気的に分離している。電極17の各電極部分は、各位相変調領域151と一対一で対応する。半導体積層20の厚さ方向から見て、電極17の各電極部分は対応する位相変調領域151と重なる。電極17の各電極部分の平面形状は、例えば開口17aを含む矩形枠状である。電極17の複数の電極部分それぞれは、複数の配線それぞれを介して、個別に駆動回路31と電気的に接続される。駆動回路31は、電極17の電極部分毎に、駆動電流の大きさを自在に変化させる。
【0048】
半導体発光素子1では、電極部分161と電極17との間に駆動電流が供給されると、当該電極部分161の直下に位置する活性層12の部分内において電子と正孔の再結合が生じ、活性層12の当該部分から光が出力される。このとき、発光に寄与する電子及び正孔、並びに活性層12から出力された光は、クラッド層11とクラッド層13との間に効率的に閉じ込められる。
【0049】
活性層12の当該部分から出力された光は、当該部分と対向する位相変調領域151の内部に入射し、当該位相変調領域151において仮想平面Pに沿って共振し、複数の異屈折率領域15bの配置に応じた所定のモードを形成する。当該位相変調領域151から出力されたレーザ光Lの一部は、裏面10bから開口17aを通って半導体発光素子1の外部へ直接的に出力される。当該位相変調領域151から出力されたレーザ光Lの残りは、電極16において反射したのち、裏面10bから開口17aを通って半導体発光素子1の外部へ出力される。このとき、レーザ光Lに含まれる信号光は、半導体積層20の第1面20a及び第2面20bの双方と交差する方向へ出射する。言い換えると、レーザ光Lに含まれる信号光は、裏面10bに垂直な方向と、裏面10bに垂直な方向に対して傾斜した方向とを含む任意方向へ出射する。半導体発光素子1からの出射光を構成するのは、信号光である。信号光は、主としてレーザ光の1次回折光又は-1次回折光、或いはその両方である。以下、1次回折光を1次光と称し、-1次回折光を-1次光と称する。
【0050】
複数の位相変調領域151それぞれから出力されるレーザ光Lは、半導体積層20の第1面20a及び第2面20bの双方と交差する方向に位置する共通の照射領域(遠方界)に、複数の異屈折率領域15bの配置に応じた光像となって照射される。複数の位相変調領域151のうち少なくとも2個の位相変調領域151に含まれる複数の異屈折率領域15bは、位相変調領域151毎に異なる配置を有する。従って、複数の位相変調領域151それぞれから出力される光像が互いに干渉して、最終的な光像が形成される。
【0051】
複数の位相変調領域151それぞれから出力される光像を互いに干渉させることによって最終的な光像を得るために、これらの光像は、互いに位相同期している。これらの光像が互いに位相同期するために、本実施形態では、互い隣り合う位相変調領域151の間に接続領域152が設けられている。互い隣り合う位相変調領域151の共振モードが接続領域152を介して共有されるので、各位相変調領域151において共振するレーザ光Lの位相は互いに同期することができる。なお、接続領域152を無くして、互い隣り合う位相変調領域151同士を隣接させてもよい。そのような場合であっても、各位相変調領域151において共振するレーザ光Lの位相は互いに同期することができる。なお、複数の光像を互いに位相同期させる為には、各位相変調領域151の位相分布φ(x,y)を設計する際にもそのことを考慮する必要があるが、位相同期を考慮した位相分布φ(x,y)の設計については後述する。
【0052】
また、複数の位相変調領域151それぞれから出力される光像を互いに干渉させることによって所望の光像を得るために、これらの光像の偏光方向が揃っていることが望ましい。本実施形態では、異屈折率領域15bの重心Gが、格子点O毎に設定される直線D上に配置される。そして、直線Dの傾斜角βは、位相変調領域151内の全ての格子点Oにおいて互いに同一であり、また、複数の位相変調領域151において互いに同一である。
【0053】
ここで、図8は、位相変調領域151における電磁界分布を示す図である。図8の(a)部は、M点での対称性Aの共振モードにおける電磁界分布を示す。図8の(b)部は、M点での対称性Bの共振モードにおける電磁界分布を示す。図8において、矢印は電界の大きさ及び向きを表し、色の濃淡は磁界の大きさを表す。本実施形態のように異屈折率領域15bの重心Gが直線D上に配置される場合(図には中央の異屈折率領域15bの配置の変化を模式的に示す)、いずれの電磁界分布においても、異屈折率領域15bの重心Gと格子点Oとの距離によらず(言い換えると、各異屈折率領域15bによって実現される位相値によらず)、偏光方向が揃うことが期待される。
【0054】
一方、図9は、比較例として、異屈折率領域15bの重心Gが格子点Oから一定の距離に配置され、格子点Oから重心Gを結ぶベクトルの格子点O周りの回転角が位相分布φ(x,y)に応じて異屈折率領域15b毎に設定されている場合における電磁界分布を示す図である。図9の(a)部は、M点での対称性Aの共振モードにおける電磁界分布を示す。図9の(b)部は、M点での対称性Bの共振モードにおける電磁界分布を示す。図9においても、矢印は電界の大きさ及び向きを表し、色の濃淡は磁界の大きさを表す。この比較例では、いずれの電磁界分布においても、異屈折率領域15bの格子点O周りの回転角に応じて偏光方向が変化する。従って、偏光方向が揃うことは、ほぼ期待できない。これらのことから、本実施形態のように異屈折率領域15bの重心Gが直線D上に配置され、位相に応じて重心Gと格子点Oとの距離が変化する形態が望ましい。
【0055】
前述したように、本実施形態の半導体発光素子1は、複数の位相変調領域151からそれぞれ出力された複数の光像を共通の照射領域に照射し、複数の光像を重ね合わせて干渉させることにより最終的な一つの光像(ホログラム)を形成する。図10は、複数の位相変調領域151から出力される複数の光像の例を概念的に示す図である。図10には、X方向に8列、Y方向に8行の計64個の光像LAが、その光強度が小さいほど濃く、その光強度が大きいほど淡く示されている。これらは、X方向に8列、Y方向に8行の計64個の位相変調領域151からそれぞれ出力された光像である。この例では、複数の位相変調領域151それぞれから出力される光像LAの光強度分布が、互いに直交する二方向(X方向及びY方向)における周期が位相変調領域151毎に異なる正弦波状の分布を含む。このような光像LAは、例えば離散コサイン変換(Discrete Cosine Transform:DCT)の基底画像として利用されることができる。すなわち、最終的な光像の光強度分布を離散コサイン変換し、得られた複数の基底画像を複数の位相変調領域151からそれぞれ出力させることによって、該最終的な光像を実現することができる。また、複数の位相変調領域151にそれぞれ対応する複数の電極部分161の駆動電流の大きさを変化させることにより、最終的な光像に対する各基底画像の寄与度を個別に調節して、時間的に変化する動的な光像を呈示することもできる。
【0056】
図11は、複数の位相変調領域151から出力される複数の光像の別の例を概念的に示す図である。この例は、離散ウェーブレット変換(Discrete Wavelet Transform:DWT)の基底画像として利用される複数の光像LAを示す。この例のように、最終的な光像の光強度分布を離散ウェーブレット変換し、得られた複数の基底画像を複数の位相変調領域151からそれぞれ出力させることでも、該最終的な光像を実現することができる。また、複数の位相変調領域151にそれぞれ対応する複数の電極部分161の駆動電流の大きさを変化させることにより、最終的な光像に対する各基底画像の寄与度を個別に調節して、時間的に変化する動的な光像を呈示することもできる。
【0057】
なお、離散コサイン変換及び離散ウェーブレット変換に限られず、例えば、遠方界に表示したい複数の光像の集まりから、機械学習(主性分分析又は辞書学習など)によってそれらの基底画像を学習してもよい。また、図10に示す例では、互いに直交する二方向(X方向及びY方向)における周期が位相変調領域151毎に異なっているが、一方向(X方向又はY方向)における周期が位相変調領域151毎に異なってもよい。
【0058】
図12は、複数の位相変調領域151から出力される複数の光像の更に別の例を概念的に示す図である。図12には、X方向に2列、Y方向に2行の計4個の光像LAが示されている。これらは、X方向に2列、Y方向に2行の計4個の位相変調領域151からそれぞれ出力された光像である。この例では、各位相変調領域151それぞれから出力される光像LAの光強度分布が、Y方向に沿って周期的に変化する正弦波状の分布を含む。そして、一方の対角線上に位置する2個の位相変調領域151それぞれから出力される光像LAの正弦波状の光強度分布のY方向における位相が、他方の対角線上に位置する2個の位相変調領域151それぞれから出力される光像LAの正弦波状の光強度分布のY方向における位相と異なる。この例では、一方の対角線上に位置する2個の位相変調領域151に対応する2個の電極部分161の駆動電流の大きさと、他方の対角線上に位置する2個の位相変調領域151に対応する2個の電極部分161の駆動電流の大きさとの比率を変化させることにより、最終的な光像に呈示される正弦波状の光強度分布の位相を自在に変化させることができる。図12に示す例のように、少なくとも2つの位相変調領域151それぞれから出力される光像LAの正弦波状の光強度分布の一方向(Y方向)における位相が、互いに異なってもよい。なお、各位相変調領域151それぞれから出力される光像LAの光強度分布が、二方向(X方向及びY方向)に沿って周期的に変化する正弦波状の分布を含んでもよい。その場合、少なくとも2つの位相変調領域151それぞれから出力される光像LAの正弦波状の光強度分布の二方向(X方向及びY方向)における位相が、互いに異なってもよい。
【0059】
続いて、複数の位相変調領域151それぞれから出力される光像を互いに位相同期させることを考慮した位相分布設計方法について詳細に説明する。なお、以下の説明においては、複数の異屈折率領域15bを、「複数の点」と称することがある。つまり、以下に説明する方法は、二次元状に分布する複数の点において光の位相を個別に変調する二以上の位相変調領域151の位相分布φ(x,y)を設計する方法である。また、以下に説明において、「実空間」とは位相変調領域151の空間を指し、「波数空間」とは照射領域における光像(ビームパターンともいう)の空間を指す。
[第1の設計方法]
【0060】
図13は、第1の設計方法を概念的に示す図である。まず、第1ステップとして、初期条件を設定する(図中の矢印B1)。位相変調領域151毎に、波数空間の振幅分布の初期値201と、波数空間の位相分布の初期値202とを含む複素振幅分布関数である第1関数203を設定する。波数空間の振幅分布の初期値201をF(kx,ky)とし、波数空間の位相分布の初期値202をθ0(kx,ky)とする場合、第1関数203はF(kx,ky)・eiθ0(kx,ky)として表される。このとき、波数空間の振幅分布の初期値201は、波数空間において予め定められた目標振幅分布204に設定されてもよい。なお、波数空間における目標振幅分布204をF(kx,ky)とすると、その光強度分布(すなわち所望の光像)はF (kx,ky)として与えられる。また、波数空間の位相分布の初期値202は、ランダムな位相分布205に設定されてもよい。
【0061】
更に、第1ステップでは、位相変調領域151毎に、第1関数203を、例えば逆高速フーリエ変換(Inverse Fast Fourier Transform;IFFT)などの逆フーリエ変換により、実空間の振幅分布211及び実空間の位相分布212を含む複素振幅分布関数である第2関数213に変換する(図中の矢印B2)。実空間の振幅分布211をA(x,y)とし、実空間の位相分布212をφ(x,y)とする場合、第2関数213はA(x,y)・eiφ(kx,ky)として表される。
【0062】
次に、第2ステップとして、各位相変調領域151における第2関数213の振幅分布211を、実空間の所定の目標強度分布に基づく目標振幅分布214に置き換える(図中の矢印B3,B4)。例えば、所定の目標強度分布をA (x,y)とすると、目標振幅分布はA(x,y)として与えられる。一例では、所定の目標強度分布A (x,y)はx,yによらず一定であり、目標振幅分布A(x,y)もまたx,yによらず一定である。また、このとき、各位相変調領域151における第2関数213の位相分布212はそのまま維持する(図中の矢印B5)。そして、位相変調領域151毎に、置き換え後の第2関数213を、例えば高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform;FFT)などのフーリエ変換により、波数空間の振幅分布221及び波数空間の位相分布222を含む複素振幅分布関数である第3関数223に変換する(図中の矢印B6)。波数空間の振幅分布221をF(kx,ky)とし、波数空間の位相分布222をθ(kx,ky)とする場合、第3関数223はF(kx,ky)・eiθ(kx,ky)として表される。
【0063】
次に、第3ステップとして、各位相変調領域151における第3関数223の位相分布222を、複数の位相変調領域151のうちの一つの位相変調領域151における第3関数223の位相分布222に揃える(図中の矢印B7)。このとき、位相分布222を揃える基準となる一つの位相変調領域151は任意に決定される。また、この第3ステップでは、各位相変調領域151における第3関数223の振幅分布221を目標振幅分布204に置き換える(図中の矢印B8,B9)。そして、位相変調領域151毎に、置き換え後の第3関数223を、IFFTなどの逆フーリエ変換により、実空間の振幅分布231及び実空間の位相分布232を含む複素振幅分布関数である第4関数233に変換する(図中の矢印B2)。実空間の振幅分布231をA(x,y)とし、実空間の位相分布232をφ(x,y)とする場合、第4関数233はA(x,y)・eiφ(kx,ky)として表される。
【0064】
以降、第2ステップの第2関数213を第4関数233に置き換えながら第2ステップ及び第3ステップを繰り返す。なお、第3ステップを繰り返す毎に、位相分布222を揃える基準となる一つの位相変調領域151の位置を変えずに固定してもよい。そして、最後の第3ステップにより変換された第4関数233の位相分布232を、各位相変調領域151の位相分布φ(x,y)とする(図中の矢印B10)。
【0065】
一例として、図14に示されるように、X方向に2列、Y方向に2行の計4個の位相変調領域151を有する位相変調層15を考える。そのうち対角線上に位置する2個の位相変調領域151が位相分布パターンAを有し、逆の対角線上に位置する2個の位相変調領域151が位相分布パターンBを有するものとする。或いは、図15に示されるように、第1行に含まれる2個の位相変調領域151が位相分布パターンBを有し、第2行に含まれる2個の位相変調領域151が位相分布パターンAを有してもよい。図16は、位相分布パターンA,Bの設計方法を概念的に示す図である。
【0066】
まず、第1ステップとして、初期値を設定する(図中の矢印B11)。すなわち、位相分布パターンAについて、波数空間の振幅分布F(kx,ky)の初期値と、波数空間の位相分布θ1(kx,ky)の初期値とを含む複素振幅分布関数である第1関数F(kx,ky)・eiθ1(kx,ky)を設定する(以下、Fiθ1と略記する)。また、位相分布パターンBについて、波数空間の振幅分布F(kx,ky)の初期値と、波数空間の位相分布θ2(kx,ky)の初期値とを含む複素振幅分布関数である第1関数F(kx,ky)・eiθ2(kx,ky)を設定する(以下、Fiθ2と略記する)。そして、位相分布パターンAの第1関数F・eiθ1を、IFFTなどの逆フーリエ変換により、実空間の振幅分布A(x,y)及び実空間の位相分布φ1(x,y)を含む複素振幅分布関数である第2関数A(x,y)・eiφ1(x,y)に変換する(図中の矢印B12。以下、A・eiφ1と略記する)。同様に、位相分布パターンBの第1関数F(x,y)・eiθ2(x,y)を、IFFTなどの逆フーリエ変換により、実空間の振幅分布A(x,y)及び実空間の位相分布φ2(x,y)を含む複素振幅分布関数である第2関数A(x,y)・eiφ2(x,y)に変換する(図中の矢印B13。以下、A・eiφ2と略記する)。
【0067】
次に、第2ステップとして、第2関数A・eiφ1の振幅分布Aを、実空間の所定の目標強度分布に基づく目標振幅分布A に置き換える。同様に、第2関数A・eiφ2の振幅分布Aを、実空間の所定の目標強度分布に基づく目標振幅分布A に置き換える(図中の矢印B14)。このとき、位相分布φ1及び位相分布φ2はそのまま維持される。そして、置き換え後の第2関数A ・eiφ1を、例えばFFTなどのフーリエ変換により、波数空間の振幅分布F及び波数空間の位相分布θ1を含む複素振幅分布関数である第3関数F・eiθ1に変換する(図中の矢印B15)。同様に、置き換え後の第2関数A ・eiφ2を、例えばFFTなどのフーリエ変換により、波数空間の振幅分布F及び波数空間の位相分布θ2を含む複素振幅分布関数である第3関数F・eiθ2に変換する(図中の矢印B16)。
【0068】
次に、第3ステップとして、第3関数F・eiθ2の位相分布θ2を、第3関数F・eiθ1の位相分布θ1に揃える。また、第3関数F・eiθ1の振幅分布F、及び第3関数F・eiθ2の振幅分布Fを、目標振幅分布F 及びF にそれぞれ置き換える(図中の矢印B17)。そして、第3関数F ・eiθ1を、IFFTなどの逆フーリエ変換により、実空間の振幅分布A及び実空間の位相分布φ1を含む複素振幅分布関数である第4関数A・eiφ1に変換する(図中の矢印B18)。同様に、第3関数F ・eiθ1を、IFFTなどの逆フーリエ変換により、実空間の振幅分布A及び実空間の位相分布φ2を含む複素振幅分布関数である第4関数A・eiφ2に変換する(図中の矢印B19)。
【0069】
以降、第2ステップの第2関数A・eiφ1及び第2関数A・eiφ2を第4関数A・eiφ1及び第4関数A・eiφ2にそれぞれ置き換えながら(図中の矢印B20)、第2ステップ及び第3ステップを繰り返す。そして、最後の第3ステップにより変換された第4関数A・eiφ1の位相分布φ1を、位相分布パターンAの位相分布φ(x,y)とする。また、最後の第3ステップにより変換された第4関数A・eiφ2の位相分布φ2を、位相分布パターンBの位相分布φ(x,y)とする。
【0070】
また、別の例として、図17に示された、X方向にm列、Y方向にn行の計m×n個の位相変調領域151を有する位相変調層15を考える。m×n個の位相変調領域151は互いに異なる位相分布パターンを有する。図18は、m×n個の位相分布パターンの設計方法を概念的に示す図である。
【0071】
まず、第1ステップとして、初期値を設定する(図中の矢印B41)。すなわち、m×n個の位相変調領域151に対して、波数空間の振幅分布F1,1(kx,ky)~Fm,n(kx,ky)の初期値と、波数空間の位相分布θ1,1(kx,ky)~θm,n(kx,ky)の初期値とをそれぞれ含む複素振幅分布関数である第1関数F1,1(kx,ky)・eiθ1,1(kx,ky)~Fm,n(kx,ky)・eiθm,n(kx,ky)を設定する(以下、F1,1iθ1,1~Fm,niθm,nと略記する)。そして、位相変調領域151毎に、第1関数F1,1iθ1,1~Fm,niθm,nを、IFFTなどの逆フーリエ変換により、実空間の振幅分布A1,1(x,y)~Am,n(x,y)及び実空間の位相分布φ1,1(x,y)~φm,n(x,y)をそれぞれ含む複素振幅分布関数である第2関数A1,1(x,y)・eiφ1,1(x,y)~Am,n(x,y)・eiφm,n(x,y)に変換する(図中の矢印群B42。以下、A1,1iφ1,1~Am,niφm,nと略記する)。
【0072】
次に、第2ステップとして、位相変調領域151毎に、第2関数A1,1iφ1,1~Am,niφm,nの振幅分布A1,1~Am,nを、実空間の所定の目標強度分布に基づく目標振幅分布A 1,1~A m,nに置き換える(図中の矢印B43)。このとき、位相分布φ1,1~φm,nはそのまま維持される。そして、置き換え後の第2関数A 1,1iφ1,1~A m,niφm,nを、例えばFFTなどのフーリエ変換により、位相変調領域151毎に、波数空間の振幅分布F1,1~Fm,n及び波数空間の位相分布θ1,1~θm,nをそれぞれ含む複素振幅分布関数である第3関数F1,1iθ1,1~Fm,niθm,nに変換する(図中の矢印群B44)。
【0073】
次に、第3ステップとして、第3関数F1,1iθ1,1~Fm,niθm,nの全ての位相分布θ1,1~θm,nを、第3関数F1,1iθ1,1の位相分布θ1,1に揃える。また、第3関数F1,1iθ1,1~Fm,niθm,nの振幅分布F1,1~Fm,nを、目標振幅分布F 1,1~F m,nにそれぞれ置き換える(図中の矢印B45)。そして、第3関数F 1,1iθ1,1~F m,niθ1,1を、IFFTなどの逆フーリエ変換により、実空間の振幅分布A1,1~Am,n及び実空間の位相分布φ1,1~φm,nをそれぞれ含む複素振幅分布関数である第4関数A1,1iφ1,1~Am,niφm,nに変換する(図中の矢印群B46)。
【0074】
以降、第2ステップの第2関数A1,1iφ1,1~Am,niφm,nを第4関数A1,1iφ1,1~Am,niφm,nにそれぞれ置き換えながら(図中の矢印B47)、第2ステップ及び第3ステップを繰り返す。そして、最後の第3ステップにより変換された第4関数A1,1iφ1,1~Am,niφm,nの位相分布φ1,1~φm,nそれぞれを、各位相変調領域151の位相分布φ(x,y)とする。
[第2の設計方法]
【0075】
図19は、第2の設計方法を概念的に示す図である。なお、第1ステップ及び第2ステップは上述した第1の設計方法と同様なので説明を省略する。
【0076】
初回の第3ステップでは、各位相変調領域151における第3関数223の位相分布222を、複数の位相変調領域151において同一である所定の位相分布に置き換える(図中の矢印B21)。所定の位相分布における複数の点(kx,ky)の位相値は、互いに等しくてもよい。この場合、所定の位相分布における複数の点(kx,ky)の位相値はゼロ(0rad)であってもよい。このとき、振幅分布221はそのまま維持される(図中の矢印B22)。そして、第3関数223を、IFFTなどの逆フーリエ変換により、第4関数233に変換する(図中の矢印B2)。
【0077】
第2関数213を第4関数233に置き換えて第2ステップを再び行い、その後の(第2回目の)第3ステップでは、第3関数223の振幅分布221を、目標振幅分布204に置き換える(図中の矢印B23,B24)。このとき、位相分布222はそのまま維持される(図中の矢印B25)。そして、置き換え後の第3関数223を、IFFTなどの逆フーリエ変換により、第4関数233に変換する(図中の矢印B2)。
【0078】
以降、第2ステップの第2関数213を第4関数233に置き換えながら第2ステップ及び第3ステップを繰り返し行う。その際、第3ステップにおいて、位相分布222の所定の位相分布への置き換えと、振幅分布221の目標振幅分布204への置き換えとを交互に行う。第3ステップの繰り返し毎に、所定の位相分布を変えずに固定してもよい。最後の第3ステップにより変換された第4関数233の位相分布232を、各位相変調領域151の位相分布φ(x,y)とする(図中の矢印B10)。
【0079】
一例として、図14または図15に示された、X方向に2列、Y方向に2行の計4個の位相変調領域151を有する位相変調層15を考える。そのうち2個の位相変調領域151が位相分布パターンAを有し、他の2個の位相変調領域151が位相分布パターンBを有する。図20は、位相分布パターンA,Bの設計方法を概念的に示す図である。なお、第1ステップ及び第2ステップは上述した第1の設計方法と同様なので説明を省略する。
【0080】
初回の第3ステップでは、第3関数F・eiθ1の位相分布θ1、及び第3関数F・eiθ2の位相分布θ2を、位相分布パターンA及び位相分布パターンBにおいて共通の所定の位相分布θ’に置き換える(図中の矢印B31)。このとき、振幅分布F及び振幅分布Fはそのまま維持される。そして、第3関数F・eiθ’及び第3関数F・eiθ’を、IFFTなどの逆フーリエ変換により、第4関数A・eiφ1及び第4関数A・eiφ2にそれぞれ変換する(図中の矢印B32,B33)。
【0081】
第2関数A・eiφ1及び第2関数A・eiφ2を第4関数A・eiφ1及び第4関数A・eiφ2にそれぞれ置き換えて第2ステップを再び行い(図中の矢印B34~B36)、その後の(第2回目の)第3ステップでは、第3関数F・eiθ1の振幅分布F、及び第3関数F・eiθ2の振幅分布Fを、目標振幅分布F 及びF にそれぞれ置き換える(図中の矢印B37)。そして、第3関数F ・eiθ1及び第3関数F ・eiθ2を、IFFTなどの逆フーリエ変換により、第4関数A・eiφ1及び第4関数A・eiφ2にそれぞれ変換する(図中の矢印B38,B39)。
【0082】
以降、第2ステップの第2関数A・eiφ1及び第2関数A・eiφ2を第4関数A・eiφ1及び第4関数A・eiφ2にそれぞれ置き換えながら(図中の矢印B20)、第2ステップ及び第3ステップを繰り返す。その際、第3ステップにおいて、位相分布θ1,θ2の置き換え(図中の矢印B31)と、振幅分布F,Fの置き換え(図中の矢印B37)とを交互に行う。そして、最後の第3ステップにより変換された第4関数A・eiφ1の位相分布φ1を、位相分布パターンAの位相分布φ(x,y)とする。また、最後の第3ステップにより変換された第4関数A・eiφ2の位相分布φ2を、位相分布パターンBの位相分布φ(x,y)とする。
【0083】
また、別の例として、図17に示された、X方向にm列、Y方向にn行の計m×n個の位相変調領域151を有する位相変調層15を考える。m×n個の位相変調領域151は互いに異なる位相分布パターンを有する。図21は、m×n個の位相分布パターンの設計方法を概念的に示す図である。なお、第1ステップ及び第2ステップは上述した第1の設計方法と同様なので説明を省略する。
【0084】
初回の第3ステップでは、第3関数F1,1iθ1,1~Fm,niθm,nの全ての位相分布θ1,1~θm,nを、共通且つ所定の位相分布θ’に置き換える(図中の矢印B51)。このとき、振幅分布F1,1~Fm,nはそのまま維持される。そして、第3関数F1,1iθ’~Fm,niθ’を、IFFTなどの逆フーリエ変換により、第4関数A1,1iφ1,1~Am,niφm,nにそれぞれ変換する(図中の矢印群B52)。
【0085】
第2関数A1,1iφ1,1~Am,niφm,nを第4関数A1,1iφ1,1~Am,niφm,nにそれぞれ置き換えて第2ステップを再び行い(図中の矢印B53及び矢印群B54)、その後の(第2回目の)第3ステップでは、第3関数F1,1iθ1,1~Fm,niθm,nの振幅分布F1,1~Fm,nを、目標振幅分布F 1,1~F m,nにそれぞれ置き換える(図中の矢印B55)。そして、第3関数F 1,1iθ1,1~F m,niθm,nを、IFFTなどの逆フーリエ変換により、第4関数A1,1iφ1,1~Am,niφm,nにそれぞれ変換する(図中の矢印群B56)。
【0086】
以降、第2ステップの第2関数A1,1iφ1,1~Am,niφm,nを第4関数A1,1iφ1,1~Am,niφm,nにそれぞれ置き換えながら(図中の矢印B47)、第2ステップ及び第3ステップを繰り返す。その際、第3ステップにおいて、位相分布θ1,1~θm,nの置き換え(図中の矢印B51)と、振幅分布F1,1~Fm,nの置き換え(図中の矢印B55)とを交互に行う。そして、最後の第3ステップにより変換された第4関数A1,1iφ1,1~Am,niφm,nの位相分布θ1,1~θm,nそれぞれを、各位相変調領域151の位相分布φ(x,y)とする。
【0087】
以上に説明した、本実施形態の半導体発光素子1によって得られる効果について説明する。半導体発光素子1においては、電極16及び電極17の一方または双方が、複数の位相変調領域151とそれぞれ重なる複数の電極部分(例えば、複数の電極部分161)を含む。複数の電極部分は、互いに電気的に分離している。したがって、複数の電極部分に対してそれぞれ独立した電流を供給することができる。これにより、複数の位相変調領域151それぞれに光を供給する活性層12の複数の領域それぞれの発光強度が独立して制御され、複数の位相変調領域151から出力される複数の光像LAの光強度もまた互いに独立して制御される。複数の光像LAは、共通の照射領域に照射される。このとき、複数の位相変調領域151それぞれから出力される光像LAは互いに位相同期しているので、複数の光像LAは、共通の照射領域において互いに干渉することができる。このように、本実施形態の半導体発光素子1によれば、複数の位相変調領域151から出力される複数の光像LAの光強度を個別に調整しつつ複数の光像LAを互いに干渉させて一つの最終的な光像とすることができるので、最終的な光像を動的に変化させることができる。
【0088】
前述したように、複数の位相変調領域151それぞれから出力される光像LAの光強度分布は、少なくとも一方向における周期又は位相が、少なくとも2つの位相変調領域151において互いに異なる正弦波状の分布を含んでもよい。或いは、複数の位相変調領域151それぞれから出力される光像LAの光強度分布は、互いに直交する二方向における周期又は位相が、少なくとも2つの位相変調領域151において互いに異なる正弦波状の分布を含んでもよい。これらの場合、複数の位相変調領域151から出力される複数の光像LAを、該複数の光像LAの光強度を個別に調整しつつ互いに重ね合わせることにより、任意の最終的な光像を得ることができる。特に、周期が異なる場合、複数の位相変調領域151から出力される複数の光像LAは、離散コサイン変換における複数の基底画像となることができる。
【0089】
本実施形態のように、仮想平面Pに沿った仮想的な正方格子を設定し、正方格子を構成する複数の格子点Oに対し、対応する格子点Oを通り正方格子に対して互いに同一角度βで傾斜する直線Dを格子点O毎に設定する。このとき、複数の位相変調領域151それぞれにおいて、複数の異屈折率領域15bそれぞれの重心Gが対応する直線D上に配置され、各異屈折率領域15bの重心Gと、各異屈折率領域15bに対応する格子点Oとの距離r(x,y)が、所定の光像LAに応じて個別に設定されていてもよい。例えばこのような構成によって、位相変調領域151をそれぞれ含む半導体発光素子1の複数の部分それぞれがS-iPMレーザを構成し、互いに異なる所定の光像LAを出力することができる。また、複数の位相変調領域151の間で偏光方向を揃えることができる。
【0090】
本実施形態のように、位相変調層15は、互いに隣り合う位相変調領域151の間に位置する接続領域152を有してもよい。そして、接続領域152は、第1屈折率を有する基本領域15aと、第2屈折率を有する複数の異屈折率領域15bとを含み、接続領域152の複数の異屈折率領域15bの重心が正方格子の格子点Oに位置してもよい。この場合、互いに隣り合う位相変調領域151の間に間隔が設けられるので、複数の電極部分161同士の間隔を拡げることが可能になり、これらの位相変調領域151に光を供給する活性層12の各領域に供給されるべき電流の一部が隣接する領域に漏れる、いわゆる領域間クロストークを低減することができる。更に、接続領域152の複数の異屈折率領域15bの重心Gが正方格子の格子点Oに位置することによって、複数の位相変調領域151それぞれから出力される光像LAの位相を互いに同期させることができる。
【0091】
本実施形態のように、半導体積層20の積層方向から見た接続領域152の平面形状が格子状であってもよい。この場合、全ての位相変調領域151の間に間隔を設けることができるので、領域間クロストークをより効果的に低減することができる。
【0092】
本実施形態のように、半導体積層20は半導体基板10の主面10a上に設けられ、半導体積層20の第2面20bが半導体基板10の主面10aと対向しており、電極16は、第1面20a上に設けられて複数の電極部分161を含み、電極17は半導体基板10の裏面10b上に設けられてもよい。このように、半導体積層20に関して半導体基板10とは反対側の面上に複数の電極部分161が設けられることにより、複数の電極部分161と活性層12との距離を短くすることができる。したがって、領域間クロストークを低減することができる。
[第1変形例]
【0093】
図22は、上記実施形態の第1変形例として、半導体発光素子1Aの積層構造を示す断面図である。半導体発光素子1Aが上記実施形態と相違する点は、半導体積層20がクラッド層13の代わりにクラッド層13Aを有する点である。クラッド層13Aの配置は、上記実施形態のクラッド層13と同様である。半導体発光素子1Aの他の構成については、上記実施形態と同様であるので詳細な説明を省略する。なお、本変形例においては、電極16が複数の電極部分161を必ず含む。
【0094】
クラッド層13Aは、高抵抗領域21と、基本領域22とを含む。基本領域22の構成は、上記実施形態のクラッド層13と同様である。高抵抗領域21は、基本領域22よりも高い抵抗率を有する。高抵抗領域21は、絶縁体から成ってもよい。
【0095】
高抵抗領域21は、半導体積層20の積層方向から見て、互いに隣り合う位相変調領域151の間に位置する。また、高抵抗領域21は、位相変調層15の接続領域152上に設けられている。高抵抗領域21を仮想平面Pに投影してできる領域は、接続領域152を仮想平面Pに投影してできる領域に含まれる。図示例のように位相変調層15がクラッド層13Aと活性層12との間に設けられている場合、高抵抗領域21は、クラッド層13Aの第1面20a側の界面から位相変調層15のキャップ領域15cに達する。但し、高抵抗領域21は基本領域15a及び異屈折率領域15bには接触しない。言い換えると、半導体積層20の積層方向(Z方向)において、高抵抗領域21と基本領域15a及び異屈折率領域15bとの間には間隔が設けられている。
【0096】
図23は、クラッド層13Aの平面図(厚さ方向から見た図)である。上述したように、クラッド層13Aは、高抵抗領域21と、基本領域22とを含む。半導体積層20の積層方向から見た高抵抗領域21の平面形状は、例えば格子状である。基本領域22は、格子状に形成された高抵抗領域21の複数の開口部21aそれぞれに設けられている。
【0097】
複数の開口部21aそれぞれの平面形状は例えば正方形または長方形である。半導体積層20の積層方向から見て、複数の開口部21aそれぞれは、対応する位相変調領域151と重なる。高抵抗領域21は、半導体積層20の積層方向から見て、互いに隣り合う位相変調領域151の間に設けられた部分21bと、複数の位相変調領域151を一括して囲む外側の枠状の部分21cとを含む。
【0098】
なお、図23に示された高抵抗領域21は基本領域22を貫通して位相変調層15に達しているが、高抵抗領域21は位相変調層15に達していなくてもよい。その場合、高抵抗領域21の最下端は基本領域22内に位置する。
【0099】
本変形例のように、半導体積層のクラッド層は、半導体積層の積層方向から見て、互いに隣り合う位相変調領域151の間に位置する高抵抗領域21を含んでもよい。この場合、各電極部分161と、各電極部分161の直下に位置する活性層12の領域との間を流れる電流が、隣りの電極部分161の直下に位置する活性層12の領域に漏洩すること(すなわち領域間クロストーク)を低減することができる。
【0100】
本変形例のように、高抵抗領域21は、クラッド層13Aの第1面20a側の界面から位相変調層15に達してもよい。この場合、クラッド層13Aの厚さ方向の全域に亘って電流の漏洩を防ぐことができるので、領域間クロストークをより効果的に低減することができる。
【0101】
本変形例のように、半導体積層20の積層方向から見た高抵抗領域21の平面形状は格子状であってもよい。この場合、積層方向から見て全ての位相変調領域151の間に高抵抗領域21を設けることができるので、領域間クロストークをより効果的に低減することができる。
[第2変形例]
【0102】
図24は、上記実施形態の第2変形例として、半導体発光素子1Bの構成を示す断面図である。半導体発光素子1Bは、位相変調層15の代わりに位相変調層15Aを備える点、及びλ/4板24を備える点において上記実施形態と異なる。λ/4板24は、仮想平面Pに沿って延在しており、半導体基板10の裏面10b(すなわち半導体発光素子1Bの光出射面)と対向して配置される。λ/4板24の軸は、図3及び図4に示された直線Dと直交する。
【0103】
図25は、位相変調層15Aを示す平面図である。位相変調層15Aは、上記実施形態の位相変調層15の構成に加えて、位相シフト領域153を更に有する。位相シフト領域153は、互いに隣り合う位相変調領域151の間に設けられている。図示例では、位相シフト領域153は、接続領域152の部分152bの内部に設けられ、X方向に沿って延びる複数の部分と、Y方向に沿って延びる複数の部分とが互いに交差して成る。半導体積層20の積層方向から見た位相シフト領域153の平面形状は、例えば格子状である。
【0104】
図26は、位相シフト領域153及びその周辺の接続領域152を部分的に拡大して示す平面図である。図26に示されるように、位相シフト領域153は、位相シフト領域153を挟んで一方側に位置する接続領域152に設定される正方格子と、他方側に位置する接続領域152に設定される正方格子との間に設けられる。位相シフト領域153は、任意の幅を有する。位相シフト領域153の幅に応じて、位相シフト領域153を挟んで一方側に位置する接続領域152の正方格子と、他方側に位置する接続領域152の正方格子とが互いにずれる。これらの正方格子は、当該接続領域152に隣接する位相変調領域151に設定される正方格子と共通である。従って、互いに隣り合う位相変調領域151の正方格子が互いにずれることとなる。
【0105】
一例では、正方格子の格子定数をaとするとき、位相シフト領域153はn・a+a/2(nは0以上の整数)の幅を有する。これにより、位相シフト領域153を挟んで一方側に位置する接続領域152の正方格子と、他方側に位置する接続領域152の正方格子とは、n・a+a/2だけ互いにずれる。従って、互いに隣り合う位相変調領域151の正方格子が、n・a+a/2だけ互いにずれることとなる。この場合、互いに隣り合う位相変調領域151それぞれから出力される光像LAの位相は互いにπ(rad)ずれる。したがって、これらの光像LAがλ/4板24を通過することによって、互いに隣り合う位相変調領域151それぞれから互いに逆回りの円偏光を出力させることができる。これにより、左回り円偏光及び右回り円偏光の強度比を電気的に変化させることが可能となる。このような半導体発光素子は、例えば光量子通信または量子コンピュータの光源として使用され得る。
[第3変形例]
【0106】
位相変調層15の厚さ方向と垂直な断面における複数の異屈折率領域15bの面積は、所定の光像LAに応じて個別に設定されてもよい。その場合、位相だけでなく光強度をも異屈折率領域15b毎に調整することができるので、光像LAの設計の自由度を高めることができる。図27は、一つの単位構成領域Rを拡大して示す図である。同図に示す例では、異屈折率領域15bの重心Gが格子点Oと一致する場合に異屈折率領域15bの面積が最も大きくなり、異屈折率領域15bの重心Gが格子点Oから離れるほど(すなわち、距離r(x,y)が大きくなるほど)異屈折率領域15bの面積が小さくなっている。このように、格子点Oに対する異屈折率領域15bの重心Gの相対位置に応じて異屈折率領域15bの面積を変化させてもよい。これにより、位相分布φ(x,y)に依らず光強度を一定にすることが可能になる。
[第1実施例]
【0107】
本発明者は、図14に示された4つの位相変調領域151を有する位相変調層15に対して上記実施形態の位相分布設計方法を採用し、位相分布設計シミュレーションを行った。図28の(a)部は、位相分布パターンAを設計する際に設定した、照射領域(遠方界)における所望の光像を示す。図28の(a)部において、色が淡いほど光強度が大きく、色が濃いほど光強度が小さい。図28の(a)部に示されるように、位相分布パターンAについては、一方向に沿って周期的に光強度が変化する正弦波状の光強度分布を有する光像を目標とした。図28の(b)部は、(a)部に示された光像を波数空間に変換したもの、すなわち波数空間における目標振幅分布を示す。図28の(c)部は、(b)部に示された目標振幅分布に基づいて算出された、位相分布パターンAを示す図である。図28の(c)部において、色が淡いほど2π(rad)に近く、色が濃いほど0(rad)に近い。
【0108】
図29の(a)部は、位相分布パターンBを設計する際に設定した、照射領域(遠方界)における所望の光像を示す。図29の(a)部においても、色が淡いほど光強度が大きく、色が濃いほど光強度が小さい。図29の(a)部に示されるように、位相分布パターンBについては、図28の(a)部における光強度の変化方向と直交する方向に沿って周期的に光強度が変化する正弦波状の光強度分布を有する光像を目標とした。但し、正弦波の周期は図28の(a)部と同じとした。図29の(b)部は、(a)部に示された光像を波数空間に変換したもの、すなわち波数空間における目標振幅分布を示す。図29の(c)部は、(b)部に示された目標振幅分布に基づいて算出された、位相分布パターンBを示す図である。図29の(c)部においても、色が淡いほど2π(rad)に近く、色が濃いほど0(rad)に近い。
【0109】
図30の(a)部は、一方の対角線上に位置する2個の位相変調領域151それぞれに位相分布パターンAを与え、他方の対角線上に位置する2個の位相変調領域151それぞれに位相分布パターンBを与えた様子を示す図である。図30の(b)部は、各電極部分161の電流を個別に制御することによって実現される、一方の対角線上に位置する2個の位相変調領域151の光強度と、他方の対角線上に位置する2個の位相変調領域151の光強度との違いを概念的に示す図である。図30の(b)部において、色が淡いほど光強度が大きく、色が濃いほど光強度が小さい。
【0110】
図31は、位相分布パターンAを有する2個の位相変調領域151から出射される光像(図28の(a)部を参照)と、位相分布パターンBを有する2個の位相変調領域151から出射される光像(図29の(a)部を参照)とを互いに干渉させたときに想定される、最終的な光像を示す図である。これらの光像を干渉させると、光強度のピーク同士は互いに強め合い、光強度のボトム同士は互いに弱め合って、市松模様のような光強度分布が得られることが期待される。
【0111】
図32は、本シミュレーションによって得られた最終的な光像を示す図である。図32の(a)部は、上記実施形態の第1の設計方法によって得られた光像を示す。図32の(b)部は、上記実施形態の第2の設計方法によって得られた光像を示す。これらの図を比較すると、第2の設計方法によれば、市松模様が明瞭になっていることがわかる。また、第1の設計方法によれば、第2の設計方法と比較して、市松模様が更に明瞭になっていることがわかる。このシミュレーションでは、市松模様が明瞭であるほど、位相同期が好適に行われて光像同士が精度良く干渉していることを示す。従って、第1の設計方法又は第2の設計方法により、複数の位相変調領域151からそれぞれ出力される複数の光像の位相を互いに同期させることができ、複数の光像を一つの領域に重ね合わせて形成するホログラムに所定の干渉効果を生じさせ得ることが明らかとなった。また、この効果は、第1の設計方法の方が第2の設計方法よりも顕著であることが明らかとなった。
[第2実施例]
【0112】
続いて、本発明者は、図14に示された4つの位相変調領域151を有する位相変調層15に対して上記実施形態の第1の設計方法を採用し、別の位相分布設計シミュレーションを行った。図33の(a)部は、位相分布パターンAを設計する際に設定した、照射領域(遠方界)における所望の光像を示す。図33の(a)部において、色が淡いほど光強度が大きく、色が濃いほど光強度が小さい。図33の(a)部に示されるように、位相分布パターンAについては、一方向に沿って周期的に光強度が変化する正弦波状の光強度分布を有する光像を目標とした。図33の(b)部は、(a)部に示された光像を波数空間に変換したもの、すなわち波数空間における目標振幅分布を示す。図33の(c)部は、(b)部に示された目標振幅分布に基づいて算出された、位相分布パターンAを示す図である。図33の(c)部において、色が淡いほど2π(rad)に近く、色が濃いほど0(rad)に近い。
【0113】
図34の(a)部は、位相分布パターンBを設計する際に設定した、照射領域(遠方界)における所望の光像を示す。図34の(a)部においても、色が淡いほど光強度が大きく、色が濃いほど光強度が小さい。図34の(a)部に示されるように、位相分布パターンBについても、位相分布パターンAと同様に、一方向に沿って周期的に光強度が変化する正弦波状の光強度分布を有する光像を目標とした。但し、正弦波の周期を、位相分布パターンAを設計する際の所望の光像と同じとし、正弦波の位相を、位相分布パターンAを設計する際の所望の光像に対してシフトさせた。図34の(b)部は、(a)部に示された光像を波数空間に変換したもの、すなわち波数空間における目標振幅分布を示す。図34の(c)部は、(b)部に示された目標振幅分布に基づいて算出された、位相分布パターンBを示す図である。図34の(c)部においても、色が淡いほど2π(rad)に近く、色が濃いほど0(rad)に近い。
【0114】
図35の(a)部は、一方の対角線上に位置する2個の位相変調領域151それぞれに位相分布パターンAを与え、他方の対角線上に位置する2個の位相変調領域151それぞれに位相分布パターンBを与えた様子を示す図である。図35の(b)部は、各電極部分161の電流を個別に制御することによって実現される、一方の対角線上に位置する2個の位相変調領域151の光強度と、他方の対角線上に位置する2個の位相変調領域151の光強度との違いを概念的に示す図である。図35の(b)部において、色が淡いほど光強度が大きく、色が濃いほど光強度が小さい。
【0115】
図36は、位相分布パターンAを有する2個の位相変調領域151から出射される光像(図27の(a)部を参照)と、位相分布パターンBを有する2個の位相変調領域151から出射される光像(図34の(a)部を参照)とを互いに干渉させたときに想定される、最終的な光像を示す図である。これらの光像を干渉させると、位相分布パターンAを有する2個の位相変調領域151から出射される光像の光強度と、位相分布パターンBを有する2個の位相変調領域151から出射される光像の光強度との比に応じた位相を有する正弦波状の光強度分布が得られることが期待される。
【0116】
図37及び図38は、本シミュレーションによって得られた最終的な光像を示す図である。図37は、位相分布パターンAを有する位相変調領域151から出射される光像(図27の(a)部を参照)と、位相分布パターンBを有する位相変調領域151から出射される光像(図34の(a)部を参照)との位相差が45°である場合を示す。図38は、これらの光像の位相差が135°である場合を示す。位相分布パターンAを有する位相変調領域151から出射される光像の光強度をPA、位相分布パターンBを有する位相変調領域151から出射される光像の光強度をPBとしたとき、光強度比は(PA/PB)として表される。光強度比の変化に応じた位相の変化の理解を容易にするため、図37及び図38には、光強度比(PA/PB)を0/1.00、0.25/0.75、0.50/0.50、0.75/0.25、及び1.00/0としたときの最終的な光像が、光強度の変化方向と交差する方向に並んで示されている。
【0117】
これらの図に示されるように、上記実施形態の半導体発光素子によれば、互いに異なる位相分布パターンを有する複数の位相変調領域151から出射される光像の光強度比を動的に変化させることによって、位相を動的に変化させることが可能な正弦波状の光強度分布を実現できる。
【0118】
本開示による半導体発光素子は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では、光像LAの例として、少なくとも2つの光像LAにおいて周期又は位相が互いに異なる正弦波状の光像を示したが、光像LAはこれに限られない。本開示による半導体発光素子によれば、任意の光像LAを干渉させて最終的な光像を得ることができる。
【符号の説明】
【0119】
1,1A,1B…半導体発光素子、10…半導体基板、10a…主面、10b…裏面、11…クラッド層、12…活性層、13…クラッド層、14…コンタクト層、15,15A…位相変調層、15a…基本領域、15b…異屈折率領域、15c…キャップ領域、16…電極(第1電極)、17…電極(第2電極)、17a…開口、18…保護膜、19…反射防止膜、20…半導体積層、20a…第1面、20b…第2面、21…高抵抗領域、22…基本領域、24…λ/4板、31…駆動回路、32…電源回路、33~35…配線、151…位相変調領域、152…接続領域、152a…開口部、152b,152c…部分、153…位相シフト領域、161…電極部分、201…波数空間の振幅分布の初期値、202…波数空間の位相分布の初期値、203…第1関数、204…目標振幅分布、205…ランダム位相分布、211…実空間の振幅分布、212…実空間の位相分布、213…第2関数、214…目標振幅分布、221…波数空間の振幅分布、222…波数空間の位相分布、223…第3関数、231…実空間の振幅分布、232…実空間の位相分布、233…第4関数、D…直線、G…重心、L…レーザ光、LA…光像、O…格子点、P…仮想平面、R…単位構成領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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