(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131387
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】固定金具および接合方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20230914BHJP
E04B 1/21 20060101ALI20230914BHJP
E04B 1/26 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
E04B1/58 503L
E04B1/58 503A
E04B1/21
E04B1/26 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036112
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】516152952
【氏名又は名称】構法開発株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507011611
【氏名又は名称】株式会社進富
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】大西 克則
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA01
2E125AC01
2E125AC23
2E125AG13
2E125BB08
2E125BD01
2E125BE07
2E125BF06
2E125CA05
2E125CA13
2E125CA81
2E125EA12
2E125EB01
(57)【要約】
【課題】GIR接合やケミカルアンカー(登録商標)接合において、棒状接合具が挿入された固定対象物の穴内部に接着剤が充満しているか否かを容易に判定することができる固定金具と、これを利用した接合方法を提供すること。
【解決手段】固定金具は、中央に開口部を備えた筒状締結部材と、円形穴が設けられた平板部を備えた金具本体と、を含み、前記筒状締結部材は、一端に切欠溝が設けられており、前記開口部と前記円形穴とが重なる位置で、前記筒状締結部材の前記一端と前記平板部の一方の面とが固定されており、かつ、前記切欠溝を通じて前記開口部と前記筒状締結部材の外側とが連通している。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央に開口部を備えた筒状締結部材と、
円形穴が設けられた平板部を備えた金具本体と、
を含み、
前記筒状締結部材は、一端に切欠溝が設けられており、
前記開口部と前記円形穴とが重なる位置で、前記筒状締結部材の前記一端と前記平板部の一方の面とが固定されており、かつ、前記切欠溝を通じて前記開口部と前記筒状締結部材の外側とが連通している、固定金具。
【請求項2】
前記筒状締結部材がナットであり、軸方向の一端に前記切欠溝が設けられている、請求項1の固定金具。
【請求項3】
固定対象物と、請求項1の固定金具と、棒状接合具との接合方法であって、
以下の工程:
固定対象物に設けられた穴部に接着剤を注入する第1工程;
前記穴部の周囲に前記固定金具の前記平板部の他方の面を当接させ、前記筒状締結部材の前記開口部、前記金具本体の前記円形穴、および、前記固定対象物の穴部の位置を一致させる第2工程;
前記棒状接合具を、前記筒状締結部材の前記開口部および前記金具本体の前記円形穴を通じて前記固定対象物の穴部に挿入し、前記接着剤によって前記棒状接合具と前記固定対象物とを固定する第3工程
を含む、接合方法。
【請求項4】
前記第3工程は、前記筒状締結部材の前記切欠溝から外側に流出する前記接着剤の有無によって、前記穴部内に前記接着剤が充満しているか否かを判定すること含む、請求項3の接合方法。
【請求項5】
前記棒状接合具は頭部を有し、
前記第3工程では、前記棒状接合具が前記固定対象物の穴部の所定深さまで挿入されると、前記頭部と前記筒状締結部材とが上下方向に当接する、請求項3または4の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定金具および接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、木造建築物において、木材同士を異種部材(例えば金物や鋼棒など)で軸方向に接合する方法として、GIR(Glued in Rod)接合が知られている。GIR(Glued in Rod)接合は、木材に穴をあけ、そこに挿入された棒状接合具との空隙に注入・充填された接着剤の硬化により、応力を接着剤の付着力と接合具を介して伝達して接合耐力を発生させる接合法である。
【0003】
また、GIR接合に関連する技術として、例えば、特許文献1、2などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-199936号公報
【特許文献2】特開2020-172069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、例えば、GIR接合を利用した木造建築物の構造補強においては、木材に形成した穴付近に、棒状接合具とともに所望の形状の金具を固定する場合がある。このような場合、木材の穴の周囲が金具で覆われるため、穴に棒状接合具を挿入した際、穴内部(棒状接合具と穴との空隙)に接着剤が充満しているか否かを目視で確認し難いという問題があった。
【0006】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、GIR接合やケミカルアンカー(登録商標)接合において、棒状接合具が挿入された固定対象物(例えば、木材やコンクリート)の穴内部に接着剤が充満しているか否かを容易に判定することができる固定金具と、これを利用した接合方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の固定金具は、
中央に開口部を備えた筒状締結部材と、
円形穴が設けられた平板部を備えた金具本体と、
を含み、
前記筒状締結部材は、一端に切欠溝が設けられており、
前記開口部と前記円形穴とが重なる位置で、前記筒状締結部材の前記一端と前記平板部の一方の面とが固定されており、かつ、前記切欠溝を通じて前記開口部と前記筒状締結部材の外側とが連通していることを特徴としている。
【0008】
本発明の接合方法は、固定対象物と、請求項1の固定金具と、棒状接合具との接合方法であって、以下の工程:
固定対象物に設けられた穴部に接着剤を注入する第1工程;
前記穴部の周囲に前記固定金具の前記平板部の他方の面を当接させ、前記筒状締結部材の前記開口部、前記金具本体の前記円形穴、および、前記固定対象物の穴部の位置を一致させる第2工程;
前記棒状接合具を、前記筒状締結部材の前記開口部および前記金具本体の前記円形穴を通じて前記固定対象物の穴部に挿入し、前記接着剤によって前記棒状接合具と前記固定対象物とを固定する第3工程
を含むことを技術的特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の固定金具および接合方法によれば、GIR接合やケミカルアンカー(登録商標)接合において、棒状接合具が挿入された固定対象物の穴内部に接着剤が充満しているか否かを容易に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の固定金具の一実施形態を例示した側面図である。
【
図2】
図1に例示した固定金具における筒状締結部材(ナット)の斜視図である。
【
図3】本発明の木材と棒状接合具との接合方法の一実施形態を例示した概要図である。
【
図4】本発明の木材と棒状接合具との接合方法の一実施形態を例示した概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の固定金具の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の固定金具の一実施形態を例示した側面図である。
図2は、
図1に例示した固定金具における筒状締結部材の斜視図である。
【0012】
固定金具1は、筒状締結部材2と、金具本体3とを備えている。
【0013】
筒状締結部材2は、中央に開口部21を備え、一端に切欠溝22が設けられている。
【0014】
具体的には、
図1および
図2に示した実施形態では、筒状締結部材2として、溝付き六角ナットを例示している。具体的には、この筒状締結部材2は、中央の略円柱状の開口部21を形成する内壁面に雌ねじが形成され、軸方向の一端に複数の切欠溝22が設けられている。切欠溝22は、軸方向の一端側において、筒状締結部材2(ナット)の外周部23を径方向に貫通しており、中央の開口部21と外周部23の外側とが切欠溝22を通じて連通している。
【0015】
切欠溝22の位置、数、幅、深さは特に限定されず、固定対象物(例えば、木材やコンクリート)の穴部の大きさや穴部に注入される接着剤の量などに応じて適宜設定することができる。
【0016】
また、筒状締結部材2の外形、軸方向の長さや開口部21の内径なども、後述する棒状接合部の形態や径に応じて適宜設計することができる。
【0017】
金具本体3は、円形穴31が設けられた平板部32を備えている。
【0018】
平板部32は、薄板状金属であることが好ましい。平板部32の形状は特に限定されず、所望の接合構造に応じて適宜設定することができるが、例えば、正面視矩形状、正面視円形状などを例示することができる。
【0019】
円形穴31の大きさは、筒状締結部材2の開口部21の大きさと対応している。
【0020】
金具本体3は、平板部32を備えていればよく、全体の形状などは特に限定されない。すなわち、金具本体3は、例えば、木造建築物の構造補強に利用され得る各種の形態であってよく、平板部32の端部から屈曲する起立片などを有していてもよい。
【0021】
固定金具1は、筒状締結部材2の一端(切欠溝22が設けられている側の端部)と、金具本体3の平板部32の一方の面とが互いに当接し、固定されている。この状態に置いて、固定金具1は、筒状締結部材2の開口部21と、金具本体3の平板部32の円形穴31が上下方向に重なっている。筒状締結部材2と金具本体3との固定方法は特に限定されず、例えば、溶接や接着剤による方法を例示することができる。
【0022】
筒状締結部材2の切欠溝22は、金具本体3の平板部32との間に空隙を形成している。したがって、固定金具1は、筒状締結部材2の切欠溝22を通じて、筒状締結部材2の開口部21と外側とが連通している。
【0023】
次に、本発明の接合方法の一実施形態について説明する。
【0024】
本発明の接合方法は、固定対象物と、上述した本発明の固定金具と、棒状接合具との接合方法である。
図3および
図4は、本発明の接合方法の一実施形態を例示した概要図である。
【0025】
本発明の接合方法は、以下の工程:
固定対象物Wに設けられた穴部Hに接着剤Gを注入する第1工程;
穴部Hの周囲に固定金具1の平板部32の他方の面を当接させ、筒状締結部材2の開口部21、金具本体3の円形穴31、および、固定対象物Wの穴部Hの位置を一致させる第2工程;
棒状接合具Bを、筒状締結部材2の開口部21および金具本体3の円形穴31を通じて固定対象物Wの穴部Hに挿入し、接着剤Gによって棒状接合具Bと固定対象物Wとを固定する第3工程
を含む。
【0026】
以下、各工程について説明する。
【0027】
第1工程では、固定対象物(例えば、木材やコンクリートなど)Wに設けられた穴部Hに接着剤Gを注入する。
【0028】
穴部Hは、ドリルなどを用いて、所定の径、深さに形成することができる。穴部H内は、適宜、清掃等することができる。
【0029】
接着剤Gの種類は、特に限定されないが、ケミカルアンカー(登録商標)用の接着剤を好ましく例示することができる。また、接着剤Gの注入量は、穴部Hのサイズや棒状接合具Bのサイズなどに応じて適宜設計することができる。
【0030】
第2工程では、固定対象物Wの穴部Hの周囲に、固定金具1の平板部32の他方の面(筒状締結部材2が固定されていない面)を当接させ、筒状締結部材2の開口部21、金具本体3の円形穴31、および、固定対象物Wの穴部Hの位置を一致させる。これにより、状締結部材の開口部21、金具本体3の円形穴31、および、固定対象物Wの穴部Hは上下方向に連通する。
【0031】
また、固定金具1は、固定対象物Wに各種の方法で固定することもできる。
【0032】
第3工程では、棒状接合具Bを、筒状締結部材2の開口部21および金具本体3の円形穴31を通じて固定対象物Wの穴部Hに挿入し、接着剤Gによって棒状接合具Bと固定対象物Wとを固定する。
【0033】
棒状接合具Bは、特に限定されないが、頭部b1を有し、孔クリアランスが小さいボルトが好ましい。この実施形態では、頭部b1を有する六角ボルトが例示されており、穴部Hの所定の深さまで棒状接合具B(六角ボルト)が挿入されると、棒状接合具Bは、筒状締結部材2の開口部21に挿通された状態で、頭部b1と筒状締結部材2とを当接させることができ、これにより、棒状接合具Bは、上下方向および水平方向に固定される。
【0034】
棒状接合具Bを穴部Hに挿入することで、穴部Hを接着剤Gが上昇し、穴部H内(棒状接合具Bと穴部Hとの空隙)に充満させることができる。この接着剤Gが硬化することで、棒状接合具Bと固定対象物Wとが固定される。
【0035】
そして、第3工程は、筒状締結部材2の切欠溝22から外側に流出する接着剤Gの有無によって、穴部H内に接着剤Gが充満しているか否かを判定することができる。すなわち、穴部Hへの棒状接合具Bの挿入によって、接着剤Gが穴部Hに充満すると、接着剤Gの一部が金具本体3の円形穴31を通過し、筒状締結部材2の開口部21から外側に流出する。このため、筒状締結部材2の開口部21からの接着剤Gの流出した場合は、穴部H内に接着剤Gが充満していると判定することができる。換言すると、筒状締結部材2の開口部21からの接着剤Gの流出しない場合は、穴部H内の接着剤Gの注入量が十分でなく、穴部H内に接着剤Gが充満していない可能性があると判定することができる。
【0036】
また、本発明の接合方法では、第3工程において、筒状締結部材2の開口部21から流出した接着剤Gは、金具本体3の平板部32上で硬化するため、特に拭き取り作業などの必要がないという利点も有しており、施工作業を効率的に行うことができる。
【0037】
従来のケミカルアンカー(登録商標)は、(1)穴部内の接着剤の充填状況が判り難いこと、(2)棒状接合具を、固定対象物の穴部中心に合わせて固定して硬化養生させる必要があること、(3)接着剤の硬化後に、固定金具を接合する時、ナットの緩み止め(ダブルナットやバネ座金)が必要になること、が改善すべき点として挙げられる。
【0038】
これに対し、本発明の接合方法では、上記の通り、穴部内の接着剤の充填状況が確認しやすい。また、本発明の接合方法では、固定金具1は、上記の通りの構成を有し、筒状締結部材2の開口部21、金具本体3の円形穴31、および、固定対象物Wの穴部Hの位置を事前に一致させているため、棒状接合具Bを、設置された筒状締結部材2の開口部21から下方に向かって挿入すれば、固定対象物Wの穴部H中心からずれることなく挿入することができる。この状態で接着剤を硬化させることで、容易に棒状接合具Bを、固定対象物Wの穴部H中心に固定することができる。さらに、本発明の接合方法では、棒状接合具Bは、筒状締結部材2の開口部21に挿通された状態で、頭部b1と筒状締結部材2とを上下に当接させて固定することができるため、ナットの緩み止め(ダブルナットやバネ座金)などを使用する必要がない。このように、本発明の接合方法は、従来の上記問題点を全て解決することができ、施工性に優れ、また、施工コストも抑制することができる。
【0039】
以上の通り、本発明の固定金具および接合方法によれば、例えば、木材用のGIR接合やコンクリート用のケミカルアンカー(登録商標)接合において、棒状接合具が挿入された固定対象物(例えば、木材やコンクリート)の穴内部に接着剤が充満しているか否かを容易に判定することができる。
【0040】
本発明の固定金具および接合方法は、以上の実施形態に限定されることはない。
【符号の説明】
【0041】
1 固定金具
2 筒状締結部材
21 開口部
22 切欠溝
3 金具本体
B 棒状接合具
b1 頭部
G 接着剤
H 穴部
W 固定対象物