(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131425
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、樹脂金属複合体、電装部品、および筐体用部材
(51)【国際特許分類】
C08L 61/06 20060101AFI20230914BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20230914BHJP
C08K 3/20 20060101ALI20230914BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C08L61/06
C08K3/26
C08K3/20
B32B15/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036180
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】金子 恭平
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AA18A
4F100AA18H
4F100AB01B
4F100AE09A
4F100AE09H
4F100AG00A
4F100AG00H
4F100AK33A
4F100AK34A
4F100CA30A
4F100CA30H
4F100DE04A
4F100DE04H
4F100DG01A
4F100DG01H
4F100GB41
4F100JA02
4F100JL11A
4F100JL11G
4J002CC041
4J002CC051
4J002CC061
4J002DA039
4J002DE088
4J002DE236
4J002DJ017
4J002DL007
4J002FA047
4J002FA087
4J002FD016
4J002FD017
4J002FD099
4J002FD158
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】金属部材との密着性に優れ、さらに異方性が小さく接合材料の剥離が抑制された硬化物を得ることができる熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の熱硬化性樹脂組成物は樹脂金属複合体を形成するものであって、(A)熱硬化性樹脂と、(B)水酸化カルシウムと、(C)炭酸カルシウムと、を含み、熱硬化性樹脂(A)100質量部に対して、水酸化カルシウム(B)を4.3質量部以上7.0質量部以下含み、前記熱硬化性樹脂組成物100質量%中に、炭酸カルシウム(C)を20質量%以上60質量%以下含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂金属複合体を形成する熱硬化性樹脂組成物であって、
(A)熱硬化性樹脂と、
(B)水酸化カルシウムと、
(C)炭酸カルシウムと、を含み、
熱硬化性樹脂(A)100質量部に対して、水酸化カルシウム(B)を4.3質量部以上7.0質量部以下含み、
前記熱硬化性樹脂組成物100質量%中に、炭酸カルシウム(C)を20質量%以上60質量%以下含む、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
熱硬化性樹脂(A)がフェノール樹脂を含む、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記フェノール樹脂がレゾール型フェノール樹脂を含む、請求項2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
さらに繊維フィラー(D)および球状フィラー(E)(炭酸カルシウムからなる球状フィラーを除く)を含む、請求項1~3のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂組成物100質量%中に、
繊維フィラー(D)を5質量%以上40質量%以下、球状フィラー(E)を3質量%以上30質量%以下含む、請求項4に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
繊維フィラー(D)はガラス繊維フィラーを含む、請求項4または5に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
球状フィラー(E)はガラス球状フィラーを含む、請求項4~6のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
以下の条件で測定された線膨張係数のTD/MDが1.8以下である、請求項1~7のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
(条件)
前記硬化性樹脂組成物を用い、ゲート寸法:8×3mm、射出圧力:150MPa、金型温度:175℃、充填時間:4秒の条件による射出成形により、長手方向が流動方向となるようにして、80×10×4mmの成形体を作製し、該成形体から10×10×4mmの試験片を切り出す。続いて、熱機械分析装置TMAを用いて5℃/分の圧縮条件で、25℃から150℃の範囲における、流動方向の線膨張係数MDと、流動に対して直交方向の線膨張係数TDを算出する。
【請求項9】
以下の条件で測定された剥離強度が10MPa以上である、請求項1~8のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
(条件)
ガラスエポキシ銅張積層板(パナソニック社製R-1705、基板厚み1.6mm)を20mm×10mmに切断し、その表面に、前記熱硬化性樹脂組成物を金型温度175℃注入時間20秒、注入圧力10MPa、硬化時間120秒で成形し、銅との接触面がφ3.6mmの円柱状の成形品を密着形成する。ボンドテスター(Dage4000、ノードソン・アドバンスト・テクノロジー社製)を用いて、成形品の剥離強度を測定する。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる樹脂部材と、金属部材と、を備える、樹脂金属複合体。
【請求項11】
請求項10に記載の樹脂金属複合体からなる、電装部品。
【請求項12】
請求項10に記載の樹脂金属複合体からなる、筐体用部材。
【請求項13】
請求項10に記載の樹脂金属複合体からなる、車両用電装部品の筐体用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、樹脂金属複合体、電装部品、および筐体用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール系樹脂は、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、寸法安定性等に優れ、電気絶縁性や機械的強度が要求される電気・電子部品等のパッケージング材料等に広く使用されている。
特許文献1には、ベンゾオキサジン樹脂を含むフェノール系樹脂と、所定のジスルフィド化合物とを含有するフェノール系樹脂組成物が開示され、硬化剤として水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウム等が例示されている。同文献には、当該フェノール系樹脂組成物によれば、金属密着性及び硬化物の耐熱性に優れると記載されている。
【0003】
特許文献2には、ポリフェニレンスルフィド、液晶性ポリエステル、エラストマを所定の量で配合してなる熱可塑性樹脂組成物が開示されている。同文献には、当該熱可塑性樹脂組成物が、樹脂と金属間の接着強度を有し、かつ高温処理後も高い金属密着性を保持することができると記載されている。
【0004】
特許文献3には、フェノール樹脂および炭酸カルシウムを含むフェノール樹脂組成物が開示され、表面にめっき処理が施される樹脂成形体に用いられると記載されている。さらに、硬化助剤として水酸化カルシウムが例示されている。同文献には、当該フェノール樹脂組成物からなる樹脂成形体の表面にめっき処理を施した際の樹脂成形体とめっき膜との密着性を向上することができると記載されている。樹脂成形体の表面にめっき処理を施した際の樹脂成形体とめっき膜との密着性を向上することができる水酸化カルシウム(消石灰)などの硬化助剤表面にめっき処理が施される樹脂成形体に用いられるフェノール樹脂組成物であって、以下の成分(A)および(B)を含む、フェノール樹脂組成物。
??(A)フェノール樹脂
??(B)炭酸カルシウム表面にめっき処理が施される樹脂成形体に用いられるフェノール樹脂組成物であって、以下の成分(A)および(B)を含む、フェノール樹脂組成物。
??(A)フェノール樹脂
??(B)炭酸カルシウム
【0005】
特許文献4には、フェノール樹脂と、所定の量で繊維フィラーおよび球状フィラーを含有するフィラーとを含む成形材料が開示されている。そして、球状フィラーとして炭酸カルシウム、硬化助剤として水酸化カルシウムが例示されている。同文献には、当該成形材料によれば、成形品としての異方性の発現を抑制することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-164270号公報
【特許文献2】特開2013-227366号公報
【特許文献3】国際公開第2021/025124号
【特許文献4】特開2016-88987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~4に記載の従来の組成物においては、金属との密着性に依然として改善の余地があった。また、異方性が発現することがあり接合材料が剥離することがあった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムを所定の量で含む熱硬化性樹脂組成物が、上記のような課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下に示すことができる。
【0009】
本発明によれば、樹脂金属複合体を形成する熱硬化性樹脂組成物であって、
(A)熱硬化性樹脂と、
(B)水酸化カルシウムと、
(C)炭酸カルシウムと、を含み、
熱硬化性樹脂(A)100質量部に対して、水酸化カルシウム(B)を4.3質量部以上7.0質量部以下含み、
前記熱硬化性樹脂組成物100質量%中に、炭酸カルシウム(C)を20質量%以上60質量%以下含む、熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【0010】
本発明によれば、
前記熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる樹脂部材と、金属部材と、を備える、樹脂金属複合体を提供することができる。
【0011】
本発明によれば、
前記樹脂金属複合体からなる、電装部品を提供することができる。
【0012】
本発明によれば、
前記樹脂金属複合体からなる、筐体用部材を提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金属部材との密着性に優れ、さらに異方性が小さく接合材料の剥離が抑制された硬化物を得ることができる熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。言い換えれば、本発明の熱硬化性樹脂組成物はこれらの物性のバランスに優れた硬化物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本実施形態の樹脂金属複合体を筐体の一部として備える車輌用電装部品の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、例えば「1~10」は特に断りがなければ「1以上」から「10以下」を表す。
【0016】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は樹脂金属複合体を形成するものであって、
(A)熱硬化性樹脂と、(B)水酸化カルシウムと、(C)炭酸カルシウムと、を含む。
熱硬化性樹脂(A)100質量部に対して、水酸化カルシウム(B)を4.3質量部以上7.0質量部以下含み、前記熱硬化性樹脂組成物100質量%中に、炭酸カルシウム(C)を20質量%以上60質量%以下含む。
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物によれば、銅やニッケル等を含む金属部材との密着性に優れ、さらに異方性が小さく接合材料(他の樹脂部材)の剥離が抑制された硬化物を得ることができる。
【0017】
[熱硬化性樹脂(A)]
本実施形態において熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂(A)を含む。
熱硬化性樹脂(A)としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、またはポリアクリロニトリル等を挙げることができ、1種または2種以上を混合して用いることができる。
本実施形態においては、本発明の効果の観点から、フェノール樹脂を用いることがより好ましく、レゾール型フェノール樹脂であることがより好ましい。
【0018】
レゾール型フェノール樹脂は、塩基性触媒下、フェノール類と、アルデヒド類とを、反応溶媒中で、以下で説明する所定の条件で反応させて得られる樹脂である。
【0019】
本実施形態で用いられるレゾール型フェノール樹脂の合成のために使用されるフェノール類としては、フェノール;o-ジヒドロキシベンゼン(すなわち、カテコール)、m-ジヒドロキシベンゼン(すなわち、レゾルシノール、すなわち、レゾルシン)、p-ジヒドロキシベンゼン(すなわち、ヒドロキノン)などのジヒドロキシベンゼン;1,2,3-トリヒドロキシベンゼン(すなわち、ピロガロール)などのトリヒドロキシベンゼン;o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、オキソクレゾールなどのクレゾール;エチルフェノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノールなどのアルキルフェノール;キシレノール;3-ペンタデシルフェノール、3-ペンタデシルフェノールモノエン、3-ペンタデシルフェノールジエン、3-ペンタデシルフェノールトリエンなどのカシューオイルの含有成分;1,3-ジヒドロキシ-5-ペンタデシルベンゼン、1,3-ジヒドロキシ-5-ペンタデシルベンゼンモノエン、1,3-ジヒドロキシ-5-ペンタデシルベンゼンジエン、1,3-ジヒドロキシ-5-ペンタデシルベンゼントリエンといったカルドールの含有成分;2-メチル-1,3-ジヒドロキシ-5-ペンタデシルベンゼン、2-メチル-1,3-ジヒドロキシ-5-ペンタデシルベンゼンモノエン、2-メチル-1,3-ジヒドロキシ-5-ペンタデシルベンゼンジエン、2-メチル-1,3-ジヒドロキシ-5-ペンタデシルベンゼントリエンといったメチルカルドールの含有成分;ウルシオール;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSといったビスフェノール類;p-フェニルフェノール;スチレン化フェノールなどが挙げられる。これらを単独あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0020】
本実施形態で用いられるレゾール型フェノール樹脂の合成のために使用されるアルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n-ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o-トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種類以上組み合わせて使用してもよい。また、これらアルデヒド類の前駆体あるいはこれらのアルデヒド類の溶液を使用することも可能である。中でも、製造コストの観点から、ホルムアルデヒド水溶液を使用することが好ましい。
【0021】
本実施形態で用いられるレゾール型フェノール樹脂の合成のために使用される塩基性触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム等の炭酸塩;石灰等の酸化物;亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩;リン酸ナトリウム等のリン酸塩;アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ヘキサメチレンテトラミン、ピリジン等のアミン類等が挙げられる。
【0022】
本実施形態で用いられるレゾール型フェノール樹脂の合成のために使用される反応溶媒としては、水が一般的であるが、有機溶媒を使用してもよい。このような有機溶媒の具体例としては、アルコール類、ケトン類、芳香族類等が挙げられる。またアルコール類の具体例としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。ケトン類の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。芳香族類の具体例としてはとしては、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0023】
レゾール型フェノール樹脂の形態としては、固形、水溶液、溶剤溶液、および水分散液が挙げられる。中でも、作業性が良好となる点から、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン、およびアセトンの溶剤溶液であることが好ましい。
【0024】
本実施形態で用いられるレゾール型フェノール樹脂は、フェノール類(P)とアルデヒド類(F)とを、配合モル比(F/P)が1.5以上、好ましくは1.5以上2.0以下、より好ましくは1.6以上1.9以下となるような比率で混合し、さらに重合化触媒としての上述の塩基性触媒を添加して、適当な時間(例えば、3~6時間)還流を行うことにより得られる。反応温度は、例えば、40℃~120℃であり、好ましくは60℃~100℃である。これにより、ゲル化を抑制して、目的の分子量のレゾール型フェノール樹脂を得ることができる。
【0025】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物(100質量%)は、本発明の効果の観点から、熱硬化性樹脂(A)を5質量%以上60質量%以下、好ましくは10質量%以上50質量%以下、より好ましくは20質量%以上40質量%以下の量で含むことができる。
【0026】
[水酸化カルシウム(B)]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂(A)100質量部に対して、水酸化カルシウム(B)を4.3質量部以上7.0質量部以下、好ましくは4.8質量部以上7.0質量部以下含む。
水酸化カルシウム(B)の量が上記範囲であると、熱硬化性樹脂組成物から得られる硬化物は金属部材との密着性に優れ、異方性が小さく剥離が抑制された成形体を得ることができる。特に金属部材との密着性に優れる。
【0027】
水酸化カルシウム(B)は硬化助剤として用いることができ、その他の硬化助剤としては酸化マグネシウム等を含むことができる。
【0028】
[炭酸カルシウム(C)]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物100質量%中に、炭酸カルシウム(C)を20質量%以上60質量%以下、好ましくは30質量%以上60質量%以下、より好ましくは40質量%以上60質量%以下含むことができる。
炭酸カルシウム(C)の量が上記範囲であると、熱硬化性樹脂組成物から得られる硬化物は金属部材との密着性に優れ、異方性が小さく剥離が抑制された硬化物を得ることができる。特に金属部材との密着性に優れる。
【0029】
なお、本発明の効果の観点から、水酸化カルシウム(B)と炭酸カルシウム(C)の上記の添加量範囲は組み合わせることが好ましい。
【0030】
[繊維フィラー(D)]
繊維フィラー(D)としては、例えば、ガラス繊維、ワラストナイト繊維、炭素繊維、プラスチック繊維等を用いることができる。プラスチック繊維として、例えばアラミド繊維(芳香族ポリアミド)が用いられる。また、繊維フィラーとして、バサルト繊維のような無機繊維やステンレス繊維のような金属繊維を用いることもできる。
これらの中でも、成形品としての機械的強度を高めることができ、また、成形品としての軽量化にも資することから、ガラス繊維、ワラストナイト繊維、及び炭素繊維からなる群から選択することが好ましく、ガラス繊維がより好ましい。
【0031】
繊維フィラー(D)としてガラス繊維を用いる場合、ガラス繊維を構成するガラスの具体例としては、Eガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Dガラス、NEガラス、Tガラス、Hガラスが挙げられる。これらの中でもEガラス、Aガラス、Tガラス、または、Sガラスが好ましい。こうしたガラスを用いることにより、高弾性化を達成することができ、熱膨張係数も小さくすることができる。
【0032】
繊維フィラー(D)の数平均繊維径は、成形品を用いる用途等に応じ適宜設定することができるが、好ましくは3μm以上50μm以下、より好ましく5μm以上30μm以下、さらに好ましく8μm以上20μm以下とすることができる。このような数平均繊維径を有する繊維フィラー(D)を用いることで、成形品の機械的強度を向上させることができる。
【0033】
なお、この数平均繊維径は、成形品の断面に現れる繊維を、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡等で観察することにより計測して求めることができる。
例えば、走査型電子顕微鏡で測定する場合は、成形品の断面の中から上記繊維フィラー(D)を任意の数だけ計測して、平均値を算出することができる。
より具体的には、横断面が確認できる繊維フィラー(D)を100本計測した後、各繊維断面の最小径の平均を数平均繊維径として求めることができる。
【0034】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、当該組成物100質量%中に、繊維フィラー(D)を好ましくは5質量%以上40質量%以下、より好ましくは6質量%以上30質量%以下含むことができる。繊維フィラーの含有量を上記範囲で含むことにより、成形品の強度を向上させ、製品信頼性を向上させることができるとともに流動性や充填性をより効果的に向上させることが可能となる。
【0035】
[球状フィラー(E)]
本実施形態において、球状フィラー(E)は炭酸カルシウムからなる球状フィラーを含まない。
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、たとえば球状の無機充填材を用いることができ、ガラス球状フィラー(ガラスビーズ)、ガラスパウダー、シリカ、水酸化アルミニウム、クレーなどを用いることができる。これらの中でも、耐熱性の高さ及び入手容易性の高さからガラス球状フィラーを用いることが好ましい。
【0036】
球状フィラー(E)の平均粒径は、成形品を用いる用途等に応じ適宜設定することができるが、好ましくは12μm以上100μm以下、より好ましくは15μm以上90μm以下、さらに好ましくは20μm以上80μm以下とすることができる。
このような平均粒径を有する球状フィラー(E)を用いることで、成形材料の流動性を担保させつつ、得られる成形品の異方性の発生を抑制することができる。
【0037】
なお、球状フィラー(E)の平均粒径は、繊維フィラー(D)と同様に、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡等で観察することにより計測して求めることができる。
また、走査型電子顕微鏡で測定する場合は、成形品を不活性雰囲気下で焼成することで有機成分を除去した残存物の中から球状フィラー(E)を任意の数だけ計測して、平均値を算出することができる。
より具体的には、球状フィラー(E)のサンプルを50点計測した測定値の平均を平均粒径として求めることができる。
【0038】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、当該組成物100質量%中に、球状フィラー(E)を好ましくは3質量%以上30質量%以下、より好ましくは5質量%以上20質量%以下含むことができる。熱硬化性樹脂組成物の流動性を担保させつつ、成形時における繊維状フィラー(D)の配向をランダムにすることができ、得られる成形品の異方性の発生をより抑制することができる。成形材料の流動性を担保させつつ、成形時における(B1)繊維状フィラーの配向をランダムにすることができ、得られる成形品の異方性の発生を抑制することができる。
【0039】
[その他の成分]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、各種添加剤、たとえばステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ポリエチレンなどの離型剤、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、トリフェニルホスフィンなどの硬化助剤、カーボンブラックなどの着色剤、密着性向上剤、カップリング剤、溶剤等を配合してもよい。
【0040】
[熱硬化性樹脂組成物の製造方法]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、例えば上述した各成分を配合して、均一に混合後、ロール、コニーダ、二軸押出し機等の混練装置単独またはロールと他の混合装置との組み合わせで加熱溶融混練した後、造粒または粉砕することにより製造することができる。
【0041】
<熱硬化性樹脂組成物>
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、以下の条件で測定された線膨張係数のTD/MDが好ましくは1.8以下、より好ましくは1.6以下、さらに好ましくは1.5以下とすることができる。このように、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は異方性が小さく他の樹脂材料(封止材等)の剥離を抑制することができる。
TD/MDの下限値は特に限定されないが0.6程度である。
(条件)
前記硬化性樹脂組成物を用い、ゲート寸法:8×3mm、射出圧力:150MPa、金型温度:175℃、充填時間:4秒の条件による射出成形により、長手方向が流動方向となるようにして、80×10×4mmの成形体を作製し、該成形体から10×10×4mmの試験片を切り出す。続いて、熱機械分析装置TMAを用いて5℃/分の圧縮条件で、25℃から150℃の範囲における、流動方向の線膨張係数MDと、流動に対して直交方向の線膨張係数TDを算出する。
【0042】
また、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、以下の条件で測定された剥離強度が好ましくは10MPa以上、より好ましくは12MPa以上、さらに好ましくは15MPa以上である。
このように、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は金属部材との密着性に優れ、製品信頼性に優れる。なお、剥離強度の上限値は特に限定されないが40MPa程度である。
(条件)
ガラスエポキシ銅張積層板(パナソニック社製R-1705、基板厚み1.6mm)を20mm×10mmに切断し、その表面に、前記熱硬化性樹脂組成物を金型温度175℃注入時間20秒、注入圧力10MPa、硬化時間120秒で成形し、銅との接触面がφ3.6mmの高さ3.0mmの円柱状の成形品を密着形成する。ボンドテスター(Dage4000、ノードソン・アドバンスト・テクノロジー社製)を用いて、荷重レンジ50kg、テスト高さ150μm、降下速度0.3mm/s、テストスピード300μm/sの条件で荷重レンジ20kg、テスト高さ150μm、降下速度0.5μm/s、テストスピード100μm/s、移動量100μmの条件成形品の剥離強度を測定する。
【0043】
[成形品(樹脂部材)]
本実施形態に係る成形品(樹脂部材)は、上述の熱硬化性樹脂組成物を用い、成形工程を経ることにより得られた硬化物からなる。具体的な成形方法としては、たとえば圧縮成形、トランスファー成形などの公知の成形方法の中から適宜条件を選択することができる。
【0044】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物から得られる樹脂部材は、曲げ強度が高く、機械強度に優れる。本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を175℃、120秒の条件で硬化させたときの硬化物(樹脂部材)は、常温(25℃)における曲げ強度が、60MPa以上、好ましくは80MPa以上、より好ましくは100MPa以上である。上限値は特に限定されないが200MPa以下とすることができる。
【0045】
[用途]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物から得られた樹脂部材は、金属との密着性に優れ、異方性が小さいことから、当該樹脂部材と金属部材とを備える樹脂金属複合体に用いることができる。
【0046】
樹脂金属複合体は、金属部材と樹脂部材との密着性に優れ、これらを強固に接合させることができる。さらに、両部材の性質、機械強度、放熱性、耐熱性、絶縁性、帯電防止性等を発揮することができ、各種用途に好適に使用することができる。特に、接合強度及び放熱性を特に要求される自動車用途に好適に使用することができる。
【0047】
本実施形態の樹脂金属複合体からなる容器は、上記の特性を備えることから、一般家電製品やOA機器に組み込まれる電気電子部品(ハウジング、ケース、カバー、コネクター等)、機械機構部品、車輛用電装部品(各種コントロールユニット、イグニッションコイル部品、センサー部品、モーター部品、パワーモジュール、昇圧型DC/DCコンバータ、降圧型DC/DCコンバータ、コンデンサー、インシュレーター、モーター端子台、バッテリー、電動コンプレッサー、バッテリー電流センサー及びジャンクションブロック等)の筐体を構成する部材(筐体用部材)などに用いることができる。
【0048】
図1に、本実施形態の樹脂金属複合体を筐体用部材として備える車輌用電装部品10の概略断面図を示す。車輌用電装部品10は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor:IGBT)であり、電力制御の用途で使用される。
【0049】
車輌用電装部品10は、銅基板12の一方の面上に搭載された絶縁基板14および半導体チップ18からなる積層体と、当該積層体を囲繞する本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる樹脂ケース20と、銅基板12の他方の面上に設けられた筐体形状の冷却器30と、を備える。
【0050】
銅基板12はNiメッキされていてもよい。
半導体チップ18は半田16を介して絶縁基板14に搭載され、ワイヤー25により樹脂ケース20の電極26に電気的に接続される。電極26は配線パターンであってもよい。半導体チップ18は、さらに半田16を介して、樹脂ケース20に設けられたリードフレーム27に電気的に接続される。
【0051】
電極26およびリードフレーム27は、外部取り出し用のゲート端子24に接続しており、半導体チップ18からの信号を外部に伝達することができように構成されている。
樹脂ケース20に囲繞された領域は、封止材28によって封止される。封止材28としては、エポキシ樹脂封止材等が挙げられる。樹脂ケース20はボルト22によって、樹脂ケース20と銅基板12と冷却器30とを固定することができ、樹脂ケース20同士または樹脂ケース20と他の部材を締結することができる。
【0052】
冷却器30としてはウォータージャケットを挙げることができる。冷却器30は、筐体形状であり、銅基板12の他方の面を覆うように設けられる。冷却器30は、筐体内部に冷却ファン32を備えており、半導体チップ18の熱を放熱することができるように構成されている。
【0053】
樹脂ケース20は、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の硬化物から構成されていることから、金属部材(銅基板12、電極26、リードフレーム27等)との密着性に優れ、さらに異方性が小さく接合材料(封止材28等)の剥離が抑制されていることから、熱時剛性に優れるとともに製品信頼性に優れた車輌用電装部品10を提供することができる。
図1における樹脂金属複合体は、樹脂ケース20と金属部材(銅基板12、電極26、リードフレーム27等)とからなる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例0055】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1~8、比較例1~2]
下記の表1に示す配合量の各原材料を、常温でミキサーを用いて混合した後、70~100℃でロール混練した。次いで、得られた混練物を冷却した後、これを粉砕して、粉粒状の熱硬化性樹脂組成物を得た。次いで、高圧で打錠成形することによってタブレット状の熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0056】
・熱硬化性樹脂
ノボラック型フェノール樹脂:PR-53194(住友ベークライト社製、重量平均分子量:700)
レゾール型フェノール樹脂:PR-53529(住友ベークライト社製、重量平均分子量:700)
【0057】
・硬化助剤
水酸化カルシウム(河合石灰工業社製)
・繊維フィラー
ガラス繊維フィラー:CS3E479(日東紡績社製、平均繊維径11μm、平均繊維長3mmの繊維状充填材)
・球状フィラー
ガラス球状フィラー:UB-13LA(ユニチカ社製、平均粒径 45μm)
・シリカ
シリカ:(SIDISTAR(ELKEM社製、平均粒径 0.15μm))
・炭酸カルシウム
炭酸カルシウム:SS#80(日東粉化工業社製)
・ワックス
ステアリン酸(日油株式会社製)
サンワックスE250P (三洋化成工業社製)
・顔料
カーボンブラック#750(三菱化学社製)
【0058】
[曲げ強度]
得られた熱硬化性樹脂組成物を、低圧トランスファー成形機(藤和精機株式会社製「TEP50-70」)を用いて、金型温度175℃、注入圧力10.0MPa、硬化時間120秒の条件で金型に注入成形した。これにより、幅10mm、厚み4mm、長さ80mmの成形品を得た。次いで、得られた成形品を175℃、4時間の条件で後硬化させた。これにより、機械的強度の評価用の試験片を作製した。そして、試験片の常温(25℃)における曲げ強度(MPa)を、JIS K 6911に準拠して測定した。
【0059】
[異方性]
得られた熱硬化性樹脂組成物を用い、ゲート寸法:8×3mm、射出圧力:150MPa、金型温度:175℃、充填時間:4秒の条件による射出成形により、長手方向が流動方向となるようにして、80×10×4mmの成形体を作製し、該成形体から10×10×4mmの試験片を切り出した。続いて、熱機械分析装置TMAを用いて5℃/分の圧縮条件で、80℃から120℃の範囲における、流動方向の線膨張係数MDと、流動に対して直交方向の線膨張係数TDを算出し、TD/MDを求めた。
【0060】
[Cu密着強度]
ガラスエポキシ銅張積層板(パナソニック社製R-1705、基板厚み1.6mm)を20mm×10mmに切断し、その表面に、得られた熱硬化性樹脂組成物を金型温度175℃注入時間20秒、注入圧力10MPa、硬化時間120秒で成形し、銅との接触面がφ3.6mmの高さ3mmの円柱状の成形品を密着形成した。ボンドテスター(Dage4000、ノードソン・アドバンスト・テクノロジー社製)を用いて、荷重レンジ50kg、テスト高さ150μm、降下速度0.3mm/s、テストスピード300μm/sの条件で荷重レンジ20kg、テスト高さ150μm、降下速度0.5μm/s、テストスピード100μm/s、移動量100μmの条件成形品の剥離強度を測定した。得られた剥離強度を銅に対する密着強度として評価した。
【0061】
【0062】
表1に記載のように、実施例の熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂100質量部に対して、水酸化カルシウムを4.3質量部以上7.0質量部以下含み、さらに熱硬化性樹脂組成物100質量%中に、炭酸カルシウム(C)を20質量%以上60質量%以下含むことから、異方性および金属密着強度にバランスよく優れていた。このことから、本発明の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂部材として含む樹脂金属複合体は、各種電装部品の筐体用部材として好適に用いられることが明らかとなった。