(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131441
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3581 20140101AFI20230914BHJP
G01N 21/01 20060101ALI20230914BHJP
G01N 21/21 20060101ALI20230914BHJP
G02F 1/35 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
G01N21/3581
G01N21/01 D
G01N21/21 Z
G02F1/35
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036204
(22)【出願日】2022-03-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、防衛省、安全保障技術研究推進制度における委託事業「超小型ロバストテラヘルツ波イメージング装置の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 修作
(72)【発明者】
【氏名】梶川 敬介
(72)【発明者】
【氏名】神納 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】南出 泰亜
(72)【発明者】
【氏名】縄田 耕二
【テーマコード(参考)】
2G059
2K102
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059EE02
2G059EE05
2G059GG10
2G059HH05
2G059JJ11
2G059JJ13
2G059JJ19
2G059JJ20
2G059JJ22
2G059KK01
2G059MM10
2K102AA05
2K102AA36
2K102BA18
2K102BB02
2K102BC02
2K102BD09
2K102CA11
2K102DA01
2K102DA10
2K102DA20
2K102DD05
2K102EB02
2K102EB11
2K102EB20
2K102EB22
(57)【要約】
【課題】難透過材料の下層に位置する検査対象物の検査を可能にする検査装置を提供する。
【解決手段】検査装置は、時間幅が10ピコ秒から10ナノ秒のパルス励起光を出力する光源と、前記パルス励起光の光波長変換によってテラヘルツ波を発生する非線形光学結晶と、前記テラヘルツ波が検査対象物で反射した反射波の少なくとも一部を反射する偏光部と、前記偏光部で反射された反射波を検出する検出器とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間幅が10ピコ秒から10ナノ秒のパルス励起光を出力する光源と、
前記パルス励起光の光波長変換によってテラヘルツ波を発生する非線形光学結晶と、
前記テラヘルツ波が検査対象物で反射した反射波の少なくとも一部を反射する偏光部と、
前記偏光部で反射された反射波を検出する検出器と
を備える検査装置。
【請求項2】
前記テラヘルツ波は直線偏波であり、
前記偏光部は、
前記反射波のうち、前記テラヘルツ波の偏波面とは異なる偏波面を有する成分を反射する第1偏光子と、
前記第1偏光子によって反射された前記成分を透過する第2偏光子と
を備える、請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記テラヘルツ波は直線偏波であり、
前記偏光部は、
前記反射波のうち、前記テラヘルツ波の偏波面とは異なる偏波面を有する成分を反射する第1偏光子と、
前記第1偏光子によって反射された前記成分を反射する第2偏光子と
を備える、請求項1に記載の検査装置。
【請求項4】
前記第1偏光子は、前記テラヘルツ波の偏波面が90°の範囲で回転するように、前記第1偏光子を回転させる第1回転部を含み、
前記第2偏光子は、前記第1偏光子によって反射された前記成分が90°の範囲で回転するように、前記第2偏光子を回転させる第2回転部を含む、
請求項3に記載の検査装置。
【請求項5】
前記第2偏光子と前記検出器との間に1/4波長板を備える、請求項3又は4に記載の検査装置。
【請求項6】
前記テラヘルツ波は円偏波であり、
前記偏光部は、前記反射波を反射するハーフミラーを備える、
前記検査装置は、前記非線形光学結晶の出力端に1/4波長板を備える、請求項1に記載の検査装置。
【請求項7】
前記テラヘルツ波を集光して前記検査対象物に照射する集光レンズを備える、請求項1~6のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項8】
前記検出器が検出した前記反射波を格納するデータロガーを備え、
前記データロガーには、前記光源からの前記パルス励起光の出力と同時にトリガ信号が伝送され、前記データロガーは、前記トリガ信号を受信したときに、前記反射波の格納を行うように構成されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電磁波の一種であるテラヘルツ波を構造物の表面に照射可能に構成されるとともに、構造物に反射したテラヘルツ波を検出可能に構成された反射型のテラヘルツ波計測装置(検査装置)が開示されている。かかるテラヘルツ波計測装置は、テラヘルツ波発信手段としてのテラヘルツ波発信器と、テラヘルツ波検出手段としてのテラヘルツ波検出器と、を備えている。かかるテラヘルツ波計測装置において、テラヘルツ波発信器には、共鳴トンネルダイオード(RTD)等を備えたテラヘルツ波発生素子、又は光伝導アンテナ(PCA)が用いられ、テラヘルツ波発信器には、RTDからなるテラヘルツ波検出素子が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1が示す従来の構成では、テラヘルツ波発信器がRTDやPCA等の半導体素子で構成されるために、テラヘルツ波発信器によって発信されるテラヘルツ波が微弱であり、SN比(信号雑音比)が小さく、難透過材料の下層に位置する検査対象物の検査を困難にしている。
【0005】
一方、光源をチップレーザ等のビーム光源で構成すると、半導体素子から照射されるテラヘルツ波よりも強力(高出力)なテラヘルツ波となり、難透過材料の下層に位置する検査対象物の検査が可能になる。難透過材料の表面で反射した後方散乱成分(不要成分)は、検査対象物で反射した反射成分(信号成分)よりも強力なために、検査対象物で反射した反射成分(信号成分)は、難透過材料の表面で反射した後方散乱成分(不要成分)の陰に隠れて検査対象物の検査を困難にしている。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、難透過材料の下層に位置する検査対象物の検査を可能にする検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態に係る検査装置は、
時間幅が10ピコ秒から10ナノ秒のパルス励起光を出力する光源と、
前記パルス励起光の光波長変換によってテラヘルツ波を発生する非線形光学結晶と、
前記テラヘルツ波が検査対象物で反射した反射波の少なくとも一部を反射する偏光部と、
前記偏光部で反射された反射波を検出する検出器と
を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、難透過材料の表面で反射した後方散乱成分(不要成分)は偏光部を透過し、難透過材料の下層に位置する検査対象物で反射した反射成分(信号成分)は偏光部で反射する。これにより、難透過材料の表面で反射した後方散乱成分(不要成分)と検査対象物で反射した反射成分(信号成分)とが分離される。よって、検査対象物からの反射成分(信号成分)を検出器で検出することができ、検査対象物の検査を可能にしている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1に係る検査装置の構成を概略的に示す図である。
【
図2】実施形態2に係る検査装置の構成を概略的に示す図である。
【
図3】実施形態3に係る検査装置の構成を概略的に示す図である。
【
図4】実施形態4に係る検査装置の構成を概略的に示す図である。
【
図5】実施形態5に係る検査装置の要部構成を概略的に示す図である。
【
図6】実施形態6に係る検査装置の要部構成を概略的に示す図である。
【
図8】試験片を検査した事例を概略的に示す図である。
【
図9】実施形態7に係る検査装置の要部構成を概略的に示す図である。
【
図10】実施形態8に係る検査装置の構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0011】
[実施形態1]
[実施形態1に係る検査装置の構成]
図1に示すように、実施形態1に係る検査装置1Aは、難透過材料RMで被覆された検査対象物TGを検査するものである。難透過材料RMは、例えば、黒色ゴムである。検査装置1Aは、時間幅が10ピコ秒から10ナノ秒のパルス励起光LBを出力する光源12と、パルス励起光LBの光波長変換によってテラヘルツ波THを発生する非線形光学結晶14と、テラヘルツ波THが検査対象物TGで反射した反射波RWの少なくとも一部を反射する偏光部16と、偏光部16で反射された反射波RWを検出する検出器18とを備えている。
【0012】
光源12は、パルス励起光LBを出力するものであり、パルス励起光LBは、例えば、1マイクロ秒以下、好ましくは1ナノ秒以下のパルス時間幅で出力される。光源12は、例えば、チップレーザ等のビーム光源で構成される。非線形光学結晶14は、例えば、周期分極反転ニオブ酸リチウム(LiNbO3)結晶であり、周期分極反転ニオブ酸リチウム結晶は、後進テラヘルツ波TH発振により、テラヘルツ波THを発生する。尚、テラヘルツ波THは、周波数が1012Hz(1兆ヘルツ)付近(0.1~100THz)にある電磁波である。
【0013】
偏光部16は、難透過材料RMの表面で反射した後方散乱成分(不要成分)NCの偏波面と難透過材料RMの下層に位置する検査対象物TGで反射した反射成分(信号成分)SCの偏波面とが異なること(複屈折特性)を利用して分離する。例えば、黒色ゴムは、製造過程に延伸プロセスを含み、任意の一方向に延伸された状態で固化されるので、面内方向において異なる屈折率を有する(透過軸と吸収軸を有する)。これにより、黒色ゴムの表面で反射した後方散乱成分NCの偏波面は入射したテラヘルツ波THと同じ偏波面となるが、検査対象物TGで反射した反射成分SCの偏波面は入射したテラヘルツ波THの偏波面が回った偏波面となる。そこで、偏光部16では、黒色ゴムの表面で反射した後方散乱成分(不要成分)NCを削るように偏光子を配置することで、検査対象物TGで反射した反射成分(信号成分)SCを取り出すようにしている。
【0014】
例えば、偏光部16は、ワイヤーグリッド等の偏光子で構成される。ワイヤーグリッドは、微細な金属のグリッド(スリット)を形成することによって、p偏光成分を透過し、s偏光成分を反射するように構成され、本実施形態では、後方散乱成分(不要成分)NCがグリッドを透過し、反射成分(信号成分)SCが反射するように配置することで、検査対象物TGで反射した反射成分(信号成分)SCを取り出すようにしている。
【0015】
[検査装置1Aの動作]
実施形態1に係る検査装置1Aでは、検査対象物TGを検査する場合に、光源12から時間幅が10ピコ秒から10ナノ秒のパルス励起光LBを出力する。パルス励起光LBは、非線形光学結晶14を透過することでテラヘルツ波THに光波長変換され、難透過材料RM及び難透過材料RMの下層に位置する検査対象物TGに照射される。難透過材料RMの表面で反射した後方散乱成分(不要成分)NCは偏光部16を透過し、難透過材料RMの下層に位置する検査対象物TGで反射した反射成分(信号成分)SCは偏光部16で反射する。これにより、難透過材料RMの表面で反射した後方散乱成分(不要成分)NCが削られ検査対象物TGからの反射成分(信号成分)SCが取り出される。よって、検査対象物TGからの反射成分(信号成分)SCは検出器18で検出され、検査対象物TGの検査に供される。
【0016】
[検査装置1Aの効果]
実施形態1に係る検査装置1Aによれば、難透過材料RMの表面で反射した後方散乱成分(不要成分)NCは偏光部16を透過し、難透過材料RMの下層に位置する検査対象物TGで反射した反射成分(信号成分)SCは偏光部16で反射することで、難透過材料RMの表面で反射した後方散乱成分(不要成分)NCが削られ、検査対象物TGからの反射成分(信号成分)SCが取り出される。これにより、難透過材料RMの表面で反射した後方散乱成分(不要成分)の陰に隠れた検査対象物TGで反射した反射成分(信号成分)SCを検出器18で検出できるようになり、検査対象物TGの検査を可能にしている。
【0017】
[実施形態2]
[実施形態2に係る検査装置の構成]
図2に示すように、実施形態2に係る検査装置1Bは、非線形光学結晶14と検査対象物TGとの間にテラヘルツ波THを集光して検査対象物TGに照射する集光レンズ20を備えている。その他の構成は実施形態1に係る検査装置1Aと同じである。
【0018】
[検査装置1Bの動作]
実施形態2に係る検査装置1Bでは、検査対象物TGを検査する場合に、テラヘルツ波THが集光レンズ20で集光されて検査対象物TGに照射される。よって、テラヘルツ波THが検査対象物TGに集まり、検出器18において分解能が高い反射成分(信号成分)SCを検出できる。その他の動作、すなわち、テラヘルツ波THが集光レンズ20に入射するまでの動作と、反射成分(信号成分)SCが検出器18で検出され、検査対象物TGの検査に供されるまで動作は、実施形態1に係る検査装置1Aの動作と同じである。
【0019】
[実施形態3]
[実施形態3に係る検査装置の構成]
図3に示すように、実施形態3に係る検査装置1Cは、検出器18が検出した反射成分(信号成分)SCのデータを格納するデータロガー22を備えている。データロガー22には、光源12からのパルス励起光LBの出力と同時にトリガ信号TSが伝送され、データロガー22は、トリガ信号TSを受信したときに、反射成分(信号成分)SCのデータの格納を行うように構成されている。その他の構成は実施形態1又は2に係る検査装置1A又は1Bと同じである。
【0020】
[検査装置1Cの動作]
実施形態3に係る検査装置1Cでは、検査対象物TGを検査する場合に、データロガー22は、光源12からのパルス励起光LBの出力と同時に伝送されるトリガ信号TSを受信したときに、検出器18が検出した反射成分(信号成分)SCのデータを格納する。よって、データロガー22が継続して反射成分(信号成分)SCのデータを格納する場合よりも、データロガー22に格納する反射成分(信号成分)SCのデータ量を少なくできる。その他の動作、すなわち、反射成分(信号成分)SCが検出器18で検出されるまでの動作は、実施形態1又は2に係る検査装置1A又は1Bの動作と同じである。
【0021】
[実施形態4]
[実施形態4に係る検査装置の構成]
図4に示すように、実施形態4に係る検査装置1Dでは、テラヘルツ波THは直線偏波であり、偏光部16は、反射波RWのうちテラヘルツ波THの偏波面とは異なる偏波面を有する成分を反射する第1偏光子24と、第1偏光子24によって反射された成分を透過する第2偏光子26とを備えている。第1偏光子24は、上述した偏光部16と同一の原理構成によって、検査対象物TGで反射した反射成分(信号成分)SCを取り出し、第2偏光子26は取り出した反射成分(信号成分)SCを透過するように構成される。例えば、第1偏光子24及び第2偏光子26はワイヤーグリッドで構成される。その他の構成は実施形態1から3に係る検査装置1A,1B,1Cのいずれかと同じである。
【0022】
[検査装置1Dの動作]
実施形態4に係る検査装置1Dでは、検査対象物TGを検査する場合に、難透過材料RMの表面で反射した後方散乱成分(不要成分)NCの大部分は第1偏光子24を透過し、難透過材料RMの下層に位置する検査対象物TGで反射した反射成分(信号成分)SCは第1偏光子24で反射する。これにより、難透過材料RMの表面で反射した後方散乱成分(不要成分)NCの大部分は第1偏光子24で削られ、検査対象物TGで反射した反射成分(信号成分)SCが取り出される。そして、検査対象物TGで反射した反射成分(SC)が第2偏光子26を透過することで、第1偏光子24で削りきれなかった不要成分(後方散乱成分)ΔNCが削られる。よって、検査対象物TGで反射した反射成分(信号成分)SCのノイズが小さくなり、検出器18での検出精度を高められ、精度の高い検査が可能となる。その他の動作、すなわち、難透過材料RMの表面で反射した後方散乱成分(不要成分)NC及び難透過材料RMの下層に位置する検査対象物TGで反射した反射成分が偏光部16(第1偏光子24)に入射するまでの動作は、実施形態1から3に係る検査装置1A,1B,1Cのいずれかの動作と同じである。
【0023】
[実施形態5]
[実施形態5に係る検査装置の構成]
図5に示すように、実施形態5に係る検査装置1Eでは、テラヘルツ波THは直線偏波であり、偏光部16は、反射波RWのうちテラヘルツ波THの偏波面とは異なる偏波面を有する成分を反射する第1偏光子28と、第1偏光子28によって反射された成分を反射する第2偏光子30とを備えている。第1偏光子28は、上述した偏光部16と同一の原理構成によって、検査対象物TGで反射した反射成分(信号成分)SCを取り出し、第2偏光子30は第1偏光子28で反射した成分(信号成分)SCを反射するように構成される。例えば、第1偏光子28及び第2偏光子30はワイヤーグリッドで構成される。その他の構成は実施形態1から3に係る検査装置1A,1B,1Cのいずれかと同じである。
【0024】
[検査装置1Eの動作]
実施形態5に係る検査装置1Eでは、第1偏光子28で分離しきれなかった不要成分(後方散乱成分)ΔNCは第2偏光子30を透過し、検査対象物TGで反射した反射成分(信号成分)SCは第2偏光子30で反射する。これにより、難透過材料RMの表面で反射した後方散乱成分(不要成分)NCの大部分は第1偏光子24で削られ、検査対象物TGで反射した反射成分(信号成分)SCが取り出される。そして、検査対象物TGで反射した反射成分(SC)が第2偏光子26で反射することで、第1偏光子24で削りきれなかった不要成分(後方散乱成分)ΔNCが削られる。尚、第1偏光子28(ワイヤーグリッド)で生じたミー散乱光(不要波)は、前方散乱(第2偏光子30では透過に相当)に比べて、後方散乱(第2偏光子30でみれば反射に相当)のほうが小さいとされているため、第1偏光子28で生じたミー散乱光を拾いにくくできる。よって、検査対象物TGで反射した反射成分のノイズが小さくなり、検出器18での検出精度を高められ、精度の高い検査が可能となる。その他の動作、すなわち、難透過材料RMの表面で反射した後方散乱成分(不要成分)NC及び難透過材料RMの下層に位置する検査対象物TGで反射した反射成分が偏光部16(第1偏光子28)に入射するまでの動作は、実施形態1から3に係る検査装置1A,1B,1Cのいずれかの動作と同じである。
【0025】
[実施形態6]
[実施形態6に係る検査装置の構成]
図6に示すように、実施形態6に係る検査装置1Fは、第1偏光子28は、テラヘルツ波THの偏波面が90°の範囲で回転するように、第1偏光子28を回転させる第1回転部32を含み、第2偏光子30は、第1偏光子28によって反射された反射成分(信号成分)SCが90°の範囲で回転するように、第2偏光子30を回転させる第2回転部34を含む。例えば、第1偏光子28は円盤状であって、第1偏光子28の中心軸周りに回転可能に支持され、第1回転部32は、第1偏光子28の外周に設けられたギア36と、該ギア36と噛み合うギア38を回転させるモータ等のアクチュエータ40とにより構成される。同様に、第2偏光子30は円盤状であって、第2偏光子30の回転軸周りに回転可能に支持され、第2回転部34は、第2偏光子の外周に設けられたギア42と、該ギア42と噛み合うギア44を回転させるモータ等のアクチュエータ46とにより構成される。その他の構成は実施形態1から3及び5に係る検査装置1A,1B,1C,1Eのいずれかと同じである。
【0026】
[検査装置1Fの動作]
図7(a)に示すように、検査対象物TGに亀裂CRがない場合には、検査対象物TGから反射した反射成分SCの偏波面は入射したテラヘルツ波THの偏波面と同じ偏波面となる(偏光は変わらない)が、
図7(b)に示すように、検査対象物TGに亀裂CRがある場合には、検査対象物TGから反射した反射成分SCの偏波面は入射したテラヘルツ波THの偏波面が変化した偏波面となる(偏光が変わる)。
【0027】
本願発明者らは、試験検証の結果から、検査対象物TGに設けられた亀裂CRに対して偏波面が45°の直線偏波のテラヘルツ波THを照射すると、周辺の健全部位とのコントラストが得られることを見出した。
【0028】
そこで、実施形態6に係る検査装置1Fでは、検査対象物TGを検査する場合に、テラヘルツ波THの偏波面が90°の範囲で回転するように、第1回転部32が第1偏光子28を回転させながら、第1偏光子28によって反射された反射成分(信号成分)SCが90°の範囲内で回転するように、第2回転部34が第2偏光子30を回転させる。これにより、検査対象物TGに亀裂CRがあるか否かわからない場合であっても、第1偏光子28を回転させながら第2偏光子30を回転させることによって、亀裂CRの探査が可能となる。そして、検出器18で検出された反射成分(信号成分)SCの最大値を探索(Max Hold測定)する。
【0029】
図8に示すように、ラインLN上にスリットSL1~SL6が設けられた試験片TPを検査した事例では、スリットSL1~SL6に対して斜め45度に偏光を調整して入射した場合に、第1偏光子28が基準位置から30度から70度の範囲で、スリットSL1~SL6の信号が検出される。一方、第1偏光子28が基準位置から10度又は90度(90)では、スリットSL1~SL6の信号を検出できない。また、30度と50度で信号強度に大きな差があること、実際の亀裂CRは傾きが何度かわからないことから、検出器18で検出された反射成分(信号成分)SCの最大値を探索する。
【0030】
このように反射成分(信号成分)SCの最大値を探索することで、テラヘルツ波THの偏波面とは異なる偏波面を有する反射成分(信号成分)SCの最大値を測定でき、
図8に示すように、亀裂を明瞭にすることができる。よって、検査対象物TGがセラミックス等の遮熱コーティングがされた検査対象物であっても、遮熱コーティングを剥がすことなく、検査対象物TGを検査することができる。その他の動作、すなわち、難透過材料RMの表面で反射した後方散乱成分(不要成分)NC及び難透過材料RMの下層に位置する検査対象物TGで反射した反射成分が偏光部16(第1偏光子28)に入射するまでの動作は、実施形態1から3及び5に係る検査装置1A,1B,1C,1Eのいずれかの動作と同じである。
【0031】
[実施形態7]
[実施形態7に係る検査装置の構成]
図9に示すように、実施形態7に係る検査装置1Gでは、検出器18は円偏光に高感度なテラヘルツ波検出器であり、第2偏光子30と検出器18との間に1/4波長板48を備えている。例えば、1/4波長板48は、石英などで構成される。その他の構成は実施形態1から3及び5から6に係る検査装置1A,1B,1C,1E,1Fのいずれかと同じである。
【0032】
[検査装置1Gの動作]
実施形態7に係る検査装置1Gでは、第2偏光子30で反射した反射成分(信号成分)SCが1/4波長板48を透過することで、円偏波のテラヘルツ波THとなり、検出器18に入射する。円偏波のテラヘルツ波THは、円偏光に高感度な検出器18によって検出され、反射成分(信号成分)の値(信号値)が大きくなる。
【0033】
このように検出器18が円偏光に高感度なテラヘルツ波検出器の場合に第2偏光子30と検出器18との間に1/4波長板48を備えることで、検出器18で検出される反射成分(信号成分)の値(信号値)を大きくできる。その他の動作、すなわち、検査対象物TGで反射した反射成分(信号成分)SCが第2偏光子30で反射するまでの動作は、実施形態1から3及び5から6に係る検査装置1A,1B,1C,1E,1Gのいずれかの動作と同じである。
【0034】
[実施形態8]
[実施形態8に係る検査装置の構成]
図10に示すように、実施形態7に係る検査装置1Hでは、テラヘルツ波THは円偏波であり、偏光部16は、反射波RWを反射するハーフミラー50を備えている。検査装置1Gは、非線形光学結晶14の出力端、すなわち、非線形光学結晶14とハーフミラー50との間に1/4波長板52を備えている。例えば、1/4波長板52は、石英などで構成される。その他の構成は実施形態1から3に係る検査装置1A,1B,1Cのいずれかと同じである。
【0035】
[検査装置1Hの動作]
実施形態7に係る検査装置1Hでは、検査対象物TGを検査する場合に、非線形光学結晶14で光波長変換された直線偏波のテラヘルツ波THは、1/4波長板52を透過することで、円偏波のテラヘルツ波THcとなり、検査対象物TGに照射される。検査対象物TGで反射した反射波RWはハーフミラー50で反射し、検出器18で検出され、検査対象物の検査に供される。実施形態6及び7では、検査対象物に設けられた亀裂に対して偏波面が45°の直線偏波を照射することが求められるが、円偏波のテラヘルツ波THcは、検査対象物TGの亀裂に対して偏波面に依らず、一定の感度が期待することができる。よって、反射成分(信号成分)SCの最大値を探索する必要がなくなるので、実施形態6及び7に比べて計測時間の短縮も期待できる。その他の動作は実施形態1から3に係る検査装置1A,1B,1Cのいずれかの動作と同じである。
【0036】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば、以下のように把握される。
【0037】
[1]の態様に係る検査装置(1A~1H)は、
時間幅が10ピコ秒から10ナノ秒のパルス励起光を出力する光源(12)と、
前記パルス励起光の光波長変換によってテラヘルツ波を発生する非線形光学結晶(14)と、
前記テラヘルツ波(TH)が検査対象物(TG)で反射した反射波(RW)の少なくとも一部を反射する偏光部(16)と、
前記偏光部(16)で反射された反射波(RW)を検出する検出器(18)と
を備える。
【0038】
このような構成によれば、難透過材料(RM)の表面で反射した後方散乱成分(不要成分)(NC)は偏光部(16)を透過し、難透過材料(RM)の下層に位置する検査対象物(TG)で反射した反射成分(信号成分)(SC)は偏光部(16)で反射する。これにより、難透過材料(RM)の表面で反射した後方散乱成分(不要成分)(NC)と検査対象物(TG)からの反射成分(信号成分)(SC)とが分離される。よって、検出器(18)では検査対象物(TG)からの反射成分(信号成分)(SC)を検出することができ、検査対象物(TG)の検査を可能にしている。
【0039】
[2]別の態様に係る検査装置(1D)は、[1]に記載の検査装置であって、
前記テラヘルツ波(TH)は直線偏波であり、
前記偏光部(16)は、
前記反射波(RW)のうち、前記テラヘルツ波の偏波面とは異なる偏波面を有する成分を反射する第1偏光子(24)と、
前記第1偏光子(24)によって反射された前記成分を透過する第2偏光子(26)と
を備える。
【0040】
このような構成によれば、難透過材料(RM)の表面で反射した後方散乱成分(不要成分)(NC)の大部分は第1偏光子を透過し、難透過材料(RM)の下層に位置する検査対象物(TG)で反射した反射成分(信号成分)(SC)は第1偏光子(24)で反射するので、難透過材料(RM)の表面で反射した後方散乱成分(不要成分)(NC)と検査対象物で反射した反射成分(信号成分)(SC)とが分離される。そして、第1偏光子(24)で分離しきれなかった不要成分(後方散乱成分)は第2偏光子(26)で反射し、検査対象物(TG)で反射した反射成分(信号成分)(SC)は第2偏光子(26)を透過するので、検査対象物(TG)で反射した反射成分(信号成分)(SC)から第1偏光子(24)で分離しきれなかった不要成分が分離される。よって、検査対象物(TG)からの反射成分(信号成分)(SC)のノイズが小さくなり、検出器(18)での検出精度が高められ、精度の高い検査が可能となる。
【0041】
[3]別の態様に係る検査装置(1E)は、[1]に記載の検査装置であって、
前記テラヘルツ波は直線偏波であり、
前記偏光部(16)は、
前記反射波(RW)のうち、前記テラヘルツ波(TH)の偏波面とは異なる偏波面を有する成分を反射する第1偏光子(28)と、
前記第1偏光子(28)によって反射された前記成分を反射する第2偏光子(30)と
を備える。
【0042】
このような構成によれば、難透過材料(RM)の表面で反射した後方散乱成分(不要成分)(NC)の大部分は第1偏光子(28)を透過し、難透過材料(RM)の下層に位置する検査対象物(TG)で反射した反射成分(信号成分)(SC)は第1偏光子(28)で反射するので、難透過材料(RM)の表面での後方散乱成分(不要成分)(NC)と検査対象物(TG)からの反射成分(信号成分)(SC)とを分離することができる。そして、第1偏光子(28)で反射した検査対象物(TG)からの反射成分(信号成分)(SC)は第2偏光子(30)で反射するが、第1偏光子(28)(ワイヤーグリッド)で生じたミー散乱光(不要波)は、前方散乱(第2偏光子では透過に相当)に比べて、後方散乱(第2偏光子でみれば反射に相当)の方が小さいとされているため、第1偏光子(28)で生じたミー散乱光を拾いにくくできる。よって、検査対象物(TG)で反射した反射成分のノイズが小さくなり、検出器(18)での検出精度を高められ、精度の高い検査が可能となる。
【0043】
[4]別の態様に係る検査装置(1F)は、[3]に記載の検査装置であって、
前記第1偏光子(28)は、前記テラヘルツ波の偏波面が90°の範囲で回転するように、前記第1偏光子(28)を回転させる第1回転部(32)を含み、
前記第2偏光子(30)は、前記第1偏光子(28)によって反射された前記成分が90°の範囲で回転するように、前記第2偏光子(30)を回転させる第2回転部(34)を含む。
【0044】
このように構成することで、テラヘルツ波(TH)の偏波面とは異なる偏波面を有する反射成分の最大値を測定でき、亀裂方向が不明な亀裂を明瞭にすることができる。
【0045】
[5]別の態様に係る検査装置(1G)は、[3]又は[4]に記載の検査装置であって、
前記第2偏光子(30)と前記検出器(18)との間に1/4波長板(48)を備える。
【0046】
このような構成によれば、検出器(18)が円偏光に高感度なテラヘルツ波検出器の場合に第2偏光子(30)と検出器(18)との間に1/4波長板(48)を備えることで、検出器18で検出される反射成分(信号成分)の値(信号値)を大きくできる。
【0047】
[6]別の態様に係る検査装置(1H)は、[1]に記載の検査装置であって、
前記テラヘルツ波(TH)は円偏波であり、
前記偏光部(16)は、前記反射波(RW)を反射するハーフミラー(50)を備える、
前記検査装置(1G)は、前記非線形光学結晶(14)の出力端に1/4波長板(52)を備える。
【0048】
このような構成によれば、非線形光学結晶(14)で光波長変換された直線偏波のテラヘルツ波(TH)が1/4波長板(52)を透過することで、円偏波のテラヘルツ波(TH)となり、検査対象物(TG)に照射される。円偏波のテラヘルツ波(TH)は、検査対象物(TG)の亀裂方向に依らず、一定の感度が期待することができるので、計測時間の短縮も期待することができる。
【0049】
[7]別の態様に係る検査装置(1B~1G)は、[1]から[6]のいずれか一つに記載の検査装置であって、
前記テラヘルツ波を集光して前記検査対象物(TG)に照射する集光レンズ(20を備える。
【0050】
このような構成によれば、非線形光学結晶(14)から照射されたテラヘルツ波(TH)が集光レンズ(20)で集光されて検査対象物(TG)に照射されるので、テラヘルツ波(TH)が検査対象物(TG)に集まり、検出器(18)において分解能が高い反射成分(信号成分)(SC)を検出できる。
【0051】
[8]別の態様に係る検査装置は、[1]から[7]のいずれか一つに記載の検査装置であって、
前記検出器(18)が検出した前記反射波(RW)を格納するデータロガー(22)を備え、
前記データロガー(22)には、前記光源(12)からの前記励起光の出力と同時にトリガ信号が伝送され、前記データロガー(22)は、前記トリガ信号を受信したときに、前記反射波(RW)の格納を行うように構成されている。
【0052】
このような構成によれば、データロガー(22)は、トリガ信号(TS)を受信したときに、反射成分(信号成分)(SC)のデータの格納を行うので、データロガー(22)が継続して反射成分(信号成分)(SC)のデータを格納する場合よりも、データロガー(22)に格納する反射成分(信号成分)(SC)のデータ量を少なくできる。
【符号の説明】
【0053】
1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G,1H 検査装置
12 光源
14 非線形光学結晶
16 偏光部
18 検出器
20 集光レンズ
22 データロガー
24 第1偏光子
26 第2偏光子
28 第1偏光子
30 第2偏光子
32 第1回転部
34 第2回転部
36,42 ギア
38,44 ギア
40,46 モータ
48 1/4波長板
50 ハーフミラー
52 1/4波長板
LB パルス励起光
RM 難透過材料
TG 検査対象物
CR 亀裂
TH テラヘルツ波
THc 円偏波のテラヘルツ波
TS トリガ信号
RW 反射波
SC 信号成分
NC 不要成分
CR 亀裂
TP 試験片
LN ライン
SL1~SL6 スリット