(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131443
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】無体財産権の請求権の管理方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/18 20120101AFI20230914BHJP
G06Q 20/38 20120101ALI20230914BHJP
G06Q 20/06 20120101ALI20230914BHJP
【FI】
G06Q50/18 310
G06Q20/38 310
G06Q20/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036209
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】508315741
【氏名又は名称】株式会社富士山マガジンサービス
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 アントニオ
【テーマコード(参考)】
5L049
5L055
【Fターム(参考)】
5L049CC16
5L055AA15
5L055AA72
(57)【要約】
【課題】無体財産権の請求権を簡便に管理することができる管理方法を提供する。
【解決手段】無体財産権の請求権の管理方法は、無体財産権に関する売り上げに関する請求権であって、前記無体財産権の所有権と切り離した前記請求権を、ブロックチェーンを用いて管理する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無体財産権に関する売り上げに関する請求権であって、前記無体財産権の所有権と切り離した前記請求権を、ブロックチェーンを用いて管理する管理方法。
【請求項2】
前記請求権を、各々が同じ価値を有する有限個の仮想コインに分割し、
前記仮想コインの各々の保有者をブロックチェーンの台帳で管理する、請求項1に記載の管理方法。
【請求項3】
第一保有者の前記仮想コインが第二保有者へ譲渡された場合、前記台帳は、譲渡された前記仮想コインの保有者として、前記第二保有者を記録する、請求項2に記載の管理方法。
【請求項4】
前記台帳には、各保有者の識別情報が記録されており、
前記識別情報は、対応する保有者の支払先情報を含み、
前記売り上げのうち、前記台帳に記録されている前記仮想コインの保有数に応じた金額を、前記支払先情報に基づいて各保有者の支払先に送金する、請求項2または請求項3に記載の管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無体財産権の請求権の管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、資産の権利管理及び収益の利便性を高めるための、資産権利管理システムを開示している。特許文献1のシステムは、ブロックチェーンネットワーク上で資産に対応する資産スマートコントラクトを発布し、資産スマートコントラクトを実行して資産の所有権を示す均質化した所有権トークンを生成し、所有権トークンに基づいて対応すると共に均質化していない資産の使用権を示す使用権トークンを生成する。資産スマートコントラクトが使用権トークンの取引により獲得した収益金額を受領すると、資産権利管理システムは使用権トークンを移譲すると共に利益分配金額を計算して所有権者に発送する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで特許文献1は、無体財産権の所有権と請求権を区別して管理するものの、これら所有権と請求権を一体不可分で取り扱う。したがって、無体財産権が複数人で共有されている場合であって、一の所有者が、自らが所有する無体財産権の全部あるいは一部を他の人に譲渡する場合には、他の所有者の同意や、所有者全員で交わした契約書を書き換えることが必要であった。
【0005】
本開示は、無体財産権の請求権を簡便に管理する管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の請求権の管理方法は、
無体財産権に関する売り上げに関する請求権であって、前記無体財産権の所有権と切り離した前記請求権を、ブロックチェーンを用いて管理する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の管理方法によれば、所有権と切り離して、無体財産権の請求権のみを管理対象としたため、一の保有者は、譲渡にあたって他の保有者の同意は不要であり、契約書を書き換える必要もない。したがって、ブロックチェーンを用いて請求権を簡便に管理する管理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態(以下、本実施形態という。)について図面を参照しながら説明する。本開示は、無体財産権に関する売り上げに関する請求権を、ブロックチェーンを用いて管理する管理方法に関する。本実施形態では、無体財産権として、小説や漫画などの著作権を取り上げる。以降では、一つの著作権Zを著作者A及び出版社Sが共有する場合を説明する。本実施形態において著作権とは著作者の財産的な利益を保護する権利を意味するものとして用いる。著作者はこの著作権の一部又は全部を譲渡可能である。
【0009】
著作者Aは、著作権Zを創作した者である。著作者Aは、出版権設定契約を含む契約を出版社Sと交わすことで、出版社Sに対して著作権Zの出版権を設定することができる。著作者Aと出版社Sとで締結した契約書では、著作者Aと出版社Sについて、著作物Zに関する売り上げの各々の取り分を定めることができる。以降の例では、著作者Aが、著作物Zに関する売り上げの2割を請求する権利を有することと、出版社Sが、出版に伴う原価を負担するともに、著作物Zに関する売り上げの8割を請求する権利を有することを定めたものとする。
ところで、例えば漫画家などはいわゆる売れっ子作家と呼ばれるようになるまでは、著作物から得られる金銭だけでは生計が立ち行かないことがあることが知られている。そこで、著作者Aが著作権Zの一部を他者へ売却することで著作者Aは一時的な金銭を得られる、と考えられる。
【0010】
しかしながら現実には、著作者Aが著作権Zを他者へ譲渡する際には出版社Sの同意が必要なので、そのような著作権Zの売却は難しかった。さらには、著作者Aから著作権Zの一部が譲渡された第三者がさらに別の第三者へ譲渡する際にも、出版社Sや著作者Aなど著作物Zに関する権利を保有している者全員の同意が必要となる。このように著作権Zの譲渡には制約が多く、著作権Z自体が単独で流通することは困難であった。
【0011】
そこで本発明者は、著作物Zに関する売り上げに関する請求権を、著作物Zの所有権とは切り離すことを考えた。すなわち、請求権と所有権とを互いに独立して扱うものとする。例えば、著作者Aが著作物Zの請求権の一部を第三者へ譲渡する場合であっても、著作者Aは依然として著作物Zの所有権を有することができるものとする。
【0012】
このように著作物Zに関する売り上げに関する請求権を、著作物Zの所有権から切り離し、独立して扱うことができるようにしたことで、この請求権を流通させやすくなった。さらに本実施形態では、この請求権を、ブロックチェーンを用いて管理することにより、さらにこの請求権を流通させやすくしている。
【0013】
本実施形態は、ブロックチェーンネットワーク上に、各々が同じ価値を有する有限個の仮想コインを発行する。仮想コインを有する保有者は、仮想コインの保有数に応じて、著作物Zの売り上げの一部を収益金額として受領する権利を有する。仮想コインの各々の保有者は、ブロックチェーンの台帳で管理されている。具体的には、仮想コインとその保有者の対応関係は、ブロックチェーンネットワークを構成する各ブロックの台帳に記録されている。
【0014】
例えば本実施形態では、著作物Zの売り上げ全体に対して10000個の仮想コインがブロックチェーンネットワーク上に発行されているものとする。表1は、各々の仮想コインとその保有者の対応関係を示す。表1において、各仮想コインにはハッシュ値が関連付けられている。ハッシュ値は、データの耐改ざん性を高めるために付された値であり、暗号化関数であるハッシュ関数によって付与される。さらに各仮想コインにはその保有者を示す保有者識別情報が対応付けられて台帳に記録されている。保有者識別情報は、対応する保有者の支払先情報を含んでいる。保有者識別情報は、識別情報の一例である。なお、以降の説明では、各コインをハッシュ値で識別することは説明が大変であるため、各コインに呼び番号を付して呼ぶこととする。例えば、ハッシュ値:Fuj13maGaz1n…に関連付けられたコインを呼び番号00001と呼ぶこととする。
【0015】
【0016】
表1に示すように、発行された仮想コインのうち、呼び番号1から2000までの、2000個の仮想コインが著作者Aに、呼び番号2001から10000までの、8000個の仮想コインが出版社Sに保有されていたものとする。表1に示す仮想コインとその保有者の対応関係は、ブロックの台帳で記録され、管理されている。
【0017】
次に請求権の一部を譲渡する場合の詳細を説明する。
例えば著作者Aが、自らが所有する仮想コイン2000個のうち、一部の仮想コイン5個を他者B及び他者Cへ譲渡する。著作者Aは、第一保有者の一例である。他者B及び他者Cは第二保有者の一例である。
【0018】
表2は、譲渡後の、各々の仮想コインとその保有者の対応関係を示す。表2に示すように、著作者Aは、呼び番号00003、00004及び00005に対応する仮想コイン3個を他者Bへ譲渡する。このとき、ブロックチェーンネットワーク上では、ブロックの台帳に記録されていた呼び番号00003、00004及び00005の保有者情報が、著作者Aから他者Bに変更されたことが記録される。このようにして、譲渡された3個の仮想コインの保有者として、他者Bが台帳に記録される。
【0019】
【0020】
このとき著作者Aは、出版社Sに対して、3個の仮想コインを他者Bへ譲渡することにつき同意を得る必要はない。また著作者Aは、出版社Sと締結した契約書を書き換える必要もない。本実施形態において、請求権と所有権とは切り離され、互いに独立しているためである。著作者Aは、3個の仮想コインを他者Bへ譲渡する代わりに、当該3個の仮想コインに相当する金銭を他者Bから受け取ることができる。他者Bから著作者Aへの支払いは、保有者識別情報に含まれる支払先情報に基づいて行われてもよい。
【0021】
同様にして、著作者Aは、呼び番号00008及び02000に対応する仮想コイン2個を他者Cへ譲渡する。このとき、ブロックチェーンネットワーク上では、ブロックの台帳に記録されていた呼び番号00008及び02000の保有者情報が、著作者Aから他者Cに変更されたことが記録される。著作者Aは、出版社Sの同意を得ることなく、また契約書を書き換えることなく、2個の仮想コインを他者Cへ譲渡し、当該2個の仮想コインに相当する金銭を他者Cから受け取ることができる。他者Cから著作者Aへの支払いは、保有者識別情報に含まれる支払先情報に基づいて行われてもよい。
【0022】
このようにして請求権を有する保有者およびそれらの比率がブロックチェーンで管理される。著作物Zの売り上げを配分する際には、総発行仮想コインの数に対する、各々の保有者の台帳に記録されている仮想コインの保有数の比率に応じて、売り上げが分配される。本実施形態においては、台帳に保有者の送金先情報も含まれていることから、著作物Zの売り上げのうち、ブロックの台帳に記録されている仮想コインの保有数に応じた金額が、支払先情報に基づいて各保有者の支払先に送金される。本例においては、他者Bには3個の仮想コインに応じた金額が送金され、他者Cには2個の仮想コインに応じた金額が送金され、1995個の仮想コインに応じた金額が著作者Aに送金される。
【0023】
以上説明したように、本開示の管理方法によれば、所有権と切り離して、無体財産権の請求権のみを管理対象としている。このため著作者Aは、請求権の譲渡にあたって出版社Sの同意は不要であり、契約書を書き換える必要もない。したがって、ブロックチェーンを用いて請求権を簡便に管理する管理方法を提供することができる。
【0024】
なお本実施形態は、無体財産権の一例として著作物Zについて説明したが、無体財産権は著作物に限られない。無体財産権は、特許権、実用新案権、意匠権、商標権を含む。
【0025】
本実施形態は、著作物Zを著作者A及び出版社Sの二者で共有する場合を説明したが、共有者の数は二者に限られない。一つの著作物Zを三者以上で共有する場合も、本開示によれば同様の効果を得ることができる。
【0026】
本実施形態は、著作物Zの売り上げ全体に対して10000個の仮想コインを発行し、著作者Aが2000個の仮想コインを保有し、出版社Sが8000個の仮想コインを保有する場合を説明したが、仮想コインの数はこれらに限られない。ブロックチェーンネットワーク上に複数の仮想コインが発行されればよく、その一部一部を保有者が保有すればよい。
【0027】
本実施形態は、著作者Aが、自らが保有する仮想コイン3個を他者Bへ、仮想コイン2個を他者Cへ譲渡する場合を説明したが、請求権の譲渡はこれに限られない。他者Bが、自らが保有する仮想コインの一部である1個の仮想コインを他者Cへ譲渡してもよい。出版社Sが、自らが保有する仮想コインを他者Tへ譲渡してもよい。これらの場合においても、本開示によれば同様の効果を得ることができる。
【0028】
以上、本開示の実施形態について説明をしたが、本開示の技術的範囲が本実施形態の説明によって限定的に解釈されるべきではないのは言うまでもない。本実施形態は単なる一例であって、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、様々な実施形態の変更が可能であることが当業者によって理解されるところである。本開示の技術的範囲は特許請求の範囲に記載された発明の範囲及びその均等の範囲に基づいて定められるべきである。
【0029】
例えば上述した実施形態では、著作物Zに関する売り上げに関する請求権を設定した例を説明したが、売り上げから原価を引いた利益などについて請求権を設定してもよい。
【符号の説明】
【0030】
A:著作者
B:他者
C:他者
S:出版社
T:他者
Z:著作権