(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131444
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】歯科矯正具
(51)【国際特許分類】
A61C 7/08 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
A61C7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036210
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】517118102
【氏名又は名称】SheepMedical株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104776
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100119194
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 明夫
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 賢也
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052JJ01
(57)【要約】
【課題】歯列部の個々の歯を矯正するとともに、舌癖を改善することが可能な歯科矯正具を提供する。
【解決手段】歯科矯正具は、上顎歯列部2を覆うように装着されて上顎歯列部2の個々の歯を矯正する。歯科矯正具は、上顎歯列部2の歯冠部に嵌合して個々の歯を矯正する本体部10aと、この本体部10aから歯根部側に延びるように形成した口蓋側延長部11bとを備え、口蓋側延長部11bにおいて上顎歯列部2の前歯間に相当する部分に他の部分と形状が異なる部分を設けて、該部分に舌尖が接触することにより、該部分に意識を集中させることが可能な形状変化部としての突起部12が設けられている
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯列部を覆うように装着されて該歯列部の個々の歯を矯正する歯科矯正具であって、
前記歯列部の歯冠部に嵌合して個々の歯を矯正する本体部と、該本体部から歯根部側に延びるように形成した延長部とを備え、
前記延長部の口蓋側において前記歯列部の前歯間に相当する部分に他の部分と形状が異なる部分を設けて、該部分に舌尖が接触することにより、該部分に意識を集中させることが可能な形状変化部が設けられていることを特徴とする歯科矯正具。
【請求項2】
前記形状変化部が突起部であって、該突起部は前記延長部の口蓋側に口腔内に向けて突出するように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の歯科矯正具。
【請求項3】
前記突起部は、その突出する面が曲面形状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の歯科矯正具。
【請求項4】
前記突起部は、その突出する部分が線状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の歯科矯正具。
【請求項5】
前記形状変化部が貫通孔であって、該貫通孔には前記舌尖が入り込むように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の歯科矯正具。
【請求項6】
前記延長部は、端縁部のカットラインが各歯の歯頚部と歯肉部との境界線を接続した形状よりもなだらかに形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の歯科矯正具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯列部の個々の歯を矯正するための歯科矯正具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯列を矯正する器具には、例えば歯列に装着するマウスピースがある。このようなマウスピースは、上顎歯列部全体又は下顎歯列部全体を覆う形状に形成されており、例えば特許文献1に記載された歯科用器具がある。この歯科用器具は、歯を受け入れるように形成されたキャビティを有するシェルを含むものであって、このシェルの少なくとも第1の部分は第1の剛性を有する材料から構成されており、上記シェルの第2の部分は第1の剛性とは異なる第2の剛性を有する材料から構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載された従来の歯科用器具では、シェルが歯を受け入れるように形成されたキャビティを有していることから、歯列部を矯正することができる。
【0005】
しかしながら、従来の歯科用器具では、舌癖のある患者に用いた場合、歯列部を矯正したとしても、舌癖によって矯正した後の歯列部が元の不正咬合の状態に戻ってしまうこととなり、歯列部を矯正するのに長い期間を要するという問題がある。
【0006】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、歯列部の個々の歯を矯正するとともに、舌癖を改善することが可能な歯科矯正具を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を達成するために、請求項1に記載の発明は、歯列部を覆うように装着されて該歯列部の個々の歯を矯正する歯科矯正具であって、前記歯列部の歯冠部に嵌合して個々の歯を矯正する本体部と、該本体部から歯根部側に延びるように形成した延長部とを備え、前記延長部の口蓋側において前記歯列部の前歯間に相当する部分に他の部分と形状が異なる部分を設けて、該部分に舌尖が接触することにより、該部分に意識を集中させることが可能な形状変化部が設けられていることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記形状変化部が突起部であって、該突起部は前記延長部の口蓋側に口腔内に向けて突出するように形成されていることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の構成に加え、前記突起部は、その突出する突出面が曲面形状に形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の構成に加え、前記突起部は、その突出する部分が線状に形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記形状変化部が貫通孔であって、該貫通孔には前記舌尖が入り込むように形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の構成に加え、前記延長部は、端縁部のカットラインが各歯の歯頚部と歯肉部との境界線を接続した形状よりもなだらかに形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、延長部の口蓋側において歯列部の前歯間に相当する部分に他の部分と形状が異なる部分を設けて、この部分に舌尖が接触することにより、この部分に意識を集中させることが可能な形状変化部が設けられていることにより、形状変化部に舌尖を接触させることにより、舌癖のある患者に対して舌部を常に正しい位置になるように導くことができ、歯列部の個々の歯を矯正するとともに、舌癖を改善することが可能となる。
【0014】
また、請求項2に記載の発明によれば、形状変化部が突起部であって、この突起部は延長部の口蓋側に口腔内に向けて突出するように形成されていることにより、容易に突起部を形成することができるとともに、舌部を常に正しい位置になるように導くことができる。
【0015】
また、請求項3に記載の発明によれば、突起部は、その突出する突出面が曲面形状に形成されているので、舌尖が接触したときの不快感をなくすことができる。
【0016】
また、請求項4に記載の発明によれば、突起部は、その突出する部分が線状に形成されているので、突起部を容易に形成することが可能となる。
【0017】
また、請求項5に記載の発明によれば、形状変化部が貫通孔であって、この貫通孔には舌尖が入り込むように形成されているので、貫通孔に常に意識を集中させることができ、舌癖を早期に改善することが可能となる。
【0018】
また、請求項6に記載の発明によれば、延長部は、端縁部のカットラインが各歯の歯頚部と歯肉部との境界線を接続した形状よりもなだらかに形成されているので、歯科矯正具としての強度を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る歯科矯正具を上顎歯列部に装着した状態を示す斜視図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る歯科矯正具を上顎歯列部に装着した状態を示す底面図である。
【
図6】本発明の第1実施形態に係る歯科矯正具を口腔内に装着した状態を示す縦断面図である。
【
図8】本発明の第1実施形態に係る歯科矯正具の突起部の変形例を示す拡大正面図である。
【
図9】本発明の第2実施形態に係る歯科矯正具を上顎歯列部に装着した状態を示す底面図である。
【
図11】本発明の第2実施形態に係る歯科矯正具を口腔内に装着した状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る歯科矯正具の実施形態について説明する。
【0021】
図1乃至
図7は、本発明に係る歯科矯正具の第1実施形態を示す。
【0022】
図1は、本発明の第1実施形態に係る歯科矯正具を上顎歯列部に装着した状態を示す斜視図である。
図2は、本発明の第1実施形態に係る歯科矯正具を上顎歯列部に装着した状態を示す底面図である。
図3は、
図2のA-A線による断面図である。
図4は、
図2の突起部を示す拡大正面図である。
図5は、
図4のB-B線による断面図である。
図6は、本発明の第1実施形態に係る歯科矯正具を口腔内に装着した状態を示す縦断面図である。
図7は、
図6のC部を示す拡大断面図である。
【0023】
なお、以下の各実施形態では、歯科矯正具を口腔部内に挿入し、上顎歯列部に装着した状態で、その前歯側を前側、奥歯側を後側とし、口蓋側(舌側)を内側、頬側(唇側)を外側として説明する。
【0024】
図1及び
図2に示すように、歯科矯正具10は、口腔1内に挿入され、例えば上顎歯列部2に装着されるマウスピース型である。ここで、上顎歯列部2は、前歯3、犬歯4、及び奥歯5を有する。前歯3は、切歯であって、左右の中切歯3a、左右の側切歯3bを備える。奥歯5は、臼歯であって、左右の第1、第2小臼歯、左右の第1~第2大臼歯を備える。
【0025】
本実施形態の歯科矯正具10は、上顎歯列部2の個々の歯を整列すべき方向に移動させ、あるいは移動させた歯を元に戻らないように成型した成型物(アライナー又はリテーナー)である。
【0026】
歯科矯正具10は、例えば複数異なる大きさのもの、あるいは異なる硬さのものを段階的に用意して、それらを定期的に交換することにより矯正治療を進めていくものである。例えば、一番最初に用意される歯科矯正具10は、患者の当初の上顎歯列部2の個々の歯の位置から、0.2~0.5mm程度個々の歯を移動させたあとの歯列形状に対応させて作られる。この歯列矯正具10を1~3週間程度装着すると、上顎歯列部2の個々の歯は徐々に移動していくことになる。その後、さらに個々の歯を移動させた形状に対応させた歯列矯正具10を順次用意し、少しずつ個々の歯を移動させることにより、患者の矯正治療を行う。
【0027】
なお、本実施形態の矯正とは、個々の歯を整列すべき方向に移動させて矯正すること以外に、矯正することによって移動させた歯を元に戻らないようにする保定のことを含むものとする。以下の実施形態では、個々の歯を整列すべき方向に移動させて矯正する場合について説明する。
【0028】
本実施形態の歯科矯正具10は、
図3に示すように患者の上顎歯列部2の前歯3、犬歯4及び奥歯5の歯冠部6の形状とほぼ同形状の内側面を有する本体部10aと、この本体部10aからさらに歯根部7に向けて口蓋側及び頬側にそれぞれ延長された口蓋側延長部11b及び頬側延長部11cとを有している。この本体部10aを患者の口腔1内の各歯に合わせて嵌め込み、矯正を進めていくことになる。ここで、本体部10aは、上顎歯列部2の歯冠部6に嵌合して個々の歯を整列すべき方向に移動させて矯正する。
【0029】
本実施形態の歯科矯正具10は、全体が弾性を有する樹脂材料であって、例えば0.40~0.50mmの厚さに一体成形されている。具体的に、上記樹脂材料は、例えばポリウレタン等のウレタン樹脂、シリコン樹脂、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂及びアクリル樹脂等から選択される。なお、歯科矯正具10は、装着前の患者の歯列に対応した形状とは異なり、矯正後の歯列に対応した形状に成型されている。すなわち、患者が最初に歯科矯正具10を装着する際には、歯科矯正具10に負荷をかけて少し弾性変形させながら嵌め込むことになる。そのように変形された歯科矯正具10は、その弾性ゆえに、最初に一体成型された形状に復元する力が発生し、少しずつ歯列を矯正する方向に整列させていく。上記樹脂材料は、無色透明又は乳白色であることが望ましく、これにより口腔1内に挿入した場合、上顎歯列部2に装着していることが目立たず、審美性に優れたものとなる。
【0030】
本体部10aは、口腔1内の上顎歯列部2の全ての歯、すなわち上顎歯列部2の前歯3、犬歯4及び奥歯5を覆って所定の形状を保持する硬度を有している。本体部10aは、上顎歯列部2の歯列弓(アーチ)に沿った形状に形成されて前歯3、犬歯4及び奥歯5の個々の歯の歯冠部6に嵌合するように形成されている。本体部10aには、歯根部7側に位置する歯肉部8まで延びるように延長部11が、本体部10aと同一の樹脂材料で一体に設けられている。
【0031】
口蓋側延長部11b及び頬側延長部11cには、それぞれ
図1及び
図2に示すように、端縁部のカットライン11aが各歯の歯頚部と歯肉部8との境界線(歯頚ライン)を接続した形状よりもなだらかなに形成されている。換言すると、カットライン11aは、各歯の歯頸部の、一番深い箇所よりも0.5~2.0mm程度深い位置を結んだ線(歯肉形状にも合わせ、3次元的に急激な曲がりが少ない連続的な線、正面視直線状に近い線)で作られる。また、口蓋側延長部11b及び頬側延長部11cは、歯根部7側に位置する歯肉部8に密着するように、歯肉部8側の接触面がそれぞれ口蓋側及び頬側の表面形状とほぼ同一の形状に形成されている。
【0032】
口蓋側延長部11bは、
図2及び
図3に示すように歯科矯正具10の装着時において上顎歯列部2の前歯3から歯根部7に向けて延びる部位となる。口蓋側延長部11bには、口腔内に向けて突出するように形成された形状変化部としての微小な突起部12が設けられている。この突起部12は、
図6及び
図7に示すように口蓋側延長部11bにおいて上顎歯列部2の前歯3間に相当する部分に他の部分と形状が異なる部分であり、この部分(突起部12)に舌部20の舌尖21が接触することにより、この部分(突起部12)に患者の意識を集中させるようにしたものである。突起部12は、歯科矯正具10の装着時に患者の舌部20の舌尖21が接触可能な位置に設けられている。突起部12は、口蓋側延長部11bにおいて、上顎歯列部2の前歯3の左の中切歯3aと右の中切歯3aとの間の正中線L1上に対応する部位に形成されている。突起部12は、左右の中切歯3aと左右の側切歯3bの歯頸部の、一番深い点を結んだ線(歯肉形状にも合わせ、3次元的に急激な曲がりが少ない連続的な線、正面視直線状に近い線)である切歯歯頚線L2上を含むとともに、切歯歯頚線L2よりもカットライン11a側に対応する部位に形成されている。この突起部12が設けられる部位は、正しい舌部20の位置を覚えるように、舌部20の舌尖21を接触させておく位置であるスポットポジションとなるようにしている。
【0033】
ここで、突起部12は、上顎歯列部2の前歯3の左の中切歯3aと右の中切歯3aとの間の正中線L1上に対応する部位であって、切歯歯頚線L2上を含み、さらに切歯歯頚線L2よりもカットライン11a側に対応する範囲内の部位であれば、如何なる部位に配置するようにしてもよい。
【0034】
突起部12は、
図3~
図5に示すように、突出する突出面12aが中空の曲面形状に形成されている。本実施形態の突起部12は、ドーム(半球)状に形成され、その径が例えば2mm程度であって、3mm未満である。ここで、突起部12の径は、それよりも大きくなると、歯科矯正具10の装着時に患者にとって煩わしくなる問題があるため、患者にとって舌部20の舌尖21が突起部12に接触し、突起部12に患者の意識が集中するような大きさであればよい。
【0035】
突起部12は、歯科矯正具10に設けられた口蓋側延長部11bにおける上顎歯列部2の前歯3の左の中切歯3aと右の中切歯3a間に対応する部位に例えば圧着工具等の工具を用いて容易に形成することができる。また、突起部12は、歯科矯正具10及び口蓋側延長部11b及び頬側延長部11cを成形するときに一体に形成するようにしてもよい。なお、突起部12は、歯科矯正具10の口蓋側延長部11bに接着剤で接着することで、別体に設けるようにしてもよい。
【0036】
次に、本実施形態の歯科矯正具10の作用を説明する。
【0037】
本実施形態の歯科矯正具10は、アライナーとして使用する場合、
図6及び
図7に示すように口腔1内に挿入して上顎歯列部2の前歯3、犬歯4及び奥歯5の歯冠部6に装着したとき、前歯3、犬歯4及び奥歯5の個々の歯の歯冠部6に嵌合して個々の歯を整列すべき方向に徐々に移動させて矯正するようにしている。この歯科矯正具10の装着時には、口蓋側延長部11b及び頬側延長部11cは、
図2及び
図3に示すように口蓋側及び頬側のそれぞれの側と前歯3、犬歯4及び奥歯5の歯肉部8とが接触するようになっている。
【0038】
なお、本実施形態とは異なる従来の歯科矯正具では、口蓋側延長部11b及び頬側延長部11cを形成せずに歯頸部とカットラインを一致させているものがある(本体部10aのみで形成されている形状に相当)。このような歯科矯正具では、歯肉部8に相当する箇所に樹脂材料がないため、歯肉退縮を防ぐことができるように見えるが、樹脂材料が少ないことによる強度不足・弾性力不足が起こり、十分に矯正が進まないことがある。
【0039】
これに対して、本実施形態では、歯肉部8に相当する箇所まで樹脂材料を使いつつ、歯肉部8に接触するように歯根部7側に延びる口蓋側延長部11b及び頬側延長部11cを形成したことにより、強度を高め、矯正効果を向上させることが可能となる。
【0040】
また、歯科矯正具10の装着時には、口蓋側延長部11bの中切歯3a間に対応する部位に設けられた突起部12に患者の舌部20の舌尖21が接触可能となる。そのため、本実施形態では、正しい舌部20の位置を覚えるように、突起部12がスポットポジションとなる部位に設けられ、この位置の突起部12に舌部20の舌尖21を常に接触させて突起部12に意識を集中させるようにしている。これにより、患者の口腔筋機能を整え、舌癖を改善することができる。
【0041】
なお、本実施形態の歯科矯正具10は、整列すべき方向に移動させた後に、移動させた歯を元に戻らないようにリテーナーとして使用することもできる。
【0042】
このように本実施形態によれば、口蓋側延長部11bにおいて上顎歯列部2の前歯3間に相当する部分に他の部分と形状が異なる部分を設けて、この部分に舌尖21が接触することにより、この部分に意識を集中させることが可能な突起部12が設けられていることにより、突起部12に舌尖21を接触させることで、舌癖のある患者に対して舌を常に正しい位置にするように導くことができ、上顎歯列部2の個々の歯を矯正するとともに、舌癖を改善することが可能となる。また、患者の舌癖を改善することによって、一旦矯正した上顎歯列部2の個々の歯を元の不正咬合の状態に戻ることがなくなるという効果が得られる。
【0043】
そして、本実施形態によれば、突起部12は口蓋側延長部11bに突出するように形成されていることにより、容易に口蓋側延長部11bを形成することができるとともに、舌部20を常に正しい位置になるように導くことができる。
【0044】
また、本実施形態によれば、突起部12は、上顎歯列部2の中切歯3a間の正中線L1に対応する部位に形成されているので、その部位がスポットポジションとなる可能性が高いことから、舌部20全体を常に正しい位置になるように導くことができる。
【0045】
さらに、本実施形態によれば、突起部12は、その突出する突出面12aが曲面形状に形成されているので、舌尖21が接触したときの不快感をなくすことができる。
【0046】
そして、本実施形態によれば、口蓋側延長部11b及び頬側延長部11cは、その端縁部のカットライン11aが各歯の歯頚部と歯肉部8との境界線(歯頚ライン)を接続した形状よりもなだらかに形成されていることにより、カットライン11aが歯頚部と歯肉部8との境界線を接続した形状のものよりも全体の強度を高める(矯正力を一段と高め審美感を損なうのを防止する)ことができる。
[発明の第1実施形態の変形例]
次に、本発明の第1実施形態の変形例について説明する。
【0047】
図8は、本発明の第1実施形態に係る歯科矯正具の突起部の変形例を示す拡大正面図である。なお、本変形例では、前記第1実施形態と同一又は対応する部分に同一の符号を付して説明を省略する。
【0048】
図8に示すように、本変形例の形状変化部としての突起部13は、線状に形成され、かつ突出する突出面13aが平面状に形成され、その長さ方向が前歯3の歯軸方向Xに対して直交する方向に延びている。この突起部13は、前記実施形態と同様に口蓋側延長部11bにおいて、上顎歯列部2の前歯3の左の中切歯3aと右の中切歯3aとの間に対応する部位に形成されている。また、突起部13が設けられる部位は、正しい舌部20の位置を覚えるように、舌部20の舌尖21を接触させておく位置であるスポットポジションとなるようにしている。
【0049】
このように本変形例によれば、突起部13は、その突出する部分が線状に形成されているので、突起部13を容易に形成することが可能となる。
[歯科矯正具の第2実施形態]
図9は、本発明の第2実施形態に係る歯科矯正具を上顎歯列部に装着した状態を示す底面図である。
図10は、
図9のD-D線による断面図である。
図11は、本発明の第2実施形態に係る歯科矯正具を口腔内に装着した状態を示す縦断面図である。
図12は、
図11のE部を示す拡大断面図である。なお、本実施形態では、前記第1実施形態と同一又は対応する部分に同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0050】
図9及び
図10に示すように、本実施形態では、第1実施形態の突起部12に代えて形状変化部としての貫通孔15が形成されている。この貫通孔15は、口蓋側延長部11bにおいて上顎歯列部2の前歯3間に相当する部分に他の部分と形状が異なる部分であり、この部分(貫通孔15)に舌部20の舌尖21が接触することにより、この部分(貫通孔15)に患者の意識を集中させるようにしたものである。
【0051】
貫通孔15は、その径が例えば2mm程度であって、3mm未満である。なお、貫通孔15の径は、患者にとって舌部20の舌尖21がその内部に吸着されるように接触し、貫通孔15に患者の意識が集中するような大きさであればよい。
【0052】
貫通孔15は、口蓋側延長部11bにおいて、上顎歯列部2の前歯3の左の中切歯3aと右の中切歯3aとの間の正中線L1上に対応する部位に形成されている。貫通孔15は、左右の中切歯3aと左右の側切歯3bの歯頸部の、一番深い点を結んだ線(歯肉形状にも合わせ、3次元的に急激な曲がりが少ない連続的な線、正面視直線状に近い線)、すなわち切歯歯頚線L2上を含むとともに、切歯歯頚線L2よりもカットライン11a側に対応する部位に形成されている。
【0053】
貫通孔15を口蓋側延長部11bの上記の部位に形成するには、例えば歯科技工用エンジンのラウンドバーを用いて開口することで、その開口端にバリが形成されることなく、精確な貫通孔15を容易に形成することが可能となる。
【0054】
したがって、本実施形態では、歯科矯正具10の装着時には、口蓋側延長部11bの中切歯3a間に対応する部位に設けられた貫通孔15に患者の舌部20の舌尖21が内部に入り込むように吸着されるように接触する。そのため、本実施形態では、正しい舌部20の位置を覚えるように、貫通孔15がスポットポジションとなる部位に設けられ、この位置の貫通孔15の開口端に舌部20の舌尖21を常に接触させて貫通孔15に意識を集中させるようにしている。これにより、患者の口腔筋機能を整え、舌癖を改善することができる。
【0055】
このように本実施形態によれば、貫通孔15には、舌尖21が入り込むように形成されているので、貫通孔15に常に意識を集中させることができ、舌癖を早期に改善することが可能となる。
【0056】
また、本実施形態によれば、貫通孔15は、前歯3の中切歯3a間の正中線L1に対応する部位に形成されているので、舌部20を常に正しい位置になるように導くことができる。
[発明の他の実施形態]
本発明の各実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これらの実施形態は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0057】
なお、上記第1実施形態及び変形例では、上顎歯列部2の前歯3に対応する口蓋側延長部11bに突起部12,13を形成した例について説明したが、これに限らず下顎歯列部の前歯に対応する口蓋側延長部に形成することは勿論のこと、上顎歯列部2及び下顎歯列部の双方に形成するようにしてもよい。
【0058】
また、上記第1実施形態では、突起部12の突出面12aを曲面形状に形成し、変形例では、線状に形成した例について説明したが、これらに限らず舌尖21が接触して煩わしくなければ、多角形の角錐台、円錐台等の他の如何なる形状に形成したものであってもよく、その数も複数設けるようにしてもよい。加えて、複数設けた場合、互いに形状を異なるようにしてもよい。
【0059】
さらに、上記第1実施形態及び変形例では、口蓋側延長部11bに突起部12,13を形成し、また上記第2実施形態では、口蓋側延長部11bに貫通孔15を形成した例について説明したが、これらに限定することなく、例えば口蓋側延長部11bのカットライン11aから上顎歯列部2の中切歯3a間の正中線L1に対応する部位に沿って直線状のスリットを形成するか、あるいは逆V字状の切欠き部を形成するようにしてもよい。このように形成した場合には、上記スリットや上記切欠き部の両側の角部をC面取り又はR面取りして舌尖21を傷付けない形状にすることが望ましい。
【符号の説明】
【0060】
1 口腔
2 上顎歯列部
3 前歯
4 犬歯
5 奥歯
6 歯冠部
7 歯根部
8 歯肉部
10 歯列矯正具
10a 本体部
11a カットライン
11b 口蓋側延長部
11c 頬側延長部
12 突起部(形状変化部)
12a 突出面
13 突起部(形状変化部)
13a 突出面
15 貫通孔(形状変化部)
20 舌部
21 舌尖