(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131471
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】ローリングプレス機を用いた平板プレス加工方法、平板プレス加工プログラム、及び平板プレス加工システム
(51)【国際特許分類】
B21D 5/08 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
B21D5/08 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036256
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 正仁
(72)【発明者】
【氏名】松尾 宏平
【テーマコード(参考)】
4E063
【Fターム(参考)】
4E063AA01
4E063BB05
4E063CA03
4E063EA12
4E063LA01
4E063LA17
4E063MA30
(57)【要約】
【課題】ローリングプレス機を用いた平板プレス加工作業を対象に、微分幾何学の観点から合理的な施工情報を導出し、曲面を有した外板を得ること。
【解決手段】プレス加工対象の外板の3次元CADデータを取得するステップS1と、平板に外板を得るための冷間曲げ用曲率線展開法を適用し曲率線に基づいた展開図を得るステップS2と、展開図に対してローリングプレス機によるローリング方向を決定するステップS3と、ローリング加工幅を含むローリング内容を決定しローリング帯を構築するステップS5と、ローリング帯に対して冷間曲げ用曲率線展開法に基づいて得られた伸ばし量と曲げ量を加工量として割り当てるステップS6と、ローリング帯に対する加工量に基づいて得られたプレス加工情報を出力するステップS7と、プレス加工情報に従ってローリングプレス機を用いて平板をプレス加工し曲面を有した外板を得るステップS8とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板をローリングプレス機を用いてプレス加工し、曲面を有した外板を得る平板プレス加工方法であって、プレス加工対象の前記外板の3次元CADデータを取得するCADデータ取得ステップと、前記平板に前記外板を得るための冷間曲げ用曲率線展開法を適用し曲率線に基づいた展開図を得る展開図取得ステップと、前記展開図に対して前記ローリングプレス機によるローリング方向を決定するローリング方向決定ステップと、ローリング加工幅を含むローリング内容を決定しローリング帯を構築するローリング帯構築ステップと、前記ローリング帯に対して前記冷間曲げ用曲率線展開法に基づいて得られた伸ばし量と曲げ量を加工量として割り当てる加工量割り当てステップと、前記ローリング帯に対する前記加工量に基づいて得られたプレス加工情報を出力する加工情報出力ステップと、前記プレス加工情報に従って前記ローリングプレス機を用いて前記平板をプレス加工し曲面を有した前記外板を得るプレス加工ステップとを有したことを特徴とするローリングプレス機を用いた平板プレス加工方法。
【請求項2】
前記展開図取得ステップにおいて、前記展開図とともに前記外板を得るための前記曲率線に沿った前記プレス加工に必要な前記伸ばし量と前記曲げ量を取得すること特徴とする請求項1に記載のローリングプレス機を用いた平板プレス加工方法。
【請求項3】
前記ローリング帯構築ステップにおいて、前記ローリングプレス機の前記ローリング加工幅としてローリング長さを決定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のローリングプレス機を用いた平板プレス加工方法。
【請求項4】
前記ローリング方向決定ステップと前記加工量割り当てステップとの間に、前記ローリング方向が前記曲率線に沿ったローリング線になるか否かを判断するローリング線判断ステップをさらに有したことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のローリングプレス機を用いた平板プレス加工方法。
【請求項5】
前記ローリング線判断ステップで前記ローリング線が前記曲率線に沿わないと判断された場合に、さらに前記曲率線に基づく形状修正をするか否かの判断を行う形状修正判断ステップを有したことを特徴とする請求項4に記載のローリングプレス機を用いた平板プレス加工方法。
【請求項6】
前記形状修正判断ステップで形状修正が肯定された場合に、前記3次元CADデータの設計曲面の微修正を行う微修正ステップを有したことを特徴とする請求項5に記載のローリングプレス機を用いた平板プレス加工方法。
【請求項7】
前記形状修正判断ステップで形状修正が否定された場合に、前記曲率線の方向以外の前記ローリング方向に沿った前記外板の前記伸ばし量と前記曲げ量を修正した修正伸ばし量と修正曲げ量を取得する修正加工量取得ステップを有したことを特徴とする請求項2又は請求項3を選択する請求項5に記載のローリングプレス機を用いた平板プレス加工方法。
【請求項8】
前記修正加工量取得ステップで得られた前記修正伸ばし量と前記修正曲げ量を前記加工量割り当てステップにおける前記伸ばし量と前記曲げ量に置き替えて前記加工量として用いることを特徴とする請求項7に記載のローリングプレス機を用いた平板プレス加工方法。
【請求項9】
前記外板の前記プレス加工に必要な前記伸ばし量と前記曲げ量、又は前記修正伸ばし量と修正曲げ量に基づいて構築される前記プレス加工情報は、FEM(有限要素法)解析及び実績値データの少なくとも一方に基づいて導出したものであることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のローリングプレス機を用いた平板プレス加工方法。
【請求項10】
コンピュータに、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のローリングプレス機を用いた平板プレス加工方法における前記CADデータ取得ステップと、前記展開図取得ステップと、前記ローリング方向決定ステップと、前記ローリング帯構築ステップと、前記加工量割り当てステップと、前記加工情報出力ステップとを実行させることを特徴とするローリングプレス機を用いた平板プレス加工プログラム。
【請求項11】
前記コンピュータに、請求項4に記載の前記ローリング線判断ステップを実行させることを特徴とする請求項10に記載のローリングプレス機を用いた平板プレス加工プログラム。
【請求項12】
前記コンピュータに、請求項5に記載の前記形状修正判断ステップを実行させることを特徴とする請求項11に記載のローリングプレス機を用いた平板プレス加工プログラム。
【請求項13】
前記コンピュータに、請求項6に記載の前記微修正ステップを実行させることを特徴とする請求項12に記載のローリングプレス機を用いた平板プレス加工プログラム。
【請求項14】
前記コンピュータに、請求項7に記載の前記修正加工量取得ステップを実行させることを特徴とする請求項12に記載のローリングプレス機を用いた平板プレス加工プログラム。
【請求項15】
請求項10から請求項14のいずれか1項に記載のローリングプレス機を用いた平板プレス加工プログラムを用いて得られた前記プレス加工情報に基づいて前記平板をプレス加工するローリングプレス機を用いた平板プレス加工システムであって、
前記ローリングプレス機と、前記平板を支持する支持手段と、加工用コンピュータとを備え、前記加工用コンピュータに、前記加工情報出力ステップで出力される前記プレス加工情報の入力を受付させ、前記プレス加工情報に基づいて前記ローリングプレス機を制御させ、前記平板をプレス加工することを特徴とするローリングプレス機を用いた平板プレス加工システム。
【請求項16】
前記ローリングプレス機が、前記平板の上を2次元的に動作可能な2次元動作ローリングプレス機であり、前記加工用コンピュータが、前記曲率線に基づいた前記展開図に応じて前記ローリングプレス機を2次元的に動作させることを特徴とする請求項10又は請求項11を引用する請求項15に記載のローリングプレス機を用いた平板プレス加工システム。
【請求項17】
前記支持手段が、前記平板を2次元的に動作可能な2次元動作支持手段であり、前記加工用コンピュータが、前記曲率線に基づいた前記展開図に応じて前記支持手段を2次元的に動作させることを特徴とする請求項10又は請求項11を引用する請求項15に記載のローリングプレス機を用いた平板プレス加工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローリングプレス機を用いて平板をプレス加工し、曲面を有した外板を得る、ローリングプレス機を用いた平板プレス加工方法、平板プレス加工プログラム、及び平板プレス加工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
船体形状を構成する曲面状の外板は、平板の状態から現場での曲げ加工を経て、複雑な3次元形状に成形されている。造船における複雑曲面の外板(船体曲がり外板)施工は、目的の3次元形状を得るために、板を荒曲げして大まかな曲がりをつけた後、ガス加熱により形状を微調整するという成形プロセスが一般的である。板の荒曲げにおいては、条押しプレス機やローラーベンダー(シップベンダー)を利用して冷間曲げが行われ、形状の微調整においては、線状加熱による鋼板の局所的な収縮が行われる。
造船で取り扱う外板のほとんどは、平面展開の際に伸縮を必要とする非可展面と呼ばれる形状に分類される。平面展開と曲げ加工は互いに逆操作にあたり、3次元の設計形状を平面展開する際に要する曲げ量・伸ばし量(または収縮量)を、加工の際に逆に与えることで、平板から目的の3次元形状を得ることが出来る。
ここで、特許文献1には、平板に付したプレスラインを利用してプレス加工を行なう一次加工ステップと、少なくとも一次加工ステップで得られた一次加工曲板の形状を計測する形状計測ステップと、少なくとも一次加工曲板の形状と目標形状を比較し一致度を判定する判定ステップと、一致度が所定値を満たさない場合に一次加工曲板に付す追加加工プレスラインを利用した追加加工手順を導出する手順導出ステップと、追加加工手順を一次加工曲板に反映して追加プレス加工を行なう追加加工ステップと、追加プレス加工を行なった追加加工曲板の形状について形状計測ステップと判定ステップを繰り返す追加加工確認ステップとを備える平板プレス加工の作業支援方法が開示されている。
また、特許文献2には、金属板の表面に熱を加えることにより起こる角変形と、金属板の表面から裏面にかけて熱を加えることにより起こる熱収縮とを組み合わせて、金属板を曲面を含む所望の形状に加工していく曲面を有する金属板の製造方法において、金属板の表面に、幾何学的解析により得られた、角変形を起こさせる加熱線、および/または熱収縮を起こさせる加熱線および/または加熱点を予め設定しておき、これら加熱線および/または加熱点に沿って加熱していく曲面を有する金属板の製造方法が開示されている。
また、特許文献3には、仮想空間内での仮想トランスファプレスサイクル進行中に3次元形状データ化されたプレス側データ化構成要素と搬送側データ化構成要素との干渉発生をチェックする仮想干渉発生チェック装置と、クランプ・アンクランプ動作の最適化を実行可能なクランプ・アンクランプ動作適正化手段と、リフト・ダウン動作の最適化を実行可能なリフト・ダウン動作適正化手段とを設け、仮決めされたクランプ・アンクランプ動作用許容SPMおよびリフト・ダウン動作用許容SPMのいずれか一方の値が小さい許容SPMをプレス機械のSPM(Stroke Per Minute)として自動決定するトランスファプレス機械が開示されている。
また、非特許文献1には、造船プレス加工における標準作業の確立によるリードタイムの短縮や品質の一定化と定量化等を目的として、曲率線情報に基づく厳密なプレス加工線の出力アルゴリズムと、当該アルゴリズムを実装したプレス加工支援システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-49532号公報
【特許文献2】特開2004-74200号公報
【特許文献3】特開2006-122986号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】松尾宏平,外2名,“曲率線情報に基づく造船プレス加工支援システムに関する研究”,日本船舶海洋工学会論文集,2018年12月,第28号,p.189-201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、近年ではローラーベンダーに比べて小型のローラープレス機のみで複雑な3次元形状を成形できる装置が開発され、普及し始めている。しかしながら、当該ローラープレス機を活用するための定量的な施工方案の導出法はいまだ確立されておらず、具体的な施工手順は作業者に一任されているのが実情である。その作業者は、例えば、従来通り木型テンプレートを鋼板に押し当てつつ施工方針を決めるという方法を用いており、また、過去と類似する形状に対しては実績値を活用できるが、新規形状に対しては試行錯誤が必要というのが実態である。
また特許文献1~3、及び非特許文献1は、ローラーベンダーに比べて小型のローリングプレス機を用いた平板プレス加工について、局所ごとの加工量をどのように決定するかなど、合理的な施工要領を提案するものではない。なお、非特許文献1においてローラーベンダーは、曲率線展開法に基づく曲げ加工には適していないとされ推奨されていない。
そこで本発明は、ローリングプレス機を用いた平板プレス加工作業を対象に、微分幾何学の観点から合理的な施工情報を導出し、曲面を有した外板を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載に対応したローリングプレス機を用いた平板プレス加工方法においては、平板をローリングプレス機を用いてプレス加工し、曲面を有した外板を得る平板プレス加工方法であって、プレス加工対象の外板の3次元CADデータを取得するCADデータ取得ステップと、平板に外板を得るための冷間曲げ用曲率線展開法を適用し曲率線に基づいた展開図を得る展開図取得ステップと、展開図に対してローリングプレス機によるローリング方向を決定するローリング方向決定ステップと、ローリング加工幅を含むローリング内容を決定しローリング帯を構築するローリング帯構築ステップと、ローリング帯に対して冷間曲げ用曲率線展開法に基づいて得られた伸ばし量と曲げ量を加工量として割り当てる加工量割り当てステップと、ローリング帯に対する加工量に基づいて得られたプレス加工情報を出力する加工情報出力ステップと、プレス加工情報に従ってローリングプレス機を用いて平板をプレス加工し曲面を有した外板を得るプレス加工ステップとを有したことを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、平板に冷間曲げ用曲率線展開法を用いた曲率線に基づいた展開図をもとに各ローリング帯に加工量を定量的に割り当てて、ローリングプレス機によるプレス加工を行い曲面を有した外板を得るため、加熱が不要となり加工プロセスの工数を削減し、成形品質を向上及び安定させ、技能者の熟練度によらない作業体制を構築することができる。
【0007】
請求項2記載の本発明は、展開図取得ステップにおいて、展開図とともに外板を得るための曲率線に沿ったプレス加工に必要な伸ばし量と曲げ量を取得することを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、ローリングプレス機の合理的な加工量を迅速に導出できる。
【0008】
請求項3記載の本発明は、ローリング帯構築ステップにおいて、ローリングプレス機のローリング加工幅としてローリング長さを決定することを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、ローリング加工幅としてローリング長さを決定することで、展開図上の領域を分割してなる複数の施工ゾーンを適切に構築することができる。
【0009】
請求項4記載の本発明は、ローリング方向決定ステップと加工量割り当てステップとの間に、ローリング方向が曲率線に沿ったローリング線になるか否かを判断するローリング線判断ステップをさらに有したことを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、ローリング線が曲率線に沿うか否かを判断し、その判断結果に基づき適切な手順を踏んで各ローリング帯に加工量を割り当てることで、より合理的に平板をプレス加工することができる。
【0010】
請求項5記載の本発明は、ローリング線判断ステップでローリング線が曲率線に沿わないと判断された場合に、さらに曲率線に基づく形状修正をするか否かの判断を行う形状修正判断ステップを有したことを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、ローリング線が曲率線に沿わない場合の対応方法を適切に選択することができる。
【0011】
請求項6記載の本発明は、形状修正判断ステップで形状修正が肯定された場合に、3次元CADデータの設計曲面の微修正を行う微修正ステップを有したことを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、3次元CADデータの設計曲面の微修正を行うことで、微修正した設計曲面の展開図上の曲率線をローリング線と一致させ、各ローリング帯に加工量を精度よく割り当てることができる。
【0012】
請求項7記載の本発明は、形状修正判断ステップで形状修正が否定された場合に、曲率線の方向以外のローリング方向に沿った外板の伸ばし量と曲げ量を修正した修正伸ばし量と修正曲げ量を取得する修正加工量取得ステップを有したことを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、曲率線方向以外の任意のローリング方向に加工を行う場合に、各ローリング帯に修正した加工量としての修正伸ばし量と修正曲げ量を適切に割り当てることができる。
【0013】
請求項8記載の本発明は、修正加工量取得ステップで得られた修正伸ばし量と修正曲げ量を加工量割り当てステップにおける伸ばし量と曲げ量に置き替えて加工量として用いることを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、修正伸ばし量と修正曲げ量から各ローリング帯に割り当てられた修正した加工量に基づくプレス加工情報に従い、平板のプレス加工を適切に行うことができる。
【0014】
請求項9記載の本発明は、外板のプレス加工に必要な伸ばし量と曲げ量、又は修正伸ばし量と修正曲げ量に基づいて構築されるプレス加工情報は、FEM(有限要素法)解析及び実績値データの少なくとも一方に基づいて導出したものであることを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、FEM(有限要素法)解析や実績値データに基づいて、プレス加工情報を精度よく割り当てることができる。
【0015】
請求項10記載に対応したローリングプレス機を用いた平板プレス加工プログラムにおいては、コンピュータに、ローリングプレス機を用いた平板プレス加工方法におけるCADデータ取得ステップと、展開図取得ステップと、ローリング方向決定ステップと、ローリング帯構築ステップと、加工量割り当てステップと、加工情報出力ステップとを実行させることを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、コンピュータに実行させることで、各ローリング帯に対して冷間曲げ用曲率線展開法に基づいて得られた加工量の割り当て等を迅速かつ的確に行うことができる。
【0016】
請求項11記載の本発明は、コンピュータに、ローリング線判断ステップを実行させることを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、コンピュータにより、ローリング線が曲率線に沿うか否かを迅速に判断することができる。
【0017】
請求項12記載の本発明は、コンピュータに、形状修正判断ステップを実行させることを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、コンピュータにより、ローリング線が曲率線に沿わない場合に曲率線に基づく形状修正を行うか否かを迅速に判断することができる。
【0018】
請求項13記載の本発明は、コンピュータに、微修正ステップを実行させることを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、コンピュータにより、3次元CADデータの設計曲面の微修正を迅速かつ的確に行い、展開図上の曲率線をローリング線に沿わせることを可能にできる。
【0019】
請求項14記載の本発明は、コンピュータに、修正加工量取得ステップを実行させることを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、コンピュータにより、曲率線方向以外の任意のローリング方向に加工を行う場合のプレス加工情報を割り当てるための修正伸ばし量と修正曲げ量を迅速かつ的確に取得することができる。
【0020】
請求項15記載に対応したローリングプレス機を用いた平板プレス加工システムにおいては、ローリングプレス機を用いた平板プレス加工プログラムを用いて得られたプレス加工情報に基づいて平板をプレス加工するローリングプレス機を用いた平板プレス加工システムであって、ローリングプレス機と、平板を支持する支持手段と、加工用コンピュータとを備え、加工用コンピュータに、加工情報出力ステップで出力されるプレス加工情報の入力を受付させ、プレス加工情報に基づいてローリングプレス機を制御させ、平板をプレス加工することを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、曲面の微分幾何学の観点から導出された展開図をもとに割り当てたローリング方向やプレス加工情報に基づき、ローリングプレス機を用いて行われる曲面を有した外板を得るための平板のプレス加工作業を自動化することができる。
【0021】
請求項16記載の本発明は、ローリングプレス機が、平板の上を2次元的に動作可能な2次元動作ローリングプレス機であり、加工用コンピュータが、曲率線に基づいた展開図に応じてローリングプレス機を2次元的に動作させることを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、位置を固定した平板に対してローリングプレス機を動かしてプレス加工することができ、ローリング方向が曲率線に沿わないことを無くせ、加工性を向上させることができる。
【0022】
請求項17記載の本発明は、支持手段が、平板を2次元的に動作可能な2次元動作支持手段であり、加工用コンピュータが、曲率線に基づいた展開図に応じて支持手段を2次元的に動作させることを特徴とする。
請求項17に記載の本発明によれば、位置を固定したローリングプレス機に対して平板を動かしてプレス加工することができ、ローリング方向が曲率線に沿わないことを無くせ、加工性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のローリングプレス機を用いた平板プレス加工方法によれば、平板に冷間曲げ用曲率線展開法を用いた曲率線に基づいた展開図をもとに各ローリング帯に加工量を定量的に割り当てて、ローリングプレス機によるプレス加工を行い曲面を有した外板を得るため、加熱が不要となり加工プロセスの工数を削減し、成形品質を向上及び安定させ、技能者の熟練度によらない作業体制を構築することができる。
【0024】
また、展開図取得ステップにおいて、展開図とともに外板を得るための曲率線に沿ったプレス加工に必要な伸ばし量と曲げ量を取得する場合には、ローリングプレス機の合理的な加工量を迅速に導出できる。
【0025】
また、ローリング帯構築ステップにおいて、ローリングプレス機のローリング加工幅としてローリング長さを決定する場合には、ローリング加工幅としてローリング長さを決定することで、展開図上の領域を分割してなる複数の施工ゾーンを適切に構築することができる。
【0026】
また、ローリング方向決定ステップと加工量割り当てステップとの間に、ローリング方向が曲率線に沿ったローリング線になるか否かを判断するローリング線判断ステップをさらに有した場合には、ローリング線が曲率線に沿うか否かを判断し、その判断結果に基づき適切な手順を踏んで各ローリング帯に加工量を割り当てることで、より合理的に平板をプレス加工することができる。
【0027】
また、ローリング線判断ステップでローリング線が曲率線に沿わないと判断された場合に、さらに曲率線に基づく形状修正をするか否かの判断を行う形状修正判断ステップを有した場合には、ローリング線が曲率線に沿わない場合の対応方法を適切に選択することができる。
【0028】
また、形状修正判断ステップで形状修正が肯定された場合に、3次元CADデータの設計曲面の微修正を行う微修正ステップを有した場合には、3次元CADデータの設計曲面の微修正を行うことで、微修正した設計曲面の展開図上の曲率線をローリング線と一致させ、各ローリング帯に加工量を精度よく割り当てることができる。
【0029】
また、形状修正判断ステップで形状修正が否定された場合に、曲率線の方向以外のローリング方向に沿った外板の伸ばし量と曲げ量を修正した修正伸ばし量と修正曲げ量を取得する修正加工量取得ステップを有した場合には、曲率線方向以外の任意のローリング方向に加工を行う場合に、各ローリング帯に修正した加工量としての修正伸ばし量と修正曲げ量を適切に割り当てることができる。
【0030】
また、修正加工量取得ステップで得られた修正伸ばし量と修正曲げ量を加工量割り当てステップにおける伸ばし量と曲げ量に置き替えて加工量として用いる場合には、修正伸ばし量と修正曲げ量から各ローリング帯に割り当てられた修正した加工量に基づくプレス加工情報に従い、平板のプレス加工を適切に行うことができる。
【0031】
また、外板のプレス加工に必要な伸ばし量と曲げ量、又は修正伸ばし量と修正曲げ量に基づいて構築されるプレス加工情報は、FEM(有限要素法)解析及び実績値データの少なくとも一方に基づいて導出したものである場合には、FEM(有限要素法)解析や実績値データに基づいて、プレス加工情報を精度よく割り当てることができる。
【0032】
また、本発明のローリングプレス機を用いた平板プレス加工プログラムによれば、コンピュータに実行させることで、各ローリング帯に対して冷間曲げ用曲率線展開法に基づいて得られた加工量の割り当て等を迅速かつ的確に行うことができる。
【0033】
また、コンピュータに、ローリング線判断ステップを実行させる場合には、コンピュータにより、ローリング線が曲率線に沿うか否かを迅速に判断することができる。
【0034】
また、コンピュータに、形状修正判断ステップを実行させる場合には、コンピュータにより、ローリング線が曲率線に沿わない場合に曲率線に基づく形状修正を行うか否かを迅速に判断することができる。
【0035】
また、コンピュータに、微修正ステップを実行させる場合には、コンピュータにより、3次元CADデータの設計曲面の微修正を迅速かつ的確に行い、展開図上の曲率線をローリング線に沿わせることを可能にできる。
【0036】
また、コンピュータに、修正加工量取得ステップを実行させる場合には、コンピュータにより、曲率線方向以外の任意のローリング方向に加工を行う場合のプレス加工情報を割り当てるための修正伸ばし量と修正曲げ量を迅速かつ的確に取得することができる。
【0037】
また、本発明のローリングプレス機を用いた平板プレス加工システムによれば、曲面の微分幾何学の観点から導出された展開図をもとに割り当てたローリング方向やプレス加工情報に基づき、ローリングプレス機を用いて行われる曲面を有した外板を得るための平板のプレス加工作業を自動化することができる。
【0038】
また、ローリングプレス機が、平板の上を2次元的に動作可能な2次元動作ローリングプレス機であり、加工用コンピュータが、曲率線に基づいた展開図に応じてローリングプレス機を2次元的に動作させる場合には、位置を固定した平板に対してローリングプレス機を動かしてプレス加工することができ、ローリング方向が曲率線に沿わないことを無くせ、加工性を向上させることができる。
【0039】
また、支持手段が、平板を2次元的に動作可能な2次元動作支持手段であり、加工用コンピュータが、曲率線に基づいた展開図に応じて支持手段を2次元的に動作させる場合には、位置を固定したローリングプレス機に対して平板を動かしてプレス加工することができ、ローリング方向が曲率線に沿わないことを無くせ、加工性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明の実施形態によるローリングプレス機を用いた平板プレス加工方法のフロー図
【
図3】同冷間曲げ用曲率線展開法を適用することにより得られた、曲率線に基づく展開図の例を示す図
【
図4】同展開図に対して決定したローリング方向の例を示す図
【
図7】同各ローリング帯に対する伸ばし量の割当の例を示す図
【
図8】同各ローリング帯へ必要伸ばし量に基づいてプレス加工情報の割り当てを行うイメージ図
【
図12】同展開図から構築したスプライン曲面の例を示す図
【
図15】同曲率線の方向以外のローリング方向に沿った修正伸ばし量と修正曲げ量の取得の例を示す図
【
図16】同実績値データに基づいてデータベースを構築する場合のイメージ図
【
図17】同ローリングプレス機を用いた平板プレス加工システムの構成図
【
図18】同2次元動作ローリングプレス機の動作を示す図
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の実施形態によるローリングプレス機を用いた平板プレス加工方法、平板プレス加工プログラム、及び平板プレス加工システムについて説明する。
図1はローリングプレス機を用いた平板プレス加工方法のフロー図である。
ローリングプレス機を用いた平板プレス加工方法(以下、「本加工方法」と略す場合がある。)は、ローリングプレス機を用いて平板をプレス加工し、曲面を有した外板を得る。得られた外板は船体外板として用いられる。
図2に曲面状の船体外板の例を示す。ローリングプレス機とは、局所加工が可能なプレス加工機であり、造船において従来から用いられているローラーベンダー(シップベンダー)と比較して小型である。ローリングプレス機は、例えば、門型の支持体の中央から下方へ突出したシリンダと、そのシリンダの先端に取り付けられた平板に比べて十分に幅が小さい一つのローラを備える。そのローラを平板上で押圧しながら徐々に転がすことにより、平板が曲面を有した外板にプレス加工される。
【0042】
本加工方法においては、まず、3次元CADデータの準備として、プレス加工対象の外板の3次元CADデータ(設計曲面)を取得する(S1:CADデータ取得ステップ)。
CADデータ取得ステップS1の後、平板に外板を得るための冷間曲げ用曲率線展開法を適用し、曲率線に基づいた展開図を得る(S2:展開図取得ステップ)。
冷間曲げ用曲率線展開法は、冷間での荒曲げ加工と線状加熱により局所的に平板を縮ませて成形するのではなく、ローリングプレス機により局所的に平板を伸ばして目的形状の外板を成形する(線状加熱は行わない)場合に適用する展開法であり、例えば、国際公開第2005/102550の要約等に開示されている手順にて行う。
ここで、
図3は冷間曲げ用曲率線展開法を適用することにより得られた、曲率線に基づく展開図の例を示す図である。曲率線とは、曲面の微分幾何学に基づいて計算される曲面上の曲線群である。曲面上の任意の点では、法曲率が最大値をとる最大主方向と、最小値をとる最小主方向とが存在する。それらの方向は互いに直交することが知られており、それぞれの方向を追跡した曲線は曲率線(「lines of curvature」又は「curvature lines」)と呼ばれる。そのため曲率線は、最大主方向を追跡した最大主曲率線(第1曲率線)と、最小主方向を追跡した最小主曲率線(第2曲率線)とが存在し、それらは曲面上で直交網を構築する。
曲率線展開を実施すると、展開図上には設計曲面上の曲率線と実長で対応する展開曲率線が得られる。この展開曲率線は、展開アルゴリズム上、離散点の集合で表現されている。
また、展開図取得ステップS2においては、展開図とともに、曲率線に沿った外板のプレス加工に必要な伸ばし量と曲げ量(必要伸ばし・曲げ量マップ)を取得する。これにより、ローリングプレス機の合理的な加工量を迅速に導出できる。
【0043】
展開図取得ステップS2の後、展開図に対してローリングプレス機によるローリング方向を決定する(S3:ローリング方向決定ステップ)。
図4は展開図に対して決定したローリング方向の例を示す図である。ローリング方向決定ステップS3においては、平面展開図上の第2曲率線方向をローリング方向として決定する。なお、曲率線に厳密に沿ったローリング加工は、幾何学的観点における成形効率及び成形品質に適しているが、第2曲率線の曲線形状が大きく湾曲している場合は、その曲線形状を厳密になぞるようにローリングプレス機を動かす操作が難しくなる。よって、その場合は、ローリング方向を直線方向として近似することが好ましい。この直線方向としては、例えば、展開図上での第2曲率線上の方向を離散的に取得し、それらを平均した方向を用いても良い。また、平板上には第2曲率線が複数存在するが、ローリング方向同士はすべて平行とする。
【0044】
ローリング方向決定ステップS3の後、ローリング方向が曲率線に沿ったローリング線になるか否かを判断する(S4:ローリング線判断ステップ)。
ローリング線とは、ローリング方向の始点と終点を結ぶ線である。ローリング線判断ステップS4において、沿うか沿わないかの判断は、例えば、ローリング方向と第2曲率線方向との一致度に基づいて行う。
曲率線は、必ずしも直線形状ではなく、曲面の曲がり具合によっては大きく湾曲する。曲率線が大きく湾曲している場合は、曲率線に沿った加工が困難になる場合がある。特に本加工方法では、線状加熱を行う加工方法と比較して、湾曲した曲線に沿った加工が困難である。ローリング線が曲率線から大きく逸脱する場合は、加工量に推定(近似)が多く含まれる。そのため、ローリング線が曲率線に沿うか否かを判断し、その判断結果に基づき適切な手順を踏んで各ローリング帯に加工量を割り当てることで、より合理的に平板をプレス加工することができる。
【0045】
ローリング線判断ステップS4においてローリング線が曲率線に沿う(Yes)と判断された場合は、ローリング加工幅(ローリング施工幅)を含むローリング内容を決定しローリング帯を構築する(ローリング帯構築ステップS5)。
ローリング帯構築ステップS5においては、まず、ローリング内容として、ローリング加工幅と、ローラ幅(治具幅)を決定する。
図5はローリング加工幅の例を示す図である。ローリング加工幅には、ローリング方向と直交する方向である横幅αと、ローリング方向と平行方向であるローリング長さβが含まれる。横幅αは、ローリング加工幅が平板すべてと重なるように設定する。ローリング長さβは、ローリングプレス機のローラを一度に転がす長さであり、成形後の外板の品質と作業工数とのトレードオフの関係にあるため、一意に定まるものではなく、ユーザー等が決定する値となる。ローリング加工幅としてローリング長さβを決定することで、ローリング方向と直交する方向に展開図上の領域を分割し、複数の施工ゾーンを適切に構築することができる。
また、ローラ幅は、ローリングプレス機にどの幅のローラを用いるかの選択によって決定する。
ローリング帯構築ステップS5において、次に、ローリング帯を構築する。ローリング帯は、ローリング加工を実施する具体的な領域であり、決定したローラ幅を基に施工ゾーン(定義領域)を更に分割することにより構築する。すなわち、ローリング帯の幅は、ローラ幅で決まる。
図6にローリング帯の例を示す。この際、平板と重ならない帯は除外する。
【0046】
ローリング帯構築ステップS5の後、それぞれのローリング帯に対して冷間曲げ用曲率線展開法に基づいて得られた伸ばし量と曲げ量を加工量として割り当てる(S6:加工量割り当てステップ)。
加工量割り当てステップS6においては、まず、展開図取得ステップS2において展開図とともに取得した、曲率線に沿った外板のプレス加工に必要な伸ばし量と曲げ量(必要伸ばし量・曲げ量マップ)を元に、各ローリング帯に必要な伸ばし量と曲げ量の値を割り当てる。ここで、
図7は各ローリング帯に対する必要伸ばし量の割当の例を示す図である。例えば、IDが「08」のローリング帯に対しては、必要伸ばし量として0.1mmを割り当てる。
次に、割り当てた各ローリング帯の伸ばし量と曲げ量、及び幾何形状情報から、事前に構築されているデータベースに基づき具体的な施工情報としてプレス加工情報を決定する。プレス加工情報とは、ローリングのトン圧、ローリング速度、吊り場所等である。例としてローリングのトン圧を決定しようとする場合は、伸ばし量データベースに蓄積されているローラ幅ごとの伸ばし量とローリングのトン圧の関係に基づき、例えば、各ローリング帯に割り当てた伸ばし量に最も近しいローリングのトン圧(施工トン数)を割り当てる。
図8は各ローリング帯へ必要伸ばし量に基づいてプレス加工情報の割り当てを行うイメージ図である。
このように加工量割り当てステップS6では、まず、ローリング帯(具体的に転がす場所)を展開面上に構築し、それぞれのローリング帯に対して、成形のための必要な伸ばし量・曲げ量等を割り当てる。そして、各ローリング帯ごとに割り当てられた必要伸ばし量・必要曲げ量を得るためのローリングのトン圧やスピードといったプレス加工情報をデータベースから得て、プレス加工情報を割り当てる。従って、加工量割り当てステップS6においては、成形のための必要な伸ばし量・曲げ量等を割り当てることと、プレス加工情報を割り当てることの二つの割り当て操作を行う。
【0047】
加工量割り当てステップS6の後、ローリング帯に対するプレス加工情報を出力する(S7:加工情報出力ステップ)。出力先は、ユーザーが利用するパソコンや、モニタ、プリンタ、又は後述する平板プレス加工システム等である。
図9に出力されたプレス加工情報のイメージを示す。点線で囲んだローリング帯は、それ以外のローリング帯よりも強くローラを転がす領域である。
ユーザーは、出力されたプレス加工情報に従って、ローリングプレス機を用いて平板をプレス加工し、曲面を有した外板を得る(S8:プレス加工ステップ)。
【0048】
一方、ローリング線判断ステップS4においてローリング線が曲率線に沿わない(No)と判断された場合は、3次元CADデータの設計曲面について、曲率線に基づく形状修正をするか否かの判断をさらに行う(S9:形状修正判断ステップ)。
上記のように、曲率線が大きく湾曲している場合は曲率線に沿った加工が困難になる。そのため、ローリング線が曲率線に沿うように、3次元CADデータの設計曲面を修正することが考えられるが、所望の曲率線方向を満たす形状が得られるとは限らない。そこで、形状修正判断ステップS9において、例えば、修正に必要な変形量がユーザーの望む閾値内に収まるかどうかで形状修正をするか否かを判断することにより、ローリング線が曲率線に沿わない場合の対応方法を適切に選択することができる。
【0049】
形状修正判断ステップS9で形状修正が肯定(Yes)された場合は、3次元CADデータの設計曲面の微修正を行う(S10:微修正ステップ)。
微修正ステップS10においては、例えば、文献「M. Takezawa, K. Matsuo, and T. Maekawa, “Control of lines of curvature for plate forming in shipbuilding”, Computer Aided Geometric Design, vol.75, p.101785, 2019.」に記載されている手法を用い、湾曲した曲率線方向を修正するように3次元CADデータの設計曲面を微修正する。その際、展開図取得ステップS2で取得した展開図の情報を併用して修正曲率線方向データを作成し、ローリング加工をしやすくすることを目的に、所望のローリング方向と曲率線方向が一致するように3次元CADデータの設計曲面を微修正する。
当該文献は、指定した曲率線方向となるように、曲面形状を変形させる手法を提案しており、用途として、曲率線の歪み(ガタツキ)をなくすことを目的として形状を修正する(曲面をより滑らかにする)ケース(同文献のFig.3(a))、及び、曲率線に沿った加工をしやすくすることを目的に曲率線の特異点(へそ点と呼ぶ)をなくすように形状を修正するケース(同文献のFig.3(b))を例示している、また、当該文献中では、入力する修正曲率線方向は、画像フィルタリング手法に基づいて作成したデータを与えている。
【0050】
ここで、
図10は微修正ステップの詳細フロー図である。
微修正ステップS10においては、まず、
図3に示すような展開図について、パラメータ位置を取得する(パラメータ位置取得ステップS10-1)。上記のように、展開曲率線は、展開アルゴリズム上、離散点の集合で表現されている。ここで展開前の3次元曲面はパラメトリック曲面(3次元CADソフトウェアで汎用的に用いられる表現、例えば、NURBS曲面)で表現されているとすると、展開曲率線上のそれぞれの点について、3次元曲面上におけるパラメータ位置(パラメトリック曲面がu,vパラメータで正規化されているとすれば、u,v値)を取得できる。
図11はu,v値取得のイメージ図である。
【0051】
パラメータ位置取得ステップS10-1の後、展開図を補間するスプライン曲面を構築する(スプライン曲面構築ステップS10-2)。
図12は展開図から構築したスプライン曲面の例を示す図である。
展開図上の座標値(x,y)と、元の曲面上のパラメータ位置(u,v)を補間するスプライン曲面(例えばNURBS曲面)を構築することで、同じUVパラメータ空間を共有する2つのパラメトリック曲面を構築することが出来る。なお、平面展開図を補間した曲面は、高さ方向が存在しない平面上の曲面となる。
このように展開曲面を構築することで、UVパラメータを介して、元の曲面上との対応点を任意の箇所で評価可能になる。
【0052】
スプライン曲面構築ステップS10-2の後、目標となる修正曲率線方向を取得する(修正曲率線方向取得ステップS10-3)。
修正曲率線方向取得ステップS10-3では、展開図上にて、事前に決定したローリング方向に沿って、対応するパラメータ空間内のUV方向を取得する。
【0053】
修正曲率線方向取得ステップS10-3の後、得られた修正曲率線方向を入力として、形状変形の計算を実施する(形状変形計算ステップS10-4)。
図13は微修正の例を示す図であり、
図13(a)には展開図において事前に決定したローリング方向を矢印で示し、
図13(b)は設計曲面上で対応する目標となる修正外板の曲率線方向を示している。
図13に示すように、計算結果に基づいて3次元CADデータの設計曲面の微修正を行うことで、微修正した設計曲面の展開図上の曲率線をローリング線と一致させ、各ローリング帯に加工量を精度よく割り当てることができる。
微修正ステップS10を完了した後は、展開図取得ステップS2に戻る。
【0054】
一方、形状修正判断ステップS9で形状修正が否定(No)された場合は、曲率線方向以外のローリング方向に沿った外板の伸ばし量と曲げ量を修正した修正伸ばし量と修正曲げ量を取得する(S11:修正加工量取得ステップ)。
冷間曲げ用曲率線展開法が出力する曲面幾何情報は、アルゴリズムの性質上、曲率線に沿った方向のみが出力される。そのため,曲率線方向以外に沿ってローリング加工を行う場合は、その加工方向に沿った曲面の幾何情報を評価する必要がある。
図14は修正加工量取得ステップの詳細フロー図である。修正加工量取得ステップS11においては、まずパラメータ位置取得ステップS11-1を行い、次にスプライン曲面構築ステップS11-2を行う。パラメータ位置取得ステップS11-1は、上記した微修正ステップS10のパラメータ位置取得ステップS10-1と同一であり、スプライン曲面構築ステップS11-2は、上記した微修正ステップS10のスプライン曲面構築ステップS10-2と同一であるため説明を省略する。
スプライン曲面構築ステップS11-2において展開図の幾何情報をNURBS等のスプライン関数を用いて補間することで任意方向の幾何情報を算出した後は、同じUVパラメータ空間を共有する展開前後の曲面を利用して、展開図上における任意点及び任意方向について、その点及び方向に1対1で対応する元の3次元曲面上の幾何情報を算出する。そして、曲面全体を網羅するように、それぞれの箇所で幾何情報の差分を計算することで、任意点及び任意方向における展開前後の必要伸ばし量と曲げ量を取得することができ、これにより、外板に対し、ローリング方向に沿った必要な修正伸ばし量と修正曲げ量の取得が可能となる。すなわち、展開図上での評価点及び評価方向と、対応する曲面上での評価点及び評価方向における幾何情報を比較することにより、展開前後における必要修正伸ばし量と必要修正曲げ量を取得できる(必要修正伸ばし量・曲げ量取得ステップS11-3)。これにより、曲率線方向以外の任意のローリング方向に加工を行う場合に、各ローリング帯に修正した加工量としての修正伸ばし量と修正曲げ量を適切に割り当てることができる。
図15は曲率線の方向以外のローリング方向に沿った修正伸ばし量と修正曲げ量の取得の例を示す図であり、スプライン曲面と3次元CADデータの設計曲面には、任意点及び任意方向を丸(●)と、●から両方向に向かう矢印(←→)で示している。
修正加工量取得ステップS11の後は、ローリング帯構築ステップS5から加工量割り当てステップS6へと進む。この場合、加工量割り当てステップS6においては、修正加工量取得ステップS11で得られた修正伸ばし量と修正曲げ量を、修正加工量取得ステップS11を経ずに進んだ場合の加工量割り当てステップS6における伸ばし量と曲げ量に置き替えて加工量として用いる。これにより、修正伸ばし量と修正曲げ量から各ローリング帯に割り当てられた修正した加工量に基づいてプレス加工情報を取得し、プレス加工情報に従って平板のプレス加工を適切に行うことができる。
【0055】
加工量割り当てステップS6における、外板のプレス加工に必要な伸ばし量と曲げ量、又は修正伸ばし量と修正曲げ量に基づいて構築されるプレス加工情報は、FEM(有限要素法)解析及び実績値データの少なくとも一方に基づいて導出したものであることが好ましい。これにより、FEM(有限要素法)解析や実績値データに基づいて、プレス加工情報を精度よく割り当てることができる。
上記のように加工量割り当てステップS6においては、割り当てた各ローリング帯の伸ばし量と曲げ量、及び幾何形状情報から、事前に構築されている伸ばし・曲げ量に関するデータベースに基づき具体的なプレス加工情報(施工情報)を決定する。FEM解析及び実績値データの少なくとも一方に基づいて事前に構築する場合、データベースは、FEM計算を利用して構築するか、実績値データから構築する。
例えば、FEM計算をベースにする場合、単純な試験体形状に対して、1回のローリング加工に対する板形状の評価を様々な設定パラメータで実施することでデータベースを構築する。例えば、必要曲げ量に関するデータベースを構築する場合、入力データ例は、鋼材板厚、材料特性(屈伏応力、応力・ひずみ曲線、ヤング率、ポアソン比、密度、摩擦係数、他)、ローラ幅(治具幅)、必要ひずみ量(必要伸ばし量)、加工距離(転がし距離mm)、加工スピードであり、出力データ例は設定トン圧である。
また、
図16は実績値データに基づいてデータベースを構築する場合のイメージ図である。実績値データ(加工のトン圧、板の変形、板厚、材料特性、他)をベースにしてデータベースを構築する場合は、板の加工情報と変形結果について、形状解析と結びつける。形状解析評価においては、形状の内側か外側かなどの幾何情報に基づき、加工した箇所や方向は、幾何的にはどのくらいの量のひずみ量・曲げ量が必要かを解析する。
【0056】
以上説明したように、本加工方法によれば、平板に冷間曲げ用曲率線展開法を用いた曲率線に基づいた展開図をもとに各ローリング帯に加工量を定量的に割り当てて、ローリングプレス機によるプレス加工を行い曲面を有した外板を得るため、加熱が不要となり加工プロセスの工数を削減し、成形品質を向上及び安定させ、技能者の熟練度によらない作業体制を構築することができる。
また、本加工方法は、ローリングプレス機を用いた平板プレス加工プログラム(以下、「本プログラム」と略す場合がある。)としても提供可能である。
本プログラムを用い、コンピュータ40(
図17参照)に、ローリングプレス機を用いた平板プレス加工方法におけるCADデータ取得ステップS1と、展開図取得ステップS2と、ローリング方向決定ステップS3と、ローリング帯構築ステップS5と、加工量割り当てステップS6と、加工情報出力ステップS7とを実行させることで、各ローリング帯に対して冷間曲げ用曲率線展開法に基づいて得られた加工量の割り当て等を迅速かつ的確に行うことができる。
また、本プログラムは、コンピュータ40に、ローリング線判断ステップS4を実行させることもでき、この場合は、コンピュータ40により、ローリング線が曲率線に沿うか否かを迅速に判断することができる。
また、本プログラムは、コンピュータ40に、形状修正判断ステップS9を実行させることもでき、この場合は、コンピュータ40により、ローリング線が曲率線に沿わない場合に曲率線に基づく形状修正を行うか否かを迅速に判断することができる。
また、本プログラムは、コンピュータ40に、微修正ステップS10を実行させることもでき、この場合は、コンピュータ40により、3次元CADデータの設計曲面の微修正を迅速かつ的確に行い、展開図上の曲率線をローリング線に沿わせることを可能にできる。
また、本プログラムは、コンピュータ40に、修正加工量取得ステップS11を実行させることもでき、この場合は、コンピュータ40により、曲率線方向以外の任意のローリング方向に加工を行う場合のプレス加工情報を割り当てるための修正伸ばし量と修正曲げ量を迅速かつ的確に取得することができる。
【0057】
図17はローリングプレス機を用いた平板プレス加工システムの構成図である。
ローリングプレス機を用いた平板プレス加工システム(以下、「本システム」と略す場合がある。)は、本プログラムを用いて得られたプレス加工情報に基づいて平板をプレス加工する。
本システムは、ローリングプレス機10と、平板を支持するチェーンブロック等の支持手段20と、加工用コンピュータ30を備える。加工用コンピュータ30には、コンピュータ40から加工情報出力ステップS7で出力されるプレス加工情報が入力される。プレス加工ステップS8においては、加工用コンピュータ30が、入力されたプレス加工情報に基づいてローリングプレス機10を制御し、ローリングプレス機10が平板をプレス加工する。このように、本システムを用いることで、曲面の微分幾何学の観点から導出された展開図をもとに割り当てたローリング方向やプレス加工情報に基づきローリングプレス機10を用いて行われる曲面を有した外板を得るための平板のプレス加工作業を自動化することができる。なお、プレス加工情報の入力は、加工情報出力ステップS7で出力されるプレス加工情報を人が入力し、加工用コンピュータ30に入力されたプレス加工情報を受け付けさせることでも達成できる。
【0058】
図18は2次元動作ローリングプレス機の動作を示す図である。
ローリングプレス機10は、平板の上を2次元的に動作可能な2次元動作ローリングプレス機とすることができる。この場合、加工用コンピュータ30は、曲率線に基づいた展開図に応じてローリングプレス機10のローラ11を曲率線に沿わせて2次元的に動作させる。これにより、位置を固定した平板に対してローリングプレス機を動かしてプレス加工することができ、ローリング方向が曲率線に沿わないことを無くせ、加工性を向上させることができる。
【0059】
図19は2次元動作支持手段の動作を示す図である。
支持手段20は、平板を2次元的に動作可能な2次元動作支持手段とすることができる。この場合、加工用コンピュータ30は、曲率線に基づいた展開図に応じて支持手段20を曲率線に沿わせて2次元的に動作させる。これにより、位置を固定したローリングプレス機に対して平板を動かしてプレス加工することができ、ローリング方向が曲率線に沿わないことを無くせ、加工性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、造船にて代表的な非可展面形状の成形にも適用可能であり、造船所を含む鋼板の曲げ加工現場に広く展開することができる。本発明の冷間曲げのみによる成形は、制御が難しい線状加熱を併用する従来の加工方法に比べて工数の大幅な削減が可能であり、入熱しないことにより鋼材等の機械的性質の向上にも寄与する。
【符号の説明】
【0061】
10 ローリングプレス機(2次元動作ローリングプレス機)
20 支持手段(2次元動作支持手段)
30 加工用コンピュータ
40 コンピュータ
S1 CADデータ取得ステップ
S2 展開図取得ステップ
S3 ローリング方向決定ステップ
S4 ローリング線判断ステップ
S5 ローリング帯構築ステップ
S6 加工量割り当てステップ
S7 加工情報出力ステップ
S8 プレス加工ステップ
S9 形状修正判断ステップ
S10 微修正ステップ
S11 修正加工量取得ステップ