(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131483
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 23/63 20060101AFI20230914BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20230914BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20230914BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20230914BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
B01J23/63 A ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N3/08 A
F01N3/10 A
F01N3/28 301P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036273
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅也
(72)【発明者】
【氏名】尾上 亮太
(72)【発明者】
【氏名】大橋 達也
(72)【発明者】
【氏名】高須 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】大野原 佑
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AA04
3G091AA05
3G091AA06
3G091AA07
3G091AA17
3G091AB03
3G091AB06
3G091BA14
3G091BA15
3G091BA19
3G091GA06
3G091GB01X
3G091GB02W
3G091GB03W
3G091GB04W
3G091GB06W
3G091GB07W
3G091GB10X
3G091GB17X
4D148AA06
4D148AA13
4D148AA18
4D148AB01
4D148AB02
4D148AB09
4D148BA03X
4D148BA06Y
4D148BA07Y
4D148BA08X
4D148BA18Y
4D148BA19Y
4D148BA30X
4D148BA31X
4D148BA32X
4D148BA33X
4D148BA33Y
4D148BA34Y
4D148BA35Y
4D148BA36Y
4D148BA37Y
4D148BA38Y
4D148BA41Y
4D148BA42Y
4D148BB01
4D148BB02
4D148BB09
4D148BB14
4D148BB16
4D148BC05
4D148CC32
4D148CC36
4D148DA03
4D148DA09
4D148DA20
4G169AA03
4G169AA11
4G169BA01B
4G169BA05B
4G169BB06B
4G169BC01A
4G169BC08A
4G169BC13B
4G169BC43B
4G169BC51B
4G169BC71A
4G169BC71B
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CA03
4G169CA08
4G169CA09
4G169CA13
4G169DA06
4G169EA01Y
4G169EA02Y
4G169EA06
4G169EA08
4G169EA18
4G169EA27
4G169EB11
4G169EB14Y
4G169EB15Y
4G169EB18Y
4G169EC28
4G169EE06
4G169EE09
4G169FA06
4G169FC08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】NOx吸蔵層を備える排ガス浄化用触媒であって、NOx浄化性能に優れる排ガス浄化用触媒を提供する。
【解決手段】ここに開示される排ガス浄化触媒は、基材と、触媒層とを備える。前記触媒層は、下層と中層と上層とを備える。前記下層は、触媒金属を含有する。前記上層は、Rhを含有する。前記中層は、排ガスの流れ方向の上流側に位置するフロント部と、下流側に位置するリア部とを有する。前記フロント部および前記リア部はそれぞれ、PtとNOx吸蔵材とを含有する。前記NOx吸蔵材は、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素からなる群から選ばれる少なくとも1種のNOx吸蔵元素を含む。前記リア部に含まれる前記NOx吸蔵元素の基材1L当たりの濃度(C
B)に対する、前記フロント部に含まれる前記NOx吸蔵元素の基材1L当たりの濃度(C
A)の比(C
A/C
B)が、0<C
A/C
B<1を満たす。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気経路内に配置され、前記内燃機関から排出される排ガスを浄化するための排ガス浄化用触媒であって、
基材と、
前記基材上に形成された触媒層と、
を備え、
前記触媒層は、前記基材側に位置する下層と、表層部側に位置する上層と、前記下層と前記上層との間に位置する中層と、を備え、
前記下層は、触媒金属を含有し、
前記上層は、Rhを含有し
前記中層は、前記排気経路内に配置された際に排ガスの流れ方向の上流側に位置するフロント部と、前記フロント部よりも排ガスの流れ方向の下流側に位置するリア部と、を有し、
前記中層のフロント部および前記リア部はそれぞれ、Ptと、NOx吸蔵材と、を含有し、
前記NOx吸蔵材は、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素からなる群から選ばれる少なくとも1種のNOx吸蔵元素を含み、
前記リア部に含まれる前記NOx吸蔵元素の基材1L当たりの濃度(CB)に対する、前記フロント部に含まれる前記NOx吸蔵元素の基材1L当たりの濃度(CA)の比(CA/CB)が、0<CA/CB<1を満たす、
排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記比(CA/CB)が、0.2<CA/CB<0.8を満たす、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記比(CA/CB)が、0.4<CA/CB<0.7を満たす、請求項2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記フロント部に含まれる前記NOx吸蔵元素の基材1L当たりの濃度(CA)が、0g/L超20g/L以下であり、かつ前記リア部に含まれる前記NOx吸蔵元素の基材1L当たりの濃度(CB)が、20g/L以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記下層に含まれる触媒金属が、Pdである、請求項1~4のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス用浄化触媒に関する。詳しくは、本発明は、基材と当該基材上に設けられた触媒層とを備え、当該触媒層がNOx吸蔵層を備える排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関から排出される排ガスから炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等の有害成分を除去するために、排ガス浄化用触媒が用いられている。この排ガス浄化用触媒には、触媒金属を含む三元触媒が広く用いられている。有害成分の除去効率が高いことから、触媒金属としては、Rh(ロジウム)と、Pt(白金)および/またはPd(パラジウム)と、が併用されることが多い。排ガス浄化用触媒の典型的な構成では、基材上に、三元触媒を含む触媒層が設けられる(例えば、特許文献1~5参照)。
【0003】
NOxの除去に関し、アルカリ金属成分およびアルカリ土類金属成分がNOxを一時的に吸蔵できるため、特許文献1~5では、これらの成分が、NOx吸蔵材として用いられている。なかでも、特許文献1には、触媒層を三層構造とし、この三層構造の中層を、アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分をNOx吸蔵材として含むNOx吸蔵層として構成し、さらに上層を、Rhを含有するNOx還元層として構成することによって、優れたNOx浄化性能が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-143935号公報
【特許文献2】国際公開第2020/153309号
【特許文献3】特表2015-502855号公報
【特許文献4】特開2016-93760号公報
【特許文献5】特開2003-24793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら本発明者らが鋭意検討した結果、上記特許文献1に代表される従来技術においては、NOx浄化性能に改善の余地があることを見出した。
【0006】
そこで、本発明は、NOx吸蔵層を備える排ガス浄化用触媒であって、NOx浄化性能に優れる排ガス浄化用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、次のことを見出した。アルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分を含むNOx吸蔵材によるNOxの吸蔵は、触媒金属によってNOがNO2に酸化され、このNO2がアルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分と反応することで起こる。吸蔵されたNOxは昇温によって、これらの成分から脱離する。一方、触媒が高い活性を発揮するには、所定の温度(すなわち、活性温度)以上に加熱されている必要である。したがって、エンジン等の内燃機関の始動時の触媒の暖機過程において、NOx吸蔵材が、排ガス中のNO2を吸蔵し、触媒暖機後にNO2を放出して、加熱されて活性化した触媒がこれを浄化することで、排ガス中のNOx量を低減することができる。
【0008】
ここで、内燃機関の始動時は、排ガスによって、触媒層のフロント部分から暖められていくため、触媒層内に温度分布が生じる。その結果、触媒層のフロント部分は、温度上昇に伴い吸蔵していたNO2を放出するが、触媒層のリア部分においては、触媒が活性温度にまで加熱されておらず、NOxを完全に浄化することができない。このため、上記従来技術においては、NOxがエミッションとして排出され得る。
【0009】
ここに開示される排ガス浄化触媒は、かかる知見に基づき完成されたものである。すなわち、ここに開示される排ガス浄化触媒は、内燃機関の排気経路内に配置され、前記内燃機関から排出される排ガスを浄化するのに用いられる。よって、ここに開示される排ガス浄化触媒は、内燃機関の排気経路内に配置され、前記内燃機関から排出される排ガスを浄化するよう構成されている。
【0010】
ここに開示される排ガス浄化触媒は、基材と、前記基材上に形成された触媒層と、を備える。前記触媒層は、前記基材側に位置する下層と、表層部側に位置する上層と、前記下層と前記上層との間に位置する中層と、を備える。前記下層は、触媒金属を含有する。前記上層は、Rhを含有する。前記中層は、前記排気経路内に配置された際に排ガスの流れ方向の上流側に位置するフロント部と、前記フロント部よりも排ガスの流れ方向の下流側に位置するリア部と、を有する。前記中層のフロント部および前記リア部はそれぞれ、Ptと、NOx吸蔵材と、を含有する。前記NOx吸蔵材は、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素からなる群から選ばれる少なくとも1種のNOx吸蔵元素を含む。前記リア部に含まれる前記NOx吸蔵元素の基材1L当たりの濃度(CB)に対する、前記フロント部に含まれる前記NOx吸蔵元素の基材1L当たりの濃度(CA)の比(CA/CB)が、0<CA/CB<1を満たす。
【0011】
このような構成によれば、複層構造の触媒層に、排ガスの流れ方向における上流側のフロント部と、下流側のリア部とを有するNOx吸蔵層が設けられており、当該フロント部中のNOx吸蔵材の濃度と、当該リア部中のNOx吸蔵材の濃度とが、リア部の方が高くなるように異なっている。よって、このような構成によれば、内燃機関の始動時において触媒層のリア部分の暖機が不十分な場合でも、NOx吸蔵層のフロント部よりも豊富に存在するリア部のNOx吸蔵材によって、フロント部から放出されたNO2を吸蔵することができる。さらに、NOx吸蔵層がPtを含有することで、NOx吸蔵効率が高められている。
【0012】
そして、ここに開示される排ガス浄化触媒においては、Rhを含有する層が、NOx吸蔵層の上側に配置されている。このような構成によれば、リア部のNOx吸蔵材からNO2が放出された際に、効率よくNO2を浄化することができる。その結果、ここに開示される排ガス浄化触媒によれば、内燃機関の始動時におけるNOxのエミッションとしての排出を抑制しつつ、NOxを高効率で浄化することができ、NOx浄化性能に優れる。
【0013】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好ましい一態様においては、前記比(CA/CB)が、0.2<CA/CB<0.8を満たす。このような構成によれば、NOx浄化性能がより高くなる。
【0014】
ここに開示される排ガス浄化用触媒のより好ましい一態様においては、前記比(CA/CB)が、0.4<CA/CB<0.7を満たす。このような構成によれば、NOx浄化性能が特に高くなる。
【0015】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好ましい一態様においては、前記フロント部に含まれる前記NOx吸蔵元素の基材1L当たりの濃度(CA)が、0g/L超20g/L以下であり、かつ前記リア部に含まれる前記NOx吸蔵元素の基材1L当たりの濃度(CB)が、20g/L以上である。このような構成によれば、NOx浄化性能がより高くなる。
【0016】
ここに開示される排ガス浄化用触媒のより好ましい一態様においては、前記下層に含まれる触媒金属が、Pdである。このような構成によれば、HCおよびCOを含めた排ガスの有害成分の浄化性能に特に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態に係る排ガス浄化用触媒を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1の排ガス浄化用触媒を筒軸方向に切断した部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は、実際の寸法関係を必ずしも反映するものではない。また、本明細書において範囲を示す「A~B」(A,Bは任意の数値)の表記は、A以上B以下の意と共に、「好ましくはAより大きい」および「好ましくはBより小さい」の意を包含する。
【0019】
ここに開示される排ガス浄化用触媒は、内燃機関の排気経路内に配置されて、当該内燃機関から排出される排ガスを浄化するものである。排ガス浄化用触媒は、基材と、当該基材上に形成された触媒層とを、少なくとも備え、当該触媒層は、特有の複層構造を有している。ここに開示される排ガス浄化用触媒は、基材の種類と形状、触媒層の設計等を適宜選択し、種々の内燃機関、特に自動車エンジンの排気系(排気管)に配置することができる。以下、ここに開示される排ガス浄化用触媒を、内燃機関が自動車のガソリンエンジンである場合を前提として説明するが、ここに開示される排ガス浄化用触媒をかかる用途に限定することを意図したものではない。
【0020】
<基材>
図1は一実施形態にかかる排ガス浄化用触媒100の構造を示す模式図であり、特に基材10の構造を示している。
図1において、矢印Fは、排気経路内に配置された際の排ガスの流れ方向を示す。矢印Xは、基材10の筒軸方向を示す。X1は、排ガスの流れ方向Fにおける上流側を示し、X2は排ガスの流れ方向Fにおける下流側を示す。
【0021】
排ガス浄化用触媒100を構成する上記基材10としては、従来この種の用途に用いられる種々の素材及び形態のものを採用することができる。例えば、素材としては、高耐熱性を有することから、コージェライト、チタン酸アルミニウム、炭化ケイ素等のセラミックスが好適である。あるいは、合金(ステンレス鋼等)製の基材を使用することができる。
【0022】
形態に関し、例えば、
図1では、基材10は、規則的に配列された複数のセル12と、複数のセル12を構成するリブ壁14とを有するハニカム構造を有している。セル12は、排ガスの通路として機能する貫通孔である。リブ壁14は、各セル12を仕切る隔壁である。セル12を排ガスが通過する際に、排ガスはリブ壁14に接触可能に構成されている。
図1では、セル12の断面形状は、四角形であるが、その他の形状(例、円形、三角形、六角形等)であってよい。
【0023】
図1では、基材10の外形は、円筒形状であるが、基材10の外形は、その他の形状(例、楕円筒形、多角筒形等)であってよい。
図1では、基材10は、ハニカム基材であるが、フォーム形状、ペレット形状等を有する基材であってもよい。基材10の体積は、典型的には、概ね0.1~10Lであり、例えば0.5~5Lである。また、基材10の筒軸方向Xに沿う長さ(全長)は、典型的には、概ね10~500mmであり、例えば50~300mmである。なお、本明細書において、基材10の体積とは、基材の純容積に加えて、セルなどの内部空隙の容積を含めた嵩容積のことをいう。
【0024】
図1では、基材10は、セル12の入口側開口および出口側開口が閉塞されていないストレートフロー型の基材である。しかしながら、基材10は、多数のセル12の入口側開口および出口側開口が交互に閉塞され、排ガスが、一のセル(入り側セル)からリブ壁を通過して、隣接するセル(出側セル)に流れていく、ウォールフロー型(言い換えると、ウォールスルー型)の基材であってもよい。
【0025】
<触媒層>
図2に、排ガス浄化用触媒100が備える触媒層20の構成を模式的に示す。
図2は、排ガス浄化用触媒100の部分断面図である。
図2において、矢印F、矢印X、X1、およびX2は、
図1と同義である。
【0026】
図2に示すように、触媒層20は、基材10上に形成される。典型的には、触媒層20は、基材10の内部表面上に形成される。触媒層20は、基材10側に位置する下層22と、触媒層20の表層部側に位置する上層26と、下層22と上層26との間に位置する中層24と、を備える。中層24は、排ガスの流れ方向Fの上流側X1に位置するフロント部24aと、当該フロント部24aよりも排ガスの流れ方向Fの下流側X2に位置するリア部24bと、を有する。
【0027】
なお、触媒層20は、本発明の効果を顕著に阻害しない範囲内で、下層22、中層24、および上層26以外の層を含んでいてもよい。また、図示例では、下層22、中層24、および上層26は、同じ厚みを有しているが、異なる厚みを有していてもよい。下層22の厚みは、特に限定されないが、例えば10μm~30μmで、好ましくは15μm~25μmである。中層24の厚みは、特に限定されないが、例えば40μm~60μmで、好ましくは45μm~55μmである。特に限定されないが、上層26の厚みは、例えば20μm~40μmで、好ましくは25μm~35μmである。
【0028】
触媒層20(すなわち、下層22、中層24、および上層26のそれぞれ)は、触媒金属と、当該触媒金属を担持する担体と、を含有する。
【0029】
下層22、中層24、および上層26に含まれる触媒金属の種類については後述する。触媒層20全体における触媒金属の合計含有量は、特に限定されないが、基材10の体積1L当たりの触媒金属の含有量として、例えば0.5g/L以上であり、好ましくは1.0g/L以上であり、より好ましくは2.0g/L以上である。一方、触媒層20全体における触媒金属の合計含有量は、基材10の体積1L当たりの触媒金属の含有量として、例えば8.0g/L以下であり、好ましくは7.0g/L以下であり、より好ましくは6.0g/L以下である。
【0030】
触媒層20全体のコート量は、基材10の種類に応じて適宜決定してよく、特に限定されない。触媒層20全体のコート量は、基材10の体積1L当たりの量として、例えば150g/L~450g/Lであり、好ましくは200g/L~400g/Lであり、より好ましくは250g/L~350g/Lである。
【0031】
触媒層20全体のコート長(基材10の筒軸方向Xにおける平均塗布長さ)は、例えば、基材10の全長(筒軸方向Xの平均寸法)の60%以上であり、基材10の全長の70%以上、80%以上、90%以上、または100%であってよい。
【0032】
触媒層20のコート厚み(平均厚み)は、例えば3~300μmであり、5~200μm、または10~100μmであってよい。
【0033】
触媒層20に含まれる触媒金属は、排ガスとの接触面積を高める観点から、十分に小さい粒径の微粒子であることが好ましい。触媒金属の平均粒径は、例えば1nm~15nmであり、好ましくは1nm~10nmであり、より好ましくは1nm~5nmである。なお、触媒金属の平均粒子径は、触媒金属の透過電子顕微鏡(TEM)画像を取得し、当該画像において任意に選ばれる50個以上の触媒金属の粒径の平均値として求めることができる。
【0034】
触媒金属を担持する担体としては、排ガス浄化用触媒の触媒金属の担体として用いられる公知の材料を使用することができる。担体は、典型的には、無機多孔質体である。担体の例としては、酸化アルミニウム(Al2O3、アルミナ)、酸化チタン(TiO2、チタニア)、酸化ジルコニウム(ZrO2、ジルコニア)、酸化ケイ素(SiO2、シリカ)等の酸素貯蔵能を有しない材料(非OSC材);セリア(CeO2)、セリアを含む複合酸化物等の酸素貯蔵能を有する材料(OSC材);などが挙げられる。担体は、非OSC材およびOSC材のいずれかであってよく、両方であってよい。
【0035】
非OSC材として用いられる酸化物には、耐熱性等を向上させるために、Pr2O3、Nd2O3、La2O3、Y2O3等の希土類元素の酸化物が、少量(例えば、1質量%以上10質量%以下)添加されていてもよい。耐熱性および耐久性に特に優れることから、非OSC材は、Al2O3が好ましく、La2O3が複合化されたAl2O3(La2O3-Al2O3複合酸化物;LA複合酸化物)であることがより好ましい。
【0036】
触媒層20中の非OSC材の含有量は、特に限定されないが、基材10の体積1L当たりの量として、好ましくは100g/L以上370g/L以下であり、より好ましくは170g/L以上300g/L以下である。
【0037】
OSC材に関し、セリアを含む複合酸化物としては、セリアとジルコニアとを含む複合酸化物(例、セリア-ジルコニア複合酸化物、いわゆる、CZ複合酸化物またはZC複合酸化物)などが挙げられる。OSC材に酸化ジルコニウムが含有されている場合には、酸化セリウムの熱劣化を抑制できることから、OSC材としては、セリア-ジルコニア複合酸化物が好ましい。
【0038】
OSC材は、特性(特に耐熱性と酸素吸放出特性等)の向上を目的として、希土類元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、Si、Al等の酸化物を含んでいてもよい。希土類元素の例としては、Sc、Y、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなどが挙げられる。希土類元素の酸化物としては、好適にはPr2O3、Nd2O3、La2O3、およびY2O3である。
【0039】
OSC材が酸化セリウムを含む複合酸化物である場合、その酸素吸蔵能を十分に発揮させる観点から、酸化セリウムの含有率は、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは25質量%以上である。一方、酸化セリウムの含有率が高過ぎると、OSC材の塩基性が高くなり過ぎるおそれがある。そのため、酸化セリウムの含有率は、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは75質量%以下である。
【0040】
触媒層20中のOSC材の含有量は、特に限定されないが、基材10の体積1L当たりの量として、好ましくは45g/L以上250g/L以下であり、より好ましくは80g/L以上200g/L以下である。
【0041】
触媒層20は、触媒金属を担持しない形態で、上記のOSC材および/または上記の非OSC材をさらに含有していてもよい。例えば、触媒層20は、触媒金属を担持する非OSC材と、触媒金属を担持しないOSC材とを含んでいてもよい。
【0042】
触媒層20は、バインダ、添加剤等を含有していてもよい。バインダの例としては、アルミナゾル、シリカゾル等が挙げられる。
【0043】
以下、触媒層20に含まれる、下層22、中層24、および上層26のそれぞれについて詳細に説明する。
【0044】
<下層>
下層22は、触媒金属を含有する。当該触媒金属としては、排ガスの有害成分の浄化にあたり酸化触媒および/または還元触媒として機能し得る種々の金属種を使用可能である。触媒金属の典型例としては、白金族、すなわち、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)が挙げられる。また、白金族にかえて、あるいは白金族に加えて、他の金属種を使用してもよい。例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)などの金属種を使用してもよい。また、これらの金属のうちの2種以上を合金化したものを用いてもよい。後述のように、上層26に、還元活性(NOx浄化能)の高いRhが用いられていることから、下層22に含まれる触媒金属は、酸化活性(HCおよびCO浄化能)が高いものが好ましい。具体的には、下層22に含まれる触媒金属は、好ましくはPdおよびPtのうちの少なくとも一方であり、より好ましくはPdである。Pdは、他の触媒金属と比べて、酸化状態でも活性が低下し難いという利点を有する。下層22がPdを含有することにより、HCおよびCOを特に効率よく除去することができ、排ガス浄化用触媒100が、HCおよびCOを含めた排ガスの有害成分の浄化性能に特に優れたものとなる。
【0045】
下層22における触媒金属の含有量は特に限定されない。触媒金属の含有量が少なすぎると、触媒金属により得られる触媒活性が不十分となることがある。一方、触媒金属の含有量が多すぎると、触媒金属が粒成長を起こしやすくなると同時にコスト面でも不利である。このため、下層22における触媒金属の含有量は、基材10の体積1L当たりの触媒金属(特に、Pd)の含有量として、好ましくは0.1g/L~5g/Lであり、より好ましくは0.5g/L~3g/Lである。
【0046】
下層22は、OSC材を含むことが好ましい。OSC材は、担体であっても非担体であってもよい。下層22は、OSC材と非OSC材とを含むことがより好ましい。下層22におけるOSC材の含有量は、基材10の体積1L当たりの量として、好ましくは20g/L~100g/Lであり、より好ましくは30g/L~80g/Lである。また、下層22における非OSC材の含有量は、基材10の体積1L当たりの量として、好ましくは30g/L~130g/Lであり、より好ましくは50g/L~100g/Lである。
【0047】
下層22は、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類金属元素、遷移金属元素等を含む補助材料を含有していてもよい。補助材料は、これらの元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、シュウ酸塩、ハロゲン化物等であってよい。例えば、下層22がアルカリ土類元素(例、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)等)を含有する場合には、アルカリ土類元素によって、触媒金属(特に酸化触媒)の被毒を抑制することができる。また、アルカリ土類元素によって、触媒金属の分散性が高められ、触媒金属の粒成長に伴うシンタリングを抑制することができる。また、下層22が、OSC材と共にアルカリ土類元素を含む場合には、理論空燃比よりも燃料が薄いリーン雰囲気(酸素過剰雰囲気)において、OSC材への酸素吸収量をさらに向上させることができる。
【0048】
本実施形態においては、中層24が、NOx吸蔵層として機能することから、下層22は、NOx吸蔵材を実質的に含まなくてよい。本明細書において、層がある成分を実質的に含まないとは、その層の全質量に対するある成分の含有量が、1質量%以下(好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0質量%)であることをいう。好ましくは、下層22は、NOx吸蔵材、アルカリ金属元素を含む補助材料、およびアルカリ土類金属元素を含む補助材料を、実質的に含有しない。
【0049】
<中層>
触媒層20において、中層24は、触媒層およびNOx吸蔵層として機能する。
【0050】
中層24のフロント部24aおよびリア部24bはそれぞれ、触媒金属としてPtを含有する。Ptは、触媒金属の中でNO酸化性能が最も高いため、中層24がPtを含むことにより、NOx吸蔵材の近傍で、NOを吸蔵される形態であるNO2に変換することができる。また、Ptは、パラフィン系HCに対する反応性が高く、中層24がPtを含むことにより、HCを効率よく浄化することができる。中層24におけるPtの含有量は特に限定されない。Ptの含有量が少なすぎると、Ptにより得られる触媒活性が不十分となることがある。一方、Ptの含有量が多すぎると、Ptが粒成長を起こしやすくなると同時にコスト面でも不利である。このため、基材10の体積1L当たりのPtの含有量は、好ましくは0.1g/L~5g/Lであり、より好ましくは0.5g/L~3g/Lである。
【0051】
中層24のフロント部24a中のPtの濃度(PA)は、中層24のリア部24b中のPtの濃度(PB)と、同程度であることが好ましい。具体的には、比(PA/PB)が、0.5≦PA/PB≦1.5を満たすことが好ましく、0.8≦PA/PB≦1.2を満たすことがより好ましく、PA/PB=1.0であることが最も好ましい。
【0052】
中層24のフロント部24aおよびリア部24bはそれぞれ、アルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1種のNOx吸蔵元素を含むNOx吸蔵材を含有する。当該NOx吸蔵材は、上記の元素を含有する限りその種類には特に制限はないが、当該NOx吸蔵材は、典型的には、当該少なくとも1種のNOx吸蔵元素を含み、かつ炭酸塩もしくは酸化物の形態にある化合物、またはそれらの組み合わせである。アルカリ金属の例としては、Li、K、Cs等が挙げられ、なかでもKが好ましい。アルカリ土類金属の例としては、Mg、Sr、Ba等が挙げられ、なかでもBaが好ましい。NOx吸蔵材として、特に好ましくは、Baを含む酸化物およびBaを含む炭酸塩からなる群より選ばれる1種の化合物である。
【0053】
本実施形態の中層24においては、リア部24bに含まれるNOx吸蔵元素の基材1L当たりの濃度(CB)(以下、これを「リア部24bのNOx吸蔵元素濃度(CB)」ともいう)が、フロント部24aに含まれるNOx吸蔵元素の基材1L当たりの濃度(CA)(以下、これを「フロント部24aのNOx吸蔵元素濃度(CA)」ともいう)よりも高くなっている。したがって、リア部24bのNOx吸蔵元素濃度(CB)に対するフロント部24aのNOx吸蔵元素濃度(CA)の比(CA/CB)が、0<CA/CB<1を満たす。
【0054】
内燃機関の始動時は、排ガスによって、触媒層20のフロント部分から暖められていくため、触媒層20内に温度分布が生じる。触媒層20の中層24のフロント部24aは、温度上昇に伴い吸蔵していたNO2を放出するが、触媒層20のリア部分においては、触媒が活性温度にまで十分に加熱されておらず、NOxを完全に浄化することができない。
【0055】
そこで、本実施形態では、触媒層20の中層24のリア部24bが、NOx吸蔵材をフロント部24aよりも多く含んでいる。このため、内燃機関の始動時において触媒層20のリア部分の暖機が不十分な場合でも、フロント部24aよりも豊富に存在するリア部24bのNOx吸蔵材によって、フロント部24aから放出されたNO2を吸蔵することができる。これにより、内燃機関の始動時においてNOxがエミッションとして放出されることを抑制することができる。また、触媒層20の暖機完了後において、フューエルカット(F/C)後、高SV条件下、またはAFR変動に制御が追従できない場合などにおいて、フロント部24aでNO2を吸蔵しきれない場合でも、フロント部24aよりも豊富に存在するリア部24bのNOx吸蔵材によって、フロント部24aから放出されたNO2を吸蔵することができる。
【0056】
より高いNOx浄化性能の観点から、上記比(CA/CB)は、好ましくは0.1<CA/CB<0.85を満たし、より好ましくは0.2<CA/CB<0.8を満たし、さらに好ましくは0.4<CA/CB<0.7を満たす。
【0057】
より高いNOx浄化性能の観点から、フロント部24aのNOx吸蔵元素濃度(CA)が、0g/L超20g/L以下であり、リア部24b中のNOx吸蔵材についての上記濃度(CB)が、20g/L以上であることが好ましい。フロント部24aのNOx吸蔵元素濃度(CA)は、3g/L以上が好ましく、5g/L以上がより好ましい。リア部24bのNOx吸蔵元素濃度(CB)は、30g/L以上がより好ましく、37.5g/L以上がより好ましい。なお、製造上の限界等の理由から、リア部24bのNOx吸蔵元素濃度(CB)は、40g/L以下であり得る。
【0058】
中層24は、OSC材を含むことが好ましい。OSC材は、担体であっても非担体であってもよい。中層24は、OSC材と非OSC材とを含むことがより好ましい。中層24におけるOSC材の含有量は、基材10の体積1L当たりの量として、好ましくは20g/L~100g/Lであり、より好ましくは40g/L~80g/Lである。また、中層24における非OSC材の含有量は、基材10の体積1L当たりの量として、好ましくは40g/L~120g/Lであり、より好ましくは60g/L~100g/Lである。
【0059】
なお、
図2では、中層24において、フロント部24aとリア部24bとは接している。しかしながら、中層24において、フロント部24aとリア部24bとは離れていてもよい。また、スラリーを用いた製法上の理由等によって、フロント部24aの端部の一部と、リア部24bの端部の一部とが重なっていてもよい。
【0060】
上記のようにスラリーを用いた製法上の理由等によって、フロント部24aの端部の一部と、リア部24bの端部の一部とが重なり得るものである。よって、この重なり部分を避けるために、フロント部24aのNOx吸蔵元素濃度(CA)およびリア部24bのNOx吸蔵元素濃度(CB)の分析は、基材10の端部から基材10の長さの30%の位置において行ってよい。
【0061】
フロント部24aのコート長は、基材10の全長(すなわち、筒軸方向の平均寸法)の30%~70%が好ましく、40%~60%がより好ましく、45%~55%がさらに好ましい。同様に、リア部24bのコート長は、基材10の全長の30%~70%が好ましく、40%~60%がより好ましく、45%~55%がさらに好ましい。
【0062】
<上層>
上層26は、触媒金属として、Rhを含有する。Rhは、他の触媒金属と比べて、H2生成能が高く、三元性能も高い。特に、Rhは、NOx浄化能が高い。したがって、中層24よりも表層部側にある上層26が触媒金属としてRhを含有することで、中層24に吸蔵されたNOxが放出された際に、NOxを効率よく除去することができる。
【0063】
上層26におけるRhの含有量は特に限定されない。Rhの含有量が少なすぎると、Rhにより得られる触媒活性が不十分となることがある。一方、Rhの含有量が多すぎると、Rhが粒成長を起こしやすくなると同時にコスト面でも不利である。このため、基材10の体積1L当たりのRhの含有量は、好ましくは0.01g/L~1.0g/Lであり、より好ましくは0.05g/L~0.5g/Lである。
【0064】
上層26は、OSC材を含むことが好ましい。OSC材は、担体であっても非担体であってもよい。上層26は、OSC材と非OSC材とを含むことがより好ましい。上層26におけるOSC材の含有量は、基材10の体積1L当たりの量として、好ましくは5g/L~50g/Lであり、より好ましくは10g/L~40g/Lである。また、上層26における非OSC材の含有量は、基材10の体積1L当たりの量として、好ましくは40g/L~120g/Lであり、より好ましくは60g/L~100g/Lである。
【0065】
上層26は、希土類金属元素、遷移金属元素等を含む補助材料を含有していてもよい。
【0066】
本実施形態においては、中層24が、NOx吸蔵層として機能することから、上層26は、NOx吸蔵材を実質的に含まなくてよい。好ましい一実施形態では、上層26は、NOx吸蔵材、アルカリ金属元素を含む補助材料、およびアルカリ土類金属元素を含む補助材料を、実質的に含有しない。
【0067】
上記のように、特有の複層構造を有する触媒層20を備える排ガス浄化用触媒100によれば、内燃機関の始動時のNOxのエミッションとしての排出を抑制しつつ、NOxを高効率で浄化することができ、NOx浄化性能に優れる。
【0068】
≪排ガス浄化用触媒100の製造方法≫
排ガス浄化用触媒100は、例えば以下のような方法で製造することができる。まず、基材10と、触媒層20を形成するための触媒層形成用スラリーとを用意する。触媒層形成用スラリーは、例えば、触媒金属源(例えば、触媒金属をイオンとして含む溶液)と、その他成分(例えば、NOx吸蔵材、非OSC材、OSC材、バインダ、各種添加剤等)とを、分散媒中で混合することにより、調製することができる。分散媒としては、例えば、水、水と水溶性有機溶媒の混合物等を使用し得る。スラリーの性状(例えば、粘度、固形分率等)は、使用する基材10のサイズや、セル12(リブ壁14)の形態、触媒層20への要求特性等によって適宜決定することができる。スラリーの粘度調整には、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)等のセルロース系ポリマーの使用が有利である。
【0069】
具体的に例えば、触媒金属源を含有する下層形成用スラリー、Pt源およびNOx吸蔵材を含有する中層形成用スラリー、およびRh源を含有する上層形成用スラリーを用意する。このとき、中層形成用スラリーとして、全固形分に対して、NOx吸蔵材に含まれるアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の濃度が低い中層フロント部形成用スラリーと、全固形分に対して、NOx吸蔵材に含まれるアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の濃度が高い中層リア部形成用スラリーとを用意する。
【0070】
基材に、公知の塗布方法(例、含浸法、ウォッシュコート法等)により、下層形成用スラリーを塗布し、乾燥後、焼成して下層を形成する。続いて、基材のフロント側端部から所定の位置まで、中層フロント部形成用スラリーを、公知方法に従って塗布し、乾燥する。一方、基材のリア側端部から所定の位置まで、中層リア部形成用スラリーを、公知方法に従って塗布し、乾燥する。そして、これを焼成することによって、中層を形成する。さらに、公知の塗布方法により、これに上層形成用スラリーを塗布し、乾燥後、焼成して上層を形成する。乾燥条件は基材または担体の形状及び寸法により左右されるが、典型的には70~150℃程度(例えば90~130℃)で1~10時間程度である。焼成条件は、典型的には300~800℃程度(例えば400~500℃)で1~4時間程度である。以上のようにして、排ガス浄化用触媒100を得ることができる。
【0071】
≪排ガス浄化用触媒100の用途≫
排ガス浄化用触媒100は、自動車やトラック等の車両や、自動二輪車や原動機付き自転車をはじめとして、船舶、タンカー、水上バイク、パーソナルウォータークラフト、船外機等のマリン用製品、草刈機、チェーンソー、トリマー等のガーデニング用製品、ゴルフカート、四輪バギー等のレジャー用製品、コージェネレーションシステム等の発電設備、ゴミ焼却炉等の内燃機関から排出される排ガスの浄化に好適に用いることができる。なかでも、自動車等の車両に対して好適に用いることができ、特に、ガソリンエンジンを備える車両に対して好適に用いることができる。
【0072】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0073】
<試験用基材>
図1に示すような、直径118.4mm、全長114.3mm、基材容量1.26Lの円筒形状のコージェライト製ハニカム基材を、各実施例および各比較例の基材として用意した。この基材の一方の端部をフロント側端部(すなわち、排ガス流入側端部)と規定し、他方の端部をリア側端部(すなわち、排ガス流出側端部)と規定した。
【0074】
<実施例1~4および比較例1~5の排ガス浄化用触媒の作製>
硝酸パラジウム水溶液と、ZC複合酸化物粉末と、Al2O3粉末と、イオン交換水とを混合して、下層用Pd含有スラリーを調製した。この下層用Pd含有スラリーを、ウォッシュコート法によって、上記の基材上に、基材の長さ(筒軸方向の寸法)の100%にわたって塗布した。これを90℃で1時間乾燥した後、500℃で1時間焼成することによって、下層を形成した。基材の単位体積あたりのPd量は、74g/cft(約2.61g/L)とした。
【0075】
硝酸白金水溶液と、ZC複合酸化物粉末と、Al2O3粉末と、炭酸バリウムと、イオン交換水とを混合して、中層用Pt含有スラリーを調製した。中層用Pt含有スラリーは、Ba量の異なるものを複数種類用意した。また、炭酸バリウムを含まない中層用Pt含有スラリーも用意した。第1の中層用Pt含有スラリーを、ウォッシュコート法によって、基材のフロント側端部から基材の長さの50%までの領域に塗布し、90℃で1時間乾燥した後、500℃で1時間焼成することでフロント部を形成した。また、第2の中層用Pt含有スラリーを、ウォッシュコート法によって、基材のリア側端部から基材の長さの50%までの領域に塗布し、90℃で1時間乾燥した後、500℃で1時間焼成することでリア部を形成した。これによりフロント部とリア部とを有する中層を形成した。なお、第1の中層用Pt含有スラリーと、第2の中層用Pt含有スラリーにはそれぞれ、基材1Lあたりの、フロント部のBa濃度(CA)およびリア部のBa濃度(CB)が表1に示す値となるようなBa量のものを選択した。基材の単位体積あたりのPt量は、フロント部およびリア部ともに同じとし、それぞれ30g/cft(約1.06g/L)とした。
【0076】
硝酸ロジウム水溶液と、ZC複合酸化物粉末と、Al2O3粉末と、イオン交換水とを混合して、上層用Rh含有スラリーを調製した。この上層用Rh含有スラリーを、ウォッシュコート法によって、上記形成した中層の上に、基材の長さの100%にわたって塗布した。これを90℃で1時間乾燥した後、500℃で1時間焼成することによって、上層を形成した。基材の単位体積あたりのRh量は、6g/cft(約0.21g/L)とした。このようにして実施例1~4および比較例1~5の排ガス浄化用触媒を得た。なお、フロント部のBa濃度(CA)およびリア部のBa濃度(CB)の分析を、それぞれ、基材のフロント側端部およびリア側端部から基材の長さの30%の位置において行って、フロント部のBa濃度(CA)およびリア部のBa濃度(CB)が表1に示す値であることを確認した。
【0077】
<比較例6の排ガス浄化用触媒の作製>
上記の下層用Pd含有スラリーを、ウォッシュコート法によって、上記の基材上に、基材の長さの100%にわたって塗布した。これを90℃で1時間乾燥した後、500℃で1時間焼成することによって、下層を形成した。基材の単位体積あたりのPd量は、74g/cft(約2.61g/L)とした。
【0078】
硝酸白金水溶液と、硝酸ロジウム水溶液と、ZC複合酸化物粉末と、Al2O3粉末と、炭酸バリウムと、イオン交換水とを混合して、上層用Pt,Rh含有スラリーを調製した。上層用Pt,Rh含有スラリーは、Ba量の異なるものを2種類用意した。第1の上層用Pt,Rh含有スラリーを、ウォッシュコート法によって、基材のフロント側端部から基材の長さの50%までの領域に塗布し、90℃で1時間乾燥した後、500℃で1時間焼成することで、フロント部を形成した。また、第2の上層用Pt,Rh含有スラリーを、ウォッシュコート法によって、基材のリア側端部から基材の長さの50%までの領域に塗布し、90℃で1時間乾燥した後、500℃で1時間焼成することで、リア部を形成した。これにより、フロント部とリア部とを有する上層を形成した。このとき、基材1Lあたりの、フロント部のBa濃度(CA)およびリア部のBa濃度(CB)が、表1に示す値となるようにした。基材の単位体積あたりのPt量は、フロント部およびリア部ともに、30g/cft(約1.06g/L)とし、基材の単位体積あたりのPd量は、フロント部およびリア部ともに、37g/cft(約1.31g/L)とした。このようにして比較例6の排ガス浄化用触媒を得た。
【0079】
<NOx吸蔵量評価>
各実施例および各比較例の排ガス浄化用触媒を、100℃以下に冷却後、エンジンベンチの排気管内に設置した。熱交換器で300℃に温度調節したλ値=1.08の排ガスを、排ガス浄化用触媒に流入させた。このとき、触媒流入前の位置でのNOx濃度と触媒流出後の位置でのNOx濃度とを測定し、これに基づいて、基材1LあたりのNOx吸蔵量(mg/L)を算出した。結果を表1に示す。
【0080】
<NOx浄化率評価>
各実施例および各比較例の排ガス浄化用触媒を、100℃以下に冷却後、エンジンベンチの排気管内に設置した。熱交換器で300℃に温度調節したλ値=1.08の排ガスを、排ガス浄化用触媒に流入させた。このとき、180秒間の触媒流入前の位置でのNOx積算量と、180秒間の触媒流出後のNOx積算量とを測定し、これに基づいてNOx浄化率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0081】
【0082】
表1の結果が示すように、NOx吸蔵層にPtを含有させ、NOx吸蔵層のリア部のBa濃度を高め、Rhを含有する層を、NOx吸蔵層の上側に配置することにより、NOx吸蔵量を高めることができ、NOxを高効率で浄化することができることがわかる。よって、以上の結果より、ここに開示される排ガス浄化用触媒によれば、NOx吸蔵層を備える排ガス浄化用触媒であって、NOx浄化性能に優れる排ガス浄化用触媒を提供できることがわかる。
【0083】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定
するものではない。請求の範間に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、
変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0084】
10 基材
12 セル
14 リブ壁
20 触媒層
22 上層
24 中層
26 下層
100 排ガス浄化用触媒