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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131488
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】ベーンポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/344 20060101AFI20230914BHJP
   F04C 15/00 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
F04C2/344 331C
F04C15/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036281
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 朋佳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一成
【テーマコード(参考)】
3H040
3H044
【Fターム(参考)】
3H040AA03
3H040BB05
3H040CC04
3H040CC09
3H040DD03
3H040DD22
3H044AA02
3H044BB05
3H044CC04
3H044CC19
3H044DD03
3H044DD12
(57)【要約】
【課題】キャビテーションの発生を抑制すること。
【解決手段】ベーンポンプ100は、回転駆動されるロータ2と、ロータ2に対して径方向に往復動自在に設けられた複数のベーン3と、ロータ2の回転に伴ってベーン3の先端部が摺接する内周カム面4aを有するカムリング4と、ロータ2、カムリング4、及び一対の隣り合うベーン3によって区画されたポンプ室6と、カムリング4の一側面に接触して設けられたサイドプレート10と、サイドプレート10に形成され、ポンプ室6に作動流体を導く吸込ポート11と、カムリング4の内周カム面4aに、ロータ2の回転方向において吸込ポート11の始端部11aに掛かって形成される溝部20,30,40と、を備える。
【選択図】図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動されるロータと、
前記ロータに対して径方向に往復動自在に設けられた複数のベーンと、
前記ロータの回転に伴って前記ベーンの先端部が摺接する内周カム面を有するカムリングと、
前記ロータ、前記カムリング、及び一対の隣り合う前記ベーンによって区画されたポンプ室と、
前記カムリングの一側面に接触して設けられたサイド部材と、
前記サイド部材に形成され、前記ポンプ室に作動流体を導く吸込ポートと、
前記カムリングの前記内周カム面に、前記ロータの回転方向において前記吸込ポートの始端部に掛かって形成される溝部と、
を備えることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のベーンポンプであって、
前記溝部は、前記カムリングの厚さ方向の中央部に形成されることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のベーンポンプであって、
前記溝部は、前記ロータの回転中心から見て、前記ロータの回転方向に沿う長方形に形成され、前記カムリングの軸方向に垂直な断面において、アーチ状に形成されることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のベーンポンプであって、
前記溝部は、前記ロータの回転中心から見て、前記ロータの回転方向に沿う菱形に形成され、前記カムリングの軸方向に垂直な断面において、三角形に形成されることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のベーンポンプであって、
前記溝部は、前記ロータの回転中心から見て円形に形成され、前記カムリングの軸方向に垂直な断面において、半円形に形成されることを特徴とするベーンポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーンポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示のベーンポンプでは、吸込ポートの開口縁部からロータの回転方向とは逆方向に向かって形成されるノッチがサイドプレートに形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-188539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のような、吸込ポートにノッチが形成されるベーンポンプでは、ポンプ室の高圧油は吸込ポートに連通する前にノッチを通じて吸込ポートに導かれるため、ノッチはポンプ室が吸込ポートに連通した際の圧力変動を緩和する効果を有する。
【0005】
しかし、ノッチはサイドプレートに形成されているため、ポンプ室の高圧油がノッチを通じて吸込ポートに導かれる際、サイドプレートに沿う作動油の流れが生じる。この流れにより、ポンプ室の中央付近の油が引っ張られ、ポンプ室の中央付近の圧力が下がりキャビテーションが発生するおそれがある。このように、特許文献1に記載のベーンポンプでは、キャビテーションの発生について改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、キャビテーションの発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ベーンポンプであって、回転駆動されるロータと、ロータに対して径方向に往復動自在に設けられた複数のベーンと、ロータの回転に伴ってベーンの先端部が摺接する内周カム面を有するカムリングと、ロータ、カムリング、及び一対の隣り合うベーンによって区画されたポンプ室と、カムリングの一側面に接触して設けられたサイド部材と、サイド部材に形成され、ポンプ室に作動流体を導く吸込ポートと、カムリングの内周カム面に、ロータの回転方向において吸込ポートの始端部に掛かって形成される溝部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この発明では、ポンプ室が溝部に連通した際には、ポンプ室の高圧流体はカムリングの内周カム面に形成された溝部を通じて吸込ポートに導かれるため、カムリングの内周カム面に沿った作動流体の流れが生じる。したがって、ポンプ室の圧力低下が抑制されるため、キャビテーションの発生を抑制することができる。
【0009】
また、本発明は、溝部はカムリングの厚さ方向の中央部に形成されることを特徴とする。
【0010】
この発明では、溝部を通じて導かれる作動流体はポンプ室の厚さ方向中央付近を通るため、ポンプ室の中央付近の局所的な圧力低下がより効果的に抑制される。
【0011】
また、本発明は、溝部は、ロータの回転中心から見て、ロータの回転方向に沿う長方形に形成され、カムリングの軸方向に垂直な断面において、アーチ状に形成されることを特徴とする。
【0012】
この発明では、ロータの高回転時であっても、ポンプ室の中央付近の局所的な圧力低下を抑制することができる。
【0013】
また、本発明は、溝部は、ロータの回転中心から見て、ロータの回転方向に沿う菱形に形成され、カムリングの軸方向に垂直な断面において、三角形に形成されることを特徴とする。
【0014】
この発明では、ロータの低回転時であっても、ポンプ室の圧力変動を緩やかにすることができると共に、ポンプ室の中央付近の局所的な圧力低下を抑制することができる。
【0015】
また、本発明は、溝部は、ロータの回転中心から見て円形に形成され、カムリングの軸方向に垂直な断面において、半円形に形成されることを特徴とする。
【0016】
この発明では、ポンプ室の中央付近の局所的な圧力低下を低コストで抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、キャビテーションの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係るベーンポンプの断面図である。
図2】本発明の実施形態に係るベーンポンプのロータ、カムリング、及びサイドプレートの平面図である。
図3A】本発明の実施形態に係るベーンポンプのカムリングの内周カム面の図である。
図3B図3AにおけるA-A線に沿う断面図である。
図4】比較例に係るベーンポンプのカムリングの内周カム面の図であって、図3Aに対応して示す。
図5A】本発明の実施形態の変形例1に係るベーンポンプのカムリングの内周カム面の図である。
図5B図5AにおけるB-B線に沿う断面図である。
図6A】本発明の実施形態の変形例2に係るベーンポンプのカムリングの内周カム面の図である。
図6B図6AにおけるC-C線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0020】
図1及び図2を参照して、本発明の実施形態に係るベーンポンプ100について説明する。ベーンポンプ100は、車両や産業機械に搭載される流体圧機器、例えば、パワーステアリング装置や無段変速機等の流体圧供給源として用いられる。本実施形態では、作動油を作動流体とする固定容量型のベーンポンプ100について説明する。なお、ベーンポンプ100は、可変容量型のベーンポンプであってもよい。
【0021】
ベーンポンプ100は、駆動シャフト1の端部にエンジンや電動モータ等の駆動源(図示省略)の動力が伝達され、駆動シャフト1に連結されたロータ2が回転するものである。ロータ2は、図2において時計回りに回転する。
【0022】
ベーンポンプ100は、ロータ2に対して径方向に往復動自在に設けられた複数のベーン3と、ロータ2を収容すると共にロータ2の回転に伴ってベーン3の先端部が摺接する内周カム面4aを有するカムリング4と、ロータ2及びカムリング4を収容するハウジング5と、を備える。ロータ2、カムリング4、及び一対の隣り合うベーン3によって、複数のポンプ室6が区画される。
【0023】
ロータ2は環状部材であり、駆動シャフト1の先端部にスプライン結合によって連結される。ロータ2には、外周面に開口するスリット2aが放射状に形成され、スリット2aにはベーン3が摺動自在に挿入される。
【0024】
カムリング4は、内周カム面4aが略楕円形状をした環状部材である。カムリング4は、ロータ2の回転に伴ってポンプ室6の容積を拡張する2つの吸込領域と、ロータ2の回転に伴ってポンプ室6の容積を収縮する2つの吐出領域と、を有する。つまり、ロータ2が1回転する間に、ベーン3は2往復しポンプ室6は拡張と収縮を2回繰り返す。吸込領域と吐出領域は、内周カム面4aの形状によって規定される。
【0025】
カムリング4の一側面には、サイドプレート10が接触して設けられる。サイドプレート10は円板状部材である。
【0026】
ロータ2、カムリング4、及びサイドプレート10は、ハウジング5に凹状に形成されたポンプ収容部5aに収容される。ポンプ収容部5aは、ポンプカバー7によって封止される。ポンプカバー7は、カムリング4の他側面に接触して設けられる。サイドプレート10とポンプカバー7は、ロータ2及びカムリング4の両側面を挟んだ状態で配置され、ポンプ室6を密閉する。サイドプレート10及びポンプカバー7は、カムリング4の一側面に接触して設けられるサイド部材として機能する。
【0027】
ポンプ収容部5aの底面5bには、ポンプ室6から吐出される作動油が導かれる高圧室16が環状に形成される。高圧室16は、底面5bに配置されるサイドプレート10によって区画される。高圧室16は、ハウジング5の外面に開口して形成される吐出通路(図示省略)に連通する。
【0028】
ポンプカバー7におけるロータ2が摺動する摺動面7aには、ポンプ室6に作動油を導く2つの吸込ポート8(図3A参照)と、ポンプ室6の作動油を吐出する2つの吐出ポート9とが形成される。吸込ポート8は、カムリング4の2つの吸込領域に対応して形成される。吐出ポート9は、カムリング4の吐出領域に対応して形成される。さらに、ポンプカバー7には、吸込ポート8を通じてタンクの作動油をポンプ室6へと導く吸込通路(図示省略)が形成される。
【0029】
図2に示すように、サイドプレート10には、ポンプ室6に作動油を導く2つの吸込ポート11と、ポンプ室6の作動油を吐出する2つの吐出ポート12とが形成される。吸込ポート11は、カムリング4の2つの吸込領域に対応して、サイドプレート10におけるロータ2が摺動する摺動面10aに溝状に形成される。吸込ポート11は、ポンプ収容部5aの内周面に形成された通路(図示省略)を通じてポンプカバー7の吸込ポート8と連通している。したがって、吸込通路からの作動油は、ポンプカバー7の吸込ポート8及びサイドプレート10の吸込ポート11を通じてポンプ室6に導かれる。吐出ポート12は、カムリング4の吐出領域に対応して、サイドプレート10に円弧状に貫通して形成される。吐出ポート12は、ポンプ室6の作動油を高圧室16へ吐出する。
【0030】
カムリング4、サイドプレート10、及びポンプカバー7は、2つの位置決めピン(図示省略)によって相対回転が規制される。これにより、カムリング4の吸込領域及び吐出領域に対するポンプカバー7の吸込ポート8及び吐出ポート9の位置決め、及びサイドプレート10の吸込ポート11及び吐出ポート12の位置決めが行われる。
【0031】
動力源の駆動により駆動シャフト1が回転すると、駆動シャフト1に連結されたロータ2が回転し、それに伴ってカムリング4内の各ポンプ室6は、ポンプカバー7の吸込ポート8及びサイドプレート10の吸込ポート11を通じて作動油を吸込み、ポンプカバー7の吐出ポート9及びサイドプレート10の吐出ポート12を通じて作動油を高圧室16に吐出する。高圧室16の作動油は、吐出通路を通じて流体圧機器へ供給される。このように、カムリング4内の各ポンプ室6は、ロータ2の回転に伴う拡縮によって作動油を給排する。
【0032】
カムリング4の内周カム面4aには、吸込ポート8,11に対応して2つの溝部20が形成される。以下では、主に図3を参照して、溝部20について説明する。図3Aは、カムリング4の内周カム面4aをロータ2の回転中心から見た図であり、ポンプカバー7及びサイドプレート10については内周カム面4aに沿った断面を示す。図3Bは、図3AのA-A線に沿う断面図である。図3Aでは、ベーン3によって仕切られた隣り合うポンプ室6Aとポンプ室6Bを図示しており、ポンプ室6A,6Bは、左側から右側に移動する。つまり、ポンプ室6Aは回転方向後方側であり、ポンプ室6Bは回転方向前方側である。図3Aでは、ポンプ室6Aが溝部20に連通する一方、吸込ポート8,11に連通する前の状態を示している。
【0033】
溝部20は、内周カム面4aの表面に凹状に窪んで形成される。溝部20は、ロータ2の回転方向に沿って形成され、ロータ2の回転方向において一部が吸込ポート8,11の始端部8a,11aに掛かって形成される。吸込ポート8,11の始端部8a,11aとは、吸込ポート8,11における、ロータ2の回転に伴ってポンプ室6が連通し始める連通開始側の端部である。このように、溝部20は、ロータ2の回転方向において、吸込ポート8,11が形成された吸込ポート区間の始端部を跨ぐように形成される。また、溝部20は、カムリング4の厚さ方向(図3Aにおいて上下方向)の略中央部に形成される。溝部20におけるカムリング4の周方向の長さ(図3Aにおいて左右方向)は、ベーン3の厚さよりも長く、かつ隣り合うポンプ室6のみを連通する長さに形成される。
【0034】
溝部20は、ポンプ室6が吐出領域から吸込領域に遷移する際に、ポンプ室6の圧力変動を緩和してキャビテーションの発生を防止する機能を有する。具体的に説明すると、ポンプ室6Aが吐出領域から吸込領域に遷移する過程で吸込ポート8,11に連通する前に溝部20に連通すると(図3Aに示す状態)、ポンプ室6Aの高圧油は溝部20を通じてポンプ室6Bへ導かれて吸込ポート8,11へと流れる(逆流する)ため、ポンプ室6Aは圧力が低下した状態で吸込ポート8,11に連通する。したがって、ポンプ室6Aが吸込ポート8,11に連通した際の圧力変動が緩和される。
【0035】
ここで、図4を参照して比較例について説明する。図4は比較例を示す図であって図3Aに対応する。比較例では、カムリング4の内周カム面4aに溝部20は形成されず、代わりに、サイドプレート10の摺動面10a及びポンプカバー7の摺動面7aのそれぞれに、吸込ポート11の始端部11a及び吸込ポート8の始端部8aからロータ2の回転方向とは逆方向に向かってノッチ50が形成される。ノッチ50は、ロータ2の回転方向に向かって開口面積が徐々に大きくなるように溝状に形成される。図4では、ポンプ室6Aがノッチ50に連通する一方、吸込ポート8,11に連通する前の状態を示している。
【0036】
ノッチ50は、ポンプ室6が吸込ポート8,11に連通した際の圧力変動を緩和する点では、溝部20と同様の機能を有する。しかし、ノッチ50はポンプカバー7及びサイドプレート10に形成されているため、ポンプ室6Aが吸込ポート8,11に連通する前にノッチ50に連通すると(図4に示す状態)、ポンプ室6Aの高圧油は、ポンプカバー7の摺動面7a及びサイドプレート10の摺動面10aに沿って流れてノッチ50を通じて吸込ポート8及び吸込ポート11へと流れる(逆流する)。このように、ポンプ室6Aがノッチ50に連通すると、ポンプカバー7の摺動面7a及びサイドプレート10の摺動面10aに沿う作動油の流れが生じる。この流れにより、ポンプ室6Aの中央付近の作動油が引っ張られ、ポンプ室6Aの中央付近の圧力が局所的に下がり負圧になる可能性がある。これにより、ポンプ室6Aの中央付近においてキャビテーションが発生するおそれがある。また、ポンプ室6Aからノッチ50を通じて吸込ポート8及び吸込ポート11へと逆流する作動油の流速は速いため、作動油が吸込ポート8及び吸込ポート11の壁面に衝突することによりノイズが発生するおそれがある。
【0037】
これに対して、本実施形態では、ポンプ室6Aが吸込ポート8,11に連通する前に溝部20に連通した際には(図3Aに示す状態)、ポンプ室6Aの高圧油は、カムリング4の内周カム面4aに形成される溝部20を通じてポンプ室6Bへ導かれて吸込ポート8,11へと流れる。したがって、カムリング4の内周カム面4aに沿った作動油の流れが生じるため、ポンプ室6Aの中央付近の局所的な圧力低下が抑制され、キャビテーションの発生が抑制される。特に、溝部20はカムリング4の厚さ方向の略中央部に形成されるため、溝部20を通じて導かれる作動油はポンプ室6Aの厚さ方向中央付近を通るため、ポンプ室6Aの中央付近の局所的な圧力低下がより効果的に抑制される。なお、溝部20は、カムリング4の厚さ方向の中央部に形成される必要はなく、カムリング4の厚さ方向の中央部から図3Aの上下方向にずれて形成されてもよい。その場合であっても、カムリング4の内周カム面4aに沿った作動油の流れは生じるため、ポンプ室6Aの中央付近の局所的な圧力低下を抑制する一定の効果はある。
【0038】
また、ポンプ室6Aの高圧油は、カムリング4の内周カム面4aに形成される溝部20を通じてポンプ室6Bの中央付近へ導かれてから吸込ポート8,11へと流入する。このように、ポンプ室6Aの高圧油は、吸込ポート8,11へ直接流入せずに、ポンプ室6Bの中央付近を経由するため、作動油が吸込ポート11の壁面に衝突する勢いが緩和され、ノイズの発生が抑制される。また、溝部20の形状を調整することにより、作動油が衝突する吸込ポート11の壁面位置を調整することができるため、ノイズの発生をより抑制することもできる。
【0039】
本実施形態では、溝部20の形状は、図3Aに示すように、ロータ2の回転中心から見て、ロータ2の回転方向に沿う長方形に形成され、図3Bに示すように、カムリング4の軸方向に垂直な断面において、アーチ状(蒲鉾状)に形成される。溝部20は、ロータ2の回転方向に向かって流路断面積が略一定に形成される。したがって、ポンプ室6Aが溝部20に連通した直後から高圧油が一気に溝部20を通じてポンプ室6Bへと導かれる。よって、ロータ2の高回転時であっても、ポンプ室6Aの中央付近の局所的な圧力低下を抑制することができる。
【0040】
図3A及び図3Bに示す溝部20の形状は一例であって、ベーンポンプ100の仕様に応じて、溝部の深さ、ロータ2の回転方向の長さ、曲率、内周カム面4aにおける形成位置等を調整することにより、溝部を通じた作動油の流量、流速、流れ方向が設定される。これにより、ベーンポンプ100の仕様に応じて、ポンプ室6Aの中央付近の局所的な圧力低下を抑制することができると共に、作動油が吸込ポート11の壁面に衝突することによるノイズの発生を抑制することができる。
【0041】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0042】
ポンプ室6が溝部20に連通した際には、ポンプ室6の高圧油はカムリング4の内周カム面4aに形成された溝部20を通じて吸込ポート8,11に導かれるため、カムリング4の内周カム面4aに沿った作動油の流れが生じる。したがって、ポンプ室6の圧力低下が抑制されるため、キャビテーションの発生を抑制することができる。
【0043】
以下に、本実施形態の変形例について説明する。
【0044】
(1)図5A及び図5Bを参照して変形例1について説明する。図5A及び図5Bは、変形例1に係る溝部30を示す図であって、それぞれ図3A及び図3Bに対応する。本変形例では、溝部30の形状は、図5Aに示すように、ロータ2の回転中心から見て、ロータ2の回転方向に沿う菱形に形成され、図5Bに示すように、カムリング4の軸方向に垂直な断面において、三角形に形成される。溝部30は、端部からロータ2の回転方向に向かって流路断面積が徐々に大きくなるように形成される。したがって、ポンプ室6Aが溝部30に連通すると、高圧油が溝部30を通じて徐々にポンプ室6Bへと導かれる。よって、ロータ2の低回転時であっても、ポンプ室6Aの圧力変動を緩やかにすることができると共に、ポンプ室6Aの中央付近の局所的な圧力低下を抑制することができる。
【0045】
(2)図6A及び図6Bを参照して変形例2について説明する。図6A及び図6Bは、変形例2に係る溝部40を示す図であって、それぞれ図3A及び図3Bに対応する。本変形例では、溝部40の形状は、図6Aに示すように、ロータ2の回転中心から見て円形に形成され、図6Bに示すように、カムリング4の軸方向に垂直な断面において、半円形に形成される。溝部40におけるカムリング4の周方向の長さである直径(図3Aにおいて左右方向)は、ベーン3の厚さよりも長く形成される。溝部40は、溝部20,30と比較して低コストで加工することができる。ポンプ室6と吸込ポート8,11との圧力差が小さく、溝部を通じて導く作動油の流量が少量である場合には、本変形例に係る溝部40の形状は、ポンプ室6Aの中央付近の局所的な圧力低下を低コストで抑制することができるため有効である。
【0046】
(3)吸込ポートは、サイド部材としてのサイドプレート10及びポンプカバー7のいずれか一方のみに形成されてもよい。
【0047】
(4)カムリング4の一側面に接触して設けられるサイド部材として、ポンプカバー7とカムリング4の間に第2サイドプレートを配置してもよい。つまり、2つのサイドプレート(サイド部材)によってロータ2及びカムリング4を挟んでポンプ室6を区画するようにしてもよい。この形態では、第2サイドプレートにおけるロータ2が摺動する摺動面に、吐出ポートと吸込ポートが形成される。
【0048】
以下、本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0049】
ベーンポンプ100は、回転駆動されるロータ2と、ロータ2に対して径方向に往復動自在に設けられた複数のベーン3と、ロータ2の回転に伴ってベーン3の先端部が摺接する内周カム面4aを有するカムリング4と、ロータ2、カムリング4、及び一対の隣り合うベーン3によって区画されたポンプ室6と、カムリング4の一側面に接触して設けられたサイドプレート10(サイド部材)と、サイドプレート10に形成され、ポンプ室6に作動流体を導く吸込ポート11と、カムリング4の内周カム面4aに、ロータ2の回転方向において吸込ポート11の始端部11aに掛かって形成される溝部20,30,40と、を備える。
【0050】
この構成では、ポンプ室6が溝部20,30,40に連通した際には、ポンプ室6の高圧油はカムリング4の内周カム面4aに形成された溝部20,30,40を通じて吸込ポート11に導かれるため、カムリング4の内周カム面4aに沿った作動油の流れが生じる。したがって、ポンプ室6の圧力低下が抑制されるため、キャビテーションの発生を抑制することができる。
【0051】
また、溝部20,30,40はカムリング4の厚さ方向の中央部に形成される。
【0052】
この構成では、溝部20,30,40を通じて導かれる作動油はポンプ室6の厚さ方向中央付近を通るため、ポンプ室6の中央付近の局所的な圧力低下がより効果的に抑制される。
【0053】
また、溝部20は、ロータ2の回転中心から見て、ロータ2の回転方向に沿う長方形に形成され、カムリング4の軸方向に垂直な断面において、アーチ状に形成される。
【0054】
この構成では、ロータ2の高回転時であっても、ポンプ室6の中央付近の局所的な圧力低下を抑制することができる。
【0055】
また、溝部30は、ロータ2の回転中心から見て、ロータ2の回転方向に沿う菱形に形成され、カムリング4の軸方向に垂直な断面において、三角形に形成される。
【0056】
この構成では、ロータ2の低回転時であっても、ポンプ室6の圧力変動を緩やかにすることができると共に、ポンプ室6の中央付近の局所的な圧力低下を抑制することができる。
【0057】
また、溝部40は、ロータ2の回転中心から見て円形に形成され、カムリング4の軸方向に垂直な断面において、半円形に形成される。
【0058】
この構成では、ポンプ室6の中央付近の局所的な圧力低下を低コストで抑制することができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0060】
100・・・ベーンポンプ、2・・・ロータ、3・・・ベーン、4・・・カムリング、6,6A,6B・・・ポンプ室、7・・・ポンプカバー(サイド部材)、8・・・吸込ポート、8a・・・始端部、10・・・サイドプレート(サイド部材)、11・・・吸込ポート、11a・・・始端部、20,30,40・・・溝部
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B