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特開2023-131491ひずみゲージの抵抗値調整方法、ひずみゲージ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131491
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】ひずみゲージの抵抗値調整方法、ひずみゲージ
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/16 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
G01B7/16 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036286
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 真一
(72)【発明者】
【氏名】北園 正樹
【テーマコード(参考)】
2F063
【Fターム(参考)】
2F063DA02
2F063DA05
2F063EC05
2F063EC11
2F063EC18
(57)【要約】
【課題】保護層の有無にかかわらず抵抗値の調整を可能とする、ひずみゲージの抵抗値調整方法を提供する。
【解決手段】本ひずみゲージの抵抗値調整方法は、基材と、前記基材上に形成された抵抗体と、前記基材上に形成された抵抗調整部と、を有するひずみゲージを準備する工程と、前記抵抗調整部にレーザ光を照射する工程と、を有し、前記抵抗調整部は、前記抵抗体と直列に接続された複数のグリッド抵抗、及び隣接する2つのグリッド抵抗を含む直列回路に対して並列に接続されたトリム抵抗を含み、前記トリム抵抗は、第1抵抗部、及び前記第1抵抗部の一部に積層された第2抵抗部を含み、前記グリッド抵抗及び前記第1抵抗部は、前記抵抗体と同一材料から形成され、前記第2抵抗部は、前記第1抵抗部よりも体積抵抗率の低い材料から形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に形成された抵抗体と、前記基材上に形成された抵抗調整部と、を有するひずみゲージを準備する工程と、
前記抵抗調整部にレーザ光を照射する工程と、を有し、
前記抵抗調整部は、前記抵抗体と直列に接続された複数のグリッド抵抗、及び隣接する2つのグリッド抵抗を含む直列回路に対して並列に接続されたトリム抵抗を含み、
前記トリム抵抗は、第1抵抗部、及び前記第1抵抗部の一部に積層された第2抵抗部を含み、
前記グリッド抵抗及び前記第1抵抗部は、前記抵抗体と同一材料から形成され、
前記第2抵抗部は、前記第1抵抗部よりも体積抵抗率の低い材料から形成されている、ひずみゲージの抵抗値調整方法。
【請求項2】
前記レーザ光を照射する工程では、前記第2抵抗部への前記レーザ光の照射により前記第1抵抗部を構成する材料と前記第2抵抗部を構成する材料とが相互に拡散した高抵抗部が形成される、請求項1に記載のひずみゲージの抵抗値調整方法。
【請求項3】
前記高抵抗部は、前記第1抵抗部と前記第2抵抗部の合金を含む、請求項2に記載のひずみゲージの抵抗値調整方法。
【請求項4】
前記レーザ光を照射する工程では、前記トリム抵抗への前記レーザ光の照射により前記トリム抵抗が切断される、請求項1乃至3の何れか一項に記載のひずみゲージの抵抗値調整方法。
【請求項5】
前記レーザ光を照射する工程では、他の層を介すことなく前記トリム抵抗に直接、前記レーザ光を照射する、請求項1乃至4の何れか一項に記載のひずみゲージの抵抗値調整方法。
【請求項6】
前記抵抗体及び前記抵抗調整部を被覆する保護層を形成する工程を有し、
前記レーザ光を照射する工程では、前記保護層を介して、前記トリム抵抗にレーザ光を照射する、請求項1乃至4の何れか一項に記載のひずみゲージの抵抗値調整方法。
【請求項7】
前記レーザ光を照射する工程では、前記レーザ光の焦点が前記保護層の上面よりも深い位置になるように前記レーザ光を照射する、請求項6に記載のひずみゲージの抵抗値調整方法。
【請求項8】
前記レーザ光を照射する工程では、前記レーザ光の焦点が前記トリム抵抗の上面に位置するように前記レーザ光を照射する、請求項1乃至7の何れか一項に記載のひずみゲージの抵抗値調整方法。
【請求項9】
前記第2抵抗部を構成する金属は、銅又は銅合金である、請求項1乃至8の何れか一項に記載のひずみゲージの抵抗値調整方法。
【請求項10】
前記抵抗体及び前記第1抵抗部は、Cr、CrN、及びCrNを含む膜から形成されている請求項1乃至9の何れか一項に記載のひずみゲージの抵抗値調整方法。
【請求項11】
基材と、
前記基材上に形成された抵抗体と、
前記基材上に形成された抵抗調整部と、を有し、
前記抵抗調整部は、前記抵抗体と直列に接続された複数のグリッド抵抗、及び隣接する2つのグリッド抵抗を含む直列回路に対して並列に接続されたトリム抵抗を含み、
前記トリム抵抗は、第1抵抗部、及び前記第1抵抗部の一部に積層された第2抵抗部を含み、
前記グリッド抵抗及び前記第1抵抗部は、前記抵抗体と同一材料から形成され、
前記第2抵抗部は、前記第1抵抗部よりも体積抵抗率の低い材料から形成されている、ひずみゲージ。
【請求項12】
前記トリム抵抗に、前記第1抵抗部を構成する材料と前記第2抵抗部を構成する材料とが相互に拡散した高抵抗部が形成されている、請求項11に記載のひずみゲージ。
【請求項13】
前記高抵抗部は、前記第1抵抗部と前記第2抵抗部の合金を含む、請求項12に記載のひずみゲージ。
【請求項14】
前記基材上に形成され、前記抵抗体及び前記抵抗調整部を被覆する保護層を有する、請求項11乃至13の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項15】
前記第2抵抗部を構成する金属は、銅又は銅合金である、請求項11乃至14の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項16】
前記抵抗体及び前記第1抵抗部は、Cr、CrN、及びCrNを含む膜から形成されている請求項11乃至15の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひずみゲージの抵抗値調整方法、ひずみゲージに関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物に貼り付けて、測定対象物のひずみを検出するひずみゲージが知られている。ひずみゲージは、ひずみを検出する抵抗体を備えており、抵抗体は、例えば、基材上に形成されている。抵抗体は、例えば、配線を介して、電極と接続されている。又、ひずみゲージは、基材上に、例えば、抵抗体や配線を被覆する保護層を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-74934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ひずみゲージの製造工程では、保護層を形成する前に、抵抗値の調整(トリミング)を行う場合があるが、抵抗値の調整後に保護層を形成する工程で抵抗値が変動する場合がある。その場合、ひずみゲージの抵抗値が所望の値からずれてしまう。そこで、抵抗値は、保護層を形成する工程の前と後の両方で調整できることが好ましい。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、保護層の有無にかかわらず抵抗値の調整を可能とする、ひずみゲージの抵抗値調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態に係るひずみゲージの抵抗値調整方法は、基材と、前記基材上に形成された抵抗体と、前記基材上に形成された抵抗調整部と、を有するひずみゲージを準備する工程と、前記抵抗調整部にレーザ光を照射する工程と、を有し、前記抵抗調整部は、前記抵抗体と直列に接続された複数のグリッド抵抗、及び隣接する2つのグリッド抵抗を含む直列回路に対して並列に接続されたトリム抵抗を含み、前記トリム抵抗は、第1抵抗部、及び前記第1抵抗部の一部に積層された第2抵抗部を含み、前記グリッド抵抗及び前記第1抵抗部は、前記抵抗体と同一材料から形成され、前記第2抵抗部は、前記第1抵抗部よりも体積抵抗率の低い材料から形成されている。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、保護層の有無にかかわらず抵抗値の調整を可能とする、ひずみゲージの抵抗値調整方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図2】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その1)である。
図3】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その2)である。
図4】ひずみゲージの抵抗値を調整する第1の方法について説明する図である。
図5】ひずみゲージの抵抗値を調整する第2の方法について説明する図である。
図6】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一の構成部には同一の符号を付す場合がある。また、各図面において、互いに直交するX方向、Y方向、及びZ方向を規定する場合がある。この場合、X方向において、矢印の始点(根元)側をX-側、矢印の終点(矢尻)側をX+側と称する場合がある。Y方向及びZ方向についても同様である。また、各図面の説明において、既に説明した構成部と同一の構成部についての説明は省略する場合がある。
【0010】
〈第1実施形態〉
図1は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。図2は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その1)であり、図1のA-A線に沿う断面を示している。図3は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その2)であり、図1のB-B線に沿う断面を示している。なお、図1図3では、抵抗値を調整する前のひずみゲージ1を示している。
【0011】
図1図3を参照すると、ひずみゲージ1は、基材10と、抵抗体30と、配線40と、電極50と、抵抗調整部60と、カバー層70とを有している。カバー層70は必要に応じて設けられる。なお、図1では、便宜上、カバー層70の外縁のみを破線で示している。まずは、ひずみゲージ1を構成する各部について詳細に説明する。
【0012】
なお、本実施形態では、便宜上、ひずみゲージ1において、基材10の抵抗体30が設けられている側を「上側」と称し、抵抗体30が設けられていない側を「下側」と称する。又、各部位の上側に位置する面を「上面」と称し、各部位の下側に位置する面を「下面」と称する。ただし、ひずみゲージ1は天地逆の状態で用いることもできる。又、ひずみゲージ1は任意の角度で配置することもできる。又、平面視とは、基材10の上面10aに対する上側から下側への法線方向で対象物を視ることを指すものとする。そして、平面形状とは、前記法線方向で対象物を視たときの、対象物の形状を指すものとする。
【0013】
基材10は、抵抗体30等を形成するためのベース層となる部材である。基材10は可撓性を有する。基材10の下面側には、接着層等を介して起歪体が接合されていてもよい。基材10の厚さは特に限定されず、ひずみゲージ1の使用目的等に応じて適宜決定されてよい。例えば、基材10の厚さは5μm~500μm程度であってよい。なお、起歪体の表面から受感部へのひずみの伝達性、及び、環境変化に対する寸法安定性の観点から考えると、基材10の厚さは5μm~200μmの範囲内であることが好ましい。また、絶縁性の観点から考えると、基材10の厚さは10μm以上であることが好ましい。
【0014】
基材10は、例えば、PI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、LCP(液晶ポリマー)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の絶縁樹脂フィルムから形成される。なお、フィルムとは、厚さが500μm以下程度であり、かつ可撓性を有する部材を指す。
【0015】
基材10が絶縁樹脂フィルムから形成される場合、当該絶縁樹脂フィルムには、フィラーや不純物等が含まれていてもよい。例えば、基材10は、シリカやアルミナ等のフィラーを含有する絶縁樹脂フィルムから形成されてもよい。
【0016】
基材10の樹脂以外の材料としては、例えば、SiO、ZrO(YSZも含む)、Si、Si、Al(サファイヤも含む)、ZnO、ペロブスカイト系セラミックス(CaTiO、BaTiO)等の結晶性材料が挙げられる。又、前述の結晶性材料以外に非晶質のガラス等を基材10の材料としてもよい。又、基材10の材料として、アルミニウム、アルミニウム合金(ジュラルミン)、チタン等の金属を用いてもよい。金属を用いる場合、金属製の基材10上に絶縁膜が設けられる。
【0017】
抵抗体30は、基材10上に所定のパターンで形成された薄膜である。ひずみゲージ1において、抵抗体30は、ひずみを受けて抵抗変化を生じる受感部である。抵抗体30は、基材10の上面10aに直接形成されてもよいし、基材10の上面10aに他の層を介して形成されてもよい。なお、図1では、便宜上、抵抗体30を密度の高い梨地模様で示している。
【0018】
抵抗体30は、複数の細長状部と、複数の折り返し部とを含む。抵抗体30において、複数の細長状部は、長手方向を第1方向(図1の例ではX方向)に向けて並置されている。そして、複数の折り返し部は、複数の細長状部の中で隣接する細長状部の端部を互い違いに連結して各々の細長状部を直列に接続する。これにより、抵抗体30は、全体としてジグザグに折り返す構造となっている。複数の細長状部の長手方向がグリッド方向となり、グリッド方向と垂直な方向がグリッド幅方向(図1の例ではY方向)となる。ただし、後述のように、抵抗体30の間に抵抗調整部60が挿入されている。
【0019】
抵抗体30において、最もY+側に位置する細長状部のX-側の端部は、Y+方向に屈曲し、抵抗体30のグリッド幅方向の一方の終端30eに達する。また、最もY-側に位置する細長状部のX-側の端部は、Y-方向に屈曲し、抵抗体30のグリッド方向の他方の終端30eに達する。各々の終端30e及び30eは、配線40を介して、電極50と電気的に接続されている。言い換えれば、配線40は、抵抗体30のグリッド幅方向の各々の終端30e及び30eと各々の電極50とを電気的に接続している。
【0020】
抵抗体30は、例えば、Cr(クロム)を含む材料、Ni(ニッケル)を含む材料、又はCrとNiの両方を含む材料から形成することができる。すなわち、抵抗体30は、CrとNiの少なくとも一方を含む材料から形成することができる。Crを含む材料としては、例えば、Cr混相膜が挙げられる。Niを含む材料としては、例えば、Cu-Ni(銅ニッケル)が挙げられる。CrとNiの両方を含む材料としては、例えば、Ni-Cr(ニッケルクロム)が挙げられる。
【0021】
ここで、Cr混相膜とは、Cr、CrN、及びCrN等が混相した膜である。Cr混相膜は、酸化クロム等の不可避不純物を含んでいてもよい。
【0022】
抵抗体30の厚さは特に限定されず、ひずみゲージ1の使用目的等に応じて適宜決定されてよい。例えば、抵抗体30の厚さは0.05μm~2μm程度であってよい。特に、抵抗体30の厚さが0.1μm以上である場合、抵抗体30を構成する結晶の結晶性(例えば、α-Crの結晶性)が向上する。また、抵抗体30の厚さが1μm以下である場合、抵抗体30を構成する膜の内部応力に起因する、(i)膜のクラックおよび(ii)膜の基材10からの反りが、低減される。
【0023】
横感度を生じ難くすることと、断線対策とを考慮すると、抵抗体30の幅は10μm以上100μm以下であることが好ましい。更に言えば、抵抗体30の幅は10μm以上70μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であるとより好ましい。
【0024】
例えば、抵抗体30がCr混相膜である場合、安定な結晶相であるα-Cr(アルファクロム)を主成分とすることで、ゲージ特性の安定性を向上させることができる。又例えば、抵抗体30がCr混相膜である場合、抵抗体30がα-Crを主成分とすることで、ひずみゲージ1のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。ここで、「主成分」とは、抵抗体を構成する全物質の50重量%以上を占める成分のことを意味する。ゲージ特性を向上させるという観点から考えると、抵抗体30はα-Crを80重量%以上含むことが好ましい。更に言えば、同観点から考えると、抵抗体30はα-Crを90重量%以上含むことがより好ましい。なお、α-Crは、bcc構造(体心立方格子構造)のCrである。
【0025】
又、抵抗体30がCr混相膜である場合、Cr混相膜に含まれるCrN及びCrNは20重量%以下であることが好ましい。Cr混相膜に含まれるCrN及びCrNが20重量%以下であることで、ひずみゲージ1のゲージ率の低下を抑制することができる。
【0026】
又、Cr混相膜におけるCrNとCrNとの比率は、CrNとCrNの重量の合計に対し、CrNの割合が80重量%以上90重量%未満となるようにすることが好ましい。更に言えば、同比率は、CrNとCrNの重量の合計に対し、CrNの割合が90重量%以上95重量%未満となるようにすることがより好ましい。CrNは半導体的な性質を有する。そのため、前述のCrNの割合を90重量%以上95重量%未満とすることで、TCRの低下(負のTCR)が一層顕著となる。更に、前述のCrNの割合を90重量%以上95重量%未満とすることで抵抗体30のセラミックス化を低減し、抵抗体30の脆性破壊が起こりにくくすることができる。
【0027】
一方で、CrNは化学的に安定であるという利点を有する。Cr混相膜にCrNをより多く含むことで、不安定なNが発生する可能性を低減することができるため、安定なひずみゲージを得ることができる。ここで「不安定なN」とは、Cr混相膜の膜中に存在し得る、微量のNもしくは原子状のNのことを意味する。これらの不安定なNは、外的環境(例えば高温環境)によっては膜外へ抜け出ることがある。不安定なNが膜外へ抜け出るときに、Cr混相膜の膜応力が変化し得る。
【0028】
ひずみゲージ1において、抵抗体30の材料としてCr混相膜を用いた場合、高感度化かつ、小型化を実現することができる。例えば、従来のひずみゲージの出力が0.04mV/2V程度であったのに対して、抵抗体30の材料としてCr混相膜を用いた場合は0.3mV/2V以上の出力を得ることができる。また、従来のひずみゲージの大きさ(ゲージ長×ゲージ幅)が3mm×3mm程度であったのに対して、抵抗体30の材料としてCr混相膜を用いた場合の大きさ(ゲージ長×ゲージ幅)は0.3mm×0.3mm程度に小型化することができる。
【0029】
配線40は、基材10上に設けられている。配線40は、抵抗体30及び電極50と電気的に接続されている。配線40は、任意の幅及び任意の長さとすることができる。また、配線40は、直線状には限定されず、任意のパターンとすることができる。図1の例では、配線40の幅は抵抗体30側が狭く電極50側ほど広くなっているが、これは一例であり、例えば、配線40の幅は一定であってもよい。
【0030】
電極50は、基材10上に設けられている。電極50は、配線40を介して抵抗体30と電気的に接続されている。電極50は、平面視において、配線40よりも拡幅して略矩形状に形成されている。電極50は、ひずみにより生じる抵抗体30の抵抗値の変化を外部に出力するための一対の電極である。電極50には、例えば外部接続用のリード線等が接合される。電極50の上面に、銅等の抵抗の低い金属層、または、金等のはんだ付け性が良好な金属層を積層してもよい。
【0031】
なお、抵抗体30と配線40と電極50とは便宜上別符号としているが、同一工程において同一材料により一体に形成することができる。従って、抵抗体30と配線40と電極50とは、厚さが略同一である。
【0032】
抵抗調整部60は、抵抗体30のパターンに挿入されている。抵抗調整部60は、抵抗体30と直列に接続されたグリッド抵抗R1、R2、R3、及びR4を含む。また、抵抗調整部60は、トリム抵抗Ra、Rb、及びRcを含む。グリッド抵抗R1~R4は、互いに抵抗値が異なる。また、トリム抵抗Ra~Rcは、互いに抵抗値が異なる。また、抵抗調整部60は、抵抗体30、各グリッド抵抗、及び/又は各トリム抵抗のいずれか2つ以上を連結する連結部x1、x2、x3、x4、及びx5を含む。このように、抵抗調整部60は、複数のグリッド抵抗及び複数のトリム抵抗を含む。なお、抵抗調整部60において、グリッド抵抗及びトリム抵抗の個数や、グリッド抵抗とトリム抵抗との接続の仕方は、図1の例には限定されない。
【0033】
連結部x1及びx5は、抵抗調整部60の両端であり、連結部x1と連結部x5とを接続するパターンが抵抗体30に挿入されて抵抗調整部60を構成する。グリッド抵抗R1は、連結部x1と連結部x2とを接続する。グリッド抵抗R2は、連結部x2と連結部x3とを接続する。グリッド抵抗R3は、連結部x3と連結部x4とを接続する。グリッド抵抗R4は、連結部x4と連結部x5とを接続する。トリム抵抗Raは、連結部x1と連結部x3とを接続する。トリム抵抗Rbは、連結部x2と連結部x4とを接続する。トリム抵抗Rcは、連結部x3と連結部x5とを接続する。
【0034】
すなわち、グリッド抵抗R1~R4及び連結部x1~x5は、抵抗体30と直列に接続されている。また、トリム抵抗Raは、隣接するグリッド抵抗R1及びR2を含む直列回路に対して並列に接続されている。また、トリム抵抗Rbは、隣接する2つのグリッド抵抗R2及びR3を含む直列回路に対して並列に接続されている。また、トリム抵抗Rcは、隣接するグリッド抵抗R3及びR4を含む直列回路に対して並列に接続されている。
【0035】
図3に示すように、グリッド抵抗R1~R4及び連結部x1~x5は、第1抵抗部31から形成されている。これに対して、トリム抵抗Ra~Rcは、第1抵抗部31、及び第1抵抗部31の一部に積層された第2抵抗部32を含む積層構造である。具体的には、トリム抵抗Ra~Rcは、折り返し部と、折り返し部と連結部とを接続する接続部とを含み、折り返し部分を構成する第1抵抗部31に第2抵抗部32が積層されている。なお、第1抵抗部31は、抵抗体30と同様の材料から形成されており、抵抗体30と同一の層構造である。
【0036】
第2抵抗部32の材料には、抵抗体30及び第1抵抗部31よりも体積抵抗率の低い材料を選択することができる。このような材料としては、例えば、Cu、Ni、Al、Ag、Au、Pt等、又は、これら何れかの金属の合金、これら何れかの金属の化合物、或いは、これら何れかの金属、合金、化合物を適宜積層した積層膜が挙げられる。特に第2抵抗部32の材料として、CuやCu合金、AlやAg、Au、CrMn等を用いることが好ましい。第2抵抗部32の厚さは、特に限定されず、目的に応じて適宜選択できる。第2抵抗部32の厚さは、例えば、0.5μm~5μm程度とすることができる。
【0037】
なお、第1抵抗部31と第2抵抗部32の積層順は反対であってもよい。例えば、基材10の上面10aに第2抵抗部32を形成し、第2抵抗部32の上に、第2抵抗部32よりも体積抵抗率の高い材料から形成された第1抵抗部31を積層してもよい。
【0038】
カバー層70は、基材10上に形成されている保護層である。カバー層70は、基材10の上面10aに、抵抗体30及び抵抗調整部60を被覆し電極50の少なくとも一部を露出するように設けられる。カバー層70は、配線40を被覆してもよい。カバー層70の材料としては、例えば、PI樹脂、エポキシ樹脂、PEEK樹脂、PEN樹脂、PET樹脂、PPS樹脂、複合樹脂(例えば、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂)等の絶縁樹脂が挙げられる。なお、カバー層70は、フィラーや顔料を含有しても構わない。或いは、カバー層70の材料として、例えば、SiO、水ガラス等の無機材料を用いてもよい。カバー層70の厚さは、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、カバー層70の厚さは2μm~30μm程度とすることができる。カバー層70を設けることで、抵抗体30及び抵抗調整部60に機械的な損傷等が生じることを抑制することができる。又、カバー層70を設けることで、抵抗体30及び抵抗調整部60を湿気等から保護することができる。
【0039】
[抵抗値調整方法]
ひずみゲージ1の抵抗値調整方法には、第2抵抗部32へのレーザ光の照射により高抵抗部を形成する第1の方法と、トリム部Ra~Rcの1つ以上をレーザ光の照射により切断する第2の方法がある。第1の方法及び第2の方法は、何れか一方のみを実行してもよいし、両方を実行してもよい。
【0040】
(第1の方法)
最初に、第1の方法について説明する。図4は、ひずみゲージの抵抗値を調整する第1の方法について説明する図である。
【0041】
まず、基材10と、基材10上に形成された抵抗体30と、基材10上に形成され、抵抗体30と電気的に接続された配線40と、抵抗体30と電気的に接続された抵抗調整部60と、抵抗体30及び抵抗調整部60を被覆するカバー層70とを有するひずみゲージ1を準備する(ひずみゲージを準備する工程)。ひずみゲージ1は、自らが一部または全部を製造することで準備してもよいし、市販品等の完成品を入手することで準備してもよい。
【0042】
ひずみゲージ1を準備した後、図4の矢印上側に示すように、カバー層70の上方から、カバー層70を介して、抵抗調整部60のトリム抵抗Ra~Rcの1つ以上の第2抵抗部32の部分にレーザ光Lを照射する(レーザ光を照射する工程)。図4では、一例として、トリム抵抗Rbの第2抵抗部32の部分にレーザ光Lを照射する様子を示している。
【0043】
レーザ光を照射する工程では、カバー層70にダメージを与えないために、レーザ光Lの焦点がカバー層70の上面よりも深い位置になるようにレーザ光Lを照射することが好ましい。また、抵抗調整部60を効率的に加熱するために、レーザ光Lの焦点が抵抗調整部60の上面に位置するようにレーザ光Lを照射することが好ましい。
【0044】
レーザ光Lをスキャンすることで、スキャンした領域において、トリム抵抗Rbの第2抵抗部32が加熱される。これにより、図4の矢印下側に示すように、トリム抵抗Rbの第1抵抗部31と第2抵抗部32との境界の近傍に、第1抵抗部31を構成する材料と第2抵抗部32を構成する材料とが相互に拡散した高抵抗部35が形成される。高抵抗部35の厚さは、レーザ光を照射する時間により調整可能である。
【0045】
高抵抗部35の形成に用いるレーザは、樹脂であるカバー層70を透過しやすく、かつ第2抵抗部32に吸収されやすい波長のレーザ光を照射可能であることが好ましい。このようなレーザとしては、例えば、波長が近赤外であるYAGレーザが挙げられる。
【0046】
高抵抗部35は、一対の電極50間に接続された抵抗体30及び配線40の抵抗値を調整するために設けられる。高抵抗部35は、第2抵抗部32よりも体積抵抗率が高い。高抵抗部35は、第1抵抗部31よりも体積抵抗率が低くてもよい。高抵抗部35は、第1抵抗部31と第2抵抗部32との境界の近傍に形成された相互拡散領域である。ここで、相互拡散領域とは、第1抵抗部31を構成する材料と第2抵抗部32を構成する材料とが相互に拡散した領域である。相互拡散領域では、第1抵抗部31と第2抵抗部32との境界は明確でなくてよい。
【0047】
高抵抗部35は、例えば、第1抵抗部31と第2抵抗部32の合金を含む。つまり、高抵抗部35は、例えば、第1抵抗部31と第2抵抗部32との合金から形成されている。例えば、第1抵抗部31がCr混相膜、第2抵抗部32がCuであれば、高抵抗部35はこれらの合金であるクロム銅合金(CrCu)を含むことができる。
【0048】
ただし、高抵抗部35では、第1抵抗部31を構成する材料と第2抵抗部32を構成する材料とが相互に拡散して第2抵抗部32よりも体積抵抗率が高くなれば、第1抵抗部31と第2抵抗部32とが合金化されていなくてもよい。
【0049】
高抵抗部35を形成することで、電極50間を接続する抵抗体30及び配線40の抵抗値を、高抵抗部35を形成する前よりも高くすることができる。高抵抗部35の体積が増えるほど、一対の電極50間に接続された抵抗体30及び配線40の抵抗値が高くなる。
【0050】
このように、第1の方法では、抵抗調整部60の第2抵抗部32へのレーザ光の照射により、第1抵抗部31及び第2抵抗部32の一部に、第1抵抗部31を構成する材料と第2抵抗部32を構成する材料とが相互に拡散した高抵抗部が形成されることで、電極50間を接続する抵抗体30及び配線40の抵抗値を調整することができる。
【0051】
(第2の方法)
次に、第2の方法について説明する。図5は、ひずみゲージの抵抗値を調整する第2の方法について説明する図である。なお、図5では、抵抗値を調整した後のひずみゲージ1を示している。
【0052】
第2の方法において、ひずみゲージを準備する工程については、第1の方法と同じである。ひずみゲージ1を準備した後、カバー層70の上方から、カバー層70を介して、抵抗調整部60のトリム抵抗Ra~Rcの1つ以上の第1抵抗部31の部分にレーザ光Lを照射する(レーザ光を照射する工程)。レーザ光Lの好適な焦点位置、レーザ光の好適な波長については前述のとおりである。
【0053】
抵抗調整部60のトリム抵抗Ra~Rcの1つ以上の第1抵抗部31へのレーザ光Lの照射により、第1抵抗部31が加熱され切断される。図5では、一例として、トリム抵抗Rcの第1抵抗部31の部分にレーザ光Lを照射し、トリム抵抗Rcの第1抵抗部31の領域Cを切断した様子を示している。これにより、電極50間を接続する抵抗体30及び配線40の抵抗値を、トリム抵抗Rcを切断する前よりも高くすることができる。なお、トリム抵抗Rcにおいて、領域Cの代わりに、第1抵抗部31と第2抵抗部32の積層部を切断してもよい。この場合、レーザ光の照射により、第1抵抗部31と第2抵抗部32との境界の近傍に高抵抗部が形成された後、さらにレーザ光を照射し続けると第1抵抗部31と第2抵抗部32の積層部を切断することができる。
【0054】
電極50間を接続する抵抗体30及び配線40の抵抗値をさらに高くしたい場合には、上記と同様にしてレーザ光Lを照射し、トリム抵抗Rc以外の1つ以上のトリム抵抗を切断すればよい。トリム抵抗Ra~Rcの全てを切断してもよい。
【0055】
このように、第2の方法では、抵抗調整部60に含まれるトリム抵抗Ra~Rcの1つ以上へのレーザ光の照射により、レーザ光が照射されたトリム抵抗が切断されることで、電極50間を接続する抵抗体30及び配線40の抵抗値を調整することができる。
【0056】
なお、第1の方法及び第2の方法におけるレーザ光を照射する工程では、レーザ光の照射により第2抵抗部32の一部に第2抵抗部32を構成する金属の酸化膜が形成される場合がある。このような酸化膜の形成が問題になる場合は、レーザ光を照射する工程を酸素濃度の低い環境で行うことが好ましい。例えば、Ar雰囲気下で処理することで酸化を防ぐことができる。これにより、レーザ光の照射により第2抵抗部32の一部に第2抵抗部32を構成する金属の酸化膜が形成されることを抑制できる。
【0057】
(調整パターン)
第1の方法と第2の方法とを組み合わせた抵抗調整部60の調整パターンは以下のようになる。(1)~(4)は、第2の方法のみを使用する場合の調整パターンである。(5)~(8)は、第1の方法のみを使用する場合の調整パターンである。(9)及び(10)は、第1の方法と第2の方法を組み合わせて使用する場合の調整パターンである。
【0058】
(1)トリム抵抗Ra、Rb、及びRcのいずれも切断しない(1通り)
(2)トリム抵抗Ra、Rb、及びRcのいずれか1つを切断する(3通り)
(3)トリム抵抗Ra、Rb、及びRcのいずれか2つを切断する(3通り)
(4)トリム抵抗Ra、Rb、及びRcのすべてを切断する(1通り)
(5)トリム抵抗Ra、Rb、及びRcのいずれか1つに高抵抗部を形成する(3通り)
(6)トリム抵抗Ra、Rb、及びRcのいずれか2つに高抵抗部を形成する(3通り)
(7)トリム抵抗Ra、Rb、及びRcのすべてに高抵抗部を形成する(1通り)
(8)トリム抵抗Ra、Rb、及びRcのいずれか1つを切断し、かつトリム抵抗Ra、Rb、及びRcのいずれか1つに高抵抗部を形成する(6通り)
(9)トリム抵抗Ra、Rb、及びRcのいずれか1つを切断し、かつトリム抵抗Ra、Rb、及びRcのいずれか2つに高抵抗部を形成する(3通り)
(10)トリム抵抗Ra、Rb、及びRcのいずれか2つを切断し、かつトリム抵抗Ra、Rb、及びRcのいずれか1つに高抵抗部を形成する(3通り)。
【0059】
このように、第1の方法と第2の方法の一方又は両方を使用することにより、27通りの調整パターンを実現できる。
【0060】
このように、ひずみゲージ1では、抵抗体30等を被覆するカバー層70を形成した後であっても、電極50間の抵抗体30及び配線40の抵抗値の調整が可能である。すなわち、電極50間の抵抗体30及び配線40の抵抗値をあらかじめ所望値よりも低めに設計しておき、ひずみゲージ1の製造工程で、カバー層70を形成後、カバー層70を介してのレーザ光の照射により、第1の方法及び/又は第2の方法で抵抗値を高い方に調整することができる。
【0061】
すなわち、カバー層70の形成工程において電極50間の抵抗体30及び配線40の抵抗値が変動する場合があるが、第1の方法及び/又は第2の方法を用いることで、カバー層70の形成工程において電極50間の抵抗体30及び配線40の抵抗値が変動した場合であっても、電極50間の抵抗体30及び配線40の抵抗値を所望の値に調整可能である。これにより、ひずみゲージ1の歩留まりを向上できる。
【0062】
特に、ひずみゲージ1において、抵抗体30の膜厚が薄い場合、カバー層70の形成等の物理的要因により抵抗値が変動しやすいので、カバー層70を形成後に抵抗調整できることは極めて有効である。
【0063】
また、ひずみゲージ1では、抵抗体30の抵抗値の調整に関し、第1の方法と第2の方法を適宜組み合わせることで、より多くの調整パターンを実現できる。
【0064】
以上では、ひずみゲージ1がカバー層70を有する例について説明した。しかし、カバー層70は必要に応じて設けられるため、ひずみゲージを準備する工程では、基材10と、基材10上に形成された抵抗体30と、基材10上に形成され、抵抗体30と電気的に接続された抵抗調整部60とを有するひずみゲージ1を準備してもよい。この場合には、ひずみゲージ1を準備した後、第1の方法及び第2の方法の何れについてもレーザ光を照射する工程では、他の層を介すことなく抵抗調整部60のトリム抵抗に直接レーザ光を照射する。
【0065】
或いは、ひずみゲージ1がカバー層70を有する場合であっても、カバー層70が形成される前に、抵抗値の調整を行ってもよい。この場合も、第1の方法及び第2の方法の何れについてもレーザ光を照射する工程では、他の層を介すことなく抵抗調整部60に直接レーザ光を照射する。そして、カバー層70を形成後、抵抗値が所望の値から変動した場合は、第1の方法及び第2の方法の何れについてもカバー層70を介して抵抗調整部60にレーザ光を照射することで、抵抗値を高くする方向にもう一度調整が可能である。
【0066】
このように、ひずみゲージ1では、カバー層70を形成する工程の前及び/又は後において抵抗値の調整が可能である。もちろん、ひずみゲージ1の製造工程がカバー層70を形成する工程を含まない場合であっても、抵抗調整部60に直接レーザ光を照射することで抵抗値の調整が可能である。すなわち、ひずみゲージ1の抵抗値調整方法は、カバー層70の有無にかかわらず抵抗値の調整が可能である。
【0067】
[ひずみゲージの製造方法]
以下、ひずみゲージ1の製造方法について説明する。ひずみゲージ1を製造するためには、まず、基材10を準備し、基材10の上面10aに金属層(便宜上、金属層Aとする)を形成する。金属層Aは、最終的にパターニングされて抵抗体30、第1抵抗部31、配線40、及び電極50となる層である。従って、金属層Aの材料や厚さは、前述の抵抗体30等の材料や厚さと同様である。
【0068】
金属層Aは、例えば、金属層Aを形成可能な原料をターゲットとしたマグネトロンスパッタ法により成膜することができる。金属層Aは、マグネトロンスパッタ法に代えて、反応性スパッタ法、蒸着法、アークイオンプレーティング法、またはパルスレーザー堆積法等を用いて成膜されてもよい。
【0069】
なお、基材10の上面10aに下地層を形成してから金属層Aを形成してもよい。例えば、基材10の上面10aに、所定の膜厚の機能層をコンベンショナルスパッタ法により真空成膜してもよい。このように下地層を設けることによって、ひずみゲージ1のゲージ特性を安定化させることができる。
【0070】
本願において、機能層とは、少なくとも上層である金属層A(抵抗体30)の結晶成長を促進する機能を有する層を指す。機能層は、更に、基材10に含まれる酸素または水分による金属層Aの酸化を防止する機能、および/または、基材10と金属層Aとの密着性を向上する機能を備えていることが好ましい。機能層は、更に、他の機能を備えていてもよい。
【0071】
基材10を構成する絶縁樹脂フィルムは酸素や水分を含むことがあり、また、Crは自己酸化膜を形成することがある。そのため、特に金属層AがCrを含む場合、金属層Aの酸化を防止する機能を有する機能層を成膜することが好ましい。
【0072】
このように、金属層Aの下層に機能層を設けることにより、金属層Aの結晶成長を促進可能となり、安定な結晶相からなる金属層Aを作製することができる。その結果、ひずみゲージ1において、ゲージ特性の安定性が向上する。又、機能層を構成する材料が金属層Aに拡散することにより、ひずみゲージ1において、ゲージ特性が向上する。
【0073】
図6は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その3)である。図6は、抵抗体30、第1抵抗部31、配線40、及び電極50の下地層として機能層20を設けた場合のひずみゲージ1の断面形状を示している。
【0074】
機能層20の平面形状は、例えば抵抗体30、第1抵抗部31、配線40、及び電極50の平面形状と略同一にパターニングされてよい。しかしながら、機能層20と抵抗体30、第1抵抗部31、配線40、及び電極50との平面形状は略同一でなくてもよい。例えば、機能層20が絶縁材料から形成される場合には、機能層20を抵抗体30、第1抵抗部31、配線40、及び電極50の平面形状と異なる形状にパターニングしてもよい。この場合、機能層20は例えば抵抗体30、第1抵抗部31、配線40、及び電極50が形成されている領域にベタ状に形成されてもよい。或いは、機能層20は、基材10の上面全体にベタ状に形成されてもよい。
【0075】
次に、金属層Aの上面に、第2抵抗部32を形成し、抵抗調整部60を形成する。第2抵抗部32は、例えば、フォトリソグラフィ法により形成できる。
【0076】
具体的には、まず、金属層Aの上面を覆うように、例えば、スパッタ法や無電解めっき法等により、シード層を形成する。次に、シード層の上面の全面に感光性のレジストを形成し、露光及び現像して第2抵抗部32を形成する領域を露出する開口部を形成する。レジストとしては、例えば、ドライフィルムレジスト等を用いることができる。
【0077】
次に、例えば、シード層を給電経路とする電解めっき法により、開口部内に露出するシード層上に第2抵抗部32を形成する。電解めっき法は、タクトが高く、かつ、第2抵抗部32として低応力の電解めっき層を形成できる点で好適である。膜厚の厚い電解めっき層を低応力とすることで、ひずみゲージ1に反りが生じることを防止できる。なお、第2抵抗部32は無電解めっき法により形成してもよい。
【0078】
次に、レジストを除去する。レジストは、例えば、レジストの材料を溶解可能な溶液に浸漬することで除去できる。
【0079】
次に、金属層Aの上面に、感光性のレジストを形成し、そのレジストを露光及び現像して図1の抵抗体30、第1抵抗部31、配線40、及び電極50と同様の平面形状にパターニングする。そして、レジストをエッチングマスクとし、レジストから露出する金属層Aをウェットエッチング等により除去する。次に、レジストを除去することで、図1に示す平面形状の抵抗体30、第1抵抗部31、配線40、及び電極50を形成することができる。また、第1抵抗部31の折り返し部分の上に第2抵抗部32を積層した抵抗調整部60を形成することができる。
【0080】
抵抗体30、配線40、電極50、及び抵抗調整部60を形成した後、基材10の上面10aにカバー層70を形成する。カバー層70は抵抗体30、配線40、及び抵抗調整部60を被覆するが、電極50はカバー層70から露出していてよい。例えば、基材10の上面10aに、配線40、電極50、及び抵抗調整部60を被覆し電極50を露出するように、半硬化状態の熱硬化性の絶縁樹脂フィルムをラミネートして、その後に当該絶縁樹脂フィルムを加熱して硬化させることにより、カバー層70を形成することができる。また、カバー層70が無機材料の場合は、ディッピングやスクリーン印刷、スパッタやCVD等を用いて成膜されてもよい。
【0081】
カバー層70を形成した後、図4及び図5に示した第1の方法及び/又は第2の方法により電極50間の抵抗体30及び配線40の抵抗値を所望の値に調整する。以上の工程により、ひずみゲージ1が完成する。なお、前述のように、カバー層70が形成される前に抵抗値の調整を行ってもよく、カバー層70が形成される前及び後に抵抗値の調整を行ってもよい。また、前述のように、ひずみゲージ1の製造工程がカバー層70を形成する工程を含まない場合であっても、抵抗値の調整が可能である。
【0082】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。例えば、第1実施形態の変形例1と変形例2を組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0083】
1 ひずみゲージ、10 基材、10a 上面、20 機能層、30 抵抗体、30e、30e 終端、31 第1抵抗部、32 第2抵抗部、35 高抵抗部、40 配線、50 電極、60 抵抗調整部、70 カバー層、R1~R4 グリッド抵抗、Ra~Rc トリム抵抗、x1~x5 連結部
図1
図2
図3
図4
図5
図6