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特開2023-131501鋼管杭のモニタリングシステムおよび鋼管杭の健全性評価方法
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  • 特開-鋼管杭のモニタリングシステムおよび鋼管杭の健全性評価方法 図1
  • 特開-鋼管杭のモニタリングシステムおよび鋼管杭の健全性評価方法 図2
  • 特開-鋼管杭のモニタリングシステムおよび鋼管杭の健全性評価方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131501
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】鋼管杭のモニタリングシステムおよび鋼管杭の健全性評価方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 13/06 20060101AFI20230914BHJP
   E02D 7/22 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
E02D13/06
E02D7/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036306
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 昌敏
(72)【発明者】
【氏名】丸山 栄
(72)【発明者】
【氏名】厳 明光
(72)【発明者】
【氏名】古谷 浩平
(72)【発明者】
【氏名】沖 恭裕
【テーマコード(参考)】
2D050
【Fターム(参考)】
2D050CB23
2D050FF04
2D050FF05
2D050FF07
(57)【要約】
【課題】簡便な測定手法によって供用中の鋼管杭に作用する力をモニタリングし、鋼管杭の健全性を評価することによって円滑な再利用を可能にする。
【解決手段】杭頭が地上に突出した鋼管杭の地上部における第1の高さ位置に取り付けられ、前記鋼管杭の軸方向を含む断面で対向配置される少なくとも1対のひずみゲージを含む第1のひずみゲージ群と、前記地上部における第2の高さ位置に取り付けられ、前記鋼管杭の軸方向を含む断面で対向配置される少なくとも1対のひずみゲージを含む第2のひずみゲージ群と、前記地上部に取り付けられる変位計と、前記第1および前記第2のひずみゲージ群が検出した前記鋼管杭の軸方向ひずみ、前記変位計が検出した前記鋼管杭の水平方向変位に基づいて、前記鋼管杭に作用する最大曲げモーメントを算出する演算装置とを含む、鋼管杭のモニタリングシステムが提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭頭が地上に突出した鋼管杭の地上部における第1の高さ位置に取り付けられ、前記鋼管杭の軸方向を含む断面で対向配置される少なくとも1対のひずみゲージを含む第1のひずみゲージ群と、
前記地上部における第2の高さ位置に取り付けられ、前記鋼管杭の軸方向を含む断面で対向配置される少なくとも1対のひずみゲージを含む第2のひずみゲージ群と、
前記地上部に取り付けられる変位計と、
前記第1および前記第2のひずみゲージ群が検出した前記鋼管杭の軸方向ひずみ、前記変位計が検出した前記鋼管杭の水平方向変位に基づいて、前記鋼管杭に作用する最大曲げモーメントを算出する演算装置と
を含む、鋼管杭のモニタリングシステム。
【請求項2】
前記第1および第2のひずみゲージ群のそれぞれは、前記鋼管杭の軸方向を含み互いに直交する2つの断面で対向配置される2対のひずみゲージを含み、
前記変位計は、前記2つの断面のそれぞれに配置される2つの変位計を含む、請求項1に記載の鋼管杭のモニタリングシステム。
【請求項3】
前記変位計は、地表面に対応する高さ位置に取り付けられる、請求項1または請求項2に記載の鋼管杭のモニタリングシステム。
【請求項4】
前記演算装置は、前記軸方向ひずみに基づいて、前記鋼管杭に作用する軸力をさらに算出する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の鋼管杭のモニタリングシステム。
【請求項5】
前記鋼管杭は、回転圧入杭である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の鋼管杭のモニタリングシステム。
【請求項6】
杭頭が地上に突出した鋼管杭の地上部における第1および第2の高さ位置にそれぞれ取り付けられた第1および第2のひずみゲージ群が前記鋼管杭の軸方向ひずみを検出し、
前記地上部に取り付けられた変位計が前記鋼管杭の水平方向変位を検出し、
前記軸方向ひずみおよび前記水平方向変位に基づいて、前記鋼管杭に作用する最大曲げモーメントを算出し、
前記最大曲げモーメントに基づいて前記鋼管杭の健全性を評価する、鋼管杭の健全性評価方法。
【請求項7】
前記第1および第2のひずみゲージ群のそれぞれは、前記鋼管杭の軸方向を含み互いに直交する2つの断面で対向配置される2対のひずみゲージを含み、
前記変位計は、前記2つの断面のそれぞれに配置される2つの変位計を含み、
前記2対のひずみゲージまたは前記2つの変位計のうち、少なくともいずれかの測定値から前記最大曲げモーメントが発生している方向を特定し、
前記2対のひずみゲージの測定値を前記最大曲げモーメントが発生している方向の軸方向ひずみに換算し、
前記2つの変位計の測定値を前記最大曲げモーメントが発生している方向の水平方向変位に換算する、請求項6に記載の鋼管杭の健全性評価方法。
【請求項8】
前記変位計の地表面からの高さに基づいて、前記水平方向変位を地表面における前記鋼管杭の水平方向変位に換算する、請求項6または請求項7に記載の鋼管杭の健全性評価方法。
【請求項9】
前記軸方向ひずみに基づいて、前記鋼管杭に作用する軸力を算出し、
前記最大曲げモーメントおよび前記軸力に基づいて前記鋼管杭の健全性を評価する、請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の鋼管杭の健全性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管杭のモニタリングシステムおよび鋼管杭の健全性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管杭が例えば仮設の構造物の基礎などに用いられる場合、構造物の供用終了後に鋼管杭を引き抜いて再利用することが可能である。この場合、鋼管杭の打設時、引抜時および供用中を通じて過大な力、例えば鋼管の降伏応力を超えるような力が作用しておらず、鋼管杭が健全な状態であることを確認することが必要になる。打設時および引抜時は施工時のトルク等の管理によって作用する力を把握することができるが、供用中については別途のモニタリング手段が必要になる。このために、例えば、特許文献1に記載されているように鋼管杭の全長にわたってひずみゲージを取り付けることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-257138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された技術は鋼管杭の再利用を想定したものではなく、鋼管杭の全長にわたってひずみゲージを取り付けて鋼管杭の健全性を評価しようとした場合にはいくつかの問題が生じる。例えば、鋼管杭の周面に取り付けられたひずみゲージやリード線を保護するために追加の部材およびその取り付け工程が必要になるのに加えて、これらの部材が鋼管杭の周面から張り出すことによって打設時の抵抗が増大し、また複数の鋼管杭を連結する工程が煩雑になる。このため、上記のような技術によって再利用のために健全性を評価するのは困難である。
【0005】
そこで、本発明は、簡便な測定手法によって供用中の鋼管杭に作用する力をモニタリングし、鋼管杭の健全性を評価することによって円滑な再利用を可能にする鋼管杭のモニタリングシステムおよび鋼管杭の健全性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]杭頭が地上に突出した鋼管杭の地上部における第1の高さ位置に取り付けられ、前記鋼管杭の軸方向を含む断面で対向配置される少なくとも1対のひずみゲージを含む第1のひずみゲージ群と、前記地上部における第2の高さ位置に取り付けられ、前記鋼管杭の軸方向を含む断面で対向配置される少なくとも1対のひずみゲージを含む第2のひずみゲージ群と、前記地上部に取り付けられる変位計と、前記第1および前記第2のひずみゲージ群が検出した前記鋼管杭の軸方向ひずみ、前記変位計が検出した前記鋼管杭の水平方向変位に基づいて、前記鋼管杭に作用する最大曲げモーメントを算出する演算装置とを含む、鋼管杭のモニタリングシステム。
[2]前記第1および第2のひずみゲージ群のそれぞれは、前記鋼管杭の軸方向を含み互いに直交する2つの断面で対向配置される2対のひずみゲージを含み、前記変位計は、前記2つの断面のそれぞれに配置される2つの変位計を含む、[1]に記載の鋼管杭のモニタリングシステム。
[3]前記変位計は、地表面に対応する高さ位置に取り付けられる、[1]または[2]に記載の鋼管杭のモニタリングシステム。
[4]前記演算装置は、前記軸方向ひずみに基づいて、前記鋼管杭に作用する軸力をさらに算出する、[1]から[3]のいずれか1項に記載の鋼管杭のモニタリングシステム。
[5]前記鋼管杭は、回転圧入杭である、[1]から[4]のいずれか1項に記載の鋼管杭のモニタリングシステム。
[6]杭頭が地上に突出した鋼管杭の地上部における第1および第2の高さ位置にそれぞれ取り付けられた第1および第2のひずみゲージ群が前記鋼管杭の軸方向ひずみを検出し、前記地上部に取り付けられた変位計が前記鋼管杭の水平方向変位を検出し、前記軸方向ひずみおよび前記水平方向変位に基づいて、前記鋼管杭に作用する最大曲げモーメントを算出し、前記最大曲げモーメントに基づいて前記鋼管杭の健全性を評価する、鋼管杭の健全性評価方法。
[7]前記第1および第2のひずみゲージ群のそれぞれは、前記鋼管杭の軸方向を含み互いに直交する2つの断面で対向配置される2対のひずみゲージを含み、前記変位計は、前記2つの断面のそれぞれに配置される2つの変位計を含み、前記2対のひずみゲージまたは前記2つの変位計のうち、少なくともいずれかの測定値から前記最大曲げモーメントが発生している方向を特定し、前記2対のひずみゲージの測定値を前記最大曲げモーメントが発生している方向の軸方向ひずみに換算し、前記2つの変位計の測定値を前記最大曲げモーメントが発生している方向の水平方向変位に換算する、[6]に記載の鋼管杭の健全性評価方法。
[8]前記変位計の地表面からの高さに基づいて、前記水平方向変位を地表面における前記鋼管杭の水平方向変位に換算する、[6]または[7]に記載の鋼管杭の健全性評価方法。
[9]前記軸方向ひずみに基づいて、前記鋼管杭に作用する軸力を算出し、前記最大曲げモーメントおよび前記軸力に基づいて前記鋼管杭の健全性を評価する、[6]から[8]のいずれか1項に記載の鋼管杭の健全性評価方法。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成によれば、第1および第2のひずみゲージ群ならびに変位計はいずれも鋼管杭の地上部に取り付けられ、また鋼管杭の施工後に取り付けることが可能であるため、例えば鋼管杭の施工中に鋼管杭の全長にわたってひずみゲージを取り付けるような場合に比べてはるかに簡便に、供用中の鋼管杭に作用する力をモニタリングし、鋼管杭の健全性を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態における測定システムの構成例を示す断面図である。
図2図1に示された測定システムのブロック図である。
図3図1に示された例において算出される力について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の例示的な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0010】
図1および図2は、本発明の一実施形態における測定システムの構成例を示す図である。本実施形態では、杭頭が地上に突出した状態で打ち止められた鋼管杭1が測定の対象になる。鋼管杭のモニタリングシステム2(図2参照)は、鋼管杭1の軸方向ひずみを検出するひずみゲージ群21,22(第1および第2のひずみゲージ群)と、鋼管杭1の水平方向変位を検出する変位計23と、測定装置24とを含む。ひずみゲージ群21は、鋼管杭1の地上部における第1の高さ位置(高さhとして図示)に取り付けられ、鋼管杭1の軸方向(z方向)を含む2つの断面(x-z断面およびy-z断面)で対向配置される2対のひずみゲージ21A1,21A2,21B1,21B2を含む。同様に、ひずみゲージ群22は、地上部における第2の高さ位置(高さhとして図示)に取り付けられ、鋼管杭の軸方向を含む2つの断面で対向配置される2対のひずみゲージ22A1,22A2,22B1,22B2を含む。変位計23は、鋼管杭1の地表面に対応する高さ位置で、鋼管杭1の軸方向を含む2つの断面のそれぞれに配置される変位計23A,23Bを含む。
【0011】
ひずみゲージ群21,22および変位計23は、リード線などを介して測定装置24に接続される。測定装置24は、例えばひずみゲージ群21,22および変位計23の測定値を記録する記録部241と、測定値に基づいて演算を実行する演算部242とを含む。記録部241および演算部242は、同じ装置によって実装されてもよいし、別個の装置として実装されてもよい。別個の装置として実装される場合、測定値は例えばリムーバブル記録媒体や通信回線などを介して記録部241から演算部242に伝送される。演算部242は、ひずみゲージ群21,22が検出した鋼管杭1の軸方向ひずみ、および変位計23が検出した鋼管杭1の水平方向変位に基づいて鋼管杭1に作用する力、具体的には最大曲げモーメントや軸力を算出する。なお、演算部242による演算は、鋼管杭1の供用中に継続的に、または周期的に実行されてもよいし、鋼管杭1の供用終了後に一括して実行されてもよい。
【0012】
上述のように、本実施形態では、ひずみゲージ群21,22のそれぞれについて、鋼管杭1の軸方向を含む断面で1対のひずみゲージが対向配置される。これによって、ひずみの検出値を軸力寄与分(1対のひずみゲージの両方で同じ)と曲げ寄与分(1対のひずみゲージのそれぞれで異なる)に分離することができる。具体的には、対向配置されるひずみゲージ21A1,21A2のそれぞれで検出されたひずみ量ε,εについて、軸力寄与分(以下では軸ひずみεともいう)はそれぞれの平均(ε=(ε+ε)/2)であり、曲げ寄与分(以下では曲げひずみεともいう)はそれぞれのひずみ量と平均との差分(ε=|ε-ε|=|ε-ε|)である。
【0013】
また、ひずみゲージ群21,22のそれぞれは、それぞれ鋼管杭1の軸方向を含む2つの断面で対向配置される2対のひずみゲージを含む。それぞれの断面における曲げひずみεMA,εMBの比率から鋼管杭1の最大曲げモーメントMmaxが発生している方向(以下では最大曲げ方向ともいう)を特定し、さらに曲げひずみεMA,εMBを最大曲げ方向の曲げひずみεに換算することができる。以下の説明において単に曲げひずみεという場合は、この最大曲げ方向の曲げひずみを指す。なお、例えば鋼管杭1の支持荷重が偏心しているなどの理由で最大曲げ方向が既知である場合は、最大曲げ方向を含む断面で1対のひずみゲージを対向配置すればよく、上記のような換算は不要である。この場合、ひずみゲージ群21,22はそれぞれ1対のひずみゲージだけを含む。
【0014】
変位計23についても同様に、鋼管杭1の軸方向を含む2つの断面のそれぞれに変位計23A,23Bが配置される。これによって、それぞれの断面で測定された変位δ,δを、上記の最大曲げ方向における鋼管杭1の水平方向変位δに換算することができる。最大曲げ方向が既知である場合は、変位計23を最大曲げ方向を含む断面に1つだけ配置すればよい。なお、建築基礎構造設計指針(日本建築学会)などでも示されている通り、杭頭が地上に突出した杭における地上部(地表面から杭頭まで)の水平方向変位の関係は既知であるため、変位計23は必ずしも鋼管杭1の地表面に対応する高さ位置に配置されなくてもよく、鋼管杭1の地上部の任意の位置に配置することが可能である。変位計23が地表面に対応する高さ位置に配置されない場合は、変位計23の地表面からの高さに基づいて、測定値を鋼管杭1の地表面に対応する高さでの水平方向変位δに換算する。
【0015】
図3は、図1に示された例において算出される力について説明するための図である。上述のように、本実施形態では、ひずみゲージ群21,22における曲げひずみε(以下ではひずみ量εM1,εM2ともいう)および変位計23によって測定された水平方向変位δに基づいて、鋼管杭1に作用する力が算出される。建築基礎構造設計指針(日本建築学会)などでも示されている通り、杭頭が地上に突出した杭の場合、最大曲げモーメントMmaxは地中部の浅い位置で発生し、杭頭に作用する水平力H、杭の突出量hおよび後述する特性値βから算出できることが知られている。本実施形態ではこれを利用して、下記(A)で説明するように鋼管杭1に作用する最大曲げモーメントMmaxを算出して鋼管杭1の健全性を評価する。さらに、下記(B)で説明するように鋼管杭1に作用する軸力を算出して鋼管杭1の健全性を評価してもよく、(C)で説明するように最大曲げモーメントMmaxと軸力とを統合して鋼管杭1の健全性を評価してもよい。
【0016】
(A)最大曲げモーメントの算出
ひずみゲージ群21,22のそれぞれの高さ位置における最大曲げ方向の曲げモーメントをそれぞれM,Mとすると、曲げモーメントM,Mは鋼管杭1のヤング係数Eおよび鋼管杭1の断面係数Zを用いて以下の式(1),(2)で求められる。なお、σM1,σM2はひずみゲージ群21,22のそれぞれの高さ位置における最大曲げ方向の応力である。さらに、杭頭に作用する水平力Hが、曲げモーメントM,M、およびひずみゲージ群21,22が取り付けられる高さ位置の差Δh(Δh=h-h)を用いて式(3)で求められる。
【0017】
【数1】
【0018】
最大曲げモーメントMmaxは、水平力H、杭の突出量hおよび特性値βを用いた以下の式(4)で算出される。特性値βは鋼管杭1と地盤との相対剛性を示し、式(5)で算出される。式(5)において、kは水平地盤反力係数(kN/m)である。また、Bは鋼管杭1の無次元化杭径(杭径をcmで表した無次元数値)であり、EIは鋼管杭1の曲げ剛性(kN・m)である。この時点で、式(4)および式(5)では、水平力H、突出量h、無次元化杭径Bおよび曲げ剛性EIがひずみゲージ群21,22の配置および測定値、ならびに鋼管杭1の物性から既知であり、特性値βおよび水平地盤反力係数kが未知である。
【0019】
【数2】
【0020】
一方、式(4)および式(5)のβについては、鋼管杭1の地表面位置での水平方向変位δとの間で以下の式(6)の関係も成り立つ。水平方向変位δは変位計23の測定値から既知であるため、式(5)および式(6)を連立方程式として解いて水平地盤反力係数kおよび特性値βの値を算出し、式(4)に代入することによって最大曲げモーメントMmaxを算出することができる。このようにして算出された最大曲げモーメントMmaxを鋼管杭1の降伏曲げモーメントMと比較し、Mmax<Mであること確認することによって、鋼管杭1の健全性を評価することができる。
【0021】
【数3】
【0022】
(B)軸力の算出
上述したひずみゲージ群21,22における軸ひずみε(以下ではひずみ量εN1,εN2ともいう)から、鋼管杭1のヤング係数Eおよび鋼管杭1の断面積Aを用いて以下の式(7),(8)で鋼管杭1に作用する軸力N,Nを算出することができる。ここで、鋼管杭1に作用する軸力は、地中部では周面摩擦力の作用によって深くなるほど減衰し、地上部で最大かつほぼ一定になる。従って、軸力N,Nの少なくともいずれかを鋼管杭1の降伏軸力Nと比較し、N<NまたはN<Nであることを確認することによって、鋼管杭1の健全性を評価することができる。
【0023】
【数4】
【0024】
(C)曲げモーメントおよび軸力の統合評価
上記のようにして算出された最大曲げモーメントMmaxおよび軸力N(軸力Nでもよい)を以下の式(9)で鋼管杭1の降伏応力σと比較することによって、曲げモーメントおよび軸力を統合して鋼管杭1の健全性を評価することができる。
【0025】
【数5】
【0026】
以上で説明したように、本実施形態に係る鋼管杭のモニタリングシステム2は、鋼管杭1の地上部に取り付けられるひずみゲージ群21,22および変位計23の測定値から鋼管杭1に作用する最大曲げモーメントMmaxを算出し、これに基づいて鋼管杭1の健全性を評価する。さらに軸力Nを算出し、最大曲げモーメントMmaxおよび軸力N1の両方に基づいて鋼管杭1の健全性を評価することもできる。ひずみゲージ群21,22および変位計23はいずれも鋼管杭1の地上部に取り付けられ、また鋼管杭1の施工後に取り付けることが可能であるため、例えば鋼管杭1の施工中に鋼管杭1の全長にわたってひずみゲージを取り付けるような場合に比べてはるかに簡便である。
【0027】
既に述べたように、鋼管杭1の健全性が簡便に評価できることによって、鋼管杭1の円滑な再利用が可能になる。鋼管杭1の再利用は、例えば鋼管杭1が先端部に螺旋状羽根などの羽根または翼を有する回転圧入杭である場合に好適に実施されるが、鋼管杭1が回転圧入杭ではない場合にも実施可能である。また、鋼管杭1の再利用を目的とする場合以外にも、鋼管杭1の供用中の健全性を評価することが必要とされる場合に、上述したような本実施形態の構成は有用でありうる。
【0028】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、各種の変形例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0029】
1…鋼管杭、2…モニタリングシステム、21,22…ひずみゲージ群、21A1,21A2,21B1,21B2,22A1,22A2,22B1,22B2…ひずみゲージ、23,23A,23B…変位計、24…測定装置、241…記録部、242…演算部。
図1
図2
図3