(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131509
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】建築資材
(51)【国際特許分類】
E04C 2/04 20060101AFI20230914BHJP
C04B 41/50 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
E04C2/04 D
C04B41/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036318
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】503367376
【氏名又は名称】ケイミュー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】合川 英男
【テーマコード(参考)】
2E162
【Fターム(参考)】
2E162CA01
2E162CA11
2E162CA21
2E162EA20
(57)【要約】
【課題】セメント、エフロレッセンス等の質感を維持しつつ、雨染みによる外観不具合を生じ難くし、かつ雨筋汚れを生じ難くすることができる建築資材を提供する。
【解決手段】建築資材は、無機質基材と、無機質基材の表面に直接形成されたクリア塗膜と、を備え、クリア塗膜の膜厚が40μm以上であり、最表面の水の静的接触角が50°以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機質基材と、
前記無機質基材の表面に直接形成されたクリア塗膜と、
を備え、
前記クリア塗膜の膜厚が40μm以上であり、
最表面の水の静的接触角が50°以上である、建築資材。
【請求項2】
請求項1において、
前記無機質基材の外面は、エフロレッセンスで構成された模様を有し、
前記外面全体に対する前記エフロレッセンスが占める割合が10%以上95%未満の範囲であり、
前記エフロレッセンスが不規則に分布する、建築資材。
【請求項3】
請求項2において、
前記無機質基材の外面は、黒色の点状模様を有しない、建築資材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機質基材とクリア塗膜とを備える建築資材に関する。
【背景技術】
【0002】
外装用の壁材等として用いられる、セメント基材等の無機質基材から作製される建築資材において、無機質基材の炭酸化や酸性雨による吸水劣化を抑制する目的で、保護塗膜を形成することが行われている。
【0003】
特許文献1には、繊維強化セメント板の少なくとも片面に含浸シーラー処理を施し、含浸シーラー処理面上に、エナメル塗膜等を形成してなる化粧板が開示されている。特許文献2には、基材と、基材の表面を被覆した断熱塗膜と、断熱塗膜を被覆した透明なクリア塗膜とを有する建築板において、透明な親水性塗膜を、最外層としてクリア塗膜を被覆するように形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-163069号公報
【特許文献2】特開2014-088000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、無機質基材にエナメル塗膜を形成すると、セメント等本来の質感が損なわれてしまう。そのため、透明なクリア塗膜の形成による保護が検討されている。建築資材を外装建材等として使用する場合、雨水等により雨筋汚れが発生する可能性がある。これを抑制する目的で、特許文献2のように、最外層として親水性塗膜を形成すると、雨水等が塗膜表面に介在しやすい環境となるため、クラック等の基材欠点部において、雨染みが生じやすく、それにより、濡れ色が発生し、外観の不具合が生じやすくなる。
【0006】
本発明の目的は、セメント、エフロレッセンス等の質感を維持しつつ、雨染みによる外観不具合を生じ難くし、かつ雨筋汚れを生じ難くすることができる建築資材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る建築資材は、無機質基材と、前記無機質基材の表面に直接形成されたクリア塗膜と、を備え、前記クリア塗膜の膜厚が40μm以上であり、最表面の水の静的接触角が50°以上である。
【0008】
本発明に係る建築資材においては、前記無機質基材の外面は、エフロレッセンスで構成された模様を有し、前記外面全体に対する前記エフロレッセンスが占める割合が10%以上95%未満の範囲であり、前記エフロレッセンスが不規則に分布することが好ましい。
【0009】
本発明に係る建築資材においては、前記無機質基材の外面は、黒色の点状模様を有しないことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る建築資材は、セメント、エフロレッセンス等の質感を維持しつつ、雨染みによる外観不具合を生じ難くし、かつ雨筋汚れを生じ難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明に係る建築資材の一例を示す断面図である。
【
図2】
図2Aは、実施例1の建築資材の表面の一部の写真である。
図2Bは、比較例1の建築資材の表面の一部の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0013】
<建築資材>
本実施形態に係る建築資材1は、
図1に示すように、無機質基材11と、無機質基材11の表面に直接形成されたクリア塗膜12と、を備える。「直接形成された」とは、無機質基材11とクリア塗膜12とが、間に他の層を介することなく、密着して積層していることを意味する。
図1の建築資材1は、無機質基材11の一方の表面にクリア塗膜12が形成されたものであるが、クリア塗膜12は、無機質基材11の両方の表面に形成されてもよい。
【0014】
建築資材1において、クリア塗膜12の膜厚を40μm以上とし、かつ最表面の水の静的接触角を50°以上とすることで、建築資材1は、セメント、エフロレッセンス等の質感を維持しつつ、雨染みによる外観不具合を生じ難くし、かつ雨筋汚れを生じ難くすることができる。
【0015】
建築資材1は、クリア塗膜12を、一層又は複数層有していてもよく、また、クリア塗膜12に直接形成された他の塗膜を有していてもよい。
【0016】
[無機質基材]
「無機質基材」とは、無機質を主成分とする基材をいう。無機質基材11の形状は特に限定されないが、例えば略板状であり、平面視の形状は、例えば正方形状又は長方形状である。
【0017】
無機質基材11としては、例えばセメント板、ケイ酸カルシウム板、窯業サイディング板、コンクリート板、スレート板等が挙げられる。
【0018】
[クリア塗膜]
「クリア塗膜」とは、クリア塗料を塗布して形成された透明な塗膜をいう。クリア塗料としては、例えば有機系クリア塗料、無機系クリア塗料等が挙げられる。有機系クリア塗料としては、例えばアクリル系、アクリルシリコン系、アクリルウレタン系の水性のクリア塗料などが挙げられる。無機系クリア塗料としては、例えばケイ素アルコキシド系塗料などが挙げられる。クリア塗料は、必要に応じ、塗膜の透明性を阻害しない範囲において、例えばメタリック顔料等の種々の顔料や、紫外線吸収剤等の種々の添加剤などを含有することができる。
【0019】
建築資材1において、クリア塗膜12の膜厚は40μm以上であることが重要である。この場合、塗膜にクラックが発生し難くなるため、雨筋汚れが生じ難い。クリア塗膜12の膜厚が40μm未満であると、塗膜のクラックが発生しやすくなるため、雨筋汚れが生じやすい。クリア塗膜12の膜厚は、例えば100μm以下であり、70μm以下であることが好ましい。クリア塗膜12の「膜厚」とは、例えば任意の10点について測定したクリア塗膜12の膜厚の算術平均値である。
【0020】
また、建築資材1において、最表面の水の静的接触角は50°以上であることが重要である。この場合、塗膜にクラックが発生し、基材欠点部が生じた場合であっても、この基材欠点部からの水の侵入が抑制されるため、基材欠点部の濡れ色が発生し難く、雨染みによる外観不具合が生じ難い。最表面の水の静的接触角が50°未満であると、塗膜にクラックが発生した場合、このクラック等の基材欠点部から水が侵入することにより、基材欠点部の濡れ色が発生し、雨染みによる外観不具合が生じる。最表面の水の静的接触角は、例えば80°以下であり、70°以下であることが好ましい。最表面の水の静的接触角は、建築資材1の最表面となる塗膜の面について、接触角計を用いることにより測定することができる。
【0021】
建築資材1の「最表面」とは、クリア塗膜12が形成された側において、無機質基材11に形成された塗膜の露出した表面をいい、塗膜がクリア塗膜12のみからなる場合は、クリア塗膜12の露出した表面を意味し、クリア塗膜12に他の塗膜を形成している場合は、他の塗膜の露出した表面を意味する。
【0022】
建築資材1は、無機質基材11の表面に直接、透明なクリア塗膜12を形成させたものであるので、セメント、エフロレッセンス等の質感を維持している。無機質基材11の外面は、エフロレッセンスで構成された模様を有していることが好ましい。エフロレッセンスは、白っぽい外観を有している。また、このエフロレッセンスは不規則に分布していることが好ましい。この場合、エフロレッセンスで構成された模様は自然な風合いを有し、観察者からはこの模様が人工的であるとは看過されにくい。
【0023】
建築資材1において、無機質基材11の外面がエフロレッセンスで構成された模様を有している場合、無機質基材11の外面全体に対するエフロレッセンスが占める割合は、10%以上95%未満の範囲であることが好ましい。この割合が10%以上であると、エフロレッセンスは、観察者によって、染み、汚れ等の欠陥として認識され難く、そのため、エフロレッセンスが模様を構成する要素として認識されやすい。また、この割合が95%未満であると、外観がほぼ単一色に見えることがなくなり、そのため、エフロレッセンスが模様を構成する要素として認識されやすい。
【0024】
建築資材1において、無機質基材11の外面は、黒色の点状模様を有しないことが好ましい。すなわち、建築資材1に、雨水等の水を噴霧することにより、黒色の点状模様が発生しないことが好ましい。
図2Bに示すように、この黒色の点状模様は、建築資材1におけるクリア塗膜12の膜厚が40μm未満、及び/又は最表面の水の静的接触角が50°未満である場合に、基材欠点部の濡れ色が生じる際に発生することが多い。この黒色の点状模様の発生により、雨染みによる外観不具合はより大きくなる。
【0025】
本実施形態の建築資材1は、例えば(1)無機質基材11の表面に直接、表面の水の静的接触角が50°以上となるクリア塗料を40μm以上の膜厚になるように塗布した後、乾燥又は硬化させてクリア塗膜12を形成する、(2)無機質基材11の表面に直接、クリア塗料を40μm以上の膜厚になるように塗布し、乾燥又は硬化させてクリア塗膜12を形成した後、このクリア塗膜12の表面に直接、表面の水の静的接触角が50°以上となるクリア塗料又は他の塗料を塗布し、乾燥又は硬化させてクリア塗膜12又は他の塗膜を形成する、などにより作製することができる。
【実施例0026】
以下、本発明の具体的な実施例を提示する。
【0027】
<建築資材の作製>
無機質基材に下記クリア塗料を塗布し、表1に示す膜厚になるようにクリア塗膜を形成した。また、比較例2及び3では、クリア塗膜上に下記親水性塗料を塗布して、親水性塗膜を形成した。以上のようにして、実施例1及び比較例1~3の建築資材を作製した。
【0028】
・無機質基材は、以下のようにして作製した。
セメント(普通ポルトランドセメント)32.8質量部、珪石(珪石粉(ブレーン:3600cm2/g以上))25.3質量部、フライアッシュ18.6質量部、マイカ(40メッシュ)8.0質量部、軽量骨材(回収セメント製品の粉砕物)7.8質量部、補強繊維(バージンパルプ)7.5質量部、及び撥水剤0.12質量部と、水とを混合することで、基材形成用組成物を調製した。次に、この基材形成用組成物に水を加えてスラリーを調製し、このスラリーから、抄造法により未硬化基材を作製した。次いで、この未硬化基材を養生し、硬化させて、無機質基材を作製した。
【0029】
・クリア塗料:大日本塗料株式会社製Vセラン#300シリーズ
・親水性塗料:日本ペイント株式会社製のオーデナノガードシリーズ
【0030】
<評価>
前記作製した建築資材について、下記方法により、水の静的接触角を測定した。また、建築資材について、下記方法により、基材欠点部の濡れ色及び雨筋汚れについて評価した。
【0031】
[水の静的接触角]
建築資材の最表面の水の静的接触角は、接触角計(協和界面科学株式会社の「全自動接触角計DM-701」)を用い、液滴法によって、測定した。
【0032】
[基材欠点部の濡れ色]
雨染みによる外観不具合の指標として、基材欠点部の濡れ色を評価した。まず、前記作製した建築資材に、5分間、水を噴霧し、基材欠点部の濡れ色の評価用サンプルを得た。この評価用サンプルについて、目視により外観を観察した。基材欠陥部の濡れ色について、以下の基準で評価した。
〇(良好):黒色の点状模様の発生は認められなかった(
図2A参照)。
×(不良):黒色の点状模様の発生が認められた(
図2B参照)。
【0033】
[雨筋汚れ]
雨筋汚れの発生のし難さについて、以下のようにして評価した。まず、垂直暴露台に、前記作製した建築資材を取り付けた。この建築資材の上部に波板を設置し、雨水が建築資材の表面を筋状に流れるようにした。これにより屋外暴露試験を6か月間行った後、雨筋汚れの付着状態を観察した。雨筋汚れの発生について、以下の基準で評価した。
〇(良好):雨筋汚れの発生は認められなかった。
×(不良):雨筋汚れの発生が認められた。
【0034】
【0035】
表1の結果から、実施例1の建築資材は、クリア塗膜の膜厚が40μm以上であり、水の静的接触角が50°以上であることにより、基材欠点部の濡れ色及び雨筋汚れとも、評価は良好であることが示された。比較例1の建築資材は、クリア塗膜の膜厚が40μm未満であるため、塗膜にクラックが発生し、基材欠点部の濡れ色及び雨筋汚れとも、評価は不良であった。比較例2及び比較例3の建築資材は、最表面の水の接触角が50°未満であるため、雨筋汚れについては良好であるものの、基材欠点部の濡れ色の評価は不良であった。