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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131548
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】船舶
(51)【国際特許分類】
   B63H 5/10 20060101AFI20230914BHJP
   B63H 9/00 20060101ALI20230914BHJP
   B63H 21/20 20060101ALI20230914BHJP
   F04D 3/02 20060101ALI20230914BHJP
   F03B 17/06 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
B63H5/10
B63H9/00
B63H21/20
F04D3/02 Z
F03B17/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036376
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】503218067
【氏名又は名称】住友重機械マリンエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】青野 健
(72)【発明者】
【氏名】舛谷 明彦
【テーマコード(参考)】
3H074
3H130
【Fターム(参考)】
3H074AA10
3H074AA12
3H074BB06
3H074CC16
3H130AA03
3H130AB05
3H130AB12
3H130AB23
3H130AB53
3H130AB62
3H130AC03
3H130BA61C
3H130BA61Z
3H130CB01
3H130CB12
3H130DD07X
3H130EA01C
3H130EA01Z
3H130EA03C
3H130EA07C
3H130EA07Z
(57)【要約】
【課題】下流側の回転翼の遊転を促進できる船舶を提供する。
【解決手段】船舶1は、回転翼60A、及び回転翼60Bを備える。ここで、水流WFに対して回転翼60Aは回転翼60Bの上流側に配置される。そのため、回転翼60A及び回転翼60Bに対して流れる水流WFは、回転翼60Aの影響を受けた後で、後流RFとして回転翼60Bに流れる。回転翼60Bは、所定の目的(回生など)のために、機械的な回転力を受けず、水流WFの力によって回転する遊転を行う。これに対し、下流側の回転翼60Bの遊転を促進するように、上流側の回転翼60Aの構造を調整可能である。すなわち、上流側の回転翼60Aは、当該回転翼60Aを通過した水流が、下流側の回転翼60Bの遊転を促進するような流れとなるように、構造を調整可能である。以上より、下流側の回転翼60Bの遊転を促進することができる。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体と、
第1の回転翼、及び第2の回転翼と、を備え、
水流に対して前記第1の回転翼は前記第2の回転翼の上流側に配置され、
前記第2の回転翼の遊転を促進するように、前記第1の回転翼の構造を調整可能である、船舶。
【請求項2】
前記第2の回転翼は遊転によって回生を行う、請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
風力によって前記船体を推進させる風力推進部を更に備える、請求項1又は2に記載の船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、CO等のGHGガスの削減のために、風力等の再生可能エネルギーを用いて推力を発生する船舶が知られている。例えば、特許文献1に記載された船舶は、プロペラによる推進器に加えて、船体上に、風力によって船体を推進させる風力推進部を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-45018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述のような船舶は、強風時には、一つの大きなプロペラを回転させることで電動機を用いて発電している。弱風時には、貯めておいた電力でプロペラを回転させて推力を発生している。しかしながら、従来の船舶は、一つの大きなプロペラを用いているため流体抵抗が大きくなり、帆走時における船速低下等の問題を生じていた。当該問題を解決するために、上流側のプロペラと下流側のプロペラを設け、回生時には下流側のプロペラを遊転させる場合がある。この場合、下流側のプロペラの遊転を促進することで、回生効率を向上できる。このように、下流側の回転翼の遊転を促進することが求められていた。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、下流側の回転翼の遊転を促進できる船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る船体と、第1の回転翼、及び第2の回転翼と、を備え、水流に対して第1の回転翼は第2の回転翼の上流側に配置され、第2の回転翼の遊転を促進するように、第1の回転翼の構造を調整可能である。
【0007】
本発明に係る船舶は、第1の回転翼、及び第2の回転翼を備える。ここで、水流に対して第1の回転翼は第2の回転翼の上流側に配置される。そのため、第1の回転翼及び第2の回転翼に対して流れる水流は、第1の回転翼の影響を受けた後で、第2の回転翼に流れる。第2の回転翼は、所定の目的のために、機械的な回転力を受けず、水流の力によって回転する遊転を行う。これに対し、第2の回転翼の遊転を促進するように、第1の回転翼の構造を調整可能である。すなわち、第1の回転翼は、当該第1の回転翼を通過した水流が、第2の回転翼の遊転を促進するような流れとなるように、構造を調整可能である。以上より、下流側の回転翼の遊転を促進することができる。
【0008】
船舶において、第2の回転翼は遊転によって回生を行ってよい。この場合、第1の回転翼が、第2の回転翼の遊転を促進することで、回生効率を向上させることができる。
【0009】
船舶は、風力によって船体を推進させる風力推進部を更に備えてよい。この場合、船舶は、風力推進部によって船体を帆走させることができる。第2の回転翼は、帆走時に遊転することによって回生を行うことができる。また、第1の回転翼は、帆走時における第2の回転翼の遊転を促進できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、下流側の回転翼の遊転を促進できる船舶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る船舶の一例を示す概略断面図である。
図2】(a)はロータ帆の原理について説明する図であり、(b)は船舶の平面図である。
図3】船舶の船尾側の構造の概略側面図である。
図4】プロペラの配置態様のエネルギー効率を概念的に示した図である。
図5】機走モードにおける制御内容を示すブロック図である。
図6】帆走モードにおける制御内容を示すブロック図である。
図7】機帆走モードにおける制御内容を示すブロック図である。
図8】風速と、風力推進部によって得られる推力と、風力推進部の回転に用いられる電力との関係を示すグラフである。
図9】制御モードと、各制御モードにおける各機器の動作状況を示す表である。
図10】(a)は下流側の回転翼を示し、(b)は上流側の回転翼を示す概念図である。
図11】(a)は各動作モードにおける回転翼の設定について示す表であり、(b)は遊転モードにおける回転翼の設定内容について示す表である。
図12】設定1における回転翼の設定内容について示す図である。
図13】設定2における回転翼の設定内容について示す図である。
図14】設定3における回転翼の設定内容について示す図である。
図15】設定3における回転翼の設定内容について示す図である。
図16】設定4における回転翼の設定内容について示す図である。
図17】(a)は変形例に係る回転翼の配置を示す図であり、(b)は各動作モードにおける回転翼の設定について示す表である。
図18】遊転モードにおける回転翼の設定内容を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、「前」「後」の語は船体の進行方向に対応するものであり、「横」の語は船体の左右(幅)方向に対応するものであり、「上」「下」の語は船体の上下方向に対応するものである。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る船舶の一例を示す概略断面図である。船舶1は、例えば原油や液体ガス等の石油系液体貨物を運搬する船舶であり、例えば、オイルタンカーである。なお、船舶は、オイルタンカーに限定されず、例えば、バルクキャリア、その他、様々な種類の船舶であってよい。
【0014】
船舶1は、図1に示すように、船体11と、推進器12と、複数の風力推進部10と、を備えている。船体11は、船首部2と、船尾部3と、機関室4と、ポンプ室5と、貨物室6と、を有している。船体11の上部には(または船内には)上甲板19が設けられている。船首部2は、船体11の前方側に位置している。船尾部3は、船体11の後方側に位置している。
【0015】
船首部2は、例えば満載喫水状態における造波抵抗の低減が図られた形状を有している。推進器12は、船体11の推力を機械的に発生させるものであり、例えばプロペラシャフトが用いられている。推進器12は、推進時に船尾部3における喫水線(海Wの水面)よりも下方に設置される。また、船尾部3における喫水線よりも下方には、推進方向を調整するための舵の機能を兼ねたアジマス推進器15が設置されている。図1に示す例では、船舶1は、複数の推進器12A,12Bを備える。複数の推進器12A,12Bは、前後方向に互いに対向するように配置されている。
【0016】
機関室4は、船尾部3の船首側に隣り合う位置に設けられている。機関室4は、推進器12(前側の推進器12A)に駆動力を付与するためのメインエンジン16を配置するための区画である。上甲板19上には、機関室4の上方に居住区22、及び排気用の煙突23が設けられる。ポンプ室5は、機関室4の船首側に隣り合う位置に設けられている。ポンプ室5は、ポンプ17等が配置される区画である。貨物室6は、船首部2とポンプ室5との間に設けられている。貨物室6は、石油系貨物を収容するための区画である。貨物室6は、外板20と内底板21の二重船殻構造を採用することによって、複数のカーゴオイルタンク26と複数のバラストタンク27とに区画されている。カーゴオイルタンク26は、船舶1によって運搬される石油系貨物を積載する。バラストタンク27は、船の大きさ等に応じた量のバラスト水を収容する。
【0017】
風力推進部10は、風力によって船体11を推進させる機構である。本実施形態では、風力推進部10としてロータ式の風力推進機構が採用されている。風力推進部10は、船体11の上甲板19上に前後方向に並ぶように複数(ここでは四個)設けられている。図2(a)に示すように、風力推進部10は、上下方向に延びる円柱状のロータ帆31と、ロータ帆31を回転させる電動機32と、を備える。ロータ帆31に対して横側から風WDが吹き込むと、後側ではロータ帆31の回転方向と風WDの向きが互いに反対となり、前側ではロータ帆31の回転方向と風WDの向きが一致する。これによって、ロータ帆31の前後で圧力差が発生することで、前側へ向かう推力PFが発生する(マグナス効果)。図2(b)に示すように、船体11に対して横側から風WDが吹くことで、各風力推進部10の推力PFにより、船体11は前方へ進む。図1に示す通り、風力推進部10であるロータ帆31は、貨物室6の壁部の上に設けてよい。これによって、ロータ帆31のような重量の大きい構造物を支持する場合でも貨物室6の壁部の上に設けることでロータ帆を支持する補強部材としての役割を果たすことができる。
【0018】
図3を参照して、船舶1の船尾側の構造について詳細に説明する。図3は、船舶1の船尾側の構造の概略側面図である。船舶1の複数の推進器12は、二重反転式プロペラ35によって構成される。前側の推進器12Aは、船体11に取り付けられてメインエンジン16で駆動される前プロペラ33を有する。推進器12Aは、前端部から前方へ延びるシャフト34を介して、機関室4内のメインエンジン16に接続される。なお、シャフト34の中途位置には、当該シャフトの回転力から電力を回収する電動機36が設けられている。後側の推進器12Bは、船体11外に旋回自在に取り付けられて前プロペラ33と対向配置され、電動機38によって駆動される後プロペラ37を有する。後プロペラ37は、舵の機能も兼ねたアジマス推進器15に取り付けられている。後側の推進器12Bとして、水平方向に360°回転可能なポッドに後プロペラ37を取り付けたアジマス推進器が採用されている。二重反転式プロペラ35は、前プロペラ33と後プロペラ37の回転方向が逆であり、前プロペラ33の回転流のエネルギーを後プロペラ37で回収して軸方向流に整流し、回転流によるエネルギー損失を無くして後方には軸方向流のみを残し、エネルギー効率を向上させることができる。なお、機関室4には、ディーゼル式の発電機39が設けられる。例えば 船尾部3には、バッテリー40が設けられる。
【0019】
図4は、プロペラの配置態様のエネルギー効率を概念的に示した図である。図4(a)に示すように、一機一軸の大型のプロペラを有する推進器12を有する船舶の推進時のエネルギーを基準(Base)とする。図4(b)(c)(d)は、図4(a)と同じ推力を得ることができるように設定されている。この場合、図4(c)に示すように小型のプロペラを有する推進器12を二つ並列に並べた船舶の推進時のエネルギーは、図4(a)に対して5%の増加となる。図4(d)に示すように小型のプロペラを有する推進器12を三つ並列に並べた船舶の推進時のエネルギーは、図4(a)に対して10%の増加となる。一方、図4(b)に示すように二重反転式プロペラ35を採用した船舶の推進時のエネルギーは、図4(a)に対して10~15%程度減少させることができる。
【0020】
図5図7を参照して、船舶1が有する制御システム100について説明する。制御システム100は、得られる風力の状況に応じて、風力推進部10及び推進器12A,12Bを制御する。また、制御システム100は、風力推進部10によって船体11が移動しているときは、推進器12を回生に用いる。本実施形態では、制御システム100は、複数の推進器12A,12Bのうち、後側の推進器12Bを回生に用い、前側の推進器12Aを停止する。図5に示すように、制御システム100は、前述の風力推進部10(ロータ帆31、電動機32)、前側の推進器12A(メインエンジン16、電動機36、前プロペラ33、シャフト34)、後側の推進器12B(電動機38、後プロペラ37)、発電機39、バッテリー40、を備える。また、制御システム100は、上述の各機器のエネルギー管理を行う管理システム50を有する。管理システム50は、制御システム100内における電流のやり取りや分配を行うシステムである。なお、図5図7において、管理システム50と各機器を接続する線のうち、実線は出力電流を示し、一点鎖線は回生電流を示し、破線は電流の切断を示す。
【0021】
ここで、制御システム100は、風速に応じて、制御モードを切り替えることができる。制御システム100は、風速と風力推進部10で得られる推力や必要電力などとの関係を考慮して、全体として最適な制御モードとなるように、制御モードを切り替えることができる。制御システム100は、風力推進部10を用いず推進器12のみによって航走する「機走モード」と、風力推進部10及び推進器12を用いて航走する「機帆走モード」と、推進器12を用いず風力推進部10のみによって航走する「帆走モード」とを有する。
【0022】
図8は、風速と、風力推進部10によって得られる推力と、風力推進部10の回転に用いられる電力との関係を示すグラフである。図9に示すように、風速0~5(m/s)の領域では、風力推進部10によって得られる推力が小さい。そのため、当該領域では、制御システム100は機走モードに設定する。風速5~10(m/s)の領域では、それなりの推力は得られるが風力推進部10による推力では十分ではない。そのため、当該領域では、制御システム100は機帆走モードに設定する。風速10~20(m/s)の領域では、風力推進部10による推力のみで十分な運航が行える。そのため、当該領域では、制御システム100は帆走モードに設定する。風速20(m/s)以上の領域では、風が強すぎることによる問題が生じるため、制御システム100は、機走モードに設定する。図9は、制御モードと、各制御モードにおける各機器の動作状況を示す表である。
【0023】
図5は、機走モードにおける制御内容を示すブロック図である。図5における風速は0(m/s)である。なお、図5図7では、各機器が出力する電力の具体的な値が示されているが、あくまでも説明のための一例であるため、適宜変更可能である。また理解を容易とするために、エネルギーロスなどは考慮せずに説明する。図5に示すように、制御システム100は、メインエンジン16を動作させる。このときのメインエンジン16の出力は「3200kW」である。電動機36は、メインエンジン16の出力の一部(1800kW)を回生電流として回収する。これにより、前側の推進器12Aは、「1800kW」の出力にて推力を発生する。
【0024】
管理システム50は、電動機36で回生した「1400kW」の電力を後側の推進器12Bの電動機38へ供給する。これにより、電動機38は後プロペラ37を回転させ、後側の推進器12Bは、「1400kW」の出力にて推力を発生する。これにより、推進器12A,12Bは合計で「3200kW」の出力にて推力を発生する。一方、制御システム100は、風力推進部10を停止している。そのため、風力推進部10による推力は「0kW」である。
【0025】
図6は、帆走モードにおける制御内容を示すブロック図である。図6における風速は15(m/s)より大きく、20(m/s)より小さい。図6に示すように、制御システム100は、メインエンジン16を停止する。これにより、前側の推進器12Aは停止し、電動機36で回生される電力も「0kw」となる。管理システム50は、四個の風力推進部10の電動機32へ「4×100kw」の電力を供給する。これにより、風力推進部10は、「4000kw」より大きい推力を発生する。
【0026】
このとき、制御システム100は、後側の推進器12Bの後プロペラ37を遊転可能な状態としておく。これにより、船体11が帆走することに伴い、後プロペラ37が遊転する。電動機38は、後プロペラ37の遊転によって発生する「400kW」の電力を回生電力として回収する。電動機38は、後側の推進器12Bの回生による「400kW」の電力を管理システム50へ出力する。管理システム50は、回生による「4×100kW」の電力を四個の風力推進部10の各電動機32へ供給する。これにより、風力推進部10は、後側の推進器12Bで回生した電力を用いて動作することができる。なお、管理システム50は、回生した電力に余剰が発生した場合はバッテリー40にて蓄電する。
【0027】
図7は、機帆走ードにおける制御内容を示すブロック図である。図7における風速は5(m/s)である。図7に示すように、制御システム100は、メインエンジン16を動作させる。このときのメインエンジン16の出力は「2680kW」である。電動機36は、メインエンジン16の出力の一部(1330kW)を回生電流として回収する。これにより、前側の推進器12Aは、「1350kW」の出力にて推力を発生する。
【0028】
管理システム50は、電動機36で回生した「1330kW」の電力の一部である「1050kW」を後側の推進器12Bの電動機38へ供給する。これにより、電動機38は後プロペラ37を回転させ、後側の推進器12Bは、「1050kW」の出力にて推力を発生する。これにより、推進器12A,12Bは合計で「2400kW」の出力にて推力を発生する。
【0029】
管理システム50は、電動機36で回生した「1330kW」の電力の一部である「4×70kW」を四個の風力推進部10の各電動機32へ供給する。これにより、風力推進部10は、「800kW」の推力を発生する。以上より、船体11は、推進器12A,12B及び風力推進部10の両方による推力によって航走する。
【0030】
(各モードの補足)
次に図9の動作モードの過渡的な制御の一例について説明する。
【0031】
(1)帆走モードから機帆走モードへの過渡的な制御は、メインエンジン16をOFFからOnの状態とする。これによって、前プロペラ33もOffから推進モードとなる。後プロペラ37も回生モードから推進モードとなることで、帆走から機帆走時における船舶1の推力を維持することが可能となる。
【0032】
(2)次に、機走モードから機帆走モードへは、ロータ帆31をOffからOnとすることで徐々に帆走への準備を行う。
【0033】
(3)機帆走モードから帆走モードへは、メインエンジン16をOffとすれば良いが、風速が10m/sec以上となる時間が所定時間以上見込まれる場合に帆走モードへ移行することが好ましい。所定時間以上見込まれない場合、再度機帆走モードに戻り、メインエンジン16を再びOnにしなければならず、起動時の燃料噴射量が多くなり燃料消費量としては悪化するためである。
【0034】
(4)同様に、帆走モードから機帆走モードへは、メインエンジン16をOnとすればよいが、風速が10m/secより下回る時間が所定時間以上見込まれる場合に、機帆走モードへ移行することが好ましい。こちらも(3)同様メインエンジン16の起動と停止を繰り返すことによる燃料消費量の悪化を抑制することができる。
【0035】
ここで、後側、すなわち水流に対して下流側の推進器12Bが回生を行う時には、後プロペラ37が遊転を行う。回生効率を向上させるには、後プロペラ37の遊転を促進して回転数を上げる、あるいはトルクを増やす、あるいはその両方が好ましい。従って、水流に対して上流側の推進器12Aの前プロペラ33は、後プロペラ37の遊転を促進するように、前プロペラ33の構造を調整可能であることが好ましい。
【0036】
そこで、図10図16では、下流側の回転翼60B(第2の回転翼)の遊転を促進するように、構造を調整可能である上流側の回転翼60A(第1の回転翼)について説明する。図10(a)に示すように、下流側の回転翼60Bは、回転中心に配置される本体部61Bと、本体部61Bから外周側へ広がる複数の翼部62Bと、を有する。下流側の回転翼60Bは、動作状況に応じて、翼部62Bの翼角、枚数、軸方向や回転方向の位置、回転数などを調整可能であってよい。図10(b)に示すように、上流側の回転翼60Aは、回転中心に配置される本体部61Aと、本体部61Aから外周側へ広がる複数の翼部62Aと、を有する。上流側の回転翼60Aは、動作状況に応じて、翼部62Aの翼角、枚数、軸方向や回転方向の位置、回転数などを調整可能であってよい。なお、回転翼60A,60Bの翼部62A,62Bは、可変ピッチであることが好ましいが、固定ピッチであってもよい。
【0037】
図10(a)を参照して、下流側の回転翼60Bの翼部62Bの翼角について説明する。図10(a)は、一枚の翼部62Bが真横に配置された時における70%半径位置の断面を示している。70%半径位置とは、回転中心を0%とし、最外周部を100%としたときの半径方向の70%の位置である。上方へ向かって延びる基準線SL1を設定し、翼部62Bの基準線SL2を設定した場合、基準線SL1に対する紙面時計回りの基準線SL2の角度が、翼部62Bの翼角βである。なお、翼部62Bは、基準線SL2に対して基準線SL1の反対側の主面が膨らむように湾曲する。翼角βが0~90°のときを「翼角I」とし、90~180°のときを「翼角II」とし、180~270°のときを「翼角III」とし、270~360°のときを「翼角IV」とする。
【0038】
図10(b)を参照して、上流側の回転翼60Aの翼部62Aの翼角について説明する。図10(b)は、一枚の翼部62Aが真横に配置された時における70%半径位置の断面を示している。下方へ向かって延びる基準線SL3を設定し、翼部62Aの基準線SL4を設定した場合、基準線SL3に対する紙面反時計回りの基準線SL4の角度が、翼部62Aの翼角αである。なお、翼部62Aは、基準線SL4に対して基準線SL3の反対側の主面が膨らむように湾曲する。翼角αが0~90°のとき「翼角A」とし、90~180°のときを「翼角B」とし、180~270°のときを「翼角C」とし、270~360°を「翼角D」とする。
【0039】
回転翼60A,60Bが翼角を調整するときは、翼部62A,62Bの本体部61A,61Bに対する根元の付根部にて、各翼部62A,62Bの角度変更を行う。なお、以降の説明においては、回転翼60A,60Bの回転方向について説明するときは、水流における下流側から上流側へ向かって見たときを基準として「左回り」「右回り」という言葉を用いる。
【0040】
図11(a)は、各動作モードにおける回転翼60A,60Bの設定について示す表である。動作モードとして、船舶1が推進を行う「推進モード」と、下流側の回転翼60Bが遊転を行う「遊転モード」と、が存在する。図11(a)に示すように、推進モードでは、いずれの回転翼60A,60Bも推進に適した設定にて回転する。遊転モードでは、下流側の回転翼60Bは、推進に適した設定のまま遊転するか、遊転に適した設定に調整されて遊転する。上流側の回転翼60Aは、下流側の回転翼60Bの遊転を促進する位置・角度・回転(停止を含む)に調整される。
【0041】
図11(b)は、遊転モードにおける回転翼60A,60Bの設定内容について示す表である。図11(b)に示すように、ここでは、「設定1」~「設定4」という四つの設定が例示されている。なお、図11(b)は、上流側の回転翼60Aが右回りの場合について示しているため、左回りの場合は、表中の「左」と「右」を入れ替えればよい。以降、図12図16を参照して、各設定における回転翼60A,60Bの設定内容について説明する。
【0042】
図12は、設定1における回転翼60A,60Bの設定内容を示す図である。なお、図12(a)の上段側の図は、回転翼60A,60Bを横側から見たときのモデルを示し、図12(a)の下段側の図は、翼部62A,62Bの断面の位置関係を示している。図12図16の他の図においても同様である。
【0043】
図12(a)に示すように、設定1では、下流側の回転翼60Bを翼角Iとし、上流側の回転翼60Aをフェザリングで停止した状態とする。フェザリングとは、翼角αを90°か270°に設定することである。上流側の回転翼60Aの翼部62Aは、抵抗最小の翼角で停止している。従って、水流WFは、比較的速い後流RFとなり、下流側の回転翼60Bに流れる。下流側の回転翼60Bの遊転方向Dは左回りであり、翼角Iに設定されている。従って、翼部62Bは、速い流れの後流RFを受けることで、遊転方向Dへの遊転が促進される。
【0044】
図12(b)に示すように、設定1では、下流側の回転翼60Bを翼角IIIとし、上流側の回転翼60Aをフェザリングで停止した状態とする。図12(a)と同様、翼部62Bは、速い流れの後流RFを受けることで、遊転方向Dへの遊転が促進される。
【0045】
図13(a)に示すように、設定2では、下流側の回転翼60Bを翼角Iとし、上流側の回転翼60Aを翼角Aで停止又は遊転の状態とする。上流側の回転翼60Aの翼部62Aは、下流側の回転翼60Bの左回りの遊転を誘起する後流RFを生じるような翼角で停止(または遊転)している。下流側の回転翼60Bの翼部62Bは、後流RFに合わせた翼角Iに設定されることで、翼部62Bが後流RFを受けて遊転方向Dへの遊転が促進される。
【0046】
図13(b)に示すように、設定2では、下流側の回転翼60Bを翼角IIIとし、上流側の回転翼60Aを翼角Aで停止又は遊転の状態とする。下流側の回転翼60Bの翼部62Bは、後流RFに合わせた翼角IIIに設定されることで、翼部62Bが後流RFを受けて遊転方向Dへの遊転が促進される。
【0047】
図14(a)に示すように、設定3では、下流側の回転翼60Bを翼角IIとし、上流側の回転翼60Aを翼角Bで停止の状態とする。上流側の回転翼60Aの翼部62Aは、下流側の回転翼60Bの右回りの遊転を誘起する後流RFを生じるような翼角で停止している。下流側の回転翼60Bの翼部62Bは、後流RFに合わせた翼角IIに設定されることで、翼部62Bが後流RFを受けて遊転方向Dへの遊転が促進される。
【0048】
図14(b)に示すように、設定3では、下流側の回転翼60Bを翼角IVとし、上流側の回転翼60Aを翼角Bで停止の状態とする。下流側の回転翼60Bの翼部62Bは、後流RFに合わせた翼角IVに設定されることで、翼部62Bが後流RFを受けて遊転方向Dへの遊転が促進される。
【0049】
図15(a)に示すように、設定3では、下流側の回転翼60Bを翼角IIとし、上流側の回転翼60Aを翼角Dで停止の状態とする。上流側の回転翼60Aの翼部62Aは、下流側の回転翼60Bの右回りの遊転を誘起する後流RFを生じるような翼角で停止している。下流側の回転翼60Bの翼部62Bは、後流RFに合わせた翼角IIに設定されることで、翼部62Bが後流RFを受けて遊転方向Dへの遊転が促進される。
【0050】
図15(b)に示すように、設定3では、下流側の回転翼60Bを翼角IVとし、上流側の回転翼60Aを翼角Dで停止の状態とする。下流側の回転翼60Bの翼部62Bは、後流RFに合わせた翼角IVに設定されることで、翼部62Bが後流RFを受けて遊転方向Dへの遊転が促進される。
【0051】
図16(a)に示すように、設定4では、下流側の回転翼60Bを翼角IIとし、上流側の回転翼60Aを翼角Aで右回りで回転する状態とする。上流側の回転翼60Aの翼部62Aは、右回りの後流RFを生じるような翼角Aに設定されている。下流側の回転翼60Bの翼部62Bは、右回りの後流RFに合わせた翼角IIに設定されることで、翼部62Bが後流RFを受けて遊転方向Dへの遊転が促進される。
【0052】
図16(b)に示すように、設定4では、下流側の回転翼60Bを翼角IVとし、上流側の回転翼60Aを翼角Aで右回りで回転する状態とする。下流側の回転翼60Bの翼部62Bは、右回りの後流RFに合わせた翼角IVに設定されることで、翼部62Bが後流RFを受けて遊転方向Dへの遊転が促進される。
【0053】
次に、本実施形態に係る船舶1の作用・効果について説明する。
【0054】
本実施形態に係る船舶1は、回転翼60A、及び回転翼60Bを備える。ここで、水流WFに対して回転翼60Aは回転翼60Bの上流側に配置される。そのため、回転翼60A及び回転翼60Bに対して流れる水流WFは、回転翼60Aの影響を受けた後で、後流RFとして回転翼60Bに流れる。回転翼60Bは、所定の目的(回生など)のために、機械的な回転力を受けず、水流WFの力によって回転する遊転を行う。これに対し、下流側の回転翼60Bの遊転を促進するように、上流側の回転翼60Aの構造を調整可能である。すなわち、上流側の回転翼60Aは、当該回転翼60Aを通過した水流が、下流側の回転翼60Bの遊転を促進するような流れとなるように、構造を調整可能である。以上より、下流側の回転翼60Bの遊転を促進することができる。
【0055】
船舶1において、下流側の回転翼60Bは遊転によって回生を行ってよい。この場合、上流側の回転翼60Aが、下流側の回転翼60Bの遊転を促進することで、回生効率を向上させることができる。
【0056】
船舶1は、風力によって船体11を推進させる風力推進部10を更に備えてよい。この場合、船舶1は、風力推進部10によって船体11を帆走させることができる。下流側の回転翼60Bは、帆走時に遊転することによって回生を行うことができる。また、上流側の回転翼60Aは、帆走時における下流側の回転翼60Bの遊転を促進できる。
【0057】
本実施形態に係る船舶1は、船体11の推力を機械的に発生する複数の推進器12を備える。また、船舶1は、風力によって船体11を推進させる風力推進部10を備える。従って、船舶1は、風力推進部10を用いることで、帆走を行うことができる。このとき、船舶1は、推進器12を用いて、回生を行うことができる。また、船舶1は、風力が弱い場合など、推進器12を用いて機械的な推力によって航走することができる。ここで、船舶1は、複数の推進器12を用いることで、一つの大きな推進器を用いる場合に比して、推進効率がよくなるような機走を行うことが可能となる。更に、回生時には、船舶1は、一つあたりの推進器12を小さくすることで、各推進器12の流体抵抗を小さくすることができる従って、船舶は、一つの大きな推進器を用いる場合に比して、回生効率がよくなるような回生を行うことができる。以上により、エネルギー効率を向上することができる。
【0058】
船舶1は、複数の推進器12のうち、少なくとも一つである推進器12Bを回生に用い、他の推進器12Aを停止してよい。この場合、回生に用いない推進器12Aを停止しておくことで、当該推進器12Aが帆走時に流体抵抗として作用することを抑制できる。
【0059】
複数の推進器12は、二重反転式プロペラ35によって構成されてよい。二重反転式プロペラ35は、下流側の推進器12Bが、上流側の推進器12Aの回転流れを有効に利用して回転することができる。従って、船舶1は、機走時における推進効率を向上することができる。
【0060】
本発明は、上述の実施形態に限定されない。
【0061】
上述の実施形態では、複数の推進器の一例として、二重反転式プロペラ35について説明したが、複数の推進器を用いるものであれば、どのような態様で並べるかは特に限定されない。例えば、回転翼60A,60Bが両方とも前側のシャフトに取り付けられていてもよいし、両方と舵側のシャフトに取り付けられていてもよい。また、上流側の回転翼が下流側の回転翼の遊転を促進できる限り、回転翼の数や配置も特に限定されない。
【0062】
例えば、図17(a)に示すように、上流側に二つの回転翼160A,160Bを設け、下流側に一つの回転翼160Cを設けてもよい。図17(a)は、各回転翼160A,160B,160Cを上側から見た図である。図17(a)に示すように、横方向に並列に並べられた回転翼160A,160Bに対して、下流側の回転翼160Cは、横方向において回転翼160Aと回転翼160Bとの間に配置される。図18(a)に示すように、下流側の回転翼160Cの左側の位置にて翼部162Cと、上流側の回転翼160Aの右側の翼部162Aが重なる。下流側の回転翼160Cの右側の位置にて翼部162Cと、上流側の回転翼160Bの左側の翼部162Bが重なる。
【0063】
図17(b)は、各動作モードにおける回転翼160A,160B,160Cの設定について示す表である。図17(b)に示すように、推進モードでは、いずれの回転翼160A,160B,160Cも推進に適した設定にて回転する。遊転モードでは、下流側の回転翼160Cは、推進に適した設定のまま遊転するか、遊転に適した設定に調整されて遊転する。上流側の回転翼160A,160Bは、下流側の回転翼160Cの遊転を促進する位置・角度・回転(停止を含む)に調整される。
【0064】
図18は、遊転モードにおける回転翼160A,160B,160Cの設定内容を示す図である。図18(a)は、水流の下流側から回転翼160A,160B,160Cを見たモデルである。図18(b)は、図18(a)のXVIIb-XVIIb線に沿った断面図である。図18(c)は、図18(a)のXVIIc-XVIIc線に沿った断面図である。
【0065】
図18(b)に示すように、左側の上流側の回転翼160Aの翼部162Aは、停止した状態で下向きの後流RFを誘起する。下流側の回転翼160Cの翼部162Cは、左側において後流RFに合わせた翼角となっており、下向きの後流RFを受けて左回りの遊転方向Dへの遊転が促進される。図18(c)に示すように、右側の上流側の回転翼160Bの翼部162Bは、停止した状態で上向きの後流RFを誘起する。下流側の回転翼160Cの翼部162Cは、右側において後流RFに合わせた翼角となっており、上向きの後流RFを受けて左回りの遊転方向Dへの遊転が促進される。なお、図18(b)(c)に示す翼部162A,162B,162Cの角度の組み合わせは一例に過ぎず、遊転の促進がなされる組み合わせであれば適宜採用可能である。例えば、図18(b)の下流側の翼部162Cは翼角II又は翼角IVにすればよく、上流側の翼部162Aは翼角B又は翼角Dにすればよい。図18(c)の下流側の翼部162Cは翼角I又は翼角IIIにすればよく、上流側の翼部162Bは翼角A又は翼角Cにすればよい。
【0066】
例えば、風力推進部の数や配置など、船体に対してどのように設けるかなどは特に限定されない。風力推進部は、ロータ帆に限定されず、通常の帆など、風力によって船体を推進させることができるものであれば特に限定されない。また、風力推進部は省略されてもよい。
【0067】
風力推進部が省略される場合も、下流側の回転翼は、船舶が停止した状態で、海流や河川による水流を受けることで回生を行ってよい。その際に、上流側の回転翼は、下流側の回転翼の回生のための遊転を促進してよい。
【0068】
また、下流側の回転翼は、回生以外の目的で遊転を行ってもよい。
【0069】
船体11の構造も図1に示すものに限定されず、用途等に応じて適宜変更してよい。
【符号の説明】
【0070】
1…船舶、11…船体、10…風力推進部、60A,160A,160B…回転翼(第1の回転翼)、60B,160C…回転翼(第2の回転翼)。
図1
図2
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