(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013156
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】水性エマルジョン型樹脂組成物および接着剤
(51)【国際特許分類】
C08L 61/10 20060101AFI20230119BHJP
C08K 5/3477 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
C08L61/10
C08K5/3477
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117127
(22)【出願日】2021-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】身深 元
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB032
4J002AD032
4J002BE022
4J002BG132
4J002CC031
4J002EN046
4J002EU186
4J002FD202
4J002GJ01
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】優れた保存安定性および接着性を有するとともに、環境負荷が低減された、接着剤として使用可能な熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】水、ノボラック型フェノール樹脂粒子、ヘキサメチレンテトラミン、および
乳化剤、を含み、前記ノボラック型フェノール樹脂粒子は、前記乳化剤により水中に分散しており、前記ヘキサメチレンテトラミンは、前記水中に溶解している、水性エマルジョン型樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、
ノボラック型フェノール樹脂粒子、
ヘキサメチレンテトラミン、および
乳化剤、を含み、
前記ノボラック型フェノール樹脂粒子は、前記乳化剤により水中に分散しており、
前記ヘキサメチレンテトラミンは、前記水中に溶解している、
水性エマルジョン型樹脂組成物。
【請求項2】
前記ノボラック型フェノール樹脂粒子の平均粒径D50は、0.1μm以上30μm以下である、請求項1に記載の水性エマルジョン型樹脂組成物。
【請求項3】
前記ノボラック型フェノール樹脂粒子の含有量が、当該水性エマルジョン型樹脂組成物全体に対して、5質量%以上50質量%以下である、請求項1または2に記載の水性エマルジョン型樹脂組成物。
【請求項4】
前記乳化剤は、ポリアクリルアミド、カゼイン、ヒドロキシエチルセルロース、およびポリビニルアルコールから選択される少なくとも1つを含む、請求項1乃至3のいずれかに記載の水性エマルジョン型樹脂組成物。
【請求項5】
前記ヘキサメチレンテトラミンの含有量は、前記ノボラック型フェノール樹脂粒子に対して、1質量%以上20質量%以下である、請求項1乃至4のいずれかに記載の水性エマルジョン型樹脂組成物。
【請求項6】
前記ノボラック型フェノール樹脂粒子は、重量平均分子量が100以上15,000以下のノボラック型フェノール樹脂からなる、請求項1乃至5のいずれかに記載の水性エマルジョン型樹脂組成物。
【請求項7】
未反応フェノールの含有量が、当該水性エマルジョン型樹脂組成物全体に対して、0.1質量%以下であり、未反応アルデヒドの含有量が、当該水性エマルジョン型樹脂組成物全体に対して、0.1質量%以下である、請求項1乃至6のいずれかに記載の水性エマルジョン型樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の水性エマルジョン型樹脂組成物からなる、接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性エマルジョン型樹脂組成物、およびこれを含む接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は、その優れた耐熱性、接着性、機械的特性、電気的特性、価格優位性等を利用し各種基材の成型材料や摩擦材用結合剤、研削材用結合剤、木材用接着剤、積層材用結合剤、鋳型用結合剤、コーティング剤、エポキシ樹脂硬化剤用等として幅広く使用されている。フェノール樹脂は、例えば、各種の基材に含浸または塗布されて使用されたり、各種有機、無機基材のバインダーとして使用されたりしている。フェノール樹脂には、ヘキサメチレンテトラミンなどの硬化剤を添加して加熱硬化するノボラック型フェノール樹脂と、単独で加熱硬化するレゾール型フェノール樹脂とに大別され、性状、用途、目的等により使い分けが行われている。
【0003】
近年、環境負荷軽減の観点や労働安全衛生的観点から、有機溶剤使用量を用いないか、または有機溶剤使用量の少ないフェノール樹脂材料が求められており、溶媒として水を用いた水溶性樹脂や水系分散剤を用いた水分散型樹脂として提供可能なフェノール樹脂求められている。
【0004】
熱硬化性樹脂の水性化という観点からは、レゾール型フェノール樹脂は、その本来的な性質から分子量や官能基数の調節により比較的容易に水性化を図ることが可能である。これに対して、ノボラックフェノール樹脂は、通常、常温で固形の樹脂であることから、水性化が困難であり、その水分散体を調製したとしても、その分散樹脂粒子の平均粒子径が10μm乃至100μmという極めて大きい範囲になってしまう為、長期の分散安定性が得られずに樹脂粒子の沈降を招来してしまうものであった。
【0005】
ノボラック型フェノール樹脂を水性媒体中に分散させる技術として、たとえば、特許文献1には、水性媒体中に分散するノボラック型フェノール樹脂の分子構造中に、その芳香核上の置換基として炭素原子数3~30の酸基含有脂肪族炭化水素基を導入するとともに、前記水性媒体中のpHを7.0~9.0の範囲に調節することにより、多量の分散剤を用いなくとも、ノボラック型フェノール樹脂の樹脂粒子径を1μm未満に小径化することが可能で、かつ優れた貯蔵安定性を有するフェノール樹脂の水性分散体を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ノボラック型フェノール樹脂を接着剤等の上記用途で使用する場合には、ノボラック型フェノール樹脂を、硬化剤であるヘキサメチレンヘキサミンとともに熱処理し、加熱硬化する必要がある。しかしノボラック型フェノール樹脂とヘキサメチレンテトラミンとを混合した状態で保管した場合、これらの硬化反応が進行して高分子量化および高粘度化し、使用時の取扱い性に問題が生じる場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、一液型でありながら、経時的な高分子量化が抑制され、よって保存安定性に優れ、接着性に優れ、さらに環境負荷が低減された、接着剤として使用可能な熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0009】
本発明によれば、
水、
ノボラック型フェノール樹脂粒子、
ヘキサメチレンテトラミン、および
乳化剤、を含み、
前記ノボラック型フェノール樹脂粒子は、前記乳化剤により水中に分散しており、
前記ヘキサメチレンテトラミンは、前記水中に溶解している、
水性エマルジョン型樹脂組成物が提供される。
【0010】
また本発明によれば、上記水性エマルジョン型樹脂組成物からなる接着剤が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、保存安定性に優れ、接着性に優れ、さらに環境負荷が低減された、接着剤として使用可能な熱硬化性樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、「a以上b以下」を意味する。例えば、「5~90質量%」とは「5質量%以上90質量%以下」を意味する。
【0013】
[水性エマルジョン型樹脂組成物]
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂成分が、水中に分散された水性エマルジョン型樹脂組成物であり、水、ノボラック型フェノール樹脂粒子、ヘキサメチレンテトラミン、および乳化剤、を含む。本実施形態の樹脂組成物において、樹脂成分であるノボラック型フェノール樹脂は、粒子の形態で、乳化剤により水中に分散している。さらに本実施形態の樹脂組成物は、ノボラック型フェノール樹脂の硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを含み、このヘキサメチレンテトラミンは、水中に溶解した状態で存在する。
【0014】
本実施形態の水性エマルジョン型樹脂組成物(本明細書中、単に「樹脂組成物」と称する場合がある)は、水媒体中にノボラック型フェノール樹脂が分散した水性エマルジョンとして提供される。本実施形態の樹脂組成物は、溶媒として有機溶媒を使用しないため、環境負荷が低減される。
【0015】
本実施形態の樹脂組成物は、ノボラック型フェノール樹脂は粒子の形態で、乳化剤により水中に分散しており、ノボラック型フェノール樹脂の硬化剤であるヘキサメチレンテトラミンは、水中に溶解した状態で存在する。これによりエマルジョン中のノボラック型フェノール樹脂とヘキサメチレンテトラミンとは、相互作用することなく、製造直後の状態が維持される。そのため、ノボラック型フェノール樹脂とヘキサメチレンテトラミンとの硬化反応が進行して高分子量化および高粘度化するといった現象が生じることなく、使用時まで製造直後の状態が維持され、よって本実施形態の樹脂組成物は取扱い性に優れる。
【0016】
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂成分として、ノボラック型フェノール樹脂を含み、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを含む。このような樹脂組成物を熱処理して得られる硬化物は、高い接着性を有する。
【0017】
本実施形態の水性エマルジョン型樹脂組成物は、以下の工程により製造される。
工程1:フェノール類とアルデヒド類とを酸触媒存在下で反応させて、ノボラック型フェノール樹脂を得る工程。
工程2:工程1で得られたノボラック型フェノール樹脂と、乳化剤とを、水に添加し、撹拌することにより、ノボラック型フェノール樹脂を水に分散させる工程。
工程3:工程2で得られたノボラック型フェノール樹脂の水分散体に、ヘキサメチレンテトラミンを添加する工程。
【0018】
工程1では、フェノール類とアルデヒド類を酸触媒下で縮合重合させてノボラック型フェノール樹脂を得る。
ノボラック型フェノール樹脂の合成に使用できるフェノール類としては、フェノール;o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール等のクレゾール類;o-エチルフェノール、m-エチルフェノール、p-エチルフェノール等のエチルフェノール類;イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p-tert-ブチルフェノール等のブチルフェノール類;p-tert-アミルフェノール、p-オクチルフェノール、p-ノニルフェノール、p-クミルフェノール等のアルキルフェノール類;フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール類;p-フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体:1-ナフトール、2-ナフトール等の1価のフェノール類;およびレゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類等が挙げられる。これらは、単独でかまたは2種以上混合して使用できる。中でも、製造コストの観点から、フェノールを使用することが好ましい。
【0019】
ノボラック型フェノール樹脂の合成に使用できるアルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n-ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o-トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種類以上組み合わせて使用してもよい。また、これらのアルデヒド類の前駆体あるいはこれらのアルデヒド類の溶液を使用することもできる。中でも、製造コストの観点から、ホルムアルデヒド水溶液を使用することが好ましい。
【0020】
ノボラック型フェノール樹脂の合成に使用できる酸触媒としては、酢酸、ギ酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、安息香酸、サリチル酸、スルホン酸、フェノールスルホン酸、およびパラトルエンスルホン酸等の有機酸;または塩酸、硫酸、硫酸エステル、リン酸、およびリン酸エステル等の無機酸が挙げられる。
【0021】
ノボラック型フェノール樹脂の製造において、フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(F/P)は、例えば、0.5以上であり、好ましくは,0.55以上であり、より好ましくは、0.6以上である。フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(F/P)の上限値は、例えば、1.2以下であり、好ましくは、1.1以下であり、より好ましくは、1.0以下である。フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(F/P)が上記範囲である条件下で、反応を行うことにより、所望の重量平均分子量を有するノボラック型フェノール樹脂を得ることができる。
【0022】
ノボラック型フェノール樹脂の製造において、フェノール類とアルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させる工程は、例えば、60℃~120℃の温度下、好ましくは80℃~100℃の温度下で、例えば、10分間~100分間の反応時間で実施されることが好ましい。これにより、効率よく反応を十分に進めることができる。また加熱下で実施することにより、出発物質が均一に混合され、分子間の絡み合いや分子間の作用により、得られるノボラック型フェノール樹脂の分子量の均一化を図ることができる。なお、反応時間は、特に制限はなく、出発原料の種類、配合モル比、触媒の使用量及び種類、反応条件に応じて適宜決定すればよい。
【0023】
上述のノボラック型フェノール樹脂の製造は、溶媒として水を用いて実施することが好ましい。
【0024】
上記方法により得られるノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量は、例えば、100以上15,000以下であり、好ましくは、400以上12,000以下であり、より好ましくは、500以上10,000以下である。上記範囲の重量平均分子量を有するノボラック型フェノール樹脂は、エマルジョン化が容易であるため好ましい。また、これを硬化して得られる硬化物が高い機械的強度および耐熱性を有するため好ましい。
【0025】
上記方法により得られたノボラック型フェノール樹脂は、未反応の遊離フェノール類の含有量が、1.0質量%以下、好ましくは、0.8質量%以下、より好ましくは、0.6質量%以下まで低減されている。また上記方法により得られたノボラック型フェノール樹脂は、未反応の遊離アルデヒド類の含有量が、1.0質量%以下、好ましくは、0.8質量%以下、より好ましくは、0.6質量%以下まで低減されている。
【0026】
工程1に続き、工程2において、工程1で得られたノボラック型フェノール樹脂と乳化剤とを、水中で混合して、撹拌することにより、水中にノボラック型フェノール樹脂を乳化分散させる。これにより、ノボラック型フェノール樹脂が微粒子の形態で、水中に分散された、ノボラック型フェノール樹脂水分散体が得られる。工程1において、ノボラック型フェノール樹脂は、得られる水分散体全体に対して、例えば、5質量%以上50質量%以下の量、好ましくは10質量%以上45質量%以下の量、より好ましくは15質量%以上40質量%以下の量となるように、水と混合される。
【0027】
水分散体中のノボラック型フェノール樹脂粒子の平均粒径D50は、例えば、0.1μm以上30μm以下であり、好ましくは、0.5μm以上20μm以下であり、より好ましくは、1μm以上15μm以下でる。上記範囲内の平均粒径を有するノボラック型フェノール樹脂粒子は、水中に均一に分散され、また保存中に沈殿することがなく、取扱い性に優れる。ノボラック型フェノール樹脂粒子の平均粒径は、例えば、撹拌速度、撹拌時間等の撹拌条件を調整することにより制御することができる。撹拌条件としては、例えば、200rpm~400rpmの撹拌速度、および1~10時間の撹拌時間を採用することができる。
【0028】
工程2で用いられる乳化剤としては、例えば、ポリアクリルアミド、カゼイン、ヒドロキシエチルセルロース、およびポリビニルアルコール等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの乳化剤は、ノボラック型フェノール樹脂に対して、例えば、10質量%以上80質量%以下、好ましくは、20質量%以上70質量%以下、より好ましくは、30質量%以上60質量%以下の量で使用される。乳化剤を上記範囲の量で使用することにより、ノボラック型フェノール樹脂を水中に均一に分散することができる。
【0029】
工程2に続き、工程3において、工程2で得られたノボラック型フェノール樹脂水分散体に、ヘキサメチレンテトラミンを添加する。ヘキサメチレンテトラミンは高い水溶解性を有するため、この水分散体の水に溶解する。ヘキサメチレンテトラミンは、ノボラック型フェノール樹脂に対して、例えば、1質量%以上20質量%以下、好ましくは、2質量%以上15質量%以下、より好ましくは、3質量%以上10質量%以下の量で使用される。上記範囲の量でヘキサメチレンテトラミンを使用することにより、得られる樹脂組成物の硬化性が改善され、得られる硬化物の機械的強度を向上することができる。
【0030】
上述の工程1~工程3を経て得られる本実施形態の樹脂組成物は、ノボラック型フェノール樹脂粒子の凝集または沈殿が生じることなく、均一に分散した状態で保存することができる。また本実施形態の樹脂組成物は、未反応フェノールの含有量が、樹脂組成物全体に対して、0.1質量%以下であり、未反応アルデヒドの含有量が、樹脂組成物全体に対して、0.1質量%以下である。
【0031】
本実施形態の樹脂組成物には、その用途に応じ、さらに添加剤を配合してもよい。用いることができる添加剤としては、チキソ剤、増粘剤、分散剤、硬化促進剤、凍結防止剤等が挙げられる。
チキソ剤または増粘剤としては、例えば、フュームドシリカ、沈殿法シリカ、ベントナイト、珪藻土、セピオライオト、炭酸カルシウム、ポリアクリル酸塩等が挙げられる
分散剤としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩等のアニオン性、4級アンモニウム塩、スルホニウム塩、ピリジニウム塩等のカチオン性分散剤、ベタイン型分散剤、スルホン酸塩等の両性分散剤、多価アルコール、ポリオキシエチレン等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
硬化促進剤としては、安息香酸、サリチル酸、スルホン酸、フェノールスルホン酸、およびパラトルエンスルホン酸等の有機酸や、レゾルシノール等が挙げられる。
凍結防止剤としては、メタノール、エチレングリコール、グリセリン等の凍結温度を低下させるものが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
(用途)
本実施形態の水性エマルジョン型樹脂組成物は、例えば、摩擦材用接着剤、研削材用結合剤、木材用接着剤、積層材用結合剤、鋳型用結合剤、コーティング剤、エポキシ樹脂硬化剤用等摩擦材用接着剤として使用することができる。
例えば、本実施形態の樹脂組成物を摩擦材用接着剤として使用する場合、本実施形態の水性エマルジョン型樹脂組成物を、湿式摩擦板用の金属基材に塗布する。塗布方法としては、スプレー塗布法、ロールコータ法等を使用することができる。次いで、塗布した樹脂組成物を、例えば、100℃で20分の条件で加熱して、溶剤である水を乾燥除去する。その後、この金属基材上の、乾燥後の樹脂組成物層の側に、湿式摩擦板用の摩擦板を配置し、例えば、150℃の温度で、加熱加圧する。加熱加圧後に、例えば、200℃の温度で焼成し、ノボラック型フェノール樹脂とヘキサメチレンテトラミンとを完全硬化させる。これにより、金属基材と摩擦板とが強固に接着された湿式摩擦板を製造することができる。本実施形態の水性エマルジョン型樹脂組成物は、有機溶剤を含まないため、加熱乾燥時に有機溶剤の揮発が生じない。そのため、環境負荷が小さい。
【0033】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例0034】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
[水性エマルジョン型樹脂組成物の調製]
(実施例1)
攪拌装置及び温度計を備えた三口フラスコ中に、フェノール1000質量部、蓚酸10質量部を仕込み、100℃に昇温した後、37%ホルムアルデヒド500質量部(モル比F/P=0.58)を2時間かけて逐添した。その後、2時間還流反応を行った後、150℃まで常圧蒸留を行い、さらに、250℃まで500Paで減圧蒸留を行った。得られたノボラック型フェノール樹脂中の、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した未反応フェノールの含有量は、検出限界(0.1%)以下、未反応アルデヒドの含有量は検出限界(0.1%)以下であった。
反応後、110℃以下に冷却し、ポリアクリルアマイド(荒川化学工業社製、「ポリストロン117」、15%水溶液)650質量部と水1500質量部とを添加して1時間攪拌し、ヘキサミンを48部添加し、ノボラックタイプのエマルジョン型フェノール樹脂組成物3000質量部を得た。
【0036】
(実施例2)
攪拌装置及び温度計を備えた三口フラスコ中に、フェノール1000質量部、蓚酸10質量部を仕込み、100℃に昇温した後、37%ホルムアルデヒド690質量部(モル比F/P=0.80)を2時間かけて逐添した。その後、2時間還流反応を行った後、150℃まで常圧蒸留を行い、さらに、220℃まで500Paで減圧蒸留を行った。得られたノボラック型フェノール樹脂中の、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した未反応フェノールの含有量は、0.9%、未反応アルデヒドの含有量は検出限界(0.1%)以下であった。
反応後、130℃以下に冷却し、ポリアクリルアマイド(荒川化学工業社製、「ポリストロン117」、15%水溶液)650質量部と水1500質量部とを添加して1時間攪拌し、ヘキサミンを50部添加し、ノボラックタイプのエマルジョン型フェノール樹脂組成物3285質量部を得た。
【0037】
(比較例1)
攪拌機及び温度計を備えた三口フラスコ中に、1-ヒドロキシエチリデン-1,1'-ジホスホン酸60%水溶液(ライオン社製・「フェリオックス115」)1000質量部を仕込み、120℃に昇温させ、濃度85%になるまで常圧下で濃縮を行った。その後、フェノール1000質量部を仕込み、100℃に昇温した後、37%ホルムアルデヒド(F1)650質量部(モル比F1/P=0.75)を2時間かけて逐次添加した。その後、純水500質量部を添加混合後、60℃まで下げて触媒を除去した。残留触媒を除去するため、1000質量部の純水を添加混合し除去する水洗を2回行った後、15000Paで減圧蒸留を行い、フラスコ内の水分量が反応生成物と水分量の合計量に対して重量比で10%となるように調整し、ノボラック型フェノール樹脂を得た。
次に、水酸化カルシウムで中和を行って反応系のpHを5.5とした後、酢酸亜鉛6部、92%パラホルムアルデヒド(F2)103質量部([(F1+F2)/P]=1.05)を添加、100℃まで加熱し、還流反応を1.5時間行いレゾール樹脂を得た。
その反応後、15000Paで減圧蒸留を行い、フラスコ内の水分量が反応生成物と水分量の合計量に対して重量比で10%となるように調整した。その後、ポリアクリルアマイド(荒川化学工業社製・「ポリストロン117」、15%水溶液)670質量部を添加し、水1150質量部を添加して1時間攪拌し、レゾールタイプのエマルジョン型フェノール樹脂組成物を得た。
【0038】
(比較例2)
フラスコ中に、フェノール1000質量部、蓚酸10質量部を仕込み、100℃に昇温した後、37%ホルムアルデヒド(F1)430質量部(モル比F1/P=0.5)を2時間かけて逐添した。その後、2時間還流反応を行った後、150℃まで常圧蒸留を行った。得られたノボラック型フェノール樹脂中の未反応フェノールの含有量は13.0%、未反応アルデヒドの含有量は検出限界(0.1%)以下であった。
次に、80質量部の水を添加しながら50℃まで冷却した後、水酸化カルシウム30質量部、37%ホルムアルデヒド(F2)400質量部(仕込みフェノールに対するモル比F2/P=0.46)を添加した後、80℃まで加熱し、還流反応を0.5時間行った。その反応後、ポリアクリルアマイド(荒川化学工業社製・「ポリストロン117」、15%水溶液)670部と水600部とを添加して1時間攪拌し、レゾールタイプのエマルジョン型フェノール樹脂組成物2450部を得た。
【0039】
[水性エマルジョン型樹脂組成物の物性評価]
(水性エマルジョン型樹脂組成物の経時安定性)
実施例1~2、比較例1~2において、樹脂組成物の経時安定性を、30℃で1ヶ月保存した後の、フェノール樹脂の重量平均分子量を測定することにより評価した。
まず、上述の水性エマルジョン型樹脂組成物の調製直後のノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量を測定した。次いで、この水性エマルジョン型樹脂組成物を、30℃の恒温槽に入れ、1か月間静置した。静置後の水性エマルジョン型樹脂組成物中のノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量を測定した。保存前の重量平均分子量を測定と保存後の重量平均分子量を測定とを表1に示す。また、保存前の重量平均分子量を測定と保存後の重量平均分子量を測定の値から、以下の式にしたがって、重量平均分子量を測定上昇率(%)を算出した。結果を以下の表1に示す。
(式) 重量平均分子量を測定上昇率(%)=[(保存後の重量平均分子量を測定)/(保存前の重量平均分子量を測定)]×100
粘度上昇率の値が小さいほど、経時安定性が良好であることを表す。
なお、重量平均分子量の測定は、GPC測定により得られる標準ポリスチレン(PS)の検量線から求めた、ポリスチレン換算値を用いた。測定条件を以下に示す。
東ソー社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC-8320GPC
カラム:東ソー社製TSK-GEL Supermultipore HZ-M
検出器:液体クロマトグラム用RI検出器
測定温度:40℃
溶媒:THF
試料濃度:2.0mg/ミリリットル
【0040】
【0041】
実施例の水性エマルジョン型樹脂組成物は、未反応フェノールと未反応アルデヒドの残留量が低減されているとともに、保存前後の分子量変化が低減されており、取扱い性に優れるものであった。