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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131584
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】抗炎症性マクロファージ活性化剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20230914BHJP
   A61K 31/36 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K31/36
A61P43/00 107
A61P25/24
A61P3/04
A61P21/00
A61P25/28
A61K31/7048
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036433
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】502167821
【氏名又は名称】亀井 淳三
(71)【出願人】
【識別番号】522094288
【氏名又は名称】傅 正偉
(71)【出願人】
【識別番号】592075884
【氏名又は名称】清本鉄工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】亀井 淳三
(72)【発明者】
【氏名】傅 正偉
(72)【発明者】
【氏名】清本 邦夫
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LE05
4B018MD08
4B018MD56
4B018ME10
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF13
4C086AA01
4C086AA02
4C086CA01
4C086EA11
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA12
4C086ZA15
4C086ZA70
4C086ZA94
4C086ZB22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、抗炎症性マクロファージ活性化剤を提供することを課題とする。
【解決手段】セサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を有効成分として含有する、抗炎症性マクロファージ活性化剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を有効成分として含有する、抗炎症性マクロファージ活性化剤。
【請求項2】
炎症性マクロファージに対する抗炎症性マクロファージの比率を上昇させる、請求項1に記載の抗炎症性マクロファージ活性化剤。
【請求項3】
うつの予防又は改善に用いるための、請求項1又は2に記載の抗炎症性マクロファージ活性化剤。
【請求項4】
肥満の予防又は改善に用いるための、請求項1又は2に記載の抗炎症性マクロファージ活性化剤。
【請求項5】
筋力向上に用いるための、項1又は2に記載の抗炎症性マクロファージ活性化剤。
【請求項6】
記憶改善に用いるための、請求項1又は2に記載の抗炎症性マクロファージ活性化剤。
【請求項7】
前記誘導体が、セサミノール配糖体及びセサミノールカテコール体からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1~6のいずれかに記載の抗炎症性マクロファージ活性化剤。
【請求項8】
セサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を有効成分として含有する、
抗うつ、抗肥満、筋力向上、及び記憶改善からなる群より選択される少なくとも一種に用いるための、組成物。
【請求項9】
抗うつ、抗肥満、及び筋力向上からなる群より選択される少なくとも一種に用いるための、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
食品組成物である、請求項8又は9に記載の組成物。
【請求項11】
医薬組成物である、請求項8又は9に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗炎症性マクロファージ活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
マクロファージはその役割の違いによりM1マクロファージとM2マクロファージに大別される。M1マクロファージは炎症性マクロファージとも呼ばれ、TNFα、IL-6、IL-12等の炎症性サイトカインや、一酸化窒素(NO)、活性酸素種(ROS)を産生して免疫応答を誘導する。ただし、長期にわたってM1マクロファージの活性化が持続すると、組織傷害を引き起こす。一方、M2マクロファージは抗炎症性マクロファージとも呼ばれ、IL-10等の抗炎症性サイトカインを産生し、炎症の抑制や炎症後の組織修復に働く。これらの機能的に異なるマクロファージ、M1マクロファージとM2マクロファージのバランス(M1/M2バランス)は様々な疾患の病態形成に関与していると考えられており、M1/M2バランスを変化させることにより様々な疾患を治療し得ることが示唆されている(非特許文献1)。
【0003】
ミクログリアは中枢神経系グリア細胞の一種であり、中枢神経系における免疫を担当する常在型組織マクロファージとも呼ばれる。このミクログリアにも炎症性に働くM1型及び抗炎症性に働くM2型の分類が適用される。
【0004】
セサミノール及びセサミンは、ゴマに特有のリグナンであり、抗酸化作用等の様々な生理活性機能を有することが報告されている(非特許文献2)。このため、セサミノール及びセサミンは、機能性食品素材として注目されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Wang N, Liang H and Zen K (2014) Molecular mechanisms that influence the macrophage M1-M2 polarization balance. Front. Immunol. 5:614.
【非特許文献2】大澤俊彦 (1999)「リグナン類の機能性:特にゴマリグナンを中心に」日本油化学会誌 第48巻 第10号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、抗炎症性マクロファージ活性化剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を進めた結果、セサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体が抗炎症性マクロファージの活性化作用を有すること、並びに、セサミノールはセサミンに比べてより高い抗炎症性マクロファージ活性化効果を示すことを見出した。さらに、セサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体がうつや肥満、記憶障害を改善し、筋力を向上させる作用を有することを見出した。本発明者らは、この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
項1.
セサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を有効成分として含有する、抗炎症性マクロファージ活性化剤。
項2.
炎症性マクロファージに対する抗炎症性マクロファージの比率を上昇させる、項1に記載の抗炎症性マクロファージ活性化剤。
項3.
うつの予防又は改善に用いるための、項1又は2に記載の抗炎症性マクロファージ活性化剤。
項4.
肥満の予防又は改善に用いるための、項1又は2に記載の抗炎症性マクロファージ活性化剤。
項5.
筋力向上に用いるための、項1又は2に記載の抗炎症性マクロファージ活性化剤。
項6.
記憶改善に用いるための、項1又は2に記載の抗炎症性マクロファージ活性化剤。
項7.
前記誘導体が、セサミノール配糖体及びセサミノールカテコール体からなる群より選択される少なくとも一種である、項1~6のいずれかに記載の抗炎症性マクロファージ活性化剤。
項8.
セサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を有効成分として含有する、
抗うつ、抗肥満、筋力向上、及び記憶改善からなる群より選択される少なくとも一種に用いるための、組成物。
項9.
抗うつ、抗肥満、及び筋力向上からなる群より選択される少なくとも一種に用いるための、項8に記載の組成物。
項10.
食品組成物である、項8又は9に記載の組成物。
項11.
医薬組成物である、項8又は9に記載の組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、抗炎症性マクロファージ活性化剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】A) セサミノール(0.5, 1, 2.5, 5, 10, 25, 50, 75 及び100 μM)、及びセサミン(5, 25, 50, 75及び100 μM)で処理したBV2細胞の生存割合のMTTアッセイ結果。B) LPS刺激によるM1マクロファージ活性化BV2細胞におけるセサミン又はセサミノールの影響。C) IL-4及びセサミン若しくはセサミノールを添加し又は添加せずに16時間処理したBV2細胞におけるM2マクロファージ活性化のマーカー(Arg-1、Chi313、及びCD206)の遺伝子発現。D) LPS及びセサミン若しくはセサミノールを添加し又は添加せずに16時間処理したBV2細胞におけるM1マクロファージ活性化のマーカー(IL-6、TNF-α、IL-1β)の遺伝子発現。データは平均±標準誤差で表した。(*P<0.05, **P<0.01 対コントロール; #P<0.05, ##P<0.01 対LPS又は対IL-4; +P<0.05 対セサミノール10 μM)
図2】A) LPS及びセサミン若しくはセサミノールを添加し又は添加せずに16時間処理したBV2細胞におけるアポトーシス関連遺伝子(Caspase-3、Bax、及びBcl-2)並びに酸化ストレス関連遺伝子(iNOS、COX-2、CAT、及びSOD-1)のmRNA発現。B) LPS及びセサミン若しくはセサミノールを添加し又は添加せずに16時間処理したBV2細胞における抗酸化物質(SOD、GSH、及びCAT)の活性。C) LPS及びセサミン若しくはセサミノールを添加し又は添加せずに16時間処理したBV2細胞におけるNrf-2/HO-1経路関連遺伝子(Nrf-2、HO-1、NQO1、GCLM、及びGCLC)のmRNA発現。データは平均±標準誤差で表した。(*P<0.05, **P<0.01 対コントロール; #P<0.05, ##P<0.01 対LPS; +P<0.05 対セサミノール10 μM)
図3】A) LPS及びセサミン若しくはセサミノールを添加し又は添加せずに6時間処理したBV2細胞におけるリン酸化P65(p-P65)及びiNOSの発現のウェスタンブロット解析結果。B) LPS及びセサミン若しくはセサミノールを添加し又は添加せずに6時間処理したBV2細胞におけるM1ミクログリア(CD11c)及びM2ミクログリア(CD206)の免疫活性。C) IL-4及びセサミン若しくはセサミノールを添加し又は添加せずに6時間処理したBV2細胞におけるM1ミクログリア(CD11c)及びM2ミクログリア(CD206)の免疫活性。データは平均±標準誤差で表した。(*P<0.05, **P<0.01 対コントロール; #P<0.05, ##P<0.01 対LPS; +P<0.05 対セサミノール10 μM)
図4】A) Aβ1-42(2 μM)及びセサミン若しくはセサミノールを添加し又は添加せずに24時間処理したBV2細胞におけるAβ1-42ペプチドのファゴサイトーシス。B) Aβ1-42(5 μM)及びセサミン若しくはセサミノールを添加し又は添加せずに24時間処理したBV2細胞におけるM1マクロファージマーカー(IL-6、IL-1β、TNF-α、CCL5、及びMCP-1)のmRNA発現。C) Aβ1-42(5 μM)及びセサミン若しくはセサミノールを添加し又は添加せずに24時間処理したBV2細胞における酸化ストレス関連遺伝子(CAT、SOD-1、iNOS、及びCOX-2)及びアポトーシス関連遺伝子(Bax、Bcl-2、及びCaspase-3)のmRNA発現。データは平均±標準誤差で表した。(*P<0.05, **P<0.01 対コントロール; #P<0.05, ##P<0.01 対LPS; +P<0.05 対セサミノール10 μM)
図5】A) Aβ1-42(5 μM)及びセサミン若しくはセサミノールを添加し又は添加せずに24時間処理したBV2細胞におけるNrf-2/HO-1経路関連遺伝子のmRNA発現。B) Aβ1-42(5 μM)及びセサミン若しくはセサミノールを添加し又は添加せずに24時間処理したBV2細胞における抗酸化物質(SOD、GSH、及びCAT)の活性。データは平均±標準誤差で表した。(*P<0.05, **P<0.01 対コントロール; #P<0.05, ##P<0.01 対LPS; +P<0.05 対セサミノール10 μM)
図6】A) Y型迷路試験結果。B) 新奇物体認識試験により短期記憶及び長期記憶を調べた結果。C) 受動回避試験結果。D) 強制水泳試験結果。E) 握力測定結果。データは平均±標準誤差で表した。(*P<0.05, **P<0.01 対Young-C; #P<0.05, ##P<0.01 対Old-C; +P<0.05, ++P<0.01 対Sesamin 50)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
本発明は、その一態様において、セサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を有効成分として含有する、抗炎症性マクロファージ活性化剤(本明細書において、「本発明の抗炎症性マクロファージ活性化剤」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0013】
本発明のマクロファージ活性化剤は、セサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を有効成分として含有する。
【0014】
セサミノールは、以下の構造式を有する公知の化合物であり、例えばゴマ種子中に含有されることが知られている。
【0015】
【化1】
【0016】
また、セサミノールを効率よく生産する方法についても研究がなされており(例えば特開2006-61115号公報、特開2008-167712号公報参照)、容易に入手又は製造することができる。
【0017】
セサミンは、以下の構造式を有する公知の化合物であり、例えばゴマ種子中に含有されることが知られている。
【0018】
【化2】
【0019】
本発明のセサミノール及びセサミンの誘導体は、抗炎症性マクロファージ活性化作用を有するものである限り、特に制限されない。本発明のセサミノール及びセサミンの誘導体として、例えばセサミノール配糖体、セサミノールカテコール体、セサミンカテコール体等が挙げられる。本発明のセサミノール及びセサミンの誘導体として、特に好ましくは、セサミノール配糖体及びセサミノールカテコール体が挙げられる。セサミノール配糖体としては、例えばセサミノールトリグルコシド(2,6-O-di(β-D-グルコピラノシル)-β-D-グルコピラノシルセサミノール、STG、CAS No.: 157469-83-5)、セサミノールジグルコシド(2-O-(β-D-グルコピラノシル)-β-D-グルコピラノシルセサミノール、2-SDG、CAS No.: 157469-82-4、及び6-O-(β-D-グルコピラノシル)-β-D-グルコピラノシルセサミノール、6-SDG、CAS No.: 474431-66-8)、並びに、セサミノールモノグルコシド(β-D-グルコピラノシルセサミノール、SMG、CAS No.: 153512-13-1)等が挙げられる。セサミノールカテコール体としては、例えばセサミノール-6-カテコール((1S,3aβ,6aβ)-1β-(6-ヒドロキシ-1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-4β-(3,4-ジヒドロキシフェニル)テトラヒドロ-1H,3H-フロ[3,4-c]フラン)等が挙げられる。セサミンカテコール体としては、例えばセサミンモノカテコール((7α,7’α,8α,8’α)-3,4-ジヒドロキシ-3’,4’-メチレンジオキシ-7,9’:7’,9-ジエポキシリグナン、SC1)、セサミンジカテコール((7α,7’α,8α,8’α)-3,4:3’,4’-ビス(ジヒドロキシ)-7,9’:7’,9-ジエポキシリグナン、SC2)、メチル化モノカテコール((7α,7’α,8α,8’α)-3-メトキシ-4-ヒドロキシ-3’,4’-メチレンジオキシ-7,9’:7’,9-ジエポキシリグナン、SC1m)、メチル化ジカテコール((7α,7’α,8α,8’α)-3-メトキシ-4-ヒドロキシ-3’,4’-ジヒドロキシ-7,9’:7’,9-ジエポキシリグナン、SC2m)等が挙げられる。
【0020】
本発明の抗炎症性マクロファージ活性化剤は、セサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種からなるものであってもよいし、本発明の効果を損なわない限り、セサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体以外の成分を含有してもよい。つまり、本発明の抗炎症性マクロファージ活性化剤は、セサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種が100重量%からなるものであってもよいし、また本発明の効果を損なわない限り他の成分を含有するものであってもよい。他の成分の含有量は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、例えば0.01~99.99重量%、好ましくは0.1~99.9重量%が例示できる。“他の成分”としては、薬学的又は食品衛生学的に許容される基剤、担体、添加剤等が例示でき、さらに詳細には後述する成分が例示できる。なお、本発明の抗炎症性マクロファージ活性化剤のセサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種の含有量は、好ましくは0.00001重量%以上、より好ましくは0.0001重量%以上、さらに好ましくは0.001重量%以上、より更に好ましくは0.005重量%以上である。また、本発明の一態様において、本発明の抗炎症性マクロファージ活性化剤のセサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種の含有量の上限は例えば100重量%であり、その下限は例えば0.01重量%、0.1重量%、1重量%、2重量%、5重量%、10重量%、20重量%、40重量%、60重量%、又は80重量%である。本発明の抗炎症性マクロファージ活性化剤における抗炎症性マクロファージ活性化の有効成分100重量%に対する、セサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種の含有量の割合は、例えば50重量%以上、好ましくは60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上、95重量%以上、又は99重量%以上である。
【0021】
本発明の抗炎症性マクロファージ活性化剤は、炎症性マクロファージに対する抗炎症性マクロファージの比率を上昇させることができる。例えば、本発明の抗炎症性マクロファージ活性化剤は、炎症性マクロファージに対する抗炎症性マクロファージの比率(抗炎症性マクロファージ/炎症性マクロファージ)を、例えば1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上、より更に好ましくは4倍以上に高めることが可能である。実施例1の方法に従って、標的となる1つの組織におけるM1マクロファージマーカー及びM2マクロファージマーカーの発現量をRT-PCR法で測定し、そのマーカー発現量の比を、炎症性マクロファージに対する抗炎症性マクロファージの比率とすることができる。M1マクロファージマーカーとしては、例えば、MCP1、TNF-α、CCL5、IL-6、IL-β、CD11cが例示できる。M2マクロファージマーカーとしては、例えば、Arg-1、Chi313、CD206が例示できる。代表的には、M1マクロファージマーカーとしてMCP1を選択し、M2マクロファージマーカーとしてArg-1を選択して、上記比率を算出する。
【0022】
本発明において、うつを「改善」するとは、うつの状態を正常状態に戻すこと、うつの重症度を低下させること、うつ状態の悪化をとどまらせること、うつ病の発症やうつ病の発症中に現れるその合併症の発症を遅延させること、及びうつ状態の悪化の程度を弱めることを含む。本発明において、「抗うつ作用」とは、気分障害の一種で、持続的な抑うつ気分等を特徴とするうつ病を予防、改善及び治療する作用を意味する。抗うつ作用には、不安を和らげ、緊張をほぐし、焦燥を緩和する等の抗不安作用が含まれる。
【0023】
本発明において、肥満を「改善」するとは、肥満の状態を正常状態に戻すこと、肥満への進行をとどまらせること、肥満の進行を遅延させること、肥満の進行の程度を弱めることを含む。本発明において、「抗肥満作用」とは、体重増加や体脂肪増加などの肥満状態を予防、改善及び治療する作用を意味する。抗肥満作用には、糖尿病や脂質異常症、高血圧症、心血管疾患等の生活習慣病を予防、改善及び治療する作用、すなわち、抗糖尿病作用、抗脂質異常症作用、抗高血圧症作用、抗心血管疾患作用が含まれる。
【0024】
本発明において、「筋力向上」とは、筋肉量を増加させること、減少した筋肉量を正常状態に戻すこと、筋肉量の減少をとどまらせること、筋肉量の減少を遅延させること、筋肉量の減少の程度を弱めることを含む。本発明において、「筋力向上作用」とは、筋肉量を増加させる作用、並びに、筋肉量の減少を予防、改善及び治療する作用を意味する。筋力向上作用には、筋肉量増加作用、筋力量の低下を予防、改善及び治療する作用、すなわち、抗サルコペニア作用、抗フレイル作用が含まれる。
【0025】
本発明において、「記憶改善」とは、記憶力の低下状態を正常状態に戻すこと、記憶力の低下をとどまらせること、記憶力の低下を遅延させること、記憶力の低下の程度を弱めることを含む。本発明において、「記憶改善作用」とは、記憶力の低下を予防、改善及び治療する作用を意味する。記憶改善作用には、記憶障害、軽度認知障害、認知症を予防、改善及び治療する作用、すなわち、抗軽度認知障害作用、抗認知症作用が含まれる。
【0026】
本発明の組成物の形態は、特に限定されず、本発明の組成物の用途に応じて、各用途において通常利用される形態をとることができる。
【0027】
本発明の抗うつ、抗肥満、筋力向上、及び記憶改善からなる群より選択される少なくとも一種に用いるための組成物(以下、これらをまとめて、「本発明の組成物」と示すこともある。)を投与する又は摂取させる対象としては、特に制限されず、健常者、うつ病患者、肥満患者、筋力低下患者、及び記憶障害患者が例示される。
【0028】
また、本発明の抗うつ、抗肥満、筋力向上、及び記憶改善からなる群より選択される少なくとも一種に用いるための組成物は、人のみならず、健常な動物、又はうつ、肥満、筋力低下、及び記憶障害の症状を呈する動物(特にペット及び家畜)も投与/摂取対象に含まれる。動物としては、例えばイヌ、ネコ、サル、マウス、ラット、ハムスター、牛、馬、豚、羊等が例示できる。
【0029】
本発明の抗うつ、抗肥満、筋力向上、及び記憶改善からなる群より選択される少なくとも一種に用いるための組成物の投与形態としては、特に経口投与又は注射投与(例えば皮下投与、筋肉内投与、経静脈投与、経動脈投与)が好適である。
【0030】
本発明のうつ、肥満、筋力低下、又は記憶障害の予防又は治療剤の投与又は摂取量は、適宜設定することができる。当該剤中のセサミノール量は、好ましくは成人一日あたり1~1,000 mg、より好ましくは10~500 mgの範囲となる量を目安とすることができる。なお、1日1回又は複数回(例えば、好ましくは2~3回)に分けて投与又は摂取することができる。
【0031】
本発明の特徴の一つは、セサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を投与する又は摂取させることにより、うつが改善される点にある。よって、本発明は、セサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を有効成分として含有する、抗うつに用いるための組成物を包含する。
【0032】
また、本発明の特徴の一つは、セサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を投与する又は摂取させることにより、肥満が改善される点にある。よって、本発明は、セサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を有効成分として含有する、抗肥満に用いるための組成物を包含する。
【0033】
また、本発明の特徴の一つは、セサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を投与する又は摂取させることにより、筋力向上される点にある。よって、本発明は、セサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を有効成分として含有する、筋力向上に用いるための組成物を包含する。
【0034】
さらに、本発明の特徴の一つは、セサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を投与する又は摂取させることにより、記憶改善される点にある。よって、本発明は、セサミノール、セサミン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を有効成分として含有する、記憶改善に用いるための組成物を包含する。
【0035】
抗炎症性マクロファージ活性化は、上記の特徴(抗うつ、抗肥満、筋力向上、及び記憶改善)に直接的に又は間接的に働く。
【0036】
本発明の組成物の成分構成については、本発明の抗炎症性マクロファージ活性化剤と同様である。
【0037】
本発明の組成物は、医薬分野及び食品分野で好ましく用いることができる。
【0038】
本発明の組成物を医薬分野にて用いる場合、本発明の組成物は、セサミノール、セサミン、及び/又はそれらの誘導体そのものであってもよいし、これと他の薬理活性成分、薬学的に許容される基剤、担体、添加剤(例えば溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等)等が必要に応じて配合され、例えば錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、注射剤、点滴剤等の医薬製剤に調製されたものでもよい。当該調製は、常法に従って行うことが出来る。このような本発明の組成物は、上述したように、特に経口投与により、うつ、肥満、筋力低下、及び記憶障害の症状の予防又は治療のために好ましく用いることができる。つまり、例えば、経口剤等として好ましく用いることができる。なお、本発明の組成物のセサミノール、セサミン、及び/又はそれらの誘導体の一日摂取量、摂取対象、セサミノール、セサミン、及び/又はそれらの誘導体、並びに他の成分の含有量等の条件は、上述したのと同様であることが好ましい。
【0039】
本発明の組成物を食品添加剤として用いる場合、本発明の組成物は、セサミノール、セサミン、及び/又はそれらの誘導体そのものであってもよいし、これと食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤や、その他食品添加剤として利用され得る成分・材料が適宜配合されたものでもよい。また、このような食品添加剤の形態としては、例えば液状、粉末状、フレーク状、顆粒状、ペースト状のものが挙げられるがこれらに限定されない。具体的には、調味料(醤油、ソース、ケチャップ、ドレッシング等)、フレーク(ふりかけ)、焼き肉のたれ、スパイス、ルーペースト(カレールーペースト等)等が例示できる。このような食品添加剤は、常法に従って適宜調製することができる。
【0040】
このような本発明に係る食品添加剤は、該食品添加剤が添加された食品を食べることにより摂取される。なお、当該添加は食品調理中又は製造中に行ってもよいし、調理済みの食品を食べる直前又は食べながら行ってもよい。当該食品添加剤はこのようにして経口摂取することにより、うつ、肥満、筋力低下、及び記憶障害の予防効果を発揮する。なお、本発明に係る食品添加剤のセサミノール、セサミン、及び/又はそれらの誘導体の一日摂取量、摂取対象、セサミノール、セサミン、及び/又はそれらの誘導体、並びに他の成分の含有量等の条件は、上述したのと同様であることが好ましい。
【0041】
本発明の組成物を抗うつ、抗肥満、筋力向上、及び/又は記憶改善用の飲食品として用いる場合、当該剤(以下「本発明に係る飲食品」と記載することがある)は、セサミノール、セサミン、及び/又はそれらの誘導体と、食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤や、その他食品として利用され得る成分・材料等が適宜配合されたものである。セサミノール、セサミン、及び/又はそれらの誘導体が配合されてなる抗うつ、抗肥満、筋力向上、及び/又は記憶改善用飲食品ということもできる。例えば、セサミノールを含む、うつ、肥満、筋力低下、及び記憶障害予防用の加工食品、飲料、健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、サプリメント、病者用食品(病院食、病人食又は介護食等)等が例示できる。具体的な形態としては、タブレット剤、カプセル剤、ドリンク剤等が例示される。
【0042】
健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、又はサプリメントとして、本発明に係る飲食品を調製する場合は、継続的な摂取が行いやすいように、例えば顆粒、カプセル、錠剤(チュアブル剤等を含む)、飲料(ドリンク剤)等の形態で調製することが好ましく、なかでもカプセル、タブレット、錠剤の形態が摂取の簡便さの点からは好ましい。ただし、特にこれらに限定されるものではない。顆粒、カプセル、錠剤等の形態の当該飲食品からなる抗うつ、抗肥満、筋力向上、及び/又は記憶改善剤は、薬学的及び/又は食品衛生学的に許容される担体等を用いて、常法に従って適宜調製することができる。また、他の形態に調製する場合であっても、従来の方法に従えばよい。
【0043】
本発明に係る飲食品のセサミノール、セサミン、及び/又はそれらの誘導体の摂取量、摂取対象、セサミノール、セサミン、及び/又はそれらの誘導体、並びに他の成分の含有量等は、例えば上述したのと同様であることが好ましい。
【0044】
本発明は、うつ病患者、肥満患者、筋力低下患者、及び/又は記憶障害患者に対し、本発明の組成物を投与する又は摂取させることを特徴とするうつ病、肥満、筋力低下、及び/又は記憶障害の治療方法をも提供する。また、本発明は、非うつ病患者(うつ病患者でない者の意味;健常者及びうつ病境界型の者を含む)、非肥満患者(肥満患者でない者の意味;健常者及び肥満境界型の者を含む)、非筋力低下患者(筋力低下患者でない者の意味;健常者及び筋力低下境界型の者を含む)、及び/又は非記憶障害患者(記憶障害患者でない者の意味;健常者及び記憶障害境界型の者を含む)に対し、本発明の組成物を投与する又は摂取させることを特徴とするうつ病、肥満、筋力低下、及び/又は記憶障害の予防方法をも提供する。これらの方法は、具体的には、前述の本発明の組成物を投与する又は摂取させることで実施される。なお、当該方法における、本発明の組成物に含まれセサミノール、セサミン、及び/又はそれらの誘導体の摂取量等の各条件は前述の通りである。
【0045】
さらに、本発明は、対象者(うつ病患者、肥満患者、筋力低下患者、記憶障害患者、非うつ病患者、非肥満患者、非筋力低下患者、非記憶障害患者を含む)に対し、セサミノール、セサミン、及び/又はそれらの誘導体、又は、セサミノール、セサミン、及び/又はそれらの誘導体を含む組成物を経口投与し又は経口摂取させ、当該対象者において、うつを改善し、肥満を改善し、筋力を向上させ、及び/又は記憶を改善する方法(但し治療方法を除く)をも包含する。
【0046】
なお、これらの方法における“但し治療方法を除く”との記載には、医療従事者(特に医師)の監督、指導、手技等に基づいて行われる行為を除くとの意味合いがあり、ひいては、医療従事者が自ら行おうとしていることが特許侵害になり責任追及されるのではないかと恐れながら医療行為に当たらなければならない状況が発生することを除くとの意味合いがある。
【実施例0047】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施によって限定されるものではない。なお、以下特に断らない限り、%は質量%を示す。
【0048】
以下の例で用いたセサミノール、特開2008-167712号公報に記載の方法に準じて調製したものである。より、具体的には、次の調製例のようにして調製した。
【0049】
調製例
Paenibacillus sp. KB0549株(寄託番号:FERM P-21057)をゴマ脱脂粕(竹本油脂製)で培養させることにより、ゴマ脱脂粕中に含まれるセサミノール配糖体からセサミノールを製造した。具体的には、次のようにして行った。
【0050】
まず、トリプトン1.0%、酵母エキス0.5%、及びNaCl0.89%を加えたゴマ脱脂粕の温水抽出液でKB0549を増殖させ、KB0549培養液を得た。当該培養液を、ゴマ脱脂粕10.0 kg(加熱殺菌し水分70%、pH6.0に調整済み)に加え、固体発酵機(37℃)で間歇撹拌とエアレーションを6日間継続して発酵処理を行った。次に、こうして得られた、発酵させたゴマ脱脂粕を水分8.5%へと乾燥させた後、乾燥物重量に対して10倍容量の95%エタノールを加えて、50℃に加熱、撹拌させ、セサミノールの抽出を行った。得られた抽出液をフィルタープレスにより珪藻土ろ過を行い、固形分を除去して濾液82 Lを得た。当該濾液82Lを真空濃縮機で4.1 Lに濃縮した。得られた濃縮液に99.5%エタノールを4倍量以上加えて濾紙濾過で不溶物を除去後、エバポレーターで濃縮し、高濃縮液4.05 Lを得た。当該高濃縮液中のセサミノール及びセサミノール関連化合物は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供して同定した結果、濃縮液中にセサミノールが18.4 g含まれていた。当該HPLC分析条件は次の通りである:
HPLC:HITACHI LaChrom
カラム:Wakosil-II 5C18HG(φ4.6*250mm、和光純薬)
展開溶媒:A;10%アセトニトリル+0.1%トリフルオロ酢酸、B;80%アセトニトリル+0.1%トリフルオロ酢酸、Bを10%~100%の直線勾配(40分間)で展開。
流速:0.8 ml/min
分析波長:280 nm
セサミノール及びセサミノール関連化合物の標準試料によって検量線を作成することで、当該高濃縮液中のセサミノール及びセサミノール関連化合物の同定や含量算出を行った。なお、さらに溶媒抽出やシリカゲルによるカラム精製、ゲル濾過精製などの手法を用いることで、さらにセサミノール含有割合を高めることもできる。
【0051】
実施例1.セサミノール及びセサミンは、M2マクロファージを活性化させる。
【0052】
不死化マウスBV2ミクログリア細胞株を10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したMEM培地で、5%CO2及び95%空気を含む加湿雰囲気下、37℃で培養した。培地は、2日毎に新鮮なものと交換した。継代は80%コンフルエンス時に行った。細胞を、様々な濃度のセサミノール(0.5~100 μM)又はセサミン(5~100 μM)、及びLPS(1 μg/mL)又はIL-4(10 ng/mL)と16時間共培養した。LPSは細菌成分であり、M1マクロファージ活性化に働く。また、IL-4はM2マクロファージ活性化に働く。
【0053】
結果を図1に示す。図1Aの結果から、以降の実験におけるセサミノール及びセサミンの添加濃度を、細胞毒性を有さないか、あるいは細胞毒性が著しく少ないと考えられる、10 μM以下、及び100 μM以下にぞれぞれ設定した。次に、LPS処理によりM1マクロファージが活性化されたBV2細胞におけるセサミン及びセサミノールのM1マクロファージ活性に与える影響を調べた。特にセサミン50 μMを処理した場合において、M1マクロファージマーカーであるMCP-1、TNF-α、及びCCL5のmRNA発現が顕著に減少した(図1B)。そこで、以降の実験には、50 μMのセサミンを用いることにした。IL-4処理によりM2マクロファージが活性化されたBV2細胞におけるセサミン及びセサミノールのM2マクロファージ活性に与える影響を調べた。その結果、セサミン及びセサミノールはM2マクロファージマーカーであるArg-1、Chi313、CD206のmRNA発現を濃度依存的に亢進した(図1C)。また、LPS処理BV2細胞におけるセサミン及びセサミノールのM1マクロファージ活性に与える影響を調べた。その結果、セサミン及びセサミノールはM1マクロファージマーカーであるIL-6、TNF-α、IL-1βのmRNA発現を濃度依存的に抑制した(図1D)。また、セサミノールの効果はセサミンの効果に比べ約10培高いことが分かった(図1C及びD)。
【0054】
実施例2.セサミノール及びセサミンは、アポトーシス及び酸化ストレスを抑制し、抗酸化物質の活性を増大させる。
【0055】
M1マクロファージは活性酸素種(ROS)を産生する。ヘムオキシゲナーゼ(HO-1)は、ROSにより発現が誘導され、ROSや脂質過酸化反応(LPO)を中和して、酸化ストレスにより誘導される神経変性を防ぐ効果を有する。Nuclear factor-2 erythroid-2(Nrf-2)は、生体内抗酸化系における主要な転写因子であり、HO-1等の内在性遺伝子の発現を上昇制御する。LPS処理BV2細胞においてセサミン及びセサミノールがアポトーシス関連遺伝子(Caspase-3、Bax、及びBcl-2)並びに酸化ストレス関連遺伝子(iNOS、COX-2、CAT、及びSOD-1)の発現に与える影響を調べた。Caspase-3はアポトーシスを引き起こした細胞で活性化され、Baxはアポトーシスの促進に働き、Bcl-2はアポトーシス抑制に働く。また、iNOS及びCOX-2は酸化ストレスの増大に働き、CAT及びSOD-1は酸化ストレスの抑制に働く。その結果、セサミン及びセサミノールは、LPS処理によりM1マクロファージが活性化されたBV2細胞において発現が上昇したCaspase-3及びBaxのmRNA発現を抑制し、発現が減少したBcl-2のmRNA発現を上昇させた(図2A)。また、セサミン及びセサミノールは、LPS処理によりM1マクロファージが活性化されたBV2細胞において発現が上昇したiNOS及びCOX-2のmRNA発現を抑制し、発現が減少したCAT及びSOD-1のmRNA発現を上昇させた(図2A)。これらの結果から、セサミノール及びセサミンは、アポトーシス及び酸化ストレスの抑制に働くことが分かった。また、LPS処理BV2細胞においてセサミン及びセサミノールが抗酸化物質(SOD、GSH、及びCAT)の活性に与える影響を調べた。その結果、セサミン及びセサミノールは抗酸化物質の活性を増大させた(図2B)。さらに、LPS処理BV2細胞においてセサミン及びセサミノールがNrf-2/HO-1経路関連遺伝子(Nrf-2、HO-1、NQO1、GCLM、及びGCLC)の発現に与える影響を調べた。その結果、セサミン及びセサミノールはNrf-2/HO-1経路関連遺伝子のmRNA発現を上昇させた(図2C)。
【0056】
実施例3.セサミノール及びセサミンは、NF-kbの活性抑制により酸化ストレス関連物質の発現を抑制する。また、セサミノール及びセサミンは、M1ミクログリアの免疫活性を抑制し、M2ミクログリアの免疫活性を上昇させる。
【0057】
P65はNF-kbの主要なサブユニットであり、P65のリン酸化によりNF-kbの活性化に関与する。LPS処理BV2細胞においてセサミン及びセサミノールがリン酸化P65(p-P65)及びiNOSの発現に与える影響をウェスタンブロット解析により調べた。その結果、セサミン及びセサミノールは、LPS処理によりM1マクロファージが活性化されたBV2細胞においてリン酸化が促進されたP65のリン酸化を抑制し、また発現が促進されたiNOSの発現を抑制した(図3A)。このことから、iNOSの発現抑制にNF-kbの活性抑制が関与していることが示された。また、LPS処理BV2細胞においてセサミン及びセサミノールがM1ミクログリア(CD11c)及びM2ミクログリア(CD206)の免疫活性に与える影響を調べた。その結果、セサミン及びセサミノールは、LPS処理によりM1マクロファージが活性化されたBV2細胞において上昇したM1ミクログリアの免疫活性を抑制し、反対に、低下したM2ミクログリアの免疫活性を上昇させた(図3B)。さらに、IL-4処理によりM2マクロファージが活性化されたBV2細胞においてセサミン及びセサミノールがM1ミクログリア(CD11c)及びM2ミクログリア(CD206)の免疫活性に与える影響を調べた。その結果、セサミン及びセサミノールは、IL-4処理によりM2マクロファージが活性化されたBV2細胞において低下したM1ミクログリアの免疫活性を更に低下させ、反対に、上昇したM2ミクログリアの免疫活性を更に上昇させた(図3C)。
【0058】
実施例4.セサミノール又はセサミンは、Aβ1-42による細胞死を抑制し、Aβ1-42による細胞死の抑制には酸化ストレス及びアポトーシスの抑制が関与する。
【0059】
アルツハイマー病の病理的特徴としてアミロイドβタンパク質(Aβ)の凝縮・蓄積が挙げられる。Aβ1-42はアルツハイマー病神経毒性に関与するAβフラグメントであり、細胞死を引き起こす。Aβ1-42処理BV2細胞においてセサミン及びセサミノールがAβ1-4ペプチドのファゴサイトーシスに与える影響を調べた。その結果、セサミン及びセサミノールは、Aβ1-4ペプチドのファゴサイトーシスを促進した(図4A)。また、Aβ1-42処理BV2細胞においてセサミン及びセサミノールがM1マクロファージ活性に与える影響を調べた。その結果、セサミン及びセサミノールは、Aβ1-42処理により上昇したM1マクロファージマーカー(IL-6、IL-1β、TNF-α、CCL5、及びMCP-1)のmRNA発現を抑制した(図4B)。さらに、Aβ1-42処理BV2細胞においてセサミン及びセサミノールが酸化ストレス関連遺伝子及びアポトーシス関連遺伝子の発現に与える影響を調べた。その結果、セサミン及びセサミノールは、Aβ1-42処理により低下したCAT、SOD-1、及びBcl-2のmRNA発現を上昇させ、反対に、上昇したiNOS、COX-2、Bax、及びCaspase-3のmRNA発現を抑制した(図4C)。また、Aβ1-42処理BV2細胞においてセサミン及びセサミノールがNrf-2/HO-1経路関連遺伝子(Nrf-2、HO-1、NQO1、GCLM、GCLC)の発現に与える影響を調べた。その結果、セサミン及びセサミノールは、Aβ1-42処理により低下したNrf-2/HO-1経路関連遺伝子のmRNA発現を上昇させた(図5A)。最後に、Aβ1-42処理BV2細胞においてセサミン及びセサミノールが抗酸化物質(SOD、GSH、及びCAT)の活性に与える影響を調べた。その結果、セサミン及びセサミノールは、Aβ1-42により低下した抗酸化物質の活性を上昇させた(図5B)。これらの結果から、セサミン及びセサミノールはAβ1-42による細胞死を抑制すること、また、当該細胞死の抑制には、酸化ストレス及びアポトーシスの抑制が関与していることが分かった。
【0060】
実施例5.セサミノール又はセサミンは、記憶障害、及びうつ症状の改善、並びに筋力の向上に働く。
【0061】
2か月齢及び12か月齢の雌C57BL/6マウスを以下の実験に使用した。セサミン及びセサミノールは3%ジメチルスルホキシドを含むオリーブ油で希釈した。2週間順応させた後、2か月齢の若いマウス群(Young-C、n=12)、並びに、12か月齢の老化マウスをコントロール群(Old-C、n=12)、セサミン投与群(Sesamin 50、n=12、50 mg/kg/日のセサミンを投与)、低用量セサミノール投与群(Sesaminol 10、n=12、10 mg/kg/日のセサミノールを投与)、高用量セサミノール投与群(Sesaminol 50、n=12、50 mg/kg/日のセサミノールを投与)の5つのグループに分けた。若いマウス群及び老化マウスのコントロール群には、3%ジメチルスルホキシドを含有する0.2 mlのオリーブ油を与えた。全てのマウスを以下の行動実験(1)~(5)に供した。
【0062】
(1) Y型迷路試験
Y型迷路試験は,同じ大きさの3本のアーム(A, B, Cとする)が 120°で連結された装置を使って行う空間記憶を評価するための行動実験である。本試験は直前に進入したアームとは異なったアームに入ろうとするマウスの習性を利用した試験である。具体的には、次のようにして行った。試験には4週間処理後のマウスを用いた。まず、アームAにマウスを置き、自由に8分間移動させた。試行時間の中で3回連続して異なるアームに侵入した回数の割合を短期記憶の指標とした。マウスは、新しい場所に置かれると探検行動(exploratory behavior)を示すため、直前に入っていたアームを「探検済みアーム」、直前に入っていたアームと異なるアームを「新奇アーム」とし、それぞれのアームに進入した回数を記録した。なお、進入したとの判断は、後足がアームに入ったことによりなされ、前足だけがアームに入った場合は進入したとは判断しなかった。仮に、マウスの移動パターンが A, B, C, A, B, C であった場合、自発行動(spontaneous locomotor activity)と空間作業記憶(spatial working memory)を有すると判断することができる。一方、同じアームに何回も進入するような移動パターンを示す場合は、自分の探検行動を記憶していない、すなわち空間記憶力が低いと判断した。
【0063】
老化マウスのコントロール群は、若いマウス群に比べて探検済みアームへ侵入した回数の割合が高く、新奇アームへ侵入した回数の割合は低かったのに対して、セサミン投与群及びセサミノール投与群ではコントロール群に比べて探検済みアームへ侵入した回数の割合が低く、新奇アームへ侵入した回数の割合は高かった(図6A)。
【0064】
(2) 新奇物体認識試験
新奇物体認識試験は、新奇性を好むげっ歯類の特性を利用した、記憶を調べる試験である。具体的には、次のようにして行った。試験には5週間処理後のマウスを用いた。マウスに2つ以上の物体を自由に探索させ、一定時間経過後、物体の1つを別の新奇な物体に置き換えた。記憶が正常に機能している場合、マウスは、新奇な物体により長い時間探索行動を示す。このため、全ての物体の探索時間が同じであれば、記憶が正常に機能していないと解釈することができる。
【0065】
短期記憶試験及び長期記憶試験のいずれにおいても、老化マウスのコントロール群は若いマウス群に比べて識別指数及び認識指数が有意に低下したのに対して、セサミン投与群、低用量セサミノール投与群、高用量セサミノール投与群ではコントロール群に比べて識別指数及び認識指数が有意に増加した(図6B)。
【0066】
(3) 受動回避試験
受動回避試験は、長期記憶を調べるための試験である。具体的には次のようにして行った。試験には8週間処理後のマウスを用いた。連結された明箱と暗箱からなる装置内に動物を置いた。マウスは暗い場所を好むため、明箱に置かれると暗箱へ移動する。暗箱内で床から電気ショックが与えられた場合、翌日以降の暗箱への移動を躊躇し、暗室に進入するための時間が遅延する。この場合に、暗箱に入るまでの時間を測定した。
【0067】
老化マウスのコントロール群は若いマウス群に比べて暗室に入るまでの時間が少なかったが、セサミン投与群、低用量セサミノール投与群、高用量セサミノール投与群ではコントロール群に比べて暗室に入るまでの時間が増加した(図6C)。
【0068】
(4) 強制水泳試験
強制水泳試験は、うつ病行動を試験するために使用される試験である。具体的には次のようにして行った。試験には11週間処理後のマウスを用いた。マウスを体が底につかない深さの水に入れ、一定時間、行動観察した。水に入れた直後は、水泳(swimming)、よじ登り(climbing)といった逃避行動(能動的ストレス対処行動)が盛んに生じるが、その後は次第に動きが少なくなり、無動時間(受動的ストレス対処行動)が多くなるという一連の反応を示す。抗うつ薬をあらかじめ投与しておくと無動時間が短縮する。
【0069】
老化マウスのコントロール群は若いマウス群に比べて無動時間が長かったが、セサミン投与群、低用量セサミノール投与群、高用量セサミノール投与群ではコントロール群に比べて無動時間が減少した(図6D)。
【0070】
(5) 握力測定試験
11週間後、各群のマウスの握力を測定した。試験には11週間処理後のマウスを用いた。老化マウスのコントロール群は若いマウス群に比べて握力が弱かったが、セサミン投与群、低用量セサミノール投与群、高用量セサミノール投与群ではコントロール群に比べて握力が強くなった(図6E)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6