(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131605
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】組み合わせシールリング及びハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/82 20060101AFI20230914BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20230914BHJP
F16J 15/43 20060101ALI20230914BHJP
F16J 15/53 20060101ALI20230914BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20230914BHJP
B60B 35/18 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
F16C33/82
F16C19/18
F16J15/43
F16J15/53
F16J15/3232 201
B60B35/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036459
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 将充
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3J006
3J042
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE10
3J006AE12
3J006AE23
3J006AE28
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE40
3J006CA02
3J042AA03
3J042AA09
3J042AA12
3J042BA04
3J042CA10
3J042CA17
3J042DA10
3J043AA02
3J043AA17
3J043CA02
3J043CA05
3J043CA20
3J043CB14
3J043CB20
3J043CB30
3J043DA06
3J043DA07
3J043HA01
3J043HA03
3J043HA04
3J216AA02
3J216AA03
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
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3J216BA16
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3J216CB03
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3J216CB19
3J216CC03
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3J701AA02
3J701AA16
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA73
3J701EA06
3J701EA49
3J701EA68
3J701EA74
3J701FA31
3J701FA38
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】磁性流体の流出を防止することができ、高い密封性能と低トルク化を実現できる、組み合わせシールリング及びハブユニット軸受を提供する。
【解決手段】組み合わせシールリング1aは、内方部材に外嵌され、円筒状の嵌合筒部41と、嵌合筒部41の軸方向の端部から径方向外側に向けて略直角に折れ曲がった円輪状の回転円輪部42とを備えるスリンガ40と、外方部材に内嵌される芯金51と、芯金51に固定され、スリンガ40の表面に対して非接触なシールリップ57を持ったシール部材52とを有する、シールリング50と、スリンガ40の嵌合筒部41と回転円輪部42とにそれぞれ取り付けられる一対の単極着磁部70,71と、一対の単極着磁部70,71の間に保持される、磁性粉末を溶媒に混合してなる磁性流体60と、を備える。シール部材52のシールリップ57は、磁性流体60内に挿入されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同軸に配置された内方部材と外方部材との間に取り付けられて、前記内方部材の外周面と前記外方部材の内周面との間に存在する内部空間の開口部を塞ぐ、組み合わせシールリングであって、
前記内方部材に外嵌され、円筒状の嵌合筒部と、前記嵌合筒部の軸方向の端部から径方向外側に向けて略直角に折れ曲がった円輪状の回転円輪部とを備えるスリンガと、
前記外方部材に内嵌される芯金と、前記芯金に固定され、前記スリンガの表面に対して非接触なシールリップを持ったシール部材とを有する、シールリングと、
前記スリンガの嵌合筒部と前記回転円輪部とにそれぞれ取り付けられる一対の単極着磁部と、
前記一対の単極着磁部の間に保持される、磁性粉末を溶媒に混合してなる磁性流体と、
を備え、
前記シール部材のシールリップは、前記磁性流体内に挿入されている、
組み合わせシールリング。
【請求項2】
前記シールリップは、その先端部が、前記磁性流体内に位置するように形成される、
請求項1に記載の組み合わせシールリング。
【請求項3】
前記シールリップは、磁性ゴム製であり、その先端部が、前記磁性流体を突き抜けて、前記磁性流体から露出している、
請求項1に記載の組み合わせシールリング。
【請求項4】
前記シールリップに対して外部空間に近い側の前記磁性流体の溶媒は、油系の溶媒とし、
前記シールリップに対して内部空間に近い側の前記磁性流体の溶媒は、水系の溶媒とする、
請求項3に記載の組み合わせシールリング。
【請求項5】
前記シール部材は、前記シールリップに対して外部空間に近い側及び内部空間に近い側にそれぞれ位置し、前記スリンガの表面と接触する外側シールリップ及び内側シールリップをさらに備える、
請求項1~4のいずれか1項に記載の組み合わせシールリング。
【請求項6】
前記スリンガは、前記回転円輪部の径方向外側の端部から軸方向に向けて略直角又は鋭角に折り曲がった外径側円筒部を、さらに備え、
前記スリンガの前記回転円輪部と前記外径側円筒部とには、他の一対の単極着磁部が取り付けられており、
前記シール部材は、前記他の一対の単極着磁部の間に保持される、前記磁性流体内に挿入される、前記スリンガの表面に対して非接触な他のシールリップを有する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の組み合わせシールリング。
【請求項7】
前記一対の単極着磁部に保持される前記磁性流体の溶媒は、水系の溶媒とし、
前記他の一対の単極着磁部に保持される前記磁性流体の溶媒は、油系の溶媒とする、
請求項6に記載の組み合わせシールリング。
【請求項8】
内周面に複列の外輪軌道を有する、外方部材と、
外周面に複列の内輪軌道を有する、内方部材と、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された、複数個の転動体と、
前記外方部材の内周面と前記内方部材の外周面との間に存在する内部空間の軸方向両側の開口部のうち、少なくとも一方の開口部を塞ぐ、請求項1~7のいずれか1項に記載の組み合わせシールリングと、を備える、ハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組み合わせシールリング、及び、組み合わせシールリングを備えたハブユニット軸受に関する。
【0002】
自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するためのハブユニット軸受は、泥水が直接跳ねかかる環境で使用されるため、ハブユニット軸受には高度な密封性能が要求される。一方、ハブユニット軸受に対しては、自動車の燃費を抑える面から回転トルクを低く抑えることが求められる。
【0003】
ハブユニット軸受は、懸架装置に支持された外輪の内側に、複数の転動体を介して、車輪を固定したハブを回転自在に支持している。転動体が設置された内部空間には、グリースなどの潤滑剤を封入し、内部空間の開口部を密封部材により塞いでいる。このため、密封部材の性能が、ハブユニット軸受に対して要求される密封性能や低トルク化などの性能に与える影響は大きい。
【0004】
図9は、特許文献1に記載された、密封部材である組み合わせシールリングの従来構造を示している。組み合わせシールリング1は、ハブに外嵌されるスリンガ2と、外輪に内嵌されるシールリング3と、磁性流体シール4とを備える。
【0005】
スリンガ2は、金属板製で、L字形の断面形状を有し、全体が円環状に構成されている。スリンガ2は、ハブに外嵌固定するための嵌合筒部5と、嵌合筒部5の軸方向一方側(
図9の右側)の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった回転円輪部6とを備える。
【0006】
シールリング3は、金属板製で、略L字形の断面形状を有し、全体が円環状に構成された芯金7と、芯金7に固定された、弾性材製のシール部材8とを備える。シール部材8は、3本のシールリップ9a~9cを有する。
【0007】
最も外部空間に近い側に配置された、サイドリップと呼ばれるシールリップ9aは、軸方向一方側に向かうほど径方向外側に向かう方向に伸長している。シールリップ9aの先端部は、回転円輪部6の軸方向他方側(
図9の左側)の側面に対し、隙間を介して対向している。
【0008】
最も内部空間に近い側に配置された、グリースリップと呼ばれるシールリップ9bは、軸方向他方側に向かうほど径方向内側に向かう方向に伸長している。シールリップ9bの先端部は、嵌合筒部5の外周面に全周にわたり接触している。シールリップ9aとシールリップ9bとの間部分に配置された、ダストリップと呼ばれるシールリップ9cは、軸方向一方側に向かうほど径方向内側に向かう方向に伸長している。シールリップ9cの先端部は、嵌合筒部5の外周面に全周にわたり接触している。
【0009】
磁性流体シール4は、磁化された磁化部材10と、磁性流体11とを有する。磁化部材10は、円環状に構成されており、スリンガ2を構成する回転円輪部6の軸方向一方側の側面に支持されている。磁性流体11は、磁性粉末を溶媒に混合してなり、磁化部材10の磁力によって、シールリップ9aの先端部と回転円輪部6の軸方向他方側の側面との間の隙間に、全周にわたり保持されている。
【0010】
以上のような従来構造の組み合わせシールリング1は、シールリップ9aの先端部と回転円輪部6の軸方向他方側の側面との間の隙間を、磁性流体11によりシールすることができる。このため、組み合わせシールリング1によれば、ハブの回転トルクの上昇を低く抑えつつ、ハブと外輪との間に存在する内部空間の開口部を塞ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、磁化部材10の磁力をスリンガ2の軸方向他方側の側面まで到達させるためには、スリンガ2の材料は非磁性材料である必要がある。
【0013】
ただし、磁化部材10がエンコーダである場合、スリンガ2の材料を非磁性材料とすると、バックヨークが失われた状態となるため、エンコーダの出力が低下し、着磁もしにくい。
また、磁化部材10がエンコーダでない場合においても、磁化部材10のバックヨークがなく、スリンガ2の板厚分だけ磁化部材10から離れた状態となるので、スリンガ2の軸方向他方側の側面における磁束密度が低下し、磁性流体11を保持しにくい。
【0014】
さらに、
図9の組み合わせシールリング1では、磁性流体11に当接するシールリップ9aは、最も外部空間に近い側に配置されているので、磁性流体11の溶媒が蒸発したり、スプラッシュにより磁性流体11が流出したりしやすい。
【0015】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、磁性流体の流出を防止することができ、高い密封性能と低トルク化を実現できる、組み合わせシールリング及びハブユニット軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の上記目的は、以下の構成によって達成される。
[1] 互いに同軸に配置された内方部材と外方部材との間に取り付けられて、前記内方部材の外周面と前記外方部材の内周面との間に存在する内部空間の開口部を塞ぐ、組み合わせシールリングであって、
前記内方部材に外嵌され、円筒状の嵌合筒部と、前記嵌合筒部の軸方向の端部から径方向外側に向けて略直角に折れ曲がった円輪状の回転円輪部とを備えるスリンガと、
前記外方部材に内嵌される芯金と、前記芯金に固定され、前記スリンガの表面に対して非接触なシールリップを持ったシール部材とを有する、シールリングと、
前記スリンガの嵌合筒部と前記回転円輪部とにそれぞれ取り付けられる一対の単極着磁部と、
前記一対の単極着磁部の間に保持される、磁性粉末を溶媒に混合してなる磁性流体と、
を備え、
前記シール部材のシールリップは、前記磁性流体内に挿入されている、
組み合わせシールリング。
[2] 内周面に複列の外輪軌道を有する、外方部材と、
外周面に複列の内輪軌道を有する、内方部材と、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された、複数個の転動体と、
前記外方部材の内周面と前記内方部材の外周面との間に存在する内部空間の軸方向両側の開口部のうち、少なくとも一方の開口部を塞ぐ、[1]に記載の組み合わせシールリングと、を備える、ハブユニット軸受。
【発明の効果】
【0017】
本発明の組み合わせシールリング及びハブユニット軸受によれば、磁性流体の流出を防止することができ、高い密封性能と低トルク化を実現できる。
特に、本発明は、スリンガの嵌合筒部と前記回転円輪部とに取り付けられた一対の単極着磁部の間に磁性流体を保持するようにしたので、スリンガの材料や厚さに影響されることなく、磁性流体を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の組み合わせシールリングが適用される、ハブユニット軸受の断面図である。
【
図2】(a)は、第1実施形態の組み合わせシールリングを示す、
図1のX部拡大図であり、(b)は、第1実施形態の変形例の組み合わせシールリングを示す、
図2(a)に相当する図である。
【
図3】(a)は、第2実施形態の組み合わせシールリングを示す、
図2(a)に相当する図であり、(b)は、第2実施形態の変形例の組み合わせシールリングを示す、
図2(a)に相当する図である。
【
図4】(a)は、第3実施形態の組み合わせシールリングを示す、
図2(a)に相当する図であり、(b)は、第4実施形態の変形例の組み合わせシールリングを示す、
図2(a)に相当する図である。
【
図5】(a)は、第4実施形態の組み合わせシールリングを示す、
図2(a)に相当する図であり、(b)は、第4実施形態の変形例の組み合わせシールリングを示す、
図2(a)に相当する図である。
【
図6】(a)は、第5実施形態の組み合わせシールリングを示す、
図2(a)に相当する図であり、(b)は、第5実施形態の変形例の組み合わせシールリングを示す、
図2(a)に相当する図である。
【
図7】(a)は、第6実施形態の組み合わせシールリングを示す、
図2(a)に相当する図であり、(b)は、第6実施形態の第1変形例の組み合わせシールリングを示す、
図2(a)に相当する図である。
【
図8】(a)は、第6実施形態の第2変形例の組み合わせシールリングを示す、
図2(a)に相当する図であり、(b)は、第7実施形態の第3変形例の組み合わせシールリングを示す、
図2(a)に相当する図である。
【
図9】ハブユニット軸受に組み込む従来構造の組み合わせシールリングの1例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1実施形態]
図1~
図2に示すように、第1実施形態のハブユニット軸受12は、内輪回転型で、かつ、駆動輪用のものであって、外方部材に相当する外輪13と、内方部材に相当するハブ14と、複数個の転動体15と、外側密封部材16と、内側密封部材である組み合わせシールリング1aとを備える。
【0020】
なお、ハブユニット軸受12に関して、軸方向外側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側となる
図1~
図8の左側であり、軸方向内側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側となる
図1~
図8の右側である。
【0021】
外輪13は、S53Cなどの中炭素鋼製で、略円筒形状を有している。外輪13は、内周面に、複列の外輪軌道17a、17bを有しており、外周面の軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ18を有している。静止フランジ18は、円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する支持孔19を有する。外輪13は、支持孔19を挿通したボルトにより、懸架装置に対し支持固定され、車輪が回転する際にも回転しない。
【0022】
ハブ14は、外輪13の径方向内側に外輪13と同軸に配置されており、S53Cなどの中炭素鋼製のハブ輪20と、SUJ2などの高炭素クロム鋼製の内輪21とを組み合わせてなる。ハブ14は、外周面のうち、複列の外輪軌道17a、17bと対向する部分に、複列の内輪軌道22a、22bを有している。
【0023】
ハブ輪20は、内輪21を外嵌保持する軸部材であり、軸部23と、回転フランジ24と、パイロット部25とを有している。本例では、ハブユニット軸受12を、駆動輪用としているため、ハブ輪20は、中心部に、軸方向に貫通するスプライン孔26を有する。スプライン孔26には、駆動軸がスプライン係合される。駆動軸は、エンジンや電動モータなどの駆動源により直接回転駆動されるか、又は、トランスミッションを介して回転駆動される。自動車の走行時には、駆動軸によりハブ14を回転駆動することで、ハブ14の回転フランジ24に結合固定された車輪および制動用回転体を回転駆動する。ただし、本発明を、従動輪用のハブユニット軸受に適用する場合には、ハブ輪として中実状のものを使用することができる。
【0024】
軸部23は、ハブ輪20の軸方向内側部から軸方向中間部にわたる範囲に備えられている。軸部23は、軸方向内側部に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径が小さい、内輪21が外嵌される小径部27を有しており、軸方向中間部の外周面に、外側列の内輪軌道22aを有している。軸部23は、小径部27の軸方向外側に隣接する軸方向中間部の外周面に、軸方向内側を向いた段差面28をさらに有している。小径部27は、軸方向内側の端部に、径方向外側に向けて折れ曲がり、内輪21の軸方向内側の端面を押え付けるかしめ部29を有する。
【0025】
回転フランジ24は、ハブ輪20のうち、外輪13の軸方向外側の端部よりも軸方向外側に位置する部分に備えられており、略円輪形状を有している。回転フランジ24は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔30を有する。取付孔30のそれぞれには、スタッド31が圧入されている。スタッド31の先端部には、図示しないナットが螺合される。これにより、車輪を構成するホイール及び制動用回転体を、回転フランジ24の軸方向外側に固定する。本発明を実施する場合には、回転フランジに雌ねじ孔を形成し、該雌ねじ孔にハブボルトを直接螺合することにより、ホイール及び制動用回転体を、回転フランジの軸方向外側に固定しても良い。
【0026】
パイロット部25は、ホイール及び制動用回転体をがたつきのない隙間嵌めで外嵌するためのもので、ハブ輪20の軸方向外側の端部に備えられており、略円筒形状を有している。
【0027】
内輪21は、円環形状を有しており、外周面に内側列の内輪軌道22bを有している。内輪21は、軸部23に備えられた小径部27に締り嵌めで外嵌され、段差面28とかしめ部29により軸方向両側から挟持されている。
【0028】
転動体15のそれぞれは、複列の外輪軌道17a、17bと複列の内輪軌道22a、22bとの間に、それぞれ複数個ずつ、保持器32a、32bにより保持された状態で転動自在に配置されている。これにより、ハブ14は、外輪13の径方向内側に回転自在に支持される。本例では、転動体15として玉を使用しているが、玉に代えて円すいころを使用することもできる。また、本例では、軸方向内側列の転動体15のピッチ円直径と、軸方向外側列の転動体15のピッチ円直径とを互いに同じとしているが、本発明は、軸方向内側列の転動体のピッチ円直径と、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径とが互いに異なる異径PCD型のハブユニット軸受に適用することもできる。
【0029】
外輪13の内周面とハブ14の外周面との間に存在し、かつ、複数の転動体15が設置された環状の内部空間33aには、図示しないグリースを封入している。グリースとしては、従来から知られたものを使用することができる。例えば、基油として、鉱油、或いは、フッ素油、炭化水素油、エステル油などの合成油を用いることができ、増ちょう剤として、リチウム石鹸などの金属石鹸、ウレア、フッ素化合物、ベントナイトなどを用いることができる。また、基油と増ちょう剤とをそれぞれ2種類以上ずつ任意に組み合わせて用いることもできる。さらに、必要に応じて、各種の添加剤(例えば酸化防止剤、防錆剤、極圧剤など)を添加することもできる。
【0030】
内部空間33aに封入したグリースが、外部空間33bに漏洩することを防止するとともに、泥水などの異物が外部空間33bから内部空間33aに侵入することを防止するために、内部空間33aの軸方向外側の開口部を外側密封部材16により塞ぎ、かつ、内部空間33aの軸方向内側の開口部を組み合わせシールリング1aにより塞いでいる。
【0031】
外側密封部材16は、外側芯金34と外側シール部材35とを備える。
外側芯金34は、冷間圧延鋼板などの金属板にプレス加工を施して造られており、略L字形の断面形状を有し、全体が円環状である。外側芯金34は、外輪13の軸方向外側の端部に内嵌固定されている。
【0032】
外側シール部材35は、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、アクリルゴム(ACM)やフッ素ゴム(FKM)などの弾性材製で、外側芯金34の表面に全周にわたり固定されている。外側シール部材35は、少なくとも1本(図示の例では3本)のシールリップ36を有する。シールリップ36は、先端部を、軸部23の外周面又は回転フランジ24の軸方向内側面に全周にわたり摺接させている。
【0033】
組み合わせシールリング1aは、スリンガ40と、シールリング50と、一対の単極着磁部70,71と、磁性流体60とを備える。
【0034】
スリンガ40は、SUS430などのフェライト系ステンレス鋼板、SUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼板、又は防錆処理が施された冷間圧延鋼板(SPCC)などの金属板にプレス加工を施して造られており、略L字形の断面形状を有し、全体が円環状である。スリンガ40は、内輪21の外周面(肩部)に外嵌固定されている。
【0035】
スリンガ40は、内輪21に締り嵌めで外嵌固定される円筒状の嵌合筒部41と、嵌合筒部41の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて略直角に折れ曲がった円輪状の回転円輪部42と、を備えている。
【0036】
シールリング50は、芯金51と、シール部材52とを備える。
【0037】
芯金51は、冷間圧延鋼板などの金属板にプレス加工を施して造られており、略L字形の断面形状を有し、全体が円環状である。芯金51は、外輪13の軸方向内側の端部に内嵌固定された円筒状の固定筒部66と、固定筒部66の軸方向外側の端部から径方向内側に向けて略直角に折れ曲がった円輪状の固定円輪部67とを備える。固定円輪部67は、その径方向内端部が、他の部分よりも軸方向内側となるようにクランク状に屈曲して形成されている。
【0038】
シール部材52は、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、アクリルゴム(ACM)やフッ素ゴム(FKM)などのゴムからなる非磁性ゴム製で、全体が環状に構成されており、芯金51の表面に全周にわたり固定されている。シール部材52は、加硫成形型を用いて加硫成形されており、固定筒部66の内周面及び固定筒部66の軸方向内側の端部を全周にわたり覆った環状覆い部53と、環状覆い部53から連続して、固定円輪部67の軸方向内側面に沿って径方向に延びる円輪状の薄板部54と、薄板部54の径方向内側からそれぞれ伸長し、スリンガ40の表面と接触する又は隙間を介して対向する3本のシールリップ55,56,57とを有する。
【0039】
最も外部空間に近い側に配置されたシールリップ(以下、「外側シールリップ」ともいう)55は、軸方向内側に向かうほど径方向外側に向かう方向に伸長しており、シールリップ55の先端部は、回転円輪部42の軸方向外側面に全周にわたり接触している。
【0040】
最も内部空間に近い側に配置されたシールリップ(以下、「内側シールリップ」ともいう)56は、軸方向外側に向かうほど径方向内側に向かう方向に伸長している。シールリップ56の先端部は、嵌合筒部41の外周面に全周にわたり接触している。
【0041】
シールリップ55とシールリップ56との間部分に配置されたシールリップ(以下、「中間シールリップ」ともいう)57は、軸方向内側に向かうほど径方向内側に向かう方向に伸長している。シールリップ57の先端部は、回転円輪部42の軸方向外側面及び嵌合筒部41の外周面に、隙間を介して対向している。
【0042】
環状覆い部53は、円筒面状の内周面を、スリンガ40の回転円輪部42の外周面に対し、全周にわたり近接対向させている。これにより、環状覆い部53の内周面とスリンガ40の回転円輪部42の外周面との間に、軸方向に延びたラビリンスシール46を形成している。
【0043】
また、一対の単極着磁部70,71は、加硫成形後、軸方向に関して同じ向きに磁化(単極着磁)されて、スリンガ40の嵌合筒部41と回転円輪部42の隅部を跨ぐように、嵌合筒部41の外周面と回転円輪部42の軸方向他方側の側面にそれぞれ取り付けられている。また、単極着磁部70,71の表面は、互いに異なる極性の磁極が斜めに向かう合うように配置されている。
【0044】
磁性流体60は、磁性粉末を溶媒に混合してなり、一対の単極着磁部70,71の間に保持される。磁性流体60を構成する溶媒として、水系(水ベース、水性)又は油系(油ベース、油性)の溶媒を使用している。具体的には、水系の溶媒として、水を使用しており、油系の溶媒として、炭化水素油(アルキルナフタレン)や、フッ素油(パーフルオロポリエーテル)などの合成油を使用している。また、溶媒に混合する磁性粉末としては、従来から知られた各種の磁性粉末を使用することができる。例えば、マグネタイトコロイド、マンガンフェライト、コバルトフェライト、バリウムフェライトなどを使用することができる。
【0045】
なお、軸受内への水侵入防止に主眼を置く場合には、磁性流体の溶媒として水の混ざりにくい油系の溶媒とすればよく、グリース漏れの防止に主眼を置く場合には、磁性流体の溶媒として油の混ざりにくい水系の溶媒とすればよい。
【0046】
そして、シール部材52のシールリップ57は、その先端部が、磁性流体60内に位置するようにして、磁性流体60内に挿入されている。
【0047】
シールリップ57は、スリンガ40の表面と接触しない非接触リップであるものの、シールリップ57の表面とスリンガ40の表面との間の隙間が、単極着磁部70,71によって保持された磁性流体60でシールされる。このため、シールリップ57により、シールトルクを上昇させることなく、スリンガ40とシールリング50との間部分を長期間にわたりシールすることができ、シール性能の向上を図れる。そして、ハブ14の回転トルクを低く抑えつつ、組み合わせシールリング1aの密封性能を長期間にわたり確保することができる。
【0048】
また、磁性流体60は、接触リップである、2枚のシールリップ55,56との間に配置されているので、磁性流体60の溶媒の蒸発や、悪路走行時などに勢い良く跳ね上げられた泥水(スプラッシュ)の流入による磁性流体60の流出を防ぐことができる。
【0049】
さらに、磁性流体60は、非磁性ゴムからなるシールリップ57を貫通する磁束に沿って並ぶため、シールリップ57と磁性流体60との間は密着する上に、摩擦は殆ど発生しない。
【0050】
また、シールリップ57の先端部は、磁性流体60を突き抜けず、磁性流体60内に位置しているので、磁性流体60の飛散を抑制することができる。
【0051】
なお、
図2(b)に示す、第1実施形態の変形例に係る組み合わせシールリング1bのように、回転円輪部42の軸方向内側面に、エンコーダ80が支持固定されてもよい。エンコーダ80は、ゴムや合成樹脂などの高分子材料中に磁性粉末を分散させてなる、ゴム磁石、プラスチック磁石などの永久磁石製で、全体が円輪状に構成されており、回転円輪部42の軸方向内側面及び外周面を全周にわたり覆っている。エンコーダ80は、軸方向に着磁されており、その着磁方向は、円周方向に関して交互にかつ等間隔で変化している。このため、エンコーダ80の被検出面には、S極とN極とが、円周方向に関して交互にかつ等間隔に配置されている。本例では、エンコーダ80の被検出面に対して、図示しないセンサを近接配置し、車輪の回転速度を検出可能としている。エンコーダ80は、円筒面状の外周面を有している。
【0052】
また、この場合、環状覆い部53は、円筒面状の内周面を、エンコーダ80の円筒面状の外周面に対し、全周にわたり近接対向させている。これにより、環状覆い部53の内周面とエンコーダ80の外周面との間に、軸方向に延びたラビリンスシール46を形成している。
【0053】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態の組み合わせシールリングについて、
図3(a)を参照して説明する。
なお、本実施形態を含む以降の実施形態の組み合わせシールリング1c~1nは、いずれも第1実施形態に記載のハブユニット軸受に適用可能である。
【0054】
図3(a)に示すように、スリンガ40は、嵌合筒部41を第1実施形態よりも軸方向内側に延在させ、回転円輪部42の径方向内側部分をクランク状に屈曲させることで、嵌合筒部41の外周面と対向する、円筒状の中間筒部43を形成している。
【0055】
そして、嵌合筒部41の外周面、回転円輪部42の径方向内側円輪部、及び中間筒部43の内周面とで断面U字状の環状凹部68が形成される。また、嵌合筒部41の外周面と、中間筒部43の内周面とには、互いに異なる極性の磁極が対向するように配置され一対の単極着磁部70,71が配置されている。したがって、環状凹部68内に、一対の単極着磁部70,71間に保持された磁性流体60が収容される。
【0056】
これにより、外側シールリップ55から泥水が流入したとしても、泥水が磁性流体60の溶媒と混ざりにくく、磁性流体60が流出する虞を抑制することができる。また、磁性流体60が環状凹部68内に収容されるので、シールリップ57と磁性流体60との接触や相対回転による飛散も抑制することができる。
【0057】
なお、本実施形態においても、シールリップ57の先端部は、磁性流体60を突き抜けず、磁性流体60内に位置しているので、磁性流体60の飛散を抑制することができる。
【0058】
なお、
図3(b)に示す、第2実施形態の変形例に係る組み合わせシールリング1dのように、回転円輪部42の軸方向内側面、及び中間筒部43の外周面に、エンコーダ80が支持固定されてもよい。
その他の構成及び作用効果については、第1実施形態と同じである。
【0059】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態の組み合わせシールリングについて、
図4(a)を参照して説明する。
【0060】
第3実施形態の組み合わせシールリング1eでは、シール部材52の3本のシールリップ55,56,57は、それぞれ分離された状態で、芯金51の表面に固定されている。そして、外側シールリップ55と、内側シールリップ56は、接触リップであり、弾性が要求されるため、非磁性ゴムで形成されているが、これらシールリップ55,56の間の中間シールリップ57は、非接触リップであり、弾性が要求されないため、磁性ゴム(ゴム磁石)で加硫成形型を用いて加硫成形されている。例えば、磁性ゴムは、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、アクリルゴム(ACM)やフッ素ゴム(FKM)などのゴム材料に、フェライトなどの磁性粉末を分散させて形成される。
【0061】
また、中間シールリップ57は、その先端部が、磁性流体60a、60bを突き抜けて、磁性流体60a、60bから露出している。これにより、中間シールリップ57は、中間のシールリップ57と単極着磁部71との間の磁性流体60aと、中間シールリップ57と単極着磁部70との間の磁性流体60bと、を分けて保持することができる。
【0062】
そして、一対の単極着磁部70,71が形成する磁界に中間シールリップ57が挿入されると、磁界が径方向に分極され、磁性流体60a,60bを保持する力が向上し、シールリップ57が磁性流体60a,60bを突き抜けても磁性流体60a,60bを飛散させなくなる。
【0063】
さらに、本実施形態では、シールリップ57に対して外部空間に近い側に溶媒が油系の磁性流体60aを封入し、軸受内への水侵入を防止すると共に、シールリップ57に対して内部空間に近い側に溶媒が水系の磁性流体60bを封入し、軸受封入グリースの漏洩を防止している。
【0064】
すなわち、内部空間33aから遠い側(外部空間33bに近い側)に配置された磁性流体60aの溶媒を、水の混ざりにくい油系の溶媒としているため、磁性流体60aに泥水が接触した場合にも、磁性流体60aを構成する油系の溶媒に、泥水中の水分が取り込まれることはない。したがって、磁性流体60aの濃度が低下することを有効に防止できる。
【0065】
また、グリースが封入された内部空間33aに近い側に配置された磁性流体60bの溶媒を、油の混ざりにくい水系の溶媒としているため、磁性流体60bにグリースが接触した場合にも、磁性流体60bを構成する水系の溶媒に、グリース中の油が取り込まれることはない。したがって、磁性流体60の濃度が低下することを有効に防止できる。
【0066】
なお、
図4(b)に示す、第3実施形態の変形例に係る組み合わせシールリング1fのように、回転円輪部42の軸方向内側面及び外周面に、エンコーダ80が支持固定されてもよい。
その他の構成及び作用効果については、第1実施形態と同じである。
【0067】
[第4実施形態]
次に、第4実施形態の組み合わせシールリングについて、
図5(a)を参照して説明する。
【0068】
第4実施形態の組み合わせシールリング1gでは、スリンガ40は、回転円輪部42の径方向外側の端部から軸方向外側に向けて略直角に折り曲がった外径側円筒部44を、さらに備える。これにより、環状覆い部53の内周面とスリンガ40の外径側円筒部44の外周面との間に、軸方向に延びたラビリンスシール46が形成される。
【0069】
また、スリンガ40の回転円輪部42と外径側円筒部44とには、他の一対の単極着磁部72,73が取り付けられており、他の一対の単極着磁部72,73の間には、磁性流体61が保持される。
【0070】
さらに、本実施形態では、シール部材52の外側シールリップ55(他のシールリップ)は、スリンガ40の表面に対して非接触とし、外側シールリップ55の先端部は、磁性流体61内に挿入される。したがって、本実施形態では、外側シールリップ55と中間シールリップ57とが非接触リップを構成するので、シールトルクを上昇させることなく、スリンガ37とシールリング50との間部分を長期間にわたりシールすることができ、シール性能の向上を図れる。そして、ハブ14の回転トルクを低く抑えつつ、組み合わせシールリング1aの密封性能を長期間にわたり確保することができる。
【0071】
また、本実施形態では、一対の単極着磁部70,71に保持される磁性流体60の溶媒は、水系の溶媒とし、軸受封入グリースの漏洩を防止すると共に、他の一対の単極着磁部72,73に保持される他の磁性流体61の溶媒は、油系の溶媒とし、軸受内への水侵入を防止している。
【0072】
なお、
図5(b)に示す、第4実施形態の変形例に係る組み合わせシールリング1hのように、回転円輪部42の軸方向内側面に、エンコーダ80が支持固定されてもよい。
その他の構成及び作用効果については、第1実施形態と同じである。
【0073】
[第5実施形態]
次に、第5実施形態の組み合わせシールリングについて、
図6(a)を参照して説明する。
【0074】
第5実施形態の組み合わせシールリング1iでは、スリンガ40の外径側円筒部44が、回転円輪部42の径方向外側の端部から軸方向に向けて鋭角に折り曲がっている点において、第4実施形態のものと異なる。
これにより、磁性流体61のスプラシュによる流出をより防止した構造としている。
その他の構成及び作用効果については、第4実施形態と同じである。
【0075】
なお、
図6(b)に示す、第5実施形態の変形例に係る組み合わせシールリング1jのように、回転円輪部42の軸方向内側面に、エンコーダ80が支持固定されてもよい。
【0076】
[第6実施形態]
次に、第6実施形態の組み合わせシールリングについて、
図7(a)を参照して説明する。
【0077】
第6実施形態の組み合わせシールリング1kでは、第4及び第5実施形態と同様に、シール部材52の3本のシールリップ55,56,57のうち、外側シールリップ55と中間シールリップ57とが非接触リップを構成する。このため、外側シールリップ55と中間シールリップ57は、弾性が要求されないため、磁性ゴム(ゴム磁石)で加硫成形型を用いて加硫成形されている。そして、弾性が要求されるシール部材52の環状覆い部53と薄板部54、及び、接触リップである内側シールリップ56は、非磁性ゴムで形成されている。
その他の構成及び作用効果については、第4実施形態と同じである。
【0078】
なお、
図7(b)に示す、第6実施形態の第1変形例に係る組み合わせシールリング1lのように、回転円輪部42の軸方向内側面に、エンコーダ80が支持固定されてもよい。
また、本実施形態の組み合わせシールリング1kでは、スリンガ40の外径側円筒部44が、回転円輪部42の径方向外側の端部から軸方向に向けて直角に折り曲がっているが、
図8(a)に示す、第6実施形態の第2変形例に係る組み合わせシールリング1mのように、スリンガ40の外径側円筒部44が、回転円輪部42の径方向外側の端部から軸方向に向けて鋭角に折り曲がってもよい。
さらに、
図8(b)に示す、第6実施形態の第3変形例に係る組み合わせシールリング1nのように、第2変形例の組み合わせシールリング1mに対して、回転円輪部42の軸方向内側面に、エンコーダ80が支持固定されてもよい。
【0079】
なお、
図7(a)~
図8(b)の組み合わせシールリング1k~1nでは、外側シールリップ55と中間シールリップ57とは、磁性流体60,61を突き抜けない様に挿入されているが、第3実施形態と同様に、外側シールリップ55と中間シールリップ57とは、磁性流体60,61を突き抜ける様にしてもよい。この場合、各磁性流体60,61は、外側シールリップ55と中間シールリップ57の外部空間に近い側に、溶媒が油系の磁性流体を、外側シールリップ55と中間シールリップ57の内部空間に近い側に、溶媒が水系の磁性流体とに、それぞれ異ならせるようにしてもよい。
その他の構成及び作用効果については、第4実施形態と同じである。
【0080】
本発明を実施する場合には、実施の形態の各例の構造を、矛盾が生じない範囲で、適宜組み合わせて実施することができる。
例えば、本発明の組み合わせシールリングは、内部空間の軸方向内側の開口部を塞ぐだけでなく、内部空間の軸方向外側の開口部を塞ぐこともできる。
また、シール部材にシールリップを備える場合には、シールリップの本数及び形状は、実施の形態で示した構造に限定されない。
本発明は、駆動輪用に限らず、従動輪用のハブユニット軸受に適用することができる。
さらに本発明は、いわゆる内輪回転型のハブユニット軸受に限らず、いわゆる外輪回転型のハブユニット軸受に適用することができる。
【0081】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 互いに同軸に配置された内方部材と外方部材との間に取り付けられて、前記内方部材の外周面と前記外方部材の内周面との間に存在する内部空間の開口部を塞ぐ、組み合わせシールリングであって、
前記内方部材に外嵌され、円筒状の嵌合筒部と、前記嵌合筒部の軸方向の端部から径方向外側に向けて略直角に折れ曲がった円輪状の回転円輪部とを備えるスリンガと、
前記外方部材に内嵌される芯金と、前記芯金に固定され、前記スリンガの表面に対して非接触なシールリップを持ったシール部材とを有する、シールリングと、
前記スリンガの嵌合筒部と前記回転円輪部とにそれぞれ取り付けられる一対の単極着磁部と、
前記一対の単極着磁部の間に保持される、磁性粉末を溶媒に混合してなる磁性流体と、
を備え、
前記シール部材のシールリップは、前記磁性流体内に挿入されている、
組み合わせシールリング。
この構成によれば、磁性流体の流出を防止することができ、高い密封性能と低トルク化を実現できる。
【0082】
(2) 前記シールリップは、その先端部が、前記磁性流体内に位置するように形成される、
(1)に記載の組み合わせシールリング。
この構成によれば、磁性流体の飛散を抑制することができる。
【0083】
(3) 前記シールリップは、磁性ゴム製であり、その先端部が、前記磁性流体を突き抜けて、前記磁性流体から露出している、
(1)に記載の組み合わせシールリング。
この構成によれば、シールリップと一対の単極着磁部との間の磁性流体を分けて保持することができ、目的に応じて2種類の異なる磁性流体を利用することができる。
【0084】
(4) 前記シールリップに対して外部空間に近い側の前記磁性流体の溶媒は、油系の溶媒とし、
前記シールリップに対して内部空間に近い側の前記磁性流体の溶媒は、水系の溶媒とする、
(3)に記載の組み合わせシールリング。
この構成によれば、泥水中の水分が、油系の溶媒に、グリース中の油が、水系の溶媒に取り込まれることが抑制でき、磁性流体の濃度が低下することを有効に防止できる。
【0085】
(5) 前記シール部材は、前記シールリップに対して外部空間に近い側及び内部空間に近い側にそれぞれ位置し、前記スリンガの表面と接触する外側シールリップ及び内側シールリップをさらに備える、
(1)~(4)のいずれかに記載の組み合わせシールリング。
この構成によれば、磁性流体は、接触リップである、外側及び内側シールリップとの間に配置されるので、磁性流体の溶媒の蒸発や、悪路走行時などに勢い良く跳ね上げられた泥水の流入による磁性流体の流出を防ぐことができる。
【0086】
(6) 前記スリンガは、前記回転円輪部の径方向外側の端部から軸方向に向けて略直角又は鋭角に折り曲がった外径側円筒部を、さらに備え、
前記スリンガの前記回転円輪部と前記外径側円筒部とには、他の一対の単極着磁部が取り付けられており、
前記シール部材は、前記他の一対の単極着磁部の間に保持される、前記磁性流体内に挿入される、前記スリンガの表面に対して非接触な他のシールリップを有する、
(1)~(4)のいずれかに記載の組み合わせシールリング。
この構成によれば、2箇所のシールリップによって、ハブの回転トルクをさらに低く抑えつつ、組み合わせシールリングの密封性能を長期間にわたり確保することができる。
【0087】
(7) 前記一対の単極着磁部に保持される前記磁性流体の溶媒は、水系の溶媒とし、
前記他の一対の単極着磁部に保持される前記磁性流体の溶媒は、油系の溶媒とする、
(6)に記載の組み合わせシールリング。
この構成によれば、泥水中の水分が、油系の溶媒に、グリース中の油が、水系の溶媒に取り込まれることが抑制でき、磁性流体の濃度が低下することを有効に防止できる。
【0088】
(8) 内周面に複列の外輪軌道を有する、外方部材と、
外周面に複列の内輪軌道を有する、内方部材と、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された、複数個の転動体と、
前記外方部材の内周面と前記内方部材の外周面との間に存在する内部空間の軸方向両側の開口部のうち、少なくとも一方の開口部を塞ぐ、(1)~(7)のいずれかに記載の組み合わせシールリングと、を備える、ハブユニット軸受。
この構成によれば、磁性流体の流出を防止することができ、高い密封性能と低トルク化を実現できる。
【符号の説明】
【0089】
1、1a、1b、1c、1d、1e、1f、1g、1h、1i、1j、1k、1l、1m、1n 組み合わせシールリング
2 スリンガ
3 シールリング
4 磁性流体シール
5 嵌合筒部
6 回転円輪部
7 芯金
8 シール部材
9a~9c シールリップ
10 磁化部材
11 磁性流体
12 ハブユニット軸受
13 外輪
14 ハブ
15 転動体
16 外側密封部材
17a、17b 外輪軌道
18 静止フランジ
19 支持孔
20 ハブ輪
21 内輪
22a、22b 内輪軌道
23 軸部
24 回転フランジ
25 パイロット部
26 スプライン孔
27 小径部
28 段差面
29 かしめ部
30 取付孔
31 スタッド
32a、32b 保持器
33a 内部空間
33b 外部空間
34 外側芯金
35 外側シール部材
36 シールリップ
40 スリンガ
41 嵌合筒部
42 回転円輪部
43 中間筒部
46 ラビリンスシール
50 シールリング
51 芯金
52、52a シール部材
53 環状覆い部
54 薄板部
55 外側シールリップ
56 内側シールリップ
57 中間シールリップ
58 折れ曲がり部
60、60a、60b、61 磁性流体
66 固定筒部
67 固定円輪部
70、71、72、73 単極着磁部
80 エンコーダ