(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131621
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】アルミニウム材用水系表面処理組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20230914BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20230914BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230914BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230914BHJP
F28F 19/04 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
C09D201/00
C23C26/00 A
C09D7/61
C09D7/63
F28F19/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036490
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】河村 謙太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健
(72)【発明者】
【氏名】山下 毅
(72)【発明者】
【氏名】猪古 智洋
【テーマコード(参考)】
4J038
4K044
【Fターム(参考)】
4J038EA011
4J038HA086
4J038HA216
4J038HA266
4J038HA336
4J038HA376
4J038HA406
4J038HA446
4J038JA69
4J038JB01
4J038JB18
4J038JB26
4J038KA03
4J038KA08
4J038KA20
4J038MA07
4J038MA08
4J038MA13
4J038NA03
4J038PA18
4J038PA19
4J038PB05
4J038PB07
4J038PC02
4K044AA06
4K044AB02
4K044BA21
4K044BB01
4K044BC02
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】優れた耐食性、特に耐孔食性を有する皮膜を形成可能なアルミニウム材用水系表面処理組成物を提供する。
【解決手段】ガラス転移温度が35℃以上であって、25℃での引張貯蔵弾性率が200MPa以上2000MPa以下の樹脂(A)を含むアルミニウム材用水系表面処理組成物(X)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が35℃以上であって、25℃での引張貯蔵弾性率が200MPa以上2000MPa以下の樹脂(A)を含むアルミニウム材用水系表面処理組成物(X)。
【請求項2】
前記樹脂(A)の架橋点間分子量が450以上4500以下である、請求項1に記載のアルミニウム材用水系表面処理組成物(X)。
【請求項3】
無機化合物(B)を含み、前記樹脂(A)に対する前記無機化合物(B)の質量比(無機化合物(B)/樹脂(A))が0.05以上1.0以下である、請求項1又は2に記載のアルミニウム材用水系表面処理組成物(X)。
【請求項4】
前記無機化合物(B)が、Si、Ti、及びZrから選ばれる少なくとも一つの元素を有する、請求項3に記載のアルミニウム材用水系表面処理組成物(X)。
【請求項5】
エポキシ基、アミノ基、オキサゾリン基、及びカルボジイミド基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する有機化合物(C)を含み、前記樹脂(A)に対する前記有機化合物(C)の質量比(有機化合物(C)/樹脂(A))が0.05以上1.0以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のアルミニウム材用水系表面処理組成物(X)。
【請求項6】
全固形分中の前記樹脂(A)の濃度が25質量%以上90質量%以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のアルミニウム材用水系表面処理組成物(X)。
【請求項7】
最低造膜温度が10℃以上70℃以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載のアルミニウム材用水系表面処理組成物(X)。
【請求項8】
ガラス転移温度が35℃以上であって、25℃での引張貯蔵弾性率が200MPa以上2000MPa以下の樹脂(A)を含むアルミニウム材用表面処理皮膜。
【請求項9】
前記樹脂(A)の架橋点間分子量が450以上4500以下である、請求項8に記載のアルミニウム材用表面処理皮膜。
【請求項10】
無機化合物(B)を含み、前記樹脂(A)に対する前記無機化合物(B)の質量比(無機化合物(B)/樹脂(A))が0.05以上1.0以下である、請求項8又は9に記載のアルミニウム材用表面処理皮膜。
【請求項11】
エポキシ基、アミノ基、オキサゾリン基、及びカルボジイミド基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する有機化合物(C)を含み、前記樹脂(A)に対する前記有機化合物(C)の質量比(有機化合物(C)/樹脂(A))が0.05以上1.0以下である、請求項8~10のいずれか一項に記載のアルミニウム材用表面処理皮膜。
【請求項12】
120℃で測定される引張貯蔵弾性率(E’120℃)に対する25℃で測定される引張貯蔵弾性率(E’25℃)の比(E’25℃/E’120℃)が10以上500以下である、請求項8~11のいずれか一項に記載のアルミニウム材用表面処理皮膜。
【請求項13】
表面の対水接触角が40°以上100°以下である、請求項8~12のいずれか一項に記載のアルミニウム材用表面処理皮膜。
【請求項14】
請求項8~13のいずれか一項に記載のアルミニウム材用表面処理皮膜を、0.2μm以上5μm以下の膜厚で有する表面処理アルミニウム材。
【請求項15】
前記表面処理皮膜の表面又は表面上に、別の表面処理組成物(Y)を接触させた後、100℃以上250℃以下で乾燥することで得られる0.4μm以上5μm以下の膜厚の別の皮膜を更に有する請求項14に記載の表面処理アルミニウム材。
【請求項16】
前記表面処理組成物(Y)の表面張力が20mN/m以上50mN/m以下である、請求項15に記載の表面処理アルミニウム材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルミニウム材用の水系表面処理組成物に関する。また、本発明はアルミニウム材用表面処理皮膜及び表面処理アルミニウム材に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム材は、その比重の軽さゆえに、産業上様々な用途に利用されている。とりわけ、自動車、航空機、鉄道等輸送用途に加え、洋上風力産業、地熱産業、燃料アンモニア産業等自然エネルギーによる電力産業で利用されている。しかしながら、腐食、特に孔食は、Clを含んでいる環境中で使用されるアルミニウム材にとっては、重要な問題であり、アルミニウム材の腐食防止がアルミニウム業界で求められている。
【0003】
表面処理は腐食防止を達成するための有効なアプローチの1つである。アルミニウム材に対して陽極酸化処理やクロメート処理等を施すことで腐食を防止することは周知である。但し、処理設備に要する高い処理コスト、あるいは六価クロム等公害になる化合物を含有することが、それらの処理方法で問題となる。
【0004】
このような背景から、六価クロムを使用しない化成処理方法が提案されている。
特許文献1には、(a)Zr、Ti、Hfから選ばれる1種以上の金属のフッ素系化合物を金属イオンとして1~5000質量ppm、(b)3価Crイオンを1~5000質量ppm、(c)Fe、Co、Zn、Mn、Mg、Ca、Sr、Al、Sn、Ce、Mo、W、Nb、Y、及びLaから選ばれる1種以上の金属イオンを1~5000質量ppm、及び(d)分子内に少なくとも1個のアミジノ基を有する化合物を1~10000質量ppm含み、pHが2.5~6の水性液である金属用表面処理剤が開示されている。
【0005】
特許文献2には、リチウム化合物と、炭酸化合物と、及び酸化剤を含むことを特徴とする耐食性、特に耐孔食性に優れたアルミニウム及びアルミニウム合金用クロムフリー表面処理組成物が開示されている。
【0006】
特許文献3には、少なくとも一方の表面にめっき層の上層として、平均厚みが0.5~4μmの潤滑樹脂層を有する亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板であって、前記潤滑樹脂層が、主成分であるポリウレタン系樹脂を50~95質量%含み、酸価が10未満のアクリル-スチレン系樹脂、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂のうちから選ばれた1種又は2種以上の樹脂を合計で5~50質量%含有する潤滑樹脂層であり、該潤滑樹脂層がさらにジルコニウム化合物を含有することを特徴とする亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板について開示されている。
【0007】
特許文献4には、シクロヘキサン環構造を有するポリイソシアネート(A)と、窒素原子を含まずベンゼン環を含むポリオール(B)と、ベンゼン環及び窒素原子を含まない重量平均分子量が600超のジオール(C)と、ベンゼン環及び窒素原子を含まない重量平均分子量が500以下のジオール(D)と、活性水素を2個以上有する第3級アミン化合物(E)を反応させて得られるウレタンプレポリマーと、水および第三級アミンを含まないポリアミン化合物の少なくとも一方とを反応させて得られるウレタン樹脂を含有する金属表面処理組成物について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-239016号公報
【特許文献2】特開2005-008948号公報
【特許文献3】特開2009-107311号公報
【特許文献4】国際公開第2017/081731号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、化成処理方法には、一般に不十分な耐食性等の問題点がある。例えば、特許文献1の耐食性について、中性塩水噴霧試験(NSS)を行い、120時間後の発錆面積率を測定するという、比較的緩やかな腐食環境かつ短時間における評価においてアルミニウムダイキャスト板の耐食性が確認されているに過ぎない。耐食性が不十分な場合には、皮膜の欠陥部における孔食等の局部腐食発生が著しくなる。孔食の侵食は深く進行するため、アルミニウム材に対して、均一腐食が発生する場合よりもさらに有害である。また、特許文献2の耐食性について、NSSを行い、250時間後でも優れた耐食性を示しているが、より厳しい腐食環境(例えば、酸性環境)での耐食性は確認されていない。特許文献3および特許文献4の耐食性についても、NSSにおいて240時間後の優れた耐食性が確認されているが、より厳しい腐食環境(例えば、酸性環境)での耐食性は確認されていない。
【0010】
従って、本発明は一実施形態において、優れた耐食性、特に耐孔食性を有する皮膜を形成可能なアルミニウム材用水系表面処理組成物を提供することを課題とする。本発明は更なる実施形態において、アルミニウム材用表面処理皮膜及び表面処理アルミニウム材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、樹脂のガラス転移温度が35℃以上であって、25℃での引張貯蔵弾性率が200MPa以上2000MPa以下の樹脂(A)を含有する水系表面処理剤は、優れた耐食性、特に耐孔食性を有する皮膜をアルミニウム材の表面又は表面上に形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下のように例示される。
[1]
ガラス転移温度が35℃以上であって、25℃での引張貯蔵弾性率が200MPa以上2000MPa以下の樹脂(A)を含むアルミニウム材用水系表面処理組成物(X)。
[2]
前記樹脂(A)の架橋点間分子量が450以上4500以下である、[1]に記載のアルミニウム材用水系表面処理組成物(X)。
[3]
無機化合物(B)を含み、前記樹脂(A)に対する前記無機化合物(B)の質量比(無機化合物(B)/樹脂(A))が0.05以上1.0以下である、[1]又は[2]に記載のアルミニウム材用水系表面処理組成物(X)。
[4]
前記無機化合物(B)が、Si、Ti、及びZrから選ばれる少なくとも一つの元素を有する、[3]に記載のアルミニウム材用水系表面処理組成物(X)。
[5]
エポキシ基、アミノ基、オキサゾリン基、及びカルボジイミド基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する有機化合物(C)を含み、前記樹脂(A)に対する前記有機化合物(C)の質量比(有機化合物(C)/樹脂(A))が0.05以上1.0以下である、[1]~[4]のいずれか一項に記載のアルミニウム材用水系表面処理組成物(X)。
[6]
全固形分中の前記樹脂(A)の濃度が25質量%以上90質量%以下である、[1]~[5]のいずれか一項に記載のアルミニウム材用水系表面処理組成物(X)。
[7]
最低造膜温度が10℃以上70℃以下である、[1]~[6]のいずれか一項に記載のアルミニウム材用水系表面処理組成物(X)。
[8]
ガラス転移温度が35℃以上であって、25℃での引張貯蔵弾性率が200MPa以上2000MPa以下の樹脂(A)を含むアルミニウム材用表面処理皮膜。
[9]
前記樹脂(A)の架橋点間分子量が450以上4500以下である、[8]に記載のアルミニウム材用表面処理皮膜。
[10]
無機化合物(B)を含み、前記樹脂(A)に対する前記無機化合物(B)の質量比(無機化合物(B)/樹脂(A))が0.05以上1.0以下である、[8]又は[9]に記載のアルミニウム材用表面処理皮膜。
[11]
エポキシ基、アミノ基、オキサゾリン基、及びカルボジイミド基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する有機化合物(C)を含み、前記樹脂(A)に対する前記有機化合物(C)の質量比(有機化合物(C)/樹脂(A))が0.05以上1.0以下である、[8]~[10]のいずれか一項に記載のアルミニウム材用表面処理皮膜。
[12]
120℃で測定される引張貯蔵弾性率(E’120℃)に対する25℃で測定される引張貯蔵弾性率(E’25℃)の比(E’25℃/E’120℃)が10以上500以下である、[8]~[11]のいずれか一項に記載のアルミニウム材用表面処理皮膜。
[13]
表面の対水接触角が40°以上100°以下である、[8]~[12]のいずれか一項に記載のアルミニウム材用表面処理皮膜。
[14]
[8]~[13]のいずれか一項に記載のアルミニウム材用表面処理皮膜を、0.2μm以上5μm以下の膜厚で有する表面処理アルミニウム材。
[15]
前記表面処理皮膜の表面又は表面上に、別の表面処理組成物(Y)を接触させた後、100℃以上250℃以下で乾燥することで得られる0.4μm以上5μm以下の膜厚の別の皮膜を更に有する[14]に記載の表面処理アルミニウム材。
[16]
前記表面処理組成物(Y)の表面張力が20mN/m以上50mN/m以下である、[15]に記載の表面処理アルミニウム材。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、アルミニウム材の表面又は表面上に、優れた耐食性、特に耐孔食性を有する皮膜を形成可能なアルミニウム材用水系表面処理組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<1.表面処理組成物(X)及び表面処理皮膜>
本発明の一実施形態によれば、ガラス転移温度が35℃以上であって、25℃での引張貯蔵弾性率が200MPa以上2000MPa以下の樹脂(A)を含むアルミニウム材用水系表面処理組成物(X)が提供される。また、本発明の別の一実施形態によれば、ガラス転移温度が35℃以上であって、25℃での引張貯蔵弾性率が200MPa以上2000MPa以下の樹脂(A)を含むアルミニウム材用表面処理皮膜が提供される。
【0015】
樹脂(A)のガラス転移温度の下限値は35℃以上であることが好ましく、55℃以上であることがより好ましく、75℃以上であることが更により好ましい。樹脂(A)のガラス転移温度の上限値は120℃以下であることが好ましく、110℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることが更により好ましい。
【0016】
樹脂(A)の25℃での引張貯蔵弾性率は200MPa以上2000MPa以下であることが好ましい。樹脂(A)の25℃での引張貯蔵弾性率の下限値は、300MPa以上であることがより好ましく、500MPa以上であることが更により好ましい。樹脂(A)の25℃での引張貯蔵弾性率の上限値は、1900MPa以下であることがより好ましく、1800MPa以下であることが更により好ましい。当該引張貯蔵弾性率が200MPa未満の場合、皮膜が粘着質となりアルミニウムに対する密着性が得られない。2000MPa超の場合、皮膜が硬くなりすぎ、この場合もプレス加工等を受けた後に皮膜の密着性が得られない。
【0017】
樹脂(A)のガラス転移温度及び引張貯蔵弾性率は、JIS-K-7244-1:1998に示される方法にて測定される。具体的には、動的粘弾性測定によって引張りモードにおけるフィルム状の試験片の温度分散測定を行うことで測定される。幅4.0mm×長さ50.0mm×厚さ約0.5mmの試験片に引張り応力(50.0N)及び周期的な振動(10.0Hz)を与え、-20℃から200℃の範囲を昇温速度5.0℃/minで温度掃引しながら応力と位相差を測定することで各温度における試験片の貯蔵弾性率、損失弾性率が求まる。貯蔵弾性率は弾性項、損失弾性率は粘性項であり、ガラス転移温度が相構造の変化を表すことを示すため、tanδ=損失弾性率/貯蔵弾性率が極大になる温度がガラス転移温度である。貯蔵弾性率は、皮膜の硬さ等外部刺激を与えた場合に直ちに反応する力である。一方、損失弾性率は外部刺激に対して拡散する力であり、粘性成分に例えられる。ガラス転移温度は、転移域を境に低温側では弾性が支配的になりガラス領域と呼ばれ、高温側では粘性が支配的となりゴム領域と呼ばれる。本発明において、共重合物の樹脂などでガラス転移温度が複数確認される場合は、低温側の温度をその樹脂のガラス転移温度と定義する。
【0018】
樹脂(A)としては、ガラス転移温度が35℃以上であって、25℃での引張貯蔵弾性率が200MPa以上2000MPa以下である限り、特に限定されるものではないが、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エステル樹脂、アミド樹脂、ビニル樹脂、シリコーン樹脂、及びポリビニルアルコール等が挙げられる。樹脂(A)は、単重合物(単重合物の側鎖を他の化合物で変性させた変性物を含む。)であっても、これらの樹脂や変性物を得るための単量体を2種以上組み合わせて重合することで得られる共重合物であってもよい。また、樹脂(A)は、1種を使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
樹脂(A)は、これらのうち、カルボキシ基及び/又はスルホ基を持つアニオン性樹脂であることが望ましく、これら官能基を有していればアミノ基、アミド基、ヒドロキシ基等の他の官能基を分子構造中に有してもかまわない。
【0020】
さらに、樹脂(A)の重量平均分子量の下限値は、2,000以上であることが好ましく、4,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがより好ましい。樹脂(A)の重量平均分子量の上限値は、1,000,000以下であることが好ましく、800,000以下であることがより好ましく、500,000以下であることが更により好ましい。1種の樹脂(A)は、これらの官能基を1種有するものであってもよいし、2種以上有するものであってもよい。
【0021】
本発明において樹脂(A)の重量平均分子量はGPC法により測定される。実施例における重量平均分子量の測定は以下の条件で行った。
高速GPC装置(HLC-8320GPC:東ソー株式会社製)を用いて測定し、SECカラム及びガードカラムの組み合わせにて重量平均分子量を求めた。測定は以下の条件で行った。
SECカラム:TSKgel SuperAWM-H(東ソー株式会社製)
ガードカラム:TSKgurdcolumn SuperAW-H(東ソー株式会社製)
検出器:RI(HLC-8320GPC内蔵検出器)
標準試料:ポリスチレン
試料注入量:0.06%DMF溶液30μL
流速:0.5mL/min
溶離液:DMF/100mM LiBr/60mM H3PO4
【0022】
樹脂(A)は、架橋点間分子量が450以上4500以下であることが好ましく、1000以上4250以下であることがより好ましく、1500以上4000以下であることが更により好ましい。架橋点間分子量が450以上であることで、皮膜割れや、皮膜の飛散等の不具合が発生するのを抑制する効果が高まる。架橋点間分子量が4500以下であることで、皮膜の粘着性の上昇が抑えられるので、表面処理皮膜を重ねた場合に剥がしにくくなるブロッキング現象が発生しにくくなる。架橋点間分子量は、以下の式によって求めることができる。
E’=3ρRT/Mc
E’は引張貯蔵弾性率の極小値(Pa)、ρは試料密度(g/m3)、Rは気体定数(J/(K・mol))、Tは引張貯蔵弾性率が極小値を示す温度(K)、Mcは架橋点間分子量(g/mol)である。引張貯蔵弾性率の極小値は、先述した動的粘弾性測定によって引張りモードにおけるフィルム状の試験片の温度分散測定を行うことで求められる貯蔵弾性率の温度変化のグラフから読み取ることのできる極小値を指す。
【0023】
樹脂(A)は、酸価が5mgKOH/g以上100mgKOH/g以下のアニオン性樹脂であることが好ましく、酸価が15mgKOH/g以上95mgKOH/g以下のアニオン性樹脂であることがより好ましく、酸価が25mgKOH/g以上90mgKOH/g以下のアニオン性樹脂であることが更により好ましい。
【0024】
樹脂(A)の酸価はJIS-K-0070-1992に規定される電位差滴定法にて測定される。
【0025】
樹脂(A)は、アニオン性官能基以外に、カルボニル基(-C(=O)-)を有することが好ましい。カルボニル基はウレタン結合、エステル結合、及びアミド結合から選ばれる少なくとも一つの結合を有していることがより好ましい。カルボニル基は酸価由来のカルボキシ基等イオンを形成する官能基に加え、非イオン性の官能基が必要である。この非イオン性の官能基はIRで検出することができ、1740~1600cm-1に現れる。この範囲を除いて現れる官能基はイオン性官能基と捉える。非イオン性の官能基を持つことによって、アルミニウムとの密着性や皮膜自身の造膜性が向上する。
【0026】
本発明の一実施形態に係る表面処理組成物(X)及び表面処理皮膜における全固形分中の樹脂(A)の濃度の下限値は、25質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることが更により好ましい。本発明の一実施形態に係る表面処理組成物(X)及び表面処理皮膜における全固形分中の樹脂(A)の濃度の上限値は、99質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることが更により好ましい。
【0027】
表面処理組成物(X)の最低造膜温度の下限値は、10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることが更により好ましい。表面処理組成物(X)の最低造膜温度の上限値は、70℃以下であることが好ましく、60℃以下であることがより好ましく、50℃以下であることが更により好ましい。最低造膜温度はJIS-K-6828-2:2003に示される方法にて測定される。具体的には、表面処理組成物(X)を造膜温度試験機上にアプリケータを用いて0.1mmの厚さに塗布し、均一な乾燥膜を形成する最低の温度を読み取ることで最低造膜温度が求まる。
【0028】
本発明の一実施形態に係る表面処理組成物(X)及び表面処理皮膜は、無機化合物(B)を含有してもよい。無機化合物(B)としては、特に限定するものではないが、シリカ、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の酸化物、硫酸チタン、硫酸ジルコニウム等の硫酸塩、炭酸ジルコニウム等の炭酸塩、オキシ硝酸ジルコニウム等の硝酸塩、ケイ酸塩、チタン酸塩、ジルコン酸塩、リン酸塩、金属塩化物等(例:塩化チタン、塩化ケイ素、塩化ジルコニウム)の金属ハロゲン化物、フッ化ケイ素、フッ化チタン、フッ化ジルコニウム等の金属フッ化物、臭化リチウム等のアルカリ金属塩、硝酸マグネシウム等のアルカリ土類金属塩、水酸化アルミニウム等の水酸化物等が挙げられる。無機化合物(B)は、これらの中でもSi、Ti、及びZrから選ばれる少なくとも一つの元素を有することが好ましい。無機化合物(B)は1種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
ここで、無機化合物(B)は、粒子状であってもよいし、多孔質状であってもよく、特に制限されない。無機化合物(B)としては、平均粒径が、通常1nm以上100nm以下、好ましくは5nm以上80nm以下、より好ましくは15nm以上70nm以下の範囲にあるものが用いられる。無機化合物(B)の平均粒径は、レーザー回折/散乱式の粒子径分布測定装置により測定される体積基準のメジアン径を指す。また、無機化合物(B)の表面処理組成物(X)中の含有量は、通常3質量%以上30質量%以下の範囲で選ばれる。この含有量が3質量%以上であることにより、所望の膜厚の皮膜を形成しやすくなり、乾燥時間も短時間で済む。また、30質量%以下であることで塗工液の安定性が向上しやすい。皮膜形成性、乾燥性及び塗工液の安定性等を考慮すると、この無機化合物粒子の好ましい含有量は、5質量%以上25質量%以下の範囲であり、特に5質量%以上15質量%以下の範囲が好適である。
【0030】
従って、例えば無機化合物(B)としてシリカを使用する場合、シリカは、コロイド状であってもよいし、気相シリカであってもよく、多孔質シリカであってもよく、特に制限されない。コロイダルシリカを使用する場合、平均粒径が、通常1nm以上100nm以下、好ましくは5nm以上80nm以下、より好ましくは15nm以上70nm以下の範囲にあるものが用いられる。コロイダルシリカの平均粒径は、レーザー回折/散乱式の粒子径分布測定装置により測定される体積基準のメジアン径を指す。また、コロイダルシリカ粒子の表面処理組成物(X)中の含有量は、通常3質量%以上30質量%以下の範囲で選ばれる。この含有量が3質量%以上であることにより、所望の膜厚の皮膜を形成しやすくなり、乾燥時間も短時間で済む。また、30質量%以下であることで塗工液の安定性が向上しやすい。皮膜形成性、乾燥性及び塗工液の安定性等を考慮すると、このコロイダルシリカ粒子の好ましい含有量は、5質量%以上25質量%以下の範囲であり、特に5質量%以上15質量%以下の範囲が好適である。このコロイダルシリカ粒子としては、シリカのコロイドゾルとして市販されているものを用いることができる。
【0031】
表面処理組成物(X)及び表面処理皮膜は、樹脂(A)に対する無機化合物(B)の質量比(無機化合物(B)/樹脂(A))が0.05以上1.0以下であることが好ましく、0.1以上0.9以下であることがより好ましく、0.2以上0.8以下であることが更により好ましい。当該質量比が0.05以上であることで、架橋が促進されて耐食性が向上しやすく、当該質量比が1.0以下であることで、皮膜剥離や水への溶解を起こしにくくなる。
【0032】
本発明の一実施形態に係る表面処理組成物(X)及び表面処理皮膜は、樹脂(A)とは別の有機化合物(C)を含有してもよい。有機化合物(C)としては特に限定されるものではないが、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、アミン樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリカルボジイミド樹脂等を挙げることができる。なお、有機化合物(C)は、これらの樹脂の単重合物(単重合物の側鎖を他の化合物で変性させた変性物等を含む。)であっても、これらの樹脂や変性物を得るための単量体を2種以上組み合わせて重合することで得られる共重合物であってもよい。これらのうち、エポキシ基、アミノ基、オキサゾリン基、及びカルボジイミド基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する樹脂を用いることが好ましい。有機化合物(C)は1種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。有機化合物(C)を含有する表面処理組成物(X)及び表面処理皮膜は、樹脂(A)に対する有機化合物(C)の質量比(有機化合物(C)/樹脂(A))が0.05以上1.0以下であることが好ましく、0.1以上0.9以下であることがより好ましく、0.2以上0.8以下であることが更により好ましい。
【0033】
表面処理組成物(X)が水系であるというのは、水を含有することを意味する。取り扱いが容易であるという観点から、水としては脱イオン水を用いることが好ましい。水の含有量は、表面処理組成物(X)全量に対して、60~99質量%が好ましく、70~95質量%がより好ましい。
【0034】
表面処理組成物(X)は、水混和性溶媒を含有してもよい。水混和性溶媒としては、水と混合した後、相分離しないものであれば特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類が挙げられる。
【0035】
本発明の一実施形態に係る表面処理皮膜は、表面の対水接触角の下限値が40°以上であることが好ましく、50°以上であることがより好ましく、60°以上であることが更により好ましい。40°以上であることで、水なじみが強くなり過ぎず、皮膜内に水が捕捉されにくくなるので、耐食性が向上する。本発明の一実施形態に係る表面処理皮膜は、表面の対水接触角の上限値が100°以下であることが好ましく、95°以下であることがより好ましく、90°以下であることが更により好ましい。対水接触角が100°以下であることで、表面処理皮膜を形成する際に表面処理組成物(X)をアルミニウム材の表面に均一に塗布しやすくなる。
【0036】
対水接触角は、静止した水が表面処理皮膜と接する部位において、液面と皮膜表面とのなす角を示す。対水接触角は、表面処理皮膜上に滴下した1.0μLの水滴に皮膜表面に平行な方向から光を照射し、光の入射方向と反対側からカメラで着滴10秒後における液滴影を撮影し、θ/2法による画像解析を行うことによって求められる。
【0037】
樹脂(A)、もしくは、樹脂(A)及び無機化合物(B)、もしくは、樹脂(A)及び有機化合物(C)、もしくは、樹脂(A)、無機化合物(B)及び有機化合物(C)を含む表面処理皮膜は、120℃で測定される引張貯蔵弾性率(E’120℃)に対する25℃で測定される引張貯蔵弾性率(E’25℃)の比(E’25℃/E’120℃)の下限値が10以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましく、100以上であることが更により好ましい。E’25℃/E’120℃の上限値は、500以下であることが好ましく、400以下であることがより好ましく、350以下であることが更により好ましい。引張貯蔵弾性率は皮膜の硬さを示し、ガラス転移温度を超える領域での引張貯蔵弾性率は耐熱性のあるゴム領域を示す。この温度範囲での引張貯蔵弾性率の比を維持することで広い温度帯で表面処理皮膜が使用できる。E’25℃/E’120℃が10以上であることで、皮膜が硬くなりすぎるのを防止でき、様々な加工に追従しやすくなる。E’25℃/E’120℃が500以下であることで、高温側の引張貯蔵弾性率が低くなり過ぎず、皮膜の耐久性が向上する。
【0038】
本発明の一実施形態に係る表面処理皮膜の膜厚の下限値は、0.2μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、0.8μm以上であることが更により好ましい。本発明の一実施形態に係る表面処理皮膜の膜厚の上限値は、5μm以下であることが好ましく、4μm以下であることがより好ましく、3μm以下であることが更により好ましい。表面処理皮膜の膜厚は、ISO 2360:2017に準拠した渦電流式膜厚計により測定される。
【0039】
<2.表面処理組成物(Y)>
上記の表面処理皮膜の表面又は表面上には、親水性付与等の目的で別の表面処理組成物(Y)を塗工してもよい。表面処理組成物(Y)は、樹脂(D)を有する。樹脂(D)としては、特に制限されるものではないが、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、アミン樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリカルボジイミド樹脂等を挙げることができる。なお、樹脂(D)は、これらの樹脂の単重合物(単重合物の側鎖を他の化合物で変性させた変性物を含む。)であっても、これらの樹脂や変性物を得るための単量体を2種以上組み合わせて重合することで得られる共重合物であってもよい。これらのうち、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、及びヒドロキシ基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する樹脂を用いることが好ましい。樹脂(D)は、これらの官能基を1種のみ有するものであってもよいし、2種以上有するものであってもよい。また、表面処理組成物(Y)は、樹脂(D)を1種のみ配合してもよいし、2種以上を配合してもよい。表面処理組成物(Y)は、樹脂(D)の他、脱イオン水、水混和性溶媒等を適宜含有することができる。
【0040】
表面処理組成物(Y)の表面張力の下限値は20mN/m以上であることが好ましく、25mN/m以上であることがより好ましく、30mN/m以上であることが更により好ましい。表面処理組成物(Y)の表面張力の上限値は50mN/m以下であることが好ましく、45mN/m以下であることがより好ましく、40mN/m以下であることが更により好ましい。表面張力は表面処理組成物(Y)と気体との界面において、表面処理組成物(Y)がその表面を小さくしようとして働く力を示す。表面張力はプレート法(Wilhelmy法)によって求められる。具体的には、白金プレートを表面処理組成物中に浸漬した際に、表面処理組成物からプレートにかかる引き込み力を測定することによって求められる。
【0041】
<3.表面処理組成物(X)及び(Y)に共通する事項>
表面処理組成物(X)及び(Y)には、フィラー等の粒子、界面活性剤、消泡剤、増粘剤、及び水溶性有機溶剤等の添加剤を適宜加えることができる。界面活性剤にはカチオン性、ノニオン性、アニオン性等のイオン性は特に限定されない。これらのうち、ヒドロキシ基を有する界面活性剤を用いることが好ましい。界面活性剤は、表面張力を下げムラを改善する。消泡剤は泡立ちを抑える。増粘剤は粘度を高める。有機溶剤は、水溶性であれば特に限定されない。アルコール類、ケトン類、有機酸類、アミン類、フラン類、エーテル類、グリコール類等、アルキル級数によらず水溶性有機溶剤を使用することができる。用途に応じてこれらの添加剤を1種又は2種以上使用することができる。
【0042】
但し、これらの各種添加剤の合計質量は、本発明が企図する所望の効果を発揮する観点から、表面処理組成物(X)中の樹脂(A)、無機化合物(B)、及び有機化合物(C)の合計質量に対して、又は、表面処理組成物(Y)の樹脂(D)の質量に対して、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、例えば、0.5~5質量%であることが更により好ましい。
【0043】
表面処理組成物(X)及び(Y)のpHは、本発明の効果を達成し得る限り特に制限はないが、本発明の効果がより優れる点で、pHが3以上11以下の範囲であることが好ましく、pHが3.5以上10.5以下の範囲であることがより好ましく、pHが4以上10以下の範囲であることが更により好ましい。
【0044】
表面処理組成物(X)及び(Y)の固形分濃度については、本発明の効果が達成し得る限り特に制限はないが、本発明の効果がより優れる点で、1質量%以上40質量%以下の範囲であることが好ましく、3質量%以上35質量%以下の範囲であることがより好ましく、5質量%以上30質量%以下の範囲であることが更により好ましい。表面処理組成物(X)及び(Y)の固形分濃度は、JIS-K-5601-1-2:2008に従って加熱残分を測定することで求められる。
【0045】
表面処理組成物(X)及び(Y)は、例えば、上記の各成分を所望の割合で混合し、混合物に対して所要量の水を添加し、撹拌することで調製可能である。
【0046】
<4.表面処理アルミニウム材の製造方法>
本発明の一実施形態によれば、上述した表面処理組成物(X)を用いた表面処理アルミニウム材の製造方法が提供される。表面処理アルミニウム材を製造する方法は特に制限されないが、通常、上述した表面処理組成物(X)をアルミニウム材の表面又は表面上に接触させ、加熱乾燥してアルミニウム材の表面又は表面上に皮膜を形成する工程を有する。以下では、まず、被処理物であるアルミニウム材について説明し、その後、工程の手順について詳述する。
【0047】
表面処理組成物(X)が適用されるアルミニウム材の用途は特に限定されないが、アルミニウム強度部材、熱交換器、建材、自動車部材、電池材料等に使用される。本発明において、アルミニウム材とは、純アルミニウム又はアルミニウム合金であり、アルミニウム合金としては、例えばAl-Cu系、Al-Si系、Al-Mg系、Al-Si-Cu系、Al-Si-Mg系、Al-Co-Cu系、Al-Mn-Mg系、Al-Mn-Fe系、Al-Mn-Zn-Fe-Mg系等が挙げられる。
【0048】
アルミニウム材には表面処理組成物(X)による処理に先立って、必須ではないが通常、被処理物であるアルミニウム材に付着した油分、汚れを取り除くために、脱脂処理、湯洗、酸洗、溶剤洗浄等を適宜組み合わせて行う。上記脱脂処理の方法としては特に制限はなく、従来アルミニウム材の脱脂処理に慣用されている方法の中から、適宜選択することができる。脱脂処理の方法としては、例えば溶剤脱脂法(溶剤洗い法、溶剤蒸気洗浄法)、アルカリ脱脂法、電解アルカリ脱脂法、エマルション脱脂法等を用いることができる。このようにして、脱脂処理されたアルミニウム材に表面処理組成物(X)を塗工することができる。
【0049】
また、通常不要であるが、表面処理組成物(X)による処理を行なう前に、アルミニウム材の耐食性及び皮膜と金属材料との密着性をさらに向上させる目的で、下地処理を施すことができる。下地処理の方法は特に制限されないが、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mn、Zr、Ti、又はV等の金属の1種以上を付着させる化成処理や、化成処理による皮膜析出を均一に仕上げるために行う前処理としての表面調整処理等が挙げられる。化成処理剤としては、例えば、ジルコニウム化成処理剤、リン酸塩化成処理剤、チタニウム化成処理剤、クロメート化成処理剤等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。上記何れの処理の場合も、アルミニウム材表面に処理液が残留しないように水洗することが好ましい。付着方法としては、処理液中にアルミニウム材を浸漬させるディッピング法が好ましく、また、処理温度は、通常20℃以上70℃以下、好ましくは30℃以上60℃以下の範囲である。処理時間は、処理温度に左右され、一概に定めることはできないが、通常5~180秒間程度で十分である。
【0050】
アルミニウム材へ表面処理組成物(X)を接触させる方法は特に制限されず、例えば、ロールコーター法、浸漬法、スプレー法、バーコート法、カーテンフロー法、スピンコート法等の塗布方法が挙げられる。また、接触時の処理液温度については、特に制限はなく、常温でもよいが、10~60℃が好ましく、15~40℃がより好ましい。接触時間は通常5秒以上600秒以下の範囲内であり、特に制限されるものではないが、表面処理組成物(X)とアルミニウム材の接触時間は短時間で十分である。接触時間は5秒以上300秒以下とすることができ、5秒以上200秒以下とすることもでき、5秒以上100秒以下とすることもできる。さらに、アルミニウム材を表面処理液材(X)と接触させた後、アルミニウム材に加熱乾燥処理を施す。加熱乾燥方法としては特に制限はなく、ドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉等が挙げられる。加熱乾燥温度は、特に制限はないが、乾燥時の到達金属材料温度が50℃以上250℃以下であることが好ましく、70℃以上220℃以下であることがより好ましい。表面処理組成物(X)をアルミニウム材と接触した後は、そのまま乾燥し皮膜化させることができるので水洗工程が不要であり、廃水を生じない。このため、本発明の一実施形態によれば環境に優しい表面処理アルミニウム材の製造方法が提供できる。
【0051】
上記処理を施すことにより、表面処理皮膜を有する表面処理アルミニウム材が得られる。好適な皮膜の膜厚は先述した通りである。表面処理皮膜は単層で構成されていてもよく、複数回上記処理を施すことにより複層で構成されていてもよい。
【0052】
上記表面処理皮膜の表面又は表面上には、表面処理組成物(Y)を接触させた後、乾燥することで表面処理組成物(Y)に由来する別の皮膜を形成してもよい。この別の皮膜の膜厚は、限定的ではないが、0.4μm以上5μm以下とすることができ、0.5μm以上3μm以下とすることが好ましい。乾燥は例えば100℃以上250℃以下で行うことができ、120℃以上220℃以下で行うことが好ましい。
【実施例0053】
本発明を実施例及び比較例を用いて更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
(1)表面処理試験板の作製
(1-1)試験板
試験板として、以下の(i)~(iii)のアルミニウム材を用意した。
(i)1000系アルミニウム(A1050)板厚0.1mm
(ii)3000系アルミニウム合金(A3102)板厚0.1mm
(iii)8000系アルミニウム合金(A8011)板厚0.1mm
【0055】
(1-2)前洗浄
あらかじめ、試験板を、アルカリ脱脂剤(日本パーカライジング株式会社製アルカリ脱脂剤ファインクリーナー4424、脱脂条件:脱脂剤濃度20.0g/L、処理液温度45℃、脱脂時間120秒、スプレー処理)を用いて脱脂処理し、表面の油分や汚れを取り除いた。次に、水道水で水洗して試験板表面が水で100%濡れることを確認した後、さらに純水(脱イオン水)を流しかけ、100℃雰囲気のオーブンで水分を乾燥した。
【0056】
(1-3)樹脂(A)
(合成例1) シリコーン樹脂の合成 (A1)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素ガス導入管を有する反応容器に、水600.0質量部を加えた。次いで、トルエン150.0質量部、トリクロロフェニルシラン600.0質量部、ジクロロメチルシラン11.6質量部、クロロビニルメチルシラン14.1質量部、ポリシロキサン(ClMe2SiO(Me2SiO)33SiMe2Cl)195.0質量部を混合した溶液を水中へ滴下し、共加水分解させた。この混合溶液に、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(HLB値が13.6)1.9質量部を加え撹拌したのち、減圧蒸留法によってトルエンを除去し、重量平均分子量11000、不揮発分41.0質量%、ガラス転移温度60℃、酸価0mgKOH/g、25℃での引張貯蔵弾性率210MPaのシリコーン樹脂を得た。なお、引張貯蔵弾性率が極小値に達する前にフィルムが破断したため架橋点間分子量を測定できなかった。
【0057】
(合成例2) ウレタン樹脂の合成 (A2)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素ガス導入管を有する反応容器に、ポリエステルポリオール(合成成分:アジピン酸及び1,6-へキサンジオール、分子量1000)7.3質量部、ビスフェノールA-ポリオキシエチレン2モル付加体(ニューポールBPE-20NK、三洋化成工業株式会社製)21.8質量部、トリメチロールプロパン0.8質量部、ジメチロールプロピオン酸7.4質量部、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート46.0質量部、イソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネート(TLA100、旭化成株式会社製)7.0質量部、をメチルエチルケトン84.0質量部ともに加え十分に溶解させた。この混合溶液を75℃で4時間反応させた後に、3%以下のイソシアネート基が含まれることを確認し、45℃まで冷却してトリエチルアミン5.7質量部を添加した。次いで、水360.0質量部を加えて乳化を行い、得られた溶液に、ジエチレントリアミン5.2質量部、水6.6質量部の混合溶液を添加して1時間反応させた後、減圧蒸留法によってメチルエチルケトンを除去し、重量平均分子量400000、不揮発分25.0質量%、ガラス転移温度80℃、酸価34mgKOH/g、25℃での引張貯蔵弾性率2000MPa、架橋点間分子量450のウレタン樹脂を得た。
【0058】
なお、イソシアネート基の含有率は、JIS K7301:1995に則り、反応溶液2gをジメチルホルムアミドに溶解させ、n-ジブチルアミン-トルエン溶液10mlを加えた後、ブロモフェノールブルーを指示薬に用いて、0.5mol/Lの塩酸液で滴定し、以下の式を用いて算出した。
【数1】
(式中、Aは所定量の反応溶液を調製する際に使用したイソシアネート量(質量)に対して滴定に要した塩酸液の体積を、Bは反応溶液に対して滴定に要した塩酸液の体積を、fは「1」を、Nは塩酸標準溶液のモル濃度を、Sは反応溶液の質量をそれぞれ意味する。)
【0059】
(合成例3) ウレタン樹脂の合成 (A3)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素ガス導入管を有する反応容器に、ポリエステルポリオール(合成成分:アジピン酸及び1,6-へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、分子量10000)31.7質量部、ビスフェノールA-ポリオキシエチレン2モル付加体(ニューポールBPE-20NK、三洋化成工業株式会社製)5.3質量部、トリメチロールプロパン0.9質量部、ジメチロールプロピオン酸8.6質量部、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート46.1質量部、イソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネート(TLA100、旭化成株式会社製)7.4質量部、をメチルエチルケトン70.0質量部ともに加え十分に溶解させた。この混合溶液を75℃で4時間反応させた後に、3%以下のイソシアネート基が含まれることを確認し、45℃まで冷却してトリエチルアミン6.5質量部を添加した。次で、水300.0質量部を加えて乳化を行い、得られた溶液に、ジエチレントリアミン6.1質量部、水5.5質量部の混合溶液を添加して1時間反応させた後、減圧蒸留法によってメチルエチルケトンを除去し、重量平均分子量500000、不揮発分30.0質量%、ガラス転移温度45℃、酸価36mgKOH/g、25℃での引張貯蔵弾性率1500MPa、架橋点間分子量5000のウレタン樹脂を得た。
【0060】
(合成例4) ウレタン樹脂の合成 (A4)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素ガス導入管を有する反応容器に、ポリエステルポリオール(合成成分:イソフタル酸、アジピン酸及び1,6-へキサンジオール、エチレングリコール、分子量1700)47.6質量部、ビスフェノールA-ポリオキシエチレン2モル付加体(ニューポールBPE-20NK、三洋化成工業株式会社製)3.5質量部、トリメチロールプロパン1.4質量部、ジメチロールプロピオン酸12.9質量部、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート72.7質量部、イソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネート(TLA100、旭化成株式会社製)11.1質量部、をメチルエチルケトン105.0質量部ともに加え十分に溶解させた。この混合溶液を75℃で4時間反応させた後に、3%以下のイソシアネート基が含まれることを確認し、45℃まで冷却してトリエチルアミン9.9質量部を添加した。次いで、水450.0質量部を加えて乳化を行い、得られた溶液に、ジエチレントリアミン9.2質量部、水8.3質量部の混合溶液を添加して1時間反応させた後、減圧蒸留法によってメチルエチルケトンを除去し、重量平均分子量390000、不揮発分30.0質量%、ガラス転移温度50℃、酸価36mgKOH/g、25℃での引張貯蔵弾性率1100MPa、架橋点間分子量4000のウレタン樹脂を得た。
【0061】
(合成例5) アクリル樹脂の合成 (A5)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素ガス導入管を有する反応容器に、ジエチレングリコールジメチルエーテル1150.2質量部、フマル酸40.5質量部を仕込んで撹拌を開始し、135℃まで昇温した。ついで、スチレン1593.0質量部、メチルメタクリレート364.5質量部、n-ブチルアクリレート156.6質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート270.0質量部、アクリル酸243.0質量部と、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート105.0質量部を3時間かけて連続滴下し、同温度で2時間撹拌した。次いでトリエチルアミン175.5質量部、イオン交換水3157.5質量部を加え、重量平均分子量150000、不揮発分45.0質量%、ガラス転移温度80℃、酸価85mgKOH/g、25℃での引張貯蔵弾性率1800MPa、架橋点間分子量2000のアクリル樹脂を得た。
【0062】
(合成例6) エポキシ樹脂の合成 (A6)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素ガス導入管を有する反応容器に、ブチルセロソルブ187.5質量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポトートYD-014、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)315.0質量部、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX-841、ナガセケムテックス株式会社製)112.5質量部及びグリシジルメタクリレート9.8質量部を加え、100℃で溶解させた後、ジブチルアミン55.1質量部を加え同温で5時間反応させた。次いで、アクリル酸24.0質量部、スチレン15.0質量部、アクリル酸ブチル15.0質量部、ブチルセロソルブ60.0質量部及びtert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート4.5質量部からなる混合物を1時間かけて滴下し4時間保温した。80℃に冷却後、トリエチルアミン31.5質量部及び水750.0質量部を加え、重量平均分子量100000、不揮発分35.0質量%、ガラス転移温度45℃、酸価34mgKOH/g、25℃での引張貯蔵弾性率300MPaのエポキシ樹脂を得た。なお、引張貯蔵弾性率が極小値に達する前にフィルムが破断したため架橋点間分子量を測定できなかった。
【0063】
(合成例7) ウレタン樹脂の合成 (A7)(特許文献4、合成例28)
撹拌機のついた2Lセパラブルフラスコに、ビスフェノールA-ポリオキシエチレン2モル付加体(ニューポールBPE-20T、三洋化成工業株式会社製)63.0質量部、ポリエチレングリコール(PEG1000、三洋化成工業株式会社製)67.0質量部、N-メチルジエタノールアミン(アミノアルコールMDA、日本乳化剤株式会社製)30.0質量部、ジエチレングリコール(ジエチレングリコール、株式会社日本触媒製)30.0質量部、ジシクロヘキシルメタン4,4´-ジイソシアネート(デスモジュールW、バイエルAG社製)218.0質量部、トリメチロールプロパン(アミノアルコールMDA、日本乳化剤株式会社製)13.0質量部、をメチルエチルケトン400.0質量部とともに加え、十分に溶解させた。この混合溶液を80℃で約5時間反応させた後に、3%以下のイソシアネート基が含まれることを確認し、硫酸ジメチル25.0質量部を加えた。次いで、脱イオン水を1000質量部加えウレタン樹脂を調製した。得られたウレタン樹脂を減圧蒸留法によってメチルエチルケトンを除去し、重量平均分子量510000、不揮発分25.0質量%、ガラス転移温度100℃、酸価0mgKOH/g、25℃での引張貯蔵弾性率2300MPaのウレタン樹脂を得た。
【0064】
(合成例8) ウレタン樹脂の合成 (A8)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素ガス導入管を有する反応容器に、ポリエステルポリオール(合成成分:イソフタル酸、アジピン酸及び1,6-へキサンジオール、エチレングリコール、分子量1700)202.5質量部、トリメチロールプロパン7.5質量部、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン33.0質量部、イソホロンジイソシアナート129.0質量部及びメチルエチルケトン180.0質量部を加え、70℃で4時間反応させた。次いで、硫酸ジメチル25.5質量部を添加し、50℃で60分間反応させた。得られた反応物に水922.5質量部を加え、均一に乳化させた後、減圧蒸留法によってメチルエチルケトンを除去し、重量平均分子量410000、不揮発分30.0質量%、ガラス転移温度0℃、酸価0mgKOH/g、25℃での引張貯蔵弾性率2MPaのウレタン樹脂を得た。なお、引張貯蔵弾性率が極小値に達する前にフィルムが破断したため架橋点間分子量を測定できなかった。
【0065】
(樹脂(A)の引張貯蔵弾性率、ガラス転移温度(Tg)、架橋点間分子量)
樹脂(A)の引張貯蔵弾性率、ガラス転移温度、架橋点間分子量は以下の方法で測定した。
引張貯蔵弾性率はTAインストルメント製動的粘弾性測定装置(品番:RSA-G2)を用いて、先述した測定方法に従って測定した。具体的には、樹脂(A)を厚さ約0.5mmのフィルム状に硬化させ、得られたフィルムを幅4.0mm、長さ50.0mmの試験片に加工し、引張り応力(50.0N)をかけながら、-20℃から200℃の範囲を昇温速度5.0℃/min、周波数10.0Hzの条件で動的粘弾性を測定することで各温度における貯蔵弾性率および損失弾性率を求めた。得られた結果から、樹脂(A)の25℃での引張貯蔵弾性率を求めた。また、貯蔵弾性率と損失弾性率との比(tanδ)が極大になる温度をガラス転移温度(Tg)として求めた。なお、共重合物の樹脂などでガラス転移温度が複数確認される場合は、低温側の温度をその樹脂のガラス転移温度とした。
架橋点間分子量は、先述したように下式によって求めた。
E’=3ρRT/Mc
E’は引張貯蔵弾性率、ρは試料密度、Rは気体定数、Tは温度、Mcは架橋点間分子量である。
【0066】
(樹脂(A)の重量平均分子量)
樹脂(A)の重量平均分子量は、先述したGPC法により高速GPC装置(HLC-8320GPC:東ソー株式会社製)を用いて測定した。
【0067】
(樹脂(A)の酸価)
樹脂(A)の酸価は、JIS-K-0070:1992に規定される電位差滴定法に従って測定した。
【0068】
(1-4)無機化合物(B)
無機化合物として、以下のB1~B3を使用した。
B1:シリカ(スノーテックスN、日産化学株式会社製)
B2:3号珪酸塩(J珪酸ソーダ3号、日本化学工業株式会社製)
B3:塩基性炭酸ジルコニウム(日本軽金属株式会社製)
【0069】
(1-5)有機化合物(C)
有機化合物として、以下のC1~C3を使用した。
C1:エポキシ樹脂(デナコールEX-612、ナガセケムテックス株式会社製)
C2:アクリル樹脂(エポクロスWS-300、株式会社日本触媒製)
C3:アミン樹脂(サイメル303LF、オルネクスジャパン株式会社製)
【0070】
(1-6)樹脂(D)
樹脂として、以下のD1~D2を使用した。
D1:ポリビニルアルコール(クラレポバールPVA-103、株式会社クラレ製)
D2:ポリアクリル酸ナトリウム(アクアリックDL-40S、株式会社日本触媒製)
【0071】
(1-7)表面処理組成物Xの調製
下記表1に示す処理剤の番号に応じて樹脂(A)、無機化合物(B)、及び有機化合物(C)を、この順序で表1記載の固形分の配合質量比になるように容器に加え、さらに界面活性剤を表面処理組成物(X)中の樹脂(A)、無機化合物(B)、及び有機化合物(C)の合計質量に対して1質量%となるように加え、含有成分の合計固形分濃度が10質量%になるように脱イオン水を加え、撹拌することで表面処理組成物X(処理剤1~26)を調製した。表面処理組成物XのpH(室温)を表1に示す。また、表面処理組成物Xにおける全固形分中の樹脂(A)の濃度を表1に示す。
【0072】
(最低造膜温度)
表面処理組成物Xの最低造膜温度は、JIS-K-6828-2:2003に示される方法に従い、株式会社井元製作所製造膜温度試験機(品番:IMC-153A)の上に、アプリケータを用いて0.1mmの厚さに表面処理組成物Xを塗布し、均一な乾燥膜を形成する最低の温度を読み取ることで求めた。結果を表1に示す。
【0073】
(表面処理皮膜の120℃で測定される引張貯蔵弾性率(E’120℃)に対する25℃で測定される引張貯蔵弾性率(E’25℃)の比(E’25℃/E’120℃))
E’25℃/E’120℃はTAインスツルメントジャパン株式会社製動的粘弾性測定装置(品番:RSA-G2)を用いて、先述した測定方法に従って測定した。具体的には、表面処理組成物(X)を厚さ約0.5mmのフィルム状に硬化させ、得られたフィルムを幅4.0mm、長さ50.0mmの試験片に加工し、引張り応力(50.0N)をかけながら、昇温速度5.0℃/min、周波数10.0Hzの条件で動的粘弾性を測定することで各温度における引張貯蔵弾性率を求めた。得られた結果から、表面処理皮膜のE’25℃/E’120℃を求めた。結果を表1に示す。なお、120℃に達する前にフィルムが破断してしまいE’25℃/E’120℃を測定できなかった場合は、表1に「-」と表示した。
【0074】
(1-8)表面処理組成物Yの調製
下記表1に示す処理剤の番号に応じて樹脂(D)を容器に加え、さらに界面活性剤を樹脂(D)に対して1質量%となるように加え、含有成分の合計固形分濃度が10質量%になるように脱イオン水を加え、撹拌することで表面処理組成物Y(処理剤27、28)を調製した。表面処理組成物YのpH(室温)を表1に示す。
【0075】
(表面張力)
表面処理組成物Yについては、先述したプレート法(Wilhelmy法)によって表面張力を測定した。具体的には、協和界面科学株式会社製静的表面張力計(品番:DY-500)を用いて、表面処理組成物Y中に、清浄な白金プレートを浸漬し、その際の表面処理組成物Yの白金プレートに対する引張力を測定することによって求めた。結果を表1に示す。
【0076】
【0077】
(1-9)表面処理皮膜の作製
<単層皮膜を有する試験板(実施例1~29、比較例1、2)>
前記試験板を、表2に示す処理剤(液温20℃)にそれぞれ15秒間浸漬した後、所定時間室温で吊るした。この所定時間を試験番号に応じて変えることで膜厚を調整した。その後、170℃に調整した送風乾燥機内で吊るして6分間加熱乾燥し、表面処理皮膜を形成させた。これにより、実施例1~29、及び比較例1、2に係る表面処理試験板を作製した。なお、比較例3~5の試験板については表面処理を施さなかった。
【0078】
<複層皮膜を有する試験板(実施例30~36、比較例6、7)>
(下層)
前記試験板を、表3に示す処理剤(液温20℃)にそれぞれ15秒間浸漬した後、170℃に調整した送風乾燥機内で吊るして6分間加熱乾燥し、下層の表面処理皮膜を形成させた。
【0079】
(対水接触角)
下層の表面処理皮膜の対水接触角を以下の手順で求めた。協和界面科学株式会社製接触角計(品番:DM-501)を用いて、1.0μLの水滴を下層の表面処理皮膜上に滴下した後、皮膜表面に平行な方向から光を照射し、光の入射方向と反対側からカメラで着滴10秒後における液滴影を撮影し、θ/2法による画像解析を行うことで対水接触角を求めた。結果を表3に示す。
【0080】
(上層)
次いで、下層の表面処理皮膜を有する試験板を表3に示す処理剤にそれぞれ15秒間浸漬した後、170℃に調整した送風乾燥機内で吊るして6分間加熱乾燥し、上層の表面処理皮膜を形成させた。これにより、実施例30~36に係る表面処理試験板を作製した。また、比較例6、7については、下層を施すことなく、上層の表面処理皮膜のみを上記手順で形成させた。
【0081】
(2)特性評価
上記のようにして用意した表面処理が施された試験板又は表面処理が施されていない試験板を評価サンプルとして以下の評価に用いた。
(2-1)膜厚評価
上記の手順で得られた各表面処理皮膜の膜厚を以下の方法で求めた。膜厚は、株式会社ケツト科学研究所製膜厚計(品番:LZ-200J)を用いて渦電流式の測定方式(ISO 2360:2017に準拠)で測定した。結果を表2、表3に示す。
【0082】
(2-2)耐食性評価
<中性塩水噴霧試験:NSS>
塩水噴霧試験法(JIS-Z-2371:2015)に基づき、中性の塩水を240時間噴霧した後、評価サンプルの外観を目視にて評価した。評価サンプルの表面において発生した白錆の面積割合(%)を算出し、以下の評価基準に従って耐食性(NSS)を評価した。なお、評価結果がB以上を合格とした。
<評価基準>
A:面積割合が10%未満である
B:面積割合が10%以上20%未満である
C:面積割合が20%以上である
【0083】
<CASS試験>
CASS試験(JIS-Z-2371:2015)に基づき、塩化銅(II)を含む塩水を酢酸でpH3.0に調整した水溶液を50時間噴霧した後、95℃の2%クロム酸水溶液に10分浸漬し白錆を除去した。JIS-Z-2371:2015に基づいたレイティングナンバ(RN)法にて穴の大きさと個数を評価した。なお、評価結果がB以上を合格とした。
<評価基準>
S:穴あき0個
A:RN9以上
B:RN9未満、RN8以上
C:RN8未満
【0084】
(2-3)耐酸性評価
評価サンプルを0.05質量%の硫酸水溶液に48時間浸漬した。その後、評価サンプルを引き上げ、水道水で洗浄し乾燥させ外観を目視にて評価した。以下の評価基準に従って耐酸性を評価した。なお、評価結果がB以上を合格とした。
<評価基準>
A:外観変化がない
B:変色面積20%未満
C:変色面積20%以上
【0085】
(2-4)耐アルカリ性評価
評価サンプルを0.05質量%の水酸化ナトリウム水溶液に48時間浸漬した。その後、評価サンプルを引き上げ、水道水で洗浄し乾燥させ外観を目視にて評価した。以下の評価基準に従って耐アルカリ性を評価した。なお、評価結果がB以上を合格とした。
<評価基準>
A:外観変化がない
B:変色面積20%未満
C:変色面積20%以上
【0086】
(2-5)密着性評価
評価サンプルの表面に、水で湿らせたガーゼを4.4×104N/m2の荷重で押さえつけながら、3.5cmの範囲を往復させてこすりつけた。表面処理皮膜の剥離が生じる往復回数を測定し、以下の評価基準に従って密着性(水浸漬前)を評価した。また、水に96時間浸漬させた評価サンプルの表面を乾燥した後、水で湿らせたガーゼを4.4×104N/m2の荷重で押さえつけながら、3.5cmの範囲を往復させてこすりつけた。表面処理皮膜の剥離が生じる往復回数を測定し、以下の評価基準に従って密着性(水浸漬後)を評価した。なお、評価結果がA以上を合格とした。
<評価基準>
A:往復回数が20回以上である
B:往復回数が10回以上20回未満である
C:往復回数が10回未満である
【0087】
【0088】